説明

地盤中への空気注入方法

【課題】砂質地盤中に形成された不飽和化領域の範囲を把握しつつ、効率的に不飽和化領域を形成できる地盤中への空気注入方法を提供する。
【解決手段】砂質地盤中に設置した空気注入管2を通じて空気Aを注入している間、この空気注入管2を設置した長孔Hとは離れた地点の長孔Hの中に設置した別の空気注入管2に設けた電極5の間で比抵抗を逐次検知し、この検知した比抵抗と、予め設定した比抵抗の閾値との比較に基づいて、この比抵抗を検知した電極5を設置した地点に不飽和化領域が形成されたか否かを判断し、不飽和化領域が形成されたと判断した場合には、空気Aの注入を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤中への空気注入方法に関し、さらに詳しくは、砂質地盤中に空気を注入して不飽和化領域を形成する際に、形成された不飽和化領域の範囲を把握しつつ、効率的に不飽和化領域を形成できる地盤中への空気注入方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水で飽和した砂質地盤の液状化を防止するために、砂質地盤中に気泡を混入させた水を注入したり、空気を直接注入することにより、水で飽和した砂質地盤中に多数の気泡を混在させて砂質地盤の飽和度を低下させる工事が提案されている。この際に、空気を注入した砂質地盤の比抵抗に基づいて地盤の飽和度を測定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の発明は、地盤の飽和度の程度を把握することを目的としている。
【0003】
ところで、効率的に地盤中に不飽和化領域を形成するには、地盤の飽和度の程度を把握するだけではなく、注入方法にも工夫をする必要がある。即ち、地盤中の飽和度の程度を把握した上で、その把握した情報を空気の注入作業に利用しなければ、効率的に不飽和化領域を形成することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−121066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、砂質地盤中に空気を注入して不飽和化領域を形成する際に、形成された不飽和化領域の範囲を把握しつつ、効率的に不飽和化領域を形成できる地盤中への空気注入方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明の地盤への空気注入方法は、砂質地盤中に設置した空気注入管を通じて空気を注入することにより、砂質地盤に不飽和化領域を形成する地盤中への空気注入方法において、空気を注入している間、この空気注入管を設置した地点とは離れた地点の同一の長孔の中に設置した電極の間で比抵抗を逐次検知し、この検知した比抵抗と、予め設定した比抵抗の閾値との比較に基づいて、この比抵抗を検知した電極を設置した地点に不飽和化領域が形成されたか否かを判断し、不飽和化領域が形成されたと判断した場合には、空気の注入を終了することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、地盤中に空気を注入している間、この空気注入管を設置した地点とは離れた地点の同一の長孔の中に設置した電極の間で比抵抗を逐次検知し、この検知した比抵抗と、予め設定した比抵抗の閾値との比較に基づいて、この比抵抗を検知した電極を設置した地点に不飽和化領域が形成されたか否かを判断する。即ち、地盤が不飽和化されたか否かの判断指標として、比抵抗の閾値を予め設定し、この閾値と検知した比抵抗との比較によって、逐次、形成された不飽和化領域の範囲を判断し、飽和化領域が形成されたと判断した場合には空気の注入を終了するので、無駄なく効率的に不飽和化領域を形成できる。
【0008】
ここで、空気を注入している時間が所定時間経過後に、予め設定された地点まで不飽和化領域が形成されていないと判断した場合には、空気の注入圧力を予め設定された許容範囲内で大きくすることもできる。この方法によって、過大な圧力で空気を注入して地盤を割裂させるという不具合を回避しつつ、効率的に不飽和化領域を形成することができる。
【0009】
現場地下水の比抵抗に対して予め設定された許容範囲内の比抵抗を有する削孔水または現場地下水を使用して、削孔ロッドによって前記長孔を削孔することもできる。この方法によって、地盤の比抵抗を検知する際に、現場地下水の比抵抗と、長孔の中に残留する削孔水の比抵抗との相違に起因する測定精度の低下を排除することができる。そのため、現場地下水を含んだ地盤の本来の比抵抗を検知することが可能になり、これに伴って、不飽和化領域の範囲を精度よく把握するには有利になる。
【0010】
