地域防犯システムの送信方法
【課題】 地域防犯システムにおける安定性及び信頼性を確保しつつ必要に応じて子機の全台数を任意に増加させ、柔軟性かつ発展性のあるシステム運用を可能にする。
【解決手段】 無線IDタグを設けた無線通信部2t…を有し、かつ複数の防犯対象者H…がそれぞれ携帯可能な複数の子機2…と、無線IDタグを設けたアドホック通信部3t…を有し、かつ所定の地域Ac内における複数の異なる所定場所にそれぞれ設置した複数の中継器3…と、アドホック通信部4tを有する少なくとも一台の親機4と、親機4に接続したサーバコンピュータ6を備え、子機2…の発呼時に、キャリアセンスの実行により他のキャリアを検出しないときは、予め子機2…の全台数に基づいて時間長を設定した所定のガードタイムTgが経過し、この後、乱数により発生するランダム待時間Trが経過したことを条件にパケットDpの送信処理を行う。
【解決手段】 無線IDタグを設けた無線通信部2t…を有し、かつ複数の防犯対象者H…がそれぞれ携帯可能な複数の子機2…と、無線IDタグを設けたアドホック通信部3t…を有し、かつ所定の地域Ac内における複数の異なる所定場所にそれぞれ設置した複数の中継器3…と、アドホック通信部4tを有する少なくとも一台の親機4と、親機4に接続したサーバコンピュータ6を備え、子機2…の発呼時に、キャリアセンスの実行により他のキャリアを検出しないときは、予め子機2…の全台数に基づいて時間長を設定した所定のガードタイムTgが経過し、この後、乱数により発生するランダム待時間Trが経過したことを条件にパケットDpの送信処理を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アドホックネットワークシステムを利用することにより登下校中の児童等に対する防犯を確保する際に用いて好適な地域防犯システムの送信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、登下校中の児童が不審者により誘拐されるなどの事件が増加する傾向にあることから、児童の安全を如何に確保するかが重要な課題となっており、その有効な対策が要請されている。
【0003】
従来、このような要請に対応したシステムとしては、特許文献1に開示される地域防犯システムが知られている。この地域防犯システムは、児童または園児を確認対象者として、固有のタグIDを記憶した無線タグを有する無線タグ付名札と、所定のエリアに複数配置される監視装置と、複数配置される監視装置とはネットワークを介して接続される管理装置とにより、無線タグ付名札を所持した確認対象者の所在を確認する地域防犯システムを構成するとともに、特に、無線タグ付名札の無線タグは、他の無線タグ付名札とアドホック通信するアドホック通信部と、電源部とをさらに有し、監視装置は、周囲に所定の強度の電波を発信し、それに応答して無線タグが送信するタグIDを受信する無線送受信部と、ネットワークを介して管理装置に受信したタグIDを所定のタイミングで通知するタグID通信部とを有し、管理装置は、ネットワークを介して所定の監視装置と通信してタグIDを取得するタグID取得部と、所定の記憶部に登録されている確認対象者のタグIDと受信したタグIDとを比較して確認対象者の所在を確認する確認部とを有し、無線タグ付名札の無線タグは、監視装置の無線送受信部と通信を行うときに、アドホック通信によって1以上の他の無線タグを介して通信するように構成したものである。
【特許文献1】特開2007−42009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アドホックネットワークシステムを利用した従来の地域防犯システムでは、通常、子機の発呼時に、キャリアセンスを実行し、他のキャリアの有無を確認している。そして、他のキャリアが無いときに、乱数により発生するランダム待時間を経て送信を実行し、待機している複数の子機同士間のコリジョンの発生を回避している。この場合、子機同士が隠れ関係にあれば、互いのキャリアが見えないため、コリジョンの発生を許してしまうが、子機同士が晒し関係にあれば、本来、コリジョンは発生しないか或いは発生しても無視できる僅かな回数となる。
【0005】
しかし、子機の台数が増加する状況、具体的には、子機が集まって来る親機の付近では、子機同士が晒し関係にあっても子機と中継器間のコリジョンが増加する傾向が認められ、このコリジョンの増加は、パケットの破棄数(破棄率)の増加、更には地域防犯システムの安定性及び信頼性の低下を招く。したがって、既設の地域防犯システムでは、子機の台数を増やすことには限界があり、柔軟性かつ発展性のあるシステム運用ができないという解決すべき課題が存在した。
【0006】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した地域防犯システムの送信方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る地域防犯システムの送信方法は、上述した課題を解決するため、無線IDタグを設けた無線通信部2t…を有し、かつ複数の防犯対象者H…がそれぞれ携帯可能な複数の子機2…と、無線IDタグを設けたアドホック通信部3t…を有し、かつ所定の地域Ac内における複数の異なる所定場所にそれぞれ設置した複数の中継器3…と、アドホック通信部4tを有する少なくとも一台の親機4と、親機4に接続したサーバコンピュータ6を備える地域防犯システム1において、子機2…の発呼時に、キャリアセンスの実行により他のキャリアを検出しないときは、予め子機2…の全台数に基づいて時間長を設定した所定のガードタイムTgが経過し、この後、乱数により発生するランダム待時間Trが経過したことを条件にパケットDpの送信処理を行うようにしたことを特徴とする。
【0008】
この場合、発明の好適な態様により、親機4とサーバコンピュータ6はネットワーク5を介して接続することができる。また、キャリアセンスの実行によりキャリアを検出したときは、再送設定時間の経過を待って再度のキャリアセンスを実行し、再度のキャリアセンスが設定回数Nsに達したならパケットDpを破棄することができる。この際、ガードタイムTgの時間長は、子機2…の全台数に対するパケットDpを破棄するパケット破棄率Edが所定の破棄率Es以下になるように設定することができる。さらに、ガードタイムTgの時間長は、子機2…に格納する処理プログラムPsの書換えを含む設定変更手段により変更可能に構成することができる。なお、中継器3…には、ガードタイムTgを設定しない。一方、本発明に係る地域防犯システム1は、地域Acとして、少なくとも通学エリアに適用することができる。
【発明の効果】
【0009】
このような手法による本発明に係る地域防犯システム1の送信方法によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0010】
(1) 子機2…の発呼時に、キャリアセンスの実行により他のキャリアを検出しないときは、所定のガードタイムTgが経過し、この後、乱数により発生するランダム待時間Trが経過したことを条件にパケットDpの送信処理を行うようにしたため、子機2…の台数が増加してもパケット破棄率Edを抑制でき、地域防犯システム1における安定性及び信頼性を確保できるとともに、必要に応じて子機2…の全台数を任意に増加させることができ、柔軟性かつ発展性のあるシステム運用が可能になる。したがって、地域防犯システム1は、特に通学エリアに適用して最適となる。
