説明

地山の穿孔方法、及びそれに用いる排泥促進剤

【課題】トンネル工事等において地山(特に粘性地山)に穿孔する際に、くり粉の排出性を向上して、穿孔効率を向上する。
【解決手段】穿孔ドリルを用いて地山に穿孔する際に、固有粘度(30℃、1N−NaCl)が0.05〜2.5dl/gである水溶性のカチオンポリマー及びノニオンポリマー(例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチルクロライド4級化物重合体、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体、(メタ)アクリルアミド重合体など)から選択される少なくとも1種の水溶性ポリマーを含む排泥促進剤を穿孔水に配合し、配合した穿孔水を噴射しながら穿孔ドリルにより穿孔する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル工事などにおいて穿孔ドリルを用いて地山に穿孔する穿孔方法、及び、かかる穿孔時に穿孔水に配合することで孔からの排泥を促進するための排泥促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にトンネル工事においては、地山に穿孔ドリルを使用してロックボルトやアンカーボルトの装着孔、火薬装填孔などを穿孔することが行われている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
その際、穿孔水として大量の水を使用し、その水圧でくり粉を排出しながら穿孔する方法が取られている。しかしながら、かかる従来の穿孔方法では、穿孔水の水量が多いため、孔壁の剥落や、地山が緩みやすいなどの問題がある。また、特に、粘土鉱物を多く含む粘性地山では、穿孔ドリルの先端に取り付けられる穿孔ビットへのくり粉の付着が多くなり、またその粘性により除去しにくいため、穿孔効率に劣り、穿孔水量が更に増大する傾向にある。
【0004】
特許文献1には、トンネル工事における長尺鋼管フォアパイリング工法において、穿孔水として天然高分子物質、半合成高分子物質又は合成高分子物質を配合した水溶液を用いて穿孔することが提案されている。この穿孔技術において、穿孔水に配合される高分子物質は、孔壁にぶつかると同時にくり粉と衝突して混合され、孔壁表面に付着することで、地山への水の侵入を抑制して、地山の緩みを抑えるものである。そのため、同文献で用いられている高分子物質は、一般に粘着剤ないし増粘剤として用いられるものであり、その粘着性により、くり粉を孔壁表面に付着させるものである。
【0005】
特許文献2には、トンネル工事における穿孔に際し、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムとヒドロキシプロピルメチルセルロースの混合物からなる起泡剤を用いて、穿孔水を泡状にし、これを掘削箇所に噴出しながら穿孔を行うことが提案されている。この穿孔技術では、気泡を用いて穿孔することにより、孔壁の脱落を抑えて安定した穿孔を可能にすることで、水の使用量を削減できるとされている。
【0006】
これらの文献に開示の穿孔技術では、通常の地山に対しては穿孔水の減少ができるなどの効果が得られたとしても、くり粉の排出促進には繋がりにくいものである。特に、粘性地山においては、上記のような粘着剤ないし増粘剤として用いられる高分子物質を配合した穿孔水では、くり粉と混合されてできる泥水の粘度が上昇してしまい、よって、くり粉はかえって排出しにくくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−34881号公報
【特許文献2】特開2009−102838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、くり粉の排出性を向上することでき、それにより穿孔効率を向上することができる排泥促進剤、及びそれを用いた地山の穿孔方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る排泥促進剤は、地山に穿孔する際に穿孔水に配合することで孔からの排泥を促進するための排泥促進剤であって、1N塩化ナトリウム水溶液中30℃で測定した固有粘度が0.05〜2.5dl/gである水溶性のカチオンポリマー及びノニオンポリマーから選択される少なくとも1種の水溶性ポリマーを含有するものである。
【0010】
また、本発明に係る地山の穿孔方法は、穿孔ドリルを用いて地山に穿孔する穿孔方法であって、1N塩化ナトリウム水溶液中30℃で測定した固有粘度が0.05〜2.5dl/gである水溶性のカチオンポリマー及びノニオンポリマーから選択される少なくとも1種の水溶性ポリマーを含む排泥促進剤を穿孔水に配合し、配合した穿孔水を噴射しながら穿孔ドリルにより穿孔することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記排泥促進剤を含む穿孔液を用いて穿孔することにより、くり粉の流動性が向上し、くり粉の排出効率を向上することができる。そのため、穿孔スピードの向上や穿孔水の減量化が図られ、穿孔効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】穿孔方法の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0014】
