説明

地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物及びこれを用いた施工法

【課題】 透水係数の大きい砂礫地盤においても安定した難透水層を形成し、コンクリートとの置換性、鉄筋とコンクリートの付着性の低下もなく、さらに排泥土量を減少させることができる地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物及びこれを用いた施工法を提供する。
【解決手段】 水と、吸水して膨潤した高吸水性ポリマー粒子を含む地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物であって、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の比重が1.20以下の範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現場打杭工事やコンクリート地中連続壁工事等で使用する、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物及びこれを用いた施工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現場打杭工事やコンクリート地中連続壁工事において掘削時に用いる安定液として、ベントナイト安定液、ポリマー安定液、気泡安定液等がある。
【0003】
表1にベントナイト安定液とポリマー安定液の掘削土質別の水1m当たりの標準配合量(kg)を示す。組成はベントナイト、ポリマーとして、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと略称する)及び分散剤で構成されている。ベントナイトは重量組成では約90%以上となる主要な構成材である。
【0004】
【表1】

【0005】
ベントナイトは掘削面に難透水性膜を造成することにより安定液の逸泥を防ぎ、副次的には安定液の比重を適正な比重にするために用いられ、CMCは安定液の粘性を増加させて、ろ水量を低下させる目的で用いられる。また分散剤は安定液の機能の低下を防止するために用いられる。
【0006】
なお、ベントナイト安定液とポリマー安定液の組成はベントナイトとCMCの配合率が異なるだけなので、これらを以下、ベントナイト系安定液組成物と称する。
【0007】
ベントナイト系安定液組成物は使用実績が多いが、土粒子間の間隙径が大きく透水性が大きい砂礫土層を掘削する場合は、溝壁面に難透水性膜の形成が不十分で逸泥が止まらず、溝壁の崩壊につながることがある。
【0008】
そのため、これまでにベントナイト系安定液組成物中に逸泥防止材としてパルプ繊維、高吸水性繊維や高吸水性ポリマー粒子を添加し、土粒子間の間隙を目詰して、逸泥量を減少させ、ベントナイトにより溝壁面に難透水性膜を形成する対策が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0009】
また、ベントナイト系安定液組成物を使用すると、ベントナイト系安定液組成物とコンクリートの置換時において、ベントナイトが鉄筋に付着し付着強度が低下し易く、かつ排泥土中にベントナイトが混入し、排泥土の再利用の困難さが生じること等の問題点があった。
【0010】
これに対し、掘削時に掘削土砂に気泡と水を加え、掘削土砂、適量の気泡と水を混合して懸濁体とした気泡安定液を安定液として使用することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0011】
この気泡安定液は、排泥土の発生量が少なく、排泥土の再利用が容易で、かつ掘削土層が透水性の大きい砂礫層であっても、気泡が砂礫層の間隙を目詰し、土層と気泡が一体となって難透水層を形成するので、使用し易い安定液である。しかしながら、懸濁状態を保たせるための気泡安定液の比重が約1.3〜1.4であり、この範囲では気泡安定液の粘性が高いために、コンクリートとの置換性において問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許3158940号公報
【特許文献2】特開2004−99677号公報
【特許文献3】特許3725750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記のような背景から従来の問題点を解消し、透水係数の大きい砂礫地盤においても安定した難透水層を形成し、優れたコンクリートとの置換性を有し、鉄筋とコンクリートの付着性の低下もなく、さらに排泥土量を減少させることができる地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物及びこれを用いた施工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0015】
第1に、水と、吸水して膨潤した高吸水性ポリマー粒子を含む地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物であって、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の比重が1.20以下の範囲であることを特徴とする地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物である。
【0016】
第2に、上記第1の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物において、最大粒径が2.0mm以下の無機材の加重材を含むことが好ましい。
【0017】
第3に、上記第2の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物において、前記加重材が、掘削時に掘削地盤から混入した地盤の細粒分であることが好ましい。
【0018】
第4に、上記第2又は第3の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物において、前記加重材が、微砂、粘土鉱物、硫酸塩鉱物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
第5に、上記第1から第4の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物において、コンクリートや塩分等の電解質や、酸性、アルカリ性物質が混入した際に、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の性状及び品質の劣化の抑制や回復を可能とする安定剤を添加することが好ましい。
【0020】
第6に、上記第5の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物において、前記安定剤が、電解質濃度を低下させる安定剤であることが好ましい。
【0021】
第7に、上記第5又は第6の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物において、前記安定剤が、PH(水素イオン指数濃度)を中性化させる中和剤であることが好ましい。
【0022】
第8に、上記第5から第7の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物において、前記安定剤が、希硫酸、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、炭酸水素塩、炭酸塩から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0023】
