説明

地震動継続時間予測システム

【課題】地震動の観測データが記録されていない任意の地点について、地震動の継続時間を予測できる地震動継続時間予測システムを提供すること。
【解決手段】地震動継続時間予測システム1は、対象地点の座標および対象地点の地盤条件を記憶する記憶部5と、予め、実際の地震動の複数の観測データの波形の経時特性を包絡関数でモデル化して、地震動の継続時間を震源距離および気象庁マグニチュードをパラメータとして求めた回帰式で表す回帰式算出部41と、震源位置および気象庁マグニチュードを含むリアルタイム地震情報を受信する受信部2と、リアルタイム地震情報の震源位置および記憶した対象地点の座標に基づいて震源距離を算出する震源距離算出部42と、記憶した回帰式に、対象地点の地盤条件、前記震源距離、および気象庁マグニチュードを代入して、地震動の継続時間を算出する継続時間算出部44と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震動継続時間予測システムに関する。詳しくは、地震動の継続時間を予測する地震動継続時間予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地震動の収束は、対象地点に地震計を設置しておき、この地震計で検知した地震動の大きさに基づいて判定することが多い(特許文献1参照)。すなわち、特許文献1では、エレベーターの運転再開制御を行うに当たり、現地に地震計を設置しておき、この地震計により検出された地震動の大きさが設定した閾値よりも小さくなることを条件として、地震動が収束したと判定している。
【0003】
しかしながら、地震計の設置に伴う導入コストに加え、維持管理のランニングコストが必要となるため、対象地点に地震計を設置することは容易ではない。
【0004】
そこで、緊急地震速報などのリアルタイム地震情報を利用して、対象地点における地震動の強さや対象地点の建物の被害予測を行う地震防災システムが開発されている(特許文献2参照)。この防災システムにおいては、地震発生時に、緊急地震速報などのリアルタイム地震情報を利用して地震動の継続時間を算出し、この地震動の継続時間に基づいて当該建物の被害予測を行う。
【0005】
ここで、地震動の継続時間は、以下のようにして求められている。
すなわち、予め、過去に発生した地震について、震源位置、マグニチュード、各受震域の観測データに基づいて、地震動のスペクトルの特性や継続時間に関する傾向を回帰分析などにより求めておく。同じ震源域で発生する地震は、ほぼ同じ地震発生メカニズムで発生するので震源特性が類似するうえに、同じ受震域では、ほぼ同じ地震動特性であることから、震源域および受震域の組合せごとにマグニチュードに応じた地震動スペクトル特性や継続時間のデータベースを構築する。
【0006】
そして、地震発生時にリアルタイム地震情報(緊急地震速報)を受信すると、この地震の震源域と対象地点の属する受震域との組合せをデータベースから探し出して、該当する組合せの地震動スペクトル特性および地震動継続時間を読み出す。このようにして、地震動の継続時間を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−178202号公報
【特許文献2】特開2006−343578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示された手法では、データベースに記憶された特定の震源域と受震域との組合せのみ地震動の継続時間を予測できる。そのため、地震動の観測データが記録されていない地域については、地震動の継続時間を予測できない、という問題があった。
【0009】
本発明は、地震動の観測データが記録されていない任意の地点について、地震動の継続時間を予測できる地震動継続時間予測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の地震動継続時間予測システムは、対象地点における地震動の継続時間を予測する地震動継続時間予測システムであって、前記対象地点の座標および前記対象地点の地盤条件を記憶する記憶部と、予め実際の地震動の複数の観測データの波形の経時特性を包絡関数でモデル化して、地震動の継続時間を震源距離および気象庁マグニチュードをパラメータとして求めた回帰式で表して、当該回帰式を前記記憶部に記憶させる回帰式算出部と、震源位置および気象庁マグニチュードを含むリアルタイム地震情報を受信する受信部と、前記リアルタイム地震情報の震源位置および前記記憶した対象地点の座標に基づいて震源距離を算出する震源距離算出部と、前記記憶した回帰式に、前記対象地点の地盤条件、前記震源距離、および気象庁マグニチュードを代入して、地震動の継続時間を算出する継続時間算出部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、記憶部により、対象地点の座標および前記対象地点の地盤条件を記憶しておく。