本発明に係る排泥促進剤は、固有粘度(30℃、1N−NaCl)が0.05〜2.5dl/gである水溶性のカチオンポリマー及びノニオンポリマーから選択される少なくとも1種の水溶性ポリマーを含有するものである。このような特定の固有粘度を持つ水溶性のノニオンあるいはカチオンポリマーであると、水中において微細なくり粉粒子(粘性地山を対象とする場合は粘土粒子)を凝集させて大きな粒子を形成することができ、大粒子化により水と分離させることで粘度が下がり、くり粉の流動性を向上できるものと考えられる。そのため、かかる水溶性ポリマーを穿孔水に配合して用いることにより、くり粉の流動性を向上して、削孔された孔からのくり粉の排出性、即ち、排泥を促進することができる。
【0015】
上記固有粘度は、試料(水溶性ポリマー)の1N−NaCl溶液を作製し、キャノンフェンスケ粘度計による流下時間(30℃)を測定して次式にて算出される。
【数1】

【0016】
本発明では、該固有粘度が0.05〜2.5dl/gの範囲内のものが用いられる。これは、水道水などの浄水処理に一般に用いられている凝集剤よりも低重合度のものを用いることを意味しており、かかる低重合度のカチオンあるいはノニオンポリマーを用いることにより、穿孔時のくり粉の排出性を向上することができる。該固有粘度が0.05dl/g未満では、重合度が低すぎて凝集性に劣り、くり粉の流動性の向上効果に劣る。逆に、該固有粘度が2.5dl/gを超えると、水溶性高分子としての粘性を付与する効果が大きくなって、くり粉の排出性が損なわれてしまい、また、穿孔水そのものの粘度も高くなることで、穿孔作業性が損なわれてしまうおそれがある。固有粘度は、より好ましくは0.1〜1.5dl/gである。
【0017】
上記水溶性ポリマーとしては、固有粘度(30℃、1N−NaCl)が0.05〜2.5dl/gである限り、種々のカチオンポリマーやノニオンポリマーを用いることができ、それらをいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。好ましい具体例として、カチオンポリマーとしては、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの4級化物または塩酸塩の重合体、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの4級化物または塩酸塩の重合体、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体などが挙げられ、ノニオンポリマーとして、(メタ)アクリルアミド重合体などが挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味し、同様に、「(メタ)アクリルアミド」とは、アクリルアミド及び/又はメタクリルアミドを意味する。
【0018】
上記(メタ)アクリルアミド重合体は、(メタ)アクリルアミドの重合体であって、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミドが好ましく用いられる。上記(メタ)アクリルアミドには、ジメチルアクリルアミドなどのN−置換型の(メタ)アクリルアミド誘導体類も含まれる。また、本発明の効果を損なわない限り、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステルなどの他のビニル系モノマーとの共重合体であってもよい。
【0019】
上記ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの4級化物または塩酸塩の重合体としては、ジアルキル(C1〜3)アミノアルキル(C2〜4)(メタ)アクリレートのアルキルハライドまたはアラルキルハライドによる4級化物の重合体、または、ジアルキル(C1〜3)アミノアルキル(C2〜4)(メタ)アクリレートの塩酸塩の重合体が挙げられる。ここで、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。また、4級化を行うアルキルハライドとしては、メチルクロライド、エチルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、メチルアイオダイド、エチルアイオダイドなどが挙げられ、アラルキルハライドとしては、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイドなどが挙げられる。これらの中でも、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチルクロライド4級化物重合体が好ましく用いられ、特には、ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルクロライド4級化物ホモポリマーが好ましく用いられる。なお、本発明の効果を損なわない限り、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、ジメチルジアリルアンモニウムクロライドなどの他のビニル系モノマーとの共重合体であってもよい。
