説明

地盤改良用掘削ロッド

【課題】硬質地盤でも付勢手段としてばね定数の小さいばねを使用しても、確実に共回り現象を防止でき、硬質地盤の存在による施工能率の低下や、掘進が不可能になる事態を防止できる地盤改良用掘削ロッドを提供する。
【解決手段】掘削ロッド1に回転自在に装着されたボス5に固設されてブラケット7が水平方向に延出され、ブラケットに共回り防止翼3が回転自在に軸支され、共回り防止翼には、前記ブラケットとの間に、共回り防止翼がブラケットに対し回動し傾斜したときに共回り防止翼を原位置に復帰させる付勢手段9と、共回り防止翼の原位置を保持させ、共回り防止翼に所定荷重以上の回転抵抗がかかるとせん断され、回転を許容するシャーピン10とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤を掘削して固化材(例えば、セメントミルク)を注入(吐出)し、地盤の掘削土と固化材を撹拌混合することによって、地盤中にソイルセメントコラムを築造する地盤改良工法に用いる掘削ロッドに関し、特に、共回り防止翼に特徴を有する掘削ロッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な地盤改良工法(深層混合処理工法)では、掘削翼及び撹拌翼を備える掘削ロッドを使用し、地盤を掘削して固化材を注入し、地盤の掘削土と固化材を撹拌混合することによって、地盤中に円柱状のソイルセメントコラムを築造していた。
この掘削翼及び撹拌翼を備える掘削ロッドを使用してのソイルセメントコラムの築造(地盤改良)では、粘着力の大きい粘性土中を施工するときに、掘削した粘性土が撹拌翼に付着して撹拌翼と共に回転する、いわゆる共回り現象が発生し、土塊が生ずるため固化材と掘削土が撹拌混合不良になる場合や、ソイルセメントコラム中に土塊が存在するような場合もあり、ソイルセメントコラムの品質の低下や強度の低下を招く課題がある。
【0003】
この課題に対し、本出願人は、掘削翼及び撹拌翼の他に掘削翼及び撹拌翼の削孔径より長い共回り防止翼を設けた掘削ロッドを提供している(例えば、特許文献1参照)。この共回り防止翼は、掘削ロッドと共に回転しないように装着され、掘削土が撹拌翼に付着して共回りすることを防止するもので、前記課題が解決され好ましいものである。
【0004】
しかしながら、この共回り防止翼は、掘削ロッドに回転自在に装着され、掘削翼及び撹拌翼の削孔径より長いため、両端部(張出部)が削孔の内周壁面より地盤中に食い込んだ(差し込まれた)状態で掘進し、掘削ロッドが回転しても不回転状態を維持するが、掘削ロッドの掘進と共に張出部は削孔内周壁面より地盤中に食い込んだ状態で掘進するので、先端は地盤を切削して掘進することになる。従って、硬質地盤においては、共回り防止翼に大きな掘削抵抗がかかり施工能率が低下する、あるいは掘進が不可能になる、等の課題を有する。この課題は、深層混合処理工法(地盤改良工法)によるソイルセメントコラムの築造と同時に、鋼管を同時埋設する鋼管ソイルセメント杭の施工においても同様である。
【0005】
そこで、本出願人は、掘削ロッドに回転自在に装着したボスに、ブラケットを外周に突設して固設し、該ブラケットに共回り防止翼を回転自在に軸支し、該共回り防止翼と前記ブラケット間に、共回り防止翼がブラケットに対し付勢手段に抗して回動し傾斜したときに共回り防止翼を原位置に復帰させる付勢手段(例えば、ばね)を設けた装置を提供した(例えば、特許文献2参照)。この装置によれば、地盤改良施工における掘削ロッドの掘進時、あるいは引き上げ時に硬質地盤に当たり傾斜した共回り防止翼を水平な状態(原位置)に復元させることができ、硬質地盤の存在による施工能率の低下や、掘進が不可能になる事態を防止できる好ましいものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭58−29374号公報
