説明

地山補強用打ち込み鋼管

【課題】 トンネル内から周囲の緩み地盤に打ち込んで地山の安定化を図る地山補強用打ち込み鋼管であって、掘削物を円滑に効率よく排出しながら打ち込みが可能な地山補強用打ち込み鋼管を提供する。
【解決手段】 前端に穿孔ビット2を固着している鋼管1内の中心部に小径の送水管3を該鋼管1の略全長に亘り配設してその前端開口部を上記穿孔ビット2に設けている注水孔4に連通させていると共にこの送水管3の外周面と鋼管1の内周面間の空隙部を全長に亘って略一定の広さを有する掘削物排出通路6に形成し、鋼管1の後端部を打撃・回転伝達部材20に接続して送水管3内を通じて供給する水を穿孔ビット2の注水孔4から噴出させながら穿孔ビット2により地山を掘削し、掘削物を穿孔ビット2に設けている取込孔5から上記排出通路6を通じて排出するように構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は緩み地盤等が存在する地山内に打ち込んで地山の安定化を図る地山補強用打ち込み鋼管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事においては、地山が軟弱な場合には地山の安定化を図りながらトンネルの掘削を行う必要があり、そのため、一定長さのトンネルを掘削する毎に掘削壁面から地山に、先端に穿孔ビットを装着している複数本の鋼管をトンネル周方向に放射状に打ち込み、これらの鋼管内を通じて地山にセメントミルク或いはウレタン樹脂液などの硬化性材料を注入、硬化させ、この状態で鋼管を地中に残置させておくことにより地盤の安定化を図ることが行われている。
【0003】
このような地山安定用打ち込み鋼管としては、例えば、特許文献1に記載されているように、鋼管の先端に装着している穿孔ビットにその前面から鋼管内に連通したスライム送り溝とエア噴出口とを設けると共に鋼管内に上記穿孔ビットと連結したダウンザホールハンマを介して内管を設けて、この内管を通じて上記穿孔ビットのエア噴出口からエアを噴出させながらダウンザホールハンマにより穿孔ビットを駆動して地山を掘削し、掘削物であるスライムを上記スライム送り溝を通じて鋼管内に取り込んで後端側から排出するように構成した構造のものが知られている。
【特許文献1】特開平8−338191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように構成した地山安定用打ち込み鋼管によれば、穿孔ビットによって掘削された掘削物は、該穿孔ビットに設けているスライム送り溝を通じて鋼管内に取り込まれるので、鋼管の外周面と掘削孔との間の隙間に回って該隙間を詰まらせることが少なくなり、従って、鋼管の前進が掘削物によって拘束されて前進不能となる虞れは減少する利点を有するが、その反面、鋼管の先端部内に設けられた穿孔ビットを打撃、駆動する上記ダウンザホールハンマは、剛直性を有し且つ断面積が大きい部材であるため、その外周面と鋼管の内周面との隙間によって形成されるスライムの排出通路が著しく狭くなり、円滑な排出ができなくなる虞れがある。
【0005】
特に、鋼管を打ち込むべき地山が脆弱の岩質の地山である場合には、掘削物が大割れして鋼管の内周面とダウンザホールハンマの外周面との間の上記隙間が該大径の掘削物によって閉塞され、掘削物の排除、ひいては鋼管の打ち込みができなくなるといった問題点が生じることになる。そのため、穿孔ビットに設けられる上記スライム送り溝の断面積の大きさを上記隙間に見合った小径のスライム送り溝に形成しておかざるを得ず、そうすると、排土効率が悪くなるばかりでなく、掘削物が鋼管の外周面と掘削孔との間に回り込んで鋼管の打ち込みが困難となる事態が発生する。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、掘削物を効率よく排出しながら地山への打ち込みを可能にすると共に、その打ち込みも円滑且つ確実に行えるようにした地山補強用打ち込み鋼管を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の地山補強用打ち込み鋼管は、請求項1に記載したように、後端部を打撃・回転伝達部材に連結するように構成した鋼管と、この鋼管の前端に一体的に固着された穿孔ビットと、鋼管内の中心部にこの鋼管の略全長に亘って配設された送水管とからなり、上記穿孔ビットには前後面間に貫通した注水孔と掘削物取込孔とが設けられていて注水孔の後端に上記送水管の前端を連結、連通させていると共に掘削物取込孔を鋼管の内周面と送水管の外周面間の空隙部によって形成した掘削物排出通路に連通させた構造としている。
