垂直磁気記録媒体とその製造方法および装置、並びに磁気記録装置
【課題】裏打ち膜表面の平坦化による低周波ノイズの低減、裏打ち膜全体の単磁区化によるスパイクノイズの抑制、および製造プロセスの簡素化を図った垂直磁気記録媒体とその好適な製造方法および製造装置、並びに磁気記録装置を提供する。
【解決手段】軟磁性裏打ち層と、該軟磁性裏打ち層上に形成され、その磁化容易軸が膜面の垂直方向に配向された強磁性体からなる垂直記録層とを備える垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性裏打ち層は、軟磁性材料中に反強磁性粒子32(または硬質磁性粒子)を分散して含む膜とし、この膜は、基体上に、例えば無電界複合めっき法により、めっき軟磁性膜31中に反強磁性粒子32(または硬質磁性粒子)を分散共析させて成膜し、所定の方向に磁化Mを形成してなるものとする。
【解決手段】軟磁性裏打ち層と、該軟磁性裏打ち層上に形成され、その磁化容易軸が膜面の垂直方向に配向された強磁性体からなる垂直記録層とを備える垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性裏打ち層は、軟磁性材料中に反強磁性粒子32(または硬質磁性粒子)を分散して含む膜とし、この膜は、基体上に、例えば無電界複合めっき法により、めっき軟磁性膜31中に反強磁性粒子32(または硬質磁性粒子)を分散共析させて成膜し、所定の方向に磁化Mを形成してなるものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体とその製造方法および製造装置、並びに磁気記録装置に係り、特に優れた記録再生特性を実現可能な垂直磁気記録媒体の構成とその製造方法に関する。本発明に係る垂直磁気記録媒体は、ハードディスク、磁気テープ等に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
磁気記録の高密度化を実現する技術として、従来の長手磁気記録方式に代えて、垂直磁気記録方式が注目されつつある。垂直磁気記録方式は、従来の長手磁気記録方式に比べて、高密度で高い熱安定性を有するとともに、高い保磁力の記録媒体にも十分書き込みが可能であるという利点があり、長手磁気記録方式の記録密度の限界を超えることが可能となるからである(例えば、特許文献1または2参照)。
【0003】
特許文献1の従来の技術の項によれば、下記を記載している。即ち、「前述のような垂直記録方式に適用される垂直磁気記録媒体として、基体と垂直記録層との間に、更に面内方向に磁化しやすいFeNi等の軟磁性膜を設けた2層膜媒体が提案されている(S.Iwasaki, Y.Nakamura and K.Ouchi : IEEE Trans. Magn. MAG-15 (1979) 1456参照)。また、記録時および再生時における磁束の流れを有限要素法で解析した結果、軟磁性膜と垂直記録層とからなる2層膜媒体は、垂直記録層のみからなる単層媒体に比べて、より大きな保磁力の垂直記録層に書き込むことができ、再生電圧の増加も図れること、およびこの軟磁性膜の存在は、磁気ヘッドの主磁極から発生する磁束が主磁極先端の空間内で高密度に収束されるため、主磁極付近の磁界の増加をもたらすことが記載されている(岩崎俊一、田辺信二:電子通信学会論文誌 J66-C (1983) 740参照)。」
さらに、特許文献1は、上記のような2層膜媒体における下記の問題点を記載している。即ち、「上記のような2層膜媒体においては、軟磁性膜としてパーマロイ系の結晶質材料やCoZrNb等の非晶質材料が用いられてきた。パーマロイ系の結晶質材料においては、局所的な磁化の分散(スキュー)の指標である構造因子Sが著しく小さい結果、軟磁性膜中に多数の180度磁壁構造が形成されるため、この磁壁からの漏れ磁束に伴うスパイクノイズが多発するという問題点がある。さらに結晶質スパッタリング薄膜では、結晶粒の島状初期成長モードに起因して薄膜表面に凹凸が形成されてしまうため、この凹凸部に起因する磁極からの漏れ磁束により低周波ノイズが発生するという問題点も生じている。一方、非晶質材料を用いた軟磁性膜においては、飽和磁化が小さく軟磁性膜の膜厚が大きくなるという問題点があった。このように、2層膜媒体においては、垂直記録層である強磁性体層の10倍以上の膜厚を有する軟磁性膜に起因するノイズが大きな問題となっていた。また、この軟磁性膜の成膜時間の短縮、あるいは媒体全体の薄膜化の観点から、軟磁性膜に用いるための高飽和磁化材料の開発が望まれていた。」
また、「最近では低ノイズの軟磁性膜として、成膜後の非晶質膜に熱処理を施し、内部に微細な結晶粒を析出させた微結晶析出型の軟磁性材料が提案されている(Atsushi Kikukawa, Yukio Honda, Yosiyuki Hirayama, and Masaaki Futamoto:IEEE Trans. Magn., Vol 36, N0.3, SEP(2000) 2402参照)。しかしながら、FeTaCなる組成を有するこの微結晶析出型軟磁性材料には、耐食性に劣るという問題があった。また、FeTaC軟磁性膜ではC濃度により軟磁気特性を制御できることが知られているが、C組成を変化させる場合C含有量の異なるターゲットを用意しなければならず、軟磁気特性の制御が容易でないという問題もある。」旨、記載している。
【0004】
特許文献1は、上記の問題点を解決するために、下記のような発明を開示する。即ち、「低ノイズで薄膜化が可能であり、耐食性に優れ、かつ、軟磁気特性の制御性に優れた軟磁性裏打ち層を備え、高記録密度の情報の記録再生が可能な垂直磁気記録媒体とその製造方法を提供すること」を目的とし、「軟磁性裏打ち層と、該軟磁性裏打ち層上に形成されて主記録層を成し、その磁化容易軸が主として膜面の垂直方向に配向された強磁性体からなる垂直記録層とを備える垂直磁気記録媒体であって、前記軟磁性裏打ち層が、FeTaNなる組成を有する軟磁性材料からなることを特徴とする垂直磁気記録媒体」を開示する。
【0005】
また、前記特許文献1の改良技術に関わり、低温プロセスで、更なる特性の向上を図ることを目的として、特許文献2は、「軟磁性裏打ち層と、該軟磁性裏打ち層上に形成された垂直記録層とを備えてなる垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性裏打ち層は、FeSiAlNなる組成を有する軟磁性材料からなることを特徴とする垂直磁気記録媒体」を開示する。
【0006】
次に、前記技術の改良に関わる各種非特許文献について述べる。非特許文献1は、前記特許文献2に開示されたFeSiAlNなる組成を有する軟磁性材料に関して、主にノイズ特性や磁気的層間結合の利用等について研究した結果を開示する論文である。論文の内容の詳細は省略するが、特に、ノイズに関して、非特許文献1は、「FeSiAlN材料は窒素添加にともなう微結晶化の進行とともに、軟磁性裏打ち層SUL(SUL:Soft-magnetic UnderLayer)ノイズが低減されるため、低温プロセス対応裏打ち膜として有望であることがわかった。尚、SULノイズが低減された試料であっても、エンベローブ(ディスク1周分の再生ヘッド出力電圧の時間プロファイル)にはインパルス状のスパイクノイズの発生が認められることから、本材料を用いて裏打ち膜を作製する場合、何らかのスパイクノイズ対策が必要である」旨を記載している。
【0007】
次に、非特許文献2について述べる。非特許文献2は、磁気的層間結合を利用した前記スパイクノイズ対策に関わる論文である。本件発明に関わり、非特許文献2の記載を一部引用すると下記のとおりである。
【0008】
即ち、「垂直二層膜媒体のノイズには、ノイズパワースペクトルとシステムノイズとの差分として評価される媒体ノイズと、エンベローブ中に突発的に発生するスパイクノイズが指摘されており、いずれも低減させることが課題である。媒体ノイズの抑制には、軟磁性裏打ち層(SUL)の結晶粒径を低減し、周期的な漏洩磁束の発生源となる表面の凹凸を抑制することが重要である。このような観点から、スパッタリングプロセスでSULを作製する場合、軟磁性材料としては微結晶やアモルファス材料が用いられている。また、スパイクノイズの抑制には、HDD動作環境中で想定される10 Oe程度の浮遊磁界雰囲気下においてもSUL中にブロッホ磁壁を形成させないことが有効である。近年浮遊磁界耐性向上のために、磁気的層間結合を利用して交換結合磁界Hexを大きく発現させ、残留磁化付近でブロッホ磁壁の形成を抑制する方法が検討され、注目されている。」
上記観点から、非特許文献2においては、主たる軟磁性層として微結晶またはアモルファス材料を用いて、磁気的層間結合を有する積層SULを作製し、その材料課題について種々論じている。図10および図11は、非特許文献2において検討された磁気的層間結合を有する裏打ち膜の層構成(各図のa図)とその磁化曲線の模式図(各図のb図)を示す。
【0009】
図10 は強磁性層 (FM:Ferro Magnetic layer)間に非磁性層(NM:Non Magnetic layer)を挿入し、RKKY的層間結合を用いて零磁場状態近傍で上層と下層の強磁性層の磁化を反平行配列させる方法を示す。この場合には、図10(b)の磁化曲線に示すように、残留磁化は0 Tとなっており、零磁場近傍では上層と下層のFM層の磁化Mが反平行配列している。なお、図10(b)において、Hexは、交換結合磁界である。
【0010】
図11は反強磁性層(AFM:Anti Ferro Magnetic layer)との交換結合によりFM層に一方向磁気異方性を発現させ、零磁場状態近傍でFM層の磁化をディスク径方向に固定させる方法を示す。この場合には、図11(b)の磁化曲線に示すように、MHループは同方向にHexだけシフトしている。
【0011】
非特許文献2においては、これら2種類の方法により作製した積層SULについて検討し、概ね、下記のような結論を開示している。即ち、「非磁性層にRuを用いたFM/NM積層SULでは、交換結合の1stピーク磁界Hexは2.6 Oeであり、層間結合定数Jは0.015 erg/cm2と非常に小さい値を示した。また、CoZrNb (150 nm)/Ru (0.7 nm)/CoZrNb (150 nm) なる層構成のFM/NM積層SULにおいては、Ru層へのO2添加によりHexは7 Oe (Jは0.035 erg/ cm2) へと向上する。さらに、AFM/FM積層SULでは、層間に働く一方向異方性定数JkはFM層膜厚の増加にともない減少する。FM層の軟磁気特性の制御により、このJkの減少をいかに抑制するかが課題となる。」旨の結論を開示している。
【0012】
次に、非特許文献3について述べる。非特許文献3は、前記図10に示すような強磁性/非磁性(FM/NM)積層SULについて、交換結合磁界Hexを増大させる研究結果に関わる論文である。詳細は省略するが、「CoZrNb (50 nm)/Co90Fe10 (0.5 nm)/Ru (0.7 nm)/Co90Fe10 (0.5 nm)/CoZrNb (50 nm) なる層構成により、31 Oe (Jは0.16 erg/ cm2) の交換結合磁界が得られた。」旨を報告している。
【0013】
次に、非特許文献4について述べる。非特許文献4は、前記非特許文献1〜3とは、観点を異にし、「めっき軟磁性裏打ち層の磁気特性と単磁区化」について論じている。本件発明に関わり、非特許文献4の記載を一部引用すると下記のとおりである。
【0014】
即ち、「垂直磁気記録方式では、記録磁界の収斂性向上のために、単磁極ヘッドに対峙する媒体側にヘッド系磁気回路の一部として機能する軟磁性裏打ち厚膜 ( ( 100 nm) を設ける必要がある。一方、軟磁性裏打ち膜からのスパイクノイズを抑制するために現状では、磁気的層間結合を用いた磁区構造制御手法の適用が必須と考えられつつある が、これを実現する反強磁性層および非磁性層の厚さは、たかだか数nm程度である。このように、垂直磁気記録媒体は、膜厚の二桁以上異なる機能性薄膜の積層構成となるため、スパッタリング法に代表されるドライプロセスのみによる量産プロセスの構築ではプロセスメリットが活かせず、低コスト化の点で問題が残る。」
そこで、非特許文献4においては、「100 nm以上の軟磁性裏打ち膜については構造体とみなし、その機能を基板に含有させ、数10nm以下の薄い層のみをドライプロセスで形成させることが実用上最も有利であると考え、この観点から、主たる軟磁性裏打ち層を簡便で安価なウェットプロセス(めっき)により作製し、かつ、めっき軟磁性膜上にブロッホ磁壁抑制のための反強磁性層をドライプロセスにより設けた、いわゆるtop typeピンニング構成のスパイクノイズフリー裏打ち層の検討を進め、このめっき軟磁性膜付Al基板を用いたtop type 強磁性/反強磁性(Ferro Magnetic/Anti Ferro Magnetic:FM/AFM)積層裏打ち膜の単磁区化について検討を行った結果」を報告している。
【0015】
図9は、非特許文献4において実験した、めっき軟磁性膜付Al基板を用いたtop type FM/AFM積層体の構成を示す。非特許文献4によれば、「図9におけるめっき軟磁性膜を形成するウェットプロセスには、短時間で厚膜が形成可能である無電解めっき法を用いた。基体には、硬度確保のためのアモルファスNiP層(厚さ:12 mm,ビッカース硬さ:300 Hv)を無電解めっきした2.5インチAlディスクを用いた。軟磁性材料には、NiPと同様の施設・廃液設備が使用可能であるNiFeP(100 - 500 nm, Bs= 0.9 T, Hc= 2 - 3 Oe)を選択し、Al/NiP基体上に活性化処理を施すことなく成膜した。」旨、記載されている。
【0016】
非特許文献4における詳細は省略するが、まとめとして、下記が報告されている。即ち、「(1)めっきNiFeP軟磁性膜付Al/NiP基板の耐熱性は、アモルファスNiP層の結晶化温度の280°Cである。(2)Top typeピンニング層構成により、めっき軟磁性膜に大きな一方向磁気異方性を誘導するためには、軟磁性緩衝層の付与ならびにドライエッチングプロセスの導入が肝要である。(3)めっき法にて作製した軟磁性膜を用いても、スパッタ法のみで作製した軟磁性膜と同等の交換結合磁界を誘導でき、零磁場状態においてディスク前面にわたって裏打ち膜の単磁区化が図られる。」
【特許文献1】特開2003−99912号公報
【特許文献2】特開2003−288713号公報
【非特許文献1】斉藤他,「高飽和磁化かつ低SULノイズ特性導出のための窒素添加Fe-Si-Al-N微結晶軟磁性材料の検討」,電子情報通信学会技術報告,MR2003-2,p7-12 (2003)
【非特許文献2】斉藤他,「磁気的層間結合を利用した高浮遊磁界耐性化裏打ち膜の材料課題」,日本応用磁気学会誌,27,p224-229 (2003)
【非特許文献3】斉藤他,「RKKY的層間結合を有する積層裏打ち膜の交換結合磁界の増大」,電子情報通信学会技術報告,MR2003-11,p1-6 (2003)
