説明

地質構造調査システム及びその方法

【課題】 本発明の地質構造原位置調査システムは、各サブシステムから得られた測定データを統合して、解析することを目的とする。
【解決手段】 本発明の地質構造原位置調査システム1は、S波構造探査サブシステム100と、コア採取サブシステム200と、JFT測定サブシステム300と、孔底せん断強度測定サブシステム400と、孔内水平載荷試験サブシステム500と、ボアホールテレビサブシステム600と、多要素データ統合サブシステム700と、から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地質構造の調査システム及びその方法に関し、より詳細には、主要構築物等の重要施設を設置する支持基盤及びその上下の地盤地質構造について、簡易に探査・調査・解析・確認を行うシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術、それらの問題点を以下説明する。主要構築物について既存の安全審査指針を適用あるいは準用する場合には、各種探査、多数のボーリング(例えば緻密に鉛直ボーリングを実施することを特徴とする群列ボーリング)や、室内分析試験、それらの調査結果を原位置において確認するための高価な横坑内調査(不整合面・亀裂を検出した場合には通常水平方向に延長を余儀なくされ、さらにスケッチ壁面の研ぎ出しを特徴とする)と横坑内原位置試験等の実施あるいはその準用が求められる (以下横坑調査という)。
【0003】
前記の安全審査指針における横坑等による調査は、施設に由来することが想定される環境影響負荷の程度によらず、種々の重要施設に対して準用される傾向がある。
【0004】
このような過大な探査とボーリング調査、横坑原位置試験に対する要請の原因は、表層から深度100m程度であっても、既存探査の精度不足と機動性・経済性に乏しいという問題と、従来型ボーリング調査が平面的には点状分布(例えば群列ボーリングや例え斜掘ボーリングを実施するような場合でもシステムとしてではなく、立体視すると単一斜線程度)の調査情報に留まっていた。このため従来調査法では、地表から推定しがたい直立に近い鋭角の伏在すべり面・破砕帯・不整合面を検出しがたかったし、従来のリニアメント調査における断層露頭情報が得られない場合には、定性的記述に留まり、地下数十メートル以深に関しては確認調査法としては、伏在断層・すべり面の有無についての確認は手のほどこしようがなかった。
【0005】
特に従来型ボーリングではオールコア採取とはいいながら、掘削水の送水圧に基づくコア中微粒分の流失・コアの緩み等を生じやすく、コアの品質が礫・破砕部・砂質部・粘土質・泥岩等のいずれかを複数含有する複雑地層に対して、地質構造判定やすべり面等の判定に耐えるものではなかった (従来技術ではコア採取率100%とは、微粒物質、即ちマトリックスが流失していても許されていた)。特に、地下数十メートル以深であって固結度の低いガウジ(破砕屑岩片を含む固結程度の低い粘土層)については、高品質コアの採取に関する調査技術は、全く無力であった。
【0006】
また、それらの地質構造情報(データの品質、データベース化、「ゆらぎ」に関する誤差論、総合的解析がされなかったので、種々の不確実要素を含んでいた)に基づき建設予定地を選定して、原位置確認のために横坑調査による岩相スケッチと横坑内原位置せん断試験等を実施してきたので、経費的、時間的に大きな負担となり、時には、数キロメートルにわたる横坑による不整合面の追跡、坑壁の磨きだしによるスケッチを必要とすることがあった。
【0007】
さらに、従来、伏在断層・すべり面の地表からの推定には、踏査による地形・露頭調査(地表に露出しているものからの推定に限られる)、空中写真解読によるリニアメント調査等があったが定性的な記述に留まっていた)が、伏在断層・すべり面層・不整合面の確認には、群列ボーリングあるいは横坑内スケッチに頼らざるを得ず、また、既存重要施設に関する支持基盤面直下の地層については(横坑調査レベル以下における調査ができないことから)、支持基盤面の損傷なくして把握することが困難であった。重要施設の建設予定地点に関しても、支持盤面の深度をやや深く機動的に変更することは至難のことであった(従来の発想では、横坑を水平方向に延長するとともに坑壁磨だし・スケッチを繰り返すというに留まっていた)。
【0008】
以下従来におけるそれぞれの探査・コア採取工法、横坑内力学試験法について、例示し説明する。従来の探査技術の一つであるPS検層は、その到達深度と距離が大きいという利点があるが屈折波を利用するということから、直接S波構造を把握するものではなく、また、地下水位を始めとする種々の干渉要素のために解像度に問題があり、また発信源に火薬を使用する等の問題がある。
【0009】
従来の探査技術の他の一つである反射法探査は、表層から数百メートルまで効率良くS波構造を探査することが可能であるが、表層近くでは弾性波の波長によっては地盤に対する透過性が急激に低下したり、分解能に限度がある等の困難や、実施費用が高価なために緻密な測線により、地質構造を高精度かつ立体的に表示することが困難であったり、また、機動性(状況に応じて測線変更等)を求めることも事実上できなかった。
【0010】
従来の探査技術のさらに他の一つである微動アレイ探査法は、海岸波浪等が起す振動のうち地盤内を伝播するレイリー波を複数同心円上に配置された(アレイという通常数十〜数百mの同心円上に配置)検出器により測定し、地盤特性を反映した位相速度を解析することにより、着目地層のS波構造を推定する方法であり、機動性に富むという利点がある。しかし、表面波の特性上地表からの深度−50m〜−1000mの間の測定解析には適しているが、多地点・複雑地層では多量のデータ解析処理に時間が掛かり、また、波長の関係から地表近くの信号は極端に弱くて分解能が低く、このため、浅い地層では測定・解析が困難であるという問題があった。
【0011】
従来の探査技術のさらに他の一つである人工的な発信源を使用した表面波探査法は、発信源のエネルギーの限度(かけやを使用)とこれに伴う受信器の能力(一般に4.5Hz使用)から、測定可能な深度は地表から20m以浅とされてきた。エネルギー不足を補う方法として起振車を使用する方法があるが、起伏・沼沢等の複雑な地形では使用できないという欠点がある。
【0012】
従来の地質調査技術の一つである普通工法ボーリングで、清水を使用したオールコアサンプリングは、深度方向の地質情報をもたらし、コアとともにボーリング孔を得ることが期待される工法であるが、平面的に見れば点としての情報をもたらすにとどまっていた。さらに、固結度の低いシルト層・泥岩や破砕帯であるとか、角礫・砂を挟む固結度の低い泥炭層・砂質泥岩層では、スライム排除のための送水圧・量に基く孔内の乱れをもたらし、その結果、マトリックスが流失して乱れが生じ、地質構造推定や地化学・水理学等の各種試験において解釈の余地がない的確な判断を下すに足るコアやボーリング孔を得る事ができなかった。
【0013】
従来の地質調査技術の他の一つとして、掘削水の比重調整と孔壁保護のために、普通工法ボーリングに泥水を使用するオールコアサンプリング工法があるが、固結度の低いシルト層・泥岩や破砕帯であるとか、角礫・砂を挟む固結度の低い泥炭層・砂質泥岩層では、清水掘りよりもやや改善されるとしても、スライム排除のための送水圧・量に基く孔内の乱れをもたらし、その結果、微粒分流失して乱れが生じ、地質構造推定において解釈の余地のない的確な判断を下すに足る高品質コアや高品質のボーリング孔を得る事ができなかった。泥水の使用は、特に、地化学・水理学等の各種試験において、目詰まり・収着等の致命的な撹乱を起こす工法として、忌み嫌われている。さらにこの調査法で得られる情報は、前記の清水掘りボーリング工法同様に、平面的に見れば、点としての情報に留まる。
【0014】
従来技術の一つとして、主要建築物の支持基盤直上の地質構造を確認するために通称横坑調査法がある。この調査法では、主要構築物地点確認のため、従来型探査法と従来型ボーリングを組合せた事前調査を行い、次いでアクセスのための縦坑を設け、主要構築物設置・支持基盤面直上において、主要構築物を中心として交叉して設けた2本の横坑中で、地盤不安定要素の有無の確認を横坑内スケッチ等により、地質構造、特に表層から検出しがたい断層・すべり面・不整合面のような調査を実施する。次いで、従来型ボーリングで採取した岩石の室内試験結果を現位置において確認するために、多大な費用を要する横坑内において岩盤せん断試験等を実施する。
【0015】
この調査法の欠点は、表層からGL−100m問の重要な地質構造については、従来型の探査法では不確実性を有し(例えば比較的精度が良いとされる反射法であっても、分解能に限界があり、高価でそのため機動性を欠き)、併用する通常型ボーリング法は一般に高品質コア採取が困難なために、膨大な経費を必要とする横坑調査の中心部の選定において、不確実性(偶然性)を伴わざるを得なく、また、精密な坑壁スケッチのためには、孔壁の清浄化ばかりでなく磨ぎだす必要があり、往々にして、直交または斜交すべり面・伏在断層・不整合面等を見いだした場合には、横坑を延長し、調査を続行する必要があった。
【0016】