【0008】
このように構成した地山補強用打ち込み鋼管において、請求項2に係る発明は、上記送水管の後端を上記打撃・回転伝達部材内の中心部に配設している給水小径接続管の前端部に前後動自在に且つ回転自在に接続するように構成したことを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に係る発明は、上記地山補強用打ち込み鋼管を、前端に穿孔ビットを固着した先頭側鋼管と、後端部を打撃・回転伝達部材に連結させる最後尾側鋼管と、これらの先頭側鋼管と最後尾側鋼管との間に介在、連結させる継ぎ足し鋼管部との複数本の鋼管から構成していることを特徴とする。
【0010】
このように複数の鋼管部からなる地山補強用打ち込み鋼管において、請求項4に係る発明は、先頭側鋼管と継ぎ足し鋼管と最後尾鋼管との中心部内に、それぞれの鋼管の長さに略等しい長さを有する送水管をそれぞれ支持ブラケットにより鋼管の内周面に支持させていると共に、隣接する鋼管内の送水管の対向端部を前後摺動自在に且つ回転自在に接続するように構成している。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、前端に穿孔ビットを固着している鋼管の後端部を打撃・回転伝達部材に連結してこの鋼管の打ち込みを行うように構成しているので、穿孔ビットに設けている注水孔に前端開口部を連結、連通させて鋼管内の中心部に該鋼管の全長に亘って配設している送水管としては、鋼管の後端側から穿孔ビットの注水孔に圧力水を供給する機能のみを有していればよく、従って、小径の送水管を採用して鋼管の内周面と該送水管の外周面との隙間によって形成される掘削物排出通路の断面空間を鋼管の全長に亘って広くしておくことができると共に、この掘削物排出通路に連通する上記穿孔ビットに設けている掘削物取込孔も大径に形成しておくことができ、穿孔ビットによって掘削される掘削物の取込孔内への取り込みが円滑且つ確実に行うことができるばかりでなく、掘削物排出通路を通じて掘削物を効率よく排出することができ、鋼管の打ち込み作業が能率よく行うことができる。
【0012】
また、請求項2に係る発明によれば、送水管の後端を打撃・回転伝達部材内の中心部に配設している給水小径接続管の前端部に前後動自在に且つ回転自在に接続するように構成しているので、打撃・回転伝達部材からの打撃回転力が送水管に直接伝達されるのを確実に防止しながら鋼管の後端側にのみに該打撃回転力を集中的に伝達させて地山に対する鋼管の打ち込みが円滑且つ確実に行うことができる。
【0013】
上記鋼管としては1本ものであってもよいが、請求項3に記載したように、前端に穿孔ビットを固着した先頭側鋼管と、後端部を打撃・回転伝達部材に連結させる最後尾側鋼管と、これらの先頭側鋼管と最後尾側鋼管との間に介在、連結させる継ぎ足し鋼管との複数の鋼管から構成しておいてもよく、このように構成しておくことにより、打ち込み長さに応じて継ぎ足し鋼管を順次継ぎ足しながら所望長さの地山補強用打ち込み鋼管を形成することができ、従って、狭いトンネル内であっても該トンネル径よりも長い補強用打ち込み鋼管を地山に打ち込んで地山の安定化を図ることができる。
【0014】
さらに、請求項4に記載した発明によれば、上記前端に穿孔ビットを固着した先頭側鋼管と、後端部を打撃・回転伝達部材に連結させる最後尾側鋼管と、これらの先頭側鋼管と最後尾側鋼管との間に介在、連結させる継ぎ足し鋼管とからなる地山補強用打ち込み鋼管において、先頭側鋼管と継ぎ足し鋼管と最後尾鋼管との中心部内に、それぞれの鋼管の長さに略等しい長さを有する送水管をそれぞれ支持ブラケットにより鋼管の内周面に支持させていると共に、隣接する鋼管内の送水管の対向端部を前後摺動自在に且つ回転自在に接続した構造としているので、鋼管同士を直列状に接続すると同時に前側の鋼管内の送水管の後端に後側の鋼管内の送水管の前端が同一管軸上に自動的に合致して簡単且つ確実に接続させることができ、従って、送水管の接続部分が外部から直視することができないにもかかわらず、鋼管の接続作業が能率よく正確に行えるものである。
