説明

型枠装置

【課題】取り扱いが容易であるインバートのための型枠装置を提供すること。
【解決手段】山岳トンネルに場所打ちコンクリートにより形成されるインバートのための型枠装置(10)は、トンネル(12)の軸線方向へ互いに間隔をおいて配置されかつトンネルの各側壁(20)にトンネルの軸線と平行な軸線の周りに回転可能であるように又は前記トンネルの横断方向へ移動可能であるように支持された複数のアーム部材(22)と、アーム部材に支持された、トンネルの周方向に関するインバートの端部の上面(18)を成形するための型枠(24)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネルに場所打ちコンクリートにより形成されるインバートのための型枠装置に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの構築の際、トンネルの底部をなす地盤が軟弱である場合、前記トンネルの底部に該トンネルの周方向に伸びる溝を掘削し、該溝にコンクリートを打設してインバートを形成することがある。
【0003】
ところで、前記インバートの形成後にコンクリートを打設して行われる覆工の形成に際し、覆工用型枠の周方向下端部が前記インバートの各端部上面に重ね合わされる。このとき、前記覆工用型枠の下端部と前記インバートの端部上面との間に隙間が生じないように、前記インバートの端部上面が平滑であることが求められる。
【0004】
このような平滑な端部上面を有するインバートは、型枠装置を用いることにより形成することができる。このような型枠装置の一つとして、トンネルの底部上を移動可能である台車と、該台車からトンネルの各側壁に向けて伸びるアームと、該アームに支持された、前記インバートの各端部上面を成形するための型枠とを備えるものがある(後記特許文献1参照)。
【0005】
しかし、前記従来の型枠装置は、前記トンネルの底部上の大部分を占め、大掛かりなものであるため、その取り扱い上の不便がある。
【0006】
【特許文献1】特開2003−232196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、取り扱いが容易であるインバートのための型枠装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、山岳トンネルに場所打ちコンクリートにより形成されるインバートのための型枠装置に係り、前記トンネルの軸線方向へ互いに間隔をおいて配置されかつ前記トンネルの各側壁、例えばその一部をなす支保工に前記トンネルの軸線と平行な軸線の周りに回転可能であるように前記トンネルの横断方向へ移動可能であるように支持された複数のアーム部材と、前記アーム部材に支持された、前記トンネルの周方向に関する前記インバートの端部の上面を成形するための型枠とを含む。
【0009】
前記成形装置は、さらに、前記型枠を前記トンネルの軸線方向へ移動させるための移動機構を含むものとすることができる。前記移動機構は、例えば各アーム部材に吊持された一対の滑車と、該滑車に吊持され前記トンネルの軸線方向へ伸びる長尺部材とを含み、前記型枠は前記長尺部材に取り付けられている。さらに、各アーム部材と前記型枠との間の間隔を維持するためのスペーサとを含むものとすることができる。
【0010】
前記回転駆動手段は、例えば、前記トンネルの側壁と少なくとも1つのアーム部材とにそれぞれ枢着された両端部を有する液圧ジャッキからなるものとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トンネル底部に形成されるインバートの端部上面を成形するための型枠を複数のアーム部材を介してトンネル側壁に支持したことから、従来における台車のようなトンネル底部上を占める格別の手段を必要としない。このため、本発明に係る型枠装置は、前記従来の型枠装置のように大掛かりではなく、取り扱いが容易である。前記型枠は、液圧ジャッキのような回転駆動手段を操作して前記アーム部材を回転させることにより、前記型枠を前記インバートの端部上面に接する位置と、これから離れる位置とにそれぞれ配置することができる。
【0012】
前記型枠をトンネルの軸線方向へ移動させるための移動機構を備える型枠装置によれば、インバートを形成するために前記トンネルの軸線方向に区画された一の区域から他の区域への型枠の移動を容易に行うことができる。
【0013】
前記移動機構として各アーム部材に吊持された一対の滑車と、該滑車に吊持され前記トンネルの軸線方向へ伸びる長尺部材とを含み、前記型枠が前記長尺部材に取り付けられたものからなるものにあっては、前記長尺部材を前記トンネルの軸線方向に押すことにより、前記滑車が回転し、前記長尺部材と共に前記型枠を容易に移動させることができる。
【0014】
