説明

地盤流動防止工法と防止工法に使用するケーシング及び作業船。

【課題】既設構造物底面の基礎砂地盤を安定に直接締固め,締固めと地中ドレーン壁12の築造を一連作業とする地盤流動防止工法を提供する。
【解決手段】既設構造物底面の基礎地盤の締固めは,礫等のドレーン材が充填された所定位置にあるケーシング9の特定方向の一面を開放し,杭状体10の貫入でドレーン材を水平に押し出し,対象地盤の間隙の減少とドレーン材の供給を平衡させながら対象地盤を側面から締固め,締固めと地中ドレーン壁12の築造を一連作業で行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,港湾施設の岸壁や港湾,河川施設の護岸,あるいは道路や鉄道の盛土構造のように既設構造物を境にして地盤面の高低差が大きくなっている人工地形の砂質地盤おいて,地震時における液状化に伴う地盤流動を防止する工法に関する。
【背景技術】
【0002】
飽和砂地盤の液状化現象は,砂地盤の間隙比eが大きく骨格構造が不安定な緩い飽和砂層中で発生する。砂は排水せん断で体積変化がおこるが,体積変化が生じない間隙比を限界間隙比ecrと呼んでいる。液状化を防ぐには,砂の締固めを限界間隙比ecr以下とするのが良い。また,緩い飽和砂層中でも過剰間隙水圧の発生量を低減させれば壊滅的な液状化には至らないので,発生した過剰間隙水圧は速やかに消散させるのが良い。
【0003】
締固めにより砂を密な状態にして液状化を防ぐとした代表的な工法としてサンドコンパクションパイル工法(以下SCP工法)がある。SCP工法は鋼製円筒のケーシングを地盤に貫入させ,所定の深さに達したところでケーシング内の砂を断続的に地盤中に押し出して繰り返し振動打設し,砂柱径をケーシング径よりも拡大させて締固めた砂柱を造成すると共に周辺地盤を締固め,地盤全体の密度を増大させるものである。一般に柱状の物体を地盤に貫入する締固めは,これ自体の容積分が周辺地盤を水平に圧縮する作用がある。これを第一段階とすると,拡大砂柱は第二段階の水平圧縮作用となる。
【0004】
しかしながらこのSCP工法の拡大砂柱による周辺地盤の締固めは,鉛直方向の圧縮エネルギーで水平方向の圧縮締固めを行っているものであり,圧縮方向と圧縮エネルギー方向はまったく一致していない。このためSCP工法の水平方向の締固めは,締まった砂柱の砂のせん断抵抗を受け非常に大きなエネルギー損失を伴う。このため機械設備は大規模なものとなり,非常に大きな振動エネルギーを必要としている。また,SCP工法は砂を限界間隙比ecr以下に締固めても,隣接してSCP工法を行えば砂の特性で地盤の上層部は強烈な振動で緩んでしまい効果は半減する。
【0005】
過剰間隙水圧消散の代表的な工法として砕石ドレーン工法がある。しかし砕石ドレーン工法は厳密には液状化を未然に防ぐ方法ではなく,沈下を許し発生した過剰間隙水圧をすみやかに消散させ液状化を小さく抑える方法である。これだけでは既設の護岸や岸壁等の地盤流動を防止することはできない。
【0006】
砂の締固めとドレーン機能を兼ね備えた工法として,楔形地中ドレーン壁工法が提案されている。(特許文献1参照)
この工法の砂地盤の締固めは,逆三形の楔形状を有するケーシングを地盤中に鉛直方向に振動打設し,周辺の砂を斜め下方に向けて押し退けながら周辺砂地盤を締固め,楔形状の地中ドレーン壁を構築する。この工法は締固め方向と締固めエネルギー方向が近づいているので,下層部地盤は限界間隙比ecr以下に締固めることは可能であるが,上層部は困難である。また,地中ドレーン壁の構築は,地中で楔形ケーシングにドレーン材を充填し,ドレーン材を残して楔形ケーシングを4壁面分割して撤去する。楔形ケーシングは一体構造ではないので,打設エネルギーが巨大となる大型楔形ケーシングによる大規模改良は不向きである。
