説明

地区毎のユーザ体感品質に基づく無線品質を送信する無線端末、方法及びプログラム

【課題】地区毎に異なるトラヒック特性を考慮して、アプリケーションの利用におけるユーザ体感品質に基づく無線品質をデータベースサーバへ送信する無線端末等を提供する。
【解決手段】アプリケーション種別毎に、ユーザ体感品質に影響を与える無線品質種別及び無線品質許容閾値を対応付けて記憶した無線品質条件テーブルと、利用中のアプリケーション種別に対応した無線品質種別の無線品質値を計測する無線品質計測手段と、無線品質値が、無線品質条件テーブルに記憶された無線品質許容閾値よりも劣化したか否かを判定する無線品質判定手段と、真と判定された際に、現在位置を測位するべく測位部を起動する測位制御手段と、アプリケーション種別、無線品質値及び現在位置を対応付けた無線品質データを、任意の時点で、データベースサーバへ送信する無線品質データ送信手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データベースサーバが、地区毎の無線品質情報を、無線端末から収集する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムにおける無線端末の無線通信品質は、基地局との間の遮蔽物のような周辺通信環境に大きく影響を受ける。そのために、従来、通信事業者の調査員が、基地局との間の無線通信品質を測定するために、自ら所持する電波品質測定装置によって、通信テストを実行する技術がある(例えば特許文献1参照)。この電波品質測定装置は、例えば、カーナビゲーションシステムや、携帯電話機に接続される車載型汎用パーソナルコンピュータであってもよい。調査員が、その場所をディスプレイに表示された地図に記録することによって、その位置情報と電波品質測定値とを対応付けることができる。
【0003】
また、調査員を必要とせず、遠隔地のデータ収集センタがネットワークを介して測定要求メッセージを送信し、そのメッセージを受信した電波品質測定装置が、自動的に無線品質を測定する技術もある(例えば特許文献1参照)。この電波品質測定装置は、携帯電話機及びGPS(Global Positioning System)を接続した専用の測定装置である。
【0004】
また、特許文献1に記載されたような専用の測定装置を用いることなく、簡便的且つ汎用的に無線品質情報を収集するために、既存の携帯電話機を用いる技術がある(例えば特許文献2〜7参照)。
【0005】
特許文献2に記載された技術によれば、携帯電話機は、無線品質を測定した際に、内蔵されたGPS機能を用いて測位する。そして、携帯電話機は、その無線品質情報及び位置情報を、所定のサーバへアップロードする。
【0006】
特許文献3に記載された技術によれば、異常な通信状態を検出した際に、その位置情報を取得し且つ記憶する。その後、正常な通信状態に移行した際に、所定のサーバにその位置情報を送信する。
【0007】
特許文献4に記載された技術によれば、車両(例えば一般の路線バスやタクシー等)に、GPS機能を有する携帯端末を搭載させ、その車両を走行させる。当該携帯端末は、基地局のサービスエリアから外れたことを検出した際に、GPS機能によって位置情報を取得し且つ記憶する。その後、携帯端末は、再び、基地局のサービスエリアに進入したことを検出した際に、記憶していた位置情報を、ネットワークを介して所定のサーバへ送信する。これによって、そのサーバを運用する通信事業者は、無線品質が劣化している箇所の位置情報を収集することができる。
【0008】
特許文献5に記載された技術によれば、サービスエリア内の必要箇所に、無線品質情報を収集するための携帯端末を設置する。携帯端末は、ネットワークを介してパーソナルコンピュータへ、定期的又は随時、その無線品質情報を送信する。パーソナルコンピュータは、携帯端末の位置情報に応じた無線品質情報を、エリア状態表示装置へ送信する。これにより、エリア状態表示装置は、エリアに応じて通信品質状態を表示することができる。
【0009】
特許文献6に記載された技術によれば、携帯端末は、異なる複数の無線通信システムの電波エリア状態情報を、位置情報と共に、ネットワークを介してサーバへ送信する。携帯端末は、GPS機能を搭載しており、その位置情報を測定する。これにより、サーバを運用する通信事業者は、携帯端末の位置に応じて、最適な無線通信システムを知ることができる。
【0010】
