地震時ラーメン化ダンパー及び、ダム水門柱の耐震性向上工法、橋梁の耐震性向上工法
【課題】ダム水門柱や、道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁の耐震性能を向上させる。
【解決手段】この発明では、地震時に、制振対象構造物の連結部の橋軸方向変位及び橋軸直交方向軸回りの回転を拘束あるいは抑制することにより、制振対象構造物をラーメン構造化する地震時ラーメン化ダンパー70を考案した。この発明の地震時ラーメン化ダンパー70を用いて、ダム水門柱31〜35と管理橋40を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、ダム水門柱31〜35の耐震性能を向上させることが可能となる。また、地震時ラーメン化ダンパー70を道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁(一般橋梁)に適用することで、橋梁(一般橋梁)の耐震性能が向上する。
【解決手段】この発明では、地震時に、制振対象構造物の連結部の橋軸方向変位及び橋軸直交方向軸回りの回転を拘束あるいは抑制することにより、制振対象構造物をラーメン構造化する地震時ラーメン化ダンパー70を考案した。この発明の地震時ラーメン化ダンパー70を用いて、ダム水門柱31〜35と管理橋40を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、ダム水門柱31〜35の耐震性能を向上させることが可能となる。また、地震時ラーメン化ダンパー70を道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁(一般橋梁)に適用することで、橋梁(一般橋梁)の耐震性能が向上する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム水門柱や、道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁(一般橋梁)の耐震性能を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
土木分野や建築分野において免振装置や制振装置として使用されるダンパーに、下記特許文献1に記載のものがある。特許文献1のダンパーは、ロッドエンドの連結部とシリンダエンドの連結部により、制振対象物に取り付けられる。そして、地震等により、ダンパーに力が作用すると、緩衝作用が行われ、制振対象物の揺れを抑える。上記ダンパーは、ロッドエンドとシリンダエンドの連結部に、それぞれ円形の取り付け孔を形成している。すなわち、制振対象物に対してピンジョイントされるようになっており、制振対象物への取り付けにより、地震時ダンパーロッド軸方向の制震効果があるものの、ピンジョイント部は回転自由(モーメントの拘束あるいは抑制がない構造)であるため、回転方向の変位を拘束するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−77800公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダムの水門柱は洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であり、大規模地震が発生した場合でも洪水処理機能を維持できる耐震性能を保有する必要がある。したがって、大規模地震に備え、水門柱の耐震性能を高めておくことは、保安レベル向上のため重要である。図1〜図2に示すように、ダム堤体10の堤体越流部12には、洪水吐ゲートG1、G2が設けられていて、洪水吐ゲートG1、G2の開閉により、ダムの貯水量およびダムからの流下量を調整するようになっている。通常、このような洪水吐ゲートG1、G2の両側には、洪水吐ゲートが2門の場合の例である図3に示すように、ダム水門柱1、3が設けられおり、それらダム水門柱1、3の間に管理橋4A、4Bが架け渡されている。管理橋4A、4Bの構造は、例えば、床板6をダム上下流方向に並ぶ複数の主桁5により支えた構成となっている(図4参照)。そして、管理橋4A、4B上には、図3に示すように動力装置(ゲート巻上機)M1、M2が設置されていて、洪水吐ゲートG1、G2を吊り上げるワイヤWを巻き上げたり、繰り出したりすることで、洪水吐ゲートG1、G2を開閉する構成となっている。さて、図3に示すように、ダム水門柱1、3による管理橋4A、4Bの支承構造は、一般的に、各径間の片方が可動支承になっている。これは、管理橋4A、4Bの鋼製主桁の日照の変化等による熱伸縮の拘束に起因する主桁の座屈や支承部の損傷を防ぐためである。径間の片方が可動支承である管理橋は水門柱の揺れを抑える制震部材としては機能していない。したがって、地震発生時には、管理橋4A、4B等を支えるダム水門柱1、3が個々に振動する。ダム水門柱1、3の振動を抑えるには、例えば、ダム水門柱1、3を、管理橋4A、4Bとピンで結合し、地震の揺れを、端部のダム水門柱1で受け持つことが考えられる。しかし、図3に示すように端部のダム水門柱1が、中央のダム水門柱3と同様に背が高い(モーメントアームLが長い)場合や、端部ダム水門柱基部の断面が小さい場合などは、地震時の揺れで、端部ダム水門柱基部に曲げ破壊が生じ易く、地震の揺れを、端部のダム水門柱1で受け持つことが難しかった。また、道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁でも、地震発生時に、上側構造部材と下側構造部材が個々に振動する場合があり、地震の揺れを抑えることが要望されていた。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、ダム水門柱や、道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁の耐震性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結するところに特徴を有する。尚、「各径間」とは、橋体の橋軸方向に隣り合う支承部の間、すなわちダム水門柱の間という意味である。また、「ラーメン構造」とは、複数の部材の互いの相対回転を拘束あるは抑制するように組み立てた骨組み構造、すなわち、各部材は連結される他部材により互いに支持された骨組み構造である。そして、「ラーメン化」とは、当初ラーメン構造でない構造物を上記ラーメン構造に変化させることを意味する。
【0006】
この発明では、地震時ラーメン化ダンパーを用いて、ダム水門柱と橋体を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、ダム水門柱の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、この発明では、地震時に、橋体が軸力を生じてダム水門柱の変位を拘束あるいは抑制すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、ダム水門柱基部等に加わる曲げモーメントを低減できる。そのため、ダム水門柱の耐震性能が向上する。特に、端部のダム水門柱の背が高い場合には、地震時の揺れで、端部ダム水門柱基部に曲げ破壊が生じ易いが、本発明を適用することで、端部ダム水門柱基部の曲げモーメントを低減する効果が得られる。そのため、地震時の揺れを、端部のダム水門柱で受け持つことが可能となり、ダム水門柱の耐震性能を向上させることができる。
【0007】
また、この発明では、橋体の両側において、ダム水門柱との間に取り付けた2つの地震時ラーメン化ダンパーが、地震発生時に、橋体の両側に位置するダム水門柱の頂部変位を均等に拘束あるいは抑制する。そのため、一方のダム水門柱の基部等に曲げモーメントが集中することがなく、地震の揺れを左右のダム水門柱で同じように受け持つことが出来る。そのため、耐震性能が向上する。
【0008】
請求項2の発明は、ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、前記橋体の支承部は既設構造のままとし、各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、前記追加梁の一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結するところに特徴を有する。
【0009】
この発明では、地震時ラーメン化ダンパーを用いて、ダム水門柱と追加梁を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、ダム水門柱の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、この発明では、地震時に、追加梁が軸力を生じてダム水門柱の頂部変位を拘束あるいは抑制すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、ダム水門柱基部等に加わる曲げモーメントを低減できる。そのため、ダム水門柱の耐震性能が向上する。特に、端部のダム水門柱の背が高い場合には、地震時の揺れで、端部ダム水門柱基部に曲げ破壊が生じ易いが、本発明を適用することで、端部ダム水門柱基部の曲げモーメントを低減する効果が得られる。そのため、地震時の揺れを、端部のダム水門柱で受け持つことが可能となり、ダム水門柱の耐震性能を向上させることができる。
【0010】
また、この発明では、追加梁の両側において、ダム水門柱との間に取り付けた2つの地震時ラーメン化ダンパーが、地震発生時に、追加梁の両側に位置するダム水門柱の頂部変位を均等に拘束あるいは抑制する。そのため、一方のダム水門柱基部等に曲げモーメントが集中することがなく、地震の揺れを、左右のダム水門柱で同じように受け持つことが出来る。そのため、耐震性能が向上する。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載のものにおいて、前記橋体がRCコンクリート構造であって、前記水門柱上部で前記ダム水門柱と一体となっている場合に、各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、前記追加梁の一方側と他方側の双方で、前記地震時ラーメン化ダンパーを用いて前記ダム水門柱と連結するところに特徴を有する。この発明では、橋体がRCコンクリート構造である場合に、追加梁が軸力を生じてダム水門柱の変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、ダム水門柱基部に加わる曲げモーメントを低減できる。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のものにおいて、一次剛性と二次剛性からなる履歴減衰特性を発揮したときの前記地震時ラーメン化ダンパーの地震時最大変位を、前記ダム水門柱の許容変位の上限値よりも小さく設定し、前記ダム水門柱の許容変位の上限値以内で前記地震時ラーメン化ダンパーが履歴減衰特性を発揮して、前記ダム水門柱の耐震性能を向上させるところに特徴を有する。この発明では、地震時ラーメン化ダンパーが履歴減衰特性を発揮して震動エネルギーを吸収するので、ダム水門柱の耐震性能を一層向上させることが可能となる。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のものにおいて、前記ダム水門柱の許容変位の上限値よりも前記地震時ラーメン化ダンパーの地震時降伏変位を小さく設定し、前記橋体に発生する最大地震力よりも前記地震時ラーメン化ダンパーの最大ダンパー反力を大きく設定することにより、前記地震時ラーメン化ダンパーが、一次剛性と二次剛性からなる履歴減衰特性が発揮される以前の前記一次剛性の領域で最大地震力を受けとめ、前記ダム水門柱の耐震性能を向上させるところに特徴を有する。この発明では、地震時ラーメン化ダンパーが、ダム水門柱に対して小さな相対変位で突っ張って最大地震力を受け止める。そのため、ダム水門柱の頂部変位を微小なものに拘束することが可能となる。よって、ダム水門柱基部に加わる曲げモーメントを低減できる。
【0014】
請求項6の発明は、ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、一方側で常時と地震時について橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する構造部材で前記ダム水門柱と連結し、他方側で常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結するところに特徴を有する。
【0015】
この発明では、構造部材と、地震時ラーメン化ダンパーを用いて、ダム水門柱と橋体を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、ダム水門柱の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、この発明では、地震時に、橋体が軸力を生じてダム水門柱の変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、ダム水門柱基部等に加わる曲げモーメントを低減できる。そのため、ダム水門柱の耐震性能が向上する。特に、端部のダム水門柱の背が高い場合には、地震時の揺れで、端部ダム水門柱基部に曲げ破壊が生じ易いが、本発明を適用することで、端部ダム水門柱基部の曲げモーメントを低減する効果が得られる。そのため、地震時の揺れを、端部のダム水門柱で受け持つことが可能となり、ダム水門柱の耐震性能を向上させることができる。
【0016】
請求項7の発明は、ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、前記橋体の支承部は既設構造のままとし、各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、前記追加梁の一方側で常時と地震時について橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する構造部材で前記ダム水門柱と連結し、前記追加梁の他方側で常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結するところに特徴を有する。
【0017】
この発明では、構造部材と、地震時ラーメン化ダンパーを用いて、ダム水門柱と追加梁を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、ダム水門柱の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、この発明では、地震時に、追加梁が軸力を生じてダム水門柱の変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、ダム水門柱基部等に加わる曲げモーメントを低減できる。そのため、ダム水門柱の耐震性能が向上する。特に、端部のダム水門柱の背が高い場合には、地震時の揺れで、端部ダム水門柱基部に曲げ破壊が生じ易いが、本発明を適用することで、端部ダム水門柱基部の曲げモーメントを低減する効果が得られる。そのため、地震時の揺れを、端部のダム水門柱で受け持つことが可能となり、ダム水門柱の耐震性能を向上させることができる。
【0018】
請求項8の発明は、請求項7に記載のものにおいて、前記橋体がRCコンクリート構造であって、前記水門柱上部で前記ダム水門柱と一体となっている場合に、各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、前記追加梁の一方側で前記構造部材を用いて前記ダム水門柱と連結し、前記追加梁の他方側で前記地震時ラーメン化ダンパーを用いて前記ダム水門柱と連結するところに特徴を有する。この発明では、橋体がRCコンクリート構造である場合に、追加梁が軸力を生じて、ダム水門柱の変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、ダム水門柱基部に加わる曲げモーメントを低減できる。
【0019】
請求項9の発明は、上部構造部材を下部構造部材により支えた道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁(一般橋梁)の耐震性向上工法であって、前記上部構造部材の各径間において、一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制する地震時ラーメン化ダンパーで前記下部構造部材と連結するところに特徴を有する。
【0020】
この発明では、上部構造部材と下部構造部材の連結部、すなわち上部構造部材の支承部において、互いの相対回転を拘束あるいは抑制するようラーメン構造化する。これにより、上部構造部材と下部構造部材は連結される他部材により互いに支持される状態になるので、道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁の耐震性能が向上する。
【0021】
請求項10の発明は、作動流体を封入したシリンダと、前記シリンダ内を2室に画成するピストンと一体となったピストンロッドと、前記シリンダ側の軸端部を制振対象構造物に取り付けるための第一の取り付け部と、前記ピストンロッド側の軸端部を他方の制振対象構造物に取り付けるための第二の取り付け部と、前記取り付け部に対する前記軸端部の回転を拘束あるいは抑制する回転拘束・抑制部材と、を備え、前記制振対象構造物に対する常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は前記制振対象構造物の連結部の橋軸方向の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制するところに特徴を有する。この発明の地震時ラーメン化ダンパーを用いて、ダム水門柱と橋体を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、ダム水門柱の耐震性能を向上させることが可能となる。また、地震時ラーメン化ダンパーを、道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁に適用することで、橋梁の耐震性能が向上する。
【0022】
