説明

坑菌及び帯電防止複合機能性ハードコーティング組成物、そのコーティング方法及びそれを用いたハードコーティング透明シート

【課題】透明プラスチック基材に使用可能なハードコーティング組成物を提供すること。
【解決手段】本発明のハードコーティング組成物は、(a)銀ナノ微粒子ゾルと、(b)伝導性フィラーと、(c)光硬化型樹脂と、(d)光重合開始剤と、(e)有機溶媒とを配合してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコーティング組成物、そのコーティング方法及びそれを用いたハードコーティング透明シートに関する。より具体的には、本発明は、優れた坑菌特性、汚染防止機能及び帯電防止特性を持つと同時に、より向上した表面抵抗、透明度、硬度及び耐スクラッチ性などの諸般特性を示し、各種汚染物質を発生させないハードコーティング組成物、そのコーティング方法及びそれを用いたハードコーティング透明シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建築用資材、自動車外装部品、紙、木材、家具、防音壁、光学材料、化粧品容器及び各種ディスプレイ素子などの分野における各種プラスチック製品を保護するために機能性ハードコーティングが広範に適用されている。特に、近年、LCD、PDPまたはプロジェクション・テレビなどの各種ディスプレイ装置が大きく発展するに伴い、これらディスプレイ装置を含め、各種家電製品または携帯電話のウィンドウなどの表面を保護し、スクラッチなどを防止しうる機能性ハードコーティングの需要が大きく伸びてきた。
【0003】
以下、従来技術によるハードコーティング組成物及びその問題点について簡略に述べる。
まず、特許文献1には、メタアクリロイル基を3つ以上持つ多官能モノマーと、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリオキシエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレートなどの1官能または2官能のアクリルモノマーを含むハードコーティング組成物が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、メタアクリロイル基を3つ以上持つ多官能モノマーと、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレントリメタクリレート、ポリオキシエチレングリコールテトラメタクリレートなどのアクリルモノマーを含むコーティング液組成物が開示されている。
【0005】
そして、特許文献3には、アクリロイル基またはメタクリロイル基を持つリン酸エステルと、分子中に少なくとも一つの紫外線硬化型官能基と少なくとも一つの3級アミン基を持つ有機化合物と、分子中に少なくとも2つの活性エチレン基を持つ有機化合物とを含む紫外線硬化型ハードコーティング組成物が開示されている。
【0006】
しかるに、これら従来技術によるハードコーティング組成物の大部分は、ハードコーティングの耐スクラッチ性向上を主な目的とするもので、ハードコーティングの帯電防止機能を有することができなかった。たとえ帯電防止機能を有するとしても、帯電防止機能を発揮する成分がイオン伝導性物質であるため、マトリックスと結合することなく単純添加されたに過ぎず、結果として、帯電防止機能を長期間持続することができなかった。
【0007】
このような従来技術の問題点を解消するために、ITO(Indium Tin Oxide)またはATO(Antimon Tin Oxide)などの金属酸化物の導電性ゾルを用いて、ハードコーティングに帯電防止機能及び電磁波遮断機能などを与えるハードコーティング組成物が開発された。このハードコーティング組成物でコーティングして製造したハードコーティング透明シートの概略断面を、図1に示す。
【0008】
図1に示すように、該ハードコーティング透明シートでは、透明プラスチック基材11上にハードコーティングが形成されているが、このハードコーティングは、アクリルモノ
マーまたはオリゴマー12に金属酸化物13を分散させた形態となっている。このハードコーティングは、自由電子電荷移動のために帯電防止機能の持続性が概して優れている。
【0009】