【非特許文献4】斉藤他,「Al/NiPディスク上に作製しためっき軟磁性裏打ち層の磁気特性と単磁区化」,日本応用磁気学会誌,,28,p289-294 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記のように、軟磁性裏打ち層を備えた垂直磁気記録媒体の実用化においては、(1)低周波ノイズの低減、(2)スパイクノイズの抑制、(3)製造プロセスの簡素化等が要請される。前記特許文献1,2、および非特許文献1〜4は、本願発明者等が、上記要請に応えるべく研究してきた技術成果を開示するものであるが、実用化の要請に応えるためには、媒体特性のさらなる向上や量産化に適した製造プロセスの構築が必要である。
【0018】
上記低周波ノイズの低減を図るためには、裏打ち膜の表面平坦化が必要である。また、スパイクノイズの抑制を図るためには、ブロッホ磁壁の抑制、そのためには、裏打ち膜全体の単磁区化が必要である。上記ノイズ特性の改善は、前記非特許文献の技術により、ある程度なされてきているが、まだ充分とはいえない。さらに、前記各文献に開示された製造プロセスは、まだ作成工程数が多くかつ複雑であり、製造歩留まりも考慮すると、量産化に適した製造プロセスとはいえない。
【0019】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、この発明の課題は、裏打ち膜表面の平坦化による低周波ノイズの低減、裏打ち膜全体の単磁区化によるスパイクノイズの抑制、および製造プロセスの簡素化を図った垂直磁気記録媒体とその好適な製造方法および製造装置、並びに磁気記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題は、以下により達成される。即ち、軟磁性裏打ち層と、該軟磁性裏打ち層上に形成され、その磁化容易軸が膜面の垂直方向に配向された強磁性体からなる垂直記録層とを備える垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性裏打ち層は、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散して含む膜とすることを特徴とする(請求項1)。
【0021】
また、前記請求項1の発明の実施態様としては、下記請求項2ないし6の発明が好ましい。即ち、前記請求項1に記載の垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性裏打ち層は、膜面内の径方向,円周方向等の所定の方向に磁化容易軸を形成してなることを特徴とする(請求項2)。
【0022】
さらに、前記請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性材料は、NiFeP合金またはNiFeB合金とすることを特徴とする(請求項3)。また、前記請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体において、前記反強磁性粒子は、MnIr合金粒子,MnPt合金粒子またはMnNi合金粒子とすることを特徴とする(請求項4)。さらにまた、前記請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体において、前記硬質磁性粒子は、Co粒子,FePt合金粒子またはCoPt合金粒子とすることを特徴とする(請求項5)。
【0023】
また、前記請求項1ないし5のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性裏打ち層は、膜厚100nm〜500nmの範囲において、表面粗さ0.5nm以下の平坦性を有することを特徴とする(請求項6)。
【0024】
前記垂直磁気記録媒体の発明によれば、詳細は後述するが、前記軟磁性裏打ち層が、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散してなる単層の膜からなるので、層構成が簡素化される。また、この単層の裏打ち層は、下記のようにして、層全体が容易に単磁区化できる。軟磁性材料中に反強磁性粒子を分散させる場合には、反強磁性粒子と、軟磁性材料(強磁性材料)との界面において交換結合が行われる。また、軟磁性材料中に反強磁性粒子に代えて硬質磁性粒子を分散させる場合にも、反強磁性粒子の場合と同様に交換結合が行われる。
【0025】
例えば、径方向に磁化容易軸を形成する方法に関し、3種類のケースについて以下に述べる。
1)まず、ディスク径方向外向きの放射状印加磁界下でめっきする場合について述べる。この場合、軟磁性材料はその磁気モーメントを径方向外向きに向けながら堆積される。その状態で反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)を分散共析させると、めっき膜全体の磁化容易方向が、ディスク径方向外向きとなるように反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)が析出する結果、軟磁性材料と粒子の界面に交換結合が働き、めっき成膜だけで一方向異方性の誘導ができる。なお、上記においては、ディスク径方向外向きの例に関して述べたが、一方向異方性の場合、ディスク径方向外向きでもディスク径方向内向きでも等価であるので、ディスク径方向内向きの場合にも、下記のケースを含めて同様である。
2)次に、印加磁界なしで軟磁性材料中に反強磁性粒子を分散共析させる場合について述べる。この場合には、各粒子の交換結合の方向が揃っていないので、めっき成膜後に反強磁性材料のブロッキング温度以上まで昇温して磁界中冷却を施すことにより、ディスク径方向への一方向異方性の誘導が可能となる。
3)次に、印加磁界なしで軟磁性材料中に硬質磁性粒子を分散共析させる場合について述べる。この場合は、反強磁性粒子と同様に、あたかも一方向異方性が発現しているようにして全体の単磁区化を図る必要がある。そのため、ディスク径方向外向きの強い放射状磁界印加により磁気モーメントの方向をディスクの径方向外側向きに揃える。この操作により、軟磁性材料と硬質磁性粒子の界面では、硬質磁性粒子の磁気モーメントと軟磁性材料の磁気モーメントとが、界面を挟んで交換結合する。実使用に際しては、硬質磁性粒子の磁化は反転しないような印加磁界範囲とする。
【0026】
従って、前記の本発明により、層構成が簡素にも拘らず、層全体の単磁区化により、スパイクノイズを抑制することができる。さらに、この単層裏打ち層は、後述する製造方法のように、無電界メッキにより形成できるので、製造方法も簡略化でき、かつ裏打ち膜表面の平坦化も容易となって、低周波ノイズの低減を図ることも容易となる。
【0027】
次に、本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法としては、下記請求項7ないし10の発明が好ましい。即ち、基体上に、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散して含む軟磁性裏打ち層を成膜する工程と、前記軟磁性裏打ち層の成膜後に前記基体を磁界中に配置することにより、前記軟磁性裏打ち層に所定の方向の磁化容易軸を誘導する工程と、前記軟磁性裏打ち層上に強磁性体を含む垂直記録層を成膜する工程と、を含む垂直磁気記録媒体の製造方法であって、前記軟磁性裏打ち層を成膜する工程は、無電界めっき処理により成膜する工程とすることを特徴とする(請求項7)。
【0028】
また、前記請求項7に記載の製造方法において、前記無電界めっき処理により成膜する工程は、軟磁性材料を形成する原材料を含むめっき浴中に、前記反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散させた状態で基体を浸漬し、めっき処理する工程とすることを特徴とする(請求項8)。さらに、前記請求項7に記載の製造方法において、前記無電界めっき処理により成膜する工程は、基体のめっき浴への浸漬を、軟磁性材料を形成する原材料を含むめっき浴と、反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散させためっき浴との間を交互に行うことにより、めっき処理する工程とすることを特徴とする(請求項9)。
【0029】
また、前記請求項7ないし9のいずれか1項に記載の製造方法において、前記無電界めっき処理により成膜する工程は、前記反強磁性粒子または硬質磁性粒子の分散剤として、界面活性剤を用いる工程とすることを特徴とする(請求項10)。
【0030】
前記製造方法によれば、反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散してなる前記軟磁性裏打ち膜は、無電界めっき法により成膜し、その上に垂直記録層を成膜すればよいので、従来に比較して製造プロセスが簡略化される。また、無電界めっき法によれば、大面積で均一な膜が、簡便かつ安価に形成できる。さらに、界面活性剤の使用により、反強磁性粒子または硬質磁性粒子は、略均一に軟磁性材料中に分散できるので、略均一に磁化が誘導され、単磁区化が可能となる。従って、スパイクノイズ特性の向上が図れる。なお、軟磁性裏打ち層と垂直記録層との間には、中間層(垂直記録層の下地層)を設けることもできる。詳細は後述する。
【0031】
次に、本発明の垂直磁気記録媒体の製造装置としては、下記請求項11の発明が好ましい。即ち、本発明の製造装置は、基体上に、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散して含む軟磁性裏打ち層を、無電界めっき処理により形成する第1の成膜装置と、前記軟磁性裏打ち層に所定方向の磁化容易軸を誘導する磁界印加手段を有する異方性制御装置と、前記軟磁性裏打ち層上に、スパッタ法により垂直記録層を形成する第2の成膜装置とを備えることを特徴とする(請求項11)。
【0032】
また、先に記載のいずれかの垂直磁気記録媒体を具備する磁気記録装置の発明としては、下記請求項12の発明が好ましい。即ち、本発明の磁気記録装置は、前記請求項2ないし6のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体であって、前記軟磁性裏打ち層の膜面内の径方向に磁化容易軸を形成してなる垂直磁気記録媒体と、該垂直磁気記録媒体を駆動するための駆動部と、磁気情報の記録再生を行うための磁気ヘッドとを備え、移動する前記垂直磁気記録媒体に対して前記磁気ヘッドにより磁気情報の記録再生を行うことを特徴とする(請求項12)。
【発明の効果】
【0033】
この発明によれば、低周波ノイズの低減、スパイクノイズの抑制、および製造プロセスの簡素化を図った垂直磁気記録媒体とその好適な製造方法および製造装置、並びに磁気記録装置が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、この発明の実施形態に関して、図に基いて説明する。なお、これらの実施形態は、発明の趣旨のより良い理解のために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以後の説明において、圧力をTorrの単位で表記するが、これをSI単位であるPa(パスカル)に変換する場合には、1Torr=133Paにより換算すればよい。さらに、磁界をOe(エルステッド)の単位で表記する場合があるが、これをSI単位であるA/m(アンペア毎メートル)に変換する場合には、1Oe=79.58A/mにより換算すればよい。
(実施形態1:垂直磁気記録媒体)
HYPERLINK "http://www.patent.ne.jp/patent/cache/" \l "fig1" 図1は、本発明に係る典型的な垂直磁気記録媒体の実施形態の断面模式図である。図1において、垂直磁気記録媒体1は、基体2上に、軟磁性裏打ち層3と、強磁性体からなる垂直記録層4と、保護層5とを積層した構成を備える。基体2は、円板状の非磁性体からなる基板2a上に、該基板2aと異なる材質の非磁性体からなる被覆層2bが形成されている。
【0035】
まず、基体について述べる。基板2aは、例えば、アルミニウム、チタンまたはその合金、シリコン、ガラス、カーボン、セラミックス、プラスチック、樹脂、またはこれらの複合体により構成される。被覆層2bは、高温で磁化せず、導電性を有し、熱伝導性が良く、機械加工などがし易く、しかも適度な表面硬度を有する非磁性材料により構成される。このような条件を満たす非磁性材料としては、NiP、NiTa、NiAl、NiTi等があり、これらの非磁性材料は、スパッタ法、蒸着法、メッキ法等により形成することができる。
【0036】
一般に、垂直磁気記録媒体の場合、磁気ヘッドが該垂直磁気記録媒体に書き込まれた信号を良好に読みとるためには、磁気ヘッドと該垂直磁気記録媒体の空隙は小さい方が望ましい。特に、磁気ヘッドが垂直磁気記録媒体上を浮上しながら記録再生する場合には、その浮上量は出来るだけ小さい方が望ましい。さらに、磁気ヘッドを浮上させずに垂直磁気記録媒体の表面に接触させて記録再生することができればより望ましい。したがって、垂直磁気記録媒体用の基体としては、優れた表面平滑性を有するものが望ましく、さらには、基体の表裏両面の平行性、基体の円周方向のうねり、および表面の粗さが適切に制御されたものが望ましい。
【0037】
以上の観点より、好ましい基体2としては、例えば、ガラス基板、シリコン基板、アルミニウム基板等の表面平滑性に優れた基板2a上に、NiP層、NiTa層、NiAl層、あるいはNiTi層等からなる被覆層2bを形成したものが好適である。中でも、ガラス基板は基体の薄型化に対応できる剛性も兼ね備えていることからより好ましい。この基体2においては、記録再生時に垂直磁気記録媒体1と磁気ヘッドの表面同士が接触および摺動する際の摩擦や摩耗を改善する目的から、その表層部に凹凸付与を目的としたバッファ層を形成した構成としても構わない。
【0038】
また、この基体2においては、その上に堆積される垂直記録層4等をなす結晶粒子の初期成長段階において、結晶成長を促す核として機能する層として、二次元的な平坦層ではなく、局所的に点在した島状のシード層を備えた構成としてもよい。このようなシード層は、その上に形成される堆積層を構成する結晶粒の微細化や、その粒径の分散の度合いの狭小化等が実現可能である(特開2001−52330号参照)。
【0039】
さらに、基体2が回転/停止する際に、垂直磁気記録媒体1と磁気ヘッドの表面同士が接触および摺動する(CSS:Contact Start Stop)ことへの対策として、従来の面内磁気記録媒体用の基体と同様に、基体2の表面に概ね同心円状の軽微なキズ(テクスチャ)を設けても構わない。
【0040】
次に、軟磁性裏打ち層3について述べる。図2は、軟磁性裏打ち層の概念的模式図であり、図の下方に、P部を拡大して示す。図示のように、軟磁性裏打ち層3は、めっき軟磁性膜31中に、反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)32が分散した状態となっている。図中、磁化Mの方向を太線の矢印で示す。なお、図2において、磁化Mの方向は、軟磁性裏打ち層3の膜面内の径方向に磁化容易軸を形成してなるものを示すが、後述する図6A,B,Cに示すように、媒体の使用目的に応じて、図2で示す径方向(図6Cに相当)以外に、円周方向(図6A)や等方(図6B)など、磁気異方性を誘導することにより、所定の方向を選択して形成できる。
