説明

地絡点表示器及びその点検方法

【課題】地絡点表示器において、架空地線の発錆状態に関わらずに点検を可能とする。
【解決手段】地絡点表示器10は、検出用巻線26a,26bごとに架空地線51に取り付けられる点検用巻線27a,27bを備えている。そして、この点検用巻線27a,27bに模擬出力発生回路33から電流を流すことにより、故障電流により生じる出力を模擬した模擬出力を検出用巻線26a,26bから発生させる。これにより、架空地線51に電流を流すことなく模擬出力を発生させることができる。すなわち、架空地線51の発錆状態に関わらずに地絡点表示器10の点検が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地絡点表示器及びその点検方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄塔に架線された送配電線路に落雷や鳥獣等による地絡故障が発生した際に、地絡故障が発生した故障鉄塔の早期発見を図る観点から、故障鉄塔を表示する地絡点表示器が知られている。例えば、特許文献1には、鉄塔を中心として送配電線路の架空地線にコアと巻線とからなる検出コイルを複数取り付け、架空地線を流れる地絡電流により生じる巻線の出力に基づいて鉄塔での地絡故障時に表示器を動作させる地絡点表示器が記載されている。この特許文献1に記載の地絡点表示器では、検出コイルから出力される電力エネルギーをコンデンサーに蓄えて表示器を動作させることにより、電池等の電源が不要となり装置の半永久的な寿命が得られるとしている。また、このような地絡点表示器について、鉄塔に取り付けられた状態のままで正常に動作することを確認するための点検器が知られている。例えば特許文献2には、検出コイルをはさんで架空地線に電気的に接触する2つの電極を用いて、架空地線に故障電流を模擬する商用周波数もしくはその近傍の周波数の電流を流し、この模擬故障電流による検出コイルの巻線からの出力で地絡点表示器が正常に動作するか否かを確認する点検を行う模擬故障電流発生装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−316256号公報
【特許文献2】特開平2004−72875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2に記載の模擬故障電流発生装置では、架空地線に電極を接触させて電流を流すため、電極と架空地線との間に接触不良があると、表示器の動作に必要な模擬故障電流を確保できないという問題があった。接触不良としては、例えば架空地線の発錆により電極と架空地線との接触抵抗が増加する場合などが挙げられる。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、地絡点表示器において、架空地線の発錆状態に関わらずに点検を可能とすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の地絡点表示器は、
鉄塔に支持される架空地線に前記鉄塔を中心として複数取り付けられる検出用巻線と、
前記鉄塔での地絡故障時に前記架空地線を流れる故障電流により生じる前記検出用巻線の出力に基づいて表示部を動作させる検出回路と、
前記検出用巻線ごとに前記架空地線に取り付けられる点検用巻線と、
前記故障電流により生じる前記検出用巻線の出力を模擬した模擬出力を、前記点検用巻線に電流を流すことにより前記検出用巻線から発生させる模擬出力発生回路と、
を備えたものである。
【0007】
この地絡点表示器では、検出用巻線ごとに架空地線に取り付けられる点検用巻線を備えている。そして、この点検用巻線に模擬出力発生回路から電流を流すことにより、故障電流により生じる出力を模擬した模擬出力を検出用巻線から発生させる。これにより、架空地線に電流を流すことなく模擬出力を発生させることができる。すなわち、架空地線の発錆状態に関わらずに地絡点表示器の点検が可能となる。
【0008】
本発明の地絡点表示器において、前記模擬出力発生回路は、前記点検用巻線に商用周波数の電流を流すものとしてもよい。こうすれば、検出用巻線の模擬出力も商用周波数となるため、例えばパルス波の電流を流す場合と比較して故障電流により生じる出力に近い模擬出力を発生させることができる。
【0009】
