説明

垂直磁気記録媒体

【課題】設計コストおよび製造コストの増大を招くことのない比較的単純な構造を有し、同時に良好なライタビリティとWATE抑制効果とを達成できる垂直磁気記録媒体の提供。
【解決手段】非磁性体基体上にSUL構造、および磁気記録層を含み、SUL構造が、非磁性基体側の第1SULと、磁気記録層側の第2SULと、第1SULと第2SULとの間の非磁性層から構成され、第2SULが、2層以上の軟磁性層と、1層以上のスペーサー層とを含み、スペーサー層は、隣接する2つの軟磁性層の間に存在し、スペーサー層は、非磁性かつ非晶質の材料からなり、5nm〜15nmの膜厚を有し、第2SULの実効透磁率が第1SULの実効透磁率よりも小さいことを特徴とする垂直磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気記録装置に用いられる磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録の高記録密度化を実現する技術として、垂直磁気記録方式が採用されてきている。垂直磁気記録方式は、記録媒体の主平面に対して垂直方向に記録を行なうことを特徴とする。垂直磁気記録方式に用いられる垂直磁気記録媒体は、垂直磁気異方性を持つ硬質磁性材料の磁気記録層と、磁気記録層への記録に用いられる単磁極ヘッドが発生する磁束を集中させる役割を担う軟磁性材料の裏打ち層(oft−magentic nder ayer)とを少なくとも含む。
【0003】
図1に、典型的な垂直磁気記録システムの構成を示す。図1に示すように、垂直磁気記録システムは、単磁極ヘッド100と垂直磁気記録媒体200とから構成される。単磁極ヘッド100は、主磁極110と、リターンヨーク120と、リターンヨークに巻き付けられたコイル130を含む。垂直磁気記録媒体は、SUL210と、任意選択的に設けてもよい層である中間層220と、磁気記録層230とを少なくとも含む。コイル130を流れる電流により発生した磁束300は、主磁極110を通り、主磁極110直下の磁気記録層230(存在する場合には、中間層220)を貫通し、SUL210の内部に到達する。そしてSUL210を抜けた後に、リターンヨーク12の直下の磁気記録層230を貫通し、リターンヨーク12に戻る。これにより、主磁極110直下の磁気記録層230の領域が所定の方向に磁化される。
【0004】
リターンヨーク120は、トラック横断方向において、数μmの幅を有し、この幅は、主磁極110の幅(50nm〜200nm)に比べて相当に大きい。このような設計によって、リターンヨーク120直下の磁束密度を主磁極110直下に比べて相当に減少させ、リターンヨーク120直下の磁気記録層230の磁化に対する影響を低減している。しかしながら、リターンヨーク120直下の磁気記録層230の磁化が、磁束300が作る磁界の影響を少なからず受けることは避けられない。場合によっては、この磁界により隣接トラックのデータの消去されてしまうことがある。この現象は、一般に、WATE(ide rea rack rasure)と呼ばれる。
【0005】
当該技術において、APC(nti−arallel oupled)−SUL構造と呼ばれるSUL構造が知られている。APC−SUL構造は、2つの軟磁性層の間に、数Åから数nm程度の膜厚を有する非磁性層を配置した構造であり、2つの軟磁性層は、垂直磁気記録媒体の面内方向において反平行に結合(反強磁性結合)している。APC−SUL構造は、SUL内に生じる磁壁に起因するスパイクノイズの発生が少ないことが知られている。また、APC−SUL構造が、WATEを抑制する効果を有することが知られている。
【0006】
たとえば、膜厚5nm以下の非磁性金属層と膜厚10nm以上の軟磁性層とを交互に積層した、3層または5層の積層構造で構成されたAPC−SUL構造が提案されている(特許文献1参照)。この提案のAPC−SUL構造においては、隣接する2つの軟磁性層は、その間に存在する非磁性金属層を介して反強磁性結合を形成している。前述のように、この提案のAPC−SUL構造は、SUL内に磁壁が生じることを防止して、スパイクノイズの発生を抑制している。
【0007】
