説明

地盤改良工法

【課題】柱状改良体の剪断応力及び許容鉛直支持力を増大させ、柱状改良体の径を小さく維持して埋設コスト及び建設残土を低減できる地盤改良工法を提供する。
【解決手段】軟弱地盤を改良する地盤改良工法であり、チューブ本体20の圧入側の先端開口部21に着脱可能に下蓋30を備えたケーシングチューブ10を軟弱地盤1に圧入する工程と、ケーシングチューブ10内に鉄筋構造体40を立て込む工程と、鉄筋構造体40を立て込んだケーシングチューブ10内に、固化材を含む混合粉体51を充填する工程と、地中に柱状改良体50と共に下蓋30を残留させて、チューブ本体20を引き抜く工程と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の基礎部の軟弱地盤に縦孔を形成し、セメント系固化材を含む混合粉体を充填して地層中に柱状の改良体を造成する柱状地盤改良工法のうち、乾式柱状地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管杭工法よりも安価な地盤改良工法として柱状地盤改良工法が知られており、湿式柱状地盤改良工法と乾式柱状地盤改良工法とに大別される。
【0003】
湿式柱状地盤改良工法は、セメントプラントでセメント系固化材と水を攪拌混合してセメントミルクを製造し、掘削地層中でセメントミルクを土とスラリー状になるまで攪拌混合させて柱状改良体(ソイルセメント柱)を造成する工法である。
【0004】
一方、乾式柱状地盤改良工法は、掘削オーガなどで掘削した中空円柱状の縦孔内に、掘削土砂とセメント系固化材とを混合した土を埋戻し、掘削オーガで攪拌や締固めを行って柱状の改良体を形成する工法である。乾式柱状地盤改良工法は、湿式柱状地盤改良工法に比して、養生期間が不要で硬化に伴う体積収縮がなく、軟弱地盤の改良には好ましい工法である。
【0005】
乾式柱状地盤改良工法に関連する技術として、起立させた杭打装置等のリーダに設ける圧入機にセットされたケーシングチューブを土中に圧入させた後、改良添加材が投入された土中部分に、ケーシングチューブと並設してリーダに備えた撹拌ロッドを捻じ込み正逆回転させる乾式地盤改良工法が提案されている(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−125367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された地盤改良工法は、ケーシングチューブを利用し、これと並設して撹拌ロッドを捻じ込んでおり、改良添加材を均等に攪拌して地盤の安定強化を図り、構造物の不同沈下を抑制することができる。
【0008】
しかし、近年、柱状改良体の剪断応力及び許容鉛直支持力を増すために柱状改良体の外径を大きくする傾向にあり、結果として埋設コスト及び建設残土が増大するという問題がある。
【0009】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、柱状改良体の剪断応力及び許容鉛直支持力を増大させ、柱状改良体の外径を小さく維持して埋設コスト及び建設残土を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成する本発明に係る地盤改良工法は、チューブ本体の圧入側の先端開口部に着脱可能に下蓋を備えたケーシングチューブを軟弱地盤に圧入する工程と、前記ケーシングチューブ内に鉄筋構造体を立て込む工程と、前記鉄筋構造体を立て込んだ前記ケーシングチューブ内に、固化材を含む混合粉体を充填する工程と、地中に前記柱状改良体と共に前記下蓋を留置して、前記チューブ本体を引き抜く工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る地盤改良工法によれば、軟弱地盤に圧入したケーシングチューブ内に鉄筋構造体が立て込まれた状態で、固化材を含む混合粉体を充填した後、チューブ本体を引き抜くので、柱状改良体を鉄筋構造体により補強することができ、柱状改良体の剪断応力を増大させることができる。
【0012】
また、チューブ本体の引き抜き時に転圧を掛けるようにすれば、柱状改良体の周面摩擦力を増大させ、許容鉛直支持力を増大させることができる。したがって、柱状改良体の外径を小さく維持することができ、埋設コスト及び建設残土を低減することができる。
【0013】
さらに、下面に掘削刃が突設されている下蓋を使用すれば、掘削が容易になり、掘削作業を迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)〜(C)は本発明に係る地盤改良工法の一実施形態を工程順に示す概略断面図である。
【図2】本実施形態におけるケーシングチューブの構造を示し、(A)は正面断面図、(B)は側面断面図、(C)は下蓋の未装着状態の上面図、(D)は下蓋の装着状態の上面図である。
【図3】本実施形態における下蓋を示し、(A)は上面図、(B)は下面図、(C)は正面図である。
【図4】ケーシングチューブ内への鉄筋構造体の立て込み状態を模式的に示し、(A)は概略側面図、(B)は鉄筋構造体の天端部に設ける上蓋の上面図、及び(C)は上蓋の下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
