説明

地図データ更新装置、地図データ更新方法及び地図データ更新プログラム

【課題】地図データ更新装置において、判定時期に得られた航空機等からの計測データと、先行時期の家屋ポリゴンとを対比して家屋異動を検出する場合に、計測データから抽出したエッジや線分、家屋輪郭を家屋ポリゴンとの対比に用いると誤検出率が高くなる。
【解決手段】地図データ更新装置10の家屋位置決定部20は、DSMから抽出される家屋に応じた地上表層の凸部に基づいて判定対象領域における家屋位置を求める。新築家屋検出部22は家屋位置に対応する家屋ポリゴンが存在しないことに基づいて新築を検出する。地物高抽出部24はDSMに基づき家屋ポリゴンに対応する領域について地面からの高さである地物高を求める。既存家屋異動検出部26は当該地物高に基づいて家屋ポリゴンに存在した家屋の異動を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地図データ更新装置、地図データ更新方法及び地図データ更新プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
航空写真測量や航空レーザ計測等の空中測量技術により得られる空間情報を利用して家屋位置及び形状情報を含む地図データの更新を行う際、通常は、高分解能のトゥルーオルソ画像やDSM(Digital Surface Model:数値表層モデル)を新旧の2時期について取得し、それら2時期の画像やデータを比較して当該2時期間での家屋の異動を検出する。
【0003】
しかしながら、この手法は旧時期における空間情報が得られていない場合には家屋の異動を検出できない。この場合に対して、旧時期の空間情報に代えて既存の家屋ポリゴンデータを用いて異動検出を行う手法がある。具体的には従来は、新時期についてトゥルーオルソ画像から抽出した家屋の輪郭と旧時期の家屋ポリゴンとを対比して家屋異動を検出する。この手法では、トゥルーオルソ画像での二次元画像解析により抽出されるエッジや線分、輪郭に基づいて家屋の異動を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−117245号公報
【特許文献2】特開2007−3244号公報
【特許文献3】国際公開第2009/051258号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2009/057619号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
旧時期について家屋ポリゴンを用いる手法において、新時期に関する上述の二次元画像解析に基づくエッジや線分、輪郭の抽出は精度が十分でなく、家屋異動の誤検出率が高くなるという問題があった。この問題は、家屋が密集した地域にて顕著となる。
【0006】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、検出精度が向上した地図データ更新装置、地図データ更新方法及び地図データ更新プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る地図データ更新装置は、判定対象領域に関し取得された、数値表層モデルを含む判定時期の空間情報と、前記判定時期に先行する時期の家屋ポリゴンとから当該判定対象領域における家屋異動を検出して家屋の位置及び形状情報を含む地図データを更新するものであって、前記数値表層モデルから家屋に応じた地上表層の凸部を抽出し、当該凸部に基づいて前記判定対象領域における家屋位置を求める家屋位置決定手段と、前記家屋位置に対応する前記家屋ポリゴンが存在しないことに基づいて、当該家屋位置における家屋の新築を検出する新築家屋検出手段と、前記数値表層モデルに基づき前記家屋ポリゴンに対応する領域について地面からの高さである地物高を求める地物高抽出手段と、前記家屋ポリゴンに関する前記地物高に基づいて当該家屋ポリゴンに存在した家屋の異動を検出する既存家屋異動検出手段と、を有する。
