説明

型くずれ防止型電線および架線方法

【課題】架線工事の際に、型くずれが生じない型くずれ防止型電線およびその架線方法を提供する。
【解決手段】鋼芯2の周囲に丸素線3、5を複数層撚り合わせると共に、その最外層の一部の丸素線に、風音対策用の太径丸素線4を用いて形成された電線1において、上記最外層の丸素線3が金車上を抱き角2βで曲げられた際に、上記金車上の丸素線3の素線長さLと曲げにより生じる過不足長さdLとの比率dL/(L−dL)が、−0.0012×2β+0.0746以下となるように、上記最外層の丸素線3の撚りピッチを設定したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最外層が丸素線とその丸素線よりも太径の丸素線とを撚り合わせて形成された型くずれ防止型電線および架線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、架空送電線の電線からの風騒音低減を目的として、電線の表面に突起を設けた電線が開発されている。
【0003】
例えば、図17に示すように、鋼芯アルミより線72などの周りに、台形状に成形された細径のアルミ素線73と台形状に成形された太径のアルミ素線74とを撚り合わせて最外層を形成した電線71が提案されている。この電線71では、アルミ素線が柔らかいため、架線工事時に電線71が金車を通過する際の押し圧力により、電線71が変形しようとするが、電線71の表層の素線73、74が台形状に成形されていることで、隣り合う素線73、74が押し合う「ブリッジ効果」により、電線71の型くずれの防止を図っている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
すなわち、最外層に太径の素線が配置されている電線では、金車の通過時に、太径の素線のみが金車と接触して、他の素線が金車から浮き上がってしまうことがある。その浮き上がった素線には金車からの拘束力が働かないため、上述したように型くずれが生じるおそれがある。そこで、図17の電線71では、最外層の素線73、74を台形状として互いに拘束し合うようにしている。
【0005】
また、図18に示すように、光ファイバー82の周囲に、細径の素線83と太径の素線84とを撚り合わせて外層が形成されたOPGW(光ファイバ複合架空地線、外層に鋼より線を採用)81が提案されている。このOPGW81を架線する場合、内部の光ファイバー82を保護する必要がある。そこで、金車通過時の押し圧力を小さくなるように金車半径が大きいクローラ金車を使用したり、延線張力が小さくなる吊金工法を採用するようにしている。その結果として、OPGW81では型くずれが生じない。
【0006】
【特許文献1】特開平03−093108号公報
【特許文献2】特開平04−087210号公報
【特許文献3】特開平03−015110号公報
【特許文献4】特開昭63−116310号公報
【特許文献5】特公平01−033884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図17の台形状に形成された素線73、74を用いた電線71は、台形状素線73、74の加工やその撚り合わせに手間がかかり、電線のコストが高くなるという問題があった。
【0008】
その電線のコストを低減すべく、例えば、図17の台形状素線73、74を丸形状の素線にすることが考えられるが、そのような外層に太径と細径のアルミ丸素線を組み合わせた電線では、通常と同じ架線工法を用いた場合に、隣り合う素線間との接触が少ないためブリッジ効果が弱く、金車通過時の押し圧力により電線の型くずれが発生するという懸念がある。
【0009】
また、図18のOPGW81を架線する場合のように、クローラ金車を用いて、または吊金工法を採用して架線工事を行うと、架線工事費が高くなってしまうという問題があった。すなわち、OPGW81の架線工事では、単位面積当たりの電線の押し圧力を小さくすべく、金車半径が大きいクローラ金車を使用したり、吊金工法により延線張力を小さくする工法を適用している。そのため、特殊工具が多数必要となり、また工事時間が伸長していまい、その結果、架線工事費が高くなってしまう。