本発明の地絡点表示器において、前記検出用巻線及び該検出用巻線に対応する前記点検用巻線が1つずつ巻かれている複数のコア、を備え、前記コアは、分割することでギャップを開閉可能なリング状のコアであり、該ギャップから前記架空地線を該コア内に挿入しその後該ギャップを閉じることにより該架空地線が該コアのリングを貫通するように取り付け可能なものとしてもよい。こうすれば、コアが分割しない場合と比較してコアを架空地線に容易に取り付けることができる。また、点検用巻線の出力を測定することにより、取り付け後にギャップが十分に閉じられていないコアの有無を判定することができる。これは以下の理由による。すなわち、送配電線の架空地線には常時誘導電流が流れている場合が多く、架空地線に点検用巻線の巻かれたコアを取り付けると、この架空地線の誘導電流で生じた磁界により点検用巻線に誘導起電力が生じる。このとき、ギャップが十分閉じられていないコアが存在すると、このコアはギャップが十分閉じられたコアとは磁気抵抗が異なる値となるため、架空地線の誘導電流が同じ値であっても点検用巻線に生じる誘導起電力は異なる値となる。この誘導起電力の違いを点検用巻線の出力を測定することで判定すれば、ギャップが十分閉じられていないコアの有無を判定することができる。
【0010】
本発明の地絡点表示器において、前記検出回路は、前記検出用巻線が前記鉄塔に取り付けられた状態において、各架空地線を流れる故障電流がすべて該鉄塔から流れ出す場合に表示部を動作させ、各架空地線を流れる故障電流の一部が前記鉄塔に向かって流れ込み残りが前記鉄塔から流れ出す場合には表示部を動作させないものとしてもよい。
【0011】
本発明の地絡点表示器の点検方法は、
鉄塔に支持される架空地線に前記鉄塔を中心として複数取り付けられる検出用巻線と、前記鉄塔での地絡故障時に前記架空地線を流れる故障電流により生じる前記検出用巻線の出力に基づいて表示部を動作させる検出回路と、前記検出用巻線ごとに前記架空地線に取り付けられる点検用巻線と、を備えた地絡点表示器の点検方法であって、
前記故障電流により生じる前記検出用巻線の出力を模擬した模擬出力を、前記点検用巻線に電流を流すことにより前記検出用巻線から発生させ、これにより前記検出回路が正常に動作することを確認する、
ものである。
【0012】
この地絡点表示器の点検方法では、検出用巻線ごとに架空地線に取り付けられる点検用巻線に模擬出力発生回路から電流を流すことにより、故障電流により生じる出力を模擬した模擬出力を検出用巻線から発生させる。これにより、架空地線に電流を流すことなく模擬出力を発生させて検出回路を動作させることができる。すなわち、架空地線の発錆状態に関わらずに地絡点表示器の点検が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】地絡点表示器10の構成の概略を示す構成図。
【図2】地絡点表示器10の鉄塔50への取り付け状態及び地絡故障時の電流の向きを示す説明図。
【図3】コア21aの構成の概略を示す構成図。
【図4】地絡点表示器10の点検時の様子を示す説明図。
【図5】変形例の地絡点表示器110の構成の概略を示す構成図。
【図6】鉄塔50の3方向の架空地線に検出部20を取り付けた状態を示す説明図。
【図7】鉄塔50の4方向の架空地線に検出部20を取り付けた状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は本実施形態である地絡点表示器10の構成の概略を示す構成図であり、図2は地絡点表示器10の鉄塔50への取り付け状態及び地絡故障時の電流の向きを示す説明図である。図1に示すように、地絡点表示器10は、検出部20(20a,20b)と、本体部30と、表示部40とを備えている。なお、図1の上部に示した拡大図では、便宜上、下部に示した全体図における検出部20の向きを90°回転させて図示している。
【0015】