【0008】
他の本発明に係る地図データ更新装置においては、前記既存家屋異動検出手段は、前記地物高の前記家屋ポリゴンに対応する領域内での最小値が家屋高さの閾値未満であることに基づいて、当該家屋ポリゴンに存在した家屋の異動を検出する。
【0009】
また他の本発明に係る地図データ更新装置においては、前記地物高抽出手段は、前記家屋ポリゴンからその周に沿って配置された内縁領域を除いた内部領域について前記地物高を求める。
【0010】
別の本発明に係る地図データ更新装置においては、前記地物高抽出手段は、前記家屋ポリゴンの周に沿って配置された外縁領域内にて前記数値表層モデルが表す高さの最小値に基づいて前記地面の高さを定め、当該地面の高さを用いて前記地物高を求める。
【0011】
また別の本発明に係る地図データ更新装置においては、前記地物高抽出手段は、前記地面の高さを求める目的家屋ポリゴンが、前記外縁領域に重複を有することにより連鎖する家屋ポリゴン群を構成するものの一つである場合に、当該家屋ポリゴン群の前記外縁領域の全体内での前記最小値を前記目的家屋ポリゴンの前記地面の高さとする。
【0012】
他の本発明に係る地図データ更新装置においては、前記空間情報はオルソ画像を含み、前記家屋位置決定手段は、前記オルソ画像から、前記凸部に対応する家屋領域の形状を抽出する。
【0013】
また他の本発明に係る地図データ更新装置においては、前記家屋位置決定手段により決定された前記家屋位置に対応する前記家屋ポリゴンと、当該家屋位置の前記家屋領域との非重複部分の有無に基づいて、当該家屋ポリゴンに存在した家屋の異動を検出する家屋領域異動検出手段を有する。
【0014】
本発明に係る地図データ更新方法は、判定対象領域に関し取得された、数値表層モデルを含む判定時期の空間情報と、前記判定時期に先行する時期の家屋ポリゴンとから当該判定対象領域における家屋異動を検出して家屋の位置及び形状情報を含む地図データを更新する方法であって、前記数値表層モデルから家屋に応じた地上表層の凸部を抽出し、当該凸部に基づいて前記判定対象領域における家屋位置を求める家屋位置決定ステップと、前記家屋位置に対応する前記家屋ポリゴンが存在しないことに基づいて、当該家屋位置における家屋の新築を検出する新築家屋検出ステップと、前記数値表層モデルに基づき前記家屋ポリゴンに対応する領域について地面からの高さである地物高を求める地物高抽出ステップと、前記家屋ポリゴンに関する前記地物高に基づいて当該家屋ポリゴンに存在した家屋の異動を検出する既存家屋異動検出ステップと、を有する。
【0015】
本発明に係る地図データ更新プログラムは、コンピュータを、判定対象領域に関し取得された、数値表層モデルを含む判定時期の空間情報と、前記判定時期に先行する時期の家屋ポリゴンとから当該判定対象領域における家屋異動を検出して家屋の位置及び形状情報を含む地図データを更新する地図データ更新装置として機能させるためのプログラムであって、前記数値表層モデルから家屋に応じた地上表層の凸部を抽出し、当該凸部に基づいて前記判定対象領域における家屋位置を求める家屋位置決定手段と、前記家屋位置に対応する前記家屋ポリゴンが存在しないことに基づいて、当該家屋位置における家屋の新築を検出する新築家屋検出手段と、前記数値表層モデルに基づき前記家屋ポリゴンに対応する領域について地面からの高さである地物高を求める地物高抽出手段と、前記家屋ポリゴンに関する前記地物高に基づいて当該家屋ポリゴンに存在した家屋の異動を検出する既存家屋異動検出手段と、をコンピュータに実現させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、家屋ポリゴンを用いた異動検出において、DSMに現れる凸部に基づいて家屋に対応する家屋オブジェクトを抽出して家屋新築の検出が行われる一方、DSMから得られる地物高に基づいて既存家屋の異動が検出され、これら異なる検出方式の組み合わせにより異動検出精度が向上する。また、既存家屋の異動を、家屋高さの変化の観点から検出することにより、家屋ポリゴンとの二次元的な対比による検出における問題を回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る地図データ更新装置の概略のブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る地図データ更新装置の概略の処理の流れを説明する模式図である。
