地盤注入工法
【課題】各種有効成分を特定の配合比率で配合し、種々の目的に応じた流動特性、固結特性を呈する地盤注入工法を得る。
【解決手段】本発明はフライアッシュ(F)と、セメント(C)と、水(W)とを有効成分とし、セメント比を50重量パーセント以下、および水粉体比を30〜130重量パーセントの配合液として地盤中に圧入することにより、地盤中で配合液がゲル状になったときに、そのままでは流動しないが外力が作用すると流動する可塑状態を経て固結することから構成され、これを地盤中に圧入して土粒子を周辺に押しやって固結する。
【解決手段】本発明はフライアッシュ(F)と、セメント(C)と、水(W)とを有効成分とし、セメント比を50重量パーセント以下、および水粉体比を30〜130重量パーセントの配合液として地盤中に圧入することにより、地盤中で配合液がゲル状になったときに、そのままでは流動しないが外力が作用すると流動する可塑状態を経て固結することから構成され、これを地盤中に圧入して土粒子を周辺に押しやって固結する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフライアッシュと、セメントと、水とを有効成分とし、これらを特定比率で配合して可塑状態を経て固結し得る可塑性の注入材とし、この注入材を地盤中に圧入して土粒子を周辺に押しやり、地盤強化を図りながら固結する可塑性注入材を用いた地盤注入工法に関する。特に、本発明は火力発電で副成される産業廃棄物としてのフライアッシュの有効利用に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
可塑性を呈する注入材(グラウト)とは注入管を通して地盤中に注入されたグラウトがゲル状になったときに外力を加えなければ流動性を失うが、外力を加えると流動性を持つグラウトであって、この種の可塑性グラウトとして従来、セメントベントナイト、あるいはさらに少量の水ガラスやスラグを添加したもの、スラグに消石灰、ベントナイト、水ガラス等を添加したもの、等が知られている。(特開2003−105745号公報参照)さらに、従来、フライアッシュとセメントの混合物を掘削地盤に投入して止水層を形成することも知られている。
【0003】
しかし、上述公知の可塑性グラウトは漠然と可塑特性を呈するというだけで、地盤中に注入して注入目的に応じた可塑性グラウトとして特定の流動特性と固結性を具体的に明確化したものではなく、したがって、特定の目的に応じた利用が不可能であり、実用性に欠けるものであった。
【特許文献1】特開2003−105745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の課題は産業副生品としてのフライアッシュを主成分とする各種有効成分を特定の配合比率で配合し、地盤注入における特殊な条件下で種々の目的に応じた流動特性、固結特性を呈するようにし、上述の公知技術に存する欠点を改良した地盤注入工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
さらに、上述の課題を解決するため、本発明の地盤注入工法によれば、フライアッシュ(F)と、セメント(C)と、水(W)とを有効成分とし、セメント比を50重量パーセント以下、および水粉体比を30〜130重量パーセントの配合液として地盤に圧入することにより、地盤中で配合液がゲル状になったときに、そのままでは流動しないが外力が作用すると流動する所望の可塑状態を経て固結する可塑性注入材を地盤中に圧入して土粒子を周辺に押しやり、地盤強化を図りながら固結することを特徴とする。ただし、セメント比=(C/F+C)×100であり、水粉体比=(W/F+C)×100であり、F、C、Wはいずれも重量を表す。
【発明の効果】
【0006】
本発明は上述のとおり、フライアッシュと、セメントと、水とを有効成分とし、必要に応じてベントナイト、アルミニウム塩、水ガラス、消石灰、重炭酸塩や炭酸塩、シリカゾル、石こう、スラグ等を併用し、これらを特定の配合比率で配合するようにしたから、種々の目的に応じた流動特性、固結特性を呈する所望の可塑性注入材を得、この注入材を地盤中に圧入して土粒子を周辺に押しやり、地盤強化を図りながら地盤を強固に固結することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は上述のとおり、フライアッシュ(F)、セメント(C)、水(W)を有効成分とし、セメント比を50重量%以下、好ましくは2〜20重量%、および水粉体比を30〜130重量%、好ましくは30〜70重量%の配合液とする。ここで、セメント比とは(C/F+C)×100であり、また、水粉体比とは(W/F+C)×100であり、F、C、Wはそれぞれ重量である。
【0008】
これによって、本発明にかかる上述配合液は可塑性グルウトとして地盤に注入してゲル状になったときに、そのままでは流動しないが外力が作用すると流動する所望の可塑状態を経て固結する。
【0009】
さらに、本発明は有効成分として、上述のフライアッシュ、セメントおよび水に加えてベントナイト(B)を含むこともできる。この場合、セメント比を2〜20重量%、水粉体比を30〜70重量%、ベントナイト比を0.1〜5.0重量%の配合液とする。ここで、ベントナイト比とは(B/F+C)×100である。Bは重量を表す。
【0010】
さらにまた、本発明は有効成分としてフライアッシュ、セメントおよび水、必要に応じてベントナイトに加えて硫酸アルミニウム塩等のアルミニウム塩(A)を含むこともできる。この場合、セメント比を3〜20重量%、水粉体比を30〜70重量%およびアルミニウム比を0.1〜1.0重量%の配合液とする。ここで、アルミニウム比とは(A/F+C)×100である。Aは重量を表す。
【0011】
さらに、本発明は有効成分として、フライアッシュ、セメント、水、必要に応じてベントナイト、アルミニウム塩に加えて水ガラスを含むことができる。この場合、セメント比を2〜20重量%、水粉体比を50〜130重量%、および水ガラスに起因するシリカ濃度を1.6〜7.5重量%の配合液(あるいは配合液1リットル中に含まれるシリカ量が16〜75g)とする。
【0012】
さらにまた、本発明は有効成分として、フライアッシュ、セメント、水、必要に応じてベントナイト、アルミニウム塩および水ガラスに加えて、消石灰を含むことができる。この場合、消石灰比を1〜15重量%の配合液とする。ここで、消石灰比とは(消石灰重量/F+C)×100である。
【0013】
さらに、本発明は有効成分として、フライアッシュ、セメント、水、必要に応じてベントナイト、アルミニウム塩、水ガラスおよび消石灰に加えて、さらに重炭酸塩または炭酸塩、およびシリカゾルを含むことができる。この場合、セメント比を7〜20重量%、水粉体比を65〜130重量%、重炭酸塩または炭酸塩比を0.1〜2.0重量%およびシリカ濃度を0.7〜7.0重量%の配合液とする。ここで、重炭酸塩比または炭酸塩比とは(重炭酸塩または炭酸塩の重量/F+C)×100である。
【0014】
なお、本発明は上述の各種有効成分に加えて、さらに必要に応じて消石灰、石こう、スラグ、アルミニウム粉末(気泡剤)等の添加物を単独で、または複数種組み合わせて含有させることもできる。特に、本発明において、アルミニウム粉末等の気泡剤を含む注入材は軽量となり、老巧トンネル等の構造物の裏込め材として用いることにより、既存構造物への負荷が少なくなる。
【0015】
上述の本発明にかかる注入工法は地盤中に挿入した注入管を通して、地盤中に圧入し、土粒子を周辺に押しやって地盤強化を図りながら注入固結する。このような可塑性注入材の注入に当たり、初期の注入圧力を低くして先行注入物の脱水を図りながら注入圧力を段階的に高め、あるいは間欠的に加圧しながら注入し、これにより可塑性を呈するゲル化物の土粒子間浸透と地盤の割裂による逸脱を防ぎながら土粒子を周辺に押し広げて地盤の密度を増大させながら固結することが好ましい。しかも、この注入は複数の注入ポイントからの同時注入方式、連続注入方式、インターバル注入方式、またはこれら方式を組み合わせて行われる。さらに、本発明は複数の注入ポイントから注入して注入ポイント間の地盤を拘束し、あるいは複数の注入管を3m以内の間隔で地盤に設置し、注入管間の地盤密度を増大して地盤を固結することもできる。なお、本発明の地盤中への注入に際し、地盤中にドレーン材を設置して地盤中に注入された可塑性注入材の脱水あるいは地盤の脱水を促進しながら注入を行うこともできる。
【0016】
上述のようにして注入される本発明は例えば次の(a)、(b)、(c)または(d)の用途に利用される。
(a)軟弱地盤に圧入して強化する。
(b)トンネル背面、護岸の背面、基礎下または道路下の空洞に充填する。
(c)護岸背面の土砂の吸出し現象を防止する。
(d)沈下した建造物やその周辺地盤を復元する。
【0017】
上述の注入は例えば次の(A)乃至(D)に示す注入管を用いて行われる。
(A)軸方向に複数の吐出口を有する注入管を用いて注入する。
(B)外管に少なくとも一つの袋体パッカを備えた多重管を用い、内管から外管を通し て注入する。
(C)複数の注入液管路を有する多重管ロッドを用いて注入する。
(D)複数の管路を有する注入管を用い、一方の管路からフライアッシュ、セメントお よび水を有効成分とするA液配合液を送液し、他方の管路からその他の成分を含む B液配合液を送液し、A、B液を合流して地盤中に注入する。
【0018】
以下、本発明の注入工法を添付図面を用いてさらに詳述する。
【0019】
図1は本発明にかかる可塑性注入材を地盤中に圧入し、地盤を強化する注入原理を表した模式図である。図1中、1は地盤であって、地盤1中に注入管2、2・・・2を複数本、間隔をあけて挿入する。本発明はこれら注入管2、2・・・2を通して可塑性注入材を地盤中1に圧入してグラウトパイル3を形成する。このとき、粒子は周辺に押しやられて注入管2、2間の地盤1が圧縮され、密度増加された周辺地盤4を形成する。このような周辺地盤4は圧縮され、密度増加されており、強固に固結される。また、図1において、複数の注入管2、2・・・2を3m以内の間隔で設置することにより、グラウトパイル3が互いに拘束効果を発揮し、中間の軟弱地盤が圧縮されて一層密な周辺地盤4が形成される。
【0020】
図2は本発明にかかる可塑性注入材を構造物下の液状化防止に利用した例の模式図である。図2中、5は建物等の建造物である。建造物5下方の地盤1中に注入管2を挿入し、この注入管2を通して本発明にかかる可塑性注入材を圧入し、図1と同様にグラウトパイル3を形成する。このとき、グラウトパイル3、3間の周辺地盤4は圧縮され、密度増加されて強固に固結され、液状化現象が防止される。建造物5は基礎周辺のグラウトパイル3によって支持される。この場合、グラウトパイル3の周辺の砂も蜜になっているので、液状化防止効果に優れる。
【0021】
図3は液状化防止の他の例の模式図であって、図2と同様、建造物5下方の地盤1中に注入管2を垂直に挿入し、この注入管2を通して本発明にかかる可塑性注入材を圧入し、図2と同様にグラウトパイル3を形成する。図3では、さらに、グラウトパイル3、3間の建造物5下方に注入管2を斜め方向に挿入し、あるいは曲線ボーリングによって注入管2を挿入し、この注入管2を通して注入材を浸透注入して建造物5の下方を一層強固に固結して液状化防止する。
