説明

地山補強体および地山補強体の施工方法

【課題】 軟質で低強度の地山に掘削したトンネル周辺の地山の変位を確実に抑止することができる地山補強体を提供する。
【解決手段】 トンネルの天端面から地山に穿設された孔1内に挿入されて、その外周面と孔壁との間にモルタル等の硬化性材料を注入、硬化することにより孔内に固着された管体2と、この管体2内に注入、硬化してなる硬化性材料によって形成された固結体4と、管体2の基部内の中心部に配設された上記固結体4内に埋設、一体化してなる短尺の棒体3と、管体2の基端開口部からトンネル内に突出している棒体3の基端部をトンネル周壁面22上に定着具5により固着した構成とし、地山の変位によって該棒体3に引張力が作用した時に、まず、棒体3と管内固結体4とによる引き抜き抵抗力によって変位を抑止し、次いで、管体2の引き抜き抵抗力によって変位を抑止するように構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掘削されたトンネル周辺の地山を補強するための地山補強体と、その地山補強体の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、軟質で低強度の地山にトンネルを掘削した場合、地山の塑性化からトンネル周辺の地山が緩んでトンネル内空側に向かって大きく変位し、崩壊する虞れがあるので、この対策としてトンネル周壁面から地中に鉄筋を打設する、所謂、ロックボルトによる補強が行われている。しかしながら、棒状のロックボルトでは比較的に耐力が小さく、その上、このロックボルトを打設した孔とロットボルトとの隙間に充填しているモルタルとの付着面積も小さく、引き抜き抵抗力が弱いために、上記大きな変位が予想される地山においては、その変位によって作用する引張力によって該ロックボルトが破断したり、孔からトンネル内に向かって抜け出てしまい、地山補強体としての機能を果たすことができないといった問題点がある。
【0003】
このため、例えば、特許文献1に記載されているように、高い耐力を有し、且つ、モルタルとの付着面積も大きくとることができる補強体として、棒状ではなく管状のロックボルトを採用し、この管状ロックボルトをトンネル周壁面から地中に穿設される孔内に打設したのち、トンネル内からモルタル等の充填材を管内に注入すると共に、管壁に設けている多数の小孔から上記孔壁と該ロックボルトの管壁との間の隙間に注入することが行われている。
【特許文献1】特開昭62−41899号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような管状のロックボルトでは、棒状のロックボルトとの断面積比或いは周面積比に応じた耐力を発揮することができても、大きな変位が生じる地山の場合にはその変位に対する追随性、即ち、靱性に難点があり、また、コンクリートが吹き付けられたトンネル掘削壁面からトンネル内に露出しているこのロックボルトの基端部をトンネル掘削壁面に定着するには、該基端部の内周面に螺子を刻設しておき、この雌螺子部にプラグ体を螺合させると共にロックボルトの基端部からトンネル内に突出させた該プラグ体の端部に座金の中央孔を挿通させて該座金をトンネル掘削壁面に当接させ、この状態でプラグ体の端部外周面に設けている雄螺子部にナットを螺着させるという煩雑な作業を要すると共に、この管状のロックボルトの基端部内周面に螺子を刻設すると該基端部の管壁の肉厚が薄くなってその螺子部分が弱体部となり、地山が変位した際に該ロックボルトに作用する引張力によって破損し、ロックボルトによる地山の補強機能が十分に発揮できなくなるといった問題点があった。
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、地山が大きく変位しようとしてもその変位に対抗する大きな靱性と高い耐力、即ち、トンネル内空側への変位に対する抵抗機能を発揮して地山を確実に補強することができる地山補強体とその施工方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の地山補強体は、請求項1に記載したように、掘削されたトンネルの周辺地山を補強する地山補強体であって、トンネル周壁面より外方に向かって地山に穿設された孔内に挿入、固定された剛性を有する管体と、この管体内に挿入された剛性を有する棒体と、管体と棒体間の隙間に硬化性材料を注入、硬化してなる管内固結体とから構成している。