【図3】地物高抽出部の地面の高さ推定処理を説明する模式図である。
【図4】家屋密集地での地物高抽出部の地面の高さ推定処理を説明する模式図である。
【図5】地物高抽出部のポリゴン内高さ取得処理を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)について、図面に基づいて説明する。
【0019】
図1は、実施形態に係る地図データ更新装置10の概略のブロック図である。地図データ更新装置10は、処理部12、表示部14、記憶部16及び操作部18を含んで構成され、判定対象領域に関し取得された空間情報に基づいて家屋異動を検出して家屋の位置及び形状情報を含む地図データを更新する。
【0020】
処理部12は、家屋位置決定部20、新築家屋検出部22、地物高抽出部24、既存家屋異動検出部26及び家屋領域異動検出部28を含んで構成される。例えば、地図データ更新装置10は、コンピュータを用いて構成することができ、そのCPUが処理部12を構成し、家屋位置決定部20、新築家屋検出部22、地物高抽出部24、既存家屋異動検出部26及び家屋領域異動検出部28は当該CPUにより実行されるプログラムによって実現できる。なお、地図データ更新装置10は、家屋領域異動検出部28を省略した構成とすることもできる。
【0021】
記憶部16は、コンピュータに内蔵されるROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスクなどの記憶装置である。記憶部16は、家屋位置決定部20、新築家屋検出部22、地物高抽出部24、既存家屋異動検出部26及び家屋領域異動検出部28の処理プログラムを含む各種プログラムや各種データを記憶し、処理部12との間でこれらの情報を入出力する。また、記憶部16は処理部12が実行する処理で生成される各種の出力ファイルを記憶する。
【0022】
表示部14は液晶モニタ等の画像表示装置であり、操作部18はキーボードやマウスなどで構成される。
【0023】
地図データ更新装置10は、判定時期における判定対象領域の空間情報と、判定時期に先行する時期における判定対象領域の家屋ポリゴンデータとから、両時期間での家屋の異動を検出する。地図データ更新装置10は空間情報として、トゥルーオルソ画像及びDSMを用いる。これら空間情報は、航空写真等の地上の高分解能画像データ及び航空レーザ計測データから生成される。地図データ更新装置10は観測データからトゥルーオルソ画像やDSMを生成する処理を行うように構成することもできるし、観測データを事前に処理して生成されたトゥルーオルソ画像及びDSMを入力可能に構成することもできる。空間情報は判定時期に実施される航空計測等により取得されるが、家屋ポリゴンテータは予め作成されている既存データである。
【0024】
家屋位置決定部20は、判定対象領域の空間情報に基づいて個々の家屋に対応する家屋オブジェクトを抽出する。具体的には、家屋位置決定部20は、判定時期において判定対象領域に存在する家屋の位置及び形状の情報を有する家屋オブジェクトを定義する。
【0025】
新築家屋検出部22は、判定時期に存在する家屋オブジェクトの位置(家屋位置)に、先行時期において家屋ポリゴンが存在するかを調べる。そして、当該家屋位置に家屋ポリゴンが存在しない場合、家屋異動事象として当該家屋位置における家屋の新築を検出する。
【0026】