【0010】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、架線工事の際に、型くずれが生じない型くずれ防止型電線および架線方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための請求項1に係る発明は、鋼芯の周囲に丸素線を複数層撚り合わせると共に、その最外層の一部の丸素線に、風音対策用の太径丸素線を用いて撚り合わせて形成された電線において、上記最外層の丸素線が金車上を抱き角2βで曲げられた際に、上記金車上の丸素線の素線長さLと曲げにより生じる過不足長さdLとの比率dL/(L−dL)が、−0.0012×2β+0.0746以下となるように、上記最外層の丸素線の撚りピッチを設定したものである。
【0012】
上記目的を達成するための請求項2に係る発明は、上記比率dL/(L−dL)は、上記最外層の丸素線の撚りピッチをp、上記金車の半径と上記電線の半径との和をR、上記金車中央部での上記最外層の丸素線の角度位置をα0、電線の直径をdとして、以下の式
【0013】
【数1】

【0014】
で求められるものである。
【0015】
上記目的を達成するための請求項3に係る発明は、鋼芯の周囲に丸素線を複数層撚り合わせると共に、その最外層の一部の丸素線に、風音対策用の太径丸素線を用いて撚り合わせて形成された電線において、各丸素線が金車上を最大抱き角で曲げられて通過するときの曲げによる丸素線の不足長さと余り長さとが略同じになるように、上記最外層の丸素線の撚りピッチを設定したものである。
【0016】
上記目的を達成するための請求項4に係る発明は、鋼芯の周囲に丸素線を複数層撚り合わせると共に、その最外層の一部の丸素線に、風音対策用の太径丸素線を用いて撚り合わせて電線を形成し、他方、架線対象とする各鉄塔に金車を取付け、それら金車を通して上記電線を架線する方法において、架線区間の金車の最大抱き角を求めておき、他方、上記電線の任意の撚りピッチに対して、金車の複数の抱き角ごとにその抱き角で型くずれが生じない上記丸素線の最大過不足長さを求めておき、上記架線区間の金車の最大抱き角で上記電線の型くずれが生じないように、上記最大過不足長さを基に、上記電線の撚りピッチを選定して架線するものである。
【0017】
上記目的を達成するための請求項5に係る発明は、上記型くずれが生じない上記丸素線の最大過不足長さを、上記電線を上記金車に上記抱き角で少なくとも20回通して求めるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、架線工事の際に電線が型くずれすることを防止できるという優れた効果を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
本実施形態の型くずれ防止型電線は、風騒音を低減すべく、表面に突起が設けられたものである。図1に基づき、その型くずれ防止型電線の概略構造を説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態の型くずれ防止型電線1は、鋼芯2の周囲に丸素線3、5を複数層撚り合わせると共に、その最外層の一部の丸素線に、風音対策用の太径丸素線4を用いて撚り合わせて形成される。より具体的には、型くずれ防止型電線1は、鋼芯2の周囲にアルミ丸素線またはアルミ合金丸素線を同心円上に3層撚り合わされて形成される。内側の二つの層(第1層および第2層)は、同径の丸素線5から構成され、最外層は、二つ以上の異なる径の丸素線(図例では、細径丸素線3と太径丸素線4)から構成される。なお、最外層の細径丸素線3は、第1層および第2層の丸素線5よりも径が小さくてもよい。本実施形態では、隣接する二本の太径丸素線4を一組として、二組の太径丸素線4が電線の中心に対して対称に配置される。それら合計4本の太径丸素線4が、細径丸素線3よりも径方向外側に突出し、風騒音が防止されるようになっている。なお、太径丸素線および細径丸素線の本数や配置、撚り合わせる丸素線の層の数は、これに限定されず、様々なものが考えられ、例えば、2層の撚り合わせ電線でもよい。
【0022】
次に、図2および図3に基づき、上記型くずれ防止型電線の架線時に用いられる金車について説明する。
【0023】
図2および図3に示すように、本実施形態の金車31は、電線を案内する溝32a(図2参照)が形成されたホイール部32と、そのホイール部32を回転自在に支持すると共に吊り金具などを介して鉄塔などに取り付けられるフレーム部34とを備える。ホイール部32の溝32aは、径方向内側に凹んだ曲線状の断面を有し、溝32aの表面(溝面)には、ポリウレタンなどが張られる。また、ホイール部32の径方向外側には脱輪防止用のガイドリング35が取り付けられる。
【0024】