これは要するに、従来型探査法とボーリングによるコア採取、室内分析試験、横坑調査の組合せによる調査法において、一般的従来型探査法ではその精度から不確実性があり、従来型ボーリングはその品質から砂・礫・破砕岩等を含む固結度の低い泥岩・シルト岩・破砕帯では岩相に関する信頼性が低く平面的に見ると鉛直掘は点としての情報で斜掘は点線としての情報を与えるのみであり、原位置において地質・岩相に関する情報を確認するための横坑調査では、主要構築物設置基盤の損傷を避けるために基盤直上におけるスケッチによる確認に止まり、それ以下の深度における不整合面やすべり面の検出とそれらの立体的表示については無力であるばかりか、特定注目地層に関する流向・流速についての解析手段に寄与するところは無かった。
【0017】
従って、室内試験結果、ボーリングデータ、地質構造情報、地盤強度情報、風化帯情報、すべり面・不整合面・破砕帯に関する情報、水理・水文学的データ等を地図上で随時取出可能なデータとしてデータベース化し、それらを総合して逆解析法により、総合して三次元的表示・断面表示することができなかった。
【0018】
さらに、従来技術として、ボーリングの斜掘を用いて伏在断層・すべり面・不整合を地表から検出・確認する方法があるが、原位置における岩盤試験に関しては無力であり、所詮人が立ち入るための横坑または大口径の縦坑の建設を必要とし、経費的にも時間的にも機動性に欠ける大規模な工事を必要としていた。また、ボーリング孔内において孔壁を加圧して地盤岩盤の変形係数、降伏圧力、極限圧力数を得るための従来型原位置試験装置として、A型・B型孔内載荷試験装置がある。A型孔内載荷試験装置は、等分布荷重方式といい測定管が1室のゴムチューブ製測定用セルで構成される試験機で、圧力制御は加圧コックの開閉等を利用し圧力源からの圧力を制御するとともに、圧力計及び変移量測定用のスタンドパイプ等を備える。B型孔内載荷試験装置は等分布荷重方式といい測定管がゴムチューブ製の測定用メインセル及び上下のガードセルの3室で構成され、圧力制御は減圧制御弁を用い、メインセルとガードセルの圧力差は自動制御弁によって一定に保持され、圧力計及び変移量測定用のスタンドパイプ等を有する試験機である。A型孔内載荷試験装置・B型孔内載荷試験装置では、圧力載荷に当たっては、高圧ガスあるいはポンプで圧力を連結管を通じて供給し、いずれの場合にも乱れの少ないボーリング孔の形成を前提とするとともに、連結管にいても圧力損失を恐れて、加圧に対する膨張量の少ないことが要求される。また、測定管長は、円筒形圧力の場を二次元と見做せる充分な長さとし、直径の6倍以上が求められていて、キャリブレーションの時間・回数・載荷圧等に制約があり、固結度の低いすべり面に対しては充分な追従・測定を期待することが出来なかった。この他にC型孔内載荷試験装置があり、測定円管周囲の一部が載荷板であるような構造を有し、圧力制御用のポンプと圧力計とともに、孔壁変移量の測定が加圧ジャッキの吐出油量などに基いて測定する装置であるが、孔壁に引っ掛り装置の回収が困難になることが多く、その使用を避ける傾向があった。
【0019】
従来の孔内せん断試験としては、到達深度が数十m程度の粘性土・固結の程度が低い軟岩(特に、N値ゼロの地盤)に対して、ベーンブレードを土中に押込んだ後回転することによりせん断力を測定するベーンせん断試験があるが、粘性土から硬岩まで、適用できるものではなかった。
【0020】
この他にリングせん断試験機がある。当たり面に金属製の刃を放射状につけたようなコーンをロッドの先端部に装着し水圧で孔底に圧着させ、地上で回転角と発生する応力を測定する装置(ノンコア測定)であるが、N値20以下の粘性土程度の測定に留まり、また地上と孔底間におけるロッドのネジレによる測定誤差の問題のために、適用深度も数十mに限られていて、地表から深地下までの測定や、粘性土から硬岩に至るまで、同一掘進装置を使用するということは、不可能とされてきた。なお、ドラグビットやツーコーンビットを使用した専用のボーリングマシンを使用し押込みながら回転することにより一軸圧縮強度を測定するロータリーサウンディング装置があるが、一軸圧縮強度測定のみであって論外である。この装置とてもビットを押込むための反力に限界があり、最大適用深度も数十メートル程度で、改良土への適用に留まっていた。また、大型の先導ボーリング孔を利用するせん断試験法がある。一旦掘進を止めて先導ボーリング孔の孔底に対して一回り小さい外径のビットを使用してさらに掘進を続けた後、その小口径のボーリング孔に対し先端が開くリーマーを作用させ、ドーナッツ状の円盤を残す(その下側には先導孔と同一半径の空洞を形成する)。ドーナッツ状円盤の下にロッド先端に装着した冶具を開き、引抜くことにより、岩盤のせん断試験を実施する方法が提案されている。この方法は、直接的な岩盤せん断試験を実施可能なように見えるが、先導孔の孔底の平滑さ(一般にノンコア掘進はビットの食い込みが悪く精度がでない)と小外径ボーリング孔の中心位置の精度、メタル、リーマー掘進によるドーナッツ状円盤の精度、せん断試験における冶具の当たり面と地盤・岩盤の位置的精度等の解決すべき問題が多々あり、経費・時間・精度、潜在的なひびあるいは、固結度の低い挟在物の存在の可能性等々容易ではない。さらに、そのような精度が要求される準備時間中の応力の緩和についても考慮する必要がでてくるし、孔壁スケッチの広がりを期待できない。他のせん断試験方法としては、大口径の縦穴を建設し、その中心に中空円筒状の岩塊(土の室内円筒せん断試験用供試体と同様形状で竹輪状の岩塊)を自立せしめ、捩れせん断試験を実施する方法がある。この方法もまた、岩塊調製精度や測定開始までに応力緩和が起こる等の問題があり、もはや横坑建設によるブロックせん断試験と大差がないばかりか、合わせて実施されるべき横坑内孔壁スケッチのような広がりを持ったデータを期待できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の地質構造調査システム及びその方法は、各サブシステムにより、前記従来の各方法の問題点を解決することを目的とする。さらに、本発明の地質構造調査システム及びその方法は、各サブシステムから得られた測定データを統合して、解析することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、第1の発明は、地質構造調査システムであって、レイリー波及び反射波を測定して、地質構造を探査する波構造探査サブシステムと、懸濁気泡水を用いてボーリング孔を掘進して、ボーリング孔の形成とコアを採取するコア採取サブシステムと、遮水型多重パッカーにより湧水圧試験(JFT)を行って、地質の水質水文を測定するJFT測定サブシステムと、前記懸濁気泡水により洗浄されたボーリング孔底で孔底せん断を行って、地質の強度を測定する孔底せん断強度測定サブシステムと、前記ボーリング孔内で水平載荷試験を行う孔内水平載荷試験サブシステムと、前記ボーリング孔内を撮影する孔内撮影サブシステムと、前記各サブシステムで得られた多要素データを用いて、地質の三次元解析を行う多要素データ統合サブシステムと、から構成される地質構造調査システムである。
【0023】
第2の発明は、前記地質構造調査システムにおいて、前記S波構造探査サブシステムは、前記レイリー波及び前記反射波を測定するために、地表に設定されたグリッドの各頂点に配置される複数のアレイを備える、地質構造調査システムである。第3の発明は、前記地質構造調査システムにおいて、前記アレイは、所定の間隔で配置される複数の受信機から構成される、地質構造調査システムである。第4の発明は、前記地質構造調査システムにおいて、前記コア採取サブシステムは、鉛直堀及び又は斜掘のコア採取装置を備える、地質構造調査システムである。
【0024】
第5の発明は、前記地質構造調査システムにおいて、前記JFT測定サブシステムの前記多段パッカーは、測定部位の上側に配置される上多段パッカーと、前記測定部位の下側に配置される下多段パッカーとから構成される、地質構造調査システムである。第6の発明は、前記地質構造調査システムにおいて、前記上多段パッカー及び前記下多段パッカーは、複数のパッカーである、地質構造調査システムである。
【0025】
第7の発明は、前記地質構造調査システムにおいて、前記孔底せん断強度測定サブシステムは、掘進にあたって先導し、せん断面を確実にする錐冠を有し、掘進時に前記コアを保持しつつ回転力を与えることにより前記コアを孔底からせん断するコア引き上げを確実にするためのコアリフターを備える、地質構造調査システムである。
【0026】
第8の発明は、前記地質構造調査システムにおいて、前記孔内水平載荷試験サブシステムは、前記ボーリング孔内で送圧による圧力を測定する複数のセルと、接触したセルによるボーリング孔壁の変移を測定する複数の変移計とを備えることにより、多元的にボーリング孔壁の圧力及び変移を測定する、地質構造調査システムである。第9の発明は、前記地質構造調査システムにおいて、前記孔内水平載荷試験サブシステムの前記複数のセルは、当該複数のセルを孔壁の変形に追従させるための変形追従具をそれぞれ備える、地質構造調査システムである。第10の発明は、前記地質構造調査システムにおいて、前記セルは、弾性を有し、互いに圧力が伝達されるような、地質構造調査システムである。
【0027】
