説明

垂直磁気記録媒体の製造方法

【課題】磁気記録層の磁性結晶粒子を適切に微細化する。
【解決手段】垂直磁気記録方式で情報を記録する垂直磁気記録媒体100の製造方法であって、上層の結晶方位を制御する下地層118を成膜する下地層成膜工程と、下地層118の結晶方位に応じた方向に磁化容易軸が向く磁性結晶粒子306が非磁性物質308のマトリックス中に分散するグラニュラ構造の磁気記録層である主記録層120を成膜する磁気記録層成膜工程とを備え、下地層成膜工程は、希ガスと多原子分子ガスとの混合ガスをスパッタリングガスとして用いるスパッタリング法により、下地層118の少なくとも最上層部を成膜する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、垂直磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のHDD(ハードディスクドライブ)に代表される磁気記録装置では、2.5インチ径磁気ディスクにして、1枚辺り80GBを超える情報記憶容量が求められるようになってきた。HDD用の磁気記録媒体である磁気ディスクにおいて、これらの所要に応えるためには、1平方インチ辺り100Gビット(100Gbit/inch)を超える情報記憶密度を実現することが求められている。このような高記録密度で安定した記録再生を行うには磁気記録再生方式として垂直磁気記録方式を採用することが望ましいと考えられている。また、垂直磁気記録方式において用いられる垂直磁気記録媒体としては、高い熱安定性と良好な記録特性を示すことから、磁気記録層としてCoCrPt−SiOを用いる垂直磁気記録媒体や、CGC媒体が提案されている。
【0003】
これらの垂直磁気記録媒体において、記録密度を向上させるためには、主に、磁気記録層の磁化遷移領域ノイズの低減(S/N比の向上)が必要になる。また、そのためには、磁気記録層の磁性結晶粒子の結晶配向を向上させつつ、結晶粒径の制御によって磁性結晶粒子間の磁気的相互作用の大きさを低減させる必要がある。
【0004】
尚、この結晶粒径の制御においては、磁性結晶粒子を適切に微細化することが求められる。従来、磁性結晶粒子を微細化し得る構造として、磁気記録層の下にRu−SiO等の層を設ける構成が知られている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【特許文献1】特開2006−85742号公報
【特許文献2】特開2002−334424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている構成において、Ru−SiO等の層である上部中間層の下には、Ru層である下部中間層が更に設けられている。これは、上部中間層に酸化物を添加すると結晶配向性が劣化しやすいためである。例えば特許文献2に開示されている構成のように、Ru層を設けずに、Ru−SiO等のみを設けた場合、近年求められている高い記録密度を達成しようとする場合に必要となる十分な結晶配向性を得られないおそれがある。
【0006】
しかし、例えばRu−SiO等の層とRu層とを両方設ける場合、異なる組成の層が増えることとなるため、膜構成が複雑になる。また、例えばそれぞれ異なるスパッタリングターゲットが必要になり、工程のコスト増大の影響が大きくなる。そのため、従来、磁性結晶粒子を適切に微細化し得るより簡単なプロセスが求められていた。そこで、本発明は、上記の課題を解決できる垂直磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、希ガスと多原子分子ガスとの混合ガスをスパッタリングガスとして用いるスパッタリング法により、下地層を成膜することにより、磁気記録層の磁性結晶粒子を適切に微細化し得ることを見出した。これは、このような混合ガスを用いた場合、下地層そのものの結晶粒径が微細化され、その結果、その上にある磁気記録層の磁性結晶粒子も微細化されるためであると考えられる。また、この混合ガスとして、例えば、アルゴンガスに所定濃度の酸素ガスを加えたガスを用いることが好適であることを見出した。本発明は以下の構成を有する。
【0008】
