説明

地盤改良工法およびアンダーパス工法

【課題】改良対象地盤の土質に応じて適した改良方法で適切に改良し、上部の既設改造物への影響を防ぐことができる地盤改良工法およびそれを用いたアンダーパス工法を提供することを目的とする。
【解決手段】上部に軌道200が構築されている地盤を改良する地盤改良工法であって、改良対象地盤400が粘性土の場合、粘性土用鋼管20を、改良対象地盤400に所定間隔を隔てて略水平方向に挿入して地盤改良し、改良対象地盤400が砂質土の場合、周方向における所定範囲Xに対して改良用薬液を注入可能な注入孔12を備えた指向性注入用鋼管10を、改良対象地盤400に所定間隔を隔てて略水平方向に挿入し、注入孔12が、所望の注入方向となるように指向性注入用鋼管10の向きを調整し、指向性注入用鋼管10内部から改良対象地盤400に改良用薬液を注入した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
例えば、敷設された軌道の下方に構造物を構築する際に、軌道の変状を防止するための地盤改良工法や、地盤改良工法を実施してから地下構造物を構築するアンダーパス工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、渋滞緩和や交通網の複雑化に伴って、軌道と道路や、軌道同士、あるいは道路同士の立体交差化が進んでいる。一般的には、軌道等の既設構造物の上空を交差するように道路等の新設構造物を構築するオーバーパス工法や、既設構造物の下方の地下部分に交差する新設の地下構造物を構築するアンダーパス工法によって立体化される。
【0003】
特に、既設軌道に対する立体交差化においては、大地震による交差道路の軌道への影響を懸念し、アンダーパス工法が多く採用されている。
しかし、アンダーパス工法の場合、軌道等の既設構造物の下方に横断する方向の地下構造物を構築する際、既設構造物を支持する路床や路盤が緩んで既設構造物が沈下したり、逆に沈下を防止するための加圧によって隆起したりするおそれがあった。
【0004】
そこで、地下構造物を構築する前に、地下構造物の構築箇所と既設構造物との間の地盤をあらかじめ地盤改良して地盤強化し、地下構造物を構築する際の影響が既設構造物におよぶことを防止している。
【0005】
例えば、このような地盤改良に特許文献1に記載の方法を用いることもできる。特許文献1の地盤改良工法は、構築予定の地下構造物の周辺の改良対象地盤に有孔パイプを圧入し、有孔パイプからモルタル等の固結材を加圧注入することによって、改良対象地盤を地盤改良する方法である。
【0006】
しかし、この地盤改良工法を、既設構造物の下方に地下構造物を構築する際の地盤改良に用いると、既設構造物下の地盤を補強できるものの、有孔パイプの圧入により、既設構造物が隆起するおそれがあった。また、有孔パイプからの固結材の加圧注入によっても既設構造物が隆起するおそれがあった。
【0007】
特に、既設構造物が供用中の軌道である場合、隆起や沈下によるわずかな変状でも軌道に大きく影響するため、上述のような隆起のおそれがある地盤改良工法は、一般的に、列車が運行しない夜間か列車間合いに限定して行うものの、隆起量が大きくなると、その復旧に時間がかかるため、上述のような隆起のおそれがある地盤改良工法を用いることはできなかった。
【0008】
また、特許文献1で提案された地盤改良工法では、改良対象地盤の土質によらず、一様に、有孔パイプの圧入と、固結材の加圧注入とを行うため、例えば、加圧による影響が鋭敏に作用する粘性土地盤である場合には、既設構造物は大きく変状するおそれもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−347297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は、改良対象地盤の土質に応じて適した改良方法で適切に改良し、上部の既設改造物への影響を防ぐことができる地盤改良工法およびそれを用いたアンダーパス工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、上部に既設構造物が構築されている地盤を改良する地盤改良工法であって、改良対象地盤が粘性土地盤の場合、粘性土用鋼管を、前記改良対象地盤に所定間隔を隔てて略水平方向に挿入して地盤改良し、改良対象地盤が砂質土の場合、周方向における所定範囲に対して液状の改良材を注入可能な注入孔を備えた注入用鋼管を、前記改良対象地盤に所定間隔を隔てて略水平方向に挿入し、前記注入孔が、所望の注入方向となるように前記注入用鋼管の向きを調整し、前記注入用鋼管内部から前記改良対象地盤に前記改良材を注入して地盤改良することを特徴とする。
【0012】
上記既設構造物は、新幹線や在来線の軌道や、自動車用の道路等とすることができる。
上記粘性土は、粘性土、シルト、粘性土質シルト、無機成分がシルトやシルト質粘性土である有機質シルト、砂質粘性土あるいは火山灰質粘性土とすることができ、上記砂質土は、砂、砂礫、礫混り砂、あるいは砂質シルトとすることができる。
【0013】
上記液状の改良材は、例えば、水ガラス系の溶液型・緩結タイプの改良用薬液等の注入時点で液体であるが、注入後凝結して、注入された改良対象地盤の土粒子同士の結合力を向上させて改良体を形成する改良材である。
【0014】