さらに、APC−SUL構造において、透磁率に勾配を設けることが提案されている(特許文献2参照)。この提案においては、上側軟磁性層の透磁率を従来のAPC−SUL構造の上側軟磁性層よりも低くし、下側軟磁性層の透磁率を従来のAPC−SUL構造の下側軟磁性層よりも高くすることを特徴とする。また、3層以上の軟磁性層を設け、上側(磁気記録層側)から下側(基体側)に向けて、軟磁性層の透磁率を順次高くするSUL構造も提案されている。この提案においては、それぞれの軟磁性層を形成するための磁性材料および/またはその組成比を変化させることによって、透磁率を変化させている。この提案において、目的とする磁気記録においてはSUL構造全体が関与するのに対して、WATEではSUL構造の比較的浅い領域(磁気記録層に近い領域)のみが関与することが説明されている。そのため、WATEに関与する領域の軟磁性層の透磁率を低下させることによって、ライタビリティを低下させずに、WATEを抑制する効果を高めることができると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−79043号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/0328818号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の垂直磁気記録媒体では、WATEを抑制する必要から、APC−SUL構造が広く用いられてきた。しかしながら、将来的に磁気記録の高密度化がさらに進展した場合、従来のAPC−SUL構造では、WATEの抑制効果が十分に得られなくなると予想される。これは、良好なライタビリティとWATE抑制効果とがトレードオフの関係にあるためである。
【0010】
また、透磁率に勾配を設けたAPC−SUL構造(特許文献2参照)は、従来のAPC−SUL構造の限界を打破できる可能性がある。しかしながら、この構造においては、構成する磁性材料および/またはその組成比を変化させることによって、磁性層の透磁率を調整している。そのため、垂直磁気記録媒体の設計において、磁性材料の選択および最適化、ならびに磁性材料の組成比の設定および最適化の作業が必要となり、設計コストが増大する。また、APC−SUL構造の2つまたはそれ以上の軟磁性層を異なる材料を用いて形成する場合、材料コストの増加および形成プロセスの複雑化によって、製造コストが増大する。
【0011】
したがって、設計コストおよび製造コストの増大を招くことのない比較的単純な構造を有し、同時に良好なライタビリティとWATE抑制効果とを達成できる垂直磁気記録媒体に対する要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記要求を満足するために、本発明の垂直磁気記録媒体は:非磁性体基体上にSUL構造、および磁気記録層を含み;前記SUL構造が、前記基体側の第1SULと、前記磁気記録層側の第2SULと、前記第1SULと第2SULとの間の非磁性層から構成され;前記第2SULが、2層以上の軟磁性層と、1層以上のスペーサー層とを含み;前記スペーサー層は、隣接する2つの軟磁性層の間に存在し;前記スペーサー層は、非磁性かつ非晶質の材料からなり、5nm〜15nmの膜厚を有し、第2SULの実効透磁率が第1SULの実効透磁率よりも小さいことを特徴とする。あるいはまた、本発明の垂直磁気記録媒体は:非磁性体基体上にSUL構造、および磁気記録層を含み;前記SUL構造が、前記基体側の第1SULと、前記磁気記録層側の第2SULと、前記第1SULと第2SULとの間の非磁性層から構成され;前記第2SULが、2層以上の軟磁性層と、1層以上のスペーサー層とを含み;前記スペーサー層は、隣接する2つの軟磁性層の間に存在し;前記スペーサー層は、非磁性かつ非晶質の材料からなり、5nm〜15nmの膜厚を有し、第1SUL、ならびに第2SUL中の軟磁性層の全てが同一材料で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る垂直磁気記録媒体において、スペーサー層の膜厚および層数を制御することにより、磁気記録層側の第2SULの実効透磁率を、基体側の第1SULの透磁率よりも低くすることができる。このことによって、本発明に係る垂直磁気記録媒体は、高いWATE抑制効果を有する。さらに、第2SULの実効透磁率の減少を、第1SULの透磁率の増大で補うことにより、ライタビリティの低下を回避することができる。
