説明

均質化工程を有する食品の製造方法

【課題】均質化工程を有する液体状もしくはペースト状食品には、特定の増粘多糖類が使用されているが、品質やコストの面で不十分な点が存在し、澱粉の使用した場合においても粘度の安定性に問題があった。
【解決手段】澱粉中のアジピン酸基含量が0.020〜0.135質量%となるように調整したアセチル化アジピン酸架橋澱粉を原材料に添加し、55〜90℃で混合した後、50〜250barで均質化する製法によって、粘度安定性に優れた液体状もしくはペースト状食品を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた粘度安定性を示す液体状又はペースト状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
液体状又はペースト状食品を製造する際、原材料中の油脂、ココア粒子、不溶性繊維質などのように水に不溶な成分を均質化処理によって細分化することで、これら不溶成分を乳化し、食感を滑らかにする方法が行われている。また、液体状又はペースト状の乳製品においても、乳由来の脂肪球を微細化して食感を滑らかにするため、原材料を均質化することが一般的である。
【0003】
一方で、液体状又はペースト状食品において所望のテクスチャーを得るため、必要に応じて粘度を付与させる。食品の種類によって要求される粘度は様々であるが、粘度を付与するに際し、澱粉や特定の増粘多糖類を均質化処理前に添加する方法が主に行われている。
【0004】
しかしながら、膨潤した澱粉は均質化によって澱粉組織が崩壊しやすいことから、均質化工程において澱粉の粘度が著しく低下しやすいという問題があった。また、特許文献1および特許文献2に開示されているように、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉もしくはヒドロキシプロピル化澱粉を僅かに膨潤させた後に均質化を行った場合であっても、澱粉粒の崩壊を抑制することはできず、その効果は十分とは言えなかった。
【0005】
さらに、加工澱粉の安全性を評価する欧州食品化学委員会の評価(非特許文献1)において、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉およびヒドロキシプロピル化澱粉は乳児および小児向け食品に使用すべきでないと結論付けられており、特許文献1および特許文献2の活用範囲は限られたものであった。
【0006】
また、増粘多糖類は、澱粉に比べて高価であるために製造コストがかかるばかりでなく、食感において澱粉を使用した場合と比べると、べた付いて口溶けが悪く、ボディ感が少なくなることが問題視される場合があった。
【特許文献1】特開2004−215563号
【特許文献2】特開2004−267160号
【非特許文献1】欧州食品化学委員会 第13回会合報告書(1982年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、均質化工程を有する液体状又はペースト状食品において優れた粘度安定性を付与する製造方法、及び当該食品の製造に有用な食品組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、膨潤度が30以下である澱粉を原材料に添加し、55〜90℃にまで加温して混合した後、50〜250barで均質化することで、均質化工程を有する液体状又はペースト状食品に優れた粘度安定性を付与できることを見出した。
【0009】
澱粉は水存在下での加熱時に吸水して粒が膨潤し、その膨潤が物理的限界に達すると粒が崩壊する。崩壊が進むと粒は細分化され、やがて完全に消失する。ところが、吸水が始まった澱粉は、均質化のように高い圧力とシェアを加えることでも膨潤を進行させることができる。
【0010】
加熱の場合と同様に、均質化においても、澱粉の膨潤が物理的限界に達すると粒は崩壊し、細分化され、やがて完全に消失する。澱粉粒が崩壊した状態では粘度安定効果が得られ難くなり、加熱殺菌やレトルト殺菌によって粘度が低下しやすい。
【0011】