検出部20は、鉄塔50に支持される架空地線51に鉄塔50を中心として複数取り付けられるものであり、本実施形態では鉄塔50を中心として2つ取り付けられている。2つの検出部20は、同じ構成であるが、便宜上、一方を検出部20a、もう一方を検出部20bと称することとする。また、検出部20aの構成要素の符号には末尾に「a」を付け、検出部20bの構成要素の符号には末尾に「b」を付けることとし、以下には検出部20aについて説明する。検出部20aは、コア21aと、検出用巻線26aと、点検用巻線27aとを備えている。コア21aは、図3に示すように、検出用巻線26aと点検用巻線27aとが1つずつ巻かれているI形コア部22aと、このI型コア部22aにヒンジ28aを介して取り付けられたU形コア部23aとからなるリング状のコアである。このコア21aは、U形コア部23aがI形コア部22aに対して一側部に設けられたヒンジ28aを支点として回動することにより、リングが分割されてI形コア部22aとU形コア部23aとの間のギャップを開閉可能になっている。また、このI形コア部22a,U形コア部23aには樹脂などの絶縁材からなる保持部材24a,25aが設けられており、I形コア部22aとU形コア部23aとのギャップから架空地線51をコア21a内に挿入してその後ギャップを閉じることにより、保持部材24a,25aで架空地線51を挟持するようになっている。これにより、架空地線51がコア21aのリングを貫通するように検出部20を取り付け可能となっている。検出用巻線26aは、架空地線51を流れる故障電流により誘導起電力を生じることで、故障電流を検出するものである。点検用巻線27aは、検出用巻線26aに対応してコア21aに1つ巻かれた巻線である。
【0016】
本体部30は、検出部20及び表示部40と電気的に接続されており、検出回路31と、端子34〜37とを備えている。検出回路31は、検出用巻線26a,26bが直列に接続されていると共に、端子34,35を介して表示部40と接続されている。この検出回路31は、鉄塔50における地絡故障が発生したとき、接続された検出用巻線26a,26bの重畳出力に基づいて表示部40に電圧を印加し表示部40を動作させるものである。検出回路31は、例えば、検出用巻線26a,26bの重畳出力を入力しこれを整流する回路と、整流後の電力エネルギーを蓄えるコンデンサーと、コンデンサーが飽和して端子電圧が上昇したときに導通して表示部40に電圧を印加する電子スイッチとにより構成することができる。なお、検出回路31は所定の閾値以上の入力が検出用巻線26a,26bからあったときにのみ電子スイッチが導通するようになっている。このような検出回路31の構成は、例えば特開平11−316256号公報に記載されている。端子36,37は、点検用巻線27a,27bと接続されている。具体的には、端子36,37間に点検用巻線27a,27bが直列に接続されている。なお、この端子36から点検用巻線27a,27bを経て端子37に至る回路(図1の破線で囲まれた部分)を模擬出力発生回路33と表記する。また、端子37は鉄塔50に本体部30を取り付けるための取付金具の役割も果たしており、取り付け状態においては鉄塔50に電気的に接続されることで接地された状態となる。
【0017】
表示部40は、検出回路31により端子34,35を介して電圧が印加されると動作して、取り付けられた鉄塔50が地絡故障の発生した故障鉄塔であることを表示するものである。この表示部40は、図示は省略するが、屏風折りにたたまれた表示布が本体筒内に収納されると共に、本体筒内部の常時吸引ソレノイドが圧縮バネで付勢された蓋を本体筒に被せた状態に抑える構造となっている。そして、検出回路31から表示部40に電圧が印加されると、常時吸引ソレノイドの吸引が解除されて本体筒内部の圧縮バネの付勢により蓋が外れると共に折りたたまれた表示布が開いて本体筒から飛び出すようになっている。この本体筒から飛び出した表示布により、遠方からでも表示部40が動作したことがわかるようになっている。なお、表示部40は、本体部30に着脱可能に取り付けられている。
【0018】
続いて、この地絡点表示器10の地絡故障時における動作について図2を用いて説明する。鉄塔50で地絡故障が発生した場合、すなわち鉄塔50が故障鉄塔の場合は、図2(a)に示すように、鉄塔50を流れる商用周波数の故障電流Iが電流I1,I2として架空地線51に分流して流れ出す。これにより、検出用巻線26a,26bに生じる電圧は同位相となり、検出回路31には検出用巻線26a,26bの重畳出力が入力され、検出回路31は表示部40を動作させる。一方、鉄塔50以外の鉄塔で地絡故障が発生した場合、すなわち鉄塔50が健全鉄塔の場合は、図2(b)に示すように、故障鉄塔から架空地線51の一方を伝って流れてくる故障電流Iが鉄塔50を流れる電流I1と架空地線51の他方を流れる電流I2とに分流する。これにより、検出用巻線26a,26bに生じる電圧は逆位相となり、検出用巻線26a,26bの出力が打ち消し合うため、検出回路31への入力はわずかなものとなる。そのためこの場合は検出回路31は表示部40を動作させない。このように、地絡点表示器10は、取り付けられた鉄塔50が故障鉄塔である場合のみ表示部40を動作させるようになっている。