前記空気注入管に上下方向に間隔をあけて複数の電極を取り付け、前記長孔を地盤に間隔をあけて複数削孔し、それぞれの長孔の中に前記空気注入管を設置することにより、長孔の中に上下方向に間隔をあけて複数の電極を設置し、これら電極の間で比抵抗を検知することもできる。この方法によって、必然的に地盤中に設置される空気注入管を利用して電極を設置できるので、電極を設置するために特別に削孔する必要がなくなり、作業時間を大幅に削減することができ、使用する部材の数を抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】地盤を削孔する工程を縦断面で例示する説明図である。
【図2】削孔した長孔を縦断面で例示する説明図である。
【図3】地盤に空気を注入している工程を例示する説明図である。
【図4】地盤に設置した図3の空気注入管の配置を例示する平面図である。
【図5】空気を注入した地盤の比抵抗の経時的変化率を例示するグラフ図である。
【図6】空気の注入圧力を異ならせた場合の比抵抗の変化率を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の地盤中への空気注入方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0013】
本発明は、軟弱な砂質地盤に対する液状化防止工事として、地盤中に空気を注入することにより不飽和化領域を形成する。そこで、まず、空気注入管を設置するための長孔Hを地盤に設ける。図1に例示するように削孔ロッド1の先端部から削孔水Wを流出させながら削孔ロッド1を回転させて、地下水のレベルWLよりも深く、所定に深さまで地盤を削孔する。削孔した長孔Hには、図2に例示するように削孔水Wが残留する。
【0014】
長孔Hには図3に例示するように空気注入管2が挿入される。長孔Hは、図4に例示するように適宜の間隔をあけて複数設けられ、それぞれの長孔Hに空気注入管2が設置される。隣り合う空気注入管2の間隔は、例えば1.5m〜5.0m程度である。
【0015】
空気注入管2の先端部の周壁には、複数の注入孔3が設けられている。空気注入管2の周壁にはさらに、上下方向に間隔をあけて複数の電極5が設置されている。上下に隣り合う電極5の間隔は、例えば50cm〜100cmである。空気注入管2の後端部には、空気供給源につながれた空気供給管4が接続される。電極5は、空気注入管2とは異なる地点、例えば、空気注入管2と空気注入管2との間の地点に、空気注入管2とは分離して単独で設置される場合もある。
【0016】
それぞれの電極5は、地上まで延びるリード線を通じて比抵抗測定機器に接続され、これら電極5どうしの間で検知された比抵抗のデータは、地上に設置されたパーソナルコンピュータ等の演算装置6に入力されるようになっている。この演算装置6には、その比抵抗を検知した電極5が存在している地点の地盤が不飽和化されたか否かの判断指標として、比抵抗の閾値が予め入力されている。
【0017】
例えば、空気Aを注入する前に、その地盤の比抵抗を予め取得しておき、その取得した比抵抗を初期値とする。そして、初期値に対して所定割合変化した値を閾値として設定する。閾値は、十分な量の空気が均等に混在して地盤が不飽和化された状態において検知される比抵抗の値である。例えば、初期値に対して5%〜10%変化した値を閾値とする。
【0018】
空気注入管2が挿入された長孔Hには、下から順に、硅砂7、BP(ベントナイトペレット)8、超微粒子セメント9またはセメントベントナイトが充填される。各々の充填材料は、各々と同等もしくは、それ以上の優れた機能(性能)を有する材料であれば用いることができる。
【0019】
硅砂7は、注入孔3に対応する位置に充填され、硅砂7の上に充填されるBP8はシール材として機能する。超微粒子セメント9は地表近傍まで充填される。このように空気注入管2を長孔Hに設置した後、空気供給管4を通じて空気注入管2に供給した空気Aを、一定圧力(一定流量)で注入孔3から地盤に注入する。これにより、水で飽和した砂質地盤中に多数の気泡を混在させて地盤の飽和度を低下させる。
【0020】
空気Aを注入する際の圧力は、例えば、有効土被り圧σ’の0.5倍である。有効土被り圧σ’とは、地盤中の所定の地点(注入孔3の位置)よりも上部に存在する土の重量によって生じる全土被り圧から、その地点の間隙水圧を減じた圧力である。
【0021】
空気Aの注入作業は、例えば、ある1本の空気注入管2を通じて、空気Aを地盤中に注入して不飽和化領域を形成した後、別の1本の空気注入管2を通じて空気Aを地盤中に注入して不飽和化領域を形成する。このように順次、別の地点に設置された空気注入管2を通じて空気Aを地盤に注入することにより、必要な範囲に不飽和化領域を形成する。
【0022】