【0011】
(2) 好適な態様により、親機4とサーバコンピュータ6をネットワーク5により接続するようにすれば、サーバコンピュータ6を別途の監視センター等に設置することにより、より高度で柔軟な監視を行うことができる。
【0012】
(3) 好適な態様により、ガードタイムTgの時間長を、子機2…の全台数に対するパケットDpを破棄するパケット破棄率Edが所定の破棄率Es以下になるように設定すれば、子機2…の全台数が増加した際におけるパケット破棄率Edに対する増加回避を有効に担保できる。
【0013】
(4) 好適な態様により、ガードタイムTgの時間長を、子機2…に格納する処理プログラムPsの書換えを含む所定の設定変更手段により変更可能に構成すれば、必要に応じて臨機応変に対応できるとともに、実施の容易性及び低コスト性に寄与できる。
【0014】
(5) 好適な態様により、中継器3…に、ガードタイムTgを設定しないようにすれば、子機2…のパケットDpを送信する際の優先度を、中継器3…よりも確実に低くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明に係る最良の実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0016】
まず、本実施形態に係る地域防犯システム1の送信方法の理解を容易にするため、地域防犯システム1全体の概要について、図2〜図5を参照して説明する。
【0017】
最初に、地域防犯システム1における全体のシステム構成(システム系統)について説明する。図2は、同システム1の全体系統を示す。Acは、地域防犯システム1を適用する所定の地域であり、例示は小学生の通学エリアを示すとともに、H…は通学路Rに沿って通学する児童(防犯対象者)を示している。また、C…は児童H…が背負っているランドセルであり、図3(a)に、このランドセルCを拡大して示す。図3(a)に示すように、ランドセルCの側面Csには、防水性が確保された子機ケース11を吊るし、この子機ケース11の中に、携帯する子機(端末)2を収容する。子機2は、図3(b)に示すように、矩形型に形成した偏平なハウジング12を有し、このハウジング12の表面には、非常ボタン13と、カバー14により覆った電池収容部を有する。さらに、ハウジング12の内部には、図4(a)に示す電気系回路15を収容する。子機2の電気系回路15は、CPU16,メモリ17及び処理プログラム(プログラムメモリ)Psを含むマイクロコンピュータ機能部を備えるとともに、電池19を内蔵する。また、CPU16には、上述した非常ボタン13及び振動センサ20を接続するとともに、無線IDタグを設けた無線通信部2tを接続する。なお、21は送受信用アンテナであり、上述したハウジング12の上端部に内蔵している。
【0018】
一方、地域(通学エリア)Ac内における複数の異なる所定場所、即ち、通学路Rの途中における異なる複数の場所には、それぞれ中継器3…を設置する。中継器3…は通学路Rに面した地上高4〜5〔m〕の位置を選定する。図3(c)は、カーブミラーMのポールMpの上部に固定金具30…を介して支持ステー31の下部を固定し、この支持ステー31の上端部に中継器3を取付けた場合を示す。図3(c)は、カーブミラーMを利用して設置した場合を示すが、その他、電柱や街灯等の各種公共物等を利用して設置することができる。中継器3は、防水性の中継器ボックス32を備え、この中継器ボックス32の上端面上に太陽電池33及び送受信用アンテナ34を配設する。また、中継器ボックス32の内部には、図4(b)に電気系回路35を収容する。中継器3の電気系回路35は、CPU36,メモリ37及び処理プログラム(プログラムメモリ)Psrを含むマイクロコンピュータ機能部を備えるとともに、CPU36に接続した二次電池39を備える。二次電池39と太陽電池33は半導体スイッチ40に接続する。この場合、中継器3の電源部は、太陽電池33,二次電池39,半導体スイッチ40及びCPU36の機能を利用した充放電回路により構成される。これにより、この充放電回路では、二次電池39の電圧を監視し、一定の電圧を越えた場合には充電を停止するとともに、電圧が最低動作電圧を下回ったときは、CPU36がスタンバイモードに移行することにより、二次電池39の過放電を防止する。さらに、CPU36には、無線IDタグを設けたアドホック通信部3tを接続する。
【0019】
他方、児童Hが通学する小学校には、アドホック通信部4tを有する一台の親機4を設置する。親機4は中継器3と同一のものを利用できるが、電源部には、例えば、AC100〔V〕の商用電源に接続可能な直流電源装置に変更できる。また、親機4は、ゲートウェイ51を介してインターネット(ネットワーク)5に接続する。一方、監視センターには、サーバコンピュータ6を設置し、このサーバコンピュータ6をインターネット5に接続する。これにより、サーバコンピュータ6と親機4はインターネット5を介してデータ送受信を行うことができる。さらに、保護者の所持するパーソナルコンピュータ(パソコン)52或いは携帯電話53とサーバコンピュータ6を、インターネット5を介して送受信可能に構成する。
【0020】
この場合、子機2…及び中継器3…の無線仕様は、電力線からの自立を最優先とし、到達距離が長く、回折性による接続能力が高い特定小電力無線を使用する。例示の特定小電力無線は、429〔MHz〕帯,出力10〔mW〕である。各無線のカバーエリアは平均100〔m〕×100〔m〕である。この方式は、通信速度が速くない(数kbps)という弱点もあるため、ネットワークに使用するアプリケーションは文字情報が中心となる。また、無線のコリジョンを回避するため、CSMA/CA with Ack方式を採用するとともに、無線通信システムに適したルーティングプロトコルとして、中継器3…が定期的に各中継器3…の経路情報を受信し、自局の中継経路を構築するプロアクティブ方式を用いたアドホックネットワークシステムを用いている。なお、CSMA/CA with Ack方式とは、通信路が一定時間以上継続して空いていることを確認してから各無線端末がデータを送信する方式であり、実際にデータが正しく送信されたことは、受信側からのACK信号の到着をもって判定する。また、プロアクティブ方式とは、各無線端末間が、通信に先立って無線ネットワークの状況を確認し、中継経路を構築しておく方式である。さらに、アドホックネットワークシステムとは、基地局などの固定局を必要とせず、半固定の無線端末間でデータをホッピングすることにより、柔軟に宛先局へデータ伝送を行う自立分散型ネットワークである。
【0021】
次に、地域防犯システム1の動作概要について説明する。今、任意の児童Hが子機2を携帯し、小学校に登校する場合を想定する。この際、子機2は、振動センサ20により歩行時の振動を感知し、2〔分〕毎に自局の情報をパケットにより送信(発信)する。図5に子機2が送信するパケットDpのデータフォーマットを示す。このデータフォーマットにおける情報部Dpiには、定期通報又は緊急通報の種別,子機2の固有ID等が含まれており、通常時は、定期通報が行われる。定期通報を各中継器3…が受信すれば、受信した各中継器3…は、その受信電界強度を付加したパケットを順次親機4まで中継する。この場合、各中継器3…の中継経路は予め設定されている。
