説明

地中貫入体の施工方法及びそのための鋼殻エレメント

【課題】地盤内に構築した横坑(鋼殻エレメント)から土留め用鋼材等の地中貫入体を施工するに当たり、止水性を確保するための止水剤注入作業を不要とするとともに、地中貫入体の圧入作業に伴う準備作業、盛替え作業等の施工手間を大幅に省力化する。
【解決手段】予め、前記鋼殻エレメントにおける土留め鋼材3の圧入部位に対して、前記土留め鋼材3の断面形状に沿った開口溝20を形成するとともに、前記開口溝20を塞ぐ止水部材23を備えた止水装置を設けておき、前記鋼殻エレメントの内部から、圧入する土留め鋼材を隣接する設置済みの土留め鋼材3の継手部3aで結合させた状態で、前記止水部材23を破断させながら地盤に向けて圧入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下鉄、洞道、共同溝、地下道路、地下街、地下駐車場、交差アンダーパス等の地下構造体を構築するに当たり、地中に設けたトンネル構造体から土留め鋼材、支柱、連結梁、上載土支持材などの地中貫入体を施工するための方法及びそのための鋼殻エレメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地下鉄、洞道、共同溝、地下道路、地下街、地下駐車場等の地下構造物を構築する方法として開削工法が知られている。この開削工法は、掘削領域を区画する境界部に地上から土留壁を構築し、この土留壁によって囲まれた領域を、適宜路面覆工および切梁支保工等を設けて周辺地盤・土留支保工の安定を図りながら段階的に掘削を行い、その空間部分に目的とする地下構造物を構築した後、埋め戻しを行う工法であり、市街地における掘削工事においても多用されている。
【0003】
しかしながら、近年、市街地においては、電力用および通信用ケーブル、ガス、上下水道管路等多くの地下埋設物が輻輳し、また地下構造物および鉄道等の営業線に近接した工事が増加するとともに、騒音や振動等の周辺環境への影響など、開削工法による地下構造物の施工が著しく困難な状況になってきている。
【0004】
このような状況に鑑み、地下埋設物や地上構造物が存在するために地上からの土留め壁の施工が困難若しくは不可能な条件下においても、施工を可能とした土留め壁の構築方法が提案されている。
【0005】
例えば、下記特許文献1では、地上から土留め壁の施工が不可能な地盤内をシールド掘削機により縦長断面の横坑(鋼殻エレメント)を掘削した後、前記坑内に適宜の厚さの覆工を施してトンネル構造体を構築した後、このトンネル構造体の内部を作業空間として、トンネル構造体の下部に止水体を構築するとともに、少なくとも前記トンネル構造体の上端と、地表面との間の地盤に山留め処理を施し、開削工法により掘削を行った後、掘削された地下空間内に地中構造体を構築する方法が提案されている。
【0006】
また、下記特許文献2では、さらに非開削によって地下構造物を構築するために、地上からの土留壁の施工が不可能な地盤内にシールド掘進機により、横坑(鋼殻エレメント)を掘削し、この横坑内に適宜厚さの覆工を施してトンネル構造体を構築し、このトンネル構造体により土留壁を構築するとともに、トンネル構造体の内部を作業空間としてトンネル構造体の下部に止水体を構築し、さらに前記土留壁の上部間の地盤中に適宜間隔をおいて横方向に並列して複数の横坑を掘削し、これら複数のトンネル構造体を連結して連続する内部空間を有する連結構造体を形成し、この連結構造体の両端を前記土留壁の上部に固定して上部荷重支持用の上部構造体を構築した後、前記複数の土留め壁及び連結構造体によって囲まれた地盤内を掘削した後、掘削された地下空間内に地中構造物を構築する方法が提案されている。
【特許文献1】特開平8−28197号公報