地物高抽出部24は、DSMに基づき家屋ポリゴンに対応する領域について地面からの高さである地物高を求める。地物高抽出部24は、家屋ポリゴンごとに地面の高さを推定する処理と、家屋ポリゴン内の高さを取得する処理とを行い、そして、家屋ポリゴン内の高さから地面の高さを減算する。これにより、判定時期において家屋ポリゴン内に存在する地物の高さ(地物高)が得られる。地物高抽出部24の処理については後にさらに詳しく説明する。
【0027】
既存家屋異動検出部26は、家屋ポリゴンに対応して求められた地物高に基づいて当該先行時期において家屋ポリゴンに存在した家屋の異動を検出する。例えば、家屋であれば有するであろう高さを家屋高さの閾値として設定する。例えば、家屋高さの閾値は2〜3m程度とすることができる。家屋が存在する先行時期においては家屋ポリゴン内の地物高は家屋高さの閾値以上である。よって、判定時期に家屋ポリゴンに対応する領域内にて地物高が家屋高さの閾値未満となる部分が生じていれば、そのことに基づいて当該家屋ポリゴンに存在した家屋の異動として滅失や建て替えを検出することができる。具体的には、既存家屋異動検出部26は、地物高抽出部24が求めた地物高の家屋ポリゴンに対応する領域内での最小値が家屋高さの閾値未満であることに基づいて家屋の異動を検出する。
【0028】
家屋領域異動検出部28は、家屋オブジェクトの位置・形状で定義される領域と、当該家屋オブジェクトに対応する位置の家屋ポリゴンとの非重複部分の有無に基づいて、当該家屋ポリゴンに存在した家屋の異動を検出する。
【0029】
図2は、地図データ更新装置10の概略の処理の流れを説明する模式図である。家屋位置決定部20は、記憶部16に格納された空間情報計測データ40に基づいて、それに含まれる航空写真や衛星画像をオルソ補正してトゥルーオルソ画像を生成する(S42)。また空間情報計測データ40に含まれる画像データや航空レーザ計測データに基づいてDSMを生成する(S42)。生成されたトゥルーオルソ画像及びDSMは記憶部16のオルソ画像・DSMファイル44に格納される。
【0030】
家屋位置決定部20はオルソ画像・DSMファイル44に格納したトゥルーオルソ画像及びDSMから家屋領域の位置及び形状(これらを総称して「家屋オブジェクト」という)を抽出する(S46)。抽出された家屋オブジェクトは家屋オブジェクトファイル48に格納される。なお、DSMの精密度が十分に得られる場合には、DSMのみを用いて家屋形状も含めた家屋オブジェクトを求めることも可能である。
【0031】
新築家屋検出部22は家屋オブジェクトファイル48から家屋位置を順番に読み出し、当該家屋位置に対応する位置に存在する家屋ポリゴンが家屋ポリゴンデータ50に存在するかを探索する。そして当該家屋位置に家屋ポリゴンが存在しない場合、家屋異動事象として当該家屋位置における家屋の新築を検出し、当該家屋異動を検出結果ファイル54に記録する。
【0032】
地物高抽出部24は、オルソ画像・DSMファイル44に格納されているDSMを用いて、家屋ポリゴンデータ50に格納される家屋ポリゴンごとに、当該家屋ポリゴンの位置での家屋の高さの基準となる地面の高さHgを推定する(S56)。図3は、地物高抽出部24の地面の高さ推定処理S56を説明する模式図である。図3には地面の高さの推定対象である家屋ポリゴン100が示されている。地物高抽出部24は、この家屋ポリゴン100に対応する領域での地面の高さを推定するために、家屋ポリゴン100の周に沿って外周バッファ領域(外縁領域)102を設定する。
【0033】
外周バッファ領域102の内側の境界は家屋ポリゴン100の周に一致し、外側の境界は家屋ポリゴン100の周から所定距離離れた位置に設定される。これにより家屋ポリゴン100を取り囲む帯状の外周バッファ領域102が設定される。当該帯の幅は、例えば生成されたDSMの精密度に応じて、例えば家屋異動検出率が最も高くなるよう、事後的に定めることができる。一方、家屋ポリゴン100から離れすぎた位置は家屋ポリゴン100に対応する領域での高さからずれる可能性があるので、外周バッファ領域102の幅の設定にはこの点に配慮することが好ましい。具体的には、家屋ポリゴン100の位置が山間部のように傾斜が予想される地域であれば、平地の場合よりも幅を小さくするといった配慮が可能である。例えば、外周バッファ領域102の幅は2〜5m程度に設定し、これを閾値とすることができる。