【0019】
次に、この地絡点表示器10を点検する場合について説明する。図4は、地絡点表示器10の点検時の様子を示す説明図である。図示するように、地絡点表示器10の点検時には、検出部30の端子34,35から表示部40を外し、端子34〜37に点検器60を接続する。この点検器60は、動作表示部61と、電圧表示部62と、電流出力部63と、電源部64とを備えている。動作表示部61は、端子34,35と接続され、検出回路31から端子34,35へ表示部40を動作させる電圧が印加されたことを検出してその旨の表示を行うものである。電圧表示部62は、端子36,37に接続され、端子36,37間の電圧を測定して表示するものである。電流出力部63は、点検用巻線27a,27bに流す点検電流Itを発生させるものである。この点検電流Itを点検用巻線27a,27bに流すことにより、故障電流により生じる検出用巻線26の出力を模擬した模擬出力が検出用巻線26a,26bから発生する。電源部64は、例えばバッテリーなどの直流電源である。なお、電流出力部63は、この電源部64からの電力を直流から交流に変換して点検用巻線27に流す電流を発生させる。
【0020】
この点検器60を検出部30に接続することで、地絡点表示器10のコア21a,21bの取付状態の確認と、地絡点表示器10の動作を確認する点検とを行うことができる。まず、コア21の取り付け状態の確認方法について説明する。
【0021】
コア21の取り付け状態の確認時には、電流出力部63からの出力は行わない状態で、電圧表示部62の表示すなわち端子36,37間の電圧を確認する。そして、この表示が所定の閾値以下であれば取り付け状態は良好であると判断する。このように端子36,37間の電圧を確認することでコア21a,21bの取り付け状態を確認できる理由について説明する。架空地線51は図示しない送配電線路に沿って設けられているため、架空地線51にはその送配電線路を流れる電流によって常時誘導電流が流れている。このため、地絡故障が発生していない場合でもこの誘導電流により点検用巻線27a,27bには誘導起電力が生じ、端子36,37間には電圧が生じる。しかし、架空地線51のうち鉄塔50を中心として一方の側と他方の側とでは誘導電流がほぼ同じであり電流の方向も同方向であるため、点検用巻線27a,27bに生じる誘導起電力は互いに逆位相となり打ち消しあう。この結果、端子36,37間の電圧はほぼ0Vとなる。ところが、コア21a,21bのいずれかの取り付け状態が不十分な場合、例えばコア21aにおいてI形コア部22aとU形コア部23aとのギャップが十分に閉じられていない場合には、そのコア21aはギャップが十分閉じられたコア21bとは磁気抵抗が異なる値となる。このため、架空地線51のうち鉄塔50を中心として一方の側と他方の側とで誘導電流が同じであっても点検用巻線27aと点検用巻線27bとに生じる誘導起電力は異なる値となる。この結果、点検用巻線27a,27bに生じる誘導起電力に差が生じるため端子36,37間の電圧は0Vとはならない。したがって、コア21a,21bの取り付けが不十分である場合の端子36,37間の電圧を予め実験により調べておき、閾値を定めておくことで、その閾値と端子36,37間の電圧とを比較してコア21a,21bの取り付け状態の良否を判定することができる。
【0022】