【特許文献2】特開平8−86197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1及び特許文献2に係る方法において、前記止水体を構築するに当たっては、土留め壁としての機能と共に、止水性を確保するために、先ず図21に示されるように、BH杭工法による削孔機50により適宜の深さまで撹拌翼51によって撹拌を行い、次いで図22に示されるように、この撹拌地盤52内に土留め壁となる継手付H鋼材53を継ぎ足しながら建て込んだ後、モルタル(止水材)を地盤中に注入して止水性を有する土留め壁の構築が成されるようになっている。なお、前記継手付H鋼材53の建込みは、先ず地盤中に止水材(固結材)の注入しながら撹拌を行った後、この止水材による改良領域に圧入するようにしてもよい。
【0008】
しかしながら、前記トンネル構造体からの止水体構築作業は、施工重機や機器の搬入に手間が掛かるとともに、狭隘な空間を作業空間として行われる作業であるため作業環境が劣悪で、かつ多くの準備工程を必要とし非常に効率の悪い作業であったため、工費の増大や工期の長期化などの原因となっていた。また、土留め鋼材の建込みに当たり、鋼殻エレメントの底部付近に補強材を溶接等によって配置する必要があるとともに、土留め鋼材を圧入するに当たり、鋼殻エレメント底部に開口を形成しなければならず、これらの手間が大きな作業負担となっていた。更には開口部を設けることによる鋼殻エレメントの構造的不安定化の問題や、補強材を配設することによる鋼材重量の増加などの問題もあった。
【0009】
そこで本発明の主たる課題は、地盤内に構築した横坑(鋼殻エレメント)から土留め用鋼材等の地中貫入体を施工するに当たり、止水性を確保するための止水剤注入作業を不要とするとともに、地中貫入体の圧入作業に伴う準備作業、盛替え作業等の施工手間を大幅に省力化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、地盤内に構築した鋼殻エレメント内部から地盤に向けて、地中貫入体を圧入するための施工方法であって、
予め、前記鋼殻エレメントにおける地中貫入体の圧入部位に対して、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝を形成するとともに、前記開口溝を塞ぐ止水部材を備えた止水装置を設けておき、前記鋼殻エレメントの内部から前記止水部材を破断させながら前記地中貫入体を地盤に向けて圧入することを特徴とする地中貫入体の施工方法が提供される。
【0011】
上記請求項1記載の発明では、地中に構築される鋼殻エレメントに対して、予め地中貫入体の断面形状に沿った開口溝を形成するとともに、前記開口溝を塞ぐ止水部材を備えた止水装置を設けておくようにし、地中貫入体の圧入に当たり、鋼殻エレメントの内部から前記止水部材を破断させながら地盤に向けて圧入するようにする。従って、地中貫入体の圧入の前後において、止水性が確保されるため、止水性を確保するための止水材注入作業を不要とすることができる。また、別途補強材を追加したり、圧入用開口の形成作業などの準備作業を省略することができ、圧入作業の省力化が図れるようになる。
【0012】
請求項2に係る本発明として、地盤内に構築した鋼殻エレメント内部から地盤に向けて、地中貫入体を成す継手付の土留め鋼材を圧入するための施工方法であって、
予め、前記鋼殻エレメントにおける土留め鋼材の圧入部位に対して、前記土留め鋼材の断面形状に沿った開口溝を形成するとともに、前記開口溝を塞ぐ止水部材を備えた止水装置を設けておき、前記鋼殻エレメントの内部から、圧入する土留め鋼材の継手を設置済みの土留め鋼材の継手に結合させ、前記止水部材を破断させながら前記土留め鋼材を地盤に向けて圧入することを特徴とする地中貫入体の施工方法が提供される。
【0013】
上記請求項2記載の発明は、地中貫入体として継手付の土留め鋼材を用いた場合の態様を示したものであり、この場合には、土留め鋼材を隣接する土留め鋼材と相互に連結させながら地盤への圧入を行うようにする。
【0014】
請求項3に係る本発明として、前記請求項2記載の地中貫入体の施工方法において、継手内に予め止水材が充填された土留め鋼材を圧入することを特徴とする地中貫入体の施工方法が提供される。
