説明

地盤高推定方法

【課題】従来の航空写真測量を用いる方法では、写真測量図化機を操作するオペレータに熟練と勘が必要とされ、さらに図化に長い時間を要した。熟練していなければ、精度が低く、再現性のある測定を実施出来ないと言う課題を有していた。一方レーザスキャナーデータによる方法は各社各様であり、この方法の詳細は公表されておらず、結果も整合性に欠けている、という問題があった。熟練を必要とせず、短時間で精度がよく、再現性のある地盤高測定法が強く望まれていた。
【解決手段】レーザスキャナーデータを利用し、樹冠からの反射点を多く含む上層面データと、地表面からの反射点及び樹冠と地表面の中間に存在する物体からの反射点データより、仮想下層面と仮想樹高分布を求め、仮想樹高分布にデータ処理を施し、補正樹高分布を得た後、上層面と補正樹高分布を用いて地盤高測定法を行うことによって前記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地盤高推定方法に関するものである。特に林地、即ち樹木で覆われる地域における地盤高推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、林地、即ち樹木で覆われている地域における地形図作成は、世界第二次大戦以前は、地上測量により実施され、戦後は、航空写真測量により実施されてきた。航空写真に撮影された林地は、樹木の密度及び季節によって、一部地盤が見えたり、殆ど見えなかったりする。航空写真測量を用いる方法では、写真測量図化機を操作するオペレータが目視により、浮標(メスマークとも呼ばれる図化機特有のステレオ対応点を示す微小な黒い点のマーク)を、現地調査した樹木の平均高さを参考にして、適当な深さに沈めながら、かつ樹木表面と平行になるように、等高線描画をし、これを地盤高としてきた。
【0003】
しかし、このような写真測量図化機を利用した方法は、熟練と勘が必要とされ、さらに図化に長い時間を要した。熟練していなければ、精度が低く、再現性のある測定を実施出来ないと言う課題を有していた。従来の航空写真測量から得られる林地の地盤高の精度は、2−3mであり、時に5mを超す報告もされている。
【0004】
近年、航空機に搭載されるレーザスキャナ(Lidar:ライダとも呼ばれる)が開発され、該レーザスキャナから発信されるレーザ光が地上で反射され、発信されたレーザ光とこの地上から反射される波の時間差から、該レーザスキャナと地上物体との斜め距離を正確に測定できるようになった。該レーザスキャナは、近赤外線のレーザ光が使用され,15−100kHzの高速なパルス周期で発信可能であり、対地高度約1000m〜3000mで、対地速度約200km/時間の航空機の場合、地上で、1平方mあたり0.25点〜2点の密度で、測定点群が得られる。
【0005】
レーザスキャナ(以降レーザスキャナと略称する)が搭載される航空機には、衛星測位システムであるGPS及び慣性計測装置(3軸の姿勢を計測するジャイロであり、IMUと略称されている)が搭載され、それぞれ、航空機の3次元的位置及びその姿勢(一般に、ロール角、ピッチ角、ヨー角で表される)が計測される。該レーザスキャナによって得られる航空機から地上物体までの斜め距離と、航空機の3次元的位置及び姿勢を組み合わせることによって、地上の物体の3次元座標が正確に算出できる。
【0006】
レーザスキャナから計測され、算出される目標点の精度は、通常平面誤差で約30cm、高さの誤差で約15〜25cmであり、精度要求条件の上からは、2500分の1の縮尺の地形図の作成が可能であるとされている。国家レベルの地形図作成を管轄する国土交通省の国土地理院においても、レーザスキャナの導入を始めており、2003年には、該レーザスキャナから得られたデータによる荒川流域の5m間隔の地盤高データを公表した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のように、航空写真測量を用いる方法では、樹木の密度及び季節によって、一部地盤が見えたり、殆ど見えなかったりし、又、写真測量図化機を操作するオペレータに熟練と勘が必要とされ、さらに図化に長い時間を要した。熟練していなければ、精度が低く、再現性のある測定を実施出来ないと言う課題を有していた。
