説明

型形成用材料、型材、成形型及び光学レンズ素子製造方法

【課題】 寸法精度の低下を抑制しつつ光学レンズ素子の生産性を向上させることを課題としている。
【解決手段】本発明は、型形成用材料、型材、成形型及び光学レンズ素子製造方法としてなされたもので、型形成用材料にかかる発明は、光学レンズ素子を形成すべくガラス又は樹脂のいずれかを含むレンズ材料が成形加工される成形型を作製するための型材に用いられ、しかも、前記成形型の加工面が形成される型材表面部の形成に用いられる型形成用材料であって、前記レンズ材料に用いられるガラス又は樹脂のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する樹脂が用いられていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学レンズ素子を形成するための成形型の作製に用いられる型材を形成するための型形成用材料と、該型形成用材料が用いられて形成される型材と、該型材によって作製される成形型と、該成形型を用いて光学レンズ素子を製造する光学レンズ素子製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロアレイレンズ、フレネル回折格子レンズなどの非球面レンズや球面レンズなどの光学レンズ素子が、デジタルカメラ、携帯電話など種々の用途に用いられている。
このような光学レンズ素子には、該光学レンズ素子を形成するレンズ材料として、アクリル系樹脂などの透明性の高い樹脂、200℃程度で軟化可能なガラス、あるいは、これらを主たる成分とした組成物が用いられている。
また、この光学レンズ素子には、高い寸法精度が要求されることから、ダイヤモンド、ルビーなど単結晶がレンズ材料に用いられ、これらがFocused Ion Beam(FIB)によって微細加工されたりもしている(下記特許文献1参照)。
【0003】
ところで、従来、一般的な成形品の製造方法として、成形品の材料をモールド金型に充填したり、プレス金型でプレスしたりする方法が知られており、このようなモールド金型やプレス金型などの成形型を用いた成形方法は、生産性に優れることから従来広く採用されている。
前記光学レンズ素子の製造においてもこのような成形型が用いられており、下記特許文献2には、レンズ材料を上型と下型とでプレスして光学レンズ素子を製造することが記載されている。
【0004】
このような成形型を用いた光学レンズ素子の製造方法においては、まず、光学レンズ素子の寸法精度(特に表面形状)を大きく左右する成形型の加工面を精度良く作製する必要がある。
この成形型の作製においては、通常、表面が平坦な状態に形成されている型材の表面部(以下「型材表面部」ともいう)に光学レンズ素子の表面形状とは凹凸方向が逆向きになる凹凸方向形状を形成させることが行われている。
例えば、フレネル回折格子レンズなどのように表面に線状の突起部が複数条形成されている光学レンズ素子を作製する場合には、型材表面部に前記突起部に対応する溝を刻設することが行われている。
【0005】
しかし、光学レンズ素子の成形加工に用いられる従来の成形型は、特許文献2(0017段落)にも示されているように型形成材料としてスターバックス鋼などの高硬度な金属材料が用いられて形成されている。
したがって、型材表面部を微細加工して成形型の加工面を形成するためには、このような高硬度の金属を寸法精度良く微細加工する必要があり、成形型の形成に多大な手間を必要としている。さらには、高硬度の金属を加工するため工具等の消耗も激しく生産コストの増大を招くおそれがある。
また、成形型を用いた光学レンズ素子の製造方法においては、前記加工面が形成された成形型の表面部(以下「型表面部」ともいう)における温度バラツキによって、成形後の光学レンズ素子に寸法バラツキや歪みを生じさせるおそれがあり、精度良く光学レンズ素子を製造するためには慎重な作業を必要としている。
さらに、従来の方法においては、型表面部に光学レンズ素子を形成させるためのレンズ材料が付着したり、このレンズ材料と型表面部を構成する型形成用材料との熱膨張の相違によって精度が低下したりするといった問題も有している。
【0006】
すなわち、成形型を用いた光学レンズ素子の製造方法は、比較的生産性に優れる方法ではあるものの、上記のような理由から、光学レンズ素子の寸法精度の低下を抑制しつつ生産性を向上させることが困難であるという問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−3921号公報
