説明

埋設パイプラインのカソード防食管理システム及びカソード防食管理方法

【課題】絶縁継手を介して防食状況が異なるパイプラインを接続して、接続される両パイプラインの一方又は両方にカソード防食を施す埋設パイプラインのカソード防食管理システム又はカソード防食管理方法において、両パイプラインに大きな交流誘導電圧が発生した場合に、交流腐食リスクを低減すると共に、各パイプラインにおける防食電流の腐食抑制効果を明確にして、防食対象のパイプラインが適正なカソード防食状況に有るか否かを把握できるようにする。
【解決手段】増幅率が−1倍になる反転増幅器10の入力端子10Aを、絶縁継手1を介して接続された両パイプラインL1,L2の一方に接続し、反転増幅器10の出力端子10Bを両パイプラインL1,L2の他方に接続して、反転増幅器10における反転入力端子11Bと出力端子10Bとの間に、同じ電圧−電流特性を有する一対のダイオード14,15を逆並列接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁継手を介して接続された埋設パイプラインに対するカソード防食管理システム及びカソード防食管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
埋設パイプラインの腐食防止を図るために、パイプラインを絶縁継手でブロック化することが行われており、このブロック化によって独立した防食区間を形成して防食対象を明確にしている。特に、防食状況が異なるパイプラインを接続する場合や、管理責任の異なるパイプラインを接続する場合には、絶縁継手を介して2つのパイプラインを接続することで前述したブロック化を行い、防食対象や管理責任を明確化することが必要になる。
【0003】
埋設パイプラインを絶縁継手でブロック化する場合の一例として、鋳鉄管と鋼管が混在する場合を挙げることができる。鋳鉄管は継手に溶接を必要としないため配管工事が容易であり、長年にわたり我が国及び欧米等で水道,ガス等のパイプラインとして用いられている。この鋳鉄管は低強度材料であるため、埋設箇所の地上環境が変化して、例えば埋設箇所が大きな輪荷重のかかる幹線道路の交差点下や鉄道輸送力の増大した直流電気鉄道軌条下になった場合には、そこに埋設されたパイプラインに強度上の問題が生じる。このような埋設箇所の地上環境変化に対しては、既設の鋳鉄管に換わって延性特性を有し高強度の鋼管を新設することが行われており、この場合には鋳鉄管のパイプラインに部分的に鋼管が接続されることになる。また、既設の鋳鉄管の端部を長い延長距離に亘って敷設された鋼管と接続することもある。
【0004】
このように既設の鋳鉄管パイプラインに対して新設の鋼管を接続する場合には、既設の鋳鉄管は塗覆装の無いいわゆる裸管であり、鋼管は塗覆装が施されたパイプラインであるから、防食状況が異なるパイプラインが接続されることになる。この場合に、仮に両パイプラインを電気的に接続したとすると、既設の鋳鉄管はその表面に鉄酸化物の生成物が形成されることで管対地電位がプラス側にシフトしており(管対地電位は−0.5VCSE(飽和硫酸銅電極CSE基準電位)程度)、鋼管の管対地電位(−0.8VCSE程度)に比べて高い電位になるので、鋼管の塗覆装に小面積の欠陥部が生じると、既設の鋳鉄管がカソードで鋼管がアノードになり、大きなカソードと小さなアノードの組み合わせになって、鋼管の塗覆装欠陥部で腐食(いわゆる新旧管マクロセル腐食)が進行することになる。
【0005】
この新旧管マクロセル腐食を防止するためには、鋳鉄管と鋼管との間に絶縁継手を挿入し、更に鋼管の防食を万全なものにするために、鋼管に対してカソード防食を施す。カソード防食の方式としては外部電源方式と流電陽極方式があるが、一般に距離の短い鋼管の両端が絶縁継手になる場合には、流電陽極方式が採用され、延長距離の長い鋼管に対しては外部電源方式が採用される。
【0006】