【特許文献2】特許第3140402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の(例えば、特許文献2に記載のような)掘削ロッドの共回り防止翼では、次のような課題がある。
(1)施工中、共回り防止翼の傾斜は、地盤が軟質なものから硬質なものになるに従い、一次的に連続して大きくなる。その結果地盤への食い込み量は、逆に一時的に減少し、共回り防止翼が地盤から受ける回転抵抗が減少する。軟弱な地盤(例えば、粘着力の小さい粘性土地盤)では食い込み量(回転抵抗)は十分に確保できるが、硬質な地盤(例えば、粘着力の大きい硬質な粘性土地盤)では、食い込み量(回転抵抗)が減少し、、共回り防止効果が発揮されない場合が生ずる。かといって硬質地盤(粘着力の大きい硬質な粘性土地盤)で、所望の食い込み量を確保するためには、ばね定数(大きな付勢力)を持った付勢手段が必要となり、不経済となる。
【0008】
(2)例えば、ばねは、露出されているので、施工中は、ばねの周りにソイルセメントが存在し、そのコンシステンシーの変化やばらつきによって、ばねの性能(ばね定数)が変化する。その結果、所望の効果が発揮されない場合がある。施工後には、ソイルセメントが付着したままでは硬化してばねが作動不能になってしまうおそれが生ずるし、かといって再使用時に硬化したソイルセメントを除去することは大変である。従って、施工後には、付着したソイルセメントは、丁寧に除去しなければならず、手数がかかる。
【0009】
本発明は、このような点に鑑み上述した課題を解決せんとなされたものであり、その第1の目的は、粘着力の大きいやや硬質な粘性土地盤でも付勢手段としてばね定数の小さいばねを使用しても、確実に共回り現象を防止でき、N値が50以上の支持層と呼ばれる硬質地盤の存在による施工能率の低下や、掘進が不可能になる事態を防止できる地盤改良用掘削ロッドの提供にある。また、第2の目的は、共回り防止翼の付勢手段(ばね)部分は、カバーにより被覆し、付勢手段にソイルセメントが付着することを防止した地盤改良用掘削ロッドの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明の請求項1に係る地盤改良用掘削ロッドは、掘削翼、撹拌翼および共回り防止翼を備える地盤改良用掘削ロッドであって、掘削ロッドに回転自在に装着されたボスに、ブラケットが固設され外方に向かって突出し、前記共回り防止翼は、該ブラケットに回動自在に軸支され、掘削ロッドの軸から先端までの距離が、前記掘削翼および撹拌翼の回転半径より大きくなるように延出して設けられ、
該共回り防止翼には、前記ブラケットとの間に、共回り防止翼がブラケットに対し回動し傾斜したときに共回り防止翼を原位置に復帰させる付勢手段と、共回り防止翼の原位置を保持させ、共回り防止翼に所定荷重以上の力がかかるとせん断され、回動を許容するシャーピンとが設けられていることを特徴とする。
【0011】
この構成により、地盤改良の施工時に掘削ロッドの共回り防止翼が硬質地盤に遭遇しても、共回り防止翼が傾斜して掘進抵抗を緩和し、この傾斜した共回り防止翼は付勢手段で水平状態の元の位置(原位置)に復帰させることができるので、硬質地盤の存在による施工能率の低下や、掘進が不可能になる事態を防止できる。
また、共回り防止翼には、シャーピンが設けられているので、ばね定数の小さいばね(付勢手段)を使用しても、周辺地盤への食い込みを確保でき、確実に共回り現象を防止できる。
【0012】
また、本発明の請求項2に係る地盤改良用掘削ロッドは、前記共回り防止翼には、前記シャーピンの他に、該シャーピンがせん断され回動が許容された共回り防止翼が所定量回動したときに、許容された回動を一時的に制止し、再び所定荷重以上の力がかかるとせん断されまた回動を許容する単数または複数のシャーピンが設けられていることを特徴とする。
【0013】