次に、地絡点表示器10の動作を確認する点検について説明する。この点検を行うときには、電流出力部63から端子36,37を介して模擬出力発生回路33に商用周波数の点検電流Itを流す(図4参照)。これにより点検用巻線27a,27bを点検電流Itが流れ、検出用巻線26a,26bに商用周波数の誘導起電力が生じる。このとき検出用巻線26a,26bで生じる誘導起電力の向きは図4に示す矢印の向きとなり、図2(a)の場合と同様に同位相の誘導起電力が生じることになる。そのため、検出用巻線26,検出回路31,端子34,35を含む回路の接続状態や検出回路31の動作が正常であれば、検出回路31には模擬出力として検出用巻線26a,26bの重畳出力が入力され、検出回路31は動作表示部61を動作させるための電圧を端子34,35間に印加する。なお、この電圧は上述した図1の状態において検出回路31が表示部40を動作させるために端子34,35間に印加する電圧と同じものである。これにより、動作表示部61は地絡点表示器10が正常に動作した旨を表示する。一方、異常があれば端子34,35に正しく電圧が印加されないため、動作表示部61は表示を行わない。このようにして、動作表示部61の表示の有無で地絡点表示器10の動作を確認することができる。
【0023】
なお、電流出力部63から流す点検電流Itの値は、検出用巻線26a,26bからの重畳出力により検出回路31の電子スイッチを導通させるために必要な閾値以上の電流が検出回路31に入力されるような値として、検出用巻線26と点検用巻線27の巻数比を考慮して定めることができる。また、電流出力部63は、点検電流Itを流す際に、現在流している電流の値を測定し、測定した電流値と所定の点検電流Itの値とを比較して電流出力のフィードバック制御を行っている。これにより、作業員が手動で微調整を行うことなく所定の値の点検電流Itを確実に模擬出力発生回路33に流すことができるようにしている。
【0024】
以上詳述した本実施形態によれば、地絡点表示器10は、検出用巻線26a,26bごとに架空地線51に取り付けられる点検用巻線27a,27bを備えている。そして、この点検用巻線27a,27bに模擬出力発生回路33から点検電流Itを流すことにより、故障電流により生じる出力を模擬した模擬出力を検出用巻線26a,26bから発生させる。これにより、架空地線51に電流を流すことなく模擬出力を発生させることができる。すなわち、架空地線51の発錆状態に関わらずに地絡点表示器10の点検が可能となる。
【0025】
また、模擬出力発生回路33により点検用巻線27a,27bに商用周波数の点検電流Itを流すことで検出用巻線26a,26bの模擬出力も商用周波数となるため、例えばパルス波の電流を流す場合と比較して故障電流により生じる出力に近い模擬出力を発生させることができる。
【0026】
さらに、コア21a,21bは、分割することでギャップを開閉可能なリング状のコアであり、ギャップから架空地線51をコア21a,21b内に挿入しその後ギャップを閉じることにより該架空地線51がコア21a,21bのリングを貫通するように取り付け可能なものとなっている。このため、コア21a,21bが分割しない場合と比較してコア21a,21bを架空地線51に容易に取り付けることができる。また、点検用巻線27の出力を測定することにより、取り付け後にギャップが十分に閉じられていないコアの有無を判定することができる。
【0027】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0028】
例えば、上述した実施形態では、模擬出力発生回路33に点検器60から点検電流Itを流すことで点検用巻線27a,27bに電流を流すものとしたが、模擬出力発生回路33に電流出力部63と電源部64とが含まれるものとしてもよい。すなわち、地絡点表示器10が電流出力部63と電源部64とを備えるものとしてもよい。
【0029】
上述した実施形態では、点検時には表示部40を外して点検器60を接続するものとしたが、表示部40を外さないものとしてもよい。この場合、例えば点検器60のうち動作表示部61は接続せずに電圧表示部62,電流出力部63を端子36,37に接続すればよい。表示部40を外さずに点検電流Itを流して点検を行えば、表示部40の動作も含めて地絡点表示器10の動作を確認する点検を行うことができる。
【0030】
上述した実施形態では、点検時に模擬出力発生回路33から点検用巻線27a,27bに商用周波数の点検電流Itを流すものとしたが、パルス波の点検電流を流すものとしてもよい。こうすれば、商用周波数の電流を流すものと比べて電源部64や電流出力部63の小型化が可能となる。なお、商用周波数の電流を流す場合でも、点検用巻線27a,27bの検出用巻線26a,26bに対する巻数比を大きくすることで模擬出力発生回路33に流す点検電流Itの値を小さくできるため、これにより電源部64や電流出力部63を小型化することもできる。