請求項11の発明は、作動流体を封入したシリンダと、前記シリンダ内を2室に画成するピストンと一体となったピストンロッドと、前記シリンダ側の軸端部を制振対象構造物に取り付けるための第一取り付け部と、前記ピストンロッド側の軸端部を他方の制振対象構造物に取り付けるための第二取り付け部と、を備えてなると共に、前記第一の取り付け部は、前記シリンダの軸端部に対して一体的に形成されることにより回転止めされ、前記第二の取り付け部は、前記ピストンロッドの軸端部に対して一体的に形成されることにより回転止めされ、前記制振対象構造物に対する常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は前記制振対象構造物の連結部の橋軸方向の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束するところに特徴を有する。この発明の地震時ラーメン化ダンパーを用いて、ダム水門柱と橋体を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、ダム水門柱の耐震性能を向上させることが可能となる。また、地震時ラーメン化ダンパーを、道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁に適用することで、橋梁の耐震性能が向上する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ダム水門柱や、道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁の耐震性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ダムの一般的な構造を示す斜視図
【図2】図1の拡大図(洪水吐ゲート周辺を示す)
【図3】管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図
【図4】図3のC−C線断面図
【図5】本発明の実施形態1に係るダムの斜視図(洪水吐ゲート周辺を示す)
【図6】既設管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図(耐震性向上工法適用前の状態を示す)
【図7】既設水門柱の水平断面図(洪水吐ゲートの支持構造を示す)
【図8】図6中のC−C線断面図
【図9】図8中のD−D線断面図
【図10】水門柱の頂部変位と降伏荷重の関係を示す図
【図11】既設管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図(耐震性向上工法適用後の状態を示す)
【図12】図11の一部を拡大した図
【図13a】高減衰ダンパーの内部構造を示す図(ピストンが中間位置にある状態を示す)
【図13b】高減衰ダンパーの内部構造を示す図(ピストンがストロークエンドに移動した状態を示す)
【図13c】高減衰ダンパーの内部構造を示す図(ピストンがストロークエンドに移動した状態を示す)
【図14】高減衰ダンパーの変位量とダンパ反力の関係を示す図
【図15】高減衰ダンパーの使用範囲を示す図
【図16】図11の一部を拡大した図
【図17】ブラケットに対する軸端部の回転を拘束する構造を示す図
【図18】実施形態2において既設管理橋の主桁の一方側に連結金具を取り付けた状態を示す図
【図19】既設管理橋の主桁の他方側に高減衰ダンパーを取り付けた状態を示す図
【図20】実施形態3に係る回転ダンパーの断面図
【図21】実施形態4において、既設管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図(耐震性向上工法適用前の状態を示す)
【図22】既設管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図(耐震性向上工法適用後の状態を示す)
【図23】実施形態5において、既設管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図(耐震性向上工法適用後の状態を示す)
【図24】実施形態6において、既設管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図(耐震性向上工法適用後の状態を示す)
【図25】実施形態7において、既設管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図(耐震性向上工法適用後の状態を示す)
【図26】連結金具の変形例を示す図
【図27】回転ダンパーの変形例を示す図
【図28】回転ダンパーの変形例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図5ないし図17によって説明する。
1.既設水門柱と既設管理橋の構造説明
図5に示す符号10はダムを構成するコンクリート製の堤体、符号G1、G2は洪水吐ゲートである。洪水吐ゲートG1、G2は、堤体越流部12の放水口11を分担して閉止する構造となっており、洪水吐ゲートG1が放水口11の左半分を閉止し、洪水吐ゲートG2が放水口11の右半分を閉止する構成となっている。これら洪水吐ゲートG1、G2はいずれも鉄製であり、次に説明する既設水門柱(本発明の「ダム水門柱」に相当)31〜35と既設管理橋(本発明の「橋体」に相当)40A、40Bにより支えられる構成となっている。
【0026】
既設水門柱31、33、35はいずれも鉄筋コンクリート製であり、図6に示すように、ダム左右岸方向(図6では左右方向)に並んで設けられている。具体的には、左手側の洪水吐ゲートG1の左側に既設水門柱31が位置する一方、右手側の洪水吐ゲートG2の右側に既設水門柱35が位置している。また、両洪水吐ゲートG1、G2の間に位置して既設水門柱33が位置している。
【0027】
そして、左側に位置する既設水門柱31と右側に位置する既設水門柱35は、基端部を除いて堤体10の非越流部から分離した構造となっており、中央の既設水門柱33と同様に、背が高い柱(モーメントアームLが長い柱)となっている。
【0028】
これら既設水門柱31、33、35は、図7に示すように、ダム上下流方向に長い形状をしている。各既設水門柱31、33、35の左右の側面壁には、洪水吐ゲートG1、G2に対応してそれぞれ嵌合溝31A、33A、35Aが形成されている。
【0029】
嵌合溝31A、33A、35Aは、既設水門柱31〜35の高さ方向(図7では、紙面に垂直な方向)に真っ直ぐ延びており、各洪水吐ゲートG1、G2の左右両端を一定の隙間を空けて嵌合させる構成となっている。
【0030】
これにより、図6に示す左手側の洪水吐ゲートG1は既設水門柱31、33によって直立した姿勢にガイドされ、かつ嵌合溝31A、33Aに沿って上下方向に移動出来る。また、洪水吐ゲートG2は既設水門柱33、35によって、直立した姿勢にガイドされ、かつ嵌合溝33A、35Aに沿って上下方向に移動できる。以下の説明において、3つの既設水門柱31、33、35を総称して既設水門柱30と呼ぶ。
【0031】
既設管理橋40A、40Bはいわゆる鋼製橋体であって、各洪水吐ゲートG1、G2に対応してそれぞれ設けられている。既設管理橋40A、40Bは、図6に示すように鋼製の梁部材41と鋼製の床版45とからなる。梁部材41は、ダム左右岸方向(図6に示す左右方向)に延びる主桁50A、50Bと、ダム上下流方向(図6にて紙面に直交する方向)に延びる横桁(図略)とを備えてなる。
【0032】
主桁50A、50Bは、図6に示すように、隣接する2つの既設水門柱30の間に架け渡されている。すなわち、主桁50Aであれば、既設水門柱31と既設水門柱33とに架け渡され、主桁50Bであれば、既設水門柱33と既設水門柱35とに架け渡されている。尚、主桁50A、50Bは鋼製であって、図8に示すように上下に延びるウェブ53とその上下両端部にフランジ54、55を備えており、断面I字型をしている。
【0033】
上記主桁50A、50Bの支承構造は、いずれも一方側の端部57が固定支承となっており、他方側の端部58が可動支承となっている。尚、固定支承とは、上部構造たる主桁50A、50Bの荷重を支えつつ、既設水門柱30に対する主桁50A、50Bの橋軸方向(図6の左右方向)の変位(熱伸縮変位)を拘束する支承構造であり、橋軸直交方向軸回りの回転方向(図6中のR方向)の変位は拘束しない。また、可動支承とは、上部構造たる主桁50A、50Bの荷重を支えつつ、主桁50A、50Bの橋軸方向の変位(熱伸縮変位)を許容する支承構造であり、橋軸直交方向軸回りの回転方向(図6中のR方向)の変位は拘束しない。
【0034】
尚、図6において符号Fにて示す「△記号」は、既設水門柱30に対する主桁50A、50Bの支承構造が固定支承であることを示しており、また符号Mにて示す「○記号」は既設水門柱30に対する主桁50A、50Bの支承構造が可動支承であることを示している。
【0035】
以下、主桁50Aを例にとって支承構造の説明を行う。図8に示すように、既設水門柱31、33の上面壁31A、33Aは平らな支持面となっており、主桁50Aを支える構成となっている。
【0036】
主桁50Aの両端部57、58の下フランジ55には、図9に示すようにボルト挿通孔57A、58Aが設けられている。一方、既設水門柱31、33の上面壁31A、33Aには、主桁側のボルト挿通孔57A、58Aに対応してボルト孔がそれぞれ形成されている。
【0037】
そして、主桁50A側の各ボルト挿通孔57A、58Aを挿通しつつ既設水門柱31、33側のボルト孔にボルトBが締め込まれており、既設水門柱31、33の上面壁31A、33Aに、主桁50Aの両端部57、58が、各々ボルト締めされる構成となっている。
【0038】
ここで、端部57側のボルト挿通孔57Aは図9にて示すように円形状をしており、ボルトBを隙間なく挿通させる。そのため、ボルトBによる締付後、主桁50Aの一方側の端部57は、既設水門柱31の上面壁31Aに対してダム上下流方向、ダム左右岸方向(橋軸方向)の双方向ともに変位を拘束された状態になる(固定支承F)。
【0039】
端部58側のボルト挿通孔58Aは、図9にて示すように、ダム左右岸方向(橋軸方向)に長い長孔になっている。これにより、ボルトBによる締付後であっても、ボルトBがボルト挿通孔58A内にて相対移動できる結果、主桁50Aの他方側の端部58は、既設水門柱31の上面壁31Aに対してダム上下流方向への変位は拘束されるものの、ダム左右岸方向(橋軸方向)への変位は許容される状態になる(可動支承M)。尚、主桁50Aの他方側の端部58を可動支承にしているのは、主桁50Aの日照の変化等による熱伸縮の拘束に起因する主桁50Aの座屈や支承部の損傷を防ぐためである。
【0040】
上述した主桁50A、50Bは、図8に示すように、ダム上下流方向に沿って複数列(例えば、3列)設置されている。そして、これら列をなして配置された主桁50A、50Bの上に床版45が敷設されている。床版45は、鋼を格子状に組んだものであり、各主桁50A、50Bに対応してそれぞれ設けられている。また、横幅は、既設水門柱31、33、35の頂部の横幅とほぼ等しくなっており、列をなして並ぶ各主桁50A、50Bが床版45を均等に支える構成となっている。
【0041】
図6に戻って説明を続けると、床版45の上には各洪水吐ゲートG1、G2に対応して動力装置(ゲート巻上機)M1、M2が設けられている。動力装置M1、M2は、洪水吐ゲートG1、G2を吊り上げるワイヤWを巻き上げたり、繰り出したりするものである。以上のことから、動力装置M1、M2を作動させることで、各洪水吐ゲートG1、G2を個別に昇降操作(すなわち開閉操作)出来る。そして、開閉に伴う洪水吐ゲートG1、2の重量を、既設管理橋40介して既設水門柱31、33、35にて支える構造となっている。
【0042】
尚、各既設水門柱31〜35はいずれも鉄筋量が少なく、鉄筋の降伏荷重Pyがコンクリートの曲げ破壊荷重Pcに比べて小さい関係(Py<Pcの関係)となっていることから、既設水門柱31〜35の頂部変位量(水平方向の変位量)の許容値は、Py>Pcの場合に比べて小さく、図10の実線で示すように概ね10mm程度となっている。
【0043】
2.既設水門柱31〜35の耐震性向上工法の説明
以下に行う耐震性向上工法の説明において、「橋軸方向の変位」とは、既設水門柱30に対する主桁50A、50Bの橋軸方向(図11、図12、図16の左右方向)の変位を意味し、「橋軸直交方向軸回りの回転」とは、既設水門柱30の頂部を支点とする主桁50A、50Bの回転(図11、図12、図16に示すR方向の回転)を意味する。また、以下の説明において「ラーメン構造」とは、複数の部材の互いの相対回転を拘束あるは抑制するように組み立てた骨組み構造、すなわち、各部材は連結される他部材により互いに支持された骨組み構造を意味する。また、「ラーメン化」とは、当初ラーメン構造でない構造物を上記ラーメン構造に変化させることを意味する。
【0044】
実施形態1では、既設管理橋40A、40Bの各径間において、一方側で常時と地震時について橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の両方を拘束する支承とし、他方側で常時の温度伸縮は解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束するダンパー支承とする、すなわち既設水門柱30と既設管理橋40をラーメン構造化することにより既設水門柱30、特に端部に位置する既設水門柱31、35の耐震性能を向上させるものである。
【0045】
具体的には、図11に示すように、既設管理橋40A、40Bの各径間において、主桁50A、50Bの一方側とそれに対応する既設水門柱31、33とを連結金具(本発明の「構造部材」に相当)60にて連結することにより、主桁50A、50Bの一方側で、常時と地震時について、橋軸方向(図11の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図11に示すR方向の回転)の両方を拘束する支承とする。
【0046】
また、既設管理橋40A、40Bの各径間において、主桁50A、50Bの他方側とそれに対応する既設水門柱33、35とを高減衰ダンパー(本発明の「地震時ラーメン化ダンパー」に相当)70にて連結することにより、主桁50A、50Bの他方側で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は、橋軸方向(図11の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図11に示すR方向の回転)の双方を拘束する。尚、各径間とは、管理橋40A、40Bの橋軸方向に隣り合う支承部の間、すなわち既設管理橋40A、40Bを支える既設水門柱間という意味である。また、実施形態1において、「一方側」は耐震性向上工法適用前の「固定支承側」と対応し、「他方側」は耐震性向上工法適用前の「可動支承側」と対応している。
【0047】
2−1.連結金具60の説明
連結金具60は、図12に示すように、第一ブラケット61と第二ブラケット63を軸ピンP1で結合した構成となっている。そして、軸ピンP1及びそれを挿通させる軸孔は断面形状が多角形状(この例では、正方形)にしてあり、両ブラケット61、63は、取付面61A、63Aが直交した状態にて回転止めされている。
【0048】
図12に示すように、連結金具60は、主桁50Aの一方側と既設水門柱31を連結するように取り付けされる。すなわち、第一ブラケット61側が主桁50Aの一方側の端部57にボルトBで固定され、第二ブラケット63側が既設水門柱31の頂部32の側面に対してボルトBにて固定される。そして、両ブラケット61、63は回転を拘束されていることから、この連結金具60の取り付けにより、端部水門柱31に対して主桁50Aの一方側の端部57の回転が拘束される。以上のことから、連結金具60の取り付けにより、主桁50Aの一方側は、既設水門柱31に対して、常時と地震時について橋軸方向(図12の左右方向)の変位、と橋軸直交方向軸回りの回転(図12に示すR方向の回転)を拘束される。
【0049】
また、説明の繰り返しとなるが、この実施形態では、各管理橋40A、40Bに対応して2本の主桁50A、50Bが設置されているので、図11にて示すように、主桁50Aの一方側の端部57とそれに対応する既設水門柱31の頂部との間と、主桁50Bの一方側の端部57とそれに対応する既設水門柱33の頂部との間がそれぞれ、連結金具60にて連結されることとなる。また、連結金具60の取り付けは、ダム上下流方向に並ぶ3列全ての主桁50A、50Bに対して行われる。
【0050】
2−2.高減衰ダンパー70の説明
高減衰ダンパー70は、図13aに示すように、作動流体80を封入した概ね筒型をしたシリンダ71と、シリンダ71内を2室に画成するピストン73と、ピストン73と一体となったピストンロッド75と、ピストン73の外周面とシリンダ71の内周面との間に形成されたオリフィス77を主体に構成されている。
【0051】
ピストン73の先端には、シリンダ71に形成されたガイド溝71Aに嵌合するガイドピン73Aが設けられおり、ピストン73は、ガイド溝71Aとガイドピン73Aによる案内作用により軸線L1に沿って往復移動する構成となっている。
【0052】
シリンダ71に封入された作動流体(例えば、ビンガム流体やダイラタント流体など)80は、圧縮限界に至るまでは弾性体として作用する一方、圧縮限界を超えると塑性を示し、それ以降はオリフィス77を流通してシリンダ71の反対側の空間に移動し始める(図13b、図13c参照)。
【0053】
そのため、引張、圧縮の双方の軸力Fを繰り返し与えると、高減衰ダンパー70は、変位δとダンパ反力Rとの関係が、原点0を中心する平行四辺形型の履歴ループを描く相関、すなわち変位量δに対するダンパ反力Rの変化が大きい一次剛性と、変位量δに対するダンパ反力Rの変化が小さい二次剛性からなる履歴減衰特性(ヒステリシス特性)を示す(図14参照)。尚、この実施形態では、一次剛性にて作動流体80は弾性挙動を示し、二次剛性にて作動流体80は塑性挙動を示す。
【0054】
そして、熱伸縮速度(1.0×10−7m/s〜8×10−6m/sを想定)における履歴ループは、降伏荷重がRb(図14の例では約200kN)となる小さな四辺形の履歴ループとなる。このように高減衰ダンパー70は、熱伸縮速度では低い降伏荷重で降伏することから、主桁50A、50Bの他方側で常時の温度伸縮を許容して温度荷重を解放できる。
【0055】
また、高減衰ダンパー70の地震速度(約0.01m/s〜2m/s)における履歴ル−プは、降伏荷重(最大反力)がRa(図14の例では約1000kN)となる大きな四辺形の履歴ループとなる。
【0056】
そして、本実施形態1では、既設水門柱31〜35の耐震性向上工法に、次の(a)、(b)のように設計された高減衰ダンパー70を使用する。
【0057】
(a)高減衰ダンパー70の地震速度における降伏変位量(地震時降伏変位)δyが、既設水門柱30の頂部変位の許容値(許容変位の上限値)δcより小さい。
(b)地震速度における降伏荷重Ra、すなわち高減衰ダンパー70の最大ダンパー反力Raが、既設管理橋40に発生する最大地震力Fmよりも大きい。
【0058】
上記の高減衰ダンパー70を使用することにより、地震発生時において、高減衰ダンパー70は一次剛性から二次剛性に移行せず、図15の使用範囲E内を推移する状態になる。すなわち、高減衰ダンパー70が、履歴減衰特性が発揮される以前の一次剛性の領域で最大地震力Fmを受け止め、地震発生時における既設水門柱31〜35の頂部の橋軸方向の変位を拘束する。尚、高減衰ダンパー70の降伏荷重Raは、オリフィス77の断面積が同じであれば、高減衰ダンパー70の容積サイズ(作動流体80の充填量)に比例するので、降伏荷重Raの大きな高減衰ダンパー70を使用したい場合には容量の大きな高減衰ダンパーを選択、設計してやればよい。また、高減衰ダンパー70の一次剛性の大きさ(一次剛性を示す直線の傾き)は、作動流体80の粘性度に比例する傾向がある。そのため、降伏変位δyを小さくしたい場合には、作動流体80に粘性度の高いものを使用してやればよい。