【0007】
【特許文献1】 特許公開平10−298971
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
兵庫県南部地震では,SCP工法による強制置換工法で地盤改良された護岸・岸壁等も地盤流動(側方流動)により壊滅的な被災を受けた。砂質系地盤の液状化によって発生する被災の形態は,構造物の種類,地形によって異なる。護岸や岸壁等のように構造物の天端と前面の地盤面(海底面)の高低差が大きい地形は,平坦な地形では問題とならない程度の液状化であっても壊滅的な被災が生じる。
【0009】
これは既存構造物底面及び周辺の基礎地盤となる砂質地盤が限界間隙比ecr以下となっていないこと。また地震時において,土被り圧の大きい構造物底面および背面の基礎地盤の圧縮沈下がたとえ小さくても,発生する過剰間隙水圧の大きさは,これの土被り圧に相当する。この過剰間隙水圧は土被り圧の小さい構造物前面の地盤にもただちに伝播する。土被り圧の小さい構造物前面では,非常に大きな過剰間隙水圧となるので激しい液状化,噴砂現象が発生する。このような状態では護岸や岸壁等の構造物は簡単に地盤流動が起こることになる。ここで液状化対策の課題は,対象砂質地盤を限界間隙比ecr以下にいかに確実に締固めるか。また地盤流動対策の課題は,さらに地形的要素が加わり,構造物の前面に対する底面と背面の過剰間隙水圧の水頭差をいかに解消するかにある。しかし砂質地盤の締固めは,従来の鉛直方向圧縮作用を主体とした方法では限界間隙比ecr以下とすることは困難である。地盤に打設体を貫入することは,地盤を水平方向に締固める圧縮作用が働く,しかしこの時地盤が盛り上がればその効果は半減する。楔形地中ドレーン壁工法は,そのケーシングが楔形のため締固め効果は改善されているが不十分である。締固め効果を上げるために打設エネルギーを増大させれば,振動により既設構造物に沈下等の悪影響を及ぼすことになる。
従来の工法では,既設構造物底面の基礎地盤を限界間隙比ecr以下に確実に締固めることは不可能である。ここに,特に既設護岸,岸壁等の地盤流動防止対策が確実にできる工法が求められている。またこれらの防止対策は大規模な事業費となるため対策工事費の縮減化が課題である。またこれらの防止対策工事は,既設岸壁等の近接工事となることから,既設構造物の安定が課題となる。また水上(海上)施工となる防止対策は,機能的な専用の作業船を必要としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の地盤流動防止工法は,護岸等の既設大型構造物の近接工事を前提としたもので,大規模な対策工事と経済性から,最小のエネルギーで確実な締固めを求めている。そこで鉛直方向と水平方向の圧縮作用を分離し,圧縮方向と圧縮エネルギー方向を一致させることを基本とした。
本発明の鉛直方向圧縮作用は,平板状の振動機能を有する振動載荷板で,対象地盤を表面から振動載荷して締固める方式である。また,本発明の水平方向圧縮作用は,地盤圧縮用の杭状体を地盤に貫入させ周辺地盤を締固める。続いて本発明のケーシングを使用して,ケーシング内に持ち込んだ地盤材を特定方向の水平に押し出し地盤を側面から締固める方式である。鉛直圧縮作用の特長は,締固めエネルギーの方向が重力方向と一致し,作業工程も簡単なので,作業が容易で工事費用が比較的小さなことにある。水平圧縮作用の特長は,対象地盤を側面から直接に締固めができることである。本発明の工法はこれらの圧縮作用の特長的機能を活かした解決手段で,次の4つに要約される。
【0011】