第9に、上記第1から第8の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物において、孔壁安定性を向上させる助材が含まれていることが好ましい。
【0024】
第10に、上記第9の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物において、助材がベントナイト、おが屑、パルプ、ロックウール、繊維等の逸泥防止材又は、水溶性高分子から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0025】
第11に、上記第1から第10の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物において、高吸水性ポリマー粒子がデンプン系、セルロース系及び合成ポリマー系から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0026】
第12に、上記第1から第11の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物において、吸水して膨潤した高吸水性ポリマー粒子が、加圧により水を放出しない架橋構造の高吸水性ポリマー粒子であることが好ましい。
【0027】
第13に、上記第1から第12の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物において、吸水して膨潤した高吸水性ポリマー粒子の膨潤後の粒径が3mm以下であることが好ましい。
【0028】
第14に、上記第1から第13の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物において、ファンネル粘性(500ml/500ml)が19〜120秒の範囲であることが好ましい。
【0029】
第15に、上記第1から第14の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物において、電気伝導率が10mS/cm以下であることが好ましい。
【0030】
第16に、上記第1から第15の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に電解質を加えることにより、高吸水性ポリマー粒子から水を放出させ、電解質を含んだ水と、水を放出した高吸水性ポリマー粒子に分離させて排泥土量を減少させることを特徴とする施工法である。
【0031】
第17に、上記第16の発明の施工法において、電解質が塩化カルシウム、クエン酸、水酸化ナトリウム及び塩化ナトリウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0032】
第18に、上記第1から第15の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を使用して掘削施工を行い、掘削後の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を回収し、回収した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に、水、高吸水性ポリマー粒子、加重材、安定剤、助材を適量添加し、性状、品質を調整し、次掘削の安定液に再利用することを特徴とする施工法である。
【0033】
第19に、上記第1から第15の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を、ファンネル粘性(500ml/500ml)が45〜120秒の範囲の高粘性に配合使用して掘削施工を行い、掘削の際に地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に混入する堀屑を地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物中に取り込むことにより、孔底の処理作業工程を省くことを特徴とする施工法である。
【0034】
第20に、上記第1から第15の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を、ファンネル粘性(500ml/500ml)が19〜44秒の範囲の低粘性に配合使用して掘削施工を行い、掘削の際に地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に混入する堀屑を早期に孔底に沈降させることにより、孔底の堀屑処理作業工程を迅速に行うことを特徴とする施工法である。
【0035】
第21に、上記第1から第15の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を使用して掘削施工を行い、使用した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を回収し、回収した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に加水することにより、掘削施工の際に混入した堀屑を沈降させ、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物と堀屑とを分離し、比重を低減させた地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を次の施工に再利用することを特徴とする施工法である。
【0036】
第22に、上記第1から第15の発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を使用して掘削施工を行い、コンクリートをトレミー管で底部から打設する際、トレミー管の表面に摩擦低減材の塗布又は貼付することで摩擦低減加工をし、コンクリートの地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物への影響を抑制することを特徴とする施工法である。
【0037】
第23に、上記第16から第22の発明の施工法において、施工法が、場所打杭工法、コンクリート地中連続壁工法であることが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物及びこれを用いた施工法によれば、透水係数の大きい砂礫地盤においても安定した難透水層を形成し、優れたコンクリートとの置換性を有し、鉄筋とコンクリートの付着性の低下もなく、さらに排泥土量を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】難透水層形成を計測する装置の概略図である。
【図2】安定液による透水係数の差異を示したグラフである。
【図3】電解質濃度と吸水量の関係を示したグラフである。
【図4】粘土分混入率に対するろ過後のろ紙に残った泥膜厚さを示したグラフである。
【図5】安定液に加水した後の砂の経過時間に対する沈降率を示したグラフである。
【図6】混入した堀屑を分離・除去し、再利用するためのシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物は、水と、吸水して膨潤した高吸水性ポリマー粒子からなるものである。
【0041】
本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に用いられる高吸水性ポリマー粒子は、架橋構造を持つ親水性のポリマーであって、自重の10倍以上の吸水性を有し、圧力をかけても離水しにくいものであり、吸水量はJIS K 7223で定義づけられるものである。
【0042】
