説明

地盤特性の把握方法

【課題】建設工事や既設構造物の耐震診断に必要となる地盤特性の把握方法を提供する。
【解決手段】以下の手順を備えている地盤特性の把握方法。(a)評価対象領域を取り囲むように、3点以上の地盤特性調査点を設定する。(b)前記地盤特性調査点において地盤構造を調査し、得られた調査結果を比較する。(c)前記調査結果が全ての地盤特性調査点において同じ場合、得られた調査結果を、評価対象領域における地盤特性調査結果と見做す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設工事や既設構造物の耐震診断に必要となる地盤特性の把握方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤構造を把握する方法は、ボーリングでN値を求めたり、サンプルを採取して解析する直接探査法と地下の物理信号を計測解析する間接探査法(物理探査法とも称される)に大別される。
【0003】
ボーリング調査を行うと、N値がわかるほか、採取したサンプルを用いて室内試験を行うことで地盤の地層構成や土の粒径分布、一軸圧縮強度や比重など地下構造の詳細な情報が得られる。一方、間接探査法には、代表的な方法として自然現象や人間の活動により地球表面に常時生じている微弱な振動を観測する常時微動観測があり、広範囲、大深度を経済的に探査可能である(例えば、特許文献1〜3)。
【0004】
常時微動観測には1.(H/Vスペクトル)による地盤の固有周期の判定(同一地点で、水平2方向、鉛直1方向の常時微動観測を行うとスペクトル比のピークが地盤の固有周期と一致することを用いる)、2.(アレー観測)による地盤のS波構造の推定がある。鉛直方向の同時多点観測を行い、レーリー波(表面波)の位相速度を推定し、地表面からある区間の平均S波速度とレーリー波の波長(区間ごとに異なる)が一致することから地盤のS波構造が明らかにされる。
【0005】
常時微動観測は地下構造の詳細な情報が得られないことが欠点とされているが、ボーリングが、費用や日数(1回のボーリングで100万円程度の費用と一週間程度の日数)を要するのに対し、比較的小型な装置で測定可能なため地盤を含む構造物の耐震設計に活用されている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−349491号公報
【特許文献2】特開2008−249485号公報
【特許文献3】特開平11−287865号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】長尾毅ほか、常時微動アレー観測に基づくS波速度構造の最適推定手法に関する研究国土技術政策総合研究所資料No.62 2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、地盤特性の把握が必要な領域(以下、評価対象領域)に既存の構造物が存在したり、すぐ近傍に構造物などの障害がある場合、ボーリングや常時微動観測が行えないことがある。また、その地点がボーリングの可能な状態であっても、費用や日数(1回のボーリングで100万円程度の費用と一週間程度の日数)の観点からボーリングを適用できない場合がある。
【0009】
そこで、本発明は評価対象領域においてボーリングや常時微動観測の適用に制約がある場合であっても、地盤特性の把握が可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。
1.以下の手順を備えていることを特徴とする地盤特性の把握方法。
(a)評価対象領域を取り囲むように、3点以上の地盤特性調査点を設定する。
(b)前記地盤特性調査点において地盤構造を調査し、得られた調査結果を比較する。
(c)前記調査結果が全ての地盤特性調査点において同じ場合、得られた調査結果を、評価対象領域における地盤特性調査結果と見做す。
2.以下の手順を備えていることを特徴とする地盤特性の把握方法。
(a)評価対象領域を取り囲むように、3点以上の地盤特性調査点を、ボーリングが可能な少なくとも一つの調査点を含むように、設定する。
(b)前記地盤特性調査点において常時微動観測を行い、得られた調査結果を比較する。
(c)前記常時微動観測による調査結果が全ての地盤特性調査点において同じ場合、ボーリングが可能な地盤特性調査点においてボーリングを実施する。
(d)(c)のボーリングで得られた地盤特性調査結果を、評価対象領域における結果と見做す。
3.以下の手順を備えていることを特徴とする地盤特性の把握方法。
(a)評価対象領域を取り囲むように、ボーリングによる地盤調査結果が得られている少なくとも一つの調査点を含む3点以上の地盤特性調査点を設定する。
(b)前記地盤特性調査点において常時微動観測を行い、得られた調査結果を比較する。
(c)前記調査結果が全ての地盤特性調査点において同じ場合、既に一つの調査点で得られているボーリングによる地盤調査結果を、評価対象領域における結果と見做す。