【0041】
また、めっき軟磁性膜31における軟磁性材料はNiFeP合金またはNiFeB合金とし、反強磁性粒子32は、MnIr合金粒子,MnPt合金粒子またはMnNi合金粒子とする。反強磁性粒子に代えて硬質磁性粒子を使用する場合には、Co粒子,FePt合金粒子またはCoPt合金粒子を使用する。軟磁性裏打ち層3の膜形成工程および磁気異方性誘導等の製造工程等については後述するが、図2に示す軟磁性裏打ち層3は、無電界メッキにより、軟磁性材料と反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)とを分散共析させ、単層膜として形成できるので、前述のように、層構成が簡素化され、また層全体が容易に単磁区化できる。なお、反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)の直径は、将来の600GBPIを想定するとそのbit長である12nm以下とすることが好ましい。また交換結合が働く作用領域に鑑み、分散共析状態の磁気的な実効粒間距離は、200T・nm以下が好ましい。
【0042】
さらに、軟磁性裏打ち層3の膜厚は、100nm〜500nm程度の範囲とし、この範囲において、その表面粗さ(Ra)は0.5nm以下の平坦性を有するものとすることができる。めっき表面を研磨することにより、Raは0.3nmとすることができる。これにより、表面の凹凸に起因する磁極からの漏れ磁束を低減することができ、その結果、低周波ノイズの低減が図れる。
【0043】
次に、垂直記録層4について述べる。垂直記録層4は、磁化容易軸が膜面に略垂直方向に配向した強磁性材料であればよく、特に組成を限定するものではないが、例えば、CoとCrを主たる成分とし、磁化容易軸が膜面に略垂直方向に配向した六方稠密構造(hcp:hexagonal closest packed structure)を有するCoCr系強磁性材料が好適に用いられる。このCoCr系強磁性材料は、必要に応じて他の元素を添加したものであっても良い。
【0044】
CoCr系強磁性材料の具体例としては、CoCr(Cr<25at%)、CoCrNi、CoCrTa、CoCrPt、CoCrPtTa、CoCrPtB等のCoCr系合金が挙げられる。また、この垂直記録層4の結晶粒の粒径制御や粒間の偏析制御、結晶粒の結晶磁気異方性定数Kugrainの制御、耐食性の制御、低温プロセスへの対応等を目的として、O、SiOx、Fe、Mo、V、Si、B、Ir、W、Hf、Nb、Ru、希土類元素等を適宜添加してもよい。
【0045】
また、上記のCoCr系合金以外の強磁性材料、例えば、CoPt、CoPd、FePt等の熱擾乱耐性に優れた材料や、それらを微細化するためにB、N、O、SiOx、Zr等を添加した材料を用いてもよい。さらに、Co層とPd層を多数積層した多層構造の垂直記録層も適用可能である。このような多層構造の垂直記録層としては、Co層とPt層、あるいはFe層とPt層等を組み合わせた多層構造の垂直記録層、またはこれらの各層にB、N、O、Zr、SiOx等を添加したものも適用可能である。
【0046】
また、この垂直記録層4と軟磁性裏打ち層3との間に下地層を設けても良い。この下地層としては、その上に形成される垂直記録層4を垂直磁化膜化させ得る材料であれば、いかなる材料であっても構わない。また、下地層の構成は、単層構造の他、2層またはそれ以上の多層構造であってもよい。
【0047】
この下地層は、垂直記録層4がCoCr系強磁性材料であれば、Ti、Ta、Ru、Cu、Pt、Rh、Ag、Au等の単元素からなる金属材料や、これらにCrなどを加えた合金材料等からなる層を含む構成としてもよい。特に、垂直記録層4がCoPt、CoPd、FePt等の熱擾乱耐性に優れた層構造、あるいは当該層を含む多層構造である場合には、C、Si、SiN、SiO、PdSiN、AlSiN等からなる、垂直記録層4の物理的・化学的な磁気的孤立化を促進する層を含んた構成としてもよい。このように、これらの材料を下地層として用いれば、保磁力等を向上させることができる。さらに、これらの材料にその結晶性を損なわない程度にN、Zr、C、B等から選ばれる1種以上の元素を添加すれば、下地層の結晶粒の微細化が促進され、媒体の記録再生特性が向上する。
【0048】
次に、保護層5は、垂直記録層4の表面を保護するためのもので、保護膜として必要な機械的強度、耐熱性、耐酸化性、耐腐食性等を備えたものであればよく、特に材料組成を限定するものではないが、例えば、カーボンが好適に用いられる。
【0049】
(実施形態2:垂直磁気記録媒体の製造方法及び製造装置)
次に、本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法及び製造装置について説明する。図1に示す垂直磁気記録媒体1を製造する場合について、図3ないし図6を参照して以下に述べる。図3は、本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造装置の例を示す概念的構成図である。
図3(a)は、基体2を加熱する工程と、軟磁性裏打ち層3に磁界を印加する工程を別々に行う場合の装置構成を示し、図3(b)は、基体2を加熱する工程と、軟磁性裏打ち層3に磁界を印加する工程を同時に行い、かつ基体2の冷却中にも磁界の印加を行う場合の構成を示している。なお、各図において、装置全体を各ブロックに分け、所定機能を有するサブ装置(P1〜P5)をイメージ的に示すが、これらは製造工程の順序を正確に示すものではなく、また、基体が共通のチャンバ内を連続的に搬送されることを示しているわけではない。
【0050】
装置全体を構成する場合に考慮すべき点は、概念的には、構造制御のための加熱工程のための室と、磁気異方性制御のための加熱・冷却処理工程のための室とに二分した方が好ましい。但し、加熱工程は構造制御のためにも異方性制御のためにも用いられるため、工程簡略化のために、図3(b)に示すように、これらを同一としても構わない。また、これらの工程は、記録層の特性を損なわなければ、記録層成膜後に設けても構わない。
【0051】
まず、図3(a)の装置について述べる。図3(a)に示す製造装置は、5つのサブ装置P1〜P5を備える。P1は、基体の出し入れを行うためのロード・アンロード装置である。サブ装置P2は、基体上に、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散して含む軟磁性裏打ち層を、無電界めっき処理により形成する第1の成膜装置である。なお、C1は、基体の載置台であり、めっき浴中に設けられる。無電界めっき処理方法の詳細は後述する。
【0052】
次に、図3(a)において、サブ装置P3は、2基のヒータ(加熱手段)Hが備えられた構造制御装置であり、ここで軟磁性材料の相や組織が制御される。また、サブ装置P4は、マグネット(磁界印加手段)Mを備える異方性制御装置であり、ここで軟磁性裏打ち層に所定方向の磁化容易軸を誘導する。さらに、サブ装置P5は、スパッタ用のカソードC2を備え、スパッタ法により垂直記録層を形成する第2の成膜装置である。
【0053】
前記各サブ装置には、内部に導入された基体を搬送するための搬送手段(図示略)が設けられている。また、サブ装置P2を除く各サブ装置には、その内部を排気するための排気手段(図示略)が設けられている。
【0054】
なお、第2の成膜室P5の後段には、更に他の成膜室や加熱手段を備えた加熱室が設けられていてもよく、例えば図1に示す垂直磁気記録媒体1を製造する場合には、保護膜5を成膜するための第3の成膜室が、第2の成膜室P5の後段に設けられる。また、各サブ装置間には、必要に応じて、隣接する各サブ装置内を遮断するための遮断弁が設けられていても良い。また、図3(a)では、第2の成膜室P5のカソードC2を片側にのみ設けた場合を示したが、カソードC2を互いに対向するように2基備えた構成としても良く、このような構成とすれば、基体両面への成膜が可能となる。
【0055】
一方、図3(b)に示す製造装置では、前述のように、サブ装置P3において、ヒータHとマグネットMとを備えており、また、基体2の冷却中にも基体2に磁界を印加できるようになっている。なお、前述のように、放射状印加磁界下でめっきする場合には、図3(b)において、マグネットMを、サブ装置P2内に設けることにより実施できる。
【0056】
次に、上記図3に示す装置を用いて垂直磁気記録媒体を製造する方法について説明するが、その前に、サブ装置P2により、軟磁性裏打ち層を、無電界めっき処理により形成する方法について、図4および図5に基づき以下に述べる。図4は、軟磁性材料と反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)とを、複合めっきにより分散共析する方法の概念的説明図である。また、図5は、めっき条件等のめっき緒元の詳細を説明する図である。なお、図5においては、反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)の粒子および界面活性剤に関しては表示していない。
【0057】
図4において、31および32は図2と同様に、それぞれ、めっき軟磁性膜および反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)を示す。また、41は、例えばガラス製のめっき容器、42はめっき浴を示す。さらに、めっき浴42内の右側の図は、めっき軟磁性膜および反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)が、基体30上に、無電界めっきにより分散共析した状態を示し、めっき浴42内の左側の図は、反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)32が、めっき浴中に、界面活性剤33と共に分散した状態のイメージを示す。
【0058】
次に、図5により、無電界めっきにおけるめっき緒元について述べる。無電界めっきは周知のように、化学めっきともいわれ、金属塩の水溶液中での化学反応、主に還元反応を利用して基体30の金属を被覆する方法である。還元剤以外の材料も含め、めっき浴は、図5に示すように、NiSO4, FeSO4, NaH2PO2, pH調整剤,錯化剤等からなり、このめっき浴中に、図5には図示しない反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)の粒子を界面活性剤と共に、分散させる。なお、前記反強磁性粒子としては、MnIr合金粒子またはMnPt合金粒子が好ましいが、他に、MnNiも使用できる。また、前記硬質磁性粒子としては、Co粒子またはFePt合金粒子が好ましいが、他に、CoPt等の一軸磁気異方性が大きい合金微粒子も使用できる。さらに、界面活性剤としては、オレイン酸等のカルボン酸もしくはオレイルアミン等の活性剤が使用できる。
【0059】
また、基体30としては、例えば、前記非特許文献4にも記載されたAl/Ni-Pディスクとし、軟磁性材料としては、Ni83Fe15P2(wt.%)とし、その磁気特性はBs=0.9T, Hc=2-3Oeとする。さらに、成膜条件としては、図5の下方に示すように、例えば、めっき浴の浴温:80℃、同pH:9.6とし、また成膜レートは1μm/15minとする。また、前記Ni-P層およびNi83Fe15P2層の表面は、アルカリタイプのコロイダルシリカを用いた研磨を行い、表面粗さRa=0.3nmまで平坦化を行う。
【0060】
なお、基体としては、上記以外に、ガラスやプラスティック、樹脂が使用でき、軟磁性材料としては、上記NiFeP合金以外に、NiFeB合金が使用できる。なお、軟磁性材料をNiFeB合金とする場合のめっき条件等については、後述する実施例の項において、詳述する。
【0061】
さらに、下記のような周知の軟磁性材料、即ち、Fe,FeTaN,FeSiAl,CoFe,CoNiFeのような高い飽和磁束密度(Bs)を有する合金材料に添加剤のBやPが含まれる材料も使用できる。上記軟磁性材料のうち、前記NiFeB合金やNi83Fe15P2(wt.%)のような軟磁性材料、即ち、Ni80wt.%Fe20wt.%組成近傍のNiFe膜は、結晶磁気異方性と磁歪が小さいため、容易に軟磁気特性を誘導できるので、軟磁性材料として、特に好適である。また、めっき浴のpHは、Feの酸化防止のためにアルカリ性となるように、7以上が好ましい。さらにまた、腐食性の観点からは、Feを用いないことが望ましいが、この観点からは、CoNiPが好ましい。
【0062】
次に、前記図3(a)に示す装置に戻って、図1に示す垂直磁気記録媒体1を製造する手順について説明する。まず、基体2をロード・アンロード装置P1へ導入する。そして、基体2を第1の成膜室P2へ移動させ、前述のように、無電界複合めっきを行い、基体2上に軟磁性裏打ち層3を成膜する。次いで、軟磁性裏打ち層3の成膜が終了したならば、基体2を第2の成膜室P5へ移動させ、垂直記録層13の成膜を行う。そして、垂直記録層13の成膜が終了したならば、基体2を第2の成膜室P5の後段に設けられた成膜室(図示略)へ移動させ、保護膜5の成膜を行う。
【0063】
次に基体2を加熱室P3へ移動させ、ヒータHにより基体2(軟磁性裏打ち層3)の表面温度が、例えば250℃程度となるように加熱する。次いで、基体2の加熱が終了したならば、その基体2を異方性制御装置P4へ移動させ、マグネットMの正面に基体2を配置してマグネットMにより軟磁性裏打ち層3へ磁界を印加しながら冷却する。この工程において軟磁性裏打ち層3に、例えば、基体2の径方向外向きへの一方向磁気異方性が誘導される。
【0064】
以上の工程が終了した基体2を、再度ロード・アンロード装置P1へ搬送し、サブ装置P1から外部へ取り出す。このようにして、図3(a)に示す製造装置により、本発明に係る垂直磁気記録媒体1を製造することができる。なお、FeTaNやFeSiAl等、軟磁性材料の種類によっては、構造・組織制御の目的で加熱が必要な場合があるが、その際にも加熱室P3が利用できることは言うまでもない。
【0065】
また、図3(b)に示す製造装置を用いても、図1に示す構成の垂直磁気記録媒体1を製造することができる。この場合、図3(a)に示す製造装置を用いた場合の効果に加えて、軟磁性裏打ち層3の磁化をより強固に固定することができるという効果が得られる。これは、図3(b)に示す製造装置では、サブ装置P3及びサブ装置P4に磁界印加手段であるマグネットMが備えられており、基体2の加熱中及び冷却中のいずれにおいても、基体2に磁界を印加できるようになっているからである。
【0066】
図6は軟磁性裏打ち層3の磁化容易軸の方向を模式的に示す。図6A〜Cに示す符号Dはディスク状の基体の一部を示しており、ディスクD上に符号Sで示す線分の方向および長さは、軟磁性裏打ち層の異方性磁界の方向および大きさを概念的に示すものである。点は、異方性磁界がほぼ0であること、すなわち、等方的であることを示す。前記サブ装置P3またはサブ装置P4におけるにマグネットMによれば、その磁界中加熱・冷却条件を適切に制御することで、基体円周方向または基体径方向、あるいは等方的に軟磁性裏打ち層に磁気異方性を誘導することができる。