このような金車を用いて、最外層に径方向外側に突出する太径の丸素線を有する電線を架線する場合に、詳しくは後述するが、最外層の撚りピッチpが適切に設定されていないと、型くずれが生じてしまうおそれがある。
【0025】
そこで、型くずれを防止すべく、本実施形態の型くずれ防止型電線は、上記最外層の丸素線が金車上を抱き角2βで曲げられた際に、その金車上の丸素線の素線長さLと曲げにより生じる過不足長さdLとの比率dL/(L−dL)が、−0.0012×2β+0.0746以下となるように、上記最外層の丸素線の撚りピッチが設定される。
【0026】
この点について、以下に説明する。
【0027】
一般に、図4に示すように、電線の撚りピッチpは、電線外径(直径)dの20倍以下の範囲(電気用規格)という規定と、製造上の効率およびコストとを考慮して設計されている。電線は、撚りピッチが大きいほど製造コストが低くなるので、例えば、撚りピッチは電線外径の約12倍程度に設定される(図16に示すような最外層が同一径の丸素線からなる標準電線810mm2では、約400mmの撚りピッチが適用される)。
【0028】
しかし、このような一般的な撚りピッチで二つ以上の異なる径の丸素線から最外層を形成した電線(以下、標準ピッチ電線という)では、型くずれが生じる懸念がある。
【0029】
図5から図7に基づき、型くずれが生じるメカニズムについて説明する。
【0030】
型くずれは、例えば、架線工事の時に、上述した標準ピッチ電線が金車を通過する際に生じる。図5に示すように、金車通過時に、標準ピッチ電線51は、金車31に沿って周方向に曲げられた状態となる。このとき、図7に示すように、電線の最外層の各丸素線は、金車の径方向外側の部分(図7中sで示す実線部分)では、曲げのない状態に比べて短くなり、ホイールの径方向内側の部分(図7中rで示す点線部分)では、曲げのない状態に比べて長くなる。つまり、電線は、金車を通過する際に直線状態から金車径に沿って曲げられた状態となり、その金車上の丸素線は、金車の外側面では、丸素線が不足し、内側面では丸素線が余る。その結果、1本の丸素線の長さの和に過不足が生じる。
【0031】
その過不足に起因して、素線張力に差が生じる。その素線張力の差が、線路方向に伝搬する場合には電線の型くずれが生じない。しかし、太径と細径の丸素線を組み合わせた標準ピッチ電線では、素線張力差が線路方向に伝搬せずに、型くずれが生じてしまう可能性がある。つまり、図6に示すように、標準ピッチ電線51が金車31を通過する際に、太径丸素線54が金車31の溝面32aに接触して太径丸素線54の周辺の細径丸素線53と金車溝面32aとの間に隙間が生じると、細径丸素線53と金車31との接触面積が小さくなる。その結果、丸素線53の拘束力が弱くなり、丸素線53が円周方向に動きやすくなってしまう。
【0032】
このとき、素線実長に対する過不足の割合が小さければ、線路方向への丸素線の小さい滑動により丸素線の過不足を補うことができるが、抱き角が大きい場合など、過不足の割合が大きければ、線路方向への丸素線の滑動が追随できず電線の型くずれが生じるものと考えられる。
【0033】
また、太径と細径の丸素線を組み合わせた標準ピッチ電線が金車を通過する際に、太径丸素線が金車の溝面に接触して電線に強い押し圧力が加わる場合がある。その場合、最外層の丸素線の太径と細径との差により、内層側の丸素線の変形は、図16に示される同一径の丸素線62を組み合わせて最外層を形成した電線61の変形に比べるとアンバランスなものとなる。また、標準ピッチ電線では、最外層の隣り合う丸素線同士の接触面積が少ないためブリッジ効果が弱い。そのため、電線の変形は、図17に示される台形状の形成素線73、74を組み合わせた電線71の変形と比べるとアンバランスなものとなる。
【0034】
以上のように、型くずれは、金車通過時に最外層の丸素線の長さが、通常時よいも長く或いは短くなることで生じる。つまり、最外層の丸素線の過不足長さが大きくなると、型くずれが生じ易くなる。このことから、本願発明者らは、型くずれを防止するには、最外層の丸素線の過不足長さが所定値以下となるように、撚りピッチを設定すればよいことを見出した。詳しくは後述するが、本実施形態では、金車上の丸素線の素線長さLと、曲げにより生じる過不足長さdLとの比率dL/(L−dL)(=過不足長さ/曲げ変形なしの状態での素線元長さ)に基づいて、撚りピッチを設定するようにしている。
【0035】
次に、図8および図9に基づき、金車上の最外層丸素線の素線長さLおよび過不足長さdLの求め方、およびそれら素線長さLおよび過不足長さdLと撚りピッチpとの関係式について説明する。