【0007】
このように構成した地山補強体において、請求項2に係る発明は、地山に穿設された孔と管体外周面との間の空隙に硬化性材料を注入、硬化させることにより管体を孔内に固定していることを特徴とする。
【0008】
さらに、請求項3に係る発明は、上記管体の外周面に凸部を一体に設けていることを特徴とし、請求項4に係る発明は、上記棒体の外周面に凸部を一体に設けていることを特徴とする。
【0009】
請求項5に係る発明は、上記管体の長さを棒体よりも長くしてこの管体の基端部内の中心部に該棒体を挿入した状態で配設していることを特徴とし、請求項6に係る発明は、管体をトンネル周壁面から地中に斜め前方に向かって埋設していることを特徴とする。
【0010】
また、請求項7に係る発明は、トンネル周壁面から地中に向かって埋設している上記管体の基端部をトンネル周壁面に吹付けられたコンクート層内に埋設する一方、この管体内に挿入している上記棒体の基端部を上記コンクリート層からトンネル内に突出させ、その突出端部を定着具によって固定した構造としている。
【0011】
請求項8に係る発明は、掘削されたトンネルの周辺地山を補強する上記地山補強体の施工方法であって、トンネル周壁面から外方に向かって地山に孔を穿設すると共にこの孔内に剛性を有する管体を挿入、固着する工程と、この管体内に剛性を有する棒体を挿入する工程と、挿入した棒体と管体との間の隙間に硬化性材料を注入して硬化させることにより管体と棒体とを一体化させる工程とからなることを特徴とする。
【0012】
このように構成した地山補強体の施工方法において、請求項9に係る発明は、硬化性材料の供給孔を有し且つ中心部に上記棒体の基端部を挿通、支持させているキャップ体を上記管体の基端開口部に挿着し、このキャップ体に設けている上記注入孔を通じてトンネル内から硬化性材料を管体と棒体との隙間に注入することを特徴とする。
【0013】
さらに、請求項10に係る発明は、上記管体と棒体との隙間に硬化性材料を注入後、トンネル周壁面にコンクリートを吹き付けてトンネル周壁面から突出している管体の基端部をこの吹き付けコンクリート層内に埋設させると共に、管体の基端から突出している上記棒体の突出端部をこの吹き付けコンクリート層からトンネル内に突出させた状態にして該突出端部を定着具により固定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によれば、地山補強体を、トンネル周壁面より外方に向かって地山に穿設された孔内に挿入、固着された剛性を有する管体と、この管体内に挿入された剛性を有する棒体と、管体と棒体間の隙間に硬化性材料を注入、硬化してなる管内固結体とから構成しているので、トンネル周辺の地山のトンネル内空側に向かう変位により、管体及び管内固結体を介して棒体に引き抜き方向の引張力が作用するが、上記棒体が管体内の固結体と一体化していると共に該固結体も管体の内周面に固着した状態でこれらの棒体と管内固結体とが管体によって拘束されているから、棒体に対する管内固結体の付着性能が高められると共に抵抗力が増大して極めて高い靱性と耐力を発揮することができ、棒体が破断して該棒体による抵抗機能がなくなっても管体が抵抗機能を発揮してトンネル周辺の地山を確実且つ強固に補強することができる。
【0015】
上記地山補強体において、請求項2に係る発明によれば、地山に穿設された孔と管体外周面との間の空隙に硬化性材料を注入、硬化させることにより管体を孔内に固着しているので、管体を地山に強固に固着して一体化させることができ、所定の引き抜き抵抗力を発揮させることができる。
【0016】
さらに、請求項3に係る発明によれば、上記管体の外周面に凸部を一体に設けているので、上記地山に穿設された孔と管体との間の隙間に注入、硬化している硬化性材料にその凸部が食い込み状態に係止して管体の引き抜き抵抗をさらに増強させることができ、地山の変位に伴う引張力に抗しての補強体全体によるトンネル周壁面の確実な支保機能を奏することができる。
【0017】
同様に、請求項4に係る発明によれば、上記棒体の外周面にも凸部を一体に設けているので、該凸部が管体内の硬化している固結体に食い込み状態に係止して上記管体と同様に大きな引き抜き抵抗力を発揮することができる。
【0018】