本発明で用いられる高吸水性ポリマー粒子の種類は、上記の条件を満足するものであれば特に制限なく用いることができ、例えば、デンプン系、セルロース系、合成ポリマー系の高吸収性ポリマーを挙げることができる。これらの中でもポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子は性能とコストの両面で特に好適に用いることができる。
【0043】
ポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子は、アクリル酸ナトリウム(CH2=CH-COONa)に架橋剤を加えて軽度に架橋させた3次元網目構造を持ったアクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物のゲルである。架橋剤の種類は種々なものがある。
【0044】
このポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子は、水を吸収するとカルボキシル基がゲル中にナトリウムイオンを解離し、純水ならば自重の100〜1000倍にも達する膨潤度を生み出すことが知られている。
【0045】
また、ポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子の吸水量は、アクリル酸ナトリウムに対して架橋剤を多く配合するとゲルは硬くなり吸水量は少なくなる。また、架橋剤の配合を少なくするとゲルは柔らかくなり吸水量は多くなる。
【0046】
さらに、特殊なポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子として、架橋剤により重合させた高吸水性ポリマー粒子の表面をさらに架橋させた、シェルとコアの二重構造のポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子がある。
【0047】
この、シェルとコアの二重構造のポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子の場合には、シェルが厚いほど硬いゲルとなり吸水量は少なくなり、シェルを薄くすると柔らかいゲルとなり吸水量は多くなる。
【0048】
また、上記のシェルとコアは、通常、エステル結合により架橋したものであるが、コアの結合が耐アルカリ性、耐電解質性に優れたエーテル結合であるポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子もあり、本発明においてはこのエーテル結合の方がより好ましい。
【0049】
上記の特性のほか、ポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子におけるナトリウムイオンの解離は、ゲルがおかれるPHや塩濃度等の条件にも依存するため、使用条件に応じてその他の高吸水性ポリマー粒子を適宜選択して併用することができる。
【0050】
通常、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物は大深度で使用することもあるので、加圧力に応じて水の保持力の低下が少なく変形しにくい架橋構造を持った高吸水性ポリマー粒子の選定が必要であり、かつ、逸泥の生じやすい土層の土粒子間の間隙を目詰するために、膨潤後の粒径は3mm以下で粒度分布が良いことが望ましい。
【0051】
本発明でポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子を用いる場合は、上記の条件を満足するものであれば特に制限なく用いることができるが、特にシェルとコアの二重構造のポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子を上記の条件に調整したものを好適に用いることができる。
【0052】
本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物は、上記の膨潤高吸水性ポリマー粒子に水を加えた状態で、比重を1.20以下、好ましくは0.95〜1.20の範囲に調整したものである。
【0053】
また、本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物には、加重材として無機材を添加することができる。
【0054】
本発明で用いられる加重材としての無機材としては、微砂、微粒な重晶石や陶磁器の破砕物を用いることができる。
【0055】
また、加重材の添加は、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に予め前記無機材を添加しておくほか、前記無機材と共に、又は前記無機材なしに、掘削時に掘削地盤から混入した地盤の細粒分を加重材として用いることもできる。
【0056】
加重材の粒径としては、最大粒径2.0mm以下、好ましくは1.0mm以下のものを好適に用いることができる。
【0057】
この粒径範囲とすることにより、安定した難透水層を形成することができ、さらに、後述する掘削後に回収した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の廃棄、再利用に好適な地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物とすることができる。
【0058】
本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物は、上記の膨潤高吸水性ポリマー粒子に水と加重材を加えた状態で、比重を1.20以下、好ましくは0.95〜1.20の範囲に調整したものである。また、予め加重材としての無機材を添加せず、掘削時に掘削地盤から混入した地盤の細粒分を加重材とする場合の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物においては、比重を1.00〜1.20の範囲に調整したものを用いることができる。この比重の調整は、下記式(1)により行うことができる。
【0059】
吸水前の高吸水性ポリマー粒子に水を加えて膨張させた高吸水性ポリマー粒子の質量をWP4、体積をVP4、比重をρP4とし、膨潤高吸水性ポリマー安定液の加重材の添加質量をW、体積をV、比重をρとすると、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の比重ρは下記式(1)の通りとなる。
【0060】
【数1】

【0061】
なお、加重材を加えない場合の比重調整に関しては、加重材の添加質量W、体積V、比重ρを0として算出すればよい。
【0062】
また、本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の粘性は、ファンネル粘性(500ml/500ml)が19〜120秒、好ましくは22〜30秒の範囲内に調整したものである。ここで、ファンネル粘性とは、500mlの漏斗形の容器に入れた試料液が500ml吐出するに要した流出時間(秒)によって粘性を測定するマーシュファンネル粘度計を用いて測定された粘性である。
【0063】
また、本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物には、孔壁安定性の向上、また、前記地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の粘性調整あるいは堀屑の沈降を促進することを目的として、助剤を添加することができる。
【0064】