本発明によれば、液体状又はペースト状食品に膨潤度が30以下澱粉を含有させることで、均質化による澱粉粒の崩壊が抑制される。したがって、当該澱粉を原材料に添加して55〜90℃にまで加温・混合した後、50〜250barで均質化することによって、澱粉粒が適度に膨潤し、加熱殺菌やレトルト殺菌に対する粘度安定性が向上する。
【0012】
また、本発明においては、前記澱粉が、ウルチ種コーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、サゴ澱粉、緑豆澱粉、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉から選ばれた少なくとも一種の澱粉であることが好ましい。
【0013】
また、本発明においては、前記澱粉がアセチル化アジピン酸架橋澱粉であることが好ましい。そして、前記澱粉中のアジピン酸基含量は、0.020〜0.135質量%であることが好ましい。アセチル化アジピン酸架橋澱粉は、澱粉粒が適度に膨潤して増粘し易い性質であるものの、澱粉粒が崩壊し難い性質も有している。したがって、均質化工程を経ても澱粉粒が崩壊し難く、加熱殺菌やレトルト殺菌に対する粘度安定性が向上する。
【発明の効果】
【0014】
アセチル化アジピン酸架橋澱粉を原材料に添加し、55〜90℃で混合した後、50〜250barで均質化することにより、優れた粘度安定性を有する液体状又はペースト状食品の製造方法の技術である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の均質化工程を有する液体状又はペースト状食品は、膨潤度が30以下である澱粉を含有する。水存在下で吸水が始まった澱粉は、均質化によって膨潤し、澱粉の膨潤が物理的限界に達すると粒は崩壊し、細分化され、やがて完全に消失する。澱粉粒が崩壊した状態では粘度安定効果が得られ難くなり、加熱殺菌やレトルト殺菌によって粘度が低下しやすい。
【0016】
一方、膨潤度が30以下の澱粉は、均質化による澱粉粒の崩壊を抑制でき、最終製品中に澱粉粒が崩壊せずに保持できる。このため、液体状又はペースト状食品に膨潤度が30以下の澱粉を含有させることで、最終製品中に澱粉が崩壊せずに保持され、加熱殺菌やレトルト殺菌に対する粘度安定性が向上する。前記澱粉の膨潤度は30以下が好ましく、10〜20が特に好ましい。
【0017】
膨潤度が10〜20であれば、特に優れた粘度安定性が得られる。膨潤度が30より高いと、均質化によって澱粉粒が崩壊しやすくなり、加熱殺菌やレトルト殺菌によって粘度低下が起こりやすくなる。
【0018】
ここで言う均質化とは、高圧ポンプと細く曲がった管によって構成される均質化処理機を用いて、液体状又はペースト状食品に圧力をかけて均質化処理機の管内を高速で通過させることを意味する。

【0019】
均質化によって澱粉を適度に膨潤させるには、まず、澱粉を水存在下で加温して、澱粉の吸水が始まった状態にすることが有効である。したがって、澱粉を原材料中に添加した後、55〜90℃にまで加温して混合することが好ましく、60〜80℃にまで加温して混合することが特に好ましい。60〜80℃にまで加温して混合することで、特に優れた粘度安定性が得られる。90℃より高いと、均質化によって澱粉粒が崩壊しやすくなり、加熱殺菌やレトルト殺菌によって粘度低下が起こりやすくなる。55℃より低いと、均質化工程を経ても澱粉が十分に膨潤できず、目的とする粘度が得られない場合がある。
【0020】
吸水が始まった澱粉は、均質化することで適度に膨潤させることができる。均質化の圧力は50〜250barが好ましく、100〜200barが特に好ましい。均質化の圧力が100〜200barであれば、特に優れた粘度安定性が得られる。250barより高いと、均質化によって澱粉粒が崩壊しやすくなり、加熱殺菌やレトルト殺菌によって粘度低下が起こりやすくなる。50barより低いと、均質化工程を経ても澱粉が十分に膨潤できず、目的とする粘度が得られない場合がある。
【0021】