【0022】
そして、親機4が定期通報を受信すれば、受信した定期情報をゲートウェイ51及びインターネット5を介してサーバコンピュータ6に送信する。サーバコンピュータ6は、定期通報を受信した各中継器3…の子機2に対する受信電界強度に基づいて、最も強い電波を受信した中継器3の位置を子機2の位置としてデータベースに登録(又は更新)する。この場合、子機2の位置は、複数の中継器3…の受信電界強度の大きさの違いから割り出した推定位置であってもよい。一方、サーバコンピュータ6は、子機2の定期通報に基づいて子機2の位置を定期的に把握し、サーバコンピュータ6に予め設定した子機2の指定エリア内であるか否かを監視する。この際、指定エリア外に移動したときは、サーバコンピュータ6から保護者(パソコン52,携帯電話53)及び関係者にEメールにより通知する。他方、非常ボタン13が押された緊急通報の場合には、その受信電界強度を付加したパケットを優先して親機4まで中継するとともに、サーバコンピュータ6に送信し、サーバコンピュータ6から直ちに保護者(パソコン52,携帯電話53)及び関係者にEメールによる緊急通知を行う。
【0023】
また、保護者は、パソコン52や携帯電話53からサーバコンピュータ6にアクセスし、児童H(子機2)の場所を確認できる。この場合、サーバコンピュータ6へのアクセスは、IDとパスワードの入力が必要となる。なお、振動センサ20により歩行時の振動を感知しないときは、2〔分〕毎の定期通報を、1〔時間〕毎の定期通報に変更する。これにより、通信トラフィックの低減を図っている。
【0024】
次に、本実施形態に係る地域防犯システム1の送信方法について、図1〜図8を参照して説明する。
【0025】
本実施形態に係る地域防犯システム1では、各子機2…が2〔分〕毎の定期通報を行うが、この際、子機2…同士のコリジョンの発生を回避する必要がある。このため、子機2の定期通報時(発呼時)には、キャリアセンスを実行し、他のキャリアの有無を確認している。そして、他のキャリアが無い回線空きの状態のときに、乱数により発生するランダム待時間Trを経て送信を実行し、待機している複数の子機2…同士間のコリジョンの発生を回避している。このランダム待時間Trは、20〜200〔ms〕(5〔ms〕間隔の37通り)に設定される。
【0026】
ところで、このようなランダム待時間Trを設定すれば、晒し関係にある複数の子機2…同士のコリジョンは発生しないか或いは発生しても無視できる僅かな回数となる。しかし、子機2…が集まって来る親機4の付近では、子機2…の台数が増加する状況が発生し、子機2…同士が晒し関係にあっても子機2…と中継器3c(図6)間のコリジョンが増加する傾向が認められる。コリジョンが増加した場合、パケットの送信ができないため、通常、再度のキャリアセンスを繰り返して実行するとともに、再度のキャリアセンスが設定回数Ns(例えば、7回)に達した場合には、パケットの破棄を行っている。即ち、子機2…の台数が増加した場合、コリジョンの増加によりパケット破棄率も増加する。
【0027】
図7は、子機2…の台数に対するパケット破棄率Ed〔%〕の関係を示す実験データであり、Qdrは子機2…が隠れ関係にある場合のデータ、Qerは子機2…が晒し関係にある場合のデータをそれぞれ示す。この実験データは、図6に示すネットワーク構成において、子機2…の台数を10台から順次10台ずつ150台まで増やしたときのパケット破棄率Edを求めたものである。この場合のパケット破棄率Edは、子機2がパケットDpを送信したが、コリジョンなどの理由により、中継器3a…から送られる確認応答パケットを受信できず、再送を試みた回数が設定回数(7回)に達したことによりパケットを破棄した確率である。図7から明らかなように、子機2…同士が隠れ関係(Qdr)にあるときは、互いのキャリアは見えないため、子機2…同士のコリジョンが多く発生する。一方、晒し関係(Qer)にある場合であっても、子機2…の台数が多くなると子機2…と中継器3c間のコリジョンが多く発生し、この結果、パケット破棄率Edが高くなっており、必ずしもコリジョン回避にはつながっていないことが判る。
【0028】
そこで、次のようなコリジョンの発生回避を試みた。図6において、中継器3a又は3bが送信を終了した後、送信を待っていた子機2…群と、中継器3cは同時に送信処理を開始する。また、晒し関係にある子機2…の1台が送信しているとき、他の子機2…は送信を控える。したがって、中継器3a又は3bが送信を終了した時点において送信処理を同時に開始する子機2…の台数は、子機2…が隠れ関係にあるときよりも多くなる。このため、子機2におけるパケットDpの送信前に、ネットワーク構成を考慮して適切な固定長を設定した第二の待時間であるガードタイムTgの追加を試みた。
【0029】
これにより、ランダム待時間Trに対してガードタイムTgが付加され、パケット送信の優先度が中継器3a,3b,3cよりも低くなる。図8は、ガードタイムTgを230〔ms〕に設定し、子機2…におけるパケットDpの送信時(発呼時)に、このガードタイムTgが経過し、この後、乱数により発生するランダム待時間Trが経過したことを条件に、パケットDpの送信処理を行った場合の図7と同様の実験データを示している。図8中、Qdiは子機2…が隠れ関係にある場合のデータ、Qeiは子機2…が晒し関係にある場合のデータをそれぞれ示す。図8から明らかなように、子機2…が晒し関係にあるときは、図7において子機2…の台数が40台前後から急激に悪化していたパケット破棄率Edは、100台前後からとなり、台数に対するパケット破棄率Edは大幅に改善される。一方、子機2…が隠れ関係にあるときは、同時に送信を開始する子機2…群は多くないため、ガードタイムTgを設定した効果は晒し関係の場合に比べて少ない。
【0030】
したがって、ガードタイムTgの時間長を最適値に設定し、パケット送信に優先順位を付けることで、コリジョンの発生を有効に抑制することができ、パケット破棄率Edも改善される。ガードタイムTgの時間長は、長いほどパケット破棄率Edは低くなる反面、送信速度は遅くなる。したがって、実際の設定に際しては、子機2…の全台数を考慮し、子機2…の台数に対するパケット破棄率Edが所定の破棄率Es以下になるように、実験や解析(シミュレーション)等により設定することができ、これにより、子機2…の全台数が増加した際におけるパケット破棄率Edに対する増加回避を有効に担保できる。また、ガードタイムTgの時間長は、子機2…に格納する処理プログラムPsの書換えを含む設定変更手段により変更可能に構成することができる。処理プログラムPsの書換えは、内部のメモリに対して外部から書換えを行ってもよいし、プログラムを格納したメモリチップを交換できるようにしてもよい。これにより、台数変更を行った場合であっても、必要に応じて臨機応変に対応できるとともに、実施の容易性及び低コスト性に寄与できる。なお、ガードタイムTgは子機2…に対してのみ設定し、中継器3…には設定しない。これにより、子機2…のパケットDpを送信する際の優先度を、中継器3…よりも確実に低くすることができる。