【0008】
レーザスキャナデータによる方法は、一般には、レーザスキャナデータの中から局所的に最低標高を有する点を選別して、該最低標高点を利用して地面に対応すると思われる下面層を曲面近似し、地盤高を推定する方法が用いられている。しかし、これらの方法は各社各様であり、この方法の詳細は公表されておらず、結果も整合性に欠けている。さらに現地調査による実測値と異なっていると言う、大きな課題を有していた。以下にレーザスキャナデータによる方法の問題点を詳述する。
【0009】
図1は、レーザスキャナによる反射点データの分布のうち、ある垂直断面の反射点データの分布の概念を示したものである。図において、1は標高、2は水平距離、3は平地部、4は山林部、5は上層面点群(上層で反射される点のグループ)、6は下層面点群(下層で反射される点のグループ)、7は地盤高である。
【0010】
しかし、現実においては林地上空において、レーザスキャナから取得されるデータは、樹木の頂上部である樹冠からの反射データあるいは一部レーザ光が樹木の間を縫って到達した地面からの反射データでだけでなく、樹木の場合、幹や途中の葉であったりする。また、地面の場合も、必ずしも地面とは限らず、樹木の下に生育する下草や藪からの反射が含まれている。
【0011】
図2はこの状態を示した図である。図において6Aは仮想下層面、8はレーザ光の反射点群の存在範囲、9はレーザ光の地面への到達を阻害する物体で、樹木の幹や葉、あるいは樹木の下に生育する下草や藪等である。この状態は季節によっても変化する。即ち、広葉落葉樹林においては、秋季及び冬季の落葉時には、地面からの反射点が多くなり、逆に夏季の場合、葉が茂る密度が高く、地面からの反射点は、少なくなる。
【0012】
本発明の第一の目的は、レーザスキャナデータを基に、熟練や勘を必要とせず、初心者でも短時間で高い精度で、しかも再現性がある地盤高推定を行う事の出来る地盤高推定方法を提供する事である。
【0013】
本発明の第二の目的は、レーザスキャナデータを基に、自動的に地盤高推定をすることが可能となり、データ処理のコスト及び処理時間を軽減できる地盤高推定方法を提供する事である。
【0014】
本発明の第三の目的は、レーザスキャナデータを基に、樹木が密生している地域においても、標準偏差1〜2m程度の精度で地盤高の推定が可能である地盤高推定方法を提供する事である。
【0015】
本発明の第四の目的はレーザスキャナデータを基に、樹木の密度が疎あるいは中間である地域においては、標準偏差が1〜2m程度の精度で、地盤高を推定することが可能である地盤高推定方法を提供する事である。
【0016】
本発明においては、計測した点群の総数に対して地面からの反射と推定される点の割合を地面到達率として定義し、地面到達率(%)が10以下の地域の森林密度を森林密度が密な地域、地面到達率(%)が10〜30の地域の森林密度を森林密度が中間地域、地面到達率(%)が30以上の地域の森林密度を森林密度が疎な地域と定義する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、対象地域の標高値をレーザスキャナで計測した点群を格子状に分割し、それぞれの格子内で最大の標高値Zmax(最高標高値)、及び最小の標高値Zmin(最低標高値)を選び出し、各格子のZmaxを含む面を上層面とし、各格子のZminを含む面を仮想下層面とし、標高値Zmax(最高標高値)と標高値Zmin(最低標高値)の差分である標高差の最大値(最大標高差)を求め、該最大標高差を仮想樹高値とする。