【0022】
図4は本発明にかかる可塑性注入材を用い、沈下した建造物やその周辺地盤を復元する例の模式図である。まず、地盤1上の復元すべき建造物5の下方に注入管2を通してセメントや高強度グラウト等を浸透固結させて支持層を形成する。次いで、支持層6の上方であって、建造物5の下方に、注入管2を通して本発明にかかる可塑性注入材を圧入し、圧縮により密度増加された周辺地盤4を形成し、かつ地盤を隆起させて沈下した建造物5を復元する。
【0023】
図5は本発明にかかる可塑性注入材を護岸背面の土砂の吸出し現象防止に用いた例の模式図である。通常の護岸背面の土砂吸出し現象は図5に示されるように防止される。すなわち、図5において、海岸、河川等の水10の岸辺にコンクリート等の護岸ブロック7を建設して岸辺を保護する。護岸ブロック7の背面には通常、土砂12が土盛される。そして、土砂12と水10との接点には土砂12の盛土を吸出し現象から保護するために、捨て石9が配列され、その上方には遮水シート8が敷設される。
【0024】
しかし、上述の吸出し現象防止策では遮水シート8が破れやすく、吸出し現象の防止が充分でない。そこで、本発明では遮水シート8上に、図6で詳述する多連注入システム11からなる多数の注入管2、2・・・2を配列し、これら注入管2、2・・・2を通して本発明にかかる可塑性注入材を圧入して破損した遮水シート8上の空隙や粗な地盤に密度の増加された周辺地盤4を形成して吸出し現象を防止する。
【0025】
図6は多連注入システムによる本発明注入工法の説明図である。図6において、A液はフライアッシュ、セメントおよび水からなる必須成分であり、B液は水ガラス等の添加剤である。図6において破線で囲まれた領域Xは注入系統、Yは供給系統である。N1、N2・・・Ni、Nnは注入孔であって、地盤1に複数設けられる。
【0026】
これら注入孔N1、N2・・・Ni、NnはそれぞれバルブV1、V2・・・Vi、Vnを介して、かつ送液管13を通して供給系統Yの注入材貯蔵槽Tと連結され、貯蔵槽Tから注入材が送液管13を通じて各注入孔N1、N2・・・Ni、Nnに注入される。
【0027】
送液管13には注入ポンプPが配置され、かつ、バルブV1、V2・・・Vi、Vnは注入ポンプPよりも下流であって、注入孔Nと送液管13との間にそれぞれ配設される。そして、貯蔵槽T中の注入材は注入ポンプPの作動およびバルブVの開閉管理により送液管13を通して所望の単一または複数の注入孔Nに選択的に、かつ連続的に注入される。前述のバルブVは例えば、電磁バルブ、エアバルブ等である。なお、後述のように、本発明では、注入材を複数の注入孔の任意の注入深度(土層)において、バルブVの開閉管理により各土層毎に連続的に注入することも可能である。
【0028】
送液管13は図6に示されるように二本有する。これら送液管13、13はバルブVを介して各注入孔Nに連絡される。このうち、一本の送液管13はフライアッシュ等の必須成分(A液)を装填した貯蔵タンクTAと連結され、他の一本の送液管13は水ガラス等の添加剤(B液)を装填した貯蔵タンクTBと連結され、それぞれの送液管13、13に配設された注入ポンプPA、PBの作動により、A液である必須成分およびB液である添加剤をそれぞれの送液管13、13を通し、かつ各バルブVを通して各注入孔Nに導入し、ここで両液を合流して可塑性注入材とし、地盤中に圧入する。上述の図6のシステムでは、バルブの開閉管理により所定の注入孔に選択的に、あるいは連続的に可塑注入材を地盤1中に圧入できる。
【0029】
なお、図6の供給系統Yはさらに、注入ポンプPと注入孔Nとの間、あるいは注入ポンプPA、PBと注入孔Nとの間の送液管13、13に流量計、タイマー等の流量測定装置F、あるいはFA、FBを配設してもよい。
【0030】
さらに、本発明注入工法において、図6に示されるとおり、コントローラ14を設置することもでき、このコントローラ14と各バルブVがそれぞれ連絡され、コントローラ14からの指示によりバルブVの開閉を管理して注入孔Nの選定管理を行う。さらに、コントローラ14と注入ポンプPないしはPA、PBが連絡され、コントローラ14からの指示により注入ポンプPないしはPA、PBの作動を管理して注入材の送液管理を行ってもよい。さらにまた、必要に応じてコントローラ14と流量測定装置FないしはFA、FBが連絡され、流量測定装置FないしはFA、FBからの注入材の流量測定情報をコントローラ14に伝達して流量管理を行い、所定量の注入が行われた後にコントローラ14からの指示によりバルブを閉束すると同時に、他の注入孔のバルブを開き、次の注入孔への注入に連続的に移向せしめることもできる。
【0031】
さらに、本発明は地盤沈下の状態、すなわち、地盤の変位状態を図示しない変位測定装置で計測し、この変位の情報を図6に示されるようにコントローラ14に伝達して変位管理する。すなわち、コントローラ14には、注入系統Xからの注入状況の情報と、図示しない変位測定装置からの変位状況の情報とが伝達され、これら情報にもとづいて注入すべき注入孔を選定し、注入を行う。
【0032】
さらにまた、本発明では、図6に示されるように、各注入孔Nに図示しないがそれぞれ注入管が挿入され、これら注入管はそれぞれ、送液管13、13を介して注入材貯蔵槽TないしはTA、TBと連結される。しかも、これら注入管にはそれぞれ注入管引上機構D1、D2・・・Di、Dnが備えられ、これら注入管引上機構Dをそれぞれコントローラ14つないで、このコントローラ14からの指示により各注入管の引上管理を行うこともできる。
【0033】
具体的には、まず、所定の注入孔に所定量の注入材が注入されると、バルブが閉束してその注入孔への注入が停止される。次いで、この停止時点に先行し所定の注入孔の注入管が所定深度に引き上げられ、かつバルブが開いて、この注入孔に注入材が連続的に注入され、このような工程が連続して繰り返される。このような連続工程をあらかじめコントローラ14に入力しておけば、大規模な工事の際に、注入材を自動的に、かつ連続的に、ほとんど無人で注入することが可能になる。このような多連注入システムの他に複数の注入管または複数の注入ポイントに同時に注入できる注入方式を用いることもできる。このような方式によれば、一本の注入管または一つの注入ポイントから多量の注入量を続けて注入すると、地盤を破壊して所定外に注入物が逸脱してしまうが、地盤を圧縮するに必要な所定注入量を少量づつ分けて繰り返して注入したり、あるいは別の注入ポイントや別の注入管に変換してから再度戻ってきて注入を繰り返せば、その間に先に注入した注入物は脱水して注入物の残留圧力が低下しているため、再度低圧で注入して固結物を拡大することができる。また、隣接する注入管または注入ポイントによる固結体間の拘束効果によって、地盤の圧縮強化が向上する。これらは同時注入方式、インターバル注入方式、多連注入方式の効果であって、図1〜図6の注入目的に全て適用できる。
【0034】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に記述するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
フライアッシュ−セメント−水系可塑性グラウト
使用材料
(1)フライアッシュ
火力発電所より排出される石炭灰:FA
(2)セメント
普通ポルトランドセメント:PC、硬化発現剤
(3)硫酸バンド
硫酸アルミニウム、硬化促進剤
【0036】
配合例1〜3
フライアッシュ、セメント、水を練り混ぜる。フライアッシュとセメントの配合量は同じくして、水の配合量のみ変化させた。このようにして得られた配合例1〜3の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
また、例えば配合例3のゲル化物を可塑状保持時間内で上下にポーラスストーンを設けた直径5cm、高さ15cmのモールド中に充填して0.1MN/m2で1時間加圧しつづけるとほぼ20%脱水し、同条件で0.5MN/m2で加圧しつづけるとほぼ40%脱水する。
【0039】
さらに、水粉体比が30%より少なくなると、配合後の粘性がきわめて高くポンプ注入管内の流動性や作業性が困難になる。表1より水粉体比が少なくなるにつれゲルタイムが短く可塑状保持時間が短くブリージング率が小さく粘性が高く強度が大きくなることがわかる。
【0040】
配合例3は地上ではゲルタイムが長く、可塑状保持時間も長く、可塑状になるまでの時間が長く、1日後も固結強度は得られないが、地中に0.1MN/m2以上の注入圧で注入すれば20%以上が脱水される。圧力を高めて0.5MN/m2で圧入すると、脱水率はほぼ40%になる。すなわち、脱水率が増大するにつれ、配合例3→配合例2(脱水率ほぼ20%)→配合例1(脱水率ほぼ40%)に移行し、1日後には固結強度が得られることがわかる。これらの実験結果より、水粉体比は30〜70%が適切であることがわかった。また、脱水によってブリ−ジング率が小さくなり、空隙に填充されたゲルはそのままにしておいても沈殿せずにほぼ全体が固化することがわかる。ブリ−ジング率5%以内、好ましくは1%以内である。
【0041】
配合例2、4〜6
フライアッシュ、セメント、水を練り混ぜる。粉体と水の配合量は同じで、粉体中のフライアッシュとセメントの配合比率を変化させた。このようにして得られた配合例2、4〜6の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2より、PC添加量が50%よりも大きくなると可塑状保持時間が短くなって、ブリージング率が大きくなり、可塑状になるまでの時間が短くなり、初期粘性が8000以上になって流動性も作業性も低下する。すなわち、可塑状グラウトとしての特性が低下する。したがって、PC添加量は50%より少なく、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下にすることによって可塑状保持時間が長く、ブリージング率も低く、初期粘性も低く、流動性も作業性もよいことがわかる。
【0044】
配合例2、7〜9
フライアッシュ、セメント、水を練り混ぜる。また、配合7、9はゲル化促進剤として硫酸バンドを添加した。このようにして得られた配合例2、7〜9の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
表3より、硫酸バンドを加えることによりゲルタイムは短縮されるが、可塑状保持時間はそれ程短縮されず、また、ブリージング率も減少し、可塑状グラウトとしての流動性と作業性が得られることがわかる。
【0047】
〔フライアッシュ・セメントグラウトの可塑状グラウトとしての要因とその条件〕
以下に表1〜3にさらに実験結果を加えながら本発明の特性をまとめて記載する。
【0048】
(1)PC添加量
グラウトに含まれる粉体、つまり石炭灰、セメントに対するセメントの含有量:(セメント重量/フライアッシュ重量+セメント重量)×100(%)
セメントは硬化発現剤であり、かつ、フライアッシュの可塑剤でもある。フライアッシュ単独ではゲル化せず可塑性グラウトにはならないが、セメントを混ぜることによりポラゾン反応を起こし固結強度を得る。しかし、PC添加量が多くなるにつれ可塑状グラウトとしての特性が低下する。その範囲は硫酸バンド(ゲル化促進剤)を添加しない場合、2〜50%、好ましくは2〜20%、さらに好ましくは2〜10%である。また、硫酸バンドを添加する場合は2〜10%が好ましい。
