説明

地山安定性評価方法

【課題】切土または掘削施工時及び施工後の地山安定性を高い精度で評価可能な地山安定性評価方法を提供する。
【解決手段】地山の内部にひずみ計測センサーを設置するセンサー設置ステップS4と、地山を切土または掘削施工する施工ステップS5と、地山の深度に対するひずみを計測するひずみ計測ステップS6と、該ひずみ計測ステップS6による計測結果に基いて、弾塑性FEM解析に必要な解析パラメータを逆解析する逆解析ステップS7と、該逆解析ステップS7にて逆解析した解析パラメータに基いて、切土または掘削施工による地山の安定性を弾塑性FEMにより解析する解析ステップS8とを備えているので、切土または掘削施工時及び施工後の地山安定性を高い精度で評価することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切土または掘削施工時及び施工後の地山の安定性を評価するための地山安定性評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路建設や造成工事などの土工事においては、切土または掘削施工時及び施工後の地山の安定は重要な課題であり、近年、施工後の耐用年数の長期化及び維持コストの削減につながる高精度な地山安定性評価方法の開発が要求されている。
【0003】
切土または堀削施工により、地山は除荷(応力開放)によるリバウンド(地山の緩み)やすべりが発生して、潜在的に地山の内部に弱層が存在する場合には地山の安定性が低下することになる。それに併せて、雨水、地下水の浸透が、地山緩みによるクラックによって加速されると、弱層では吸水膨張によりさらに強度が低下する。
【0004】
そこで、従来の地山安定性評価方法は、基本的には、地山を切土または掘削施工する施工ステップと、地山の内部の変形を計測する計測ステップと、該変形データに基いて解析パラメータを逆解析する逆解析ステップと、該解析パラメータにより地山の安定性をFEM解析する解析ステップと、該解析結果に基いて地山の安定性を評価する安定性評価ステップとを備えている(非特許文献1参照)。
【0005】
従来の地山安定性評価方法における計測ステップでは、主に、ボーリング孔を利用した傾斜計による変位計測または地中ひずみ計によるひずみ計測が行われている。しかしながら、前者の変位計測による計測データに基いて、FEM解析に必要な解析パラメータを逆解析しようとする場合、該計測データでは、地山の不均質な各地質の応力−ひずみ特性(各地質の材料特性)を逆解析することが難しい。すなわち、この計測データ(変位)は各地質の変位角の積分値であるため、この計測データから不均質の各地質の応力−ひずみ特性を逆解析することは困難であった。
一方、後者の地中ひずみ計においては、物理的な制約からひずみ計測点の間隔が大きく(1m程度)なるために、切土または掘削施工によって発生するひずみレベルであると、ひずみの発生は検知できるもののひずみ量及び方向などを高精度に計測することが不可能である。
【0006】
しかも、前者の傾斜計による変位計測及び後者の地中ひずみ計によるひずみ計測の両者とも、深度方向(ボーリング孔の軸方向)に対して直交する方向の変位またはひずみしか計測できないため、除荷に伴う地山のリバウンド挙動(膨張)を計測するには不向きである。さらに、これらの計測方法では、応力開放に伴うリバウンド挙動とすべり挙動との判別が難しく、かつ地山挙動は、切土または掘削施工がある程度進行してから反応し始めるため、地山のリバウンド挙動による緩みを連続的に把握することが困難であり、深度方向のひずみを併せて計測する必要があった。
【0007】
また、従来の地山安定性評価方法に採用されたFEM解析ステップでは、線形弾性などの非常に単純化した解析手法が採用されており、上述した計測ステップにて計測した地山の変位量から地山の単純な材料特性等の解析パラメータを逆解析ステップにて逆解析して、該解析パラメータに基いてFEM解析が行われていた。そのため、地山内の各地質の応力−ひずみ特性(詳細な材料特性)等が全然反映されておらず、その解析結果の信頼性(予測精度)が低かった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】石原研而,地盤工学・実務シリーズ5「切土法面の調査・設計から施工まで」,社団法人 地盤工学会,平成10年1月15日,p.314−331
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、従来の地山安定性評価方法では、特に、計測ステップにて、深度に対するひずみを高精度に計測することができず、また、解析ステップにて解析される解析結果においても信頼性が低く、切土または掘削施工時及び施工後の地山の安定性を高い精度で評価することが困難であった。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、切土または掘削施工時及び施工後の地山安定性を高い精度で評価可能な地山安定性評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明は、切土または掘削施工時及び施工後の深度方向のひずみと、該深度方向に対して直交する方向のひずみの計測が可能な既存計測手法を採用し、地山の安定性を評価する地山安定性評価方法であって、地山の内部に、深度に対するひずみを計測可能なひずみ計測センサーを設置するセンサー設置ステップと、該センサー設置ステップ後、地山を切土または掘削施工する施工ステップと、該施工ステップ後、前記ひずみ計測センサーにより地山の深度に対するひずみを計測するひずみ計測ステップと、該ひずみ計測ステップによる計測結果に基いて、弾塑性FEM解析に必要な解析パラメータを逆解析する逆解析ステップと、該逆解析ステップにて逆解析した解析パラメータに基いて、切土または掘削施工による地山の安定性を弾塑性FEMにより解析する解析ステップと、を備えたことを特徴とするものである。