本発明で用いられる助剤としては、ベントナイト、おが屑、パルプ、ロックウール、繊維等の逸泥防止材又は、水溶性高分子から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0065】
さらに、本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物には、コンクリートや塩分等の電解質や、酸性、アルカリ性物質が混入した際に、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の性状及び品質の劣化の抑制や回復を可能とするための安定剤を添加することができる。
【0066】
本発明で用いられる安定剤としては、希硫酸、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、また、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩、また、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム等の炭酸塩から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0067】
施工過程において、コンクリートや塩分等の電解質が地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に混入し、電解質濃度が高くなると、地盤掘削用膨高吸水性ポリマー安定液組成物中の高吸水性ポリマー粒子の吸水倍率が低下し、吸水していた水分を放出することで地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物のファンネル粘性やろ水量等の性状、品質が急激に劣化することになる。
【0068】
このような状況に対し、安定剤を予め添加しておくことで、電解質濃度の上昇を抑制し、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の性状、品質の劣化を防止することができる。
【0069】
また、電解質の混入により劣化した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に安定剤を添加することにより、電解質濃度を低下させ、放出していた水分を再吸収し、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の性状、品質を回復させることができる。
【0070】
さらに、コンクリートが混入し、アルカリ性になると、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の性状、品質が劣化するため、安定剤を中和剤として添加して、PH(水素イオン指数濃度)を中性化させることで、性状、品質を回復させることができる。
【0071】
上記の本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物においては、その電気伝導率が10mS/cm以下とするのが望ましい。
【0072】
地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の電気伝導率をこの範囲にすることにより、打設したコンクリートの劣化や、鋼材への付着、鋼材の腐食を抑制する地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物とすることができる。
【0073】
本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を用いた施工法では、工事終了後に、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を簡便に廃棄することができる。以下に、本発明の廃棄の原理について詳述する。
【0074】
本発明の膨潤高吸収性ポリマー安定液組成物を用いる施工法では、膨潤高吸収性ポリマー安定液組成物に、電解質を加えることにより容易に廃棄することが可能となる。
【0075】
膨潤高吸収性ポリマー安定液に電解質を加えると、図3に示すように、電解質の種類及びそれぞれの電解質の電解質濃度に応じて、膨潤高吸収性ポリマーは取り込んでいる水を放出して体積を減少させる。
【0076】
本発明の廃棄方法で用いられる電解質としては、膨潤高吸収性ポリマー安定液組成物に加えることにより水を放出させる電解質であれば特に制限なく用いることができ、例えば、酸性物質として塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸等、塩基性物質として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等、塩類として塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等を挙げることができる。この中でも、廃棄した時の環境の負荷や経済性の面を考慮して、塩化カルシウムを好適に用いることができる。
【0077】
廃棄の具体例としては、例えば、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の構成材として、高吸水性ポリマー粒子0.2%、加重材4.8%、水95.0%の場合、塩化カルシウムを加えることにより、安定液は95%の塩化カルシウム水溶液と5%の加重材と高吸水性ポリマー粒子の固形物に分離することができる。
【0078】
このように、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を固形物と液体に分離して廃棄することができる本発明の施工法によれば、廃棄が容易になることは勿論、処理コストを非常に安価に抑えることができる。
【0079】
また、本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を用いた施工法では、掘削に伴う孔底処理の作業を省くことができる。
【0080】
通常、表1に示した従来用いられているベントナイト系安定液組成物を使用して現場打杭等を構築する場合、掘削底部に掘削に伴う掘屑が沈殿し、コンクリート強度の低下、断面欠損および杭支持力の低下の原因となるため、コンクリートの打設前にこれらの堀屑を除去する孔底処理を行う必要がある。
【0081】
一方、表3に示す本発明の膨潤高吸水性ポリマー安定液を高粘性に配合使用した場合、掘削に伴う堀屑は沈降せず、膨潤高吸水性ポリマー安定液中に浮遊するため、堀屑沈降の待ち時間や孔底処理の作業を省くことができ、杭施工の施工効率を向上させることが期待できる。
【0082】
また、表3に示す本発明の膨潤高吸水性ポリマー安定液を低粘性に配合使用した場合、掘削の際に地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に混入する堀屑を早期に孔底に沈降させることができ、孔底の堀屑処理作業工程を迅速に行うことが可能となる。
【0083】
なお、この場合の粘性は、高粘性をファンネル粘性(500ml/500ml)が45〜120秒の範囲、低粘性を19〜44秒の範囲で区別することができる。
【0084】
また、このように堀屑が混入している、掘削施工に使用した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を回収し、次の施工の安定液として再利用することができる。
【0085】
具体的には、(1)掘削が完了した後、コンクリートの打設に応じて、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を回収する。次に(2)回収した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に、水、高吸水性ポリマー粒子、加重材、安定剤、助材を適宜添加し、性状、品質を調整することにより、次の掘削に再利用することができる。