上記周方向における所定範囲に対して液状の改良材を注入可能な注入孔は、全周方向に複数配置した注入孔の外側の一部をカバーし、所定範囲に対して液状の改良材を注入する構成や、周方向における所定範囲に設けた注入孔より所定範囲に対して液状の改良材を注入する構成とすることができる。
【0015】
この発明により、改良対象地盤の土質に応じて適した改良方法で適切に改良することができる。
詳しくは、地盤の粘着力により自立性の高い粘性土地盤に改良材を注入すると、逆に、上部の既設構造物に隆起等の変状が生じるおそれがある。したがって、改良材を注入せず、粘性土用鋼管を、所定間隔を隔てて略水平方向に挿入することによって、改良対象地盤の粘着力が低い粘性土地盤であっても、鋼管周面と粘性土との摩擦により地盤と粘性土用鋼管とを一体化し、地盤強化することができる。
【0016】
これに対し、改良対象地盤が砂質土である場合、所定間隔を隔てて略水平方向に鋼管を挿入しただけでは、鋼管間の砂質土がいわゆる中抜けするおそれもあり、十分に地盤強化することができない。そこで、周方向における所定範囲に対して液状の改良材を注入可能な注入孔を備えた注入用鋼管を、改良対象地盤に所定間隔を隔てて略水平方向に挿入し、注入用鋼管内部から改良対象地盤に改良材を注入することにより、改良材が凝結して、注入用鋼管周囲の砂質土の砂粒子同士の結合力を高めて、十分に地盤強化することができる。
【0017】
また、注入孔が、所望の注入方向となるように注入用鋼管の向きを調整し、注入用鋼管内部から改良対象地盤に改良材を注入することにより、例えば、土被りが少ない箇所での改良の場合、注入方向を下方や側方とすることで、地上面に改良材が漏出するという不具合を防止したり、既設構造物に対する注入用鋼管を挿入する相対位置に応じた注入方向に改良材を注入することで、改良目的に応じた効率のよい地盤改良を実施することができる。
【0018】
また、注入された改良材により注入用鋼管周囲の砂質土の砂粒子同士の結合力を高めることができるため、掘削時の余掘りの防止、水による引き込みの防止を図ることができる。
【0019】
例えば、既設構造物が軌道である場合には、上述したように、この発明の地盤改良工法によって、改良対象地盤の土質に応じて適した改良方法で適切に改良することにより、下方での新設構造物の構築による影響が軌道に及ぶことを防止する軌道防護を効率よく行うことができる。
【0020】
なお、上記改良材の注入は、低圧浸透型の改良材を用いて、割裂注入とならずに、改良対象地盤の土粒子の配列を乱すことなく改良材を注入する低圧浸透注入とすることができる。
また、上記粘性土用鋼管は、上記注入用鋼管と同じ鋼管を用いてもよく、異なる鋼管を用いてもよい。
【0021】
この発明の態様として、前記粘性土用鋼管あるいは前記注入用鋼管である挿入鋼管の挿入の前に、前記改良対象地盤における前記挿入鋼管の挿入箇所を、誘導管を略水平方向に削孔しながら挿入し、貫通した該誘導管の先端に前記挿入鋼管を連結し、該誘導管の引抜によって前記挿入鋼管を前記挿入箇所に挿入することができる。
【0022】
この発明により、改良対象地盤を必要以上に乱すことなく、注入用鋼管を所定の挿入箇所に挿入して、効率よく地盤改良することができる。
詳しくは、例えば、注入用鋼管を改良対象地盤に圧入すると、改良対象地盤の土粒子の配列が乱れ、挿入鋼管の挿入圧力が高すぎると、挿入圧力によって既設構造物に隆起等の変状が生じるおそれがある。しかし、予め、誘導管を略水平方向に削孔しながら挿入し、貫通した該誘導管の先端に前記挿入鋼管を連結し、該誘導管の引抜によって、既設構造物が変状することなく前記挿入鋼管を前記挿入箇所に挿入することができる。
【0023】
なお、例えば、誘導管を、先端方向修正装置を装備した水平削孔装置で削孔、挿入する場合、土被りの少ない挿入箇所であっても正確に誘導管を削孔、挿入することができる。したがって、挿入鋼管を所望の挿入箇所に正確に挿入し、設計に即した改良体を構築することができる。
【0024】
またこの発明の態様として、前記改良対象地盤に挿入した際に、改良対象地盤から露出する前記注入用鋼管の端部における露出部分に、前記所定範囲を明示する明示手段を備え、該明示手段によって、挿入された注入用鋼管の向きを調整することができる。
【0025】
上記明示手段は、改良対象地盤に挿入した際に、改良対象地盤から露出する鋼管端部に、明記した所定範囲を示す表示、切り込み、凸部あるいは模様とすることができる。
【0026】
これにより、所定範囲を予め所望の方向に合わせ、その方向を維持しながら注入用鋼管を挿入せずとも、所定範囲の方向にとらわれずに注入用鋼管を挿入してから、明示手段に基づいて、所定範囲が所望の方向となるように合わすことができるため、確実に所定範囲を所望の方向に合わせることができるとともに、効率よく注入用鋼管を挿入することができる。
【0027】
またこの発明の態様として、前記注入孔を、前記注入用鋼管の長手方向において所定間隔を隔てて複数設け、前記注入用鋼管に、注入内管を挿入し、前記注入孔ごとに前記改良材を注入することができる。
この発明により、長手方向の多点で改良材を注入する多点注入を、それぞれの注入孔において、正確に注入管理しながら注入して改良することができる。
【0028】
またこの発明の態様として、前記注入内管及び前記注入孔を通過する改良材の管内抵抗を測定するとともに、前記改良対象地盤内への改良材の注入流量と実注入圧力とを測定し、前記管内抵抗及び前記実注入圧力に基づいて前記改良材の注入圧力を管理することができる。
