説明

地質探査装置

【課題】トンネル掘削等に際して地山の地質を広範囲にわたって探査可能な有効適切な地質探査装置を提供する。
【解決手段】地質探査装置は、地山内に挿入される回転カッタ(回転体)3と、電極7(電流電極7a、7bと電圧電極7c、7d)からなる比抵抗センサ5と、電流電極7a、7bに電流を流す通電装置と、電圧電極7c,7dの電圧と電流電極7a,7bの電流を計測して比抵抗を演算する演算装置とで構成する。比抵抗センサは回転カッタ(回転体)3の外周部に取り付けられ、地山内に挿入された回転カッタ(回転体)3の回転により比抵抗センサ5によって地山の比抵抗を計測して、回転カッタ(回転体)3の外周地山の地質を全周にわたって探査する。トンネル掘削機1をベースマシンとし、その前面の回転カッタ(回転体)3を比抵抗センサを回転させるための回転体として利用して、回転カッタ(回転体)3の外周端面に比抵抗センサを取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばトンネル掘削に際して施工領域の地質を探査するために適用して好適な地質探査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、トンネル掘削に際しては、効率的な掘進を行うために、あるいは障害物の有無を確認するために、事前にあるいは掘削しながら、施工領域の地質を探査することが重要である。
そのための手段としては、たとえば特許文献1に示される土質検知装置や特許文献2に示される測定装置が知られている。これらはいずれも対の電流電極と対の電圧電極を備えた比抵抗センサをトンネル掘削機(シールド掘進機やトンネルボーリングマシン等)に搭載したもので、地山の比抵抗を測定することによってその状況を探査し把握するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平2−140350号公報
【特許文献2】特開平10−220182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
大断面トンネル等の大規模な地中空洞を施工するための工法として、特開2008−156907号公報に示される地中空洞の施工方法(いわゆるSR−JP工法(登録商標))が提案されている。
これは、大断面トンネルの掘削に先立って、先受工としての多数の小断面のルーフシールドトンネルを間隔をおいて先行施工し、それらルーフシールドトンネル内からの作業により隣り合うルーフシールドトンネル間の地山を掘削してそこに本設覆工壁を施工し、しかる後に本設覆工壁の内側を掘削して大断面トンネルを構築することを主眼とするものである。
【0005】
上記のSR−JP工法においては、隣り合うルーフシールドトンネル間を掘削するに際してその掘削領域を凍結工法や薬液注入工法等の補助工法により地盤改良を行う必要があるが、地質に応じた最適な補助工法の選択や施工範囲を最適に設定するためにはルーフシールドトンネル間の地山状況を予め正確に把握することが必要となる。
特に、土丹層中に介在砂層が点在しているような地山では介在砂層に対して止水のための薬液注入を確実に行う必要があるので、ルーフシールドトンネル間を掘削するに先立ってルーフシールドトンネルの周囲地山を全周かつ全長にわたって十分に探査して介在砂層の位置や状況を高精度で把握することが必要である。
【0006】
従来においてはそのような砂層探査は地表からのボーリング調査により行うことが通常であったが、大深度かつ大断面トンネルの施工に際して地表からボーリング調査を行うことは多大の手間と費用を必要とするばかりでなく高精度の探査は困難でもあるので、そのようなことは現実的ではない。
そのため、ボーリング調査によることに代えて特許文献1や特許文献2に示されるような比抵抗センサを用いた探査手法の採用が検討され、ルーフシールドトンネルを掘削しながらその周囲地山の状況を比抵抗センサにより探査することが考えられている。
【0007】
しかし、特許文献1に示される手法ではトンネルを掘削しながらその切羽前方の地山の土質探査は可能であるもののトンネルの側方地山の土質は探査し得ないし、特許文献2に示される手法では側方地山の探査は可能であるもののその探査可能範囲は比抵抗センサの設置位置周辺の限定された領域だけであり、したがってそれら従来の手法によることではルーフシールドトンネルの全長かつ全周にわたる地山状況を把握することはできるものではない。
【0008】