【0015】
上記請求項3記載の発明では、順次土留め鋼材を設置済みの土留め鋼材に対して接続を図りながら圧入を行う場合、圧入前に予め継手内に圧入にそれほど抵抗とならない止水材を充填しておくことにより、圧入に際して、先行土留め鋼材の継手と接合する側の継手では継手内に止水材が残置されることにより継手部の止水性を確保し、接合しない側の継手は止水材の存在により継手内からの漏水を回避するものである。
【0016】
請求項4に係る本発明として、前記請求項2記載の地中貫入体の施工方法において、圧入直後の土留め鋼材の未結合側継手部に対して、継手断面形状を成す継手部パッキン材を設置して止水部材との隙間を封鎖し、次いで隣接する土留め鋼材を地盤に圧入するに当たり、土留め鋼材の継手を設置済みの土留め鋼材の継手に結合させ、前記継手部パッキンを地盤中に押し込みながら前記土留め鋼材を地盤に圧入することを特徴とする地中貫入体の施工方法が提供される。
【0017】
上記請求項4記載の発明は、順次土留め鋼材を設置済みの土留め鋼材に対して接続を図りながら圧入を行う場合、圧入直後の土留め鋼材において、未結合側の継手部分における止水性を常時確保しながら行う方法の提案である。すなわち、未結合側の継手部分に継手断面形状を成す継手部パッキン材を設置して止水部材との隙間を封鎖し、次順の土留め鋼材を圧入するに当たり、土留め鋼材の継手を設置済みの土留め鋼材の継手に係合させ、前記継手部パッキンを地盤中に押し込みながら地盤に圧入するものである。
【0018】
請求項5に係る本発明として、前記止水装置は、前記地中貫入体の圧入前の状態で止水性を確保する易破断性の第1止水部材と、前記地中貫入体の圧入後の状態で止水性を確保する第2止水部材とからなる請求項1〜4いずれかに記載の地中貫入体の施工方法が提供される。
【0019】
上記請求項5記載の発明では、前記止水装置として、前記地中貫入体の圧入前の状態で止水性を確保する易破断性の第1止水部材と、前記地中貫入体の圧入後の状態で止水性を確保する第2止水部材とから構成される2重構造のものを使用するものである。
【0020】
請求項6に係る本発明として、前記第1止水部材は薄ゴムシートであり、前記第2止水部材は地中貫入体の断面形状に沿った開口溝が形成されたゴムパッキンである請求項5記載の地中貫入体の施工方法が提供される。
【0021】
上記請求項6記載の発明は、前記第1止水部材として薄ゴムシートを使用し、前記第2止水部材として地中貫入体の断面形状に沿った開口溝が形成されたゴムパッキンを使用するものである。
【0022】
請求項7に係る本発明として、前記地中貫入体と、前記鋼殻エレメントの内面に周方向に沿って設けられた主桁とが干渉する部位において、前記主桁を鋼殻エレメントの開口溝部位で分断するとともに、添接板により連続化しておき、前記地中貫入体の圧入にあたり、前記添接板を取り外し地中貫入体を地盤中に圧入したならば、地中貫入体の主桁貫通部位に対して事前に又は後施工で開口を形成し、主桁間に跨る前記添接板を配設し連結することにより前記主桁を連続させるようにする請求項1〜6いずれかに記載の地中貫入体の施工方法が提供される。
【0023】
上記請求項7記載の本発明では、地中貫入体と、前記鋼殻エレメントの内面に周方向に沿って設けられた主桁とが干渉する問題に対処するために、主桁を鋼殻エレメントの開口溝部位で分断するとともに、前記主桁を添接板により連続化しておき、前記地中貫入体の圧入にあたり、前記添接板を撤去し前記地中貫入体との干渉を回避し、前記地中貫入体を地盤中に圧入したならば、地中貫入体の主桁貫通部位に対して事前に又は後施工で開口を形成し、主桁間に跨る添接板を配設し連結することにより前記主桁を連続させるようにするものである。従って、主桁が干渉する場合でも地中貫入体の圧入作業に支障が生ずることがなく、かつ圧入後の状態においても補給主桁が構造的に連続することにより、鋼殻エレメントの不安定化や鋼材重量の増加を招くことが無くなる。
