説明

地盤への空気注入方法及び地盤への空気注入システム

【課題】地盤の飽和度を低下させ、且つ地盤の飽和度の低下状態を保持して液状化を防止すると共に、短時間で地盤の飽和度を低下させる。
【解決手段】本発明の地盤への空気注入方法によれば、軟弱地盤18Aに設けられた注入孔部24の有孔管28から空気P又は水と化学反応を起こさない液体Qが注入され、液体注入層Lが形成される。同時に又は液体注入層Lの形成後に液体注入層Lよりも下側の軟弱地盤18Aに空気Pが注入され、空気注入層Sが形成される。空気注入層S中の空気Pは、上側にある液体注入層Lによって移動が規制されて留まる。これにより、空気注入層Sでは飽和度の低下状態が保持され、地震発生時に軟弱地盤18Aの液状化を防ぐことができる。さらに、液体Qは、空気又は水と化学反応を起こさないため、化学反応のための待ち時間が不要となり、軟弱地盤18Aへの空気Pの注入を短時間で行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤への空気注入方法及び地盤への空気注入システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地盤の液状化は、砂地盤の水圧が地震による振動によって静水圧より高くなり(この水圧を過剰間隙水圧という)、過剰間隙水圧が各深度における上載圧に等しくなったときに、砂粒子同士の結合が外れて水中に浮かんだような状態となるために起こる。ここで、地盤の液状化防止方法の例として、地盤に気泡を注入して地盤の飽和度を低下させる方法がある(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献1の液状化防止方法では、地盤を掘削して形成した注入孔へ水溶液を注入し、発泡剤によって水溶液を発泡させることで、地盤中に気泡を注入している。また、特許文献2の液状化防止方法では、地盤を掘削して形成した注入用の孔に注入内管を配置し、注入内管に形成された注入口から微細気泡を分散させた注入水を注入している。
【0004】
さらに、特許文献3の液状化防止方法では、酸化剤溶液と鉄塩基溶液を混合して微粒粉末(二酸化マンガン、酸化鉄、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、塩化マグネシウムなど)を析出させて不透水層を形成することで、地盤に注入した空気を保持している。
【0005】
特許文献1〜3の液状化防止方法は、いずれも、地震により地盤中の過剰間隙水圧が上昇しようとするとき、気泡により形成された空隙が圧縮されることによって水圧の上昇が抑えられ、地盤の液状化を防止している。
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2の液状化防止方法では、地盤に注入した空気(気泡)を地盤中に保持する手段が無いため、注入後の空気は上方へ移動して、地盤の飽和度の低下状態を保持することができなかった。
【0007】
また、特許文献3の液状化防止方法では、微粒粉末が析出して不透水層が形成されるまで地盤中に空気を注入することができず、短時間で地盤の飽和度を低下させることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−355228
【特許文献2】特開2008−2170
【特許文献3】特開2007−132061
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、地盤の飽和度を低下させ、且つ地盤の飽和度の低下状態を保持して液状化を防止すると共に、短時間で地盤の飽和度を低下させることができる地盤への空気注入方法及び地盤への空気注入システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る地盤への空気注入方法は、地盤上に構築された構造物の周辺に第1孔部を形成し、該構造物を挟んで前記第1孔部と反対側に第2孔部を形成する孔部形成工程と、前記第1孔部及び前記第2孔部へ有孔管を挿入する有孔管挿入工程と、前記第1孔部の前記有孔管へ、孔の形成位置が異なる空気供給管を挿入する空気供給管挿入工程と、前記第1孔部の前記有孔管へ、孔の形成位置が前記空気供給管の孔の上方となる液体供給管を挿入する液体供給管挿入工程と、前記液体供給管を通して、空気又は水と化学反応を起こさない液体を地盤に注入して液体注入層を形成する液体注入層形成工程と、前記液体注入層形成工程と同時又は前記液体注入層形成工程後に、前記空気供給管を通して、前記液体注入層よりも下側の地盤に空気を注入して空気注入層を形成する空気注入層形成工程と、液体及び水を前記第2孔部の有孔管から排出し、前記液体注入層と前記空気注入層を拡幅する排出工程と、を有する。
【0011】
上記構成によれば、地盤に設けられた第1孔部の有孔管から液体供給管を通して、空気又は水と化学反応を起こさない液体が地盤に注入され、液体注入層が形成される。同時に又は液体注入層の形成後に空気供給管を通して、液体注入層よりも下側の地盤に空気が注入され、空気注入層が形成される。このとき、第2孔部の有孔管を通じて地盤から液体及び水を排出することで、液体注入層と空気注入層が構造物の下方に拡幅される。
【0012】
空気注入層中の空気は上方へ抜けようとするが、上側にある液体注入層によって移動が規制されるため空気注入層中に留まる。これにより、地盤の空気注入層では、土砂と水による飽和状態が解消され飽和度が低下した状態となると共に、飽和度の低下状態が保持される。ここで、地震発生時は、地盤の空気注入層の飽和度が低下しているため、水の過剰間隙水圧が上がりにくい。これにより、土砂が自由移動しにくくなり、地盤の液状化を防ぐことができる。
【0013】
さらに、液体注入層の液体は、空気又は水と化学反応を起こさないため、化学反応による微粒子等の析出が無い。これにより、地盤中で複数種類の液体を混合して化学反応を起こし、微粒子を析出させて地盤中に空気を保持するものに比べて、化学反応のための待ち時間が不要となり、地盤への空気注入を短時間で行うことができる。
【0014】
本発明の請求項2に係る地盤への空気注入方法は、前記第1孔部と前記第2孔部を構造物の周辺に沿って複数形成し、前記液体注入層形成工程では上下方向に複数の液体注入層を形成し、前記空気注入層形成工程では上下方向に複数の空気注入層を形成する。この構成によれば、地盤中の上下方向に複数の液体注入層及び空気注入層が形成されるので、空気注入層の気泡の偏りを抑制することができ、空気を地盤の特定の場所にとどめておくことができる。