以上のように、特許文献1や特許文献2に示される従来の探査手法では広範囲にわたる地山探査は困難であって、大規模トンネルを上記のSR−JP工法のような特殊な工法により構築するような場合には必ずしも有効に適用し得ないことから、それを可能とする有効適切な手段の開発が求められているのが実状である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記事情に鑑み、請求項1記載の発明の地質探査装置は、地山内に挿入される回転体と、電流電極と電圧電極とからなる比抵抗センサと、前記電流電極に電流を流す通電装置と、前記電圧電極の電圧と前記電流電極の電流を計測して比抵抗を演算する演算装置とからなり、前記比抵抗センサは前記回転体の外周部に取り付けられ、地山内に挿入された前記回転体の回転により前記比抵抗センサによって地山の比抵抗を計測して、前記回転体の外周地山の地質を全周にわたって探査可能に構成されてなることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は請求項1記載の発明の地質探査装置であって、トンネル掘削機をベースマシンとして構成されて、前記回転体は該トンネル掘削機の前面に設けられた回転カッタであり、前記比抵抗センサは前記回転カッタの外周端面に取り付けられてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、地山内に挿入される回転体の外周部に比抵抗センサを取り付けたので、回転体を回転させることによりその周囲地山の地質を全周にわたって比抵抗センサにより探査可能である。
【0012】
特に本発明の地質探査装置をトンネル掘削に際してその周囲地山を探査する目的で適用する場合には、トンネル掘削機をベースマシンとしてその前部の回転カッタを回転体として利用して回転カッタの外周縁部に比抵抗センサを設置することにより、トンネル掘削段階においてその周囲地山全体の地質を広範囲にわたって把握することが可能であり、それによりトンネル施工時の安全性や確実性を向上させることができコストダウンに寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態である地質探査装置の概略構成図である。
【図2】同、他の構成例を示す概略構成図である。
【図3】同、比抵抗センサの設置状態の一例を示す図である。
【図4】同、比抵抗センサの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態である地質探査装置の概略構成を図1に示す。
これは、上述したSR−JP工法において小断面のルーフシールドトンネルを掘削する際にその周囲地山の地質探査を行うためのもので、ルーフシールドトンネルを掘削するためのトンネル掘削機1をベースマシンとしてそれに地山の比抵抗を計測するための比抵抗センサ5を搭載したことを基本とするものである。
【0015】
ベースマシンとしてのトンネル掘削機1は、通常のシールド掘削機と同様に、スキンプレート2の前部に回転カッタ3を備えたもので、回転カッタ3を回転させて切羽を掘削しつつ、スキンプレート1内の推進ジャッキ(図示略)によりその後方に組み立てたセグメント(図示略)から反力を取って掘進してルーフシールドトンネルを構築するものである。
【0016】
ベースマシンとしてのトンネル掘削機1に搭載されている比抵抗センサ5は、基本的には特許文献1や特許文献2に示されているものと同様に、基部6に対して4つの電極7(図示例では両側の2つの電流電極7a、7bと中央側の2つの電圧電極7c、7d)を備えたもので、この比抵抗センサ5には通電装置と演算装置(いずれも図示略)が接続されていて、通電装置により電流電極7a、7bに対して所定の電流を流した際における電圧を電圧電極7c、7dで計測することにより、演算装置がそれらの計測値から地山の比抵抗を演算し、それに基づき地山の状況を精度良く把握可能なものである。
【0017】
この種の比抵抗センサ5は特許文献1や特許文献2にも示されているように従来よりトンネル掘削機(シールド掘削機やトンネルボーリングマシン等)にも搭載されることがあるが、従来においては特許文献1に示されているように比抵抗センサを切羽に対向する回転カッタの前面に設置するか、あるいは特許文献2に示されるようにトンネル掘削機の側面に固定的に設置するものであったが、本実施形態の地質探査装置では比抵抗センサ5を回転カッタ3の外周端面に設置している。
【0018】
そのため、従来においてはこの種の比抵抗センサをトンネル掘削機に設置しても切羽の前方地山のみあるいは側方地山の限定的な範囲しか探査できなかったのに対し、本実施形態のように比抵抗センサ5を回転カッタ3の外周端面に設置することにより、回転カッタ3の回転に伴って比抵抗センサ5が地中において回転軌跡を描いてその位置が刻々と移動し、かつトンネル掘削機1の掘進に伴って比抵抗センサ5が地中を前方に移動していくから、その移動範囲の全領域における比抵抗を計測し演算して3次元データを得ることができ、それによりルーフシールドトンネルの外周地山の地質状況を全周かつ全長にわたって正確に把握することが可能である。
