説明

型内被覆成形方法

【課題】樹脂成形品の被覆と硬化に適した適正なタイミングで、金型内に塗料を注入することが可能であり、塗料の硬化時間に問題を生じない型内被覆成形方法を提供する。
【解決手段】金型キャビティで成形した樹脂成形品の表面に被覆を施す塗料注入機を備え、塗料注入機を配した側の金型キャビティ面側に温度センサーを取り付けた型内被覆成形用金型を用いて、塗料注入機により、樹脂成形品と金型キャビティとの間に塗料を注入する際、温度センサーで注入した塗料の温度を測定することにより、塗料の注入完了後の塗料の温度上昇における最高温度をピーク温度として検出して、塗料の注入完了からピーク温度に達するまでの時間が2〜5秒の範囲内にあるかを判定し、範囲外である場合、次の型内被覆成形時に塗料の注入完了からピーク温度に達するまでの時間が2〜5秒の範囲に入るように、塗料の注入開始のタイミングを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型内で樹脂成形品を成形した後、金型から樹脂成形品を取り出すことなく、塗装によって被覆(塗装と称することもある)する型内被覆成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂成形品の装飾性を高める方法として、熱可塑性樹脂の成形と塗膜による被覆を同一金型内で行う型内被覆成形方法(インモールドコーティング方法と称されることもある)が提案されている。
【0003】
前記型内被覆成形方法の一例を図6のフローチャートを用いて以下簡略に説明する。図6に示す従来の型内被覆成形方法は、金型内で熱可塑性樹脂を射出成形した後、金型をわずかに開いた状態とすることによって、樹脂成形品と金型キャビティ面との間に隙間を生じさせ、前記隙間に塗料注入機を使用して塗料を注入する。塗料注入後は、金型を再度型締することにより、樹脂成形品の表面に塗料を均一に拡張させた後、塗料を硬化させ、塗料が硬化した後に、金型を開いて塗料で被覆した樹脂成形品を金型より取り出す。
【0004】
前記従来の型内被覆成形方法によれば、熱可塑性樹脂の成形と被覆を同一の金型内で行うため、工程の省略化によるコストダウンが可能であると同時に、浮遊している塵が硬化する以前の塗膜に付着して不良となる等といったことがほとんどなく、高い品質の製品を得ることができる。そのため、特に、外観に対して高い品質が要求される自動車用の部品、例えば、バンパー、ドア、ドアミラーカバー、フェンダー等、多くの部品には、前記型内被覆成形方法の利用が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、従来の型内被覆成形方法においては、塗料の注入開始のタイミングを効率的な方法で短時間に決定することができなかった。これは、型内被覆成形方法において、仮に金型温度を低く設定すると、塗料の注入までの時間は短縮できるが、塗料の硬化速度が温度に依存するため、硬化反応に時間を要しサイクルタイムが長くなってしまうからである。一方、金型温度を高くすると、樹脂の冷却に時間がかかり過ぎたり、塗料の硬化時間が短くなりすぎて流動が阻害される。
【0006】
これらの問題点を解決する手段として、塗料の適正硬化温度よりも少し低い温度の金型で樹脂の冷却が進行する前に塗料を注入して、樹脂温度により塗料を硬化させる方法が最も効率的と考えられる。
【0007】
しかしながら、塗料の注入開始のタイミングが早すぎると、樹脂温度の影響を受けて、塗料の硬化が速くなり、遅すぎると塗料の硬化に時間がかかる。そのため、型内被覆成形方法において、塗料の注入開始のタイミングは、トライアンドエラーで試行錯誤的に決定されることが一般的であり、効率的に条件を選定することは、極めて難しいとされていた。
【0008】
特許文献1に開示される発明は、塗料の注入時間を塗料のゲル化時間を指標として制御する出願であるが、塗料の注入開始のタイミングについては、樹脂成形品の表面が塗料の流動に耐える時間をトライアンドエラーで試行錯誤的に求める方法であった。
【特許文献1】特開2001−96573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、樹脂成形品の被覆と硬化に適した適正なタイミングで、金型内に塗料を注入することが可能であり、塗料の硬化時間が短くなりすぎて塗料の流動が阻害されるといった問題を生じることなく、更に塗料の硬化時間によりサイクルタイムを必要以上長くすることなく、効率良く良品を成形できる型内被覆成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明は、以下の型内被覆成形方法を提供するものである。
【0011】
[1] 固定型と可動型により形成される金型キャビティを有し、前記金型キャビティで成形した樹脂成形品の表面に被覆を施す塗料注入機を備え、前記塗料注入機を配した側の金型キャビティ面側に温度センサーを取り付けた型内被覆成形用金型を用いて、前記金型キャビティに樹脂を射出充填した後、前記塗料注入機により、樹脂成形品と金型キャビティとの間に塗料を注入する際、前記温度センサーで注入した前記塗料の温度を測定することにより、前記塗料の注入完了後の塗料の温度上昇における最高温度をピーク温度として検出して、前記塗料の注入完了から前記ピーク温度に達するまでの時間が2〜5秒の範囲内であるかを判定し、前記範囲外である場合、次の型内被覆成形時に前記塗料の注入完了から前記ピーク温度に達するまでの時間が2〜5秒の範囲に入るように、前記塗料の注入開始のタイミングを制御する型内被覆成形方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の型内被覆成形方法は、塗料の硬化時間が短くなりすぎて塗料の流動が阻害されるといった問題を生じることなく、更に塗料の硬化時間によりサイクルタイムを必要以上長くすることなく、効率良く良品を成形できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の型内被覆成形方法について詳細に説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0014】
図1は、本発明で用いる型内被覆成形用金型の一例を示す全体構成図である。
【0015】
本発明に係る型内被覆成形方法は、例えば、図1に示すように、固定型20と可動型10により形成される金型キャビティ15を有し、金型キャビティ15で成形した樹脂成形品の表面に被覆を施す塗料注入機50を備え、塗料注入機50を配した側の金型キャビティ面15側に温度センサー70を取り付けた型内被覆成形用金型100を用いて、金型キャビティ15に樹脂を射出充填した後、塗料注入機50により、樹脂成形品と金型キャビティ15との間に塗料を注入する際、温度センサー70で注入した塗料の温度を測定することにより、塗料の注入完了後の塗料の温度上昇における最高温度をピーク温度として検出して、塗料の注入完了からピーク温度に達するまでの時間が2〜5秒の範囲内にあるかを判定し、範囲外である場合、次の型内被覆成形時に塗料の注入完了からピーク温度に達するまでの時間が2〜5秒の範囲に入るように、塗料の注入開始のタイミングを制御することにある。
【0016】
このとき、本発明の型内被覆成形方法の主な特徴は、塗料注入機50を配した側(可動型10)の金型キャビティ面15側に温度センサー70を取り付け、温度センサー70で注入した塗料の温度を測定することにより、塗料注入完了後の塗料の硬化反応に伴う温度上昇における最高温度をピーク温度(発熱ピーク)として検出し、塗料の注入完了からピーク温度に達するまでの時間を決定することができるため、従来の経験的な方法のように手間をかけることなく、また、金型温度や塗料の硬化速度に変化があった場合であっても、常に一定した硬化速度で塗料を硬化させることが可能となり、塗料の流動不良や硬化不良に随時適切な対応をすることができることにある。
【0017】
また、本発明の型内被覆成形方法では、図3及び図4に示すように、塗料の注入完了からピーク温度に達するまでの時間を2〜5秒の範囲内にすることにより、良品を得られて尚且つ、塗装硬化時間が長くなり過ぎない注入開始のタイミングを得ることができる。
【0018】
一方、塗料の注入完了からピーク温度に達するまでの時間が2秒未満である場合(図5参照)、塗料の硬化反応が早すぎて塗料の流動不良が発生し、また、塗料の注入完了からピーク温度に達するまでの時間が5秒を超過する場合、塗料の硬化時間を長く取らなければ、塗料が硬化不足となる状況の中で、成形後の成形品表面における塗料の流動状態と硬化状態を見ながら、次のショットの成形条件、つまり、樹脂成形品の冷却時間等を経験的に設定する必要があり、条件設定に時間がかかるだけでなく、その条件も安定していなかった。