【0029】
改良対象地盤への改良材の注入速度が所定の限界速度を超えると、浸透注入状態から割裂注入状態に移行するため、改良地盤の土粒子の配列を乱すことなく改良材を浸透注入するための注入速度および注入圧力を設定する必要がある。そこで、この発明では、前記注入内管及び前記注入孔を通過する改良材の管内抵抗を測定するとともに、前記改良対象地盤内への改良材の注入流量と実注入圧力とを測定し、前記管内抵抗及び前記実注入圧力に基づいて前記改良材の注入圧力を管理することで、割裂注入状態に移行することなく、確実に、改良地盤の土粒子の配列を乱すことなく改良材を浸透注入することができる。したがって、例えば、土被りの少ない改良箇所であっても、例えば、改良材の割裂注入によって、地上面が隆起し、既設構造物が変状することを防止できる。
【0030】
さらに例えば、長手方向における複数の注入孔において、実注入圧力を測定し、複数の注入圧力で管理すると、改良材を注入孔まで導通させるホースの長さが変化しても、より正確な注入圧力管理を行うことができる。
【0031】
またこの発明の態様として、前記既設構造物に対する前記注入用鋼管の挿入位置に基づいて注入用鋼管ごとに改良範囲を定めるとともに、前記改良材を、凝結速度の早い瞬結改良材と、凝結速度が遅く、低圧浸透型の低圧浸透型改良材とし、前記瞬結改良材によって、前記改良範囲の下方を改良し、前記瞬結改良材の注入後、前記改良範囲に前記低圧浸透型改良材を低圧浸透させて改良することができる。
【0032】
この発明により、無駄に改良範囲を広げることなく、所望の形状で改良体を形成し、改良対象地盤を効率的に改良することができる。
詳しくは、前記既設構造物に対する前記注入用鋼管の挿入位置に基づいて注入用鋼管ごとに改良範囲を定めるため、既設構造物に対して効率的な改良体を形成することができる。
【0033】
また、改良材を単に低圧浸透注入した場合、改良材の自重により注入孔より下方に改良材が浸透して改良する傾向にあるため、注入孔より上部を改良するためには、例えば、改良材を加圧注入する必要がある。このように、加圧注入すると、土被りの少ない改良箇所では、加圧注入によって割裂注入状態となり、地上面が隆起したり、改良材が地表面から噴出するおそれがある。
【0034】
しかし、前記瞬結改良材によって、前記改良範囲の下方を改良し、前記瞬結改良材の注入後、前記改良範囲に前記低圧浸透型改良材を低圧浸透させて改良することにより、瞬結型の改良材で注入孔の下部に改良体が予め形成されているため、低圧浸透型改良材を低圧浸透注入しても、瞬結型の改良材による改良体の上に、低圧浸透型改良材による改良体を形成することとなる。したがって、加圧注入せずとも、注入孔より上部を低圧浸透型改良材で改良することができる。
【0035】
さらにまたこの発明は、上述の地盤改良工法によって地盤改良後、改良済み地盤の下方に地下構造物を構築するアンダーパス工法であることを特徴とする。
上記地下構造物は、例えば、地上の既設構造物を横断する横断地下構造物や、地下タンクのような地下構造物とすることができる。
【0036】
この発明により、地上の既設構造物が変状することなく、地下構造物を構築することができる。詳しくは、地上の既設構造物と、構築する地下構造物との間の改良対象地盤を改良しているため、地下構造物の構築のために、地下部分を掘削して開放しても、改良された改良対象地盤が緩むことがない。つまり、地下構造物構築のための掘削による影響が既設構造物におよぶことを改良済みの地盤によって防止できる。
【0037】
したがって、地上の既設構造物を供用したまま、地下構造物を構築することができる。換言すると、例えば、既設構造物が軌道である場合、改良済みの地盤は、地下構造物構築のための掘削による影響が軌道に及ぶことを防止できる軌道防護として機能することができる。したがって、列車を運行させながら、地下構造物を構築することも想定できる。
【0038】
この発明の態様として、前記地下構造物を構築後、改良対象地盤に挿入した鋼管内部を充填材で充填することができる。
上記充填材は、モルタル、セメントミルク等のセメント系充填材や、樹脂系充填材とすることができる。
【0039】
これにより、改良対象地盤に挿入した鋼管を引き抜くことなく、地盤中に残置させたまま、地上の既設構造物および新設した地下構造物を供用することできる。例えば、地下構造物構築後に鋼管を引き抜く場合、上述の改良によって地盤強化された改良済み地盤が鋼管の引抜により乱れて、地盤強度が低下し、既設構造物および地下構造物が変状するおそれがある。しかし、管内部に充填材を充填した鋼管を地盤中に残置しているため、改良済み地盤を乱すことなく、増大した地盤強度を維持することができる。
【発明の効果】
【0040】
この発明によれば、改良対象地盤の土質に応じて適した改良方法で適切に改良し、上部の既設構造物への影響を防ぐことができる地盤改良工法およびそれを用いたアンダーパス工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】地盤改良工法について説明するための概略斜視図。
【図2】改良対象地盤が粘性土である場合についての概略正面図。
【図3】改良対象地盤が砂質土である場合についての概略正面図。
【図4】地盤改良工法について説明するための概略縦断図。
【図5】指向性注入用鋼管についての説明図。
【図6】改良用薬液注入システムについての概略図。
【図7】地盤改良工法及びアンダーパス工法についてのフローチャート。
