説明

均一分散性光触媒コーティング液及びその製造方法並びにこれを用いて得られる光触媒活性複合材

【課題】光触媒活性を持つ酸化チタン粒子が分散安定性に優れており、また、環境に負荷を与えずに取扱い性に優れており、しかも、基材の表面に塗布してこの基材の表面に光触媒活性(防汚性及び/又は抗菌性)、透明性、及び耐久性に優れた光触媒コーティング塗膜を形成することができる均一安定性光触媒コーティング液及びその製造方法並びにこれを用いて製造される光触媒活性複合材を提供する。
【解決手段】水系溶剤中に平均一次粒径5〜50nm及び平均分散粒径10〜100nmの酸化チタン分散粒子と、高分子分散剤と、アルコキシシラン加水分解重縮合物と、有機アミン類と、更に必要により銀粒子とを含む組成物であり、pH値がpH5〜9の範囲内の均一分散性光触媒コーティング液であり、また、その製造方法であり、また、これを基材の表面に塗布して製造される表面防汚及び抗菌性を有する光触媒活性複合材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光触媒活性を有する酸化チタンを含み、また、必要により銀粒子を含む均一分散性光触媒コーティング液、及びその製造方法、並びにこれを用いて得られる表面防汚性及び/又は抗菌性を有する光触媒活性複合材に係り、より詳しくは、平均分散粒径10〜100nmの酸化チタン分散粒子が水系溶剤中にpH5〜9の範囲で分散し、環境に負荷を与えずに取扱い性に優れた均一分散性光触媒コーティング液、及びその製造方法、並びにこれを用いて得られる光触媒活性複合材に関する。
【背景技術】
【0002】
平均一次粒径50nm以下の酸化チタン粒子をシリカあるいはシリコーン系のバインダー溶液に分散させた中性に近い水系光触媒コーティング液は、これまでにも提案されており、また、上市されているものもある。
【0003】
例えば、特許2,756,474号公報においては、基材の表面を光触媒的に親水性にする方法、親水性の光触媒性表面を備えた基材、その製造方法、及び、光触媒性親水性コーティング組成物が提案されており、また、特開2002-249,705号公報においては、TiO粒子、アクリル樹脂及び分散剤をアルコール/グリコール誘導体混合溶液に分散させた光触媒分散トナーを、固形分としてコロイド状シリカ:10〜60質量%、オルガノアルコキシシランの部分加水分解縮合物:10〜60質量%、不飽和エチレン性単量体の重合体又は共重合体:20〜70質量%の割合で溶剤に添加した有機・無機混合バインダーと混合してなる光触媒性塗料組成物が提案されている。
【0004】
しかしながら、たとえ平均一次粒径50nm以下の酸化チタン粒子が用いられていても、媒体中に分散した酸化チタン分散粒子の平均分散粒径は実際には100nmをはるかに越えているのが通常である。その証拠には、媒体中に分散した酸化チタン分散粒子は比較的短時間のうちに凝集し沈降してくる。そして、たとえ機械的な攪拌で沈降した粒子がなくなって再分散ができても、ミクロなレベルでは凝集体は破壊されておらず、酸化チタン分散粒子は依然として一次粒子が凝集した二次粒子のままであるため、この様な状態の液を用いてコーティングすると、コーティング膜中には酸化チタンの一次粒子が凝集した平均分散粒径の比較的大きい二次粒子の状態のまま固定化し、コーティング膜の透明性が失われたり、光触媒活性が十分に発揮できない等の不具合が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2,756,474号公報
【特許文献2】特開2002-249,705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者らは、この問題を解決すると共に、酸化チタン粒子を水系溶剤中に概ね中性領域で分散させ、環境に負荷を与えずに取扱い性に優れており、しかも、溶液状態では酸化チタン粒子の分散安定性に優れていると共に光触媒コーティング塗膜にする際にはこの塗膜中に均一に分散して優れた光触媒活性を発現する均一分散性光触媒コーティング液を開発すべく鋭意検討した結果、平均一次粒径5〜50nmの酸化チタン粒子と所定の高分子分散剤とを用いて平均分散粒径10〜100nmの酸化チタン粒子が分散した酸化チタン分散水溶液を調製し、この酸化チタン分散水溶液と所定のアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液とを混合する際に所定の有機アミン類を添加することにより、目的の均一分散性光触媒コーティング液を調製することができることを見い出し、本発明を完成した。
【0007】
また、上記の如くして調製された均一分散性光触媒コーティング液は、その組成物中に銀粒子を含有させることによって、単に優れた防汚作用を発現するだけでなく、室内光レベルでもより優れた抗菌作用を発現することを見い出し、本発明を完成した。