【0015】
本発明の請求項3に係る地盤への空気注入方法は、予め設定した期間経過後、前記液体注入層を形成する液体を前記第2孔部から排出する。博覧会のパビリオン等、有期の利用目的で構築された構造物は期間経過後に撤去されることになるが、撤去後は地盤の液状化防止が不要となる場合がある。ここで、上記構成によれば、予め設定した期間が経過した後は、地盤に形成された第2孔部の有孔管から液体が排出される。これにより液体及び空気が地盤から除去され、地盤を元の状態に戻すことができる。
【0016】
本発明の請求項4に係る地盤への空気注入システムは、地盤上に構築された構造物の周辺に形成された第1孔部へ挿入された有孔管内に吊下げられ、供給された空気が放出される空気孔が形成された空気供給管と、前記有孔管内に吊下げられ、空気又は水と化学反応を起こさない液体が放出される液体放出孔が前記空気供給管の空気孔の上方となる位置に形成された液体供給管と、前記空気供給管に空気を供給する空気供給手段と、前記液体供給管に前記液体を供給する液体供給手段と、前記液体放出孔よりも上方に吊下げられ、拡径して前記有孔管を塞ぐ上部閉塞手段と、前記液体放出孔よりも下方で且つ前記空気孔よりも上方に吊下げられ、拡径して前記有孔管を塞ぐ中部閉塞手段と、前記空気孔よりも下方に吊下げられ、拡径して前記有孔管を塞ぐ下部閉塞手段と、前記構造物を挟んで前記第1孔部と反対側の地盤に形成された第2孔部へ挿入された有孔管内に吊下げられ、地盤に注入された液体及び水を前記第2孔部の有孔管から排出する液体排出手段と、を有する。
【0017】
上記構成によれば、地盤に形成された孔部に液体供給管及び空気供給管が吊下げられ位置決めされている。そして、上部閉塞手段と中部閉塞手段とによって密閉された領域に液体放出孔が配置されており、中部閉塞手段と下部閉塞手段とによって密閉された領域に空気孔が配置されている。
【0018】
ここで、液体供給手段から液体が供給され、液体放出孔から液体が放出されると、放出された液体は、上部閉塞手段と中部閉塞手段とで密閉された領域に相当する領域の地盤に供給される。そして、液体の放出と同時又は放出後に空気供給手段から空気が供給され空気孔から空気が放出されると、放出された空気は中部閉塞手段と下部閉塞手段とで密閉された領域に相当する領域の地盤に供給される。これにより、地盤の特定領域に空気を供給して地盤の飽和度を低下させ、液状化を防止することができる。
【0019】
さらに、上部閉塞手段、中部閉塞手段、及び下部閉塞手段が液体供給管及び空気供給管と独立して吊下げられているので、吊下げ長さを調整して上部閉塞手段と中部閉塞手段、中部閉塞手段と下部閉塞手段の間隔が変更可能となっている。これにより、空気を供給する地盤の特定領域を変更することができる。
【0020】
本発明の請求項5に係る地盤への空気注入システムは、前記空気供給管には、上下方向の異なる位置に複数の前記空気孔が形成され、前記液体供給管には、上下方向の異なる位置に複数の前記液体放出孔が形成されている。この構成によれば、地盤中に複数の液体注入層及び空気注入層が形成されるので、一つの層あたりの層厚を小さくすることができる。これにより、空気注入層中の空気が上方へ抜けようとしても、空気を地盤の特定の場所にとどめておくことができる。
【0021】
本発明の請求項6に係る地盤への空気注入システムは、前記空気供給手段から前記空気供給管までの空気供給経路の途中には、前記空気供給管への空気の供給又は供給停止を行う切換手段が設けられている。この構成によれば、空気供給管への空気の供給を連続的又は断続的に行える。
【0022】
本発明の請求項7に係る地盤への空気注入システムは、地盤の前記第1孔部及び前記第2孔部と異なる位置に掘削された第3孔部に配置され、地盤の導電率又は比抵抗を測定する電気特性測定手段が設けられ、前記切換手段が、設定された導電率又は比抵抗に応じて、前記空気供給管への空気の供給又は供給停止を行う。
【0023】
空気は水に較べて比抵抗が大きい。このため、地盤中の空気量が多くなると比抵抗が大きくなり導電率が下がる。ここで、上記構成によれば、電気特性測定手段によって地盤の導電率又は比抵抗が測定され、この測定値に応じて地盤中の空気の過不足が判断される。これにより、地盤中の空気量を実測しなくても地盤中の空気の過不足状態を検知することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、上記構成としたので、地盤の飽和度を低下させ、且つ飽和度の低下状態を保持して液状化を防止すると共に、短時間で地盤の飽和度を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(a)本発明の第1実施形態に係る空気注入システムの構成図である。(b)本発明の第1実施形態に係る空気注入システムの平面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る空気注入装置の構成図である。
【図3】(a)本発明の第1実施形態に係る空気注入装置の部分斜視図である。(b)本発明の第1実施形態に係る空気注入装置の上部閉塞手段の横断面図である。
【図4】(a)〜(c)本発明の第1実施形態に係る空気注入装置の設置工程を示す工程図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る空気注入装置を地盤の孔部に設置した状態の一部を示す縦断面図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る空気注入システムによる地盤への空気注入状態を示す模式図である。
【図7】本発明の第1実施形態に係る空気注入システムを用いて地盤へ空気注入したときの時間と地盤の飽和度の関係を示すグラフである。
【図8】本発明の第1実施形態に係る空気注入システムを用いて地盤から液体を排出する状態を示す模式図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る空気注入システムによる地盤への空気注入状態を示す模式図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る空気注入装置の電気特性測定手段の構成を示す模式図である。