特許文献7に記載された技術によれば、通信システムの種類に応じて、取得すべき無線品質の範囲を変更することによって、携帯電話機における情報送信数/量及びネットワーク負荷を減らす。取得した無線品質の範囲が所定範囲内であった場合にのみ、GPS機能で測位し、その位置情報及び無線品質情報を、所定のサーバへアップロードする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−335202号公報
【特許文献2】特開2004−214875号公報
【特許文献3】特開2010−088074号公報
【特許文献4】特開2005−210530号公報
【特許文献5】特開2003−032174号公報
【特許文献6】特開2006−060295号公報
【特許文献7】特開2008−306240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1から7に記載の技術によれば、位置に基づく電波品質情報を取得することができ、無線品質の劣化エリアを発見することができる。一方で、電波品質情報の取得や無線品質の劣化エリアの発見は、それら自体が目的ではなく、「通話状態の改善を図る」ためのエリア設計に利用されるものである(例えば特許文献1[0002]参照)。つまり、無線品質の劣化エリアを抽出することによって、基地局設置のエリア設計を改善することができ、結果的に、無線端末を操作するユーザにおける通信に伴う不満をできる限り解消することができる。
【0013】
ここで、「無線品質情報」とは、例えばRSSI(Received Signal Strength Indicator:受信信号強度)や、C/I(Carrier-to-Interference ratio:搬送波対干渉波比)、TxPower(無線端末の送信電力レベル)又は遅延時間などである。特許文献1から6に記載の技術によれば、例えば、C/Iが所定値以下となる無線品質の劣化エリアを発見し、基地局配置のエリア設計を改善するこによって、全国津々浦々、所定値以上のC/Iを持つサービスエリアを構築することができる。
【0014】
しかしながら、発明者らは、昨今の無線端末種別の多様化、ユーザの利用するアプリケーション及びサービスの多様化によって、今後は、地区のトラフィック特性に応じた無線のエリア設計が必要になってくると考えた。
【0015】
図1は、地区毎に異なるトラヒック特性を要することを表すシステム構成図である。
【0016】
図1によれば、無線端末1は、例えば携帯電話機やスマートフォンのような情報端末であって、無線を介して基地局3と通信する。基地局3は、移動通信網(例えばセルラ通信ネットワーク)に接続されており、通信事業者のサービスエリアをカバーする。また、移動通信網は、他方で、インターネットと相互接続されており、無線端末1は、基地局3及び移動通信網を介して、インターネットに接続されたサーバと通信することができる。
【0017】
図1によれば、例えば「オフィス街地区」、「鉄道沿線地区」及び「娯楽施設地区」における通信の利用形態が表されている。
(1)「オフィス街地区」は、音声電話やテレビ電話など、双方向リアルタイムアプリケーションの利用割合が、比較的高い。また、下り方向(無線端末<-基地局)のトラヒック量と、上り方向(無線端末->基地局)のトラヒック量とは、比較的等しい(トラヒックの利用が対称的)。更に、データ伝送の遅延量に厳しいアプリケーションが多く利用される。
(2)「鉄道沿線地区」では、Webアクセスや、ストリーミングやコンテンツのダウンロードの利用割合が、比較的高い。また、下り方向のトラヒック量が、上り方向のトラヒック量よりも比較的多い(トラヒックの利用が非対称的)。更に、データ伝送の遅延量を許容したアプリケーションが多く利用される。
(3)「娯楽施設地区」では、ファイル(例えば写真や動画)のアップロードの利用割合が、比較的高い。また、上り方向のトラヒック量が、下り方向のトラヒック量よりも比較的多い(トラヒックの利用が非対称的)。更に、データ伝送の遅延量を許容したアプリケーションが多く利用される。
【0018】
このように、地区毎にトラヒック特性の需要が異なるにも拘わらず、従来技術によれば、全ての地区で一律の無線品質の基準によってエリアを設計していた。そのために、ユーザ体感品質の観点から、第1の地区で利用される第1のアプリケーションの利用では問題とならない無線品質であっても、第2の地区で利用される第2のアプリケーションの利用ではそれが問題となる場合がある。
【0019】
例えば、上り方向のリアルタイムなトラフィック量が少ない「鉄道沿線地区」では問題とならなかったTxPower(送信電力レベル)の基準が、「オフィス街地区」では、サービス品質の劣化の要因になり得る。ここでは、鉄道沿線地区の無線品質の基準では、オフィス街地区のサービス品質の劣化を発見できないという問題が生じる。