【0019】
このように、本実施形態の地質探査装置によれば、ベースマシンとしてのトンネル掘削機1によりルーフシールドトンネルを構築しつつその周囲地山に対する地質探査を全周かつ全長にわたって容易に行うことが可能であるから、たとえば土丹層における介在砂層の位置や範囲を高精度で探査することが可能である。
したがって、後段においてルーフシールドトンネル間を掘削するに先立って実施する薬液注入工法等の補助工法の選択や、補助工法の施工範囲や具体的な工程を最適に決定することが可能となり、その際の施工安全性や確実性をさらに向上させることができ、コストダウンにも寄与し得るものとなる。
【0020】
なお、本実施形態の地質探査装置による地質探査は、トンネル掘削機1を停止させている状態(たとえばセグメントを組み立てている状態)において回転カッタ3を1回転させてその位置で外周地山を比抵抗センサ5により走査し、その後、トンネル掘削機1を所定ストローク(比抵抗センサ5によるトンネル軸方向の測定可能範囲を超えない範囲内とすることが好ましい)掘進させた後に、そこで再び停止させて同様に回転カッタ3を1回転させてさらにスキャンを行う、という手順を段階的に繰り返せば良く、それによりルーフシールドトンネルの周囲全体の地山に対する地質探査をトンネル掘削機1の掘進工程に同調させて効率的に実施することができる。
あるいは、可能であれば回転カッタ3を回転させてトンネル掘削機1を掘進させながら同時に探査を行えば、比抵抗センサ5による螺旋状の走査により周囲地山に対する探査を連続的に行うこともできる。
【0021】
以上で本発明の一実施形態である地質探査装置の概略構成について説明したが、以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0022】
本発明では比抵抗センサ5による地山の比抵抗の計測を地山に対して非接触状態ないし泥水が介在している状態で行うことを基本とし、それが可能であるように比抵抗センサ5の配設位置や感度調整や演算装置による演算手法を適切に設定している。
また、比抵抗センサ5が地山との接触により破損したり早期に摩耗してしまうことのないように、基部6および各電極7は十分な強度と耐摩耗性を有する設計としている。
【0023】
具体的には、比抵抗センサ5を回転カッタ3の外周端面に設置するため、回転カッタ3の外周部に比抵抗センサ5を収容するための収容凹部を設けておいて、その内部に比抵抗センサ5を設置している。
この場合、比抵抗センサ5の基部6の走査部側の面は、回転カッタ3の外周端面位置とほぼ面一位置になるよう配設する。回転カッタ3の外周端面より外側(地山側)に突出するように配設すると、回転カッタ3の回転による走査時に地山と接触する可能性が高くなり、そうすると摩耗による耐久性の低下や故障のおそれが高くなる。したがって、比抵抗センサ5の基部6の走査部側の面の位置は、回転カッタ3の外周端面位置よりも若干内側に引っ込み配設するほうが良い。
また、図3に示すように、収容凹部には開閉蓋8を設けておいて、通常時(非探査時)はそれを閉じておくようにすれば、比抵抗センサ5が地山と接触して損傷を受けたり摩耗することがないように保護し得るし、掘削時や掘進時に比抵抗センサ5がその障害になることもない。
なお、開閉蓋8を設けた場合は比抵抗センサ5が収納凹部内に埋まった状態で配設されることになるから、開閉蓋8を開いて探査しようとするときには、比抵抗センサ5の基部6が回転カッタ3の外周端面とほぼ面一になるように比抵抗センサ5を地山側に押し出せるようにしてもよい。
【0024】
上記実施形態では比抵抗センサ5の各電極7を回転カッタ3の周方向(回転方向)に沿うように配列したが、それに限ることはなく、図2に示すように各電極7をトンネル軸方向(回転カッタ3の外周端面の母線方向)に沿うように配列しても良い。
また、比抵抗センサ5を回転カッタ3の外周端面に設置したうえで、必要であれば特許文献1に示されるように回転カッタ3の前面にも他の比抵抗センサを設置しても良く、それにより切羽前方の地質探査もより精度良く行い得るものとなる。
【0025】
比抵抗センサ5における電極7(7a、7b、7c、7d)は、図4に示すように棒状のものであって、各電極7はいずれも絶縁性で耐摩耗性を有する合成樹脂性の成形体である基部6に一体的に埋め込まれている。各電極7の基端部にはリード線9がつながっており、各電極7の先端部は基部6の走査部側の面とほぼ面一になっている。