【図11】本発明の第2実施形態に係る空気注入システムを用いて地盤へ空気注入したときの時間と地盤の飽和度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の空気注入装置、空気注入システム、及び地盤への空気注入方法の第1実施形態を図面に基づき説明する。図1(a)、(b)には、地盤12に設置された空気注入システム10と、地盤12上に構築された構造物としての建物14が示されている。地盤12は、不透水層としての非液状化地盤16と、非液状化地盤16の上層にある軟弱地盤18とで構成されており、建物14は軟弱地盤18上に支持されている。
【0027】
建物14の周囲の軟弱地盤18には、建物14を取り囲んでコンクリートやソイルセメントなどの連続壁からなる止水壁22が構築されており、止水壁22の下端部は非液状化地盤16に到達している。また、建物14の一組の側壁14A、14Bに隣接した軟弱地盤18の一部には、空気注入用及び液体注入用の注入孔部24(24A、24B、24C、24D、24E)と、揚水用の揚水孔部26(26A、26B、26C、26D、26E)とが、掘削により形成されている。なお、止水壁22で囲まれた軟弱地盤18を軟弱地盤18Aとする。
【0028】
注入孔部24A〜24Eは、建物14を挟んで揚水孔部26A〜26Eとそれぞれ対向配置状態となっている。なお、注入孔部24A〜24Eはそれぞれ同様の掘削状態となっており、揚水孔部26A〜26Eもそれぞれ同様の掘削状態となっているため、以後の説明では注入孔部24、揚水孔部26としてA〜Eの符号を省略して説明する。
【0029】
注入孔部24内には、塩化ビニルからなる断面円形状の有孔管28が、開口を上側に向けて立設されている。有孔管28は、注入孔部24の深さと同程度の長さとなっており、空気注入又は液体注入を行う位置の側壁には、後述する貫通孔29(図5参照)が形成されている。なお、以後の説明では、図5を除いて有孔管28の貫通孔29の図示を省略する。
【0030】
また、有孔管28の外径は、注入孔部24の孔径よりも小さくなっており、有孔管28と注入孔部24の間には、予め設定された幅の隙間が形成されている。ここで、軟弱地盤18Aには、液状化対策のために空気注入が必要とされる空気注入層S(二点鎖線で表示)が複数段設定されている。さらに、各空気注入層Sの上側には、注入された空気を保持するために液体注入が必要とされる液体注入層L(破線で表示)が設定されている。
【0031】
そして、有孔管28と注入孔部24の隙間には、各空気注入層S及び各液体注入層Lの深度に合わせて砂利層25が形成されている。砂利層25は、上下が粘土層27で挟まれており、砂利層25を通る空気又は液体が上方へ漏れることなく空気注入層S又は液体注入層Lに注入されるようになっている。
【0032】
一方、空気注入システム10は、軟弱地盤18Aに注入孔部24から空気及び液体を注入する注入装置20(20A〜20E)と、軟弱地盤18A中の地下水を揚水孔部26から地上へ揚げる揚水装置30(30A〜30E)と、揚水装置30で地上に揚げられた地下水を注入孔部24の有孔管28に注入する注入配管40とで構成されている。なお、注入装置20A〜20Eはそれぞれ同様の構成となっており、揚水装置30A〜30Eもそれぞれ同様の構成となっているため、以後の説明では注入装置20、揚水装置30としてA〜Eの符号を省略して説明する。
【0033】
図2に示すように、注入装置20は、空気供給管32、液体供給管33、供給装置34、第1パッカー36A、第2パッカー36B、第3パッカー36C、第4パッカー36D、及び第5パッカー36Eを有している。
【0034】
空気供給管32は、注入孔部24へ挿入された有孔管28内に吊下げられており、供給装置34から供給された空気が放出される複数の空気孔32A、32Bが形成されている。また、空気供給管32は、下端のみ硬質材となっており、それ以外の部位はビニール製チューブで構成されている。なお、空気孔32A、32Bの位置は、予め砂利層25の位置に合うように設定されている。
【0035】
液体供給管33は、有孔管28内に吊下げられており、空気又は水と化学反応を起こさない液体が放出される液体放出孔33A、33Bが、空気供給管32の空気孔32A、32Bの上方となる位置に形成されている。なお、液体放出孔33A、33Bの位置は、予め砂利層25の位置に合うように設定されている。また、本実施形態で用いる液体は水としているが、これに限らず、空気又は水と化学反応を起こさない液体であればよい。
【0036】
供給装置34は、箱状の筐体34Aを有しており、筐体34Aの側壁には、空気供給管32の一端が連結された連結部42と、液体供給管33の一端が連結された連結部43とが設けられている。また、供給装置34は、空気供給管32に空気を供給する空気供給部50と、液体供給管33に液体を供給する液体供給部60と、空気供給部50の動作制御又は液体供給部60の動作制御を行う制御部51とを有している。
【0037】
空気供給部50は、連結部42に連結された空気供給管32に空気を供給するためのコンプレッサー44、供給配管46、バルブ48、レギュレータ52、圧力計54、流量計56、電磁弁58、及びタイマー59が設けられている。さらに、供給装置34には、第1パッカー36A〜第5パッカー36Eに配管(図示省略)を介して空気の注入を行い、又は第1パッカー36A〜第5パッカー36Eから空気を排出するパッカー作動装置61が設けられている。
【0038】
また、空気供給部50では、連結部42とコンプレッサー44が供給配管46で接続されている。供給配管46には、コンプレッサー44側を上流側、連結部42側を下流側として、上流側にバルブ48が取付けられており、バルブ48から下流側に向けて順にレギュレータ52、圧力計54、流量計56、及び電磁弁58が取付けられている。
【0039】
コンプレッサー44は、図示しない電源から電源供給されることにより作動して、供給配管46へ空気を送出するようになっている。また、バルブ48は、コンプレッサー44の使用、未使用に合わせて供給配管46を開放又は遮断させる。さらに、レギュレータ52は、コンプレッサー44から送出された空気の圧力を予め設定した設定圧力まで減圧させる構成となっている。
【0040】
圧力計54は、供給配管46内に送り込まれた空気の圧力がレギュレータ52によって設定圧力まで減圧されているかどうかを確認するためのものであり、流量計56は、供給配管46を空気が流れていることを確認するためのものである。また、電磁弁58は、タイマー59が接続されており、タイマー59に設定された空気供給の時間に合わせて電気的にスイッチのON、OFFが行われ、供給配管46を開放又は遮断させる。
【0041】