第11の発明は、前記地質構造調査システムにおいて、前記多要素データ統合サブシステムは、前記各サブシステムで得られた前記多要素データを記録すると共に、前記多要素データ用いて三次元の画像として解析・表示する、地質構造調査システムである。
【0028】
第12の発明は、地質構造調査方法であって、レイリー波及び反射波を測定して、地質構造を探査するS波構造探査工程と、懸濁気泡水を用いてボーリング孔を掘進して、コアを採取するコア採取工程と、多重パッカーにより湧水圧試験(JFT)を行って、水質水文を測定するJFT測定工程と、前記懸濁気泡水により洗浄されたボーリング孔底で孔底せん断を行って、地質の強度を測定する孔底せん断強度測定工程と、前記ボーリング孔内で水平載荷試験を行う孔内水平載荷試験工程と、前記ボーリング孔内を撮影する孔内撮影工程と、前記各工程で得られた多要素データを用いて、地層の三次元解析を行う多要素データ統合工程と、から構成される地質構造調査方法である。
【0029】
第13の発明は、前記地質構造調査方法において、前記S波構造探査工程は、前記レイリー波及び前記反射波を測定するために、地表に設定されたグリッドの各頂点に配置される複数のアレイを備える、地質構造調査方法である。第14の発明は、前記地質構造調査方法において、前記アレイは、所定の間隔で配置される複数の受信機から構成される、地質構造調査方法である。第15の発明は、前記地質構造調査方法において、前記コア採取工程は、鉛直堀及び又は斜掘のコア採取装置を備える、地質構造調査方法である。
【0030】
第16の発明は、前記地質構造調査方法において、前記JFT測定工程の前記多段パッカーは、測定部位の上側に配置される上多段パッカーと、前記測定部位の下側に配置される下多段パッカーとから構成される、地質構造調査方法である。第17の発明は、前記地質構造調査方法において、前記上多段パッカー及び前記下多段パッカーは、複数のパッカーである、地質構造調査方法である。
【0031】
第18に係る発明は、前記地質構造調査方法において、前記孔底せん断強度測定工程は、非掘進時に前記コアを保持しつつ回転・載荷することにより前記コアを孔底からせん断するコアキャッチャーを備えて引張強度を測定する、地質構造調査方法である。
【0032】
第19に係る発明は、前記地質構造調査方法において、前記孔内水平載荷試験工程は、前記ボーリング孔内及び測定セル内の圧力を測定する複数のセルと、ボーリング孔壁の変位を測定する複数の変位計とを備えることにより、多元的にボーリング孔壁の圧力及び変位を測定する、地質構造調査方法である。第20に係る発明は、前記地質構造調査方法において、前記孔内水平載荷試験工程の前記複数のセルは、当該複数のセルを孔壁の変形に追従させるための変形追従具をそれぞれ備える、地質構造調査方法である。第21に係る発明は、前記地質構造調査方法において、前記位置保持具は、椀状で弾性を有し、前記セルの周囲に取り付けられる、地質構造調査方法である。
【0033】
第22に係る発明は、前記地質構造調査方法において、前記多要素データ統合工程は、前記各工程で得られた前記多要素データを記録すると共に、前記多要素データ用いて三次元の画像として表示する、地質構造調査方法である。
【発明の効果】
【0034】
本発明の地質構造調査システムは、S波構造探査サブシステムによるS波構造から推定される伏在断層・不整合面・すべり面の三次元的推定値と、高品質ボーリング孔形成・高品質コア採取サブシステムを用いて採取されたコアデータから得られる地質・構造データと、孔内観測サブシステムによって得られる地質・構造の確認と、孔内水平載荷試験サブシステム及び孔底せん断試験・引っ張り強度試験による原位置試験と、JFT測定サブシステムによる原位置透水性試験及び間隙水圧試験等の実施による水理・水文学的情報とから、地盤岩盤内の流向流速(あるいは流速線)分布を得ることが可能となり、さらこれらの多要素データを用いて、多要素データ統合サブシステムにより地質構造の三次元の立体的あるいは平面的表示(さらに断面表示)が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の地質構造原位置調査システムを示すブロック図である。
【図2】図1のS波構造探査サブシステム100の原理を示す図である。
【図3】図1のコア採取サブシステムを示す構成図である。
【図4】図1のS波構造探査サブシステム及びコア採取サブシステムの配置を示す斜視図である。
【図5】図1のコア採取サブシステムによる地質構造確認の効果を示す原理図である。
【図6】図1のJFT測定サブシステムを示す断面図である。
【図7】図1の孔底せん断強度測定サブシステムを示す断面図である。
【図8】図1の孔内水平載荷試験サブシステムを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明に係る地質構造原位置調査システム(地質構造調査システム)及びその方法は、重要構築物を設置する支持基盤の地層・原位置特性に関するボーリング孔内(または孔底、コア等)で簡易に実施するものである。以下、本発明の地質構造原位置調査システム及びその方法に係る実施形態を、図1〜図8を参照して説明する。
[システムの全体構成]
本発明の地質構造原位置調査システム1の全体構成を、図1のブロック図を用いて説明する。図1において、地質構造原位置調査システム1は、S波構造探査サブシステム(波構造探査サブシステム)100と、コア採取サブシステム200と、JFT測定サブシステム300と、孔底せん断強度測定サブシステム400と、孔内水平載荷試験サブシステム500と、ボアホールテレビサブシステム(孔内撮影サブシステム)600と、多要素データ統合サブシステム700と、から構成される。
【0037】
S波構造探査サブシステム100は、後述のアレイをグリッドの頂点に配置してレイリー波及び反射波を測定する。コア採取サブシステム200は、懸濁気泡水を使用して、前記グリッドの頂点で鉛直及び斜堀ボーリングを併用して、孔壁を形成してコアを採取する。JFT測定サブシステム300は、マルチパッカー式の湧水圧試験(JFT)を行って、水文状況を測定する。孔底せん断強度測定サブシステム400は、コア採取サブシステム200に含まれる掘進装置により懸濁気泡水を使用し清水掘りに準ずるボーリング孔を形成し、任意の深度で形成された新鮮な孔底を懸濁気泡水により洗浄した後、直ちに孔底せん断試験を実施する。
【0038】
孔内水平載荷試験サブシステム500は、多元的にボーリング孔内で水平載荷試験を行う。ボアホールテレビサブシステム600は、ボーリング孔内に挿入されたボアホールテレビによって、自動的に孔内を観測して所定のアルゴリズムで解析し、さらに観測及び解析結果を記録する。多要素データ統合サブシステム700は、各サブシステムで得られたデータを収集記憶することにより、多要素データを統合するデータベースを構築して、地層の三次元解析を行って解析結果を画像表示する。これによって、多要素データ統合サブシステム700は、伏在断層・すべり面・不整合面確認、走向傾斜確認を可能とする。
【0039】
地質構造原位置調査システム1では、地表からは検出確認し難かった重要構造物の支持基盤上下における鋭角または直立した伏在断層・すべり面・不整合について検出・確認することができ、従来型の横坑内調査(あるいは活断層発掘調査)を不要ならしめるとともに、ボーリング工法を活用した孔底せん断強度測定サブシステム400及び孔内水平載荷サブシステム500により、従来型の横坑内調査を不要ならしめることができる。
【0040】
なお、従来技術では、地表から伏在断層・すべり面・不整合を取りこぼしなく検出することが出来ず、さらに効率よく・高精度で機動的に確認することが到底できなかったが、本発明のサブシステム100〜300はこれを可能にした。しかし、原位置試験としては従来型の横坑あるいは縦坑において大規模なせん断試験や水平載荷試験を行なわざるを得なかった。
【0041】
これに対して、本発明においては、孔底せん断強度測定サブシステム400による孔底せん断試験と、孔内水平載荷試験サブシステム500による水平載荷試験とにより、横坑あるいは縦坑内の原位置岩盤試験を必要としなくなり、任意の深度ごとに、複数のボーリング孔内で実施することにより、支持基盤の上下のみならず地盤全体において原位置岩盤特性が得られる。即ち、着目地点において、孔内水平載荷試験により地盤岩盤の変形特性の測定解析(堆積土・軟岩にあっては、c、φ値測定解析)を行うことができる。なお、これらボーリング孔内での水平載荷試験及び孔底せん断試験は、機動的に試験位置を選定する前記鉛直・斜掘を特徴とする適地選定によって初めてそれらの効果を発揮するものである。
【0042】
さらに、後述の図4に示すように、コントロールボーリング・定方位ボーリングを、本発明の地質構造原位置調査システム1と組み合わせることにより、重要構築物についても、断層破砕帯・すべり面等の有無確認ならびに岩石強度の原位置試験を精度良く実施することが出来るとともに、多くの開口部を残すことなく精度の高い地質・構造調査や岩盤強度原位置試験を機動的・経済的に実施することが出来る。
【0043】
