説明

地中障害物磁気探査方法

【課題】シールド掘進機による掘削前に、該シールド掘進機の進路における地中障害物の有無を、構造簡単且つ低コストで探査する。
【解決手段】検知可能半径rの磁気センサーを用い、シールド掘進機のシールド筒体内から、該シールド掘進機の進行方向の地盤に長尺な棒を挿入可能な探査孔を2以上の複数箇所に形成し、且つ、前記複数の探査孔を、それぞれ少なくとも1つの他の探査孔との距離Rが、r<R<2rを満たすように形成し、1つの前記探査孔に、先端に前記磁気センサーを取り付けた長尺な探査棒を挿入して行う先の磁気探査工程と、前記先の磁気探査工程の後に、前記探査棒を、先の磁気探査工程を行った探査孔から距離Rの位置の地盤に形成された他の探査孔に挿入して行う後の磁気探査工程とを行い、前記先の磁気探査工程と後の磁気探査工程の結果から、前記地中障害物の位置を判断する位置検知工程を有する地中障害物磁気探査方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下トンネル等をシールド掘進機によって掘削する際に、シールド掘進機の進行方向の地中にある障害物の位置を探知する、地中障害物磁気探査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中には、道路、鉄道、電気、ガス、上下水道、電信などの多くの設備に係る地下構造物が輻輳している。前記地下構造物築造時には、仮設としての土留め杭やシートパイルなどが用いられ、これらが地中に残されている場合がある。
【0003】
ここで、新たな地下トンネル等を構築するため、地中においてシールド掘進機による掘削を行う場合には、既存の地下構造物の位置から前記地中に残された仮設としての土留め杭やシートパイルなどの地中残置物の存在の可能性を予測し、地上から垂直に磁気センサー等による探査を行う事前調査が行われるが、掘削位置の上方が河川である場合や、交通渋滞の激しい場所であるなど、地上からの事前調査が行えない場合もあり、地上からの事前調査によって全ての地中残置物が把握できるものではない。
【0004】
しかし、シールド掘進機の掘進が予想外の地中残置物に遭遇すると、当該地中残置物を除去するために掘進が中断されるだけでなく、地中残置物に接触してシールド掘進機が破損した場合には、更に大幅な工期および工程の延長を招く虞がある。そのため、シールド掘進機の進路にある地中残置物の位置を正確に把握することが求められている。
【0005】
そこで、シールド掘進機の前方に検知装置を設け、シールド掘進中に地中残置物を検知するシールド掘進機が開発されている。例えば、特許文献1には、シールド掘削機の前端の上部に設けられたムーバブルフードが障害物に当たったことを検知する検知装置が開示されている。特許文献2には、電磁波による埋設物探査装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−129876号公報
【特許文献2】特開2004−212324号公報
【0007】
しかし、特許文献1に記載の検知装置は、ムーバブルフードが地中残置物に直接当たった時に、当該地中残置物を障害物として検知するため、シールド掘進機が地中残置物の直前に来るまで検知することができない。また、特許文献2に記載の埋設物探査装置のような電磁波による検知方法はコストが高く、また、シールド掘進機前端への取り付けが困難な場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記問題に鑑み、本発明の課題は、シールド掘進機による掘削前に、該シールド掘進機の進路における地中障害物の有無を、構造簡単且つ低コストで探査することができる地中障害物磁気探査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様に係る地中障害物磁気探査方法は、地盤を掘削するカッター要素と、カッター要素を保持するシールド筒体とを備えたシールド掘進機によって地中を掘進する際に、前記シールド掘進機の進行方向にある磁性を有する地中障害物を、磁気センサーによって検知する地中障害物磁気探査方法であって、前記磁気センサーとして、検知可能半径rの磁気センサーを用い、前記カッター要素を停止した前記シールド掘進機のシールド筒体内から、該シールド掘進機の進行方向の地盤に、長尺な棒を挿入可能な探査孔を2以上の複数箇所に形成し、且つ、前記複数の探査孔を、それぞれ少なくとも1つの他の探査孔との距離Rが、r<R<2rを満たすように形成し、先端に前記磁気センサーを取り付けた長尺な探査棒を挿入して行うものである。