この仮想樹高値が形成する分布を線形補間により等高線図で表し、該等高線図に現われる閉曲線に対して、該閉曲線の囲む部分の面積及び該閉曲線の仮想樹高値と該閉曲線の囲む部分の最小の仮想樹高値である最小仮想樹高値の差、即ち最大仮想樹高差を求め、該閉曲線の面積、及び該閉曲線の最大仮想樹高差に対してそれぞれ独立に閾値を設定し、該閉曲線の面積に対しては該閾値以下の値を持つ閉曲線に対して、及び、該最大仮想樹高差に対しては該閾値以上の値を持つ閉曲線に対して、該閉曲線の内側にある点群を削除し、線形補間などで内挿し、仮想樹高分布の補正を行うことによって補正樹高分布を得、先に求めた上層面と補正樹高との差分を求め、該差分を、地盤高を代表する補正下層面とすることによって補正樹高分布及び地盤高を求め、前記課題を解決した。
【0018】
本発明においては、特に好ましくは、次の工程により地盤高推定を行う。
1 対象地域の標高値をレーザスキャナで計測した点群を格子状に分割する。例えばN x Mの正方形格子に分割する。ここでN,Mは整数である。
2 1つの格子内で最大の標高値Zmax(最高標高値)、及び最小の標高値Zmin(最低標高値)を選び出し、それぞれこの値をその格子の代表値とする。
3 各格子のZmaxを含む曲面を上層面とする。
4 各格子のZminを含む曲面を仮想下層面とする。
5 各格子に対して、標高値Zmax(最高標高値)と標高値Zmin(最低標高値)の差分、即ち標高差の最大値(最大標高差)を求め、該最大標高差を仮想樹高値とする。
6 仮想樹高値が形成する分布を線形補間により等高線図で表し、該等高線図に現われる閉曲線に対して、該閉曲線の囲む部分の面積及び該閉曲線の仮想樹高値と、該閉曲線の囲む部分の最小の仮想樹高値である最小仮想樹高値の差、即ち該閉曲線に対する最大仮想樹高差を求める。
7 該閉曲線の面積及び該閉曲線の仮想樹高差にそれぞれ独立に閾値を設定する。該閉曲線の面積に対しては該閾値以下の値をもつ閉曲線に対して、及び、該最大仮想樹高差に対しては該閾値以上の値を持つ閉曲線に対して、該閉曲線の内側にある点群を削除し、線形補間で内挿し、仮想樹高分布の補正を行う。補正後の仮想樹高分布を補正樹高分布とする。
8 先に求めた上層面と補正樹高分布との差を求め、これにより地盤高を代表する補正下層面を求める。
9 前記一連の工程を論理として含む計算機プログラムにより、自動的に補正樹高分布及び地盤高を求める。
【0019】
第1の工程の対象地域をレーザスキャナで標高値を計測した点群を格子状に分割する工程においては、格子の大きさ(格子の面積)を決めるには十分な注意を払う必要がある。即ち、第2の工程で1つの格子内で最大の標高値Zmax(最高標高値)と最小の標高値Zmin(最低標高値)を選び出す際に、その点がその格子の代表値とすることの出来るように格子の面積を選ばなければならない。
【0020】
該面積を小さく取りすぎると、樹冠より低い点を含む細かな起伏を拾う危険があるのに対し、該面積が大きすぎると、地面が形成する下層面の起伏(小さな尾根や谷)を無視する危険がある。本発明においては、レーザスキャナが取得するデータ密度、データが示す凹凸分布、地形起伏、樹林の密度などを総合的に考慮し、さらにシミュレーション結果と検証データの照合により、適切な格子面積を決定した。
【0021】
即ち、レーザスキャナのデータ密度及び精度を考慮すると、最終成果である地盤高の出力が高々2m〜5m四方の正方形格子であることから、その格子の代表となる、局所的な最高標高点及び最低標高点を見出すための格子の1辺は2mから10mの間にあると考えられる。本発明においては、格子の1辺を2mから1mの間隔で10mまで変化させ正方形の格子を用いて、本発明の実施地域において精度を比較し、略3〜5m四方の格子が最適であることを発見した。
【0022】
図3は第3工程〜第5工程を説明するための図である。図において10は上層面、6aは仮想下層面、11は差分処理工程、12は最大標高差、13は仮想樹高分布である。図は、説明を簡単にするために、3次元空間のある断面を示したものである。曲面は曲線で示される事になる。