【0059】
また、最大地震力Fmとは、大規模地震が発生したときに高減衰ダンパー70に対して加わる橋軸方向の軸力(軸線L1上に作用する外力の大きさ、図16参照)の最大値であり、ダム周辺の地盤のデータ、各構造物(具体的には、各既設水門柱30、既設管理橋40)の重量、固有周期のデータ、想定される大規模地震の地震データ(震源の深さのデータ、地震のマグネチュードのデータ、震源からのダムまでの距離のデータ)などから算出できる。
【0060】
また、図13に示すように高減衰ダンパー70の両側には、概ね半円形の板状をした軸端部72、76が設けられている。これら両軸端部72、76のうち、シリンダ71側の軸端部72には、図16に示すように、軸ピン(本発明の「回転拘束・抑制部材」に相当)P2を介して第三ブラケット(本発明の「第一の取り付け部」に相当)91が取り付けられ、また、ピストンロッド75側の軸端部76には軸ピン(本発明の「回転拘束・抑制部材」に相当)P2を介して第四ブラケット(本発明の「第二の取り付け部」に相当)95が取り付けられている。
【0061】
図16に示すように、高減衰ダンパー70は、主桁50Aの他方側の端部58と既設水門柱33を連結するように取り付けされる。すなわち、第三ブラケット91側が既設水門柱33の頂部34の側面に対してボルトにて固定され、第四ブラケット95側が主桁50Aに固定された取付部材67にボルトで固定される。尚、このとき、高減衰ダンパー70は軸線L1が、橋軸方向に沿った水平な姿勢となる。
【0062】
そして、図17に示すように、各軸端部72、76に各ブラケット91、95を固定する軸ピンP2は、断面形状が多角形状(この例では、正方形)であり、また軸ピンP2を挿通させる軸孔72A、76A、91A、95Aも、軸ピンP2と同様に多角形である。そのため、各ブラケット91、95に対する各軸端部72、76の回転を拘束、すなわち、各軸端部72、76の橋軸直交方向軸回りの回転を拘束することが出来る。
【0063】
以上のことから、高減衰ダンパー70の取り付けにより、主桁50Aの他方側は、既設水門柱33に対して常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向(図16の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図16に示すR方向の回転)の双方が拘束される。
【0064】
そして、説明の繰り返しになるが、この実施形態では、各管理橋40A、40Bに対応して2本の主桁50A、50Bが設置されているので、図11にて示すように、主桁50Aの他方側の端部58とそれに対応する既設水門柱33の頂部との間、主桁50Bの他方側の端部58とそれに対応する既設水門柱35の頂部との間が、それぞれ高減衰ダンパー70にて連結される。また、高減衰ダンパー70の取り付けは、ダム上下流方向に並ぶ3列全ての主桁50A、50Bに対して行われる。
【0065】
このように、本実施形態の耐震性向上工法は、既設管理橋40A(40B)の各径間において、主桁50A(50B)の一方側と既設水門柱31(33)とを連結金具60にて連結することにより、主桁50A(50B)の一方側で、常時と地震時について橋軸方向(図11の左右方向)の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転(図11に示すR方向の回転)の両方を拘束する。また、主桁50A(50B)の他方側と既設水門柱33(35)とを高減衰ダンパー70にて連結することにより、主桁50A(50B)の他方側で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向(図11の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図11に示すR方向の回転)の双方を拘束する工法である。
【0066】
3.耐震性向上工法の効果説明
(1)常時の効果
主桁50A、50Bは鋼製であり、温度変化によって熱伸縮する。ここで、高減衰ダンパー70は、熱伸縮のようなゆっくりとした変位に対しては、主桁50A、50Bが座屈する前に降伏して、主桁50A、50Bの熱伸縮を許容して温度荷重を解放する。そのため、高減衰ダンパー70が、主桁50A、50Bを常時において損傷させることはない。
【0067】
(2)地震時の効果
実施形態1の耐震性向上工法によれば、地震時は、既設水門柱30と既設管理橋40をラーメン構造化するので、制振対象構造物である既設水門柱30の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、地震時に、既設管理橋40A、40Bを構成する主桁50A、50Bが軸力を生じて既設水門柱30の頂部変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担することから、端部に位置する既設水門柱31、35の基部に加わる曲げモーメントが低減される。
【0068】
そのため、地震時の揺れを、端部の既設水門柱31、35で受け持つことが可能となるので、各既設水門柱31〜35は、損傷をほとんど受けず、地震発生前と同様の状態を保つ。以上のことから、洪水吐ゲートG1、G2を支障なく開閉操作することが可能となり、ダム貯水制御機能を正常に働かせることが出来る。
【0069】
また、本耐震性向上工法では、既設水門柱31、35の耐震性能を向上させるにあたり、既設水門柱31、35を何ら改修する必要がなく、単に、連結金具60、高減衰ダンパー70を取り付けるだけの極めて簡単な構造変更工事を行うだけで済む。従って、既存の既設水門柱31、35を改修して補強する場合に比べて、コストが格段に安くなり、この点も効果的である。また、耐震性向上のための工事中に、水門柱基部以下へのダム水位低下を必要とせず、発電を継続できるというメリットがある。
【0070】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を図18、図19によって説明する。実施形態1では、連結金具60として、2つのブラケット61、63を軸ピンP1によって回転止めした構造を例示した。実施形態2では、図18に示すように、2つのブラケット61、63を一体化して、連結金具101を1部品の構成とした。
【0071】
また、実施形態1では、高減衰ダンパー70として、シリンダ側の軸端部72に対して別部品からなる第三ブラケット91を回転止めした状態で組み付け、ピストン側の軸端部76に対して別部品からなる第四ブラケット95を回転止めした状態で組み付けたものを例示した。
【0072】
実施形態2の高減衰ダンパー105では、図19に示すように、シリンダ側の軸端部106に対して第三ブラケット91を一体化させた構成とし、ピストン側の軸端部107に第四ブラケット95を一体化させた構成とした。
【0073】
実施形態2の連結金具101と高減衰ダンパー105は、実施形態1の連結金具60、高減衰ダンパー70と同様に回転軸を持っていないから、これらを使用して部材同士を連結することにより、連結した2部材の回転を拘束できる。
【0074】
従って、主桁50A(50B)の一方側の端部57と既設水門柱31(33)の頂部とを連結金具101にて連結し、主桁50A(50B)の他方側の端部58と既設水門柱33(35)の頂部とを高減衰ダンパー70にて連結すれば、実施形態1と同様に主桁50A(50B)の一方側で、常時と地震時について橋軸方向(図18、図19の左右方向)の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転(図18、図19に示すR方向の回転)の両方を拘束できる。また、主桁50A(50B)の他方側で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位(図18、図19の左右方向)と、橋軸直交方向軸回りの回転(図18、図19に示すR方向の回転)の両方を拘束できる。実施形態2では、実施形態1と同様に、連結金具60、高減衰ダンパー70を用いて、既設水門柱30と既設管理橋40を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、既設水門柱30の耐震性能を向上させることが可能となる。特に端部側の既設水門柱31、35の耐震性能を向上させることが可能となる。
【0075】
<実施形態3>
次に、本発明の実施形態3を図20によって説明する。実施形態1では、高減衰ダンパー70の各軸端部72、76を対応するブラケット91、95に対して断面正方形の軸ピンP2で止めることにより、各ブラケット91、95に対する各軸端部72、76の回転を拘束する構成を例示した。
【0076】
実施形態3では、図20に示す回転ダンパー(本発明の「回転拘束・抑制部材」に相当)300を利用して、各ブラケット91、95に対する各軸端部72、76の回転を拘束あるいは抑制する。
【0077】
具体的に説明すると、回転ダンパー300は、ビンガム流体等の作動流体350を充填した円筒型のケース310と、ケース310の中央部に取り付けられた回転軸体330を備える。
【0078】
ケース310の内周部には、回転軸体330に向かって突出する第一突起部320が設けられている。この突起部320は、回転軸体330との間に作動流体350を流通させるオリフィス370を形成している。回転軸体330は中央に軸孔330Aを形成すると共に、外周部に第二突起部340を設けている。第二突起部340は、ケース310の内周壁に向かって延びており、ケース310の内周壁との間にわずかな隙間を設けている。
【0079】
図20に示す状態から回転軸体330を回転させると、ケース310に充填された作動流体350は2つの突起部320、340に挟まれて圧縮(収縮)される。圧縮された作動流体350は、圧縮限界(収縮限界)に至るまでは弾性体として作用する。そして、圧縮限界を超えると、作動流体350は塑性を示し、それ以降はオリフィス370を流通して、ケース310内の反対側の空間に移動する。この間、作動流体350は回転に対して抵抗力を示しながら変位を許すことになる。そのため、回転軸体330に対して、正方向と逆方向の双方の回転を繰り返し与えると、回転ダンパー300は履歴減衰特性を発揮して、回転軸体330の回転を拘束あるいは抑制する。
【0080】
従って、高減衰ダンパー70の軸端部72の軸孔72Aと、軸端部76の軸孔76Aにそれぞれ回転ダンパー300を組み込んで(取り付けて)、各ブラケット91、95に対する軸端部72、76の回転を拘束あるいは抑制することで、高減衰ダンパー70により連結される2部材(主桁50と既設水門柱30)の橋軸直交方向軸回りの回転を拘束あるいは抑制することが出来る。
【0081】
したがって、実施形態1のように多角形状の軸ピンP2を利用して軸端部72、76の回転を拘束した場合と同様、地震時に既設水門柱30と主桁50をラーメン構造化することが出来る。そのため、地震時に主桁50が軸力を生じて既設水門柱30の変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、水門柱基部等に加わる曲げモーメントを低減できる。
【0082】
尚、高減衰ダンパー70に対する回転ダンパー300の具体的な取り付け方法としては、例えば、高減衰ダンパー70の軸端部72や軸端部76の軸孔(この場合、軸孔は円形)に対して、回転ダンパー300を、軸回りにケース300が回転しないように固定する。そして、ブラケット91やブラケット95に固定された連結用の軸部材(ロッドや軸ピン)を、回転軸体330の軸孔330Aに挿入し、固定すればよい。また、図17では、ブラケット91、95に対して、高減衰ダンパー70の軸端部72、76を結合する結合部97を1つだけ設けているが、結合部97を2つにして、2枚の結合部97で軸端部72、76を挟むようにすれば、ブラケット91、95に対する軸端部72、87の支持が安定する。
【0083】
<実施形態4>
次に、本発明の実施形態4を、図21、図22によって説明する。尚、実施形態1と同じ構成のものには、同一符号を付して説明を省略、又は簡略化する。
【0084】
1.既設水門柱と既設管理橋の構造説明
図21に示す符号10はダムを構成するコンクリート製の堤体、符号G1、G2は洪水吐ゲートである。洪水吐ゲートG1、G2は、堤体10に形成された放水口11を分担して閉止する構造となっており、洪水吐ゲートG1が放水口11の左半分を閉止し、洪水吐ゲートG2が放水口11の右半分を閉止する構成となっている。これら洪水吐ゲートG1、G2はいずれも鉄製であり、次に説明する既設水門柱(本発明の「ダム水門柱」に相当)131〜135と既設管理橋(本発明の「橋体」に相当)140により支えられる構成となっている。
【0085】
既設水門柱131、133、135はいずれも鉄筋コンクリート製であり、放水口11の幅方向に並んで設けられている。具体的には、図21に示すように、左手側の洪水吐ゲートG1の左端に既設水門柱131が位置する一方、右手側の洪水吐ゲートG2の右端に既設水門柱135が位置している。また、両洪水吐ゲートG1、G2の間に位置して既設水門柱133が位置している。既設水門柱131、133、135を総称して、既設水門柱130とよぶ。
【0086】
既設管理橋140は鉄筋コンクリート製であって、3つの既設水門柱131、133、135に架け渡されている。図21に示すように、既設管理橋140の中央部と既設水門柱133には鉄筋Jが通されており、既設管理橋140は中央の既設水門柱133に対して一体化されている。また、既設管理橋140の左端部141と左側の既設水門柱131との間、右端部145と右側の既設水門柱135との間も鉄筋Jが通されており、既設管理橋140の左右両端部141、145は、左右の既設水門柱131、135に対して各々一体化されている。
【0087】
さて、実施形態4の耐震性向上工法では、まず、既設管理橋140の各径間において、2つの既設水門柱の間に鋼製の追加梁150A、150Bを追加して架け渡す工事を行う(図22参照)。
【0088】
具体的に説明すると、追加梁150A、150Bは、上下に延びるウェブ153とその上下にフランジ154、155を備えており、断面形状はI字型をしている。追加梁150A、150Bの長さは、隣接する2つの既設水門柱130の柱間距離と同程度であり、既設水門柱131と既設水門柱133の間に、追加梁150Aが例えば、クレーン等を用いて橋軸方向に吊った状態で架け渡され、また既設水門柱131と既設水門柱133の間に追加梁150Bが、例えばクレーン等を用いて橋軸方向に吊った状態で架け渡される。追加梁150A、150Bを追加するのは、既設管理橋140に、地震時における橋軸方向の軸力(既設水門柱130からの反力に基づく軸力)を負担するに十分な剛性がなく、それを補うためである。
【0089】
そして、実施形態4の耐震性向上工法では、追加梁150A、150Bの一方側とそれに対応する既設水門柱130とを連結金具60で連結し、追加梁150A、150Bの他方側とそれに対応する既設水門柱130を高減衰ダンパー70にて連結する。
【0090】
具体的には、追加梁150Aの一方側の端部157と既設水門柱133を連結金具60により連結し、また、追加梁150Aの他方側の端部158と既設水門柱131を高減衰ダンパー70により連結する。同様にして、追加梁150Bの一方側の端部157と既設水門柱135を連結金具60により連結し、また、追加梁150Bの他方側の端部158と既設水門柱133を高減衰ダンパー70により連結する。
【0091】
以上により、追加梁150A、150Bは、一方側で常時と地震時について橋軸方向の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転の両方を拘束できる。また、他方側で常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転の両方を拘束できる。実施形態4では、連結金具60、高減衰ダンパー70を用いて、既設水門柱130と追加梁150を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、既設水門柱130の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、実施形態1の場合と同様に既設水門柱131〜135に作用する地震力のうち軸力だけでなく、曲げモーメントの一部を追加梁150A、150B側が負担することになるので、端部側の既設水門柱131、135の基部に加わる曲げモーメントを低減することが可能となる。そのため、地震時の揺れを、端部の既設水門柱131、135で受け持つことが可能となり、既設水門柱131〜135の耐震性能が向上する。
【0092】
<実施形態5>
次に、本発明の実施形態5を図23によって説明する。実施形態1では、既設管理橋40A(40B)の各径間において、主桁50A(50B)の一方側(固定支承側)の端部57と既設水門柱31(33)の頂部とを連結金具60により連結することにより、主桁50A(50B)の一方側で、常時と地震時について橋軸方向(図11の左右方向)の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転(図11に示すR方向の回転)の両方を拘束した。また、主桁50A(50B)の他方側(可動支承側)の端部58と既設水門柱33(35)の頂部とを高減衰ダンパー70にて連結することにより、主桁50A(50B)の他方側で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向(図11の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図11に示すR方向の回転)の双方を拘束した。
【0093】
実施形態5では、主桁50A(50B)の一方側の端部57に形成されたボルト挿通孔57Aを、ボルト挿通孔58Aと同様、橋軸方向に長い長孔に変更して、主桁50A(50B)の一方側の支承構造を固定支承構造から可動動支承構造に変更する。すなわち、主桁50A(50B)の両端部57、58の支承構造を、いずれも可動支承構造に構造変更する。
【0094】
そして、両端部57、58の支承構造を可動支承構造に変更した上で、主桁50A(50B)の両端部57、58を、対応する既設水門柱30の頂部とそれぞれ実施形態1の高減衰ダンパー70で連結する。すなわち、制振対象構造物との連結に用いられる軸端部72、76の回転を拘束し、履歴減衰特性が発揮される以前の一次剛性の領域で最大地震力Fmを受け止める高減衰ダンパー70で連結する。以上により、主桁50A(50B)の両側とも、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放することができ、地震時は橋軸方向(図23の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図23に示すR方向の回転)の双方を拘束することができる。
【0095】