絶縁継手を介して防食状況の異なるパイプラインが接続される状況としては、前述したようなカソード防食が施されているパイプラインとカソード防食が施されていないパイプラインとの接続だけでなく、カソード防食レベルの高いパイプラインとカソード防食レベルの低いパイプラインとの接続等がある。ここで、カソード防食が施されているパイプラインとは、外部電源方式や流電陽極方式によって直接カソード防食が施されているパイプラインを指し、カソード防食が施されていないパイプラインとは、外部電源方式や流電陽極方式によってカソード防食が施されていないパイプラインを指す。また、カソード防食レベルの高いパイプラインとカソード防食レベルの低いパイプラインとは、例えば、前者が外部電源方式によってカソード防食されている高抵抗塗覆装パイプラインであり、後者が流電陽極方式によってカソード防食されている歴青質塗覆装パイプラインである場合などを指す。
【0007】
絶縁継手によって埋設パイプラインをブロック化する場合には、雷害や電力事故等によるサージ(高電圧)が絶縁継手にかからないようにし、絶縁継手の焼損や火花発生、或いは感電事故等が起きないようにすることが必要になる。これに対しては、図1に示すように、絶縁継手J1を介して接続されるパイプラインJ2,J3に、シリコンダイオードDを逆並列接続することが行われている(下記非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】電気学会電食防止研究委員会編「新版 電食・土壌腐食ハンドブック」電気学会,1977年5月,p.263〜264
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
絶縁継手を介して接続されるパイプラインにシリコンダイオードを逆並列接続する従来技術では、パイプラインが高圧交流送電線や交流電気鉄道輸送路と並行している等して、両パイプラインに大きな交流誘導電圧が発生すると、シリコンダイオードの動作電圧(立ち上がり電圧)以上の交流電圧で両パイプラインに交流電流が流れることになり、一方のパイプラインが塗覆装欠陥部を有する鋼管の場合には交流腐食リスクが高くなる問題がある。
【0010】
また、両パイプラインに大きな交流電流が流れると、一方又は両方のパイプラインがカソード防食されている場合に、各パイプラインにおける防食電流の影響が交流電流の変化に埋もれてしまい、防食対象のパイプラインが適正なカソード防食状況に有るか否かを把握できなくなる問題が生じる。
【0011】
また、前述した従来技術によると、シリコンダイオードは順方向に対しては立ち上がり電圧(700mV程度)まで電気抵抗が高く、この立ち上がり電圧以上になると順方向電圧が高くなるほど電気抵抗が低くなり、大電流流通時の電圧降下が小さいという特性があるので、平常時はダイオードが動作しておらず、絶縁継手を介して接続されたパイプラインの間に電流の行き来が生じない。
【0012】
したがって、カソード防食されているパイプラインに非防食のパイプラインが絶縁継手を介して接続されている状況、例えば、カソード防食されている鋼管にカソード防食されていない塗覆装無しの鋳鉄管が絶縁継手を介して接続されている状況に、前述した従来技術を適用すると、両パイプラインの電位差をダイオードの立ち上がり電圧以上にしない限り非防食のパイプラインにカソード防食電流を流入させることができず、非防食のパイプラインは自然腐食状態になってしまう問題が生じる。
【0013】
また、一般に、絶縁継手を介して防食状況の異なるパイプラインが接続される状況で、その一方がカソード防食されている場合や、カソード防食レベルの高いパイプラインとカソード防食レベルの低いパイプラインとが接続されている場合には、発生する防食電流を有効に利用して両パイプラインの防食状況を適正に管理することが求められる。しかしながら、前述した従来技術のように単に両パイプラインの間にシリコンダイオードを逆並列接続しているだけでは、発生する防食電流を有効に利用できない問題がある。
【0014】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、絶縁継手を介して防食状況が異なるパイプラインを接続して、接続される両パイプラインの一方又は両方にカソード防食を施す埋設パイプラインのカソード防食管理システム又はカソード防食管理方法において、両パイプラインに大きな交流誘導電圧が発生した場合に、交流腐食リスクを低減すること、各パイプラインにおける防食電流の影響を明確にして、防食対象のパイプラインが適正なカソード防食状況に有るか否かを把握できるようにすること、絶縁継手を介して防食状況の異なるパイプラインが接続される状況で、その一方がカソード防食されている場合や、カソード防食レベルの高いパイプラインとカソード防食レベルの低いパイプラインとが接続されている場合に、発生する防食電流を有効に利用して、両パイプラインの防食状況を適正に管理できること、併せて、絶縁継手の焼損や火花発生、或いは感電事故等が起きないようにし、更には、カソード防食されていないパイプラインに流入した電流が絶縁継手の手前で流出することによるジャンピング腐食の問題を解消できること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような目的を達成するために、本発明による埋設パイプラインのカソード防食管理システム及びカソード防食管理方法は、以下の各独立請求項に係る構成を少なくとも具備するものである。
【0016】
[請求項1]絶縁継手を介して防食状況が異なるパイプラインを接続して、接続される両パイプラインの一方又は両方にカソード防食を施す埋設パイプラインのカソード防食管理システムにおいて、増幅率が−1倍になる反転増幅器の入力端子を前記両パイプラインの一方に接続し、該反転増幅器の出力端子を前記両パイプラインの他方に接続して、前記反転増幅器における反転入力端子と前記出力端子との間に、同じ電圧−電流特性を有する一対のダイオードを逆並列接続したことを特徴とする埋設パイプラインのカソード防食管理システム。
【0017】
[請求項8]絶縁継手を介して防食状況が異なるパイプラインを接続して、接続される両パイプラインの一方又は両方にカソード防食を施す埋設パイプラインのカソード防食管理方法において、増幅率が−1倍になる反転増幅器の入力端子を前記両パイプラインの一方に接続し、該反転増幅器の出力端子を前記両パイプラインの他方に接続して、前記反転増幅器における反転入力端子と前記出力端子との間に、同じ電圧−電流特性を有する一対のダイオードを逆並列接続したことを特徴とする埋設パイプラインのカソード防食管理方法。
【発明の効果】
【0018】
このような特徴を有する埋設パイプラインのカソード防食管理システム又はカソード防食管理方法によると、絶縁継手を介して接続された防食状況が異なる両パイプラインに大きな交流誘導電圧が発生した場合に、交流誘導電圧をダイオードの立ち上がり電圧に近いレベルに抑えることができるので、ダイオードの立ち上がり電圧を有効に設定することで交流腐食リスクを低減することができる。また、両パイプラインに流れる交流の影響を低減できるので、各パイプラインにおける防食電流(直流電流)の影響を明確にして、防食対象のパイプラインが適正なカソード防食状況に有るか否かを把握することができる。
【0019】
絶縁継手を介して防食状況の異なるパイプラインが接続される状況で、その一方がカソード防食されている場合や、カソード防食レベルの高いパイプラインとカソード防食レベルの低いパイプラインとが接続されている場合に、カソード防食電流を有効に利用して、両パイプラインの防食状況を適正に管理することができる。併せて、一対のダイオードにサージ防護素子を並列接続することで、落雷発生時に絶縁継手の焼損や火花発生、或いは感電事故等が起きないようにすることができる。更には、両パイプライン間にダイオードを逆並列接続することで、カソード防食されていないパイプラインに流入した電流が絶縁継手の手前で流出することによるジャンピング腐食の問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来技術の説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る埋設パイプラインのカソード防食管理システム及びカソード防食管理方法を説明するための説明図であり、同図(a)がシステム構成の説明図、同図(b)がダイオードの電圧−電流特性を示した説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係る埋設パイプラインのカソード防食管理システム及びカソード防食管理方法の一例を示した説明図である。
【図4】定電流発生装置の具体的な構成を示した説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る埋設パイプラインのカソード防食管理システム及びカソード防食管理方法の他の例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図2は本発明の一実施形態に係る埋設パイプラインのカソード防食管理システム及びカソード防食管理方法を説明するための説明図であり、同図(a)がシステム構成の説明図、同図(b)がダイオードの電圧−電流特性を示した説明図である。