【特許文献2】特開平11−130449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、寸法精度の低下を抑制しつつ光学レンズ素子の生産性を向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決すべく、型形成用材料、型材、成形型及び光学レンズ素子製造方法としてなされたもので、型形成用材料にかかる発明は、光学レンズ素子を形成すべくガラス又は樹脂のいずれかを含むレンズ材料が成形加工される成形型を作製するための型材に用いられ、しかも、前記成形型の加工面が形成される型材表面部の形成に用いられる型形成用材料であって、前記レンズ材料に用いられるガラス又は樹脂のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する樹脂が用いられていることを特徴としている。
【0010】
また、型材にかかる発明は、光学レンズ素子を形成すべくガラス又は樹脂のいずれかを含むレンズ材料が成形加工される成形型を作製するための型材であって、前記成形型の加工面が形成される型材表面部は、前記レンズ材料に用いられるガラス又は樹脂のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する樹脂が用いられた型形成用材料で形成されていることを特徴としている。
【0011】
また、成形型にかかる発明は、光学レンズ素子を形成すべくガラス又は樹脂のいずれかを含むレンズ材料が成形加工される成形型であって、前記成形加工に用いる加工面が形成されている型表面部は、前記レンズ材料に用いられるガラス又は樹脂のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する樹脂が用いられた型形成用材料で形成されていることを特徴としている。
【0012】
さらに、光学レンズ素子製造方法にかかる発明は、ガラス又は樹脂のいずれかを含むレンズ材料を成形型で成形加工して光学レンズ素子を製造する光学レンズ素子製造方法であって、前記レンズ材料に用いられているガラス又は樹脂のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する樹脂が用いられた型形成用材料で型表面部が形成されている成形型を用いて前記成形加工を実施し、しかも、前記レンズ材料を、該レンズ材料に用いられているガラス又は樹脂のガラス転移温度以上且つ前記型形成用材料に用いられている前記樹脂のガラス転移温度以下に加熱して前記成形加工を実施することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光学レンズ素子を形成する成形型を作製するための型材に用いられる型形成用材料として、光学レンズ素子に用いるガラス又は樹脂のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する樹脂が用いられる。
しかも、成形型の加工面が形成される型材の表面部(型材表面部)がこの型形成用材料によって形成される。
したがって、成形型の製造時には、この樹脂が用いられた型形成用材料によって形成された型材表面部に加工面を形成することになり、高硬度の金属を加工していた従来の方法に比べて要する手間とコストとの大幅な削減を図ることができる。
【0014】
また、前記型形成用材料には、レンズ材料に用いられているガラスや樹脂よりもガラス転移温度の高い樹脂が用いられることから、用いられている樹脂やガラスのガラス転移温度以上の温度でレンズ材料を加工することができる。
したがって、レンズ材料を十分軟化させることができ成形型の加工面の形状を精度良く光学レンズ素子に反映させうる。
しかも、成形加工の際に生じるレンズ材料の温度バラツキを抑制させ得る。
すなわち、スターバックス鋼のような金属材料は、通常、樹脂に比べて熱伝導性が高いことから、成形型の表面部(型表面部)と加熱されたレンズ材料との間に温度差が生じている場合に、この温度差による冷却作用又は加熱作用をレンズ材料に対して与えやすいという問題を有しているが、本発明によれば、型表面部の形成に樹脂材料が用いられていることから成形加工時におけるレンズ材料との熱の授受を抑制させることができレンズ材料に温度バラツキが生じることを抑制させ得る。
したがって、成形型の温度調整に要する手間の削減を図りつつも光学レンズ素子の寸法精度の向上を図ることができる。
すなわち、本発明によれば、寸法精度を低下させることを抑制しつつ光学レンズ素子の生産性を向上させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の型材を示す断面図。