液体供給部60は、連結部43に連結された液体供給管33に液体Q(本実施形態では水とする)を供給するための貯留タンク62、供給配管63、及びポンプ73が設けられている。液体供給部60では、連結部43と貯留タンク62が供給配管63で接続されており、さらに、供給配管63にポンプ73が取り付けられた構成となっている。貯留タンク62は、内部に液体Qが貯留されており、ポンプ73は、図示しない電源から電源供給されることにより作動して、供給配管63から液体供給管33へ液体Qを送出するようになっている。
【0042】
制御部51は、コンプレッサー44、電磁弁58、及びパッカー作動装置61の動作スイッチのON、OFFを、予め設定された動作プログラムに基づき自動で行うようになっている。なお、タイマー59への時間設定は、制御部51を介して設定される。
【0043】
一方、図2及び図3(a)に示すように、空気供給管32及び液体供給管33には、第1パッカー36A〜第5パッカー36Eが外挿されている。そして、図2に示すように、第2パッカー36Bと第3パッカー36Cの間の砂利層25と対応する位置、及び第4パッカー36Dと第5パッカー36Eの間の砂利層25と対応する位置には、空気供給管32の空気孔32Aから空気が放出されていることを検知するための水圧計67が設けられている。
【0044】
水圧計67は、第1パッカー36A〜第5パッカー36Eが有孔管28内に配置された後、地下水が注入配管40(図1(b)参照)から有孔管28内に注入されることで水圧が計測可能となり、設置位置での水圧の変化を計測する。また、水圧計67は、前述の制御部51と電気的に接続されており、制御部51は、予め設定された圧力設定値と水圧計67で測定された圧力測定値との差異に応じて、電磁弁58を開放又は遮断して空気の供給又は供給停止を行うようになっている。
【0045】
図3(a)に示すように、第1パッカー36A〜第5パッカー36Eは、いずれも同様の構成で全体が円筒状となっており、上端部と下端部に環状の円板部38A、38Bがそれぞれ設けられている。また、各円板部38Aと円板部38Bの間には、膨張又は収縮が可能なゴム等の弾性素材からなる環状(チューブ状)のパッカー袋38Cが設けられている。なお、第5パッカー36Eの下端部のみ円板状の底部38Dが設けられている。各パッカー袋38Cには、各円板部38Aを貫通してパッカー用配管41(図3(b)参照)が接続されており、各パッカー用配管41の端部は、前述のパッカー作動装置61(図2参照)にそれぞれ接続されている。
【0046】
図3(b)には、図3(a)の第1パッカー36Aを破線Gで切ったときの断面図が示されている。パッカー袋38Cは環状であり、内部空間38Eに空気が注入されることにより2点鎖線A、Bで示すように内外へ膨張するようになっている。また、パッカー袋38Cの穴部38F内には、空気供給管32と、液体供給管33と、パッカー用配管41と、水圧計67の配線69とが設けられている。
【0047】
また、図2及び図3(a)に示すように、第1パッカー36Aの円板部38Aの上面には、第1パッカー36Aを液体放出孔33Aよりも上方に吊下げるためのワイヤー64の一端が取り付けられている。なお、ワイヤー64は円板部38Aの周方向で例えば4箇所に取り付けられるが、ここでは1本又は2本のワイヤー64のみを図示して、他のワイヤー64の図示を省略する。
【0048】
第2パッカー36Bは、第1パッカー36Aの円板部38Bの底面と第2パッカー36Bの円板部38Aの上面に複数の鎖65の両端部がそれぞれ取り付けられることにより、液体放出孔33Aよりも下方で且つ空気孔32Aよりも上方の位置に吊下げられている。また、第3パッカー36Cは、第2パッカー36Bの円板部38Bの底面と第3パッカー36Cの円板部38Aの上面に複数の鎖65の両端部がそれぞれ取り付けられることにより、空気孔32Aよりも下方で且つ液体放出孔33Bよりも上方の位置に吊下げられている。
【0049】
第4パッカー36Dは、第3パッカー36Cの円板部38Bの底面と第4パッカー36Dの円板部38Aの上面に複数の鎖65の両端部がそれぞれ取り付けられることにより、液体放出孔33Bよりも下方で且つ空気孔32Bよりも上方の位置に吊下げられている。また、第5パッカー36Eは、第4パッカー36Dの円板部38Bの底面と第5パッカー36Eの円板部38Aの上面に複数の鎖65の両端部がそれぞれ取り付けられることにより、空気孔32Bよりも下方の位置に吊下げられている。なお、鎖65は円板部38Aの周方向で例えば4箇所に取り付けられるが、ここでは2本の鎖65のみを図示し、他の鎖65の図示を省略している。
【0050】
ここで、第1パッカー36A〜第5パッカー36Eは、パッカー作動装置61(図2参照)から気体が送り込まれ、圧力がかけられることでパッカー袋38Cが膨張する。また、パッカー袋38Cは、パッカー作動装置61によってパッカー袋38Cから気体が抜かれることで圧力が下がり収縮する。なお、有孔管28へ第1パッカー36A〜第5パッカー36Eを吊下げるときは、パッカー袋38Cが収縮状態となっている。
【0051】
図2に示すように、第1パッカー36Aの上面に一端が取り付けられたワイヤー64は、他端が軟弱地盤18A上に設けられた巻取装置71で巻き取られるようになっており、これにより、第1パッカー36A〜第5パッカー36Eが有孔管28内に吊下げられている。ここで、巻取装置71を動作させることで、有孔管28内での第1パッカー36A〜第5パッカー36Eの設置位置が変更される。
【0052】
一方、図1に示すように、揚水孔部26内には、塩化ビニルからなる断面円形状の有孔管31が、開口を上側に向けて立設されている。有孔管31は、揚水孔部26の深さと同程度の長さとなっており、揚水を行う位置の側壁には複数の貫通孔(図示省略)が形成されている。また、有孔管31の外径は、揚水孔部26の孔径よりも小さくなっており、有孔管31と揚水孔部26の間には、予め設定された幅の隙間が形成されている。この隙間は、砂利や土砂で埋められている。
【0053】
揚水孔部26(有孔管31)の内側には、揚水孔部26内に流入した地下水を揚水する揚水ポンプ35が設けられている。揚水ポンプ35は、供給装置34の制御部51(図2参照)に電気的に接続されており、制御部51によってスイッチのON、OFFが行われる。また、揚水ポンプ35には、揚水孔部26内から地上へ向けて延設された揚水パイプ37の一端が接続されており、揚水パイプ37の他端は、地上に設けられた揚水タンク39に接続されている。
【0054】
揚水タンク39は、前述の注入配管40が接続されており、注入配管40の接続部位には、内部に貯留された水を所定の圧力で注入配管へ送出する送出ポンプ(図示省略)が設けられている。ここで、揚水ポンプ35、揚水パイプ37、及び揚水タンク39により揚水装置30が構成されている。