(構成1)垂直磁気記録方式で情報を記録する垂直磁気記録媒体の製造方法であって、上層の結晶方位を制御する下地層を成膜する下地層成膜工程と、下地層の結晶方位に応じた方向に磁化容易軸が向く磁性結晶粒子が非磁性物質のマトリックス中に分散するグラニュラ構造の磁気記録層を成膜する磁気記録層成膜工程とを備え、下地層成膜工程は、希ガスと多原子分子ガスとの混合ガスをスパッタリングガスとして用いるスパッタリング法により、下地層の少なくとも最上層部を成膜する。
【0009】
下地層は、例えばRu層である。下地層の最上層部とは、例えば、下地層における磁気記録層側の界面を含む層である。この垂直磁気記録媒体は、例えば、垂直磁気記録方式のHDDに搭載される。磁気記録層の磁性結晶粒子は、例えば、CoCrPtの磁性結晶粒子である。磁気記録層においてマトリックスを構成する非磁性物質は、例えばTiOである。この非磁性物質は、SiO等の他の酸化物であってもよい。
【0010】
このようにすれば、例えば、下地層を構成する結晶粒子を適切に微細化できる。また、これにより、下地層上に形成される磁気記録層中の磁性結晶粒子を適切に微細化できる。更には、磁性結晶粒子を微細化することにより、磁気記録層の磁化遷移領域ノイズを低減し、例えばトラック幅の狭化が可能になる。また、これにより、記録密度を適切に高めることができる。
【0011】
下地層成膜工程は、下地層として、複数の層の積層膜を成膜してもよい。この場合、下地層の最上層部は、例えば、積層膜の最上層である。下地層成膜工程は、希ガスと多原子分子ガスとの混合ガスをスパッタリングガスとして用いるスパッタリング法により、例えば、少なくとも積層膜の最上層を形成する。また、下地層成膜工程は、下地層の複数の層を、同一のターゲットを用いて形成することが好ましい。このようにすれば、層の増加によるコストの上昇を抑えることができる。
【0012】
ここで、単原子分子ガスである希ガスと多原子分子ガスとは、運動の自由度の違いから、物理的な性質が異なる。そのため、スパッタリングガスとして希ガスと多原子分子ガスとの混合ガスを用いる場合、希ガスのみを用いる場合と比べ、スパッタリングガスの物理的な作用が異なると考えられる。また、その作用の違いから、下地層の結晶粒子の微細化が促進されていると考えられる。
【0013】
混合ガスに含まれる希ガスとしては、例えばアルゴン(Ar)を好適に用いることができる。また、希ガスとして、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)等を用いることも考えられる。多原子分子ガスとしては、例えば酸素ガス(O)を好適に用いることができる。また、多原子分子ガスとして、窒素ガス(N)や二酸化炭素ガス(Co)等を用いることも考えられる。
【0014】
(構成2)下地層は、hcp結晶構造のRuの層であり、磁気記録層の磁性結晶粒子は、hcp結晶構造の磁性結晶粒子である。このようにすれば、例えば、下地層の結晶構造により、磁気記録層の磁性結晶粒子の結晶配向性を適切に制御できる。また、例えば、下地層の結晶粒子を微細化することにより、磁気記録層の磁性結晶粒子を適切に微細化できる。
【0015】
(構成3)多原子分子ガスは、酸素ガスである。このようにすれば、下地層の結晶粒子をより適切に微細化できる。また、これにより、磁気記録層の磁性結晶粒子をより適切に微細化できる。
【0016】
尚、多原子分子ガスとして酸素ガスを用いる場合、この混合ガスを用いたスパッタリングが反応性スパッタリングとなっているとも考えられる。この場合、上記で説明した物理的な作用ではなく、主として化学的な作用により下地層の結晶粒子の微細化が促進されているとも考えられる。例えば、下地層の結晶粒子の表面は、例えば酸素と反応して酸化しているとも考えられる。そして、この酸化反応の影響により、下地層の結晶粒子の微細化が促進されているとも考えられる。
【0017】
(構成4)混合ガスは、0.8〜3.0%の濃度の酸素ガスを含む。このようにすれば、下地層の結晶粒子をより適切に微細化できる。また、これにより、磁気記録層の磁性結晶粒子をより適切に微細化できる。
【0018】