【0067】
なお、上記製造方法において、第2の成膜室P5においては、スパッタ法を用いるが、このスパッタ法としては基体がターゲットの前を移動しながら薄膜が形成される搬送型スパッタ法と、基体をターゲットの前に固定して薄膜が形成される静止型スパッタ法を例示することができる。前者の搬送型スパッタ法は、量産性が高いため、低コストな磁気記録媒体の製造に有利であり、後者の静止型スパッタ法は、基体に対するスパッタ粒子の入射角度が安定なために、記録再生特性に優れる磁気記録媒体の製造が可能とされる。本発明に係る垂直磁気記録媒体1を製造する際には、搬送型、静止型のいずれかに限定されるものではない。
【0068】
(実施形態3:磁気記録装置)
次に、本実施形態の垂直磁気記録媒体を備えた磁気記録装置について、図7および図8に基づき説明する。図7は、本実施形態のハードディスク装置(磁気記録装置)を示す側断面図、図8は、図7に示す磁気記録層の平断面図である。図7,8において、符号50は磁気ヘッド、70はハードディスク装置、71は筐体、72は垂直磁気記録媒体、73はスペーサ、78はサスペンション、79はスイングアームである。
【0069】
このハードディスク装置70は、円板状の垂直磁気記録媒体72、磁気ヘッド50等を収納する内部空間を備えた直方体形状の筐体71が外形を成しており、この筐体71の内部には複数枚の垂直磁気記録媒体72がスペーサ73と交互にスピンドル74に挿通されて設けられている。また、筐体71にはスピンドル74の軸受(図示略)が設けられ、筐体71の外部にはスピンドル74を回転させるためのモータ75が配設されている。この構成により、全ての垂直磁気記録媒体72は、スペーサ73によって磁気ヘッド50が入るための間隔を空けて複数枚重ねた状態で、スピンドル74の周回りに回転自在とされている。
【0070】
筐体71の内部かつ垂直磁気記録媒体72の側方位置には、軸受け76によってスピンドル74と平行に支持されたロータリ・アクチュエータと呼ばれる回転軸77が配置されている。この回転軸77には複数個のスイングアーム79が各垂直磁気記録媒体72の間の空間に延出するように取り付けられている。各スイングアーム79の先端には、その上下位置にある各垂直磁気記録媒体72の表面と傾斜して向かう方向に固定された、細長い三角板状のサスペンション78を介して磁気ヘッド50が取り付けられている。
【0071】
この磁気ヘッド50は、図示されていないが、垂直磁気記録媒体72に対して情報を書き込むための記録素子と、垂直磁気記録媒体72から情報を読み出すための再生素子を備えている。また、このハードディスク装置70では、垂直磁気記録媒体72を回転させるとともに、スイングアーム79を移動させて該スイングアーム79に取り付けられている磁気ヘッド50を垂直磁気記録媒体72に近づけ、この磁気ヘッド50が発生した磁界を垂直磁気記録媒体72の垂直記録層に作用させることにより、垂直磁気記録媒体72に所望の磁気情報を書き込むことができる。さらに、スイングアーム79を移動させて磁気ヘッド50を垂直磁気記録媒体72上の任意の位置に移動させ、垂直磁気記録媒体72を構成している垂直記録層からの漏れ磁界を磁気ヘッドの再生素子で検出することにより磁気情報を読み出すことができる。
【0072】
上記のように、このハードディスク装置70は、本実施形態の軟磁性裏打ち層を有する垂直磁気記録媒体72を用いたので、従来の垂直磁気記録媒体と比較して低ノイズ化を実現でき、高記録密度の情報の記録再生が可能である。従って、高記録密度での磁気情報の記録再生を安定して行うことができるハードディスク装置70を提供することができる。
【0073】
なお、このハードディスク装置70では、複数枚の垂直磁気記録媒体72をスペーサ73と交互にスピンドル74に挿通した構成としたが、垂直磁気記録媒体72の枚数は、1枚以上の任意の枚数で良く、上記の構成に限定されない。また、搭載する磁気ヘッド50の数も1個以上であればよく、任意の数設けてもよい。また、スイングアーム79の形状や駆動方式も図7及び図8に示すものに限らず、リニア駆動方式、その他の方式でも良いのはもちろんである。
【実施例】
【0074】
以上のように、本発明の実施形態としては種々の形態が採用できるが、以下に、本発明の代表的な垂直磁気記録媒体の実施例について述べる。実施例の垂直磁気記録媒体は、基体としては、Al/Ni-Pディスクを用い、その上に、図1に示すように、軟磁性裏打ち層3と、強磁性体からなる垂直記録層4と、カーボンからなる保護層5とを積層した構成を備えるものとした。垂直記録層4としては、(74at%Co-10at%Cr-16at%Pt)-8mol%SiO2を用いた。
【0075】
また、軟磁性裏打ち層3としては、Ni83Fe15P2(wt.%)またはNi63.4Fe34.2B0.4(wt.%)からなる軟磁性材料中に、規則化したFePtの硬質磁性粒子を分散して含む膜とし、膜面内の径方向に磁化容易軸を形成してなるものとした。前記FePは規則化することにより硬質磁性粒子となり、軟磁性材料との間で優れた交換結合を行なう材料として機能する。
【0076】
前記軟磁性裏打ち層3は無電解めっき法により形成し、その無電解めっき条件としては、図12に示す条件とした。なお、図12(a)は、Ni83Fe15P2の場合を示し、実質的に前記図5と同等である。また、図12(b)は、Ni63.4Fe34.2B0.4の場合を示し、Ni83Fe15P2の場合と対比させて、各条件を示す。図12(a)の場合は、添加剤として、次亜リン酸ナトリウムを使用し、めっき膜の中にP(リン)が入るのが特徴であり、できる結晶は、比較的大きなNiFe結晶が自己の<111>方向に成長して隣接結晶粒と成長の競合がおきたような組織となる。一方、図12(b)の場合は、添加剤として、DMAB(ジメチルアミンボラン)を使用し、めっき膜の中にB(ホウ素)が入るのが特徴であり、できる組織は微結晶となる。上記両軟磁性材料とも、軟磁気特性に優れるので、本願発明における軟磁性裏打ち層3に好適である。
【0077】
次に、前記規則化したFePt微粒子の作製方法と、めっき軟磁性膜へのFePt微粒子の分散化等について、図13および図14に基づいて以下に述べる。図13は本実施例に係る規則化したFePt微粒子の作製方法を示す図、図14は本実施例に係る規則化したFePt微粒子の分散化工程を示す図である。まず、図13について述べる。図13は、出発物質、還元剤、溶媒、界面活性剤等の材料や、処理手順、処理温度、処理時間等を模式的に説明する図である。
【0078】
出発物質は、Pt(acac)2(白金アセチルアセトネート)と、FeCl2-4H2Oである。まず、溶媒フェニルエーテル中に前記出発物質と還元剤としての1,2-ヘキサデカンジオールとを溶解させ、マントルヒータで60min加熱する。この工程において、フェニルエーテル溶媒の中でヘキサデカンジオールが還元剤として働き、FeとPtとを還元する。その後、界面活性剤(オレイン酸、オレイルアミン)を混入・攪拌することにより、合成された不規則のFePtは凝集せずに、溶媒中に分散する。合成後、熱処理を行なうために溶媒の変換が必要となるが、そのために、まず、エタノールにより微粒子を洗浄する。これにより、界面活性剤は一部取り除かれ、微粒子は多少凝集する。凝集化した微粒子を、遠心分離器で分離し、フェニルエーテル溶媒中からFePt微粒子を抽出する。次に、沸点が327℃のトリエチレングリコール(TEG)中に、FePt微粒子を再分散し、300℃で3時間、溶媒中で熱処理する。これにより、FePtは規則化し、硬質磁性を示すに至る。
【0079】
次に、図14について述べる。図14は、前記の規則化したFePt微粒子の分散化工程を示す。まず、NiFe軟磁性材料を無電解めっきする(工程(1))。具体的には、前記図12(a)のNi83Fe15P2もしくは図12(b)のNi63.4Fe34.2B0.4のいずれかによる。所定の時間、めっきを行なった後、図14の下段の模式的説明図に示すように、硬質磁性微粒子(規則化したFePt微粒子)を、磁場中で配向させながら付着させる処理を行なう(工程(2))。前記工程(1)と工程(2)とを繰り返し、所定回数行なうことにより、FePt微粒子の分散化が行なわれる。なお、FeP微粒子の分散化に際しては、図14の工程(2)の項に示すように、微粒子分散溶液を超音波振動(3〜5min)させ、溶液中の微粒子を均一分散させることが好ましい。また、工程(2)においては、微粒子分散溶液への基板の浸漬、基板の引上げ、窒素雰囲気乾燥の手順により、分散処理を行なう。浸漬および引上げの際の速度は、約1μm/s〜2.0mm/sが好ましい。
【0080】
上記のような製造手順により垂直磁気記録媒体を製作することにより、硬質磁性粒子が略均一に軟磁性材料中に分散され、さらに略均一に磁化が誘導され、単磁区化がなされた垂直磁気記録媒体が得られた。また、上記により、低周波ノイズおよびスパイクノイズの抑制が図れることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る垂直磁気記録媒体の実施形態の断面模式図。
【図2】図1における軟磁性裏打ち層の概念的模式図。
【図3】本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造装置の例を示す概念的構成図。
【図4】図3の装置において、軟磁性裏打ち層を無電界めっきにより形成する方法の概念的説明図。
【図5】図4の無電界めっきにおけるめっき緒元の一例を示す図。
【図6】本発明に係る軟磁性裏打ち層の磁化容易軸の方向を模式的に示す図。
【図7】本発明に係る磁気記録装置(ハードディスク装置)の実施形態を示す側断面図。
【図8】図7に示す磁気記録層の平断面図。
【図9】非特許文献4に開示された、めっき軟磁性膜付Al基板を用いたFM/AFM積層体の構成を示す図。
【図10】非特許文献2に開示された、磁気的層間結合を有する裏打ち膜の層構成とその磁化曲線の模式図。
【図11】非特許文献2に開示された、磁気的層間結合を有する図10とは異なる裏打ち膜の層構成とその磁化曲線の模式図。
【図12】本発明の実施例に係る無電界めっき条件を示す図。
【図13】本発明の実施例に係る規則化したFePt微粒子の作製方法を示す図。
【図14】本発明の実施例に係る規則化したFePt微粒子の分散化工程を示す図。
【符号の説明】
【0082】
1,72 垂直磁気記録媒体
2 基体
3,30 軟磁性裏打ち層
4 垂直記録層
5 保護層
31 めっき軟磁性膜
32 反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)
33 界面活性剤
41 めっき容器
42 めっき浴
50 磁気ヘッド
70 ハードディスク装置
C1 基体の載置台
C2 スパッタ用のカソード
H ヒータ(加熱手段)
M マグネット(磁界印加手段)
P1〜P5 垂直磁気記録媒体の製造装置のサブ装置
S 異方性磁界の方向および大きさ
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体とその製造方法および製造装置、並びに磁気記録装置に係り、特に優れた記録再生特性を実現可能な垂直磁気記録媒体の構成とその製造方法に関する。本発明に係る垂直磁気記録媒体は、ハードディスク、磁気テープ等に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
磁気記録の高密度化を実現する技術として、従来の長手磁気記録方式に代えて、垂直磁気記録方式が注目されつつある。垂直磁気記録方式は、従来の長手磁気記録方式に比べて、高密度で高い熱安定性を有するとともに、高い保磁力の記録媒体にも十分書き込みが可能であるという利点があり、長手磁気記録方式の記録密度の限界を超えることが可能となるからである(例えば、特許文献1または2参照)。
【0003】
特許文献1の従来の技術の項によれば、下記を記載している。即ち、「前述のような垂直記録方式に適用される垂直磁気記録媒体として、基体と垂直記録層との間に、更に面内方向に磁化しやすいFeNi等の軟磁性膜を設けた2層膜媒体が提案されている(S.Iwasaki, Y.Nakamura and K.Ouchi : IEEE Trans. Magn. MAG-15 (1979) 1456参照)。また、記録時および再生時における磁束の流れを有限要素法で解析した結果、軟磁性膜と垂直記録層とからなる2層膜媒体は、垂直記録層のみからなる単層媒体に比べて、より大きな保磁力の垂直記録層に書き込むことができ、再生電圧の増加も図れること、およびこの軟磁性膜の存在は、磁気ヘッドの主磁極から発生する磁束が主磁極先端の空間内で高密度に収束されるため、主磁極付近の磁界の増加をもたらすことが記載されている(岩崎俊一、田辺信二:電子通信学会論文誌 J66-C (1983) 740参照)。」
さらに、特許文献1は、上記のような2層膜媒体における下記の問題点を記載している。即ち、「上記のような2層膜媒体においては、軟磁性膜としてパーマロイ系の結晶質材料やCoZrNb等の非晶質材料が用いられてきた。パーマロイ系の結晶質材料においては、局所的な磁化の分散(スキュー)の指標である構造因子Sが著しく小さい結果、軟磁性膜中に多数の180度磁壁構造が形成されるため、この磁壁からの漏れ磁束に伴うスパイクノイズが多発するという問題点がある。さらに結晶質スパッタリング薄膜では、結晶粒の島状初期成長モードに起因して薄膜表面に凹凸が形成されてしまうため、この凹凸部に起因する磁極からの漏れ磁束により低周波ノイズが発生するという問題点も生じている。一方、非晶質材料を用いた軟磁性膜においては、飽和磁化が小さく軟磁性膜の膜厚が大きくなるという問題点があった。このように、2層膜媒体においては、垂直記録層である強磁性体層の10倍以上の膜厚を有する軟磁性膜に起因するノイズが大きな問題となっていた。また、この軟磁性膜の成膜時間の短縮、あるいは媒体全体の薄膜化の観点から、軟磁性膜に用いるための高飽和磁化材料の開発が望まれていた。」
また、「最近では低ノイズの軟磁性膜として、成膜後の非晶質膜に熱処理を施し、内部に微細な結晶粒を析出させた微結晶析出型の軟磁性材料が提案されている(Atsushi Kikukawa, Yukio Honda, Yosiyuki Hirayama, and Masaaki Futamoto:IEEE Trans. Magn., Vol 36, N0.3, SEP(2000) 2402参照)。しかしながら、FeTaCなる組成を有するこの微結晶析出型軟磁性材料には、耐食性に劣るという問題があった。また、FeTaC軟磁性膜ではC濃度により軟磁気特性を制御できることが知られているが、C組成を変化させる場合C含有量の異なるターゲットを用意しなければならず、軟磁気特性の制御が容易でないという問題もある。」旨、記載している。
【0004】