【0023】
第3工程で10の上層面が求められ、第4工程では6aの仮想下層面が求められる。仮想下層面はレーザ光の地面への到達を阻害する物体9によって凹凸に富んだ曲線になっている。
【0024】
第5工程は各格子に対して、標高値Zmax(最高標高値)と最小の標高値Zmin(最低標高地)の差分、即ち、最大標高差12を11の差分処理により求め、最大標高差12を求める工程である。求められた最大標高差を仮想樹高値とする。地図には求められた仮想樹高分布13が示されている。
【0025】
第6の工程は仮想樹高値が形成する分布を等高線図で表し、該等高線図に現われる閉曲線に対して、該閉曲線の囲む部分の面積及び該閉曲線の仮想樹高値と、該閉曲線の囲む部分の最小の仮想樹高値である最小仮想樹高値の差、即ち、該閉曲線に対する最大仮想樹高差を求める工程である。図4はこの工程を説明するための図である。図において、2−1は水平距離Y、2−2は水平距離X,14は断面線、15は等高線、16は等高線が作る閉曲線が囲む面積が大きい部分、17は等高線が作る閉曲線が囲む面積が小さい部分、18は補正樹高分布である。仮想樹高分布の等高線図に現われる閉曲線群の火口状の窪みはレーザ光が樹木の隙間から地面に到達できなかったために生じた窪みであると考えられる。
【0026】
第7の工程は第6の工程で認識された窪みを埋め合わせて、仮想樹高分布を補正して、補正樹高分布を作成する工程である。補正は該閉曲線の囲む部分の面積、及び該閉曲線の最大仮想樹高差に対してそれぞれ独立に閾値を設定し、該閉曲線の囲む部分の面積に対しては該閾値以下のものに対して、及び、該最大仮想樹高差に対しては該閾値以上ものに対して、その内側にある点群を削除し、線形補間で内挿し、仮想樹高分布の補正を行う。補正後の補正樹高分布は図4に18として示されている。
【0027】
閾値の設定は樹木の密度に合わせて設定される。本発明においては閾値を変化させて、地盤を推定することは非常に容易であり、シミュレーションによって素早く最適な閾値を求める事が出来る。
【0028】
第7の工程で用いられる線形補間は各種の方法がある。例えば、TINはその方法の代表的な方法である。TIN(Triangulated Irregular Networkの略称)は不定形三角網によって、地盤点群を数値地形モデルに変換する方法である。即ち、近隣のランダム点により3角形のネットワークを形成するようにランダム点を結び、この3つのランダムの水平位置座標と標高データにより、この3角形の平面の式を導き出し、ランダム点以外の地点の標高を平面の式から内挿により求める方法である。
【0029】
第8の工程は先に求めた上層面から該補正樹高分布の高さを差し引くことにより地盤高を代表する下層面を推定する工程である。図5はこの工程を説明するための図である。図において19は補正地盤高、20は補正樹高である。補正樹高20は第7の工程で得られた補正樹高分布から容易に求められる(補正樹高は補正樹高分布そのものである)
【0030】
第9の工程は第1〜第8の工程を論理として含む計算機プログラムにより、自動的に地盤高を得る工程である。計算の過程で補正樹高分布も得ることが出来る。
【発明の効果】
【0031】
1 レーザスキャナデータを基に、経験や熟練を必要とせず、初心者でも短時間で高い精度で、しかも再現性がある地盤高推定が可能となる。
2 レーザスキャナデータを基に、自動的に地盤高推定をすることが可能となり、データ処理のコスト及び処理時間を軽減できる。
3 レーザスキャナデータを基に、樹木が密生している地域においても、標準偏差1〜2m程度の精度で地盤高の推定が可能となる。