そして、この先の磁気探査工程の後に、前記探査棒を、先の磁気探査工程を行った探査孔から距離Rの位置の地盤に形成された他の探査孔に挿入して後の磁気探査工程を行い、前記先の磁気探査工程と後の磁気探査工程の結果から、前記地中障害物の位置を判断する位置検知工程を有することを特徴とするものである。
【0010】
磁気センサーによる探査は、障害物に直接接触することなく、その存在および該障害物との距離を検知することができる、すなわち、間接方式の探査である。磁気センサーは、その検知可能範囲内に磁性を有するもの(障害物)がある場合に反応を示す。
間接方式の探査方法としては電磁波による探査方法があり、測定した波形パターンを処理することによって地中の状況を画像化することが可能であるが、コストが高い上、シールド掘進機においては、その進路方向、すなわち、前方の探査に適した装置取り付け位置の確保が困難である。
【0011】
一方、本発明に用いる磁気センサーによる探査では、前述のように、検知可能範囲(例えばrとする)内に磁性を有する障害物、すなわち、土留め杭やシートパイル等があれば反応を示し、その反応パターンや強度等によって前記磁気センサーとの間の距離を測ることができる。このような磁気センサーとしては、パーマロイなど高透磁率材をコアとした極低周波を増幅するプリアンプとから構成されている磁気センサー、例えば、両コイル型磁気傾度計や、フラックスゲート型磁力計等の公知の磁気センサーを用いることができる。
【0012】
本発明における磁気センサーによる探査機構について、図1〜図3を用いて以下に説明する。前記磁気センサーによる探査は、地盤Gに長尺な棒を挿入可能な探査孔10を形成し、前記探査孔10に、先端に前記磁気センサー1を取り付けた長尺な探査棒11を挿入して行う(図3)。図1および図2は、磁気センサーによる探査機構を説明する図であり、磁気センサーの長尺方向に対する垂直断面図である。
【0013】
まず、一つの磁気センサー1によって磁気探査を行った場合について、図1を用いて説明する。磁気センサー1による「先の磁気探査工程」を行い、磁気センサー1から距離rの位置に磁性体障害物2があるという磁気反応があった場合、図1(A)のように磁性体障害物2がある可能性と、図1(B)のように磁性体障害物2がある可能性の二つがある。
このように、磁気センサー1による一度の測定だけでは、当該磁気センサーに対してどの方向に障害物があるのかという位置関係を特定できない。
【0014】
ここで、前記磁性体障害物2が図1(A)の位置か図1(B)の位置のいずれにあるのかを判断するため、前記磁気センサー1による「先の磁気探査工程」に続いて、「後の磁気探査工程」を行うことによって判断することができる(図2)。
「後の磁気探査工程」は、磁気センサー1との距離Rが、r<R<2rを満たす位置に磁気センサー4を配置して行う。すなわち、磁気センサー4による検知可能範囲(符号5の点線の円)が、磁気センサー1の検知可能範囲(符号3の点線の円)に重なるようにして探査を行う。
【0015】
前記「後の磁気探査工程」を行い、磁気センサー4に磁気反応が無ければ、磁性体障害物2は図2(A)の位置にあると言える。また、磁気センサー4から距離rの位置に磁性体障害物2があるという反応があれば、該磁性体障害物2は図2(B)の位置にある可能性が高いと言える。
【0016】
尚、説明を分かり易くするために、磁気センサーに異なる符合を付して説明したが、一つの磁気センサーを用い、先の磁気探査工程を行った後の磁気センサーを、後の磁気探査工程に用いることができるのはもちろんである。
【0017】
本態様によれば、前記シールド掘進機のシールド筒体内から、該シールド掘進機の進行方向の地盤に、長尺な棒を挿入可能な探査孔を2以上の複数箇所に形成し、磁気センサーによる探査によって、シールド掘進機の進路における地中障害物の有無を検知することができる。磁気センサーを用いた探査装置は、電磁波を用いた探査装置よりも構造簡単且つ低コストで導入可能である。また、地盤に探査孔を形成すると同時に、当該地盤の性状調査を行うことが可能であり、高効率に作業を行うことができる。
【0018】
本発明の第2の態様に係る地中障害物磁気探査方法は、第1の態様において、前記複数の探査孔は、前記シールド掘進機のカッター要素の外周に沿った位置に形成されることを特徴とするものである。
【0019】
シールド掘進機の進路の妨げになる地中障害物としては、先に構築された地下構造物の仮設の土留め杭やシートパイルなどの残存物が挙げられる。通常、新たな地下構造物を構築する場合、先に構築された地下構造物に影響のない離れた位置に築造されることから、一般的に、前記残存物のような地中障害物は、シールド掘進機のカッター要素の縁近傍に接触する可能性が高い。