【0015】
その上、鋼管が打撃・回転伝達部材によって地山に打ち込まれる時に先頭側の鋼管の前端に固着している穿孔ビットが回転してその回転力が該穿孔ビットの後端面中央部に一体に連結している先頭側の送水管に伝達されるが、この送水管の後端が後続した継ぎ足し鋼管内の送水管とは互いに回転自在に接続しているので先頭側の送水管から継ぎ足し鋼管内の送水管側への回転力の伝達が遮断され、従って、先頭側の送水管のみが穿孔ビットと一体に回転するだけで後続する送水管が穿孔ビットの回転力によって捩じれ変形することもなく、最後尾の鋼管側の送水管から穿孔ビット側の送水管側に掘削時に必要な水を円滑に流通させることができると共に鋼管の打ち込み後においては該最後尾の鋼管をその内部に配設している送水管と共に継ぎ足し鋼管の後端から取り外して再使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に本発明の具体的な実施の形態を図面について説明すると、図1は地山補強用打ち込み鋼管の半断面図であって、この地山補強用打ち込み鋼管は一定長さを有する一本の鋼管1と、この鋼管1の前端に一体に固着している穿孔ビット2と、鋼管1内の中心部にこの鋼管1の略全長に亘って配設された小径の送水管3とからなり、穿孔ビット2にはその前後面間に亘って貫通した数個(図においては2個)の注水孔4と数個(図においては4個)の掘削物取込孔5とが設けられていて、上記送水管3の前端を注水孔4の後端に連結、連通させていると共に上記鋼管1の内周面と送水管3の外周面間の断面円環状空隙部によって掘削物排出通路6を形成してあり、この掘削物排出通路6の前端を上記掘削物取込孔5の後端に連通させてなる構造を有している。そして、鋼管1の内周面と送水管3の外周面間で形成されたこの掘削物排出通路6は全長に亘ってその円環条空隙部が略一定の面積でもって連続させている。
【0017】
上記穿孔ビット2の構造をさらに詳しく述べると、この穿孔ビット2は図2、図3に示すように、鋼管1の外径よりも大径の肉厚円板形状のヘッド部2aの後面外周部に後方に向かって内径が鋼管1の外径に等しい短筒部2bを突設した外観形状を有し、この短筒部2bを鋼管1の前端部に被嵌して固定ピン9により鋼管1に一体に固着してある。なお、固定ピン9に代えて溶接により穿孔ビット2の短筒部2bを鋼管1の前端部に一体に固着してもよい。さらに、この穿孔ビット2の上記ヘッド部2aの前半部には、該ヘッド2aの外周部を残して前面から後方に向かって一定深さを有する円形凹部2a1 が形成されていると共に上記残存させた外周部によってこの円形凹部2a1 の外周から前方に向かって突出した一定高さの環状壁部2a2 を形成している。
【0018】
この環状壁部2a2 の内径は上記鋼管1の内径に略等しい径に形成されていると共にその前面を掘削チップ7aの台座面として該台座面に周方向に小間隔毎に先端が先鋭な複数個の山形状の掘削チップ7aを突設している。同様に、上記円形凹部2a1 の奥底面を内側掘削チップ7bの台座面として該台座面に複数個の半円球状の内側チップ7bを突設している。さらに、穿孔ビット2の円形凹部2a1 のチップ台座面からこの穿孔ビット2の後端面に貫通して上述した数個の小径の注水孔4と大径の掘削物取込孔5とを設けている。
【0019】
穿孔ビット2の後面中央部に後方に向かって上記送水管3の取付座2a3 を突設してあり、この取付座2a3 の後端面中央部には通水穴部2a4 が形成されていて上記注水孔4、4の後端をこの通水穴部2a4 に連通させている一方、鋼管1内の中心部に配設している上記小径の送水管3の前端開口部を取付座2a3 の後端面中央部に当接させて溶接等により一体に固着し、該開口端を通水穴部2a4 に連通させている。この送水管3は、その長さ方向の数カ所を支持ブラケット8によって鋼管1の内周面に支持されている。詳しくは、この支持ブラケット8は図4に示すように、送水管3よりも僅かに大径の中央部8aから鋼管1の内周面に向かって数片(図においては3片)の支持アーム片8bを放射状に突設してなり、その中央部8aに送水管3を挿通、固着させていると共に支持アーム片8bの外端面を鋼管1の内周面に固着して、送水管3を鋼管1の中心部に全長に亘って支持している。
【0020】