【0020】
上記ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの4級化物または塩酸塩の重合体としては、ジアルキル(C1〜3)アミノアルキル(C2〜4)(メタ)アクリルアミドのアルキルハライドまたはアラルキルハライドによる4級化物の重合体、または、ジアルキル(C1〜3)アミノアルキル(C2〜4)(メタ)アクリルアミドの塩酸塩の重合体が挙げられる。ここで、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。また、4級化を行うアルキルハライドとしては、メチルクロライド、エチルクロライド、メチルブロマイド、エチルブロマイド、メチルアイオダイド、エチルアイオダイドなどが挙げられ、アラルキルハライドとしては、ベンジルクロライド、ベンジルブロマイドなどが挙げられる。
【0021】
上記ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体としては、ポリ(ジメチルジアリルアンモニウムクロライド)が好ましく用いられる。但し、本発明の効果を損なわない限り、アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの4級化物または塩酸塩などの他のビニル系モノマーとの共重合体であってもよい。
【0022】
本発明に係る排泥促進剤には、上記水溶性ポリマーの他に、本発明の効果を損なわない範囲で、消泡剤などの添加剤を適宜含有することができる。
【0023】
以上よりなる排泥促進剤は、トンネル工事などにおいて地山に穿孔する際に孔からの排泥を促進するためのものであり、穿孔水に配合して用いられる限り、穿孔方法自体については特に限定されず、公知の穿孔方法に適用することができる。
【0024】
すなわち、トンネル工事において地山に穿孔ドリルを使用してロックボルトやアンカーボルトの装着孔、火薬装填孔などを形成する際に、穿孔水に上記排泥促進剤を配合し、配合した穿孔水を掘削箇所に噴射しながら、穿孔ドリルにより穿孔すればよい。この種の穿孔に用いられる穿孔ドリルには、一般に、先端の穿孔ビット又はその近傍に穿孔水を噴射する噴射口が組み込まれているので、穿孔水を掘削箇所に噴射しながら穿孔ビッドにより地山に穿孔することができる。
【0025】
図1は穿孔方法の一例を示すものであり、長尺鋼管フォアパイリング工法にかかるものである。この例では、穿孔装置は、穿孔ドリル(1)と、その先端にスイーベルジョイント(2)、パイプフォルダ(7)及びロッド(5)を介して取り付けられた穿孔ビット(6)と、穿孔ドリル(1)を支持するとともにロッド(5)、パイプフォルダ(7)及び長尺鋼管(8)を案内するガイドセル(9)とを備えてなる。スイーベルジョイント(2)には、穿孔水を供給する穿孔水供給装置が接続されており、穿孔水供給装置は、穿孔水タンク(10)と、圧送ポンプ(11)と、流量調整装置(12)とを備えてなる。
【0026】
長尺鋼管フォアパイリング工法では、トンネル掘削に先立って、トンネル外周にほぼ一定間隔で地山に複数(通常20〜30本程度)の穿孔を施し、先受材である直径100mm程度の長尺鋼管(8)を打設する。その際、排泥促進剤を配合した穿孔水は、穿孔水タンク(10)から圧送ポンプ(11)によって高圧で圧送され、スイーベルジョイント(2)を経てロッド(5)内に供給され、ロッド(5)先端の穿孔ビット(6)より噴射される。穿孔ビット(6)は、このように排泥促進剤が配合された穿孔水を噴射しながら、地山(20)に穿孔する。穿孔水に上記排泥促進剤が配合されていることにより、孔(21)からの排泥が促進され、穿孔スピードの向上や穿孔水の減量化等の穿孔効率を向上することができる。なお、図1に示した穿孔方法はあくまで一例にすぎず、本発明を限定するものではない。
【0027】
穿孔対象となる地山としては、粘土鉱物の少ない通常の地山でもよいが、粘土鉱物を多く含む粘性地山も対象とすることができ、上記排泥促進剤はかかる粘性地山の穿孔に特に好適に用いられる。上記のように、粘性地山においては水のみでは穿孔ビットへのくり粉の付着が大きく、またこれを除去しにくいのに対し、該排泥促進剤を配合しておくことで、くり粉の流動性が向上して、穿孔ビッドへの付着を抑え、孔からの排出を促進することができるからである。
【0028】