【0020】
本態様によれば、第1の態様と同様の作用効果に加え、シールド掘進機の進路を妨げる障害物の探査を、効率よく行うことができる。特に、新たな地下構造物を、先に構築された地下構造物の更に下方に構築する場合には、カッター要素の上方側の外周に探査孔を設けることが好ましい。
【0021】
本発明の第3の態様に係る地中障害物磁気探査方法は、第1の態様または第2の態様において、前記探査孔を、パイプ状の非磁性体ケーシングを用いたボーリングにより形成することを特徴とするものである。
【0022】
本態様によれば、探査孔の形成するボーリングに用いるパイプ状のケーシングとして、非磁性体に分類されるSUS(SUS316、SUS318等)などで形成されたケーシングを用いるので、前記ボーリングを行った後、直ぐに磁気センサーによる磁気探査を行うことができる。
【0023】
本発明の第4の態様に係る地中障害物磁気探査方法は、第1の態様または第2の態様において、前記探査孔を、パイプ状の磁性体ケーシングを用いたボーリングにより削孔し、該磁性体ケーシングを引抜いた後に、パイプ状の非磁性体ケーシングを挿入して形成することを特徴とするものである。
【0024】
前述した非磁性体の材料で形成された非磁性体のケーシングは、硬い地盤の掘削に対する強度が不足する場合がある。
本態様によれば、硬い地盤に対して鋼材等の硬い材料で形成された磁性体ケーシングを用いてボーリングにより削孔し、該磁性体ケーシングを引抜いて非磁性体ケーシングに差し替えることにより、磁気探査に影響のない非磁性体の探査孔を形成することができる。
【0025】
本発明の第5の態様に係る地中障害物磁気探査方法は、第3の態様において、探査棒を挿入して行う磁気探査工程は、前記探査孔の両端から距離rより離れた孔内を探査することを特徴とするものである。
【0026】
ボーリングに用いるパイプ状のケーシングの先端には、地盤掘削用のビットが接続されている。該地盤掘削用のビットは、通常、鋼等の磁性体で形成されている。また、シールド掘進機におけるカッター要素も、鋼等の磁性体で形成されている。したがって、鋼製のビットやカッター要素と、前記磁気センサーとの距離が検知可能半径rより近いと、当該ビットやカッター要素が磁気センサーに反応してしまう。
本態様によれば、第3の態様と同様の効果に加え、該非磁性体ケーシングの先端に用いられる磁性体のビットやカッター要素の影響のない範囲を探査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】1つの磁気センサーによる探査機構を説明する図であり、磁気センサーの長尺方向に対する垂直断面図である。
【図2】本発明に係る地中障害物磁気探査方法における磁気センサーによる探査機構を説明する図であり、磁気センサーの長尺方向に対する垂直断面図である。
【図3】地盤に対して行う磁気センサーによる地中障害物磁気探査方法を説明する概略図である。
【図4】本発明に係る地中障害物磁気探査方法を行う際のシールド掘進機の一例を示す側面図である。
【図5】本発明に係る地中障害物磁気探査方法を行う際のシールド掘進機のカッター要素の一例を示す平面図である。
【図6】図4における地盤GのI−I断面図である。
【図7】非磁性体のケーシングを用いたボーリングにより形成した探査孔における磁気探査を説明する図である。
【図8】本発明に係る地中障害物磁気探査方法を行う際のシールド掘進機の他の一例を示す側面図である。
【図9】図8におけるII−II断面(実線部分)およびIII−III断面(点線部分)を示す図である。
【図10】図4における地盤GのI−I断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明に係る地中障害物磁気探査方法について実施例を挙げて説明する。
図4は、本発明に係る地中障害物磁気探査方法を行う際のシールド掘進機の一例を示す側面図、図5は本発明に係る地中障害物磁気探査方法を行う際のシールド掘進機のカッター要素の一例を示す平面図である。
【0029】
[実施例1]
本発明の地中障害物磁気探査方法は、地盤Gを掘削するカッター要素21と、カッター要素21を保持するシールド筒体22とを備えたシールド掘進機20によって地中を掘進する際に、該シールド掘進機20の進行方向にある磁性を有する地中障害物(先に構築された地下構造物の仮設の土留め杭やシートパイルなどの地中残存物)を磁気センサー1によって検知するものである。
【0030】