また、棒体の伸びにより管内固結体に発生する半径方向放射状の亀裂によって、管内で硬化している固結体が見掛け上の体積膨脹するのを管体によって拘束するので、棒体が管内固結体によって締めつけられた状態となって引き抜き抵抗力および靱性が増大し、この引き抜き抵抗力や靱性が棒体の表面に上記凸部や凹凸粗面を形成しておくことによって一層増大することになる。従って、棒体が引き抜き時の弾性変形の限界に達したのちにおいても、引張力によって管内固結体中に亀裂を発生させながら強力な引き抜き抵抗力を発揮し、トンネル周辺の地山を強固に支持しておくことができる。
【0019】
また、棒体には該棒体に作用する引張力に対する破断強度を越える引き抜き抵抗力は不要であるため、請求項5に記載したように、棒体の長さを管体よりも短く形成しておいて、該棒体を管体内で硬化している固結体の基部内における中心部に配設しておくことができ、棒体の破断後においては、棒体の長さよりも長い管体によって地山の変形に対する耐力を発揮させてトンネル周辺の地山を補強することができる。また、棒体を管体の横断方向中央部に配設しているため、上記した管内固結体の体積膨脹を管体が拘束することに起因する効果を均一且つ有効に発揮させることができる。さらにまた、請求項6に記載したように、この管体をトンネル周壁面から外方に向かって斜め前方に埋設しておくことによって、上記引き抜き抵抗力と共にその曲げ剛性によるトンネル周辺の地山の支保機能も期待することができる。
【0020】
さらに、請求項7に係る発明によれば、トンネル周壁面から地中に向かって埋設している上記管体の基端部をトンネル周壁面に吹付けられたコンクート層内に埋設する一方、この管体内に挿入している上記棒体の基端部を上記コンクリート層からトンネル内に突出させ、該突出端部を定着具によって上記コンクリート層を層着しているトンネル周壁面上に固定した構造としているので、吹き付けコンクリート層によってトンネル周壁面を補強して該周壁面からの地盤の崩落等を防止することができるのは勿論、定着具として例えば、上記棒体の突出端部に被せたプレート(受圧板)とテーパーコーンと突出端部に螺合させたナットとから構成しておくことによって、上記プレートをコンクリート層上に全面的に密着させた状態にしてナットによりテーパコーンを介して該プレートをコンクリート層に強固に座着させることができ、従って、トンネル周辺の地山がトンネル周壁面に向かって変位しようとする力をこの定着具を介して棒体に確実に受止させることができると共に、プレートの変形状態をトンネル内から直視することによって地山の状態を簡単に把握することができ、爾後における施工管理に役立たせることができる。
【0021】
請求項8に係る発明は、掘削されたトンネルの周辺地山を補強する上記地山補強体の施工方法であって、トンネル周壁面から外方に向かって地山に孔を穿設すると共にこの孔内に剛性を有する上記管体を挿入、固定する工程と、この管体内に剛性を有する上記棒体を挿入する工程と、挿入した棒体と管体との間の隙間に上記硬化性材料を注入して硬化させることにより、該硬化した管内固結体を介して管体と棒体とを一体化させる工程とからなることを特徴とするものであるから、補強すべきトンネル周辺の地山に管体をトンネル内から簡単且つ正確に打設することができると共に管体内に対する棒体の配設や硬化性材料の注入作業も容易に行え、地山補強体を能率よく施工することができる。
【0022】
上記地山補強体の施工方法において、請求項9に係る発明は、硬化性材料の供給孔を有し且つ中心部に棒体の基端部を挿通、支持させているキャップ体を管体の基端開口部に挿着し、このキャップ体に設けている上記供給孔を通じてトンネル内から硬化性材料を管体と棒体との隙間に注入することを特徴とするものであるから、管体の基端開口部にキャップ体を挿着するだけで、棒体を管体の基部内における中心部に簡単且つ正確に配設することができると共に、このキャップ体によって管体の基端開口部を確実に密閉させた状態にして該キャップ体に設けている供給孔を通じて管体内にモルタル等の硬化性材料を容易に注入することができる。
【0023】