各サブシステムによって得られる、地質構造や、層序、地盤強度、水理・水文学的情報、流向・流速・流跡線等の情報、地表からの岩盤試験結果は、多要素データ統合サブシステム700によって、随時地図上に表示可能なデータとしてデータベース化され、次いで各データについて逆解析による三次元解析を実施し、総合的な画像として立体あるいは断面として表示する。実測データには自然現象としての「ゆらぎ」があることから、本発明から得られるデータとその解析結果は、誤差として記録又は表示することも可能である。
【0044】
このように、本発明では、地盤岩盤に関する、特に、表層から深度約−100m程度の間の支持基盤のS波構造測定解析による伏在断層・すべり面・不整合面等の地質構造検出と地盤岩盤強度を効果的に得ることができる。なお、GL−1500m程度までは適用可能である。
[S波構造探査サブシステム]
S波構造探査サブシステム100は、レイリー波(Rayleigh Wave)と反射波とを複合したS波構造の測定・解析により地質構造を機動的に検出する。具体的には、S波構造探査サブシステム100は、地表に設定されたグリッド(測定点)の中心点に系統的に微振動アレイを配置するものである。なお、グリッドの中心点には、後述するようにボーリング孔が形成され、ボーリング孔に重錘を落下させて観測用波を発生させる重錘落下式発振源を用いる。
【0045】
S波構造探査サブシステム100は、図2に示すように、グリッド交点にシステマティックに配列された発振源を備え、受信周波数を8秒程度にする等の工夫を加えた表面探査と、天然のレイリー波発振源を用いて独特の配列を形成する複数微動小アレイ(図2(a)に示す同心円上複数受信装置群を受信単位とする)とを複合する。
【0046】
図2(a)は、レイリー波伝播における位相波速度に着目したS波構造探査サブシステムの配列例(但し、1測線のみ)の重ね合わせの状態を示し、図2(b)は、S波構造探査サブシステム100のアレイの配列例を示す。S波構造探査サブシステム100は、図2に示すように所定間隔(例えば約25m間隔)で地表に想定したグリッド上に、図4の表面波探査測線を設定する。
【0047】
S波構造探査サブシステム100は、約25m間隔の表面波探査と、微動アレイ探査(受信機配置は図2(b)の参照)とを同一測線上で実施することにより、これらを同調せしめて、それぞれ異なる深度の地層によって変調を受けたS波位相波速度として測定する。
【0048】
なお、本州沿岸で発生するレイリー波に随伴する位相の伝播速度に着目して得られるS波伝播速度では、従来は独立解析していたために生じたGL−20m〜−50mにおける不確実性(反射法は信号が微弱となり、レイリー波はぼやける)があった。しかし、S波構造探査サブシステム100では、それらのデータを互いに補わせそれらの弱点を計画的に克服するために、レイリー波及び反射波の両探査測定における測定点を、互に相重なるように計画的に配置する。これによって、両探査法により得られたデータを(共通のS波伝播速度として)、以下の解析法により解析する。
【0049】
S波速度の伝播が地下の地質構造の影響を受けるところから、測定法で得られる同一地層の影響を反映するS波信号を(重ね合わせて)統合して解析することにより、従来の弱点であった表層〜GL−100mの地質構造の三次元解析が可能になる。例えば、S波構造解析では、レイリー波及びS波の両探査法で得られたデータについて、逆解析法と順解析法を複合した「複合シミュレーション解析法」によって、従来実施困難であった表層からGL−約100mに至るS波構造が得られる。これによって、改良型重錘落下式発振源について、従来からの弱点であったGL−20m〜−50m間におけるS波探査の弱点を機動的・経済的に補うことができる。
【0050】
さらに、S波構造探査サブシステム100は、「従来方法である人工地震を使用したレイリー波探査法の到達深度限界(GL−20m以浅で有効)」に対して、人工発信源エネルギー不足の改善を機動的落下錘の重量増加により行い、GL−100mに至る計測と解析を可能とする。また、S波構造探査サブシステム100は、グリッド交点上に発信源と受信器をシスティマティックに配置するとともに特性周期(8秒±2秒)の受信器群を配置し、地中地質構造の断層・すべり面・不整合を解釈する。
【0051】
なお、この人工発振源を使用したレイリー波探査法において、落錐式発振源に代えて、よりエネルギーの高い起振装置や起振車を使用しても、レイリー波の複合解析のためには何ら差し支えないばかりか、データーの確実性を上昇させることができる。本発明における同心配置レイリー波検出装置(S波構造探査サブシステム100)において、受信機を10機を超えて拡大多重化することや、単数の同心配置レイリー波検出装置と併用することは、地層性状把握における到達深度をGL−約3000m程度まで増大させる。しかし、レイリー波解析の特徴として同心円内位相速度の平均値を与えるという性格上その数を、本発明における「人工発振源を使用したレイリー波探査法と測線を合致させ測定・複合解析」を行うという特徴から、経済効果を低減するが、本発明の目的達成を阻害するものではない。
[コア採取サブシステム]
コア採取サブシステム200は、上述のグリッド頂点上位置に鉛直堀・斜掘のボーリング孔を形成し、掘進用懸濁気泡水の自動スライム機能を利用し掘進する。これによって、平滑なボーリング孔壁を有するボーリング孔の形成と、実質上清水堀でコアの採取とを可能とする。なお、懸濁気泡水の自動スライム排除機能によるボーリングを行うものであり、清水掘と気泡ボーリングの長所を生かし、これらの欠点を克服した工法である。
【0052】
コア採取サブシステム200は図3に示すように構成されており、懸濁気泡水による孔底での自動スライム排除機能を備えている。図3の原水タンク202中には原水として地下水又は表層水、やむを得ない場合には水道水が貯留されており、原水タンク202は地下水の沈砂池としても使用している。原水タンク202に貯留された原水は、送水ポンプ204により給水管を介して、発泡用ガスで懸濁した気泡水を生成する液混合器208に連続的に圧送される。発泡用ガスボンベ210と気液混合器208の外部に配置されており、発泡用ガスボンベ210と気液混合器208とはガス供給管で接続されている。気液混合器208には、原水の供給と同時に発泡用ガスボンベ210からガス供給管を介して、発泡用ガスが連続的に一定混合比率で供給される。従って、気液混合器208中では、原水と不活性ガスとが高速混合・分散することにより、発泡用ガスで懸濁した気泡水が生成する。なお、液混合器208の前後の配管には、弁206、212が配置されている。液混合器208で生成された懸濁気泡水(清水)は、配管を介して、鉛直掘削コア採取装置220や傾斜掘削コア採取装置230に導かれる。これらのコア採取装置の孔底において、コア250が懸濁気泡水を用いて掘削される。
【0053】
また、コア採取サブシステム200は、後述の図4に示すように、注目調査位置の支持基盤面及びこれを挟む上下の地質・構造の確認を目的とし、支持基盤面の損傷を最小限に抑えるために、着目支持基盤領域の四周で、組織的に(体系的に、所定間隔で)実施する斜掘を特徴とするボーリングとオールコア採取を実施する。
【0054】
なお、S波構造探査サブシステム100のように反射法とレイリー波測定点をグリッド頂点に配置して測定する際に、嵩密度が似通う地盤岩盤あるいは層厚が薄い場合にはその解像度の制約から異なる地盤岩相(例えば不整合)で、自動解析あるいは画像表現を精密かつ明確にし難いという限界があった。先に従来技術のところで述べたように、群列を形成するような多数の鉛直ボーリングの実施は、鉛直に近い伏在断層・すべり面・不整合の検出には適せず、地盤岩盤の損傷を増加せしめるだけであって、徒労に近いことに着目して、これを克服するためにコア採取サブシステム200を工夫したものである。このコア採取サブシステム200は、従来型の普通工法(清水掘)ボーリングに替えて、「懸濁気泡水を使用した自動スライム排除機能」を付与した「清水掘コア採取工法」を使用し、計画的に配置された複数の傾斜ボーリングと鉛直ボーリングと併用して実施する。
【0055】
それらの鉛直ボーリングの配置(図4参照)は、建造物予定地の中心及びこれを取囲むように、所定間隔でグリッドを形成せしめ、その頂点に配置された鉛直ボーリング群を形成し、鉛直ボーリングの配置付近を挟むよう傾斜型ボーリング群を形成する。このように配置された斜掘型ボーリング群を有する地質構造調査ボーリングシステムにより、地表からの露頭調査・リニヤメント調査では、存在・不存在が確認しづらかった伏在断層・すべり面・不整合のような構造的広がりを持つ地質・構造すなわち深度・走向傾斜の確認を可能とするばかりか、複合表面波探査システムに残された地質構造確認評価に関する不確実性を低減し、その数値的評価を可能にする。
【0056】
コア採取サブシステム200において、掘進方法として「懸濁気泡水を使用するコントロールボーリング」の適用や、「懸濁気泡水を使用する定方位コア採取」の適用、さらに「深度・岩種に応じた錘冠の取替え、泥水使用あるいは界面活性剤使用から懸濁気泡水への変更」、「懸濁気泡生成のための送気用ポンプや圧縮空気ボンベの使用の使用、不活性ガスとして窒素・アルゴンボンベとそれら等のグレード変更、水素混合不活性ガスボンベの使用」等はなんら差し支えなく、しかも同一掘進システムの適用(懸濁気泡水生成システムと掘進装置の使用)が可能であり、工程上差し支えなく効果を損なうものではないばかりか、それらの要素技術を地盤岩盤の硬軟・深度に応じて随時組合せることは、本発明の効果を増大せしめものである。また、コア採取サブシステム200のように、「清水掘コア採取工法」に対し、空気に替えて、窒素、高純度チッソ、アルゴン、水素入りアルゴン、ヘリウム等を使用する工法を用いても良く、この場合には、結晶質岩は勿論のこと固結度の低い泥岩、破砕帯のような岩屑の半固結混合層、礫と粘土からなる固結度の低い混合層等も円滑に、しかも微粒分を流失やコア構造の乱れのないコアを採取することが出来るばかりか、採取したコア・地下水に関する調査目的に応じて変更することにより、微生物学的試験、地化学的試験、環境化学的試験に対応することが可能になる。