【図2】型形成用材料のガラス転移温度測定結果を示す図。
【図3】型材表面部(実施例1)の付着性評価試験結果を示す図。
【図4】成形型(実施例2)に用いた型材を示す図。
【図5】成形型(実施例2)の加工面の溝形状を示す図。
【図6】成形型を用いた成形方法を示す側面図。
【図7】成形加工前後のポリメタクリレート樹脂シート材料の外観を示す図。
【図8】成形品表面ならびに成形型加工面の形状測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施の形態について説明する。
まず、型形成用材料について説明する。
この型形成用材料には、光学レンズ素子形成のためのレンズ材料に用いられている樹脂又はガラスよりも高いガラス転移温度(Tg)を有する樹脂が用いられる。
この型形成用材料に用いる樹脂は、光学レンズ素子製造時における成形型の温度設定幅を大きく取りうる点において、前記レンズ材料に用いられている樹脂又はガラスよりも30K以上高いガラス転移温度を有していることが好ましく、50K以上高いガラス転移温度を有していることが更に好ましい。
なお、前記ガラス転移温度は、実施例に記載の方法によって測定され得る。
【0017】
上記のようなことから、光学レンズ素子の形成に使用するレンズ材料を選択する際にその選択幅を広げうる点において、型形成用材料に用いる樹脂は、高いガラス転移温度を有していることが好ましく、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂及び有機ケイ素樹脂のいずれか一種以上が型形成用材料に用いられることが好ましい。
【0018】
前記型形成用材料に用いられる樹脂は、表面が平滑となるように成形し、常温でJIS K5600−5−4に記載の鉛筆法による引っかき硬度試験を前記表面に実施した際にその引っかき硬度が3H以上となるものが好ましく、5H以上となる樹脂がより好ましい。
前記型形成用材料に用いられる樹脂は、前記引っかき硬度が7H以上であることが特に好ましい。
【0019】
また、型形成用材料は、上記例示の樹脂のみで構成することも可能であり、上記例示の樹脂以外に無機物粒子を用いて構成することも可能である。
この無機物粒子を型形成用材料に含有させることにより、前記樹脂の結晶状態を調整したり、該無機物粒子による擬似架橋点を形成させたりすることができ、前記樹脂本来のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を型形成用材料に付与させ得る。
また、型形成用材料に無機物粒子を含有させることにより、ガラス転移温度以外の体積膨張係数、熱伝導率といった熱特性を調整することができる。
また、型形成用材料に無機物粒子を含有させることにより、硬度や弾性率といった機械的強度特性も調整することができ研削性などの加工性を調整し得る。
【0020】
上記のような物性の調整を容易に実施し得る点において、前記無機物粒子としては、平均粒径の細かな粒子が好ましく、より具体的には、平均粒径10μm以下であることが好ましく、平均粒径5μm以下であることがより好ましく、平均粒径1μm以下であることがさらに好ましい。
また、無機物粒子は、型形成用材料に、平均粒子間距離が100μm以下となるように分散されていることが好ましく、平均粒子間距離が50μm以下となるように分散されていることがより好ましく、平均粒子間距離が20μm以下となるように分散されていることがさらに好ましい。
【0021】
また、無機物粒子は、アスペクト比(長さと幅の寸法比率)の高い粒子形状であることが好ましく。アスペクト比が3.0以上であることが好ましく、アスペクト比が5.0以上であることがより好ましい。
【0022】
以上のようなことから、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、タルク粒子、炭化ケイ素ウィスカ、窒化ケイ素ウィスカ及びガラスファイバーのいずれか一種以上を前記無機物粒子として用いることが好ましい。
【0023】
次いで、このような型形成用材料を用いた型材について図1を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態の型材の断面図であり、該型材1は、該型材1の基体をなす型材基部11と、該型材基部11の一面側(図1の上面側)の表面を前記型形成用材料で被覆させてなる型材表面部12とを有している。