【図8】地盤改良工法及びアンダーパス工法の施工ステップを説明する説明図。
【図9】地盤改良工法及びアンダーパス工法の施工ステップを説明する説明図。
【図10】地盤改良工法及びアンダーパス工法の施工ステップを説明する説明図。
【図11】二段階指向性注入についての説明図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
この発明の一実施形態を以下図面とともに説明する。
図1は地盤改良工法について説明するための概略斜視図を示し、図2は改良対象地盤400が粘性土である場合についての概略正面図を示し、図3は改良対象地盤400が砂質土である場合についての概略正面図を示している。
【0043】
また、図4は地盤改良工法について説明するための概略縦断図を示し、図5は指向性注入用鋼管10についての説明図を示し、図6は改良用薬液注入システム30についての概略図を示している。
【0044】
なお、図1乃至4では、地盤改良工法についての説明を明確にするため、改良対象地盤400を一部抜き出して図示している。また、それぞれの大きさについても、地盤改良工法の構成について明確になるように図示している。
【0045】
また、図1は、改良対象地盤400が砂質土である場合の概略斜視図を示している。また、指向性注入用鋼管10についての説明図である図5の図5(a)は、指向性注入用鋼管10の斜視図を示し、図5(b)は注入部分11の断面図を示し、図5(c)は注入部分11の縦断面図を示している。
【0046】
本発明の地盤改良工法は、新幹線等の軌道200の下方に、地下横断構造物300を構築するアンダーパス工法において、地下横断構造物300を構築する前に、軌道200と地下横断構造物300との間の地盤である盛土部402を改良対象地盤400として地盤改良する工法である。
【0047】
詳しくは、図1〜図4に示すように、地山401の上部に、路床402aと路盤402bとを盛土して盛土部402を構成している。さらに、盛土部402の上にバラスト403を締め固め、枕木202を長手方向に等間隔で載置し、枕木202の上に軌条201を固定して軌道200を構成している。
【0048】
軌道200を横断する方向(図4において左右方向)に構築する地下横断構造物300は、上床部300aが所定の土被りとなる位置で、地山401に構築される矩形断面のボックスである。
【0049】
地下横断構造物300を構築する前に、予め施工する地盤改良工法は、上述したように、軌道200と地下横断構造物300との間の改良対象地盤400の地盤強化するための工法である。
【0050】
地盤改良工法について詳述すると、改良対象地盤400が粘性土であるか砂質土であるかによって、その施工方法は、異なっている。まず、改良対象地盤400が粘性土である場合、粘性土用鋼管20を、構築する予定の地下横断構造物300の長手方向に沿って、改良対象地盤400に対して水平方向に挿入する。さらには、粘性土用鋼管20は、軌道200の長手方向、つまり地下横断構造物300の幅方向に対して所定間隔を隔てて複数本挿入するとともに、幅方向位置をずらしながら高さ方向にも複数列挿入する。つまり、地下横断構造物300の上部の改良対象地盤400に対して、図2に示すように、粘性土用鋼管20を複数段複数列配置で挿入する。この粘性土用鋼管20同士の間隔や配置は、粘性土である改良対象地盤400の粘着力に応じて、設計し、配置する。
【0051】
このように、改良対象地盤400に対して複数本の粘性土用鋼管20を挿入することによって、改良対象地盤400が粘着力の低い粘性土地盤であっても、粘性土用鋼管20の周面と粘性土との摩擦により、粘性土と粘性土用鋼管20とを一体化し、地盤強化することができる。
【0052】
なお、粘性土地盤に後述する改良用薬液を注入すると、逆に、改良対象地盤400の上部の軌道200に隆起等の変状が生じるおそれがあるが、改良用薬液を注入せず、粘性土用鋼管20を水平方向に挿入するだけあるため、改良用薬液の注入による軌道200の変状が生じることなく、改良対象地盤400を地盤強化することができる。
【0053】
次に、改良対象地盤400が図3に示すような砂質土である場合の地盤改良工法について説明する。改良対象地盤400が砂質土である場合、複数本の鋼管を複数段複数列配置して挿入するだけでは、鋼管の挿入によって砂質土の土粒子の配列が乱れるため、鋼管同士の間の砂質土が中抜けし、改良対象地盤400が緩んで、改良対象地盤400上部の軌道200に沈下などの変状が生じるおそれがある。
【0054】
そこで、図2に示す粘性土用鋼管20と同様に、指向性注入用鋼管10を、所定間隔を隔てて複数段複数列挿入し、改良用薬液を低圧浸透注入して改良体40を形成する。さらに詳述すると、幅方向位置をずらして上下2段に配置した指向性注入用鋼管10のうち、上段の指向性注入用鋼管10は下方に改良用薬液を注入して下向き改良体40aを形成し、下段の指向性注入用鋼管10は、上方に改良用薬液を注入して上向き改良体40bを形成している。なお、この指向性注入用鋼管10同士の間隔や配置は、改良体40の強度等に応じて、設計し、配置する。
【0055】
これにより、上段の指向性注入用鋼管10による下向き改良体40aと、下段の指向性注入用鋼管10による上向き改良体40bとが、上下二段の指向性注入用鋼管10の間で重なり合い、確実に砂質土である改良対象地盤400を地盤強化し、崩落に対する抵抗力を向上することができる。
