説明

地絡方向検出装置

【課題】地絡事故時に発生する零相電流と零相電圧との位相差を検出することにより地絡の方向を検出する地絡方向検出装置において、位相差の検出誤差を低減させる。
【解決手段】零相電流検出装置から得られる零相電流検出信号がピークを迎えるタイミングを検出する零相電流ピーク検出手段71と、零相電圧検出装置から得られる零相電圧検出信号がピークを迎えるタイミングを検出する零相電圧ピーク検出手段72とを設け、零相電流ピーク検出手段71により検出されたタイミングと零相電圧ピーク検出手段72より検出されたタイミングとの差を求めることにより零相電流検出信号及び零相電圧検出信号の位相差を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電系統に接地された区分開閉器等に接続されて、地絡事故事故点の方向を検出する地絡方向検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地絡方向を検出する方法として、特許文献1に示されているように、三相配電線から検出した零相電流と零相電圧の位相差から地絡事故点の方向を検出する方法が知られている。このような方法で地絡事故点の方法を検出する地絡方向検出装置は、三相配電線から零相電流を検出する零相電流検出装置と、三相配電線から零相電圧を検出する零相電圧検出装置と、零相電流検出装置及び零相電圧検出装置からそれぞれ得られる零相電流検出信号及び零相電圧検出信号の位相差を検出する位相差検出部とにより構成される。
【0003】
従来の地絡方向検出装置では、位相差検出部が、零相電流検出信号の零クロス点を検出する零クロス検出手段と、零相電圧検出信号の零クロス点を検出する零クロス検出手段とを備えていて、これらの零クロス検出手段によりそれぞれ検出される零相電流及び零相電圧の零クロス点の差を求めることにより、零相電流と零相電圧の位相差を検出するように構成されていた。
【0004】
図5は、零相電流と零相電圧の位相差を、両者の零クロス点の差から検出する方法の一例を示したもので、同図(A)は零相電流の検出信号Ioを示し、同図(B)は零相電流の検出信号Ioを、入力信号のレベルが0Vよりも大きいときにハイレベルの信号を出力する波形整形回路によりを波形整形して得た矩形波信号Iqo′を示している。また図5(C)は零相電圧の検出信号Voを示し、同図(D)は、零相電圧の検出信号Voを、入力信号のレベルが0Vよりも大きいときにハイレベルの信号を出力する波形整形回路により波形整形して得た矩形波信号Vqo′を示している。従来の方法では、矩形波信号Iqo′の立ち上がり(零相電流の零クロス点)と、矩形波信号Vqo′の立ち上がり(零相電圧の零クロス点)との差から、位相差Δtを求めていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−355955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
配電系統において発生した地絡事故が、零インピーダンスを通して地絡する完全地絡であれば、零相電流検出信号Ioの波形が正弦波になるが、配電線に何物かが接触すること(他物接触)により比較的大きなインピーダンスを通して地絡事故が発生した場合や、ギャップ地絡が発生した場合には、図6に示すように零相電流検出信号Ioの波形が大きく歪む上に、その波高値が微小になる。
【0007】
零相電流検出信号Ioの波形歪みが大きくない場合には、従来の地絡方向検出装置のように、零相電流検出信号Io及び零相電圧検出信号Voの零クロス点から零相電流と零相電圧の位相差を検出しても大きな誤差は生じない。しかしながら、図6に示したように、零相電流検出信号Ioの波形歪みが大きく、その波高値が小さい場合には、零相電流検出信号の零クロス点を正確に検出することができないため、零相電流検出信号の零クロス点と零相電圧検出信号の零クロス点とから零相電流と零相電圧の位相差を検出すると検出誤差が大きくなり、地絡方向の検出を誤るおそれがあった。
【0008】
本発明の目的は、零相電流検出信号の波形歪みが大きく、その波高値が小さい場合でも、零相電流と零相電圧の位相差を大きな誤差を伴うことなく検出することができるようにして、地絡方向の検出を正確に行うことができるようにした地絡方向検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、三相配電線から零相電流を検出する零相電流検出装置と、三相配電線から零相電圧を検出する零相電圧検出装置と、零相電流検出装置及び零相電圧検出装置からそれぞれ得られる零相電流検出信号及び零相電圧検出信号の位相差を検出する位相差検出部とを備えた地絡方向検出装置に係わるものである。
【0010】
本発明においては、零相電流検出信号がピークを迎えるタイミングである第1のピークタイミングを検出する零相電流ピーク検出手段と、零相電圧検出信号がピークを迎えるタイミングである第2のピークタイミングを検出する零相電圧ピーク検出手段とが設けられ、第1のピークタイミングと第2のピークタイミングとの差を求めることにより零相電流検出信号及び零相電圧検出信号の位相差を検出するように位相差検出部が構成されている。
