説明

地盤改良工法

【課題】特殊な気泡発生装置や工程を必要とせず、地下水面下の地盤中で簡便に二酸化炭素の気泡を発生させることにより地盤を不飽和化して地盤の液状化防止を可能にした地盤改良工法を提供する。
【解決手段】地盤中で酸性液と炭酸化合物を合流させて二酸化炭素の気泡を生成することにより、地盤を不飽和化して地盤の液状化を防止する。酸性液としては硫酸やリン酸等の無機酸等が適し、炭酸化合物としては炭酸水素ナトリウム液などが適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地盤改良工法に関し、特に沖積層や海岸埋立地のような地盤が緩く堆積している地域の液状化を防止することができる。
【背景技術】
【0002】
沖積層や海岸埋立地のような地盤が緩く堆積している地域では、地震時における大規模な液状化被害が懸念されるため、これまで様々な液状化対策が実施されている。
【0003】
砂地盤は地震等のせん断変形によりダイレタンシー現象により体積が変化する。特に、水で飽和した砂は、過剰間隙水圧が上昇し、有効応力が減少して砂の抵抗力が低下する。この結果、液状化現象が生じ、排水して体積が減少する。
【0004】
これまでの液状化対策工法としては、地盤中に透水性の良い砕石の杭を造成することにより地震発生時の過剰間隙水圧を消散させて液状化を防止する方法(排水工法)、地盤中に砂を圧入することにより締め固められた砂杭を造成するとともに、その周辺地盤を側方に圧縮し振動締め固めを行う方法(締固め工法)が知られている。
【0005】
さらに、揚水ポンプによって地下水を汲み上げることにより地下水位を低下させる方法(地下水低下工法)、地盤中に注入した薬液(固化材)が土粒子の間隙で浸透固化し、それが接着剤となって地盤強化や止水(透水性の改良)などの効力を発揮する工法(薬液注入工法)も知られている。
【0006】
しかし、上述したこれまでの液状化対策工法は、施工費がかなり高価である点などの理由により、経済性に見合う比較的重要な構造物に対して行われているのが現状で必ずしも一般的なものではなかった。
【0007】
特に、地下水位低下工法は、常に揚水ポンプを稼動させる必要があるため、地下水位の低下に伴う地盤沈下やランニングコストがかなり高くなる等の課題があり、また薬液注入は経済性や地盤や地下水質汚染などの問題があった。
【0008】
また、既存構造物の直下に適用可能な液状化対策工は、注入液が広範囲に浸透しにくく、施工性が困難という問題があった。さらに、宅地のような周囲と接した場所での施工は、薬液注入による地下水への影響や地盤の変状の宅地への影響や経済性の問題があり、そのため、宅地地盤の液状化対策は大半が行われておらず、より経済的な液状化対策工の開発が急務とされていた。
【0009】
ところで、近年、直径が10μm〜100μmの多数の超微細気泡を含む高濃度空気溶存水を地盤に混入することにより地盤の不飽和を高める気泡混入工法(マイクロバブル水混入工法)が提唱されている。
【0010】
この工法は、液状化時に発生する過剰間隙水圧を土粒子間に混入した気泡が収縮することによって吸収し、過剰間隙水圧の上昇を防ぎ、土粒子どうしの噛み合いを保つことで液状化強度を向上させるもので、新たな液状化対策工として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−2170
【特許文献2】特開2007−211537
【特許文献3】特公平5−16498
【特許文献4】特公平3−54153
【特許文献5】特開2007−23496
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の液状化対策工は、固結化と不飽和化にわかれており、固結化に関しては、恒久性に優れた溶液型注入材により固結する方法であり、特に既設構造物の周辺や直下での施工性に優れている。固結化に関しては、水ガラスを主剤とするシリカグラウトが主に用いられており、特に水ガラスと酸を混合し、或いは更に炭酸カルシウム、或いは炭酸ソーダを加えて緩やかにpHを変化させてゲルタイムを調整する酸性シリカゾルが本発明者らによって開発されている。