4 レーザスキャナデータを基に、樹木の密度が疎あるいは中間である地域においては、標準偏差が1〜2m程度の精度で、地盤高を推定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明を実施するための第一の最良の形態は、対象地域の標高値をレーザスキャナで計測した点群を格子状に分割し、それぞれの格子内で最大の標高値Zmax(最高標高値)、及び最小の標高値Zmin(最低標高値)を選び出し、各格子のZmaxを含む面を上層面とし、各格子のZminを含む面を仮想下層面とし、標高値Zmax(最高標高値)と標高値Zmin(最低標高値)の差分である標高差の最大値(最大標高差)を求め、該最大標高差を仮想樹高値とする。この仮想樹高値が形成する分布を線形補間により等高線図で表し、該等高線図に現われる閉曲線に対して、該閉曲線の囲む部分の面積及び該閉曲線の仮想樹高値と該閉曲線の囲む部分の最小の仮想樹高値である最小仮想樹高値の差、即ち最大仮想樹高差を求め、該閉曲線の面積、及び該閉曲線の最大仮想樹高差に対してそれぞれ独立に閾値を設定し、該閉曲線の面積に対しては該閾値以下の値を持つ閉曲線に対して、及び、該最大仮想樹高差に対しては該閾値以上の値を持つ閉曲線に対して、該閉曲線の内側にある点群を削除し、線形補間などで内挿し、仮想樹高分布の補正を行うことによって補正樹高分布を得、先に求めた上層面と補正樹高との差分を求め、該差分を、地盤高を代表する補正下層面とすることによって補正樹高分布及び地盤高を求める工程を含むことを特徴とする地盤高推定方法に関するものである。
【0033】
本発明を実施するための第二の最良の形態は、対象地域の標高値をレーザスキャナで計測した点群を格子状に分割し、それぞれの格子内で最大の標高値Zmax(最高標高値)、及び最小の標高値Zmin(最低標高値)を選び出し、各格子のZmaxを含む面を上層面とし、各格子のZminを含む面を仮想下層面とし、標高値Zmax(最高標高値)と標高値Zmin(最低標高値)の差分である標高差の最大値(最大標高差)を求め、該最大標高差を仮想樹高値とする。この仮想樹高値が形成する分布を線形補間により等高線図で表し、該等高線図に現われる閉曲線に対して、該閉曲線の囲む部分の面積及び該閉曲線の仮想樹高値と該閉曲線の囲む部分の最小の仮想樹高値である最小仮想樹高値の差、即ち最大仮想樹高差を求め、該閉曲線の面積、及び該閉曲線の最大仮想樹高差に対してそれぞれ独立に閾値を設定し、該閉曲線の面積に対しては該閾値以下の値を持つ閉曲線に対して、及び、該最大仮想樹高差に対しては該閾値以上の値を持つ閉曲線に対して、該閉曲線の内側にある点群を削除し、線形補間などで内挿し、仮想樹高分布の補正を行うことによって補正樹高分布を得、先に求めた上層面と補正樹高との差分を求め、該差分を、地盤高を代表する補正下層面とすることによって補正樹高分布及び地盤高を求める工程を論理として含む計算機プログラムを用いて、自動的に補正樹高分布及び地盤高を求めることを特徴とする地盤高推定方法に関するものである。
【0034】
本発明を実施するための第三の最良の形態は、対象地域の標高値をレーザスキャナで計測した点群を格子状に分割し、それぞれの格子内で最大の標高値Zmax(最高標高値)、及び最小の標高値Zmin(最低標高値)を選び出し、各格子のZmaxを含む面を上層面とし、各格子のZminを含む面を仮想下層面とし、標高値Zmax(最高標高値)と標高値Zmin(最低標高値)の差分である標高差の最大値(最大標高差)を求め、該最大標高差を仮想樹高値とする。この仮想樹高値が形成する分布を線形補間により等高線図で表し、該等高線図に現われる閉曲線に対して、該閉曲線の囲む部分の面積及び該閉曲線の仮想樹高値と該閉曲線の囲む部分の最小の仮想樹高値である最小仮想樹高値の差、即ち最大仮想樹高差を求め、該閉曲線の面積、及び該閉曲線の最大仮想樹高差に対してそれぞれ独立に閾値を設定し、該閉曲線の面積に対しては該閾値以下の値を持つ閉曲線に対して、及び、該最大仮想樹高差に対しては該閾値以上の値を持つ閉曲線に対して、該閉曲線の内側にある点群を削除し、線形補間などで内挿し、仮想樹高分布の補正を行うことによって補正樹高分布を得、先に求めた上層面と補正樹高との差分を求め、該差分を、地盤高を代表する補正下層面とすることによって補正樹高分布及び地盤高を求める工程を含む地盤高推定方法において、対象地域を分割する格子の1辺を3m〜5mにすることを特徴とする地盤高推定方法に関するものである。
