説明

地中用油拡散防止フェンス及び油汚染土壌の浄化方法

【課題】地中油汚染土壌の間隙の中に微生物を浸透注入すると、地中油汚染土壌の間隙中の油で汚染された地下水と微生物とが置き換わるため、油で汚染された地下水が拡散してしまって、油汚染範囲が広がる。このため、地中油汚染土壌の間隙の中に微生物を浸透注入させる場合に油汚染範囲が広がってしまうことを防止することを目的とする。
【解決手段】地中用油拡散防止フェンス1を地中2の地下水不飽和帯3と地下水飽和帯4とに跨って設けられて地中2の油汚染部5の周囲を囲む環状体6により形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中油汚染土壌の間隙の中に微生物を浸透注入させた場合に油汚染範囲が広がってしまうことを防止可能な地中用油拡散防止フェンス、このフェンスを用いた油汚染土壌の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地中油汚染土壌の油汚染部に油を分解する微生物を供給することによって地中油汚染土壌を浄化する方法が提案されている(例えば、特許文献1,2等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−276837号公報
【特許文献2】特開平9−276840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、地中油汚染土壌の間隙の中に微生物を浸透注入すると、地中油汚染土壌の間隙中の油で汚染された地下水と微生物とが置き換わるため、油で汚染された地下水が拡散してしまって、油汚染範囲が広がってしまうという問題点があった。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、地中油汚染土壌の間隙の中に微生物を浸透注入させる場合に油汚染範囲が広がってしまうことを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る地中用油拡散防止フェンスによれば、地中の地下水不飽和帯と地下水飽和帯とに跨って設けられて地中の油汚染部の周囲を囲む環状体により形成されたので、地中油汚染土壌の間隙の中に微生物を浸透注入させた場合に、当該微生物と置き換わる地中油汚染土壌の間隙中の油で汚染された地下水が地中用油拡散防止フェンスにより堰き止められ、当該油で汚染された地下水が地中用油拡散防止フェンスで囲まれた内側領域から外側領域へと越水するのを防止できるので、油汚染範囲が地中用油拡散防止フェンスで囲まれた内側領域から外側領域へ広がってしまうことを防止できる。
環状体が、不透水材料により形成されたので、地中油汚染土壌の間隙の中に微生物を浸透注入させた場合に、当該微生物と置き換わる地中油汚染土壌の間隙中の油で汚染された地下水が、不透水材である粘土グラウトにより形成された地中用油拡散防止フェンスにより確実に堰き止められるので、油汚染範囲が地中用油拡散防止フェンスで囲まれた内側領域から外側領域へ広がってしまうことを確実に防止できる。
環状体が、角形環状体により形成され、角形環状体の各辺部の上端位置及び下端位置が同一高さ位置となるように形成されたので、環状体のどの位置においても同様の堰き止め効果が得られる信頼性の高い地中用油拡散防止フェンスを提供できる。
本発明の油汚染土壌の浄化方法は、上記地中用油拡散防止フェンスを形成した後に、地中用油拡散防止フェンスで囲まれた内側領域内の地中油汚染土壌に微生物を浸透注入したので、油汚染範囲が地中用油拡散防止フェンスで囲まれた内側領域から外側領域へ広がってしまうことを防止できるとともに、地中用油拡散防止フェンスで囲まれた内側領域内の地中油汚染土壌に浸透注入された微生物による油分解作用で油汚染部が浄化される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】(a)は本発明の地中用油拡散防止フェンスを設置した地中の油汚染部を地上から見た平面図、(b)は(a)のA−A断面図。
【図2】粘土グラウトによる地中用油拡散防止フェンスの形成方法を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
図1に示すように、地中用油拡散防止フェンス1は、地中2の地下水不飽和帯3と地下水飽和帯4とに跨って設けられて地中2の油汚染部5の周囲を囲む環状体6により形成される。即ち、環状体6は、地中2の地下水位面7に沿って油汚染部5を取り囲むように形成される。油汚染部5は、機械工場8のような建屋下の地中や廃棄物処分場跡のような更地下の地中において、A重油や機械油などの油で汚染された領域である。環状体6は、例えば、粘土グラウトのような不透水材料により、四角形環状体のような角形環状体に形成される。