【0055】
次に、本発明の第1実施形態の作用について説明する。まず、空気注入システム10の設置工程について説明する。
【0056】
図1(a)、(b)に示すように、建物14を囲むようにして軟弱地盤18から非液状化地盤16まで止水壁22を構築する。これにより、止水壁22の外側にある周辺地盤と、建物14の下側の軟弱地盤18Aとの水(地下水)の移動が遮断される。また、地盤12上には、供給装置34と揚水タンク39を設置する。なお、止水壁22で囲まれた軟弱地盤18Aについては、予めどの深度に液体注入層L及び空気注入層Sを設けるかが決められている。
【0057】
続いて、図4(a)に示すように、オーガー等の掘削機(図示省略)により軟弱地盤18Aに複数の注入孔部24を形成する。そして、注入孔部24内に有孔管28を立設する。ここで、有孔管28と注入孔部24の間には隙間が形成されている。
【0058】
続いて、図4(b)に示すように、有孔管28と注入孔部24の隙間に粘土又は砂利を交互に充填することにより、液体注入層L及び空気注入層Sが設定された深度領域では砂利層25を形成し、液体注入層L及び空気注入層Sが設定されていない深度領域では粘土層27を形成する。これにより、有孔管28が固定される。なお、砂利層25は、空気の透過が十分可能となるように予め石及び砂が選定されているものとする。また、最も地上に近い粘土層27については、粘土を地上まで充填して形成しなくともよく、空気が上方に抜けない程度の層厚となった後に土砂で埋めるようにしてもよい。
【0059】
続いて、図4(c)に示すように、有孔管28内に空気供給管32、液体供給管33、及び第1パッカー36A〜第5パッカー36Eを一体で挿入する。各パッカー間は、予め鎖65の長さが調整されることにより位置調整されている。また、各第1パッカー36A〜第5パッカー36Eは、巻取装置71でワイヤー64が引き出され又は巻き取られることにより位置調整され、保持される。なお、第1パッカー36A〜第5パッカー36Eの位置は、巻取装置71において、ワイヤー64の巻取り量に基づいて検出される。
【0060】
有孔管28内に挿入された空気供給管32及び液体供給管33は、接続されたチューブにスケールをつけておくことで位置検出が行われる。ここで、空気孔32Aが砂利層25と対向する位置まで挿入された状態で、空気供給管32の端部を供給装置34の連結部42に連結し、空気供給管32の高さ位置を固定する。そして、液体放出孔33Aが砂利層25と対向する位置まで挿入された状態で、液体供給管33の端部を液体供給部60の連結部43に連結し、液体供給管33の高さ位置を固定する。
【0061】
続いて、パッカー作動装置61(図2参照)を作動して、第1パッカー36A〜第5パッカー36Eの各パッカー袋38C(図3(a)参照)に空気を注入する。なお、空気に換えて水を注入してもよい。空気が注入されたパッカー袋38Cは、膨張して有孔管28内を密閉すると共に、有孔管28に圧着され位置が固定される。なお、前述の水圧計67(図2参照)は、第2パッカー36Bと第3パッカー36Cの間の砂利層25と対応する位置、及び第4パッカー36Dと第5パッカー36Eの間の砂利層25と対応する位置に配置される。
【0062】
このように、注入装置20の各部(空気供給管32、液体供給管33、供給装置34、及び第1パッカー36A〜第5パッカー36E)を軟弱地盤18Aに設置することで、図5に示すように、液体放出孔33Aから有孔管28の貫通孔29及び砂利層25を通して、液体注入層Lへ液体Qが送り込み可能となる。さらに、空気孔32Aから有孔管28の貫通孔29及び砂利層25を通して、空気注入層Sへ空気Pが送り込み可能となる。これにより、注入した液体Q及び空気Pは、有孔管28内の各パッカーの上部や下部へほとんど抜けないようになる。
【0063】
一方、図1(a)、(b)に示すように、建物14を挟んで注入孔部24と反対側において、オーガー等の掘削機(図示省略)により軟弱地盤18Aに複数の揚水孔部26A〜26Eを形成する。そして、各揚水孔部26内に有孔管31を立設する。ここで、有孔管31と揚水孔部26の隙間に土砂等を充填して有孔管31を固定する。
【0064】
続いて、クレーン(図示省略)等により揚水パイプ37及び揚水ポンプ35を吊下げると共に、有孔管31内に挿入する。そして、揚水ポンプ35が地下水面より十分深い位置まで挿入された状態で、揚水パイプ37の端部を揚水タンク39に接続し、揚水ポンプ35の高さ位置を固定する。なお、空気孔32Aと揚水ポンプ35は同じレベルでなくてもよい。揚水ポンプ35は空気孔32Aと同じか、より深い位置がよい。
【0065】
続いて、各揚水タンク39を複数のパイプで連通させた状態で、注入配管40の一方の端部を揚水タンク39に接続する。ここで、注入配管40の他方の端部は、予め複数の注入孔部24A〜24Eに合わせて分岐されており、各注入孔部24A〜24Eに挿入することで、揚水タンク39から送出された水が有孔管28内に注入される。
【0066】
次に、軟弱地盤18Aへの液体Q及び空気Pの注入作用について説明する。
【0067】
図6に示すように、第1パッカー36A〜第5パッカー36Eによって有孔管28が塞がれている。ここで、供給装置34において、ポンプ73(図2参照)が駆動されることにより、液体供給管33内に液体Q(水)が供給される。そして、ポンプ73の駆動と同時又はポンプ73の駆動後に、バルブ48及び電磁弁58(図2参照)を開放した状態でコンプレッサー44(図2参照)が駆動されることにより、空気供給管32内に空気Pが供給される。
【0068】
図2及び図5に示すように、注入装置20では、第1パッカー36A〜第5パッカー36Eの各パッカー間が地下水(図示省略)で浸水されており、この地下水による水圧が水圧計67で計測される。そして、制御部51及び電磁弁58が、予め設定された圧力設定値と水圧計67で測定された圧力測定値との差異に応じて、空気供給管32への空気Pの供給又は供給停止を行う。
【0069】
ここで、水圧計67によって計測される水圧の変化が、空気供給管32から供給される空気Pの供給量の変化と対応しているため、空気供給管32から軟弱地盤18Aへ所定の空気量が供給されているかどうかを検知することができる。また、供給配管46及び空気供給管32の途中で空気漏れが発生することがあっても、水圧計67の水圧の変化で検知することができる。
【0070】