この場合も、高減衰ダンパー70を用いて、既設水門柱30と既設管理橋40を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、既設水門柱30の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、地震発生時、主桁50A、50Bが軸力を生じて既設水門柱30の変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担することから、端部に位置する既設水門柱31、35の基部に加わる曲げモーメントが低減される。そのため、地震の揺れを、端部に位置する既設水門柱31、35で受け持つことが可能となり、耐震性能が高まる。また、この場合、主桁50A(50B)の両側に取り付けた左右の高減衰ダンパー70が、地震発生時に、主桁50A(50B)の左右に位置する既設水門柱30の変位を左右均等に拘束する。そのため、一方の既設水門柱30の基部等に曲げモーメントが集中することがなく、地震の揺れを左右の既設水門柱31、35で同じように受け持つことが出来る。そのため、耐震性能が向上する。
【0096】
また、実施形態1の回転拘束型の高減衰ダンパー70に変えて、実施形態3の回転拘束あるいは抑制型の高減衰ダンパー70を用いることも可能である。この場合、高減衰ダンパー70により連結される2部材(主桁50と既設水門柱30)の橋軸直交方向軸回りの回転を拘束あるいは抑制することが出来る。そのため、回転拘束型の高減衰ダンパーを用いた場合と同様、常時においては、温度荷重を解放し、地震時は既設水門柱30と主桁50をラーメン構造化することが出来る。そのため、地震時に、主桁50が軸力を生じて既設水門柱30の頂部変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、ダム水門柱基部等に加わる曲げモーメントを低減できる。
【0097】
また、高減衰ダンパー70は、地震時に、履歴減衰特性が発揮される以前の一次剛性の領域で最大地震力Fmを受け止める使用法以外にも、地震時に、図14に示す履歴減衰ループを辿らせて履歴減衰特性を発揮させるようにしてもよい。
【0098】
履歴減衰特性を発揮させる場合、橋軸方向を変位に対して高減衰ダンパー70が抵抗力を示しながら変位を許すので、主桁50A(50B)の一方側と他方側の双方で、既設水門柱30の頂部の橋軸方向の変位を抑制することができる。また、この場合、地震発生時において、高減衰ダンパー70が図14に示す履歴減衰ループを辿って震動エネルギーを吸収するので、既設水門柱30の耐震性能を向上させることが可能となる。
【0099】
尚、地震発生時に、高減衰ダンパー70に履歴減衰ループを辿らせる場合、一次剛性と二次剛性からなる履歴減衰特性を発揮したときの高減衰ダンパー70の地震時最大変位δmax(図14参照)を、既設水門柱30の頂部変位の許容値(許容変位の上限値)δcよりも小さく設定しておくことが好ましい。そのような設定にしておけば、既設水門柱30の頂部変位の許容値δc以内で、高減衰ダンパー70が履歴減衰特性を発揮するので、既設水門柱30の頂部変位が許容値δcを超え難くなる。
【0100】
たとえば、図10の2点鎖線で示すように鉄筋の降伏荷重Pyがコンクリートの曲げ破壊荷重Pcに比べて大きい関係となっており、既設水門柱31〜35の頂部変位(水平方向の変位量)の許容値δcが、概ね100mmの場合であれば、高減衰ダンパー70の地震時最大変位δmaxが、100mm以下となるように、高減衰ダンパー70を設計するとよい。具体的には、シリンダ71、ピストン73の大きさ、形状や、作動流体の材質、充填量等を設計するとよい。
【0101】
なお、高減衰ダンパー70の上記使用方法(履歴減衰特性を発揮させる使用方法)は、既設水門柱30の頂部変位の許容値δcがある程度大きい場合に有効であり、鉄筋の降伏荷重Pyがコンクリートの曲げ破壊荷重Pcに比べて大きい関係となっている場合(既設水門柱30の鉄筋量が多い場合)に、使用が限定されるものではない。
【0102】
<実施形態6>
実施形態5では、主桁50A(50B)の両端部57、58の支承構造を可動支承構造に変更した上で、主桁50A(50B)の両端部57、58を、対応する既設水門柱30の頂部とそれぞれ実施形態1又は実施形態3の高減衰ダンパー70で連結した。
【0103】
支承構造の変更は必須でなく、図24に示すように、主桁50A、50Bの支承構造は既存構造のまま、すなわち一方側が固定支承構造で、他方側が可動支承構造のままとし、実施形態1や実施形態3の高減衰ダンパー70で、主桁50A(50B)の両端部57、58を、対応する既設水門柱30の頂部とそれぞれ連結する工事のみ行うようにしてもよい。
【0104】
<実施形態7>
次に、本発明の実施形態7を図25によって説明する。実施形態4では、既設管理橋140の各径間において、2つの既設水門柱130の間に鋼製の追加梁150A、150Bを追加して架け渡す工事を行った。そして、既設管理橋140の各径間において、追加梁150A(150B)の一方側の端部157と既設水門柱133(135)とを連結金具60により連結することにより、追加梁150A(150B)の一方側で、常時と地震時について橋軸方向(図22の左右方向)の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転(図22に示すR方向の回転)の両方を拘束した。また、追加梁150A(150B)の他方側の端部158と既設水門柱131(133)とを高減衰ダンパー70にて連結することにより、追加梁150A(150B)の他方側で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向(図22の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図22に示すR方向の回転)の双方を拘束した。
【0105】
実施形態7では、図25に示すように、追加梁150A(150B)の両端部157、158を、対応する既設水門柱130の頂部と、実施形態1の回転拘束型又は実施形態3の回転拘束あるいは抑制型の高減衰ダンパー70で連結する。これにより、追加桁150A(150B)の一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放することができ、地震時は橋軸方向(図25の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図25に示すR方向の回転)の双方を拘束あるいは抑制することができる。
【0106】
この場合も、実施形態4と同様に、高減衰ダンパー70を用いて、既設水門柱130と追加梁150を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、既設水門柱130の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、地震発生時、追加梁150A、150Bが軸力を生じて既設水門柱130の変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担することから、端部に位置する既設水門柱131、135の基部に加わる曲げモーメントが低減される。そのため、地震の揺れを、端部に位置する既設水門柱31、35で受け持つことが可能となり、耐震性能が高まる。また、この場合、追加梁150A(150B)の両側に取り付けた高減衰ダンパー70が、地震発生時に、追加梁150A(150B)の左右に位置する既設水門柱130の変位を左右均等に拘束するので、地震動をバランスよく抑えることができ、既設水門柱130の耐震性能が高まる。
【0107】
また、図25に示すように、追加梁150A(150B)の両端部157、158を対応する既設水門柱130の頂部と高減衰ダンパー70で連結する場合、高減衰ダンパー70の使用法として、地震時に、履歴減衰特性が発揮される以前の一次剛性の領域で最大地震力Fmを受け止めることで、既設水門柱130の頂部の橋軸方向の変位を拘束する使用法の他、図14に示す履歴減衰ループを辿らせて、既設水門柱130の頂部の橋軸方向の変位を抑制する使用法のいずれも適用できる。
【0108】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0109】
(1)実施形態1、4では、連結金具60として、2つのブラケット61、62から分割構成したものを示した。そして、2つのブラケット61、62の回転止め構造として角型の軸ピンP1を用いた。2つのブラケット61、62を回転止めするには、実施形態1で説明したものの他に、図26に示すように、平板状の板部材200を2つのブラケット261、262に重ねて合わせてボルト締結するようにしてもよい。
【0110】
(2)実施形態1〜7では、洪水吐ゲートを支持する既設水門柱を例にとって、耐震性向上工法の説明を行ったが、本工法を、排砂ゲートを支持するダム水門柱に適用してもよい。
【0111】
(3)実施形態1〜7では、2径間の既設管理橋40を例示して耐震性向上工法を説明したが、本発明の耐震性向上工法は2径間以外の構造にも、適用することが可能である。
【0112】
(4)実施形態3では、回転ダンパー300として、ケース310と、回転軸体330の双方に突起部320、340を設け、回転軸体330の回転に伴って作動流体350を圧縮させるものを例示した。回転ダンパー300は、実施形態3に例示した構造以外にも、例えば、ケース410側の突起部を廃止して、回転軸体430側にのみ突起部440を設ける構造でもよい。図27の回転ダンパー400は、外周側に突起部440を等間隔に4か所設けた回転軸体430を、作動流体450を充填したケース410に収容した構造となっている。この場合、回転軸体430の回転に伴って、作動流体450の一部が突起部440の先端とケース310の内周壁との間に形成されたオリフィス470を流通して抵抗力を示すので、回転軸体430の回転を抑制することが出来る。
【0113】
また、図27に示す構造以外にも、例えば、図28に示すように、ラックギヤ510とピニオンギヤ520からなる歯車機構530を利用して回転方向の運動を直線方向の運動に変換し、ラックギヤ520の回転に伴ってシリンダ内540のピストン550を往復移動させることで、軸端部72、76の回転を拘束あるいは抑制することも可能である。
【0114】
(5)上記実施形態4、実施形態7では、既設水門柱130の間に鋼製の追加梁150を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、追加した追加梁150の両端を既設水門柱130に対して高減衰ダンパー70や連結金具60で連結して、追加梁150と既設水門柱130をラーメン構造化する工法を説明した。本工法の適用対象は、既設管理橋が、地震時における橋軸方向の軸力を負担するに十分な剛性がない場合に有効であり、実施形態4で例示した鉄筋コンクリート製の既設管理橋140以外にも、鋼製の既設管理橋に適用することも可能である。
【0115】
(6)上記実施形態1〜7では、ダム水門柱の耐震性向上工法の説明を行ったが、本工法を道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁(一般橋梁)に適用して、橋梁(一般橋梁)の耐震性能を高めることも可能である。すなわち、上部構造部材である橋桁の各径間において、一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制する高減衰ダンパー70で、下部構造部材である橋脚や橋台と連結する。高減衰ダンパー70の取り付けにより、上部構造部材と下部構造部材の連結部、すなわち上部構造部材の支承部において、互いの相対回転を拘束あるいは抑制するようラーメン構造化することができる。そのため、上部構造部材と下部構造部材は連結される他部材により互いに支持される状態になるので、橋梁(一般橋梁)の耐震性が向上する。
【符号の説明】
【0116】
10…堤体
31、33、35…既設水門柱(本発明の「ダム水門柱」、「制振対象構造物」に相当)
40…既設管理橋(本発明の「橋体」、「制振対象構造物」に相当)
41…梁部材
45…床版
50A、50B…主桁
60…連結金具(本発明の「構造部材」に相当)
70…高減衰ダンパー(本発明の「地震時ラーメン化ダンパー」に相当)
71…シリンダ
72…軸端部
73…ピストン
76…軸端部
80…作動流体
91…第三ブラケット(本発明の「第一の取り付け部」に相当)
95…第四ブラケット(本発明の「第二の取り付け部」に相当)
131、133、135…既設水門柱(本発明の「ダム水門柱」に相当)
140…既設管理橋(本発明の「橋体」に相当)
150A、150B…追加梁
200…板部材
300…回転ダンパー(本発明の「回転拘束・抑制部材」に相当)
400…回転ダンパー(本発明の「回転拘束・抑制部材」に相当)
G1、G2…洪水吐ゲート
F…固定支承
M…可動支承
P1…軸ピン
P2…軸ピン(本発明の「回転拘束・抑制部材」に相当)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダム水門柱や、道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁(一般橋梁)の耐震性能を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
土木分野や建築分野において免振装置や制振装置として使用されるダンパーに、下記特許文献1に記載のものがある。特許文献1のダンパーは、ロッドエンドの連結部とシリンダエンドの連結部により、制振対象物に取り付けられる。そして、地震等により、ダンパーに力が作用すると、緩衝作用が行われ、制振対象物の揺れを抑える。上記ダンパーは、ロッドエンドとシリンダエンドの連結部に、それぞれ円形の取り付け孔を形成している。すなわち、制振対象物に対してピンジョイントされるようになっており、制振対象物への取り付けにより、地震時ダンパーロッド軸方向の制震効果があるものの、ピンジョイント部は回転自由(モーメントの拘束あるいは抑制がない構造)であるため、回転方向の変位を拘束するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−77800公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダムの水門柱は洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であり、大規模地震が発生した場合でも洪水処理機能を維持できる耐震性能を保有する必要がある。したがって、大規模地震に備え、水門柱の耐震性能を高めておくことは、保安レベル向上のため重要である。図1〜図2に示すように、ダム堤体10の堤体越流部12には、洪水吐ゲートG1、G2が設けられていて、洪水吐ゲートG1、G2の開閉により、ダムの貯水量およびダムからの流下量を調整するようになっている。通常、このような洪水吐ゲートG1、G2の両側には、洪水吐ゲートが2門の場合の例である図3に示すように、ダム水門柱1、3が設けられおり、それらダム水門柱1、3の間に管理橋4A、4Bが架け渡されている。管理橋4A、4Bの構造は、例えば、床板6をダム上下流方向に並ぶ複数の主桁5により支えた構成となっている(図4参照)。そして、管理橋4A、4B上には、図3に示すように動力装置(ゲート巻上機)M1、M2が設置されていて、洪水吐ゲートG1、G2を吊り上げるワイヤWを巻き上げたり、繰り出したりすることで、洪水吐ゲートG1、G2を開閉する構成となっている。さて、図3に示すように、ダム水門柱1、3による管理橋4A、4Bの支承構造は、一般的に、各径間の片方が可動支承になっている。これは、管理橋4A、4Bの鋼製主桁の日照の変化等による熱伸縮の拘束に起因する主桁の座屈や支承部の損傷を防ぐためである。径間の片方が可動支承である管理橋は水門柱の揺れを抑える制震部材としては機能していない。したがって、地震発生時には、管理橋4A、4B等を支えるダム水門柱1、3が個々に振動する。ダム水門柱1、3の振動を抑えるには、例えば、ダム水門柱1、3を、管理橋4A、4Bとピンで結合し、地震の揺れを、端部のダム水門柱1で受け持つことが考えられる。しかし、図3に示すように端部のダム水門柱1が、中央のダム水門柱3と同様に背が高い(モーメントアームLが長い)場合や、端部ダム水門柱基部の断面が小さい場合などは、地震時の揺れで、端部ダム水門柱基部に曲げ破壊が生じ易く、地震の揺れを、端部のダム水門柱1で受け持つことが難しかった。また、道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁でも、地震発生時に、上側構造部材と下側構造部材が個々に振動する場合があり、地震の揺れを抑えることが要望されていた。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、ダム水門柱や、道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁の耐震性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明は、ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結するところに特徴を有する。尚、「各径間」とは、橋体の橋軸方向に隣り合う支承部の間、すなわちダム水門柱の間という意味である。また、「ラーメン構造」とは、複数の部材の互いの相対回転を拘束あるは抑制するように組み立てた骨組み構造、すなわち、各部材は連結される他部材により互いに支持された骨組み構造である。そして、「ラーメン化」とは、当初ラーメン構造でない構造物を上記ラーメン構造に変化させることを意味する。
【0006】
この発明では、地震時ラーメン化ダンパーを用いて、ダム水門柱と橋体を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、ダム水門柱の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、この発明では、地震時に、橋体が軸力を生じてダム水門柱の変位を拘束あるいは抑制すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、ダム水門柱基部等に加わる曲げモーメントを低減できる。そのため、ダム水門柱の耐震性能が向上する。特に、端部のダム水門柱の背が高い場合には、地震時の揺れで、端部ダム水門柱基部に曲げ破壊が生じ易いが、本発明を適用することで、端部ダム水門柱基部の曲げモーメントを低減する効果が得られる。そのため、地震時の揺れを、端部のダム水門柱で受け持つことが可能となり、ダム水門柱の耐震性能を向上させることができる。
【0007】
また、この発明では、橋体の両側において、ダム水門柱との間に取り付けた2つの地震時ラーメン化ダンパーが、地震発生時に、橋体の両側に位置するダム水門柱の頂部変位を均等に拘束あるいは抑制する。そのため、一方のダム水門柱の基部等に曲げモーメントが集中することがなく、地震の揺れを左右のダム水門柱で同じように受け持つことが出来る。そのため、耐震性能が向上する。
【0008】