【0008】
更に、このような防汚作用及び/又は抗菌作用を有する均一分散性光触媒コーティング液を基材の表面に塗布して形成された光触媒コーティング塗膜はそのマトリックス膜中に酸化チタン粒子が孤立分散に近い状態で固定化されており、優れた光触媒活性(防汚性及び/又は抗菌性)、透明性、及び耐久性を備えていることを見い出し、本発明を完成した。
【0009】
従って、本発明の目的は、分散安定性に優れていると同時に、環境に負荷を与えずに取扱い性に優れており、しかも、基材の表面に塗布してこの基材の表面に光触媒活性(防汚性及び/又は抗菌性)、透明性、及び耐久性に優れた光触媒コーティング塗膜を形成することができる均一分散性光触媒コーティング液を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、分散安定性、取扱い性、光触媒活性、透明性、及び耐久性に優れているだけでなく、特に防汚性及び抗菌性が共に優れた光触媒コーティング塗膜を形成することができる均一分散性光触媒コーティング液を提供することにある。
【0011】
更に、本発明の他の目的は、上記の如き分散安定性、取扱い性、光触媒活性(防汚性及び/又は抗菌性)、透明性、及び耐久性に優れた光触媒コーティング塗膜や特に防汚性及び抗菌性が共に優れた光触媒コーティング塗膜を形成することができる均一分散性光触媒コーティング液の製造方法を提供することにある。
【0012】
更に、本発明の他の目的は、このような均一分散性光触媒コーティング液を製造するための方法を提供することにあり、更に、このような均一分散性光触媒コーティング液を基材の表面に塗布して形成された光触媒活性(防汚性及び/又は抗菌性)、透明性、及び耐久性に優れた光触媒コーティング塗膜を有する光触媒活性複合材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は、水系溶剤中に平均一次粒径5〜50nm及び平均分散粒径10〜100nmの酸化チタン分散粒子と、高分子分散剤と、アルコキシシラン加水分解重縮合物と、有機アミン類とを含む組成物であり、pH値がpH5〜9の範囲内であることを特徴とする均一分散性光触媒コーティング液である。
【0014】
また、本発明は、平均一次粒径が5〜50nmであって平均分散粒径が10〜100nmである酸化チタン分散粒子と高分子分散剤とを含む酸化チタン分散水溶液を調製し、また、アルコキシシラン類を加水分解・重縮合させて得られたアルコキシシラン加水分解重縮合物の水・アルコール混合溶液からなるアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液を調製し、これら酸化チタン分散水溶液とアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液とを混合する際に有機アミン類を添加することを特徴とする均一分散性光触媒コーティング液の製造方法である。
【0015】
更に、本発明は、基材と、この基材の表面に上記の均一分散性光触媒コーティング液を塗布して形成された光触媒コーティング塗膜とを有し、上記光触媒コーティング塗膜のマトリックスの平均乾燥膜厚が100nm以下であって、このマトリックス中に酸化チタン分散粒子が孤立分散に近い状態で固定化されていることを特徴とする光触媒活性複合材である。
【0016】
更にまた、本発明は、より優れた抗菌作用を発現させるための銀粒子を組成物中に含む均一分散性光触媒コーティング液であり、また、このような銀粒子を組成物中に含む均一分散性光触媒コーティング液の製造方法であり、更に、このような銀粒子を組成物中に含む均一分散性光触媒コーティング液を用いて得られる光触媒活性複合材である。
【0017】
本発明において、均一分散性光触媒コーティング液は、平均一次粒径5〜50nm及び平均分散粒径10〜100nmの酸化チタン分散粒子と高分子分散剤を、更に必要により銀粒子を含む酸化チタン分散水溶液と、アルコキシシラン類を加水分解・重縮合させて得られたアルコキシシラン加水分解重縮合物の水・アルコール混合溶液からなるアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液と、有機アミン類とを混合して得られたものであるのがよい。
【0018】
そして、本発明の均一分散性光触媒コーティング液を製造する際に用いる酸化チタン分散水溶液は、酸化チタン粉体と高分子分散剤とを原料として調製される。ここで、酸化チタン粉体としては、好ましくは例えば日本アエロジル製P25が用いられ、また、高分子分散剤としては、好ましくは立体反発を利用するタイプの高分子分散剤(例えば、ビックケミー・ジャパン社販売の商品名Disperbyk-180、Disperbyk-190等)が用いられる。そして、この高分子分散剤の使用量は、酸化チタン粉体の重量に対して10重量%以上100重量%以下であるのがよく、好ましくは30重量%以上60重量%以下の範囲であるのがよい。そして、この酸化チタン分散水溶液は、分散機、好ましくはビーズミル分散機を使用して分散安定化することにより調製される。