【0013】
また、水ガラスと炭酸ガス或いは炭酸水を用いた水ガラスも開発されているが、いづれも炭酸ガスや炭酸水は水ガラスのアルカリを中和して水ガラスをゲル化する為に用いられている。また、シリカ溶液に空気の気泡を混入したグラウト提案されているが、所定量の気泡を含む水溶液の形成と、地盤中に至るまでの加圧下の送液と地中における気泡の発生のシステムが困難であることと、シリカグラウトの経済性が問題になる。
【0014】
これらのシリカグラウトはいづれも注入された地盤の強度はシリカグラウトの濃度によって決まるため充分な注入効果をうるにはそれに対応した充分なシリカ濃度を必要とする。
【0015】
しかし、以上のような薬液注入において液状化強度は、薬液のシリカ濃度によって決まるため、また浸透性と耐久性が要求されるため特殊な材料と配合を用いる必要があり、経済性に課題があった。
【0016】
一方、気泡混入工法では、原料が水と空気であることから経済性に優れているとともに、充分な液状化強度を有する研究成果が示されている。
【0017】
しかし、河川堤防直下など地下水流がある場合、注入された気泡が流出や拡散することにより、長期間にわたって期待した品質を確保、保持する事が出来ない可能性があった。
【0018】
また、土粒表面に微粒子気泡を吸着させることを原理としているため微粒子気泡を含む水溶液を製造し、それを注入管を通して加圧状態を保ちながら地盤中に注入して圧力を開放して地盤中に気泡を発生させなくてはならないため、それに対応したシステムや操作が要求されていた。
【0019】
即ち、気泡を発生する装置を用いて気泡を混入した気泡混入液を生成し、それを加圧状態を保ったまま、注入管を通して地盤中に導入して、地盤中で圧力が開放されて地盤中に気泡が発生して不飽和状態に至るシステムが複雑で地盤に開放して気泡を発生させるまでの加圧状態を保つ事が難しいという問題があった。
【0020】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、特殊な気泡発生装置や工程を必要とせず、地盤中で簡便に二酸化炭素の気泡を発生させて地盤を不飽和化して地盤の液状化を防止できるようにした地盤改良工法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
請求項1記載の地盤改良工法は、二酸化炭素の気泡を地盤中で生成することにより地盤を不飽和化することを特徴とするものである。二酸化炭素の気泡で不飽和化した地盤の形成は空気の微粒子気泡による不飽和化に比べて、簡便な方法で可能であるのみならず不飽和度が同一でも高い液状化強度が得られる。これは、二酸化炭素は地下水面下の地盤において、多かれ少なかれ存在するカルシウムやマグネシウム分と反応して不溶性の炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムを土粒子同士の接触面に沈積するためと思われる。
【0022】
特に、液状化対策が必要となる沿海部では貝殻やサンゴに起因するコーラルサンド等のカルシウム分が多い。しばしばその量はカルシウム含有量が10%付近に達することもある。このため液状化強度は二酸化炭素の気泡による効果と炭酸カルシウムによる土粒子固定効果が生じ空気の微細気泡と同じ不飽和度でもより大きな液状化強度が得られる。
【0023】
本発明の実施においてはこのような場合、カルシウム分と反応して消費される二酸化炭素の量を算定して所定の不飽和度を得るに必要な二酸化炭素を加算した量の炭酸ガスが形成されるようにすればよい。
【0024】
請求項2記載の地盤改良工法は、炭酸化合物と酸を混合することにより得られる二酸化炭素の気泡を地盤中で生成することにより地盤を不飽和化することを特徴とするものである。
【0025】
本発明は、従来の物理的(或いは機械的)手法でバブルの形成と地中への圧送を行うことによる課題を、化学的手法を応用して地盤中で簡便に二酸化炭素の気泡を発生させて地盤を不飽和化させて液状化強度を得ることができる。