なお、本発明において、澱粉の膨潤度とは、以下の方法によって定量される値を意味する。すなわち、乾燥物質量1.0gの澱粉試料を水100mlに分散し、沸騰水中で時々攪拌しながら30分間加熱後、30℃に冷却する。次いで、この糊液を遠心分離(3000rpm、10分間)して糊層と上澄液層に分け、糊層の質量を測定してこれをAとする。次いで、質量測定した糊層を105℃で乾固した後、質量を測定してこれをBとし、A/Bの値を膨潤度とする。
【0022】
前記澱粉の種類としては、特に限定はなく、ウルチ種コーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、サゴ澱粉、緑豆澱粉、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、タピオカ澱粉から選ばれた少なくとも一種の澱粉が挙げられる。
【0023】
また、最終製品中において澱粉粒が消失せずに保持されているかどうかは、以下の方法によって定性的に確認することができる。すなわち、澱粉を用いて製造された液体状又はペースト状食品をよく攪拌した後にスライドガラスに数滴取り、これにヨウ素溶液を数滴添加して混合した後、カバーガラスを乗せ、カバーガラス周辺の水分を拭き取って観察試料とする。この観察試料を、光学顕微鏡を用いて観察し、澱粉粒の有無を確認する。観察試料がヨウ素溶液で染色されるにも関わらず、澱粉粒がほとんど観察できない場合は、澱粉粒が消失していることを意味する。一方で、観察試料がヨウ素溶液で染色され、且つ澱粉粒を確認することができる場合は、澱粉粒が消失していないことを意味する。この場合、澱粉粒の形状がはっきりと確認できるものほど好ましい。
【0024】
また、これらの澱粉は、化学的加工によって、澱粉分子内及び/もしくは澱粉分子間に架橋構造を導入する架橋処理を施して用いることが好ましい。架橋処理としては、リン酸架橋、アセチル化アジピン酸架橋、アルデヒド架橋、アクロレイン架橋、エピクロルヒドリン架橋、グラフト重合が好ましく挙げられる。これらのうち、アセチル化アジピン酸架橋が特に好ましい。
【0025】
アセチル化アジピン酸架橋澱粉は、リン酸架橋澱粉などと比較して、増粘剤として非常に効果が高く、且つ澱粉粒が崩壊し難い。また、後述する実施例においても明らかなように、同程度の膨潤度となるように調整したヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉や、アセチル化リン酸架橋澱粉よりも加熱殺菌やレトルト殺菌による粘度低下が起こり難く、耐熱性に優れているという結果が得られている。詳細は不明だが、これは架橋の分子構造の違い及びその大きさや強度によるものではないかと考えられる。
【0026】
そして、アセチル化アジピン酸架橋澱粉のアジピン酸基含量は、0.020〜0.135質量%が好ましく、0.030〜0.100質量%がより好ましい。アジピン酸基含量はアセチル化アジピン酸架橋における架橋の度合いを示すものであり、上記アジピン酸基含量であれば、優れた粘度安定性が得られる。アジピン酸基含量が0.020質量%より低いと、均質化によって澱粉粒が崩壊しやすくなり、加熱殺菌やレトルト殺菌によって粘度低下が起こりやすくなる。アジピン酸基含量が0.135質量%より高いと、均質化工程を経ても澱粉が十分に膨潤できず、目的とする粘度が得られない場合がある。
【0027】
アセチル化アジピン酸架橋澱粉は、無水酢酸にアジピン酸を溶解させて調製した反応液を澱粉懸濁液にゆっくりと添加し、反応液添加中の澱粉懸濁液のpHを弱アルカリ性に保つことで得ることができる。また、さらに、α化、乾熱処理、湿熱処理、温水処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理、漂白処理、油脂加工などから選ばれた少なくとも一種の加工方法と組み合わせることもできる。本反応によって澱粉のアセチル化とアジピン酸架橋が同時に達せられるが、無水酢酸とアジピン酸の添加量を調整することでそれぞれの反応度を調節することができる。そして、アセチル化の反応度は無水酢酸の添加量により調節することができるが、これは主として保存中の老化耐性の向上に寄与する。また、アジピン酸架橋の反応度はアジピン酸の添加量により調節することができるが、これは主として膨潤抑制と耐熱性の向上に効果的である。