(構成5)下地層成膜工程は、記磁気記録層から遠い下層側に形成される第1層と、第1層上に形成される第2層とを含む下地層を成膜し、希ガスのみをスパッタリングガスとして用いるスパッタリング法により、第1層を成膜し、希ガスと多原子分子ガスとの混合ガスをスパッタリングガスとして用い、かつ、ガス圧を第1層の形成時よりも高くするスパッタリング法により、第2層を成膜する。希ガスのみをスパッタリングガスとして用いるとは、例えば、希ガス以外の成分を意図的に加えないガスをスパッタリングガスとして用いることである。
【0019】
下地層において、第1層は、例えば、上層の結晶配向性を制御する目的で形成される結晶配向制御層である。また、第2層は、例えば上層の結晶粒子を微細化する目的で形成される結晶粒径制御層である。第1層の形成時のガス圧は、0.5Pa〜2Pa(例えば1.0Pa)とすることが好ましい。第2層の形成時のガス圧は、4.0Pa以上(例えば6〜7Pa)とすることが好ましい。
【0020】
このようにすれば、複数の層の多層膜で構成される下地層を形成する場合に、例えば、下層の第1層に高い結晶配向性を持たせることができる。また、第1層の高い結晶配向性を上層の第2層に反映させることにより第2層の結晶配向性を高めつつ、第2層の結晶粒子を微細化できる。そのため、このようにすれば、磁気記録層に近い側の第2層に対し、結晶配向性の向上と、結晶粒子の微細化とを適切に行うことができる。また、これにより、磁気記録層の磁性結晶粒子に対しても、結晶配向性の向上と、結晶粒子の微細化とを適切に行うことができる。
【0021】
尚、下地層における第1層及び第2層は、例えばRu層である。下地層成膜工程は、第1層及び第2層を、同じターゲットを用いて形成することが好ましい。このようにすれば、スパッタリングガスを変更するのみで、第1層及び第2層を成膜できるため、層の増加によるコストの上昇を抑えることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、例えば、磁気記録層の磁性結晶粒子を適切に微細化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る垂直磁気記録媒体100の構成の一例を示す。図1(a)は、垂直磁気記録媒体100の層構成の一例を示す垂直磁気記録媒体100の断面図である。図1(b)は、下地層118及び主記録層120における結晶構造の一例の概略を示す模式図である。垂直磁気記録媒体100は、垂直磁気記録方式のHDDに用いられる磁気ディスクであり、基板110、付着層112、軟磁性層114、シード層116、下地層118、主記録層120、連続層122、媒体保護層124、及び潤滑層126を、この順番で備える。
【0024】
基板110は、垂直磁気記録媒体100の基体(ディスク基体)である。基板110は、例えばアモルファスのアルミノシリケートガラス等で形成されたガラスディスクであることが好ましい。アルミノシリケートガラスは、平滑かつ高剛性が得られるので、磁気的スペーシング、特に、記録ヘッド等の磁気ヘッドの浮上量をより安定して低減できる。また、アルミノシリケートガラスは化学強化により、高い剛性強度を得ることができる。
【0025】
付着層112から連続層122までの各層は、基板110上に、例えば、真空引きを行った成膜装置を用い、Ar雰囲気中でDCマグネトロンスパッタリング法にて順次成膜される。また、媒体保護層124は、例えばCVD法により、連続層122上に形成される。潤滑層126は、ディップコート法により、媒体保護層124上に形成される。尚、上記の各層は、例えば、インライン型成膜方法を用いて成膜してもよい。このようにすれば、例えば、均一な成膜が可能となる。
【0026】
以下、各層の構成及び製造方法について更に詳しく説明する。本例において、付着層112、軟磁性層114、シード層116、下地層118、主記録層120、連続層122、媒体保護層124、及び潤滑層126のそれぞれは、各層を成膜する付着層成膜工程、軟磁性層成膜工程、シード層成膜工程、下地層成膜工程、主記録層成膜工程、連続層成膜工程、媒体保護層成膜工程、及び潤滑層成膜工程により、基板110上に順次成膜される。このうち、下地層成膜工程以外の工程は、その工程に対応する層を成膜する公知の工程と同一又は同様の工程であってよい。