【0026】
本発明の原理は、地下水面下で炭酸化合物と酸を反応させて二酸化炭素の気泡を発生させて地下水面下の地盤を不飽和化することにあり、従って、例えば、地盤中に設けた複数の流路をもつ注入管の合流部でA液として炭酸化合物の含有液、B液として酸性液を合流して二酸化炭素を発生させれば、注入管合流部で化学的反応によって急激に生成された二酸化炭素の気泡が微細粒子となって土粒子間隙に侵入して、容易に地盤を不飽和化することができる。
【0027】
このため、微粒子気泡の注入工法のように特殊な気泡発生装置や注入管から地盤中にいたる管路において加圧状態を保って空気の体積を縮小した状態に保ち地盤中で加圧状態が開放されて不飽和化するという工程が簡易化され、かつ特殊な装置を必要とせず作業性が簡便に行われるという画期的利点が得られる。
【0028】
本発明では二酸化炭素の形成は液化炭酸ガスを炭酸ガスボンベから供給してもよい。また、工場や火力発電所からの排ガスであってもよい。また、これらにエアーコンプレッサーにより空気を混入してもよい。マイクロバブルと知られている微粒子気泡を混入した液体の二酸化炭素であってもよい。
【0029】
この場合、土粒子表面に二酸化炭素の微細な気泡が吸着して地震荷重により過剰間隙水圧が上昇した場合、二酸化炭素の体積が収縮して過剰間隙水圧を吸収して、液状化を防止することができる。
【0030】
請求項3記載の地盤改良工法は、請求項1または2記載の地盤改良工法において、
A液:酸性液
B液:炭酸化合物含有液
を有効成分としてA液とB液を合流して地盤中に二酸化炭素の気泡による不飽和土を形成することを特徴とするものである。
【0031】
地盤中に設けた複数の流路をもつ注入管の合流部でA液として炭酸化合物含有液、B液として酸性液を合流して二酸化炭素を発生させれば、注入管の合流部で急激な化学的反応によって生成された二酸化炭素の気泡は微細粒子となって土粒子間隙に侵入して、容易に地盤を不飽和化することができる。
【0032】
本発明における酸としては、硫酸、リン酸等の無機酸、硫酸水素ナトリウム、塩化アルミニウム塩の酸性を呈する酸性塩、クエン酸、酢酸、コハク酸等の有機酸、グリオキザールやエテレンガボネート、トリアセチン、ジアセチン等の有機エステル等、水ガラスやシリカコロイドのアルカリの存在下で酸として作用する有機化合物をあげることができる。
【0033】
また、炭酸塩としては重炭酸や炭酸のアルカリ金属塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の難水溶性炭酸塩等をあげることができるが水溶性のアルカリ金属塩が特に適している。その他任意の酸や塩を併用してゲル化やpHを調整することができる。
【0034】
請求項4記載の地盤改良工法は、請求項1記載の地盤改良工法において、酸は無機酸、有機酸または酸性塩のいずれか一種または複数種であることを特徴とするものである。
【0035】
請求項5記載の地盤改良工法は、請求項1〜4のいずれかひとつに記載の地盤改良工法において、二酸化炭素の気泡を地盤中で発生させて液状化対策工を行うことを特徴とするものである。
【0036】
本発明は、特に沖積層や海岸埋立地のような地盤が緩く堆積している地域の液状化を防止にすることができる。
【0037】
請求項6記載の地盤改良工法は、請求項1〜5のいずれかひとつに記載の地盤改良工法において、さらにシリカを有効成分として含むことを特徴とするものである。
【0038】
組成物としてシリカを有効成分として加えることで、地盤中の二酸化炭素の周辺がシリカと酸が反応して生じたシリカゲルによって覆われて地下水の流動にもかかわらず、所定の注入領域に保持し、かつ二酸化炭素が地下水に溶けて地下水による飽和度が増大することが防げるため、不飽和化が低減することを防ぐことができる。
【0039】
二酸化炭素を含むシリカ溶液は、土粒子同志の接触面をシリカ粒子が接着するとともに、二酸化炭素の気泡は土粒子表面に吸着される。このため、地震荷重による過剰間隙水圧は、二酸化炭素気泡の収縮によって吸収されると同時にシリカ粒子の接着力によって、土粒子の骨格構造が維持される。