請求項2の発明は、ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、前記橋体の支承部は既設構造のままとし、各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、前記追加梁の一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結するところに特徴を有する。
【0009】
この発明では、地震時ラーメン化ダンパーを用いて、ダム水門柱と追加梁を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、ダム水門柱の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、この発明では、地震時に、追加梁が軸力を生じてダム水門柱の頂部変位を拘束あるいは抑制すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、ダム水門柱基部等に加わる曲げモーメントを低減できる。そのため、ダム水門柱の耐震性能が向上する。特に、端部のダム水門柱の背が高い場合には、地震時の揺れで、端部ダム水門柱基部に曲げ破壊が生じ易いが、本発明を適用することで、端部ダム水門柱基部の曲げモーメントを低減する効果が得られる。そのため、地震時の揺れを、端部のダム水門柱で受け持つことが可能となり、ダム水門柱の耐震性能を向上させることができる。
【0010】
また、この発明では、追加梁の両側において、ダム水門柱との間に取り付けた2つの地震時ラーメン化ダンパーが、地震発生時に、追加梁の両側に位置するダム水門柱の頂部変位を均等に拘束あるいは抑制する。そのため、一方のダム水門柱基部等に曲げモーメントが集中することがなく、地震の揺れを、左右のダム水門柱で同じように受け持つことが出来る。そのため、耐震性能が向上する。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載のものにおいて、前記橋体がRCコンクリート構造であって、前記水門柱上部で前記ダム水門柱と一体となっている場合に、各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、前記追加梁の一方側と他方側の双方で、前記地震時ラーメン化ダンパーを用いて前記ダム水門柱と連結するところに特徴を有する。この発明では、橋体がRCコンクリート構造である場合に、追加梁が軸力を生じてダム水門柱の変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、ダム水門柱基部に加わる曲げモーメントを低減できる。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のものにおいて、一次剛性と二次剛性からなる履歴減衰特性を発揮したときの前記地震時ラーメン化ダンパーの地震時最大変位を、前記ダム水門柱の許容変位の上限値よりも小さく設定し、前記ダム水門柱の許容変位の上限値以内で前記地震時ラーメン化ダンパーが履歴減衰特性を発揮して、前記ダム水門柱の耐震性能を向上させるところに特徴を有する。この発明では、地震時ラーメン化ダンパーが履歴減衰特性を発揮して震動エネルギーを吸収するので、ダム水門柱の耐震性能を一層向上させることが可能となる。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のものにおいて、前記ダム水門柱の許容変位の上限値よりも前記地震時ラーメン化ダンパーの地震時降伏変位を小さく設定し、前記橋体に発生する最大地震力よりも前記地震時ラーメン化ダンパーの最大ダンパー反力を大きく設定することにより、前記地震時ラーメン化ダンパーが、一次剛性と二次剛性からなる履歴減衰特性が発揮される以前の前記一次剛性の領域で最大地震力を受けとめ、前記ダム水門柱の耐震性能を向上させるところに特徴を有する。この発明では、地震時ラーメン化ダンパーが、ダム水門柱に対して小さな相対変位で突っ張って最大地震力を受け止める。そのため、ダム水門柱の頂部変位を微小なものに拘束することが可能となる。よって、ダム水門柱基部に加わる曲げモーメントを低減できる。
【0014】
請求項6の発明は、ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、一方側で常時と地震時について橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する構造部材で前記ダム水門柱と連結し、他方側で常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結するところに特徴を有する。
【0015】
この発明では、構造部材と、地震時ラーメン化ダンパーを用いて、ダム水門柱と橋体を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、ダム水門柱の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、この発明では、地震時に、橋体が軸力を生じてダム水門柱の変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、ダム水門柱基部等に加わる曲げモーメントを低減できる。そのため、ダム水門柱の耐震性能が向上する。特に、端部のダム水門柱の背が高い場合には、地震時の揺れで、端部ダム水門柱基部に曲げ破壊が生じ易いが、本発明を適用することで、端部ダム水門柱基部の曲げモーメントを低減する効果が得られる。そのため、地震時の揺れを、端部のダム水門柱で受け持つことが可能となり、ダム水門柱の耐震性能を向上させることができる。
【0016】
請求項7の発明は、ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、前記橋体の支承部は既設構造のままとし、各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、前記追加梁の一方側で常時と地震時について橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する構造部材で前記ダム水門柱と連結し、前記追加梁の他方側で常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結するところに特徴を有する。
【0017】
この発明では、構造部材と、地震時ラーメン化ダンパーを用いて、ダム水門柱と追加梁を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、ダム水門柱の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、この発明では、地震時に、追加梁が軸力を生じてダム水門柱の変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、ダム水門柱基部等に加わる曲げモーメントを低減できる。そのため、ダム水門柱の耐震性能が向上する。特に、端部のダム水門柱の背が高い場合には、地震時の揺れで、端部ダム水門柱基部に曲げ破壊が生じ易いが、本発明を適用することで、端部ダム水門柱基部の曲げモーメントを低減する効果が得られる。そのため、地震時の揺れを、端部のダム水門柱で受け持つことが可能となり、ダム水門柱の耐震性能を向上させることができる。
【0018】
請求項8の発明は、請求項7に記載のものにおいて、前記橋体がRCコンクリート構造であって、前記水門柱上部で前記ダム水門柱と一体となっている場合に、各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、前記追加梁の一方側で前記構造部材を用いて前記ダム水門柱と連結し、前記追加梁の他方側で前記地震時ラーメン化ダンパーを用いて前記ダム水門柱と連結するところに特徴を有する。この発明では、橋体がRCコンクリート構造である場合に、追加梁が軸力を生じて、ダム水門柱の変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、ダム水門柱基部に加わる曲げモーメントを低減できる。
【0019】
請求項9の発明は、上部構造部材を下部構造部材により支えた道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁(一般橋梁)の耐震性向上工法であって、前記上部構造部材の各径間において、一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制する地震時ラーメン化ダンパーで前記下部構造部材と連結するところに特徴を有する。
【0020】
この発明では、上部構造部材と下部構造部材の連結部、すなわち上部構造部材の支承部において、互いの相対回転を拘束あるいは抑制するようラーメン構造化する。これにより、上部構造部材と下部構造部材は連結される他部材により互いに支持される状態になるので、道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁の耐震性能が向上する。
【0021】
請求項10の発明は、作動流体を封入したシリンダと、前記シリンダ内を2室に画成するピストンと一体となったピストンロッドと、前記シリンダ側の軸端部を制振対象構造物に取り付けるための第一の取り付け部と、前記ピストンロッド側の軸端部を他方の制振対象構造物に取り付けるための第二の取り付け部と、前記取り付け部に対する前記軸端部の回転を拘束あるいは抑制する回転拘束・抑制部材と、を備え、前記制振対象構造物に対する常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は前記制振対象構造物の連結部の橋軸方向の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制するところに特徴を有する。この発明の地震時ラーメン化ダンパーを用いて、ダム水門柱と橋体を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、ダム水門柱の耐震性能を向上させることが可能となる。また、地震時ラーメン化ダンパーを、道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁に適用することで、橋梁の耐震性能が向上する。
【0022】
請求項11の発明は、作動流体を封入したシリンダと、前記シリンダ内を2室に画成するピストンと一体となったピストンロッドと、前記シリンダ側の軸端部を制振対象構造物に取り付けるための第一取り付け部と、前記ピストンロッド側の軸端部を他方の制振対象構造物に取り付けるための第二取り付け部と、を備えてなると共に、前記第一の取り付け部は、前記シリンダの軸端部に対して一体的に形成されることにより回転止めされ、前記第二の取り付け部は、前記ピストンロッドの軸端部に対して一体的に形成されることにより回転止めされ、前記制振対象構造物に対する常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は前記制振対象構造物の連結部の橋軸方向の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束するところに特徴を有する。この発明の地震時ラーメン化ダンパーを用いて、ダム水門柱と橋体を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、ダム水門柱の耐震性能を向上させることが可能となる。また、地震時ラーメン化ダンパーを、道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁に適用することで、橋梁の耐震性能が向上する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ダム水門柱や、道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁の耐震性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ダムの一般的な構造を示す斜視図
【図2】図1の拡大図(洪水吐ゲート周辺を示す)
【図3】管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図
【図4】図3のC−C線断面図
【図5】本発明の実施形態1に係るダムの斜視図(洪水吐ゲート周辺を示す)
【図6】既設管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図(耐震性向上工法適用前の状態を示す)
【図7】既設水門柱の水平断面図(洪水吐ゲートの支持構造を示す)
【図8】図6中のC−C線断面図
【図9】図8中のD−D線断面図
【図10】水門柱の頂部変位と降伏荷重の関係を示す図
【図11】既設管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図(耐震性向上工法適用後の状態を示す)
【図12】図11の一部を拡大した図
【図13a】高減衰ダンパーの内部構造を示す図(ピストンが中間位置にある状態を示す)
【図13b】高減衰ダンパーの内部構造を示す図(ピストンがストロークエンドに移動した状態を示す)
【図13c】高減衰ダンパーの内部構造を示す図(ピストンがストロークエンドに移動した状態を示す)
【図14】高減衰ダンパーの変位量とダンパ反力の関係を示す図
【図15】高減衰ダンパーの使用範囲を示す図
【図16】図11の一部を拡大した図
【図17】ブラケットに対する軸端部の回転を拘束する構造を示す図
【図18】実施形態2において既設管理橋の主桁の一方側に連結金具を取り付けた状態を示す図
【図19】既設管理橋の主桁の他方側に高減衰ダンパーを取り付けた状態を示す図
【図20】実施形態3に係る回転ダンパーの断面図
【図21】実施形態4において、既設管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図(耐震性向上工法適用前の状態を示す)
【図22】既設管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図(耐震性向上工法適用後の状態を示す)
【図23】実施形態5において、既設管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図(耐震性向上工法適用後の状態を示す)
【図24】実施形態6において、既設管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図(耐震性向上工法適用後の状態を示す)
【図25】実施形態7において、既設管理橋を正面側(上下流方向側)から見た図(耐震性向上工法適用後の状態を示す)
【図26】連結金具の変形例を示す図
【図27】回転ダンパーの変形例を示す図
【図28】回転ダンパーの変形例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を図5ないし図17によって説明する。
1.既設水門柱と既設管理橋の構造説明
図5に示す符号10はダムを構成するコンクリート製の堤体、符号G1、G2は洪水吐ゲートである。洪水吐ゲートG1、G2は、堤体越流部12の放水口11を分担して閉止する構造となっており、洪水吐ゲートG1が放水口11の左半分を閉止し、洪水吐ゲートG2が放水口11の右半分を閉止する構成となっている。これら洪水吐ゲートG1、G2はいずれも鉄製であり、次に説明する既設水門柱(本発明の「ダム水門柱」に相当)31〜35と既設管理橋(本発明の「橋体」に相当)40A、40Bにより支えられる構成となっている。
【0026】
既設水門柱31、33、35はいずれも鉄筋コンクリート製であり、図6に示すように、ダム左右岸方向(図6では左右方向)に並んで設けられている。具体的には、左手側の洪水吐ゲートG1の左側に既設水門柱31が位置する一方、右手側の洪水吐ゲートG2の右側に既設水門柱35が位置している。また、両洪水吐ゲートG1、G2の間に位置して既設水門柱33が位置している。
【0027】
そして、左側に位置する既設水門柱31と右側に位置する既設水門柱35は、基端部を除いて堤体10の非越流部から分離した構造となっており、中央の既設水門柱33と同様に、背が高い柱(モーメントアームLが長い柱)となっている。
【0028】
これら既設水門柱31、33、35は、図7に示すように、ダム上下流方向に長い形状をしている。各既設水門柱31、33、35の左右の側面壁には、洪水吐ゲートG1、G2に対応してそれぞれ嵌合溝31A、33A、35Aが形成されている。
【0029】
嵌合溝31A、33A、35Aは、既設水門柱31〜35の高さ方向(図7では、紙面に垂直な方向)に真っ直ぐ延びており、各洪水吐ゲートG1、G2の左右両端を一定の隙間を空けて嵌合させる構成となっている。
【0030】
これにより、図6に示す左手側の洪水吐ゲートG1は既設水門柱31、33によって直立した姿勢にガイドされ、かつ嵌合溝31A、33Aに沿って上下方向に移動出来る。また、洪水吐ゲートG2は既設水門柱33、35によって、直立した姿勢にガイドされ、かつ嵌合溝33A、35Aに沿って上下方向に移動できる。以下の説明において、3つの既設水門柱31、33、35を総称して既設水門柱30と呼ぶ。
【0031】
既設管理橋40A、40Bはいわゆる鋼製橋体であって、各洪水吐ゲートG1、G2に対応してそれぞれ設けられている。既設管理橋40A、40Bは、図6に示すように鋼製の梁部材41と鋼製の床版45とからなる。梁部材41は、ダム左右岸方向(図6に示す左右方向)に延びる主桁50A、50Bと、ダム上下流方向(図6にて紙面に直交する方向)に延びる横桁(図略)とを備えてなる。
【0032】
主桁50A、50Bは、図6に示すように、隣接する2つの既設水門柱30の間に架け渡されている。すなわち、主桁50Aであれば、既設水門柱31と既設水門柱33とに架け渡され、主桁50Bであれば、既設水門柱33と既設水門柱35とに架け渡されている。尚、主桁50A、50Bは鋼製であって、図8に示すように上下に延びるウェブ53とその上下両端部にフランジ54、55を備えており、断面I字型をしている。
【0033】
上記主桁50A、50Bの支承構造は、いずれも一方側の端部57が固定支承となっており、他方側の端部58が可動支承となっている。尚、固定支承とは、上部構造たる主桁50A、50Bの荷重を支えつつ、既設水門柱30に対する主桁50A、50Bの橋軸方向(図6の左右方向)の変位(熱伸縮変位)を拘束する支承構造であり、橋軸直交方向軸回りの回転方向(図6中のR方向)の変位は拘束しない。また、可動支承とは、上部構造たる主桁50A、50Bの荷重を支えつつ、主桁50A、50Bの橋軸方向の変位(熱伸縮変位)を許容する支承構造であり、橋軸直交方向軸回りの回転方向(図6中のR方向)の変位は拘束しない。
【0034】
尚、図6において符号Fにて示す「△記号」は、既設水門柱30に対する主桁50A、50Bの支承構造が固定支承であることを示しており、また符号Mにて示す「○記号」は既設水門柱30に対する主桁50A、50Bの支承構造が可動支承であることを示している。
【0035】
以下、主桁50Aを例にとって支承構造の説明を行う。図8に示すように、既設水門柱31、33の上面壁31A、33Aは平らな支持面となっており、主桁50Aを支える構成となっている。
【0036】