【0036】
図8および図9において、x軸は電線の軸芯に沿って設定された座標軸であり、その原点(x=0)が、金車における電線と接触箇所の中央部(金車中央部)に定められる。−βおよび+βは、抱き角2βを二等分割した角度である。dは電線の直径であり、本実施形態では、電線の中心から最外層の細径丸素線の中心までの距離の2倍である。ψは、電線の中心線とつるまき素線(最外層の丸素線)との交差角(ψ=tan-1(πd/p))である。Rは金車の半径と電線の半径d/2との和であり、αは最外層の丸素線の角度位置である。
【0037】
金車上の素線長さLは、通常状態(曲げ変形していない状態)の素線元長さと、曲げ変形による過不足長さdLとの合計であり、素線長さLの微分量を、金車と接触する領域(−βR<x<+βR)で積分することで求められる。
【0038】
以下に詳細を説明する。
【0039】
図8中符号Bdで示される点線部分(以下、Bd点線部分という)は、次式(1)
dx=R*(2dθ)=2R*dθ (1)
となる。
【0040】
Bd点線部分=図8中符号Bsで示される実線部分(以下、Bs実線部分という)*cosψなので、Bs実線部分=Bd点線部分/cosψとなり、Bs実線部分は、θを用いて表すと次式(2)
dx/cosψ=2R*dθ/cosψ (2)
となる。この図8中符号Bsで示される実線部分は、素線元長さ(L−dL)の微分量に相当する。
【0041】
次に、図8中符号Rdで示される点線部分(以下Rd点線部分という)×2箇所は、次式(3)
2×d/2*sinα*dθ (3)
となる。
【0042】
Rd点線部分=図8中符号Rsで示される実線部分(以下、Rs実線部分という)*cosψなので、Rs実線部分=Rd点線部分/cosψとなり、Rs実線部分は、次式(4)
2×d/2*sinα*dθ/cosψ (4)
となる。この図8中符号Rsで示される実線部分は、曲げ変形による過不足長さdLの微少長さに相当する。
【0043】
ここで、x=0でのαの初期値をα0とすると、α値は1ピッチ(p)進むと(2π+α0)になる。1ピッチ(p)当たりのα値の変化は2πであるので、xにおけるα値は、次式(5)のようになる。
【0044】
【数2】

【0045】
Bs実線部分とRs実線部分との長さの合計Lは、Bs実線部分の長さである式(2)およびRs実線部分の長さである式(4)を積分することで求められる。つまり、金車上の素線長さLは、素線元長さ(L−dL)の微少量を金車と接触する領域(−βR<x<+βR)で積分したものと、過不足長さdLの微少量を同じ領域(−βR<x<+βR)で積分したものとを加算することで求められる。
【0046】
Bs実線部分長さの積分は式(2)を積分することで、次式(6)
【0047】
【数3】

【0048】
となる。
【0049】
Rs実線部分長さの積分は式(4)を積分することで求まり、式(1)のdθ=dx/(2R)を用いて式(4)のRs実線部分長さは、次式(7)
2×d/2*sinα*dθ/cosψ=2×d/2*sinα*dx/(2R)/cosψ=(d*sinα*dx)/(2Rcosψ) (7)
となる。
【0050】
式(7)のsinαのα値は式(5)を用いることで、Rs実線部分の長さは次式(8)のようになる。
【0051】
【数4】

【0052】
Bs実線部分とRs実線部分との長さの合計Lは、式(6)と式(8)の合計であり、x方向に関して−βRから+βRまで積分することで、次式(9)のように求められる。
【0053】
【数5】

【0054】
素線過不足分のRs実線部分長さdLは、式(8)を積分して次式(10)のようになる。
【0055】
【数6】

【0056】
以上により、金車上の丸素線の素線長さLおよび曲げにより生じる過不足長さdLと、撚りピッチpとの関係式(9)、(10)が求まる。
【0057】
ここで、図10から図12に基づいて、電線の金車通過時の、金車接触部分(金車角度±β)における素線位置αをパラメータとして素線長さL及び過不足長さdLを計算した一例を説明する。図10から図12の符号w1からw5は、最外層の素線を示し、w1はα0=0°、w2はα0=60°、w3はα0=90°、w4はα0=270°、w5はα0=315°の角度位置のものを示す。この図例では、金車径は810サイズで600Φ、金車の抱き角は60°とした。例えば、ACSR810の電線では、金車中央部(x=0)で素線位置がα0=90°の場合に素線が3.5mm程度不足し、α0=270°の金車接触側で3.5mm程度余りが出る。