【0040】
この結果、大きな地震動による繰返しせん断応力に対してせん断応力が低減して、土の骨格構造が破壊されることを防ぐことができるために液状化現象による地盤沈下を生じない事になる。また、二酸化炭素の気泡とシリカの粘着力の相乗効果によって大きな地震動にも耐え、また小さいシリカ濃度でも大きな液状化強度を発現しうる。
【0041】
また、二酸化炭素発生量を大きくしても土粒子をブロック状にふくむ多数の不飽和土ブロックを形成し、かつその土粒子同士はシリカゲルで固定されるため、注入地盤全体の不飽和度が高まり大きな液状化強度を期待できる。
【0042】
このことは、シリカ濃度が小さくても充分な液状化強度を得る事ができ、経済性に優れた地盤改良効果を得ることになる。
【0043】
またこの場合、土粒子間の間隙に存在する低濃度のシリカゲルは荷重に対して破壊することなく変形して、追随する。このため、大きな地震のせん断応力に対して、土粒子間に存在するゲルは破壊することなく変形して二酸化炭素の気泡に作用して二酸化炭素の体積を収縮させて地震動荷重を吸収させるものと思われる。
【0044】
また、一般の薬液注入ではシリカ濃度を大きくし間隙充填率を充分とらなくては充分な液状化強度を得る事ができない。しかし、本発明では、シリカ濃度を低濃度にすることによりゲルが寒天状になるため、地震による過剰間隙水圧の増大に対して破壊することなく変形可能なため、二酸化炭素のバブルがゲルの変形に順応して過剰間隙水圧の増加を吸収することにより不飽和地盤の耐震効果を発現することができ、しかもシリカゲルの砂粒子同士の固着効果に加わるため、シリカ濃度が低くても土粒子の骨格構造を崩すことなく大きな液状化強度が得られる。また、二酸化炭素の発生量を大きくとって、不飽和度を高める事ができるが、その場合シリカ濃度を高くして、かつ注入量を少なくすることにより大きな不飽和土ブロックを薄いシリカゲル膜で包むことにより、不飽和土ブロックを地下水の流動に対して保持する事ができ、かつ地震時には、硬くても薄いゲル膜が容易に破壊して内部の気体が圧縮して地震荷重を吸収して大きな液状化強度を得る事ができる。これらの研究結果(図1、表1)より、シリカ濃度は0.1〜40wt%とすることができ。特に0.1〜6wt%が好ましい。
【0045】
また、シリカ溶液は酸の存在によってゲル化を伴うとともに脱アルカリによってシリカゲルは中性〜酸性領域になり、シリカの耐久性が得られるとともに二酸化炭素は溶解度が低下する。なぜならば二酸化炭素はアルカリの存在下で水に溶け易いからである。
【0046】
請求項8記載の地盤改良工法は、請求項7記載の地盤改良工法において、シリカは水ガラスまたはシリカコロイドであることを特徴とするものである。
【0047】
シリカ溶液をゲル化させ、28日養生後のシリカ濃度と破壊ひずみの関係を図1に、シリカ濃度とゲルの状態について表1に示す。
【0048】
シリカゲルはシリカ濃度が低くなるほどホモゲル自体の強度は低くなるが、破壊ひずみが大きくなる。或いはゼリー状のゲルとなり、破壊を示すピークが現れることなく、ひずみが増大する。このような場合でもゲルが析出するシリカ濃度であればシリカ粒子の接着力が作用して、土粒子の骨格構造が維持される。シリカゲルはシリカ濃度2%程度でゆるいゲル状になり、0.1wt%以上で全量の水を包含する能力はないがシリカゲルが析出し、土粒子間を結合するのに有効にはたらく。
【0049】
これより、請求項7においてはシリカ濃度0.1wt%以上40wt%までのシリカ溶液を地盤改良工法に用いることを特徴とするものである。シリカ濃度が40wt%以上では強度が高くなり、二酸化炭素が存在してもその液状化強度はシリカ濃度で決まってしまう。また、シリカ濃度が6%wt以上になると不飽和度を大きくすることにより使用するシリカ量は小さくなり、二酸化炭素による不飽和化による効果が大きくなり、同時に経済効果も得ることができる。不飽和度は3%以上あればよく、不飽和度が大きければ大きいほど、地下水面下に不飽和地盤を形成することにより液状化が生じない事になるが、大きな量の二酸化炭素を発生しても地上に逃げないようにシリカで不飽和土ブロックを地下水面下に固定させればよい。具体的には不飽和度は95%以内なら良い。