第1の解決手段は,既設構造物底面の基礎地盤を直接的に締固めることを意図した水平方向圧縮作用である。
この水平方向圧縮作用を実現する装置は,本発明のケーシングと地盤圧縮用の杭状体である。本発明のケーシングは,所定の深さで特定方向面を開放する機能を持つものである。通常のケーシングは筒状の一体ものであるが,本発明のケーシングは1本のケーシングを縦方向に分割し,この2分割のケーシングの縦割り部分に爪を付けて噛み合わせ,縦方向に相互にスライドを可能としたものである。また杭状体は,先端部が鋭角な片勾配の切断面が描く形状の刃先としたもので,ケーシング内の安定地盤材を押し出す方向に合わせてケーシングに装填される。また分割されたケーシング及び杭状体の鉛直方向の貫入引抜き機能は,個別に備えたものである。
この水平圧縮作用の工程は,杭状体を地盤に貫入させる。次に杭状体の貫入空間をケーシングで確保し,この空間に地盤材を充填し,所定深さのケーシングの特定方向面を開放して再度杭状体を貫入させ,地盤材を特定水平方向に押し出し,既設構造物底面の基礎地盤を地盤側面から直接に締固めるものである。
【0012】
また,第2の解決手段は,既設構造物全体の基礎地盤を確実に締固めること及び地中ドレーン壁等を確保することを意図した地盤流動防止工法である。
本発明の地盤流動防止工法は,地盤の所定の締固めとともに過剰間隙水圧の水頭差解消のため構造物の前面(地盤の低い側)に地中ドレーン壁を築造する。この防止工法を実現する方法は,地盤表面から振動載荷する鉛直方向圧縮作用および解決手段1による水平方向圧縮作用のそれぞれの単独圧縮作用とこれらを同時に行う両方向圧縮作用を状況に応じて組み合わせて行い,さらに地盤材は,礫等のドレーン材を兼ねた安定地盤材として地中ドレーン杭あるいは杭を並列に接合させた壁を築造するもので,圧縮作用の工程にドレーン壁等の築造の工程を組み込み,異なる主要工種を一連の工程としたものである。
ここで,本発明の既設構造物基礎地盤の基本となる圧縮作用工程は,まず周辺基礎地盤を鉛直方向圧縮作用で振動締固め,次に既設構造物底面の基礎地盤を,鉛直方向圧縮作用を補助作用として水平方向圧縮作用で締固める。
【0013】
また,第3の解決手段は,圧縮作用の締固め管理と近接工事としての既設構造物の安定管理を意図した地盤流動防止工法の施工管理システムである。
ここで,鉛直方向圧縮作用は,振動締固めの起振力の大きさ及び振動周期の調整機能を備えたものである。この施工管理システムを実現する方法は,締固め管理は事前に基礎地盤中に挿入した土中土圧計,間隙水圧計の計測管理で行い,既設構造物の安定管理は締固め作業における既設構造物の微小変位の動態観測に基づき,圧縮作用の強弱,速さ,振動周期をリアルタイムに調整する。
【0014】
また,第4の解決手段は,岸壁等の基礎地盤を確実に締固め,ドレーンを築造することを意図した海上施工の専用作業船の確保である。
この専用作業船は浮体である台船と水平圧縮作用に使用されるケーシングと杭状体の貫入引抜きガイドとなる鉛直ガイドタワー,鉛直圧縮作用に使用される振動機能を有する振動載荷板,及び振動載荷板の載荷板昇降ロッドから構成される。そしてこの専用作業船は,解決手段1〜3を満足する次の機能,装備が確保されたものである。
作業船の鉛直ガイドタワーに装備された分割のケーシング及びこれに装填される杭状体の貫入引抜き機能を個別に備え,且つ台船部分の底面には振動機能及び水中を昇降させる機能を備えた振動載荷板が装備され,且つ。台船及び振動載荷板には同一鉛直軸にケーシングの通過孔を有した作業船である。
【発明の効果】
【0015】