【0020】
一方で、「オフィス街地区」の無線品質の劣化を発見するためには、オフィス街地区についてサービス品質の劣化に繋がるTxPowerの無線品質の基準を採用しなければならない。この場合、サービスの利用上問題の無い「鉄道沿線地区」であっても、無線品質の劣化エリアとして検出されることとなる。つまり、通信事業者は、実際にサービス品質が劣化しているエリア「だけ」を発見することはできなかった。
【0021】
そこで、本発明は、地区毎に異なるトラヒック特性を考慮して、アプリケーションの利用におけるユーザ体感品質に基づく無線品質をデータベースサーバに収集することができる無線端末、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明によれば、地区毎にユーザ体感品質に基づく無線品質を収集するデータベースサーバへ、基地局との間の無線品質値を送信する無線端末であって、
アプリケーション種別毎に、ユーザ体感品質に影響を与える無線品質種別及び無線品質許容閾値を対応付けて記憶した無線品質条件テーブルと、
無線品質条件テーブルを用いて、利用中のアプリケーション種別に対応した無線品質種別の無線品質値を、基地局と通信する無線インタフェースから計測する無線品質計測手段と、
無線品質計測手段によって計測された無線品質値が、無線品質条件テーブルに記憶された無線品質許容閾値よりも劣化したか否かを判定する無線品質判定手段と、
無線品質判定手段よって真と判定された際に、現在位置を測位するべく測位部を起動する測位制御手段と、
利用中のアプリケーション種別と、無線品質計測手段によって計測された無線品質値と、測位された現在位置とを対応付けた無線品質データを、任意の時点で、データベースサーバへ送信する無線品質データ送信手段と
を有することを特徴とする。
【0023】
本発明の無線端末における他の実施形態によれば、無線品質条件テーブルにおける無線品質許容閾値は、当該アプリケーションを利用した場合に、ユーザ体感品質が所定のレベルを維持できる程度に低い値であることも好ましい。
【0024】
本発明の無線端末における他の実施形態によれば、測位制御手段は、無線品質判定手段によって真と判定された回数が連続して所定回数以上となった際に、測位部を起動することも好ましい。
【0025】
本発明の無線端末における他の実施形態によれば、無線品質種別は、C/I(Carrier-to-Interference ratio:搬送波対干渉波比)、TxPower(無線端末の送信電力レベル)、はRSSI(Received Signal Strength Indicator:受信信号強度)及び/又は遅延時間であり、
無線品質許容閾値は、規定時間幅に対する規定時間率の時間幅だけ、規定デシベル値よりも大きいか又は小さいかの条件を設定したものであり、
無線品質条件テーブルは、ネットワークに接続された通信事業者設備装置から受信したものである
ことを特徴とする。
【0026】
本発明によれば、地区毎にユーザ体感品質に基づく無線品質を収集するデータベースサーバへ、基地局との間の無線品質値を送信する無線端末の無線品質送信方法であって、
アプリケーション種別毎に、ユーザ体感品質に影響を与える無線品質種別及び無線品質許容閾値を対応付けて記憶した無線品質条件テーブルを有し、
無線品質条件テーブルを用いて、利用中のアプリケーション種別に対応した無線品質種別の無線品質値を、基地局と通信する無線インタフェースから計測する第1のステップと、
無線品質計測手段によって計測された無線品質値が、無線品質条件テーブルに記憶された無線品質許容閾値よりも劣化したか否かを判定する第2のステップと、
無線品質判定手段よって真と判定された際に、現在位置を測位するべく測位部を起動する第3のステップと、
利用中のアプリケーション種別と、無線品質計測手段によって計測された無線品質値と、測位された現在位置とを対応付けた無線品質データを、任意の時点で、データベースサーバへ送信する第4のステップと
を有することを特徴とする。
【0027】
本発明の無線品質送信方法における他の実施形態によれば、無線品質条件テーブルにおける無線品質許容閾値は、当該アプリケーションを利用した場合に、ユーザ体感品質が所定のレベルを維持できる程度に低い値であることも好ましい。
【0028】
本発明の無線品質送信方法における他の実施形態によれば、測位手段は、無線品質判定手段によって真と判定された回数が連続して所定回数以上となった際に、測位部を起動することも好ましい。
【0029】
本発明の無線品質送信方法における他の実施形態によれば、