【0057】
なお、コア採取サブシステム200において、懸濁気泡水中の気泡安定化のために界面活性剤を使用しても良いが、界面活性剤を使用しないでも結晶質岩は勿論のこと固結度の低い泥岩、破砕帯のような岩屑を含む半固結混合層、礫と粘土からなる固結度の低い混合層等についても円滑に、しかも微粒分を流失させることなく、コア構造の乱れのない高品質のコアを採取することを可能ならしめるので、地化学的制約がなければ、工程の促進上有利である。
【0058】
コア採取サブシステム200では、原則的には同一の孔底せん断試験用錘冠と掘進装置を使用し(錘冠はオールコア採取(ダブルコアチューブ方式)が可能とするとともに鉛直掘進部と孔底せん断試験当たり面を構成するためのらせん状に配置されたダイアモンドビット丘群からなる孔底せん断試験錘冠と、掘進ロッドの地上部には回転角と回転応力を測定するための装置を有する。
【0059】
また、コア採取サブシステム200の掘削コア採取装置をそれぞれグリッド交点に配置して(図4)、鉛直堀や傾斜掘でボーリングを行う。コア採取サブシステム200は、懸濁気泡水によってボーリング孔内の洗浄を実施しながら、ボーリングを行なうため、孔底・孔壁における付着・沈殿スライムによる滑りが無くなり、ダイヤモンドビットを使用する場合には、ダイヤモンド・ダストで研磨しているような滑らかな孔壁が得られる。このように、コア採取サブシステム200を用いることにより、S波構造探査サブシステム100で得られた、地質構造について、コア試料の地層構成鉱物・土質について分析可能となり、構造的すべり面の把握が可能となる。
[S波構造探査サブシステムとコア採取サブシステムとの配置]
図4はS波構造探査サブシステム100とコア採取サブシステム200との配置の相互関係を図示したものである。図4において、地表面1000にはS波構造探査サブシステム100が図2に示したような所定間隔で複数配置され、地表面1000の下方の地中に対象構築面1100が位置し、対象構築面1100よりさらに下方の地下の調査必要深度に調査必要深度面1200が位置する。図5中、敷地内調査として従来工法ボーリング260が、主要構築物位置に対して最外周で、調査必要深度面1200まで行われる。また、支持基盤調査としてコア採取サブシステム200の鉛直ボーリング270が、従来工法ボーリング260の位置よりも主要構築物位置により近い外周位置の矩形状頂点及び主要構築物位置で、調査必要深度面1200まで行われる。さらに、外周補完調査として前記矩形状の外周位置の各辺の中点で、コア採取サブシステム200の鉛直ボーリング280が行われる。また、傾斜不整合確認調査として、コア採取サブシステム200の傾斜ボーリング290が、外周位置内で、主要構築物接地面1100まで行われる。
【0060】
なお、S波構造探査サブシステム100は地表からの探査により、S波伝播速度の異なる面に関するデータの把握を行って、精密調査の候補となる地点・支持基盤深度についての三次元情報を与える一方、コア採取サブシステム200はグリッド交点に配置され、これにより構造的な広がりを有する伏在断層・すべり面・不整合等の確認が可能となる。それらのデータは、ボーリング孔内におけるボアホールテレビサブシステム600の併用により、伏在断層・不整合・すべり面の走向傾斜計測も可能となる。
【0061】
図5は、システム化された配列による鉛直・斜掘を行うコア採取サブシステム200による地質構造確認の効果を示す原理図である。従来の普通工法による鉛直掘
群列ボーリングや地表からの伏在断層・不整合・すべり面の把握が(あるいはリニアメント調査では)困難であったが、コア採取サブシステム200では、鉛直に近い鋭角で直立した伏在断層・すべり面・不整合の検出・確認が可能となる。なお、S波構造探査サブシステム100とコア採取サブシステム200とは、平行して実施可能であり、得られるデータ(情報)を随時相互に交換することにより、それらの機動的な実施を促進するばかりか、それらのデータ精度を向上させることができる。さらに本願発明の高品質鉛直掘・傾斜掘システムの周囲を取り囲むように従来法によるボーリングによる地質調査を行い、あるいはこれに懸濁気泡水を使用した地質調査はそれら自体精度は劣るが、本願発明による精度向上が見込まれる。
[JFT測定サブシステム]
JFT測定サブシステム300は、懸濁気泡水ボーリングによって得られた高品質孔壁を有する複数ボーリング孔において、前記ボアホールテレビの観測結果に加えて、孔内水レベルの回復速度測定に基き、特定注目地層に対して複数パッカを有する湧水圧試験(JFT)を適用して、複数地点で透水係数の測定と湧水圧の測定を実施し、従来困難であった特定地層内地下水の流向流速を測定・解析する。
【0062】
図6に示すように、JFT測定サブシステム300は、多段パッカーJFTを備えている。この多段パッカーJFTは、ボーリング孔301内において、注目地層の上方に配置される上多段パッカー302、注目地層である測定範囲の下方に配置される下多段パッカー304を有している。各多段パッカーは、図6においては2重のパッカーとなっている。
【0063】
ボーリング孔301の内部には、トリップバルブ314を装備するストレーナー(多孔管)318が設けられ、ボーリング孔301内の特定深度で注目地層を挟む位置において、まず孔内水排除により注目地層の間隙水圧を形成せしめる。その後、調圧器308により加圧パイプ306を通じて各多段パッカー302、304に加圧水を送圧することにより、多段パッカー302、304を孔壁に密着せしめて、各多段パッカー302、304によって当該パッカー上下の水密性が担保される。ストレーナー318は、多数の開口を有しており、多段パッカー302、304の間に位置する測定管317の管壁に配置される。孔壁からストレーナー318の開口を介してその地層の湧水が測定管305に流れ込む。トリップバルブ314は、ストレーナー318の直上で上多段パッカー302の下方であって、測定管317内に配置され、測定管305の上下を閉鎖又は開放する。下部圧力センサー312によってJFT内圧を測定した後、落下錐316作用によりトリップバルブ314を開放して、上部及び下部圧力センサー310、312、により、湧水圧及び透水係数を測定する。そして、測定されてた湧水圧及び透水係数は、通信ケーブル320によって記録部322に送信されて記憶される。
【0064】
このように、本システムは、従来不可能とされてきた任意深度ボーリング孔内におけるJFTの高精度の使用を可能とするもので、その理由は懸濁気泡水使用掘進による高品質ボーリング孔壁の形成と従来型JFTとは根本的に異なり、多重パッカーの使用により湧水圧と透水係数の高精度測定を可能としたものである。また、JFT測定サブシステム300は、トレーサー等を使用することなく、複数のボーリング孔内で測定した湧水圧及び透水係数の測定・解析から特定地層内地下水の流向流速を得ることを可能とする。なお、JFT測定サブシステム300は、GL−1500m程度まで適用可である。さらに、JFT測定サブシステム300を用いれば、単数あるいは複数のバルブを介した単管あるいは複数の高真空パイプを装備した採水装置を使用して、深地下において原位置ガスが溶存したままで採水しても、本サブシステムの効力を損なわない。
[孔底せん断強度測定サブシステム]
孔底せん断強度測定サブシステム400は、孔底せん断試験に当たって、特殊形状のビットで任意深度までオールコアを採取し、一旦停止後、懸濁気泡水による洗浄、新鮮な孔底においてせん断試験を実施し、同一掘進システムで、任意岩質、任意深度で、せん断試験を繰返し実施可能であり、掘進終了時のコア回収に当たりインナーチューブ内に設置されたコアキャッチャー保持コアと岩盤と間の引張応力すなわち引張強度の測定解析を行うものである。
【0065】
図7に示すように、孔底せん断強度測定サブシステム400は、アウターチューブ401の先端に特殊形状のビット(錐冠)402を備える。このビット402は、せん断試験時に孔底岩盤との接触を常に新鮮に保つために、螺旋状に配列されたダイヤモンド丘群を植え込んだコーン状ビット402aと、さらにその先端にオールコア採取用垂直先導掘進ビットに似た先端ビット402bとを備えている。ビット(錐冠)402において、先端ビット402bは掘進にあたって先導し、コーン状ビット402aはせん断面を確実にする。また、インナーチューブ404内には、ビット402により削り出されたコア405を確保するコアキャッチャー(コアリフター)406とコアスリーブ408を内蔵する。コアキャッチャー(コアリフター)406は、掘進時にコアを保持しつつ回転力を与えることによりコアを孔底からせん断するためのコア引き上げを確実にする。なお、懸濁気泡水を使用するときには、掘進と同時に孔内洗浄が行なわれる。ビニルスリーブ408を使用しても差し支えないし、アウターチューブ401に対しビット402の外径を僅かにオーバーサイズにし、アウターチューブ401の外径とロッド410の径を一致させることにより、ロッド401の孔壁接触を避けることが出来る。もし、さらに慎重を期する場合には、一旦ケーシングを挿入した後、適切なクリアランスを有する孔内で新たに孔内せん断試験を行なうことも考えられるが、孔底せん断試験開始時のセンタリングについては注意が必要である。また、同一掘進装置を使用し粘性土のせん断試験を実施しても良いが、せん断試験用錘冠としてはメタルクラウンを使用しても良い。