主桁50Aの両端部57、58の下フランジ55には、図9に示すようにボルト挿通孔57A、58Aが設けられている。一方、既設水門柱31、33の上面壁31A、33Aには、主桁側のボルト挿通孔57A、58Aに対応してボルト孔がそれぞれ形成されている。
【0037】
そして、主桁50A側の各ボルト挿通孔57A、58Aを挿通しつつ既設水門柱31、33側のボルト孔にボルトBが締め込まれており、既設水門柱31、33の上面壁31A、33Aに、主桁50Aの両端部57、58が、各々ボルト締めされる構成となっている。
【0038】
ここで、端部57側のボルト挿通孔57Aは図9にて示すように円形状をしており、ボルトBを隙間なく挿通させる。そのため、ボルトBによる締付後、主桁50Aの一方側の端部57は、既設水門柱31の上面壁31Aに対してダム上下流方向、ダム左右岸方向(橋軸方向)の双方向ともに変位を拘束された状態になる(固定支承F)。
【0039】
端部58側のボルト挿通孔58Aは、図9にて示すように、ダム左右岸方向(橋軸方向)に長い長孔になっている。これにより、ボルトBによる締付後であっても、ボルトBがボルト挿通孔58A内にて相対移動できる結果、主桁50Aの他方側の端部58は、既設水門柱31の上面壁31Aに対してダム上下流方向への変位は拘束されるものの、ダム左右岸方向(橋軸方向)への変位は許容される状態になる(可動支承M)。尚、主桁50Aの他方側の端部58を可動支承にしているのは、主桁50Aの日照の変化等による熱伸縮の拘束に起因する主桁50Aの座屈や支承部の損傷を防ぐためである。
【0040】
上述した主桁50A、50Bは、図8に示すように、ダム上下流方向に沿って複数列(例えば、3列)設置されている。そして、これら列をなして配置された主桁50A、50Bの上に床版45が敷設されている。床版45は、鋼を格子状に組んだものであり、各主桁50A、50Bに対応してそれぞれ設けられている。また、横幅は、既設水門柱31、33、35の頂部の横幅とほぼ等しくなっており、列をなして並ぶ各主桁50A、50Bが床版45を均等に支える構成となっている。
【0041】
図6に戻って説明を続けると、床版45の上には各洪水吐ゲートG1、G2に対応して動力装置(ゲート巻上機)M1、M2が設けられている。動力装置M1、M2は、洪水吐ゲートG1、G2を吊り上げるワイヤWを巻き上げたり、繰り出したりするものである。以上のことから、動力装置M1、M2を作動させることで、各洪水吐ゲートG1、G2を個別に昇降操作(すなわち開閉操作)出来る。そして、開閉に伴う洪水吐ゲートG1、2の重量を、既設管理橋40介して既設水門柱31、33、35にて支える構造となっている。
【0042】
尚、各既設水門柱31〜35はいずれも鉄筋量が少なく、鉄筋の降伏荷重Pyがコンクリートの曲げ破壊荷重Pcに比べて小さい関係(Py<Pcの関係)となっていることから、既設水門柱31〜35の頂部変位量(水平方向の変位量)の許容値は、Py>Pcの場合に比べて小さく、図10の実線で示すように概ね10mm程度となっている。
【0043】
2.既設水門柱31〜35の耐震性向上工法の説明
以下に行う耐震性向上工法の説明において、「橋軸方向の変位」とは、既設水門柱30に対する主桁50A、50Bの橋軸方向(図11、図12、図16の左右方向)の変位を意味し、「橋軸直交方向軸回りの回転」とは、既設水門柱30の頂部を支点とする主桁50A、50Bの回転(図11、図12、図16に示すR方向の回転)を意味する。また、以下の説明において「ラーメン構造」とは、複数の部材の互いの相対回転を拘束あるは抑制するように組み立てた骨組み構造、すなわち、各部材は連結される他部材により互いに支持された骨組み構造を意味する。また、「ラーメン化」とは、当初ラーメン構造でない構造物を上記ラーメン構造に変化させることを意味する。
【0044】
実施形態1では、既設管理橋40A、40Bの各径間において、一方側で常時と地震時について橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の両方を拘束する支承とし、他方側で常時の温度伸縮は解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束するダンパー支承とする、すなわち既設水門柱30と既設管理橋40をラーメン構造化することにより既設水門柱30、特に端部に位置する既設水門柱31、35の耐震性能を向上させるものである。
【0045】
具体的には、図11に示すように、既設管理橋40A、40Bの各径間において、主桁50A、50Bの一方側とそれに対応する既設水門柱31、33とを連結金具(本発明の「構造部材」に相当)60にて連結することにより、主桁50A、50Bの一方側で、常時と地震時について、橋軸方向(図11の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図11に示すR方向の回転)の両方を拘束する支承とする。
【0046】
また、既設管理橋40A、40Bの各径間において、主桁50A、50Bの他方側とそれに対応する既設水門柱33、35とを高減衰ダンパー(本発明の「地震時ラーメン化ダンパー」に相当)70にて連結することにより、主桁50A、50Bの他方側で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は、橋軸方向(図11の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図11に示すR方向の回転)の双方を拘束する。尚、各径間とは、管理橋40A、40Bの橋軸方向に隣り合う支承部の間、すなわち既設管理橋40A、40Bを支える既設水門柱間という意味である。また、実施形態1において、「一方側」は耐震性向上工法適用前の「固定支承側」と対応し、「他方側」は耐震性向上工法適用前の「可動支承側」と対応している。
【0047】
2−1.連結金具60の説明
連結金具60は、図12に示すように、第一ブラケット61と第二ブラケット63を軸ピンP1で結合した構成となっている。そして、軸ピンP1及びそれを挿通させる軸孔は断面形状が多角形状(この例では、正方形)にしてあり、両ブラケット61、63は、取付面61A、63Aが直交した状態にて回転止めされている。
【0048】
図12に示すように、連結金具60は、主桁50Aの一方側と既設水門柱31を連結するように取り付けされる。すなわち、第一ブラケット61側が主桁50Aの一方側の端部57にボルトBで固定され、第二ブラケット63側が既設水門柱31の頂部32の側面に対してボルトBにて固定される。そして、両ブラケット61、63は回転を拘束されていることから、この連結金具60の取り付けにより、端部水門柱31に対して主桁50Aの一方側の端部57の回転が拘束される。以上のことから、連結金具60の取り付けにより、主桁50Aの一方側は、既設水門柱31に対して、常時と地震時について橋軸方向(図12の左右方向)の変位、と橋軸直交方向軸回りの回転(図12に示すR方向の回転)を拘束される。
【0049】
また、説明の繰り返しとなるが、この実施形態では、各管理橋40A、40Bに対応して2本の主桁50A、50Bが設置されているので、図11にて示すように、主桁50Aの一方側の端部57とそれに対応する既設水門柱31の頂部との間と、主桁50Bの一方側の端部57とそれに対応する既設水門柱33の頂部との間がそれぞれ、連結金具60にて連結されることとなる。また、連結金具60の取り付けは、ダム上下流方向に並ぶ3列全ての主桁50A、50Bに対して行われる。
【0050】
2−2.高減衰ダンパー70の説明
高減衰ダンパー70は、図13aに示すように、作動流体80を封入した概ね筒型をしたシリンダ71と、シリンダ71内を2室に画成するピストン73と、ピストン73と一体となったピストンロッド75と、ピストン73の外周面とシリンダ71の内周面との間に形成されたオリフィス77を主体に構成されている。
【0051】
ピストン73の先端には、シリンダ71に形成されたガイド溝71Aに嵌合するガイドピン73Aが設けられおり、ピストン73は、ガイド溝71Aとガイドピン73Aによる案内作用により軸線L1に沿って往復移動する構成となっている。
【0052】
シリンダ71に封入された作動流体(例えば、ビンガム流体やダイラタント流体など)80は、圧縮限界に至るまでは弾性体として作用する一方、圧縮限界を超えると塑性を示し、それ以降はオリフィス77を流通してシリンダ71の反対側の空間に移動し始める(図13b、図13c参照)。
【0053】
そのため、引張、圧縮の双方の軸力Fを繰り返し与えると、高減衰ダンパー70は、変位δとダンパ反力Rとの関係が、原点0を中心する平行四辺形型の履歴ループを描く相関、すなわち変位量δに対するダンパ反力Rの変化が大きい一次剛性と、変位量δに対するダンパ反力Rの変化が小さい二次剛性からなる履歴減衰特性(ヒステリシス特性)を示す(図14参照)。尚、この実施形態では、一次剛性にて作動流体80は弾性挙動を示し、二次剛性にて作動流体80は塑性挙動を示す。
【0054】
そして、熱伸縮速度(1.0×10−7m/s〜8×10−6m/sを想定)における履歴ループは、降伏荷重がRb(図14の例では約200kN)となる小さな四辺形の履歴ループとなる。このように高減衰ダンパー70は、熱伸縮速度では低い降伏荷重で降伏することから、主桁50A、50Bの他方側で常時の温度伸縮を許容して温度荷重を解放できる。
【0055】
また、高減衰ダンパー70の地震速度(約0.01m/s〜2m/s)における履歴ル−プは、降伏荷重(最大反力)がRa(図14の例では約1000kN)となる大きな四辺形の履歴ループとなる。
【0056】
そして、本実施形態1では、既設水門柱31〜35の耐震性向上工法に、次の(a)、(b)のように設計された高減衰ダンパー70を使用する。
【0057】
(a)高減衰ダンパー70の地震速度における降伏変位量(地震時降伏変位)δyが、既設水門柱30の頂部変位の許容値(許容変位の上限値)δcより小さい。
(b)地震速度における降伏荷重Ra、すなわち高減衰ダンパー70の最大ダンパー反力Raが、既設管理橋40に発生する最大地震力Fmよりも大きい。
【0058】
上記の高減衰ダンパー70を使用することにより、地震発生時において、高減衰ダンパー70は一次剛性から二次剛性に移行せず、図15の使用範囲E内を推移する状態になる。すなわち、高減衰ダンパー70が、履歴減衰特性が発揮される以前の一次剛性の領域で最大地震力Fmを受け止め、地震発生時における既設水門柱31〜35の頂部の橋軸方向の変位を拘束する。尚、高減衰ダンパー70の降伏荷重Raは、オリフィス77の断面積が同じであれば、高減衰ダンパー70の容積サイズ(作動流体80の充填量)に比例するので、降伏荷重Raの大きな高減衰ダンパー70を使用したい場合には容量の大きな高減衰ダンパーを選択、設計してやればよい。また、高減衰ダンパー70の一次剛性の大きさ(一次剛性を示す直線の傾き)は、作動流体80の粘性度に比例する傾向がある。そのため、降伏変位δyを小さくしたい場合には、作動流体80に粘性度の高いものを使用してやればよい。
【0059】
また、最大地震力Fmとは、大規模地震が発生したときに高減衰ダンパー70に対して加わる橋軸方向の軸力(軸線L1上に作用する外力の大きさ、図16参照)の最大値であり、ダム周辺の地盤のデータ、各構造物(具体的には、各既設水門柱30、既設管理橋40)の重量、固有周期のデータ、想定される大規模地震の地震データ(震源の深さのデータ、地震のマグネチュードのデータ、震源からのダムまでの距離のデータ)などから算出できる。
【0060】
また、図13に示すように高減衰ダンパー70の両側には、概ね半円形の板状をした軸端部72、76が設けられている。これら両軸端部72、76のうち、シリンダ71側の軸端部72には、図16に示すように、軸ピン(本発明の「回転拘束・抑制部材」に相当)P2を介して第三ブラケット(本発明の「第一の取り付け部」に相当)91が取り付けられ、また、ピストンロッド75側の軸端部76には軸ピン(本発明の「回転拘束・抑制部材」に相当)P2を介して第四ブラケット(本発明の「第二の取り付け部」に相当)95が取り付けられている。
【0061】
図16に示すように、高減衰ダンパー70は、主桁50Aの他方側の端部58と既設水門柱33を連結するように取り付けされる。すなわち、第三ブラケット91側が既設水門柱33の頂部34の側面に対してボルトにて固定され、第四ブラケット95側が主桁50Aに固定された取付部材67にボルトで固定される。尚、このとき、高減衰ダンパー70は軸線L1が、橋軸方向に沿った水平な姿勢となる。
【0062】
そして、図17に示すように、各軸端部72、76に各ブラケット91、95を固定する軸ピンP2は、断面形状が多角形状(この例では、正方形)であり、また軸ピンP2を挿通させる軸孔72A、76A、91A、95Aも、軸ピンP2と同様に多角形である。そのため、各ブラケット91、95に対する各軸端部72、76の回転を拘束、すなわち、各軸端部72、76の橋軸直交方向軸回りの回転を拘束することが出来る。
【0063】
以上のことから、高減衰ダンパー70の取り付けにより、主桁50Aの他方側は、既設水門柱33に対して常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向(図16の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図16に示すR方向の回転)の双方が拘束される。
【0064】
そして、説明の繰り返しになるが、この実施形態では、各管理橋40A、40Bに対応して2本の主桁50A、50Bが設置されているので、図11にて示すように、主桁50Aの他方側の端部58とそれに対応する既設水門柱33の頂部との間、主桁50Bの他方側の端部58とそれに対応する既設水門柱35の頂部との間が、それぞれ高減衰ダンパー70にて連結される。また、高減衰ダンパー70の取り付けは、ダム上下流方向に並ぶ3列全ての主桁50A、50Bに対して行われる。
【0065】
このように、本実施形態の耐震性向上工法は、既設管理橋40A(40B)の各径間において、主桁50A(50B)の一方側と既設水門柱31(33)とを連結金具60にて連結することにより、主桁50A(50B)の一方側で、常時と地震時について橋軸方向(図11の左右方向)の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転(図11に示すR方向の回転)の両方を拘束する。また、主桁50A(50B)の他方側と既設水門柱33(35)とを高減衰ダンパー70にて連結することにより、主桁50A(50B)の他方側で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向(図11の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図11に示すR方向の回転)の双方を拘束する工法である。
【0066】
3.耐震性向上工法の効果説明
(1)常時の効果
主桁50A、50Bは鋼製であり、温度変化によって熱伸縮する。ここで、高減衰ダンパー70は、熱伸縮のようなゆっくりとした変位に対しては、主桁50A、50Bが座屈する前に降伏して、主桁50A、50Bの熱伸縮を許容して温度荷重を解放する。そのため、高減衰ダンパー70が、主桁50A、50Bを常時において損傷させることはない。
【0067】
(2)地震時の効果
実施形態1の耐震性向上工法によれば、地震時は、既設水門柱30と既設管理橋40をラーメン構造化するので、制振対象構造物である既設水門柱30の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、地震時に、既設管理橋40A、40Bを構成する主桁50A、50Bが軸力を生じて既設水門柱30の頂部変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担することから、端部に位置する既設水門柱31、35の基部に加わる曲げモーメントが低減される。
【0068】
そのため、地震時の揺れを、端部の既設水門柱31、35で受け持つことが可能となるので、各既設水門柱31〜35は、損傷をほとんど受けず、地震発生前と同様の状態を保つ。以上のことから、洪水吐ゲートG1、G2を支障なく開閉操作することが可能となり、ダム貯水制御機能を正常に働かせることが出来る。
【0069】
また、本耐震性向上工法では、既設水門柱31、35の耐震性能を向上させるにあたり、既設水門柱31、35を何ら改修する必要がなく、単に、連結金具60、高減衰ダンパー70を取り付けるだけの極めて簡単な構造変更工事を行うだけで済む。従って、既存の既設水門柱31、35を改修して補強する場合に比べて、コストが格段に安くなり、この点も効果的である。また、耐震性向上のための工事中に、水門柱基部以下へのダム水位低下を必要とせず、発電を継続できるというメリットがある。
【0070】
<実施形態2>
次に、本発明の実施形態2を図18、図19によって説明する。実施形態1では、連結金具60として、2つのブラケット61、63を軸ピンP1によって回転止めした構造を例示した。実施形態2では、図18に示すように、2つのブラケット61、63を一体化して、連結金具101を1部品の構成とした。
【0071】
また、実施形態1では、高減衰ダンパー70として、シリンダ側の軸端部72に対して別部品からなる第三ブラケット91を回転止めした状態で組み付け、ピストン側の軸端部76に対して別部品からなる第四ブラケット95を回転止めした状態で組み付けたものを例示した。
【0072】
実施形態2の高減衰ダンパー105では、図19に示すように、シリンダ側の軸端部106に対して第三ブラケット91を一体化させた構成とし、ピストン側の軸端部107に第四ブラケット95を一体化させた構成とした。
【0073】
実施形態2の連結金具101と高減衰ダンパー105は、実施形態1の連結金具60、高減衰ダンパー70と同様に回転軸を持っていないから、これらを使用して部材同士を連結することにより、連結した2部材の回転を拘束できる。
【0074】
従って、主桁50A(50B)の一方側の端部57と既設水門柱31(33)の頂部とを連結金具101にて連結し、主桁50A(50B)の他方側の端部58と既設水門柱33(35)の頂部とを高減衰ダンパー70にて連結すれば、実施形態1と同様に主桁50A(50B)の一方側で、常時と地震時について橋軸方向(図18、図19の左右方向)の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転(図18、図19に示すR方向の回転)の両方を拘束できる。また、主桁50A(50B)の他方側で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位(図18、図19の左右方向)と、橋軸直交方向軸回りの回転(図18、図19に示すR方向の回転)の両方を拘束できる。実施形態2では、実施形態1と同様に、連結金具60、高減衰ダンパー70を用いて、既設水門柱30と既設管理橋40を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、既設水門柱30の耐震性能を向上させることが可能となる。特に端部側の既設水門柱31、35の耐震性能を向上させることが可能となる。