しかしながら、このハードコーティングを透明プラスチック基材11に適用した場合、光透過度が80〜85%と低く、青い色調の色を帯びるため、透明プラスチック基材11の外観が損なうという欠点があった。また、経時的に金属酸化物13の粒子の凝集及びハードコーティング表面の微細なクラックなどが生じ、金属酸化物13などの無機物が汚染物質として溶出される。このため、透明プラスチック基材11の白化現象またはハードコーティング透明シートが適用されたクリーンルームなどの汚染が誘発され、外部からの異物などを遮断する汚染防止機能が十分に発揮できなくなる。しかも、上記ハードコーティング組成物は、保存安全性もまた急激に落ち、かつ、非常に高価なので、適用されたプラスチック製品のコスト高につながり、商業的には利用し難いという問題点もあった。
【0010】
一方、上記従来のハードコーティング組成物を用いて透明プラスチック基材にハードコーティングを形成した場合、該ハードコーティングは3〜4H程度の弱い表面硬度であるので、ハードコーティングの表面硬度をより向上させるための多くの試みがなされてきた。
【0011】
例えば、特許文献4には、光硬化型樹脂として多官能性アクリル酸エステル系モノマーを含み、ここに、粉末型無機充填剤及び重合開始剤をさらに含む被服用組成物が開示されている。また、特許文献5には、表面処理したシリカまたはアルミナからなる無機質充填材料を含む光重合性組成物が開示されている。
【0012】
しかしながら、これらもまた、最近要求されている十分に高い表面硬度を有したハードコーティングを実現するものではなかった。
要するに、従来技術によるハードコーティング組成物及びこれを用いたハードコーティング透明シートは、最近のディスプレイ装置または携帯電話などの急激な発達に伴って要求される高い機能性及び諸般特性を充足させられなかった。そこで、優れた汚染防止機能及び帯電防止特性の他、より向上した表面抵抗、透明度、硬度及び耐スクラッチ性などの諸般特性を示し、各種汚染物質を発生させないハードコーティング組成物などが望まれている現状にある。
【特許文献1】特開平5-214045号公報
【特許文献2】特開平5-214045号公報
【特許文献3】特開平5-186534号公報
【特許文献4】特許第1815116号公報
【特許文献5】特許第1416240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、優れた坑菌特性、汚染防止機能及び帯電防止特性を持つと同時に、より向上した表面抵抗、透明度、硬度及び耐スクラッチ性などの諸般特性を示し、かつ、各種汚染物質を発生させないハードコーティング組成物を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、上記のハードコーティング組成物を透明プラスチック基材に好適にコーティングするコーティング方法を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、上記のハードコーティング組成物を透明プラスチック基材に適用したハードコーティング透明シートを提供することにある。
【0015】
以上の技術的課題に制限されることなく、本発明が達成しようとするその他の技術的課題は、当業者であれば以下の記載から明確となる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、(a)銀ナノ微粒子ゾルと、(b)伝導性フィラー(filler)と、(c)光硬化型樹脂と、(d)光重合開始剤と、(e)有機溶媒とを配合してなるハードコーティング組成物を提供する。
【0017】
また、本発明は、前記ハードコーティング組成物を透明プラスチック基材に塗布する段階と、前記透明プラスチック基材を乾燥する段階と、前記透明プラスチック基材に紫外線を照射する段階とを含むハードコーティング組成物のコーティング方法を提供する。
【0018】
また、本発明は、前記ハードコーティング組成物のコーティング方法によって製造されるハードコーティング透明シートを提供する。
それ以外の本発明の実施形態の具体的な事項は、以下の詳細な説明及び添付の図面に示されている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた坑菌特性、汚染防止機能及び帯電防止特性を有すると同時に、より向上した表面抵抗、透明度、硬度及び耐スクラッチ性などの諸般特性を示し、かつ、各種汚染物質を発生させないハードコーティング透明シートを製造できるハードコーティング組成物を提供することが可能になる。
【0020】
したがって、本発明のハードコーティング組成物は、各種ディスプレイ装置の保護用フィルターまたは医療施設保護パネルなどに有用に適用することができる。