本実施形態の地盤改良工法は、いわゆる乾式の地盤改良工法であり、主として、ケーシングチューブ10の圧入工程(図1A)と、鉄筋構造体40の立て込み工程(図1A)と、柱状地盤改良体50となる混合粉体51の充填工程(図1B)と、チューブ本体20の引き抜き工程(図1C)と、を有している。
【0017】
まず、図1(A)に示すように、ケーシングチューブ10の圧入工程を行う。ケーシングチューブ10の圧入は、建物の基礎部となる軟弱な地盤1に、杭打ち機(不図示)等を用いて、有底筒体状のケーシングチューブ10を所定の深度まで圧入する。
【0018】
ここで、図2及び図3を参照して、本実施形態の地盤改良工法に用いるケーシングチューブ10の構造について説明する。
【0019】
図2に示すように、ケーシングチューブ10は、円筒体状のチューブ本体20と、チューブ本体20の圧入側の先端開口部21に着脱可能に備えられた下蓋30と、から構成される。
【0020】
チューブ本体20は、強度及び経済性を考慮して、例えば、直径Rがφ165.2mmの炭素鋼管等の金属管体にて形成される。チューブ本体20の先端開口部21内には、下蓋30を嵌入支持するための保持手段22が配設されている。保持手段22は、先端開口部21内の径方向に対向配置されると共に、所定の間隔Dを隔てて対称配置された一対の挟持片23,24から形成されている。挟持片23,24は、正面視及び側面視が略直角三角形状を呈する楔状の部材であり、これら挟持片23,24の間には直状の受け溝25が形成されている。
【0021】
図3に示すように、下蓋30は、例えば、円形の炭素鋼板(鉄板)によって形成され、その上面には短片の帯材からなる直状の装着突起31が突設されている。装着突起31は、チューブ本体20の保持手段22の受け溝25内へ嵌入配置され、挟持片23,24によって挟持される。すなわち、装着突起31の厚みTは、受け溝25の間隔Dよりも若干小さく設定されている。
【0022】
また、下蓋30の下面には、短片の帯材からなる直状の掘削刃(掘削翼)32が突設されている。本実施形態では、掘削刃32は、装着突起31と直交する方向に沿って配設されているが、これに限定されるものではなく、装着突起31と同一方向等に配設してもよい。
【0023】
このようにチューブ本体20の圧入側の先端開口部21は、下蓋30によって閉塞されており、杭打ち機のリーダ等によってケーシングチューブ10を圧入する際に、軟弱地盤1を押し退けて地中に縦孔2を区画形成する。下蓋30は、ケーシングチューブ10を圧入する際に地盤1に押さえ付けられるので、チューブ本体20から離脱することはない。
【0024】
また、下蓋30の下面には掘削刃32が突設されているので、ケーシングチューブ10を回転させることにより、掘削刃32で地盤1を掘削ながら掘進させて圧入することができる。その際、装着突起31は、保持手段22の挟持片23,24によって挟持されているので、下蓋30の回り止め部材としても機能する。
【0025】
次に、図1(A)に示すように、鉄筋構造体40を立て込む工程を行う。この鉄筋構造体40を立て込む工程は、地中に圧入されたケーシングチューブ10内に、予め組み立てた鉄筋構造体40の立て込みを行う。
【0026】
ここで、図4を参照して、ケーシングチューブ10内に立て込む鉄筋構造体40の構造について説明する。図4(A)に示すように、鉄筋構造体40は、複数本の鉄筋41を環状の鉄筋囲42で結束した構造体である。本実施形態では、例えば、円柱体の周面の長手方向に沿うように、4本の鉄筋41を長手方向に沿って略平行に周方向に等間隔で配置して組み合せ、これら鉄筋41を円環状の鉄筋囲42で結束して構造体を形成している。なお、鉄筋41は、例えば、外径Sが13mmである。
【0027】
鉄筋囲42は、直状鉄筋を円環状に成形し、両端部を突き合わせ溶接したものである。鉄筋囲42は、4本の鉄筋41の長手方向に略等間隔で配置され、各鉄筋41にスポット溶接などにより取り付けられる。番線により強固に結束してもよい。なお、鉄筋囲42は、例えば、内径Wがφ80mmであり、前記と同様に外径がφ13mmの鉄筋を成形する。
【0028】
なお、鉄筋構造体40の鉄筋41の本数は、4本に限定されるものではない。鉄筋構造体40の鉄筋41の本数を増大すれば、それだけ鉄筋構造体自体が強固になり、後述する柱状改良体50内に配設したときの剪断応力及び許容鉛直支持力を増大させることができる。
【0029】
鉄筋構造体40の横断面形状は、円環状に限定されるものではなく、例えば、鉄筋囲42の形状を三角形状、四角形状、多角形状及び井桁状等となるように形成してもよい。また、鉄筋囲4を設ける間隔を狭めて、鉄筋囲4の設置数を増加させ、鉄筋構造体40の剛性を高めてもよい。
【0030】
次に、図1(B)に示すように、柱状改良体50となる混合粉体51の充填工程を行う。本実施形態の混合粉体51は、砂と固化材とを所望の混合比で攪拌混合したものであり、鉄筋構造体40が立て込まれたケーシングチューブ10内に充填される。従来の乾式柱状地盤改良工法では、掘削土と固化材とを混合して縦孔内に埋め戻すが、本実施形態の地盤改良工法では、軟弱地盤1にケーシングチューブ10を圧入して縦孔2を形成するので、掘削土が殆ど出ない。
【0031】
固化材には、周知のセメント系の粉体固化材を使用する。セメント系の固化材は、例えば、粘土質やシルト質、砂質などの軟弱土を水和反応で化学的に固化させるものである。これらセメント系の粉体固化材と砂とを柱状改良体50が所望の強度となる混合比で攪拌混合し、この混合粉体51をケーシングチューブ10内へ投入充填する。