【0008】
次に地中用油拡散防止フェンス1の形成方法の一例を説明する。まず、油汚染部5の位置をボーリング調査で確認し、この油汚染部5を取り囲む地中用油拡散防止フェンス1の形成位置を確認する。つまり、地中2の地下水不飽和帯3と地下水飽和帯4とに跨って地中2の油汚染部5の周囲を囲む四角形の環状体6を形成するための四つの辺部10の位置を確認する。そして、地中用油拡散防止フェンス1を、筒状のロッド19(図2参照)の先端に図外の掘削ビット(掘削刃)が取付けられた曲線ボーリング装置及び拡径孔形成装置を用いて形成する。掘削ビットは先端部が斜切り面に形成されたものである。
【0009】
以下、周知の曲線ボーリング装置及び拡径孔形成装置を用いた地中用油拡散防止フェンス1の形成方法を説明する。まず、上記4つの辺部のうちの一つの辺部の位置を狙って曲線ボーリング装置の掘削ビットを地中2の地下水位面7の深さ位置まで斜め下方向に推進させるようにして斜め下方向に地盤を掘削した後、掘削ビットを水平方向に推進させて地中2の地下水不飽和帯3と地下水飽和帯4とに跨る1辺部を形成するための先行孔を形成し、その後、掘削ビットを斜め上方向に推進させるようにして斜め上方向に地盤を掘削して掘削ビットを地上に出す。尚、地盤を掘削する場合には、ロッド19をロッド19の中心軸を回転中心としてモータのような駆動源で回転させることで掘削ビットを回転させながら掘削ビットを推進させる。掘削ビットの推進方向を変える場合は、ロッド19を回転させないで、油圧シリンダのような押圧装置でロッド19に推進力を与えて掘削ビットの斜切り面に土圧が作用するようにすることで、掘削ビットの推進方向を変える。
【0010】
掘削の際には、ロッド19の筒内に通した図外のホースのような掘削液供給管の先端を掘削ビットに回転しないように固定してロッド19の後端より引き出された掘削液供給管の後端を図外の掘削液供給装置に繋ぎ、ロッド19を回転させるとともに、掘削液供給装置から掘削液供給管を介して掘削ビットに掘削液を圧送して供給する。掘削液としては、水、泥水、ベントナイト等を用いる。これにより、掘削ビットに設けられた図外の掘削液噴射孔から地盤に掘削液が噴射されながら掘削ビットが地盤を掘削する。尚、掘削が進むのに応じてロッド19、掘削液供給管の後端にそれぞれロッド19、掘削液供給管を継ぎ足していく動作を繰り返すことにより、上記1つの辺部を形成するための先行孔18を形成する。
【0011】
上記一つの辺部を形成するための先行孔18を形成した後、先行孔18の出口30から地上に引き出したロッド19の先端19tに取付けられていた掘削ビットを取外し、代わりに、図2に示すように、ロッド19の先端19tに、先行孔18の孔径よりも外径(掘削径)の大きいリーマ装置と呼ばれる拡径孔形成装置20の一端20t(掘削側)を取付ける。拡径孔形成装置20はロッド19の回転により回転可能なようにロッド19の先端19tに取付けられる。また、拡径孔形成装置20の一端20tには、図外の掘削液供給管の先端部が回転可能なように取付けられる。掘削液供給管の後端部は先行孔18の入口側に設けられた掘削液供給装置に取付けられる。拡径孔形成装置20は、釣鐘形状に形成された本体部40を備え、本体部40の外面32に掘削刃33を備える。掘削液供給装置から掘削液供給管を介して供給される掘削液は、掘削液供給管の先端開口を経由して拡径孔形成装置20の本体部40の内外に貫通するように設けられた放出孔25より拡径孔形成装置20の一端20t側の先行孔18の孔壁に掘削液が噴射され、拡径孔形成装置20の本体部40が先行孔18を拡径しながら先行孔18の入口に向かって掘進する。粘土グラウト供給管21の他端部21eは、先行孔18の出口30側に設けられた粘土グラウト供給装置35に取付けられる。粘土グラウト供給管21の一端部22は、拡径孔形成装置20と一緒に回転しないように自在継手23を介して拡径孔形成装置20に取付けられる。粘土グラウト供給装置35から粘土グラウト供給管21を介して供給される粘土グラウト28は、粘土グラウト供給管21の一端部22に設けられた放出口26を経由して拡径孔形成装置20の後側(先行孔18の出口30側)に放出される。
【0012】
よって、ロッド19を回転させながら拡径孔形成装置20を先行孔18の出口30から先行孔18を経由して先行孔18の入口に向けて掘進させながら、粘土グラウト供給装置35から粘土グラウト供給管21に粘土グラウト28を圧送供給することで、先行孔18の出口30から入口に跨るように拡径孔31が拡径孔形成装置20により形成されながら、当該拡径孔31内に粘土グラウト28が充填され、この拡径孔31内に充填された粘土グラウト28により、四角形の環状体6の一つの辺部が形成されることになる。同様にして、四角形の環状体6の他の三つの辺部を形成すれば、四角形の環状体6からなる地中用油拡散防止フェンス1を形成できる。環状体6の辺部の断面円の径の寸法は、直径30cm〜50cm程度でよい。