【0031】
上述した実施形態では、検出用巻線26a,26bが検出回路31に直列に接続されているものとしたが、鉄塔50での地絡故障時に架空地線51を流れる故障電流により生じる検出用巻線26a,26bの出力に基づいて検出回路31が表示部40を動作させる構成であれば、どのように検出用巻線26a,26bを接続してもよい。例えば、検出回路31に検出用巻線26a,26bからの出力が別々に入力されるように接続するものとし、検出回路31は検出用巻線26aからの出力と検出用巻線26bからの出力との合成出力を演算により導出して、算出した合成出力が所定の閾値以上のときに鉄塔50での地絡故障が発生したと判定して表示部40を動作させるものとしてもよい。
【0032】
上述した実施形態では、模擬出力発生回路33は点検用巻線27a,27bが直列に接続されているものとしたが、直列に接続しなくともよい。この場合の変形例の地絡点表示器110を図5に示す。なお、地絡点表示器110のうち、地絡点表示器10と同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。図示するように、地絡点表示器110の模擬出力発生回路133では、点検用巻線27aの両端と電気的に接続された一対の端子136a,136bと、点検用巻線27bの両端と電気的に接続された一対の端子137a,137bとを備えている。このように構成した場合でも、この端子136a,136b及び端子137a,137bを介して点検用巻線27a,27bに独立して点検電流を流すことで、本実施形態と同様に点検を行うことができる。
【0033】
上述した実施形態では、図1のように架空地線51が鉄塔50を中心として2方向に向かうように支持されている場合について説明したが、鉄塔を中心として架空地線が3方向以上に向かうように支持されていてもよい。この場合でも、検出部20を鉄塔50を中心としてそれぞれの架空地線に取り付け、検出回路31に各検出部20の検出用巻線を直列に接続すればよい。鉄塔50から3方向に架空地線が向かうように支持されている場合に検出部20(20a,20b,20c)を取り付けた状態を示す説明図を図6に、鉄塔50から4方向に架空地線が向かうように支持されている場合に検出部20(20a,20b,20c,20d)を取り付けた状態を示す説明図を図7に、それぞれ示す。なお、図6,図7では鉄塔50に取り付けられた本体部30,表示部40は図示を省略している。このように検出部20を取り付けることで、3方向以上に架空地線が伸びていても、本実施形態の場合と同様に鉄塔50が故障鉄塔である場合に表示部40を動作させることができる。例えば図6のように3方向に架空地線151a,151b,151cが支持されている場合において、鉄塔50で地絡故障が発生した場合には、図6(a)に示すように、鉄塔50からの故障電流が架空地線151a,151b,151cに分流するため、架空地線151a,151b,151cをそれぞれ流れる故障電流I1,I2,I3は全て鉄塔50から流れ出す方向となる。一方、鉄塔50以外の鉄塔で地絡故障が発生した場合には、図6(b)に示すように、架空地線151を流れる故障電流のうち、故障鉄塔からの故障電流I1は鉄塔50に向かって流れ込み、鉄塔50を流れる電流や架空地線151の他方を流れる電流I2,I3に分流する。すなわち、架空地線151a,151b,151cをそれぞれ流れる故障電流I1,I2,I3のうち故障電流I1が鉄塔50に向かって流れ込み残りが鉄塔50から流れ出す。図7のように4方向に架空地線251a,251b,251c,251dが支持されている場合も同様である。すなわち、鉄塔50で地絡故障が発生した場合には、図7(a)に示すように、架空地線251a,251b,251c,251dをそれぞれ流れる故障電流I1,I2,I3,I4は全て鉄塔50から流れ出す方向となる。一方、鉄塔50以外の鉄塔で地絡故障が発生した場合には、図7(b)に示すように、架空地線251a,251b,251c,251dをそれぞれ流れる故障電流I1,I2,I3,I4のうち故障電流I1が鉄塔50に向かって流れ込み残りが鉄塔50から流れ出すことになる。したがって、図6(a),図7(a)に示すように鉄塔50が故障鉄塔である場合には、検出部20の検出用巻線の出力が同位相となるためこれらの重畳出力が検出回路31に入力される。