【0024】
請求項8に係る本発明として、予め、地中貫入体の圧入部位に対して、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝を形成するとともに、前記開口溝を塞ぐように、地中貫入体の圧入前の状態で止水性を確保する易破断性の第1止水部材と、前記地中貫入体の圧入後の状態で止水性を確保する第2止水部材とを備えた止水装置を設けてあることを特徴とする地中貫入体を施工するための鋼殻エレメントが提供される。
【発明の効果】
【0025】
以上詳説のとおり本発明によれば、地盤内に構築した横坑(鋼殻エレメント)から土留め用鋼材等の地中貫入体を施工するに当たり、止水性を確保するために地盤への止水剤注入作業が不要になるとともに、地中貫入体の圧入作業に伴う準備作業、盛替え作業等の施工手間が大幅に省力化されるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
図1は本発明に係る地中貫入体の施工方法を用いた地下構造体を構築するための山留め状態を示す横断面図である。
【0027】
図1に示された地下構造物5は、例えば交差アンダーパス、地下鉄、洞道、共同溝、地下道路、地下街、地下駐車場等のために地中に構築される構造物であり、本発明の地中貫入体の施工方法は、図示されるように、地下構造物5の上部側地盤に、電力用ケーブルE、通信線T、ガス管G、水道管W、下水道管D等の地下埋設物10が存在しているため、これらの地下埋設物10を移設しない限り地表面からの土留め壁の構築が不可能である場合や、交差アンダーパス工事を開削で工事を行う場合には、切回し道路の確保、交通規制による二次渋滞、近隣に与える影響などを考慮し、ボックスカルバート(地下構造物5)を非開削で構築する場合などに好適に採用されるものである。
【0028】
具体的には、地下埋設物10の下方地盤にシールド掘進機若しくは推進機を用いて縦長矩形断面形状の横坑1A〜1Cを構築するとともに、各横坑1A〜1Cの間に複数の、図示例では3つの横長矩形断面形状の横坑2A〜2Fを構築する。次いで、両側部に位置する横坑1A、1Cの下面から下方地盤に向けて継手付の土留め鋼材3,3…を圧入し、連続した前記鋼殻エレメント1Aと土留め鋼材3,3…とによる土留め壁6,6を形成し、かつ中央の横坑1Bの下面から下方地盤に向けて支持杭となる支柱鋼材4を長手方向に所定の間隔で圧入し、さらに横長横坑2A〜2Fを相互に接続するとともに、横坑1A〜1Cと接続することにより、上載土砂を支持する上部構造体7を構築した後、前記土留め壁6,6及び上部構造体7とで囲まれる空間内を掘削するとともに、前記横坑1A〜1C、2A〜2Fを成す鋼殻エレメント11、12の一部を解体し、空間内にカルバートボックス5からなる地下構造物を構築するものである。
【0029】
前記横坑1A〜1C、2A〜2Fの掘削にシールド掘進機を用いる場合は、例えば、図17および図18に示されるように、一対のドラムカッタ41,41間にこれよりも小径の一対のリングカッタ42が配設されたほぼ正方形断面の掘進ユニット43を単独で又は縦方向に複数連結したものを用いることができる。なお、シールド掘削機としては円形断面のものを用いることもできるが、掘削土量を低減できる点から矩形断面のものを用いるのが望ましい。また、線形が曲線である場合には、中折れ機構を有し曲線掘削が可能なものが用いられる。
【0030】
一方、前記鋼殻エレメント11は、詳細には図2に示されるように、外殻を成すスキンプレート13の内面側に部材長手方向(掘進方向)に所定の間隔で周方向に連続する主桁14,14…が設けられるとともに、周方向に所定の間隔で部材長手方向に沿って断面L字状の第2補強桁15,15…が設けられた構造となっている。この鋼殻エレメント11,12は、前記シールド機による地盤掘削に伴い、その掘削済み部分に順次設置されることにより、地盤内に連続的に設けられるものである。