無線品質種別は、C/I、TxPower、RSSI及び/又は遅延時間であり、
無線品質許容閾値は、規定時間幅に対する規定時間率の時間幅だけ、規定デシベル値よりも大きいか又は小さいかの条件を設定したものであり、
無線品質条件テーブルは、ネットワークに接続された通信事業者設備装置から受信したものである
ことも好ましい。
【0030】
本発明によれば、地区毎にユーザ体感品質に基づく無線品質を収集するデータベースサーバへ、基地局との間の無線品質値を送信する無線端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
アプリケーション種別毎に、ユーザ体感品質に影響を与える無線品質種別及び無線品質許容閾値を対応付けて記憶した無線品質条件テーブルと、
無線品質条件テーブルを用いて、利用中のアプリケーション種別に対応した無線品質種別の無線品質値を、基地局と通信する無線インタフェースから計測する無線品質計測手段と、
無線品質計測手段によって計測された無線品質値が、無線品質条件テーブルに記憶された無線品質許容閾値よりも劣化したか否かを判定する無線品質判定手段と、
無線品質判定手段よって真と判定された際に、現在位置を測位するべく測位部を起動する測位制御手段と、
利用中のアプリケーション種別と、無線品質計測手段によって計測された無線品質値と、測位された現在位置とを対応付けた無線品質データを、任意の時点で、データベースサーバへ送信する無線品質データ送信手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明の無線端末、方法及びプログラムによれば、地区毎に異なるトラヒック特性を考慮して、アプリケーションの利用におけるユーザ体感品質に基づく無線品質をデータベースサーバに収集することができる。結果的に、地区毎に異なる無線品質情報が収集される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】地区毎に異なるトラヒック特性を要することを表すシステム構成図である。
【図2】本発明の無線端末における無線品質条件テーブルを表す説明図である。
【図3】経過時間に対する無線品質値の変化を表すグラフである。
【図4】本発明における無線端末の機能構成図である。
【図5】本発明におけるシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下では、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0034】
図2は、本発明の無線端末における無線品質条件テーブルを表す説明図である。
図3は、経過時間に対する無線品質値の変化を表すグラフである。
【0035】
図2のシステムは、図1のシステムと同様のものであって、無線端末1は、基地局3との間の無線品質を取得することができる。また、無線端末1は、通信を伴う様々アプリケーションを実行することができ、ユーザ操作に伴う現在利用中のアプリケーション種別を認識する。
【0036】
また、図2のシステムによれば、インターネットに、データベースサーバ2が更に接続されている。データベースサーバ2は、地区毎に位置する無線端末1から、無線品質情報を収集する。本発明におけるデータベースサーバ2は、利用中のアプリケーション種別(アプリケーション毎を含む)に応じて、ユーザ体感品質に基づく劣化した無線品質情報のみを収集することができる。
【0037】
図2の無線品質条件テーブル[No.4]によれば、以下のように登録されている。
アプリケーション種別: Webアクセス
無線品質種別 : C/I
許容閾値 : >−3dB(時間率20%;300ms)
これは、300msの時間範囲のうち、−3dBよりも大きい値となる時間範囲が20%以上、即ち60ms以上であれば、Webアクセスにおけるユーザ体感品質が所定のレベルを維持できることを意味する。
【0038】
図3(a)は、Webアクセスのアプリケーションが実行されている際における時間経過に伴うC/Iの変動を表す。
区間1:無線品質条件を満たしている(良好)と判定
区間2:無線品質条件を満たしていない(劣化)と判定
【0039】
図2の無線品質条件テーブル[No.1]によれば、以下のように登録されている。このように、複数の無線品質種別及び許容閾値が含まれていてもよい。
アプリケーション種別: テレビ電話
無線品質種別 : C/I
許容閾値 : > −3dB (時間率20%;150ms)
無線品質種別 : TxPower
許容閾値 : < 20dBm(時間率20%;100ms)