【0058】
次に、図13および表1から表3に基づいて、電線の型くずれが生じないような条件(本実施形態では、比率dL/(L−dL)の条件)について説明する。
【0059】
図13は、抱き角2βと比率dL/(L−dL)との関係を、複数の撚りピッチpについて示したものである。ラインp460は撚りピッチ460mm、ラインp420は撚りピッチ420mm、ラインp380は撚りピッチ380mm、ラインp365は撚りピッチ365mm、ラインp335は撚りピッチ335mm、ラインp305は撚りピッチ305mmのものを各々示す。
【0060】
以下に示す表1は、各抱き角での比率dL/(L−dL)を撚りピッチpごとに示したものである。
【0061】
【表1】

【0062】
以下に示す表2は、金車通過特性試験の結果であり、20回の金車通過後の電線の型くずれの発生有無を示す。この試験では、最外層の丸素線の浮きが1mm以上となったものを、型くずれ発生とした。
【0063】
【表2】

【0064】
以下に示す表3は、図13および表1、表2における電線および金車の各パラメータの値を示したものである。表3に示すように、電線のサイズは、標準電線810と同等サイズ(断面積、等価外径がほぼ同じ)とし、金車半径は300mmとした。
【0065】
【表3】

【0066】
図13に戻り、図13中の丸印および×印は、表2に示した金車通過特性試験の結果をプロットしたものであり、丸印が型くずれ発生無し、×印が型くずれ発生有りを示す。図13中のラインAは、複数の金車抱き角(図例では、30°、40°50°、60°)で型くずれが発生しなかった最大比率dL/(L−dL)から求められた近似曲線(具体的には、最小自乗法による一次近似曲線)である。
【0067】
上述したように、素線実長(L−dL)に対する過不足dLの割合(すなわち、比率dL/(L−dL))が小さければ、線路方向への丸素線の小さい滑動により丸素線の過不足を補うことができるが、抱き角2βが大きい場合など、素線実長(L−dL)に対する過不足dLの割合dL/(L−dL)が大きければ、線路方向への丸素線の滑動が追随できず電線の型くずれが生じる。
【0068】
そこで、dL/(L−dL)と金車抱き角2βの関係を整理すると、図13に示すとおりで、素線実長(L−dL)に対して素線過不足(dL)の割合dL/(L−dL)が、−0.0012×2β+0.0746(図13においてラインA)以下であれば、電線の型くずれは生じない。
【0069】
以上から、本実施形態では、最外層の丸素線が金車上を抱き角2βで曲げられた際に、その金車上の丸素線の素線長さLと曲げにより生じる過不足長さdLとの比率dL/(L−dL)の絶対値が、−0.0012×2β+0.0746以下となるように、最外層の丸素線の撚りピッチが設定される。
【0070】
次に、本実施形態の架線方法を説明する。
【0071】
本実施形態の架線方法は、鋼芯の周囲に丸素線を複数層撚り合わせると共に、その最外層の一部の丸素線に、風音対策用の太径丸素線を用いて撚り合わせて電線を形成し、他方、架線対象とする各鉄塔に金車を取付け、それら金車を通して電線を架線するものであり、その架線の際に、電線が金車を通過することで型くずれしないように、予め電線の最外層の撚りピッチを最適に選定しておくものである。
【0072】
具体的には、架線区間の金車の最大抱き角を求めておき、他方、上記電線の任意の撚りピッチに対して、金車の複数の抱き角ごとにその抱き角で型くずれが生じない上記丸素線の最大過不足長さを求めておき、上記架線区間の金車の最大抱き角で上記電線の型くずれが生じないように、上記最大過不足長さを基に、上記電線の撚りピッチを選定して架線する。
【0073】
以下に、図13および図14に基づき詳細を説明する。
【0074】
図14に示すように、架線工事は、複数の鉄塔61が建てられた架線区間にドラム場62とエンジン場63とを設けると共に各鉄塔61に金車65を各々取り付け、それら金車65に電線66を通しながら延線して行われる。
【0075】
本実施形態では、電線を延線する前に、架線区間の各鉄塔に取り付けられる金車の内、抱き角が最も大きくなるものを選び、その金車の抱き角(最大抱き角)を算出しておく。
【0076】