特許文献1は、上記の問題点を解決するために、下記のような発明を開示する。即ち、「低ノイズで薄膜化が可能であり、耐食性に優れ、かつ、軟磁気特性の制御性に優れた軟磁性裏打ち層を備え、高記録密度の情報の記録再生が可能な垂直磁気記録媒体とその製造方法を提供すること」を目的とし、「軟磁性裏打ち層と、該軟磁性裏打ち層上に形成されて主記録層を成し、その磁化容易軸が主として膜面の垂直方向に配向された強磁性体からなる垂直記録層とを備える垂直磁気記録媒体であって、前記軟磁性裏打ち層が、FeTaNなる組成を有する軟磁性材料からなることを特徴とする垂直磁気記録媒体」を開示する。
【0005】
また、前記特許文献1の改良技術に関わり、低温プロセスで、更なる特性の向上を図ることを目的として、特許文献2は、「軟磁性裏打ち層と、該軟磁性裏打ち層上に形成された垂直記録層とを備えてなる垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性裏打ち層は、FeSiAlNなる組成を有する軟磁性材料からなることを特徴とする垂直磁気記録媒体」を開示する。
【0006】
次に、前記技術の改良に関わる各種非特許文献について述べる。非特許文献1は、前記特許文献2に開示されたFeSiAlNなる組成を有する軟磁性材料に関して、主にノイズ特性や磁気的層間結合の利用等について研究した結果を開示する論文である。論文の内容の詳細は省略するが、特に、ノイズに関して、非特許文献1は、「FeSiAlN材料は窒素添加にともなう微結晶化の進行とともに、軟磁性裏打ち層SUL(SUL:Soft-magnetic UnderLayer)ノイズが低減されるため、低温プロセス対応裏打ち膜として有望であることがわかった。尚、SULノイズが低減された試料であっても、エンベローブ(ディスク1周分の再生ヘッド出力電圧の時間プロファイル)にはインパルス状のスパイクノイズの発生が認められることから、本材料を用いて裏打ち膜を作製する場合、何らかのスパイクノイズ対策が必要である」旨を記載している。
【0007】
次に、非特許文献2について述べる。非特許文献2は、磁気的層間結合を利用した前記スパイクノイズ対策に関わる論文である。本件発明に関わり、非特許文献2の記載を一部引用すると下記のとおりである。
【0008】
即ち、「垂直二層膜媒体のノイズには、ノイズパワースペクトルとシステムノイズとの差分として評価される媒体ノイズと、エンベローブ中に突発的に発生するスパイクノイズが指摘されており、いずれも低減させることが課題である。媒体ノイズの抑制には、軟磁性裏打ち層(SUL)の結晶粒径を低減し、周期的な漏洩磁束の発生源となる表面の凹凸を抑制することが重要である。このような観点から、スパッタリングプロセスでSULを作製する場合、軟磁性材料としては微結晶やアモルファス材料が用いられている。また、スパイクノイズの抑制には、HDD動作環境中で想定される10 Oe程度の浮遊磁界雰囲気下においてもSUL中にブロッホ磁壁を形成させないことが有効である。近年浮遊磁界耐性向上のために、磁気的層間結合を利用して交換結合磁界Hexを大きく発現させ、残留磁化付近でブロッホ磁壁の形成を抑制する方法が検討され、注目されている。」
上記観点から、非特許文献2においては、主たる軟磁性層として微結晶またはアモルファス材料を用いて、磁気的層間結合を有する積層SULを作製し、その材料課題について種々論じている。図10および図11は、非特許文献2において検討された磁気的層間結合を有する裏打ち膜の層構成(各図のa図)とその磁化曲線の模式図(各図のb図)を示す。
【0009】
図10 は強磁性層 (FM:Ferro Magnetic layer)間に非磁性層(NM:Non Magnetic layer)を挿入し、RKKY的層間結合を用いて零磁場状態近傍で上層と下層の強磁性層の磁化を反平行配列させる方法を示す。この場合には、図10(b)の磁化曲線に示すように、残留磁化は0 Tとなっており、零磁場近傍では上層と下層のFM層の磁化Mが反平行配列している。なお、図10(b)において、Hexは、交換結合磁界である。
【0010】
図11は反強磁性層(AFM:Anti Ferro Magnetic layer)との交換結合によりFM層に一方向磁気異方性を発現させ、零磁場状態近傍でFM層の磁化をディスク径方向に固定させる方法を示す。この場合には、図11(b)の磁化曲線に示すように、MHループは同方向にHexだけシフトしている。
【0011】
非特許文献2においては、これら2種類の方法により作製した積層SULについて検討し、概ね、下記のような結論を開示している。即ち、「非磁性層にRuを用いたFM/NM積層SULでは、交換結合の1stピーク磁界Hexは2.6 Oeであり、層間結合定数Jは0.015 erg/cm2と非常に小さい値を示した。また、CoZrNb (150 nm)/Ru (0.7 nm)/CoZrNb (150 nm) なる層構成のFM/NM積層SULにおいては、Ru層へのO2添加によりHexは7 Oe (Jは0.035 erg/ cm2) へと向上する。さらに、AFM/FM積層SULでは、層間に働く一方向異方性定数JkはFM層膜厚の増加にともない減少する。FM層の軟磁気特性の制御により、このJkの減少をいかに抑制するかが課題となる。」旨の結論を開示している。
【0012】
次に、非特許文献3について述べる。非特許文献3は、前記図10に示すような強磁性/非磁性(FM/NM)積層SULについて、交換結合磁界Hexを増大させる研究結果に関わる論文である。詳細は省略するが、「CoZrNb (50 nm)/Co90Fe10 (0.5 nm)/Ru (0.7 nm)/Co90Fe10 (0.5 nm)/CoZrNb (50 nm) なる層構成により、31 Oe (Jは0.16 erg/ cm2) の交換結合磁界が得られた。」旨を報告している。
【0013】
次に、非特許文献4について述べる。非特許文献4は、前記非特許文献1〜3とは、観点を異にし、「めっき軟磁性裏打ち層の磁気特性と単磁区化」について論じている。本件発明に関わり、非特許文献4の記載を一部引用すると下記のとおりである。
【0014】
即ち、「垂直磁気記録方式では、記録磁界の収斂性向上のために、単磁極ヘッドに対峙する媒体側にヘッド系磁気回路の一部として機能する軟磁性裏打ち厚膜 ( ( 100 nm) を設ける必要がある。一方、軟磁性裏打ち膜からのスパイクノイズを抑制するために現状では、磁気的層間結合を用いた磁区構造制御手法の適用が必須と考えられつつある が、これを実現する反強磁性層および非磁性層の厚さは、たかだか数nm程度である。このように、垂直磁気記録媒体は、膜厚の二桁以上異なる機能性薄膜の積層構成となるため、スパッタリング法に代表されるドライプロセスのみによる量産プロセスの構築ではプロセスメリットが活かせず、低コスト化の点で問題が残る。」
そこで、非特許文献4においては、「100 nm以上の軟磁性裏打ち膜については構造体とみなし、その機能を基板に含有させ、数10nm以下の薄い層のみをドライプロセスで形成させることが実用上最も有利であると考え、この観点から、主たる軟磁性裏打ち層を簡便で安価なウェットプロセス(めっき)により作製し、かつ、めっき軟磁性膜上にブロッホ磁壁抑制のための反強磁性層をドライプロセスにより設けた、いわゆるtop typeピンニング構成のスパイクノイズフリー裏打ち層の検討を進め、このめっき軟磁性膜付Al基板を用いたtop type 強磁性/反強磁性(Ferro Magnetic/Anti Ferro Magnetic:FM/AFM)積層裏打ち膜の単磁区化について検討を行った結果」を報告している。
【0015】
図9は、非特許文献4において実験した、めっき軟磁性膜付Al基板を用いたtop type FM/AFM積層体の構成を示す。非特許文献4によれば、「図9におけるめっき軟磁性膜を形成するウェットプロセスには、短時間で厚膜が形成可能である無電解めっき法を用いた。基体には、硬度確保のためのアモルファスNiP層(厚さ:12 mm,ビッカース硬さ:300 Hv)を無電解めっきした2.5インチAlディスクを用いた。軟磁性材料には、NiPと同様の施設・廃液設備が使用可能であるNiFeP(100 - 500 nm, Bs= 0.9 T, Hc= 2 - 3 Oe)を選択し、Al/NiP基体上に活性化処理を施すことなく成膜した。」旨、記載されている。
【0016】
非特許文献4における詳細は省略するが、まとめとして、下記が報告されている。即ち、「(1)めっきNiFeP軟磁性膜付Al/NiP基板の耐熱性は、アモルファスNiP層の結晶化温度の280°Cである。(2)Top typeピンニング層構成により、めっき軟磁性膜に大きな一方向磁気異方性を誘導するためには、軟磁性緩衝層の付与ならびにドライエッチングプロセスの導入が肝要である。(3)めっき法にて作製した軟磁性膜を用いても、スパッタ法のみで作製した軟磁性膜と同等の交換結合磁界を誘導でき、零磁場状態においてディスク前面にわたって裏打ち膜の単磁区化が図られる。」
【特許文献1】特開2003−99912号公報
【特許文献2】特開2003−288713号公報
【非特許文献1】斉藤他,「高飽和磁化かつ低SULノイズ特性導出のための窒素添加Fe-Si-Al-N微結晶軟磁性材料の検討」,電子情報通信学会技術報告,MR2003-2,p7-12 (2003)
【非特許文献2】斉藤他,「磁気的層間結合を利用した高浮遊磁界耐性化裏打ち膜の材料課題」,日本応用磁気学会誌,27,p224-229 (2003)
【非特許文献3】斉藤他,「RKKY的層間結合を有する積層裏打ち膜の交換結合磁界の増大」,電子情報通信学会技術報告,MR2003-11,p1-6 (2003)
【非特許文献4】斉藤他,「Al/NiPディスク上に作製しためっき軟磁性裏打ち層の磁気特性と単磁区化」,日本応用磁気学会誌,,28,p289-294 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記のように、軟磁性裏打ち層を備えた垂直磁気記録媒体の実用化においては、(1)低周波ノイズの低減、(2)スパイクノイズの抑制、(3)製造プロセスの簡素化等が要請される。前記特許文献1,2、および非特許文献1〜4は、本願発明者等が、上記要請に応えるべく研究してきた技術成果を開示するものであるが、実用化の要請に応えるためには、媒体特性のさらなる向上や量産化に適した製造プロセスの構築が必要である。
【0018】
上記低周波ノイズの低減を図るためには、裏打ち膜の表面平坦化が必要である。また、スパイクノイズの抑制を図るためには、ブロッホ磁壁の抑制、そのためには、裏打ち膜全体の単磁区化が必要である。上記ノイズ特性の改善は、前記非特許文献の技術により、ある程度なされてきているが、まだ充分とはいえない。さらに、前記各文献に開示された製造プロセスは、まだ作成工程数が多くかつ複雑であり、製造歩留まりも考慮すると、量産化に適した製造プロセスとはいえない。
【0019】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、この発明の課題は、裏打ち膜表面の平坦化による低周波ノイズの低減、裏打ち膜全体の単磁区化によるスパイクノイズの抑制、および製造プロセスの簡素化を図った垂直磁気記録媒体とその好適な製造方法および製造装置、並びに磁気記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題は、以下により達成される。即ち、軟磁性裏打ち層と、該軟磁性裏打ち層上に形成され、その磁化容易軸が膜面の垂直方向に配向された強磁性体からなる垂直記録層とを備える垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性裏打ち層は、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散して含む膜とすることを特徴とする(請求項1)。
【0021】
また、前記請求項1の発明の実施態様としては、下記請求項2ないし6の発明が好ましい。即ち、前記請求項1に記載の垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性裏打ち層は、膜面内の径方向,円周方向等の所定の方向に磁化容易軸を形成してなることを特徴とする(請求項2)。
【0022】
さらに、前記請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性材料は、NiFeP合金またはNiFeB合金とすることを特徴とする(請求項3)。また、前記請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体において、前記反強磁性粒子は、MnIr合金粒子,MnPt合金粒子またはMnNi合金粒子とすることを特徴とする(請求項4)。さらにまた、前記請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体において、前記硬質磁性粒子は、Co粒子,FePt合金粒子またはCoPt合金粒子とすることを特徴とする(請求項5)。
【0023】
また、前記請求項1ないし5のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性裏打ち層は、膜厚100nm〜500nmの範囲において、表面粗さ0.5nm以下の平坦性を有することを特徴とする(請求項6)。
【0024】
前記垂直磁気記録媒体の発明によれば、詳細は後述するが、前記軟磁性裏打ち層が、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散してなる単層の膜からなるので、層構成が簡素化される。また、この単層の裏打ち層は、下記のようにして、層全体が容易に単磁区化できる。軟磁性材料中に反強磁性粒子を分散させる場合には、反強磁性粒子と、軟磁性材料(強磁性材料)との界面において交換結合が行われる。また、軟磁性材料中に反強磁性粒子に代えて硬質磁性粒子を分散させる場合にも、反強磁性粒子の場合と同様に交換結合が行われる。
【0025】
例えば、径方向に磁化容易軸を形成する方法に関し、3種類のケースについて以下に述べる。
1)まず、ディスク径方向外向きの放射状印加磁界下でめっきする場合について述べる。この場合、軟磁性材料はその磁気モーメントを径方向外向きに向けながら堆積される。その状態で反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)を分散共析させると、めっき膜全体の磁化容易方向が、ディスク径方向外向きとなるように反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)が析出する結果、軟磁性材料と粒子の界面に交換結合が働き、めっき成膜だけで一方向異方性の誘導ができる。なお、上記においては、ディスク径方向外向きの例に関して述べたが、一方向異方性の場合、ディスク径方向外向きでもディスク径方向内向きでも等価であるので、ディスク径方向内向きの場合にも、下記のケースを含めて同様である。
2)次に、印加磁界なしで軟磁性材料中に反強磁性粒子を分散共析させる場合について述べる。この場合には、各粒子の交換結合の方向が揃っていないので、めっき成膜後に反強磁性材料のブロッキング温度以上まで昇温して磁界中冷却を施すことにより、ディスク径方向への一方向異方性の誘導が可能となる。