【0022】
本発明の実施形態に係る埋設パイプラインのカソード防食管理システム又はカソード防食管理方法においては、絶縁継手1を介して防食状況が異なるパイプラインL1,L2が接続されている。防食状況が異なるパイプラインL1,L2としては、カソード防食が適用されているパイプラインとカソード防食が適用されていないパイプラインが絶縁継手1を介して接続される場合、或いは、カソード防食レベルの高いパイプラインとカソード防食レベルの低いパイプラインが絶縁継手1を介して接続される場合がある。
【0023】
カソード防食が適用されているというのは、例えば、外部電源方式又は流電陽極方式によってカソード防食されていることを指し、カソード防食が適用されていないというのは、例えば、塗覆装のみの鋼管や塗覆装が施されていない鋳鉄管を指している。カソード防食レベルが高いパイプラインとカソード防食レベルが低いパイプラインとは、例えば、外部電源方式によってカソード防食されているパイプラインと流電陽極方式によってカソード防食されているパイプライン、同じ流電陽極方式でカソード防食されているが、一方が高電気抵抗のプラスチック塗覆装パイプラインで他方が歴青質塗覆装パイプライン等の場合を指している。
【0024】
本発明の実施形態に係る埋設パイプラインのカソード防食管理システムでは、先ず、増幅率が−1倍になる反転増幅器10の入力端子10Aを両パイプラインL1,L2の一方に接続し、反転増幅器10の出力端子10Bを両パイプラインL1,L2の他方に接続している。反転増幅器10は、演算増幅器(オペアンプ)11の非反転入力端子11Aがアースされており、演算増幅器11の反転入力端子11Bと入力端子10Aとの間の抵抗12の抵抗値R1を反転入力端子11Bと出力端子10Bとの間の抵抗13の抵抗値R2と等しくしている(R1=R2)。
【0025】
そして、反転増幅器10における反転入力端子11Bと出力端子10Bとの間に、同じ電圧−電流特性を有する一対のダイオード14,15を逆並列接続している。すなわち、ダイオード14,15は順方向を互いに逆にして、演算増幅器11の反転入力端子11Bと入力端子10Aとの間の抵抗12に並列接続されている。更に、必要に応じて、ダイオード14,15は雷サージから防護するために、ダイオード14,15にサージ防護素子(サージアブソーバ)16が並列接続されている。
【0026】
ダイオード(例えばシリコンダイオード)14,15の特性は、図2(b)に示すように、設定された立ち上がり電圧VF(例えば500mV)を有し、同じ特性のダイオードを2つ逆並列接続することで、システムにおけるダイオードの電圧−電流特性は図示のようになる。
【0027】
このようなシステム構成によると、出力端子10Bの出力電圧が立ち上がり電圧VFよりも低い場合には、どちらのダイオード14,15も電流が流れないので、ダイオード14,15は無いも同然であり、両パイプラインL1,L2間には増幅率−1の反転増幅器10のみが接続されていることになる。抵抗値R1,R2(R1=R2)を例えば10kΩと高くすることで、ダイオード14,15が動作しないときには、両パイプラインL1,L2間に殆ど電流が流れない状態になり、両パイプラインL1,L2間の絶縁状態を維持することができる。
【0028】
一方、反転増幅器10の反転入力端子11Bは仮想接地(0V)であるから、出力端子10Bの出力電圧はダイオード14の順方向電圧に等しくなる。そこで、ダイオード14,15の特性を立ち上がり電圧VFから急激に立ち上がる特性にすることで、ダイオード14,15動作時の出力電圧は常に立ち上がり電圧VFに近いレベルとなる。これによって、パイプラインL1,L2に大きな交流誘導電圧が生じた場合にも、パイプラインL1,L2間の電圧をダイオード14,15の立ち上がり電圧VFに近いレベル以下に抑えることができ、この立ち上がり電圧VFを交流腐食リスクの低い電圧値に設定することで、パイプラインL1,L2の交流腐食リスクを低減することが可能になる。パイプラインL1が高抵抗塗覆装の施された鋼管であり、パイプラインL2が塗覆装無しの鋳鉄管の場合に、ダイオード14,15の立ち上がりで電圧VFを500mVに設定することで、交流腐食リスクの低減が可能になる。