また、予め、回帰式算出部により、複数の実際の地震動の波形の経時特性を包絡関数でモデル化し、震源距離および気象庁マグニチュードをパラメータとした回帰式で表して、この回帰式を記憶部に記憶させておく。
そして、受信部によりリアルタイム地震情報を受信すると、震源距離算出部により、リアルタイム地震情報の震源位置および記憶した対象地点の座標に基づいて震源距離を算出する。次に、継続時間算出部により、記憶した回帰式に、対象地点の地盤条件、震源距離、および気象庁マグニチュードを代入して、地震動の継続時間を算出する。
よって、任意の地点について、地震動の継続時間を予測し、避難開始などの防災情報を建物内に報知できる。
【0012】
請求項2に記載の地震動継続時間予測システムは、前記回帰式としては、軟質地盤における回帰式と硬質地盤における回帰式とを用いることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、地盤条件を考慮し、回帰式として、軟質地盤における回帰式と硬質地盤における回帰式とを用いたので、地震動継続時間予測システムの予測精度を向上できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、記憶部により、対象地点の座標および前記対象地点の地盤条件を記憶しておく。また、予め、回帰式算出部により、複数の実際の地震動の波形の経時特性を包絡関数でモデル化し、震源距離および気象庁マグニチュードをパラメータとした回帰式で表して、この回帰式を記憶部に記憶させておく。そして、受信部によりリアルタイム地震情報を受信すると、震源距離算出部により、リアルタイム地震情報の震源位置および記憶した対象地点の座標に基づいて震源距離を算出する。次に、継続時間算出部により、記憶した回帰式に、対象地点の地盤条件、震源距離、および気象庁マグニチュードを代入して、地震動の継続時間を算出する。よって、任意の地点について、地震動の継続時間を予測し、避難開始などの防災情報を建物内に報知できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る地震動継続時間予測システムのブロック図である。
【図2】前記実施形態に係る地震動継続時間予測システムの動作のフローチャートである。
【図3】関東地方における地震の震央分布を示す図である。
【図4】地震動の波形の経時特性の一例を示す図である。
【図5】軟質地盤における震源距離と継続時間との関係を示す図である。
【図6】硬質地盤における震源距離と継続時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る地震動継続時間予測システム1のブロック図である。
地震動継続時間予測システム1は、緊急地震速報などのリアルタイム地震情報に基づいて対象地点の地震動の継続時間を予測するものであり、受信部2、表示部3、および演算処理部4、および記憶部5を備える。
【0017】
受信部2は、気象庁から送信されるリアルタイム地震情報を受信するものである。
表示部3は、受信部2で受信した情報や演算処理部4から出力された情報を表示するものであり、例えば、モニタである。
【0018】
記憶部5は、種々の情報を記憶するものであり、例えばハードディスクである。この記憶部5は、予め、対象地点の座標(緯度・経度)を記憶するとともに、地表から深度30mまでの平均S波速度VS30を対象地点の地盤条件として記憶している。また、後述の演算処理部4の回帰式算出部41で求めた回帰式を記憶する。
【0019】
演算処理部4は、記憶部5に記憶されたプログラムを読み出して、動作制御を行うOS(Operating System)上に展開して実行するものである。
具体的には、演算処理部4は、回帰式算出部41と、震源距離算出部42と、予測震度算出部43と、継続時間算出部44と、を備える。
【0020】
回帰式算出部41は、実際の地震動の複数の観測データの波形の経時特性を包絡関数でモデル化し、予測震度算出部43で算出した震源距離および気象庁マグニチュードをパラメータとした回帰式で表し、記憶部5に記憶させておく。