ここで、本発明では、空気注入管2を通じて空気Aを注入している間、この空気注入管2を設置した地点とは離れた地点の長孔Hの中に設置した電極5の間で比抵抗を逐次検知する。即ち、空気を注入している空気注入管2とは別の空気注入管2に設けた電極5の間で地盤の比抵抗を逐次検知する。
【0023】
具体的には、同一の長孔Hの中に上下方向に間隔をあけて設置された複数の電極5どうしの間で比抵抗を検知する。適宜選択した2つの電極5の間で比抵抗を検知することができるが、例えば、上下に隣り合う電極5の間に電流を流して比抵抗を検知する。すべての上下に隣り合う電極5の間で比抵抗を検知することにより、地盤の比抵抗の分布、即ち、地盤の飽和度の分布を把握することができる。
【0024】
そして、この電極5の間で検知した比抵抗と、予め設定した比抵抗の閾値との比較に基づいて、演算装置6によって、この比抵抗を検知した電極5を設置した地点に不飽和化領域が形成されたか否かを逐次判断する。即ち、検知した比抵抗が閾値に達した場合は、不飽和化領域が形成されたと判断し、閾値に達していない場合は不飽和化領域が形成されていないと判断する。そして、不飽和化領域が形成されたと判断した場合には、その空気注入管2を通じての空気Aの注入を終了する。
【0025】
図5に記載のデータは、図3に例示したように空気Aを注入している空気注入管2から所定間隔離れた位置に配置された空気注入管2に設けられた上下に隣り合う電極5の間で検知された比抵抗のデータである。比抵抗を検知した電極5どうしの間の中間位置の深さが縦軸の深度になっている。このデータは、空気Aを注入する前に検知した比抵抗(初期値)に対する空気Aを注入後に検知した比抵抗の変化率を示している。t1は空気Aを一定圧力で注入してから75分後のデータであり、t2、t3、t4、t5、t6はそれぞれ、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後のデータである。
【0026】
空気Aの注入孔3は、深度7.5mに設置されている。図5のデータから、注入圧力が一定でも、注入時間を長くすると比抵抗変化率が大きくなることが分かる。したがって、空気Aを所定の一定圧力で注入し、注入時間を適切にすることで、効率的に不飽和化領域が形成できることが分かる。
【0027】
このように本発明では、地盤が不飽和化されたか否かの指標として、比抵抗の閾値を予め設定しておき、閾値と検知した比抵抗との比較に基づいて、逐次、比抵抗を検知した地点が不飽和化されたか否かを判断する。そして、飽和化領域が形成されたと判断した場合には空気Aの注入を終了する。換言すると、逐次、形成された不飽和化領域の範囲を把握しつつ、空気の注入量に過不足がないようにタイミングよく空気Aの注入作業を終了する。これにより、無駄なく効率的に不飽和化領域を形成することができる。
【0028】
地盤の性状によっては、空気Aを注入している時間が所定時間経過しても、検知した比抵抗がほとんど変化しない場合がある。例えば、地盤の締まり具合に比して、空気Aの注入圧力が低過ぎて、空気Aが注入、浸透し難い場合は、比抵抗がほとんど変化しない。
【0029】
この場合は、その比抵抗を検知した電極5が存在している地点には、不飽和化領域が形成されていないと判断される。そこで、予め設定された地点まで不飽和化領域が形成されていないと判断した場合には、空気Aの注入圧力(注入流量)を予め設定された許容範囲内で大きくすることもできる。
【0030】
図6に記載のデータは、図3に例示したように空気Aを注入している空気注入管2から所定間隔離れた位置に配置された空気注入管2に設けられた上下に隣り合う電極5の間で検知された比抵抗のデータである。比抵抗を検知した電極5どうしの間の中間位置の深さが縦軸の深度になっている。このデータは、空気Aを注入する前に検知した比抵抗(初期値)に対する空気Aを注入後に検知した比抵抗の変化率を示している。p1は空気Aを0.20σ’(流量15L/分)の圧力で注入してから30分後のデータであり、p2、p3、p4はそれぞれ、1.65σ’(流量21L/分)、2.25σ’(流量24L/分)、2.45σ’(流量25L/分)の圧力で空気Aを注入してから30分後のデータである。
【0031】
空気Aの注入孔3は、深度8mに設置されている。図6のデータから、注入圧力を大きくすると比抵抗変化率が大きくなることが分かる。したがって、空気Aの注入圧力を適切に大きくすることで、効率的に不飽和化領域が形成できることが分かる。
【0032】
この場合、注入圧力が過大であると、地盤を割裂させる不具合が生じるので、地盤が圧壊しない許容範囲内で注入圧力を大きくする。段階的に注入圧力を大きくするのが好ましく、例えば、有効土被り圧σ’の0.1倍(0.1σ’)のピッチで注入圧力を増加させる。これにより、過大な注入圧力で空気Aを注入して地盤を割裂させるという不具合を回避しつつ、効率的に不飽和化領域を形成することができる。