【0019】
また、本発明の均一分散性光触媒コーティング液を製造する際に用いるアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液は、アルコキシシラン類を加水分解・重縮合させて得られるものである。そして、この際に使用するアルコキシシラン類としては、特に限定されないが、好ましくは下記一般式(1)
Si(OR)4−x …… (1)
(但し、式中、Rはアルキル基、メチル基、エチル基、及びプロピル基等から選ばれた置換基であり、互いに同じであっても異なっていてもよい。)で表されるアルコキシシラン類であり、より好ましくは、この一般式(1)で表されるアルコキシシラン類において、置換基Rが炭素数1〜4の低級アルキル基であり、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基等を例示することができ、特に好ましくはテトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシシラン、及びジメチルジエトキシシシランを挙げることができる。また、これらアルコキシシラン類については、その1種のみを単独で用いることができるほか、2種以上の混合物として用いることもでき、更に、部分的に加水分解して得られる低縮合物として用いることもできる。
【0020】
上記のアルコキシシラン類を加水分解・重縮合させてアルコキシシラン加水分解重縮合物の水・アルコール混合溶液からなるアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液を得る方法についても、特に制限されるものではなく、例えば、アルコキシシラン類を酸あるいはアルミニウムアルコキシドを触媒としたゾル−ゲル反応を起こさせて加水分解・重縮合させることにより製造される。
【0021】
更に、本発明において、上記酸化チタン分散水溶液とアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液とを混合して均一分散性光触媒コーティング液を調製する際に添加される有機アミン類としては、それが酸化チタン分散水溶液とアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液との混合時にゲル化を防いで安定剤としての作用を発現できるものであればよく、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン類や、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化トリメチルエタノールアンモニウム(コリン)等の水酸化第四級アンモニウム類等を挙げることができ、好ましくは三級アミン類である。これらの有機アミン類については、その1種のみを単独で使用することができるほか、必要により2種以上の混合物として用いることもできる。
【0022】
本発明において、より優れた抗菌作用を発現させるために、均一分散性光触媒コーティング液の組成物中に銀粒子を含有させるのがよい。この際に光触媒コーティング液の組成物中に含有させる銀粒子は、組成物中に均一分散する10nm以下の微細粒子状であるのがよく、また、組成物中における銀粒子の含有量は、形成される光触媒コーティング塗膜が黒色化するのを避けるために、通常数重量%程度以下、好ましくは2重量%程度以下であるのがよい。
【0023】
また、この銀粒子を光触媒コーティング液の組成物中に含有させる方法については、例えば市販品あるいは別途作製した銀コロイドを添加する等の種々の銀粒子の添加方法を選択でき、特に制限されるものではなく、光触媒コーティング液の調製時に酸化チタン分散水溶液中に添加しても、また、アルコキシシラン加水分解重縮合物溶液中に添加しても、更には、これら酸化チタン分散水溶液及びアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液の両者に適宜分割して添加してもよい。
【0024】