【0027】
付着層112は、基板110と軟磁性層114との間の付着性を向上させることにより軟磁性層114の剥離を防止する層である。付着層112の材料としては、例えばTi含有材料を用いることができる。また、実用上の観点から、付着層112の膜厚は、1nm〜50nmとするのが好ましい。本例において、付着層112は、例えば、10nmのTi合金層となるように、Ti合金ターゲットを用いて成膜する。
【0028】
軟磁性層114は、磁気ヘッドとの間に磁気回路を構成する層であり、例えばアモルファスの軟磁性材料で形成される。アモルファスの軟磁性材料としては、例えばFeCoTaZrを用いることができる。軟磁性層114の膜厚は、例えば40nm〜60nmである。尚、軟磁性層114は、非磁性層を挟んで反強磁性交換結合(AFC Antiferro−magnetic exchange coupling)する複数の軟磁性材料の層の積層膜であってもよい。
【0029】
シード層116は、軟磁性層114を防護するとともに上層の下地層118における結晶粒の配向の整列を促進する層である。シード層116としては、例えばfcc構造を有するNiW又はNiCrの層を用いることができる。
【0030】
下地層118は、上層の結晶方位を制御する層である。本例において、下地層118は、それぞれhcp結晶構造を有する2層のRu層であり、主記録層120から遠い下層側に形成される第1層のRu層である結晶配向制御層202と、結晶配向制御層202上に形成される第2層のRu層である結晶粒径制御層204とを有する。下地層118としてRuの結晶粒子を含むRu層を用いることにより、主記録層120の結晶配向性を効果的に向上させ、保磁力Hcを高めることができる。
【0031】
尚、主記録層120の磁性結晶粒子がhcp構造(六方細密充構造)を有する場合、磁化容易軸はC軸である。そのため、垂直磁気記録方式においては、このC軸を基板110の法線方向に配向させる必要がある。そして、このC軸の配向性を向上させるためには、主記録層120の下に、主記録層120の磁性結晶粒子と同じ結晶構造であるhcp構造を有する非磁性の下地層118を設けることが有効である。
【0032】
ここで、下地層118を成膜する下地層成膜工程について更に詳しく説明する。本例において、下地層成膜工程は、Ruのターゲットを用い、例えばAr等の希ガスのみをスパッタリングガスとして用いるスパッタリング法により、結晶配向制御層202を成膜する。結晶配向制御層202の成膜時において、スパッタリングガスのガス圧は、0.5Pa〜2Pa(例えば1.0Pa)とすることが好ましい。
【0033】
このようにした場合、結晶配向制御層202は、基板110の主表面と垂直な基板110の法線方向に伸びる柱状の結晶粒子302を含む構造となる。また、上記のような低いガス圧により結晶配向制御層202を成膜することにより、高い結晶配向性を有する結晶粒子302を形成できる。
【0034】
そして、結晶配向制御層202の成膜後、下地層成膜工程は、Ruのターゲットをそのまま用い、例えばAr等の希ガスと酸素ガス(O)との混合ガスをスパッタリングガスとして用いるスパッタリング法により、結晶粒径制御層204を成膜する。結晶粒径制御層204の成膜時において、スパッタリングガスのガス圧は、結晶配向制御層202の成膜時よりも高く、4.0Pa以上(例えば6〜7Pa)とすることが好ましい。
【0035】
このようにした場合、結晶粒径制御層204は、基板110の法線方向に伸びる柱状の結晶粒子304を含む構造となる。また、結晶粒子304は、結晶配向制御層202の結晶粒子302から継続して成長する。そのため、結晶粒子304も、結晶粒子302の結晶配向性を反映して、高い結晶配向性を有する。
【0036】
また、結晶配向制御層202の成膜時と比べて高いガス圧で結晶粒径制御層204を成膜するため、結晶粒径制御層204における結晶粒子304の粒径は、結晶配向制御層202における結晶粒子302よりも小さくなる。更に、本例においては、多原子分子ガスである酸素ガスを含むスパッタリングガスを用いることにより、希ガスのみをスパッタリングガスに用いる場合と比べ、結晶粒径制御層204における結晶粒子304の粒径を更に小さくできる。そのため、本例によれば、結晶粒径制御層204の粒径をより適切に微細化できる。また、これにより、下地層118の上層に形成される主記録層120の磁性結晶粒子306を適切に微細化できる。