第1の解決手段の効果は,方向を特定した水平方向圧縮作用で,既設構造物底面の基礎地盤を直接に側面から締固めることを可能とした新しい工法の確立である。しかも本発明の工法は,締固めにより減少する砂質地盤の間隙相当分を安定地盤材で補充するので,従来の締固め工法にない既設構造物底面の基礎地盤の沈下を阻止することができる極めて特長的な工法となっている。さらに無駄な圧縮エネルギーがほとんど生じない経済的な工法である。SCP工法のこれに相当する水平方向圧縮作用は,砂柱を押し潰して砂柱径の拡幅による周辺地盤の締固めである。締固めエネルギー効率を比較すると,例えば,本発明における杭状体の先端切断角度を15°とすると杭状体先端部の打設貫入抵抗の割合は,鉛直抵抗が27%で水平抵抗が73%である。この水平抵抗が水平方向圧縮作用力に変換される。これに対してSCP工法は,鉛直抵抗が100%で水平抵抗が0%であり,圧縮方向である砂柱径の拡幅方向と圧縮エネルギー方向はまったく一致していない。これに対し本発明の圧縮方向と圧縮エネルギー方向は極めて近いのでエネルギー効率が良い。また楔形地中ドレーン壁工法は,これの楔形ケーシングが,本発明の杭状体先端部に相当し,大型なものである。従ってこれと比較して,本発明の打設時の貫入エネルギー(貫入エネルギーの総和ではない)は非常に小さく,打設設備も大幅に縮小される。
本発明の水平方向圧縮作用の最も特徴的な機能は,所定の締固めが得られるまで方向を特定して水平方向圧縮作用を繰り返し行うことができることで,離れた位置にある既存構造物の基礎地盤も確実に締固めることを可能とした。これにより本発明の工法は,従来の締固め工法では不可能であった大規模な既設構造物の地盤流動防止対策を可能とした。
【0016】
第2の解決手段の効果は,鉛直と水平圧縮作用及び両方向の圧縮作用の特長を活かした使い分けで得られる複合効果と締固め工とドレーン築造工等の異工種を一連の工程とした連結効果である。
複合効果としては,鉛直圧縮作用は既設構造物底面の基礎地盤は直接的な締固めは不可能であるが,既設構造物前面の基礎地盤は容易である。従って締固めの前半の工程は,鉛直方向圧縮作用を先行させ,この圧縮作用で可能な締固めは完了させ工事費の縮減化を図る。限界間隙比ecr以下にする締固め工の後半の工程は,水平方向圧縮作用を主力に,鉛直方向圧縮作用を補助として同時圧縮作用としている。これは鉛直方向圧縮作用で有効荷重の小さい前面地盤の盛り上がりを防ぎ,水平方向圧縮の締固めを最大限に発揮させるものである。
連結効果としては,地中ドレーン壁の築造作業は,対象地盤を水平方向に締固める作業工程に,工法の必然として組み込まれる。本発明の工法に使用される地盤材は,締固めを必要としない礫等の安定地盤材で目的別活用が図られる。締固め工程の前半の鉛直方向圧縮作用では,地盤の表面沈下部分を安定地盤材で補充し,押さえ捨石地盤として有効荷重を確保し,振動によってゆるみやすい表層部分を解消する。工程の後半の両方向圧縮作用では,安定地盤材は,礫等の材料でドレーン材そのものである。このため水平方向圧縮作用の安定地盤材はすべてドレーンとして活用され,作業工程の効率化から工事費のさらなる縮減化が図られている。
【0017】
第3の解決手段の効果は,定量的施工管理システムによる確実な既設構造物の安定な地盤流動防止の実現である。
対象地盤上の既設構造物が杭基礎でない場合,振動により有害な沈下を起こす恐れがある。振動締固めは地盤の固有振動周期に合わせると,広い範囲に振動が伝達し締固めエネルギーを増幅する。鉛直圧縮作用はこの地盤特性を利用し,振動伝播範囲を狭い範囲,広い範囲と使い分ける。近接工事の場合,やみくもに締固めエネルギーを増幅すれば良いというものではない。