【0028】
なお、本発明において、澱粉中のアジピン酸基含量とは、以下の方法によって定量される値を意味する。すなわち、澱粉試料約1gを精密に量り、水50mlを加え、さらに内標準物質液1mlを正確に加えた後、4mol/l 水酸化ナトリウム溶液50mlを加え、5分間振とうする。さらに、塩酸20mlを加え、室温まで冷却後、定量的に分液漏斗に移す。これを酢酸エチル100mlを用いて3回抽出し、酢酸エチル層を合わせ、無水硫酸ナトリウム20gを加えて10分間時々振り混ぜながら放置した後、ろ過する。
【0029】
ろ紙上の残留物を酢酸エチル50mlで2回洗い、洗液をろ紙に合わせ、減圧下、40℃以下で酢酸エチルを完全に除去する。残留物にピリジン2ml及びN,N−ビストリメチルシリルトリフルオロアセタミド1mlを加えて栓をし、1時間放置後、総アジピン酸測定用試料溶液とする。ただし、内標準物質液は、グルタール酸約100mgを精密に量り、水を加えて溶かし、正確に100mlとする。ガスクロマトグラフィーを行ない、内標準物質のピーク面積に対するアジピン酸のピーク面積比を求め、検量線より澱粉試料中の総アジピン酸含量を求める。
【0030】
さらに乾燥物換算を行なう。次に、澱粉試料約5gを精密に量り、水100mlを加え、さらに内標準物質液1mlを正確に加える。1時間振とう後、孔径0.45μmのミリポアフィルターでろ過し、ろ紙に塩酸1mlを加え、分液漏斗に移す。酢酸エチル100mlを用いて3回抽出し、以下、総アジピン酸測定用試料溶液と同様に操作し、遊離アジピン酸測定用試料溶液とする。
【0031】
ガスクロマトグラフィーを行ない、内標準物質に対するアジピン酸のピーク面積比を求め、検量線より澱粉試料中の遊離アジピン酸量を求める。さらに乾燥物換算を行なう。別に4個のフラスコに未加工の原料澱粉1.0gをそれぞれ量り入れ、各フラスコに水50mlを加え、さらに内標準物質液1mlを正確に加える。それぞれにアジピン酸試液0.25、0.50、0.75及び1.00mlを正確に加え、フラスコを揺り動かして澱粉と混和する。4mol/l 水酸化ナトリウム溶液50mlを加え、5分間振とうする。
【0032】
各フラスコに塩酸20mlを加え、室温まで冷却後、定量的に分液漏斗に移す。酢酸エチル100mlを用いて3回抽出し、以下、総アジピン酸測定用試料溶液と同様に操作し、アジピン酸測定用標準溶液とし、ガスクロマトグラフィーを行ない、内標準物質液のピーク面積に対するアジピン酸のピーク面積比を求め、検量線を作成する。澱粉中のアジピン酸基含量は、次の計算式を用いて算出する。
【0033】
アジピン酸基含量(質量%)
=総アジピン酸量(質量%)−遊離アジピン酸量(質量%)
【0034】
以下にガスクロマトグラフィーの操作条件を示す。
検出器:水素炎イオン化検出器
カラム:内径0.25mm、長さ15mのケイ酸ガラス製の細管に、ガスクロマトグ
ラフィー用50%ジフェニル50%ジメチルポリシロキサンを0.25μm
コーティングしたもの。
カラム温度:120℃で5分間保持、その後毎分5℃で150℃まで昇温する。
キャリヤーガス及び流量:ヘリウム又は窒素を用いる。アジピン酸のピークが
約8分に、グルタール酸のピークが約5分に現れる
ように流量を調整する。
注入口温度:250℃
注入方式:スプリット(1:30)
注入量:1μl
検出器温度:250℃
【0035】
本発明の液体状又はペースト状食品の種類としては、特に限定はなく、例えば調味料、タレ、ソース、ドレッシング、ケチャップ、フィリング、マヨネーズ様食品、スープ、お汁粉、ココア飲料、乳飲料、ヨーグルトなどが挙げられる。
【0036】
本発明を実施するには、まず、澱粉をその他の原材料に添加し、55〜90℃にまで加温しながら混合する。次いで、これを均質化工程において50〜250barの圧力で均質化する。これ以降の製造方法は食品の形態によって異なるが、例えば調味料、タレ、ソース、ドレッシング、ケチャップ、フィリング、マヨネーズ様食品、スープ、お汁粉、ココア飲料、乳飲料などの場合は、70〜95℃で加熱殺菌した後に包材に充填するか、耐熱性の包材に充填した後にF値4以上でレトルト殺菌して製品とする。