まず、本発明の地中障害物磁気探査方法に用いる機器について説明する。
シールド掘進機20としては、密閉式掘進機等の公知のシールド掘進機が用いられる。シールド掘進機20は、密閉式掘進機に限られるものではなく、開放式掘進機を用いることもできる。前記シールド掘進機20の前面のカッター要素21は、その前面にカッタービット24を備え、カッターモーター23等の駆動手段によって駆動するように構成されている。
シールド筒体22の内部には、地盤Gを掘削した土砂をシールド掘進機の進行方向の後方へ搬出するスクリューコンベア25が設けられている。
【0031】
前記カッター要素21の後方には、シールド筒体22内への土砂や地下水等の流れ込みを防ぐ隔壁43が設けられており、当該隔壁43に後述する探査孔27の入口となる探査孔口26が設けられている。該探査孔口26は、予め前記隔壁43に形成し、磁気センサーを挿入して行う地中障害物磁気探査を行う際には開口し、シールド掘進を行う際には密閉することができるように構成されていることが好ましい。本実施例では、探査孔口26にスリーブ管38とバルブ39が設けられており、バルブによって前記探査坑口26の開閉を行うことができる。また、地中障害物磁気探査を行う前に、掘削現場において前記隔壁43に探査孔口26を形成してもよい。
【0032】
複数の探査孔口26(探査孔口26a、探査孔口26b、探査孔口26c、探査孔口26d、探査孔口26e)は、図5に示すように前記カッター要素21の外周に沿って設けられている。
本実施例においては、図4のように、探査孔27をカッター要素21の面に対してほぼ垂直に形成する場合について説明する。隣り合う探査孔口26同士(例えば探査孔口26aと探査孔口26b、探査孔口26bと探査孔口26c)の距離は、探査孔口26を入口として形成される探査孔27の距離が所定の距離になるように形成されている。この距離については、後述の探査孔27の形成についての説明において詳述する。
【0033】
また、前記磁気センサー1としては、検知可能半径r内に磁性を有する障害物、すなわち、土留め杭(H型鋼)やシートパイル等があれば反応を示し、その反応パターンや強度等によって前記磁気センサーとの間の距離を測ることができるものが用いられる。このような磁気センサーとしては、パーマロイなど高透磁率材をコアとした極低周波を増幅するプリアンプとから構成されている磁気センサー、例えば、両コイル型磁気傾度計や、フラックスゲート型磁力計等の公知の磁気センサーを用いることができる。
【0034】
次に、本発明に係る地中障害物磁気探査方法について、詳細に説明する。
まず、シールド掘進機20の進路の地盤Gに、先端に検知可能半径rの磁気センサー1を取り付けた長尺な探査棒11を挿入するための複数の探査孔27を形成する。探査孔27の形成は、カッター要素21を停止した状態のシールド掘進機20のシールド筒体22内から行う。
【0035】
前記探査孔口26に設けられたスリーブ管38に、ボーリング機器等を設置可能な場所(例えば、スクリューコンベア25の後方)からボーリング作業を行うため、延長スリーブ管36を接続する。延長スリーブ36にはバルブ37が設けられている。ボーリングマシン28によるボーリング時には、該延長スリーブ36に口元パッカー(図示せず)を取り付けて削孔を行う。
【0036】
本実施例では、前記探査孔27を前記隔壁43の面に対してほぼ垂直に形成する(図3および図4を参照)。したがって、シールド掘進機20の進路の地盤G中には、図6に示されるように、前記探査孔口26に対応する位置に複数の探査孔27(探査孔27a〜探査孔27e)が形成される。
更に、前記探査孔27は、それぞれ少なくとも1つの他の探査孔との距離Rが、r<R<2r(rは磁気センサー1の検知可能半径である)を満たすように形成される。
【0037】
尚、磁気センサー1の検知可能半径rの大きさは、シールド掘進機の大きさ、地盤の性状等によって適宜選択することができる。一般的には、検知可能半径rが50cm〜100cm程度の磁気センサーを用いることができる。検知可能半径rが大きいほど、少ない数の探査孔の探査で広い範囲の地盤の探査を行うことができるため、検知可能半径rが50cm〜150cm程度の磁気センサーを用いることがより好ましい。
【0038】
本実施例では、探査孔27aと探査孔27b、探査孔27bと探査孔27c、探査孔27cと探査孔27d、探査孔27dと探査孔27e間のそれぞれの距離が、r<R<2rを満たす任意の距離Rに設定されている。符号28a〜符号28eは、探査孔27a〜探査孔27eに磁気センサー1が挿入されたときの検知可能範囲である。
【0039】