無線品質種別 : RSSI
許容閾値 : >−95dBm(時間率20%;100ms)
例えばC/Iについて、150msの時間範囲のうち、−3dBよりも大きい値となる時間範囲が20%以上、即ち30ms以上であれば、テレビ電話におけるユーザ体感品質が所定のレベルを維持できることを意味する。
【0040】
図3(b)は、テレビ電話のアプリケーションが実行されている際における時間経過に伴うC/Iの変動を表す。
区間1:先のWebアクセスでは、無線品質条件を満たしている(良好)と判定
区間11:テレビ電話では、無線品質条件を満たしている(良好)と判定
区間12:テレビ電話では、無線品質条件を満たしていない(劣化)と判定
区間2:先のWebアクセスでは、無線品質条件を満たしていない(劣化)と判定
区間21:テレビ電話では、無線品質条件を満たしていない(劣化)と判定
区間22:テレビ電話では、無線品質条件を満たしていない(劣化)と判定
【0041】
図2の無線品質条件テーブル[No.5]によれば、以下のように登録されている。
アプリケーション種別: ファイルダウンロード
無線品質種別 : C/I
許容閾値 : > −3dB (時間率20%;450ms)
例えばC/Iについて、450msの時間範囲のうち、−3dBよりも大きい値となる時間範囲が20%以上、即ち90ms以上であれば、ファイルダウンロードにおけるユーザ体感品質が所定のレベルを維持できることを意味する。
【0042】
図3(c)は、ファイルダウンロードが実行されている際における時間経過に伴うC/Iの変動を表す。
区間1:ファイルダウンロードでは、無線品質条件を満たしている(良好)と判定
区間2:ファイルダウンロードでは、無線品質条件を満たしている(良好)と判定
【0043】
図2の無線品質条件テーブル[No.0]によれば、全てのアプリケーションに共通した基準の許容閾値が含まれている。この許容閾値は、通信リンクが維持できる最低限の無線品質値である。
アプリケーション種別: 共通
無線品質種別 : C/I
許容閾値 : > −5dB (時間率100%;3000ms)
無線品質種別 : TxPower
許容閾値 : < 25dBm (時間率100%;3000ms)
無線品質種別 : RSSI
許容閾値 : >−105dBm(時間率100%;3000ms)
例えばC/Iについて、3000msの時間範囲のうち、−5dBよりも大きい値となる時間範囲が100%、即ち3000msであれば、通信リンクにおけるユーザ体感品質が所定のレベルを維持できることを意味する。
【0044】
ここで、図2の無線品質条件テーブルによれば、[No.2](ストリーミング)、[No.4](Webアクセス)及び[No.5](ファイルダウンロード)の場合、TxPowerの基準が無い。この場合、アプリケーション種別[共通]とするTxPowerの条件によって判定される。
【0045】
尚、無線品質条件テーブルに登録された許容閾値は、当該アプリケーション種別を利用した場合に、ユーザ体感品質が所定のレベルを維持できる最低限の無線品質値である。例えば、当該アプリケーション種別について、MOS値が3.5となる無線品質値を最低限のレベルとする。
【0046】
[オフィス街地区]
オフィス街地区では、例えばテレビ電話[No.1]のアプリケーションが多い。このような双方向とも対称的にトラヒック量が発生するアプリケーション種別に対する無線品質条件は、図2に表されたように、C/I、TxPower及びRSSIいずれも基準が比較的厳しい。結果的に、いずれの無線品質の劣化であってもデータベースサーバ2へ送信されやすくなる。
【0047】
[鉄道沿線地区]
鉄道沿線地区では、例えばストリーミング[No.2]、Webアクセス[No.4]、ファイルダウンロード[No.5]のアプリケーションが多い。このような下り方向のトラヒック量が多く発生するアプリケーション種別に対する無線品質条件は、TxPowerの基準が比較的緩い。結果的に、C/I及び又はRSSIの劣化に伴う無線品質が、データベースサーバ2へ送信されやすくなる。一方で、上り方向のトラヒック量が少ないために、TxPowerの劣化に伴う無線品質は、データベース2へ比較的送信されにくくなる。
【0048】
[娯楽施設地区]
娯楽施設地区では、例えばファイルアップロード[No.3](写真や動画の送信)のアプリケーションが多い。このような上り方向のトラヒック量が多く発生するアプリケーション種別に対する無線品質条件は、C/I及び又はRSSIの基準が比較的緩い。結果的に、TxPowerの劣化に伴う無線品質が、データベースサーバ2へ送信されやすくなる。一方で、下り方向のトラヒック量が少ないために、C/I及び又はRSSIの劣化に伴う無線品質は、データベース2へ比較的送信されにくくなる。
