説明

地域防犯システムの制御方法

【課題】 地域防犯システムの本来の機能を低下させることなく安定性及び信頼性を確保しつつ、子機の全台数を任意に増加可能にし、もって柔軟性かつ発展性のあるシステム運用を可能にする。
【解決手段】 任意の中継器3又は親機4が一定台数Nx以上の子機2…から受信することに基づいて設定した所定の規制開始条件を満たしたなら通常モードに代えて規制モードを実行し、かつ予め設定した所定の規制解除条件を満たしたなら規制モードを解除するとともに、規制モードでは、規制開始条件を満たした中継器3又は親機4から、規制モードであることを示す所定の規制信号(Cc…,Ccs)を所定の時間間隔Tcで発信し、他方、子機2…は規制信号(Cc…,Ccs)を受信したなら送信を休止する送信休止モードに切換え、かつ規制モードの解除に基づいて送信休止モードを解除する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アドホックネットワークシステムを利用することにより登下校中の児童等に対する防犯を確保する際に用いて好適な地域防犯システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、登下校中の児童が不審者により誘拐されるなどの事件が増加する傾向にあることから、児童の安全を如何に確保するかが重要な課題となっており、その有効な対策が要請されている。
【0003】
従来、このような要請に対応したシステムとしては、特許文献1に開示される地域防犯システムが知られている。この地域防犯システムは、児童または園児を確認対象者として、固有のタグIDを記憶した無線タグを有する無線タグ付名札と、所定のエリアに複数配置される監視装置と、複数配置される監視装置とはネットワークを介して接続される管理装置とにより、無線タグ付名札を所持した確認対象者の所在を確認する地域防犯システムを構成するとともに、特に、無線タグ付名札の無線タグは、他の無線タグ付名札とアドホック通信するアドホック通信部と、電源部とをさらに有し、監視装置は、周囲に所定の強度の電波を発信し、それに応答して無線タグが送信するタグIDを受信する無線送受信部と、ネットワークを介して管理装置に受信したタグIDを所定のタイミングで通知するタグID通信部とを有し、管理装置は、ネットワークを介して所定の監視装置と通信してタグIDを取得するタグID取得部と、所定の記憶部に登録されている確認対象者のタグIDと受信したタグIDとを比較して確認対象者の所在を確認する確認部とを有し、無線タグ付名札の無線タグは、監視装置の無線送受信部と通信を行うときに、アドホック通信によって1以上の他の無線タグを介して通信するように構成したものである。
【特許文献1】特開2007−42009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アドホックネットワークシステムを利用した従来の地域防犯システムでは、通常、子機の発呼時に、キャリアセンスを実行し、他のキャリアの有無を確認している。そして、他のキャリアが無いときに、乱数により発生するランダム待時間を経て送信を実行し、待機している複数の子機同士間のコリジョンの発生を回避している。この場合、子機同士が隠れ関係にあれば、互いのキャリアが見えないため、コリジョンの発生を許してしまうが、子機同士が晒し関係にあれば、本来、コリジョンは発生しないか或いは発生しても無視できる僅かな回数となる。
【0005】
しかし、子機の台数が増加する状況、具体的には、子機が集まって来る親機の付近では、子機同士が晒し関係にあっても子機と中継器間のコリジョンが増加する傾向が認められ、このコリジョンの増加は、パケットの破棄数(破棄率)の増加、更には地域防犯システムの安定性及び信頼性の低下を招く。したがって、既設の地域防犯システムでは、子機の台数を増やすことには限界があり、柔軟性かつ発展性のあるシステム運用ができないという解決すべき課題が存在した。