【0056】
また、上段の指向性注入用鋼管10において下方に改良用薬液を注入して下向き改良体40aを形成しているため、例えば、上段の指向性注入用鋼管10から上向きに改良用薬液を注入した場合における、改良対象地盤400の地表面、すなわち軌道200の設置面から改良用薬液が噴出するという不具合を防止できる。
【0057】
なお、砂質土の改良対象地盤400に対して改良体40を形成するための指向性注入用鋼管10は、全周方向に改良用薬液を注入する一般的な鋼管に対して、周方向における改良用薬液の注入範囲を限定して注入することができる。
【0058】
詳しくは、図5(a)に示すように、指向性注入用鋼管10は、長手方向に所定間隔を隔てて複数の注入部分11を備えている。
指向性注入用鋼管10は中空の鋼管であり、図5(b),(c)に示すように、注入部分11において、周方向に等間隔で配置した注入孔12を備えている。なお、本実施例では、指向性注入用鋼管10として4.0A管を用いている。
【0059】
そして、注入部分11における注入孔12の外周を、ゴム製で、注入孔12部分において周方向に形成したスリット13aによって逆止弁として機能するゴムカバー13で囲繞し、さらに、ゴムカバー13の外側半周分を覆う指向性カバー14を備えている。
【0060】
上述したように指向性注入用鋼管10を構成しているため、図5(c)において点線で示すように、内部に改良用薬液注入用の注入内管31を挿入し、注入内管31のパッカー31aを注入孔12の前後で拡張し、図示省略する吐出口より改良用薬液を吐出することで、注入孔12を通過した改良用薬液は、ゴムカバー13の付勢力に抗してスリット13aより指向性注入用鋼管10の外部に吐出することができる。
【0061】
このとき、ゴムカバー13の外側半周分に指向性カバー14を備えているため、図5(b)において点線矢印で示すように、指向性注入用鋼管10の周方向に一部(本実施形態では、半周分の範囲である注入範囲X)に改良用薬液を吐出することができる。
【0062】
なお、上述した指向性注入用鋼管10における改良用薬液が吐出する範囲、すなわち注入範囲Xを、指向性注入用鋼管10の両端部において注入範囲明示15で明示している(図5(a)参照)。
【0063】
次に、上述の注入内管31から改良用薬液を吐出するための改良用薬液注入システム30について図6とともに説明する。
改良用薬液注入システム30は、貯水槽38、材料コンテナ37、制御装置36、全自動ミキサ35、低吐出ポンプ34、流量・圧力センサ33、パッカー分流器32及び複数本の注入内管31とで構成している。
【0064】
グラウトを生成するための水を蓄えた貯水槽38と、改良用薬材が貯められた材料コンテナ37とは、水と改良用薬材を供給できるように、それぞれ全自動ミキサ35に接続されている。
【0065】
貯水槽38と材料コンテナ37から、水とグラウトの供給を受け、所定の配合率でミキシングして液状の改良用薬液を生成する全自動ミキサ35は、上流側から、低吐出ポンプ34、流量・圧力センサ33、パッカー分流器32及び注入内管31と接続し、生成した改良用薬液を供給する。なお、低吐出ポンプ34及び流量・圧力センサ33は、後述する制御装置36に接続されている。
【0066】
低吐出ポンプ34は、全自動ミキサ35から供給された改良用薬液を、制御装置36から受けた制御信号に基づいて、下流側に向けて、改良用薬液を浸透注入可能な吐出速度・圧力で吐出するポンプである。
流量・圧力センサ33は、低吐出ポンプ34から吐出された改良用薬液の吐出速度・圧力を検出し、制御装置36に送信する構成である。
【0067】
制御装置36は、CPUとROMとRAMで構成される制御機、マウスやキーボード等の入力装置である操作装置、ハードディスク等の記憶装置、DVD−RAM等の各種記憶媒体を読取る記憶媒体読取装置、または記憶媒体読書き装置、及びLAN回線に接続可能なLANボード等の通信装置で構成する送受信装置等を備えたコンピュータである。そして、予め設定した吐出速度・圧力で改良用薬液を吐出するように、低吐出ポンプ34へ制御信号を送信し、その制御信号に基づいて低吐出ポンプ34が吐出した改良用薬液の吐出速度・圧力を検出した検出結果を流量・圧力センサ33から受信して、その検出結果に基づいて、低吐出ポンプ34に吐出速度・圧力の制御信号を送信する、すなわちフィードバック処理を行う構成である。
パッカー分流器32は、低吐出ポンプ34から吐出され、流量・圧力センサ33を通過した改良用薬液を、複数本の注入内管31に分流する装置である。
【0068】
このように、改良用薬液注入システム30を構成することにより、複数本の注入内管31から浸透注入可能な吐出速度・圧力で改良用薬液を安定して吐出することができる。
なお、本実施例において、改良体40は、地下横断構造物300を構築する際に、軌道200の変状を抑制するための地盤強化、つまり軌道防護を目的とする仮設の改良体であり、地盤に対する注入の影響が小さい水ガラス系の溶液型・緩結タイプの改良用薬液を用いている。
【0069】
次に、このような設備やシステムを用いた地盤改良工法、及び当該地盤改良工法を実施するアンダーパス工法の施工方法について、図7乃至10とともに説明する。
なお、図7はアンダーパス工法のフローチャートを示し、図8乃至10は地盤改良工法及びアンダーパス工法の施工ステップを説明する説明図を示している。
【0070】