【0050】
【表1】

【0051】
請求項9記載の地盤改良工法は、請求項1〜8のいずれか記載の地盤改良工法において、空気の気泡を含むことを特徴とするものであり、エアー発生装置やマイクロバブル発生装置を併用して空気の気泡を発生させることにより、必要に応じて飽和度を調整することができる。この場合、目標とする不飽和度に対応した気体量から空気量を差引いて残りの気体量が得られる炭酸ガスを設定すればよい。
【0052】
請求項10において土粒子間の固着は二酸化炭素にカルシウム化合物やマグネシウム化合物のようなアルカリ土金属の塩や水酸化物を反応させて土粒子間でアルカリ土金属の不溶性の炭酸塩を沈殿させることを特徴とする。カルシウム化合物として消石灰をもちいた場合、炭酸カルシウムが沈積し、あるいは海水や製塩の際に副生される廃液中のCaイオンとMgイオンと反応させても同様の効果を得る。この場合、含まれるアルカリ土金属塩と炭酸ガスの反応によって消費される炭酸ガス量を計算して目的とする不飽和度に対応した炭酸ガスの量が得られる設計を行えばよい。また請求項11は請求項10においてアルカリ土類金属化合物として海水を用いることを特徴とする。
【0053】
請求項12記載の地盤改良工法は、請求項1〜3のいずれかひとつに記載の地盤改良工法において、所定の改良領域の目標とする不飽和度を設定して必要とする体積の二酸化炭素の気泡が得られるように二酸化炭素の量を設定して二酸化炭素の気泡を地盤中で生成することにより地盤を不飽和化することを特徴とするものである。炭酸化合物と酸を配合して二酸化炭素を形成する場合はそのように配合設計を行えばよい。また空気の気泡を併用したり、或いは地盤や地下水にCa化合物が含有される場合、それに消費される二酸化炭素の量を算定し、必要とされる不飽和度が得られる二酸化炭素の量を設定すればよい。
【0054】
本発明の研究の結果、本発明は以下の特徴があることが判った。
【0055】
(1)二酸化炭素気泡による不飽和砂の場合は微粒子気泡による不飽和砂の場合と同程度以上に無処理の飽和砂に比べて液状化強度が増大する。即ち簡便な手法で液状化強度を発現しうる。特にCa分を含有する地盤においてはその効果は著しい。
【0056】
(2)不飽和度が同一の場合、シリカを加えた二酸化炭素気泡は空気による微粒子気泡のみによる場合よりも液状化強度が大幅に増大する。
【0057】
(3)シリカを加えた二酸化炭素気泡の場合はシリカ溶液のみの場合と比べてシリカ濃度が同じでも大幅に液状化強度が増大する。またこの場合、その液状化強度はシリカ溶液のみの液状化強度と二酸化炭素のみの液状化強度を合計した強度よりも大きくなりその相乗効果が得られる。このためシリカ溶液のゲル化のみによる液状化対策工では得ることのできない低濃度シリカを用いても充分な液状化強度を得ることができる。
【0058】
(4)上記においてシリカ濃度は、シリカ溶液のみのグラウトでは注入効果が得られない薄い濃度でも効果がある。即ち、シリカ溶液のみではシリカゲルが配合液の水分の全量を包含しえない程のうすい濃度でも効果があり、これは注入中にシリカゲルが土粒子間の接触面に吸着して土粒子間を固定する為とおもわれる。
【0059】
(5)二酸化炭素は水ガラスやコロイダルシリアのアルカリと反応してシリカを析出させ、かつシリカゲルの耐久性を向上させる効果がある。このため、シリカを加えた二酸化炭素溶液にさらに空気の気泡を加えた場合、空気の気泡はシリカのゲルで地盤中に土粒子間に固定されて液状化強度をさらに向上される効果がある。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、特殊な気泡発生装置や気泡を地盤中に注入するための特殊な工程を必要とせず、地盤中で簡便に二酸化炭素の気泡を発生させて地盤を不飽和化することにより地盤の液状化を防止することができ、特に沖積層や海岸埋立地のような地盤が緩く堆積している地域の液状化防止に適している。