請求項1の発明では、特に、計測ステップにて、ひずみ計測センサーを採用して地山内部の深度に対するひずみを計測しているので、従来不可能であった、不均質な各地質の応力−ひずみ特性の解析パラメータを逆解析することが可能であり、しかも、解析ステップでは、切土または掘削施工によるリバウンド挙動や弱層の剛性低下などのすべり挙動等を高い精度で予測可能な弾塑性FEMが採用され、該弾塑性FEMにおいて、不均質な各地質の応力−ひずみ特性等の解析パラメータにより地山挙動を解析するので、切土または掘削施工時及び施工後の地山の安定性を高い精度で評価することができる。
本発明の地山安定性評価方法に用いるひずみ計測センサーとしては、例えば、光ファイバセンサー(特開2006−38794号公報)がある。
【0012】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明において、前記解析ステップによる解析結果の妥当性を評価する妥当性評価ステップと、該妥当性評価ステップにて、解析結果に妥当性があると判断された場合には該解析結果に基いて地山の安定性を評価する安定性評価ステップと、を備えたことを特徴とするものである。
請求項2の発明では、信頼性の高い地山安定性の評価が可能であるので、施工時の補強工事の有無を判断できると共に、補強工事の内容についても最適なものを選択することができ、しかも、施工後の耐用年数の長期化及び維持コストの削減が可能になる。
【0013】
請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明において、前記逆解析ステップは、深度方向のひずみと、該深度方向に対して直交する方向のひずみ計測結果に基いて実施されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の地山安定性評価方法によれば、切土または掘削施工時及び施工後の地山の安定性を高い精度で評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、切土または掘削施工後の地山を模式的に示した図である。
【図2】図2は、ひずみ計測センサーにより計測された深度に対するひずみの計測結果を示す図であり、(a)は深度方向のひずみの計測結果を示し、(b)は深度方向に対して直交する方向のひずみの計測結果を示す図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態に係る地山安定性評価方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1〜図3に基いて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係る地山安定性評価方法は、図1に示す切土または掘削施工(以下、掘削施工として説明する)時及び施工後の地山1のリバウンド挙動、すべり挙動及び沈下挙動等を把握し、施工時及び施工後の地山1の安定性を正確に評価するものである。
本発明の実施の形態に係る地山安定性評価方法を、図3のフローに基いて図1及び図2も参照しながら説明する。
まず、地質調査ステップS1では、地山1の表面から調査ボーリング孔を開け、ボーリングコアにより地質調査が行われる。その後、地質分布図作成ステップS2にて、地質分布図が作成される。
次に、事前予測ステップS3では、堀削施工の前段階で、堀削施工時の地山挙動を弾塑性FEMにて簡易的に解析する。該弾塑性FEMでは、地質分布図より把握される解析パラメータに基いて解析が行われ、掘削施工による要留意項目等が抽出される。
次に、センサー設置ステップS4では、図1に示すように、地山1の要留意地点にボーリング孔2を所定深さで開け、該ボーリング孔2内に、深度に対するひずみを計測可能なひずみ計測センサー3が設置される。なお、ひずみ計測センサー3は、光ファイバセンサーを採用してもよい。
該ひずみ計測センサー3は、深度に対する、深度方向のひずみと深度方向と直交する方向のひずみとがそれぞれ計測可能であり、図2(a)は、深度に対する深度方向のひずみの計測結果で、図2(b)は、深度に対する、深度方向と直交する方向のひずみの計測結果である。
【0017】
次に、施工ステップS5では、図1に示すように、地山1の一部を掘削施工する。この時、地山1の試料を採取して、物性及び力学試験(例えば、三軸圧縮/引張試験やせん断試験)が並行して行われ、採取した試料の応力−ひずみ特性等を計測する。
次に、計測ステップS6では、ひずみ計測センサー3により地山内部の深度に対するひずみが連続的に計測される。
次に、逆解析ステップS7では、計測ステップS6による計測結果及び採取した試料の特性等現在まで取得したデータに基いて、弾塑性FEM解析に必要な解析パラメータを逆解析する。この解析パラメータは、従来まで取得が困難であった、特に、地山1の各地質の弾塑性解析パラメータ、すなわち地山1の各地質の応力−ひずみ特性等である。
次に、解析ステップS8では、逆解析ステップS7にて逆解析した解析パラメータに基いて、施工後の地山1の安定性を弾塑性FEMにより解析する。この解析結果は、施工後の地山1全体のひずみ−応力分布図等にて出力される。
該弾塑性FEM解析(tij-model)は、地山1の各地質の材料それぞれの特性に応じて、硬化/軟化,圧縮/膨張などの力学挙動を詳細に解析可能であり、これにより、掘削施工によるリバウンド挙動や弱層の剛性低下などのすべり挙動等の再現性が高く、かつ定量的な予測精度の高い解析能力を有している。
【0018】