【0031】
次に、ガードタイムTgを付加した場合の子機2の送信方法の具体的な処理手順について、各図を参照しつつ図1に示すフローチャートに従って説明する。
【0032】
今、子機2は、待機状態にあるものとする(ステップS1)。子機2は、2〔分〕毎に定期通報を行うため、前回の定期通報から2〔分〕が経過し、発呼時になったならキャリアセンスを実行する(ステップS2,S3)。キャリアセンスの実行により他のキャリアを検出しないときは、回線が空き状態にあると判断し、上述したガードタイムTgを計時する(ステップS4,S5)。このガードタイムTgは、前述したように最適な時間長に設定、即ち、子機2…の全台数の数量を考慮した最適な時間長(固定長)に設定されている(ステップS5o)。また、ガードタイムTgが経過したなら、続いて、乱数により発生するランダム待時間Trを計時する(ステップS6)。このランダム待時間Trは、20〜200〔ms〕の間で5〔ms〕間隔の37通りが用意され、発生する乱数により選択される。
【0033】
そして、ランダム待時間Trが経過したなら、子機2は、図5に示すパケットDp(TEXT信号)を送信(発信)する(ステップS7)。これにより、近くに設置された一又は複数の中継器3…がパケットDpを受信するため、受信した中継器3…は、確認応答パケット(ACK信号)を送信する。したがって、子機2は、この確認応答パケットを受信することができる(ステップS8)。子機2が確認応答パケットを受信すれば、定期通報は正常に終了するため、子機2は再び待機状態に戻る(ステップS9)。
【0034】
一方、ステップS3において、キャリアセンスを実行した際に、他のキャリアを検出したときは、回線が使用状態にあるため、この時点におけるキャリアセンスの回数(再送回数)を判断する(ステップS4,S10)。この再送回数に対しては設定回数Nsとして7回が設定されているため、再送回数が7回に満たないときは、再送設定時間(例えば、1〔s〕)の経過を待って再送処理、即ち、再度キャリアセンスを実行する(ステップS11,S3)。この際、他のキャリアを検出しないときは、回線が空き状態にあると判断し、上述したガードタイムTgを計時する(ステップS4,S5)。そして、このような再送処理は、設定回数Ns(7回)まで繰り返される。他方、再送処理が設定回数Nsに達したなら、子機2はパケットDpを破棄する処理を行う(ステップS12)。この結果、子機2は、2〔分〕後の発呼時まで待機状態となる(ステップS9)。
【0035】
よって、このような本実施形態に係る地域防犯システム1の送信方法によれば、子機2…の発呼時に、キャリアセンスの実行により他のキャリアを検出しないときは、所定のガードタイムTgが経過し、この後、乱数により発生するランダム待時間Trが経過したことを条件にパケットDpの送信処理を行うようにしたため、子機2…の台数が増加してもパケット破棄率Edを抑制でき、地域防犯システム1における安定性及び信頼性を確保できるとともに、必要に応じて子機2…の全台数を任意に増加させることができ、柔軟性かつ発展性のあるシステム運用が可能になる。したがって、地域防犯システム1は、特に通学エリアに適用して最適となる。
【0036】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,手法,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0037】
例えば、ガードタイムTg…は子機2…にのみ設定した場合を示したが、必要により中継器3…に設定してもよい。これにより、中継器3…と子機2…における各ガードタイムTg…の時間長の絶対長及び比率を変え、より緻密な設定も可能である。また、親機4とサーバコンピュータ6をインターネットを介して接続した場合を示したが、LAN等の他のネットワーク5により接続してもよいし、単なる接続ラインにより接続してもよい。なお、地域防犯システム1は、地域Acとして、通学エリアに適用した場合を示したが、独居老人の安否やバスロケーション等、地域インフラとしての各種見守りシステムに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の最良の実施形態に係る地域防犯システムの送信方法の処理手順を示すフローチャート、
【図2】同地域防犯システムの全体を示すシステム構成図、
【図3】同地域防犯システムに用いる子機及び中継器の使用状態を示す外観図、
【図4】同地域防犯システムに用いる子機及び中継器の電気系回路図、
【図5】同地域防犯システムに用いる子機が送信するパケットのデータフォーマット構成図、
【図6】同地域防犯システムの送信方法の実験に用いたシステム構成図、
【図7】従来の送信方法を用いたときの子機台数に対するパケット破棄率を示す実験データ図、
【図8】本発明の送信方法を用いたときの子機台数に対するパケット破棄率を示す実験データ図、
【符号の説明】
【0039】
1:地域防犯システム,2…:子機,2t:無線通信部,3…:中継器,3t…:アドホック通信部,4:親機,4t:アドホック通信部,5:ネットワーク,6:サーバコンピュータ,Ac:地域,H…:防犯対象者,Dp:パケット,Ed:パケット破棄率,Es:所定の破棄率,Ps:処理プログラム
【技術分野】
【0001】
本発明は、アドホックネットワークシステムを利用することにより登下校中の児童等に対する防犯を確保する際に用いて好適な地域防犯システムの送信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、登下校中の児童が不審者により誘拐されるなどの事件が増加する傾向にあることから、児童の安全を如何に確保するかが重要な課題となっており、その有効な対策が要請されている。
【0003】
従来、このような要請に対応したシステムとしては、特許文献1に開示される地域防犯システムが知られている。この地域防犯システムは、児童または園児を確認対象者として、固有のタグIDを記憶した無線タグを有する無線タグ付名札と、所定のエリアに複数配置される監視装置と、複数配置される監視装置とはネットワークを介して接続される管理装置とにより、無線タグ付名札を所持した確認対象者の所在を確認する地域防犯システムを構成するとともに、特に、無線タグ付名札の無線タグは、他の無線タグ付名札とアドホック通信するアドホック通信部と、電源部とをさらに有し、監視装置は、周囲に所定の強度の電波を発信し、それに応答して無線タグが送信するタグIDを受信する無線送受信部と、ネットワークを介して管理装置に受信したタグIDを所定のタイミングで通知するタグID通信部とを有し、管理装置は、ネットワークを介して所定の監視装置と通信してタグIDを取得するタグID取得部と、所定の記憶部に登録されている確認対象者のタグIDと受信したタグIDとを比較して確認対象者の所在を確認する確認部とを有し、無線タグ付名札の無線タグは、監視装置の無線送受信部と通信を行うときに、アドホック通信によって1以上の他の無線タグを介して通信するように構成したものである。