また、本発明のハードコーティング組成物は、分散安定性及び保存安定性に優れており、冷凍保管する必要がないために輸送しやすく、かつ、価格も低廉で商業化に向いている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付の図面を参照して、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。
図2は、本発明の一実施の形態によるハードコーティング組成物でコーティングされたハードコーティング透明シートの断面概略図であり、図3は、本発明の一実施の形態によるハードコーティング組成物に使用された銀ナノ微粒子ゾルの微粒子形状を概略的に示す図である。
【0022】
本発明は、基本的に(a)銀ナノ微粒子ゾルと、(b)伝導性フィラーと、(c)光硬化型樹脂と、(d)光重合開始剤と、(e)有機溶媒とを配合してなることを特徴とするハードコーティング組成物を提供する。
【0023】
本発明者らは実験を重ねた結果、本発明のハードコーティング組成物が、優れた帯電防止特性の他、より向上した表面抵抗、透明度、硬度及び耐スクラッチ性などの諸般特性を示すということを見出し、このハードコーティング組成物を用いて各種ディスプレイ装置などに適合するハードコーティングを得るに至った。
【0024】
また、本発明のハードコーティング組成物に含まれる伝導性フィラーは、ハードコーティングに帯電防止機能を与え、この伝導性フィラーは、ハードコーティング中で光硬化型樹脂などと結合した状態になりうる。したがって、これを配合してなるハードコーティング組成物を適用すると、長期間使用しても帯電防止機能の低下及び各種汚染物質の放出が殆どなく、大気中の水分または外部からの異物などを有効に遮断する、優れた汚染防止機能を示すハードコーティングが得られる。
【0025】
なお、本発明のハードコーティング組成物は銀ナノ微粒子ゾルが配合されているため、優れた坑菌特性を示すハードコーティングが得られる。
ここで、銀ナノ微粒子ゾル(a)は、上記のようにハードコーティングに優れた坑菌特性を持たせると同時に、ハードコーティングの硬度及び耐摩耗性などを向上させるために添加されたもので、基本的にコロイド状態を帯びる。このような銀ナノ微粒子ゾルは、ハードコーティングの形成後に微細細菌が発生したり成長したりすることを抑える役割を担う。
【0026】
この場合、銀ナノ微粒子ゾル(a)は、1〜10nmの平均粒径を持つ銀微粒子を含有することが好ましく、銀微粒子を0.1〜1.0重量%の濃度で含有することが好ましい。これによって、銀ナノ微粒子ゾルの添加による坑菌特性、耐摩耗性及び硬度などの向上効果を極大化できる。
【0027】
また、図3に示すように、銀ナノ微粒子ゾル(a)は、例えば、非晶質酸化シリコンのようなシリコン系化合物でコーティングされた銀微粒子を含有することが好ましく、シリコン系化合物は、例えば、1〜10nmの平均粒径を持つ上記銀微粒子を好適にコーティングできるように、0.1〜1nmの平均粒径を持つと良い。この銀微粒子は、シリコン系化合物でコーティングされることから大気中や紫外線照射下で安定性を有することになり、ハードコーティング組成物中の粒子分散安定性が向上する。
【0028】
なお、本発明のハードコーティング組成物は、伝導性フィラー(b)が配合されている。この伝導性フィラーは、上記ハードコーティング組成物によって形成されたハードコーティングに帯電防止機能を与える役割を担う。
【0029】
本発明において、伝導性フィラー(b)としては、金属成分以外の伝導性を有する物質ならいずれも使用可能であり、好ましくは、ポリアニリン系、ポリピロール系、ポリチオフェン系などの伝導性高分子のうち少なくとも一つを使用することができる。
【0030】
この伝導性フィラー(b)は、ITOまたはATOなどの金属酸化物と違い、金属または無機物成分などを含有せず、ハードコーティング中で光硬化型樹脂などと結合する形態を有するので、ハードコーティングの帯電防止機能が経時低下したり、各種汚染物質が放出されることを最小限化でき、かつ、ハードコーティングに大気中の水分または外部からの異物などを効果的に遮断する優れた汚染防止機能を持たせることができる。
【0031】
伝導性フィラー(b)としてより好ましくは、ポリチオフェン系高分子を使用するとよいが、これは、他の伝導性高分子に比べて熱安定性、紫外線安定性及び加工性に優れており、かつ安価であるためである。
【0032】
ポリチオフェン系高分子には、例えば、特開2002-60736号公報に教示してい