続いて、液体供給管33に供給された液体Qが液体放出孔33A、33Bから放出されると、放出された液体Qは、有孔管28の貫通孔29及び砂利層25を通って軟弱地盤18Aに注入され、2つの液体注入層Lが形成される。この液体注入層Lは、液体Qが常時軟弱地盤18A中に注入されることで層形成状態が保持される。
【0071】
一方、空気供給管32に供給された空気Pが空気孔32A、32Bから放出されると、放出された空気Pは、有孔管28の貫通孔29及び砂利層25を通って軟弱地盤18Aに気泡となって注入され、2つの空気注入層Sが形成される。なお、2つの液体注入層Lと2つの空気注入層Sは交互に積層配置され、空気注入層Sの上方に液体注入層Lが存在している。
【0072】
ここで、図6に示すように、揚水ポンプ35によって有孔管31周辺の軟弱地盤18Aの地下水及び液体Qが汲み上げられると、注入孔部24周辺の地下水は、揚水孔部26に向けて移動する。この地下水の流れによって、軟弱地盤18A中に注入された液体Qは、揚水孔部26に近い位置へ移動していく。これにより、液体注入層Lが建物14の下方に拡幅される。
【0073】
一方、空気注入層S中の空気Pは、上方へ抜けようとするが、上側にある液体注入層Lによって移動が規制されるため、空気注入層S中に留まり保持される。また、空気注入層S中では、液体注入層Lに近い位置にある空気Pが、液体注入層Lの拡幅、即ち液体Qの流れに沿って移動し、液体注入層Lから遠い位置にある空気Pは、地下水の流れに沿って移動する。このようにして、空気注入層Sが建物14の下方に拡幅される。
【0074】
空気Pが注入された軟弱地盤18Aの空気注入層Sでは、土砂と水による飽和状態が解消され、地下水による間隙の飽和度が低下した状態となると共に、この飽和度の低下状態が保持される。ここで、空気注入層Sの間隙に空気P(気泡)が存在し、飽和度が低下した状態において地盤12に地震が発生すると、空気注入層Sでは、空気Pの気泡が収縮することで間隙水圧の上昇が抑えられる。これにより、砂粒子同士が接触したままの状態が保持され、水中を砂粒子が自由に移動することが抑制されるので、軟弱地盤18Aの液状化を防ぐことができる。
【0075】
なお、揚水ポンプ35で揚げられた水は、注入配管40によって注入孔部24の有孔管28内に注水されるため、軟弱地盤18A内の合計の地下水量はあまり変化しない。このため、空気注入システム10では、揚水孔部26周辺の地下水の減少による地盤沈下を防止することができる。
【0076】
図7には、軟弱地盤18Aへの空気Pの注入時間と軟弱地盤18Aの飽和度との関係がグラフで示されている。なお、軟弱地盤18Aの飽和度とは、軟弱地盤18A中の土砂の間隙を地下水がどの程度埋めているかを比率で表したものであり、土砂の間隙が全て地下水で埋まっている場合には、飽和度が100%となる。
【0077】
図7に示すように、軟弱地盤18Aへの空気Pの注入時間が0からt1、t2(t1<t2)と長くなると、軟弱地盤18Aの飽和度は100%からA%、B%(A>B)と減少している。これにより、軟弱地盤18Aに空気Pを注入することで、軟弱地盤18Aが不飽和状態となることが分かる。なお、不飽和状態は、土砂の間隙に空気Pの気泡が入り込み、地下水による土砂の間隙空間の占有率が低減することによる。
【0078】
また、図7において、時間t3では空気の注入が停止されることを示しており、時間t4では空気の注入が再開されることを示している。時間t3から時間t4までの間は、空気の注入が停止されているため、地盤の飽和度が上昇することになる。一方、時間t4以降は、空気の注入が再開されるため、地盤の飽和度が低下する。このようにして、地盤の飽和度が適宜変化される。
【0079】
ここで、本実施形態の地盤への空気注入方法によれば、液体注入層Lの液体Q(本実施形態では水)が空気又は水と化学反応を起こさないため、化学反応による微粒子等の析出が無い。これにより、軟弱地盤18A中で複数種類の液体を混合して化学反応を起こし、微粒子を析出させて軟弱地盤18A中に空気を保持する方法に比べて、化学反応のための待ち時間が不要となり、軟弱地盤18Aへの空気Pの注入を短時間で行うことができる。
【0080】
さらに、本実施形態の地盤への空気注入方法によれば、軟弱地盤18A中の上下方向に複数の液体注入層L及び空気注入層Sが形成されるので、一つの層あたりの層厚が小さくなると共に一つの空気注入層Sの空気P(気泡)の偏りが抑制される。これにより、空気注入層S中の空気Pが上方へ抜けようとしても、空気Pを軟弱地盤18Aの特定の場所にとどめておくことができる。なお、液体注入層Lの役割は、その下部に注入される空気の封じ込めが主であるが、揚水装置30による揚水と併用することで軟弱地盤18A中に地下水の流れを作り、空気をより遠くまで運ぶことが可能となる。これにより、注入孔部24と揚水孔部26の間隔を広くすることができる。
【0081】
また、空気注入システム10では、第1パッカー36A〜第5パッカー36Eが、液体供給管33及び空気供給管32と独立して吊下げられているため、吊下げ長さを調整して第1パッカー36A〜第5パッカー36Eの間隔を変更することができる。これにより、空気Pが供給される軟弱地盤18Aの特定領域を変更することができる。
【0082】
さらに、空気注入システム10では、電磁弁58(図2参照)がタイマー59(図2参照)で設定された時間に合わせて供給配管46の開放又は遮断を行うことが可能となっているため、空気供給管32への空気Pの供給を連続的又は断続的に行える。
【0083】
次に、揚水ポンプ35による液体Qの排出について説明する。
【0084】
図8(a)において、建物14が、博覧会のパビリオン等、有期の利用目的で構築された構造物であった場合、建物14は所定の期間経過後に撤去されることになるが、撤去後は地盤12の液状化防止対策が不要となる。ここで、注入装置20による軟弱地盤18Aへの液体Q及び空気Pの注入が停止され、揚水ポンプ35のみが継続して作動される。これにより、有孔管31及び軟弱地盤18Aから液体Qが排出され、軟弱地盤18Aでは、液体注入層Lが徐々に消滅する。そして、液体注入層Lで保持されていた空気Pは、軟弱地盤18Aの上方へ向けて移動する。
【0085】
続いて、図8(b)に示すように、液体注入層Lが消滅した軟弱地盤18Aでは、大半の空気Pが上方に抜けて一部の空気Pが残存するのみとなる。これにより、軟弱地盤18Aを液状化防止対策を施す前の元の状態に戻すことができる。なお、液体Q及び空気Pの除去後は、注入装置20、揚水装置30、及び止水壁22が撤去される。
【0086】