【0049】
以上のとおり、本発明は注入材を地盤中に注入し、脱水を伴いながら地盤中で可塑状態で経過し、軟弱地盤を押し拡げながら固化して固結体を形成し、かつ周辺密度を高めて地盤強化するという原理に基づき、初期に低圧からスタートして段階的に圧力を高める。ここで段階的に圧力を高めるとは直線的に圧力を高めていく場合も含めるものとする。脱水を伴いながら可塑状態を地盤中に形成しやすくし、かつ、圧力を緩和しながら地盤の亀裂破壊を防ぎ、注入量を増大して固結径を拡大し、あるいは間欠的に加圧を繰り返す。すなわち、圧力を高めて圧入し、地盤を亀裂破壊する前に加圧を中断してゲル中の圧力を抜き、次いで加圧を繰り返して可塑ゲルで亀裂破壊することを最小限に防ぎながら固結径を拡大する。
【0050】
(2)水粉体比
グラウト中の粉体に対する水の含有量:(水重量/フライアッシュ重量+セメント重量)×100(%)
この値が小さいと可塑状になりやすいが、施工性を考えると30〜130%、好ましくは30〜70%、さらに好ましくは35〜50%が適している。これ以下の場合、材料の練り混ぜが難しく、これ以上の場合、グラウトが可塑状となるまで時間を要するため、ブリージング率が大きくなる。また、この範囲内で添加剤の種類の選定、添加量の選定を行うことにより所定の可塑状態を経て固結する可塑性注入材を得ることができる。
【0051】
(3)硫酸バンド添加量
グラウト中の粉体に対する硫酸バンドの添加量:(硫酸バンド添加量/フライアッシュ重量+セメント重量)×100(%)
硫酸バンドはゲル化促進剤であり、フライアッシュとセメントの流動性のあるモルタルに添加すると急速にゲル化してすぐに可塑状とすることができる。ただし、添加量が多いと
長期強度の発現性が低下する傾向がある。添加量は0.1〜1.0%とする。
【0052】
(4)ゲルタイム
ここでは一般的な水ガラス系グラウトにみられるような固化状となる化学的ゲル化を意味するのではなく、配合後、自重による流動性がなくなり、可塑状となるまでの物理的ゲル化時間をゲルタイムと表現する。一般の水ガラスを主材とするグラウトと違って、はっきりしたゲル化時間は示すことはできない。よって、フロー値を用いてその値が19以下になった時をゲル化したとみなし、これをゲルタイムとした。図7に表1、2における水粉体比とゲルタイムの関係を示す。
【0053】
(5)可塑状保持時間
アスファルト針入度試験法JIS K 2530−1961に準じて総質量230g、先端角度15度、36mmの貫入コーンを用いて静的貫入抵抗を測定し、ゲル化より貫入抵抗値が0.01MN/m2を越えるまでの所要時間を可塑状保持時間とした。図8に表1、2における水粉体比と可塑状保持時間の関係を示す。
【0054】
(6)ブリージング率
配合後、充分に混合させ、次いで、500mlのメスシリンダに入れて静止密閉し1時間経過後のブリージング水量(上ずみ液)を測定し、次式よりブリージング率を求める。
(ブリージング水量/メスシリンダ容量)×100(%)
ブリージング率としては5%以内が好ましい。ここでは1時間経過後のブリージング率を示すが、1時間経過後のブリージング率が5%以上の配合では時間が経過するとさらにブリージング率が大きくなる。配合1時間後のブリージング率が5%以内の配合液を配合後1時間以内で注入することが好ましい。この場合、注入圧により地盤中で脱水し、ブリージング率が低下してブリージング率1%以内の可塑状グラウトとなる。配合後の注入開始時間は1時間以内が好ましい。図9に表1、2における水粉体比と1時間経過後のブリージング率の関係を示す。
【0055】
(7)初期粘性
配合直後の配合液の粘度を計測した。図10に表1、2における水粉体比と粘度の関係を示す。
【0056】
(8)フロー値
フロー試験(JIS R 5201)に基づき、グラウトに15秒間に15回の落下運動を与え、その広がりを測定した。可塑状グラウトとしては約18〜19cmが適しているとされている。また、表における×はグラウトにまだ流動性があり、フローコーンを取ると自立せず流れ出てしまうため正確な測定が行えないことを示す。本発明ではフローが19cmになる時点で自重による流動性がなくなったものとし、ゲルタイムとした。
【0057】
(9)一軸圧縮強度
配合後よく練り混ぜたグラウトを直径5cm、高さ10cmのモールドにつめ、静止した状態で1日養生し、一軸圧縮強度を測定した。また、表における×はグラウトが固結していないため測定が行えないことを示す。
【0058】
図11に表2の配合におけるPC添加量と配合より1日経過した一軸圧縮強度の関係を示す。また、図12に表3における硫酸バンドの添加の有無による強度発現の違いを示す。これは上記同様、配合より1日経過した一軸圧縮強度である。硫酸バンド添加量は0.5%である。
【0059】
以下にフライアッシュ・セメント系に水ガラス、消石灰、石膏、ベントナイト、スラグ、起泡剤、アルミニウム粉末の一種または複材種を加えた例を記載する。
【0060】
配合例10〜13
水ガラスで水で希釈し、これにフライアッシュ、セメント、消石灰、水を混合した懸濁液を混合する。このようにして得られた配合例9〜12の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
配合例14〜16
実施例1ではフライアッシュにセメントを添加したが、同様に消石灰、または石膏についても行った。その配合例16〜18の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
配合例14、17
実施例1ではフライアッシュにセメントを添加したが、セメントだけでなくベントナイトも添加した。その配合例17と比較のため上記のセメントのみの配合例14の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表6に示す。
【0065】
【表6】
【0066】
配合例12、18
実施例2では水ガラスの希釈液に混ぜる懸濁液としてフライアッシュ、セメント、消石灰を用いたが、セメントと同様にスラグについても配合を行った。その配合例18と比較のため実施例2における配合例12の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表7に示す。
【0067】
【表7】
【0068】
配合例19〜21
エア発生剤として事前発泡型の起泡剤と事後発泡型のアルミニウム粉末をフライアッシュとセメントのモルタルに混合した。起泡剤を用いた配合としては一般的なエア−ミルクの配合にフライアッシュを添加するものとした。アルミニウム粉末も比較のため同様とした。起泡剤、アルミニウム粉末はともに標準添加量を添加した。その配合例19〜21の
地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表8、9に示す。起泡剤としては特殊たん白質加水分解物(商品名エスコートK)を用いた。起泡剤またはアルミニウム粉末を用いることにより、起泡剤を用いなければ単位体積重量1.5〜1.7g/cm3の固形物が0.5〜1.0g/cm3の重量に軽量化され、老巧トンネルの裏込材や空隙填充材として負荷の少ない固形物を形成する。
【0069】
【表8】
【0070】
【表9】
【0071】
(1)消石灰添加量
グラウト中の粉体に対する消石灰の添加量:(消石灰添加量/フライアッシュ重量+セメント重量)×100(%)
消石灰はゲル化促進剤であり、セメントと同様フライアッシュと混ぜるポラゾン反応を起こす。ただしセメントほど固結強度は得られない。ここでは可塑状とするため、またその保持時間を有するためのゲル化促進剤として用いた。その範囲はセメント添加量にもよるが3〜15%とする。
【0072】
(2)シリカ濃度
グラウト中のSiO2%量×(水ガラス重量/グラウト容量)(wt/vol%)
グラウトを可塑状、および固結させるためには、3号水ガラス以上のモル比の水ガラスを用いる場合、シリカ濃度は1.6〜3.5%で充分である。またそれ以下の低モル比水ガラスを用いる場合は3.5〜7.5%が好ましい。すなわち、水ガラスに使用量は1.6〜7.5%が好ましい。
【0073】
(3)ゲルタイム
ここでは一般的な化学的ゲル化ではなく、流動性がなくなり可塑状となる物理的ゲル化をゲル化とする。測定法はカップ倒立法により水ガラスを希釈したA液(130ml)、懸濁型のB液(270ml)をそれぞれ別のビーカーに計量し、B液をA液が入っているビーカーに(多い量を少ない量の方へ)投入し、直ちにA、B混合液をB液のビーカーに入れる。これを速やかに繰り返して流動しなくなる時点をゲル化時間とした。ただし、これはゲル化時間が20秒程度のものにおける測定法で、配合例9、10はおよそのゲルタイムの目安とする。ここにおけるゲル化は一般注入のゲルタイムは一度ゲルを壊すと再ゲル化しないのに対して、一度ゲル化したものを攪拌すれば可塑状保持時間内では力を加えれば流動するという性質を呈する。
【0074】
(4)可塑状保持時間
アスファルト針入度試験法JIS K 2530−1961に準じて総質量230g、先端角度15度、36mmの貫入コーンを用いて静的貫入抵抗を測定し、ゲル化より貫入抵抗値が0.01MN/m2を越えるまでの所要時間とした。
【0075】
(5)ブリージング率
配合後充分に混合させた後、500mlのメスシリンダに入れて静止密閉し、1時間経過後のブリージング水量(上ずみ液)を測定し次式よりブリージング率を求める。
(ブリージング水量/メスシリンダ容量)×100(%)
【0076】
(6)フロー値の測定
フロー試験JIS R5201に基づき、配合5分、30分経過後にグラウトに15秒間に15回の落下運動を与え、その広がりを測定した。可塑状グラウトとしては約18〜19cmが適しているとされている。表における×はグラウトにまだ流動性がありフローコーンを取ると自立せず流れ出てしまうため正確な測定が行えないことを示す。
【0077】
(7)一軸圧縮強度
グラウトを直径5cm、高さ10cmのモールドにつめ、配合より一定時間経過後に一軸圧縮強度を測定し早期強度の発現をみた。
【0078】
(8)添加量
実施例1におけるPC添加量に相当する。グラウトに含まれる粉体に対するセメント、消石灰、石膏の含有量を示す。ただし比較のため消石灰、石膏もセメントと同様粉体とみなす。
(セメント、消石灰、石膏重量/フライアッシュ重量+セメント、消石灰、石膏重量)×100(%)
【0079】
(9)ベントナイト添加量
グラウト中に含まれる粉体(ベントナイトも含む)に対するベントナイトの含有量:(ベントナイト重量/フライアッシュ重量+セメント重量+ベントナイト重量)×100(%)
【0080】
(10)PC・スラグ添加量
実施例2におけるPC添加量に相当する。グラウトに含まれる粉体に対するセメント、スラグの含有量を示す。ただし比較のためスラグもセメントと同様粉体とみなした。
(セメント、スラグ重量/フライアッシュ重量+セメント、スラグ重量)×100(%)
【0081】
(11)起泡剤添加量
グラウト中に含まれるセメントに対する起泡剤の含有量:(起泡剤重量/セメント重量)×100(%)
起泡剤添加量は対セメント重量比により規定されている。使用した起泡剤の標準添加量は0.5〜1.5%(対セメント重量比)であった。よって、その範囲に従うこととする。