【0034】
地物高抽出部24は、外周バッファ領域102内にてDSMが与える高さデータのうち最小値を求め、基本的には当該最小値を家屋ポリゴン100に対応する領域での地面の高さHgと定める。
【0035】
一方、外周バッファ領域102での高さの最小値が単純に目的とする家屋ポリゴン100での地面高さとして設定されない場合もある。具体的には、目的とする家屋ポリゴン100が家屋密集地に存在する場合である。図4は、この家屋密集地での地物高抽出部24の地面の高さ推定処理S56を説明する模式図である。図4は、目的家屋ポリゴン100に接近して他の家屋ポリゴン104が存在する様子を示す平面図である。同図では、家屋ポリゴン100の外周バッファ領域102の外側境界を点線で示し、他の家屋ポリゴンの外周バッファ領域は図示を省略している。例えば、家屋同士が接近して目的家屋ポリゴン100の外周バッファ領域102が隣接する家屋ポリゴン104に重なる場合、生成したDSMの精密度等に起因して地面の高さHgが得られず、隣接する家屋での高さが最小値となることが起こり得る。実際には、家屋ポリゴンの周の内外でのDSMによる高さ変化は、生成したDSMの精密度等に起因して家屋の実際の高さ変化よりもなだらかになり、その影響で外周バッファ領域102が隣接家屋ポリゴン104に重複しなくても上述の最小値の誤差は発生し得る。
【0036】
これに対応して地物高抽出部24は、目的家屋ポリゴン100が、外周バッファ領域102に重複を有することにより連鎖する家屋ポリゴン群を構成するものの一つである場合に、当該家屋ポリゴン群の外周バッファ領域102の全体内でのDSMの高さの最小値を目的家屋ポリゴン100の地面の高さHgとして定める。家屋ポリゴン群を構成する家屋ポリゴンは、目的家屋ポリゴンP(0)、当該家屋ポリゴンP(0)の外周バッファ領域と重複する外周バッファ領域を有する家屋ポリゴンP(1)、及び家屋ポリゴンP(k)(kは自然数)の外周バッファ領域と重複する外周バッファ領域を有する家屋ポリゴンP(k+1)とする。図4においては、家屋ポリゴン100がP(0)であり、これに隣接する家屋ポリゴン104がP(1)、また家屋ポリゴン106がP(2)であり、10個の家屋ポリゴン100,104,106が家屋ポリゴン群110を構成する。地物高抽出部24は家屋ポリゴン群110を求めると、それを構成する各家屋ポリゴンの外周バッファ領域102での高さの最小値を求め、さらに家屋ポリゴンごとの当該最小値を比較して、それらの最小値を目的家屋ポリゴン100に対応する領域での地面の高さの推定値Hgとする。
【0037】
なお、地物高抽出部24は、外部データとして地形データを利用できる場合には、これを用いて家屋ポリゴン100に対応する領域での地面の高さHgを求めてもよい。また、DSMを処理してDTM(Digital Terrain Model:数値地形モデル)を求め、当該DTMにより家屋ポリゴン100に対応する領域での地面の高さHgを定めてもよい。
【0038】
地物高抽出部24は上述のように家屋ポリゴンデータ50に格納される家屋ポリゴンごとに地面の高さHgを求める一方、オルソ画像・DSMファイル44に格納されているDSMを用い、当該家屋ポリゴンに対応する領域内にて地物を含む標高の代表値(ポリゴン内高さHp)を取得する(S58)。図5は、地物高抽出部24のポリゴン内高さ取得処理S58を説明する模式図である。図5にはポリゴン内高さの取得対象領域とする家屋ポリゴン100が示されている。地物高抽出部24は、家屋ポリゴン100からその周に沿って配置された帯状の内周バッファ領域(内縁領域)120を除いた内部領域122内のDSMに基づいてポリゴン内高さを求める。内周バッファ領域120を除く理由は、一つには、家屋ポリゴンデータとDSMとの間に生じ得る位置ずれの影響を避けるためである。もう一つの理由は、上述したように家屋が密集した地域では、家屋の境界近傍において生成したDSMの精密度により家屋の実際の高さとDSMによる高さとの間のずれが大きくなるおそれがあり、この部分を内周バッファ領域120として除外することにより異動検出精度の低下を防止するためである。