【0021】
震源距離算出部42は、リアルタイム地震情報を受信すると、リアルタイム地震情報の震源位置および記憶部5に記憶した対象地点の座標に基づいて、震源距離を算出する。
予測震度算出部43は、震度の計算式(例えば、予報業務許可の技術基準について 気象庁地震火山部 2010年3月18日)に、震源距離算出部42で算出した震源距離および気象庁マグニチュードを代入して、対象地点の予測震度を算出する。
【0022】
継続時間算出部44は、震源位置および気象庁マグニチュードを含むリアルタイム地震情報を受信すると、記憶部5から回帰式を読み出して、この回帰式に、対象地点の地盤条件、震源距離算出部42で算出した震源距離、および気象庁マグニチュードを代入して、地震動の継続時間を算出する。
【0023】
図2は、地震動継続時間予測システム1の地震動の継続時間を算出する動作のフローチャートである。
【0024】
ステップS1では、受信部2により、リアルタイム地震速報を受信する。すなわち、このリアルタイム地震速報により、地震発生時刻t、震源位置(具体的には、緯度、経度、震源深さ)、気象庁マグニチュードMなどの情報を取得する。
【0025】
ステップS2では、震源距離算出部42により、震源から対象地点までの震源距離Xを算出する。
ステップS3では、予測震度算出部43により、震源距離算出部42で算出した震源距離Xおよび気象庁マグニチュードMを震度の計算式に代入して、対象地点の予測震度を算出する。
【0026】
ステップS4では、予測震度算出部43により、対象地点の予測震度が3以上であるか否かを判定する。この判定がYesである場合には、ステップS5に移り、Noである場合には、終了する。
【0027】
ステップS5では、継続時間算出部44により、気象庁の走時表に基づいて、地震動の主要動が対象地点に到達する時刻tを算出する。
【0028】
ステップS6では、継続時間算出部44により、記憶部5から対象地点のVS30を読み出して、この読み出したVS30が400m/s以上であるか否かを判定する。この判定がNoである場合には、対象地点が軟質地盤であるため、ステップS7に移り、Yesである場合には、対象地点が硬質地盤であるため、ステップS8に移る。
【0029】
ステップS7では、継続時間算出部44により、記憶部5から以下の回帰式である(1)式を読み出す。
【0030】
【数1】

【0031】
(1)式において、a、b、c、d、eは、地域や地盤条件によって異なる回帰係数であり、σ、σは回帰式における対数標準偏差である。また、αは回帰式のばらつきを考慮した係数であり、対数標準偏差σ、σに乗じる係数である。
また、記憶部5から軟質地盤についての地盤条件を読み出して、軟質地盤における地震動の継続時間t−tを求める。すなわち、a、b、c、d、e、σ、σを読み出して(1)式に代入する。
【0032】
一方、ステップS8では、継続時間算出部44により、記憶部5から上述の(1)式を読み出すとともに、硬質地盤についての地盤条件を読み出して、硬質地盤における地震動の継続時間t−tを求める。すなわち、a、b、c、d、e、σ、σを読み出して(1)式に代入する。
【0033】
ステップS9では、継続時間算出部44により、地震動の主要動が対象地点に到達する時刻tに地震動の継続時間t−tを加えて、地震動の終了時刻tを算出する。
ステップS10では、表示部3により、地震動の終了時刻tを表示する。
【0034】
以下、関東地域を例に、上述の(1)式を求める手順について説明する。
図3に示す1996年以降に発生した気象庁マグニチュードMが5.0以上の海溝性地震18地震を選定し、これら18地震の2378の観測データを利用した。なお、図3中の丸印は、震央の位置を示す。
まず、各観測データを軟質地盤と硬質地盤とに分類した。すなわち、地表から深度30mまでの平均S波速度VS30を指標として、対象地点の地盤条件を整理した。具体的には、各観測データについてVS30を推定し、VS30が400m/s以上を硬質地盤、400m/s未満を軟質地盤とした。
【0035】
以下、地震動継続時間は、地表面における地震動の加速度波形をモデル化した包絡曲線について、主要動が開始してから主要動の振幅が1/10程度に収まるまでの時間とする。
【0036】
そこで、各観測データについて、例えば図4に示すように、地震動の波形の経時特性をJennings型包絡形E(t)でモデル化した。具体的には、地震動の波形を立上がり部、強震部、減衰部に分けて、E(t)を以下の(2)〜(5)式で構成した。