更に、この銀粒子を酸化チタン分散水溶液中に添加する方法についても、特に制限されるものではないが、酸化チタン粒子表面に銀粒子を生成させて電荷分離効率を高めることによって光触媒活性を高活性化するという観点から、好ましくは硝酸銀を添加して銀イオンを、光還元あるいは酸化チタン表面に分散安定化のために存在する高分子分散剤による還元により、できる限り酸化チタン表面近くに銀粒子を生成させるのがより好ましく、例えば、酸化チタン分散水溶液に硝酸銀を加えて攪拌下にブラックライトを照射し、主として酸化チタンの光触媒反応によって生成した電子により銀イオンを還元して銀粒子を酸化チタン粒子表面に成長させる方法や、酸化チタン分散水溶液に硝酸銀を加え、酸化チタン粒子表面に分散安定化のために存在する高分子分散剤を還元剤として利用して、必要があれば加熱等を施して銀イオンを還元して銀粒子を酸化チタン表面近くに生成させる方法等を例示することができる。このような硝酸銀を還元する方法によって、酸化チタン粒子表面、あるいは、酸化チタン粒子表面近くに銀粒子を生成させることにより、光触媒活性(防汚性及び/又は抗菌性)が高活性化するという利点が生じる。
【0025】
本発明の均一分散性光触媒コーティング液は、(1)その分散媒が水系であって有機溶媒が含まれるとしてもエタノール程度のもので中性に近く、取扱い性に優れているほか、基材及び環境に与える影響が少ない、(2)光触媒コーティング液中の酸化チタン粒子が100nm以下の分散粒径で分散安定化しているので、膜形成時に酸化チタン粒子が100nm以下の分散粒径で膜中に均一に分散し、結果として酸化チタン粒子がシリカ塗膜中で可及的に孤立分散に近い状態で固定化され、優れた光触媒活性を発現する、(3)マトリックスのシリカ系膜が常温下において半日程度で硬化するので、現場施工が可能かつ容易である、(4)光触媒コーティング液の酸化チタン分散水溶液とアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液とを別々に保存すれば、酸化チタン分散水溶液中で酸化チタン粒子が沈降することなく長期間に亘って分散安定化していると共に、マトリックス成分となるアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液もゲル化することなく長期間に亘って安定化しており、1年間あるいはそれ以上の長期間に亘って保存が可能であり、また、両溶液を混合した場合にも1週間程度まではゲル化することなく安定しており、その取扱い性に優れている、(5)コーティングされる基材の濡れ性に合わせて造膜することができ、基材適応性が広い、等の特長を有する。
【0026】
また、本発明の均一分散性光触媒コーティング液は、金属、ガラス、セラミックス、プラスチックス、木、石、セメント、コンクリート、又はこれらの組み合わせ、若しくはこれらの積層体等からなり、防汚及び/又は抗菌性が求められるあらゆる基材の表面に塗布し、この基材の表面に所定の光触媒コーティング塗膜を形成せしめることにより、光触媒活性複合材を形成することができる。また、本発明の均一分散性光触媒コーティング液は、これらのコーティングされる基材の濡れ性に合わせるために、水系溶剤中のアルコール濃度を変えたり、あるいは、界面活性剤、シランカップリング剤等を添加することができる。
【0027】
ここで、基材の表面に本発明の均一分散性光触媒コーティング液を塗布する方法については、特に制限されるものではないが、基材の表面に形成される光触媒コーティング塗膜については透明性や耐久性の観点からそのマトリックス膜の平均乾燥膜厚が好ましくは100nm以下であるのが望ましいので、好ましくはスプレーコート法であり、使用するスプレー塗装機については好ましくは塗着効率の高い低圧スプレー機がよく、また、スプレー条件については、ノズル径、噴霧距離、運行速度を最適化し、噴霧量を10〜100cm3/m2程度とするのがよい。
【0028】
また、基材の表面に形成される光触媒コーティング塗膜は、基本的には一層であることをベースとするが、基材が劣化し易い有機材料等あるいは凹凸の多い表面を持つ場合には、必要により保護層あるいは平滑化する層として、一層目をアルコキシシラン加水分解重縮合物でコーティングしたシリカ系塗膜とし、二層目を本発明の光触媒コーティング塗膜としてもよい。
【0029】
本発明の光触媒活性複合材においては、その光触媒コーティング塗膜のマトリックス膜中に平均分散粒径10〜100nmの酸化チタン分散粒子が孤立分散に近い状態で固定化されており、可視光が散乱されることなく透明性を維持したまま、同一の塗膜断面に存在する酸化チタン全粒子の総断面積の占める割合が高くなることで、有効に光触媒作用が働くことで、その光触媒活性(防汚性及び/又は抗菌性)を高めるという効果を発揮する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の均一分散性光触媒コーティング液は、分散安定性に優れており、また、環境に負荷を与えずに取扱い性にも優れており、しかも、基材の表面に塗布してこの基材の表面に光触媒活性(防汚性及び/又は抗菌性)、透明性、及び耐久性に優れた光触媒コーティング塗膜を形成することができる。