るように、ポリ(3,4-ジアルコキシチオフェン)及びポリ陰イオンからなる高分子を
使用することができ、より具体的には、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)を使用するとよい。ただし、このような物質に制限されるのではなく、その他従来から導電性を持つものとして知られてきた任意のポリチオフェン系高分子を使用しても良い。
【0033】
また、ハードコーティング組成物中の伝導性フィラー(b)の配合量比は、0.01〜10重量%とすることが好ましい。伝導性フィラーの配合量が0.01重量%未満であると、伝導性が低下してハードコーティングの帯電防止機能が十分に発揮されず、10重量%を超過すると、帯電防止特性は向上するが、ハードコーティングの硬化速度が遅れるためにハードコーティングの硬度が低くなり、ハードコーティング形成工程上難点を招くこ
とになる。
【0034】
本発明では、分散を容易化するために、伝導性フィラーを有機溶媒にあらかじめ分散させた、固形分濃度1.3〜1.5重量%の高分子溶液を使用するが、高分子溶液の使用量は、全体組成に対して伝導性フィラーの配合量0.01〜10重量%を越えない範囲とする。
【0035】
また、前記ハードコーティング組成物は、光硬化型樹脂(c)が配合されている。この場合、光硬化型樹脂は、アクリルモノマーの少なくとも1種を含有することができる。このような光硬化型樹脂は、光重合開始剤の触媒作用によって、それに含まれているアクリルモノマーの2重結合を破壊し、架橋反応を引き起こすことによって、良好に硬化されたハードコーティングが形成されるようにする機能を担う。
【0036】
このような光硬化型樹脂(c)は、1〜3官能のアクリルモノマーの少なくとも1種及び4官能以上のアクリルモノマーの少なくとも1種を含有することが好ましい。
例えば、4官能以上のアクリルモノマーのみを使用すると、ハードコーティングの速い硬化速度及び高い硬度特性を得ることができるが、ハードコーティングの耐衝撃性、耐摩耗性及び柔軟性などが低下してしまう。一方、1〜3官能のアクリルモノマーのみを使用すると、ハードコーティングの柔軟性向上には寄与するが、ハードコーティングの硬化速度が遅くなり、かつ、硬度特性が低下してしまう。そこで、光硬化型樹脂に、4官能以上のアクリルモノマー及び1〜3官能のアクリルモノマーを共に含有させることによって、ハードコーティングの耐衝撃性、柔軟性、剥離性、硬度特性及び硬化特性などの諸特性を最適化することができる。これら特性は、ハードコーティング形成後に高密度の架橋結合と低密度の架橋結合とが共存し、ハードコーティングが耐久性と柔軟性を同時に有することに起因する。
【0037】
ここで、1〜3官能のアクリルモノマーは、特に制限されず、従来から知られた任意の1〜3官能のアクリルモノマーを使用すればよい。
例えば、1官能アクリルモノマーとして、ブチルアクリレート、アリルメタクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキ
シエチルアクリレートなどを使用することができ、2官能アクリルモノマーとして、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート(BGMDA)、トリプロピレングリコールジアクリレート(TPGDA)などを使用することができる。また、3官能アクリルモノマーとして、トリメチロルプロパントリアクリレート(TMPTA)またはペンタエリスリトルトリアクリレート(PETA)などを使用することができる。
【0038】
また、前記4官能以上のアクリルモノマーとしては、例えば、ジペンタエリスリトルヘクサアクリレート(DPHA)などを使用することができるが、これに限定されず、任意の4官能アクリルモノマーを使用しても良い。
【0039】
一方、上記光硬化型樹脂は、他のアクリルモノマーとして、さらにフッ素系アクリルモノマー、ウレタンアクリルモノマーまたはオリゴマーなどを含むことができる。これによって、ハードコーティング組成物の粘度を適度に調節したり、ハードコーティングの汚染防止機能を向上させることができる。
【0040】
また、前記ハードコーティング組成物は、光重合開始剤(d)が配合されている。この光重合開始剤は、紫外線を受けて自由ラジカルを生成し、この自由ラジカルの作用によって前記光硬化型樹脂に含まれたアクリルモノマーの2重結合を破壊し、架橋反応を引き起こす役割を担う。
【0041】
この光重合開始剤(d)は、特に制限されず、従来から知られた任意の光重合開始剤を使用すればよく、例えば、1-ヒドロキシ-シクロへキシル-フェニルケトン(Irgac