【0049】
データベースサーバ2は、地区毎に、アプリケーション種別に応じた無線品質情報及び位置を取得することができる。これによって、データベースサーバ2を運用する通信事業者は、地区毎に、無線品質が劣化したアプリケーション種別に応じて、エリア設計を改善することができる。
【0050】
判断の一例として、例えば鉄道沿線地区であってC/Iの劣化の無線品質情報の通知が多い場合、下り方向の通信環境を改善する必要がある。一方で、TxPowerの劣化の無線品質情報の通知は、比較的少ないために、上り方向の通信環境の改善優先度は低いとみなせる。
【0051】
また、判断の他の例として、例えば娯楽施設地区であってTxPowerの無線品質情報の通知が多い場合、上り方向の通信完了を改善する必要がある。一方で、C/Iの劣化の無線品質情報の通知は、比較的少ないために、下り方向の通信環境の改善優先度は低いとみなせる。
【0052】
図4は、本発明における無線端末の機能構成図である。
【0053】
図4の無線端末1によれば、無線インタフェース101と、測位部102と、ユーザインタフェース103とを有する。
【0054】
無線インタフェース101は、例えばセルラ通信機能であって、基地局3と無線を介して通信する。また、無線インタフェース101は、基地局3との間の無線品質値を検出することができる。
【0055】
測位部102は、当該無線端末における現在位置を測位する機能である。第1の方式として、GPS衛星4からの測位電波を受信することによって、現在位置を測位するGPS測位方式がある。また、第2の方式として、複数の周辺基地局から受信する電波によって、現在位置を測位する複数基地局測位方式もある。測位によって得られた位置情報は、例えば緯度・経度・高度によって表される。
【0056】
尚、実際の位置を測位する測位部を備えることなく、無線インタフェース101が、基地局3からの電波の到着時間及び到着方向を測定し、これら情報を位置情報とするものであってもよい。この場合、データベースサーバ2が、電波の到着時間及び到着方向から、当該無線端末の実際の位置を導出する機能を要する。
【0057】
ユーザインタフェース103は、ユーザに対するディスプレイ及びキー入力部であり、当該無線端末がスマートフォンである場合、タッチパネルディスプレイである。
【0058】
また、無線端末1によれば、無線品質条件テーブル111と、無線品質計測部112と、無線品質判定部113と、測位制御部114と、無線品質データ送信部115とを有する。これら機能構成部は、無線端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。
【0059】
無線品質条件テーブル111は、アプリケーション種別毎に、ユーザ体感品質に影響を与える無線品質種別及び無線品質許容閾値を対応付けて記憶する(図2参照)。無線品質条件テーブルにおける無線品質許容閾値は、当該アプリケーションを利用した場合に、ユーザ体感品質が所定のレベルを維持できる程度に低い値である。
【0060】
無線品質種別は、C/I、TxPower及び/又はRSSIであり、無線品質許容閾値は、規定時間幅に対する規定時間率の時間幅だけ、規定デシベル値よりも大きいか又は小さいかの条件を設定したものである(図2参照)。
【0061】
無線品質条件テーブル111の登録情報は、無線端末1に予め記憶されてものであってもよいし、移動通信網の設置された通信事業設備装置から無線端末によってダウンロードされたものであってもよい。この場合、無線品質条件テーブルを、通信事業者の意向に沿って更新することができる。
【0062】
無線品質計測部112は、無線品質条件テーブル111を用いて、利用中のアプリケーション種別に対応した無線品質種別の無線品質値を、基地局と通信する無線インタフェース101から計測する。計測された無線品質値は、無線品質判定部113及び無線品質データ送信部115へ出力される。
【0063】
無線品質判定部113は、無線品質計測部112によって計測された無線品質値が、無線品質条件テーブル111に記憶された無線品質許容閾値よりも劣化したか否かを判定する。判定結果が、真(無線品質許容閾値よりも劣化した)と判定された場合、その旨を測位制御部114へ出力する。
【0064】