【0006】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した地域防犯システムの制御方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る地域防犯システムの制御方法は、上述した課題を解決するため、無線IDタグを設けた無線通信部2t…を有し、かつ複数の防犯対象者H…がそれぞれ携帯可能な複数の子機2…と、無線IDタグを設けたアドホック通信部3t…を有し、かつ所定の地域Ac内における複数の異なる所定場所にそれぞれ設置した複数の中継器3…と、アドホック通信部4tを有する少なくとも一台の親機4と、親機4に接続したサーバコンピュータ6を備える地域防犯システム1において、任意の中継器3又は親機4が一定台数Nx以上の子機2…から受信することに基づいて設定した所定の規制開始条件を満たしたなら通常モードに代えて規制モードを実行し、かつ予め設定した所定の規制解除条件を満たしたなら規制モードを解除するとともに、規制モードでは、規制開始条件を満たした中継器3又は親機4から、規制モードであることを示す所定の規制信号(Cc…,Ccs)を所定の時間間隔Tc…で発信し、他方、子機2…は規制信号(Cc…,Ccs)を受信したなら送信を休止する送信休止モードに切換え、かつ規制モードの解除に基づいて送信休止モードを解除するようにしたことを特徴とする。
【0008】
この場合、発明の好適な態様により、通常モードでは、子機2…は少なくとも一定時間Tt間隔おきに定期通報信号Dtを送信することができる。一方、任意の中継器3又は親機4は、一定時間Tw内における子機2…から受信する定期通報信号Dt…の回数をカウントし、カウントした受信回数Nrが予め設定した設定回数Nrs以上であることを規制開始条件として規制モードに切換えることができる。この際、規制モードに切換えた後、一定期間Teが経過することを規制解除条件として規制モードを解除することができる。他方、任意の中継器3又は親機4は、一定台数Nx以上の子機2…から受信する可能性に基づいて予め規制モードに固定し、子機2が規制モードに固定された中継器3又は親機4の所定通信エリアKiに入ることを規制開始条件として規制モードを実行することもできる。この際、規制モードに固定された中継器3又は親機4の所定通信エリアKoから子機2が出ることを規制解除条件として規制モードを解除することができる。なお、本発明に係る地域防犯システム1は、地域Acとして、少なくとも通学エリアに適用することができる。
【発明の効果】
【0009】
このような手法による本発明に係る地域防犯システム1の制御方法によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0010】
(1) 規制モードを設け、この規制モードでは、規制開始条件を満たした中継器3又は親機4から、規制モードであることを示す所定の規制信号(Cc…,Ccs)を所定の時間間隔Tc…で発信し、他方、子機2…は規制信号(Cc…,Ccs)を受信したなら送信を休止する送信休止モードに切換え、かつ規制モードの解除に基づいて送信休止モードを解除するようにしたため、地域防犯システム1の本来の機能を低下させることなく安定性及び信頼性を確保しつつ、子機2…の全台数を任意に増加させることができる。したがって、柔軟性かつ発展性のあるシステム運用が可能になり、特に通学エリア等に適用して最適となる。
【0011】
(2) 好適な態様により、任意の中継器3又は親機4において、一定時間Tw内における子機2…から受信する定期通報信号Dt…の回数をカウントし、カウントした受信回数Nrが予め設定した設定回数Nrs以上であることを規制開始条件として規制モードに切換えるようにすれば、少なくとも任意の中継器3又は親機4を規制モードに切換えることができるため、例えば、小学校のイベント(遠足や社会見学等)で、子機2…が所定のエリアに一時的に集中するような場合であっても柔軟かつ的確に対応することができる。したがって、地域防犯システム1の安定性及び信頼性を確保する上でより最適化を図ることができる。
【0012】
(3) 好適な態様により、規制モードに切換えた後、一定期間Teが経過することを規制解除条件として規制モードを解除するようにすれば、通常モードから規制モードに切換えた際における通常モードへの復帰を確実かつ的確に行うことができる。
【0013】
(4) 好適な態様により、一定台数Nx以上の子機2…から受信する可能性に基づいて任意の中継器3又は親機4を予め規制モードに固定し、この規制モードに固定された任意の中継器3又は親機4の所定通信エリアKiに子機2が入ることを規制開始条件とすれば、例えば、小学校に設置する親機4は、少なくとも所定の時刻の間では、一定台数Nx以上の子機2…から受信する可能性が高いため、この親機4を、予め規制モードに固定することができる。したがって、規制モードに切換え又は解除するための監視や制御が不要になるため、地域防犯システム1の安定性及び信頼性を確保しつつ地域防犯システム1の制御上の簡略化を図ることができる。
【0014】