アンダーパス工法は、立坑等を予め構築する準備工(ステップs1)、地盤改良工(ステップs2〜12)、地下構造物構築工(ステップs13)、及び後仕舞い工(ステップs14)の順で施工する。
【0071】
準備工(ステップs1)は、図1,4に示すように、地下横断構造物300を構築する両端付近に、軌道200の長手方向に平行な土留め壁410を鋼矢板や地中連続壁等で構築し、所定深さまで堀下げて、軌道200の横断方向両側に立坑420(420a,420b)を構築する(図8(a)参照)。なお、図8乃至10及び図2乃至4では、土留め壁410の図示を省略している。このように、土留め壁410を用いて立坑420を構築することにより、地盤改良工法で改良する改良対象地盤400の端部を土留め壁410で仕切ることとなる。
【0072】
準備工(ステップs1)に続く地盤改良工は、水平誘導削孔工(ステップs2〜5)、管理値設定工(ステップs6〜9)及び改良用薬液注入工(ステップs10〜12)の順に行う。
【0073】
詳しくは、図8(b)に示すように、軌道200の横断方向両側に構築した立坑420のうち、発進側立坑420aに、所定高さで削孔できるようにステージ52を組み、ステージ52の上部に設置した削孔機51で、指向性注入用鋼管10(粘性土用鋼管20)を挿入する箇所を、先端モニタ50a付きの誘導管50で、到達側立坑420bに向かって水平方向に削孔する(ステップs2)。このときの誘導管50は、指向性注入用鋼管10や粘性土用鋼管20よりひとまわり大きな外周を有する鋼管である。そして、この誘導管50の水平誘導削孔では、モニタ付きトランシットで削孔方向を計測しながら削孔するため、水平削孔距離に対する1/500の施工精度を十分に満足することができる。
【0074】
改良対象地盤400が粘性土である場合(ステップs3:Yes)、到達側立坑420bまで貫通した誘導管50の先端に、粘性土用鋼管20を連結し、粘性土用鋼管20を連結したまま、誘導管50を発進側立坑420a側引き抜くことで、誘導管50で削孔した貫通孔に粘性土用鋼管20を引き込む(図8(c)参照)。そして、誘導管50と粘性土用鋼管20との外径差による空隙に瞬結型のシール材を注入し、改良対象地盤400が粘性土である場合の水平誘導削孔工及び地盤改良工を完了する(ステップs4)。
【0075】
このように、改良対象地盤400に対して複数本の粘性土用鋼管20を挿入することによって、改良対象地盤400が粘着力の低い粘性土地盤であっても、シール材を介した粘性土用鋼管20の周面と粘性土との摩擦により、粘性土と粘性土用鋼管20とを一体化し、改良対象地盤400を地盤強化することができる。
【0076】
これに対し、改良対象地盤400が砂質土である場合(ステップs3:No)、到達側立坑420bまで貫通した誘導管50の先端に、指向性注入用鋼管10を連結し、指向性注入用鋼管10を連結したまま、誘導管50を発進側立坑420a側引き抜くことで、誘導管50で削孔した貫通孔に指向性注入用鋼管10を引き込む(ステップs5,図8(c)参照)。
【0077】
そして、このとき、図1に示すように、土留め壁410から露出する指向性注入用鋼管10の端部に明示した注入範囲明示15によって、指向性注入用鋼管10の注入範囲Xが所定の注入方向となるように、指向性注入用鋼管10を回転させて注入方向を調整し、誘導管50と指向性注入用鋼管10との外径差による空隙に瞬結型のシール材を注入し(ステップs6)、水平誘導削孔工を完了する(図9(a)参照)。
【0078】
水平誘導削孔工後の管理値設定工では、後工程である薬液注入工において改良用薬液の注入管理を行うための管理値を設定する工程である。
まず、実注入圧力を把握できるように、注入箇所までの注入ホース、地中の指向性注入用鋼管10の管内抵抗を測定する(ステップs7)。なお、このとき、改良用薬液の粘性による影響を考慮するため、改良用薬液と水とによる所定速度毎の管内抵抗値(KPg,KPw)をそれぞれ測定する。
【0079】
次に、改良対象地盤400へ改良用薬剤の注入において、注入速度が所定速度を超えると浸透注入状態から割裂注入状態に移行するため、改良対象地盤400の土粒子の配列を乱すことなく、改良用薬液を注入する浸透注入状態を維持するための注入速度及び注入圧力を管理基準値として設定するために、現場注水試験として、水を注入する際の所定速度毎の注入圧力TPwを測定する(ステップs8)。
【0080】
さらに、この現場注水試験で得られた測定注入圧力TPwと、ステップs7で得られる水の管内抵抗値KPwに基づいて注入時の所定速度毎の実注入圧力RPを、RP=TPw−KPwによって算出する。
【0081】
そして、ステップs8で算出した実注入圧力RPと、ステップs7で得られる改良用薬液の管内抵抗値KPgに基づいて所定速度毎の管理圧力BPを、BP=RP+KPgによって設定する(ステップs9)。
【0082】
この管理圧力BPで管理しながら改良用薬液を注入することで、改良対象地盤400の土粒子の配列を乱すことなく、浸透注入状態を維持しながら改良用薬液を注入することができる。
【0083】
管理値設定工を完了させると、指向性注入用鋼管10に、到達側立坑420b側から注入内管31を挿入し(ステップs10,図9(b)参照)、注入内管31の注入箇所を注入部分11にあわせ、パッカー31aを拡張させて(図5(c)参照)、ステップs9で設定した管理値を満足するように、制御装置36で注入速度及び注入圧力を制御しながら、注入部分11から改良用薬液を注入する(ステップs11,図9(c)参照)。これを、指向性注入用鋼管10の注入部分11のすべてで実施する。