【特許文献1】特開2007−42009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、アドホックネットワークシステムを利用した従来の地域防犯システムでは、通常、子機の発呼時に、キャリアセンスを実行し、他のキャリアの有無を確認している。そして、他のキャリアが無いときに、乱数により発生するランダム待時間を経て送信を実行し、待機している複数の子機同士間のコリジョンの発生を回避している。この場合、子機同士が隠れ関係にあれば、互いのキャリアが見えないため、コリジョンの発生を許してしまうが、子機同士が晒し関係にあれば、本来、コリジョンは発生しないか或いは発生しても無視できる僅かな回数となる。
【0005】
しかし、子機の台数が増加する状況、具体的には、子機が集まって来る親機の付近では、子機同士が晒し関係にあっても子機と中継器間のコリジョンが増加する傾向が認められ、このコリジョンの増加は、パケットの破棄数(破棄率)の増加、更には地域防犯システムの安定性及び信頼性の低下を招く。したがって、既設の地域防犯システムでは、子機の台数を増やすことには限界があり、柔軟性かつ発展性のあるシステム運用ができないという解決すべき課題が存在した。
【0006】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した地域防犯システムの送信方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る地域防犯システムの送信方法は、上述した課題を解決するため、無線IDタグを設けた無線通信部2t…を有し、かつ複数の防犯対象者H…がそれぞれ携帯可能な複数の子機2…と、無線IDタグを設けたアドホック通信部3t…を有し、かつ所定の地域Ac内における複数の異なる所定場所にそれぞれ設置した複数の中継器3…と、アドホック通信部4tを有する少なくとも一台の親機4と、親機4に接続したサーバコンピュータ6を備える地域防犯システム1において、子機2…の発呼時に、キャリアセンスの実行により他のキャリアを検出しないときは、予め子機2…の全台数に基づいて時間長を設定した所定のガードタイムTgが経過し、この後、乱数により発生するランダム待時間Trが経過したことを条件にパケットDpの送信処理を行うようにしたことを特徴とする。
【0008】
この場合、発明の好適な態様により、親機4とサーバコンピュータ6はネットワーク5を介して接続することができる。また、キャリアセンスの実行によりキャリアを検出したときは、再送設定時間の経過を待って再度のキャリアセンスを実行し、再度のキャリアセンスが設定回数Nsに達したならパケットDpを破棄することができる。この際、ガードタイムTgの時間長は、子機2…の全台数に対するパケットDpを破棄するパケット破棄率Edが所定の破棄率Es以下になるように設定することができる。さらに、ガードタイムTgの時間長は、子機2…に格納する処理プログラムPsの書換えを含む設定変更手段により変更可能に構成することができる。なお、中継器3…には、ガードタイムTgを設定しない。一方、本発明に係る地域防犯システム1は、地域Acとして、少なくとも通学エリアに適用することができる。
【発明の効果】
【0009】
このような手法による本発明に係る地域防犯システム1の送信方法によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0010】
(1) 子機2…の発呼時に、キャリアセンスの実行により他のキャリアを検出しないときは、所定のガードタイムTgが経過し、この後、乱数により発生するランダム待時間Trが経過したことを条件にパケットDpの送信処理を行うようにしたため、子機2…の台数が増加してもパケット破棄率Edを抑制でき、地域防犯システム1における安定性及び信頼性を確保できるとともに、必要に応じて子機2…の全台数を任意に増加させることができ、柔軟性かつ発展性のあるシステム運用が可能になる。したがって、地域防犯システム1は、特に通学エリアに適用して最適となる。
【0011】
(2) 好適な態様により、親機4とサーバコンピュータ6をネットワーク5により接続するようにすれば、サーバコンピュータ6を別途の監視センター等に設置することにより、より高度で柔軟な監視を行うことができる。
【0012】
(3) 好適な態様により、ガードタイムTgの時間長を、子機2…の全台数に対するパケットDpを破棄するパケット破棄率Edが所定の破棄率Es以下になるように設定すれば、子機2…の全台数が増加した際におけるパケット破棄率Edに対する増加回避を有効に担保できる。
【0013】
(4) 好適な態様により、ガードタイムTgの時間長を、子機2…に格納する処理プログラムPsの書換えを含む所定の設定変更手段により変更可能に構成すれば、必要に応じて臨機応変に対応できるとともに、実施の容易性及び低コスト性に寄与できる。
【0014】
(5) 好適な態様により、中継器3…に、ガードタイムTgを設定しないようにすれば、子機2…のパケットDpを送信する際の優先度を、中継器3…よりも確実に低くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明に係る最良の実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0016】
まず、本実施形態に係る地域防犯システム1の送信方法の理解を容易にするため、地域防犯システム1全体の概要について、図2〜図5を参照して説明する。
【0017】
最初に、地域防犯システム1における全体のシステム構成(システム系統)について説明する。図2は、同システム1の全体系統を示す。Acは、地域防犯システム1を適用する所定の地域であり、例示は小学生の通学エリアを示すとともに、H…は通学路Rに沿って通学する児童(防犯対象者)を示している。また、C…は児童H…が背負っているランドセルであり、図3(a)に、このランドセルCを拡大して示す。図3(a)に示すように、ランドセルCの側面Csには、防水性が確保された子機ケース11を吊るし、この子機ケース11の中に、携帯する子機(端末)2を収容する。子機2は、図3(b)に示すように、矩形型に形成した偏平なハウジング12を有し、このハウジング12の表面には、非常ボタン13と、カバー14により覆った電池収容部を有する。さらに、ハウジング12の内部には、図4(a)に示す電気系回路15を収容する。子機2の電気系回路15は、CPU16,メモリ17及び処理プログラム(プログラムメモリ)Psを含むマイクロコンピュータ機能部を備えるとともに、電池19を内蔵する。また、CPU16には、上述した非常ボタン13及び振動センサ20を接続するとともに、無線IDタグを設けた無線通信部2tを接続する。なお、21は送受信用アンテナであり、上述したハウジング12の上端部に内蔵している。
【0018】