【実施例1】
【0035】
地盤高推定においては、下層面からの反射レーザ光が十分に得られない、つまり下層面からの反射点の数が少ない森林密度の高い地域における地盤高推定が最も困難である。この観点から、森林密度の高い和歌山地域に対して本発明の実施を行った。使用した航空機に搭載されたレーザスキャナは、レーザ光の波長が0.7〜1.3μm(近赤外線)、レーザ規格はクラス4のものである。計測位置誤差は平面で±30cm、高さで±15cmの装置である。計測条件は、下表のとおりである。本実施例ではレーザ光の地面到達率(%)は5.4%と低い。
項目/実施地域 和歌山
計測年月 2003.8
森林密度 密
計測回数 3
パルス周波数(kHz) 24
飛行高度(m) 1800
対地速度(km/h) 200
スキャン角度(度) 17
スキャン周波数(Hz) 28
測定面積(平方km) 16.1
点群密度(個数/1平方m) 3.11
地面到達率(%) 5.4
【0036】
図6は和歌山地区におけるレーザスキャナデータの1断面図である。断面は地形を考慮して、400mの長さの適切な断面を選んだ。図において、21はレーザ光の反射点(黒丸で表示されているは)、22は熟練者(地形学の専門家)が従来の方法で注意深く、時間を掛けて判読した地面と推定される点(白丸で表示されている)、23は本発明の方法により計算機処理により自動的に求めた地盤高(実線で表示されている)である。
【0037】
図から分かるように和歌山地区は、上層部より下のレーザからの反射点が少ない事が分かる。下層面からの少ない反射点を用いて熟練者が従来の方法で注意深く、時間を掛けて判読した地面と推定される地盤高、と本発明の方法により計算機処理により自動的に求めた地盤高の結果が良い一致を示していることが分かる。選定され断面は、いずれも400mの長さであり、5m間隔の合計80点について、目視判読した地盤高及び本発明によって得られた地盤高との差の標準偏差を計算したところ、和歌山地区で1〜2mであった。本実施例の結果から、本発明による林地における地盤高推定方法は、専門家による判読の結果と同等の精度が得られることが明らかである。
【実施例2】
【0038】
実施例1においては、森林密度の密な地域における地盤高推定に本発明の方法を用いた。
実施例2においては森林密度が中間的な島根地域に対して本発明の実施を行った。使用した航空機に搭載されたレーザスキャナは、実施例1と同様の装置を使用した。計測条件は、下表のとおりである。
項目/実施地域 島根
計測年月 2002.12
森林密度 中間
計測回数 2
パルス周波数(kHz) 15
飛行高度(m) 1200
対地速度(km/h) 200
スキャン角度(度) 10
スキャン周波数(Hz) 23
測定面積(平方km) 4.74
点群密度(個数/1平方m) 1.02
地面到達率(%) 13.7
【0039】
図7は島根地区におけるレーザスキャナデータの1断面図である。断面は実施例1と同様に地形を考慮して、400mの長さの適切な断面を選んだ。図から明らかなように表層部より下のレーザからの反射点が実施例1に比べて多いのが分かる。この実施例2においても、下層面からの反射点を用いて熟練者が従来の方法で注意深く、時間を掛けて判読した地面と推定される地盤高、と本発明の方法により計算機処理により自動的に求めた地盤高の結果が良い一致を示していることが分かる。目視判読した地盤高及び本発明によって得られた地盤高との差の標準偏差は、この実施例の島根地区でも1〜2mであった。
【0040】