各アーム部材と前記型枠との間にスペーサを配置することにより、これらの間の間隔が変化しないように維持することができ、これにより、インバートの端部上面に対する前記型枠の当接状態を確実に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1及び図2を参照すると、本発明に係る型枠装置が全体に符号10で示されている。
【0016】
型枠装置10は、地山の掘削により形成された山岳トンネル12の底部14に場所打ちコンクリートにより形成されるインバート16の成形、より詳細にはインバート16の前記トンネルの周方向における端部の上面18の成形に用いられる。
【0017】
なお、ここに言うインバート16は、トンネル12の軸線方向に関して区画された複数の施工領域のそれぞれにおけるインバートをいう。したがって、より正確には、インバート16は、最終的に形成される複数のインバート16の連なりの一部であるということができる。
【0018】
型枠装置10は、トンネル12の各側壁20に支持された複数のアーム部材22と、アーム部材22に支持された型枠24とを備える。
【0019】
アーム部材22はトンネル12の軸線方向に互いに間隔をおいて配置され、一方の側壁20から他の側壁(図示せず)に向けて水平に伸びている。図示のアーム部材22は全体にクランク形を呈しているが、折れ曲がることなく直線的に伸びるものであっても良い。
【0020】
図示のトンネルの側壁20は、該トンネルの地山に吹き付けられたコンクリート層と、該コンクリート層に埋設された複数の支保工26とを含む。支保工26はトンネル12の周面をその周方向へ伸びる例えばH形鋼、I形鋼、C形鋼、チャンネル形鋼、山形鋼、パイプ等の鋼材からなり、トンネル12の軸線方向に互いに間隔をおいて配置されている。
【0021】
アーム部材22はその一方の端部において支保工26に枢着されており、トンネル12の軸線と平行な軸線の周りに回転可能である。アーム部材22は、例えば、側壁20の下端のすぐ上方に位置するように配置することができる。
【0022】
型枠24はトンネル12の軸線方向へ伸びている。型枠24の前記軸線方向に関する長さ寸法は、形成されるインバート16の前記トンネルの軸線方向長さに合わせて設定される。
【0023】
型枠24は、インバート16の端部上面18に接しこれを成形するための曲面28を有する。この曲面28は、インバート16の形成後にトンネル側壁20に巻き立てられる場所打ちコンクリートによる覆工の形成のために設置される覆工用型枠(図示せず)の周方向端部の内面に一致するものに設定される。これにより、前記覆工用型枠の設置の際、該覆工用型枠の周方向端部の内面をインバート16の端部上面18に密接させることができる。なお、符号30は型枠24のための補強部材を示す。
【0024】
型枠装置10は、さらに、アーム部材22をその枢着軸31の周りに回転駆動するための手段32を含む。
【0025】
図示の回転駆動手段32は、トンネルの側壁20の一部をなす支保工26と各アーム部材22とにそれぞれ枢着された両端部を有する複数の液圧ジャッキからなる。
【0026】
複数の前記液圧ジャッキを同時に伸縮動作させることにより、全アーム部材22をその枢着軸31の周りに回転させることができる。これにより、アーム部材22と共に回転動作をする型枠24をその曲面28がインバートの端部上面18に当接するようにすること(型枠の配置)、及び端部上面18から離れるようにすること(脱型)ができる。
【0027】
前記液圧ジャッキは、これを少なくとも1つとすることができる。また、回転駆動手段32は、前記液圧ジャッキに代えて、例えばねじジャッキとすることができる。
【0028】
型枠装置10は、好ましくは型枠24をトンネル12の軸線方向へ移動させるための移動機構34を含む。
【0029】
図示の移動機構34は、各アーム部材22に吊持された一対の滑車36と、該滑車に吊持されトンネル12の軸線方向へ伸びる長尺部材38とを含む。
【0030】
両滑車36は、支承部材40に、これらが互いに間隔をおいて相対しかつ個々に回転可能であるように支承されている。両滑車36の回転軸線はトンネル12の横断方向に向けて伸びている。
【0031】
両滑車36を支承する支承部材40はプレート42とブラケット44とを介して、アーム部材22に吊持されている。
【0032】
プレート42はその上下両端部において、ピン46,48を介して、それぞれ、支承部材40とブラケット44とに枢着されている。ピン46,48は、両滑車36の回転軸線と同じ方向に伸びている。
【0033】
ブラケット44は、アーム部材22に、その長手方向すなわちトンネル12の横断方向へ滑動可能であるように取り付けられている。アーム部材22に沿ってのブラケット44の滑動により、ブラケット44したがって型枠24の位置決めを行うことができる。ブラケット44は、その上部に螺合されアーム部材22に至るねじ部材50を締め又は緩めることにより、アーム部材22に固定し又はこれを解除することができる。