一方、地域(通学エリア)Ac内における複数の異なる所定場所、即ち、通学路Rの途中における異なる複数の場所には、それぞれ中継器3…を設置する。中継器3…は通学路Rに面した地上高4〜5〔m〕の位置を選定する。図3(c)は、カーブミラーMのポールMpの上部に固定金具30…を介して支持ステー31の下部を固定し、この支持ステー31の上端部に中継器3を取付けた場合を示す。図3(c)は、カーブミラーMを利用して設置した場合を示すが、その他、電柱や街灯等の各種公共物等を利用して設置することができる。中継器3は、防水性の中継器ボックス32を備え、この中継器ボックス32の上端面上に太陽電池33及び送受信用アンテナ34を配設する。また、中継器ボックス32の内部には、図4(b)に電気系回路35を収容する。中継器3の電気系回路35は、CPU36,メモリ37及び処理プログラム(プログラムメモリ)Psrを含むマイクロコンピュータ機能部を備えるとともに、CPU36に接続した二次電池39を備える。二次電池39と太陽電池33は半導体スイッチ40に接続する。この場合、中継器3の電源部は、太陽電池33,二次電池39,半導体スイッチ40及びCPU36の機能を利用した充放電回路により構成される。これにより、この充放電回路では、二次電池39の電圧を監視し、一定の電圧を越えた場合には充電を停止するとともに、電圧が最低動作電圧を下回ったときは、CPU36がスタンバイモードに移行することにより、二次電池39の過放電を防止する。さらに、CPU36には、無線IDタグを設けたアドホック通信部3tを接続する。
【0019】
他方、児童Hが通学する小学校には、アドホック通信部4tを有する一台の親機4を設置する。親機4は中継器3と同一のものを利用できるが、電源部には、例えば、AC100〔V〕の商用電源に接続可能な直流電源装置に変更できる。また、親機4は、ゲートウェイ51を介してインターネット(ネットワーク)5に接続する。一方、監視センターには、サーバコンピュータ6を設置し、このサーバコンピュータ6をインターネット5に接続する。これにより、サーバコンピュータ6と親機4はインターネット5を介してデータ送受信を行うことができる。さらに、保護者の所持するパーソナルコンピュータ(パソコン)52或いは携帯電話53とサーバコンピュータ6を、インターネット5を介して送受信可能に構成する。
【0020】
この場合、子機2…及び中継器3…の無線仕様は、電力線からの自立を最優先とし、到達距離が長く、回折性による接続能力が高い特定小電力無線を使用する。例示の特定小電力無線は、429〔MHz〕帯,出力10〔mW〕である。各無線のカバーエリアは平均100〔m〕×100〔m〕である。この方式は、通信速度が速くない(数kbps)という弱点もあるため、ネットワークに使用するアプリケーションは文字情報が中心となる。また、無線のコリジョンを回避するため、CSMA/CA with Ack方式を採用するとともに、無線通信システムに適したルーティングプロトコルとして、中継器3…が定期的に各中継器3…の経路情報を受信し、自局の中継経路を構築するプロアクティブ方式を用いたアドホックネットワークシステムを用いている。なお、CSMA/CA with Ack方式とは、通信路が一定時間以上継続して空いていることを確認してから各無線端末がデータを送信する方式であり、実際にデータが正しく送信されたことは、受信側からのACK信号の到着をもって判定する。また、プロアクティブ方式とは、各無線端末間が、通信に先立って無線ネットワークの状況を確認し、中継経路を構築しておく方式である。さらに、アドホックネットワークシステムとは、基地局などの固定局を必要とせず、半固定の無線端末間でデータをホッピングすることにより、柔軟に宛先局へデータ伝送を行う自立分散型ネットワークである。
【0021】
次に、地域防犯システム1の動作概要について説明する。今、任意の児童Hが子機2を携帯し、小学校に登校する場合を想定する。この際、子機2は、振動センサ20により歩行時の振動を感知し、2〔分〕毎に自局の情報をパケットにより送信(発信)する。図5に子機2が送信するパケットDpのデータフォーマットを示す。このデータフォーマットにおける情報部Dpiには、定期通報又は緊急通報の種別,子機2の固有ID等が含まれており、通常時は、定期通報が行われる。定期通報を各中継器3…が受信すれば、受信した各中継器3…は、その受信電界強度を付加したパケットを順次親機4まで中継する。この場合、各中継器3…の中継経路は予め設定されている。
【0022】
そして、親機4が定期通報を受信すれば、受信した定期情報をゲートウェイ51及びインターネット5を介してサーバコンピュータ6に送信する。サーバコンピュータ6は、定期通報を受信した各中継器3…の子機2に対する受信電界強度に基づいて、最も強い電波を受信した中継器3の位置を子機2の位置としてデータベースに登録(又は更新)する。この場合、子機2の位置は、複数の中継器3…の受信電界強度の大きさの違いから割り出した推定位置であってもよい。一方、サーバコンピュータ6は、子機2の定期通報に基づいて子機2の位置を定期的に把握し、サーバコンピュータ6に予め設定した子機2の指定エリア内であるか否かを監視する。この際、指定エリア外に移動したときは、サーバコンピュータ6から保護者(パソコン52,携帯電話53)及び関係者にEメールにより通知する。他方、非常ボタン13が押された緊急通報の場合には、その受信電界強度を付加したパケットを優先して親機4まで中継するとともに、サーバコンピュータ6に送信し、サーバコンピュータ6から直ちに保護者(パソコン52,携帯電話53)及び関係者にEメールによる緊急通知を行う。
【0023】
また、保護者は、パソコン52や携帯電話53からサーバコンピュータ6にアクセスし、児童H(子機2)の場所を確認できる。この場合、サーバコンピュータ6へのアクセスは、IDとパスワードの入力が必要となる。なお、振動センサ20により歩行時の振動を感知しないときは、2〔分〕毎の定期通報を、1〔時間〕毎の定期通報に変更する。これにより、通信トラフィックの低減を図っている。
【0024】
次に、本実施形態に係る地域防犯システム1の送信方法について、図1〜図8を参照して説明する。
【0025】
本実施形態に係る地域防犯システム1では、各子機2…が2〔分〕毎の定期通報を行うが、この際、子機2…同士のコリジョンの発生を回避する必要がある。このため、子機2の定期通報時(発呼時)には、キャリアセンスを実行し、他のキャリアの有無を確認している。そして、他のキャリアが無い回線空きの状態のときに、乱数により発生するランダム待時間Trを経て送信を実行し、待機している複数の子機2…同士間のコリジョンの発生を回避している。このランダム待時間Trは、20〜200〔ms〕(5〔ms〕間隔の37通り)に設定される。
【0026】
ところで、このようなランダム待時間Trを設定すれば、晒し関係にある複数の子機2…同士のコリジョンは発生しないか或いは発生しても無視できる僅かな回数となる。しかし、子機2…が集まって来る親機4の付近では、子機2…の台数が増加する状況が発生し、子機2…同士が晒し関係にあっても子機2…と中継器3c(図6)間のコリジョンが増加する傾向が認められる。コリジョンが増加した場合、パケットの送信ができないため、通常、再度のキャリアセンスを繰り返して実行するとともに、再度のキャリアセンスが設定回数Ns(例えば、7回)に達した場合には、パケットの破棄を行っている。即ち、子機2…の台数が増加した場合、コリジョンの増加によりパケット破棄率も増加する。
【0027】