【0082】
(12)アルミニウム粉末添加量
グラウト中に含まれる粉末に対するアルミニウム粉末の含有量:(アルミニウム粉末重量/フライアッシュ重量+セメント重量)×100(%)
アルミニウム粉末はセメント等のアルカリに反応して水素ガス(起泡)を発生する。ただしフライアッシュにもアルカリが含まれるため、アルミニウム粉末添加量はセメントとフライアッシュの総量と対するものとする。対セメント比でこの添加量を決定すると、配合時に気泡の発生量がきわめて少なく、エア発生剤としての効果を発揮しない。よって使用したアルミニウム粉末はその標準添加量が0.01%(対セメント比)だったので、ここではアルミニウム粉末添加量0.01%(対フライアッシュ+セメント比)とした。
【0083】
配合例10〜13
この配合の特徴としてゲルタイムの調整がしやすく、また可塑状保持時間はやや短いが早期強度の発現は顕著であることが挙げられる。よって早期強度の発現を重要視する場合に適している。またグラウトをゲル化後よく練り混ぜることによって、早期強度の発現は低下するが、可塑状保持時間を長くすることができる。よって、ゲル化後よく練り混ぜたものを注入することにより、長時間の注入を要する目的やインターバル注入により、一度注入したポイントに再度注入を繰り返して、注入体を拡大する地盤改良に適している。また、この水ガラスを用いた配合ではシリカ濃度や材料の添加量、または注入方法により広範囲にわたる空洞充填に利用できると考える。このようなインターバル注入や繰り返し注入は前述のフライアッシュ−セメント(一硫酸バンド)系に適しているのは勿論である。
【0084】
配合例14〜16
消石灰はセメントと同様にフライアッシュに添加するとポラゾン反応を起こすが、この反応は非常に緩慢であり可塑状にはなるが固結にいたるまで数日かかる。また充分な固結強度を得るためには数週間以上かかるため早期強度の発現が見込めない。
石膏は反応が早いため早期強度の発現性には優れているが可塑状保持時間が極めて短くなるため適用範囲が限られる。よってこの配合ではセメントが適していると考える。
【0085】
配合例17
フライアッシュに(セメント+ベントナイト)を添加したものは、同量のセメントのみを用いたときと比較すると若干反応が遅くなるものの、可塑状固結(可塑状保持時間)として大差はなかった。しかし、ベントナイトを添加することでセメントの添加量を減らすと固結強度が低下するので、PC添加量は実施例1と同様に3%以上として、ベントナイトは増粘剤として用いることによって流動性を調整することができる。
【0086】
配合例18
消石灰の存在下では、セメントとスラグを比較するとセメントの方が早期強度の発現に優れている。しかし、スラグはそれ単独ではフライアッシュと反応しない。スラグはセメントまたは消石灰の存在のもとにポラゾン化反応するので、セメントの代わりにはなりえない。セメントの一部をスラグに置き換えることによって、早期強度をあまり重要しない場合、また強度よりも可塑状保持時間を長く必要とする場合、スラグは有効である。
【0087】
配合例19〜21
エア発生剤を用いた可塑状グラウトは前述までの可塑状グラウトの性状が異なり、グラウトの中に気泡を多量に混入させることでグラウトの流動性を失わせるため、比重がかなり小さいグラウトとなる。起泡剤は事前発泡型であり、配合時にエアを混入するためゲルタイムでいうと瞬結となる。また事後発泡型であるアルミニウムはアルカリと反応することで水素ガスを発生し、グラウトを膨張させる。その反応は配合より約10〜100分をかけて起こるため、ゲルタイムもその間となる。セメントの添加量が少ないと固結強度が低くなるのでPC添加亜量は7%以上が好ましい。
【実施例2】
【0088】
使用材料
(1)水ガラス
JIS3号水ガラス(SiO2=29.0%、Na2O=9.0%、モル比3.3)、硬化剤
(2)硫酸
62.5%硫酸、工業用
(3)重曹
炭酸水素ナトリウム;硬化剤
【0089】
配合例22、23
水ガラスと硫酸を用いてpH1〜2のシリカゾルを作製し、フライアッシュ、セメント、重曹、水の懸濁液と混合する。このようにして得られた配合例22、23の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表10に示す。
【0090】
【表10】
【0091】
(1)重曹添加量
グラウト中の粉体に対する重曹の添加量:(重曹添加量/フライアッシュ重量+セメント重量)×100(%)
重曹は硬化剤であるが、添加し過ぎると逆に硬化しにくくなるので配合範囲は0.1〜2.0%とする。
【0092】
(2)シリカ濃度
グラウト中のSiO2量:水ガラスのSiO2%×(水ガラス重量/グラウト容量)(wt/vol%)
グラウトを可塑状、および固結させるためにはシリカ濃度は0.5〜5.0%で充分である。
【0093】
(3)特性と利用
この配合の特徴としてゲル化時間が短く、可塑状保持時間も短く、早期強度の発現がきわめて大きいことがあげられる。こため、空洞外への逸走はないが流動性にやや低い傾向がある。よって河川、海岸、埋め立て等における護岸の吸出し防止用として、また空洞充填において開口部のある場合、あるいは持ち上げなど早期強度をいち早く必要とする復元注入に適している。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明はフライアッシュと、セメントと、水とを有効成分とし、必要に応じて他の特定の成分をも有効成分とし、セメント比、水粉体比、その他の有効成分比を特定の範囲に定めた配合液とすることにより、地盤中に注入した配合液がゲル状になったとき、そのままでは流動しないが外力が作用すると流動する可塑状態を経て固結する可塑性固結材を地盤に圧入して土粒子を周辺に押しやり、地盤強化を図りながら固結する。
【0095】
すなわち、本発明は各種有効成分を特定の配合比率で配合し、種々の目的に応じた流動性、固結特性を呈するようにしたから、種々の目的に応じた可塑性固結材を地盤に注入し得、産業上の利用性が非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明にかかる可塑性注入材を地盤に圧入し、地盤を強化する注入原理を表した模式図である。
【図2】本発明にかかる可塑性注入材を建造物下の液状化防止に利用した例の模式図である。
【図3】液状化防止の他の例の模式図である。
【図4】本発明にかかる可塑性注入材を用い、沈下した建造物やその周辺地盤を復元する例の模式図である。
【図5】本発明にかかる可塑性注入材を護岸背面の土砂の吸出し現象防止に用いた例の模式図である。
【図6】多連注入システムによる本発明注入工法の説明図である。
【図7】PC添加量別の水粉体比とゲルタイムの関係を表したグラフである。
【図8】PC添加量別の水粉体比と可塑状保持時間の関係を表したグラフである。
【図9】PC添加量別の水粉体比とブリ−ジング率の関係を表したグラフである。
【図10】PC添加量別の水粉体比と初期粘度の関係を表したグラフである。
【図11】水粉体比42.15%におけるPC添加量と強度との関係を表したグラフである。
【図12】硫酸バンドと添加の有無による強度発現の違いを表したグラフである。
【符号の説明】
【0097】
1 地盤
2 注入管
3 グラウトパイル
4 周辺地盤
5 建造物
6 支持層
7 護岸ブロック
8 遮水シート
9 捨て石
10 水
11 多連注入システム
12 土砂
13 送液管
14 コントローラ
【技術分野】
【0001】
本発明はフライアッシュと、セメントと、水とを有効成分とし、これらを特定比率で配合して可塑状態を経て固結し得る可塑性の注入材とし、この注入材を地盤中に圧入して土粒子を周辺に押しやり、地盤強化を図りながら固結する可塑性注入材を用いた地盤注入工法に関する。特に、本発明は火力発電で副成される産業廃棄物としてのフライアッシュの有効利用に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
可塑性を呈する注入材(グラウト)とは注入管を通して地盤中に注入されたグラウトがゲル状になったときに外力を加えなければ流動性を失うが、外力を加えると流動性を持つグラウトであって、この種の可塑性グラウトとして従来、セメントベントナイト、あるいはさらに少量の水ガラスやスラグを添加したもの、スラグに消石灰、ベントナイト、水ガラス等を添加したもの、等が知られている。(特開2003−105745号公報参照)さらに、従来、フライアッシュとセメントの混合物を掘削地盤に投入して止水層を形成することも知られている。
【0003】
しかし、上述公知の可塑性グラウトは漠然と可塑特性を呈するというだけで、地盤中に注入して注入目的に応じた可塑性グラウトとして特定の流動特性と固結性を具体的に明確化したものではなく、したがって、特定の目的に応じた利用が不可能であり、実用性に欠けるものであった。
【特許文献1】特開2003−105745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の課題は産業副生品としてのフライアッシュを主成分とする各種有効成分を特定の配合比率で配合し、地盤注入における特殊な条件下で種々の目的に応じた流動特性、固結特性を呈するようにし、上述の公知技術に存する欠点を改良した地盤注入工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
さらに、上述の課題を解決するため、本発明の地盤注入工法によれば、フライアッシュ(F)と、セメント(C)と、水(W)とを有効成分とし、セメント比を50重量パーセント以下、および水粉体比を30〜130重量パーセントの配合液として地盤に圧入することにより、地盤中で配合液がゲル状になったときに、そのままでは流動しないが外力が作用すると流動する所望の可塑状態を経て固結する可塑性注入材を地盤中に圧入して土粒子を周辺に押しやり、地盤強化を図りながら固結することを特徴とする。ただし、セメント比=(C/F+C)×100であり、水粉体比=(W/F+C)×100であり、F、C、Wはいずれも重量を表す。
【発明の効果】
【0006】
本発明は上述のとおり、フライアッシュと、セメントと、水とを有効成分とし、必要に応じてベントナイト、アルミニウム塩、水ガラス、消石灰、重炭酸塩や炭酸塩、シリカゾル、石こう、スラグ等を併用し、これらを特定の配合比率で配合するようにしたから、種々の目的に応じた流動特性、固結特性を呈する所望の可塑性注入材を得、この注入材を地盤中に圧入して土粒子を周辺に押しやり、地盤強化を図りながら地盤を強固に固結することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は上述のとおり、フライアッシュ(F)、セメント(C)、水(W)を有効成分とし、セメント比を50重量%以下、好ましくは2〜20重量%、および水粉体比を30〜130重量%、好ましくは30〜70重量%の配合液とする。ここで、セメント比とは(C/F+C)×100であり、また、水粉体比とは(W/F+C)×100であり、F、C、Wはそれぞれ重量である。
【0008】
これによって、本発明にかかる上述配合液は可塑性グルウトとして地盤に注入してゲル状になったときに、そのままでは流動しないが外力が作用すると流動する所望の可塑状態を経て固結する。