(5) 好適な態様により、規制モードに固定された任意の中継器3又は親機4の所定通信エリアKoから子機2が出ることを規制解除条件として規制モードを解除するようにすれば、規制モードに固定された任意の中継器3又は親機4が設置された場合であっても、これらの任意の中継器3又は親機4から離れることによって通常モードへの移行を確実かつ的確に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明に係る最良の実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0016】
まず、本実施形態に係る地域防犯システム1の制御方法の理解を容易にするため、地域防犯システム1全体の概要について、図4〜図7を参照して説明する。
【0017】
最初に、地域防犯システム1における全体のシステム構成(システム系統)について説明する。図4は、同システム1の全体系統を示す。Acは、地域防犯システム1を適用する所定の地域であり、例示は小学生の通学エリアを示すとともに、H…は通学路Rに沿って通学する児童(防犯対象者)を示している。また、C…は児童H…が背負っているランドセルであり、図5(a)に、このランドセルCを拡大して示す。図5(a)に示すように、ランドセルCの側面Csには、防水性が確保された子機ケース11を吊るし、この子機ケース11の中に、携帯する子機(端末)2を収容する。子機2は、図5(b)に示すように、矩形型に形成した偏平なハウジング12を有し、このハウジング12の表面には、非常ボタン13と、カバー14により覆った電池収容部を有する。さらに、ハウジング12の内部には、図6(a)に示す電気系回路15を収容する。子機2の電気系回路15は、CPU16,メモリ17及び処理プログラム(プログラムメモリ)Psを含むマイクロコンピュータ機能部を備えるとともに、電池19を内蔵する。また、CPU16には、上述した非常ボタン13及び振動センサ20を接続するとともに、無線IDタグを設けた無線通信部2tを接続する。なお、21は送受信用アンテナであり、上述したハウジング12の上端部に内蔵している。
【0018】
一方、地域(通学エリア)Ac内における複数の異なる所定場所、即ち、通学路Rの途中における異なる複数の場所には、それぞれ中継器3…を設置する。中継器3…は通学路Rに面した地上高4〜5〔m〕の位置を選定する。図5(c)は、カーブミラーMのポールMpの上部に固定金具30…を介して支持ステー31の下部を固定し、この支持ステー31の上端部に中継器3を取付けた場合を示す。図5(c)は、カーブミラーMを利用して設置した場合を示すが、その他、電柱や街灯等の各種公共物等を利用して設置することができる。中継器3は、防水性の中継器ボックス32を備え、この中継器ボックス32の上端面上に太陽電池33及び送受信用アンテナ34を配設する。また、中継器ボックス32の内部には、図6(b)に電気系回路35を収容する。中継器3の電気系回路35は、CPU36,メモリ37及び処理プログラム(プログラムメモリ)Psrを含むマイクロコンピュータ機能部を備えるとともに、CPU36に接続した二次電池39を備える。二次電池39と太陽電池33は半導体スイッチ40に接続する。この場合、中継器3の電源部は、太陽電池33,二次電池39,半導体スイッチ40及びCPU36の機能を利用した充放電回路により構成される。これにより、この充放電回路では、二次電池39の電圧を監視し、一定の電圧を越えた場合には充電を停止するとともに、電圧が最低動作電圧を下回ったときは、CPU36がスタンバイモードに移行することにより、二次電池39の過放電を防止する。さらに、CPU36には、無線IDタグを設けたアドホック通信部3tを接続する。
【0019】
他方、児童Hが通学する小学校には、アドホック通信部4tを有する一台の親機4を設置する。親機4は中継器3と同一のものを利用できるが、電源部には、例えば、AC100〔V〕の商用電源に接続可能な直流電源装置に変更できる。また、親機4は、ゲートウェイ51を介してインターネット(ネットワーク)5に接続する。一方、監視センターには、サーバコンピュータ6を設置し、このサーバコンピュータ6をインターネット5に接続する。これにより、サーバコンピュータ6と親機4はインターネット5を介してデータ送受信を行うことができる。さらに、保護者の所持するパーソナルコンピュータ(パソコン)52或いは携帯電話53とサーバコンピュータ6を、インターネット5を介して送受信可能に構成する。
【0020】