【0061】
また特に、シリカを加えることで地盤中の二酸化炭素の周辺がシリカと酸との反応により生じたシリカゲルによって地震時に土粒子の骨格構造をそのままにして過剰間隙水圧を低減させ、かつ地震が起きるまでの期間において、地下水の流動による不飽和度の低減を阻止することにより地下水による不飽和化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】シリカゾルのシリカ濃度に対する破壊ひずみを示すグラフである。
【図2】水溶液中への二酸化炭素の溶解量(ガスボリューム)と温度と圧力との関係(二酸化炭素吸収係数表)を示すグラフである。
【図3】二酸化炭素発生装置の一例を示す概略図である。
【図4】各供試体について行った非排水繰り返し三軸試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0064】
二酸化炭素を注入した地盤、および二酸化炭素とシリカ溶液を注入した地盤の効果を実証する為、表2に示す供試体を作成し液状化強度を測定した。
【0065】
実施例1においては供試体中で二酸化炭素の気泡を発生させ飽和度90%とした。また、比較例1として飽和度100%とし二酸化炭素の有無による液状化強度の比較を行った。実施例2においては供試体中にシリカ溶液の注入及び二酸化炭素の気泡を発生させ飽和度を90%とした。また、比較例2としてシリカ溶液のみを注入し飽和度100%とし二酸化炭素の有無による液状化強度の比較を行った。
【0066】
【表2】

【0067】
本実施例において改良地盤中に所定の体積の二酸化炭素を発生させ不飽和化させる為に、地盤中の間隙水圧中に溶解する二酸化炭素の量を調整する。
【0068】
二酸化炭素は可溶性である。水溶液中への二酸化炭素の溶解量(ガスボリューム)は温度と圧力により影響する。図2に二酸化炭素吸収係数表を示す。
【0069】
20℃において間隙水圧が0.1MPaの地盤中においては地下水1Lあたり1.745Lの二酸化炭素が溶解する。
・体積 (L) = 水の体積 (L) × GV = 1 × 1.745= 1.745 L
地盤の飽和度下げる為には不飽和度に相当する量の二酸化炭素を発生させる必要がある。
【0070】
よって本実施例においては二酸化炭素を体積の10%発生させるためには、上記化学反応により0.1Lの二酸化炭素を過剰に発生させる必要がある。そこで、地盤中において1L当たり1.845Lの二酸化炭素を作成した。
【0071】
同様に、二酸化炭素を間隙中に20%発生させるために必要な二酸化炭素の量は1L当たり1.945Lとなる。
【0072】
地盤中における二酸化炭素の発生方法としては数式1、2に示すようにクエン酸と炭酸水素ナトリウム(重曹)の反応により二酸化炭素を発生して行った。
【0073】
【数1】

【0074】
【数2】

【0075】
なお、本発明における二酸化炭素の発生方法としては炭酸塩と酸を反応させる方法であれば良く、炭酸塩としては炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等を用いることができる。また、酸としてはリン酸、硫酸、クエン酸や硫酸水素ナトリウム等の酸性塩等を用いることができる。
【0076】
本発明において間隙中で10%の二酸化炭素を発生させるに必要な二酸化炭素1L当たり1.845Lを配合するには、二酸化炭素の気体密度1.98、二酸化炭素のモル質量 44.01 g/molより、0.083molの二酸化炭素が必要である。
【0077】
・質量 (g) : 体積 (L) × 二酸化炭素の気体密度 (g/L)
= 1.845 × 1.98 = 3.65g
・モル数 (mol) : 質量 (g) ÷ モル質量 (g/mol)
= 3.65 ÷ 44.01 = 0.083mol
【0078】