【0086】
なお、コンクリートの打設に応じて回収した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物には堀屑が混入しているが、この堀屑が混入している状態の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物は、高吸水性ポリマー粒子の吸水能力以上の水を加水すると、混入している堀屑が沈降し、さらに吸収能力以上の余剰水は上部に上澄み水として分離する性質を有する。
【0087】
この性質を利用することにより、回収した堀屑が混入した状態の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に吸収能力以上の水を加水することにより、底部に沈降した堀屑、上層に余剰水、中層に地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に分離することができる。これにより中層の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を取り出して次の施工に再利用することができる。
【0088】
以下に、膨潤高吸水性ポリマー安定液の回収・処理・再利用のプロセスについて図を用いて具体的に詳述する。
【0089】
図6は、混入した堀屑を分離・除去し、再利用するためのシステムの一例であり、図中の(1)〜(7)の各プロセスの内容は以下のとおりである。
(1)掘削に際しては、掘削土量に応じて調整槽から地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を掘削孔に移送し安定液とする。
(2)掘削が完了し、コンクリートの打設に際しては、コンクリートの打設量に応じて堀屑が混入した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を沈殿槽に回収する。
(3)沈殿槽では、水槽から加水し、上澄み水と地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物と沈殿屑の3層に分離させる。
(4)上澄み水を水槽に回収する。
(5)中層の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を調整槽に送る。
(6)沈殿した最下層の沈殿屑を除去し処分する。
(7)必要に応じて、高濃度地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を調整槽に入れ、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の比重と粘性を調整する。
【0090】
上記に示すシステムを用いて再利用することで、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の材料コストの低減だけでなく、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を、工事終了時以外は排出処分する必要がなくなり、廃棄処分コストや環境負荷の低減にも効果的である。
【0091】
本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を使用する掘削施工において、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物とコンクリートの置換工程に用いるトレミー管は、トレミー管の表面の摩擦を低減させたものを用いることが望ましい。
【0092】
トレミー管の表面の摩擦を低減させることにより、トレミー管表面へのコンクリートの付着を防止することができ、コンクリートの地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物への影響を抑制することができる。
【0093】
トレミー管の表面の摩擦を低減させるためには、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等によるフッ素樹脂加工等を施したり、前記フッ素樹脂加工等を施したシートや部材をトレミー管表面に添付することにより表面の摩擦を低減させることができる。
【0094】
本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物は、難透水層の形成性が良好であり、コンクリートとの置換性や鉄筋への付着性に問題が生じることなく、比重の調整が容易であり、かつ安定液の排泥処理が容易であるという特徴から、土中に円柱状に、あるいは溝状に掘削を行う場合の孔壁又は溝壁の安定性を保って掘削を行う施工法、具体的には、場所打杭施工法やコンクリート地中連続壁工法用の安定液として好適に用いることができる。
【実施例】
【0095】
本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物として備えるべき物性としては、
1)地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の適正比重調整。
2)難透水層の形成。
3)地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物とコンクリートの置換。
4)コンクリートと鉄筋の付着性。
5)杭あるいは地中連続壁の出来形の確保性。
6)地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の再利用性及び孔底の処理性。
を挙げることができる。
【0096】
また、上記の各物性のほか、
7)現場施工での確認
の実施を挙げることができる。
【0097】
以下に、実施例として上記1)〜6)の各条件の適合及び7)の確認について、本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
<地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の作成>
高吸水性ポリマー粒子として、表2に示す物性値のポリアクリル酸ナトリウム高吸水性ポリマー粒子(三洋化成工業社製、商品名:サンフレッシュST−500D、ST−500MPSA及びGeosap)を用いた。
【0098】
【表2】

【0099】
この高吸水性ポリマー粒子を表3に示すように、ST−500D、ST−500MPSAを質量比で25:75にブレンドしたもの及び単独のST−500MPSA、Geosapを、350〜1000倍の水で膨潤させ、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物(組成No.1〜6)を作成した。なお、加重材、助剤、安定剤を添加したものについては、加重材として重晶石を、助材としてベントナイト、安定剤としてポリアクリルアミドを用いた。
【0100】
【表3】

【0101】
<1.地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の適正比重調整>
水を加えて膨張させた高吸水性ポリマー粒子の質量をWP4、体積をVP4、比重をρP4とし、加重材の質量をW、体積をV、比重をρとし、助材の質量をW、体積をV、比重をρとすると、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の比重ρは、下記式(2)の通りになる。安定液の比重の調整は下記式(2)に従って調整した。