【0014】
また、スペーサー層の膜厚および層数の制御により第2SULの実効透磁率を調製することができるため、本発明に係る垂直磁気記録媒体においては、媒体構成を比較的単純にすることができる。このことによって、設計コスト、材料コスト、および製造コストの増加を、比較的小さくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】一般的な垂直磁気記録システムの構成を示す図である
【図2】本発明の垂直磁気記録媒体の構成を示す図である。
【図3】本発明の垂直磁気記録媒体のSUL構造の詳細な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の垂直磁気記録媒体は:非磁性体基体上にSUL構造、および磁気記録層を含み;前記SUL構造が、前記基体側の第1SULと、前記磁気記録層側の第2SULと、前記第1SULと第2SULとの間の非磁性層から構成され;前記第2SULが、2層以上の軟磁性層と、1層以上のスペーサー層とを含み;前記スペーサー層は、隣接する2つの軟磁性層の間に存在し;前記スペーサー層は、非磁性かつ非晶質の材料からなり、5nm〜15nmの膜厚を有することを特徴とする。図2に、本発明の垂直磁気記録媒体の構成の一例を示す。図2の垂直磁気記録媒体1は、非磁性基体10の上に、SUL構造20、下地層30、磁気記録層40および保護層50を有する。
【0017】
非磁性基体10は、通常の磁気記録媒体に用いられる、NiPメッキを施したAl合金、ガラス、結晶化ガラス、Siなどを用いて形成することができる。
【0018】
下地層30は、(1)磁気記録層40の結晶粒子径および結晶配向の制御、および(2)SUL構造20と磁気記録層40との磁気的な結合の防止のために用いられる層である。したがって、下地層30は、非磁性であることが好ましい。下地層30の結晶構造は、磁気記録層40の材料に合わせて適宜選択される。たとえば、直上に位置する磁気記録層40が、六方最密充填(hcp)構造を有するCoを主体とした材料から形成される場合は、hcpまたは面心六方(fcc)構造を有する材料を用いて下地層30を形成することができる。あるいはまた、下地層30を非結晶構造とすることも可能である。下地層30を形成するための材料は、好ましくは、Ru、Re、Rh、Pt、Pd、Ir、Ni、Co、またはこれらを含む合金を含む。磁気ヘッドとSUL構造20との間のスペーシングを小さくしてライタビリティを向上させる観点から、下地層30の膜厚は小さいことが望ましい。しかしながら、(1)および(2)の機能を実現するために、下地層30はある程度の膜厚を有することを必要とする。下地層30は、好ましくは、3〜30nmの範囲内の膜厚を有する。下地層30は、スパッタ法など従来技術において知られている任意の方法で形成することができる。
【0019】
磁気記録層40は、結晶系の磁性材料を用いて形成することができる。用いることができる結晶系の磁性材料は、たとえば、CoおよびPtを少なくとも含む合金の強磁性材料を含む。この際、強磁性材料の磁化容易軸は、磁気記録を行う方向に向かって配向していることが必要である。垂直磁気記録を行うためには、磁気記録層40の材料の磁化容易軸(hcp構造のc軸)が、磁気記録媒体1の表面(すなわち非磁性基体10の主平面)に垂直方向に配向していることが必要である。
【0020】
あるいはまた、磁気記録層40は、磁性結晶粒子が非磁性体で隔てられた構造(いわゆる、グラニュラー構造)を有してもよい。この場合、磁性結晶粒子は、数nmの直径を有する柱状であることが好ましい。非磁性体はサブnm程度の厚さを有することが好ましい。磁性結晶粒子を形成する材料は、Co、Fe、Niなどの磁性元素を主体とする合金を含む。好ましくは、磁性結晶粒子を形成する材料は、CoPt合金にCr、B、Ta、Wなどの金属を添加した材料を含む。一方、非磁性体を形成する材料は、Si、Cr、Co、Ti、またはTaの酸化物あるいは窒化物を含む。