図7は、子機2…の台数に対するパケット破棄率Ed〔%〕の関係を示す実験データであり、Qdrは子機2…が隠れ関係にある場合のデータ、Qerは子機2…が晒し関係にある場合のデータをそれぞれ示す。この実験データは、図6に示すネットワーク構成において、子機2…の台数を10台から順次10台ずつ150台まで増やしたときのパケット破棄率Edを求めたものである。この場合のパケット破棄率Edは、子機2がパケットDpを送信したが、コリジョンなどの理由により、中継器3a…から送られる確認応答パケットを受信できず、再送を試みた回数が設定回数(7回)に達したことによりパケットを破棄した確率である。図7から明らかなように、子機2…同士が隠れ関係(Qdr)にあるときは、互いのキャリアは見えないため、子機2…同士のコリジョンが多く発生する。一方、晒し関係(Qer)にある場合であっても、子機2…の台数が多くなると子機2…と中継器3c間のコリジョンが多く発生し、この結果、パケット破棄率Edが高くなっており、必ずしもコリジョン回避にはつながっていないことが判る。
【0028】
そこで、次のようなコリジョンの発生回避を試みた。図6において、中継器3a又は3bが送信を終了した後、送信を待っていた子機2…群と、中継器3cは同時に送信処理を開始する。また、晒し関係にある子機2…の1台が送信しているとき、他の子機2…は送信を控える。したがって、中継器3a又は3bが送信を終了した時点において送信処理を同時に開始する子機2…の台数は、子機2…が隠れ関係にあるときよりも多くなる。このため、子機2におけるパケットDpの送信前に、ネットワーク構成を考慮して適切な固定長を設定した第二の待時間であるガードタイムTgの追加を試みた。
【0029】
これにより、ランダム待時間Trに対してガードタイムTgが付加され、パケット送信の優先度が中継器3a,3b,3cよりも低くなる。図8は、ガードタイムTgを230〔ms〕に設定し、子機2…におけるパケットDpの送信時(発呼時)に、このガードタイムTgが経過し、この後、乱数により発生するランダム待時間Trが経過したことを条件に、パケットDpの送信処理を行った場合の図7と同様の実験データを示している。図8中、Qdiは子機2…が隠れ関係にある場合のデータ、Qeiは子機2…が晒し関係にある場合のデータをそれぞれ示す。図8から明らかなように、子機2…が晒し関係にあるときは、図7において子機2…の台数が40台前後から急激に悪化していたパケット破棄率Edは、100台前後からとなり、台数に対するパケット破棄率Edは大幅に改善される。一方、子機2…が隠れ関係にあるときは、同時に送信を開始する子機2…群は多くないため、ガードタイムTgを設定した効果は晒し関係の場合に比べて少ない。
【0030】
したがって、ガードタイムTgの時間長を最適値に設定し、パケット送信に優先順位を付けることで、コリジョンの発生を有効に抑制することができ、パケット破棄率Edも改善される。ガードタイムTgの時間長は、長いほどパケット破棄率Edは低くなる反面、送信速度は遅くなる。したがって、実際の設定に際しては、子機2…の全台数を考慮し、子機2…の台数に対するパケット破棄率Edが所定の破棄率Es以下になるように、実験や解析(シミュレーション)等により設定することができ、これにより、子機2…の全台数が増加した際におけるパケット破棄率Edに対する増加回避を有効に担保できる。また、ガードタイムTgの時間長は、子機2…に格納する処理プログラムPsの書換えを含む設定変更手段により変更可能に構成することができる。処理プログラムPsの書換えは、内部のメモリに対して外部から書換えを行ってもよいし、プログラムを格納したメモリチップを交換できるようにしてもよい。これにより、台数変更を行った場合であっても、必要に応じて臨機応変に対応できるとともに、実施の容易性及び低コスト性に寄与できる。なお、ガードタイムTgは子機2…に対してのみ設定し、中継器3…には設定しない。これにより、子機2…のパケットDpを送信する際の優先度を、中継器3…よりも確実に低くすることができる。
【0031】
次に、ガードタイムTgを付加した場合の子機2の送信方法の具体的な処理手順について、各図を参照しつつ図1に示すフローチャートに従って説明する。
【0032】
今、子機2は、待機状態にあるものとする(ステップS1)。子機2は、2〔分〕毎に定期通報を行うため、前回の定期通報から2〔分〕が経過し、発呼時になったならキャリアセンスを実行する(ステップS2,S3)。キャリアセンスの実行により他のキャリアを検出しないときは、回線が空き状態にあると判断し、上述したガードタイムTgを計時する(ステップS4,S5)。このガードタイムTgは、前述したように最適な時間長に設定、即ち、子機2…の全台数の数量を考慮した最適な時間長(固定長)に設定されている(ステップS5o)。また、ガードタイムTgが経過したなら、続いて、乱数により発生するランダム待時間Trを計時する(ステップS6)。このランダム待時間Trは、20〜200〔ms〕の間で5〔ms〕間隔の37通りが用意され、発生する乱数により選択される。
【0033】
そして、ランダム待時間Trが経過したなら、子機2は、図5に示すパケットDp(TEXT信号)を送信(発信)する(ステップS7)。これにより、近くに設置された一又は複数の中継器3…がパケットDpを受信するため、受信した中継器3…は、確認応答パケット(ACK信号)を送信する。したがって、子機2は、この確認応答パケットを受信することができる(ステップS8)。子機2が確認応答パケットを受信すれば、定期通報は正常に終了するため、子機2は再び待機状態に戻る(ステップS9)。
【0034】
一方、ステップS3において、キャリアセンスを実行した際に、他のキャリアを検出したときは、回線が使用状態にあるため、この時点におけるキャリアセンスの回数(再送回数)を判断する(ステップS4,S10)。この再送回数に対しては設定回数Nsとして7回が設定されているため、再送回数が7回に満たないときは、再送設定時間(例えば、1〔s〕)の経過を待って再送処理、即ち、再度キャリアセンスを実行する(ステップS11,S3)。この際、他のキャリアを検出しないときは、回線が空き状態にあると判断し、上述したガードタイムTgを計時する(ステップS4,S5)。そして、このような再送処理は、設定回数Ns(7回)まで繰り返される。他方、再送処理が設定回数Nsに達したなら、子機2はパケットDpを破棄する処理を行う(ステップS12)。この結果、子機2は、2〔分〕後の発呼時まで待機状態となる(ステップS9)。
【0035】
よって、このような本実施形態に係る地域防犯システム1の送信方法によれば、子機2…の発呼時に、キャリアセンスの実行により他のキャリアを検出しないときは、所定のガードタイムTgが経過し、この後、乱数により発生するランダム待時間Trが経過したことを条件にパケットDpの送信処理を行うようにしたため、子機2…の台数が増加してもパケット破棄率Edを抑制でき、地域防犯システム1における安定性及び信頼性を確保できるとともに、必要に応じて子機2…の全台数を任意に増加させることができ、柔軟性かつ発展性のあるシステム運用が可能になる。したがって、地域防犯システム1は、特に通学エリアに適用して最適となる。
【0036】