【0009】
さらに、本発明は有効成分として、上述のフライアッシュ、セメントおよび水に加えてベントナイト(B)を含むこともできる。この場合、セメント比を2〜20重量%、水粉体比を30〜70重量%、ベントナイト比を0.1〜5.0重量%の配合液とする。ここで、ベントナイト比とは(B/F+C)×100である。Bは重量を表す。
【0010】
さらにまた、本発明は有効成分としてフライアッシュ、セメントおよび水、必要に応じてベントナイトに加えて硫酸アルミニウム塩等のアルミニウム塩(A)を含むこともできる。この場合、セメント比を3〜20重量%、水粉体比を30〜70重量%およびアルミニウム比を0.1〜1.0重量%の配合液とする。ここで、アルミニウム比とは(A/F+C)×100である。Aは重量を表す。
【0011】
さらに、本発明は有効成分として、フライアッシュ、セメント、水、必要に応じてベントナイト、アルミニウム塩に加えて水ガラスを含むことができる。この場合、セメント比を2〜20重量%、水粉体比を50〜130重量%、および水ガラスに起因するシリカ濃度を1.6〜7.5重量%の配合液(あるいは配合液1リットル中に含まれるシリカ量が16〜75g)とする。
【0012】
さらにまた、本発明は有効成分として、フライアッシュ、セメント、水、必要に応じてベントナイト、アルミニウム塩および水ガラスに加えて、消石灰を含むことができる。この場合、消石灰比を1〜15重量%の配合液とする。ここで、消石灰比とは(消石灰重量/F+C)×100である。
【0013】
さらに、本発明は有効成分として、フライアッシュ、セメント、水、必要に応じてベントナイト、アルミニウム塩、水ガラスおよび消石灰に加えて、さらに重炭酸塩または炭酸塩、およびシリカゾルを含むことができる。この場合、セメント比を7〜20重量%、水粉体比を65〜130重量%、重炭酸塩または炭酸塩比を0.1〜2.0重量%およびシリカ濃度を0.7〜7.0重量%の配合液とする。ここで、重炭酸塩比または炭酸塩比とは(重炭酸塩または炭酸塩の重量/F+C)×100である。
【0014】
なお、本発明は上述の各種有効成分に加えて、さらに必要に応じて消石灰、石こう、スラグ、アルミニウム粉末(気泡剤)等の添加物を単独で、または複数種組み合わせて含有させることもできる。特に、本発明において、アルミニウム粉末等の気泡剤を含む注入材は軽量となり、老巧トンネル等の構造物の裏込め材として用いることにより、既存構造物への負荷が少なくなる。
【0015】
上述の本発明にかかる注入工法は地盤中に挿入した注入管を通して、地盤中に圧入し、土粒子を周辺に押しやって地盤強化を図りながら注入固結する。このような可塑性注入材の注入に当たり、初期の注入圧力を低くして先行注入物の脱水を図りながら注入圧力を段階的に高め、あるいは間欠的に加圧しながら注入し、これにより可塑性を呈するゲル化物の土粒子間浸透と地盤の割裂による逸脱を防ぎながら土粒子を周辺に押し広げて地盤の密度を増大させながら固結することが好ましい。しかも、この注入は複数の注入ポイントからの同時注入方式、連続注入方式、インターバル注入方式、またはこれら方式を組み合わせて行われる。さらに、本発明は複数の注入ポイントから注入して注入ポイント間の地盤を拘束し、あるいは複数の注入管を3m以内の間隔で地盤に設置し、注入管間の地盤密度を増大して地盤を固結することもできる。なお、本発明の地盤中への注入に際し、地盤中にドレーン材を設置して地盤中に注入された可塑性注入材の脱水あるいは地盤の脱水を促進しながら注入を行うこともできる。
【0016】
上述のようにして注入される本発明は例えば次の(a)、(b)、(c)または(d)の用途に利用される。
(a)軟弱地盤に圧入して強化する。
(b)トンネル背面、護岸の背面、基礎下または道路下の空洞に充填する。
(c)護岸背面の土砂の吸出し現象を防止する。
(d)沈下した建造物やその周辺地盤を復元する。
【0017】
上述の注入は例えば次の(A)乃至(D)に示す注入管を用いて行われる。
(A)軸方向に複数の吐出口を有する注入管を用いて注入する。
(B)外管に少なくとも一つの袋体パッカを備えた多重管を用い、内管から外管を通し て注入する。
(C)複数の注入液管路を有する多重管ロッドを用いて注入する。
(D)複数の管路を有する注入管を用い、一方の管路からフライアッシュ、セメントお よび水を有効成分とするA液配合液を送液し、他方の管路からその他の成分を含む B液配合液を送液し、A、B液を合流して地盤中に注入する。
【0018】
以下、本発明の注入工法を添付図面を用いてさらに詳述する。
【0019】
図1は本発明にかかる可塑性注入材を地盤中に圧入し、地盤を強化する注入原理を表した模式図である。図1中、1は地盤であって、地盤1中に注入管2、2・・・2を複数本、間隔をあけて挿入する。本発明はこれら注入管2、2・・・2を通して可塑性注入材を地盤中1に圧入してグラウトパイル3を形成する。このとき、粒子は周辺に押しやられて注入管2、2間の地盤1が圧縮され、密度増加された周辺地盤4を形成する。このような周辺地盤4は圧縮され、密度増加されており、強固に固結される。また、図1において、複数の注入管2、2・・・2を3m以内の間隔で設置することにより、グラウトパイル3が互いに拘束効果を発揮し、中間の軟弱地盤が圧縮されて一層密な周辺地盤4が形成される。
【0020】
図2は本発明にかかる可塑性注入材を構造物下の液状化防止に利用した例の模式図である。図2中、5は建物等の建造物である。建造物5下方の地盤1中に注入管2を挿入し、この注入管2を通して本発明にかかる可塑性注入材を圧入し、図1と同様にグラウトパイル3を形成する。このとき、グラウトパイル3、3間の周辺地盤4は圧縮され、密度増加されて強固に固結され、液状化現象が防止される。建造物5は基礎周辺のグラウトパイル3によって支持される。この場合、グラウトパイル3の周辺の砂も蜜になっているので、液状化防止効果に優れる。
【0021】
図3は液状化防止の他の例の模式図であって、図2と同様、建造物5下方の地盤1中に注入管2を垂直に挿入し、この注入管2を通して本発明にかかる可塑性注入材を圧入し、図2と同様にグラウトパイル3を形成する。図3では、さらに、グラウトパイル3、3間の建造物5下方に注入管2を斜め方向に挿入し、あるいは曲線ボーリングによって注入管2を挿入し、この注入管2を通して注入材を浸透注入して建造物5の下方を一層強固に固結して液状化防止する。
【0022】
図4は本発明にかかる可塑性注入材を用い、沈下した建造物やその周辺地盤を復元する例の模式図である。まず、地盤1上の復元すべき建造物5の下方に注入管2を通してセメントや高強度グラウト等を浸透固結させて支持層を形成する。次いで、支持層6の上方であって、建造物5の下方に、注入管2を通して本発明にかかる可塑性注入材を圧入し、圧縮により密度増加された周辺地盤4を形成し、かつ地盤を隆起させて沈下した建造物5を復元する。
【0023】
図5は本発明にかかる可塑性注入材を護岸背面の土砂の吸出し現象防止に用いた例の模式図である。通常の護岸背面の土砂吸出し現象は図5に示されるように防止される。すなわち、図5において、海岸、河川等の水10の岸辺にコンクリート等の護岸ブロック7を建設して岸辺を保護する。護岸ブロック7の背面には通常、土砂12が土盛される。そして、土砂12と水10との接点には土砂12の盛土を吸出し現象から保護するために、捨て石9が配列され、その上方には遮水シート8が敷設される。
【0024】
しかし、上述の吸出し現象防止策では遮水シート8が破れやすく、吸出し現象の防止が充分でない。そこで、本発明では遮水シート8上に、図6で詳述する多連注入システム11からなる多数の注入管2、2・・・2を配列し、これら注入管2、2・・・2を通して本発明にかかる可塑性注入材を圧入して破損した遮水シート8上の空隙や粗な地盤に密度の増加された周辺地盤4を形成して吸出し現象を防止する。
【0025】
図6は多連注入システムによる本発明注入工法の説明図である。図6において、A液はフライアッシュ、セメントおよび水からなる必須成分であり、B液は水ガラス等の添加剤である。図6において破線で囲まれた領域Xは注入系統、Yは供給系統である。N1、N2・・・Ni、Nnは注入孔であって、地盤1に複数設けられる。
【0026】
これら注入孔N1、N2・・・Ni、NnはそれぞれバルブV1、V2・・・Vi、Vnを介して、かつ送液管13を通して供給系統Yの注入材貯蔵槽Tと連結され、貯蔵槽Tから注入材が送液管13を通じて各注入孔N1、N2・・・Ni、Nnに注入される。
【0027】
送液管13には注入ポンプPが配置され、かつ、バルブV1、V2・・・Vi、Vnは注入ポンプPよりも下流であって、注入孔Nと送液管13との間にそれぞれ配設される。そして、貯蔵槽T中の注入材は注入ポンプPの作動およびバルブVの開閉管理により送液管13を通して所望の単一または複数の注入孔Nに選択的に、かつ連続的に注入される。前述のバルブVは例えば、電磁バルブ、エアバルブ等である。なお、後述のように、本発明では、注入材を複数の注入孔の任意の注入深度(土層)において、バルブVの開閉管理により各土層毎に連続的に注入することも可能である。
【0028】
送液管13は図6に示されるように二本有する。これら送液管13、13はバルブVを介して各注入孔Nに連絡される。このうち、一本の送液管13はフライアッシュ等の必須成分(A液)を装填した貯蔵タンクTAと連結され、他の一本の送液管13は水ガラス等の添加剤(B液)を装填した貯蔵タンクTBと連結され、それぞれの送液管13、13に配設された注入ポンプPA、PBの作動により、A液である必須成分およびB液である添加剤をそれぞれの送液管13、13を通し、かつ各バルブVを通して各注入孔Nに導入し、ここで両液を合流して可塑性注入材とし、地盤中に圧入する。上述の図6のシステムでは、バルブの開閉管理により所定の注入孔に選択的に、あるいは連続的に可塑注入材を地盤1中に圧入できる。
【0029】
なお、図6の供給系統Yはさらに、注入ポンプPと注入孔Nとの間、あるいは注入ポンプPA、PBと注入孔Nとの間の送液管13、13に流量計、タイマー等の流量測定装置F、あるいはFA、FBを配設してもよい。
【0030】
さらに、本発明注入工法において、図6に示されるとおり、コントローラ14を設置することもでき、このコントローラ14と各バルブVがそれぞれ連絡され、コントローラ14からの指示によりバルブVの開閉を管理して注入孔Nの選定管理を行う。さらに、コントローラ14と注入ポンプPないしはPA、PBが連絡され、コントローラ14からの指示により注入ポンプPないしはPA、PBの作動を管理して注入材の送液管理を行ってもよい。さらにまた、必要に応じてコントローラ14と流量測定装置FないしはFA、FBが連絡され、流量測定装置FないしはFA、FBからの注入材の流量測定情報をコントローラ14に伝達して流量管理を行い、所定量の注入が行われた後にコントローラ14からの指示によりバルブを閉束すると同時に、他の注入孔のバルブを開き、次の注入孔への注入に連続的に移向せしめることもできる。
【0031】
さらに、本発明は地盤沈下の状態、すなわち、地盤の変位状態を図示しない変位測定装置で計測し、この変位の情報を図6に示されるようにコントローラ14に伝達して変位管理する。すなわち、コントローラ14には、注入系統Xからの注入状況の情報と、図示しない変位測定装置からの変位状況の情報とが伝達され、これら情報にもとづいて注入すべき注入孔を選定し、注入を行う。