施工中、最初のシャーピンがせん断され、共回り防止翼が回動し傾斜してゆくが、この傾斜は地盤が軟らかいものから硬くなるに従い一次的に大きくなる。その結果、地盤への食い込み量は一次的に減少し、共回り防止翼の地盤から受ける回動を制止しようとする力が減少し、共回り防止効果も減少するし、発揮されない場合も生ずる。しかし、この構成によれば共回り防止翼の傾斜に対応しシャーピンが段階的に作用するので、そのシャーピンの位置で地盤への食い込みが担保され、共回り防止作用効果が発揮される。
【0014】
また、本発明の請求項3に係る地盤改良用掘削ロッドは、前記共回り防止翼が回動自在に軸支されたブラケットには、共回り防止翼が所定量回動すると制止するストッパが設けられていることを特徴とする。
【0015】
この構成により、共回り防止翼張出部外縁(先端)と支点(軸支部分)間の距離を短くでき、ばね定数を小さくできる。ばねは90度程度の回動に際しても塑性変形しない材料を選定すれば材質は何でも良い。ピアノ線や硬鋼線が好ましい。また、このストッパは、共回り防止翼の回動域(回動角度)を原位置から上方90度の範囲で回動するようにブラケットに任意に設定することができる。また回動域の上限を90度程度とすることで、付勢部材の大きな変形による塑性化現象を防止できる。また、掘削ロッドの引抜き時には、ストッパによって共回り防止翼は原位置より下方に過剰に回動することがないため、軟弱地盤とやや硬質な粘性土地盤においても地盤への食い込みが担保され共回り防止効果が発揮される。また、掘削時用ストッパを引抜き時用ストッパと兼用しても良いし、別々に設けてもよい。
【0016】
さらに、本発明の請求項4に係る地盤改良用掘削ロッドは、前記共回り防止翼の付勢手段の装着部分は、カバーで被覆され密閉されていることを特徴とする。
【0017】
この構成により、付勢手段(例えば、ばね)の部分は、カバーで被覆され密閉されている。従って、施工中、付勢手段(例えば、ばね)がソイルセメントに接触することがなくなるので、ソイルセメントの存在による影響を受けることなく付勢手段の性能を確実に発揮できる。また、付勢手段にソイルセメントが付着することを防止できるので、施工後の除去作業も不要となる。またカバーは、ばねの一方を固定する役割を持つため、カバーを回転させることで、ばねにプレストレスを付与することができ、ばね定数の小さなばねを使用できる。
【0018】
また、本発明の請求項5に係る地盤改良用掘削ロッドは、前記ブラケットに中空の円筒軸が回転自在に装着され、該円筒軸に共回り防止翼と突片が固設され、円筒軸と共に回転可能となり、
前記円筒軸の中空内には、共回り防止翼がブラケットに対し回動し傾斜したときに共回り防止翼を原位置に復帰させるばねが内装され、
円筒軸の両端の開口は、ブラケットに固設されたキャップで閉塞され、
前記突片とブラケットとの間には、共回り防止翼の原位置を保持させ、共回り防止翼に所定荷重以上の力がかかるとせん断され、回動を許容するシャーピンが設けられていることを特徴とする。
【0019】
この構成により、円筒軸とキャップが付勢手段としてのばねのカバーを形成するので、前記と同様な作用、効果を奏する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の地盤改良用掘削ロッドによれば、次のような効果を奏する。
(1)地盤改良の施工中に、掘削ロッドの共回り防止翼が硬質地盤に遭遇しても、共回り防止翼が傾斜して掘進抵抗を緩和し、その傾斜した共回り防止翼は付勢手段(例えば、ばね)で水平状態の元の位置(原位置)に復帰させることができるので、硬質地盤の存在による施工能率の低下や、掘進が不可能になる事態を防止できる。
【0021】
(2)共回り防止翼には、シャーピンが設けられているので、ばね定数の小さいばね(付勢手段)を使用しても、周辺地盤への食い込みを確保でき、確実に共回り現象を防止できる。
(3)共回り防止翼の傾斜に応じて段階的に作用するシャーピンを設けたので、そのシャーピンの位置で共回り防止翼の地盤への食い込みを確保でき、共回り防止翼が傾斜しても共回り防止作用を確実にすることができる。
【0022】