【0019】
尚、塗料の注入完了からピーク温度に達するまでの時間は、塗料の硬化速度の指標であり、この測定には、金型を僅かに開いて塗料を注入し、その後、再型締め無しで塗料を硬化させ、厚い塗膜を形成させることにより、測定精度を上げることができる。
【0020】
次に、本発明の型内被覆成形方法を図1及び図2に基づいて更に詳細に説明する。
【0021】
図2は、本発明の型内被覆成形方法の一例を示す工程推移図であり、(a)は型開き状態、(b)は型締め状態、(c)は射出充填状態、(d)は金型微開き状態、(e)は塗料注入・再型締め・硬化状態を示す。
【0022】
図1に示すように、本発明で用いる型内被覆成形用金型100は、固定型20と可動型10により形成される金型キャビティ15を有し、金型キャビティ15で成形した樹脂成形品の表面に被覆を施す塗料注入機50(及び塗料注入口51)を可動型10に備え、塗料注入機50を配した側の金型キャビティ面15側に温度センサー70を取り付けたものである。尚、固定型20には、その中央部に射出装置で溶融した樹脂を、金型キャビティ15内に射出充填するためのゲート8と、射出成形により得られた成形品(図示せず)を固定型20から取り外すためのエジェクタピン25が付設されている。
【0023】
本発明の型内被覆成形方法における工程の一例は、まず、図2(a)の型開き状態から可動型10を固定型20の方へ移動させて、図2(b)に示すように、金型を閉じる(型締めを行う)。
【0024】
図2(b)に示す型締め後、図2(c)に示すように、射出装置(図示せず)で溶融した樹脂をゲート8から金型キャビティ15内に射出充填し、その後冷却、固化して一次成形品(樹脂成形品)80を得る。
【0025】
尚、射出する樹脂の温度は、170〜270℃の範囲にあることが一般的である。また、成形型内圧力は、5〜20MPa、好ましくは10〜15MPaであることが好ましい。金型キャビティ15内に樹脂を射出充填するときにおける型内被覆成形用金型100の内面周囲の温度はその樹脂を通常の射出成形を行う際の温度条件でよい。
【0026】
次に、図2(d)に示すように、可動型10を移動させ、金型キャビティ15内の一次成形品80と可動型10との間をわずかに開き、二次空間16を形成する。この二次空間16に、図2(e)に示すように、塗料注入機50から所定の厚さ(1μm〜3mm、好ましくは10μm〜1mm、10μm〜100μm)の塗膜となるように塗料52を注入し、可動型10を固定型20の方へ移動させて再型締めし、塗料52を一次成形品80の表面に均一に広げる。
【0027】
このとき、一次成形品80と金型キャビティ15との間に塗料を注入する際、温度センサー70で注入した塗料の温度を測定することにより、塗料52の注入完了からピーク温度に達するまでの時間が2〜5秒の範囲内にあるかを判定し、範囲外である場合、次の型内被覆成形時に塗料の注入完了からピーク温度に達するまでの時間が2〜5秒の範囲(図3及び図4参照)に入るように、塗料の注入開始のタイミングを制御することが重要である。
【0028】
尚、二次空間16の容積は、塗料52の予定している厚さとなるように、可動型10の移動距離を設定するか、その厚さよりも広くして、塗料52注入後に所定の厚さまで型締めすることもできる。
【0029】
塗料52の充填終了後は、可動型10の温度を塗料52の硬化温度になるように調整し、その状態で30〜180秒程度保持し、塗料を硬化させ、一次成形品80の表面に塗膜54を形成させる(図2(e)参照)。
【0030】
その後、金型キャビティ15の内面周囲の温度を50℃以下、好ましくは30℃以下に冷却することが好ましい。冷却後は、型を開き、製品(表面に塗膜が形成された成形品)を取り出す。
【0031】
尚、本発明で用いる樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、変性ポリフェニレンエーテルなどの熱可塑性樹脂あるいはこれらのアロイ材、さらにはこれらに繊維状あるいは鱗片状のフィラーを配合したものが挙げられる。
【0032】