【0037】
ここで、結晶粒径制御層204の成膜時にスパッタリングガスとして用いる混合ガスは、0.8〜1.2%の濃度の酸素ガスを含むことが好ましい。このようにすれば、結晶粒径制御層204の結晶粒子304を適切に微細化できる。酸素ガスの濃度が小さすぎる場合、酸素ガスを混合する効果が小さくなり、結晶粒子304の微細化が十分に促進されないおそれがある。また、酸素ガスの濃度が大きすぎる場合、結晶粒子304の結晶配向性への影響が大きくなり、結晶配向性の劣化が生じるおそれがある。
【0038】
尚、結晶粒子302や結晶粒子304の粒径とは、例えば、基板110の主表面と平行な断面における結晶粒子302や結晶粒子304の径である。この径は、例えば、結晶粒子302や結晶粒子304の断面を楕円近似した場合の長径と短径の平均である。
【0039】
また、結晶粒径制御層204の成膜時のスパッタリングガスは、希ガスと、酸素ガス以外の多原子分子ガスとの混合ガスを用いることも考えられる。また、下地層118としては、Ru層に代えて、例えばTi、V、Zr、又はHfの層等を用いることも考えられる。
【0040】
主記録層120は、磁気記録層の一例であり、磁性結晶粒子306が非磁性物質308のマトリックス中に分散する磁性のグラニュラ構造を有する。磁性結晶粒子306は、下地層118の結晶粒子304から継続的に成長しており、磁性結晶粒子306の磁化容易軸は、下地層118の結晶方位に応じた方向を向く。また、グラニュラ構造のマトリックスを構成する非磁性物質308は、例えば磁性結晶粒子306の間の粒界部に偏析する酸化物である。
【0041】
ここで、垂直磁気記録方式では、例えば、磁気記録層をグラニュラ構造の層として磁性結晶粒子を孤立微細化することにより、S/N比(Signal/Noise Ratio)及び保磁力Hcを向上させることができる。本例においては、主記録層120として、例えば、非磁性物質の例としての酸化チタン(TiO)又は酸化珪素(SiO)を含有するCoCrPtからなる硬磁性体のターゲットを用いて、hcp構造の磁性結晶粒子を含むグラニュラ構造の層を形成する。
【0042】
主記録層120の膜厚は、例えば、7nm〜15nmの範囲で適宜設定できる。また、主記録層120を成膜するためのターゲットの組成は、酸化チタン(TiO)又は酸化珪素(SiO)を例えば8mol%〜11mol%の割合で含有する組成とする。このようにした場合、主記録層120において、CoCrPtの磁性結晶粒子306は、例えば、下地層118の結晶粒子302及び結晶粒子304の結晶方位に応じた方向に配向し、基板110の法線方向へ柱状に伸びる。また、結晶粒子304の粒界部には、非磁性物質308である酸化チタン(TiO)又は酸化珪素(SiO)が偏析する。そのため、このようにすれば、グラニュラ構造の主記録層120を適切に成膜できる。
【0043】
ここで、本例において、主記録層120の磁性結晶粒子306は、下地層118における結晶粒径制御層204の結晶粒子304から継続してエピタキシャル成長する。また、酸素ガスを含むスパッタリングガスを用いて結晶粒径制御層204を成膜することにより、結晶粒子304は微細化されている。また、結晶粒子304の微細化に伴い、主記録層120の磁性結晶粒子306も微細化する。そのため、本例によれば、主記録層120の磁性結晶粒子306を適切に微細化できる。また、これにより、主記録層120の磁化遷移領域ノイズを低減し、記録密度を適切に高めることができる。
【0044】
また、本例において、主記録層120の磁性結晶粒子306は、結晶粒径制御層204の結晶粒子304を介して、結晶配向制御層202の結晶粒子302の高い結晶配向性を反映する。そのため、本例によれば、主記録層120の磁性結晶粒子306の結晶配向性を適切に高めることもできる。
【0045】