鋼管1はその管壁に内外周面に貫通する硬化性材料の注入孔10を周方向及び長さ方向に所定間隔毎に設けていると共に後端部外周面に平面矩形状の係合突起11を突設している。さらに、鋼管1の外周面に図1に示すように、螺旋状又はリング状の突条12を一体に突設して、地山に打ち込んだのちにおける該鋼管1の引き抜き抵抗を増大させている。なお、このような突条12は必ずしも設けておく必要はない。
【0021】
鋼管1の後端部に連結して鋼管1に打ち込み機からの打撃回転力を伝達するための打撃・回転伝達部材20は、図5に示すように、一定長さを有する円筒形状に形成されたスイベル体20A と、このスイベル体20A の前端に着脱自在に螺合した鋼管連結筒体20B とからなり、スイベル体20A においては、その後半部における中心部には小径接続管30の後端部を着脱自在に螺合させる前側螺子孔部21と後端が打撃・回転伝達部材20の後端面から後方に向かって開口している後側螺子孔部22とをこれらの螺子孔部21、22に前後端を連通させた通水孔部23を介して同軸線上に形成している一方、前半部には、その前端部側に上記鋼管連結筒体20B の後端部を着脱自在に螺合させた大径螺子孔部24を設けていると共に、この大径螺子孔部24の後端と上記前側螺子孔部21との間に掘削物受入孔部25を形成し、この掘削物受入孔部24内からスイベル体20A の外周面に開口した掘削物排出口25a を形成している。なお、上記通水孔部23は作動軸41内の給水路(図示せず)に連通していて、この給水路から給水を受けるように構成されている。
【0022】
また、上記鋼管連結筒体20B の前半部内を鋼管1の後端部受入筒部26に形成していると共にこの鋼管連結筒体20B の後半部の筒部内径を鋼管1の後端部受入筒部26の内径よりも小径で且つ上記掘削物受入孔部24と略同径に形成して該受入筒部26内の後端に鋼管1の後端面を当接、受止する環状の受止端面26a に形成している。さらに、鋼管連結筒体20B の後端部を上記スイベル体20A の大径螺子孔部24に螺合する螺筒部27に形成していると共にこの螺子部27の前端側に該螺子部27の前端から外径方向に突出した環状の受止端面28を形成してあり、この受止端面28に上記スイベル体20A の大径螺子孔部24の前端面を当接受止させ、螺子山に打ち込み機側からの打撃力を殆ど伝達することなく該受止端面28から鋼管連結筒体20B に打撃力を伝達させ、さらに、鋼連結筒体20B から上記受止端面26a を介して鋼管1に打撃力を伝達するように構成している。
【0023】
さらに、鋼管連結筒体20B における鋼管受入筒部26の周壁の一部に前端が前方に向かって開口したL字状の切欠係止部29を形成してあり、この切欠係止部29に上記鋼管1の後端外周面に突設している係合突起11を挿入、係合させて打撃・回転伝達部材20の回転を鋼管1に伝達するようにしている。
【0024】
上記小径接続管30は外径をスイベル体20A の掘削物受入孔部25や鋼管連結筒体20B の後半部の筒部内径よりも小径に形成してその外周面とこれらの掘削物受入孔部25及び連結筒体20B の後半部の筒部内との間を、鋼管1内の上記掘削物排出通路6の後端に連通した掘削物排出用隙間6aに形成していると共に該小径接続管30の中心部を全長に亘って通水孔31に形成してあり、さらに、後端部を上記スイベル体20A の後端部内に設けている前側螺子孔21に着脱自在に螺合した螺子部32に形成している。
【0025】
また、この小径接続管30の前端部には筒状頭部33が固着されてあり、この筒状頭部33内に、中心部に上記通水孔31と略同径の中心孔34a を有する円環形状の緩衝部材34と、中心部に鋼管1の後端から後方に突出したた送水管3の後端部を水密状に挿嵌させる中心孔35a を有する止水シール材35とを該止水シール材35を前側にして前後に重ね合わせた状態で内装している。そして、緩衝部材34を小径接続管30の前端面に当接させた状態にして筒状頭部33の後部を小径接続管30の前端部外周面に被着させている。
【0026】
次に、この小径接続管30を内装している打撃・回転伝達部材20を用いて鋼管1を地山に打ち込む方法について説明する。トンネル内に配設した鋼管打ち込み機におけるドリフタ40には図6に示すように、このドリフタ40の前端面から突出している作動軸41の後端面を打撃する打撃機構(図示せず)と該作動軸41を回転させる回転機構(図示せず)とが内装されてあり、この作動軸41を上記スイベル体20A の後側螺子孔部22に螺合させてその先端面をこの螺子孔部22の奥底端面に当接させた状態にすることにより、作動軸41に打撃・回転伝達部材20を接続する。