【0013】
尚、地中用油拡散防止フェンス1を粘土グラウト28により形成する場合、辺部と辺部とが交差する部分において、一方の辺部を形成する粘土グラウト28を他方の辺部を形成する粘土グラウト28が貫通するようにできるので、辺部と辺部とが交差する部分での段差をなくすことができ、各辺部の上端位置及び各辺部の下端位置を同一高さ位置に形成できる。つまり、環状体6のどの位置においても同様の堰き止め効果が得られる信頼性の高い地中用油拡散防止フェンス1を形成できる。
【0014】
次に、油汚染土壌の浄化方法を説明する。上記地中用油拡散防止フェンス1を形成した後に、油汚染部5を通過する外管9を設置し、外管9内に、微生物供給管の一端が取付けられた内管を挿入して、内管を油汚染部5の近傍に位置させた状態で内管の両端に設けた周知のパッカーを膨らませて内管を油汚染部5の近傍位置に位置決める。その後、微生物供給装置から微生物供給管を介して内管内に微生物を供給する。内管内に送られた微生物は、内管の管の内外に貫通するように設けられた孔及び外管9の管の内外に貫通するように設けられた孔を経由して油汚染部5に供給される。つまり、地中油汚染土壌の間隙の中に微生物が浸透注入される。この際、当該微生物と置き換わる地中油汚染土壌の間隙中の油で汚染された地下水が、不透水材である粘土グラウト28により形成された地中用油拡散防止フェンス1で堰き止められ、当該油で汚染された地下水が、地中用油拡散防止フェンス1で囲まれた内側領域から外側領域へと越水するのを防止できるので、油汚染範囲が地中用油拡散防止フェンス1で囲まれた内側領域から外側領域へ広がってしまうことを防止できる。そして、地中用油拡散防止フェンス1で囲まれた内側領域内の地中油汚染土壌に微生物が浸透注入されたことにより、微生物による油分解作用で油汚染部5が浄化される。尚、微生物に栄養塩を供給して微生物を活性化させることで、微生物による油分解作用が促進される。
【0015】
外管9の設置は、上述した曲線ボーリング装置を用いて油汚染部5を通過する先行孔18を形成した後、ロッド19の先端19tに取付けた拡径孔形成装置20の後端に所定長さの管の前端を取付け、拡径孔形成装置20が先行孔18中を通過して掘進するのに応じて、管の後端に新たに管を継ぎ足していく動作を繰り返すことにより、先行孔18の出口30から入口に跨るように拡径孔31が形成され、この拡径孔31内に複数の有孔管が繋がれて形成された外側有孔管が設置される。尚、この場合、油汚染部5に位置される管だけを有孔管として、その他の部位に位置される管は、無孔管を用いることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0016】
地中用油拡散防止フェンス1を形成する環状体6の形は問わず、例えば、三角形環状体、多角形環状体、円環状体でもよい。
地中用油拡散防止フェンス1は、不透水材で形成すれば良く、例えば、圧水袋、風船、管などを設置することで形成してもよい。
【符号の説明】
【0017】
1 地中用油拡散防止フェンス、2 地中、3 地下水不飽和帯、
4 地下水飽和帯、5 地中の油汚染部、6 環状体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中の地下水不飽和帯と地下水飽和帯とに跨って設けられて地中の油汚染部の周囲を囲む環状体により形成されたことを特徴とする地中用油拡散防止フェンス。
【請求項2】
環状体が、不透水材料により形成されたことを特徴とする請求項1に記載の地中用油拡散防止フェンス。
【請求項3】
環状体が、角形環状体により形成され、角形環状体の各辺部の上端位置及び下端位置が同一高さ位置となるように形成されたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の地中用油拡散防止フェンス。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の地中用油拡散防止フェンスを形成した後に、地中用油拡散防止フェンスで囲まれた内側領域内の地中油汚染土壌に微生物を浸透注入したことを特徴とする油汚染土壌の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−184185(P2010−184185A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29547(P2009−29547)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】