【0084】
このとき、指向性注入用鋼管10は、ステップs6において注入範囲明示15を用いて注入方向が調整されているため、所定の注入範囲Xに改良用薬液を注入して改良体40を形成することができる。また、上記管理値で管理しながら改良用薬液を注入するため、割裂注入状態に移行せず、浸透注入状態を維持しながら改良対象地盤400に改良用薬液を注入することができる。したがって、改良対象地盤400の上部の軌道200が変状することなく、改良対象地盤400を地盤強化することができる。
【0085】
このようにして、全数の注入部分11で改良用薬液を注入し、改良体40が形成されると、指向性注入用鋼管10から注入内管31を引き抜いて(ステップs12)、地盤改良工を完了する。
【0086】
なお、図9では1本の注入内管31のみ図示しているが、複数本の注入内管31をそれぞれ別の指向性注入用鋼管10に挿入し、同時注入することで効率的な地盤改良を行うことができる。そのとき、近くの指向性注入用鋼管10における長手方向位置が異なる注入部分11から改良用薬液を注入することによって、管理圧力内で注入する改良用薬液の注入圧力が局所的に高まって、軌道200が変状することを防止できる。
【0087】
このようにして地盤改良工によって、地下横断構造物300を構築する箇所の上部の改良対象地盤400を地盤強化し、軌道防護したのち、立坑420を地下横断構造物300が構築できる深さまで掘り下げ、地下横断構造物300を構築する(ステップs13,図10(a),(b)参照)。
【0088】
なお、この地下構造物構築工(ステップs13)における地下横断構造物300の構築方法は、限定されず、例えば、角型断面鋼管を連結しながら地盤内に挿入し、角型断面鋼管内部をコンクリートで充填して地下横断構造物300を構築してもよいし、掘削、メッセル等の土留め及び支保を繰り返し、型枠を組んで地下横断構造物300を構築してもよい。
【0089】
このように、さまざまな施工方法によって地下横断構造物300を構築することはできるが、いずれの工法で地下横断構造物300を構築しても、地下横断構造物300の上部の改良対象地盤400を上述のように地盤改良によって地盤強化して軌道防護しているため、地下横断構造物300を構築することによる、地山401の緩みや加圧等によって軌道200が変状することを防止できる。
【0090】
地下横断構造物300の構築後、土留め壁410から露出する指向性注入用鋼管10の端部を切り落とし、指向性注入用鋼管10内部に充填材17を充填するとともに(ステップs14,図10(c)参照)、地下横断構造物300の坑口を構築して、地下横断構造物300を構築するアンダーパス工法を完了する。
【0091】
このように、上述の地盤改良工法及び、その地盤改良工法を用いたアンダーパス工法では、改良対象地盤400が粘性土や砂質土であっても、軌道200が変状することなく、改良対象地盤400を地盤強化して軌道防護することができる。したがって、軌道200の下方の地山401に地下横断構造物300を構築しても、地下横断構造物300を構築する際の改良対象地盤400が緩んで軌道200が変状することを防止できる。
【0092】
また、改良対象地盤400が砂質土であっても、注入部分11に指向性カバー14を設け、指向性注入用鋼管10の端部に注入範囲明示15を明示しているため、ステップs5で改良対象地盤400に指向性注入用鋼管10を挿入した後、所望の注入範囲に注入範囲Xを合わせるように指向性注入用鋼管10を回転調整することができ、図3に示すように、軌道200に対して、所望の方向に改良体40を形成することができる。
【0093】
したがって、例えば、土被り少ない地盤改良箇所であっても、図3に示すように、注入範囲Xが下向きとなるように、注入範囲明示15を用いて指向性注入用鋼管10の方向を調整して、改良体40を下向きに形成し、改良用薬液が軌道200のある地表面に漏出したり、改良用薬液の注入の影響によって、軌道200が変状することを防止できる。
【0094】
なお、上述の説明では、注入範囲Xを上向き、或いは下向きに調整し、下向き改良体40aや上向き改良体40bを形成したが、例えば、地下横断構造物300の幅方向外側には、注入範囲Xを地下横断構造物300内側の側方に向きを調整し、横向き改良体を形成したり、軌道200の幅方向外側に挿入する指向性注入用鋼管10では横向きや斜め横向きの改良体を形成する等、軌道200や地下横断構造物300に対する各指向性注入用鋼管10の挿入位置に応じて改良体の向きを設定して改良対象地盤400を改良してもよい。
【0095】
このように、改良体40を形成する所望の方向に注入範囲Xを調整してから、例えば側方のように所望の方向に改良体40を形成することによって、無駄に改良範囲を広げることなく、軌道200や地下横断構造物300に対して改良対象地盤400を効率的に改良することができる。
【0096】
また、上述の説明では、改良体40が上向き、下向きの場合であっても、同じように、注入範囲Xの向きを調整して注入するだけであったが、図11(a)に示すように、上向き改良体40bを形成する場合、二段階で改良用薬液を注入して、所望の形状の上向き改良体40bを形成してもよい。
【0097】
詳しくは、上述したように、緩結タイプの改良用薬液を低圧浸透注入すると、上向きに改良用薬液を注入しても、凝結する前に、改良用薬液の自重で下方に浸透し、上向き改良体40bを所望の形状で形成することが困難となる。