測位制御部114は、無線品質判定部113によって真と判定された際に、現在位置を測位するべく測位部を起動する。ここで、測位制御部114は、無線品質判定部113によって真と判定された回数が連続して所定回数以上となった際に、測位部102を起動し、現在位置を測位するものであってもよい。これによって、無線品質の劣化の信頼性を高めることができる。測位された位置情報は、無線品質データ送信部115へ出力される。
【0065】
無線品質データ送信部115は、アプリケーション部110によって利用中のアプリケーション種別と、無線品質計測部112によって計測された無線品質値と、測位制御部114によって測位された現在位置とを対応付けた無線品質データを、任意の時点で、データベースサーバ2へ送信する。ここで、無線品質データ送信部115は、無線品質が良好になる時点まで、無線品質データを一時的にキャッシュしておくことも好ましい。劣化した無線リンクを用いてまで、無線品質データを直ぐに送信する必要なく、後の時点で、良好な無線リンクを用いてデータベースサーバ2へ送信すればよい。
【0066】
図5は、本発明におけるシーケンス図である。
【0067】
無線端末1は、ユーザ操作に応じて通信を伴うアプリケーションを起動している。
(S1)無線端末1は、無線品質条件テーブルを用いて、利用中のアプリケーション種別に対応した無線品質種別の無線品質値を、基地局3と通信する無線インタフェースから計測する(図4の無線品質計測部112と同様の処理)。
(S2)無線端末1は、計測された無線品質値が、無線品質条件テーブルに記憶された無線品質許容閾値よりも劣化したか否かを判定する(図4の無線品質判定部113と同様の処理)。
(S3)無線品質判定手段よって真と判定された際に、即ち無線品質が劣化したと判定された際に、測位部を用いて現在位置を測位する(図4の測位制御部114と同様の処理)。
(S4)利用中のアプリケーション種別と、劣化したと判定された無線品質値と、現在位置とを対応付けた無線品質データを、任意の時点で、データベースサーバ2へ送信する(図4の無線品質データ送信部115と同様の処理)。
【0068】
以上、詳細に説明したように、本発明の無線端末、方法及びプログラムによれば、地区毎に異なるトラヒック特性を考慮して、アプリケーションの利用におけるユーザ体感品質に基づく無線品質をデータベースサーバに収集することができる。結果的に、地区毎に異なる無線品質情報が収集される。これによって、データベースサーバを運用する通信事業者は、地区毎におけるアプリケーションの利用特性に応じて、無線品質の劣化エリアを発見することができる。
【0069】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0070】
1 無線端末
101 無線インタフェース
102 測位部
103 ユーザインタフェース
110 アプリケーション部
111 無線品質条件テーブル
112 無線品質計測部
113 無線品質判定部
114 測位制御部
115 無線品質データ送信部
2 データベースサーバ
3 基地局
4 GPS衛星

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地区毎にユーザ体感品質に基づく無線品質を収集するデータベースサーバへ、基地局との間の無線品質値を送信する無線端末であって、
アプリケーション種別毎に、ユーザ体感品質に影響を与える無線品質種別及び無線品質許容閾値を対応付けて記憶した無線品質条件テーブルと、
前記無線品質条件テーブルを用いて、利用中のアプリケーション種別に対応した無線品質種別の無線品質値を、前記基地局と通信する無線インタフェースから計測する無線品質計測手段と、
前記無線品質計測手段によって計測された無線品質値が、前記無線品質条件テーブルに記憶された無線品質許容閾値よりも劣化したか否かを判定する無線品質判定手段と、
前記無線品質判定手段よって真と判定された際に、現在位置を測位するべく測位部を起動する測位制御手段と、
利用中の前記アプリケーション種別と、前記無線品質計測手段によって計測された無線品質値と、測位された前記現在位置とを対応付けた無線品質データを、任意の時点で、前記データベースサーバへ送信する無線品質データ送信手段と
を有することを特徴とする無線端末。
【請求項2】
前記無線品質条件テーブルにおける前記無線品質許容閾値は、当該アプリケーションを利用した場合に、ユーザ体感品質が所定のレベルを維持できる程度に低い値であることを特徴とする請求項1に記載の無線端末。
【請求項3】
前記測位制御手段は、前記無線品質判定手段によって真と判定された回数が連続して所定回数以上となった際に、前記測位部を起動することを特徴とする請求項1又は2に記載の無線端末。
【請求項4】