【0027】
一方、この打撃・回転伝達部材20の鋼管連結筒体20B における鋼管受入筒部26に鋼管1の後端部を挿入し、該鋼管1の後端部外周面に突設している係合突起11を鋼管受入筒部26の前端部に形成しているL字状切欠係止部29に挿入し、この鋼管1の後端面を受止端面26a に当接、受止させると共に鋼管1を周方向に回動させることによって上記係合突起11をL字状切欠係止部29に抜け止め状態に係合させる。さらに、鋼管受入筒部26に鋼管1の後端部を挿入するに従って、この鋼管1内の中心部に配設している送水管3における鋼管1の後端から突出した突出端部が打撃・回転伝達部材20の中心部内に配設している上記小径接続管30の前端筒状頭部33内に設けている止水シール材35の中心孔35a に前後摺動移動可能に挿通してその後端面を緩衝部材34の前端面に弾性的に押接し、該送水管3内を小径接続管30の通水孔31の前端に連通させる。
【0028】
この状態にして鋼管1の前端に装着している穿孔ビット2の前端面をトンネル周壁面から地山に向けた状態にして該壁面に当接させたのち、ドリフタ40の作動軸41に打撃回転力を与えながらドリフタ40を前進させると、作動軸41の回転は打撃・回転伝達部材20を介してこの打撃・回転伝達部材20の上記鋼管受入筒部26に形成しているL字状切欠係止部29に係合した係合突起11を介して鋼管1に伝達されると共に、作動軸41の打撃力は該作動軸41の前端面を受止している打撃・回転伝達部材20における後側螺子孔部22の奥底端面を介してこの打撃・回転伝達部材20のスイベル体20A に伝達される。
【0029】
さらに、このスイベル体20A の前端面を受止している鋼管連結筒体20B の外周面側の受止端面28を介して該鋼管連結筒体20B に伝達されると共にこの鋼管連結筒体20B の内周面側の受止端面26a を介してこの受止端面26a に後端面を当接、受止されている鋼管1に伝達され、穿孔ビット2の前端面に突設している掘削チップ7a、7bによって地山を掘進しながら鋼管1を地山の所定深さまで打設していく。
【0030】
この鋼管1の打設時には、作動軸41内の給水路を通じて打撃・回転伝達部材20のスイベル体20A 内の上記通水孔部23に水が供給され、該通水孔部23から小径接続管30の通水孔31を通じて鋼管1内の上記送水管3内を流通させて穿孔ビット2の注水孔4から該穿孔ビット2による掘削面に水を噴射させ、穿孔ビット2の掘削チップ7a、7bによって掘削された掘削物を穿孔ビット2に設けている掘削物取込孔5を通じて鋼管1と送水管3間の掘削物排出通路6内に送り込み、この排出通路6内を流通して鋼管1の開口後端から打撃・回転伝達部材20内の掘削物排出用隙間6a内に流出し、掘削物受入孔部25から排出口25a を通じて外部に排出される。
【0031】
このように、鋼管1に打撃回転力を付与しながら地山に打設していくものであるが、穿孔ビット2の前端部には環状壁部2a2 によって囲まれた円形凹部2a1 が設けられてあり、この円形凹部2a1 に鋼管1内の掘削物排出通路6に連通する掘削物取込孔5を設けていると共に、掘削物排出通路6を全長に亘って略同一断面の広い通路に形成しているので、穿孔ビット2によって掘削された掘削物は一旦、円形凹部2a1 内に取り込まれたのち、環状壁部2a2 によって外部に流出することなく該円形凹部2a1 から上記広い掘削物排出通路6に見合った大径孔に形成されている掘削物取込孔5から鋼管1内の掘削物排出通路6内に円滑に且つ確実に浸入させることができ、従って、鋼管1の外周面と掘削孔間の隙間に掘削物が入って該隙間を詰まらせる虞れが殆どなくなり、鋼管1の打ち込みが能率よく確実に行うことができる。
【0032】
こうして、鋼管1を地山の所定深さまで打ち込んだのち、打撃・回転伝達部材20を上記とは反対方向に回動させることにより鋼管1の後端部に突設している係合突起11を打撃・回転伝達部材20のL字状切欠係止部29から離脱させ、該打撃・回転伝達部材20を鋼管1から取り外す。図7は鋼管1を地山に打ち込んだ状態を示す簡略縦断側面図である。しかるのち、トンネルの壁面から突出している鋼管1の後端部を硬化性材料注入用キャップ(図示せず)によって密閉し、このキャップに接続した注入ホースを通じてセメントミルク或いはウレタン樹脂液などの硬化性材料を鋼管1内に供給すると、硬化性材料は鋼管1内に充満すると共に該鋼管1の管壁に設けている注入孔10から鋼管周囲の地山中に注入されると共に穿孔ビット2の掘削物取込孔5からも地山中に注入され、この硬化性材料の硬化によって地盤の安定化を図るものである。