【0021】
磁気記録層40は、マグネトロンスパッタ法などの従来技術において知られている任意の方法を用いて形成することができる。グラニュラー構造を有する磁気記録層40を形成する場合、下地層30の結晶部分の上に磁性結晶粒子がエピタキシャル成長し、下地層30の粒界部分に非磁性体が形成されるような方法を用いることが好ましい。
【0022】
保護層50は、従来の磁気記録媒体において使用されている材料を用いて形成することができる。たとえば、カーボンを主体とする材料を用いて、保護膜50を形成することができる。保護層50は、単一層であっても、複数層の積層構造であってもよい。複数層の積層構造を有する場合、異なる性質の2種のカーボン層の積層構造、金属膜とカーボン膜との積層構造、あるいは、酸化物膜とカーボン膜との積層構造を用いることができる。保護層50は、CVD法、スパッタ法、蒸着法など従来技術において知られている任意の方法で形成することができる。
【0023】
さらに、保護層7の上に潤滑層(不図示)をさらに形成してもよい。潤滑層は、磁気ヘッドと垂直磁気記録媒体とが摺動する際に、両者の間に介在して垂直磁気記録媒体の表面が磨耗することを防止する。好適には、フッ素系の液体潤滑剤を用いて潤滑層を形成することができる。潤滑層は、ディップコート法、スピンコート法など従来技術において知られている任意の塗布方法で形成することができる。
【0024】
SUL構造20は、従来の垂直磁気記録媒体と同様に、磁気ヘッドからの磁束を制御して、記録再生特性を向上するために形成される層である。本発明におけるSUL構造20の構成の一例を図3に示す。図3のSUL構造20においては、非磁性基体10の側から、第1SUL21、非磁性層22、および第2SUL23が積層している。また、図3においては、第2SULが2層の軟磁性層26(a,b)と、隣接する軟磁性層の間に存在する1層のスペーサー層27からなる構成を示した。
【0025】
第1SUL21は、高い透磁率を有し、垂直磁気記録媒体のライタビリティを向上させる機能を有する。第1SUL21は、単一層から形成される。第1SUL21は、たとえば、従来のAPC−SUL構造に用いられている結晶質合金または微結晶質合金を用いて、第1SUL21を形成することができる。用いることができる結晶質合金は、NiFe合金、センダスト(FeSiAl)合金、CoFe合金などを含む。用いることができる微結晶質合金は、FeTaC、CoFeNi、CoNbZr、CoNiPなどを含む。ただし、本発明における第1SUL21の材料は、従来のAPC−SUL構造に用いられる材料よりも高いバルク透磁率を有する。たとえば、30以上、好ましくは30〜40のバルク透磁率を有する材料を用いて、第1SUL21を形成することが望ましい。
【0026】
非磁性層22は、たとえばRuなどの非磁性材料を用いて形成することができる。非磁性層22の膜厚は、第1SUL21と第2SULの最下層(すなわち、非磁性層22と接触する層)である軟磁性層26aとの間に、適度な強度の反強磁性結合が形成されるように選択される。非磁性層22は、好ましくは数Å〜数nm、より好ましくは0.3〜2nmの膜厚を有する。
【0027】
第2SUL23は、2層以上の軟磁性層26と、2つの軟磁性層の間に存在する1層以上のスペーサー層27とからなる積層構造を有する。ここで、第2SUL23の最下層、すなわち非磁性層22と接触する層は、軟磁性層26である。
【0028】
軟磁性層26(a,b)は、第1SUL21と同様に、従来のAPC−SUL構造に用いられている結晶質合金または微結晶質合金を用いて形成することができる。望ましくは、軟磁性層26(a,b)は、第1SUL21と同一の材料で形成される。これによって、用いる軟磁性材料の種類を削減して、材料コストの増加を防止することができる。同時に、垂直磁気記録媒体の製造プロセスを簡略化することにより、製造コストの増大を抑制することができる。
【0029】
スペーサー層27は、第2SUL23の実効透磁率を調整するための層である。本発明において、第2SUL23の実効透磁率は、第2SUL23全体の膜平均のバルク透磁率として定義される。本発明において、実効透磁率は、指定の積層構造を構成する各層に関する膜厚とバルク透磁率との積の総和を、指定の積層構造の総膜厚で除することによって求められる。