さらに、請求項10に係る発明によれば、管体と棒体との隙間に硬化性材料を注入後、トンネル周壁面にコンクリートを吹き付けてトンネル周壁面から突出している管体の基端部をこの吹き付けコンクリート層内に埋設させると共に、管体の基端から突出している上記棒体の突出端部をこの吹き付けコンクリート層からトンネル内に突出させた状態にして該突出端部を定着具により上記吹き付けコンクリート層を層着しているトンネル周壁面上に固定することを特徴とするものであるから、この吹き付けコンクリート層によってトンネル周壁面に地盤の崩落等を防止する補強層を形成することができると共にトンネル周壁面上にこのコンクリート層を介して定着具を強固に固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の具体的な実施の形態を図面について説明すると、図1において、トンネル21の周辺地山20を補強する地山補強体Aは、任意の掘削手段によって掘削されたトンネル掘削壁面のトンネル周壁面22における天端面から上方の地山20内に斜め前方に向かって放射状に穿設された所定深さの直状の孔1内に挿入、固着されている鋼管からなる管体2と、この管体2内の中心部に挿入され且つ基端部(後端部)を管体2の基端開口部からトンネル21内に突出させている棒体3と、これらの管体2と棒体3間の隙間を含めて管体2内に全体に亘ってモルタル等の硬化性材料を注入、硬化してなる管内固結体4と、管体2の基端開口部から突出している棒体3の基端部を上記トンネル周壁面22上に固定させている定着具5とから構成している。
【0025】
なお、上記管体2としては、鋼管以外に硬質塩化ビニル管等の硬質合成樹脂管を使用してもよく、要するに剛性を有する管体であればよい。この管体2の管壁には内外周面間に貫通した小径の注入孔6が周方向及び長さ方向に所定の間隔を存して多数、穿設されていると共に、この管体2の外周面に、螺旋突条、又は、長さ方向に所定間隔毎に設けているリング状の突条、或いは、周方向及び長さ方向に適宜間隔毎に突設している多数の突起、さらにはサンドブラスト処理などで形成した凹凸粗面からなる凸部7を設けてあり、この凸部7をトンネル周壁面22の天端面から地山20に穿設している孔1と管体2との間の隙間に硬化性材料を注入、硬化してなる管外固結体4'に食い込み状態に係止させて管体2を孔1内に固着させていると共に、この固着によって管体2に所定の引き抜き抵抗力を発揮させるように構成している。
【0026】
さらに、トンネル周壁面22の天端面からトンネル内に臨ませているこの管体2における基端開口部はキャップ体8によって閉塞されてあり、このキャップ体8の中心部に貫設している挿通支持孔12に上記棒体3の基端部を貫通させた状態で支持させている。なお、キャップ体8としては、ゴム製であって管体2の基端開口部に内嵌、固定させるように構成しておいてもよく、或いは、金属製又は硬質合成樹脂製であってその外周面を管体2の基端開口部の内周面に螺合等によって装着するように構成しておいてもよい。また、キャップ体8は管体2内に上記固結体4を形成するための硬化性材料の注入、硬化後に管体2の開口端から取り外すように構成しておいてもよい。
【0027】
キャップ体8の中心部に基端部を挿通、支持されて上記管体2内の中心部に挿入、配設されている上記棒体3としては鉄筋棒が一般的に使用されるが、この鉄筋棒以外にPC鋼棒やワイヤ等のように引張りに対する剛性を有するものを使用してもよい。さらに、棒体3は後述するように、地山の変位により該棒体3に作用する引張りに対して、破断強度を越える引き抜き抵抗力は不要であるため、長尺の管体2の基部内に配設されるだけの長さの短い棒体を使用している。また、この棒体3の外周面には上記管体2と同様に、硬化した管内固結体4に食い込み状態に係止してこの管内固結体4との摩擦係止力、即ち、アンカー効果を増大させた凸部9が設けられている。この凸部9の形状としては、上記のように螺旋突条であってもよく、長さ方向に所定間隔毎に設けているリング状の突条であってもよく、或いは、周方向及び長さ方向に適宜間隔毎に突設している多数の突起や、サンドブラスト処理などで形成した凹凸粗面であってもよい。なお、上記管体2の内周面も凹凸粗面に形成しておくことが望ましい。
【0028】
また、キャップ体8の外周部にはトンネル21側から管体2内に貫通した硬化性材料供給孔10(図4に示す)が設けられてあり、この供給孔10を通じて上記硬化性材料を管体2内に注入、充満させると共に管体2内への注入圧によってこの管体2の管壁に設けている多数の注出孔6から該管体2と孔1との間の隙間にも硬化性材料を注入、充満させ、これらの硬化性材料の硬化によりそれぞれ形成される上記管内固結体4と管外固結体4'によって上述したように管体2内に棒体3を一体的に固着させていると共に管体2を地山20に設けた孔1内に固着させている。さらに、棒体3の基端部に該棒体3を管体2から軸心方向に引き抜こうとする引張力が作用した場合、管体2の内周面とこの内周面に固着している硬化した管内固結体4との間の引き抜き抵抗力が、孔1内に固着している管体2の引き抜き抵抗力よりも小さく、棒体3の外周面とこの外周面に固着している硬化した管内固結体4との間の引き抜き抵抗力よりも大きくなるように構成されている。