【0031】
また、光触媒コーティング液中に銀粒子を含有させることにより、光触媒コーティング塗膜により優れた抗菌性を付与することができ、特に防汚性及び抗菌性が共に優れた光触媒コーティング塗膜を形成することができる。
【0032】
更に、本発明の均一分散性光触媒コーティング液の製造方法によれば、このように分散安定性や取扱い性に優れ、また、基材の表面に塗布して光触媒活性(防汚性及び/又は抗菌性)、透明性、及び耐久性に優れた光触媒コーティング塗膜を与える均一分散性光触媒コーティング液を容易に製造することができる。
【0033】
更にまた、本発明の光触媒活性複合材は、光触媒活性(防汚性及び/又は抗菌性)、透明性、及び耐久性に優れた光触媒コーティング塗膜を有し、長期に亘って優れた防汚性能及び/又は抗菌性能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、実施例2及び比較例2の光触媒活性複合材における光触媒コーティング塗膜の走査型電子顕微鏡による写真である。
【図2】図2は、実施例1及び比較例1の光触媒コーティング液を用いて石英ディスク(基材)上に形成させた光触媒コーティング塗膜の紫外・可視吸収スペクトルを示すグラフ図である。
【図3】図3は、実施例1及び比較例1の光触媒コーティング液を用いてガラス板(基材)上に形成させた光触媒コーティング塗膜の接触角の経時変化を示すグラフ図である。
【図4】図4は、実施例1及び比較例1の光触媒コーティング液を用いてガラス(基材)上に形成させた光触媒コーティング塗膜の促進耐候試験の結果を示す走査型電子顕微鏡による写真である。
【図5】図5は、実施例1及び実施例3の光触媒コーティング液を用いてガラス(基材)板上に形成させた光触媒コーティング塗膜の抗菌効果測定結果を示すグラフの図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0036】
〔実施例1〕
平均一次粒径21nmの酸化チタン粉体(日本アエロジルP25)と立体反発を利用するタイプの高分子分散剤(ビックケミー・ジャパン社販売の商品名:Disperbyk-180)を水に添加して、分散機としてビーズミル分散機を用いて、粒子濃度30重量%の平均分散粒径80nmの酸化チタン粒子分散水溶液を調製した。この液は、常温で1年以上経過しても酸化チタン粒子が沈降せずに分散安定化していることを確認した。なお、液中の平均分散粒径は光散乱式粒度分布計を用いて確認した。
【0037】
アルコキシシラン類としてテトラエトキシシランを用い、硝酸を触媒にして加水分解・重縮合させ、固形分濃度3重量%の水・エタノール混合溶液からなるテトラエトキシシラン加水分解重縮合物溶液を調製した。このテトラエトキシシラン加水分解重縮合物溶液は、常温では1年以上安定で、半日程度の常温乾燥で硬化することを確認した。
【0038】
次に、調製された酸化チタンの分散水溶液3.3重量部とテトラエトキシシラン加水分解重縮合物溶液96.7重量部とを用い、また、これら酸化チタン分散水溶液とテトラエトキシシラン加水分解重縮合物溶液とを混合する際にゲル化を防止する安定剤として有機アミン類のトリエタノールアミンを用い、実際にコーティングする前に、これらを通常の攪拌機で混合し、実施例1の光触媒コーティング液を作製した。得られた実施例1の光触媒コーティング液は、粒子の沈降もなく常温でゲル化せずに約1週間は安定であることを確認した。
【0039】
〔比較例1〕
平均一次粒径21nmの酸化チタン粉体(日本アエロジルP25)と立体反発を利用するタイプの高分子分散剤(ビックケミー・ジャパン社販売の商品名:Disperbyk-180)を水に添加して、分散機としてコロイドミル型分散機を用いて、粒子濃度30重量%の平均分散粒径290nmの酸化チタン粒子分散水溶液を調製した。なお、液中の平均分散粒径は光散乱式粒度分布計を用いて確認した。この酸化チタン分散水溶液は、常温で1日経過すると、酸化チタン粒子が沈降することが確認された。
【0040】
次に、上記実施例1と同様にして比較例1の光触媒コーティング液を作製した。得られた比較例1の光触媒コーティング液は、常温で1日経過すると、酸化チタン粒子が沈降することが確認された。
【0041】
〔実施例2及び比較例2:光触媒活性複合材の調製〕
上記実施例1及び比較例1の光触媒コーティング液を用いて、シリコンウエハ(基材)あるいはガラス板の表面にスプレーコート法によって製膜し、このシリコンウエハの表面にマトリックス膜の平均乾燥膜厚が約90nmである光触媒コーティング塗膜(塗膜の重量組成TiO2/SiO2 =25/75)を形成し、実施例2及び比較例2の光触媒活性複合材を調製した。
【0042】
〔実施例3:光触媒活性複合材の調製〕
