説明

地盤注入材及びそれを用いた地盤注入工法

【課題】アルカリ性の硬化材を使用したときのシリカスラリーの増粘を抑制し、従来の懸濁液型注入材以上の浸透が可能である地盤注入材及びそれを用いた地盤注入工法を提供する。
【解決手段】非晶質微粒子シリカ、アルカリ性の硬化材、水、及びカルボン酸又はその塩を主要構成単量体単位とする重量平均分子量が80,000以下の重合体である増粘抑制剤を含有してなる地盤注入材において、前記硬化材が、非晶質微粒子シリカと硬化材の合計量100質量部中、40質量部以下であり、さらに、前記増粘抑制剤の固形分が、非晶質微粒子シリカと硬化材の合計量100質量部に対して、0.1〜20質量部であることを特徴とする。また、該地盤注入材を用いたことを特徴とする地盤注入工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種土木工事における地盤改良工事や止水工事で用いられる地盤注入材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微粉砕セメントやスラグを水に分散させた懸濁液型注入材で地盤の補強や止水を行なう注入工法が用いられている。
しかしながら、地盤が細砂、粘度質、あるいは岩盤に生じている極めて小さな亀裂部では浸透性が小さく、注入が不可能となる場合があった。
【0003】
これらの地盤では、高い浸透性能が要求されるため、懸濁液型注入材のように材料の粒子が水に溶けず分散しているものは、その構成粒子の粒子径の大きさにより施工結果が左右される。
【0004】
また、注入材の粘度が高いほど、浸透性は悪くなるが一方で、施工時間の短縮、透水性の改良効果を得る面ではなるべく強度を高めることが好ましいため、粒子径が小さく高濃度のスラリーでも低粘性な材料が求められている。
【0005】
このような背景において、粒子径が極めて小さい非晶質微粒子シリカの使用が考えられる。そこで、微粒子シリカをスラリー化し分散剤、減水剤を混和して安定的な低粘度を得る方法が提案されている(特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特公平05−8136号公報
【特許文献2】特許第3451407号公報
【特許文献3】特許第2661893号公報
【特許文献4】特公平01−35789号公報
【0006】
これらの特許文献には、微粒子シリカにカルボン酸又はその塩を主要構成単量体単位とする増粘抑制剤を含有してなる材料も示されているが、いずれもセメント混和材として使用するものであり、微粒子シリカの含有割合は、セメントよりも少なく(特許文献1の第4欄第5行〜第6行、特許文献2の段落[0020]、特許文献3の段落[0012])、微粒子シリカが主体の地盤注入材に適用することは示されていない。
【0007】
また、超微粒子セメント又は微粒子消石灰とシリカフュームを混合し注入材として使用する方法も提案されている(特許文献5及び6参照)。
【特許文献5】特許第3129745号公報
【特許文献6】特公平05−81632号公報
【0008】
しかしながら、特許文献5及び6に示されているように、シリカ微粉末をアルカリ性を呈する硬化材と混合してスラリー化した場合、スラリーのpHが高くなり、瞬時に増粘するため浸透性能を発揮できないなどの課題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、アルカリ性の硬化材を使用したときのシリカスラリーの増粘を抑制し、従来の懸濁液型注入材以上の浸透が可能である地盤注入材及びそれを用いた地盤注入工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)非晶質微粒子シリカ、アルカリ性の硬化材、水、及びカルボン酸又はその塩を主要構成単量体単位とする重量平均分子量が80,000以下の重合体である増粘抑制剤を含有してなる地盤注入材において、前記硬化材が、非晶質微粒子シリカと硬化材の合計量100質量部中、40質量部以下であり、さらに、前記増粘抑制剤の固形分が、非晶質微粒子シリカと硬化材の合計量100質量部に対して、0.1〜20質量部であることを特徴とする地盤注入材である。
(2)前記増粘抑制剤のカルボン酸又はその塩が、アクリル酸又はメタクリル酸の塩であることを特徴とする前記(1)の注入材である。
(3)前記増粘抑制剤が、アクリル酸とスルホン酸の共重合体又はそのナトリウム塩であることを特徴とする前記(1)又は(2)の注入材である。