【0032】
さらにまた、本発明では、図6に示されるように、各注入孔Nに図示しないがそれぞれ注入管が挿入され、これら注入管はそれぞれ、送液管13、13を介して注入材貯蔵槽TないしはTA、TBと連結される。しかも、これら注入管にはそれぞれ注入管引上機構D1、D2・・・Di、Dnが備えられ、これら注入管引上機構Dをそれぞれコントローラ14つないで、このコントローラ14からの指示により各注入管の引上管理を行うこともできる。
【0033】
具体的には、まず、所定の注入孔に所定量の注入材が注入されると、バルブが閉束してその注入孔への注入が停止される。次いで、この停止時点に先行し所定の注入孔の注入管が所定深度に引き上げられ、かつバルブが開いて、この注入孔に注入材が連続的に注入され、このような工程が連続して繰り返される。このような連続工程をあらかじめコントローラ14に入力しておけば、大規模な工事の際に、注入材を自動的に、かつ連続的に、ほとんど無人で注入することが可能になる。このような多連注入システムの他に複数の注入管または複数の注入ポイントに同時に注入できる注入方式を用いることもできる。このような方式によれば、一本の注入管または一つの注入ポイントから多量の注入量を続けて注入すると、地盤を破壊して所定外に注入物が逸脱してしまうが、地盤を圧縮するに必要な所定注入量を少量づつ分けて繰り返して注入したり、あるいは別の注入ポイントや別の注入管に変換してから再度戻ってきて注入を繰り返せば、その間に先に注入した注入物は脱水して注入物の残留圧力が低下しているため、再度低圧で注入して固結物を拡大することができる。また、隣接する注入管または注入ポイントによる固結体間の拘束効果によって、地盤の圧縮強化が向上する。これらは同時注入方式、インターバル注入方式、多連注入方式の効果であって、図1〜図6の注入目的に全て適用できる。
【0034】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に記述するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
フライアッシュ−セメント−水系可塑性グラウト
使用材料
(1)フライアッシュ
火力発電所より排出される石炭灰:FA
(2)セメント
普通ポルトランドセメント:PC、硬化発現剤
(3)硫酸バンド
硫酸アルミニウム、硬化促進剤
【0036】
配合例1〜3
フライアッシュ、セメント、水を練り混ぜる。フライアッシュとセメントの配合量は同じくして、水の配合量のみ変化させた。このようにして得られた配合例1〜3の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
また、例えば配合例3のゲル化物を可塑状保持時間内で上下にポーラスストーンを設けた直径5cm、高さ15cmのモールド中に充填して0.1MN/m2で1時間加圧しつづけるとほぼ20%脱水し、同条件で0.5MN/m2で加圧しつづけるとほぼ40%脱水する。
【0039】
さらに、水粉体比が30%より少なくなると、配合後の粘性がきわめて高くポンプ注入管内の流動性や作業性が困難になる。表1より水粉体比が少なくなるにつれゲルタイムが短く可塑状保持時間が短くブリージング率が小さく粘性が高く強度が大きくなることがわかる。
【0040】
配合例3は地上ではゲルタイムが長く、可塑状保持時間も長く、可塑状になるまでの時間が長く、1日後も固結強度は得られないが、地中に0.1MN/m2以上の注入圧で注入すれば20%以上が脱水される。圧力を高めて0.5MN/m2で圧入すると、脱水率はほぼ40%になる。すなわち、脱水率が増大するにつれ、配合例3→配合例2(脱水率ほぼ20%)→配合例1(脱水率ほぼ40%)に移行し、1日後には固結強度が得られることがわかる。これらの実験結果より、水粉体比は30〜70%が適切であることがわかった。また、脱水によってブリ−ジング率が小さくなり、空隙に填充されたゲルはそのままにしておいても沈殿せずにほぼ全体が固化することがわかる。ブリ−ジング率5%以内、好ましくは1%以内である。
【0041】
配合例2、4〜6
フライアッシュ、セメント、水を練り混ぜる。粉体と水の配合量は同じで、粉体中のフライアッシュとセメントの配合比率を変化させた。このようにして得られた配合例2、4〜6の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2より、PC添加量が50%よりも大きくなると可塑状保持時間が短くなって、ブリージング率が大きくなり、可塑状になるまでの時間が短くなり、初期粘性が8000以上になって流動性も作業性も低下する。すなわち、可塑状グラウトとしての特性が低下する。したがって、PC添加量は50%より少なく、好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下にすることによって可塑状保持時間が長く、ブリージング率も低く、初期粘性も低く、流動性も作業性もよいことがわかる。
【0044】
配合例2、7〜9
フライアッシュ、セメント、水を練り混ぜる。また、配合7、9はゲル化促進剤として硫酸バンドを添加した。このようにして得られた配合例2、7〜9の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
表3より、硫酸バンドを加えることによりゲルタイムは短縮されるが、可塑状保持時間はそれ程短縮されず、また、ブリージング率も減少し、可塑状グラウトとしての流動性と作業性が得られることがわかる。
【0047】
〔フライアッシュ・セメントグラウトの可塑状グラウトとしての要因とその条件〕
以下に表1〜3にさらに実験結果を加えながら本発明の特性をまとめて記載する。
【0048】
(1)PC添加量
グラウトに含まれる粉体、つまり石炭灰、セメントに対するセメントの含有量:(セメント重量/フライアッシュ重量+セメント重量)×100(%)
セメントは硬化発現剤であり、かつ、フライアッシュの可塑剤でもある。フライアッシュ単独ではゲル化せず可塑性グラウトにはならないが、セメントを混ぜることによりポラゾン反応を起こし固結強度を得る。しかし、PC添加量が多くなるにつれ可塑状グラウトとしての特性が低下する。その範囲は硫酸バンド(ゲル化促進剤)を添加しない場合、2〜50%、好ましくは2〜20%、さらに好ましくは2〜10%である。また、硫酸バンドを添加する場合は2〜10%が好ましい。
【0049】
以上のとおり、本発明は注入材を地盤中に注入し、脱水を伴いながら地盤中で可塑状態で経過し、軟弱地盤を押し拡げながら固化して固結体を形成し、かつ周辺密度を高めて地盤強化するという原理に基づき、初期に低圧からスタートして段階的に圧力を高める。ここで段階的に圧力を高めるとは直線的に圧力を高めていく場合も含めるものとする。脱水を伴いながら可塑状態を地盤中に形成しやすくし、かつ、圧力を緩和しながら地盤の亀裂破壊を防ぎ、注入量を増大して固結径を拡大し、あるいは間欠的に加圧を繰り返す。すなわち、圧力を高めて圧入し、地盤を亀裂破壊する前に加圧を中断してゲル中の圧力を抜き、次いで加圧を繰り返して可塑ゲルで亀裂破壊することを最小限に防ぎながら固結径を拡大する。
【0050】
(2)水粉体比
グラウト中の粉体に対する水の含有量:(水重量/フライアッシュ重量+セメント重量)×100(%)
この値が小さいと可塑状になりやすいが、施工性を考えると30〜130%、好ましくは30〜70%、さらに好ましくは35〜50%が適している。これ以下の場合、材料の練り混ぜが難しく、これ以上の場合、グラウトが可塑状となるまで時間を要するため、ブリージング率が大きくなる。また、この範囲内で添加剤の種類の選定、添加量の選定を行うことにより所定の可塑状態を経て固結する可塑性注入材を得ることができる。
【0051】
(3)硫酸バンド添加量
グラウト中の粉体に対する硫酸バンドの添加量:(硫酸バンド添加量/フライアッシュ重量+セメント重量)×100(%)
硫酸バンドはゲル化促進剤であり、フライアッシュとセメントの流動性のあるモルタルに添加すると急速にゲル化してすぐに可塑状とすることができる。ただし、添加量が多いと
長期強度の発現性が低下する傾向がある。添加量は0.1〜1.0%とする。
【0052】
(4)ゲルタイム
ここでは一般的な水ガラス系グラウトにみられるような固化状となる化学的ゲル化を意味するのではなく、配合後、自重による流動性がなくなり、可塑状となるまでの物理的ゲル化時間をゲルタイムと表現する。一般の水ガラスを主材とするグラウトと違って、はっきりしたゲル化時間は示すことはできない。よって、フロー値を用いてその値が19以下になった時をゲル化したとみなし、これをゲルタイムとした。図7に表1、2における水粉体比とゲルタイムの関係を示す。
【0053】
(5)可塑状保持時間
アスファルト針入度試験法JIS K 2530−1961に準じて総質量230g、先端角度15度、36mmの貫入コーンを用いて静的貫入抵抗を測定し、ゲル化より貫入抵抗値が0.01MN/m2を越えるまでの所要時間を可塑状保持時間とした。図8に表1、2における水粉体比と可塑状保持時間の関係を示す。
【0054】
(6)ブリージング率
配合後、充分に混合させ、次いで、500mlのメスシリンダに入れて静止密閉し1時間経過後のブリージング水量(上ずみ液)を測定し、次式よりブリージング率を求める。
(ブリージング水量/メスシリンダ容量)×100(%)
ブリージング率としては5%以内が好ましい。ここでは1時間経過後のブリージング率を示すが、1時間経過後のブリージング率が5%以上の配合では時間が経過するとさらにブリージング率が大きくなる。配合1時間後のブリージング率が5%以内の配合液を配合後1時間以内で注入することが好ましい。この場合、注入圧により地盤中で脱水し、ブリージング率が低下してブリージング率1%以内の可塑状グラウトとなる。配合後の注入開始時間は1時間以内が好ましい。図9に表1、2における水粉体比と1時間経過後のブリージング率の関係を示す。
【0055】
(7)初期粘性
配合直後の配合液の粘度を計測した。図10に表1、2における水粉体比と粘度の関係を示す。
【0056】
(8)フロー値
フロー試験(JIS R 5201)に基づき、グラウトに15秒間に15回の落下運動を与え、その広がりを測定した。可塑状グラウトとしては約18〜19cmが適しているとされている。また、表における×はグラウトにまだ流動性があり、フローコーンを取ると自立せず流れ出てしまうため正確な測定が行えないことを示す。本発明ではフローが19cmになる時点で自重による流動性がなくなったものとし、ゲルタイムとした。
【0057】
(9)一軸圧縮強度
配合後よく練り混ぜたグラウトを直径5cm、高さ10cmのモールドにつめ、静止した状態で1日養生し、一軸圧縮強度を測定した。また、表における×はグラウトが固結していないため測定が行えないことを示す。
【0058】
図11に表2の配合におけるPC添加量と配合より1日経過した一軸圧縮強度の関係を示す。また、図12に表3における硫酸バンドの添加の有無による強度発現の違いを示す。これは上記同様、配合より1日経過した一軸圧縮強度である。硫酸バンド添加量は0.5%である。
【0059】
以下にフライアッシュ・セメント系に水ガラス、消石灰、石膏、ベントナイト、スラグ、起泡剤、アルミニウム粉末の一種または複材種を加えた例を記載する。