【0029】
このような引き抜き抵抗力に影響を与える要因としては、管体2や棒体3に対する硬化性材料の付着強度や管体2や棒体3等の表面積、これらの表面状態(凸部7の有無等)などが挙げられるが、これらの要因に基づいて形成した管体2や棒体3等をトンネルの掘削現場で引き抜き実験を行い、上記した引き抜き抵抗力が得られるようにすればよい。なお、軟質で低強度の地山にトンネルを掘削した場合、トンネル周辺の地山の変位はトンネル周壁面22に向かうに従って大きくなるので、上記管体2として、その先端部がこのような変位の生じない深さまで達する長さのものを使用してもよいが、その長さより短くても、管体2に引張力が作用するため、有効な地山補強体として機能することができる。また、トンネル前後方向においても、切羽から後方に位置する程、変位は大きくなるので、管体2を斜め前方に打設する場合においても、長さが短くても引張力が管体2に作用し、有効な地山補強体として機能できる。
【0030】
上記管内固結体4および管外固結体4'を形成する硬化性材料としてはモルタル、セメントミルクなどの無機系の材料が使用されるが、合成樹脂などの有機系の材料を使用してもよい。さらに、このような硬化性材料として急結性と早強性を有して早期の効果を実現するものが好ましい。
【0031】
トンネル周壁面22における天端面から上方の地山20内に穿設された上記孔1内に挿入されてその外周面を該外周面と孔壁との間に注入された上記硬化性材料の硬化によって孔1内に固着されている上記管体2は、その基端部をトンネル周壁面22の天端面からトンネル21内に突出させていると共にその突出した基端部をトンネル周壁面22に吹き付けたコンクリート層11内に埋設されている一方、この管体1の基端開口部からトンネル21内に向かって突出している上記棒体3の基端部は上記吹き付けコンクリート層11からトンネル内に突出させてあり、その突出端部を上記定着具5によって吹き付けコンクリート層11の壁面に固定している。
【0032】
この定着具5は、中央部に上記棒体3を挿通させる円形孔(図示せず)を有する一定厚みと大きさを有する金属板からなるプレート(受圧板)5aと、このプレート5aに対向する一端面がテーパ面に形成され且つ中央部に上記棒体3を挿通させる挿通孔(図示せず)を設けているテーパーコーン5bと、棒体3の基端部に刻設している螺子部3aに螺合するナット5cとからなり、吹き付けコンクリート層11から突出している棒体3の基端部にプレート5aの円形孔とテーパーコーン5bの挿通孔を順次挿通させて該プレート5aを吹き付けコンクリート層11上に当接させると共にこのプレート5a上にテーパコーン5bのテーパ面を重ね合わせ、この状態にしてナット5cを棒体3の螺子部3aに螺合させてテーパーコーン5b上に当接させ、さらに螺締することによって上記プレート5aを吹き付けコンクリート層11上に圧着させ、棒体3の基端部をこの定着具5を介してトンネル周壁面22上に吹き付けコンクリート層11を介して固定している。
【0033】
このように構成した地山補強体Aは、図2に示すように、トンネル周方向に所定間隔毎に複数本、トンネル周壁面22の天端面から地山に向かって打設されていると共に、トンネル掘進方向に対しても図3に示すように、一定間隔毎にトンネル周壁面22の天端面から地山に向かって打設されている。さらに、その打設方向は、トンネル掘削機(図示せず)による該トンネル21の掘進方向を前側とした場合、トンネル周壁面22から外方に対して斜め前方に向かっている。
【0034】
この地山補強体Aの施工方法を図4に基づいて説明すると、軟質で低強度の地山にトンネル掘削機によって所定長さのトンネル部分が掘削される毎に、そのトンネル周壁面22にコンクリートを吹き付けてトンネル周壁面22を被覆することにより地山の劣化や肌落ち等を防止する一次吹き付けコンクリート層11a を施工したのち、この一次吹き付けコンクリート層11a の内周面に沿って鋼製のリング支保工23をトンネル21の掘進方向に所定間隔毎に施工し、しかるのち、金網11d を設置して二次吹き付けコンクリート層11b を施工し、この二次吹き付けコンクリート層11b により吹き付けコンクリートを一体化させるための筋となる上記金網11d を埋設、固定して吹き付けコンクリート11に剪断抵抗や曲げ抵抗の機能を発揮させる。