間隙比eが大きく緩い砂地盤において,これの沈下を許さずに締固めるためには,減少する間隙に見合う安定地盤材を平衡して供給する必要がある。基礎地盤の締固めと安定地盤材の供給の関係は,水平及び鉛直方向の同時圧縮作用の関係に包括される。ここでの鉛直方向圧縮作用の役割は,水平方向圧縮作用の補助作用で水平方向圧縮作用を最大限に発揮させることと,構造物底面の基礎地盤の間隙減少と安定地盤材の供給の平衡を図る一方の調整作用である。
本発明の基礎地盤の締固めと安定地盤材の供給の施工管理は,既存構造物の微小変位を計測し,動態観測に基づき鉛直方向圧縮作用の振動荷重の大きさ,振動周期そして水平方向圧縮作用の速度を調節して,減少する対象砂質地盤の間隙に対する安定地盤材の供給の平衡を保ち,土中土圧計等の計測管理で所定の締固めの確認を行って定量的施工管理を実現している。これにより,既設構造物の近接工事の安定な施工管理を確実なものとした。
以上の説明のように,本発明の水平方向圧縮機能を持つ工法は,海上のみならず,陸上の構造物底面,例えば道路や鉄道の盛土構造の基礎砂質地盤,あるいは石油タンク等の基礎砂質地盤の沈下を抑えた安定締固めにも極めて有効である。
【0018】
第4の解決手段の効果は,本発明の地盤流動防止工法を水上施工で実施する専用作業船の最良の形態の具体化である。すなわち,第1〜第3の解決手段の効果を岸壁,護岸等の基礎地盤の地盤流動防止工法で発揮させるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下,本発明の地盤流動防止工法の実施形態を図1〜図7に基づいて説明する。
【0020】
図1は防止工法実施前のケーソン岸壁1及び防止工法に使用する作業船8の縦断面図である。図において,2は捨石基礎,3は裏込め石,4は埋立て地盤の陸域,5aは在来の軟弱砂地盤,6は非液状化地盤,7は海域である。
作業船8は浮体構造である台船8a,鉛直ガイドタワー8b,振動載荷板8c及び振動載荷板8cの載荷板昇降ロッド8dから構成される。ここの事例の振動載荷板8cは,これの中心部に振動装置を固定したもので,これは鉛直方向圧縮作用が偏心しないようにするためである。また振動装置は起振力と振動周期を調整できる機能を持っている。9はケーシング,10は杭状体,11はケーシング9のバイブロハンマーである。また台船8aと振動載荷板8cは同一鉛直軸にケーシング9の通過孔を持つものである。
【0021】
図2はケーシング9の概略図で,ここに示す事例は円筒状構造のものである。図2の(1)はケーシング9の縦断面図,(2)はこれの水平断面図である。ケーシング9は,ケーシングを縦方向に分割し,二つの分割ケーシング9aの分割縦部分にケーシングの爪9bを付けて噛み合わせ,縦方向に相互にスライドを可能としたケーシングである。
【0022】
図3は杭状体10の縦断面図で,ここに示す事例は円柱状の構造のものある。杭状体10は,杭状体頭部10a,杭状体中間部10b,杭状体先端部10cに分けられる。杭状体頭部10aにはバイブロハンマー10dを内蔵している。杭状体先端部10cは鋭角な片勾配の切断面が描く形状の刃先としている。
【0023】
図4は第一段階の締固めで,ケーソン岸壁1前面の在来の軟弱砂質地盤5aを単独の鉛直方向圧縮作用で砂質地盤5bに締固める作業工程を示した側断面図である。砂質地盤5bはまだ限界間隙比ecrに達していない状態を想定している。第一段階の作業工程は,作業船8を在来の軟弱砂質地盤5aの所定位置につけ,振動載荷板8cを載荷版昇降ロッド8dにより海底面まで下げて,表面振動載荷による鉛直方向圧縮作用で締固める。この時,既存ケーソン岸壁1が杭基礎でない場合は,有害な不同沈下を起こす恐れがある。従って第一段階の締固めは,既存ケーソン岸壁1の微小変位を計測し動態観測により,対象砂質地盤の固有振動周期を外した振動で安全に締固める。これは振動がケーソン岸壁1の底面の砂質地盤に,極力伝達されないようにするためである。