【0066】
図7に示すように、アウターチューブ401上方には、アウターチューブ401の回転角及び回転応力(錐冠直上トルク、掘進圧、引張応力)を測定・記録する孔内回転測定部412と、懸濁気泡水供給部418から孔内への送水圧を測定して記録する水圧測定部414とを有する。孔底せん断試験の直前には、一旦掘進を停止しそれまで掘進に使用した懸濁気泡水の自動スライム排除機能を活用しビット(錘冠)402先端及び孔内の洗浄を実施した後、孔底せん断試験を実施する。これによって、ボーリング孔底において新鮮な土質・岩盤において、任意深度でせん断試験が繰返し実施可能とする。なお、ロッド410の回転角(変位)と回転方向の応力は、回転の程度の目安とするために、地上に設けられる地上トルク計測部422と、アウターチューブ401の上部に設けられる孔内回転測定部412とで、測定することにより、深度とともに変化するロッド410の捩れ誤差を補正することが出来る。また、孔内回転測定部412、水圧測定部414について、電源は電池式が、デジタル信号の伝達はタイマー作動によるデータ記録送信が、それぞれ作業に便利である。
【0067】
孔底せん断試験は、任意深度において新鮮な地盤岩盤の孔底において繰返し実施可能であり、そのような場合には、試験開始直前に一旦掘進を停止し、掘削に使用した懸濁気泡水を流し、孔底のスライムを洗浄する。なお、泥水は潤滑性を与え、清水洗浄ではスライムが孔底付近における吹上げと沈降をもたらし無益である。その洗浄後、所定の(ロッド重調整)給圧に調節し回転力を増減することにより、c、φを求めることができ、一定の垂直荷重・回転数における掘削速度から一軸圧縮強さを求めることが出来る。掘進終了時においてはオイルを負圧伝道媒体とし、引張力をロッド410に伝達し、ビット402内面に設けられ、スムーズに独立回転可能なコアキャッチャー406によるコア回収を実施する。これにより、ボーリング孔底地盤岩盤から自立したコア405の引張切断に必要な応力すなわち地盤岩盤の引張強度の測定を行う。なお、コアキャッチャー406は、ビット内面に突出して設けられ、掘進時にコアがインナーチューブ404内を進むことを許容すると共に、非掘進時にコアを保持する。
【0068】
このように孔底せん断強度測定サブシステム400は、堆積土から軟岩、硬岩に至るまでの孔内原位置地盤試験を行うことができ、従来試験坑調査では達成し得なかったような機動的、経済的な地質構造調査を可能とする。さらに、本サブシステムにより、横坑内岩盤試験・スケッチが不要になる。なお、本サブシステムの使用可能限度はGL−約1500m程度とし、ロッド径の適用限度はφ約116mm程度とする。なお、孔底せん断強度測定サブシステム400は、特殊なオールコア採取用ビットの使用と同一の掘進装置と同一の特殊な形状のダイヤモンドビットを使用し、硬岩と軟岩の別によらず掘進可能である。また、孔底せん断強度測定サブシステム400に使用する掘進装置は、掘進圧(給圧)が油圧で制御できて、掘進予定深度に対して余裕があれば通常のものであれば良い。なお、懸濁気泡水発生装置の使用条件の変更によりボーリングのみならず、オールコア採取、ビニルスリーブ付ワイヤライン掘進・コア採取が本来的に可能である。
【0069】
孔底せん断強度測定サブシステム400は、掘進装置、回転力・掘進圧力伝達用ロッド410とこれに装着可能な地上トルク測定部422、ロッド410の地中先端には先導掘進部付孔底せん断試験用当面を有する特別仕様のビット402及びコアキャッチャー406を装着したインナーチューブ404を備え、インナーチューブ404の内部には、送水圧計測・AD変換記録を行う水圧測定部414と、錘冠上トルク測定、掘進圧計測、引張応力計測を行う孔内回転測定部412とを装着する。なお、ビット402はダイヤモンドビットのみならず、(進用水同様に)土質・岩相に応じて随時、メタルビツトによるオールコア採取、ノンコア掘進等にも切替可能である。
【0070】
コア採取サブシステム200により、所定の深度まで懸濁気泡水を掘進水に使用したボーリングまで掘進し、一旦掘進を停止し、懸濁気泡水のスライム自動排除機能を利用して孔底・孔内を洗浄し、直ちに孔底せん断試験を開始する。孔底せん断試験終了後、前記孔底せん断試験用の特殊錘冠を装着したまま、オールコア採取を行ないながら掘進を続けることや、掘進終了時にロッドを引上げるに当たり、インナーチューブ404内に内蔵されたコアキャッチャ406の作用により、孔底から自立しており、通常ビニルスリーブ408内に保護された状態であるコア405は、上方に引張られ、コア405の原位置における引張強度の概数を得ることができる。ビニルスリーブ408内に収納した状態で得られるコア405から、せん断試験の直前直後状況観察により、データが提供される。孔底せん断強度測定サブシステム400による孔底せん断試験は、横坑内ロックせん断試験と異なり、供試体ロックの切出しと磨ぎだしに伴う振動や時間的緩みがなく、任意の深度毎に、機動的にかつ経済的に繰返し実施することが出来る。
【0071】
孔底せん断強度測定サブシステム400により、軟岩・粘性土にあってはモール円測定・解析、最大応力測定が可能であり、硬岩にあっては最大応力の測定が、いずれも孔底で新鮮な地盤岩盤に対して適用可能である。同一の掘進装置を使用して、堆積土・軟岩・硬岩のいずれに対しても測定解析可能であり、しかも表層から地下約1000mに至る任意の深度で繰返し、孔底から地表にいたる途中の圧損・ロッドの捩れによる応力緩和・信号減衰を自動的に測定・補償し、解析することが可能である。更に、このビット402の特徴とするところは、先端の小口径ビット部分は、ダブルコアチューブと同様にオールコア採取が可能(ビニルスリーブを使用しても回転応力を生じない)であるので、ビット402内側に備えられたコアキャッチャー406によって抱えられた地盤岩盤から自立しているコアを持ち上げるときに、引張応力の概数を測定することができるという、従来実現したことのなかった測定値を原位置で新鮮な岩について得ることができる。しかし、本孔底せん断強度測定サブシステム400単独では、岩盤特性に関する平面的広がりに対してはピンポイントの調査に留まるので、複数孔で実施することは、その効果を増大する。。
[孔内水平載荷試験サブシステム]
孔内水平載荷試験サブシステム500は、等圧に保たれた複数のセルと、孔壁変位量を測定する変位計等とを含み、水平載荷試験を行う。
【0072】
図8を用いて、孔内水平載荷試験サブシステム500の構成を説明する。本サブシステム500は、圧力センサー・AD変換器内蔵の多元測定用のセル502群と、変移計506群から構成されるセンサー部と、圧力計やバルブ等を装備した給排水部508と、センサー部とアーマーケーブル510で結合されるとともに、給排水部508を制御・管理する計測記録制御部512とから構成される。なお、セル502は、加圧媒体伝達物質(水あるいは油)を内蔵して互いに等圧に保たれ、セル502の内部には、圧力測定センサー、電源・信号伝達装置が内蔵される。
【0073】
また、各セル502の両端は椀状で弾性を有する、例えば金属製等で孔壁変形追従用の冶具502aにより緊迫・保護されていて、給圧の程度に応じまた地盤・軟岩の変形・岩盤亀裂(破砕帯)中の挟在物の固結度に応じた変形に対して、それぞれのセル502は独立かつ精度の良い追従が可能になり、またセル502の相互比較によって測定開始時のゼロ点補正を容易ならしめている。なお、センサー部は、測定終了後に、地上近くで圧力バランスに注意しつつ、給排水部508の排水ポンプで徐々に排水しながら回収される。
【0074】
さらに孔内水平載荷試験サブシステム500は、各セル502から交互・定刻ごとに得られる測定値をデジタル化するAD変換装置504と、セル502をボーリング孔内に挿入出するためのアーマードケーブル510等(電力の供給・圧力伝達・測定信号の回収も兼ねる)と、受信した信号を地上においてデジタル信号を記録装置により記録する記録部512を備え、事前に設定された時間間隔で画像出力する表示装置(不図示)から構成される。孔内水平載荷試験サブシステム500により、各試験セル502が均等な送圧を受け、これによって各試験セル502が圧着された孔壁(地層)ごとに、圧力と試験セル孔壁面の変形特性を測定することができる。なお、変形特性とは、変形係数、降伏圧力及び極限圧力のことである。
【0075】