前記無線品質種別は、C/I(Carrier-to-Interference ratio:搬送波対干渉波比)、TxPower(無線端末の送信電力レベル)、はRSSI(Received Signal Strength Indicator:受信信号強度)及び/又は遅延時間であり、
前記無線品質許容閾値は、規定時間幅に対する規定時間率の時間幅だけ、規定デシベル値よりも大きいか又は小さいかの条件を設定したものであり、
前記無線品質条件テーブルは、ネットワークに接続された通信事業者設備装置から受信したものである
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の無線端末。
【請求項5】
地区毎にユーザ体感品質に基づく無線品質を収集するデータベースサーバへ、基地局との間の無線品質値を送信する無線端末の無線品質送信方法であって、
アプリケーション種別毎に、ユーザ体感品質に影響を与える無線品質種別及び無線品質許容閾値を対応付けて記憶した無線品質条件テーブルを有し、
前記無線品質条件テーブルを用いて、利用中のアプリケーション種別に対応した無線品質種別の無線品質値を、前記基地局と通信する無線インタフェースから計測する第1のステップと、
前記無線品質計測手段によって計測された無線品質値が、前記無線品質条件テーブルに記憶された無線品質許容閾値よりも劣化したか否かを判定する第2のステップと、
前記無線品質判定手段よって真と判定された際に、現在位置を測位するべく測位部を起動する第3のステップと、
利用中の前記アプリケーション種別と、前記無線品質計測手段によって計測された無線品質値と、測位された前記現在位置とを対応付けた無線品質データを、任意の時点で、前記データベースサーバへ送信する第4のステップと
を有することを特徴とする無線品質送信方法。
【請求項6】
前記無線品質条件テーブルにおける前記無線品質許容閾値は、当該アプリケーションを利用した場合に、ユーザ体感品質が所定のレベルを維持できる程度に低い値であることを特徴とする請求項5に記載の無線品質送信方法。
【請求項7】
前記測位手段は、前記無線品質判定手段によって真と判定された回数が連続して所定回数以上となった際に、前記測位部を起動することを特徴とする請求項5又は6に記載の無線品質送信方法。
【請求項8】
前記無線品質種別は、C/I、TxPower、RSSI及び/又は遅延時間であり、
前記無線品質許容閾値は、規定時間幅に対する規定時間率の時間幅だけ、規定デシベル値よりも大きいか又は小さいかの条件を設定したものであり、
前記無線品質条件テーブルは、ネットワークに接続された通信事業者設備装置から受信したものである
ことを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の無線品質送信方法。
【請求項9】
地区毎にユーザ体感品質に基づく無線品質を収集するデータベースサーバへ、基地局との間の無線品質値を送信する無線端末に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
アプリケーション種別毎に、ユーザ体感品質に影響を与える無線品質種別及び無線品質許容閾値を対応付けて記憶した無線品質条件テーブルと、
前記無線品質条件テーブルを用いて、利用中のアプリケーション種別に対応した無線品質種別の無線品質値を、前記基地局と通信する無線インタフェースから計測する無線品質計測手段と、
前記無線品質計測手段によって計測された無線品質値が、前記無線品質条件テーブルに記憶された無線品質許容閾値よりも劣化したか否かを判定する無線品質判定手段と、
前記無線品質判定手段よって真と判定された際に、現在位置を測位するべく測位部を起動する測位制御手段と、
利用中の前記アプリケーション種別と、前記無線品質計測手段によって計測された無線品質値と、測位された前記現在位置とを対応付けた無線品質データを、任意の時点で、前記データベースサーバへ送信する無線品質データ送信手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする無線端末用のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−74449(P2013−74449A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211782(P2011−211782)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000208891)KDDI株式会社 (2,700)
【Fターム(参考)】