また、架線工事を行う前に、予め、金車(例えば、架線工事で使用する金車と同様の金車)に、所定の抱き角で、電線を通過させて、型くずれ発生の有無を試験する。本実施形態では、電線を、金車に所定の抱き角で少なくとも20回(図例では、20回)通して試験を行う。以上の試験を、抱き角と、電線の最外層の撚りピッチとをパラメータとして行い、表2に示されるような、抱き角および最外層の撚りピッチと型くずれ発生の有無との関係を求める。ここで、通過回数を20回としたのは、一般的な架線工事では、電線を架線するために設置される金車数が最大でも20以下であるためであり、安全率を考慮して20回とした。
【0077】
次に、この表2の型くずれ発生の有無から、型くずれが生じない丸素線の最大過不足長さを求める。具体的には、上で説明したように、各撚りピッチごとに、比率dL/(L−dL)と抱き角2βとのグラフ(図13参照)を求め、そのグラフに表2の結果をプロットする。さらに、型くずれが生じない最大比率dL/(L−dL)を各抱き角2βごとに求め、それら最大比率dL/(L−dL)の近似曲線を求める。なお、近似曲線は、上述した最小二乗法による一次近似曲線に限らず、より高次の近似曲線でもよく、また、最小二乗法以外にも、プロットされる最大比率間を補間した補間曲線などでもよい。
【0078】
次に、算出した架線区間の金車の最大抱き角と、上記最大過不足長さを基に求めた近似曲線とから、架線区間の最大抱き角で近似曲線以下となる撚りピッチを選定する。
【0079】
さらに、選定された撚りピッチの電線を各鉄塔間に張って延線し、その後、延線された電線を各鉄塔でがいしに取り付けて緊線する。
【0080】
このように、本実施形態では、架線工事の際に電線の型くずれを防止することができる。
【0081】
また、型くずれを防止することで、金車通過による電線の性能低下を、標準電線(最外層が同一径の素線からなる電線、図16参照)と同等まで低減することができる。
【0082】
また、クローラ金車などの特殊工具が不要となり、標準電線を架線する場合と同様に、通常の延線工法を採用することができる。したがって、架線工事費の低減を図ることができる。
【0083】
また、風音対策が施された電線として、太径と細径を組み合わせた丸素線型の電線を適用することが可能となり、図17に示すような従来の台形状の形成丸素線73、74を用いる必要がなくなり、電線の製造工程を低減することができる。したがって、低コストの風騒音対策電線を実現することができる。
【0084】
さらに、幾何学的に求まる過不足長さdLを用いることで、直径などが異なる複数の電線で、撚りピッチを容易に設定することができる。すなわち、試験で確認した撚りピッチを直接設定して型くずれを防止する場合には、材質や直径などが異なる電線ごとに試験を行う必要がある。これに対して、本実施形態では、材質や直径などが異なる場合でも、個別に試験を行うことなく、撚りピッチを容易に設定することができる。
【0085】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、様々な変形例や応用例が考えられるものである。
【0086】
例えば、金車上の丸素線の長さLと過不足長さdLとの比率dL/(L−dL)の代わりに、丸素線の過不足長さdLで、撚りピッチを設定するようにしてもよい。具体的には、図15に示すように、式(10)から抱き角2βと過不足長さdLとの関係を求め、その図15のグラフに、表2の試験結果をプロットすると共に、最大過不足長さdLの近似曲線(例えば、最小二乗法による二次近似曲線)Aを求める。さらに、求められた近似曲線Aよりも過不足長さdLが小さくなるように撚りピッチを設定する。すなわち、金車上の丸素線の曲げにより生じる過不足長さdLが、−0.0117×(2β)2+0.848×2β−8.63以下となるように、上記最外層の丸素線の撚りピッチを設定する。この場合も、上述した実施形態と同様の効果が得られる。なお、図15中のラインBは、金車通過時に電線にかかる垂直荷重を示す。上述したように、最外層が丸素線からなる電線は、ブリッジ効果が弱いことから、撚りピッチが適切に設定されないと、型くずれが生じやすい状況にあり、素線過不足量が生じても電線の押し圧力が少なければ電線の型くずれは生じず、電線の型くずれを生じさせないためには素線過不足量と電線の押し圧力との関係より、撚りピッチは、上述した図15のラインAよりも下の範囲となる。
【0087】