【0032】
次に、図1(B)(C)に示すように、チューブ本体20の引き抜き工程を行う。チューブ本体20の引き抜き工程は、杭打ち機等のリーダを上昇させてチューブ本体20の引き抜く作業であるが、この場合、地中に形成される柱状改良体50と共に下蓋30を地中に留置する。下蓋30を地中に留置すれば、軟弱地盤の強化になる。
【0033】
チューブ本体20を引き抜く際は、柱状改良体50の天端部に転圧を掛けながら、チューブ本体20の引き抜き作業を行う。チューブ本体20の引き抜き時に柱状改良体50に転圧を掛けると、柱状改良体50の周面摩擦力を増大させることができる。
【0034】
チューブ本体20の引き抜きにより、地中にはチューブ本体20の外径Rよりも若干大きな外径の柱状改良体50が造成され、柱状改良体50は、固化材の水和反応によって固化することになる。なお、柱状改良体50の外径は、例えば、200〜250mm程度に形成される。
【0035】
チューブ本体20の引き抜き工程後、図4(B)に示すように、所定の高さに調整した鉄筋構造体40の天端部に上蓋60を取り付ける工程を行ってもよい。
【0036】
上蓋60は、図4(B)(C)に示すように、柱状改良体50とほぼ同径の外径Mを有する外短管61と、鉄筋構造体40の天端部の鉄筋41を内接する内径Wを有する内短管63と、短管61,63の上部開口部を閉塞するように溶接した円形の鉄板62と、から構成されている。すなわち、上蓋60は、圧入された鉄筋構造体40の天端部の鉄筋41を内接させて嵌入できる構造となっている。図1では鉄筋構造体40の天端部が地盤1と面一となるように示しているが、この上に建物の基礎を造成するので、地盤1よりも上方へ突き出させて配設してもよい。
【0037】
以上説明したように、本実施形態の地盤改良工法によれば、軟弱地盤1に有底筒体状のケーシングチューブ10を圧入し、軟弱地盤1に縦孔2を区画形成するので、従来の乾式の柱状地盤改良工法に比して建設残土が殆ど生じない。
【0038】
また、簡易な工法で柱状改良体50内に鉄筋構造体40を埋設して、柱状改良体50を補強することができ、地中に形成された柱状改良体50の剪断応力を増大させることができる。
【0039】
さらに、チューブ本体20の引き抜き時に、柱状改良体50の天端部に転圧を掛けることにより、柱状改良体50の周面摩擦力を増大させて、許容鉛直支持力を増大させることができることになる。この結果、剪断応力及び許容鉛直支持力を増大させながら柱状改良体50の外径を200〜250mm程度に小さく維持することができ、埋設コスト及び建設残土を低減することができる。
【0040】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、上述の実施形態では、ケーシングチューブ10の圧入工程を行った後に鉄筋構造体40の立て込み工程を行っているが、これに限定されるものではなく、ケーシングチューブ10内に予め鉄筋構造体40を立て込んだ後にケーシングチューブを軟弱地盤1に圧入する工程を行ってもよい。ただし、下蓋30はチューブ本体20の先端開口部21に着脱可能に装着されるので、鉄筋構造体40の重量によって下蓋30が脱離するのを防止する観点から、本実施形態の工程順に行うことが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、建物の基礎部の軟弱地盤を改良する工法として利用できる。
【符号の説明】
【0042】
1…軟弱地盤、
2…縦孔、
10…ケーシングチューブ、
20…チューブ本体、
21…先端開口部、
22…保持手段、
30…下蓋、
31…装着突起、
32 掘削刃、
40…鉄筋構造体、
50…柱状改良体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブ本体の圧入側の先端開口部に着脱可能に下蓋を備えたケーシングチューブを軟弱地盤に圧入する工程と、
前記ケーシングチューブ内に鉄筋構造体を立て込む工程と、
前記鉄筋構造体を立て込んだ前記ケーシングチューブ内に、固化材を含む混合粉体を充填する工程と、
地中に前記柱状改良体と共に前記下蓋を留置して、前記チューブ本体を引き抜く工程と、
を有する地盤改良工法。
【請求項2】
前記チューブ本体を引き抜く工程において、前記柱状改良体の天端部に転圧を掛けることを特徴とする請求項1に記載の地盤改良工法。
【請求項3】
前記チューブ本体を引き抜く工程の後、前記鉄筋構造体の天端部に上蓋を配設する工程を有する請求項1又は2に記載の地盤改良工法。
【請求項4】
前記下蓋は、下面に突設された掘削刃を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の地盤改良工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−163843(P2010−163843A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9047(P2009−9047)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(596040459)住宅地盤株式会社 (4)
【Fターム(参考)】