【0030】
スペーサー層27は、非磁性かつ非晶質の材料を用いて形成される。非磁性の材料を用いることによって、第2SUL23への磁気的影響を防止しながら、実効透磁率を効果的に減少させることが可能となる。また、非晶質の材料を用いることによって、スペーサー層27の上方に形成される磁気記録層40の微細構造(特に、結晶配向性、ならびにグラニュラー構造における磁性結晶粒子のサイズなど)に影響を及ぼさないようにすることができる。スペーサー層27の形成に用いることができる材料は、Cr基合金、たとえばCrTi、CrZr、CrTa、CrWなどを含む。
【0031】
スペーサー層27は、5nm〜15nmの範囲内の膜厚を有することが望ましい。この範囲内の膜厚を有することによって、磁気記録層40と第1SUL21との間のスペーシング増大によるライタビリティの低下を起こすことなしに、隣接する軟磁性層26間の磁気的結合を防止し、第2SUL23の実効透磁率を十分に低下させることが可能となる。
【0032】
図3においては、2層の軟磁性層26(a,b)と1層のスペーサー層27とを有する第2SUL23の例を示したが、軟磁性層26およびスペーサー層27の層数は、所望される第2SUL23の総膜厚および実効透磁率に依存して、適宜決定することができる。このことは、垂直磁気記録媒体の設計を容易にし、垂直磁気記録媒体の設計コストを削減することを可能とする。
【0033】
スペーサー層27の存在により、第2SUL23の実効透磁率は低下する。第2SUL23中の軟磁性層26(a,b)が占める体積が減少して、第2SUL23を通過する磁束が減少するためである。第2SUL23の実効透磁率は、従来技術のAPC−SUL構造の軟磁性層の透磁率よりも低く設定される。たとえば、第2SUL23が10〜23、好ましくは15〜20の実効透磁率を有することが望ましい。
【0034】
また、第1SUL21の透磁率および膜厚、ならびに第2SUL23の実効透磁率および総膜厚を調整することによって、SUL構造20の全体透磁率を、従来のAPC−SUL構造と同等の値に設定することが望ましい。
【0035】
第1SUL21の膜厚は、第2SUL23の総膜厚と同一であっても、異なっていてもよい。第1SUL21、非磁性層22および第2SUL23からなるSUL構造20の総膜厚は、従来技術のAPC−SUL構造と同様に、40〜80nmの範囲内であることが望ましい。
【0036】
本発明のSUL構造20は、第2SUL23の実効透磁率を、基体側の第1SUL21の透磁率よりも低くすることによって、高いWATE抑制効果を有する。また、第2SUL23の実効透磁率の減少を、第1SUL21の透磁率の増大で補うことにより、ライタビリティの低下を回避することができる。
【0037】
SUL構造20を構成する各層、すなわち、第1SUL21、非磁性層22、第2SUL23(軟磁性層26、スペーサー層27)は、スパッタ法など従来技術において知られている任意の方法で形成することができる。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
本実施例において、第2SUL23が2層の軟磁性層26(a,b)および1層のスペーサ層27から構成される垂直磁気記録媒体を製造した。
【0039】
最初に、表面が平滑な円盤状のガラス基板を洗浄し、次いでNiPメッキを施すことによって、非磁性基体10を準備した。
【0040】
次いで、非磁性基体10をスパッタ装置内に配置した。基板(非磁性基体10)温度を250℃とし、0.67Pa(5mTorr)のArガス雰囲気中でNi75Fe20Nb5ターゲットを用いるスパッタ法によって、膜厚30nmのNiFeNbからなる第1SUL21を形成した。第1SUL21の透磁率は30であった。
【0041】
次に、Arガス雰囲気の圧力を4.0Pa(30mTorr)に上昇させ、Ruターゲットを用いるスパッタ法によって、膜厚0.5nmのRuからなる非磁性層22を形成した。
【0042】