この場合、子機2…及び中継器3…の無線仕様は、電力線からの自立を最優先とし、到達距離が長く、回折性による接続能力が高い特定小電力無線を使用する。例示の特定小電力無線は、429〔MHz〕帯,出力10〔mW〕である。各無線のカバーエリアは平均100〔m〕×100〔m〕である。この方式は、通信速度が速くない(数kbps)という弱点もあるため、ネットワークに使用するアプリケーションは文字情報が中心となる。また、無線のコリジョンを回避するため、CSMA/CA with Ack方式を採用するとともに、無線通信システムに適したルーティングプロトコルとして、中継器3…が定期的に各中継器3…の経路情報を受信し、自局の中継経路を構築するプロアクティブ方式を用いたアドホックネットワークシステムを用いている。なお、CSMA/CA with Ack方式とは、通信路が一定時間以上継続して空いていることを確認してから各無線端末がデータを送信する方式であり、実際にデータが正しく送信されたことは、受信側からのACK信号の到着をもって判定する。また、プロアクティブ方式とは、各無線端末間が、通信に先立って無線ネットワークの状況を確認し、中継経路を構築しておく方式である。さらに、アドホックネットワークシステムとは、基地局などの固定局を必要とせず、半固定の無線端末間でデータをホッピングすることにより、柔軟に宛先局へデータ伝送を行う自立分散型ネットワークである。
【0021】
次に、地域防犯システム1の動作概要(通常モード)について説明する。今、任意の児童Hが子機2を携帯し、小学校に登校する場合を想定する。この際、子機2は、振動センサ20により歩行時の振動を感知し、2〔分〕毎に自局の情報をパケットにより送信(発信)する。図7に子機2が送信するパケットDpのデータフォーマットを示す。このデータフォーマットにおける情報部Dpiには、定期通報又は緊急通報の種別,子機2の固有ID等が含まれており、通常時は、定期通報が行われる。定期通報を各中継器3…が受信すれば、受信した各中継器3…は、その受信電界強度を付加したパケットを順次親機4まで中継する。この場合、各中継器3…の中継経路は予め設定されている。
【0022】
そして、親機4が定期通報を受信すれば、受信した定期情報をゲートウェイ51及びインターネット5を介してサーバコンピュータ6に送信する。サーバコンピュータ6は、定期通報を受信した各中継器3…の子機2に対する受信電界強度に基づいて、最も強い電波を受信した中継器3の位置を子機2の位置としてデータベースに登録(又は更新)する。この場合、子機2の位置は、複数の中継器3…の受信電界強度の大きさの違いから割り出した推定位置であってもよい。一方、サーバコンピュータ6は、子機2の定期通報に基づいて子機2の位置を定期的に把握し、サーバコンピュータ6に予め設定した子機2の指定エリア内であるか否かを監視する。この際、指定エリア外に移動したときは、サーバコンピュータ6から保護者(パソコン52,携帯電話53)及び関係者にEメールにより通知する。他方、非常ボタン13が押された緊急通報の場合には、その受信電界強度を付加したパケットを優先して親機4まで中継するとともに、サーバコンピュータ6に送信し、サーバコンピュータ6から直ちに保護者(パソコン52,携帯電話53)及び関係者にEメールによる緊急通知を行う。
【0023】
また、保護者は、パソコン52や携帯電話53からサーバコンピュータ6にアクセスし、児童H(子機2)の場所を確認できる。この場合、サーバコンピュータ6へのアクセスは、IDとパスワードの入力が必要となる。なお、振動センサ20により歩行時の振動を感知しないときは、2〔分〕毎の定期通報を1〔時間〕毎の定期通報に変更する。これにより、通信トラフィックの低減を図っている。
【0024】
次に、本実施形態に係る地域防犯システム1の制御方法について、図1〜図8を参照して説明する。
【0025】
本実施形態に係る地域防犯システム1の制御方法では、上述した動作概要で説明した通常モードに加えて新たに設定した規制モードを用いる。即ち、地域防犯システム1が通常モードにより動作(制御)している際に、任意の中継器3又は親機4が所定の規制開始条件を満たすことにより規制モードに切換えられるとともに、規制モードにより動作(制御)している際に、規制モードに切換えられた中継器3又は親機4が所定の規制解除条件を満たすことにより通常モードに切換えられる。
【0026】