複数の探査孔27は、パイプ状のケーシングを用い、公知のボーリングマシン28によって形成する。本実施例では、先端に削孔用の鋼製ビット31を備えた非磁性体の材料で形成されたパイプ状のケーシング30を用いる。前記非磁性体の材料としては、SUS316、SUS318等の非磁性のSUS材料(オーステナイト系ステンレス鋼)が挙げられる。非磁性体で形成されたケーシング30を用いることによって、探査孔27を形成した後、直ぐに磁気センサー1による磁気探査を行うことができる。
【0040】
尚、前記オーステナイト系ステンレス鋼は非磁性体であるが、加工を繰り返すことで組織が磁性を帯びる場合があるため、ボーリングを行う前に磁気の有無の確認を行う。
【0041】
シールド掘進機20の進行方向に形成される探査孔27の長さは、該探査孔27が直線性を保つことができる長さに設定される。前記探査孔27の長さは、10〜15mであれば、その直線性を保って掘削することが容易である。前記探査孔27を形成した後に形成した探査孔27の孔曲がり測定を行い、その直線性を確認することが好ましい。
【0042】
各探査孔27に対して行う磁気探査の操作は以下のようにして行う。
前記ボーリングにより形成した複数の探査孔27に、探査棒11の先端に取り付けられた磁気センサー1を挿入する。その際、前記探査棒11の先端を、探査孔27を形成するケーシング30の最奥端32まで挿入し、そこから距離rだけ前記探査棒を引き戻した位置を磁気探査の開始点33とし、カッター要素21から距離rの位置を終点34として探査を行う。すなわち、前記探査孔27の両端から距離rより離れた孔内の範囲35を探査する(図7)。
【0043】
これは、ボーリングに用いた非磁性体ケーシング30の先端の鋼製ビット31と、鋼材で形成されたカッター要素21の磁気の影響を避けるためである。
尚、前記探査棒11の挿入及び引き戻しは、該探査棒11を一定速度で移動させることが可能なセンサー昇降機(図示せず)等の距離計を用いて行うことが望ましい。距離計を用いることによって、前記探査孔27の探査範囲35のいずれの位置において磁気センサー1が反応したかを正確に知ることができる。
【0044】
以上のようにして行う磁気探査工程を、探査孔27a〜探査孔27eのそれぞれに対して行う。図6(A)、図6(B)、および図10のように探査孔27a〜探査孔27eが設けられている場合、いずれの探査孔から磁気探査を行っても構わないが、中央の探査孔27cから開始することが好ましい。
【0045】
例えば、探査孔27bにおける磁気探査工程と、探査孔27cにおける磁気探査工程において磁気反応があり、他の探査孔27a、探査孔27d、および探査孔27eに磁気反応がない場合、探査孔27bと探査孔27cとの間に磁性体障害物40があることが判る[図6(A)または図6(B)を参照]。更に、探査孔27b(孔内の磁気センサー)から磁性体障害物40までの距離rと、探査孔27cから磁性体障害物40までの距離rから、該磁性体障害物40が、図6(A)のようにカッター要素の内側、すなわち、シールド掘進機20の進路内にあるのか、図6(B)のようにシールド掘進機20の進路外にあるのかを判断することができる。
【0046】
図6(A)のようにシールド掘進機20の進路内に磁性体障害物40があることが検知された場合には、当該地中残置物を除去する工事を予め計画することができ、更に、前記シールド掘進機20が不用意に磁性体障害物40にぶつかって破損することを防ぐことができる。
【0047】
また、図10の例では、探査孔27aにおける磁気探査工程において磁気反応があり、他の探査孔27b〜探査孔27eには磁気反応がない。このような場合には、シールド掘進機の進路に対し、該シールド掘進機の上方側から突出する磁性体障害物40はないと判断することができる。
【0048】
尚、図6(A)のように磁性体障害物40の端部41よりも該磁性体障害物40本体が探査孔27の近くにある場合には、前記距離rおよび距離rは、探査孔27から磁性体障害物40までの水平距離が算出されるが、図6(B)のように磁性体障害物40の端部41の方が探査孔27に近い場合には、距離rおよび距離rは、磁性体障害物40の端部41までの斜距離となる。
前記磁性体障害物40本体までの水平距離が算出された場合と、磁性体障害物40の端部41までの斜距離が算出された場合では、磁気センサーの磁気反応の波形が異なるため、これによっても磁性体障害物40の位置を推測することが可能である。
【0049】
尚、図6(A)のように磁性体障害物40が存在したときに、前記磁性体障害物40の下端41がどのくらいまで下方に延びているかを知りたい場合には、例えば、探査孔27fのように、更に下方の地盤に対して磁気探査工程を行って調べることができる。