【0039】
内周バッファ領域120の外側の境界は家屋ポリゴン100の周に一致し、内側の境界は家屋ポリゴン100の周から所定距離離れた位置に設定される。内周バッファ領域120の幅Wは生成したDSMの精密度に応じて定めることができる。幅Wは各家屋ポリゴンに共通の固定値に設定することができる。また幅Wは、家屋ポリゴン100の大きさに比例係数κを乗じて求めてもよい。これにより、家屋ポリゴン100が小さい場合でも内部領域122が確保される。例えば、家屋ポリゴン100の大きさは、互いに直交する2方向に関する家屋ポリゴン100の寸法とし、それら寸法に比例係数κを乗じて、当該各方向における幅Wを設定することができる。これにより、家屋ポリゴン100が例えば細長い形状であるような場合でも、内部領域122が確保される。
【0040】
地物高抽出部24は内部領域122におけるDSMの高さの最小値を求め、これをポリゴン内高さHpとする。そして、このポリゴン内高さHpから地面の高さHgを減算し、得られた値(Hp−Hg)を家屋ポリゴン100に存在する地物の高さ(地物高Ho)と定める(S60)。
【0041】
既存家屋異動検出部26は、地物高算出処理S60で得られた地物高Hoを家屋高さの閾値と比較する。Hoが当該閾値未満であれば、内部領域122に家屋が存在しない領域があると考えられ、既存家屋異動検出部26は、家屋ポリゴン100に存在した家屋に異動事象が発生したと判断する(S62)。具体的には、このような異動事象として家屋の滅失や建て替えがある。既存家屋異動検出部26は検出した家屋異動を検出結果ファイル64に記録する。
【0042】
家屋領域異動検出部28は家屋ポリゴンデータ50から順次、処理対象とする家屋ポリゴンを選択し、当該家屋ポリゴンに対応する家屋位置を有する家屋オブジェクトを家屋オブジェクトファイル48から読み出す。そして、それら家屋ポリゴンと家屋オブジェクトとの領域対比処理を行う(S66)。領域対比処理S66では、上述した家屋ポリゴンと家屋オブジェクトの領域との非重複部分の有無が調べられる。
【0043】
非重複部分の有無は、当該家屋ポリゴンと当該家屋オブジェクトとの非重複部分の面積が家屋ポリゴン(又は家屋オブジェクト)の面積に占める割合Rを閾値と比較して判定することができる。例えば、家屋オブジェクトの面積をSo、家屋ポリゴンの面積をSp、両者の重複領域の面積をC、また家屋オブジェクトの非重複領域をDo(≡So−C)、家屋ポリゴンの非重複領域をDp(≡Sp−C)と表すと、割合Rとして家屋ポリゴンを基準とした割合Rpと、家屋オブジェクトを基準とした割合Roとを考えることができ、それぞれ次式
Rp=Dp/Sp,Ro=Do/So
で算出される。
【0044】
家屋領域異動検出部28は割合Rp,Roを閾値Thと比較して、例えばRp>Th又はRo>Thであれば家屋異動を検出する(S68)。家屋領域異動検出部28は検出した家屋異動を検出結果ファイル70に記録する。
【0045】
閾値Thは面積So,Spの精度を考慮して設定される。仮に、それら面積の精度が十分に高ければThは基本的に0に設定することができる。しかし、実際には、特に家屋オブジェクトの形状・面積の決定精度が現状ではそれほど高くないため、当該精度及び、誤検出と検出漏れとのトレードオフを考慮して0より大きいThが設定される。
【0046】
また、Rp≦Thは家屋ポリゴンの全体が家屋オブジェクトに含まれ、Ro≦Thは家屋オブジェクトの全体が家屋ポリゴンに含まれると推定される。異動検出処理S68では例えば、Rp≦ThかつRo>Thの場合は家屋を拡張する建て替えと判断でき、逆にRo≦ThかつRp>Thの場合は家屋を縮小する建て替えと判断できる。