【0037】
調味料、タレ、ソース、ドレッシング、ケチャップ、フィリング、マヨネーズ様食品などは、加熱殺菌した後に米飯、麺、肉、魚、野菜、果物などの食材またはこれらの加工品に混合もしくは塗布してもよい。また、ヨーグルトのような発酵食品の場合は、70〜95℃で加熱殺菌した後に40℃に冷却し、植菌と混合を行なう。ヨーグルトの種類によって、包材に充填した後に発酵させるか、発酵させた後にフルーツソースや果肉などを混合してから充填して製品とする。
【0038】
本発明の液体状又はペースト状食品の原材料は、膨潤度が30以下の澱粉と水分が含まれること以外は、特に限定されるものではない。また、本発明の液体状又はペースト状食品は、求められる粘度が様々である為、澱粉および水分の量は特に限定されるものではない。
【0039】
本発明において、液体状又はペースト状食品の粘度を安定化することによって、これら食品の風味および食感において好ましい効果を得ることができる。例えば、液体状食品においては、水に不溶な成分の沈殿や浮上が抑制され、ムラのないボディ感を得ることができる。ペースト状食品においては、離水や油浮きが抑制され、ざらつきのない滑らかな食感を得ることができる。
【0040】
以下に実施例を示すことで本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
(試験例)
下記表1に示す澱粉試料の乾燥物質量60gに蒸留水を加え、澱粉液を1500g調製した。

【0042】
(実施例1)
この澱粉液を70℃になるまで攪拌しながら加温した後、150barで均質化(APV社製、Lab Homogenisers/LAB2000を使用)を行なった。均質化後の澱粉液500gを90℃で20分間攪拌しながら加熱殺菌した。
【0043】
一方で、均質化後の澱粉液500gを耐熱性のガラス容器に移して密閉し、121℃・1.2kgf/cm2で10分間レトルト殺菌(トミー精工社製HIGH−PRESSURE STEAM STERILIZER/BS−325を使用)を行なった。上記操作において得られた、70℃加温後、均質化後、加熱殺菌後およびレトルト殺菌後の澱粉液の粘度をそれぞれ、BM粘度計(東京計器社製)を用いて25℃で測定した。また、均質化後の澱粉液を少量採取し、ヨウ素溶液で染色した後に顕微鏡観察を行ない、澱粉粒の状態を評価した(○:ほとんど崩壊せず、△:一部が崩壊、×:完全に崩壊)。結果を表2に併せて示す。
【0044】

上記結果より、膨潤度30以上の澱粉試料を用いた澱粉液1および7は、均質化によって粘度が大きく低下し、顕微鏡観察から澱粉粒のほとんどが崩壊したことが確認された。澱粉粒が崩壊している為、加熱殺菌やレトルト殺菌を行なった後の粘度も低い値を示し、増粘剤としての効果が劣るものであった。これに対し、膨潤度30以下の澱粉試料を用いた澱粉液2〜6は、均質化によって粘度が上昇し、顕微鏡観察から澱粉粒は崩壊が抑制され、適度に膨潤したことが確認された。
【0045】
この中でも、特にアセチル化アジピン酸架橋澱粉を澱粉試料として用いた澱粉液2および3は、均質化後の澱粉粒の崩壊が最も抑制されて好ましく増粘しており、その後に加熱殺菌やレトルト殺菌を行なっても粘度が低下し難く、優れた粘度安定性を示した。
【0046】
(実施例2)
ココア飲料を調製する為、下記表3に示す組成でそれぞれ原材料を混合し、この溶液を70℃になるまで攪拌しながら加温した後、150barで均質化(APV社製、Lab Homogenisers/LAB2000を使用)を行なった。これを耐熱性のガラス容器(100ml容量、直径55mm)に80ml充填して密閉し、121℃・1.2kgf/cm2で20分間レトルト殺菌(トミー精工社製HIGH−PRESSURE STEAM STERILIZER/BS−325を使用)を行なうことで、ココア飲料を得た。
【0047】