連続層122は、面方向に磁性が連続している層である。連続層122は、例えば磁化容易軸が主記録層120と同一方向に揃った交換エネルギー制御層として機能し、主記録層120と交換結合することにより、主記録層120による磁気記録の熱安定性を高める。本例において、連続層122は、CoCrPtB膜である。連続層122の膜厚は10nm以下であることが好ましく、望ましくは5nm以下である。
【0046】
媒体保護層124は、磁気ヘッドの衝撃から主記録層120を防護する層である。媒体保護層124は、例えば、連続層122の成膜後に真空を保ったまま、CVD法によりカーボン膜を成膜して形成する。一般に、CVD法によって成膜されたカーボンは、スパッタリング法によって成膜したものと比べて膜硬度が向上する。そのため、このようにすれば、磁気ヘッドからの衝撃に対して、より有効に主記録層120を防護できる。
【0047】
尚、媒体保護層124を構成するカーボン膜は、例えば炭化水素(水素化カーボン)の膜である。水素化カーボンを用いることにより、膜強度を適切に向上させることができる。また、これにより、磁気ヘッドからの衝撃に対して、主記録層120をより適切に防護できる。
【0048】
潤滑層126は、磁気ヘッドに対して垂直磁気記録媒体100の表面の潤滑性を高める層である。潤滑層126は、例えばPFPE(パーフロロポリエーテル)を用いて、ディップコート法により成膜する。PFPEは、直鎖構造を備えており、磁気ディスクに必要な適度な潤滑性能を発揮する。また、末端基に水酸基(OH)を備えることで、カーボン膜である媒体保護層124に対して高い密着性能を発揮する。潤滑層126の膜厚は、例えば約1nm(例えば0.5nm〜2nm)とすることが好ましい。
【0049】
以下、実施例及び比較例により、本発明について更に詳しく説明する。
(実施例1)
最初に、アモルファスのアルミノシリケートガラスをダイレクトプレスで円盤状に成型し、ガラスディスクを作成した。そして、このガラスディスクに研削、研磨、化学強化を順次施し、化学強化ガラスディスクからなる平滑な非磁性ディスク基体である基板110を得た。基板110の直径は、65mm、内径は20mm、ディスク厚は0.635mmの2.5インチ型磁気ディスク用基板である。得られた基板110の表面粗さをAFM(原子間力顕微鏡)で観察したところ、Rmaxが2.18nm、Raが0.18nmの平滑な表面であることを確認した。尚、Rmax及びRaは、日本工業規格(JIS)に従う。
【0050】
次に、基板110上に、DCマグネトロンスパッタリングで順次、付着層112、軟磁性層114、シード層116、下地層118、主記録層120、及び連続層122の成膜を行った。
【0051】
まず、付着層112として、10nmのCrTi層を成膜した。次に、軟磁性層114として、非磁性層を挟んで反強磁性交換結合する2層の軟磁性材料の層の積層膜を成膜した。軟磁性層114の成膜においては、最初に、1層目の軟磁性材料の層として、25nmのアモルファスFeCoTaZr層を成膜した。次に、非磁性層として、2nmのRu層を成膜した。そして、2層目の軟磁性材料の層として、1層目の軟磁性材料の層と同様にして、25nmのアモルファスFeCoTaZr層を成膜した。また、続いて、軟磁性層114上に、シード層116として、10nmのNiW層を成膜した。
【0052】
次に、下地層118として、結晶配向制御層202及び結晶粒径制御層204の2層のRu層を成膜した。この工程においては、最初に、Ruのターゲットを用い、Arのみをスパッタリングガスとして用いるスパッタリング法により、10nmの結晶配向制御層202を成膜した。結晶配向制御層202の成膜時において、スパッタリングガスのガス圧は、1.0Paとした。また、結晶配向制御層202の成膜後、Ruのターゲットをそのまま用い、Arと酸素ガス(O)との混合ガスをスパッタリングガスとして用いるスパッタリング法により、結晶粒径制御層204を成膜した。結晶粒径制御層204の成膜時において、スパッタリングガスのガス圧は、結晶配向制御層202の成膜時よりも大きく、6.0Paとした。また、酸素ガスの濃度は、0.27%とした。
【0053】
続いて、主記録層120として、hcp構造のCoCrPt−TiOからなる硬磁性体のターゲットを用いて、8nmのCoCrPt−TiO層を成膜した。次に、連続層122として、7.5nmのCoCrPtB膜を成膜した。