【0029】
また、パイプラインL1,L2に生じる交流誘導電圧の影響を低減することができるので、パイプラインL1,L2に流入するカソード防食電流(直流電流)の影響を各パイプラインL1,L2で適切に把握することが可能になる。これによって、各パイプラインL1,L2においてカソード防食状況の管理を適正に行うことができる。
【0030】
パイプラインL1,L2の一方に電流が流入して両パイプラインL1,L2間にダイオード14,15の立ち上がり電圧VF以上の電圧が生じた場合には、ダイオード14,15が動作してダイオード14,15を介してパイプラインL1,L2の他方に電流を逃がしてやることができる。これによって、カソード防食レベルの低いパイプライン又はカソード防食が適用されていないパイプラインに電流が流入しても、この流入した電流をダイオード14,15を介してカソード防食レベルの高いパイプラインに流すことができ、この機能によって、カソード防食レベルの低いパイプライン又はカソード防食が適用されていないパイプラインに流入した電流によるジャンピング腐食を防止することができる。
【0031】
そして、本発明の実施形態に係る埋設パイプラインのカソード防食管理システム及びカソード防食管理方法によると、カソード防食レベルの低いパイプライン又はカソード防食が適用されていないパイプラインに、カソード防食電流を適正に供給することが可能になる。
【0032】
図3は、本発明の実施形態に係る埋設パイプラインのカソード防食管理システム及びカソード防食管理方法の一例を示した説明図である(前述の説明と共通する部分は同一符号を付して重複説明を一部省略する)。この例では、パイプラインL1が流電陽極方式でカソード防食された鋼管であり、パイプラインL2が塗覆装の無い鋳鉄管である。既設の鋳鉄管の埋設箇所が大きな輪加重のかかる幹線道路交差点下になった場合等に、既設の鋳鉄管(パイプラインL2)に対して部分的に高強度の鋼管(パイプラインL1)を接続することが行われるが、この場合には鋼管(パイプラインL1)の敷設長さは限られるので、流電陽極方式のカソード防食が施される。
【0033】
カソード防食ラインであるパイプラインL1には、流電陽極(例えばMg陽極)2が定電流発生装置20を介して接続されている。定電流発生装置20は、流電陽極2からの発生電流を設定電流値に定電流制御するものである。また、絶縁継手1の両側で、パイプラインL1,L2の管対地電位(P/SI,P/SII)をそれぞれ計測可能な管対地電位計測手段3(3A,3B)が設置されている。管対地電位計測手段3は、パイプラインL1又はL2と地面Gに設置された照合電極(例えば飽和硫酸銅電極)30とを接続した電線31,32間に電圧計33を接続したものである。
【0034】
絶縁継手1を介して接続されるパイプラインL1,L2には、前述した反転増幅器10の入力端子10Aと出力端子10Bがそれぞれ接続されており、反転増幅器10の抵抗13にダイオード14,15を逆並列接続し、更にサージ防護素子16をダイオード14,15に並列接続している。
【0035】
このようなシステム構成において、管対地電位計測手段3(3A,3B)で計測される絶縁継手1の両側での管対地電位(P/SI,P/SII)の差(Δ(P/S)=P/SII−P/SI)がダイオード15の動作電位になるように定電流発生装置20を定電流制御する。すなわち、ダイオード14,15が順方向に500mVの電圧が印加されたときに動作して電流を流し出すとすると、Δ(P/S)=P/SII−P/SIを500mVより大きくなるように、流電陽極2からの発生電流を制御して、その電流を設定値とした定電流制御を行う。
【0036】
これによるとMg陽極などの接地抵抗の低い流電陽極2をパイプラインL1に接続しているにも拘わらず、流電陽極2からは常時設定された定電流が流出しているので、流電陽極2から直流迷走電流がパイプラインL1に流入することを実質的に防止することができる。
【0037】