孔内水平載荷試験サブシステム500の測定操作手順を次に述べる。給排水部508及び計測記録制御部512と結合されたセンサー部を、ボーリング孔内の所定深度に、水頭圧とバランスさせつつ、アーマーケーブル510で吊下ろして設置する。センサー部内の変移計506の変化を記録しつつポンプ508で送水する。複数の変移計506のブレークスルーに関するゼロ点内挿値(モード値から)定開始点を求める。センサー部に含まれる各セル502の送水圧と、変移計506の測定値とを求めることにより、圧接する地盤岩盤の変形特性を測定することができる。
【0076】
孔内水平載荷試験サブシステム500により、過去の活断層活動で生成した固結の程度の低いガウジ層(活断層破砕岩片を含有する粘土質の地層)等に対しても、水平載荷試験が可能となる。なお、孔内水平載荷試験サブシステム500の使用深度は、表層乃至GL−約1500m程度とする。
[ボアホールテレビサブシステム]
ボアホールテレビサブシステム600は、コア採取サブシステム200の懸濁気泡水ボーリングによって得られた孔壁に対するボアホールテレビ(光学工法)を適用して、孔壁の測定・記録・解析により地質構造を確認する。
【0077】
コア採取サブシステム200による懸濁気泡水による掘進の後、図3に示す鉛直ボーリング工法と斜掘工法により、オールコアを採取して解析を行い、あるいは懸濁気泡水工法により斜掘を特長とする孔壁を有するボーリング孔をシステム的な配置・掘進方向を定め複数実施する。そして、これらに対して、それぞれ、ボアホールテレビサブシステム600による観察・記録・解析を適用する。
【0078】
これによって、斜掘工法による高品質オールコア採取とコア分析解析の結果は、鉛直ボーリング工法による調査結果を確認し、調査精度の向上を図ると共に、S波構造探査サブシステム100による複合表面波探査による測定・解析結果と合せて総合的に解析することにより伏在断層あるいは不整合面やすべり面等の存在を検出することを可能とし、さらに候補地点の選定・確認と施設設置基盤面まで掘削を行ったのち、基盤直上・下の岩盤面において地質確認(スケッチ)と岩盤試験を実施する。
【0079】
ボアホールテレビサブシステム600が、ボアホールテレビの連続録画・自動解析機能の実行することにより、従来不可欠とされてきた横坑内における岩盤試験とスケッチ(試掘坑内調査試験)を不要とすることができる。
【0080】
ボアホールテレビサブシステム600を使用することにより、地盤と直立または斜交するような表層からは検出しがたい断層・すべり面・不整合面の立体的把握を可能にするとともに、潜在的亀裂面の直接検出・確認を可能にする。なお、採取したコアについては、コア分析・室内力学試験・透水試験・潜在亀裂分析等を従来工法よりも高精度のデータを得ることが可能である。
【0081】
ボアホールテレビサブシステム600は、孔壁展開画像の連続記録・解析を行って、横坑内試験・スケッチに代わる地表からの機動的、経済的原位置試験を任意深度で実施する。なお、実施可能深度としてはGL−1500m程度まで適用可能である。
【0082】
鉛直ボーリング孔内のみならず、コントロールボーリングによる水平またはそれに近い傾斜角度のボーリング孔内で、ボアホールテレビサブシステム600による連続記録・解析を実施しても良く、この操作を既設主要構造物直下の地盤岩盤中で実施することもでき、その際に定方位コア採取を実施することもできる。
[多要素データ統合サブシステム]
多要素データ統合サブシステム700は、上記各サブシステム100〜600から得られたデータを多元三次元データとしてデータベース化し、三次元地質・水文データ(地下水流向流速・流跡線)として解析し、任意方向・断面の画像として表示する。
【0083】
多要素データ統合サブシステム700は、それらのデータについて三次元解析と画像化することにより、従来得難かったステップ状の地質構造の解析・画像化を可能にすることとともに、特定地層地下水の流向流速分布について解析・画像化を可能にする。多要素データ統合サブシステム700は、各サブシステムから得られた各測定値等を総合し、それらを一括して三次元ないし(時系列を含めた)四次元的に解析し、画像処理することにより任意の断面〜三次元的・四次元的画像として表現する。
【0084】
従来は各地層について二次元断面表示に留まるような測定法による地質・岩層・土質等の各種試験データ、室内試験データ並びにS波構造データとして得られていたので、夫々独立では伏在断層・すべり面・不整合面を的確に推定・確認することができず、専門家による各人個性的な解釈に基き画像化するに留まっていた。
【0085】
しかし、多要素データ統合サブシステム700では、S波構造探査サブシステム100によって得られるS波構造データをデータベースに取込む。しかし、S波構造データのみでは、S波構造探査サブシステム100の効率・精度向上にもかかわらず、探査法としての解像度限度と、補完的解析特性からスムージングがかかり、伏在断層・すべり面・不整合に関する鋭さや解像度に関し地質専門家の常識に合致しがたいところがある。
【0086】
そこで、コア採取サブシステム200による鉛直・斜掘併用ボーリングで採取されるコアの分析による土質岩相分析データを特徴とする伏在断層・すべり面・不整合に関する明確な測定データを、多要素データ統合サブシステム700のデータベースに取込む。なお、コア採取サブシステム200のみでは、地上からは伺い得ない鋭角な伏在断層・すべり面・不整合面に関する正確なデータ確認が可能となるが、走向傾斜は推定に留まる。
【0087】
次いで、ボアホールテレビサブシステム600において得られる鉛直・斜掘併用ボーリング孔内におけるボアホールテレビ(データの自動記録解析を行う)による各伏在断層・すべり面・不整合に関する走向傾斜に関する測定データを、多要素データ統合サブシステム700のデータベースに取り込む。なお、ボアホールテレビサブシステム600のみでは、特定地層の走向傾斜に関する情報を与えるが、水理・水文については推定に留まる。
【0088】
さらに、JFT測定サブシステム300を用いて、鉛直・斜掘併用ボーリング孔内の特定注目亀裂・地層において多段パッカーを特徴とするJFT測定による湧水圧と透水係数測定値を三次元座標におけるデータセットを、多要素データ統合サブシステム700のデータベースに取込む。なお、JFT測定サブシステム300のみでは、水理水文解析には不十分である。
【0089】
多要素データ統合サブシステム700は、各サブシステムから得られたデータについてそれぞれ、立体的な相互関係を多重平均手法により、スムージング加工することにより、コア採取における各ボーリング孔のデータと、S波構造の三次元データと、ボアホールテレビで得られるデータと、水文データとを重ね合わせて解析する。これによって、それぞれの手法の有する弱点(地層の鋭い変化は平均して表現してしまう)を相補うことから、伏在断層の検出に役立ち、コアの層理面からは走向のみで方位が分からず、偽層との区別判定が困難等の理由で、断定しがたかったすべり面等を(専門家による個性的解釈を避け)三次元画像として表現することにより、高い確実性とより現実に近い(解析計算結果との誤差が小さい)画像を得ることができる。
【0090】
多要素データ統合サブシステム700は、各サブシステムから得られるデーター群を再解析して、複数の直交または斜交する複数のデータ群として(望ましくは格子状の配列で)得ることにより、三次元空間座標(時間を入れれば四次元)に属する(異なる性格のデータを)データ群として有する総合的データベースを構築するものである。複数ボーリング孔で得られる間隙水圧と透水係数の三次元分布は、地下水の三次元的流向流速を与えるばかりか、流跡線あるいは流速分布として、他のデータとともに画像化して示すことが可能である。
【0091】
主要構築物接地候補区域の絞込みのための通常の探査・工法による敷地内調査情報は有用であるばかりか、それらの情報を多要素データ統合サブシステム700に取込むことによって、その解析精度がより一層高まる。なお、本発明は、従来型探査法や普通工法(清水掘)ボーリング・検層による敷地内調査データを排除するものではない。さらに本発明は、既存構造物の支持基盤直下の地質構造調査も可能である。
【0092】
なお、従来の三次元画像化システムでは、独立した要素にかかるデータベースからは、それぞれデータ処理では、等価データを連続した等価曲面として解析し推測値に基いて表示するために補完しつつ計算機によりスムージング処理を行うので、内在的不連続面については、急激な変曲位置から(専門家と称する人間の介入によって)推定するに留まるので(丁度反射法S波構造解析において最終的には人間の解釈により、断層不整合面の推定が典型的な事例である)、画像を解釈する技術者の経験と解釈に頼るところが大であり、着目不整合については補助的に多数のボーリング(通常の「群列ボーリング)のような)調査を必要としていた(主要構築物の基盤調査では支持基盤を傷つけるのでそのような調査法は許されない)。
【0093】
本発明に係る多要素データ統合サブシステム700では、このような不確実性を低減することが出来る。すなわち、S波構造探査サブシステム100のデータベースに、コア採取サブシステム200の斜掘を特徴とするボーリング工法で得られたコアの分析データと、室内試験データから得られる層序・水理・水文に関係するデータと、ボーリング孔内におけるボアホールテレビサブシステム600による観測・撮影のデータと、孔内検層、間水圧測定、原位置透水係数測定等の内の層序・水理・水文に関係するデータとから、地下水の特定地層中または総合的な流向流速の推定計算を行って、地下水の流向流速を解析する。