数式2の反応式より、二酸化炭素1.845 Lを生成するのに必要なクエン酸(無水、モル質量 192.12 g/mol)
は5.38gである。
【0079】
・モル数 (mol) : 二酸化炭素の1/3
= 0.083 ÷ 3 = 0.028(mol)
・質量 (g) : モル数 (mol) × モル質量 (g/mol)
= 0.028 × 192.12 = 5.38g
【0080】
反応式より、二酸化炭素1.845 Lを生成するのに必要な炭酸水素ナトリウムは6.97gである。
(モル質量 84.007 g/mol)
・モル数 (mol) : 二酸化炭素と同量
= 0.083 mol
・質量 (g) : モル数 (mol) × モル質量 (g/mol)
= 0.083× 84.007 = 6.97g
【0081】
A液にクエン酸5.38g、B液に炭酸水素ナトリウム6.37gを添加し地盤中で反応させることにより二酸化炭素1.745Lが溶解し、0.1Lの二酸化炭素が発生する。
【0082】
実験に用いた配合を下記に示す。
【0083】
(1)実施例1
酸性溶液としてクエン酸水溶液500mlと炭酸水素ナトリウム水溶液500mlを混合し二酸化炭素を発生させた。
【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
(2)実施例2
酸性シリカゾル溶液としてシリカ濃度4wt%のシリカゾルに二酸化炭素を発生させる為のクエン酸を溶解させた水溶液500mlと炭酸水素ナトリウム水溶液500mlを混合し二酸化炭素を発生させた。また供試体内でのシリカ濃度は2wt%に設定した。
【0087】
【表5】

【0088】
【表6】

【0089】
(3)比較例1
脱気した水を使用した。
【0090】
(4)比較例2
シリカ濃度2%の酸性シリカゾル溶液を注入した。
【0091】
【表7】

【0092】
図3に示す装置において装置内の供試体12に豊浦砂をDr=60%となるように入れ、5、6、7タンクからそれぞれの注入を行った。実施例1、2においては13注入口でA液には酸性溶液又は酸性シリカゾル溶液、B液には炭酸水素ナトリウム(重曹)水溶液を合流し、12供試体内で反応させ二酸化炭素を発生させた。
【0093】
作成した供試体は7日間室温養生し、非排水繰り返し三軸試験を行った。
【0094】
試験条件はセル圧(200kPa)−背圧(100kPa)=初期有効拘束圧(100kPa)とし、繰り返し回数Nは両振幅ひずみDAが5%に達した状態とした。繰り返し回数20回でのせん断応力比を液状化強度Rlとし、結果を図4に示す。
【0095】
結果より、水のみを注入した比較例1の液状化強度が0.15であったのに対し、二酸化炭素を発生させた実施例1の液状化強度は0.25であった。また、比較例2の液状化強度が0.28であったのに対し、実施例2液状化強度が0.6であった。これより、二酸化炭素を発生させることで液状化強度が高くなり、さらにシリカゾル中に二酸化炭素を発生させることで粘弾性のある供試体を作成することができ、相乗効果により高い液状化強度を得ることができる。
【0096】
また、図3の5水タンクにマイクロバブル発生装置を設置し、飽和度90%の供試体を作成液状化強度を測定した場合0.25と実施例1と同じ値が得られたことから二酸化炭素の発生により飽和度が調整できることがわかる。
【0097】
また、改良地盤中にアルカリ土金属化合物が存在する場合、二酸化炭素と反応して結晶化することにより液状化強度を上げることができる。
【0098】
図3に示す装置において供試体に貝殻の混入した海砂を用いた場合においては、マイクロバブル発生装置による飽和度90%の供試体の場合の液状化強度は豊浦砂と同じ0.25であったのに対し、二酸化炭素を用いて飽和度90%としたときの液状化強度は0.29と上昇した。
【0099】