【0047】
なお、先に説明した既存家屋異動検出部26においては、地物高Hoが家屋高さの閾値以上であれば家屋ポリゴン100全体に家屋が存在すると推定され、この場合、先行時期の家屋ポリゴン100に存在した家屋がそのまま判定時期にも存在している可能性があるため、異動検出処理S62では家屋異動を検出しない。しかし、この場合には家屋を拡張する建て替えが行われている可能性もある。家屋領域異動検出部28は、この家屋を拡張する建て替えを検出し得る。
【0048】
地図データ更新装置10は、新築家屋検出部22、既存家屋異動検出部26及び家屋領域異動検出部28がそれぞれ出力した検出結果ファイル54,64,70を統合して地図データの更新情報として家屋異動情報を生成・出力する(S72)。例えば、地図データ更新装置10は家屋異動情報を表示部14に出力する。
【0049】
なお、家屋異動には、階数を増やす増築、階数を減らす減築も存在する。上述の実施形態では先行時期の家屋の情報として二次元情報である家屋ポリゴンデータ50を用いるため、先行時期に家屋が存在すること、すなわち家屋の高さに関しては一階建て以上であるとの情報しか与えられない。そのため、階数の増築・減築を検出することが困難である。この点、先行時期の家屋ポリゴンに対応する家屋の高さの情報として例えば、建物登記簿に記載される家屋の階数などを利用して増築・減築を検出する構成とすることもできる。具体的には、各家屋ポリゴンに対応する家屋の階数を例えば、家屋ポリゴンデータ50の家屋ポリゴン100の属性の一つとして格納しておき、既存家屋異動検出部26は、地物高Hoに対する家屋高さの閾値を家屋の階数に応じて異なる値に設定し、閾値判定を行う。
【符号の説明】
【0050】
10 地図データ更新装置、12 処理部、14 表示部、16 記憶部、18 操作部、20 家屋位置決定部、22 新築家屋検出部、24 地物高抽出部、26 既存家屋異動検出部、28 家屋領域異動検出部、40 空間情報計測データ、44 オルソ画像・DSMファイル、48 家屋オブジェクトファイル、50 家屋ポリゴンデータ、54,64,70 検出結果ファイル、100,104,106 家屋ポリゴン、102 外周バッファ領域、110 家屋ポリゴン群、120 内周バッファ領域、122 内部領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
判定対象領域に関し取得された、数値表層モデルを含む判定時期の空間情報と、前記判定時期に先行する時期の家屋ポリゴンとから当該判定対象領域における家屋異動を検出して家屋の位置及び形状情報を含む地図データを更新する地図データ更新装置であって、
前記数値表層モデルから家屋に応じた地上表層の凸部を抽出し、当該凸部に基づいて前記判定対象領域における家屋位置を求める家屋位置決定手段と、
前記家屋位置に対応する前記家屋ポリゴンが存在しないことに基づいて、当該家屋位置における家屋の新築を検出する新築家屋検出手段と、
前記数値表層モデルに基づき前記家屋ポリゴンに対応する領域について地面からの高さである地物高を求める地物高抽出手段と、
前記家屋ポリゴンに関する前記地物高に基づいて当該家屋ポリゴンに存在した家屋の異動を検出する既存家屋異動検出手段と、
を有することを特徴とする地図データ更新装置。
【請求項2】
請求項1に記載の地図データ更新装置において、
前記既存家屋異動検出手段は、前記地物高の前記家屋ポリゴンに対応する領域内での最小値が家屋高さの閾値未満であることに基づいて、当該家屋ポリゴンに存在した家屋の異動を検出すること、を特徴とする地図データ更新装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の地図データ更新装置において、