【0031】
本発明では、鋼殻エレメント11から下方地盤に向けて土留め鋼材3(又は支柱鋼材4)を圧入するに当たり、予め、前記鋼殻エレメント11における土留め鋼材3(又は支柱鋼材4)の圧入部位に対して、前記土留め鋼材3(又は支柱鋼材4)の断面形状の開口溝20を形成するとともに、前記開口溝20を塞ぐ止水部材23を備えた止水装置21を設けておき、前記鋼殻エレメント11の内部から前記止水部材23を破断させながら前記土留め鋼材3(又は支柱鋼材4)を地盤に向けて圧入するものである。
【0032】
以下、図3〜図13に基づき、前記土留め鋼材3の例により上記圧入方法について詳述する。
【0033】
先ず、前記鋼殻エレメント11の土留め鋼材3の圧入部位に対しては、図3に示されるように、土留め鋼材3の断面形状を成す開口溝20をスキンプレート13に対して形成するとともに、この開口溝20を塞ぐ止水部材23を備えた止水装置21を設ける。止水装置21は、図3(B)に示されるように、スキンプレート13に形成した開口溝20を塞がないように、同様に開口溝22aが形成された止水ベース板22を固設し、その上面側に前記土留め鋼材3の圧入前の状態で止水性を確保するために易破断性の第1止水部材23を配設するとともに、その上面側に前記土留め鋼材3の圧入後の状態で止水性を確保するために、土留め鋼材3の挿入溝24aが形成された第2止水部材24とを積層した後、押え板25をボルト26,26…によって固定した装置である。なお、本例では前記土留め鋼材3として、図4に示されるように、フランジ幅が上下で異なる断面変形H形状の鋼材(商品名:Kドメール−Sタイプ)を用いたが、山留め機能を有する高剛性のものであればどのような土留め鋼材を用いてもよい。また、前記開口溝20は、使用する土留め鋼材の断面形状に合わせて形成される。
【0034】
前記第1止水部材23としては、例えば厚み3〜7mm程度の薄ゴムシートが好適に用いることができ、前記第2止水部材24としては、厚み10〜20mm程度のパッキンゴムとし、その挿入溝幅を土留め鋼材3の肉厚よりも狭くしたものを好適に用いることができる。材質的にはゴム材の他、樹脂又は発泡樹脂などであってもよい。また、破断部分を制御するために、前記第1止水部材23の薄ゴムシートには、裏面に到達しない浅い切込みを形成しておくこともできる。
【0035】
前記土留め鋼材3の圧入は、図5(A)に示されるように、小型の圧入式杭打ち機(図示せず)を用い、土留め鋼材3の先端を第2止水部材24の挿入溝24aに位置決めしたならば、その状態のまま地盤側に向けて押し込み、第1止水部材23を破断させて地盤中に圧入する。圧入後の状態では、図5(B)に示されるように、前記第2止水部材24の挿入溝24aの溝壁が土留め鋼材3の側面に密着することにより止水性が確保されるようになる。
【0036】
前記土留め鋼材3、3によって連続した土留め壁6を構築するためには、図3(A)に示されるように、隣接する土留め鋼材3,3の継手3a、3b同士を結合させた状態とする必要があるため、土留め鋼材3の圧入は、一方側から順に継手3a、3bを結合させながら行われるが、地盤に圧入した直後の状態では、未結合側継手3a部分では破断した第1止水部材23と土留め鋼材3との間に隙間が生じ地下水の漏れが生ずるおそれがある。
【0037】
そのため、本方法では、第1の方法として、前記土留め鋼材3の継手3a、3b内に予め止水材45が充填しておくようにする。圧入前に予め継手3a、3b内に圧入にそれほど抵抗とならない止水材45を充填しておくことにより(図11(B)参照)、圧入に際して、先行土留め鋼材3の継手3aと接合する側の継手3bでは継手内に止水材が残置されることにより継手部3bの止水性を確保し、接合しない側の継手3aは止水材45の存在により継手3a内からの漏水を回避することができる。
【0038】
また、第2の方法としては、図6に示されるように、圧入直後の土留め鋼材の未結合側継手部3aに対して、継手部パッキン装置8を設置し止水材23、24との隙間を封鎖するようにする。