次に、本発明の地盤への空気注入方法及び地盤への空気注入システムの第2実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部品には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
【0087】
図9には、第2実施形態の空気注入システム70が示されている。空気注入システム70は、第1実施形態の空気注入システム10(図1参照)に、さらに軟弱地盤18A中の空気Pの過不足状態を検知するための比抵抗測定装置80を設けた構成となっている。
【0088】
図9に示すように、建物14の下部の軟弱地盤18Aにおいて、注入孔部24と揚水孔部26の間には、比抵抗測定装置80を設けるための測定用孔部72が掘削されている。測定用孔部72内には、図示しない複数の貫通孔が形成された有孔管74が挿入され固定されている。また、有孔管74内には、比抵抗測定装置80の一部である電極ユニット84が、図示しないケーブル及び巻取装置によって吊下げられている。電極ユニット84には配線81、82の一端が電気的に接続されており、配線81、82の他端は、供給装置34内の制御部51に接続されている。
【0089】
図10には、比抵抗測定装置80の構成が示されている。比抵抗測定装置80は、第1電極85及び第3電極86を有する電極ユニット84と、軟弱地盤18Aの上面に固定された第2電極87と、軟弱地盤18Aの上面で第2電極87と異なる位置に固定された第4電極88と、第1電極85と第2電極87の間に電流を流す電流供給源89と、第4電極88を基準として第3電極86の電位を測定する電位計93とを有している。なお、電極ユニット84では、第1電極85の鉛直上方に第3電極86が取り付けられている。
【0090】
第1電極85と第2電極87は、配線91により電気的に接続されており、配線91の経路途中に電流供給源89が設けられている。電流供給源89には、配線81の一端が接続されており、配線81の他端は制御部51(図9参照)に接続されている。これにより、第1電極85と第2電極87の間に流した電流(I)が、制御部51で記録されるようになっている。
【0091】
一方、第3電極86と第4電極88は、配線94により電気的に接続されており、配線94の経路途中に電位計93が設けられている。電位計93には、配線82の一端が接続されており、配線82の他端は制御部51(図9参照)に接続されている。これにより、第3電極86を基準とした第4電極88の電位(V)が、制御部51で記録されるようになっている。
【0092】
軟弱地盤18Aが等方均質媒体であるとすると、第1電極85の周りの等電位面Mは球面となる。この等電位面Mの電位は、第3電極86を基準とした第4電極88の電位(V)として測定される。ここで、等電位面Mの電位Vは、軟弱地盤18Aの比抵抗ρtに比例し、(1)式で求めることができる。(1)式において、Dは第1電極85と第3電極86の間隔、Vは第4電極88の電位、Iは電流供給源89で流された電流である。
【0093】
【数1】

次に、軟弱地盤18Aの比抵抗測定方法について説明する。アーチー(Archie)の法則によれば、岩石、土が水で飽和している場合、(2)式に示す関係式が成立する。
【0094】
【数2】

(2)式において、ρtは軟弱地盤18A(岩石、土)の比抵抗、ρwは軟弱地盤18Aの岩石や土の間隙に存在する地下水(間隙水)の比抵抗であり、F(=ρt/ρw)は地層比抵抗係数(フォーメーションファクタ)と呼ばれている。また、aとbは実験により求められる定数であり、Nは軟弱地盤18Aの岩石や土の間隙率である。
【0095】
ここで、定数a、定数b、及び間隙水の比抵抗ρwが予め実験により得られており、軟弱地盤18Aの比抵抗ρtの測定中に間隙水の比抵抗ρwが変化しないとすると、(1)式を用いて比抵抗測定装置80により測定された軟弱地盤18Aの比抵抗ρtを(2)式に代入することで、軟弱地盤18Aの間隙率Nが求められる。
【0096】
制御部51(図9参照)では、軟弱地盤18Aに空気P(気泡)が必要量注入されたときの基準間隙率N1が予め設定されており、測定により得られた間隙率Nと基準間隙率N1との差分がゼロに近づくように、供給装置34(図9参照)を作動させるようになっている。
【0097】
なお、本実施形態では、比抵抗に着目して軟弱地盤18Aの間隙率Nを求めているが、比抵抗ρと導電率(σとする)は逆数の関係(ρ=1/σ)にあるため、導電率計により軟弱地盤18Aの導電率σを測定し、比抵抗ρに変換して、(1)式、(2)式を用いて間隙率Nを求めるようにしてもよい。
【0098】
次に、本発明の第2実施形態の作用について説明する。
【0099】
図9に示すように、第1実施形態と同様の工程により、止水壁22で囲まれた軟弱地盤18Aに注入装置20及び揚水装置30を設置する。続いて、供給装置34が作動し、液体供給管33に供給された液体Qが液体放出孔33Aから放出されると、放出された液体Qは、有孔管28の貫通孔29及び砂利層25を通って軟弱地盤18Aに注入され、液体注入層Lを形成する。
【0100】
一方、空気供給管32に供給された空気Pが空気孔32Aから放出されると、放出された空気Pは、有孔管28の貫通孔29及び砂利層25を通って軟弱地盤18Aに注入され、空気注入層Sを形成する。なお、軟弱地盤18A中の空気Pは、上方に液体注入層Lがあるため、軟弱地盤18A中に保持される。そして、空気Pが注入された軟弱地盤18Aの空気注入層Sでは、地下水による間隙の飽和度が低下することになる。
【0101】
ここで、空気注入層Sの間隙に空気P(気泡)が存在し、飽和度が低下した状態において地震が発生すると、空気注入層Sでは、空気Pの気泡が収縮することで間隙水圧の上昇が抑えられる。これにより、砂粒子同士が接触したままの状態が保持され、水中を砂粒子が自由に移動することが抑制されるので、軟弱地盤18Aの液状化を防止できる。
【0102】
また、比抵抗測定装置80では、電流供給源89の電流Iと、電位計93の電位Vと、第1電極85と第3電極86の間隔Dと、(1)式とにより、軟弱地盤18Aの比抵抗ρtが測定される。さらに、比抵抗測定装置80では、得られた比抵抗ρtと(2)式とにより、軟弱地盤18Aの間隙率Nが求められる。
【0103】