【0075】
<実施形態3>
次に、本発明の実施形態3を図20によって説明する。実施形態1では、高減衰ダンパー70の各軸端部72、76を対応するブラケット91、95に対して断面正方形の軸ピンP2で止めることにより、各ブラケット91、95に対する各軸端部72、76の回転を拘束する構成を例示した。
【0076】
実施形態3では、図20に示す回転ダンパー(本発明の「回転拘束・抑制部材」に相当)300を利用して、各ブラケット91、95に対する各軸端部72、76の回転を拘束あるいは抑制する。
【0077】
具体的に説明すると、回転ダンパー300は、ビンガム流体等の作動流体350を充填した円筒型のケース310と、ケース310の中央部に取り付けられた回転軸体330を備える。
【0078】
ケース310の内周部には、回転軸体330に向かって突出する第一突起部320が設けられている。この突起部320は、回転軸体330との間に作動流体350を流通させるオリフィス370を形成している。回転軸体330は中央に軸孔330Aを形成すると共に、外周部に第二突起部340を設けている。第二突起部340は、ケース310の内周壁に向かって延びており、ケース310の内周壁との間にわずかな隙間を設けている。
【0079】
図20に示す状態から回転軸体330を回転させると、ケース310に充填された作動流体350は2つの突起部320、340に挟まれて圧縮(収縮)される。圧縮された作動流体350は、圧縮限界(収縮限界)に至るまでは弾性体として作用する。そして、圧縮限界を超えると、作動流体350は塑性を示し、それ以降はオリフィス370を流通して、ケース310内の反対側の空間に移動する。この間、作動流体350は回転に対して抵抗力を示しながら変位を許すことになる。そのため、回転軸体330に対して、正方向と逆方向の双方の回転を繰り返し与えると、回転ダンパー300は履歴減衰特性を発揮して、回転軸体330の回転を拘束あるいは抑制する。
【0080】
従って、高減衰ダンパー70の軸端部72の軸孔72Aと、軸端部76の軸孔76Aにそれぞれ回転ダンパー300を組み込んで(取り付けて)、各ブラケット91、95に対する軸端部72、76の回転を拘束あるいは抑制することで、高減衰ダンパー70により連結される2部材(主桁50と既設水門柱30)の橋軸直交方向軸回りの回転を拘束あるいは抑制することが出来る。
【0081】
したがって、実施形態1のように多角形状の軸ピンP2を利用して軸端部72、76の回転を拘束した場合と同様、地震時に既設水門柱30と主桁50をラーメン構造化することが出来る。そのため、地震時に主桁50が軸力を生じて既設水門柱30の変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、水門柱基部等に加わる曲げモーメントを低減できる。
【0082】
尚、高減衰ダンパー70に対する回転ダンパー300の具体的な取り付け方法としては、例えば、高減衰ダンパー70の軸端部72や軸端部76の軸孔(この場合、軸孔は円形)に対して、回転ダンパー300を、軸回りにケース300が回転しないように固定する。そして、ブラケット91やブラケット95に固定された連結用の軸部材(ロッドや軸ピン)を、回転軸体330の軸孔330Aに挿入し、固定すればよい。また、図17では、ブラケット91、95に対して、高減衰ダンパー70の軸端部72、76を結合する結合部97を1つだけ設けているが、結合部97を2つにして、2枚の結合部97で軸端部72、76を挟むようにすれば、ブラケット91、95に対する軸端部72、87の支持が安定する。
【0083】
<実施形態4>
次に、本発明の実施形態4を、図21、図22によって説明する。尚、実施形態1と同じ構成のものには、同一符号を付して説明を省略、又は簡略化する。
【0084】
1.既設水門柱と既設管理橋の構造説明
図21に示す符号10はダムを構成するコンクリート製の堤体、符号G1、G2は洪水吐ゲートである。洪水吐ゲートG1、G2は、堤体10に形成された放水口11を分担して閉止する構造となっており、洪水吐ゲートG1が放水口11の左半分を閉止し、洪水吐ゲートG2が放水口11の右半分を閉止する構成となっている。これら洪水吐ゲートG1、G2はいずれも鉄製であり、次に説明する既設水門柱(本発明の「ダム水門柱」に相当)131〜135と既設管理橋(本発明の「橋体」に相当)140により支えられる構成となっている。
【0085】
既設水門柱131、133、135はいずれも鉄筋コンクリート製であり、放水口11の幅方向に並んで設けられている。具体的には、図21に示すように、左手側の洪水吐ゲートG1の左端に既設水門柱131が位置する一方、右手側の洪水吐ゲートG2の右端に既設水門柱135が位置している。また、両洪水吐ゲートG1、G2の間に位置して既設水門柱133が位置している。既設水門柱131、133、135を総称して、既設水門柱130とよぶ。
【0086】
既設管理橋140は鉄筋コンクリート製であって、3つの既設水門柱131、133、135に架け渡されている。図21に示すように、既設管理橋140の中央部と既設水門柱133には鉄筋Jが通されており、既設管理橋140は中央の既設水門柱133に対して一体化されている。また、既設管理橋140の左端部141と左側の既設水門柱131との間、右端部145と右側の既設水門柱135との間も鉄筋Jが通されており、既設管理橋140の左右両端部141、145は、左右の既設水門柱131、135に対して各々一体化されている。
【0087】
さて、実施形態4の耐震性向上工法では、まず、既設管理橋140の各径間において、2つの既設水門柱の間に鋼製の追加梁150A、150Bを追加して架け渡す工事を行う(図22参照)。
【0088】
具体的に説明すると、追加梁150A、150Bは、上下に延びるウェブ153とその上下にフランジ154、155を備えており、断面形状はI字型をしている。追加梁150A、150Bの長さは、隣接する2つの既設水門柱130の柱間距離と同程度であり、既設水門柱131と既設水門柱133の間に、追加梁150Aが例えば、クレーン等を用いて橋軸方向に吊った状態で架け渡され、また既設水門柱131と既設水門柱133の間に追加梁150Bが、例えばクレーン等を用いて橋軸方向に吊った状態で架け渡される。追加梁150A、150Bを追加するのは、既設管理橋140に、地震時における橋軸方向の軸力(既設水門柱130からの反力に基づく軸力)を負担するに十分な剛性がなく、それを補うためである。
【0089】
そして、実施形態4の耐震性向上工法では、追加梁150A、150Bの一方側とそれに対応する既設水門柱130とを連結金具60で連結し、追加梁150A、150Bの他方側とそれに対応する既設水門柱130を高減衰ダンパー70にて連結する。
【0090】
具体的には、追加梁150Aの一方側の端部157と既設水門柱133を連結金具60により連結し、また、追加梁150Aの他方側の端部158と既設水門柱131を高減衰ダンパー70により連結する。同様にして、追加梁150Bの一方側の端部157と既設水門柱135を連結金具60により連結し、また、追加梁150Bの他方側の端部158と既設水門柱133を高減衰ダンパー70により連結する。
【0091】
以上により、追加梁150A、150Bは、一方側で常時と地震時について橋軸方向の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転の両方を拘束できる。また、他方側で常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転の両方を拘束できる。実施形態4では、連結金具60、高減衰ダンパー70を用いて、既設水門柱130と追加梁150を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、既設水門柱130の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、実施形態1の場合と同様に既設水門柱131〜135に作用する地震力のうち軸力だけでなく、曲げモーメントの一部を追加梁150A、150B側が負担することになるので、端部側の既設水門柱131、135の基部に加わる曲げモーメントを低減することが可能となる。そのため、地震時の揺れを、端部の既設水門柱131、135で受け持つことが可能となり、既設水門柱131〜135の耐震性能が向上する。
【0092】
<実施形態5>
次に、本発明の実施形態5を図23によって説明する。実施形態1では、既設管理橋40A(40B)の各径間において、主桁50A(50B)の一方側(固定支承側)の端部57と既設水門柱31(33)の頂部とを連結金具60により連結することにより、主桁50A(50B)の一方側で、常時と地震時について橋軸方向(図11の左右方向)の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転(図11に示すR方向の回転)の両方を拘束した。また、主桁50A(50B)の他方側(可動支承側)の端部58と既設水門柱33(35)の頂部とを高減衰ダンパー70にて連結することにより、主桁50A(50B)の他方側で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向(図11の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図11に示すR方向の回転)の双方を拘束した。
【0093】
実施形態5では、主桁50A(50B)の一方側の端部57に形成されたボルト挿通孔57Aを、ボルト挿通孔58Aと同様、橋軸方向に長い長孔に変更して、主桁50A(50B)の一方側の支承構造を固定支承構造から可動動支承構造に変更する。すなわち、主桁50A(50B)の両端部57、58の支承構造を、いずれも可動支承構造に構造変更する。
【0094】
そして、両端部57、58の支承構造を可動支承構造に変更した上で、主桁50A(50B)の両端部57、58を、対応する既設水門柱30の頂部とそれぞれ実施形態1の高減衰ダンパー70で連結する。すなわち、制振対象構造物との連結に用いられる軸端部72、76の回転を拘束し、履歴減衰特性が発揮される以前の一次剛性の領域で最大地震力Fmを受け止める高減衰ダンパー70で連結する。以上により、主桁50A(50B)の両側とも、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放することができ、地震時は橋軸方向(図23の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図23に示すR方向の回転)の双方を拘束することができる。
【0095】
この場合も、高減衰ダンパー70を用いて、既設水門柱30と既設管理橋40を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、既設水門柱30の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、地震発生時、主桁50A、50Bが軸力を生じて既設水門柱30の変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担することから、端部に位置する既設水門柱31、35の基部に加わる曲げモーメントが低減される。そのため、地震の揺れを、端部に位置する既設水門柱31、35で受け持つことが可能となり、耐震性能が高まる。また、この場合、主桁50A(50B)の両側に取り付けた左右の高減衰ダンパー70が、地震発生時に、主桁50A(50B)の左右に位置する既設水門柱30の変位を左右均等に拘束する。そのため、一方の既設水門柱30の基部等に曲げモーメントが集中することがなく、地震の揺れを左右の既設水門柱31、35で同じように受け持つことが出来る。そのため、耐震性能が向上する。
【0096】
また、実施形態1の回転拘束型の高減衰ダンパー70に変えて、実施形態3の回転拘束あるいは抑制型の高減衰ダンパー70を用いることも可能である。この場合、高減衰ダンパー70により連結される2部材(主桁50と既設水門柱30)の橋軸直交方向軸回りの回転を拘束あるいは抑制することが出来る。そのため、回転拘束型の高減衰ダンパーを用いた場合と同様、常時においては、温度荷重を解放し、地震時は既設水門柱30と主桁50をラーメン構造化することが出来る。そのため、地震時に、主桁50が軸力を生じて既設水門柱30の頂部変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担するので、ダム水門柱基部等に加わる曲げモーメントを低減できる。
【0097】
また、高減衰ダンパー70は、地震時に、履歴減衰特性が発揮される以前の一次剛性の領域で最大地震力Fmを受け止める使用法以外にも、地震時に、図14に示す履歴減衰ループを辿らせて履歴減衰特性を発揮させるようにしてもよい。
【0098】
履歴減衰特性を発揮させる場合、橋軸方向を変位に対して高減衰ダンパー70が抵抗力を示しながら変位を許すので、主桁50A(50B)の一方側と他方側の双方で、既設水門柱30の頂部の橋軸方向の変位を抑制することができる。また、この場合、地震発生時において、高減衰ダンパー70が図14に示す履歴減衰ループを辿って震動エネルギーを吸収するので、既設水門柱30の耐震性能を向上させることが可能となる。
【0099】
尚、地震発生時に、高減衰ダンパー70に履歴減衰ループを辿らせる場合、一次剛性と二次剛性からなる履歴減衰特性を発揮したときの高減衰ダンパー70の地震時最大変位δmax(図14参照)を、既設水門柱30の頂部変位の許容値(許容変位の上限値)δcよりも小さく設定しておくことが好ましい。そのような設定にしておけば、既設水門柱30の頂部変位の許容値δc以内で、高減衰ダンパー70が履歴減衰特性を発揮するので、既設水門柱30の頂部変位が許容値δcを超え難くなる。
【0100】
たとえば、図10の2点鎖線で示すように鉄筋の降伏荷重Pyがコンクリートの曲げ破壊荷重Pcに比べて大きい関係となっており、既設水門柱31〜35の頂部変位(水平方向の変位量)の許容値δcが、概ね100mmの場合であれば、高減衰ダンパー70の地震時最大変位δmaxが、100mm以下となるように、高減衰ダンパー70を設計するとよい。具体的には、シリンダ71、ピストン73の大きさ、形状や、作動流体の材質、充填量等を設計するとよい。
【0101】
なお、高減衰ダンパー70の上記使用方法(履歴減衰特性を発揮させる使用方法)は、既設水門柱30の頂部変位の許容値δcがある程度大きい場合に有効であり、鉄筋の降伏荷重Pyがコンクリートの曲げ破壊荷重Pcに比べて大きい関係となっている場合(既設水門柱30の鉄筋量が多い場合)に、使用が限定されるものではない。
【0102】
<実施形態6>
実施形態5では、主桁50A(50B)の両端部57、58の支承構造を可動支承構造に変更した上で、主桁50A(50B)の両端部57、58を、対応する既設水門柱30の頂部とそれぞれ実施形態1又は実施形態3の高減衰ダンパー70で連結した。
【0103】
支承構造の変更は必須でなく、図24に示すように、主桁50A、50Bの支承構造は既存構造のまま、すなわち一方側が固定支承構造で、他方側が可動支承構造のままとし、実施形態1や実施形態3の高減衰ダンパー70で、主桁50A(50B)の両端部57、58を、対応する既設水門柱30の頂部とそれぞれ連結する工事のみ行うようにしてもよい。
【0104】
<実施形態7>
次に、本発明の実施形態7を図25によって説明する。実施形態4では、既設管理橋140の各径間において、2つの既設水門柱130の間に鋼製の追加梁150A、150Bを追加して架け渡す工事を行った。そして、既設管理橋140の各径間において、追加梁150A(150B)の一方側の端部157と既設水門柱133(135)とを連結金具60により連結することにより、追加梁150A(150B)の一方側で、常時と地震時について橋軸方向(図22の左右方向)の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転(図22に示すR方向の回転)の両方を拘束した。また、追加梁150A(150B)の他方側の端部158と既設水門柱131(133)とを高減衰ダンパー70にて連結することにより、追加梁150A(150B)の他方側で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向(図22の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図22に示すR方向の回転)の双方を拘束した。
【0105】
実施形態7では、図25に示すように、追加梁150A(150B)の両端部157、158を、対応する既設水門柱130の頂部と、実施形態1の回転拘束型又は実施形態3の回転拘束あるいは抑制型の高減衰ダンパー70で連結する。これにより、追加桁150A(150B)の一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放することができ、地震時は橋軸方向(図25の左右方向)の変位と橋軸直交方向軸回りの回転(図25に示すR方向の回転)の双方を拘束あるいは抑制することができる。
【0106】
この場合も、実施形態4と同様に、高減衰ダンパー70を用いて、既設水門柱130と追加梁150を連結することにより、常時においては、温度荷重を解放し、地震時はラーメン構造化することで、既設水門柱130の耐震性能を向上させることが可能となる。すなわち、地震発生時、追加梁150A、150Bが軸力を生じて既設水門柱130の変位を拘束すると同時に、曲げモーメントの一部を負担することから、端部に位置する既設水門柱131、135の基部に加わる曲げモーメントが低減される。そのため、地震の揺れを、端部に位置する既設水門柱31、35で受け持つことが可能となり、耐震性能が高まる。また、この場合、追加梁150A(150B)の両側に取り付けた高減衰ダンパー70が、地震発生時に、追加梁150A(150B)の左右に位置する既設水門柱130の変位を左右均等に拘束するので、地震動をバランスよく抑えることができ、既設水門柱130の耐震性能が高まる。
【0107】
また、図25に示すように、追加梁150A(150B)の両端部157、158を対応する既設水門柱130の頂部と高減衰ダンパー70で連結する場合、高減衰ダンパー70の使用法として、地震時に、履歴減衰特性が発揮される以前の一次剛性の領域で最大地震力Fmを受け止めることで、既設水門柱130の頂部の橋軸方向の変位を拘束する使用法の他、図14に示す履歴減衰ループを辿らせて、既設水門柱130の頂部の橋軸方向の変位を抑制する使用法のいずれも適用できる。
【0108】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0109】
(1)実施形態1、4では、連結金具60として、2つのブラケット61、62から分割構成したものを示した。そして、2つのブラケット61、62の回転止め構造として角型の軸ピンP1を用いた。2つのブラケット61、62を回転止めするには、実施形態1で説明したものの他に、図26に示すように、平板状の板部材200を2つのブラケット261、262に重ねて合わせてボルト締結するようにしてもよい。