3)次に、印加磁界なしで軟磁性材料中に硬質磁性粒子を分散共析させる場合について述べる。この場合は、反強磁性粒子と同様に、あたかも一方向異方性が発現しているようにして全体の単磁区化を図る必要がある。そのため、ディスク径方向外向きの強い放射状磁界印加により磁気モーメントの方向をディスクの径方向外側向きに揃える。この操作により、軟磁性材料と硬質磁性粒子の界面では、硬質磁性粒子の磁気モーメントと軟磁性材料の磁気モーメントとが、界面を挟んで交換結合する。実使用に際しては、硬質磁性粒子の磁化は反転しないような印加磁界範囲とする。
【0026】
従って、前記の本発明により、層構成が簡素にも拘らず、層全体の単磁区化により、スパイクノイズを抑制することができる。さらに、この単層裏打ち層は、後述する製造方法のように、無電界メッキにより形成できるので、製造方法も簡略化でき、かつ裏打ち膜表面の平坦化も容易となって、低周波ノイズの低減を図ることも容易となる。
【0027】
次に、本発明の垂直磁気記録媒体の製造方法としては、下記請求項7ないし10の発明が好ましい。即ち、基体上に、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散して含む軟磁性裏打ち層を成膜する工程と、前記軟磁性裏打ち層の成膜後に前記基体を磁界中に配置することにより、前記軟磁性裏打ち層に所定の方向の磁化容易軸を誘導する工程と、前記軟磁性裏打ち層上に強磁性体を含む垂直記録層を成膜する工程と、を含む垂直磁気記録媒体の製造方法であって、前記軟磁性裏打ち層を成膜する工程は、無電界めっき処理により成膜する工程とすることを特徴とする(請求項7)。
【0028】
また、前記請求項7に記載の製造方法において、前記無電界めっき処理により成膜する工程は、軟磁性材料を形成する原材料を含むめっき浴中に、前記反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散させた状態で基体を浸漬し、めっき処理する工程とすることを特徴とする(請求項8)。さらに、前記請求項7に記載の製造方法において、前記無電界めっき処理により成膜する工程は、基体のめっき浴への浸漬を、軟磁性材料を形成する原材料を含むめっき浴と、反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散させためっき浴との間を交互に行うことにより、めっき処理する工程とすることを特徴とする(請求項9)。
【0029】
また、前記請求項7ないし9のいずれか1項に記載の製造方法において、前記無電界めっき処理により成膜する工程は、前記反強磁性粒子または硬質磁性粒子の分散剤として、界面活性剤を用いる工程とすることを特徴とする(請求項10)。
【0030】
前記製造方法によれば、反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散してなる前記軟磁性裏打ち膜は、無電界めっき法により成膜し、その上に垂直記録層を成膜すればよいので、従来に比較して製造プロセスが簡略化される。また、無電界めっき法によれば、大面積で均一な膜が、簡便かつ安価に形成できる。さらに、界面活性剤の使用により、反強磁性粒子または硬質磁性粒子は、略均一に軟磁性材料中に分散できるので、略均一に磁化が誘導され、単磁区化が可能となる。従って、スパイクノイズ特性の向上が図れる。なお、軟磁性裏打ち層と垂直記録層との間には、中間層(垂直記録層の下地層)を設けることもできる。詳細は後述する。
【0031】
次に、本発明の垂直磁気記録媒体の製造装置としては、下記請求項11の発明が好ましい。即ち、本発明の製造装置は、基体上に、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散して含む軟磁性裏打ち層を、無電界めっき処理により形成する第1の成膜装置と、前記軟磁性裏打ち層に所定方向の磁化容易軸を誘導する磁界印加手段を有する異方性制御装置と、前記軟磁性裏打ち層上に、スパッタ法により垂直記録層を形成する第2の成膜装置とを備えることを特徴とする(請求項11)。
【0032】
また、先に記載のいずれかの垂直磁気記録媒体を具備する磁気記録装置の発明としては、下記請求項12の発明が好ましい。即ち、本発明の磁気記録装置は、前記請求項2ないし6のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体であって、前記軟磁性裏打ち層の膜面内の径方向に磁化容易軸を形成してなる垂直磁気記録媒体と、該垂直磁気記録媒体を駆動するための駆動部と、磁気情報の記録再生を行うための磁気ヘッドとを備え、移動する前記垂直磁気記録媒体に対して前記磁気ヘッドにより磁気情報の記録再生を行うことを特徴とする(請求項12)。
【発明の効果】
【0033】
この発明によれば、低周波ノイズの低減、スパイクノイズの抑制、および製造プロセスの簡素化を図った垂直磁気記録媒体とその好適な製造方法および製造装置、並びに磁気記録装置が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、この発明の実施形態に関して、図に基いて説明する。なお、これらの実施形態は、発明の趣旨のより良い理解のために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以後の説明において、圧力をTorrの単位で表記するが、これをSI単位であるPa(パスカル)に変換する場合には、1Torr=133Paにより換算すればよい。さらに、磁界をOe(エルステッド)の単位で表記する場合があるが、これをSI単位であるA/m(アンペア毎メートル)に変換する場合には、1Oe=79.58A/mにより換算すればよい。
(実施形態1:垂直磁気記録媒体)
HYPERLINK "http://www.patent.ne.jp/patent/cache/" \l "fig1" 図1は、本発明に係る典型的な垂直磁気記録媒体の実施形態の断面模式図である。図1において、垂直磁気記録媒体1は、基体2上に、軟磁性裏打ち層3と、強磁性体からなる垂直記録層4と、保護層5とを積層した構成を備える。基体2は、円板状の非磁性体からなる基板2a上に、該基板2aと異なる材質の非磁性体からなる被覆層2bが形成されている。
【0035】
まず、基体について述べる。基板2aは、例えば、アルミニウム、チタンまたはその合金、シリコン、ガラス、カーボン、セラミックス、プラスチック、樹脂、またはこれらの複合体により構成される。被覆層2bは、高温で磁化せず、導電性を有し、熱伝導性が良く、機械加工などがし易く、しかも適度な表面硬度を有する非磁性材料により構成される。このような条件を満たす非磁性材料としては、NiP、NiTa、NiAl、NiTi等があり、これらの非磁性材料は、スパッタ法、蒸着法、メッキ法等により形成することができる。
【0036】
一般に、垂直磁気記録媒体の場合、磁気ヘッドが該垂直磁気記録媒体に書き込まれた信号を良好に読みとるためには、磁気ヘッドと該垂直磁気記録媒体の空隙は小さい方が望ましい。特に、磁気ヘッドが垂直磁気記録媒体上を浮上しながら記録再生する場合には、その浮上量は出来るだけ小さい方が望ましい。さらに、磁気ヘッドを浮上させずに垂直磁気記録媒体の表面に接触させて記録再生することができればより望ましい。したがって、垂直磁気記録媒体用の基体としては、優れた表面平滑性を有するものが望ましく、さらには、基体の表裏両面の平行性、基体の円周方向のうねり、および表面の粗さが適切に制御されたものが望ましい。
【0037】
以上の観点より、好ましい基体2としては、例えば、ガラス基板、シリコン基板、アルミニウム基板等の表面平滑性に優れた基板2a上に、NiP層、NiTa層、NiAl層、あるいはNiTi層等からなる被覆層2bを形成したものが好適である。中でも、ガラス基板は基体の薄型化に対応できる剛性も兼ね備えていることからより好ましい。この基体2においては、記録再生時に垂直磁気記録媒体1と磁気ヘッドの表面同士が接触および摺動する際の摩擦や摩耗を改善する目的から、その表層部に凹凸付与を目的としたバッファ層を形成した構成としても構わない。
【0038】
また、この基体2においては、その上に堆積される垂直記録層4等をなす結晶粒子の初期成長段階において、結晶成長を促す核として機能する層として、二次元的な平坦層ではなく、局所的に点在した島状のシード層を備えた構成としてもよい。このようなシード層は、その上に形成される堆積層を構成する結晶粒の微細化や、その粒径の分散の度合いの狭小化等が実現可能である(特開2001−52330号参照)。
【0039】
さらに、基体2が回転/停止する際に、垂直磁気記録媒体1と磁気ヘッドの表面同士が接触および摺動する(CSS:Contact Start Stop)ことへの対策として、従来の面内磁気記録媒体用の基体と同様に、基体2の表面に概ね同心円状の軽微なキズ(テクスチャ)を設けても構わない。
【0040】
次に、軟磁性裏打ち層3について述べる。図2は、軟磁性裏打ち層の概念的模式図であり、図の下方に、P部を拡大して示す。図示のように、軟磁性裏打ち層3は、めっき軟磁性膜31中に、反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)32が分散した状態となっている。図中、磁化Mの方向を太線の矢印で示す。なお、図2において、磁化Mの方向は、軟磁性裏打ち層3の膜面内の径方向に磁化容易軸を形成してなるものを示すが、後述する図6A,B,Cに示すように、媒体の使用目的に応じて、図2で示す径方向(図6Cに相当)以外に、円周方向(図6A)や等方(図6B)など、磁気異方性を誘導することにより、所定の方向を選択して形成できる。
【0041】
また、めっき軟磁性膜31における軟磁性材料はNiFeP合金またはNiFeB合金とし、反強磁性粒子32は、MnIr合金粒子,MnPt合金粒子またはMnNi合金粒子とする。反強磁性粒子に代えて硬質磁性粒子を使用する場合には、Co粒子,FePt合金粒子またはCoPt合金粒子を使用する。軟磁性裏打ち層3の膜形成工程および磁気異方性誘導等の製造工程等については後述するが、図2に示す軟磁性裏打ち層3は、無電界メッキにより、軟磁性材料と反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)とを分散共析させ、単層膜として形成できるので、前述のように、層構成が簡素化され、また層全体が容易に単磁区化できる。なお、反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)の直径は、将来の600GBPIを想定するとそのbit長である12nm以下とすることが好ましい。また交換結合が働く作用領域に鑑み、分散共析状態の磁気的な実効粒間距離は、200T・nm以下が好ましい。
【0042】
さらに、軟磁性裏打ち層3の膜厚は、100nm〜500nm程度の範囲とし、この範囲において、その表面粗さ(Ra)は0.5nm以下の平坦性を有するものとすることができる。めっき表面を研磨することにより、Raは0.3nmとすることができる。これにより、表面の凹凸に起因する磁極からの漏れ磁束を低減することができ、その結果、低周波ノイズの低減が図れる。
【0043】
次に、垂直記録層4について述べる。垂直記録層4は、磁化容易軸が膜面に略垂直方向に配向した強磁性材料であればよく、特に組成を限定するものではないが、例えば、CoとCrを主たる成分とし、磁化容易軸が膜面に略垂直方向に配向した六方稠密構造(hcp:hexagonal closest packed structure)を有するCoCr系強磁性材料が好適に用いられる。このCoCr系強磁性材料は、必要に応じて他の元素を添加したものであっても良い。
【0044】
CoCr系強磁性材料の具体例としては、CoCr(Cr<25at%)、CoCrNi、CoCrTa、CoCrPt、CoCrPtTa、CoCrPtB等のCoCr系合金が挙げられる。また、この垂直記録層4の結晶粒の粒径制御や粒間の偏析制御、結晶粒の結晶磁気異方性定数Kugrainの制御、耐食性の制御、低温プロセスへの対応等を目的として、O、SiOx、Fe、Mo、V、Si、B、Ir、W、Hf、Nb、Ru、希土類元素等を適宜添加してもよい。
【0045】
また、上記のCoCr系合金以外の強磁性材料、例えば、CoPt、CoPd、FePt等の熱擾乱耐性に優れた材料や、それらを微細化するためにB、N、O、SiOx、Zr等を添加した材料を用いてもよい。さらに、Co層とPd層を多数積層した多層構造の垂直記録層も適用可能である。このような多層構造の垂直記録層としては、Co層とPt層、あるいはFe層とPt層等を組み合わせた多層構造の垂直記録層、またはこれらの各層にB、N、O、Zr、SiOx等を添加したものも適用可能である。
【0046】
また、この垂直記録層4と軟磁性裏打ち層3との間に下地層を設けても良い。この下地層としては、その上に形成される垂直記録層4を垂直磁化膜化させ得る材料であれば、いかなる材料であっても構わない。また、下地層の構成は、単層構造の他、2層またはそれ以上の多層構造であってもよい。
【0047】
この下地層は、垂直記録層4がCoCr系強磁性材料であれば、Ti、Ta、Ru、Cu、Pt、Rh、Ag、Au等の単元素からなる金属材料や、これらにCrなどを加えた合金材料等からなる層を含む構成としてもよい。特に、垂直記録層4がCoPt、CoPd、FePt等の熱擾乱耐性に優れた層構造、あるいは当該層を含む多層構造である場合には、C、Si、SiN、SiO、PdSiN、AlSiN等からなる、垂直記録層4の物理的・化学的な磁気的孤立化を促進する層を含んた構成としてもよい。このように、これらの材料を下地層として用いれば、保磁力等を向上させることができる。さらに、これらの材料にその結晶性を損なわない程度にN、Zr、C、B等から選ばれる1種以上の元素を添加すれば、下地層の結晶粒の微細化が促進され、媒体の記録再生特性が向上する。
【0048】
次に、保護層5は、垂直記録層4の表面を保護するためのもので、保護膜として必要な機械的強度、耐熱性、耐酸化性、耐腐食性等を備えたものであればよく、特に材料組成を限定するものではないが、例えば、カーボンが好適に用いられる。
【0049】
(実施形態2:垂直磁気記録媒体の製造方法及び製造装置)
次に、本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造方法及び製造装置について説明する。図1に示す垂直磁気記録媒体1を製造する場合について、図3ないし図6を参照して以下に述べる。図3は、本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造装置の例を示す概念的構成図である。
図3(a)は、基体2を加熱する工程と、軟磁性裏打ち層3に磁界を印加する工程を別々に行う場合の装置構成を示し、図3(b)は、基体2を加熱する工程と、軟磁性裏打ち層3に磁界を印加する工程を同時に行い、かつ基体2の冷却中にも磁界の印加を行う場合の構成を示している。なお、各図において、装置全体を各ブロックに分け、所定機能を有するサブ装置(P1〜P5)をイメージ的に示すが、これらは製造工程の順序を正確に示すものではなく、また、基体が共通のチャンバ内を連続的に搬送されることを示しているわけではない。