【0060】
配合例10〜13
水ガラスで水で希釈し、これにフライアッシュ、セメント、消石灰、水を混合した懸濁液を混合する。このようにして得られた配合例9〜12の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表4に示す。
【0061】
【表4】
【0062】
配合例14〜16
実施例1ではフライアッシュにセメントを添加したが、同様に消石灰、または石膏についても行った。その配合例16〜18の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
配合例14、17
実施例1ではフライアッシュにセメントを添加したが、セメントだけでなくベントナイトも添加した。その配合例17と比較のため上記のセメントのみの配合例14の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表6に示す。
【0065】
【表6】
【0066】
配合例12、18
実施例2では水ガラスの希釈液に混ぜる懸濁液としてフライアッシュ、セメント、消石灰を用いたが、セメントと同様にスラグについても配合を行った。その配合例18と比較のため実施例2における配合例12の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表7に示す。
【0067】
【表7】
【0068】
配合例19〜21
エア発生剤として事前発泡型の起泡剤と事後発泡型のアルミニウム粉末をフライアッシュとセメントのモルタルに混合した。起泡剤を用いた配合としては一般的なエア−ミルクの配合にフライアッシュを添加するものとした。アルミニウム粉末も比較のため同様とした。起泡剤、アルミニウム粉末はともに標準添加量を添加した。その配合例19〜21の
地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表8、9に示す。起泡剤としては特殊たん白質加水分解物(商品名エスコートK)を用いた。起泡剤またはアルミニウム粉末を用いることにより、起泡剤を用いなければ単位体積重量1.5〜1.7g/cm3の固形物が0.5〜1.0g/cm3の重量に軽量化され、老巧トンネルの裏込材や空隙填充材として負荷の少ない固形物を形成する。
【0069】
【表8】
【0070】
【表9】
【0071】
(1)消石灰添加量
グラウト中の粉体に対する消石灰の添加量:(消石灰添加量/フライアッシュ重量+セメント重量)×100(%)
消石灰はゲル化促進剤であり、セメントと同様フライアッシュと混ぜるポラゾン反応を起こす。ただしセメントほど固結強度は得られない。ここでは可塑状とするため、またその保持時間を有するためのゲル化促進剤として用いた。その範囲はセメント添加量にもよるが3〜15%とする。
【0072】
(2)シリカ濃度
グラウト中のSiO2%量×(水ガラス重量/グラウト容量)(wt/vol%)
グラウトを可塑状、および固結させるためには、3号水ガラス以上のモル比の水ガラスを用いる場合、シリカ濃度は1.6〜3.5%で充分である。またそれ以下の低モル比水ガラスを用いる場合は3.5〜7.5%が好ましい。すなわち、水ガラスに使用量は1.6〜7.5%が好ましい。
【0073】
(3)ゲルタイム
ここでは一般的な化学的ゲル化ではなく、流動性がなくなり可塑状となる物理的ゲル化をゲル化とする。測定法はカップ倒立法により水ガラスを希釈したA液(130ml)、懸濁型のB液(270ml)をそれぞれ別のビーカーに計量し、B液をA液が入っているビーカーに(多い量を少ない量の方へ)投入し、直ちにA、B混合液をB液のビーカーに入れる。これを速やかに繰り返して流動しなくなる時点をゲル化時間とした。ただし、これはゲル化時間が20秒程度のものにおける測定法で、配合例9、10はおよそのゲルタイムの目安とする。ここにおけるゲル化は一般注入のゲルタイムは一度ゲルを壊すと再ゲル化しないのに対して、一度ゲル化したものを攪拌すれば可塑状保持時間内では力を加えれば流動するという性質を呈する。
【0074】
(4)可塑状保持時間
アスファルト針入度試験法JIS K 2530−1961に準じて総質量230g、先端角度15度、36mmの貫入コーンを用いて静的貫入抵抗を測定し、ゲル化より貫入抵抗値が0.01MN/m2を越えるまでの所要時間とした。
【0075】
(5)ブリージング率
配合後充分に混合させた後、500mlのメスシリンダに入れて静止密閉し、1時間経過後のブリージング水量(上ずみ液)を測定し次式よりブリージング率を求める。
(ブリージング水量/メスシリンダ容量)×100(%)
【0076】
(6)フロー値の測定
フロー試験JIS R5201に基づき、配合5分、30分経過後にグラウトに15秒間に15回の落下運動を与え、その広がりを測定した。可塑状グラウトとしては約18〜19cmが適しているとされている。表における×はグラウトにまだ流動性がありフローコーンを取ると自立せず流れ出てしまうため正確な測定が行えないことを示す。
【0077】
(7)一軸圧縮強度
グラウトを直径5cm、高さ10cmのモールドにつめ、配合より一定時間経過後に一軸圧縮強度を測定し早期強度の発現をみた。
【0078】
(8)添加量
実施例1におけるPC添加量に相当する。グラウトに含まれる粉体に対するセメント、消石灰、石膏の含有量を示す。ただし比較のため消石灰、石膏もセメントと同様粉体とみなす。
(セメント、消石灰、石膏重量/フライアッシュ重量+セメント、消石灰、石膏重量)×100(%)
【0079】
(9)ベントナイト添加量
グラウト中に含まれる粉体(ベントナイトも含む)に対するベントナイトの含有量:(ベントナイト重量/フライアッシュ重量+セメント重量+ベントナイト重量)×100(%)
【0080】
(10)PC・スラグ添加量
実施例2におけるPC添加量に相当する。グラウトに含まれる粉体に対するセメント、スラグの含有量を示す。ただし比較のためスラグもセメントと同様粉体とみなした。
(セメント、スラグ重量/フライアッシュ重量+セメント、スラグ重量)×100(%)
【0081】
(11)起泡剤添加量
グラウト中に含まれるセメントに対する起泡剤の含有量:(起泡剤重量/セメント重量)×100(%)
起泡剤添加量は対セメント重量比により規定されている。使用した起泡剤の標準添加量は0.5〜1.5%(対セメント重量比)であった。よって、その範囲に従うこととする。
【0082】
(12)アルミニウム粉末添加量
グラウト中に含まれる粉末に対するアルミニウム粉末の含有量:(アルミニウム粉末重量/フライアッシュ重量+セメント重量)×100(%)
アルミニウム粉末はセメント等のアルカリに反応して水素ガス(起泡)を発生する。ただしフライアッシュにもアルカリが含まれるため、アルミニウム粉末添加量はセメントとフライアッシュの総量と対するものとする。対セメント比でこの添加量を決定すると、配合時に気泡の発生量がきわめて少なく、エア発生剤としての効果を発揮しない。よって使用したアルミニウム粉末はその標準添加量が0.01%(対セメント比)だったので、ここではアルミニウム粉末添加量0.01%(対フライアッシュ+セメント比)とした。
【0083】
配合例10〜13
この配合の特徴としてゲルタイムの調整がしやすく、また可塑状保持時間はやや短いが早期強度の発現は顕著であることが挙げられる。よって早期強度の発現を重要視する場合に適している。またグラウトをゲル化後よく練り混ぜることによって、早期強度の発現は低下するが、可塑状保持時間を長くすることができる。よって、ゲル化後よく練り混ぜたものを注入することにより、長時間の注入を要する目的やインターバル注入により、一度注入したポイントに再度注入を繰り返して、注入体を拡大する地盤改良に適している。また、この水ガラスを用いた配合ではシリカ濃度や材料の添加量、または注入方法により広範囲にわたる空洞充填に利用できると考える。このようなインターバル注入や繰り返し注入は前述のフライアッシュ−セメント(一硫酸バンド)系に適しているのは勿論である。
【0084】
配合例14〜16
消石灰はセメントと同様にフライアッシュに添加するとポラゾン反応を起こすが、この反応は非常に緩慢であり可塑状にはなるが固結にいたるまで数日かかる。また充分な固結強度を得るためには数週間以上かかるため早期強度の発現が見込めない。
石膏は反応が早いため早期強度の発現性には優れているが可塑状保持時間が極めて短くなるため適用範囲が限られる。よってこの配合ではセメントが適していると考える。
【0085】
配合例17
フライアッシュに(セメント+ベントナイト)を添加したものは、同量のセメントのみを用いたときと比較すると若干反応が遅くなるものの、可塑状固結(可塑状保持時間)として大差はなかった。しかし、ベントナイトを添加することでセメントの添加量を減らすと固結強度が低下するので、PC添加量は実施例1と同様に3%以上として、ベントナイトは増粘剤として用いることによって流動性を調整することができる。
【0086】
配合例18
消石灰の存在下では、セメントとスラグを比較するとセメントの方が早期強度の発現に優れている。しかし、スラグはそれ単独ではフライアッシュと反応しない。スラグはセメントまたは消石灰の存在のもとにポラゾン化反応するので、セメントの代わりにはなりえない。セメントの一部をスラグに置き換えることによって、早期強度をあまり重要しない場合、また強度よりも可塑状保持時間を長く必要とする場合、スラグは有効である。
【0087】
配合例19〜21
エア発生剤を用いた可塑状グラウトは前述までの可塑状グラウトの性状が異なり、グラウトの中に気泡を多量に混入させることでグラウトの流動性を失わせるため、比重がかなり小さいグラウトとなる。起泡剤は事前発泡型であり、配合時にエアを混入するためゲルタイムでいうと瞬結となる。また事後発泡型であるアルミニウムはアルカリと反応することで水素ガスを発生し、グラウトを膨張させる。その反応は配合より約10〜100分をかけて起こるため、ゲルタイムもその間となる。セメントの添加量が少ないと固結強度が低くなるのでPC添加亜量は7%以上が好ましい。
【実施例2】
【0088】
使用材料
(1)水ガラス
JIS3号水ガラス(SiO2=29.0%、Na2O=9.0%、モル比3.3)、硬化剤
(2)硫酸
62.5%硫酸、工業用
(3)重曹
炭酸水素ナトリウム;硬化剤
【0089】
配合例22、23
水ガラスと硫酸を用いてpH1〜2のシリカゾルを作製し、フライアッシュ、セメント、重曹、水の懸濁液と混合する。このようにして得られた配合例22、23の地盤注入材の調製条件および物性値を下記の表10に示す。
【0090】
【表10】
【0091】
(1)重曹添加量
グラウト中の粉体に対する重曹の添加量:(重曹添加量/フライアッシュ重量+セメント重量)×100(%)
重曹は硬化剤であるが、添加し過ぎると逆に硬化しにくくなるので配合範囲は0.1〜2.0%とする。
【0092】
(2)シリカ濃度
グラウト中のSiO2量:水ガラスのSiO2%×(水ガラス重量/グラウト容量)(wt/vol%)
グラウトを可塑状、および固結させるためにはシリカ濃度は0.5〜5.0%で充分である。
【0093】
(3)特性と利用