【0110】
(2)実施形態1〜7では、洪水吐ゲートを支持する既設水門柱を例にとって、耐震性向上工法の説明を行ったが、本工法を、排砂ゲートを支持するダム水門柱に適用してもよい。
【0111】
(3)実施形態1〜7では、2径間の既設管理橋40を例示して耐震性向上工法を説明したが、本発明の耐震性向上工法は2径間以外の構造にも、適用することが可能である。
【0112】
(4)実施形態3では、回転ダンパー300として、ケース310と、回転軸体330の双方に突起部320、340を設け、回転軸体330の回転に伴って作動流体350を圧縮させるものを例示した。回転ダンパー300は、実施形態3に例示した構造以外にも、例えば、ケース410側の突起部を廃止して、回転軸体430側にのみ突起部440を設ける構造でもよい。図27の回転ダンパー400は、外周側に突起部440を等間隔に4か所設けた回転軸体430を、作動流体450を充填したケース410に収容した構造となっている。この場合、回転軸体430の回転に伴って、作動流体450の一部が突起部440の先端とケース310の内周壁との間に形成されたオリフィス470を流通して抵抗力を示すので、回転軸体430の回転を抑制することが出来る。
【0113】
また、図27に示す構造以外にも、例えば、図28に示すように、ラックギヤ510とピニオンギヤ520からなる歯車機構530を利用して回転方向の運動を直線方向の運動に変換し、ラックギヤ520の回転に伴ってシリンダ内540のピストン550を往復移動させることで、軸端部72、76の回転を拘束あるいは抑制することも可能である。
【0114】
(5)上記実施形態4、実施形態7では、既設水門柱130の間に鋼製の追加梁150を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、追加した追加梁150の両端を既設水門柱130に対して高減衰ダンパー70や連結金具60で連結して、追加梁150と既設水門柱130をラーメン構造化する工法を説明した。本工法の適用対象は、既設管理橋が、地震時における橋軸方向の軸力を負担するに十分な剛性がない場合に有効であり、実施形態4で例示した鉄筋コンクリート製の既設管理橋140以外にも、鋼製の既設管理橋に適用することも可能である。
【0115】
(6)上記実施形態1〜7では、ダム水門柱の耐震性向上工法の説明を行ったが、本工法を道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁(一般橋梁)に適用して、橋梁(一般橋梁)の耐震性能を高めることも可能である。すなわち、上部構造部材である橋桁の各径間において、一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制する高減衰ダンパー70で、下部構造部材である橋脚や橋台と連結する。高減衰ダンパー70の取り付けにより、上部構造部材と下部構造部材の連結部、すなわち上部構造部材の支承部において、互いの相対回転を拘束あるいは抑制するようラーメン構造化することができる。そのため、上部構造部材と下部構造部材は連結される他部材により互いに支持される状態になるので、橋梁(一般橋梁)の耐震性が向上する。
【符号の説明】
【0116】
10…堤体
31、33、35…既設水門柱(本発明の「ダム水門柱」、「制振対象構造物」に相当)
40…既設管理橋(本発明の「橋体」、「制振対象構造物」に相当)
41…梁部材
45…床版
50A、50B…主桁
60…連結金具(本発明の「構造部材」に相当)
70…高減衰ダンパー(本発明の「地震時ラーメン化ダンパー」に相当)
71…シリンダ
72…軸端部
73…ピストン
76…軸端部
80…作動流体
91…第三ブラケット(本発明の「第一の取り付け部」に相当)
95…第四ブラケット(本発明の「第二の取り付け部」に相当)
131、133、135…既設水門柱(本発明の「ダム水門柱」に相当)
140…既設管理橋(本発明の「橋体」に相当)
150A、150B…追加梁
200…板部材
300…回転ダンパー(本発明の「回転拘束・抑制部材」に相当)
400…回転ダンパー(本発明の「回転拘束・抑制部材」に相当)
G1、G2…洪水吐ゲート
F…固定支承
M…可動支承
P1…軸ピン
P2…軸ピン(本発明の「回転拘束・抑制部材」に相当)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、
水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結することを特徴とするダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項2】
ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、
水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、前記橋体の支承部は既設構造のままとし、各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、
前記追加梁の一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結することを特徴とするダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項3】
前記橋体がRCコンクリート構造であって、前記水門柱上部で前記ダム水門柱と一体となっている場合に、
各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、前記追加梁の一方側と他方側の双方で、前記地震時ラーメン化ダンパーを用いて前記ダム水門柱と連結することを特徴とする請求項2に記載のダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項4】
一次剛性と二次剛性からなる履歴減衰特性を発揮したときの前記地震時ラーメン化ダンパーの地震時最大変位を、前記ダム水門柱の許容変位の上限値よりも小さく設定し、前記ダム水門柱の許容変位の上限値以内で前記地震時ラーメン化ダンパーが履歴減衰特性を発揮して、前記ダム水門柱の耐震性能を向上させることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項5】
前記ダム水門柱の許容変位の上限値よりも前記地震時ラーメン化ダンパーの地震時降伏変位を小さく設定し、前記橋体に発生する最大地震力よりも前記地震時ラーメン化ダンパーの最大ダンパー反力を大きく設定することにより、前記地震時ラーメン化ダンパーが、一次剛性と二次剛性からなる履歴減衰特性が発揮される以前の前記一次剛性の領域で最大地震力を受けとめ、前記ダム水門柱の耐震性能を向上させることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項6】
ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、
水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、一方側で常時と地震時について橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する構造部材で前記ダム水門柱と連結し、
他方側で常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結することを特徴とするダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項7】
ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、
水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、前記橋体の支承部は既設構造のままとし、各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、
前記追加梁の一方側で常時と地震時について橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する構造部材で前記ダム水門柱と連結し、
前記追加梁の他方側で常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結することを特徴とするダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項8】
前記橋体がRCコンクリート構造であって、前記水門柱上部で前記ダム水門柱と一体となっている場合に、
各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、前記追加梁の一方側で前記構造部材を用いて前記ダム水門柱と連結し、前記追加梁の他方側で前記地震時ラーメン化ダンパーを用いて前記ダム水門柱と連結することを特徴とする請求項7に記載のダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項9】
上部構造部材を下部構造部材により支えた道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁の耐震性向上工法であって、
前記上部構造部材の各径間において、一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制する地震時ラーメン化ダンパーで前記下部構造部材と連結することを特徴とする橋梁の耐震性向上工法。
【請求項10】
作動流体を封入したシリンダと、
前記シリンダ内を2室に画成するピストンと一体となったピストンロッドと、
前記シリンダ側の軸端部を制振対象構造物に取り付けるための第一の取り付け部と、
前記ピストンロッド側の軸端部を他方の制振対象構造物に取り付けるための第二の取り付け部と、
前記取り付け部に対する前記軸端部の回転を拘束あるいは抑制する回転拘束・抑制部材と、を備え、
前記制振対象構造物に対する常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は前記制振対象構造物の連結部の橋軸方向の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制することを特徴とする地震時ラーメン化ダンパー。
【請求項11】
作動流体を封入したシリンダと、
前記シリンダ内を2室に画成するピストンと一体となったピストンロッドと、
前記シリンダ側の軸端部を制振対象構造物に取り付けるための第一取り付け部と、
前記ピストンロッド側の軸端部を他方の制振対象構造物に取り付けるための第二取り付け部と、を備えてなると共に、
前記第一の取り付け部は、前記シリンダの軸端部に対して一体的に形成されることにより回転止めされ、
前記第二の取り付け部は、前記ピストンロッドの軸端部に対して一体的に形成されることにより回転止めされ、
前記制振対象構造物に対する常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は前記制振対象構造物の連結部の橋軸方向の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束することを特徴とする地震時ラーメン化ダンパー。
【請求項1】
ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、
水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結することを特徴とするダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項2】
ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、
水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、前記橋体の支承部は既設構造のままとし、各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、
前記追加梁の一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結することを特徴とするダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項3】
前記橋体がRCコンクリート構造であって、前記水門柱上部で前記ダム水門柱と一体となっている場合に、
各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、前記追加梁の一方側と他方側の双方で、前記地震時ラーメン化ダンパーを用いて前記ダム水門柱と連結することを特徴とする請求項2に記載のダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項4】
一次剛性と二次剛性からなる履歴減衰特性を発揮したときの前記地震時ラーメン化ダンパーの地震時最大変位を、前記ダム水門柱の許容変位の上限値よりも小さく設定し、前記ダム水門柱の許容変位の上限値以内で前記地震時ラーメン化ダンパーが履歴減衰特性を発揮して、前記ダム水門柱の耐震性能を向上させることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項5】
前記ダム水門柱の許容変位の上限値よりも前記地震時ラーメン化ダンパーの地震時降伏変位を小さく設定し、前記橋体に発生する最大地震力よりも前記地震時ラーメン化ダンパーの最大ダンパー反力を大きく設定することにより、前記地震時ラーメン化ダンパーが、一次剛性と二次剛性からなる履歴減衰特性が発揮される以前の前記一次剛性の領域で最大地震力を受けとめ、前記ダム水門柱の耐震性能を向上させることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項6】
ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、
水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、一方側で常時と地震時について橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する構造部材で前記ダム水門柱と連結し、
他方側で常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結することを特徴とするダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項7】
ダムで洪水吐ゲートや排砂ゲートを開閉するための支持構造物であるダム水門柱の耐震性向上工法であって、
水門柱上部に支承している上部構造部材である橋体の各径間において、前記橋体の支承部は既設構造のままとし、各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、
前記追加梁の一方側で常時と地震時について橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する構造部材で前記ダム水門柱と連結し、
前記追加梁の他方側で常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束する地震時ラーメン化ダンパーで前記ダム水門柱と連結することを特徴とするダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項8】
前記橋体がRCコンクリート構造であって、前記水門柱上部で前記ダム水門柱と一体となっている場合に、
各ゲートの両側の前記ダム水門柱の間に鋼製の追加梁を橋軸方向に追加して架け渡すと共に、前記追加梁の一方側で前記構造部材を用いて前記ダム水門柱と連結し、前記追加梁の他方側で前記地震時ラーメン化ダンパーを用いて前記ダム水門柱と連結することを特徴とする請求項7に記載のダム水門柱の耐震性向上工法。
【請求項9】
上部構造部材を下部構造部材により支えた道路橋、人道橋、鉄道橋などの橋梁の耐震性向上工法であって、
前記上部構造部材の各径間において、一方側と他方側の双方で、常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は橋軸方向の変位と橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制する地震時ラーメン化ダンパーで前記下部構造部材と連結することを特徴とする橋梁の耐震性向上工法。
【請求項10】
作動流体を封入したシリンダと、
前記シリンダ内を2室に画成するピストンと一体となったピストンロッドと、
前記シリンダ側の軸端部を制振対象構造物に取り付けるための第一の取り付け部と、
前記ピストンロッド側の軸端部を他方の制振対象構造物に取り付けるための第二の取り付け部と、
前記取り付け部に対する前記軸端部の回転を拘束あるいは抑制する回転拘束・抑制部材と、を備え、
前記制振対象構造物に対する常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は前記制振対象構造物の連結部の橋軸方向の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束あるいは抑制することを特徴とする地震時ラーメン化ダンパー。
【請求項11】
作動流体を封入したシリンダと、
前記シリンダ内を2室に画成するピストンと一体となったピストンロッドと、
前記シリンダ側の軸端部を制振対象構造物に取り付けるための第一取り付け部と、
前記ピストンロッド側の軸端部を他方の制振対象構造物に取り付けるための第二取り付け部と、を備えてなると共に、
前記第一の取り付け部は、前記シリンダの軸端部に対して一体的に形成されることにより回転止めされ、
前記第二の取り付け部は、前記ピストンロッドの軸端部に対して一体的に形成されることにより回転止めされ、
前記制振対象構造物に対する常時の温度伸縮は許して温度荷重を解放し、地震時は前記制振対象構造物の連結部の橋軸方向の変位と、橋軸直交方向軸回りの回転の双方を拘束することを特徴とする地震時ラーメン化ダンパー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13a】
【図13b】
【図13c】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13a】
【図13b】
【図13c】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2012−255330(P2012−255330A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−113809(P2012−113809)
【出願日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
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