本実施形態の型材1においては、前記型材基部11は、一般的な構造材(例えば、S45C材)により円盤状に形成されている。
なお、前記型材基部11の表面には、例えば、ブラスト処理などの物理的な処理又は酸洗などの化学的な処理を実施して型材表面部に用いる型形成用材料との接着性の向上を図ることも可能である。
【0024】
前記型材表面部12は、前記型形成用材料を用いて、例えば、型形成用材料を溶剤中に分散させて、コーティング液を作製し、該コーティング液を前記型材基部11の表面にスプレーコートした後に、乾燥させて溶剤を除去する方法や、型形成用材料を粉末化して前記型材基部11の表面に粉体塗装する方法によって形成されうる。
また、型形成用材料によって、一旦、シートを形成し、該シートを前記型材基部11の表面にラミネートする方法や、前記型材基部11の表面に表面部形成用の型を装着し、該型内に型形成用材料を射出成形する方法によっても形成されうる。
さらには、型形成用材料を用いて低粘度な液体を作製し、この液体を型材基部11の表面に印刷して型材表面部12を形成させることも可能である。
また、要すれば、一旦形成した表面部に対してさらに表面の均質化を図る後処理を実施することも可能である。
この後処理としては、型形成用材料に用いられている樹脂のガラス転移温度以上の加熱を実施する方法などが挙げられる。
【0025】
この型材1によって、成形型を形成する方法としては、例えば、以下のような方法が挙げられる。
型材に対して、その型材表面部の形状、寸法を予め調整する予備寸法調整を実施し、該予備寸法調整が実施された型材表面部を加工して光学レンズ素子の表面形状の逆形状を成形型の表面部(型表面部)に形成させるパターン形成を実施した後に、必要に応じて、パターン形成された型表面部の表面性状を調整する表面処理と、パターン形成された型表面部に対して無機物または有機物の被膜を形成させる表面被覆処理を実施して成形型を形成させることができる。
【0026】
前記予備寸法調整としては、例えば、研削などによって型材表面部の平滑性ならびに寸法公差の調整を実施する方法が挙げられる。
【0027】
前記パターン形成する方法としては、ダイヤモンド工具などの高硬度工具を用いた切削加工、放電加工、レーザー加工および光学レンズ素子と同形状のマザー型を用いて光学レンズ素子の逆形状を予備寸法調整された型表面部に転写する方法が挙げられる。
また、要すれば、予備寸法調整された型材表面部の上面に、さらに、型形成用材料を堆積させてパターンをビルドアップ形成させることも可能である。
【0028】
前記表面処理としては、例えば、パターン形成後の表面に対してブラスト処理などの物理的な処理又は酸洗などの化学的な処理を実施する方法が挙げられる。
【0029】
さらに、前記表面被覆処理は、成形型の加工面の改質を行って、形成される光学レンズ素子の寸法精度や生産効率の向上を目的としてなされるものであり、例えば、前記パターン形成によって形成されたパターンの表面にアモルファスカーボン被膜、アモルファス金属(純金属及び合金を含む)被膜、セラミック被膜、高強度ポリマー被膜、高強度ポリマー基複合材料被膜などを形成する方法が挙げられる。
この被膜形成方法としては、従来公知の物理気相成長法、化学気相成長法、イオン注入法、メッキなどの種々の方法を採用し得る。
なお、この被膜は、その厚みが10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましく、2μm以下であることが特に好ましい。
【0030】
以上のように、本発明の型形成用材料ならびに、該型形成用材料が用いられて形成される型材によれば、樹脂材料に対してパターン形成を実施することになることから、高硬度な金属材料に対してパターン形成がなされていた従来の型材などに比べて成形型の製造効率を向上させうる。
また、微細加工が容易となることから光学レンズ素子の寸法精度の向上を図り得る。
【0031】
次に、このような成形型を用いて光学レンズ素子を製造する製造方法について説明する。
なお、光学レンズ素子を形成するレンズ材料には、通常、樹脂やガラスを採用することができ、前記樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリエチレン樹脂、フルオレン系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、TAC(トリアセチルセルロース)樹脂、ポリスチレン系樹脂、フッソ系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、MS(メチルメタクリレート・スチレン共重合)樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などが挙げられる。