【0033】
ところで、電極6を設置する長孔Hには、削孔水Wが残留するので、電極5で検知した比抵抗には削孔水Wの比抵抗が影響する。そこで、削孔ロッド1によって長孔Hを削孔する際に、現場地下水の比抵抗に対して予め設定された許容範囲内の比抵抗を有する削孔水Wを使用するとよい。この許容範囲は、現場地下水の比抵抗の±20%程度である。
【0034】
例えば、削孔ロッド1によって地盤を削孔する際に使用するために用意した削孔水Wと、現場地下水との比抵抗を予め比較する。そして、両者の比抵抗の差が予め設定された許容範囲内の場合は、その削孔水Wをそのまま使用して空気注入管2(電極5)を設置する長孔Hを削孔する。
【0035】
両者の比抵抗の差が許容範囲外の場合は、用意した削孔水Wに添加物を混合する。このようにして、現場地下水に近づけるように比抵抗を調整した削孔水Wを使用して長孔Hを削孔する。或いは、削孔水Wとして現場地下水を使用することもできる。
【0036】
このように削孔水Wの比抵抗を適切にすることで、地盤の比抵抗を電極5で検知する際に、現場地下水の比抵抗と削孔水Wの比抵抗との相違に起因する測定精度の低下を排除することができる。そのため、現場地下水を含んだ地盤の本来の比抵抗を検知することが可能になり、これに伴って、地盤の不飽和化領域が形成された範囲を精度よく把握するには有利になる。
【0037】
地盤中に電極5を設置するには、空気注入管2を利用して設置するだけでなく、他の方法で電極5を設置することもできる。例えば、地盤中に設置した空気注入管2を中心にして長孔Hを複数削孔し、それぞれの長孔Hの中に、上下方向に間隔をあけて複数の電極5を取り付けた電極ロッドを設置することもできる。電極ロッドが挿入された長孔Hには、例えば、セメントベントナイトが充填される。
【0038】
ただし、図3、図4に例示したように空気注入管2を利用して電極5を長孔Hの中に設置すれば、電極5を設置するために特別に削孔する必要がなくなる。これに伴って、作業時間を大幅に削減することができ、使用する部材の数を抑制することもできる。
【符号の説明】
【0039】
1 削孔ロッド
2 空気注入管
3 注入孔
4 空気供給管
5 電極
6 演算装置
7 硅砂
8 BP(ベントナイトペレット)
9 超微粒子セメント
H 長孔
W 削孔水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂質地盤中に設置した空気注入管を通じて空気を注入することにより、砂質地盤に不飽和化領域を形成する地盤中への空気注入方法において、
空気を注入している間、この空気注入管を設置した地点とは離れた地点の同一の長孔の中に設置した電極の間で比抵抗を逐次検知し、この検知した比抵抗と、予め設定した比抵抗の閾値との比較に基づいて、この比抵抗を検知した電極を設置した地点に不飽和化領域が形成されたか否かを判断し、不飽和化領域が形成されたと判断した場合には、空気の注入を終了することを特徴とする地盤中への空気注入方法。
【請求項2】
空気を注入している時間が所定時間経過後に、予め設定された地点まで不飽和化領域が形成されていないと判断した場合には、空気の注入圧力を予め設定された許容範囲内で大きくする請求項1の記載の地盤中への空気注入方法。
【請求項3】
現場地下水の比抵抗に対して予め設定された許容範囲内の比抵抗を有する削孔水または現場地下水を使用して、削孔ロッドによって前記長孔を削孔する請求項1または2に記載の地盤中への空気注入方法。
【請求項4】
前記空気注入管に上下方向に間隔をあけて複数の電極を取り付け、前記長孔を地盤に間隔をあけて複数削孔し、それぞれの長孔の中に前記空気注入管を設置することにより、長孔の中に上下方向に間隔をあけて複数の電極を設置し、これら電極の間で比抵抗を検知する請求項1〜3のいずれかに記載の地盤中への空気注入方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−52412(P2012−52412A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−247819(P2011−247819)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000236610)株式会社不動テトラ (136)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【出願人】(000103769)オリエンタル白石株式会社 (136)
【出願人】(000133397)株式会社ダイヤコンサルタント (11)
【Fターム(参考)】