一方、図6(b),図7(b)に示すように鉄塔50が健全鉄塔である場合には、検出用巻線の出力の一部が他の検出用巻線の出力とは逆位相となるため打ち消し合いが起こり、検出回路31への入力は、鉄塔50が故障鉄塔である場合よりも小さいものとなる。したがって、この検出回路31の入力の大きさの違いを判定できるように検出回路31の閾値を定めれば、架空地線の本数に関わらず本実施形態と同様に鉄塔50が故障鉄塔である場合にのみ検出回路31が表示部40を動作させるようにすることができる。また、この場合も、本実施形態と同様に検出用巻線ごとに取り付けられた点検用巻線に模擬出力発生回路から点検電流を流すことで、図6(a),図7(a)の故障電流により検出用巻線に生じる出力を模擬する模擬出力を発生させることができるため、これにより地絡点表示器の点検が可能となる。
【符号の説明】
【0034】
10 地絡点表示器、20,20a,20b,20c,20d 検出部、21a,21b コア、22a I形コア部、23a U形コア部、24a,25a 保持部材、26a,26b 検出用巻線、27a,27b 点検用巻線、28a ヒンジ、30 本体部、31 検出回路、34〜37,136a,136b,137a,137b 端子、33,133 模擬出力発生回路、40 表示部、50 鉄塔、51,151a,151b,151c,251a,251b,251c,251d 架空地線、60 点検器、61 動作表示部、62 電圧表示部、63 電流出力部、64 電源部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄塔に支持される架空地線に前記鉄塔を中心として複数取り付けられる検出用巻線と、
前記鉄塔での地絡故障時に前記架空地線を流れる故障電流により生じる前記検出用巻線の出力に基づいて表示部を動作させる検出回路と、
前記検出用巻線ごとに前記架空地線に取り付けられる点検用巻線と、
前記故障電流により生じる前記検出用巻線の出力を模擬した模擬出力を、前記点検用巻線に電流を流すことにより前記検出用巻線から発生させる模擬出力発生回路と、
を備えた地絡点表示器。
【請求項2】
前記模擬出力発生回路は、前記点検用巻線に商用周波数の電流を流すものである、
請求項1に記載の地絡点表示器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の地絡点表示器であって、
前記検出用巻線及び該検出用巻線に対応する前記点検用巻線が1つずつ巻かれている複数のコア、
を備え、
前記コアは、分割することでギャップを開閉可能なリング状のコアであり、該ギャップから前記架空地線を該コア内に挿入しその後該ギャップを閉じることにより該架空地線が該コアのリングを貫通するように取り付け可能なものである、
地絡点表示器。
【請求項4】
前記検出回路は、前記検出用巻線が前記鉄塔に取り付けられた状態において、各架空地線を流れる故障電流がすべて該鉄塔から流れ出す場合に表示部を動作させ、各架空地線を流れる故障電流の一部が前記鉄塔に向かって流れ込み残りが前記鉄塔から流れ出す場合には表示部を動作させない、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の地絡点表示器。
【請求項5】
鉄塔に支持される架空地線に前記鉄塔を中心として複数取り付けられる検出用巻線と、前記鉄塔での地絡故障時に前記架空地線を流れる故障電流により生じる前記検出用巻線の出力に基づいて表示部を動作させる検出回路と、前記検出用巻線ごとに前記架空地線に取り付けられる点検用巻線と、を備えた地絡点表示器の点検方法であって、
前記故障電流により生じる前記検出用巻線の出力を模擬した模擬出力を、前記点検用巻線に電流を流すことにより前記検出用巻線から発生させ、これにより前記検出回路が正常に動作することを確認する、
地絡点表示器の点検方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−107908(P2012−107908A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255259(P2010−255259)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【Fターム(参考)】