上記実施例1で調製した酸化チタン粒子分散水溶液を0.12wt%-硝酸銀水溶液で1/10に希釈し、攪拌下に得られた溶液にブラックライトを照射し、硝酸銀を光還元することによって銀粒子を酸化チタン表面に析出させ、実施例3の銀粒子0.068重量%含有の酸化チタン粒子分散水溶液を調製した。調製された銀含有酸化チタンの分散水溶液50重量部とテトラエトキシシラン加水分解重縮合物溶液50重量部とを用い、後は実施例1と同様にして、ガラス板表面にマトリックス膜の平均乾燥膜厚が約90nmである光触媒コーティング塗膜(塗膜の重量組成TiO2/SiO2/Ag=49.4/49.4/1.2)を形成し実施例3の光触媒コーティング液を作製し、実施例2と同様にして光触媒活性複合材を調製した。
【0043】
〔塗膜中の酸化チタン分散粒子の分散状態〕
得られた実施例2及び比較例2の光触媒活性複合材について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、実施例1の光触媒コーティング液を用いて調製された実施例2の光触媒活性複合材の光触媒コーティング塗膜中における酸化チタン分散粒子の分散状態と、比較例1の光触媒コーティング液を用いて調製された比較例2の光触媒活性複合材の光触媒コーティング塗膜中における酸化チタン分散粒子の分散状態との違いを調べた。
結果を図1に示す。
【0044】
図1に示すSEM像から明らかなように、平均分散粒径80nmの実施例1の光触媒コーティング液を用いた実施例2の光触媒活性複合材の光触媒コーティング塗膜は、塗膜中に100nmより小さい酸化チタン分散粒子が均一に孤立して分散しており、これに対して、平均分散粒径290nmの比較例1の光触媒コーティング液を用いた比較例2の光触媒活性複合材の光触媒コーティング塗膜においては、塗膜中に100nmより小さい酸化チタン分散粒子が大きな凝集体を形成して、不均一に分散していることがわかった。
【0045】
〔塗膜の紫外・可視吸収スペクトル〕
平均分散粒径80nmの実施例1の光触媒コーティング液及び平均分散粒径290nmの比較例1の光触媒コーティング液を用いて、石英ディスク(基材)上に形成させた光触媒コーティング塗膜の紫外・可視吸収スペクトルを図2に示す。コート回数が少ない場合、平均分散粒径80nmのものが平均分散粒径290nmのものより紫外線遮蔽性はやや低いが、コート回数が増加すると、平均分散粒径80nmの方の紫外線遮蔽性も平均分散粒径290nmのものと同程度になる。これは、コート回数が少ない場合、すなわち、膜厚が薄い場合、平均分散粒径が大きい290nmのものが平均分散粒径80nmのものより相対的に酸化チタン粒子の紫外線の散乱が大きいため、紫外線遮蔽性が高まると考えられる。これに対して、コート回数が多くなる、すなわち、膜厚が厚くなると、酸化チタン粒子数の増加に伴って紫外線の吸収による紫外線遮蔽性が相対的に高まるため、粒子が均一に分散している平均分散粒径80nmの紫外線遮蔽性が高まって、平均分散粒径による紫外線遮蔽性の違いは無くなっていくと考えられる。一方、可視光透明性は、平均分散粒径80nmの方はコート回数が増えてもほとんど低下していないが、平均分散粒径290nmのものはコート回数の増加と共に低下していく。これは、一般的に粒子径200〜400nmのものが可視光の散乱が最も大きいため、平均分散粒径290nmのものが平均分散粒径80nmのものより可視光遮蔽性が高まって、可視光透明性が低下すると考えられる。
【0046】
〔親水性:接触角〕
平均分散粒径80nmの実施例1の光触媒コーティング液及び平均分散粒径290nmの比較例1の光触媒コーティング液を用いて、ガラス板(基材)上に光触媒コーティング塗膜を形成させ、この光触媒コーティング塗膜に紫外線(UV)を照射してその際の光触媒コーティング塗膜の接触角の経時変化(UV照射前、UV 2hr照射後、UV 4hr照射後、UV 6hr照射後、UV 8hr照射後、UV 10hr照射後、及びUV 24hr照射後)を図3に示す。分散粒子径80nmの方が290nmよりも速く水に対する接触角が低下している、すなわち、速く親水化されていることがわかる。
【0047】
〔光触媒活性〕
平均分散粒径80nmの実施例1の光触媒コーティング液、又は、平均分散粒径290nmの比較例1の光触媒コーティング液を用い、石英基板(基材)上に光触媒コーティング塗膜を形成し、この光触媒コーティング塗膜の光触媒活性を調べた。この光触媒活性の評価は、各試料の光触媒コーティング塗膜上に1重量%の硝酸銀水溶液を等量ずつ載せ、UV(3mW/cm2)を10分間照射した後、光触媒反応によって生成した銀粒子による透過率の低下を調べ、この透過率の低下の度合いで比較した。透過率の低下の度合いが大きいものほど、光触媒活性が高いことを示す。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