この配合の特徴としてゲル化時間が短く、可塑状保持時間も短く、早期強度の発現がきわめて大きいことがあげられる。こため、空洞外への逸走はないが流動性にやや低い傾向がある。よって河川、海岸、埋め立て等における護岸の吸出し防止用として、また空洞充填において開口部のある場合、あるいは持ち上げなど早期強度をいち早く必要とする復元注入に適している。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明はフライアッシュと、セメントと、水とを有効成分とし、必要に応じて他の特定の成分をも有効成分とし、セメント比、水粉体比、その他の有効成分比を特定の範囲に定めた配合液とすることにより、地盤中に注入した配合液がゲル状になったとき、そのままでは流動しないが外力が作用すると流動する可塑状態を経て固結する可塑性固結材を地盤に圧入して土粒子を周辺に押しやり、地盤強化を図りながら固結する。
【0095】
すなわち、本発明は各種有効成分を特定の配合比率で配合し、種々の目的に応じた流動性、固結特性を呈するようにしたから、種々の目的に応じた可塑性固結材を地盤に注入し得、産業上の利用性が非常に高い。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明にかかる可塑性注入材を地盤に圧入し、地盤を強化する注入原理を表した模式図である。
【図2】本発明にかかる可塑性注入材を建造物下の液状化防止に利用した例の模式図である。
【図3】液状化防止の他の例の模式図である。
【図4】本発明にかかる可塑性注入材を用い、沈下した建造物やその周辺地盤を復元する例の模式図である。
【図5】本発明にかかる可塑性注入材を護岸背面の土砂の吸出し現象防止に用いた例の模式図である。
【図6】多連注入システムによる本発明注入工法の説明図である。
【図7】PC添加量別の水粉体比とゲルタイムの関係を表したグラフである。
【図8】PC添加量別の水粉体比と可塑状保持時間の関係を表したグラフである。
【図9】PC添加量別の水粉体比とブリ−ジング率の関係を表したグラフである。
【図10】PC添加量別の水粉体比と初期粘度の関係を表したグラフである。
【図11】水粉体比42.15%におけるPC添加量と強度との関係を表したグラフである。
【図12】硫酸バンドと添加の有無による強度発現の違いを表したグラフである。
【符号の説明】
【0097】
1 地盤
2 注入管
3 グラウトパイル
4 周辺地盤
5 建造物
6 支持層
7 護岸ブロック
8 遮水シート
9 捨て石
10 水
11 多連注入システム
12 土砂
13 送液管
14 コントローラ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライアッシュ(F)と、セメント(C)と、水(W)とを有効成分とし、セメント比を50重量パーセント以下、および水粉体比を30〜70重量パーセントの配合液として地盤中に圧入することにより、配合液がゲル状になったときに、そのままでは流動しないが外力が作用すると流動する所望の可塑状態を経て固結する可塑性注入材を地盤中に圧入して土粒子を周辺に押しやり、地盤強化を図りながら固結することを特徴とする地盤注入工法。ただし、セメント比=(C/F+C)×100であり、水粉体比=(W/F+C)×100であり、F、C、Wはいずれも重量を表す。
【請求項2】
請求項1において、前記可塑性注入材がさらに有効成分として水ガラスを含み、セメント比を2〜20重量パーセント、水粉体比を50〜130重量パーセント、および水ガラスに起因するシリカ濃度を1.6〜7.5重量パーセントの配合液として地盤中に圧入する請求項1に記載の地盤注入工法。
【請求項3】
請求項1において、前記可塑性注入材がさらに有効成分として重炭酸塩または炭酸塩と、シリカゾルとを含み、セメント比を7〜20重量パーセント、水粉体比を65〜130重量パーセント、重炭酸塩比または炭酸塩比を0.1〜2.0重量パーセントおよびシリカ濃度を0.7〜7.0重量/容量パーセントの配合液として地盤中に圧入する請求項1に記載の地盤注入工法。ただし、重炭酸塩比または炭酸塩比=(重炭酸塩または炭酸塩の重量/F+C)×100である。
【請求項4】
請求項1において、可塑性注入材の注入に当たり、初期の注入圧力を低くして先行注入物の脱水を図りながら注入圧力を段階的に高め、あるいは間欠的に加圧し、これにより可塑性を呈するゲル化物の土粒子間浸透と地盤の割裂による逸脱を防ぎながら土粒子を周辺に押し広げて地盤の密度を増大させながら固結する請求項1に記載の地盤注入工法。
【請求項5】
請求項1において、可塑性注入材の注入に当たり、複数の注入ポイントからの同時注入方式、連続注入方式、インターバル注入方式、またはこれら方式を組み合わせて注入する請求項1に記載の地盤注入工法。
【請求項6】
請求項1において、可塑性注入材の注入は次の(a)、(b)、(c)または(d)のように利用される請求項1に記載の地盤注入工法。
(a)軟弱地盤に圧入して強化する。
(b)トンネル背面、護岸の背面、基礎下または道路下に圧入して強化する。
(c)護岸背面に圧入して強化し、土砂の吸出し現象を防止する。
(d)沈下した建造物やその周辺地盤に圧入して地盤を隆起させて復元する。
【請求項7】
請求項1において、可塑性注入材を複数の注入ポイントから注入して注入ポイント間の地盤を拘束し、地盤密度を増大して地盤を固結する請求項1に記載の地盤注入工法。
【請求項8】
請求項1において、地盤中に3m以内の間隔で複数の注入管を設置し、注入管間の地盤を拘束して地盤密度を高めて地盤を固結するようにした請求項1に記載の地盤注入工法。
【請求項9】
請求項1において、地盤中にドレーン材を設置して地盤中に注入された可塑性注入材の脱水あるいは地盤の脱水を促進する請求項1に記載の地盤注入工法。
【請求項10】
請求項1において、可塑性注入材を次の(A)乃至(D)に示す注入管を用いて地盤中に注入する請求項1に記載の地盤注入工法。
(A)軸方向に複数の吐出口を有する注入管を用いて注入する。
(B)外管に少なくとも一つの袋体パッカを備えた多重管を用い、内管から外管を通して 注入する。
(C)複数の注入液管路を有する多重管ロッドを用いて注入する。
(D)複数の管路を有する注入管を用い、一方の管路からフライアッシュ、セメントおよ び水を有効成分とするA液配合液を送液し、他方の管路からその他の成分を含むB液 配合液を送液し、A、B液を合流して地盤中に注入する。
【請求項1】
フライアッシュ(F)と、セメント(C)と、水(W)とを有効成分とし、セメント比を50重量パーセント以下、および水粉体比を30〜70重量パーセントの配合液として地盤中に圧入することにより、配合液がゲル状になったときに、そのままでは流動しないが外力が作用すると流動する所望の可塑状態を経て固結する可塑性注入材を地盤中に圧入して土粒子を周辺に押しやり、地盤強化を図りながら固結することを特徴とする地盤注入工法。ただし、セメント比=(C/F+C)×100であり、水粉体比=(W/F+C)×100であり、F、C、Wはいずれも重量を表す。
【請求項2】
請求項1において、前記可塑性注入材がさらに有効成分として水ガラスを含み、セメント比を2〜20重量パーセント、水粉体比を50〜130重量パーセント、および水ガラスに起因するシリカ濃度を1.6〜7.5重量パーセントの配合液として地盤中に圧入する請求項1に記載の地盤注入工法。
【請求項3】
請求項1において、前記可塑性注入材がさらに有効成分として重炭酸塩または炭酸塩と、シリカゾルとを含み、セメント比を7〜20重量パーセント、水粉体比を65〜130重量パーセント、重炭酸塩比または炭酸塩比を0.1〜2.0重量パーセントおよびシリカ濃度を0.7〜7.0重量/容量パーセントの配合液として地盤中に圧入する請求項1に記載の地盤注入工法。ただし、重炭酸塩比または炭酸塩比=(重炭酸塩または炭酸塩の重量/F+C)×100である。
【請求項4】
請求項1において、可塑性注入材の注入に当たり、初期の注入圧力を低くして先行注入物の脱水を図りながら注入圧力を段階的に高め、あるいは間欠的に加圧し、これにより可塑性を呈するゲル化物の土粒子間浸透と地盤の割裂による逸脱を防ぎながら土粒子を周辺に押し広げて地盤の密度を増大させながら固結する請求項1に記載の地盤注入工法。
【請求項5】
請求項1において、可塑性注入材の注入に当たり、複数の注入ポイントからの同時注入方式、連続注入方式、インターバル注入方式、またはこれら方式を組み合わせて注入する請求項1に記載の地盤注入工法。
【請求項6】
請求項1において、可塑性注入材の注入は次の(a)、(b)、(c)または(d)のように利用される請求項1に記載の地盤注入工法。
(a)軟弱地盤に圧入して強化する。
(b)トンネル背面、護岸の背面、基礎下または道路下に圧入して強化する。
(c)護岸背面に圧入して強化し、土砂の吸出し現象を防止する。
(d)沈下した建造物やその周辺地盤に圧入して地盤を隆起させて復元する。
【請求項7】
請求項1において、可塑性注入材を複数の注入ポイントから注入して注入ポイント間の地盤を拘束し、地盤密度を増大して地盤を固結する請求項1に記載の地盤注入工法。
【請求項8】
請求項1において、地盤中に3m以内の間隔で複数の注入管を設置し、注入管間の地盤を拘束して地盤密度を高めて地盤を固結するようにした請求項1に記載の地盤注入工法。
【請求項9】
請求項1において、地盤中にドレーン材を設置して地盤中に注入された可塑性注入材の脱水あるいは地盤の脱水を促進する請求項1に記載の地盤注入工法。
【請求項10】
請求項1において、可塑性注入材を次の(A)乃至(D)に示す注入管を用いて地盤中に注入する請求項1に記載の地盤注入工法。
(A)軸方向に複数の吐出口を有する注入管を用いて注入する。
(B)外管に少なくとも一つの袋体パッカを備えた多重管を用い、内管から外管を通して 注入する。
(C)複数の注入液管路を有する多重管ロッドを用いて注入する。
(D)複数の管路を有する注入管を用い、一方の管路からフライアッシュ、セメントおよ び水を有効成分とするA液配合液を送液し、他方の管路からその他の成分を含むB液 配合液を送液し、A、B液を合流して地盤中に注入する。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−223475(P2008−223475A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97222(P2008−97222)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【分割の表示】特願2004−213273(P2004−213273)の分割
【原出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000162652)強化土エンジニヤリング株式会社 (116)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【分割の表示】特願2004−213273(P2004−213273)の分割
【原出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000162652)強化土エンジニヤリング株式会社 (116)
【Fターム(参考)】
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