【0033】
上記地山補強用打ち込み鋼管は、一定長さを有する一本の鋼管1より形成しているが、複数分割してなる鋼管、例えば、図8に示すように、前端に穿孔ビット2を固着している先頭側鋼管1Aと、後端部外周面に打撃・回転伝達部材に連結させるための係合突起11を突設している最後尾側鋼管1Bと、これらの先頭側鋼管1Aと最後尾側鋼管1Bとの間に介在、連結させる継ぎ足し鋼管1Cとから構成しておいてもよい。
【0034】
詳しくは、先頭側鋼管1Aは、その前端に穿孔ビット2を一体に固着していると共に中心部内に、この先頭側鋼管1Aの長さに略等しい長さを有する小径の送水管3Aを配設してこの送水管3Aの1乃至数カ所を外端が鋼管1Aの内周面に固着した支持ブラケット8の中心部に支持させ、さらに、該送水管3Aの前端開口部を穿孔ビット2の後面中央部に後方に向かって突設している取付座2a3 の後端面中央部に当接させて溶接等により一体に固着し、該開口端を穿孔ビット2に設けている注水孔4の後端に連通させた取付座2a3 の後端通水穴部2a4 に連通させている一方、この送水管3Aの後端部を鋼管1Aの後端から後方に突出させていると共に鋼管1Aの後端部内周面に螺子孔部13を設けた構造としている。
【0035】
また、上記最後尾側鋼管1Bは、継ぎ足し鋼管1Cと上述した打撃・回転伝達部材20間を接続可能な長さであればよいので長さの短い鋼管からなり、その前端部外周面に螺子部14を形成していると共に中心部内に、この最後尾側鋼管1Bの長さに略等しい長さを有する短い送水管3Bをその後端部が鋼管1Bの後端から後方に突出させた状態に配設してこの送水管3Bを外端が鋼管1Bの内周面に固着した支持ブラケット8の中心部に支持させてあり、さらに、送水管3Bの前端部を次に述べる継ぎ足し鋼管1Cの中心部内に配設した送水管3Cの後端部にシール材17を介して前後摺動自在に且つ回転自在に接続させる拡径接続口部3b、即ち、インロー継手で接続可能な構造としている。
【0036】
一方、これらの先頭側鋼管1Aと最後尾側鋼管1B間に一体に連結、介在させる一定長さを有する継ぎ足し鋼管1Cは、その前端部外周面に先頭側鋼管1Aの後端部内周面の螺子孔部13に螺合する螺子部15を形成していると共に後端部内周面に上記最後尾側鋼管1Bの前端螺子部14を螺合させる螺子孔部16に形成してあり、さらに、中心部内に、この継ぎ足し鋼管1Cの長さに略等しい長さを有する送水管3Cを配設し、この送水管3Cを僅かに後方にずらせてその後端部を継ぎ足し鋼管1Cの後端から後方に突出させた状態にしてその数カ所を外端が鋼管1Cの内周面に固着した支持ブラケット8の中心部に支持させ、さらに、該送水管3Cの前端部を上記先頭側鋼管1A内の送水管3Aの後端部にシール材18を介して前後摺動自在に且つ回転自在に接続させる拡径接続口部3c、即ち、インロー継手で接続可能な構造としている。この継ぎ足し鋼管1Cの管壁に複数個の硬化性材料注入孔10を設けている。
【0037】
なお、上記各鋼管1A〜1C内に配設している送水管3A〜3Cは同一径に形成されてあり、また、穿孔ビット2や支持ブラケット8の構造は上記実施の形態において説明したものと同じであるので、同一部分には同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0038】
このように構成した地山補強用打ち込み鋼管を緩み地盤等が存在する地山内に打ち込むには、まず、先頭側鋼管1Aに一本の継ぎ足し鋼管1Cを介して最後尾側鋼管1Bを接続する。この際、先頭側鋼管1Aの後端螺子孔部13に継ぎ足し鋼管1Cの前端螺子部15を螺合させて接続する時に、先頭側鋼管1Aの送水管3Aの後端に継ぎ足し鋼管1Cの送水管3Cの前端拡径接続口部3cが被さるようにして同時に自動的に接続する。同様に、継ぎ足し鋼管1Cの後端螺子孔部16に最後尾側鋼管1Bの前端螺子部14を螺合させて接続する時に、継ぎ足し鋼管1Cの送水管3Cの後端に最後尾側鋼管1Bの送水管3Bの前端拡径接続口部3bが被さるようにして同時に自動的に接続する。