【0054】
そして、連続層122の成膜に続いて、CVD法により、炭化水素(水素化カーボン)からなる媒体保護層124を成膜した。媒体保護層124の膜厚は、5nmとした。そして、この後、PFPE(パーフロロポリエーテル)からなる潤滑層126を、ディップコート法により形成した。潤滑層126の膜厚は1nmとした。以上のようにして、実施例1に係る垂直磁気記録媒体100を作成した。
【0055】
(実施例2、3)
下地層118における結晶粒径制御層204の成膜時のスパッタリングガスに含まれる酸素ガスの濃度を、実施例2において0.46%、実施例3において0.90%にした以外は実施例1と同様にして、実施例2、3に係る垂直磁気記録媒体100を作成した。
【0056】
(比較例1)
下地層118における結晶粒径制御層204の成膜時のスパッタリングガスに含まれる酸素ガスの濃度を0%として、Arのみからなるスパッタリングガスを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る垂直磁気記録媒体100を作成した。
【0057】
(参考例)
比較例1の構成に対し、下地層118と主記録層120との間に第1オンセット層及び第2オンセット層を更に成膜した。第1オンセット層及び第2オンセット層は、下地層118のhcp構造の上に順次形成される非磁性のグラニュラ構造の層である。このような第1オンセット層及び第2オンセット層の上に主記録層120を形成することにより、磁性のグラニュラ構造の層である主記録層120において、初期段階(立ち上がり)から磁性結晶粒子間を分離させ、磁性結晶粒子を微細化できる。
【0058】
第1オンセット層としては、1.0nmのCoCr−SiO層を成膜した。また、第2オンセット層としては、3nmのCoCrPt−Cr層を成膜した。上記以外は比較例1と同様にして、参考例に係る垂直磁気記録媒体100を作成した。
【0059】
(評価)
実施例1〜3、比較例1、参考例に対して、保磁力Hcの測定を行った。図2は、保持力Hcの評価結果を示すグラフである。
【0060】
比較例1と参考例の比較から、例えば、第1オンセット層及び第2オンセット層を成膜しないことにより、保磁力が約150Oe程度低下することがわかる。これは、第1オンセット層及び第2オンセット層を成膜しない比較例1において、主記録層120における磁性結晶粒子の粒径が参考例よりも大きくなり、粒同士の相互作用が強まった結果であると考えられる。
【0061】
しかし、実施例1〜3の結果からわかるように、下地層118における結晶粒径制御層204の成膜時のスパッタリングガスとして酸素ガスを含む混合ガスを用いた場合、保磁力Hcが向上することがわかる。また、酸素ガスの濃度が大きくなるにつれ、保磁力Hcが大きくなり、例えば酸素ガスの濃度が約0.7%程度になると、保磁力Hcが参考例と同程度になることがわかる。
【0062】
これは、スパッタリングガスとして酸素ガスを含む混合ガスを用いることにより、下地層118における結晶粒径制御層204の結晶粒子が微細化し、更には、これに応じて主記録層120の磁性結晶粒子も微細化し、磁性結晶粒子間の相互作用が弱まったためであると考えられる。また、この結果から、例えば、酸素ガスの濃度を例えば0.7%より大きく、例えば0.8%以上とすることにより、第1オンセット層及び第2オンセット層を設けた場合以上の保磁力Hcが得られることがわかる。
【0063】
続いて、実施例1〜3、比較例1、参考例に対して、電磁変換特性の評価を行った。電磁変換特性の評価としては、磁気記録のトラック幅を変えながら、記録再生特性の評価を行うことにより、トラック幅とビットエラー率との関係を測定した。尚、記録再生特性の評価は、R/Wアナライザーと、垂直磁気記録方式用磁気ヘッドとを用いて行った。この磁気ヘッドとしては、記録側にSPT素子、再生側にGMR素子を備える磁気ヘッドを用いた。また、磁気ヘッドの浮上量は10nmとした。
【0064】