ure−184)、α,α-ジメトキシ-α-ヒドロキシアセトフェノン(Darocur
e 1173)、1-ヒドロキシ-シクロへキシル-フェニルケトベンゾフェノンのブレンドなどのベンゾフェノン系物質、または2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパンな
どを使用することができる。
【0042】
また、前記ハードコーティング組成物は、有機溶媒(e)が配合されている。この有機溶媒は、上述の各構成成分、特に、光硬化型樹脂などを溶解させてハードコーティング組成物の流れ性を調節する役割を担う。
【0043】
この有機溶媒(e)は、ハードコーティング組成物のコーティング性及び乾燥速度や、製品の外観または生産収率などを考慮し、4種類未満の適切な有機溶媒を当業者が好適に選択し、混合使用することができる。
【0044】
例えば、この有機溶媒(e)として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノーマル-プロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチルセロソルブ、メチルセロソ
ルブ、ブチルセロソルブ、酢酸ブチル、酢酸エチル、ジアセトンアルコール、メチルエチルケトン、プロピレングリコールイソプロピルアルコール及びエチレングリコールイソプロピルアルコールよりなる群から選ばれた一つ以上の溶媒を使用することができる。
【0045】
一方、上記ハードコーティング組成物は、さらに光安定剤が配合されていてもよい。この光安定剤は、ハードコーティング組成物の光安定性を向上させ、ハードコーティング組成物が有する特性の経時変化を防ぐ役割を担う。
【0046】
ここで、光安定剤は、上記の光重合開始剤の種類に合う光安定剤を、当業者が好適に選択し、使用すればよい。例えば、光重合開始剤がα,α-ジメトキシ-α-ヒドロキシアセ
トフェノン(Darocure 1173)のようなベンゾフェノン系物質である場合、
光安定剤は、ビス-(1-オクチロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)(Tinubin 123)などを使用することができ、それ以外にも従来から使われてき
た任意の光安定剤のうち、光重合開始剤の種類に合わせて選択されたものを使用しても良い。
【0047】
ただし、光重合開始剤によっては、その固有の機能に加えて光安定剤の機能を兼ねるものもある。この種の光重合開始剤が使用された場合には、前記光安定剤を追加しても作用上特別な変化がないので、別途光安定剤を添加しなくても良い。
【0048】
また、上記ハードコーティング組成物は、上述の各構成成分に加えて、必要に応じて、さらにレベリング剤、紫外線吸収剤または界面活性剤など、当業者に知られた添加剤が配合されていてもよい。
【0049】
そして、上記ハードコーティング組成物は、25℃における粘度が5〜100cPであることが好ましい。この粘度範囲にすると、該ハードコーティング組成物の流れ性を向上させ、ハードコーティング形成時の作業性を改善することができる。
【0050】
また、本発明のハードコーティング組成物は、銀ナノ微粒子ゾル1〜10重量%と、伝導性フィラー0.01〜10重量%と、光硬化型樹脂10〜50重量%と、光重合開始剤1〜5重量%、及び残量の有機溶媒が配合されているのが好ましい。
【0051】
この場合、前記ハードコーティング組成物は、全体組成物の重量を基準に、さらに光安定剤0.02〜1.0重量%が配合されていてもよい。
ハードコーティング組成物の各構成成分をこのような配合比にすると、ハードコーティングの坑菌特性、汚染防止機能、帯電防止特性、表面抵抗、硬度、透明度及び耐スクラッチ性などの諸般特性が最適化し、また、ハードコーティング形成時の作業性も改善される。
【0052】
上記のハードコーティング組成物は、各構成成分を上記のような所定の配合比で混合することによって製造できる。
さらに、本発明は、上記各構成成分を上記のような所定の配合比で混合することによって、上記のハードコーティング組成物を製造する方法を提供する。
【0053】
一方、本発明は、上記ハードコーティング組成物を透明プラスチック基材に塗布する段階と、該透明プラスチック基材を乾燥する段階と、該透明プラスチック基材に紫外線を照射する段階と、を含むハードコーティング組成物のコーティング方法を提供する。
【0054】