【0098】
そこで、図11(b)に示すように、一旦、注入範囲Xが下向きとなるように指向性注入用鋼管10の方向を調整し、瞬結型改良用薬液を注入して(図11(b)における矢印参照)、指向性注入用鋼管10の下半に下がり止め改良体40cを形成する。そして、注入範囲Xが上向きとなるように指向性注入用鋼管10を回転させ、緩結タイプの改良用薬液を上向きに注入する(図11(c)における矢印参照)。
【0099】
この場合、緩結タイプの改良用薬液を低圧浸透注入しても、指向性注入用鋼管10の下半に下がり止め改良体40cが形成されているため、緩結タイプの改良用薬液は下方に下がらず、下がり止め改良体40cの上で緩結タイプの改良用薬液が凝結するため、所望の形状の上向き改良体40bを形成することができる。
【0100】
また、図示省略するが横向きの改良体であっても、指向性注入用鋼管10の下半に下がり止め改良体40cを形成することにより、下がり止め改良体40cの上で緩結タイプの改良用薬液が凝結するため、所望の形状である横向きの改良体を確実に形成することができる。
【0101】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、この発明の既設構造物は、軌道200に対応し、
以下同様に、
改良材は、改良用薬液に対応し、
所定範囲は、注入範囲Xに対応し、
注入用鋼管は、指向性注入用鋼管10に対応し、
明示手段は、注入範囲明示15に対応し、
地下構造物は、地下横断構造物300に対応し、
瞬結改良材は、瞬結型改良用薬液に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【符号の説明】
【0102】
10…指向性注入用鋼管
12…注入孔
15…注入範囲明示
20…粘性土用鋼管
31…注入内管
50…誘導管
200…軌道
300…地下横断構造物
400…改良対象地盤
X…注入範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に既設構造物が構築されている地盤を改良する地盤改良工法であって、
改良対象地盤が粘性土の場合、
粘性土用鋼管を、前記改良対象地盤に所定間隔を隔てて略水平方向に挿入して地盤改良し、
改良対象地盤が砂質土の場合、
周方向における所定範囲に対して液状の改良材を注入可能な注入孔を備えた注入用鋼管を、前記改良対象地盤に所定間隔を隔てて略水平方向に挿入し、
前記注入孔が、所望の注入方向となるように前記注入用鋼管の向きを調整し、
前記注入用鋼管内部から前記改良対象地盤に前記改良材を注入して地盤改良する
地盤改良工法。
【請求項2】
前記粘性土用鋼管あるいは前記注入用鋼管である挿入鋼管の挿入の前に、
前記改良対象地盤における前記挿入鋼管の挿入箇所を、誘導管を略水平方向に削孔しながら挿入し、
貫通した該誘導管の先端に前記挿入鋼管を連結し、
該誘導管の引抜によって前記挿入鋼管を前記挿入箇所に挿入する
請求項1に記載の地盤改良工法。
【請求項3】
前記改良対象地盤に挿入した際に、改良対象地盤から露出する前記注入用鋼管の端部における露出部分に、前記所定範囲を明示する明示手段を備え、
該明示手段によって、挿入された注入用鋼管の向きを調整する
請求項1または2に記載の地盤改良工法。
【請求項4】
前記注入孔を、前記注入用鋼管の長手方向において所定間隔を隔てて複数設け、
前記注入用鋼管に、注入内管を挿入し、前記注入孔ごとに前記改良材を注入する
請求項1乃至3のうちいずれかに記載の地盤改良工法。
【請求項5】
前記注入内管及び前記注入孔を通過する改良材の管内抵抗を測定するとともに、
前記改良対象地盤内への改良材の注入流量と実注入圧力とを測定し、
前記管内抵抗及び前記実注入圧力に基づいて前記改良材の注入圧力を管理する
請求項1乃至4に記載の地盤改良工法。
【請求項6】
前記既設構造物に対する前記注入用鋼管の挿入位置に基づいて注入用鋼管ごとに改良範囲を定めるとともに、
前記改良材を、凝結速度の早い瞬結改良材と、凝結速度が遅く、低圧浸透型の低圧浸透型改良材とし、
前記瞬結改良材によって、前記改良範囲の下方を改良し、前記瞬結改良材の注入後、前記改良範囲に前記低圧浸透型改良材を低圧浸透させて改良する
請求項1乃至5に記載の地盤改良工法。
【請求項7】
請求項1乃至7のうちいずれか一項に記載の地盤改良工法によって地盤改良後、
改良済み地盤の下方に地下構造物を構築する
アンダーパス工法。
【請求項8】
前記地下構造物を構築後、改良対象地盤に挿入した鋼管内部を充填材で充填する
請求項7に記載のアンダーパス工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−256611(P2011−256611A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132369(P2010−132369)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【出願人】(391042601)ジェイアール東海建設株式会社 (7)
【出願人】(591065848)名工建設株式会社 (15)
【出願人】(000216025)鉄建建設株式会社 (109)
【出願人】(399101337)株式会社ジェイテック (20)
【Fターム(参考)】