続いて、Arガス雰囲気の圧力を再び0.67Pa(5mTorr)に低下させNi75Fe20Nb5ターゲットを用いるスパッタ法によって、膜厚10nmのNiFeNbからなる軟磁性層26aを形成した。軟磁性層26aの透磁率は30であった。次に、基板温度を250℃とし、Cr60Ti40ターゲットを用いるスパッタ法によって、膜厚10nmのCrTiからなるスペーサ層27を形成した。スペーサー層27の透磁率は1.5であった。さらに、Ni75Fe20Nb5ターゲットを用いるスパッタ法によって、膜厚10nmのNiFeNbからなる軟磁性層26bを形成した。軟磁性層26a/スペーサー層27/軟磁性層26bからなる第2SUL23の総膜厚は30nmであり、実効透磁率は20.5であった。また、サンプルを別途調製して測定したSUL構造20(第1SUL21、非磁性層22および第2SUL23からなる)の全体透磁率は25であった。
【0043】
続いて、Arガス雰囲気の圧力を再び4.0Pa(30mTorr)に上昇させ、Ruターゲットを用いるスパッタ法によって、膜厚20nmのRuからなる下地層30を形成した。
【0044】
続いて、Arガス雰囲気の圧力を8.0Pa(60mTorr)に上昇させ、(Co75Pt2591(SiO29ターゲットを用いるスパッタ法によって、膜厚15nmのCoPt−SiO2からなる磁気記録層40を形成した。
【0045】
磁気記録層40以下の層を形成した積層体を、真空を破ることなしにCVD装置に移動させた。つづいて、炭化水素を原料ガスとするCVD法によって、膜厚3nmのカーボンからなる保護層50を形成した。保護層50の形成終了後、積層体をCVD装置から取り出した。
【0046】
最後に、ディップコート法を用いてパーフルオロポリエーテル系材料(Fomblin Z−Tetraol(SolvaySlexis社製))を塗布して、膜厚2nmの潤滑層を形成し、垂直磁気記録媒体を得た。
【0047】
(比較例1)
本比較例においては、従来技術のAPC−SUL構造の軟磁性裏打ち層を有する垂直磁気記録媒体を製造した。
【0048】
実施例1と同様の手順を用いて準備した非磁性基体をスパッタ装置内に配置した。基板温度を250℃とし、0.67Pa(5mTorr)のArガス雰囲気中でCo88Nb7Zr5ターゲットを用いるスパッタ法によって、膜厚30nmのCoNbZrからなる第1SULを形成した。第1SULの透磁率は25であった。
【0049】
続いて、Arガス雰囲気の圧力を4.0Pa(30mTorr)に上昇させ、Ruターゲットを用いるスパッタ法によって、膜厚0.5nmのRuからなる非磁性層を形成した。
【0050】
続いて、Arガス雰囲気の圧力を再び0.67Pa(5mTorr)に低下させ、Co88Nb7Zr5ターゲットを用いるスパッタ法によって、膜厚30nmのCoNbZrからなる第2SULを形成した。また、第2SULの透磁率は25であった。サンプルを別途調製して測定したSUL構造(第1SUL、非磁性層および第2SULからなる)の全体透磁率は25であった。
【0051】
次に、実施例1と同様の手順を用いて、下地層、磁気記録層、保護層および潤滑層を順次形成して、垂直磁気記録媒体を得た。
【0052】
(評価)
実施例1および比較例1で得られた垂直磁気記録媒体について、GMRヘッドを取り付けたスピンスタンドテスターを用いて、オーバーライト特性を評価した。用いたGMRヘッドは、140nmの記録トラック幅、および90nmの再生トラック幅を有した。オーバーライト特性は、(1)垂直磁気記録媒体のトラックに記録密度510kfciの第1信号を記録し、第1信号の信号出力(T1)を測定する工程、(2)同一トラックに記録密度68kfciの第2信号を上書きし、上書き後の第1信号の消し残りの信号出力(T2)を測定する工程、および(3)以下に示す式
OW=−20×log(T2/T1) (式中、「log」は常用対数を示す。)
によりOW値(単位:dB)を求める工程を含む方法にて評価した。高密度記録信号上に低密度記録信号を上書きするオーバーライト特性は、垂直磁気記録媒体におけるライタビリティを明確に評価できる指標となっている。
【0053】