【0039】
前記継手パッキン装置8は、同図に示されるように、継手断面形状を成す継手パッキン材30と、この継手パッキン材30を支持する固定具31とからなる装置で、前記固定具31が止水装置21の押え板25にボルト固定される。なお、先行継手3a内に止水材45が充填されているか否かで、継手パッキン材30の形状が異なり、止水材45が充填されていない場合には、図11(A)に示される継手パッキン形状を使用し、止水材45が充填されている場合は図11(B)に示される継手パッキン形状を使用する。
【0040】
図6に示される状態から、次順の土留め鋼材3’を圧入するには、先ず図7(A)に示されるように、固定具31を取り外すと共に、他方側の継手挿入部位に対して、図7(B)に示すように、継手パッキン材30を配設し、取り外した固定金具31を取付け、継手パッキン装置8を設置したならば、図8に示されるように、土留め鋼材3の一方側継手3bを設置済みの土留め鋼材3の継手3aに嵌合させるとともに、他方側継手3aを前記継手パッキン装置8の継手パッキン材30に嵌合させ、図9に示されるように、前記一方側継手3bにより継手パッキン材30を地盤中に押し込みながら、土留め鋼材3を地盤中に圧入する。圧入後の状態を図10に示すが、図6に示す状態と同様の状態となり、常時圧入直後における止水が継手パッキン装置8によっても確保されるようになる。また、嵌合が完了した継手部3a、3bの止水性は、継手3a、3b内に残置される止水材45や予め継手3a、3b内に膨張性のシール剤を塗布しておくことにより確保される。
【0041】
ところで、前記鋼殻エレメント11においては、エレメント長手方向に所定の間隔をおいて、周方向に連続する主桁14,14…が設けられており、この主桁14,14…が前記土留め鋼材3と干渉する問題が生ずる。そこで、この干渉を回避しながら土留め鋼材3の圧入作業を円滑に遂行するために、図12に示されるように、前記主桁14を開口溝20の部位で分断するとともに、添接板32,32により連続化しておき、前記土留め鋼材3の圧入にあたり、前記添接板32,32を取り外し前記土留め鋼材3を圧入したならば、図13及び図14に示されるように、土留め鋼材3の主桁貫通部位に対して事前に或いは後施工で開口3bを形成し、前記分断されている主桁14、14間に跨る添接板32,32を再度配設し、締結具(ボルト・ナット)33、33…により連結し主桁14を構造的に連続させるようにする。
【0042】
他方、横長横坑2A〜2Fを相互に接続し上部構造体7を構築するには、図15に示す前記特許文献2に記載される方法のように、鋼殻エレメント2A〜2Fの側面に山留め用スライド鋼34,34を設けておき、このスライド鋼板34を鋼殻エレメント2A〜2Fの内部から油圧ジャッキ(図示せず)等を用いて隣接する鋼殻エレメント2A〜2Fの地山に挿入し山留めを行うとともに、地下水位以下である場合には、止水材35を注入して止水性を確保するようにする。そして、鋼殻エレメント2A〜2F同士をPC鋼棒やH型鋼等の連結部材にて連結し構造的に一体とする。
【0043】
次に、図16に示すように、構造規模に応じて前記鋼殻エレメント1A〜1Cから土留め鋼材6及び支柱鋼材4を下方地盤に向けて打ち込み、上部構造体7と側部地盤を支持させたならば、土留め壁6,6および上部構造体7によって囲まれた地中地盤を最終掘削深さである掘削床付高40まで掘削段階ごとに腹起こし38、切梁39、切梁受桁37等の土留支保工を架設しながら掘削を行う。
【0044】
掘削終了後は、図1に示すように、基礎コンクリートを打設し、適宜切梁等の土留支保工を解体するとともに、鋼殻エレメント11,12の一部を解体しながら地下構造物5の構築を行う。
【0045】
〔他の形態例〕
(1)上記形態例では、土留め鋼材3の圧入方法について詳述したが、横坑1Bの下面から地盤に圧入される支柱鋼材4は、隣接する支柱鋼材4を連続させる必要はなく、所定間隔毎に単独の状態で地盤に圧入すればよい。