【0032】
また、前記ガラスとしては、型材の形成に用いられている樹脂のガラス転移温度よりも低いガラス転移温度を有する酸化物ガラス、非酸化物ガラスを用いることができ、より具体的には、ガラス転移温度が200℃程度の低融点酸化物系ガラス、ガラス転移温度が200℃程度の金属ガラス(例えば、カルコゲナイド系金属ガラス)、ならびに、ガラス転移温度が300〜500℃のいずれかの酸化物系ガラスなどが挙げられる。
【0033】
前記成形型の表面部(型表面部)の形成に用いる型形成用材料と、前記レンズ材料との組み合わせは、後述するようにガラス転移温度、成形温度における適合性が重要な要素となる。
例えば、ポリアミドイミド樹脂を型形成用材料に採用するとともに、該ポリアミドイミド樹脂よりも低いガラス転移温度を有するポリメチルメタクリレート樹脂や酸化物ガラスなどをレンズ材料として採用する場合を好適な組み合わせとして挙げることができる。
【0034】
これらの材料を用いて光学レンズ素子を成形する方法としては、例えば、成形型の加工面がモールド金型の内面となるように配置し、該モールド金型内に加熱したレンズ材料を充填する前記低粘度モールドプレス成形、高粘度モールドプレス成形、弾粘塑性モールドプレス成形や、前記表面部をプレス金型の表面に形成させ、該プレス金型でレンズ材料をプレスする低粘度高温プリント成形、高粘度高温プリント成形などが挙げられる。
【0035】
前記低粘度モールドプレス成形は、レンズ材料に用いられている樹脂又はガラスのガラス転移温度よりも高い温度にレンズ材料を加熱して低粘度化し、該低粘度化されたレンズ材料を成形型(モールド金型)に圧力をかけて充填した後に保圧しつつ急冷することで必要な表面形状が形成された光学レンズ素子を形成する方法である。
この低粘度モールドプレス成形においては、レンズ材料に用いられている樹脂又はガラスのガラス転移温度をTg0(℃)とし、レンズ材料の加熱温度をTh(℃)としたときに、この加熱温度Th(℃)を、例えば、(Tg0+50K)<Thの関係を満足する範囲の中から選定し、レンズ材料の粘度を、例えば、1×108P(poise)未満の低粘度となるようにして光学レンズ素子の成形加工を実施することができる。
ただし、型形成用材料に用いられている樹脂のガラス転移温度をTg1(℃)とした時に、レンズ材料の加熱温度Th(℃)を、この型形成用材料に用いられている樹脂のガラス転移温度Tg1(℃)以上にすると型表面部のパターンにモールド圧力による変形を発生させるおそれを有する。
したがって、レンズ材料の加熱温度Th(℃)は、Tg0<Th<Tg1の関係を満足する範囲から選定されることが好ましく、(Tg0+50K)<Th<(Tg1−30K)の関係を満足する範囲から選定されることがより好ましい。
【0036】
前記高粘度モールドプレス成形は、レンズ材料に用いられている樹脂又はガラスのガラス転移温度よりもわずかに高い温度にレンズ材料を加熱して、形成材料を低粘度化して成形型(モールド金型)に圧力をかけて充填し、保圧しつつ急冷することで必要な表面形状が形成された光学レンズ素子を形成する方法である。
この高粘度モールドプレス成形においてはレンズ材料の加熱温度をTh(℃)としたときに、例えば、(Tg0+20K)<Thの関係を満足する範囲の中から加熱温度(Th)を選定し、レンズ材料の粘度を、例えば、1×108〜1×1010Pの高粘度となるようにして光学レンズ素子の成形加工を実施することができる。
この場合、光学レンズ素子の形成材料の加熱温度Th(℃)を型形成用材料に用いられている樹脂のガラス転移温度Tg1(℃)よりも低い温度にすることが好適である点などについては低粘度モールドプレス成形の場合と同様である。
【0037】
前記弾粘塑性モールドプレス成形は、レンズ材料に用いられている樹脂又はガラスのガラス転移温度よりもわずかに低い温度にレンズ材料を加熱して形成材料に弾粘塑性流動を生じさせて成形型(モールド金型)に充填し、保圧しつつ急冷することで必要な表面形状が形成された光学レンズ素子を形成する方法である。
この弾粘塑性モールドプレス成形においては、レンズ材料の加熱温度をTh(℃)とした時に、例えば、(Tg0+5K)<Th<(Tg1−20K)の関係を満足する範囲の中から加熱温度(Th)を選定して光学レンズ素子の成形加工を実施することができる。
【0038】