【0037】
【数2】

【0038】
ここで、tは立上がり部の開始時刻、tは立上がり部の終了時刻すなわち強震部の開始時刻、tは強震部の終了時刻すなわち減衰部の開始時刻、tは減衰部の終了時刻、AはE(t)における強震部の振幅値である。また、B=ln10/(t−t)である。
【0039】
このようにモデル化した包絡関数を、震源距離Xおよび気象庁マグニチュードMをパラメータとした回帰分析を行って、上述の(1)式を得た。
このときの回帰係数a、b、c、d、e、および対数標準偏差σ、σを以下に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
図5(a)は、軟質地盤における強震部の継続時間t−tと震源距離Xとの関係を示す図である。図5(b)は、軟質地盤における減衰部の継続時間t−tと震源距離Xとの関係を示す図である。
図6(a)は、硬質地盤における強震部の継続時間t−tと震源距離Xとの関係を示す図である。図6(b)は、硬質地盤における減衰部の継続時間t−tと震源距離Xとの関係を示す図である。
【0042】
図5および図6より、強震部の継続時間t−tは、M、Xが大きくなるほど長くなることが判る。また、減衰部の継続時間は、Mにそれほど依存せず、Xが大きくなるほど長くなることが判る。また、強震部の継続時間t−tは、減衰部の継続時間t−tに比べて、ばらつきが大きいことが判る。
【0043】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)記憶部5により、対象地点の座標および対象地点の地盤条件を記憶しておく。また、予め、回帰式算出部41により、複数の実際の地震動の波形の経時特性を包絡関数でモデル化し、震源距離および気象庁マグニチュードをパラメータとした回帰式で表して、この回帰式を記憶部5に記憶させておく。
そして、受信部2によりリアルタイム地震情報を受信すると、震源距離算出部42により、リアルタイム地震情報の震源位置に基づいて震源距離を算出する。次に、継続時間算出部44により、記憶した回帰式に、対象地点の地盤条件、震源距離、および気象庁マグニチュードを代入して、地震動の継続時間を算出する。
よって、任意の地点について、地震動の継続時間を予測し、避難開始などの防災情報を建物内に報知できる。
【0044】
(2)地盤条件を考慮し、回帰式として、軟質地盤における回帰式と硬質地盤における回帰式とを用いたので、地震動継続時間予測システム1の予測精度を向上できる。
【0045】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0046】
1…地震動継続時間予測システム
2…受信部
3…表示部
4…演算処理部
5…記憶部
41…回帰式算出部
42…震源距離算出部
43…予測震度算出部
44…継続時間算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象地点における地震動の継続時間を予測する地震動継続時間予測システムであって、
前記対象地点の座標および前記対象地点の地盤条件を記憶する記憶部と、
予め実際の地震動の複数の観測データの波形の経時特性を包絡関数でモデル化して、地震動の継続時間を震源距離および気象庁マグニチュードをパラメータとして求めた回帰式で表して、当該回帰式を前記記憶部に記憶させる回帰式算出部と、
震源位置および気象庁マグニチュードを含むリアルタイム地震情報を受信する受信部と、
前記リアルタイム地震情報の震源位置および前記記憶した対象地点の座標に基づいて震源距離を算出する震源距離算出部と、
前記記憶した回帰式に、前記対象地点の地盤条件、前記震源距離、および気象庁マグニチュードを代入して、地震動の継続時間を算出する継続時間算出部と、を備えることを特徴とする地震動継続時間予測システム。
【請求項2】
前記回帰式としては、軟質地盤における回帰式と硬質地盤における回帰式とを用いることを特徴とする請求項1に記載の地震動継続時間予測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−113815(P2013−113815A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263072(P2011−263072)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)