(4)施工機の押し込み能力や、地盤条件に応じたシャーピンを選定することで、付勢手段(例えば、ばね)の仕様を変更しなくても対応できる。
(5)共回り防止翼張出部外縁(先端)と支点(支軸)間距離を短くでき、ばね定数を小さくできる。
(6)施工中の引き抜き時、傾斜した共回り防止翼には、水平状態(原位置)に復元させるための力を付勢手段(例えば、ばね)から付与され、更に地盤の引き抜き抵抗によって復元力が付与されるため、ばね定数の大きな付勢手段を必要としない。
(7)粘着力の大きいやや硬質な粘性土地盤においても共回り防止翼は所望の食い込み量を確保でき、共回りを防止できる。
【0023】
(8)共回り防止翼の付勢手段(例えば、ばね)の部分は、カバーで被覆され密閉されているので、施工中、付勢手段がソイルセメントに接触することがなく、ソイルセメントの存在による影響を受けることがない。従って、付勢手段(例えば、ばね)の性能を確実に発揮できる。また、付勢手段にソイルセメントが付着することもないので、施工後の除去作業も不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態を示す地盤改良用掘削ロッドの正面図である。
【図2】共回り防止翼の実施の形態を示す一部破断の正面図(a)および平面図(b)である。
【図3】図1および図2に示す共回り防止翼の作用を工程順(a)(b)(c)(d)(e)に示す説明図である。
【図4】共回り防止翼にシャーピンを複数設けた場合の実施の形態を示す一部破断の正面図(a)および平面図(b)である。
【図5】図4に示す共回り防止翼の変形例を示す一部破断の正面図(a)および平面図(b)である。
【図6】共回り防止翼の他の実施の形態を示す一部破断の斜視図である。
【図7】図6に示す共回り防止翼の一部破断の平面図である。
【図8】図6に示す共回り防止翼の分解斜視図である。
【図9】図6乃至図8に示す実施の形態の変形例を示す共回り防止翼の断面平面図である。
【図10】図9に示す共回り防止翼部分の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態に係る地盤改良用掘削ロッドについて、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態を示す地盤改良用掘削ロッドの正面図、図2は、共回り防止翼の実施の形態を示す一部破断の正面図(a)および平面図(b)である。
【0026】
地盤改良用掘削ロッドは、中空の掘削ロッド1の下端に掘削翼2を、その上方に共回り防止翼3および撹拌翼4を備えて構成されている。掘削ロッド1の掘削翼2近傍には吐出口12が設けられ、掘削ロッド1の中空内より供給される固化材(例えば、セメントミルク)が吐出口12より吐出されるようになっている。
掘削翼2および撹拌翼4は、掘削ロッド1に固設され、水平方向に延出している。また、掘削ロッド1にはボス5が回転自在に装着され、該ボス5にブラケット7、7が固設され、並列して水平方向に延出されている。このブラケット7は、水平軸8や中空の円筒軸15を支持するだけでなく、掘削翼2や撹拌翼4との間でソイルセメントを強制的にせん断する共回り防止翼の役目を持っているが、本発明では、ブラケット2枚でかつ間隔をおいて装着されるためソイルセメントを強制的にせん断する回数が増加し、土とセメントミルクの撹拌混合性能が向上するという効果がある。掘削ロッド1のボス5の上下位置には隣接してフランジ6が設けられ、ボス5の上下移動が規制されている。前記共回り防止翼3は、前記ブラケット7、7に水平軸8で回動自在に軸支されている。該共回り防止翼3は、図1に実線で示すような傾斜していない水平状態(原位置)の時には、掘削ロッド1からブラケット7を含む先端までの距離が、掘削翼2および撹拌翼4の回転半径より大きくなるように延出してブラケット7、7に軸支(取り付ける)されている。即ち、共回り防止翼3は、ブラケット7と該ブラケット7に軸支した共回り防止翼3とで、掘削翼2および撹拌翼4の回転半径より大きくなるように延出してブラケット7に軸支させる。