【0050】
装置全体を構成する場合に考慮すべき点は、概念的には、構造制御のための加熱工程のための室と、磁気異方性制御のための加熱・冷却処理工程のための室とに二分した方が好ましい。但し、加熱工程は構造制御のためにも異方性制御のためにも用いられるため、工程簡略化のために、図3(b)に示すように、これらを同一としても構わない。また、これらの工程は、記録層の特性を損なわなければ、記録層成膜後に設けても構わない。
【0051】
まず、図3(a)の装置について述べる。図3(a)に示す製造装置は、5つのサブ装置P1〜P5を備える。P1は、基体の出し入れを行うためのロード・アンロード装置である。サブ装置P2は、基体上に、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散して含む軟磁性裏打ち層を、無電界めっき処理により形成する第1の成膜装置である。なお、C1は、基体の載置台であり、めっき浴中に設けられる。無電界めっき処理方法の詳細は後述する。
【0052】
次に、図3(a)において、サブ装置P3は、2基のヒータ(加熱手段)Hが備えられた構造制御装置であり、ここで軟磁性材料の相や組織が制御される。また、サブ装置P4は、マグネット(磁界印加手段)Mを備える異方性制御装置であり、ここで軟磁性裏打ち層に所定方向の磁化容易軸を誘導する。さらに、サブ装置P5は、スパッタ用のカソードC2を備え、スパッタ法により垂直記録層を形成する第2の成膜装置である。
【0053】
前記各サブ装置には、内部に導入された基体を搬送するための搬送手段(図示略)が設けられている。また、サブ装置P2を除く各サブ装置には、その内部を排気するための排気手段(図示略)が設けられている。
【0054】
なお、第2の成膜室P5の後段には、更に他の成膜室や加熱手段を備えた加熱室が設けられていてもよく、例えば図1に示す垂直磁気記録媒体1を製造する場合には、保護膜5を成膜するための第3の成膜室が、第2の成膜室P5の後段に設けられる。また、各サブ装置間には、必要に応じて、隣接する各サブ装置内を遮断するための遮断弁が設けられていても良い。また、図3(a)では、第2の成膜室P5のカソードC2を片側にのみ設けた場合を示したが、カソードC2を互いに対向するように2基備えた構成としても良く、このような構成とすれば、基体両面への成膜が可能となる。
【0055】
一方、図3(b)に示す製造装置では、前述のように、サブ装置P3において、ヒータHとマグネットMとを備えており、また、基体2の冷却中にも基体2に磁界を印加できるようになっている。なお、前述のように、放射状印加磁界下でめっきする場合には、図3(b)において、マグネットMを、サブ装置P2内に設けることにより実施できる。
【0056】
次に、上記図3に示す装置を用いて垂直磁気記録媒体を製造する方法について説明するが、その前に、サブ装置P2により、軟磁性裏打ち層を、無電界めっき処理により形成する方法について、図4および図5に基づき以下に述べる。図4は、軟磁性材料と反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)とを、複合めっきにより分散共析する方法の概念的説明図である。また、図5は、めっき条件等のめっき緒元の詳細を説明する図である。なお、図5においては、反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)の粒子および界面活性剤に関しては表示していない。
【0057】
図4において、31および32は図2と同様に、それぞれ、めっき軟磁性膜および反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)を示す。また、41は、例えばガラス製のめっき容器、42はめっき浴を示す。さらに、めっき浴42内の右側の図は、めっき軟磁性膜および反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)が、基体30上に、無電界めっきにより分散共析した状態を示し、めっき浴42内の左側の図は、反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)32が、めっき浴中に、界面活性剤33と共に分散した状態のイメージを示す。
【0058】
次に、図5により、無電界めっきにおけるめっき緒元について述べる。無電界めっきは周知のように、化学めっきともいわれ、金属塩の水溶液中での化学反応、主に還元反応を利用して基体30の金属を被覆する方法である。還元剤以外の材料も含め、めっき浴は、図5に示すように、NiSO4, FeSO4, NaH2PO2, pH調整剤,錯化剤等からなり、このめっき浴中に、図5には図示しない反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)の粒子を界面活性剤と共に、分散させる。なお、前記反強磁性粒子としては、MnIr合金粒子またはMnPt合金粒子が好ましいが、他に、MnNiも使用できる。また、前記硬質磁性粒子としては、Co粒子またはFePt合金粒子が好ましいが、他に、CoPt等の一軸磁気異方性が大きい合金微粒子も使用できる。さらに、界面活性剤としては、オレイン酸等のカルボン酸もしくはオレイルアミン等の活性剤が使用できる。
【0059】
また、基体30としては、例えば、前記非特許文献4にも記載されたAl/Ni-Pディスクとし、軟磁性材料としては、Ni83Fe15P2(wt.%)とし、その磁気特性はBs=0.9T, Hc=2-3Oeとする。さらに、成膜条件としては、図5の下方に示すように、例えば、めっき浴の浴温:80℃、同pH:9.6とし、また成膜レートは1μm/15minとする。また、前記Ni-P層およびNi83Fe15P2層の表面は、アルカリタイプのコロイダルシリカを用いた研磨を行い、表面粗さRa=0.3nmまで平坦化を行う。
【0060】
なお、基体としては、上記以外に、ガラスやプラスティック、樹脂が使用でき、軟磁性材料としては、上記NiFeP合金以外に、NiFeB合金が使用できる。なお、軟磁性材料をNiFeB合金とする場合のめっき条件等については、後述する実施例の項において、詳述する。
【0061】
さらに、下記のような周知の軟磁性材料、即ち、Fe,FeTaN,FeSiAl,CoFe,CoNiFeのような高い飽和磁束密度(Bs)を有する合金材料に添加剤のBやPが含まれる材料も使用できる。上記軟磁性材料のうち、前記NiFeB合金やNi83Fe15P2(wt.%)のような軟磁性材料、即ち、Ni80wt.%Fe20wt.%組成近傍のNiFe膜は、結晶磁気異方性と磁歪が小さいため、容易に軟磁気特性を誘導できるので、軟磁性材料として、特に好適である。また、めっき浴のpHは、Feの酸化防止のためにアルカリ性となるように、7以上が好ましい。さらにまた、腐食性の観点からは、Feを用いないことが望ましいが、この観点からは、CoNiPが好ましい。
【0062】
次に、前記図3(a)に示す装置に戻って、図1に示す垂直磁気記録媒体1を製造する手順について説明する。まず、基体2をロード・アンロード装置P1へ導入する。そして、基体2を第1の成膜室P2へ移動させ、前述のように、無電界複合めっきを行い、基体2上に軟磁性裏打ち層3を成膜する。次いで、軟磁性裏打ち層3の成膜が終了したならば、基体2を第2の成膜室P5へ移動させ、垂直記録層13の成膜を行う。そして、垂直記録層13の成膜が終了したならば、基体2を第2の成膜室P5の後段に設けられた成膜室(図示略)へ移動させ、保護膜5の成膜を行う。
【0063】
次に基体2を加熱室P3へ移動させ、ヒータHにより基体2(軟磁性裏打ち層3)の表面温度が、例えば250℃程度となるように加熱する。次いで、基体2の加熱が終了したならば、その基体2を異方性制御装置P4へ移動させ、マグネットMの正面に基体2を配置してマグネットMにより軟磁性裏打ち層3へ磁界を印加しながら冷却する。この工程において軟磁性裏打ち層3に、例えば、基体2の径方向外向きへの一方向磁気異方性が誘導される。
【0064】
以上の工程が終了した基体2を、再度ロード・アンロード装置P1へ搬送し、サブ装置P1から外部へ取り出す。このようにして、図3(a)に示す製造装置により、本発明に係る垂直磁気記録媒体1を製造することができる。なお、FeTaNやFeSiAl等、軟磁性材料の種類によっては、構造・組織制御の目的で加熱が必要な場合があるが、その際にも加熱室P3が利用できることは言うまでもない。
【0065】
また、図3(b)に示す製造装置を用いても、図1に示す構成の垂直磁気記録媒体1を製造することができる。この場合、図3(a)に示す製造装置を用いた場合の効果に加えて、軟磁性裏打ち層3の磁化をより強固に固定することができるという効果が得られる。これは、図3(b)に示す製造装置では、サブ装置P3及びサブ装置P4に磁界印加手段であるマグネットMが備えられており、基体2の加熱中及び冷却中のいずれにおいても、基体2に磁界を印加できるようになっているからである。
【0066】
図6は軟磁性裏打ち層3の磁化容易軸の方向を模式的に示す。図6A〜Cに示す符号Dはディスク状の基体の一部を示しており、ディスクD上に符号Sで示す線分の方向および長さは、軟磁性裏打ち層の異方性磁界の方向および大きさを概念的に示すものである。点は、異方性磁界がほぼ0であること、すなわち、等方的であることを示す。前記サブ装置P3またはサブ装置P4におけるにマグネットMによれば、その磁界中加熱・冷却条件を適切に制御することで、基体円周方向または基体径方向、あるいは等方的に軟磁性裏打ち層に磁気異方性を誘導することができる。
【0067】
なお、上記製造方法において、第2の成膜室P5においては、スパッタ法を用いるが、このスパッタ法としては基体がターゲットの前を移動しながら薄膜が形成される搬送型スパッタ法と、基体をターゲットの前に固定して薄膜が形成される静止型スパッタ法を例示することができる。前者の搬送型スパッタ法は、量産性が高いため、低コストな磁気記録媒体の製造に有利であり、後者の静止型スパッタ法は、基体に対するスパッタ粒子の入射角度が安定なために、記録再生特性に優れる磁気記録媒体の製造が可能とされる。本発明に係る垂直磁気記録媒体1を製造する際には、搬送型、静止型のいずれかに限定されるものではない。
【0068】
(実施形態3:磁気記録装置)
次に、本実施形態の垂直磁気記録媒体を備えた磁気記録装置について、図7および図8に基づき説明する。図7は、本実施形態のハードディスク装置(磁気記録装置)を示す側断面図、図8は、図7に示す磁気記録層の平断面図である。図7,8において、符号50は磁気ヘッド、70はハードディスク装置、71は筐体、72は垂直磁気記録媒体、73はスペーサ、78はサスペンション、79はスイングアームである。
【0069】
このハードディスク装置70は、円板状の垂直磁気記録媒体72、磁気ヘッド50等を収納する内部空間を備えた直方体形状の筐体71が外形を成しており、この筐体71の内部には複数枚の垂直磁気記録媒体72がスペーサ73と交互にスピンドル74に挿通されて設けられている。また、筐体71にはスピンドル74の軸受(図示略)が設けられ、筐体71の外部にはスピンドル74を回転させるためのモータ75が配設されている。この構成により、全ての垂直磁気記録媒体72は、スペーサ73によって磁気ヘッド50が入るための間隔を空けて複数枚重ねた状態で、スピンドル74の周回りに回転自在とされている。
【0070】
筐体71の内部かつ垂直磁気記録媒体72の側方位置には、軸受け76によってスピンドル74と平行に支持されたロータリ・アクチュエータと呼ばれる回転軸77が配置されている。この回転軸77には複数個のスイングアーム79が各垂直磁気記録媒体72の間の空間に延出するように取り付けられている。各スイングアーム79の先端には、その上下位置にある各垂直磁気記録媒体72の表面と傾斜して向かう方向に固定された、細長い三角板状のサスペンション78を介して磁気ヘッド50が取り付けられている。
【0071】
この磁気ヘッド50は、図示されていないが、垂直磁気記録媒体72に対して情報を書き込むための記録素子と、垂直磁気記録媒体72から情報を読み出すための再生素子を備えている。また、このハードディスク装置70では、垂直磁気記録媒体72を回転させるとともに、スイングアーム79を移動させて該スイングアーム79に取り付けられている磁気ヘッド50を垂直磁気記録媒体72に近づけ、この磁気ヘッド50が発生した磁界を垂直磁気記録媒体72の垂直記録層に作用させることにより、垂直磁気記録媒体72に所望の磁気情報を書き込むことができる。さらに、スイングアーム79を移動させて磁気ヘッド50を垂直磁気記録媒体72上の任意の位置に移動させ、垂直磁気記録媒体72を構成している垂直記録層からの漏れ磁界を磁気ヘッドの再生素子で検出することにより磁気情報を読み出すことができる。
【0072】
上記のように、このハードディスク装置70は、本実施形態の軟磁性裏打ち層を有する垂直磁気記録媒体72を用いたので、従来の垂直磁気記録媒体と比較して低ノイズ化を実現でき、高記録密度の情報の記録再生が可能である。従って、高記録密度での磁気情報の記録再生を安定して行うことができるハードディスク装置70を提供することができる。
【0073】
なお、このハードディスク装置70では、複数枚の垂直磁気記録媒体72をスペーサ73と交互にスピンドル74に挿通した構成としたが、垂直磁気記録媒体72の枚数は、1枚以上の任意の枚数で良く、上記の構成に限定されない。また、搭載する磁気ヘッド50の数も1個以上であればよく、任意の数設けてもよい。また、スイングアーム79の形状や駆動方式も図7及び図8に示すものに限らず、リニア駆動方式、その他の方式でも良いのはもちろんである。
【実施例】
【0074】
以上のように、本発明の実施形態としては種々の形態が採用できるが、以下に、本発明の代表的な垂直磁気記録媒体の実施例について述べる。実施例の垂直磁気記録媒体は、基体としては、Al/Ni-Pディスクを用い、その上に、図1に示すように、軟磁性裏打ち層3と、強磁性体からなる垂直記録層4と、カーボンからなる保護層5とを積層した構成を備えるものとした。垂直記録層4としては、(74at%Co-10at%Cr-16at%Pt)-8mol%SiO2を用いた。
【0075】
また、軟磁性裏打ち層3としては、Ni83Fe15P2(wt.%)またはNi63.4Fe34.2B0.4(wt.%)からなる軟磁性材料中に、規則化したFePtの硬質磁性粒子を分散して含む膜とし、膜面内の径方向に磁化容易軸を形成してなるものとした。前記FePは規則化することにより硬質磁性粒子となり、軟磁性材料との間で優れた交換結合を行なう材料として機能する。
【0076】
前記軟磁性裏打ち層3は無電解めっき法により形成し、その無電解めっき条件としては、図12に示す条件とした。なお、図12(a)は、Ni83Fe15P2の場合を示し、実質的に前記図5と同等である。また、図12(b)は、Ni63.4Fe34.2B0.4の場合を示し、Ni83Fe15P2の場合と対比させて、各条件を示す。図12(a)の場合は、添加剤として、次亜リン酸ナトリウムを使用し、めっき膜の中にP(リン)が入るのが特徴であり、できる結晶は、比較的大きなNiFe結晶が自己の<111>方向に成長して隣接結晶粒と成長の競合がおきたような組織となる。一方、図12(b)の場合は、添加剤として、DMAB(ジメチルアミンボラン)を使用し、めっき膜の中にB(ホウ素)が入るのが特徴であり、できる組織は微結晶となる。上記両軟磁性材料とも、軟磁気特性に優れるので、本願発明における軟磁性裏打ち層3に好適である。