また、実施例1および比較例1で得られた垂直磁気記録媒体について、WATEを評価した。WATEの評価は、(1)測定トラックに記録密度510kfciの測定用信号を記録し、記録した信号の信号出力(T3)を測定する工程、(2)測定トラックに隣接するトラックに105回にわたって記録密度550kfciの信号の記録を行い、その後に測定トラックの信号出力(T4)を測定する工程、(3)以下に示す式
WATE=100×(T4−T3)/T3
により、信号出力減衰量であるWATE値(単位:%)を求める工程を含む方法にて評価した。
【0054】
実施例1および比較例1のSUL構造の構成、ならびにオーバーライト特性およびWATEの評価結果を第1表に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
第1表から、実施例1の垂直磁気記録媒体が、比較例1の垂直磁気記録媒体よりも優れたWATE抑制効果を有することが分かった。これは、WATEがSUL構造の比較的浅い領域(すなわち、磁気記録層との距離が小さい領域)のみが関与することによると考えられる。すなわち、実施例1の垂直磁気記録媒体の第2SULの実効透磁率(20.5)が比較例1の垂直磁気記録媒体の第2SULの実効透磁率(25)よりも低く、それによってWATEがより効率的に抑制されたためと考えられる。
【0057】
一方、実施例1および比較例1の垂直磁気記録媒体は、同等のオーバーライト特性を示した。両媒体のWO値は、垂直磁気記録媒体として用いるのに必要十分な値(30dB以上)であり、良好なライタビリティを有することを示した。このことは、実施例1および比較例1の垂直磁気記録媒体のSUL構造がほぼ同等の全体透磁率(25)を有するため、記録時の磁気ヘッドから磁気記録層を介してSUL構造へと引き込まれる磁束がほぼ同等であることによると考えられる。
【0058】
以上のように、本発明によれば、オーバーライト特性(すなわちライタビリティ)を維持したまま、従来のAPC−SUL構造よりも改善されたWATEを有する垂直磁気記録媒体が提供される。加えて、本発明の垂直磁気記録媒体は比較的シンプルな構造を有するため、設計および製造における追加コストを削減することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 垂直磁気記録媒体
10 非磁性基体
20 SUL構造
21 第1SUL
22 非磁性層
23 第2SUL
26(a,b) 軟磁性層
27 スペーサー層
30 下地層
40 磁気記録層
50 保護層
100 単磁極ヘッド
110 主磁極
120 リターンヨーク
130 コイル
200 垂直磁気記録媒体
210 SUL
220 中間層
230 磁気記録層
300 磁束

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体基体上にSUL構造、および磁気記録層を含み、
前記SUL構造が、前記非磁性基体側の第1SULと、前記磁気記録層側の第2SULと、前記第1SULと第2SULとの間の非磁性層から構成され、
前記第2SULが、2層以上の軟磁性層と、1層以上のスペーサー層とを含み、
前記スペーサー層は、隣接する2つの軟磁性層の間に存在し、
前記スペーサー層は、非磁性かつ非晶質の材料からなり、5nm〜15nmの膜厚を有し、
前記第2SULの実効透磁率が前記第1SULの実効透磁率よりも小さい
ことを特徴とする垂直磁気記録媒体。
【請求項2】
非磁性体基体上にSUL構造、および磁気記録層を含み、
前記SUL構造が、前記非磁性基体側の第1SULと、前記磁気記録層側の第2SULと、前記第1SULと第2SULとの間の非磁性層から構成され、
前記第2SULが、2層以上の軟磁性層と、1層以上のスペーサー層とを含み、
前記スペーサー層は、隣接する2つの軟磁性層の間に存在し、
前記スペーサー層は、非磁性かつ非晶質の材料からなり、5nm〜15nmの膜厚を有し、
前記第1SUL、ならびに前記第2SUL中の軟磁性層の全てが同一の材料で形成されている
ことを特徴とする垂直磁気記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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