【0027】
また、共回り防止翼3には、前記ブラケット7との間に、共回り防止翼3がブラケット7に対し回動し傾斜したときに、共回り防止翼3を原位置(水平状態)に復帰させる付勢手段としてのばね9と、共回り防止翼3の原位置を保持させ、共回り防止翼3に所定荷重以上の力がかかるとせん断され、回動を許容するシャーピン10とが設けられている。
【0028】
この共回り防止翼3のばね9とシャーピン10は、施工時に、ばね9のばね力(付勢力)とシャーピン10のせん断力とで地盤の掘進抵抗に対抗し、軟弱地盤においては共回り防止翼3の周辺地盤への食い込み(削孔壁面からの地盤中への食い込み)を可能とするが、硬質地盤となり共回り防止翼3に所定荷重以上の力がかかるとシャーピン10はせん断され、共回り防止翼3の回動が可能となり傾斜して地盤の掘進抵抗が緩和される。そして、この傾斜した共回り防止翼3は、軟弱地盤ではばね9で水平状態の元の位置(原位置)に復帰させることができる。これによりN値50以上の支持層と呼ばれる硬質地盤の存在による施工能率の低下や、掘進が不可能になる事態を防止できる。
【0029】
なお、ここで所定荷重以上の力とは、シャーピン10のせん断力以上の力のことである。
従って、シャーピンのせん断力を変化させることで、どの程度の硬さの地盤で回動を許容するか任意に設定することが出来る。
また、施工中の引き抜き時、傾斜した共回り防止翼3には、水平状態(原位置)に復帰(復元)させるための力をばね9から付与され、更に地盤の引き抜き抵抗によって復元力が付与されるため、ばね定数の大きなばね9は必要としない。この点からもばね定数の小さいばね9の採用が可能となる。
さらに、ばね9は共回り防止翼3の支軸である水平軸8に巻装されているため、水平状態で共回り防止翼3の水平軸8の中心と削孔壁面との距離が長いと、同じ力でもばね9に抗して回動させる力は大きくなるので、ばね定数の大きなばね9が必要となり、逆に距離が短いとばね9に抗して回動させる力は小さく作用するので、ばね定数の小さなばね9で可能となる。このことから水平状態で共回り防止翼3の水平軸8の中心と削孔壁面までの距離を短くした共回り防止翼3を採用することで、ばね定数の小さいばね9の採用が可能となる。
【0030】
また、前記ブラケット7には、図2(a)に示すように共回り防止翼3が回動すると制止するストッパ11が設けられている。好ましくは、共回り防止翼3は、水平状態(原位置)から90度近くまで回動させる構成となるため、この点からも共回り防止翼3の水平軸8の中心から削孔壁面までの距離を短くできる。
【0031】
以上の説明から、共回り防止翼3の周辺地盤への食い込み量(削孔壁面から地盤中への食い込み量)が同じであれば、水平軸8の中心から削孔壁面までの距離を短くできるので、共回り防止翼3の全長の長さも短くできることが理解できる。
なお、共回り防止翼3は、ブラケット7と該ブラケット7に軸支した共回り防止翼3とで、掘削翼2および撹拌翼4の回転半径より大きくなるように延出してブラケット7に軸支8されており、この共回り防止翼3の掘削翼2および撹拌翼4の回転半径より大きくなった張出部が周辺地盤への食い込み(削孔壁面より地盤中への食い込み)部分となる。従って、共回り防止翼3を掘削翼2および撹拌翼4の回転半径よりどれだけ大きくするかで、周辺地盤への食い込み量が決定される。
【0032】
次に、前記実施の形態に係る地盤改良用掘削ロッドの作用について説明する。図3は、共回り防止翼の作用を工程順(a)(b)(c)(d)(e)に示す説明図である。