このようなコーティング方法は、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、メチルメタクリレート-スチレン共重合体樹脂、またはABS
(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂等からなる任意の透明プラスチック基材に適用することができる。また、このような透明プラスチック基材は、用途によって0.4〜6mm厚とすることができる。
【0055】
一方、上記コーティング方法では、前記組成物の塗布段階前に、まず透明プラスチック基材を十分に洗浄し、紫外線照射機で予熱することで、残留する油分と異物などを除去することができる。
【0056】
しかる後に、上記のハードコーティング組成物の粘度を25℃で5〜100cPの範囲に調節し、このハードコーティング組成物を前記透明プラスチック基材に塗布する。この組成物の塗布段階では、ディップコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティングまたはグラビアコーティングなどの塗布方法を使用する。
【0057】
ハードコーティング組成物を塗布した後には、例えば、40〜80℃の温度下で1〜30分間前記透明プラスチック基材を乾燥したり、IR照射によってヒーティングすることで、前記塗布されたハードコーティング組成物の有機溶媒を除去する。
【0058】
その後、照射しようとする紫外線の波長領域によって高圧水銀ランプまたはメタルハライドランプなどを用い、例えば300〜800mJ/cm2の光量で紫外線を照射する。
このときに、光重合開始剤は紫外線を受けて自由ラジカルを生成し、このような紫外線ラジカルが、アクリルモノマーの各官能基に含まれた2重結合を破壊し、架橋反応を引き起こす。これによって、前記透明プラスチック基材の表面で前記ハードコーティング組成物が硬化し、ハードコーティングが形成される。
【0059】
なお、本発明は、上記ハードコーティング組成物のコーティング方法で製造されるハードコーティング透明シートを提供する。このハードコーティング透明シートの一例を、図2に概略的に示す。
【0060】
図2に示すように、本発明のハードコーティング透明シートは、透明プラスチック基材21上にハードコーティングが形成されており、該ハードコーティングは、アクリルモノマー22、銀ナノ微粒子ゾル23及び伝導性高分子24を含む。
【0061】
このようなハードコーティング透明シート及びその表面のハードコーティングは、優れた坑菌特性、汚染防止機能及び帯電防止特性を持つと同時に、より向上した表面抵抗、透明度、硬度及び耐スクラッチ性などの諸般特性を示す。したがって、前記ハードコーティング透明シートは、LCDパネル、PDPパネル、電界発光ディスプレイまたは電界放射型ディスプレイのような各種ディスプレイ装置の保護パネルや、携帯電話端末機の内外部パネルまたは医療設備の保護パネルなどに広く適用可能である。
【0062】
以下、本発明の好適な実施例を挙げて、本発明の構成及び作用をより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明の好ましい例示として提示するものであり、本発明を限定するためのものではない。
【0063】
<実施例1>
光を遮蔽するプラスチックビーカー中に、まずアルコール系ポリ(3,4-エチレンジ
オキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)(PEDT/PSS)伝導性高分子
溶液を添加し、激しく撹はんしながら、有機溶媒としてメタノール、イソプロパノール、ノーマル-プロパノール及びメチルセロソルブを添加した後、常温で2時間程度撹はんし
た。こうして製造された中間溶液に2-ヒドロキシエチルアクリレート(2-HEA:(株)日本触媒製)、ジペンタエリスリトルヘキサアクリレート(DPHA:Satomer社製)、及びフッ素系アクリルモノマー(大日本インキ化学工業(株)製)を添加して約2時間程度撹はんした。
【0064】
次いで、前記中間溶液とは別に、平均粒径1〜10nmの銀微粒子を、前記有機溶媒に分散した。分散方法として、超音波分散またはミーリング方法を用いた。この分散液を前記有機溶媒で希釈し、前記中間溶液に添加した。最後に、光重合開始剤(Darocure 1173)及び光安定剤(Tinubin 123)を前記中間溶液に添加し、1時間程度撹はんして均一に分散した後、4.5〜10ミクロンフィルターを用いてフィルタリングを実施し、溶液中の異物などを除去して最終的にハードコーティング組成物を得た。