上記ココア飲料各10本を60℃で1週間保存した後、生じた沈殿物の層の厚さを測定した。さらに、このココア飲料のうち、各3本を合せてビーカーに移し、BM粘度計(東京計器社製)を用いて25℃での粘度を測定した。一方で、このココア飲料のうち、各7本を用いて官能検査を行ない、風味を評価した。結果を表3に併せて示す。
【0048】

上記結果より、膨潤度30以上の澱粉試料を用いたココア飲料1は、粘度が低く、沈殿抑制効果が認められなかった。これに対し、膨潤度30以下の澱粉試料を用いたココア飲料2〜4は、粘度の増加によって沈殿が抑制された。この中でも、特にアセチル化アジピン酸架橋澱粉を澱粉試料として用いたココア飲料2および3は、粘度が最も高く、沈殿層がほとんど観察されなかったことから、優れた沈殿抑制効果を示した。
【0049】
(実施例3)
下記表4に示す組成で耐熱マヨネーズ様食品を調製した。サラダ油以外の原材料を混合して70℃になるまで攪拌しながら加温した。この混合物に攪拌しながらサラダ油を加えて粗乳化した後、150barで均質化(APV社製、Lab Homogenisers/LAB2000を使用)を行ない、マヨネーズ様食品を得た。
【0050】
このマヨネーズ様食品300gをレトルトパウチに充填して密閉し、121℃・1.2kgf/cm2で20分間レトルト殺菌(トミー精工社製HIGH−PRESSURE STEAM STERILIZER/BS−325を使用)を行なった。これを常温で2週間保存した後、BM粘度計(東京計器社製)を用いて25℃での粘度を測定した。さらに、このマヨネーズ様食品の官能検査を行ない、外観や風味を評価した。結果を表4に併せて示す。

【0051】
上記結果より、膨潤度30以上の澱粉試料を用いたマヨネーズ様食品1は、耐熱性に劣り、油や水の分離を抑制することができなかった。これに対し、膨潤度30以下の澱粉試料を用いたマヨネーズ様食品2〜4は、耐熱性に優れ、油や水の分離を抑制することができた。この中でも、特にアセチル化アジピン酸架橋澱粉を澱粉試料として用いたマヨネーズ様食品2および3は、粘度が最も高く、油や水の分離を抑制し、優れた耐熱性を示した。
【0052】
(実施例4)
下記表5に示す組成でヨーグルトを調製した。原材料を混合して70℃になるまで攪拌しながら加温した後、150barで均質化(APV社製、Lab Homogenisers/LAB2000を使用)を行ない、これを90℃で20分間加熱して殺菌した。これを40℃に冷却した後、スターターを接種して混合し、40℃で5時間培養した。
【0053】
培養後、攪拌しながら25℃に冷却してヨーグルトを得た。これを5℃で3日保存した後、BM粘度計(東京計器社製)を用いて5℃での粘度を測定した。さらに、このヨーグルトの官能検査を行ない、外観および風味を評価した。結果を表5に併せて示す。

【0054】
上記結果より、膨潤度30以上の澱粉試料を用いたヨーグルト1は、保形性や濃厚感が劣り、水の分離を抑制することができなかった。これに対し、膨潤度30以下の澱粉試料を用いたヨーグルト2〜4は、保形性や濃厚感に優れ、水の分離を抑制することができた。この中でも、特にアセチル化アジピン酸架橋澱粉を澱粉試料として用いたヨーグルト2および3は、粘度が最も高く、優れた食感を呈した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨潤度が30以下である澱粉を原材料に添加し、55〜90℃にまで加温して混合した後、50〜250barで均質化することを特徴とする食品の製造方法。
【請求項2】
前記澱粉が、アセチル化アジピン酸架橋澱粉である、請求項1に記載の食品の製造方法。
【請求項3】
前記澱粉中のアジピン酸基含量が0.020〜0.135質量%である、請求項2に記載の食品の製造方法。

【公開番号】特開2009−89669(P2009−89669A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264559(P2007−264559)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(000231453)日本食品化工株式会社 (68)
【Fターム(参考)】