【0035】
次いで、穿孔機(図示せず)を使用してこれらの吹き付けコンクリート層11a 、11b 及び金網11d を貫通してトンネル周壁面22の天端面から斜め前方に向かって管体2が挿入可能な径を有する直状の孔1を所定深さまで穿設したのち、トンネル内から該孔1内に管体2を挿入してその基端開口部をトンネル内に臨ませた状態にすると共に、この管体2の基端開口部に硬化性材料4の供給孔10を設けているキャップ体8を嵌着することによって管体2の開口基端を密閉し、さらに、このキャップ体8の中央部に設けている挿通支持孔12に棒体3を挿通、支持させ、該棒体3を管体2の基部(口元部)内の中心部に管体2と平行に配設すると共にこの棒体3の基端部をキャップ体8からトンネル内に突出させた状態にする。
【0036】
なお、棒体3をキャップ体8の中央部に設けている挿通支持孔12に挿通、支持させた状態にして棒体3を管体2内に挿入しながらキャップ体8を管体2の基端開口部に嵌着してもよく、さらには、予め、棒体2を挿通、支持させているキャップ体8を管体2の基端開口部に嵌着しておき、この管体2を上記孔1内に挿入してもよい。
【0037】
しかるのち、、該二次吹き付けコンクリート層11b の内周面から突出した上記キャップ体8に設けている硬化性材料供給孔10に注入ホース13を挿通してトンネル21内からモルタル等の硬化性材料をこの注入ホース13を通じて管体2内に注入すると、管体2内に硬化性材料が充満してこの管体2の口元である基部内に配設されている上記棒体3をこの硬化性材料内に埋設させた状態にすると共に、管体2内に充満した硬化性材料がさらにこの管体2の管壁に穿設している多数の注入孔6から管体2の外周面と孔1との間の隙間にも注入し該隙間に充満すると共にその一部が孔1の壁面を形成している地盤内に浸透し、この状態で管体2内に注入、充満した硬化性材料とこの管体2と孔1との間に注入した硬化性材料とが硬化して、管内外の固結体4、4'を形成する。
【0038】
注入ホース13を通じての管体2内への硬化性材料の注入作業が終わると、該注入ホース13を取り外し、図1に示すように、上記二次吹き付けコンクリート層11b 上に仕上げ吹き付けコンクリート層11c を吹き付け施工して上記鋼製リング支保工23を埋設すると共に管体2の開口基端部もこの仕上げ吹き付けコンクリート層11c 内に埋設させ、管体2の開口基端から突出している棒体3の基端部(下端部)のみを該仕上げ吹き付けコンクリート層11c からトンネル21内に突出させた状態にする。
【0039】
次いで、この棒体3の基端部に定着具5のプレート5aとテーパーコーン5bとを順次挿通させて該プレート5aを吹き付けコンクリート層11上に当接させると共にこのプレート5a上にテーパコーン5bのテーパ面を重ね合わせ、この状態にしてナット5cを棒体3の螺子部3aに螺締することによって上記プレート5aを吹き付けコンクリート層11上に圧着させ、地山の緩みを防止する地山補強体Aを構成する。
【0040】
このように構成したので、トンネル周辺の地山20に弛み等による変位が発生すると、トンネル周壁面22における天端部がトンネル21に向かって変位しようとしてその圧力が、トンネル周壁面22上の吹き付けコンクリート層11に圧着している定着具5のプレート5aを介してこの定着具5により固定されている棒体3の基端部にトンネル21内に向かって軸心方向に引き抜こうとする引張力として作用する。この際、棒体3は管内固結体4と一体に管体2内に拘束されていると共にその外周面を凸部9を介してこの管内固結体4に食い込み状態で係止させているため、大きな引き抜き抵抗力を発揮して定着具5のプレート5aをトンネル周壁面22上の吹き付けコンクリート層11に圧着させた状態を保持し、トンネル周壁面22の天端面を支保する。
【0041】
さらに、棒体3に作用する引張力が大きくなると、棒体3が管体2内の固結体4に支持された状態でその引張力に応じて弾性的に伸長して引張りエネルギーを吸収しながら引き抜き抵抗力を発揮する。この際、棒体3の伸長によって棒体3の外周面に固着している上記管内固結体4がその伸長方向に一体に移動し、特に、この棒体3の外周面に突設している凸部9を食い込ませている管内固結体4の中心部分が凸部9との係止摩擦力によって棒体3の伸長方向に一体に移動して凸部9から管体2の径方向に亀裂を発生させようとする一方、凸部9からの係止を解こうとする方向、即ち、管体2の外径方向にも移動しようとして該管内固結体4が見かけ上の体積膨脹を行おうとする。