【0102】
【数2】

【0103】
本発明における地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物では比重を1.20以下で調整する。
【0104】
ここで、粉体の高吸水性ポリマー粒子1gに400倍の水を加え膨潤させ、これに比重調整材として比重2.7の微砂をWg添加することとして、比重1.05の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を作成するために添加する加重材の質量Wを式(1)により計算すると、添加する加重材の微砂質量Wは32.7gとなる。
【0105】
即ち、膨潤高吸水性ポリマー粒子400gに微砂32.7gを添加することにより比重1.05の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を容易に作成することができる。
<2.難透水層の形成>
難透水層の形成に関して、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物により掘削溝壁面に難透水層ができることを以下の実験で確認した。
【0106】
図1は難透水層形成を計測する装置の概略図である。図1において、模擬地盤12は厚さ200mmとし、砂層から砂礫地盤を想定し、硅砂7号、硅砂5号、硅砂3号及び硅砂1号を用いた。安定液11としての地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物は表3No.4とした。その性状を表4に示す。
【0107】
【表4】

【0108】
比較として、図1の安定液11としてのベントナイト系安定液組成物(組成No.7)の配合及び性状を表5、表6に示す。
【0109】
【表5】

【0110】
【表6】

【0111】
この実験では、大深度における難透水層の形成性を確認するために、シリンダー1、シリンダー2にコンプレッサー3により300kN/mの拘束圧を加え、さらにシリンダー1には圧力水頭として20kN/mを加算し、合計320kN/mをコンプレッサー3により加えた。
【0112】
上記実験から得られた、安定液11としての水、ベントナイト系安定液組成物及び地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の透水係数を図2に示す。
【0113】
300kN/mの拘束圧下での実験によると、水による透水係数は珪砂の種類に関わらず4×10−3cm/s程度であるが、ベントナイト系安定液組成物では硅砂7号では2.2×10−6cm/sであり、難透水性膜の形成がみられるが、硅砂5号、硅砂3号と粒度が粗くなるにつれ透水係数は大きくなり、難透水膜の形成は困難になり、硅砂1号ではほぼ水の透水係数と同じになり、難透水性膜の形成は見られない。
【0114】
これに対し、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物では珪砂の種類に関わらず約1×10−5cm/sの難透水層を形成している。これらのことから、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物により安定した難透水層の形成が可能なことが確認された。
<3.地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物とコンクリートの置換>
地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物とコンクリートの置換に関しては、内径400mm、高さ700mmのアクリル製円筒の中に二重の鉄筋かごを設置した。鉄筋かごは長さ800mmのD16mmの異形鉄筋を使用し、直径200mm及び150mmの円筒状に約100mmピッチで配置しフープ筋で固定した。
【0115】
次にアクリル円筒と鉄筋かごの中心をあわせて設置した。鉄筋かご設置後に、表3の組成No.4に示す地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を満たし、次にアクリル円筒の中心部に内径70mmの塩ビ管を底部まで挿入し、この中をスランプ21cmのコンクリートを落差100cmから打設して、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物との置換性を調べた。
【0116】
その結果、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物とコンクリートの置換性に全く問題がなく、巻き込みも見られないことが確認された。
<4.コンクリートと鉄筋の付着性>
コンクリートと鉄筋の付着性に関しては、土木学会基準(JSCE−G 503−1999)に準じて行った。引き抜き試験用の鋼製型枠(150×150×150mm)中に異形鉄筋D22をセットし、表3の組成No.4に示す地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物及び表5に示すベントナイト系安定液組成物で満たし、各安定液組成物を鉄筋に付着させたのちに、トレミー管を用いて底部よりコンクリートを充填し、各安定液組成物と置き換えた。28日水中養生ののち、各3本の鉄筋付着性能試験を行った。
【0117】
最大付着応力度は地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の場合9.41N/mmであり、ベントナイト系安定液組成物より約5%大きかった。また、滑り量は0.65で、ほぼベントナイト系安定液組成物と同じであり問題がないことが確認された。
<5.杭あるいは地中連続壁の出来形の確保性>
杭あるいは地中連続壁の出来形の確保性を確認するために、3%ベントナイト安定液と、表3に示す組成No.4の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物とを使用し、ろ過試験機(ろ紙:JIS3801 4種)により、ろ紙に残った泥膜厚さを測定した。
【0118】
図4に、横軸に粘土分混入率、縦軸にろ過後のろ紙に残った泥膜厚さを示す。
【0119】
この結果から、ベントナイト安定液は、粘土分の混入量が多くなると泥膜厚さが厚くなるのに対し、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物は、泥膜厚さが薄いままであることが確認された。これらのことから、粘土分の混入量が多い場合でも泥膜厚さは薄いままであるので、コンクリートの出来形を確保できるとともに、地盤との最大周辺摩擦力の低減を抑制できることが確認された。
<6.地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の再利用性及び孔底の処理性>
本発明の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の再利用性及び孔底の処理性を確認するために、ベントナイト系安定液組成物、高粘性タイプの表3に示すNo.2の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物及び同じくNo.2の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に加水し、ポリマーの吸水能力以上の水を添加した溶液に堀屑を模擬した砂を容器に入れ、良く撹拌して放置した後、容器の上から4/5を除去して、残り1/5の残った砂の重量を測定した。
【0120】
図5に、横軸を放置時間、縦軸を(残った砂重量)/(最初に入れた砂重量)による沈降率(%)として上記測定結果を示す。
【0121】
この結果から、ベントナイト系安定液組成物の場合には100%沈降しているのに対し、高粘性タイプのNo.2の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の場合には、残した20%の体積中には、概ね20%程度の砂重量しかなく、堀屑を模擬した砂は安定液中にほぼ均一に浮遊し、時間経過してもほとんど沈降しない傾向が確認された。
【0122】
さらに、堀屑を模擬した砂が均一に浮遊している地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に対し、ポリマーの吸水能力以上の水を添加した場合には、浮遊していた砂がほぼ100%沈降することが確認された。
【0123】
この実験結果から、本発明の高粘性タイプの地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物は、掘削時には堀屑は沈降せず孔底における良好な処理性を有すること、また、回収して加水することにより地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物と堀屑を分離して再利用できることが確認された。
<7.現場施工での確認>
現場施工での確認のため、表7に示す配合A〜Cの地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を用いて、以下の実施例A〜Dの各条件による地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の確認を行った。
【0124】
【表7】

【0125】
(実施例A)
掘削施工に先立ち、表7に示す配合Aにより、比重1.01、ファンネル粘性56秒の高粘性タイプの地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を作液した。
【0126】
地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を掘削孔に入れながら掘削し、孔壁の安定を保ちながら所定深さまで掘削を完了した。
【0127】
サンプリングした掘削孔内の膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の比重は、1.10〜1.13であり、堀屑が比重を高める加重材としての機能を果たすとともに、多くの堀屑を膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物中に取り込み、孔底の堀屑処理作業の省力化が図れた。
(実施例B)
掘削施工に先立ち、表7に示す配合Bにより、比重1.01、ファンネル粘性33秒の低粘性タイプの地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を作液した。
【0128】
地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を掘削孔に入れながら掘削し、孔壁の安定を保ちながら所定深さまで掘削を完了した。
【0129】
サンプリングした掘削孔内の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の比重は、1.02〜1.03であり、堀屑が若干ではあるが比重を高める加重材としての機能を果たすとともに、堀屑を地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物中にほとんど取り込まず、孔底の堀屑処理作業工程を迅速に行うことができた。
【0130】
さらに、コンクリート打設時に回収したコンクリートとの境界近傍の膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物のファンネル粘性は21秒、電気伝導性は0.86mS/cmと、コンクリートとの接触により大きく劣化した。
【0131】
大きく劣化した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に安定剤(ポリアクリルアミド)を0.05%添加で、ファンネル粘性37秒、電気伝導性0.78mS/cmに、0.025%添加でファンネル粘性29秒、電気伝導性0.72mS/cmとなり、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に安定剤を少量添加することで、電解質濃度が低下し、劣化した性状、品質を回復させることができた。
(実施例C)
掘削施工に先立ち、表7に示す配合Cにより、比重1.01、ファンネル粘性31秒の低粘性タイプの地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を作液した。
【0132】
地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を掘削孔に入れながら掘削し、孔壁の安定を保ちながら所定深さまで掘削を完了した。コンクリート打設時に回収した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物のファンネル粘性は28.2秒、電気伝導度は0.55mS/cmであり、あらかじめ安定剤を添加しておくことで、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の性状、品質の劣化を抑制することができた。
【0133】
さらに、回収した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に、高吸水性ポリマー、安定剤、水を適量添加し、ファンネル粘性30秒とし、次の掘削施工の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に再利用した。
(実施例D)
掘削施工が完了し、回収し残った地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に、塩化カルシウムを0.1%投入し、撹拌した。地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物中の高吸水性ポリマー、及び堀屑などの加重材等が下部に沈降し、上部の水とに分離することができ、排泥土量を約7割減少させることができた。
【符号の説明】
【0134】
1 シリンダーA
11 安定液
12 模擬地盤
2 シリンダーB
3 コンプレッサー
4 電子はかり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、吸水して膨潤した高吸水性ポリマー粒子を含む地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物であって、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の比重が1.20以下の範囲であることを特徴とする地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物。
【請求項2】
最大粒径が2.0mm以下の無機材の加重材を含むことを特徴とする請求項1に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物。
【請求項3】
前記加重材が、掘削時に掘削地盤から混入した地盤の細粒分であることを特徴とする請求項2に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物。
【請求項4】