前記実施の形態に係る地盤改良用掘削ロッドにおける掘削ロッド1の上方は施工機のオーガモータ(図示せず)に連結し、正回転(例えば、時計回り)あるいは逆回転(例えば、反時計回り)をさせ、掘削ロッド1の中空部を介し固化材(例えば、セメントミルク)を供給し、吐出口12より吐出しつつ地盤中に掘進する。この時、共回り防止翼3の先端部は、掘削翼2および撹拌翼4の回転半径より外出するので、削孔壁面より地盤中に食い込み共回り防止翼3の回転は阻止される。これにより地盤土は、回転する撹拌翼4と回転しない共回り防止翼3との間でせん断されるので、土塊となることなく細かく粉砕される。従って、細かく粉砕された地盤土と吐出口12より吐出された固化材とがよく撹拌混合されたソイルセメントとなり、良好なコラムが築造される。ここで、長尺なコラムを築造する場合には、ロッドを継ぎ足して接続することで実施できる。
なお、固化材の吐出は、地盤中への掘進時だけでなく、引き抜き時に行ってもよいし、掘進時および引き抜き時の両方で行ってもよい。
【0033】
そして、この施工中の掘進時における共回り防止翼3は、軟弱地盤においてはばね9のばね力とシャーピン10のせん断力とで地盤の掘進抵抗に対抗し図3(a)に示すように周辺地盤への食い込み(削孔壁面からの地盤中への食い込み)が可能となるが、図3(b)に示すように硬質地盤に遭遇し共回り防止翼3に所定荷重以上(ばね9のばね力とシャーピン10のせん断力との合計荷重以上)の力がかかるとシャーピン10はせん断され共回り防止翼3の回動が可能となり傾斜して掘進を可能とする。図3(c)に示すように所定深度に到達し、掘削ロッド1を引き上げ(引き抜く)ていき、軟弱地盤を通過する際には、図3(d)から(e)に示すようにばね9の復元力で地盤中に食い込み、水平状態に戻り地上に引き抜くこととなる。この掘削ロッド1の引き抜き時には、共回り防止翼3が傾斜していても、水平な状態(原位置)に復元させるための力をばね9から得られ、更に地盤の引き抜き抵抗によって復元力が付与されるため、共回り防止翼3は図3(c)の状態から(d)(e)のように水平状態(原位置)に復帰される。なお、引抜時はストッパによって、原位置より下方に過剰に回動することを防止している。
【0034】
このように共回り防止翼3が硬質地盤に遭遇しても、傾斜することによって掘進を可能とし、傾斜した共回り防止翼3は、ばね9で水平状態の元の位置(原位置)に復帰させることができる。これにより硬質地盤の存在による施工能率の低下や、掘進が不可能になる事態を防止しての施工が可能となる。そして、この共回り防止翼3においては、シャーピン10のせん断力が周辺地盤への食い込みを図るため、施工機の押し込み能力や、地盤条件に応じたシャーピン10を選定すれば、ばね9の仕様を変更しなくてもよい。
【0035】
図4は、共回り防止翼にシャーピンを複数設けた場合の実施の形態を示す一部破断の正面図(a)および平面図(b)である。
本例は、共回り防止翼3に2個のシャーピン10a、10bを設けた場合であり、他は前記実施の形態と同様であるので、同様な構成要素には同一符号を付して詳細な説明は省略する。この実施の形態によれば、シャーピン10aで共回り防止翼3の原位置(水平状態)が保持され、共回り防止翼3に所定荷重以上の力がかかるとせん断され、回動を許容し共回り防止翼3は回動するが、次のシャーピン10bに当接するため、このシャーピン10bに当接した傾斜位置で保持され、この位置を保持するが、この共回り防止翼3にさらに所定荷重以上の力がかかるとシャーピン10bもせん断され回転を許容する、というように二段階に作用するものである。
【0036】
図5は、図4に示す共回り防止翼の変形例を示す一部破断の正面図(a)および平面図(b)である。
本例は、共回り防止翼3に3個のシャーピン10a、10b、10cを設けた場合であり、他は前記実施の形態と同様であるので、同様な構成要素には同一符号を付して詳細な説明は省略する。この実施の形態によれば、3個のシャーピン10a、10b、10cが順次作用するので、共回り防止翼3に3段階に作用するものである。