【0011】
零相電流検出信号の波形歪みが大きい場合でも、そのピーク点の検出は比較的容易に行うことができる。従って、上記のように、零相電流検出信号のピーク点と零相電圧検出信号のピーク点との差から両信号の位相差を検出するようにすると、零相電流検出信号及び零相電圧検出信号の零クロス点から両信号の位相差を検出する場合に比べて位相差の検出誤差を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、検出が容易な零相電流検出信号のピーク点と零相電圧検出信号のピーク点との差から両信号の位相差を検出するようにしたので、他物接触による地絡や、ギャップ地絡が生じて零相電流検出信号の波形歪みが大きくなり、その波高値が小さくなった場合でも、零相電流と零相電圧の位相差の検出を的確に行うことができる。従って本発明によれば、零相電流と零相電圧の位相差の検出誤差を少なくして、地絡方向の検出を誤る確率を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態の構成を概略的に示したブロック図である。
【図2】図1に示された開閉器内の構成例を示した回路図である。
【図3】本発明に係わる地絡方向検出装置の一実施形態を示したブロック図である。
【図4】本発明による地絡方向検出装置において零相電流と零相電圧の位相差を検出する方法を説明するための波形図である。
【図5】従来の地絡方向検出装置において行われていた零相電流と零相電圧の位相差を検出する方法を説明するための波形図である。
【図6】他物接触による地絡やギャップ地絡が発生したときに得られる零相電流検出信号及び零相電圧検出信号の波形の一例を示した波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態のハードウェアの構成を示したもので、同図において、1a,1b及び1cはA,B,C三相の配電線、2は配電線の途中に挿入された区分開閉器である。3は本発明に係わる地絡方向検出装置、4は、例えばA相及びC相の配電線間の電圧を地絡方向検出装置3に電源電圧として取り込むトランスである。
【0015】
図1に示された地絡方向検出装置3は、トランス4から与えられる単相交流電圧を整流して一定の直流電圧を出力する電源301と、302はマイクロプロセッサを備えて、電源301から電源電圧が与えられて動作する信号処理部、303は、開閉器2内に設けられた零相変流器や零相電圧変成器等の計測器から与えられる情報を信号処理部302に入力する計測情報インターフェース、304は信号処理部302により判定された地絡方向などの判定結果を表示する表示部である。
【0016】
図2は開閉器2内の構成を示したもので、同図において4aないし4cは配電線1aないし1cに対してそれぞれ直列に接続されたスイッチ、ZCTは三相の配電線を流れる零相電流を検出して零相電流検出信号を出力する零相変流器、ZPDは零相電圧を検出して零相電圧検出信号を出力するコンデンサ型零相電圧変成器である。ZPDは、一端が共通接続され、他端が配電線1aないし1cに接続されたコンデンサC1aないしC1c及びこれらのコンデンサの一端の共通接続点に一端が接続されたコンデンサC2からなるコンデンサ分圧回路と、コンデンサC2の両端に得られるコンデンサ分圧回路の出力電圧が一次巻線に印加された計器用変圧器PTとからなっている。この例ではまた、過電流を検出するためにA相の電流及びC相の電流を検出する変流器CTa及びCTbが開閉器2内に設けられている。零相変流器ZCT,零相電圧変成器ZPD及び変流器CTa,CTbの出力は、出力端子u1ないしu5とこれらの出力端子に接続された信号ケーブルとを通して地絡方向検出装置3の計測情報インターフェース303に入力されている。
【0017】
本実施形態の地絡方向検出装置3の信号処理部302には、図3に示したように、零相変流器ZCTから得られる零相電流検出信号Ioから基本波成分を取り出す第1のローパスフィルタ51と、フィルタ51の出力を増幅する第1の増幅部61と、増幅部61により増幅された零相電流検出信号がピークを迎えるタイミングを第1のピークタイミングとして検出する零相電流ピーク検出手段71と、零相電圧変成器ZPDから得られる零相電圧検出信号Voから基本波成分を取り出す第2のローパスフィルタ52と、フィルタ52の出力を増幅する第2の増幅部62と、増幅部62により増幅された零相電圧検出信号がピークを迎えるタイミングを第2のピークタイミングとして検出する零相電圧ピーク検出手段72と、零相電流ピーク検出手段71及び零相電圧ピーク検出手段72によりそれぞれ検出された第1及び第2のピーク検出タイミングから零相電流検出信号と零相電圧検出信号との位相差を検出する位相差検出部80とが設けられている。位相差検出部80は、零相電流検出信号と零相電圧検出信号との位相差を検出するとともに、検出した位相差から地絡事故点の方向を判定して、その判定結果を表示部304に与える。
【0018】