また、本発明で用いる塗料は、従来から公知の各種型内被覆用被覆剤が利用でき、例えば、特開昭54−36369号公報、特開昭54−139962号公報、特開昭55−65511号公報、特開昭57−140号公報、特開昭60−212467号公報、特開昭60−221437号公報、特開平1−229605号公報、特開平5−70712号公報、特開平5−148375号公報、特開平6−107750号公報、特開平8−113761号公報等に記載された被覆剤が代表的なものとして挙げられる。
【0033】
特に好適なものには、少なくとも2個以上の(メタ)アクリレート基を有するウレタンアクリレートオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー等のオリゴマーもしくはその樹脂、又は不飽和ポリエステル樹脂20〜70重量%とメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、酢酸ビニル、トリプロピレングリコールジアクリレート、スチレンなどの共重合可能なエチレン性不飽和モノマー80〜30重量%からなるビヒクル成分、顔料及び重合開始剤等からなる被覆剤である。また、エポキシ樹脂/ポリアミン硬化系、ポリオール樹脂/ポリイソシアネート硬化系などの、型内注入直前に、主剤/硬化剤を混合する2液型被覆剤も適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の型内被覆成形方法は、例えば、バンパー、ドア、ドアミラーカバー、フェンダー等の外観に対して高い品質が要求される自動車用の部品に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明で用いる型内被覆成形用金型の一例を示す全体構成図である。
【図2】本発明の型内被覆成形方法の一例を示す工程推移図であり、(a)は型開き状態、(b)は型締め状態、(c)は射出充填状態、(d)は金型微開き状態、(e)は塗料注入・再型締め・硬化状態を示す。
【図3】塗料の注入開始及び塗料の注入完了からピーク温度に達するまでの時間の一例を示すグラフである。
【図4】塗料の注入開始及び塗料の注入完了からピーク温度に達するまでの時間の他の例を示すグラフである。
【図5】塗料の注入開始及び塗料の注入完了からピーク温度に達するまでの時間の別の例を示すグラフである。
【図6】従来の型内被覆成形方法に基づいて被覆成形を行う場合のフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
8…ゲート、10…可動型、15…金型キャビティ、20…固定型、25…エジェクタピン、50…塗料注入機、51…塗料注入口、52…塗料、54…塗膜、70…温度センサー、80…一次成形品(樹脂成形品)、100…型内被覆成形用金型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と可動型により形成される金型キャビティを有し、前記金型キャビティで成形した樹脂成形品の表面に被覆を施す塗料注入機を備え、前記塗料注入機を配した側の金型キャビティ面側に温度センサーを取り付けた型内被覆成形用金型を用いて、前記金型キャビティに樹脂を射出充填した後、前記塗料注入機により、樹脂成形品と金型キャビティとの間に塗料を注入する際、前記温度センサーで注入した前記塗料の温度を測定することにより、前記塗料の注入完了後の塗料の温度上昇における最高温度をピーク温度として検出して、前記塗料の注入完了から前記ピーク温度に達するまでの時間が2〜5秒の範囲内であるかを判定し、前記範囲外である場合、次の型内被覆成形時に前記塗料の注入完了から前記ピーク温度に達するまでの時間が2〜5秒の範囲に入るように、前記塗料の注入開始のタイミングを制御する型内被覆成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−76174(P2006−76174A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263643(P2004−263643)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(300041192)宇部興産機械株式会社 (268)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】