【0077】
次に、前記規則化したFePt微粒子の作製方法と、めっき軟磁性膜へのFePt微粒子の分散化等について、図13および図14に基づいて以下に述べる。図13は本実施例に係る規則化したFePt微粒子の作製方法を示す図、図14は本実施例に係る規則化したFePt微粒子の分散化工程を示す図である。まず、図13について述べる。図13は、出発物質、還元剤、溶媒、界面活性剤等の材料や、処理手順、処理温度、処理時間等を模式的に説明する図である。
【0078】
出発物質は、Pt(acac)2(白金アセチルアセトネート)と、FeCl2-4H2Oである。まず、溶媒フェニルエーテル中に前記出発物質と還元剤としての1,2-ヘキサデカンジオールとを溶解させ、マントルヒータで60min加熱する。この工程において、フェニルエーテル溶媒の中でヘキサデカンジオールが還元剤として働き、FeとPtとを還元する。その後、界面活性剤(オレイン酸、オレイルアミン)を混入・攪拌することにより、合成された不規則のFePtは凝集せずに、溶媒中に分散する。合成後、熱処理を行なうために溶媒の変換が必要となるが、そのために、まず、エタノールにより微粒子を洗浄する。これにより、界面活性剤は一部取り除かれ、微粒子は多少凝集する。凝集化した微粒子を、遠心分離器で分離し、フェニルエーテル溶媒中からFePt微粒子を抽出する。次に、沸点が327℃のトリエチレングリコール(TEG)中に、FePt微粒子を再分散し、300℃で3時間、溶媒中で熱処理する。これにより、FePtは規則化し、硬質磁性を示すに至る。
【0079】
次に、図14について述べる。図14は、前記の規則化したFePt微粒子の分散化工程を示す。まず、NiFe軟磁性材料を無電解めっきする(工程(1))。具体的には、前記図12(a)のNi83Fe15P2もしくは図12(b)のNi63.4Fe34.2B0.4のいずれかによる。所定の時間、めっきを行なった後、図14の下段の模式的説明図に示すように、硬質磁性微粒子(規則化したFePt微粒子)を、磁場中で配向させながら付着させる処理を行なう(工程(2))。前記工程(1)と工程(2)とを繰り返し、所定回数行なうことにより、FePt微粒子の分散化が行なわれる。なお、FeP微粒子の分散化に際しては、図14の工程(2)の項に示すように、微粒子分散溶液を超音波振動(3〜5min)させ、溶液中の微粒子を均一分散させることが好ましい。また、工程(2)においては、微粒子分散溶液への基板の浸漬、基板の引上げ、窒素雰囲気乾燥の手順により、分散処理を行なう。浸漬および引上げの際の速度は、約1μm/s〜2.0mm/sが好ましい。
【0080】
上記のような製造手順により垂直磁気記録媒体を製作することにより、硬質磁性粒子が略均一に軟磁性材料中に分散され、さらに略均一に磁化が誘導され、単磁区化がなされた垂直磁気記録媒体が得られた。また、上記により、低周波ノイズおよびスパイクノイズの抑制が図れることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明に係る垂直磁気記録媒体の実施形態の断面模式図。
【図2】図1における軟磁性裏打ち層の概念的模式図。
【図3】本発明に係る垂直磁気記録媒体の製造装置の例を示す概念的構成図。
【図4】図3の装置において、軟磁性裏打ち層を無電界めっきにより形成する方法の概念的説明図。
【図5】図4の無電界めっきにおけるめっき緒元の一例を示す図。
【図6】本発明に係る軟磁性裏打ち層の磁化容易軸の方向を模式的に示す図。
【図7】本発明に係る磁気記録装置(ハードディスク装置)の実施形態を示す側断面図。
【図8】図7に示す磁気記録層の平断面図。
【図9】非特許文献4に開示された、めっき軟磁性膜付Al基板を用いたFM/AFM積層体の構成を示す図。
【図10】非特許文献2に開示された、磁気的層間結合を有する裏打ち膜の層構成とその磁化曲線の模式図。
【図11】非特許文献2に開示された、磁気的層間結合を有する図10とは異なる裏打ち膜の層構成とその磁化曲線の模式図。
【図12】本発明の実施例に係る無電界めっき条件を示す図。
【図13】本発明の実施例に係る規則化したFePt微粒子の作製方法を示す図。
【図14】本発明の実施例に係る規則化したFePt微粒子の分散化工程を示す図。
【符号の説明】
【0082】
1,72 垂直磁気記録媒体
2 基体
3,30 軟磁性裏打ち層
4 垂直記録層
5 保護層
31 めっき軟磁性膜
32 反強磁性粒子(または硬質磁性粒子)
33 界面活性剤
41 めっき容器
42 めっき浴
50 磁気ヘッド
70 ハードディスク装置
C1 基体の載置台
C2 スパッタ用のカソード
H ヒータ(加熱手段)
M マグネット(磁界印加手段)
P1〜P5 垂直磁気記録媒体の製造装置のサブ装置
S 異方性磁界の方向および大きさ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性裏打ち層と、該軟磁性裏打ち層上に形成され、その磁化容易軸が膜面の垂直方向に配向された強磁性体からなる垂直記録層とを備える垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性裏打ち層は、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散して含む膜とすることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記軟磁性裏打ち層は、膜面内の径方向,円周方向等の所定の方向に磁化容易軸を形成してなることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記軟磁性材料は、NiFeP合金またはNiFeB合金とすることを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記反強磁性粒子は、MnIr合金粒子,MnPt合金粒子またはMnNi合金粒子とすることを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記硬質磁性粒子は、Co粒子,FePt合金粒子またはCoPt合金粒子とすることを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記軟磁性裏打ち層は、膜厚100nm〜500nmの範囲において、表面粗さ0.5nm以下の平坦性を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
基体上に、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散して含む軟磁性裏打ち層を成膜する工程と、前記軟磁性裏打ち層の成膜後に前記基体を磁界中に配置することにより、前記軟磁性裏打ち層に所定の方向の磁化容易軸を誘導する工程と、前記軟磁性裏打ち層上に強磁性体を含む垂直記録層を成膜する工程と、を含む垂直磁気記録媒体の製造方法であって、前記軟磁性裏打ち層を成膜する工程は、無電界めっき処理により成膜する工程とすることを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記無電界めっき処理により成膜する工程は、軟磁性材料を形成する原材料を含むめっき浴中に、前記反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散させた状態で基体を浸漬し、めっき処理する工程とすることを特徴とする請求項7に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記無電界めっき処理により成膜する工程は、基体のめっき浴への浸漬を、軟磁性材料を形成する原材料を含むめっき浴と、反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散させためっき浴との間を交互に行うことにより、めっき処理する工程とすることを特徴とする請求項7に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
前記無電界めっき処理により成膜する工程は、前記反強磁性粒子または硬質磁性粒子の分散剤として、界面活性剤を用いる工程とすることを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
基体上に、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散して含む軟磁性裏打ち層を、無電界めっき処理により形成する第1の成膜装置と、前記軟磁性裏打ち層に所定方向の磁化容易軸を誘導する磁界印加手段を有する異方性制御装置と、前記軟磁性裏打ち層上に、スパッタ法により垂直記録層を形成する第2の成膜装置とを備えることを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造装置。
【請求項12】
請求項2ないし6のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体であって、前記軟磁性裏打ち層の膜面内の径方向に磁化容易軸を形成してなる垂直磁気記録媒体と、該垂直磁気記録媒体を駆動するための駆動部と、磁気情報の記録再生を行うための磁気ヘッドとを備え、移動する前記垂直磁気記録媒体に対して前記磁気ヘッドにより磁気情報の記録再生を行うことを特徴とする磁気記録装置。
【請求項1】
軟磁性裏打ち層と、該軟磁性裏打ち層上に形成され、その磁化容易軸が膜面の垂直方向に配向された強磁性体からなる垂直記録層とを備える垂直磁気記録媒体において、前記軟磁性裏打ち層は、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散して含む膜とすることを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
前記軟磁性裏打ち層は、膜面内の径方向,円周方向等の所定の方向に磁化容易軸を形成してなることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項3】
前記軟磁性材料は、NiFeP合金またはNiFeB合金とすることを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項4】
前記反強磁性粒子は、MnIr合金粒子,MnPt合金粒子またはMnNi合金粒子とすることを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項5】
前記硬質磁性粒子は、Co粒子,FePt合金粒子またはCoPt合金粒子とすることを特徴とする請求項1または2に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項6】
前記軟磁性裏打ち層は、膜厚100nm〜500nmの範囲において、表面粗さ0.5nm以下の平坦性を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体。
【請求項7】
基体上に、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散して含む軟磁性裏打ち層を成膜する工程と、前記軟磁性裏打ち層の成膜後に前記基体を磁界中に配置することにより、前記軟磁性裏打ち層に所定の方向の磁化容易軸を誘導する工程と、前記軟磁性裏打ち層上に強磁性体を含む垂直記録層を成膜する工程と、を含む垂直磁気記録媒体の製造方法であって、前記軟磁性裏打ち層を成膜する工程は、無電界めっき処理により成膜する工程とすることを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
前記無電界めっき処理により成膜する工程は、軟磁性材料を形成する原材料を含むめっき浴中に、前記反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散させた状態で基体を浸漬し、めっき処理する工程とすることを特徴とする請求項7に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
前記無電界めっき処理により成膜する工程は、基体のめっき浴への浸漬を、軟磁性材料を形成する原材料を含むめっき浴と、反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散させためっき浴との間を交互に行うことにより、めっき処理する工程とすることを特徴とする請求項7に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
前記無電界めっき処理により成膜する工程は、前記反強磁性粒子または硬質磁性粒子の分散剤として、界面活性剤を用いる工程とすることを特徴とする請求項7ないし9のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
基体上に、軟磁性材料中に反強磁性粒子または硬質磁性粒子を分散して含む軟磁性裏打ち層を、無電界めっき処理により形成する第1の成膜装置と、前記軟磁性裏打ち層に所定方向の磁化容易軸を誘導する磁界印加手段を有する異方性制御装置と、前記軟磁性裏打ち層上に、スパッタ法により垂直記録層を形成する第2の成膜装置とを備えることを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造装置。
【請求項12】
請求項2ないし6のいずれか1項に記載の垂直磁気記録媒体であって、前記軟磁性裏打ち層の膜面内の径方向に磁化容易軸を形成してなる垂直磁気記録媒体と、該垂直磁気記録媒体を駆動するための駆動部と、磁気情報の記録再生を行うための磁気ヘッドとを備え、移動する前記垂直磁気記録媒体に対して前記磁気ヘッドにより磁気情報の記録再生を行うことを特徴とする磁気記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−48906(P2006−48906A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−199549(P2005−199549)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(592259129)
【出願人】(504264540)株式会社 機能材料科学研究所 (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(592259129)
【出願人】(504264540)株式会社 機能材料科学研究所 (5)
【Fターム(参考)】
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