粘性地山としては、特に限定するものではないが、粘板岩、蛇紋岩、泥岩、頁岩、千枚岩、安山岩、火山灰質粘性土などからなる地山が挙げられる。特に、粘板岩からなる粘性地山に好適である。
【0029】
穿孔水への排泥促進剤の配合濃度は、特に限定するものではないが、上記水溶性ポリマーの濃度で、0.5〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは、1〜3重量%である。穿孔水としては、通常、水に上記排泥促進剤を添加し溶解させた水溶液が用いられるが、本発明の効果を損なわない範囲内で、排泥促進剤以外の他の添加剤を配合してもよい。
【0030】
また、穿孔時における穿孔水の供給量も、特に限定されず、穿孔対象となる地山の組成や、穿孔する孔の径などによって適宜設定することができ、例えば、毎分20〜200リットル程度とすることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
[薬剤aの合成]
2リットルのセパラブルフラスコに、50重量%アクリルアミド水溶液400g、次亜リン酸ソーダ10g、トリエタノールアミン0.04g、過硫酸アンモニウム0.3g、蒸留水600gを仕込み、窒素流入下、75℃×4時間反応させて、薬剤aとしてポリアクリルアミドを得た。得られたポリアクリルアミドの固有粘度(30℃、1N−NaCl)は0.15dl/gであった。
【0033】
[薬剤bの合成]
次亜リン酸ソーダを6gに変更した以外は、薬剤aと同様に合成して、薬剤bとしてのポリアクリルアミドを得た。得られたポリアクリルアミドの固有粘度(30℃、1N−NaCl)は0.31dl/gであった。
【0034】
[薬剤cの合成]
2リットルのセパラブルフラスコに、78重量%ジメチルアミノエチルメタクリレート・メチルクロライド4級化物水溶液250g、次亜リン酸ソーダ0.12g、過硫酸アンモニウム2.5g、蒸留水250gを仕込み、窒素流入下、75℃×4時間反応後、冷却、蒸留水500gを投入して、薬剤cとしてのジメチルアミノエチルメタクリレート・メチルクロライド4級化物ホモポリマーを得た。得られたポリマーの固有粘度(30℃、1N−NaCl)は1.05dl/gであった。
【0035】
[薬剤dの合成]
次亜リン酸ソーダを0.6gに変更した以外は、薬剤cと同様に合成して、薬剤dとしてのポリ(ジメチルジアリルアンモニウムクロライド)を得た。得られたポリマーの固有粘度(30℃、1N−NaCl)は0.62dl/gであった。
【0036】
[薬剤eの合成]
2リットルのセパラブルフラスコに、65重量%ジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液310g、次亜リン酸ソーダ2.0g、過硫酸アンモニウム2.5g、蒸留水190gを仕込み、窒素流入下、75℃×4時間反応後、冷却、蒸留水500gを投入して、薬剤eとしてのポリ(ジメチルジアリルアンモニウムクロライド)を得た。得られたポリマーの固有粘度(30℃、1N−NaCl)は0.22dl/gであった。
【0037】
[薬剤fの合成]
次亜リン酸ソーダを0.02gに変更した以外は、薬剤eと同様に合成して、薬剤fとしてのポリ(ジメチルジアリルアンモニウムクロライド)を得た。得られたポリマーの固有粘度(30℃、1N−NaCl)は2.13dl/gであった。
【0038】
[薬剤gの合成]
次亜リン酸ソーダを20gに変更した以外は、薬剤eと同様に合成して、薬剤gとしてのポリ(ジメチルジアリルアンモニウムクロライド)を得た。得られたポリマーの固有粘度(30℃、1N−NaCl)は0.02dl/gであった。
【0039】
の合成]と同様。
【0040】
[薬剤hの合成]
2リットルのセパラブルフラスコに、65重量%ジアリルジメチルアンモニウムクロライド水溶液160g、次亜リン酸ソーダ0.002g、過硫酸アンモニウム1.3g、蒸留水80gを仕込み、窒素流入下、75℃×4時間反応後、冷却、蒸留水760gを投入して、薬剤hとしてのポリ(ジメチルジアリルアンモニウムクロライド)を得た。得られたポリマーの固有粘度(30℃、1N−NaCl)は3.48dl/gであった。
【0041】
[実験室評価]
上記a〜h及び下記i、jの薬剤について、地山の穿孔を想定した排泥促進効果を評価するために、実験室にて下記の泥土流動性評価試験を実施した。
【0042】
・薬剤i:ポリアクリル酸ナトリウム(重量平均分子量=1000,000)、日本触媒(株)製「アクアリックIH」
・薬剤j:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、第一工業製薬(株)製「ハイテノール325L」
【0043】
・泥土流動性評価試験
粘板岩からなる地山を想定して北海道産粘板岩を粉砕した泥を対象泥土とし、該対象泥土30gを300mL容のポリ容器に量りとり、薬剤0.8g(純分)を添加した。これに水20gを添加して、ガラス棒で十分に混合し、ポリ容器を90°傾けたときに滑らかな流動性が得られる水量(最初に添加した20gを含む水量)を測定した。水は1gずつ追加しながら、その都度、上記流動性が得られるかどうかを評価した。なお、コントロールとして、薬剤を添加せずに井戸水をそのまま用いたものを比較試験例1とした。