次に、妥当性評価ステップS9では、解析ステップS8による解析結果に妥当性があるか否かが判断される。この判断により妥当性があると判断された場合には、解析パラメータの同定ステップS12を経由して、次段階の施工における1次地山安定性評価ステップS13に進む。一方、妥当性評価ステップS9において、解析ステップS8による解析結果に妥当性がないと判断された場合には追加調査・計測の評価ステップS10に進む。
次に、追加調査・計測の評価ステップS10では、新にボーリング孔を施工して該ボーリング孔内にひずみ計測センサー3を設置する必要性があるか否かが判断される。この判断により必要性があると判断された場合には、新にボーリング孔を施工して該ボーリング孔内にひずみ計測センサー3を設置するひずみ計測センサー設置ステップS11を経由して計測ステップS6に進む。一方、追加調査・計測の評価ステップS11において、新たなボーリング孔内にひずみ計測センサー3を設置する必要性がないと判断された場合には、解析ステップS8に戻り、解析パラメータの内容等を再度検討・確認し、再び、弾塑性FEMにて解析する。
【0019】
一方、妥当性評価ステップS9にて、解析ステップS8による解析結果に妥当性があると判断された場合には、解析パラメータの同定ステップS12を経由して、1次地山安定性評価ステップS13に進む。該1次地山安定性評価ステップS13では、解析ステップS8による解析結果に基いて、1次補強工事S14の必要性が判断される。その結果、1次補強工事S14が必要ないと判断された場合には、施工ステップS5に進み、次段階の堀削施工が行われ、以後フローが実行される。一方、1次補強工事S14が必要であると判断された場合には、1次補強工事S14、例えばロックボルト、押え盛土及び水抜き等が行われる。その後、2次地山安定性評価ステップS15において、事前に実施された、1次補強工事S14に基づくFEM解析の解析結果に基いて、より強度を高くする2次補強工事S16の必要性が判断される。その結果、2次補強工事S16が必要ないと判断された場合には、施工ステップS5に進み、次段階の堀削施工が行われ、以後フローが実行される。一方、2次補強工事S16が必要であると判断された場合には、2次補強工事S16、例えばグランドアンカー、抑止杭及びマイクロバイル等が行われる。その後、3次地山安定性評価ステップS17において、事前に実施された、2次補強工事S16に基づくFEM解析の解析結果に基いて、さらに強度を高くする高次補強工事の必要性が判断される。その結果、高次補強工事が必要ないと判断された場合には、施工ステップS5に進み、次段階の堀削施工が行われ、以後フローが実行される。高次補強工事が必要であると判断された場合には、その旨、高次補強工事が行われる。
なお、図3のフローに沿って地山安定性評価が行われている間、ひずみ計測センサー3はボーリング孔2内に設置された状態が維持される。
【0020】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る地山安定性評価方法では、ひずみ計測センサー3により、切土または掘削施工時の深度に対するひずみを計測することが可能になり、逆解析ステップS7において、弾塑性FEMの解析パラメータとして、特に、地山1の各地質の応力−ひずみ特性を逆解析することができ、解析ステップS8において、該解析パラメータに基いて弾塑性FEMにて地山挙動を解析するので、切土または掘削施工時及び施工後の地山安定性を高い精度で評価することができる。
しかも、本発明の実施の形態に係る地山安定性評価方法では、地山1の切土または掘削施工が完了した後でも、地山安定性が高い精度で把握できているので、耐用年数の長期化及び維持コストの削減を実現することが可能になる。
【符号の説明】
【0021】
1 地山,2 ボーリング孔,3 ひずみ計測センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切土または掘削施工時及び施工後の深度方向のひずみと、該深度方向に対して直交する方向のひずみの計測が可能な既存計測手法を採用し、地山の安定性を評価する地山安定性評価方法であって、
地山の内部に、深度に対するひずみを計測可能なひずみ計測センサーを設置するセンサー設置ステップと、
該センサー設置ステップ後、地山を切土または掘削施工する施工ステップと、
該施工ステップ後、前記ひずみ計測センサーにより地山の深度に対するひずみを計測するひずみ計測ステップと、
該ひずみ計測ステップによる計測結果に基いて、弾塑性FEM解析に必要な解析パラメータを逆解析する逆解析ステップと、
該逆解析ステップにて逆解析した解析パラメータに基いて、切土または掘削施工による地山の安定性を弾塑性FEMにより解析する解析ステップと、
を備えたことを特徴とする地山安定性評価方法。
【請求項2】
前記解析ステップによる解析結果の妥当性を評価する妥当性評価ステップと、
該妥当性評価ステップにて、解析結果に妥当性があると判断された場合には該解析結果に基いて地山の安定性を評価する安定性評価ステップと、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の地山安定性評価方法。
【請求項3】
前記逆解析ステップは、深度方向のひずみと、該深度方向に対して直交する方向のひずみ計測結果に基いて実施されることを特徴とする請求項1または2に記載の地山安定性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−196306(P2010−196306A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40597(P2009−40597)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(505398963)西日本高速道路株式会社 (105)
【Fターム(参考)】