4.以下の手順を備えていることを特徴とする地盤特性の把握方法。
(a)評価対象領域を取り囲むように、3点以上の地盤特性調査点を、そのうちの一つがボーリングによる地盤調査結果が得られている既調査点の近傍となり、且つ前記3点以上の地盤特性調査点同士が略等間隔となるように離して設定する。
(b)前記地盤特性調査点および前記既調査点において常時微動観測を行い、得られた調査結果を比較する。
(c)(b)の比較において調査結果が全て同じ場合、既調査点におけるボーリングによる地盤調査結果を、評価対象領域における結果と見做す。
5.以下の手順を備えていることを特徴とする地盤特性の把握方法。
(a)評価対象領域を取り囲むように、3点以上の地盤特性調査点を、そのうちの一つがボーリングによる地盤調査が可能な調査点の近傍となり、且つ3点以上の地盤特性調査点同士が略等間隔となるように離して設定する。
(b)前記地盤特性調査点および前記地盤調査が可能な調査点において常時微動観測を行い、得られた調査結果を比較する。
(c)(b)の比較において調査結果が全て同じ場合、ボーリングによる地盤調査が可能な調査点においてボーリングを実施し、得られた地盤調査結果を、評価対象領域における結果と見做す。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、1)ボーリングまたは常時微動観測が行えない評価対象領域の地盤特性を正確に把握することが可能となり、2)評価対象領域においてボーリングまたは常時微動観測が可能であるが、近隣の地盤情報を準用しても問題ないか判断に迷う場合の判断が合理的に行え、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の原理を説明する模式図
【図2】本発明において複数の地盤特性調査点の他に特性調査点を設ける場合を説明する図(評価対象領域に建築物が存在する場合)。
【図3】地盤特性調査地点(建築物が存在しない場合の評価対象領域)の他に地盤情報が得られている地盤特性調査地点がある場合を説明する図。
【図4】本発明において複数の地盤特性調査点の他に特性調査点を設ける場合を説明する図(評価対象領域に建築物が存在しない場合)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、評価対象領域を取り囲むように、3点以上の地盤特性調査点のすべての点で常時微動観測により得られるH/Vスペクトルおよび/またはS波速度構造が一致すれば、複数の地盤特性調査点に囲まれた評価対象領域を含む領域の地盤特性が均一である蓋然性が高いことを利用し、複数の地盤特性調査点のうちの一つでのボーリングによる地盤調査結果(N値やPS検層結果)を、評価対象領域の地盤特性と見做すことを特徴とする。H/VスペクトルおよびS波速度構造の両者が一致した場合は評価対象領域の地盤特性である精度が高い。
【0014】
図1は本発明の原理を説明する模式図で、既存の建築物1などが存在し、地盤2や工学的基盤層3のボーリングや常時微動観測ができない評価対象領域(既存の建築物1の直下の地点)を取り囲むように、3点以上の地盤特性調査点A,B,Cを設定する(手順(a))。
【0015】
次に、地盤特性調査点A,B,Cにおいて常時微動観測により地盤構造を調査し、得られたH/Vスペクトルおよび/またはS波速度構造などの調査結果を比較する(手順(b))。
【0016】
これらの調査結果が地盤特性調査点A,B,Cの全てにおいて同じ場合、得られた調査結果を、評価対象領域における地盤特性調査結果と見做して既存の建築物1の耐震診断を行う(手順(c))。
【0017】
尚、地盤特性調査点は、地盤特性調査点により囲まれる領域内に評価対象領域がくるように少なくとも3点を設定すればよく、上限は特に規定しない。また、領域の面積は小さいほど地盤特性調査点と評価対象領域における地盤特性の相関が良いが、建築物の影響が及ばない程度離すなど評価対象領域の周辺環境や所望する耐震診断の精度に応じて地盤特性調査点の位置は適宜設定すればよい。
【0018】
本発明では、常時微動観測による調査結果が地盤特性調査点A,B,Cの全てにおいて同じ場合、複数の地盤特性調査点A,B,Cのうちの一つにおいてボーリングが可能な環境であれば、ボーリングを実施して、得られた地盤特性調査結果を、評価対象領域における結果と見做すことで、精度は飛躍的に向上する。
【0019】
複数の地盤特性調査点A,B,Cのうちの一つにおいてボーリングによる地盤調査結果が既に得られている場合は、当該地盤特性調査点を含む全ての地盤特性調査点における常時微動観測による調査結果が同じことを前提に既に得られている結果を評価対象領域における結果と見做すことが可能である。
【0020】
図2は、複数の地盤特性調査点A,B,Cのいずれにおいてもボーリングが不可能な場合、地盤特性調査点Aの近傍のボーリングが可能な地盤特性調査点Dを設ける場合を示し、地盤特性調査点A,B,C、Dの全てにおいて常時微動観測による調査結果が同じ場合、地盤特性調査点Dにおけるボーリング地盤特性調査結果を、評価対象領域における結果と見做して耐震診断を行うことが可能である。