(2)上記形態例では、鋼殻エレメント1A〜1C、2A〜2Fの内部に覆工コンクリートを打設していないが、強度上必要であるならば、覆工コンクリートを打設するようにしてもよい。
(3)上記形態例では、上部構造体7として、横坑2A〜2Fを地盤中に構築し、これら横坑2A〜2Fを相互に連結するとともに、両端部横坑1A、1C及び中間部横坑1Bと連結して、断面門型形状の山留め構造体を構築するようにしたが、前記上部構造体7の構築に当たり、前記中間部の横坑2A〜2Fを設けることなく、図19に示されるように、鋼殻エレメント1A、1Bの間、及び鋼殻エレメント1B、1Cとの間に土留め鋼材9.9…を横架することにより上部構造体7に代えることができる。この場合、土留め鋼材9の施工精度が要求されるため、最初の土留め鋼材9は、水平ボーリングによって横坑1A、1B(1B、1C)間に渡る水平孔を形成した後、水平ボーリング孔に牽引ワイヤーを渡し、この牽引ワイヤーによって前記土留め鋼材9を引っ張りながら正確に設置する。この際に土留め鋼材9の継手内部に牽引ワイヤーを配設しておき、次順の土留め鋼材9を前記牽引ワイヤで引っ張りながら圧入する手順の繰り返しによって土留め鋼材9,9…による上部構造体7を構築するのが望ましい。
(4)上記形態例では、鋼殻エレメント1A〜1Cの下面側から下方側地盤に向けて鉛直に土留め鋼材3や支柱鋼材4を圧入するようにしたが、図20に示されるように、両側部及び中間部に上下2段構成で横坑1A〜1Fを構築し、上段側に位置する鋼殻エレメント1A、1B、1C間に土留め鋼材9,9を水平方向に架け渡すとともに、下段側に位置する鋼殻エレメント1D、1E、1F間に土留め鋼材9’,9’を水平方向に架け渡し、さらに上段側の鋼殻エレメント1A、1B、1Cからそれぞれ下方側に位置する下段側鋼殻エレメント1D、1E、1Fに向けて鉛直方向に土留め鋼材6,6…を架け渡すことにより、土留め鋼材9…、9’…、6…により周囲を囲むようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る地中貫入体の施工方法を用いた地下構造体を構築するための山留め状態を示す横断面図である。
【図2】鋼殻エレメント1A(1B、1C)を示す、(A)は横断面図、(B)はB-B矢視図である。
【図3】止水装置21を示す、(A)は要部平面図、(B)はB-B線矢視図である。
【図4】土留め鋼材3の横断面図である。
【図5】止水装置21部における土留め鋼材3の圧入要領図である。
【図6】土留め鋼材3の圧入手順図(その1)である。
【図7】土留め鋼材3の圧入手順図(その2)である。
【図8】土留め鋼材3の圧入手順図(その3)である。
【図9】土留め鋼材3の圧入手順図(その4)である。
【図10】土留め鋼材3の圧入手順図(その5)である。
【図11】継手パッキン30の態様を示す図である。
【図12】主桁14との干渉部位における施工手順図(その1)である。
【図13】主桁14との干渉部位における施工手順図(その2)である。
【図14】主桁14との干渉部の要部斜視図である。
【図15】横坑2A〜2Fの連結要領を示す横断面図である。
【図16】支保工設置による掘削要領を示す横断面図である。
【図17】シールド機の縦断面図である。
【図18】シールド機のカッターヘッド正面図である。
【図19】山留め構造体の他の形成方法(その1)を示す横断面図である。
【図20】山留め構造体の他の形成方法(その2)を示す横断面図である。
【図21】従来の止水体形成要領を示す図(その1)である。
【図22】従来の止水体形成要領を示す図(その2)である。
【符号の説明】
【0047】