さらに、過不足長さdLが略0になるように、撚りピッチを設定してもよい。つまり、電線が曲げられた部分において最外層の任意の1本の丸素線の長さが、幾何学計算上、丸素線の余りと丸素線不足分との和が略0となるように、撚りピッチを設定しても良い。より具体的には、図7において、各丸素線が金車上を最大抱き角で曲げられて通過するときの曲げによる丸素線の不足長さ(s)と余り長さ(r+r)とが略同じになるように、上記最外層の丸素線の撚りピッチを設定する。例えば、半径300mmの金車上で、60°の抱き角で電線を曲げた時に、丸素線の過不足長さdLが略0となるように、撚りピッチを335mm(図13参照)に設定することが考えられる。この場合も上述の実施形態と同様の効果が得られ、さらに、幾何学計算のみで撚りピッチの選定することができ、金車通過特性試験を省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係る一実施形態による型くずれ防止型電線の断面図である。
【図2】本実施形態の金車の正面図である。
【図3】本実施形態の金車の側面図である。
【図4】電線の撚りピッチを説明するための図である。
【図5】金車の抱き角を説明するための図である。
【図6】図2のVI部拡大図である。
【図7】金車上の電線の過不足長さを説明するための図である。
【図8】金車上の電線の素線長さと過不足長さとを説明するための図である。
【図9】金車上の電線の素線長さと過不足長さとを説明するための図である。
【図10】電線の角度位置と過不足長さとの関係を説明するための図である。
【図11】電線の角度位置と過不足長さとの関係を説明するための図である。
【図12】電線の角度位置と過不足長さとの関係を説明するための図である。
【図13】抱き角と比率との関係を説明するための図である。
【図14】本実施形態の延線方法を説明するための図である。
【図15】抱き角と過不足長さとの関係を説明するための図である。
【図16】従来の電線の断面図である。
【図17】従来の電線の断面図である。
【図18】従来の電線の断面図である。
【符号の説明】
【0089】
1 型くずれ防止型電線
2 鋼芯
3 細径丸素線
4 太径丸素線
5 丸素線
21 金車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼芯の周囲に丸素線を複数層撚り合わせると共に、その最外層の一部の丸素線に、風音対策用の太径丸素線を用いて撚り合わせて形成された電線において、
上記最外層の丸素線が金車上を抱き角2βで曲げられた際に、上記金車上の丸素線の素線長さLと曲げにより生じる過不足長さdLとの比率dL/(L−dL)が、−0.0012×2β+0.0746以下となるように、上記最外層の丸素線の撚りピッチを設定したことを特徴とする型くずれ防止型電線。
【請求項2】
上記比率dL/(L−dL)は、
上記最外層の丸素線の撚りピッチをp、上記金車の半径と上記電線の半径との和をR、上記金車中央部での上記最外層の丸素線の角度位置をα0、電線の直径をdとして、以下の式
【数1】

で求められる請求項1記載の型くずれ防止型電線。
【請求項3】
鋼芯の周囲に丸素線を複数層撚り合わせると共に、その最外層の一部の丸素線に、風音対策用の太径丸素線を用いて撚り合わせて形成された電線において、
各丸素線が金車上を最大抱き角で曲げられて通過するときの曲げによる丸素線の不足長さと余り長さとが略同じになるように、上記最外層の丸素線の撚りピッチを設定したことを特徴とする型くずれ防止型電線。
【請求項4】
鋼芯の周囲に丸素線を複数層撚り合わせると共に、その最外層の一部の丸素線に、風音対策用の太径丸素線を用いて撚り合わせて電線を形成し、他方、架線対象とする各鉄塔に金車を取付け、それら金車を通して上記電線を架線する方法において、
架線区間の金車の最大抱き角を求めておき、
他方、上記電線の任意の撚りピッチに対して、金車の複数の抱き角ごとにその抱き角で型くずれが生じない上記丸素線の最大過不足長さを求めておき、
上記架線区間の金車の最大抱き角で上記電線の型くずれが生じないように、上記最大過不足長さを基に、上記電線の撚りピッチを選定して架線することを特徴とする架線方法。
【請求項5】
上記型くずれが生じない上記丸素線の最大過不足長さを、上記電線を上記金車に上記抱き角で少なくとも20回通して求める請求項4記載の架線方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2007−165258(P2007−165258A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363833(P2005−363833)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】