前記低粘度高温プリント成形は、レンズ材料に用いられている樹脂又はガラスのガラス転移温度よりも高い温度にレンズ材料を加熱して、低粘度化し、該低粘度化されたレンズ材料を成形型(プレス金型)でプレスした後に、保圧しつつ急冷することで必要な表面形状が形成された光学レンズ素子を形成する方法である。
この低粘度高温プリント成形においては、光学レンズ素子の形成材料の加熱温度Th(℃)を、例えば、(Tg0+50K)<Thの関係を満足する範囲の中から選定し、レンズ材料の粘度を、例えば、1×108P未満の低粘度となるようにして光学レンズ素子の成形加工を実施することができる。
この場合、レンズ材料の加熱温度Th(℃)を型形成用材料に用いられている樹脂のガラス転移温度Tg1(℃)よりも低い温度にすることが好適である点などについては低粘度モールドプレス成形等の場合と同様である。
【0039】
前記高粘度高温プリント成形は、レンズ材料に用いられている樹脂又はガラスのガラス転移温度よりもわずかに高い温度にレンズ材料を加熱し、該加熱されたレンズ材料を成形型(プレス金型)でプレスした後に、保圧しつつ急冷することで必要な表面形状が形成された光学レンズ素子を形成する方法である。
この高粘度高温プリント成形においては、レンズ材料の加熱温度Th(℃)を、例えば、(Tg0+20K)<Thの関係を満足する範囲の中から選定し、レンズ材料の粘度を、例えば、1×108〜1×109Pの粘度となるようにして光学レンズ素子の成形加工を実施することができる。
この場合、レンズ材料の加熱温度Th(℃)を型形成用材料に用いられている樹脂のガラス転移温度Tg1(℃)よりも低い温度にすることが好適である点などについては低粘度モールドプレス成形等の場合と同様である。
【0040】
以上のように本発明の光学レンズ素子製造方法においては、光学レンズ素子に形成する表面形状(パターン)の逆形状が形成されている表面部が樹脂材料で形成されているため、上記のような製造時において光学レンズ素子の形成材料(レンズ材料)に温度バラツキが生じることを抑制させ得る。
しかも、この表面部を形成している材料とレンズ材料との熱膨張率の差が小さいことから不測の離型現象が抑制されうる。
したがって、温度調整のために要していた手間の削減を図りつつ寸法精度の向上された光学レンズ素子を生産し得る。
【実施例】
【0041】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1:型材の作製)
炭素鋼(S45C)が用いられた型材基部の表面に、ブラスト処理ならびに酸洗処理して表面の清浄化ならびに粗化を実施し、型形成用材料の接着性の向上を図った。
この型材基部の表面にポリイミド樹脂ワニスをスプレーコートし加熱乾燥し型材表面部を形成させた。
この型材表面部を再加熱して追加乾燥を実施し実施例1の型材を作製した。
得られた型材の表面部(型材表面部)を形成しているポリイミド樹脂に対して、以下のような方法でガラス転移温度の測定を、熱機械分析装置(TMA)を用いて実施したところ図2に示すように約270℃であることがわかった。
【0043】
(ガラス転移温度(Tg)の測定)
(測定試料の作製)
基材(0.1mm厚さのアルミニウム板)にポリイミド樹脂ワニスを塗布し、200℃×60分の乾燥の後、300℃での焼成を行って試料を作製した。
(測定条件)
得られた試料は下記のような測定条件で測定し、接線法によりガラス転移温度を求めた。
なお、接線は、装置に付随のプログラムによって自動解析させて作製した。
<測定条件>
使用機器:エスアイアイ・ナノテクノロジー社製「SS120」
プローブ:針入プローブ(石英型)
荷重:980mN
昇温速度:10℃/分
雰囲気ガス:空気
【0044】
この実施例1の型材に対して、沸騰水中における煮沸2時間、常温乾燥2時間の条件で付着力評価を実施した。
この常温乾燥後の型材表面部を目視にて観察したところ特にフクレなどは観察されなかった。
また、JIS K5600−5−6クロスカット法によって、型材基部に対する型材表面部の付着性を評価した。
結果、図3に示すように、実施例1の型材は、型材表面部が型材基部に優れた付着性を有しており信頼性の高いものであることが分かった。
【0045】
(実施例2:型材を用いた成形型の作製)
ポリアミドイミド樹脂ワニス(固形分29重量%)に、無機体質顔料(タルク)を20重量%となるように含有させた塗工液を用いて実施例1と同様にして図4に示す型材を作製した。
【0046】
この無機有機複合材によって形成された型材表面部(型材表面部)の全体に100μmピッチで、深さ50μmの溝を形成させた。
なお、溝は、形状をCADCAMで設定し型材表面部に切削によって形成させた。