規制開始条件は、任意の中継器3又は親機4が、一定時間Tw(例えば、1〔分〕)内における子機2…から受信する定期通報の回数、即ち、図3に示す定期通報信号Dt…を受信した回数(受信回数Nr)が設定回数Nrs以上になったことを条件とする。一方、規制解除条件は、規制モードに切換えた後、一定期間Teが経過することを条件とする。この場合、一定期間Teは、時間(例えば、10〔分〕)により設定してもよいし、規制モードに切換えられた中継器3又は親機4が発信する後述の規制信号(Cc)の回数(例えば、6〔回〕)により設定してもよい。
【0027】
ところで、規制開始条件の設定は、任意の中継器3又は親機4が、一定台数Nx以上の子機2…から受信することに基づいている。例えば、地域防犯システム1が、最大50台の子機2…を想定して能力(容量)が設計されている場合、最大50台の子機2…が使用されている状態においては、この規制モードは不要である。しかし、子機2…の使用者が増加し、最大200台の子機2…が使用されるような場合、負荷が過大となることにより通常モードでは対応できなくなる。そこで、本発明では、規制モードに切換えることにより実質的な負荷を軽減している。即ち、規制モードでは子機2の定期通報処理を休止させ、実質的な子機2の有効台数を低減させている。
【0028】
この有効性について説明する。通常、中継器3(親機4)の受信エリアは、直径200〔m〕程度の範囲に設定される。この直径200〔m〕程度の範囲内に、一定台数Nx以上の子機2…が集合する場合とは、小学校の校内や小学校の近傍、或いは小学校のイベント(遠足や社会見学等)で児童が集団移動するような場合である。換言すれば、一定台数Nx以上の子機2…が集合する場合とは安全性の高い状況と言える。したがって、このような状況下における定期通報処理の必要性は低いものとなる。しかし、このような状況下であっても、例えば、一人の児童が集団からはぐれるなどにより、定期通報処理が必要な場合には、速やかに定期通報処理を実行させる必要がある。
【0029】
このような要請から、本発明では、監視の必要性が高い状況下での通常モードと監視の必要性が低い状況下での規制モードを設定し、地域防犯システム1の本来の機能を低下させることなく、必要に応じて子機2…の全台数を任意に増加させることができるようにしたものであり、柔軟性かつ発展性のあるシステム運用が可能になるとともに、地域防犯システム1の安定性及び信頼性を確保する上でより最適化を図ることができる。また、規制モードに切換えた後、一定期間Teが経過することを規制解除条件として規制モードを解除するようにしたため、通常モードから規制モードに切換えた際における通常モードへの復帰を確実かつ的確に行うことができる。
【0030】
以下、本実施形態に係る具体的な制御方法について、図3に示すタイミングチャートを参照しつつ、図1及び図2に示すフローチャートに従って説明する。なお、図1は中継器3側の処理手順(動作)を示し、図2は子機2側の処理手順(動作)を示す。
【0031】
今、地域防犯システム1は、通常モードにより動作(制御)中であるとする。したがって、任意の子機2は、図3に示すように、一定時間Tt(例えば、2〔分〕)間隔毎に、定期通報信号Dtを送信(発信)する定期通報処理を実行する(ステップS21)。なお、定期通報信号Dtは、図7に示すパケットDp(TEXT信号)である。
【0032】
この定期通報の具体的な処理について説明する。まず、待機状態にある子機2は、前回の定期通報から2〔分〕が経過し、発呼時になったならキャリアセンスを実行する。キャリアセンスの実行により他のキャリアを検出しないときは、回線が空き状態にあると判断し、ガードタイムTgを計時する。このガードタイムTgは、最適な時間長に設定、即ち、子機2…の全台数の数量を考慮した最適な時間長(固定長)に設定される。そして、ガードタイムTgが経過したなら、続いて、乱数により発生するランダム待時間Trを計時する。このランダム待時間Trは、20〜200〔ms〕の間で5〔ms〕間隔の37通りが用意され、発生する乱数により選択される。
【0033】
このガードタイムTg及びランダム待時間Trを設ける理由について説明する。各子機2…は一定時間Tt間隔毎に定期通報を行うため、各子機2…の定期通報時(発呼時)には、子機2…同士のコリジョンの発生を回避する必要がある。このため、上述したキャリアセンスを実行し、他のキャリアの有無を確認している。そして、他のキャリアが無い回線空きの状態のときは、通常、乱数により発生するランダム待時間Trを経て送信を実行し、待機している複数の子機2…同士間のコリジョンの発生を回避している。一方、子機2…の台数が増加した場合、子機2…同士が晒し関係にあっても子機2…と中継器3…間のコリジョンが増加する傾向がある。そこで、子機2による定期通報の送信前に、ネットワーク構成を考慮して適切な固定長を設定した第二の待時間であるガードタイムTgを追加し、パケット破棄率の改善を図っている。即ち、ランダム待時間Trに対してガードタイムTgを付加することにより、子機2におけるパケット送信の優先度を中継器3よりも低くしている。