基部6の概略寸法はB=5cm程度、L=10cm程度、H=5cm程度で、それぞれの電極7の相互間隔はd=2cm程度としている。但し、これらの寸法はあくまで一例に過ぎない。
また、電極7には、基部6との一体化を高めるため、その長さ方向の中間位置に長さ方向に交差する方向に突出する突出部を複数設けている。
なお、電極7の先端部位置であるが、図4(b)に示しているように基部6の走査部側の面と面一にせず、若干引っ込めて基部6の内部側に位置するようにすれば電極保護になる。
【0026】
上記実施形態はSR−JP工法においてルーフシールドトンネルを施工する際にその周囲地山を探査する場合の適用例であるので、ルーフシールドトンネルを掘削するためのトンネル掘削機(シールド掘削機)1を比抵抗センサ5を設置するためのベースマシンとしたが、ベースマシンとしては前面に回転カッタを備えてその外周端面に比抵抗センサを装着可能なものであれば良く、その限りにおいてシールド掘削機に限らず各種のトンネル掘削機を採用可能である。
【0027】
さらに、本発明の地質探査装置は、上記実施形態のようにトンネル掘削時における地山探査を目的として各種のトンネル掘削機をベースマシンとすることに限るものでもなく、各種分野において様々な目的で地質探査を行う場合全般に広く適用可能なものであって、本発明の地質探査装置の具体的な構成はその目的や使用状況に応じて様々に変更可能である。
すなわち、上記実施形態ではトンネル掘削時にその周囲地山を探査することを目的とするものであることから、比抵抗センサ5を設置するためのベースマシンをトンネル掘削機1としてその回転カッタ3の外周端面に比抵抗センサ5を設置した(つまり、比抵抗センサ5を回転させるための回転体としてトンネル掘削機の回転カッタ3を利用したものであるといえる)が、本発明はそのようにトンネル掘削機をベースマシンとすることに限るものではないし、比抵抗センサ5を回転させるための回転体としてトンネル掘削機の回転カッタ3を利用することに限るものでもない。
【0028】
要は、探査対象の地山内において比抵抗センサ5を回転させてその回転軌跡の範囲全体の探査を行うように構成すれば良いのであり、したがって比抵抗センサ5を回転させるための回転体としては、外周部に比抵抗センサ5を取り付けることができかつ探査対象の地山内に挿入されて地山をスキャン可能なものであれば良いのであって、その限りにおいて回転体としては様々な機構や形態が採用可能である。
具体的には、たとえば本発明の地質探査装置を地表部からボーリング調査を行うためのボーリングマシンをベースマシンとして適用して、そのドリルやオーガーを回転体として利用してその先端外周部に比抵抗センサ5を設置することも考えられ、その場合はドリルやオーガーを地中に挿入して回転させることのみで比抵抗センサによる走査によりその周囲地盤全体の地質を探査することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 トンネル掘削機(ベースマシン)
2 スキンプレート
3 回転カッタ(回転体)
5 比抵抗センサ
6 基部
7 電極
7a、7b 電流電極
7c、7d 電圧電極
8 開閉蓋
9 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山内に挿入される回転体と、電流電極と電圧電極とからなる比抵抗センサと、前記電流電極に電流を流す通電装置と、前記電圧電極の電圧と前記電流電極の電流を計測して比抵抗を演算する演算装置とからなり、
前記比抵抗センサは前記回転体の外周部に取り付けられ、地山内に挿入された前記回転体の回転により前記比抵抗センサによって地山の比抵抗を計測して、前記回転体の外周地山の地質を全周にわたって探査可能に構成されてなることを特徴とする地質探査装置。
【請求項2】
請求項1記載の地質探査装置であって、
トンネル掘削機をベースマシンとして構成されて、前記回転体は該トンネル掘削機の前面に設けられた回転カッタであり、
前記比抵抗センサは前記回転カッタの外周端面に取り付けられてなることを特徴とする地質探査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−57176(P2013−57176A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194730(P2011−194730)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【出願人】(000121844)応用地質株式会社 (36)
【Fターム(参考)】