この表1に示す光触媒活性の測定結果から、平均分散粒径80nmのものが平均分散粒径290nmのものよりも透過率の低下が大きい、すなわち、光触媒活性が高いことが判明した。
【0050】
〔促進耐候試験〕
平均分散粒径80nmの実施例1の光触媒コーティング液を用いて、ガラス(基材)上にマトリックス膜の平均乾燥膜厚が400nmと90nmの光触媒コーティング塗膜をスプレーコート法によって作製し、300時間の促進耐候試験(装置:スガ試験機製サイクル・キセノン・サンシャイン・ウェザーメーター、光源:水冷式キセノンアークランプ(7.5kw)、ブラックパネル温度:63℃、紫外線照射強度:156W/m2)を行い、試験前後の外観変化を走査型電子顕微鏡で観察した。結果を図4に示す。
図4に示す結果から、膜厚400nmの場合には試験前にミクロクラックが生じ、試験後には部分的な剥離が生じたが、膜厚90nmの場合には、試験前後でもミクロクラックや剥離が観測されなかった。
【0051】
〔抗菌性試験〕
実施例1及び実施例3の光触媒コーティング液を用いて、スプレーコート法により、ガラス(基材)板上にマトリックス膜の平均乾燥膜厚が90nmの光触媒コーティング塗膜を作製した。
【0052】
試験方法は、光照射フィルム密着法(抗菌製品技術協議会2003年版)区分IIIに準拠した。菌としては、大腸菌(Escherichia coli NBRC3972)を用いた。対照試料はポリエチレンフィルムとした。菌液調製溶液は、1/500NB培地(リン酸緩衝液で希釈)とした。光照射条件は、通常の室内の照度に相当する1000〜2000Lx(白色FL20SS・W/18,20形 18W 1本)とした。試験時の温度は20〜25℃とした。結果を図5に示す。
【0053】
図5に示す抗菌性測定において、試料1は実施例2で作製した光触媒コーティング塗膜であり、また、試料2は実施例3で作製した銀粒子1.2重量%含有の光触媒コーティング塗膜である。
試料1は、対照試料1で菌が2桁近く増殖しているのに対し、およそ1桁菌が減少している、すなわち、試料1の酸化チタン分散シリカ系膜に抗菌効果があることが判明した。これに対し、試料2は、対照試料2で菌が2桁近く増殖しているのに対し、およそ2桁菌が減少しており、試料1に比べて抗菌効果が更に高まっていることが判明した。これらのことから、試料1(実施例2の光触媒コーティング塗膜)でも通常の室内光レベルで抗菌効果があるが、試料2(実施例3の銀粒子1.2重量%含有光触媒コーティング塗膜)のように酸化チタンに銀粒子が加わると、抗菌効果が顕著に向上することが判明した。
【0054】
(1)水系溶剤中に平均一次粒径5〜50nm及び平均分散粒径10〜100nmの酸化チタン分散粒子と、高分子分散剤と、アルコキシシラン加水分解重縮合物と、有機アミン類とを含む組成物であり、pH値がpH5〜9の範囲内であることを特徴とする均一分散性光触媒コーティング液。
(2)組成物が銀粒子を含む(1)に記載の均一分散性光触媒コーティング液。
(3)平均一次粒径5〜50nm及び平均分散粒径10〜100nmの酸化チタン分散粒子と高分子分散剤とを含む酸化チタン分散水溶液と、アルコキシシラン類を加水分解・重縮合させて得られたアルコキシシラン加水分解重縮合物の水・アルコール混合溶液であるアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液と、有機アミン類とを混合して得られた(1)に記載の均一分散性光触媒コーティング液。
(4)酸化チタン分散水溶液が銀粒子を含む(3)に記載の均一分散性光触媒コーティング液。
(5)平均一次粒径が5〜50nmであって平均分散粒径が10〜100nmである酸化チタン分散粒子と高分子分散剤とを含む酸化チタン分散水溶液を調製し、また、アルコキシシラン類を加水分解・重縮合させて得られたアルコキシシラン加水分解重縮合物の水・アルコール混合溶液からなるアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液を調製し、これら酸化チタン分散水溶液とアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液とを混合する際に有機アミン類を添加することを特徴とする均一分散性光触媒コーティング液の製造方法。
(6)酸化チタン分散水溶液は、結晶化した酸化チタン粉体と高分子分散剤を水に加えて分散機を用いて分散安定化することにより調製される(5)に記載の均一分散性光触媒コーティング液の製造方法。
(7)酸化チタン分散水溶液の調製時に、この酸化チタン分散水溶液に銀粒子を含有させる(5)又は(6)に記載の均一分散性光触媒コーティング液の製造方法。