【0039】
次いで、この接続鋼管1A〜1Cからなる地山補強用打ち込み鋼管を上記実施の形態と同様に、鋼管打ち込み機を用いてトンネル内から地山に向かって打ち込む。即ち、鋼管打ち込み機におけるドリフタ40の前端面から突出している作動軸41に打撃・回転伝達部材20のスイベル体20A を接続したのち、該打撃・回転伝達部材20の鋼管連接筒体20B における鋼管受入筒部26に最後尾側鋼管1Bの後端部を挿入し、該鋼管1Bの後端部外周面に突設している係合突起11を鋼管受入筒部26の前端部に形成しているL字状切欠係止部29に挿入して係合させると共に、最後尾側鋼管1B内の送水管3Bの後端突出部が打撃・回転伝達部材20の中心部内に配設している小径接続管30の前端筒状頭部33内に設けている止水シール材35の中心孔35a に前後摺動移動可能に挿通してその後端面を緩衝部材34の前端面に弾性的に押接し、該送水管3内を小径接続管30の通水孔31の前端に連通させる。なお、打撃・回転伝達部材20や小径接続管30の構造、及びこの打撃・回転伝達部材20に対する最後尾側鋼管1Bの接続態様は上記実施の形態における図5、図6に示した構造と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0040】
打撃・回転伝達部材20にこの地山補強用打ち込み鋼管の最後尾側鋼管1Bを接続したのち、ドリフタ40の作動軸41に打撃回転力を与えてこの打撃回転力を鋼管1A〜1Cを介して穿孔ビット2に伝達しながらドリフタ40を前進させることによりこの地山補強用打ち込み鋼管を地山に打ち込む。この際、作動軸41内の給水路から打撃・回転伝達部材20のスイベル体20A 内の通水孔部23、小径接続管30の通水孔31を通じて最後尾側鋼管1Bの送水管3B内に水を供給し、この送水管3Bに順次接続した継ぎ足し鋼管1C内の送水管3Cと先頭側鋼管1A内の送水管3A内を流通させて穿孔ビット2の注水孔4から該穿孔ビット2による掘削面に水を噴射させ、穿孔ビット2の掘削チップ7a、7bによって掘削された掘削物を穿孔ビット2に設けている掘削物取込孔5を通じて鋼管1A〜1Cの内周面と送水管3A〜3C間の外周面間の空間部で形成された掘削物排出通路6内に送り込み、この排出通路6内から打撃・回転伝達部材20内の掘削物排出用隙間6a内と掘削物受入孔部25の排出口25a を通じて外部に排出する。
【0041】
この地山補強用打ち込み鋼管内に対する硬化性材料の供給、充満および該鋼管における継ぎ足し鋼管1Cの管壁に設けている注入孔11からの地山への硬化性材料の注入は、上記実施の形態と同様である。
【0042】
先頭側鋼管1Aと一本の継ぎ足し鋼管1Cと最後尾側鋼管1Bとからなるこの地山補強用打ち込み鋼管の長さは、狭いトンネル内において打ち込み機により地山に打ち込み可能な長さに形成されてあり、この長さだけでは地山に対する打ち込み深さが浅くて地盤の安定化を図ることができない場合に継ぎ足し鋼管1Cを継ぎ足すことにより狭いトンネル内からでも所望の打ち込み長さとなるように構成している。
【0043】
即ち、この地山補強用打ち込み鋼管をその継ぎ足し鋼管1Cの後端部がトンネルの壁面から突出した状態となるまで地山に打ち込んだのち、この継ぎ足し鋼管1Cに接続している最後尾側鋼管1Bを一旦、該継ぎ足し鋼管1Cの後端から取り外し、しかるのち、この継ぎ足し鋼管1Cの後端螺子孔部16に該継ぎ足し鋼管1Cと同一形状、同一構造の継ぎ足し鋼管1Cの前端螺子部15を接続する。この際、打ち込まれた継ぎ足し鋼管1C内の送水管3Cの後端部に該継ぎ足し鋼管1Cに接続する継ぎ足し鋼管1C内の送水管3Cの前端拡径接続口部3cが自動的にインロー継手により接続される。
【0044】
こうして、新たな継ぎ足し鋼管1Cを接続したのち、この継ぎ足し鋼管1Cの後端に再び最後尾側鋼管1Bを接続し、その接続と同時にこれらの鋼管内の送水管3B、3C同士もインロー継手によって接続させたのち、最後尾側鋼管1Bの後端部を打撃・回転伝達部材20に接続し、ドリフタ40の作動軸41に打撃回転力を与えると共に鋼管内の一連に接続した送水管を通じて穿孔ビット2の注水孔4から掘削面に水を噴出させ、掘削物を鋼管内の掘削物排出通路6を通じて排除しながら上記同様にしてこの地山補強用打ち込み鋼管を打ち込む。図9は2本の継ぎ足し鋼管1C、1Cを地山に打ち込んだ状態を示す簡略側面図である。