図3に示した各部のうち、ローパスフィルタ51,52及び増幅部61,62はハードウェア回路により構成され、ピーク検出手段71,72と位相差検出部80とはマイクロプロセッサにより構成される。
【0019】
零相電流ピーク検出手段71は、増幅部61から出力される零相電流検出信号Ioの基本波成分の瞬時値を一定のサンプリング周期でサンプリングしてサンプリングした値をデジタル変換し、零相電流検出信号Ioの瞬時値をサンプリングする毎に、新たにサンプリングした信号のデジタル値を前回サンプリングした信号のデジタル値と比較することにより、零相電流検出信号が正負の各ピークを迎えるタイミングを検出する。
【0020】
零相電流ピーク検出手段71は、例えば図4(B)に示したように、同図(A)に示した零相電流検出信号Ioが正のピークを迎えるタイミングから負のピークを迎えるタイミングまでの期間Ti1と、零相電流検出信号Ioが負のピークを迎えるタイミングから正のピークを迎えるタイミングまでの期間Ti2とを区別して検出し、これらの期間のうち、例えば、零相電流検出信号Ioが正のピークを迎えるタイミングから負のピークを迎えるタイミングまでの期間Ti1を位相差検出区間として、その開始タイミングt1を第1のタイミングとして記憶する。
【0021】
零相電圧ピーク検出手段72は、増幅部62から出力される零相電圧検出信号の基本波成分の瞬時値を一定のサンプリング周期でサンプリングしてサンプリングした値をデジタル変換し、零相電圧検出信号の瞬時値をサンプリングする毎に、新たにサンプリングした信号のデジタル値を前回サンプリングした信号のデジタル値と比較することにより、零相電圧検出信号が正負の各ピークを迎えるタイミングを検出する。
【0022】
零相電圧ピーク検出手段72は、例えば図4(D)に示したように、同図(C)に示した零相電圧検出信号Voが正のピークを迎えるタイミングから負のピークを迎えるタイミングまでの期間Tv1と、零相電圧検出信号Voが負のピークを迎えるタイミングから正のピークを迎えるタイミングまでの期間Tv2とを区別して検出し、これらの期間のうち、例えば、零相電圧検出信号Voが正のピークを迎えるタイミングから負のピークを迎えるタイミングまでの期間Tv1を位相差検出区間として、その開始タイミングt2を第2のタイミングとして記憶する。
【0023】
位相差検出部80は、上記第1のタイミングtiと第2のタイミングt2との差を演算することにより、零相電流検出信号Ioと零相電流検出信号Voとの位相差を求め、求めた位相差に基づいて地絡事故点の方向を判定して、その結果を表示部304に表示させる。
【0024】
図6に示したように、零相電流検出信号の波形歪みが大きい場合でも、そのピーク点の検出は比較的容易に行うことができる。従って、上記のように、零相電流検出信号Ioのピーク点と零相電圧検出信号Voのピーク点との差から両信号の位相差を検出するようにすると、零相電流検出信号及び零相電圧検出信号の零クロス点から両信号の位相差を検出する場合に比べて位相差の検出誤差を少なくすることができる。
【0025】
上記の実施形態では、零相電流検出装置として零相変流器ZCTを用いているが、三相の配電線電流を検出する変流器を設けて、これらの変流器の出力を加算することにより、零相電流を検出するように零相電流検出装置を構成することもできる。また零相電圧変成器ZPDを用いる代りに三相の相電圧をそれぞれ検出する計器用変圧器の出力を加算することにより零相電圧を検出するように零相電圧検出装置を構成することもできる。
【符号の説明】
【0026】
1a〜1c 三相の配電線
2 区分開閉器
3 地絡方向表示装置
51 第1のローパスフィルタ
52 第2のローパスフィルタ
61 第1の増幅部
62 第2の増幅部
71 第1のピーク検出手段
72 第2のピーク検出手段
80 位相差検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相配電線から零相電流を検出する零相電流検出装置と、前記三相配電線から零相電圧を検出する零相電圧検出装置と、前記零相電流検出装置及び零相電圧検出装置からそれぞれ得られる零相電流検出信号及び零相電圧検出信号の位相差を検出する位相差検出部とを備えた地絡方向検出装置において、
前記零相電流検出信号がピークを迎えるタイミングである第1のピークタイミングを検出する零相電流ピーク検出手段と、前記零相電圧検出信号がピークを迎えるタイミングである第2のピークタイミングを検出する零相電圧ピーク検出手段とを具備し、
前記位相差検出部は、前記第1のピークタイミングと前記第2のピークタイミングとの差を求めることにより前記零相電流検出信号及び零相電圧検出信号の位相差を検出するように構成されていること、
を特徴とする地絡方向検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−72163(P2011−72163A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222914(P2009−222914)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】