【0034】
一方、定期通報処理により、子機2は定期通報信号Dtを送信(発信)するため、近くに設置された一又は複数の中継器3…が定期通報信号Dtを受信する。そして、受信した中継器3…は、対応するACK信号Ds(確認応答パケット)を送信する。これにより、子機2はACK信号Dsを受信し、定期通報処理は正常に終了する。これにより、子機2は再び待機状態に戻る。通常モードにおける定期通報処理では、以上の送受信処理が繰返される。
【0035】
次に、規制モードの必要な状況になった場合の動作(制御)について説明する。最初に、中継器3側の動作について説明する。中継器3は、上述した通常モードの動作中に、受信する定期通報信号Dt…の回数をカウントする(ステップS1,S2,S3)。そして、カウントを開始してから一定時間Tw(1〔分〕)が経過したなら、この一定時間Tw内における受信回数(カウント数)Nrを判定する(ステップS4,S5)。この際、受信回数Nrが設定回数Nrs未満であれば、カウント数Nrをリセットし、再度カウントを開始する(ステップS6,S1…)。一方、受信回数Nrが設定回数Nrs以上のとき、即ち、上述した規制開始条件を満たしたときは、規制モードに切換える(ステップS5,S7)。
【0036】
図3中、規制モードに切換えた時点をtsで示す。中継器3は、規制モードに切換えた時点tsで規制ACK信号Ccsを送信(発信)する(ステップS8)。この規制ACK信号Ccsは、定期通報信号Dtの受信に対応して送信する正常なACK信号Dsに対して1ビットフラグを追加したものであり、これにより、正常なACK信号Dsと区別している。したがって、子機2は、この規制ACK信号Ccsを受信することにより、この中継器3の受信エリアが規制モードに切換わったことを認識できる。この後、中継器3は、一定時間Tc(例えば、2〔分〕)間隔毎に規制指令信号Cc…を送信(発信)する(ステップS9,S10)。なお、本発明における規制信号には、この規制指令信号Ccと規制ACK信号Ccsの双方が含まれる。
【0037】
そして、この規制指令信号Ccの送信は、規制モードに切換わった後、一定期間Teにわたって継続する。この一定期間Teは、前述したように、時間による設定でもよいし、規制信号(規制指令信号)Cc…の回数による設定でもよい。例示は、規制指令信号Cc…の回数により設定し、設定する回数(設定回数Na)は5回である。したがって、規制指令信号Cc…の送信回数が設定回数Naに達すれば、上述した規制解除条件を満たすことになり、中継器3は、規制モードを解除して通常モードに切換える(ステップS11,S12)。これにより、中継器3は通常モードの待機状態に復帰する(ステップS13)。なお、通常モードに復帰しても、前述した規制開始条件を満たすか否かの監視が継続して行われるため、規制開始条件を満たす状態が継続している以上、定期通報信号Dt…に対する一定時間Tw(1〔分〕)のカウント処理を経て再度規制モードに切換わることになる。
【0038】
次に、子機2側の動作について説明する。今、子機2が通常モードによる動作中に、中継器3から上述した規制ACK信号Ccsを受信した場合を想定する(ステップS21,S22)。これにより、子機2は、中継器3の受信エリアが規制モードに切換わったことを認識できるため、子機2は送信休止モードに切換わる(ステップS23)。この送信休止モードが子機2側の規制モードとなる。そして、規制ACK信号Ccsを受信した時点(ts)から、上述した一定時間Tcよりも若干長い時間の初期監視時間Tcs(例示は、3〔分〕)にわたって規制指令信号Ccの有無を監視する(ステップS24)。この際、初期監視時間Tcs内に、規制指令信号Ccを受信しなければ、子機2が中継器3の所定通信エリアから直ぐに外へ出てしまった場合、或いは外乱等が考えられるため、通常モードに復帰する(ステップS25,S21…)。これに対して、初期監視時間Tcs内に、規制指令信号Ccを受信すれば、受信した時点tsiからインターバルTiを計時する(ステップS26)。
【0039】
そして、インターバルTiが経過したなら監視時間Tfにわたって規制指令信号Ccの有無を監視する(ステップS27)。この際、規制指令信号Ccを受信すれば、同様の処理、即ち、監視時間Tfにわたって規制指令信号Ccの有無を監視する処理を繰り返す(ステップS28,S27)。これに対して、監視時間Tfにわたって規制指令信号Ccの有無を監視した際に、規制指令信号Ccを受信しなければ、送信休止モードを解除する(ステップS28,S29)。なお、規制指令信号Ccを受信しない場合としては、中継器3の規制モードが正常に解除された場合と、中継器3の規制モードの途中で子機2が中継器3の所定通信エリアから外に出てしまった場合の双方が想定される。送信休止モードが解除されることにより、子機2は通常モードによる定期通報処理の動作に復帰する(ステップS30)。図3中、teが規制モード(送信休止モード)の解除により子機2が最初に定期通報信号Dtを送信した時点を示す。中継器3側の規制モードは、最後の規制指令信号Ccを送信した時点(一定期間Teの経過時点)で規制モードが解除されるが、子機2側における認識は、図3中、te時点となるため、このte時点が規制モードの実質的な解除時点となる。
【0040】
図8には、中継器3…の受信エリアAr…を原理的に示す。図8に示す中継器3…のうち中継器3xが、規制モードに切換わった状態をイメージしたものであり、Koは中継器3xの受信エリアArに一致するが、このKoのラインは、子機2が通常モードに切換わるラインとなる。即ち、子機2がラインKoの内側から外側に出ることにより送信休止モードから通常モードに切換わる。また、Kiの四角のラインは、他の受信エリアArに対して中継器3xの受信エリアArの受信電界強度が高くなるラインであり、このKiのラインが規制モードに切換わるラインとなる。即ち、子機2がラインKiの外側から内側に入ることにより通常モードから送信休止モードに切換わる。ラインKiはオーバラップする受信エリアAr…の中央に位置するが、子機2は最も高い受信電界強度となる中継器3xからのACK信号Ds(規制ACK信号Ccs)のみを受信するためである。
【0041】
よって、このような制御方法によれば、任意の中継器3又は親機4が一定台数Nx以上の子機2…から受信することに基づいて設定した所定の規制開始条件を満たしたなら通常モードに代えて規制モードを実行し、かつ予め設定した所定の規制解除条件を満たしたなら規制モードを解除するとともに、規制モードでは、規制開始条件を満たした中継器3又は親機4から、規制モードであることを示す所定の規制信号、即ち、規制ACK信号Ccs,規制指令信号Cc…を所定の時間間隔Tc…で発信し、他方、子機2…は規制信号(Cc…,Ccs)を受信したなら送信を休止する送信休止モードに切換え、かつ規制モードの解除に基づいて送信休止モードを解除するようにしたため、地域防犯システム1の本来の機能を低下させることなく安定性及び信頼性を確保しつつ、子機2…の全台数を任意に増加させることができる。したがって、柔軟性かつ発展性のあるシステム運用が可能になり、特に通学エリア等に適用して最適となる。
【0042】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,手法,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0043】
例えば、規制開始条件と規制解除条件は、次のように設定することもできる。即ち、一定台数Nx以上の子機2…から受信する可能性に基づいて任意の中継器3又は親機4を予め規制モードに固定し、この規制モードに固定された任意の中継器3又は親機4の所定通信エリアKiに子機2が入ることを規制開始条件とすることができる。例えば、小学校に設置する親機4は、少なくとも所定の時刻の間では、一定台数Nx以上の子機2…から受信する可能性が高いため、この親機4を、予め規制モードに固定することができる。したがって、この場合、規制モードに切換え又は解除するための監視や制御が不要になるため、地域防犯システム1の安定性及び信頼性を確保しつつ地域防犯システム1の制御上の簡略化を図ることができる。一方、規制モードに固定された任意の中継器3又は親機4の所定通信エリアKoから子機2が出ることを規制解除条件として規制モードを解除することができる。規制モードに固定された任意の中継器3又は親機4が設置された場合であっても、これらの任意の中継器3又は親機4から離れることによって通常モードへの移行を確実かつ的確に行うことができる。
【0044】