同様にシリカ濃度2%の薬液に二酸化炭素を混入し、二酸化炭素による飽和度90%としたときの液状化強度は0.64であり豊浦砂に比べて高い値を示したことから、アルカリ土金属化合物の炭酸塩が析出し液状化強度を上げることがわかる。なお、本実施例の貝殻混じりの海砂を用いた場合、地盤の地下水である海水中にマグネシウムイオン1.27g/kg、カルシウムイオン0.40g/kgが存在し、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンと二酸化炭素の反応は下記の式に表わされる。
【0100】
Mg2+ + CO3- → Mg2CO3
Ca2+ + CO3- → Ca2CO3
【0101】
これより、上記地盤においてはマグネシウムイオン0.052mol、カルシウム0.010 molイオンが存在し、等量の二酸化炭素と反応する。これより、この地盤に本発明を適用する場合0.062mol多く二酸化炭素を発生するさせた。
【0102】
さらに、本発明では
飽和度は97%以下、望ましくは95%以下に設定することが好ましく、さらに、エアー発生装置やマイクロバブル発生装置を併用し飽和度を調整することができる。
【0103】
さらに、工場等により排出した二酸化炭素をガスボンベに集めたものや、液化器により液化したもの、水に溶解したもの、圧縮機によりドライアイス化したもの、化学反応させ重曹等の炭酸塩としたものを用いることもできる。
【0104】
これらの場合も含有する二酸化炭素の量を算出して所定の不飽和度に対する量を地盤中に注入して対象地盤の不飽和化をはかればよい。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、地盤中で簡便に二酸化炭素の気泡を発生させて地盤を不飽和化することにより、特に沖積層や海岸埋立地のような地盤が緩く堆積している地域の液状化を防止することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水面下の地盤を二酸化炭素によって地盤を不飽和化することを特徴とする地盤改良工法。
【請求項2】
請求項1の二酸化炭素が以下のいずれかによって形成されてなる地盤改良工法。
(1) 炭酸化合物と酸を混合して形成される二酸化炭素。
(2) 液化二酸化炭素
(3) 排ガス
【請求項3】
請求項1、2において
A液:酸性液
B液:炭酸化合物
を有効成分としてA液、B液を合流して地盤中に二酸化炭素による不飽和土を形成することを特徴とする地盤改良工法。
【請求項4】
請求項3の酸が無機酸、有機酸、又は酸性塩のいずれか1種または複数種である地盤改良工法。
【請求項5】
請求項1〜4が液状化対策工に用いることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項6】
請求項1〜5がシリカを有効成分としてふくむ地盤改良工法。
【請求項7】
請求項6のシリカが水ガラスorシリカコロイドである地盤改良工法。
【請求項8】
請求項6のシリカがシリカ濃度0.1wt%以上のシリカ溶液である地盤改良工法。
【請求項9】
請求項1〜8が空気の気泡を含む地盤改良工法。
【請求項10】
請求項1〜9の地盤改良が、アルカリ土金属化合物を有効成分として含む地盤改良工法。
【請求項11】
請求項10のアルカリ土金属化合物として海水を用いることを特徴とする地盤改良工法。
【請求項12】
請求項1〜11において、所定の改良領域の目標とする不飽和度を設定して必要とする体積の二酸化炭素を地盤中に形成させる地盤改良工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−167457(P2012−167457A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27801(P2011−27801)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【特許番号】特許第4940462号(P4940462)
【特許公報発行日】平成24年5月30日(2012.5.30)
【出願人】(000162652)強化土エンジニヤリング株式会社 (116)
【出願人】(509023447)強化土株式会社 (31)
【Fターム(参考)】