【0042】
しかしながら、管内固結体4は管体2内に拘束されているため、管体2の中心部分から外径方向に膨脹しようとする力が逆に棒体3を締め付ける方向に作用して棒体3が管体2内の固結体4と共に大きな引き抜き抵抗力と靱性を発揮することになる。
【0043】
さらに、棒体3に作用する大きな引張力によって該棒体3が破断すると、この棒体3自体による引き抜き抵抗機能がなくなるが、棒体3に作用する引張力がこの棒体3に固着している管内固結体4を介してこの管内固結体4の外周面を固着させている管体2の内周面の引き抜き抵抗力によって支持され、この引き抜き抵抗力によってトンネル周壁面22上に圧着させている定着具5のプレート5aを介してトンネル周辺の地山を確実に支保することができる。
【0044】
このように、棒体3が軸心方向の引っ張りによる弾性変形の限界に達して破断した後においても、管体2内の固結体4と該棒体3との固着力を介して管体2に引き抜き抵抗力を発揮させることができるので、棒体3としては引張に対する破断強度を越える引張力は不要となり、従って、管体2よりも短い棒体3を使用して管体2の基部内の中心部に配設しておけばよい。
【0045】
図5は上記のように構成した地山補強体Aと、この地山補強体Aに使用している鋼製の棒体3と同一の棒体からなり且つ長さが地山補強体Aの管体2と同一長さを有するロックボルトBと、地山補強体Aの管体2と同じ管体からなる鋼管Cとの引き抜き実験結果を示すもので、この図からも明らかなように、地山補強体Aにおいては、管体2がその内部の固結体4と棒体3とを拘束することによって該棒体3の管内固結体4との付着性能が高められ、ロックボルトBと比較して引張に対するエネルギー吸収性能や変形追随性等において高い靱性を発揮することが確認できる。
【0046】
また、図6はトンネル掘削機によってトンネル21を掘進するに従って、トンネル長さ方向に所定間隔毎にトンネル周壁面22の天端面から地山に上記地山補強体Aを斜め前方に向かって放射状に打設、定着した場合における軸ひずみと打設深度との関係を示すもので、図中、右側の表は、切羽からの距離とその位置に打設されている地山補強体の表示線を示してあり、中央のプロットを有する線図は切羽からの異なる位置に打設されている上記各地山補強体における管体2のトンネル周壁面(坑壁)からの深度と軸ひずみとの関係を、左側のプロットを設けていない線図は、各地山補強体における管体2の口元(基部)内に設けている短尺の棒体3の軸ひずみを示している。
【0047】
この図6から明らかなように、内部鉄筋である短尺の棒体3の軸ひずみは、上記図5に示したロックボルトBの引き抜き実験の際に認められる分布モードを示しており、軸ひずみの絶対値は鋼管からなる管体2のそれよりも大きい。このことから、最初に棒体3の引き抜き抵抗機能が発揮され、次いで管体2の引き抜き抵抗機能が発揮されることが確認できる。その結果、長尺の鋼管からなる管体2とこの管体2内にモルタル等の硬化性材料を注入硬化してなる固結体4と、この管内固結体4中に埋設された状態で管体2の基部内の中央部に配設している短尺の棒体3とからなる地山補強体Aは、トンネル支保構造としても大きな靱性と高い耐力を発揮することが検証できた。さらに、地山補強体Aをトンネル周壁面22の天端面から地山に斜め前方に向かって打設しておくことによって、管内固結体4を充填している管体2が大きな曲げ剛性を発揮して優れた地山支保機能を奏することができる。
【0048】
なお、以上の実施の形態においては、管体2をトンネル周壁面22の天端面から外方(上方)に向かって斜め前方に傾斜した状態となるように打設しているが、垂直上方に向かって打設してもよく、また、トンネル21内から地山に管体2の挿入孔1を穿設したのち、この孔1内に管体2を挿入しているが、孔1を穿設しながら管体2を打設してもよい。さらに、この孔1の壁面と管体2との固着は、孔1と管体2との間の隙間にモルタル等の硬化性材料を注入、硬化させることによって行っているが、管体2を注入孔6などが設けられていない無孔管であって、且つ、内部に注入、充填する硬化性材料の充填圧によって膨脹可能な金属製管を使用し、この膨脹によって外周面を孔壁に係止状態で固着させるように構成しておいてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明地山補強体の縦断側面図。