【0094】
地下水の流向流速を解析する多要素データ統合サブシステム700は、トレーサーを使用せず、しかも確実性の高い流向・流速情報とともに、流跡線の三次元表示、大規模施設建設に伴う揚水の環境影響評価等の事前解析とモニタリングデータに基づく対策立案に役立てることができる。
【0095】
多要素データ統合サブシステム700は、三次元データのデータベースを構築し、三次元画像化を行って、データを解析することにより、主要構築物の基盤以深に関する地質構造、特に断層、すべり面に関する具体的なデータが得られる。したがって、長期地盤安定性評価としての一次・二次圧密(クリープ特性)、断層・伏在すべり面情報(存在しないことの確認)に基く支持基盤(テルツァギー式による)信頼性評価が可能となる。
【0096】
多要素データ統合サブシステム700により、主要構築物基盤の地質構造、力学特性、耐震S波構造探査サブシステムとコア採取サブシステムとの配置設計データ、長期安定性評価が可能になると共に、開削(オープンカット)した後に、基盤面について専門家により全面的に地質調査が可能になる。この方法は、従来実施されてきた横坑調査では、坑道内の限られた空間で表面的にスケッチしていたが、開削された設置基盤面において実施可能であるので、優れた品質の情報と経済性向上を提供する。
【0097】
また、室内試験を確認するための従来型横坑内せん断試験等についても、主要構築物設置位置の軽微な位置変更が容易であり、また構築された設置基盤面において実施可能であるので、情報取得と経済性向上が可能である。本発明の複合探査・調査・三次元画像化システムが経済性と機動性に優れていることから、従来実施を諦めていたような候補となる二地点間の比較(特に伏在断層・すべり面・長期安定性評価の面で)が可能になる。
【0098】
なお、多要素データ統合サブシステム700は、上述の探査・計測並びにオールコア採取・分析・試験結果に基く地盤・岩盤等の情報と、別途実施される原位置透水試験・水位観測等を併せて、多要素データ統合サブシステムにより立体的に表示すると、流向流速の解析等を行うこともできる。
【符号の説明】
【0099】
1 地質構造原位置調査システム
100 S波構造探査サブシステム
200 コア採取サブシステム
300 JFT測定サブシステム
400 孔底せん断強度測定サブシステム
500 孔内水平載荷試験サブシステム
600 ボアホールテレビサブシステム
700 多要素データ統合サブシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地質構造調査システムであって、
レイリー波及び反射波を測定して、地質構造を探査する波構造探査サブシステムと、
懸濁気泡水を用いてボーリング孔を掘進して、ボーリング孔の形成とコアを採取するコア採取サブシステムと、
遮水型多重パッカーにより湧水圧試験(JFT)を行って、地質の水質水文を測定するJFT測定サブシステムと、
前記懸濁気泡水により洗浄されたボーリング孔底で孔底せん断を行って、地質の強度を測定する孔底せん断強度測定サブシステムと、
前記ボーリング孔内で水平載荷試験を行う孔内水平載荷試験サブシステムと、
前記ボーリング孔内を撮影する孔内撮影サブシステムと、
前記各サブシステムで得られた多要素データを用いて、地質の三次元解析を行う多要素データ統合サブシステムと、から構成される地質構造調査システム。
【請求項2】
請求項1記載の地質構造調査システムにおいて、前記S波構造探査サブシステムは、前記レイリー波及び前記反射波を測定するために、地表に設定されたグリッドの各頂点に配置される複数のアレイを備える、地質構造調査システム。
【請求項3】
請求項2記載の地質構造調査システムにおいて、前記アレイは、所定の間隔で配置される複数の受信機から構成される、地質構造調査システム。
【請求項4】
請求項1記載の地質構造調査システムにおいて、前記コア採取サブシステムは、鉛直堀及び又は斜掘のコア採取装置を備える、地質構造調査システム。
【請求項5】
請求項1記載の地質構造調査システムにおいて、前記JFT測定サブシステムの前記多段パッカーは、測定部位の上側に配置される上多段パッカーと、前記測定部位の下側に配置される下多段パッカーとから構成される、地質構造調査システム。
【請求項6】
請求項5記載の地質構造調査システムにおいて、前記上多段パッカー及び前記下多段パッカーは、複数のパッカーである、地質構造調査システム。
【請求項7】
請求項1記載の地質構造調査システムにおいて、前記孔底せん断強度測定サブシステムは、掘進にあたって先導し、せん断面を確実にする錐冠を有し、掘進時に前記コアを保持しつつ回転力を与えることにより前記コアを孔底からせん断するコア引き上げを確実にするためのコアリフターを備える、地質構造調査システム。
【請求項8】
請求項1記載の地質構造調査システムにおいて、前記孔内水平載荷試験サブシステムは、前記ボーリング孔内で送圧による圧力を測定する複数のセルと、接触したセルによるボーリング孔壁の変移を測定する複数の変移計とを備えることにより、多元的にボーリング孔壁の圧力及び変移を測定する、地質構造調査システム。
【請求項9】
請求項8記載の地質構造調査システムにおいて、前記孔内水平載荷試験サブシステムの前記複数のセルは、当該複数のセルを孔壁の変形に追従させるための変形追従具をそれぞれ備える、地質構造調査システム。
【請求項10】
請求項8記載の地質構造調査システムにおいて、前記セルは、弾性を有し、互いに圧力が伝達されるような、地質構造調査システム。
【請求項11】
請求項1記載の地質構造調査システムにおいて、前記多要素データ統合サブシステムは、前記各サブシステムで得られた前記多要素データを記録すると共に、前記多要素データ用いて三次元の画像として解析・表示する、地質構造調査システム。
【請求項12】
地質構造調査方法であって、
レイリー波及び反射波を測定して、地質構造を探査するS波構造探査工程と、
懸濁気泡水を用いてボーリング孔を掘進して、コアを採取するコア採取工程と、
多重パッカーにより湧水圧試験(JFT)を行って、水質水文を測定するJFT測定工程と、
前記懸濁気泡水により洗浄されたボーリング孔底で孔底せん断を行って、地質の強度を測定する孔底せん断強度測定工程と、
前記ボーリング孔内で水平載荷試験を行う孔内水平載荷試験工程と、
前記ボーリング孔内を撮影する孔内撮影工程と、
前記各工程で得られた多要素データを用いて、地層の三次元解析を行う多要素データ統合工程と、から構成される地質構造調査方法。
【請求項13】
請求項12記載の地質構造調査方法において、前記S波構造探査工程は、前記レイリー波及び前記反射波を測定するために、地表に設定されたグリッドの各頂点に配置される複数のアレイを備える、地質構造調査方法。
【請求項14】
請求項13記載の地質構造調査方法において、前記アレイは、所定の間隔で配置される複数の受信機から構成される、地質構造調査方法。
【請求項15】
請求項12記載の地質構造調査方法において、前記コア採取工程は、鉛直堀及び又は斜掘のコア採取装置を備える、地質構造調査方法。
【請求項16】
請求項12記載の地質構造調査方法において、前記JFT測定工程の前記多段パッカーは、測定部位の上側に配置される上多段パッカーと、前記測定部位の下側に配置される下多段パッカーとから構成される、地質構造調査方法。
【請求項17】
請求項16記載の地質構造調査方法において、前記上多段パッカー及び前記下多段パッカーは、複数のパッカーである、地質構造調査方法。
【請求項18】
請求項12記載の地質構造調査方法において、前記孔底せん断強度測定工程は、非掘進時に前記コアを保持しつつ回転・載荷することにより前記コアを孔底からせん断するコアキャッチャーを備えて引張強度を測定する、地質構造調査方法。
【請求項19】
請求項12記載の地質構造調査方法において、前記孔内水平載荷試験工程は、前記ボーリング孔内及び測定セル内の圧力を測定する複数のセルと、ボーリング孔壁の変位を測定する複数の変位計とを備えることにより、多元的にボーリング孔壁の圧力及び変位を測定する、地質構造調査方法。
【請求項20】
請求項19記載の地質構造調査方法において、前記孔内水平載荷試験工程の前記複数のセルは、当該複数のセルを孔壁の変形に追従させるための変形追従具をそれぞれ備える、地質構造調査方法。
【請求項21】
請求項20記載の地質構造調査方法において、前記位置保持具は、椀状で弾性を有し、前記セルの周囲に取り付けられる、地質構造調査方法。
【請求項22】
請求項12記載の地質構造調査方法において、前記多要素データ統合工程は、前記各工程で得られた前記多要素データを記録すると共に、前記多要素データ用いて三次元の画像として表示する、地質構造調査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−266347(P2010−266347A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118408(P2009−118408)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000210908)中央開発株式会社 (25)
【Fターム(参考)】