従って、図4および図5に示す実施の形態によれば、地盤条件、例えば地層の変化具合に応じてシャーピン10a、10b、10cのように複数設けることで、最適な施工が実施可能となる。例えば地盤の掘進抵抗の大きさに応じてシャーピンの位置を変更すれば、最適な施工が実施可能となる。なお、シャーピンを複数本使用しても良い。シャーピンにはせん断されやすい部分を設けるためにノッチ加工を施しても良い。また、シャーピンの取付位置は、共回り防止翼3の回動範囲とブラケット7に設置可能な範囲であればどこでも良い。
【0037】
図6は、共回り防止翼の他の実施の形態を示す一部破断の斜視図、図7は、図6に示す共回り防止翼の一部破断の平面図、図8は、図6に示す共回り防止翼の分解斜視図である。この実施の形態は、共回り防止翼3の付勢手段としてのばね9の装着部分が、カバー13で被覆され、密閉されている場合であり、前記実施の形態と同様な構成要素には同一符号が付してある。
なお、本例では、ストッパは省略してある。
【0038】
掘削ロッド1に回転自在に装着されたボス5に固設されて並列して水平方向に延出されたブラケット7、7には、図8に示すように軸受孔14、14が設けられ、このブラケット7、7間には、軸受孔14、14に挿入されて中空の円筒軸15が回動自在に装着されている。この中空の円筒軸15には、ブラケット7、7の間に位置して共回り防止翼3と突片16が固設されており、円筒軸15を介し回動可能となっている。共回り防止翼3は、円筒軸15よりブラケット7の延長線方向に延出し、突片16は、共回り防止翼3とは逆方向に延出している。中空の円筒軸15の中空内には、共回り防止翼3がブラケット7に対し回動し傾斜したときに、円筒軸15を介し共回り防止翼3を原位置(水平状態の位置)に復帰させる付勢手段としてのばね9が内装されている。
なお、ブラケット7、7の間には、補強部材21が設けられ、ブラケット7、7の強度の向上が図られている。
前記中空の円筒軸15の両端の開口15a、15aは、キャップ17、17で閉塞され密閉されている。ブラケット7にはネジ孔19が設けられ、該キャップ17は、キャップ17を貫通し該ネジ孔19に螺入されたボルト18で締結されてブラケット7との間で固着されている。本例においては、中空軸15とキャップ17でカバー13を形成している。また円筒軸15には仕切板20があり、これがばねの一方の係止の役割を果たす。円筒軸15と共回り防止翼3は組み立て式であり、両方の相対回動を防止するように工夫されている。カバー内部はグリース等で充填されており、カバーと円筒軸とはパッキンで水密性が確保されている。突片16はシャーピンを覆っていても良いし、覆っていなくても良い。
【0039】
前記円筒軸15の中空内に内装されたばね9の端部9aは、該キャップ17に係止され、ばね9の中間が円筒軸15内に設けた仕切板20(図7参照)に係止されている。また、図9および図10に示すように円筒軸15内には、別々のばね9、9を使用し、円筒軸15内の仕切板20を中心とする両側に配置し、ばね9の端部9aをキャップ17に係止し、端部9bを仕切板20に係止してもよい。なお、円筒軸15内でのばね9の係止は、仕切板20だけでなく円筒軸15内に設けた他の係止手段であってもよい。これにより共回り防止翼3は、円筒軸15と共に回動し傾斜するため、共回り防止翼3が回動し傾斜すると、円筒軸15も回動するため該円筒軸15にばね9のばね力が作用し元の位置に回動復帰させるため、共回り防止翼3もこの円筒軸15を介し原位置(水平状態の位置)に復帰されることになる。
【0040】
また、前記円筒軸15に固設された突片16には、ブラケット7との間にシャーピン10が設けられる。このシャーピン10は、ブラケット7、7に穿設された孔7a、7aを介し突片16の挿入孔16aに挿入することで設けられる。これにより突片16は、円筒軸15に固設されているので、共回り防止翼3に力が加わると、突片16を介しシャーピン10にも伝達されることとなり、共回り防止翼3に所定荷重以上の力がかかるとシャーピン10にも伝達されせん断されることとなる。
なお、シャーピン10は、ブラケット7に穿設された孔7a、7aを介し突片16の挿入孔16aに挿入することで設けられるので、シャーピン10がせん断され、新しい別のシャーピン10と取り替えるのが容易に実施できる。