他方、親機4とサーバコンピュータ6をインターネットを介して接続した場合を示したが、LAN等の他のネットワーク5により接続してもよいし、単なる接続ラインにより接続してもよい。なお、地域防犯システム1は、地域Acとして、通学エリアに適用した場合を示したが、独居老人の安否やバスロケーション等、地域インフラとしての各種見守りシステムに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の最良の実施形態に係る地域防犯システムの制御方法の中継器側の動作(処理手順)を示すフローチャート、
【図2】同地域防犯システムの制御方法の子機側の動作(処理手順)を示すフローチャート、
【図3】同地域防犯システムの制御方法を用いた際の動作を説明するためのタイミングチャート、
【図4】同地域防犯システムの全体を示すシステム構成図、
【図5】同地域防犯システムに用いる子機及び中継器の使用状態を示す外観図、
【図6】同地域防犯システムに用いる子機及び中継器の電気系回路図、
【図7】同地域防犯システムに用いる子機が送信するパケットのデータフォーマット構成図、
【図8】同地域防犯システムの制御方法を用いた際の作用を説明するための中継器の受信エリアの原理図、
【符号の説明】
【0046】
1:地域防犯システム,2…:子機,2t…:無線通信部,3…:中継器,3t…:アドホック通信部,4:親機,4t:アドホック通信部,6:サーバコンピュータ,H:防犯対象者,Ac:所定の地域,Cc…:規制信号(規制指令信号),Ccs:規制信号(規制ACK信号),Tc…:時間間隔,Tt:一定時間,Dt…:定期通報信号,Tw:一定時間,Te:一定期間,Nr:受信回数,Nrs:設定回数,Ko:所定通信エリア,Ki:所定通信エリア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線IDタグを設けた無線通信部を有し、かつ複数の防犯対象者がそれぞれ携帯可能な複数の子機と、無線IDタグを設けたアドホック通信部を有し、かつ所定の地域内における複数の異なる所定場所にそれぞれ設置した複数の中継器と、アドホック通信部を有する少なくとも一台の親機と、前記親機に接続したサーバコンピュータを備える地域防犯システムの制御方法において、任意の中継器又は親機が一定台数以上の子機から受信することに基づいて設定した所定の規制開始条件を満たしたなら通常モードに代えて規制モードを実行し、かつ予め設定した所定の規制解除条件を満たしたなら前記規制モードを解除するとともに、前記規制モードでは、前記規制開始条件を満たした中継器又は親機から、前記規制モードであることを示す所定の規制信号を所定の時間間隔で発信し、他方、子機は前記規制信号を受信したなら送信を休止する送信休止モードに切換え、かつ前記規制モードの解除に基づいて前記送信休止モードを解除することを特徴とする地域防犯システムの制御方法。
【請求項2】
前記通常モードでは、子機は少なくとも一定時間間隔おきに定期通報信号を送信することを特徴とする請求項1記載の地域防犯システムの制御方法。
【請求項3】
任意の中継器又は親機は、一定時間内における子機から前記定期通報信号を受信する回数をカウントし、カウントした受信回数が予め設定した設定回数以上であることを前記規制開始条件として前記規制モードに切換えることを特徴とする請求項2記載の地域防犯システムの制御方法。
【請求項4】
前記規制モードに切換えた後、一定期間が経過することを前記規制解除条件として前記規制モードを解除することを特徴とする請求項3記載の地域防犯システムの制御方法。
【請求項5】
任意の中継器又は親機は、一定台数以上の子機から受信する可能性に基づいて予め前記規制モードに固定し、子機が前記規制モードに固定された中継器又は親機の所定通信エリアに入ることを前記規制開始条件として前記規制モードを実行することを特徴とする請求項1記載の地域防犯システムの制御方法。
【請求項6】
前記規制モードに固定された中継器又は親機の所定通信エリアから子機が出ることを前記規制解除条件として前記規制モードを解除することを特徴とする請求項5記載の地域防犯システムの制御方法。
【請求項7】
前記地域として、少なくとも通学エリアに適用することを特徴とする請求項1記載の地域防犯システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−104458(P2009−104458A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276553(P2007−276553)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000214836)長野日本無線株式会社 (140)
【Fターム(参考)】