前記加重材が、微砂、粘土鉱物、硫酸塩鉱物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2又は3に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物。
【請求項5】
コンクリートや塩分等の電解質や、酸性、アルカリ性物質が混入した際に、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物の性状及び品質の劣化の抑制や回復を可能とする安定剤を添加することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物。
【請求項6】
前記安定剤が、電解質濃度を低下させる安定剤であることを特徴とする請求項5に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物。
【請求項7】
前記安定剤が、PH(水素イオン指数濃度)を中性化させる中和剤であることを特徴とする請求項5又は6に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物。
【請求項8】
前記安定剤が、希硫酸、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシド、炭酸水素塩、炭酸塩から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物。
【請求項9】
孔壁安定性を向上させる助材が含まれていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物。
【請求項10】
助材がベントナイト、おが屑、パルプ、ロックウール、繊維等の逸泥防止材又は、水溶性高分子から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項9に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物。
【請求項11】
高吸水性ポリマー粒子がデンプン系、セルロース系及び合成ポリマー系から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物。
【請求項12】
吸水して膨潤した高吸水性ポリマー粒子が、加圧により水を放出しない架橋構造の高吸水性ポリマー粒子であることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物。
【請求項13】
吸水して膨潤した高吸水性ポリマー粒子の膨潤後の粒径が3mm以下であることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物。
【請求項14】
ファンネル粘性(500ml/500ml)が19〜120秒の範囲であることを特徴とする請求項1から13のいずれか一項に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物。
【請求項15】
電気伝導率が10mS/cm以下であることを特徴とする請求項1から14のいずれか一項に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に電解質を加えることにより、高吸水性ポリマー粒子から水を放出させ、加重材と、電解質を含んだ水と、水を放出した高吸水性ポリマー粒子に分離させて排泥土量を減少させることを特徴とする施工法。
【請求項17】
電解質が塩化カルシウム、クエン酸、水酸化ナトリウム及び塩化ナトリウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項16に記載の施工法。
【請求項18】
請求項1から15のいずれか一項に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を使用して掘削施工を行い、掘削後の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を回収し、回収した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に、水、高吸水性ポリマー粒子、加重材、安定剤、助材を適量添加し、性状、品質を調整し、次掘削の安定液に再利用することを特徴とする施工法。
【請求項19】
請求項1から15のいずれか一項に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を、ファンネル粘性(500ml/500ml)が45〜120秒の範囲の高粘性に配合使用して掘削施工を行い、掘削の際に地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に混入する堀屑を地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物中に取り込むことにより、孔底の処理作業工程を省くことを特徴とする施工法。
【請求項20】
請求項1から15のいずれか一項に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を、ファンネル粘性(500ml/500ml)が19〜44秒の範囲の低粘性に配合使用して掘削施工を行い、掘削の際に地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に混入する堀屑を早期に孔底に沈降させることにより、孔底の堀屑処理作業工程を迅速に行うことを特徴とする施工法。
【請求項21】
請求項1から15のいずれか一項に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を使用して掘削施工を行い、使用した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を回収し、回収した地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物に加水することにより、掘削施工の際に混入した堀屑を沈降させ、地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物と堀屑とを分離し、比重を低減させた地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を次の施工に再利用することを特徴とする施工法。
【請求項22】
請求項1から15のいずれか一項に記載の地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物を使用して掘削施工を行い、コンクリートをトレミー管で底部から打設する際、トレミー管の表面に摩擦低減材の塗布又は貼付することで摩擦低減加工をし、コンクリートの地盤掘削用膨潤高吸水性ポリマー安定液組成物への影響を抑制することを特徴とする施工法。
【請求項23】
施工法が、場所打杭工法、コンクリート地中連続壁工法であることを特徴とする請求項16から22のいずれか一項に記載の施工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−57061(P2013−57061A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−177079(P2012−177079)
【出願日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(597057254)有限会社マグマ (10)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【Fターム(参考)】