図3は、電磁変換特性の評価結果を示すグラフであり、実施例1〜3、比較例1、参考例において記録再生が可能な最小の実効記録トラック幅(MWw)を示す。グラフからわかるように、下地層118における結晶粒径制御層204の成膜時のスパッタリングガスに含まれる酸素ガスの濃度が大きくなるにつれ、実効記録トラック幅(MWw)は狭化する。 また、例えば酸素ガスの濃度が0.91%程度になると、参考例とほぼ同等の特性を達成することがわかる。そのため、酸素ガスの濃度を例えば0.91%より大きく、例えば0.95%以上とすることにより、第1オンセット層及び第2オンセット層を設けた場合以上の電磁変換特性を得ることができる。
【0065】
以上、本発明を実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、例えば垂直磁気記録媒体に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の一実施形態に係る垂直磁気記録媒体100の構成の一例を示す図である。図1(a)は、垂直磁気記録媒体100の層構成の一例を示す垂直磁気記録媒体100の断面図である。図1(b)は、下地層118及び主記録層120における結晶構造の一例の概略を示す模式図である。
【図2】保持力Hcの評価結果を示すグラフである。
【図3】電磁変換特性の評価結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0068】
100・・・垂直磁気記録媒体、110・・・基板、112・・・付着層、114・・・軟磁性層、116・・・シード層、118・・・下地層、120・・・主記録層、122・・・連続層、124・・・媒体保護層、126・・・潤滑層、202・・・結晶配向制御層、204・・・結晶粒径制御層、302・・・結晶粒子、304・・・結晶粒子、306・・・磁性結晶粒子、308・・・非磁性物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直磁気記録方式で情報を記録する垂直磁気記録媒体の製造方法であって、
上層の結晶方位を制御する下地層を成膜する下地層成膜工程と、
前記下地層の結晶方位に応じた方向に磁化容易軸が向く磁性結晶粒子が非磁性物質のマトリックス中に分散するグラニュラ構造の磁気記録層を成膜する磁気記録層成膜工程と
を備え、
前記下地層成膜工程は、希ガスと多原子分子ガスとの混合ガスをスパッタリングガスとして用いるスパッタリング法により、前記下地層の少なくとも最上層部を成膜することを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項2】
前記下地層は、hcp結晶構造のRuの層であり、
前記磁気記録層の前記磁性結晶粒子は、hcp結晶構造の磁性結晶粒子であることを特徴とする請求項1に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項3】
前記多原子分子ガスは、酸素ガスであることを特徴とする請求項1又は2に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項4】
前記混合ガスは、0.8〜3.0%の濃度の酸素ガスを含むことを特徴とする請求項3に記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
前記下地層成膜工程は、
前記磁気記録層から遠い下層側に形成される第1層と、前記第1層上に形成される第2層とを含む前記下地層を成膜し、
希ガスのみをスパッタリングガスとして用いるスパッタリング法により、前記第1層を成膜し、
希ガスと多原子分子ガスとの混合ガスをスパッタリングガスとして用い、かつ、ガス圧を前記第1層の形成時よりも高くするスパッタリング法により、前記第2層を成膜することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の垂直磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−157956(P2009−157956A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331432(P2007−331432)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】