【図2】トンネルの周方向に放射状に配設された地山補強体の簡略縦断正面図。
【図3】トンネル長さ方向に所定間隔毎に配設された地山補強体の簡略縦断正面図。
【図4】地山補強体の施工方法を説明するための縦断側面図。
【図5】本発明地山補強体と鋼管とロックボルトとの荷重−変位線図。
【図6】本発明地山補強体の軸ひずみ線図。
【符号の説明】
【0050】
1 孔
2 管体
3 棒体
4 管内固結体
5 定着具
6 注入孔
7、9 凸部
11 コンクリート層
20 地山
21 トンネル
22 トンネル周壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削されたトンネルの周辺地山を補強する地山補強体であって、トンネル周壁面より外方に向かって地山に穿設された孔内に挿入、固着された剛性を有する管体と、この管体内に挿入された剛性を有する棒体と、管体と棒体間の隙間に硬化性材料を注入、硬化してなる管内固結体とからなることを特徴とする地山補強体。
【請求項2】
地山に穿設された孔と管体外周面との間の空隙に硬化性材料を注入、硬化させることにより管体を孔内に固着していることを特徴とする請求項1に記載の地山補強体。
【請求項3】
管体の外周面に凸部を一体に設けていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の地山補強体。
【請求項4】
棒体の外周面に凸部を一体に設けていることを特徴とする請求項1に記載の地山補強体。
【請求項5】
管体の長さは棒体よりも長く、棒体は管体の基部内における中心部に配設されていることを特徴とする請求項1又は請求項4に記載の地山補強体。
【請求項6】
管体はトンネル周壁面から外方に斜め前方に向かって埋設されていることを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項5に記載の地山補強体。
【請求項7】
管体の基端部はトンネル周壁面に吹付けられたコンクート層内に埋設されている一方、棒体の基端部はこのコンクリート層からトンネル内に突出してあり、その突出端部を定着具によって上記コンクリート層を層着しているトンネル周壁面上に固定していることを特徴とする請求項1、請求項5または請求項6に記載の地山補強体。
【請求項8】
掘削されたトンネルの周辺地山を補強する地山補強体の施工方法であって、トンネル周壁面から外方に向かって地山に孔を穿設すると共にこの孔内に剛性を有する管体を挿入、固着する工程と、この管体内に剛性を有する棒体を挿入する工程と、挿入した棒体と管体との間の隙間に硬化性材料を注入して硬化させることにより管体と棒体とを一体化させる工程とからなることを特徴とする地山補強体の施工方法。
【請求項9】
硬化性材料の供給孔を有し且つ中心部に棒体の基端部を挿通、支持させているキャップ体を管体の基端開口部に挿着し、このキャップ体に設けている上記供給孔を通じてトンネル内から硬化性材料を管体と棒体との隙間に注入することを特徴とする請求項1に記載の地山補強体の施工方法。
【請求項10】
管体と棒体との隙間に硬化性材料を注入後、トンネル周壁面にコンクリートを吹き付けてトンネル周壁面から突出している管体の基端部をこの吹き付けコンクリート層内に埋設させると共に、管体の基端から突出している上記棒体の突出端部をこの吹き付けコンクリート層からトンネル内に突出させた状態にして該突出端部を定着具により上記吹き付けコンクリート層を層着しているトンネル周壁面上に固定することを特徴とする請求項8に記載の地山補強体の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−170038(P2007−170038A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369045(P2005−369045)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(303059071)独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 (64)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】