1A〜1C・2A〜2F…横坑、3…土留め鋼材、4…支柱鋼材、5…ボックスカルバート(地下構造物)、6…土留め壁、7…上部構造体、8…継手部パッキン装置、9…土留め鋼材、10…地下埋設物、11・12…鋼殻エレメント、13…スキンプレート、14…主桁、15…補強桁、20…開口溝、21…止水装置、23…第1止水部材、24…第2止水部材、30…継手パッキン材、31…固定具、32…添接板、33…締結具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤内に構築した鋼殻エレメント内部から地盤に向けて、地中貫入体を圧入するための施工方法であって、
予め、前記鋼殻エレメントにおける地中貫入体の圧入部位に対して、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝を形成するとともに、前記開口溝を塞ぐ止水部材を備えた止水装置を設けておき、前記鋼殻エレメントの内部から前記止水部材を破断させながら前記地中貫入体を地盤に向けて圧入することを特徴とする地中貫入体の施工方法。
【請求項2】
地盤内に構築した鋼殻エレメント内部から地盤に向けて、地中貫入体を成す継手付の土留め鋼材を圧入するための施工方法であって、
予め、前記鋼殻エレメントにおける土留め鋼材の圧入部位に対して、前記土留め鋼材の断面形状に沿った開口溝を形成するとともに、前記開口溝を塞ぐ止水部材を備えた止水装置を設けておき、前記鋼殻エレメントの内部から、圧入する土留め鋼材の継手を設置済みの土留め鋼材の継手に結合させ、前記止水部材を破断させながら前記土留め鋼材を地盤に向けて圧入することを特徴とする地中貫入体の施工方法。
【請求項3】
前記請求項2記載の地中貫入体の施工方法において、継手内に予め止水材が充填された土留め鋼材を圧入することを特徴とする地中貫入体の施工方法。
【請求項4】
前記請求項2記載の地中貫入体の施工方法において、圧入直後の土留め鋼材の未結合側継手部に対して、継手断面形状を成す継手部パッキン材を設置して止水部材との隙間を封鎖し、次いで隣接する土留め鋼材を地盤に圧入するに当たり、土留め鋼材の継手を設置済みの土留め鋼材の継手に結合させ、前記継手部パッキンを地盤中に押し込みながら前記土留め鋼材を地盤に圧入することを特徴とする地中貫入体の施工方法。
【請求項5】
前記止水装置は、前記地中貫入体の圧入前の状態で止水性を確保する易破断性の第1止水部材と、前記地中貫入体の圧入後の状態で止水性を確保する第2止水部材とからなる請求項1〜4いずれかに記載の地中貫入体の施工方法。
【請求項6】
前記第1止水部材は薄ゴムシートであり、前記第2止水部材は地中貫入体の断面形状に沿った開口溝が形成されたゴムパッキンである請求項5記載の地中貫入体の施工方法。
【請求項7】
前記地中貫入体と、前記鋼殻エレメントの内面に周方向に沿って設けられた主桁とが干渉する部位において、前記主桁を鋼殻エレメントの開口溝部位で分断するとともに、添接板により連続化しておき、前記地中貫入体の圧入にあたり、前記添接板を取り外し地中貫入体を地盤中に圧入したならば、地中貫入体の主桁貫通部位に対して事前に又は後施工で開口を形成し、主桁間に跨る前記添接板を配設し連結することにより前記主桁を連続させるようにする請求項1〜6いずれかに記載の地中貫入体の施工方法。
【請求項8】
予め、地中貫入体の圧入部位に対して、前記地中貫入体の断面形状に沿った開口溝を形成するとともに、前記開口溝を塞ぐように、地中貫入体の圧入前の状態で止水性を確保する易破断性の第1止水部材と、前記地中貫入体の圧入後の状態で止水性を確保する第2止水部材とを備えた止水装置を設けてあることを特徴とする地中貫入体を施工するための鋼殻エレメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2006−265827(P2006−265827A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80909(P2005−80909)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(390027661)株式会社金澤製作所 (29)
【Fターム(参考)】