(8)硝酸銀の還元によって銀を生成させる方法により、酸化チタン分散水溶液を構成する酸化チタン粒子表面又はその近傍に銀粒子を生成させる(7)に記載の均一分散性光触媒コーティング液の製造方法。
(9)基材と、この基材の表面に(1)〜(4)のいずれかに記載の均一分散性光触媒コーティング液を塗布して形成された光触媒コーティング塗膜とを有し、上記光触媒コーティング塗膜のマトリックス膜の平均乾燥膜厚が100nm以下であって、このマトリックス膜中に酸化チタン分散粒子が孤立分散に近い状態で固定化されていることを特徴とする光触媒活性複合材。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の均一分散性光触媒コーティング液は、分散安定性に優れており、また、環境に負荷を与えずに取扱い性に優れており、しかも、種々の基材(金属、ガラス、セラミックス、プラスチックス、木、石、セメント、コンクリート、又はこれらの組み合わせ、若しくはこれらの積層体等)の表面に塗布してこの基材の表面に光触媒活性、透明性、及び耐久性に優れた光触媒コーティング塗膜を形成することができるので、防汚及び/又は抗菌性が求められる種々の基材の表面に塗布し、この基材の表面に所定の光触媒コーティング塗膜を形成させて光触媒活性複合材を形成することができ、産業上極めて有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系溶剤中に平均一次粒径5〜50nm及び平均分散粒径10〜100nmの酸化チタン分散粒子と、高分子分散剤と、アルコキシシラン加水分解重縮合物と、有機アミン類とを含む組成物であり、pH値がpH5〜9の範囲内であることを特徴とする均一分散性光触媒コーティング液。
【請求項2】
組成物が銀粒子を含む請求項1に記載の均一分散性光触媒コーティング液。
【請求項3】
平均一次粒径5〜50nm及び平均分散粒径10〜100nmの酸化チタン分散粒子と高分子分散剤とを含む酸化チタン分散水溶液と、アルコキシシラン類を加水分解・重縮合させて得られたアルコキシシラン加水分解重縮合物の水・アルコール混合溶液であるアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液と、有機アミン類とを混合して得られた請求項1に記載の均一分散性光触媒コーティング液。
【請求項4】
酸化チタン分散水溶液が銀粒子を含む請求項3に記載の均一分散性光触媒コーティング液。
【請求項5】
平均一次粒径が5〜50nmであって平均分散粒径が10〜100nmである酸化チタン分散粒子と立体反発を利用するタイプの高分子分散剤とを含む酸化チタン分散水溶液を調製し、また、アルコキシシラン類を加水分解・重縮合させて得られたアルコキシシラン加水分解重縮合物の水・アルコール混合溶液からなるアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液を調製し、これら酸化チタン分散水溶液とアルコキシシラン加水分解重縮合物溶液とを混合する際に有機アミン類を添加することを特徴とする均一分散性光触媒コーティング液の製造方法。
【請求項6】
酸化チタン分散水溶液は、結晶化した酸化チタン粉体と高分子分散剤を水に加えて分散機を用いて分散安定化することにより調製される請求項5に記載の均一分散性光触媒コーティング液の製造方法。
【請求項7】
酸化チタン分散水溶液の調製時に、この酸化チタン分散水溶液に銀粒子を含有させる請求項5又は6に記載の均一分散性光触媒コーティング液の製造方法。
【請求項8】
基材と、この基材の表面に請求項1〜4のいずれかに記載の均一分散性光触媒コーティング液を塗布して形成された光触媒コーティング塗膜とを有し、上記光触媒コーティング塗膜のマトリックス膜の平均乾燥膜厚が100nm以下であって、このマトリックス膜中に酸化チタン分散粒子が孤立分散に近い状態で固定化されていることを特徴とする光触媒活性複合材。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−209337(P2010−209337A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87247(P2010−87247)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【分割の表示】特願2008−501706(P2008−501706)の分割
【原出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(390034245)多摩化学工業株式会社 (10)
【出願人】(305017882)タムネットワーク株式会社 (3)
【出願人】(000192903)神奈川県 (65)
【Fターム(参考)】