【0050】
例えば、探査孔27fにおける磁気探査工程において磁気反応がなければ、磁性体障害物40の下端41はシールド掘進機の進路途中で途切れていることが判る。また、磁性体障害物40の端部41を検出する波形が示された場合には、その下端位置をほぼ特定することができる。磁気反応があるが、磁性体障害物40本体までの水平距離が算出される波形が示された場合には、シールド掘進機の進路を縦断するように磁性体障害物40が存在することが判る。
【0051】
磁気探査工程の結果から、シールド掘進機の進路内における磁性体障害物の有無の判断行う位置検知工程は、磁気センサー1による磁気探査データをコンピュータ処理することにより解析することができる。地盤によっては、地盤自体が帯磁しているためにノイズが発生する場合や、種々の周波数の磁気ノイズや電気的ノイズや商業電源によるノイズの影響がでる場合があるが、これらのノイズの影響は、ノイズ除去のデジタルフィルターによって回避することができる。
【0052】
シールド掘進機20の進路の妨げになる地中障害物としては、先に構築された地下構造物の仮設の土留め杭(H型鋼)やシートパイルなどの残存物が挙げられる。通常、新たな地下構造物を構築する場合、先に構築された地下構造物に影響のない離れた位置に築造されることから、一般的に、前記残存物のような地中障害物は、シールド掘進機のカッター要素の縁近傍に接触する可能性が高い。
【0053】
したがって、複数の探査孔を、前記シールド掘進機20のカッター要素21の外周に沿った位置に形成することによって、本発明に係る地中障害物磁気探査方法を、効率よく行うことができる。前記カッター要素21の外周全周に亘る位置に探査孔27を設けることも可能であるが、特に、新たな地下構造物を、先に構築された地下構造物の更に下方に構築する場合には、カッター要素21の上方側の外周に沿った位置に探査孔27を設けることが効果的である。
また、できるだけ少ない数の探査孔27によって、前記カッター要素21の上方側の外周すべてが検知可能範囲28a〜検知可能範囲28eに含まれるように、複数の探査孔を設けることが好ましい。
【0054】
[実施例2]
本実施例では、硬質地盤に対して行う地中障害物磁気探査方法について説明する。
実施例1においては、探査孔27は、先端に削孔用の鋼製ビット31を備えた非磁性体の材料で形成されたケーシング30を用いて直接削孔を行って形成されているが、硬質の地盤に対してボーリングを行う際には、非磁性体の材料で形成されたケーシング30では強度が不足する場合がある。
【0055】
このような硬質の地盤に対して探査孔27を形成する場合には、鋼材等の磁性体で形成されたケーシングを用いたボーリングにより事前に削孔を行い、該磁性体ケーシングを引抜いた後に、パイプ状の非磁性体ケーシングを挿入して形成する。前記磁性体ケーシングを引抜く際には、孔壁を一時的に保持するため、ステップバックで薬液注入を行うことが好ましい。
【0056】
これにより、硬い地盤に対して探査孔27を形成できるとともに、磁気探査に影響のない非磁性体の探査孔27とすることができる。
本実施例においては、削孔した地盤に非磁性体ケーシングを挿入するので、該非磁性体ケーシングの先端にはビットを設ける必要がない場合がある。また、ビットが必要な場合であっても一度掘削した地盤に対する削孔であるため、鋼製ビットのような強度は必要としない。
【0057】
したがって、前記非磁性体ケーシングの挿入にはSUS316、SUS318等の非磁性体で形成されたビットを用いることができる。前記非磁性体で形成されたビットは磁気センサー1によって検知されないので、形成した探査孔27の最奥端42から磁気探査を開始することができる。
【0058】
[実施例3]
本発明に係る地中障害物磁気探査方法の他の例について説明する。
図8は、実施例3に係る地中障害物磁気探査方法を行う際のシールド掘進機の一例を示す側面図である。実施例1および実施例2では、探査孔27をカッター要素21の面に対してほぼ垂直、すなわち、シールド掘進機の進行方向に対して水平に形成した場合について説明した(図4)。
ここで、探査孔27は、前述のようにカッター要素21の外周に設けることが好ましいが、カッター要素21の後方の筒体の内部は種々の装置が入り組んでおり、図4のような位置からボーリングを行うことが難しい場合がある。
【0059】