得られた成形型の型表面部(加工面)の様子を正面ならびに斜め方向から観察した写真を図5に示す。
この図からもCADCAMで設定した形状が成形型の加工面に精度良く反映されており、成形型としての寸法精度にすぐれていることがわかる。
【0047】
(実施例3:成形型を用いた模擬光学レンズ素子製造事例)
図6に成形加工装置の側面図を示す。
この図6に示すように、実施例2で形成した成形型を下型に用い、平板状に形成された上型との間に500μm厚みのポリメタクリレート樹脂シートを介装し、このシートに用いられているポリメタクリレート樹脂のガラス転移温度(105℃)以上の成形温度(125℃)でプレスを実施し、保圧した状態で急冷を実施して光学レンズ素子を模擬した成形品を作製した。
この成形前後のポリメタクリレート樹脂シートの様子を図7に示す。
また、この模擬光学レンズ素子の表面形状と、成形型の表面部の形状とを松下電器製の超高精度三次元測定機、「UA3P」にて測定したところ図8に示す通りであった。
このことからも、成形型の微細なパターンが精度良く成形品に反映されていることがわかる。
すなわち、本発明によれば、寸法精度の向上された光学レンズ素子を形成し得ることがわかる。
【符号の説明】
【0048】
1:型材、11:型材基部、12:型材表面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学レンズ素子を形成すべくガラス又は樹脂のいずれかを含むレンズ材料が成形加工される成形型を作製するための型材に用いられ、しかも、前記成形型の加工面が形成される型材表面部の形成に用いられる型形成用材料であって、
前記レンズ材料に用いられるガラス又は樹脂のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する樹脂が用いられていることを特徴とする型形成用材料。
【請求項2】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂及び有機ケイ素樹脂のいずれか一種以上の樹脂が用いられている請求項1記載の型形成用材料。
【請求項3】
カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、タルク粒子、炭化ケイ素ウィスカ、窒化ケイ素ウィスカ及びガラスファイバーのいずれか一種以上がさらに用いられている請求項1又は2記載の型形成用材料。
【請求項4】
光学レンズ素子を形成すべくガラス又は樹脂のいずれかを含むレンズ材料が成形加工される成形型を作製するための型材であって、
前記成形型の加工面が形成される型材表面部は、前記レンズ材料に用いられるガラス又は樹脂のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する樹脂が用いられた型形成用材料で形成されていることを特徴とする型材。
【請求項5】
光学レンズ素子を形成すべくガラス又は樹脂のいずれかを含むレンズ材料が成形加工される成形型であって、
前記成形加工に用いる加工面が形成されている型表面部は、前記レンズ材料に用いられるガラス又は樹脂のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する樹脂が用いられた型形成用材料で形成されていることを特徴とする成形型。
【請求項6】
ガラス又は樹脂のいずれかを含むレンズ材料を成形型で成形加工して光学レンズ素子を製造する光学レンズ素子製造方法であって、
前記レンズ材料に用いられているガラス又は樹脂のガラス転移温度よりも高いガラス転移温度を有する樹脂が用いられた型形成用材料で型表面部が形成されている成形型を用いて前記成形加工を実施し、しかも、前記レンズ材料を、該レンズ材料に用いられているガラス又は樹脂のガラス転移温度以上且つ前記型形成用材料に用いられている前記樹脂のガラス転移温度以下に加熱して前記成形加工を実施することを特徴とする光学レンズ素子製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−179586(P2010−179586A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−25713(P2009−25713)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(501133236)
【出願人】(591151554)名神株式会社 (4)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】