ここで、供給装置34の制御部51では、求められた間隙率Nと、予め設定されている基準間隙率N1との差に応じて、軟弱地盤18A中の空気Pの注入量の過不足が判断される。そして、空気Pの注入量が不足と判断された場合は、引き続き空気Pの注入が行われる。また、空気Pの注入量が必要十分と判断された場合は、電磁弁58(図2参照)が遮断され、空気Pの注入が停止される。これにより、軟弱地盤18A中の空気量を実測しなくても、軟弱地盤18A中の空気Pの過不足状態を検知して、必要量の空気Pを注入することができる。
【0104】
図11には、空気Pの注入を停止したときの時間(時間t3、t5)、あるいは、注入再開したときの時間(時間t4)における地盤12の飽和度のグラフが示されている。飽和度C%は、構造物(建物14)の使用に有害とならない飽和度の下限値であり、飽和度D%は、液状化防止に必要な飽和度の上限値である。なお、地盤12への空気Pの注入を停止すると、地盤12中の空気が減少する(上方へ抜ける、溶ける)ため飽和度が上昇する。また、空気Pの注入を再開すれば、再び飽和度が低下することになる。
【0105】
ここで、図9及び図11に示すように、軟弱地盤18Aに空気Pを注入して、比抵抗測定装置80で得られる飽和度の値がC%に達したら、空気注入・揚水を自動停止させる。一方、比抵抗測定装置80で得られる飽和度の値がD%を上回ったら、空気注入・揚水を再開する。このように、比抵抗測定装置80を利用することにより、軟弱地盤18Aの飽和度を所定の範囲に保つことができる。
【0106】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0107】
注入孔部24及び揚水孔部26の数は、5だけでなく、1つ又は2つ以上の複数から自由に選択することができる。また、空気供給管32の空気孔32Aの数、及び液体供給管33の液体放出孔33Aの数についても、1つ又は2つ以上の複数から自由に選択することができる。
【0108】
第1パッカー36A〜第5パッカー36Eにおいて、パッカー袋38Cの膨張又は収縮は、空気だけでなく液体を用いて行ってもよい。また、第1パッカー36A〜第5パッカー36Eの数は5個に限定されず、必要とされる液体注入層L及び空気注入層Sの数に合わせて複数(2以上)設定すればよい。
【符号の説明】
【0109】
10 空気注入システム(空気注入システム)
14 建物(構造物)
18A 軟弱地盤(地盤)
24 注入孔部(第1孔部)
26 揚水孔部(第2孔部)
28 有孔管(有孔管)
30 揚水装置(液体排出手段)
31 有孔管(有孔管)
32 空気供給管(空気供給管)
32A 空気孔(空気孔)
33 液体供給管(液体供給管)
33A 液体放出孔(液体放出孔)
36A 第1パッカー(上部閉塞手段)
36B 第2パッカー(中部閉塞手段)
36C 第3パッカー(下部閉塞手段、上部閉塞手段)
36D 第4パッカー(中部閉塞手段)
36E 第5パッカー(下部閉塞手段)
46 (空気供給経路)
50 空気供給部(空気供給手段)
51 制御部(切換手段)
58 電磁弁(切換手段)
60 液体供給部(液体供給手段)
72 測定用孔部(第3孔部)
80 比抵抗測定装置(電気特性測定手段)
L 液体注入層(液体注入層)
P 空気
Q 液体
S 空気注入層(空気注入層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤上に構築された構造物の周辺に第1孔部を形成し、該構造物を挟んで前記第1孔部と反対側に第2孔部を形成する孔部形成工程と、
前記第1孔部及び前記第2孔部へ有孔管を挿入する有孔管挿入工程と、
前記第1孔部の前記有孔管へ、孔の形成位置が異なる空気供給管を挿入する空気供給管挿入工程と、
前記第1孔部の前記有孔管へ、孔の形成位置が前記空気供給管の孔の上方となる液体供給管を挿入する液体供給管挿入工程と、
前記液体供給管を通して、空気又は水と化学反応を起こさない液体を地盤に注入して液体注入層を形成する液体注入層形成工程と、
前記液体注入層形成工程と同時又は前記液体注入層形成工程後に、前記空気供給管を通して、前記液体注入層よりも下側の地盤に空気を注入して空気注入層を形成する空気注入層形成工程と、
液体及び水を前記第2孔部の有孔管から排出し、前記液体注入層と前記空気注入層を拡幅する排出工程と、
を有する地盤への空気注入方法。
【請求項2】
前記第1孔部と前記第2孔部を構造物の周辺に沿って複数形成し、
前記液体注入層形成工程では上下方向に複数の液体注入層を形成し、前記空気注入層形成工程では上下方向に複数の空気注入層を形成する請求項1記載の地盤への空気注入方法。
【請求項3】
予め設定した期間経過後、前記液体注入層を形成する液体を前記第2孔部から排出する請求項1又は請求項2に記載の地盤への空気注入方法。
【請求項4】
地盤上に構築された構造物の周辺に形成された第1孔部へ挿入された有孔管内に吊下げられ、供給された空気が放出される空気孔が形成された空気供給管と、
前記有孔管内に吊下げられ、空気又は水と化学反応を起こさない液体が放出される液体放出孔が前記空気供給管の空気孔の上方となる位置に形成された液体供給管と、
前記空気供給管に空気を供給する空気供給手段と、
前記液体供給管に前記液体を供給する液体供給手段と、
前記液体放出孔よりも上方に吊下げられ、拡径して前記有孔管を塞ぐ上部閉塞手段と、
前記液体放出孔よりも下方で且つ前記空気孔よりも上方に吊下げられ、拡径して前記有孔管を塞ぐ中部閉塞手段と、
前記空気孔よりも下方に吊下げられ、拡径して前記有孔管を塞ぐ下部閉塞手段と、
前記構造物を挟んで前記第1孔部と反対側の地盤に形成された第2孔部へ挿入された有孔管内に吊下げられ、地盤に注入された液体及び水を前記第2孔部の有孔管から排出する液体排出手段と、
を有する地盤への空気注入システム。
【請求項5】
前記空気供給管には、上下方向の異なる位置に複数の前記空気孔が形成され、
前記液体供給管には、上下方向の異なる位置に複数の前記液体放出孔が形成されている請求項4に記載の地盤への空気注入システム。
【請求項6】
前記空気供給手段から前記空気供給管までの空気供給経路の途中には、前記空気供給管への空気の供給又は供給停止を行う切換手段が設けられている請求項4又は請求項5に記載の空気注入システム。
【請求項7】
地盤の前記第1孔部及び前記第2孔部と異なる位置に掘削された第3孔部に配置され、地盤の導電率又は比抵抗を測定する電気特性測定手段が設けられ、
前記切換手段が、設定された導電率又は比抵抗に応じて、前記空気供給管への空気の供給又は供給停止を行う請求項6に記載の空気注入システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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