【0065】
この場合、前記ハードコーティング組成物中に含まれた各構成成分の含量比は、下記表1に示す通りであり、表1において各成分の含量比単位は重量%である。
一方、前記組成物を1.0mm厚のポリメチルメタクリレート(PMMA)透明プラスチック基材上にフローコーティング方法で塗布し、約60℃〜75℃で約5分間高圧水銀ランプ(High pressure mercury lamp)を用いて乾燥させ、コーティング液中の有機溶媒を完全に除去した後に、約600mJ/cm2光量の紫外線を照射してハードコーティン
グ透明シートを得た。
【0066】
<実施例2〜7及び比較例1>
ハードコーティング組成物の組成を下記の表1に示す通りにした以外は、実施例1と同じ方法でハードコーティング組成物及びハードコーティング透明シートを得た。
【0067】
<比較例2>
帯電防止機能のための成分としてATO(Antimon Tin Oxide)ゾルを用いた市販のハードコーティング組成物を使用し、実施例1と同じ方法でハードコーティング透明シートを得た。
【0068】
この市販のハードコーティング組成物は、帯電防止機能のための導電体として金属酸化物のATO(Antimon Tin Oxide)ゾルを含み、光硬化型樹脂として2-
ヒドロキシエチルアクリレート(2-HEA)及びジペンタエリスリトルヘキサアクリレ
ート(DPHA)を含み、光開始剤としてDarocure 1173を含み、有機溶媒
としてメタノール、イソプロパノール、ノーマル-プロパノール及びメチルセロソルブを
含むものであった。
【0069】
【表1】

【0070】
*Baytron P:ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホナート)
BAYER社(エタノール溶媒に分散された青色の液体)
*2-HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート((株)日本触媒)
*DPHA:ジペンタエリスリトルヘキサクリルレート(Satomer社)
*D-3063:フルオルアクリルモノマー(大日本インキ化学工業(株))
*IPA:イソプロパノール、MC:メチルセロソルブ、NPA:n-プロパノール
*Darocure 1173:α,α-ジメトキシ-α-ヒドロキシアセトフェノン
*Tinubin 123:ビス-(1-オクチロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)
(シバガイギ社)
*AMS-3000、AMS-5000:銀ナノ微粒子ゾル
<試験例>
上の実施例1〜7と比較例1及び2により、それぞれ製造されたハードコーティング透明シートとその表面のハードコーティングの物性を評価し、その結果を下記表2に示す。それぞれの物性評価方法は次の通りである。
[物性評価方法]
・坑菌機能:黄色ブドウ糖球菌、大腸菌を24時間培養した後、殺菌能力を比較評価した。
・表面抵抗:表面抵抗器(三菱ケミカル、Hiresta)を用いて、単位面積当たり表面抵抗
を測定した。
・光透過率:紫外線可視分光計を用いて評価した。
・鉛筆硬度:ASTMD 3502(鉛筆硬度テスト機、トーヨー精機(Toyoseki))方法によって評価した。
・耐スクラッチ性:スチールウール(Steel Wool)#0000、1Kg荷重10回往復実験によって評価した。
・汚染防止機能:油性インクマーカー液をハードコーティング透明シート上に落として接触させ、油性インクマーカーの液滴の表面と前記ハードコーティング透明シートの表面がなす角度を測定することによって評価した。
【0071】
接触角が大きいほど、油性インクマーカー液が前記ハードコーティング透明シート上に広がりにくく、汚染防止機能に優れることを示す。
【0072】
【表2】

【0073】
上記表2から、実施例1〜7によるハードコーティング透明シート及びその表面のハードコーティングは、銀ナノ微粒子ゾルを使用しない比較例1及び2に比べて、顕著に優れた坑菌特性を示すことが確認された。
【0074】
また、ポリチオフェン系高分子を伝導性高分子として使用した、実施例1〜7によるハードコーティング透明シート及びその表面のハードコーティングは、ATOを使用した比較例2に比べて、大気中の水分または外部からの異物などを効果的に遮断する優れた汚染防止機能を示し、表面抵抗、透明度、硬度及び耐スクラッチ性などの諸般特性にも優れていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】従来技術によるハードコーティング組成物でコーティングされたハードコーティング透明シートの断面概略図である。