さらに、島根地区においては、電子基準点から4点の一等基準点を設け、それぞれトータルステーション及びレベルによる地上測量から384点の実測点を設置し、本発明によって推定された地盤高と比較した結果、標準偏差で、1.61mの検証結果を得た。本発明の実施例で得られた標準偏差の値に近い値であることが分かる。一般に5000分の1の森林基本図においては、5m間隔の等高線図が描かれ、国際標準では、等高線間隔の3分の1の高さの精度があればよいことになっていることから、本発明による中間程度の密度の林地における地盤高の推定は、5000分の1の森林基本図または地形図の精度に匹敵した精度であるといえる。
【実施例3】
【0041】
実施例3においては森林密度が疎い中間的な北海道地域に対して本発明の実施を行った。使用した航空機に搭載されたレーザスキャナレーザスキャナは、実施例1及び実施例2と同様の装置を使用した。計測条件は、下表のとおりである。
項目/実施地域 北海道
計測年月 2002,10
森林密度 疎
計測回数 2
パルス周波数(kHz 24
飛行高度(m) 1800
対地速度(km/h) 200
スキャン角度(度) 18
スキャン周波数(Hz) 27
測定面積(平方km) 2.67
点群密度(個数/1平方m) 2.35
地面到達率(%) 46.2
【0042】
図8は北海道地区におけるレーザスキャナデータの1断面図である。断面は実施例1及び2と同様に地形を考慮して、400mの長さの適切な断面を選んだ。この実施例においては、図から明らかなようにこの実施例においては下層部よりのレーザ光の反射点が実施例1及び2に比べて非常に多いのが分かる。レーザ光の50%近くが下層部より反射されてくる。
【0043】
図から明らかなように、この実施例3においても、下層面からの反射点を用いて熟練者が従来の方法で注意深く、時間を掛けて判読した地面と推定される地盤高、と本発明の方法により計算機処理により自動的に求めた地盤高の結果が良い一致を示していることが分かる。目視判読した地盤高及び本発明によって得られた地盤高との差の標準偏差は、この実施例の北海道地区でも1〜2mであった。以上、3つの実施例について述べたが、本発明は森林密度が疎の地域から密の地域まで、極めて広い範囲に使用できることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】レーザスキャナによる反射点データの分布の概念を説明する図
【図2】樹高分布の概念を説明する図
【図3】本発明の第3工程〜第5工程を説明するための図。
【図4】本発明の第6の工程(最大仮想樹高差を求める)を説明する図。
【図5】本発明の第8の工程(補正樹高分布から下層面を推定する)を説明する図。
【図6】実施例1(和歌山地区)
【図7】実施例2(島根地区)
【図8】実施例3(北海道地区)
【符号の説明】
【0045】
1 標高
2 水平距離
2−1 水平距離Y
2−2 水平距離X
3 平地部
4 山林部
5 上層面点群
6 下層面点群
6A 仮想下層面
7 地盤高
8 レーザ光の反射点群の存在範囲
9 レーザ光の地面への到達を阻害する物体
10 上層面
11 差分処理
12 最大標高差
13 仮想樹高分布
14 断面線
15 等高線
16 等高線が作る閉曲線が囲む面積が大きい部分
17 等高線が作る閉曲線が囲む面積が小さい部分
18 補正樹高分布
19 推定地盤高
20 補正樹高
21 レーザ光の反射点(黒丸)
22 熟練者が判読した地盤高(白丸)
23 本発明による地盤高(実線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象地域の標高値をレーザスキャナで計測した点群を格子状に分割し、それぞれの格子内で最大の標高値Zmax(最高標高値)、及び最小の標高値Zmin(最低標高値)を選び出し、各格子のZmaxを含む面を上層面とし、各格子のZminを含む面を仮想下層面とし、標高値Zmax(最高標高値)と標高値Zmin(最低標高値)の差分である標高差の最大値(最大標高差)を求め、該最大標高差を仮想樹高値とする。