【0045】
この地山補強用打ち込み鋼管が打撃・回転伝達部材によって地山に打ち込まれる時に、先頭側鋼管1Aの前端に固着している穿孔ビット2が回転してその回転力が該穿孔ビット2の後面に一体に固着している送水管3Aに伝達されるが、この送水管3Aの後端部が継ぎ足し鋼管1C内の送水管3Cの先端接続口部3cに前後摺動自在に且つ回転自在に挿嵌しているので、先頭側鋼管1A内の送水管3Aから継ぎ足し鋼管1C内の送水管3Cに対する回転力の伝達が遮断され、従って、先頭側の送水管3Aのみが穿孔ビット2と一体に回転するだけで後続する送水管3B、3Cが穿孔ビット2の回転力によって捩じれ変形する虞れもない。
【0046】
以下、必要に応じて数本の継ぎ足し鋼管1Cを継ぎ足すことによって所定長さの地山補強用打ち込み鋼管を形成しながら地山に所定深さまで打ち込んだのち、この地山補強用打ち込み鋼管内に硬化性材料を供給、充満させると共に各継ぎ足し鋼管1Cの管壁に設けている注入孔10を通じて地山に硬化性材料を注入し、硬化させることによって地盤の安定化を図る。なお、この地山補強用打ち込み鋼管の打ち込みの完了後、最後尾側鋼管1Bをその内部の送水管3Bと共に、継ぎ足し鋼管1Cの後端から取り外して次の地山補強用打ち込み鋼管の打ち込みに使用する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】地山補強用打ち込み鋼管の上半部を断面した一部省略縦断側面図。
【図2】穿孔ビット部分の縦断側面図。
【図3】穿孔ビットの正面図。
【図4】送水管の支持構造を示す縦断正面図。
【図5】打撃・回転伝達部材の縦断側面図。
【図6】ドリフタによる鋼管打ち込み状態を示す一部の簡略縦断側面図。
【図7】地山に打ち込んだ状態を示す鋼管の簡略縦断側面図。
【図8】本発明の別な地山補強用打ち込み鋼管を示す一部省略縦断側面図。
【図9】2本の継ぎ足し鋼管を地山に打ち込んだ状態を示す簡略側面図。
【符号の説明】
【0048】
1 鋼管
1A 先頭側鋼管
1B 最後尾側鋼管
1C 継ぎ足し鋼管
2 穿孔ビット
3 送水管
4 注水孔
5 掘削物取込孔
6 掘削物排出通路
8 支持ブラケット
10 注入孔
11 係合突起
20 打撃・回転伝達部材
30 給水小径接続管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端部を打撃・回転伝達部材に連結するように構成した鋼管と、この鋼管の前端に一体的に固着された穿孔ビットと、鋼管内の中心部にこの鋼管の略全長に亘って配設された送水管とからなり、上記穿孔ビットには前後面間に貫通した注水孔と掘削物取込孔とが設けられていて注水孔の後端に上記送水管の前端を連結、連通させていると共に掘削物取込孔を鋼管の内周面と送水管の外周面間の空隙部によって形成した掘削物排出通路に連通させていることを特徴とする地山補強用打ち込み鋼管。
【請求項2】
送水管の後端を打撃・回転伝達部材内の中心部に配設している給水小径接続管の前端部に前後動自在に且つ回転自在に接続するように構成していることを特徴とする請求項1に記載の地山補強用打ち込み鋼管。
【請求項3】
鋼管は前端に穿孔ビットを固着した先頭側鋼管と、後端部を打撃・回転伝達部材に連結させる最後尾側鋼管と、これらの先頭側鋼管と最後尾側鋼管との間に介在、連結させる継ぎ足し鋼管とからなることを特徴とする請求項1に記載の地山補強用打ち込み鋼管。
【請求項4】
先頭側鋼管と継ぎ足し鋼管と最後尾鋼管との中心部内には、それぞれの鋼管の長さに略等しい長さを有する送水管がそれぞれ支持ブラケットにより鋼管の内周面に支持させられていると共に、隣接する鋼管内の送水管の対向端部を前後摺動自在に且つ回転自在に接続するように構成していることを特徴とする請求項3に記載の地山補強用打ち込み鋼管。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−16783(P2006−16783A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193363(P2004−193363)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【出願人】(000221889)東邦金属株式会社 (28)
【Fターム(参考)】