【図2】本発明の一実施の形態によるハードコーティング組成物でコーティングされたハードコーティング透明シートの断面概略図である。
【図3】本発明の一実施の形態によるハードコーティング組成物で使用された銀ナノ微粒子ゾルの微粒子形状を概略的に示す図である。
【符号の説明】
【0076】
11 透明プラスチック基材
12 アクリルモノマーまたはオリゴマー
13 金属酸化物
21 透明プラスチック基材
22 アクリルモノマー
23 銀ナノ微粒子ゾル
24 伝導性高分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)銀ナノ微粒子ゾルと、
(b)伝導性フィラーと、
(c)光硬化型樹脂と、
(d)光重合開始剤と、
(e)有機溶媒と
を配合してなることを特徴とするハードコーティング組成物。
【請求項2】
前記(a)銀ナノ微粒子ゾルが、1〜10nmの平均粒径を有する銀微粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載のハードコーティング組成物。
【請求項3】
前記(a)銀ナノ微粒子ゾルが、0.1〜10重量%の濃度で銀微粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載のハードコーティング組成物。
【請求項4】
前記(a)銀ナノ微粒子ゾルが、シリコン系化合物でコーティングされた銀微粒子を含有することを特徴とする請求項1に記載のハードコーティング組成物。
【請求項5】
前記(b)伝導性フィラーが、ポリアニリン系、ポリピロール系及びポリチオフェン系高分子よりなる群から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載のハードコーティング組成物。
【請求項6】
前記(c)光硬化型樹脂が、1〜3官能のアクリルモノマーのうち少なくとも1種、及び4官能以上のアクリルモノマーのうち少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1に記載のハードコーティング組成物。
【請求項7】
(a)銀ナノ微粒子ゾル1〜10重量%と、
(b)伝導性フィラー0.01〜10重量%と、
(c)光硬化型樹脂10〜50重量%と、
(d)光重合開始剤1〜5重量%と、
(e)残量の有機溶媒と
を配合してなることを特徴とする請求項1に記載のハードコーティング組成物。
【請求項8】
さらに光安定剤0.02〜1.0重量%を配合してなることを特徴とする請求項7に記載のハードコーティング組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のハードコーティング組成物を透明プラスチック基材に塗布する段階と、
前記透明プラスチック基材を乾燥する段階と、
前記透明プラスチック基材に紫外線を照射する段階と
を備えることを特徴とするハードコーティング組成物のコーティング方法。
【請求項10】
前記透明プラスチック基材は、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、メチルメタクリレート-スチレン共重合体樹脂またはABS樹脂
からなることを特徴とする請求項9に記載のハードコーティング組成物のコーティング方法。
【請求項11】
前記透明プラスチック基材を乾燥する段階が、40〜80℃の温度下で1〜30分間乾燥することを特徴とする請求項9に記載のハードコーティング組成物のコーティング方法。
【請求項12】
請求項9に記載のコーティング方法で製造されることを特徴とするハードコーティング透明シート。
【請求項13】
(a)銀ナノ微粒子ゾルと、
(b)伝導性フィラーと、
(c)光硬化型樹脂と、
(d)光重合開始剤と、
(e)有機溶媒と
を配合することを特徴とするハードコーティング組成物を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−182538(P2007−182538A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216036(P2006−216036)
【出願日】平成18年8月8日(2006.8.8)
【出願人】(500005066)チェイル インダストリーズ インコーポレイテッド (263)
【Fターム(参考)】