以上、最良の実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,手法,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0037】
例えば、ガードタイムTg…は子機2…にのみ設定した場合を示したが、必要により中継器3…に設定してもよい。これにより、中継器3…と子機2…における各ガードタイムTg…の時間長の絶対長及び比率を変え、より緻密な設定も可能である。また、親機4とサーバコンピュータ6をインターネットを介して接続した場合を示したが、LAN等の他のネットワーク5により接続してもよいし、単なる接続ラインにより接続してもよい。なお、地域防犯システム1は、地域Acとして、通学エリアに適用した場合を示したが、独居老人の安否やバスロケーション等、地域インフラとしての各種見守りシステムに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の最良の実施形態に係る地域防犯システムの送信方法の処理手順を示すフローチャート、
【図2】同地域防犯システムの全体を示すシステム構成図、
【図3】同地域防犯システムに用いる子機及び中継器の使用状態を示す外観図、
【図4】同地域防犯システムに用いる子機及び中継器の電気系回路図、
【図5】同地域防犯システムに用いる子機が送信するパケットのデータフォーマット構成図、
【図6】同地域防犯システムの送信方法の実験に用いたシステム構成図、
【図7】従来の送信方法を用いたときの子機台数に対するパケット破棄率を示す実験データ図、
【図8】本発明の送信方法を用いたときの子機台数に対するパケット破棄率を示す実験データ図、
【符号の説明】
【0039】
1:地域防犯システム,2…:子機,2t:無線通信部,3…:中継器,3t…:アドホック通信部,4:親機,4t:アドホック通信部,5:ネットワーク,6:サーバコンピュータ,Ac:地域,H…:防犯対象者,Dp:パケット,Ed:パケット破棄率,Es:所定の破棄率,Ps:処理プログラム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線IDタグを設けた無線通信部を有し、かつ複数の防犯対象者がそれぞれ携帯可能な複数の子機と、無線IDタグを設けたアドホック通信部を有し、かつ所定の地域内における複数の異なる所定場所にそれぞれ設置した複数の中継器と、アドホック通信部を有する少なくとも一台の親機と、前記親機に接続したサーバコンピュータを備える地域防犯システムの送信方法において、前記子機の発呼時に、キャリアセンスの実行により他のキャリアを検出しないときは、予め前記子機の全台数に基づいて時間長を設定した所定のガードタイムが経過し、この後、乱数により発生するランダム待時間が経過したことを条件にパケットの送信処理を行うことを特徴とする地域防犯システムの送信方法。
【請求項2】
前記親機と前記サーバコンピュータはネットワークを介して接続することを特徴とする請求項1記載の地域防犯システムの送信方法。
【請求項3】
前記キャリアセンスの実行によりキャリアを検出したときは、再送設定時間の経過を待って再度のキャリアセンスを実行し、前記再度のキャリアセンスが設定回数に達したならパケットを破棄することを特徴とする請求項1記載の地域防犯システムの送信方法。
【請求項4】
前記ガードタイムの時間長は、前記子機の全台数に対する前記パケットの破棄率が所定の破棄率以下になるように設定することを特徴とする請求項3記載の地域防犯システムの送信方法。
【請求項5】
前記ガードタイムの時間長は、前記子機に格納する処理プログラムの書換えを含む設定変更手段により変更可能に構成することを特徴とする請求項1又は4記載の地域防犯システムの送信方法。
【請求項6】
前記中継器には、前記ガードタイムを設定しないことを特徴とする請求項1記載の地域防犯システムの送信方法。
【請求項7】
前記地域として、少なくとも通学エリアに適用することを特徴とする請求項1記載の地域防犯システムの送信方法。
【請求項1】
無線IDタグを設けた無線通信部を有し、かつ複数の防犯対象者がそれぞれ携帯可能な複数の子機と、無線IDタグを設けたアドホック通信部を有し、かつ所定の地域内における複数の異なる所定場所にそれぞれ設置した複数の中継器と、アドホック通信部を有する少なくとも一台の親機と、前記親機に接続したサーバコンピュータを備える地域防犯システムの送信方法において、前記子機の発呼時に、キャリアセンスの実行により他のキャリアを検出しないときは、予め前記子機の全台数に基づいて時間長を設定した所定のガードタイムが経過し、この後、乱数により発生するランダム待時間が経過したことを条件にパケットの送信処理を行うことを特徴とする地域防犯システムの送信方法。
【請求項2】
前記親機と前記サーバコンピュータはネットワークを介して接続することを特徴とする請求項1記載の地域防犯システムの送信方法。
【請求項3】
前記キャリアセンスの実行によりキャリアを検出したときは、再送設定時間の経過を待って再度のキャリアセンスを実行し、前記再度のキャリアセンスが設定回数に達したならパケットを破棄することを特徴とする請求項1記載の地域防犯システムの送信方法。
【請求項4】
前記ガードタイムの時間長は、前記子機の全台数に対する前記パケットの破棄率が所定の破棄率以下になるように設定することを特徴とする請求項3記載の地域防犯システムの送信方法。
【請求項5】
前記ガードタイムの時間長は、前記子機に格納する処理プログラムの書換えを含む設定変更手段により変更可能に構成することを特徴とする請求項1又は4記載の地域防犯システムの送信方法。
【請求項6】
前記中継器には、前記ガードタイムを設定しないことを特徴とする請求項1記載の地域防犯システムの送信方法。
【請求項7】
前記地域として、少なくとも通学エリアに適用することを特徴とする請求項1記載の地域防犯システムの送信方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2009−104457(P2009−104457A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276552(P2007−276552)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 平成19年度 電子情報通信学会信越支部大会・IEEE 信越支部セッション 主催者名 電子情報通信学会信越支部・IEEE 信越支部 開催日 平成19年9月29日
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000214836)長野日本無線株式会社 (140)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 平成19年度 電子情報通信学会信越支部大会・IEEE 信越支部セッション 主催者名 電子情報通信学会信越支部・IEEE 信越支部 開催日 平成19年9月29日
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000214836)長野日本無線株式会社 (140)
【Fターム(参考)】
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