【0021】
地盤特性調査点Dにおけるボーリングによる地盤調査結果が既に得られている場合は、当該地盤特性調査点を含む全ての地盤特性調査点における常時微動観測による調査結果が同じことを前提に既に得られている結果を評価対象領域における結果と見做すことが可能である。
【0022】
尚、図3に示すように評価対象領域には建築物1が予定されているだけで存在せず地盤特性調査地点B(評価対象領域)において、ボーリングまたは常時微動観測が可能であるが、既に近隣の地盤特性調査地点Aにおいて地盤情報が得られている場合、本発明を利用して当該地盤情報を準用しても問題ないかの判断を合理的に行うことが可能である。
【0023】
図4は評価対象領域(予定されている建築物1の直下の地点)から略等間隔だけ離れた位置に、複数の地盤特性調査点A,B,Cのうちの地盤特性調査点Aがボーリングによる地盤調査結果が得られている既調査点Dの近傍となるように設けた場合を示す。地盤特性調査点A,B,C同士はそれらが囲む領域の略中心に評価対象領域がくるように略等間隔に離して設定する。
【0024】
地盤特性調査点A,B,Cおよび既調査点Dにおいて常時微動観測を行い、得られた調査結果を比較して全て同じ場合、既調査点Dにおけるボーリングによる地盤調査結果を、評価対象領域における結果と見做して耐震診断を行う。
【符号の説明】
【0025】
1 建築物
2 地盤
3 工学的基盤層
4 評価対象領域
A,B,C,D 地盤特性調査点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の手順を備えていることを特徴とする地盤特性の把握方法。
(a)評価対象領域を取り囲むように、3点以上の地盤特性調査点を設定する。
(b)前記地盤特性調査点において地盤構造を調査し、得られた調査結果を比較する。
(c)前記調査結果が全ての地盤特性調査点において同じ場合、得られた調査結果を、評価対象領域における地盤特性調査結果と見做す。
【請求項2】
以下の手順を備えていることを特徴とする地盤特性の把握方法。
(a)評価対象領域を取り囲むように、3点以上の地盤特性調査点を、ボーリングが可能な少なくとも一つの調査点を含むように、設定する。
(b)前記地盤特性調査点において常時微動観測を行い、得られた調査結果を比較する。
(c)前記常時微動観測による調査結果が全ての地盤特性調査点において同じ場合、ボーリングが可能な地盤特性調査点においてボーリングを実施する。
(d)(c)のボーリングで得られた地盤特性調査結果を、評価対象領域における結果と見做す。
【請求項3】
以下の手順を備えていることを特徴とする地盤特性の把握方法。
(a)評価対象領域を取り囲むように、ボーリングによる地盤調査結果が得られている少なくとも一つの調査点を含む3点以上の地盤特性調査点を設定する。
(b)前記地盤特性調査点において常時微動観測を行い、得られた調査結果を比較する。
(c)前記調査結果が全ての地盤特性調査点において同じ場合、既に一つの調査点で得られているボーリングによる地盤調査結果を、評価対象領域における結果と見做す。
【請求項4】
以下の手順を備えていることを特徴とする地盤特性の把握方法。
(a)評価対象領域を取り囲むように、3点以上の地盤特性調査点を、そのうちの一つがボーリングによる地盤調査結果が得られている既調査点の近傍となり、且つ前記3点以上の地盤特性調査点同士が略等間隔となるように離して設定する。
(b)前記地盤特性調査点および前記既調査点において常時微動観測を行い、得られた調査結果を比較する。
(c)(b)の比較において調査結果が全て同じ場合、既調査点におけるボーリングによる地盤調査結果を、評価対象領域における結果と見做す。
【請求項5】
以下の手順を備えていることを特徴とする地盤特性の把握方法。
(a)評価対象領域を取り囲むように、3点以上の地盤特性調査点を、そのうちの一つがボーリングによる地盤調査が可能な調査点の近傍となり、且つ3点以上の地盤特性調査点同士が略等間隔となるように離して設定する。
(b)前記地盤特性調査点および前記地盤調査が可能な調査点において常時微動観測を行い、得られた調査結果を比較する。
(c)(b)の比較において調査結果が全て同じ場合、ボーリングによる地盤調査が可能な調査点においてボーリングを実施し、得られた地盤調査結果を、評価対象領域における結果と見做す。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−246644(P2012−246644A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117611(P2011−117611)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】