【0024】
図5は第二段階の締固めで,図4のケーソン岸壁1前面の砂質地盤5bを砂質地盤5cに締固める作業工程を示した側断面図である。砂質地盤5cは限界間隙比ecrに達する程度の状態を想定している。第二段階の締固めは,鉛直および水平の両方向圧縮作用で締固めを行う。第二段階の作業工程は,対象砂質地盤の固有振動周期を考慮して振動載荷版8cで鉛直方向圧縮作用を加えながら,杭状体10を対象砂質地盤5bに打設貫入する。この場合,基本的には対象砂質地盤の固有振動周期に合わせた振動で締固める。従って既存ケーソン岸壁1の微小振動を計測する動態観測で,不同沈下,許容沈下量を考慮して鉛直方向圧縮作用の起振力の大きさ,杭状体10の打設貫入速度をリアルタイムで調節する。第二段階の締固めでは,ケーソン岸壁1の底面は砂質地盤5bで限界間隙比ecrに達していない状態を想定している。
【0025】
図6は第三段階の締固めで,ケーソン岸壁1の底面の砂質地盤を限界間隙比ecr以下に締固める作業状態を示した側断面図である。第三段階の作業工程は図5の第二段階に続いて,杭状体10の貫入空間をケーシング9で確保し,この貫入空間に礫等の安定地盤材を充填する。次にケーシング9のケーソン岸壁1側の分割ケーシング9aを引き上げ,ケーシング9の所定の深さ,ここでは捨石基礎2を外した特定方向面を開放する。ここでケーソン岸壁1の微小変位計測の動態観測を開始する。次に対象砂質地盤の固有振動周期に合わせ,鉛直方向圧縮作用を加えながら,杭状体10の打設貫入速度を調節して,ケーシング9の内部の安定地盤材をケーソン岸壁1方向に水平に押し出す。二方向圧縮作用でケーソン岸壁1底面の基礎地盤の間隙減少と安定地盤材の供給の平衡を図りながら地盤沈下を抑えて,砂質地盤5dの完全に限界間隙比ecr以下の状態とする。必要に応じてこの工程を複数回行う。
杭状体10の打設貫入時の水平抵抗力は,安定地盤材を水平に押し出す力に相当する。刃先を鋭角にすればするほど水平抵抗力の割合が大きくなる。刃先部分の水平力の反力版は,ケーシング9の片側分割ケーシング9a全体で受けることになる。従って前一段階,二段階の締固めはケーシング9aの水平地盤反力の増加を図るということでも重要である。対象砂質地盤の締固めが所定の成果を得たならば,杭状体10の貫入空間をケーシング9で確保して抗状体10を除去しドレーン材を充填しケーシングを除去して地中ドレーン杭あるいは地中ドレーン壁12を構築する。ここで地中ドレーン杭を連続並列にして築造したものが地中ドレーン壁12と称している。
【0026】
図7は本発明工法による防止工法後の一実施形態に係わるケーソン岸壁1で,これの前面海底及び底面の軟弱砂質地盤5aを限界間隙比ecr以下に締固めるとともに,地中ドレーン壁12,押さえ捨石地盤13が築造された側断面図である。砂質地盤は,たとえ限界間隙比ecr以下に締固めても隣接して振動を与えれば上層部は緩んでしまう。従って鉛直方向の単独圧縮作用での地盤表面の沈下部分を締固めの必要の無い押さえ捨石地盤13で補うのが合理的である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】 本発明による地盤流動防止工法実施前のケーソン岸壁1と防止工法に使用する作業船8の側断面図である。
【図2】 本発明の防止工法の水平方向圧縮締固めと地中ドレーン壁12の築造に使用されるケーシング9の概略図である。
【図3】 本発明の防止工法の水平方向圧縮締固めに使用される杭状体10の概略図である。