(4)前記硬化材が、カルシウムを含有し、さらにpHが9以上のアルカリ性を呈する無機質粉末であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか一項の注入材である。
(5)さらに、硬化促進剤としてアルカリ金属炭酸塩を含有してなることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか一項の注入材である。
(6)前記(1)〜(5)のいずれか一項の地盤注入材を用いたことを特徴とする地盤注入工法である。
【発明の効果】
【0011】
アルカリ性の硬化材を使用したときのシリカスラリーの増粘を抑制し、高濃度での注入ができ、さらに従来の懸濁液型注入材より浸透性が向上する効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明における部や%は特に規定しない限り質量基準である。
【0013】
本発明で使用する非晶質微粒子シリカは、金属シリコン、フェロシリコン、又はジルコニアを製造する過程で電気炉から発生するフューム(シリカフューム)を捕集する方法、例えば、金属シリコン粉末を分散させたスラリーを高温場に噴射し燃焼、酸化させる方法、並びに、例えば、四塩化ケイ素等のハロゲン化物のように、ガス化したケイ素化合物を火炎中に送り製造する方法等の、いわゆる、乾式法で製造されるもの、又は、例えば、ケイ酸塩水溶液からのゾルゲル法により沈降生成させ製造する湿式法のいずれの製法で製造されたシリカ粉末を使用することができ、特に限定されるものでない。その中でも特に乾式法で製造された微粒子シリカが凝集(ストラクチャー)が少なく好ましい。
非晶質微粒子シリカのSiO成分は、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。更に使用する非晶質微粒子シリカの粒子径は、一次粒子の最大粒径が10μm以下が好ましい。
【0014】
本発明で使用するアルカリ性の硬化材は、カルシウムを含有し、さらにpHが9以上のアルカリ性を呈する無機質粉末であることが好ましい。消石灰などのアルカリ性無機質カルシウム塩、また普通ポルトランドセメントなどの各種ポルトランドセメント、注入用に開発されたスラグとセメントを混合した微粒子セメントおよび微粒子セメントや普通セメントを分級した分級セメントなどの特殊セメントなどがあり、いずれも使用可能であり、特に限定されるものではない。
硬化材の粒子径は非晶質微粒子シリカの粒子とのバランスでより微粉のものが好ましく平均粒子径が20μm以下がより好ましい。
硬化材の使用量は、非晶質微粒子シリカと硬化材の合計量100部中、40部以下が好ましく、2〜20部がより好ましい。40部を超えると浸透性が悪くなる場合がある。
【0015】
本発明で使用する増粘抑制剤は、カルボン酸又はその塩を主要構成単量体単位とするものであり、単量体である不飽和カルボン酸(塩)の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸及びケイヒ酸、並びにこれらの塩などが挙げられる。これらの不飽和カルボン酸(塩)は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。本発明においては、アクリル酸(塩)又はメタクリル酸(塩)を用いることが好ましく、アクリル酸とスルホン酸の共重合体又はそのナトリウム塩を用いることが特に好ましい。
【0016】
本発明で増粘抑制剤として用いられる重合体は、ポリカルボン酸(塩)を主要構成とするものであり、不飽和カルボン酸(塩)のみからなるものが主体であるが、現地地盤で求められる流動性等に応じて、他の重合性単量体、例えば不飽和スルホン酸又はその塩(以下、「不飽和スルホン酸(塩)」という。)、アクリルアミド、酢酸ビニル、スチレン、アクリル酸アルキルエステル、アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、アクリル酸(ポリ)アルキレングリコールエステル、メタクリル酸(ポリ)アルキレングリコールエステル、メタクリル酸アルキルエステル等が、構成単量体成分として使用される。
【0017】
本発明で用いられる重合体は、分散剤、コンクリート用混和剤、洗剤ビルダーあるいはキレート剤として用いられている重合体であり、より具体的には重量平均分子量80,000程度以下のものであり、50,000以下のものが好ましい。重量平均分子量の下限は特に限定されないが、通常は250以上であり、1,000以上であることがより好ましい。ポリカルボン酸の重量平均分子量が上記範囲を外れると、増粘抑制効果が認められない恐れがあり、分散性も発揮されない恐れがある。なお、本発明における重量平均分子量は、標準物質としてポリアクリル酸ナトリウムを使用して、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより得られた分子量をいう。
増粘抑制剤の使用量は、非晶質微粒子シリカと硬化材の合計量100部に対し、増粘抑制剤の固形分が0.1〜20部が好ましく、0.5〜10部がより好ましい。0.1部未満ではほとんど効果がない場合が多く、20部を超えると、使用材料の粒子が凝集し浸透性に悪影響を与えることと、凝結遅延が強くなり硬化しない場合がある。
【0018】
本発明で使用する硬化促進剤は、アルカリ金属炭酸塩、アルミナ化合物、アルカリ金属(土類)塩化物、アルカリ金属硫酸塩、水酸化アルカリなど一般的なセメント促進剤であれば特に限定されるものではないが、難溶性カルシウム塩を生成させるアルカリ金属炭酸塩が好ましい。また、この中では溶解性が高い炭酸カリウムの使用が特に好ましい。
硬化促進剤の使用量は、非晶質微粒子シリカと硬化材の合計重量100部に対して、0.5〜5部が好ましく、1〜3部がより好ましい。0.5部未満では硬化促進しない場合があり、5部を超えると浸透性に悪影響を与える場合がある。
【0019】
注入材を懸濁液とする場合の水量はポンプで圧送できれば特に限定されるものではないが、非晶質微粒子シリカと硬化材の合計重量100部に対して、50〜1000部が好ましく、80〜500部がより好ましい。
50部未満では、懸濁液の増粘が速くなり浸透性が悪くなる場合があり、1000部を超えると硬化しない場合がある。
【0020】
本発明の地盤注入工法において、注入材の練り混ぜ方法や注入方法は、特に限定されるものではなく、単管ロット工法、単管ストレーナー工法、二重管単相工法、二重管複相工法、及び二重管ダブルパッカー工法等、現在使用されている工法に適用可能である。
【0021】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
非晶質微粒子シリカ80部と硬化材20部の合計重量100部に対して、増粘抑制剤0.7部、水130部を混合し懸濁液を作製し注入材とした。注入材作製直後の粘度を測定した結果を表1に示す。
<使用材料>
非晶質微粒子シリカ:市販品、微粒子シリカ(平均粒子径0.5μm)
硬化材 :市販品、微粒子消石灰(平均粒子径16μm、pH12.3)
増粘抑制剤A :クエン酸
増粘抑制剤B :グルコン酸
増粘抑制剤C :酒石酸
増粘抑制剤D :ナフタレンスルフォン酸系
増粘抑制剤E :アクリル酸、スルホン酸の共重合体ナトリウム塩、重量平均分子量 3,000
増粘抑制剤F :アクリル酸、スルホン酸の共重合体ナトリウム塩、重量平均分子量 30,000
増粘抑制剤G :アクリル酸、スルホン酸の共重合体ナトリウム塩、重量平均分子量 100,000
増粘抑制剤H :ポリアクリル酸ナトリウム、重量平均分子量5,000
水 :水道水
【0023】
<測定方法>
作製した懸濁液をB型回転粘度計、音叉型振動式粘度計を用いて測定
【0024】
【表1】

【0025】
表1に示されるように、本発明の組成範囲にある増粘抑制剤E、F及びHを用いた実験No.1-6、No.1-7及びNo.1-9の実施例の注入材は、粘度が低く、増粘が抑制されていることが確認された。
これに対して、増粘抑制剤が、カルボン酸又はその塩を主要構成単量体単位とする重合体でない場合には、増粘抑制剤を用いない場合と比較して、増粘の抑制は十分ではなく(実験No.1-1〜No.1-5)、該重合体であっても、重量平均分子量80,000を超えると、増粘抑制効果が認められない(実験No.1-8)。
【実施例2】
【0026】
非晶質微粒子シリカと硬化材の合計量100部に対して、表2に示す配合量で懸濁液を作製し、粘度、固化状態の測定を行なった。結果を表2に示す。
【0027】
<使用材料>
非晶質微粒子シリカ:市販品、微粒子シリカ(平均粒子径0.5μm)
硬化材 :市販品、微粒子消石灰(平均粒子径16μm、pH12.3)
増粘抑制剤E :アクリル酸、スルホン酸の共重合体ナトリウム塩、重量平均分子量 3,000
水 :水道水
硬化促進剤 :米山化学社製、炭酸カリウム
【0028】
<測定方法>
粘度の測定 :作製直後の懸濁液をB型回転粘度計、音叉型振動式粘度計で測定。
固化状態の測定 :作製した懸濁液をカップに入れ、3日経過後の状態を確認した。
流動性なしを○、流動性若干ありを△、流動性ありを×で表した。
【0029】
【表2】

【0030】
表2に示されるように、増粘抑制剤の固形分が非晶質微粒子シリカと硬化材の合計量100部に対して、0.1〜20部の場合に、増粘抑制効果があり、固化状態も良好であることが確認された(実験No.1-6、No.2-6〜No.2-12、No.2-14〜No.2-17)。
これに対して、非晶質微粒子シリカと硬化材だけで、増粘抑制剤を配合しない場合には、固化状態は良好であるが、粘度が高くなってしまい好ましくない(実験No.2-2〜No.2-4)。
また、増粘抑制剤の固形分が非晶質微粒子シリカと硬化材の合計量100部に対して、20を超えると、増粘抑制効果は飽和し、固化状態が悪くなる(実験No.2-13)。
【実施例3】
【0031】
実施例1、2より選択した注入材、及び非晶質微粒子シリカと硬化材の配合割合を表3のように変化させた注入材について、実施例1、2と同様に懸濁液を作製し、浸透性評価試験を行なった。結果を表3に示す。
【0032】
<測定方法>
直径5cmの土木学会基準ビニル袋に豊浦硅砂を20cmになるように充填し、作製した注入材200mlを上部面より静かに注ぎ入れ自然浸透させ、その浸透長さを測定した。
【0033】
【表3】

【0034】
表3に示されるように、硬化材が、非晶質微粒子シリカと硬化材の合計量100質量部中、40質量部以下であり、増粘抑制剤を配合した注入材は、浸透長さが長く、優れた浸透性を有することが確認された(実験No.1-6、No.2-6、No.2-9〜No.2-13、No.3-1〜No.3-3)。
これに対して、非晶質微粒子シリカと硬化材だけで、増粘抑制剤を配合しない場合、増粘抑制剤を配合しても、硬化材が、非晶質微粒子シリカと硬化材の合計量100質量部中、40質量部を超える場合には、浸透性が悪くなる(実験No.2-2、No.2-7)。
【産業上の利用可能性】
【0035】
アルカリ性の硬化材を使用したときのシリカスラリーの増粘を抑制することで、従来の懸濁液型注入材以上の浸透が可能となることが期待できるから、各種土木工事における地盤改良工事や止水工事で用いられる地盤注入材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質微粒子シリカ、アルカリ性の硬化材、水、及びカルボン酸又はその塩を主要構成単量体単位とする重量平均分子量が80,000以下の重合体である増粘抑制剤を含有してなる地盤注入材において、前記硬化材が、非晶質微粒子シリカと硬化材の合計量100質量部中、40質量部以下であり、さらに、前記増粘抑制剤の固形分が、非晶質微粒子シリカと硬化材の合計量100質量部に対して、0.1〜20質量部であることを特徴とする地盤注入材。
【請求項2】
前記増粘抑制剤のカルボン酸又はその塩が、アクリル酸又はメタクリル酸の塩であることを特徴とする請求項1に記載の地盤注入材。
【請求項3】
前記増粘抑制剤が、アクリル酸とスルホン酸の共重合体又はそのナトリウム塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の地盤注入材。
【請求項4】
前記硬化材が、カルシウムを含有し、さらにpHが9以上のアルカリ性を呈する無機質粉末であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の地盤注入材。
【請求項5】
さらに、硬化促進剤としてアルカリ金属炭酸塩を含有してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の地盤注入材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の地盤注入材を用いたことを特徴とする地盤注入工法。

【公開番号】特開2008−120892(P2008−120892A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304915(P2006−304915)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】