【0034】
長尺部材38はH形鋼からなる。長尺部材38を構成する前記H形鋼は、その上フランジにおいて、互いに相対する両滑車36上に載置されており、これにより両滑車36に吊持されている。前記H形鋼の上フランジに連なるそのウエブは両滑車36間を経て下方へ伸びている。型枠24は前記H形鋼の下フランジに固定されている。
【0035】
この移動機構34によれば、型枠24にその長手方向に向けて力を加えると、前記両滑車36がその回転軸線の周りに回転し、前記H形鋼が型枠24と共にその長手方向へ移動する。これにより、インバートを形成すべき他の区画に型枠24を容易に移動することができる。
【0036】
型枠装置10は、好ましくは、各アーム部材22と型枠24との間の間隔を維持するためのスペーサ52をふくむ。このスペーサ52による前記間隔の維持により、アーム部材22に対する型枠24の相対位置を固定し、インバートの端部上面18に対しその成形面である型枠24の曲面28の位置を固定することができる。
【0037】
図示のスペーサ52は、長尺部材38の両側にこれと平行に配置された一対のチャンネル形鋼54と、各チャンネル形鋼54とアーム部材22との間に配置されたねじジャッキ56とからなる。ねじジャッキ56を伸長動作させてその両端がそれぞれチャンネル形鋼54とアーム部材22とに押し当てられるようにすることにより、インバート16の端部上面18の成形の間、これらの間の間隔を不変に維持することができる。型枠24の移動は、脱型後、ねじジャッキ56を収縮動作させて緩め、これを撤去した後に行うことができる。
【0038】
アーム部材22は、これをトンネル12の軸線と平行な軸線の周りに回転可能に支持する図示の例に代えて、トンネル12の横断方向へ移動可能に支持することができる。この例のアーム部材22は、例えば支保工26に固定されトンネル12の横断方向へ伸びる棒状部材(図示せず)に嵌合され、該棒状部材上を前記トンネルの横断方向へ滑動可能である管状部材(図示せず)からなるものとすることができる。
【0039】
この例にあっては、移動機構34は前記管状部材に取り付けられる。また前記棒状部材の長手方向に関する前記管状部材の滑動は、両端部がそれぞれ各支保工26と前記管状部材とに枢着された液圧ジャッキ、ねじジャッキ(図示せず)を伸縮作動させることにより、生じさせることができる。前記管状部材すなわちアーム部材の前記トンネルの横断方向への移動により、型枠24をその配置又は脱型のために前記トンネルの横断方向へ移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】山岳トンネルの片側の側壁に適用された本発明に係る型枠装置の側面図である。
【図2】型枠装置の概略的な正面図である。
【符号の説明】
【0041】
10 型枠装置
12 山岳トンネル
16 インバート
18 インバートの端部上面
20 トンネルの側壁
22 アーム部材
24 型枠部材
32 液圧ジャッキ(回転駆動手段)
34 移動機構
36 滑車
38 長尺部材
52 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳トンネルに場所打ちコンクリートにより形成されるインバートのための型枠装置であって、
前記トンネルの軸線方向へ互いに間隔をおいて配置されかつ前記トンネルの各側壁に前記トンネルの軸線と平行な軸線の周りに回転可能であるように又は前記トンネルの横断方向へ移動可能であるように支持された複数のアーム部材と、
前記アーム部材に支持された、前記トンネルの周方向に関する前記インバートの端部の上面を成形するための型枠とを含む、型枠装置。
【請求項2】
さらに、前記型枠を前記トンネルの軸線方向へ移動させるための移動機構を含む、請求項1に記載の型枠装置。
【請求項3】
前記移動機構は各アーム部材に吊持された一対の滑車と、該滑車に吊持され前記トンネルの軸線方向へ伸びる長尺部材とを含み、前記型枠は前記長尺部材に取り付けられている、請求項2に記載の型枠装置。
【請求項4】
さらに、各アーム部材と前記型枠との間の間隔を維持するためのスペーサとを含む、請求項3に記載の型枠装置。
【請求項5】
前記アーム部材は前記側壁の一部をなす支保工に支持されている、請求項1に記載の型枠装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−291794(P2007−291794A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122967(P2006−122967)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(593147531)大旺建設株式会社 (15)
【Fターム(参考)】