また、このシャーピン10は、突片16の挿入孔16aに挿入することなく、突片16の外周面に当接するようにブラケット7に設けてもよい。
【0041】
以上の通り、図6乃至図9に示す実施の形態では、共回り防止翼3のばね9の部分が円筒軸15およびキャップ17で密閉されているので、施工中、ばね9は固化材やソイルセメントに接触することがなくなり、ばね9の性能(ばね定数)が変化することはないし、施工後の除去作業も不要となる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
地盤を掘削して固化材(例えば、セメントミルク)を吐出し、地盤の掘削土と固化材を撹拌混合することによって、地盤中にソイルセメントコラムを築造したり、ソイルセメントコラムの築造と同時に鋼管を同時埋設する鋼管ソイルセメント杭の施工、等に用いる地盤改良用掘削ロッドに適用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 掘削ロッド
2 掘削翼
3 共回り防止翼
4 撹拌翼
5 ボス
6 フランジ
7 ブラケット
8 水平軸
9 ばね(付勢手段)
10、10a、10b、10c シャーピン
11 ストッパ
12 吐出口
13 カバー
14 軸受孔
15 中空の円筒軸
16 突片
17 キャップ
18 ボルト
19 ネジ孔
20 仕切板
21 補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削翼、撹拌翼および共回り防止翼を備える地盤改良用掘削ロッドであって、掘削ロッドに回転自在に装着されたボスに、ブラケットが固設され外方に向かって突出し、前記共回り防止翼は、該ブラケットに回動自在に軸支され、掘削ロッドの軸から先端までの距離が、前記掘削翼および撹拌翼の回転半径より大きくなるように延出して設けられ、
該共回り防止翼には、前記ブラケットとの間に、共回り防止翼がブラケットに対し回動し傾斜したときに共回り防止翼を原位置に復帰させる付勢手段と、共回り防止翼の原位置を保持させ、共回り防止翼に所定荷重以上の力がかかるとせん断され、回動を許容するシャーピンとが設けられていることを特徴とする地盤改良用掘削ロッド。
【請求項2】
前記共回り防止翼には、前記シャーピンの他に、該シャーピンがせん断され回動が許容された共回り防止翼が所定量回動したときに、許容された回動を一時的に制止し、再び所定荷重以上の力がかかるとせん断されまた回動を許容する単数または複数のシャーピンが設けられていることを特徴とする請求項1記載の地盤改良用掘削ロッド。
【請求項3】
前記共回り防止翼が回動自在に軸支されたブラケットには、共回り防止翼が所定量回動すると制止するストッパが設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の地盤改良用掘削ロッド。
【請求項4】
前記共回り防止翼の付勢手段の装着部分は、カバーで被覆され密閉されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地盤改良用掘削ロッド。
【請求項5】
前記ブラケットに中空の円筒軸が回動自在に装着され、該円筒軸に共回り防止翼と突片が固設され、円筒軸と共に回動可能となり、
前記円筒軸の中空内には、共回り防止翼がブラケットに対し回動し傾斜したときに共回り防止翼を原位置に復帰させるばねが内装され、
円筒軸の両端の開口は、ブラケットに固設されたキャップで閉塞され、
前記突片とブラケットとの間には、共回り防止翼の原位置を保持させ、共回り防止翼に所定荷重以上の力がかかるとせん断され、回動を許容するシャーピンが設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地盤改良用掘削ロッド。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate