説明

地盤改良装置及びそれを用いた地盤改良工法

【課題】円筒状の撹乱土排出路の断面積を従来と同様の大きさで、固化材スラリー噴射量の増大した場合でも、排土率を注入量の90%〜100%を維持できる様にするとともに、周辺地盤へ与える影響を極力低減させる。
【解決手段】排土式高圧噴射攪拌工法用施工機械9の単管式注入ロッド1の先端部に、攪拌翼2と前記攪拌翼2に近接した上部に螺旋形の土壌押上板5を配設した地盤改良装置において、前記土壌押上板5に、複数の調圧穴6を開けるとともに、前記各庁圧穴6の合計開口面積を、前記土壌押上板5の平面視形状の全面積の10〜60%にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木工事のうち、軟弱地盤等の地中に固化材スラリー等の地盤改良材を注入し、該固化材スラリーと軟弱土とを混合する、地盤改良装置及びそれを用いた地盤改良工法に関するものであり、特に、高圧噴射地盤改良工法に使用する先端モニター形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の地盤改良装置として、単管ロッドの先端部付近に、水平方向に延設された攪拌翼と、前記攪拌翼の直上部付近に螺旋状の土壌押上板を有する高圧噴射攪拌モニターを備えた高圧噴射地盤改良装置があるが、この装置を用いる高圧噴射地盤改良工法は、単管工法でありながら周辺地盤に与える変位を制御して極力低減することができる(例えば、特許文献1、参照)。
【0003】
前記地盤改良工法は、施工に伴う周辺地盤に与える変位を低減させるために、地盤中に噴射する固化材スラリーとほぼ等量の原土土壌を改良範囲から排土することを基本技術としている。この排土方法は、まず、前記地盤改良装置の先端モニターで削孔・攪拌・引抜きを繰り返し、周辺地盤との縁切りを行う。
【0004】
その後、超高圧の固化材スラリーの噴射による内部圧力の増加と前記土壌押上板の効果により、固化材スラリーとほぼ等量の原土土壌を改良範囲から排土するものである。
【0005】
当該地盤改良工法に用いられる標準的な先端モニターの仕様は、ロッド回転時の円形軌跡の直径が60cmであるような攪拌翼に、平面形状が直径50cmの螺旋形状の土壌押上板を具備している。なお、標準的な固化材スラリーの噴射仕様は、噴射流量80〜150l/分、噴射圧力20〜40MPa、である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−120819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、改良予定地盤中に造成される円柱状の改良体の直径を、従来より大きくすることが求められている。そのため、現在、前記地盤改良工法は、更に大径化を目指して開発されている。
【0008】
前記開発過程で、大径化を実現するためには、固化スラリー噴射量を増大させることが必要であり、固化材スラリー噴射量の増大にかかわらず地盤変位を極力低減するためには、固化材スラリーとほぼ等量の原土土壌を排土する原理から、その時間当たりの撹乱土の排出量もそれに応じて増大させる必要がある。
【0009】
当該地盤改良工法の排土原理は、前記のように、前記地盤改良装置の先端モニターで削孔・攪拌・引抜きを繰り返して、周辺地盤との縁切りを行い、攪拌翼長の直径を有する泥水膜で孔壁を保護された円筒状の撹乱土排出路を造成する。そして、改良部へ噴射される固化材スラリーと混合攪拌された流動性のある改良土の圧力が、土壌押上板上部の撹乱された原土を押し上げ、その円筒状の撹乱土排出路から排出されることによって、噴射されたスラリー量と略等しい体積の排土を行うことである。
【0010】
ここで、時間当たりの排土量を増加させるためには、円筒状の撹乱土排出路の断面積を大きくすることも考えられるが、そのためには、先端モニターの攪拌翼と土壌押上板の形状を大きくする必要がある。しかし、この方法では、地盤改良装置(施工マシン)の削孔能力を上げなければならず、前記施工マシンの大型化が必要となるので、経済性が損なわれることになる。
【0011】
そのため、経済性を損なわないために先端モニターの大きさを従来通りとし、円筒状の撹乱土排出路の断面積を従来と同様の大きさにすれば、この撹乱土排出路を通過する排出土の流速を増加させる必要がある。
【0012】
この発明は、上記事情に鑑み、円筒状の撹乱土排出路の断面積を従来と同様の大きさで、固化材スラリー噴射量の増大した場合でも、排土率を注入量の90%〜100%を維持できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、 排土式高圧噴射攪拌工法用施工機械の単管式注入ロッドの先端部に、攪拌翼と前記攪拌翼に近接した上部に螺旋形の土壌押上板を配設した地盤改良装置において、前記土壌押上板に、調圧穴を開けたことを特徴とする。
【0014】
この発明の前記調圧穴は、複数個設けられ、前記各調圧穴の合計開口面積が、前記土壌押上板の平面視形状の全面積の10%〜60%であることを特徴とする。この発明の前記土壌押上板は、その周縁部、その表面部、又は、前記両部、に突起を備えていることを特徴とする。
【0015】
この発明は、前記調圧穴付の土壌押上板を備えた地盤改良装置の単管式注入ロッドを、改良予定地盤の地中に貫入し、該注入ロッドの攪拌翼で土壌を撹乱して撹乱部を形成した後、前記注入ロッドを引き上げながら前記攪拌翼の先端ノズルから固化材スラリーを噴射させて、前記撹乱部及びその外周部に固化材改良部を形成する地盤改良工法であって、前記注入ロッドの引き上げの際に、土壌押上板により前記攪拌翼の該土壌押上板近傍の撹乱土を上方へ押し上げて該土壌押上板の下方に空隙を形成し、前記固化材スラリーと混合された混合土を該空隙に吸収するとともに、前記土壌押上板の調圧穴から前記改良部内の圧力を逃がすことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本願発明は、前記土壌押上板に調圧穴を設けたので、固化材スラリーの噴射流量を従来よりも増加させても、従来の施工マシンで経済性を損なわずに排土量を確保することができ、周辺地盤へ与える影響を極力低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態の平面図である。
【図2】正面図である。
【図3】使用状態を示す一部断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1実施形態を図1〜図3により説明する。
地盤改良装置の単管式ロッド1の先端には、切削刃Bが装着されているが、この切削刃Bは、例えば、メタルクラウン等のビットである。前記単管式ロッド1の先端部分には、攪拌翼2と、該攪拌翼2に近接した上部に位置する土壌押上板5と、が配設されている。
【0019】
前記攪拌翼2は、前記ロッド2先端から所定間隔、例えば、15〜30cm離れた位置に配設されている。前記攪拌翼2は、左右一対の翼を備えており、該各翼の長さは、例えば、前記ロッド2の中心から30cmである。前記攪拌翼2には、ロッド送液管3aに連通する固化材スラリー流路3bが内含され、その端部には、先端ノズル(固化材吐出部)4が装着されている。
【0020】
前記土壌押上板5は、螺旋状に形成され、投影平面形状が円形で、その半径は前記攪拌翼2の回転により描かれる円形軌跡の縁の半径と同一寸法、又は、前記攪拌翼2の半径より10cm以下、望ましくは、5cm以下、小さく形成されている。前記螺旋状の攪拌翼2の傾きは、単管式ロッド1の中心軸に対して直交する線に対して、10〜20度であり、前記投影平面形状の円形は、略円周一周分に形成されている。
【0021】
前記土壌押上板5には、調圧穴6が複数個穿けられており、その調圧穴6の個数は、2〜6個である。前記調圧穴6の直径dは、8cm〜16cmが好適である。前記直径dが8cm未満の場合には、排土の上昇流による土壌押上板5に対する圧力が充分消散し難く、又、直径dが16cmを超えると土壌押上板5の強度や耐性の面に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0022】
前記各調圧穴6の合計開口面積は、前記土壌押上板5の平面視形状の円面積に対して、10〜60%の比率が好適であるが、より好ましい比率は、20〜50%、である。前記比率が、10%未満であると、排土の上昇流による土壌押上板5に対する圧力が充分消散しにくく、又、60%を超えると土壌押上板5の強度や耐性の面に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0023】
前記土壌押上板5の周縁部5aには、突起7が設けられているが、この突起7は周方向に間隔をおいて複数、例えば、10個配設されている。この突起7は、方形の板状体であり、図2に示すように、前記押上板5の表面部5b側に、外側上方を向いて角度θ傾斜している。前記傾斜角度θは、例えば、120度であるが、必要に応じて適宜選択される。
【0024】
なお、前記突起7は、土壌押上板5の周縁部5aに設ける代わりに、その表面部5b、又は、前記両部5a、5b、に設けても良い。
【0025】
本願発明の地盤改良装置を用いた地盤改良工法(単管式の排土式高圧噴射攪拌工法)を説明する。図2に示すように、排土式高圧噴射地盤改良施工機9を搭載した走行台車10を、H鋼12上を走行させながら軟弱地盤14の改良予定位置まで移動し、地盤改良装置の単管式ロッド1の先端を杭心(図示省略)に合わせる。その後、前記排土式高圧噴射地盤改良施工機9を駆動させて前記単管式ロッド1を回転させるとともに、貫入させて削孔を開始する。
【0026】
前記削孔は、改良予定深度までの削孔長全体を複数回のステップ方式の削孔とし、無水で、或いは、削孔水を単管式ロッド1の先端ノズル4より吐き出しながら削孔する。
【0027】
その際に攪拌翼2の回転により改良地盤装置が通過する円形軌跡断面の円筒状部分を攪乱し、周囲の土壌と良く縁切りをしておく必要があるが、第1ステップ長分だけ削孔したら、一旦第1ステップ分だけ単管式ロッド1を上げ、次に第2ステップ下端まで削孔し、再び第1ステップの下端まで前記ロッド1を引き上げるので、土壌押上板5の直径内に含まれる軟弱地盤と直径外の領域は、確実に縁切りされる。
【0028】
前記攪拌翼2の先端ノズル4の位置が改良予定深度まで到達したら削孔したら単管式ロッド2の回転を停止させ、削孔を中止する。
【0029】
次に、図示しない超高圧ポンプを作動させ、固化材スラリー23をロッド送液管3a、固化材スラリー流路3bを介して攪拌翼2の先端ノズル4まで圧送する。そして、図示しない圧力管理装置により、噴射圧力が規定圧力に達したことを確認したら、定速回転で定速ステップ引き上げを行う。この単管式ロッド1の定速引き上げ速度は、通常3〜4分/m程度であるが、必要に応じて、適宜変更される。
【0030】
当該排土式高圧噴射地盤改良工法では、前記ロッド1の引き上げ時に超高圧で噴射される固化材スラリーの噴射量体積に相当する原土土壌が、削孔時円筒部分となっている攪乱土排出路8を通じて地上に排土19される。この排土機構は、削孔時に形成された改良地盤の攪乱部分の土壌19aを、土壌押上板5にて上方に押し上げて、前記土壌押上板5の下方に空隙21を形成し、高圧噴射された固化材スラリー23aが混合された混合土を該空隙21に吸収させる。そのため、前記空隙21及びその周辺部(撹乱層8及びその外周部8a)には、円柱状の固化材改良部(改良体)13が形成される。
【0031】
この混合土の該空隙21への吸収作用は、噴射された固化材スラリー23による内部圧力の増加と前記土壌押上板5の効果によるものである。この時、改良範囲8aは、高圧で噴射される固化材スラリー23aにより地盤は切削され、スラリー体積分が地盤中で増加する。しかし、前記空隙21は調圧穴6を介して前記押上板5の上方部に連通しているので、前記空隙21内の圧力は、前記調圧穴6を通って前記上方部に抜ける(逃げる)。
【0032】
そのため、前記空隙21内の圧力が調整されるとともに、該空隙21を通過する排圧は、撹乱土排出路8内の土壌を押し上げるので、固化材スラリー23の噴射流量を従来よりも増加させても、従来の施工マシンで経済性を損なわずに排土量を確保することができ、周辺地盤へ与える影響を極力低減できる。
【符号の説明】
【0033】
1 単管式ロッド
2 攪拌翼
3a ロッド送液管
3b 固化材スラリー流路
5 土壌押上板
6 調圧穴
7 突起
8 撹乱土排出路
13 改良体
21 空隙
23 固化材スラリー
23a 高圧噴射された固化材スラリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排土式高圧噴射攪拌工法用施工機械の単管式注入ロッドの先端部に、攪拌翼と前記攪拌翼に近接した上部に螺旋形の土壌押上板を配設した地盤改良装置において、
前記土壌押上板に、調圧穴を開けたことを特徴とする地盤改良装置。
【請求項2】
前記調圧穴は、複数個設けられ、前記各調圧穴の合計開口面積が、前記土壌押上板の平面視形状の全面積の10%〜60%であることを特徴とする請求項1記載の地盤改良装置。
【請求項3】
前記土壌押上板は、その周縁部、その表面部、又は、前記両部、に突起を備えていることを特徴とする請求項1、又は、2記載の地盤改良装置。
【請求項4】
前記請求項1、2、又は、3記載の地盤改良装置の単管式注入ロッドを、改良予定地盤の地中に貫入し、該注入ロッドの攪拌翼で土壌を撹乱して撹乱部を形成した後、前記注入ロッドを引き上げながら前記攪拌翼の先端ノズルから固化材スラリーを噴射させて、前記 撹乱部及びその外周部に固化材改良部を形成する地盤改良工法であって、
前記注入ロッドの引き上げの際に、土壌押上板により前記攪拌翼の該土壌押上板近傍の撹乱土を上方へ押し上げて該土壌押上板の下方に空隙を形成し、
前記固化材スラリーと混合された混合土を該空隙に吸収するとともに、
前記土壌押上板の調圧穴から改良部内の圧力を逃がすことを特徴とする地盤改良工法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−132718(P2011−132718A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292165(P2009−292165)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000185972)小野田ケミコ株式会社 (58)
【Fターム(参考)】