本実施例では、図9のように、隔壁43に形成する探査孔口51a〜探査孔口51eを、該カッター要素55の中心により近いところに設け、カッター要素21の後方に設けられたボーリングマシン54を用い、該カッター要素55の外周53側に近づくように斜めにケーシング56を挿入してボーリングを行い、形成した探査孔52に磁気センサー1を挿入した時の検知可能範囲52が、前記カッター要素55の外周53(特に上方側)が通過する部分をカバーするように探査孔52を形成する。図9において、実線部分は図8のII−II断面であり、点線部分はIII−III断面である。
【0060】
これによって、シールド掘進機60内から行う探査孔50の形成作業が容易になり、効率的に地中障害物の磁気探査を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1 磁気センサー、 2 磁性体障害物、
3 磁気センサーの検知可能範囲、 4 磁気センサー、
5 磁気センサーの検知可能範囲、
10 探査孔、 11、 探査棒、
20 シールド掘進機、 21 カッター要素、 22 シールド筒体、
23 カッターモーター(駆動手段)、 24 カッタービット、
25 スクリューコンベア、
26、26a〜26e 探査孔口、 27、27a〜27f 探査孔、
28 ボーリングマシン、
30 ケーシング、 31 鋼製ビット、
40、磁性体障害物、 41 端部、 42 探査孔の最奥端、 43 隔壁、
50、50a〜50e 探査孔、 51、51a〜51e 探査孔口、
52 52a〜52e 磁気センサーの検知可能範囲、
53 カッター要素の外周、 54 ボーリングマシン、
55 カッター要素、 56 ケーシング、
60 シールド掘進機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤を掘削するカッター要素と、カッター要素を保持するシールド筒体とを備えたシールド掘進機によって地中を掘進する際に、前記シールド掘進機の進行方向にある磁性を有する地中障害物を、磁気センサーによって検知する地中障害物磁気探査方法であって、
前記磁気センサーとして、検知可能半径rの磁気センサーを用い、
前記カッター要素を停止した前記シールド掘進機のシールド筒体内から、該シールド掘進機の進行方向の地盤に、長尺な棒を挿入可能な探査孔を2以上の複数箇所に形成し、且つ、前記複数の探査孔を、それぞれ少なくとも1つの他の探査孔との距離Rが、r<R<2rを満たすように形成し、
1つの前記探査孔に、先端に前記磁気センサーを取り付けた長尺な探査棒を挿入して行う、先の磁気探査工程と、
前記先の磁気探査工程の後に、前記探査棒を、先の磁気探査工程を行った探査孔から距離Rの位置の地盤に形成された他の探査孔に挿入して行う、後の磁気探査工程と、
を行い、
前記先の磁気探査工程と後の磁気探査工程の結果から、前記地中障害物の位置を判断する位置検知工程を有することを特徴とする、地中障害物磁気探査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の地中障害物磁気探査方法において、前記複数の探査孔は、前記シールド掘進機のカッター要素の外周に沿った位置に形成されることを特徴とする、地中障害物磁気探査方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の地中障害物磁気探査方法において、前記探査孔を、パイプ状の非磁性体ケーシングを用いたボーリングにより形成することを特徴とする、地中障害物磁気探査方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の地中障害物磁気探査方法において、前記探査孔を、パイプ状の磁性体ケーシングを用いたボーリングにより削孔し、該磁性体ケーシングを引抜いた後に、パイプ状の非磁性体ケーシングを挿入して形成することを特徴とする、地中障害物磁気探査方法。
【請求項5】
請求項3において、探査棒を挿入して行う磁気探査工程は、前記探査孔の両端から距離rより離れた孔内を探査することを特徴とする、地中障害物磁気探査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−132158(P2012−132158A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283025(P2010−283025)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000148346)株式会社錢高組 (67)
【出願人】(591045965)株式会社精研 (5)
【出願人】(591088537)日本物理探鑛株式会社 (6)
【Fターム(参考)】