前記地物高抽出手段は、前記家屋ポリゴンからその周に沿って配置された内縁領域を除いた内部領域について前記地物高を求めること、を特徴とする地図データ更新装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の地図データ更新装置において、
前記地物高抽出手段は、前記家屋ポリゴンの周に沿って配置された外縁領域内にて前記数値表層モデルが表す高さの最小値に基づいて前記地面の高さを定め、当該地面の高さを用いて前記地物高を求めること、を特徴とする地図データ更新装置。
【請求項5】
請求項4に記載の地図データ更新装置において、
前記地物高抽出手段は、前記地面の高さを求める目的家屋ポリゴンが、前記外縁領域に重複を有することにより連鎖する家屋ポリゴン群を構成するものの一つである場合に、当該家屋ポリゴン群の前記外縁領域の全体内での前記最小値を前記目的家屋ポリゴンの前記地面の高さとすること、を特徴とする地図データ更新装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の地図データ更新装置において、
前記空間情報はオルソ画像を含み、
前記家屋位置決定手段は、前記オルソ画像から、前記凸部に対応する家屋領域の形状を抽出すること、
を特徴とする地図データ更新装置。
【請求項7】
請求項6に記載の地図データ更新装置において、
前記家屋位置決定手段により決定された前記家屋位置に対応する前記家屋ポリゴンと、当該家屋位置の前記家屋領域との非重複部分の有無に基づいて、当該家屋ポリゴンに存在した家屋の異動を検出する家屋領域異動検出手段を有すること、を特徴とする地図データ更新装置。
【請求項8】
判定対象領域に関し取得された、数値表層モデルを含む判定時期の空間情報と、前記判定時期に先行する時期の家屋ポリゴンとから当該判定対象領域における家屋異動を検出して家屋の位置及び形状情報を含む地図データを更新する地図データ更新方法であって、
前記数値表層モデルから家屋に応じた地上表層の凸部を抽出し、当該凸部に基づいて前記判定対象領域における家屋位置を求める家屋位置決定ステップと、
前記家屋位置に対応する前記家屋ポリゴンが存在しないことに基づいて、当該家屋位置における家屋の新築を検出する新築家屋検出ステップと、
前記数値表層モデルに基づき前記家屋ポリゴンに対応する領域について地面からの高さである地物高を求める地物高抽出ステップと、
前記家屋ポリゴンに関する前記地物高に基づいて当該家屋ポリゴンに存在した家屋の異動を検出する既存家屋異動検出ステップと、
を有することを特徴とする地図データ更新方法。
【請求項9】
コンピュータを、判定対象領域に関し取得された、数値表層モデルを含む判定時期の空間情報と、前記判定時期に先行する時期の家屋ポリゴンとから当該判定対象領域における家屋異動を検出して家屋の位置及び形状情報を含む地図データを更新する地図データ更新装置として機能させるためのプログラムであって、
前記数値表層モデルから家屋に応じた地上表層の凸部を抽出し、当該凸部に基づいて前記判定対象領域における家屋位置を求める家屋位置決定手段と、
前記家屋位置に対応する前記家屋ポリゴンが存在しないことに基づいて、当該家屋位置における家屋の新築を検出する新築家屋検出手段と、
前記数値表層モデルに基づき前記家屋ポリゴンに対応する領域について地面からの高さである地物高を求める地物高抽出手段と、
前記家屋ポリゴンに関する前記地物高に基づいて当該家屋ポリゴンに存在した家屋の異動を検出する既存家屋異動検出手段と、
をコンピュータに実現させるための地図データ更新プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−141512(P2012−141512A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−814(P2011−814)
【出願日】平成23年1月5日(2011.1.5)
【出願人】(000135771)株式会社パスコ (102)
【Fターム(参考)】