【0044】
結果は表1に示す通りであり、薬剤a〜fを用いた試験例1〜6であると、コントロールである比較試験例1に比べて、滑らかな流動性が得られるまでの水量が少なく、排泥促進効果が期待できるものであった。
【0045】
これに対し、固有粘度が0.02dl/gと小さい水溶性ポリマーを用いた比較試験例2では、コントロールである比較試験例1に対して流動性の向上効果はほとんど得られなかった。また、固有粘度が大きすぎる水溶性ポリマーを用いた比較試験例3では、コントロールである比較試験例1よりも大量の水を必要とした。また、高分子量の水溶性アニオンポリマーを用いた比較試験例4でも、比較試験例3と同様に、大量の水が必要であった。比較試験例5では、40gの水量で一応の流動性は得られたものの、泡立ちの大きいものであり、粘性地山に対する泥土流動性に劣るものであった。
【表1】

【0046】
[穿孔試験評価]
北海道地区の粘板岩からなる地山に対し、穿孔機として古河ロックドリル(株)製の油圧ドリフタ「HD190」を用いて、1本当たり直径125mm×深さ12.5mの穿孔を行った。穿孔では、穿孔水として、井戸水に下記表2に示す薬剤(詳細は上記実験室評価と同じ。)を同表に記載の濃度にて配合したものを用いた。穿孔水の供給量は毎分65リットルとして、1本の穿孔に要した時間(穿孔時間)と水量(穿孔水量)を測定し、表2に結果を示した。穿孔時間と穿孔水量は2本穿孔したときの平均値である。なお、比較例1では、井戸水に薬剤を添加せずにそのまま穿孔水として用いた。
【0047】
表2に示されたように、実施例1〜4であると、穿孔水として井戸水をそのまま使用した比較例1に対し、穿孔時間が大幅に短縮され、穿孔水量を減量することができた。一般にトンネル工事では、一回のトンネル掘削に先立つ穿孔を上記のように通常20〜30本行うことからすると、このように1本当たり7〜12分間程度短縮できることは、全体の作業時間の大幅な短縮に繋がる。また、これら実施例1〜4及び比較例1の関係は、実験室評価の上記試験例1,3,5,6及び比較試験例1と略相関していることから、実験室評価において泥土流動性に劣っていた比較試験例2〜5では、実際の穿孔での排泥促進効果が期待できないことは明らかである。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、例えばトンネル工事において地山(特に粘性地山)に穿孔ドリルを使用してロックボルトやアンカーボルトの装着孔、火薬装填孔を装填する際に、くり粉の排出効率を向上するために好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1…穿孔ドリル、2…スイーベルジョイント、5…ロッド、6…穿孔ビット、7…パイプフォルダ、8…長尺鋼管、9…ガイドセル、10…穿孔水タンク、11…圧送ポンプ、12…流量調整装置、20…地山、21…孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山に穿孔する際に穿孔水に配合することで孔からの排泥を促進するための排泥促進剤であって、1N塩化ナトリウム水溶液中30℃で測定した固有粘度が0.05〜2.5dl/gである水溶性のカチオンポリマー及びノニオンポリマーから選択される少なくとも1種の水溶性ポリマーを含有する排泥促進剤。
【請求項2】
前記水溶性ポリマーが、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの4級化物または塩酸塩の重合体、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの4級化物または塩酸塩の重合体、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合体、及び、(メタ)アクリルアミド重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の排泥促進剤。
【請求項3】
穿孔ドリルを用いて地山に穿孔する穿孔方法であって、1N塩化ナトリウム水溶液中30℃で測定した固有粘度が0.05〜2.5dl/gである水溶性のカチオンポリマー及びノニオンポリマーから選択される少なくとも1種の水溶性ポリマーを含む排泥促進剤を穿孔水に配合し、配合した穿孔水を噴射しながら穿孔ドリルにより穿孔することを特徴とする地山の穿孔方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−105781(P2011−105781A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258958(P2009−258958)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】