この仮想樹高値が形成する分布を線形補間により等高線図で表し、該等高線図に現われる閉曲線に対して、該閉曲線の囲む部分の面積及び該閉曲線の仮想樹高値と該閉曲線の囲む部分の最小の仮想樹高値である最小仮想樹高値の差、即ち最大仮想樹高差を求め、該閉曲線の面積、及び該閉曲線の最大仮想樹高差に対してそれぞれ独立に閾値を設定し、該閉曲線の面積に対しては該閾値以下の値を持つ閉曲線に対して、及び、該最大仮想樹高差に対しては該閾値以上の値を持つ閉曲線に対して、該閉曲線の内側にある点群を削除し、線形補間などで内挿し、仮想樹高分布の補正を行うことによって補正樹高分布を得、先に求めた上層面と補正樹高との差分を求め、該差分を、地盤高を代表する補正下層面とすることによって補正樹高分布及び地盤高を求める工程を含むことを特徴とする地盤高推定方法。
【請求項2】
対象地域の標高値をレーザスキャナで計測した点群を格子状に分割し、それぞれの格子内で最大の標高値Zmax(最高標高値)、及び最小の標高値Zmin(最低標高値)を選び出し、各格子のZmaxを含む面を上層面とし、各格子のZminを含む面を仮想下層面とし、標高値Zmax(最高標高値)と標高値Zmin(最低標高値)の差分である標高差の最大値(最大標高差)を求め、該最大標高差を仮想樹高値とする。この仮想樹高値が形成する分布を線形補間により等高線図で表し、該等高線図に現われる閉曲線に対して、該閉曲線の囲む部分の面積及び該閉曲線の仮想樹高値と該閉曲線の囲む部分の最小の仮想樹高値である最小仮想樹高値の差、即ち最大仮想樹高差を求め、該閉曲線の面積、及び該閉曲線の最大仮想樹高差に対してそれぞれ独立に閾値を設定し、該閉曲線の面積に対しては該閾値以下の値を持つ閉曲線に対して、及び、該最大仮想樹高差に対しては該閾値以上の値を持つ閉曲線に対して、該閉曲線の内側にある点群を削除し、線形補間などで内挿し、仮想樹高分布の補正を行うことによって補正樹高分布を得、先に求めた上層面と補正樹高との差分を求め、該差分を、地盤高を代表する補正下層面とすることによって補正樹高分布及び地盤高を求める工程を論理として含む計算機プログラムを用いて、自動的に補正樹高分布及び地盤高を求めることを特徴とする地盤高推定方法。
【請求項3】
対象地域の標高値をレーザスキャナで計測した点群を格子状に分割し、それぞれの格子内で最大の標高値Zmax(最高標高値)、及び最小の標高値Zmin(最低標高値)を選び出し、各格子のZmaxを含む面を上層面とし、各格子のZminを含む面を仮想下層面とし、標高値Zmax(最高標高値)と標高値Zmin(最低標高値)の差分である標高差の最大値(最大標高差)を求め、該最大標高差を仮想樹高値とする。この仮想樹高値が形成する分布を線形補間により等高線図で表し、該等高線図に現われる閉曲線に対して、該閉曲線の囲む部分の面積及び該閉曲線の仮想樹高値と該閉曲線の囲む部分の最小の仮想樹高値である最小仮想樹高値の差、即ち最大仮想樹高差を求め、該閉曲線の面積、及び該閉曲線の最大仮想樹高差に対してそれぞれ独立に閾値を設定し、該閉曲線の面積に対しては該閾値以下の値を持つ閉曲線に対して、及び、該最大仮想樹高差に対しては該閾値以上の値を持つ閉曲線に対して、該閉曲線の内側にある点群を削除し、線形補間などで内挿し、仮想樹高分布の補正を行うことによって補正樹高分布を得、先に求めた上層面と補正樹高との差分を求め、該差分を、地盤高を代表する補正下層面とすることによって補正樹高分布及び地盤高を求める工程を含む地盤高推定方法において、対象地域を分割する格子の1辺を3m〜5mにすることを特徴とする地盤高推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−3332(P2006−3332A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205270(P2004−205270)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(390023249)国際航業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】