【図4】 本発明の第一段階の締固めで,ケーソン岸壁1の前面の地盤を表面からの振動載荷による鉛直方向圧縮作用で締固めた一実施形態の側断面図である。
【図5】 本発明の第二段階の締固めで,ケーソン岸壁1の前面の地盤を鉛直水平両方向の圧縮作用で限界間隙比ecrに達する程度に締固めた一実施形態の側断面図である。
【図6】 本発明の第三段階の締固めで,ケーソン岸壁1の前面地盤の所定位置からケーシング9内の礫等の安定地盤材を水平に押し出す水平圧縮作用と周辺地盤の盛り上がりを防ぐ鉛直圧縮の両方向圧縮作用で行い,基礎地盤を水平方向に限界間隙比ecr以下に締固めた一実施形態の側断面図である。
【図7】 本発明による地盤流動防止工法の完成における一実施形態に係わるケーソン岸壁の基礎砂質地盤の締固めと前面の地中ドレーン壁12と押さえ捨石地盤13の側断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ケーソン岸壁, 2 捨石基礎, 5a 在来の軟弱砂質地盤, 5b〜5d 締固め度合別の砂質地盤, 8 作業船, 8a 台船, 8b 鉛直ガイドタワー, 8c 振動載荷板, 8d 載荷板昇降ロッド, 9 ケーシング, 9a 分割ケーシング, 9b ケーシングの爪, 10 杭状体, 12 地中ドレーン壁, 13 押さえ捨石地盤,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象砂質地盤の水平方向圧縮作用において,地盤圧縮用の杭状体を地盤に貫入させ周辺地盤を水平方向に締固める工程と杭状体の貫入空間をケーシングで確保してこの空間に地盤材を充填し,ケーシングの所定深さの特定方向面を開放して再度杭状体を貫入させ,地盤材を特定水平方向に押し出して対象砂質地盤を地盤側面から水平方向に締固める工程から成る地盤流動防止工法。
【請求項2】
請求項1の杭状体の貫入空間を確保するケーシングにおいて,筒状のケーシングを縦方向に分割し,この分割されたケーシングの縦割り部分に爪を付けて噛み合わせ,縦方向に相互にスライドを可能とした地盤流動防止工法に使用するケーシング。
【請求項3】
対象砂質地盤の地盤流動防止において,平板状の振動機能を有する振動載荷板で地盤表面から振動載荷する鉛直方向圧縮作用と請求項1による水平方向圧縮作用のそれぞれの単独圧縮作用とこれらを同時に行う両方向圧縮作用を状況に応じて組み合わせて行い,さらに地盤材は礫等のドレーン材を兼ねた安定地盤材として地中ドレーン杭あるいは壁を築造する地盤流動防止工法。
【請求項4】
請求項3の対象砂地盤を地盤側面から締固める両方向圧縮作用において,減少する対象砂地盤の間隙と供給する地盤材を平衡させる地盤流動防止工法。
【請求項5】
請求項1及び3及び4の地盤流動防止工法が水上施工となる場合に使用される作業船において,作業船の鉛直ガイドタワーに装備された請求項2の分割のケーシング及びこれに装填される杭状体の鉛直方向貫入引抜き機能を個別に備え,且つ作業船の台船の底面に装備された振動載荷板は,台船下の水中を昇降する機能を備え,且つ台船及び振動載荷板には同一鉛直軸にケーシングの通過孔を有する地盤流動防止工法に使用する作業船。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−224697(P2007−224697A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−84157(P2006−84157)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(506101805)
【Fターム(参考)】