更には、Δ(P/S)の付加によってパイプラインL2からパイプラインL1に向かう電流方向を順方向とするダイオード15が常時動作状態になるので、低接地体である塗覆装無しの鋳鉄管であるパイプラインL2にカソード防食電流を流入させ、流入した電流をパイプラインL1側に逃がして、流電陽極2から設定された定電流の発生電流を流出させることができる。これによって、パイプラインL2の絶縁継手1近傍で生じるジャンピング腐食を効果的に防止することができると共に、塗覆装無しの鋳鉄管であるパイプラインL2を効果的カソード防食することができる。
【0038】
パイプラインL1,L2の管対地電位P/SI,P/SIIを如何に設定するかの具体例を説明すると、カソード防食ラインであるパイプラインL1が鋼管であり、パイプラインL2が塗覆装無しの鋳鉄管である場合には、パイプラインL2の管対地電位P/SIIを自然電位から設定電位だけマイナス側にシフトさせた値にする。土壌中での鋳鉄管の自然電位が例えば−500mVCSE(飽和硫酸銅電極CSE基準)であるとすると、最小100mVカソード分極を指標としたカソード防食基準を採用して、鋳鉄管の管対地電位が自然電位から少なくとも100mVマイナス側にシフトするように発生電流の制御を行う。すなわち、管対地電位P/SIIの目標値は−500−100=−600mVCSEとなる。これによって、パイプラインL2の腐食速度を自然腐食速度よりも1桁小さいレベルにすることができる。
【0039】
そして、カソード防食ラインであるパイプラインL1の管対地電位P/SIは、パイプラインL2の管対地電位P/SIIよりダイオード15の動作電位だけマイナス側にシフトした値で且つカソード防食基準に合格する値になるように目標値を設定する。ダイオード15の動作電位が500mVであるとすると、P/SI=P/SII−500=−600−500=−1100mVCSEとする。この値は、カソード防食設計の防食電位の一例である−1000mVCSE(日本ガス協会編「ガス導管防食ハンドブック」,1993年4月,p.89)に合格する値になっている。
【0040】
このような管対地電位P/SI,P/SIIの値になるように、流電陽極2の発生電流を制御する。具体的には、詳細に後述する定電流発生装置20の設定電流を徐々に高めていき、管対地電位P/SI,P/SIIが前述した目標値に達したところで、定電流制御を行う。流電陽極2からの発生電流を定電流制御することで、パイプラインL1,L2の管対地電位P/SI,P/SIIの値が経時的に維持されることになり、ダイオード15は常時動作状態が保持されることになる。
【0041】
図4は、定電流発生装置20の具体的な構成を示した説明図である。定電流発生装置20は、パイプラインL1に一端が接続される電線20Aの他端がカソード防食ライン側端子21Aに接続され、流電陽極2に一端が接続される電線20Bの他端が流電陽極側端子21Bに接続されており、カソード防食ライン側端子21Aと流電陽極側端子21Bとの間を通電する主通電線21Dと、主通電線21D内に直列接続されるモニタ抵抗21Eと、定電流発生電源21Cを備え、定電流発生電源21Cは、主通電線21Dにスイッチング素子21Fを介して流電陽極2の側がプラスとなるように並列接続されている。定電流発生電源21Cの具体例としては、1.5Vの乾電池を複数個並列接続するものを用いることができる。
【0042】
定電流発生電源21Cを接続・非接続制御する制御手段21Gは、モニタ抵抗21Eを流れる電流を設定時間毎に検出し、検出された検出電流値と設定電流値とを比較して、検出電流値が設定電流値より小さい場合にスイッチング素子21Fを閉状態にする制御を行うものである。
【0043】
この際の設定時間は、流電陽極2から直流迷走電流が流入してこれがダイオード14を通ってパイプラインL2側に流入した場合にも腐食リスクが問題にならないように設定される。この設定時間を例えば4msecとした場合、流電陽極2に流入する直流迷走電流が4msec間で10A(直流電気鉄道車両の負荷電流を1000Aとしてその1%がレール漏れ電流になった場合を仮定)だとすると、鉄の腐食量はファラデーの法則により11.56μgとなり、この微小値が裸の鋳鉄管の表面から大地に分散して流出することになるが、この程度の値では鋳鉄管の維持管理上問題が無いと言える。
【0044】
この定電流発生装置20によると、流電陽極発生電流が設定電流値を超えている場合には、スイッチング素子21Fが開状態になって定電流発生電源21Cの接続は完全に遮断された状態になる。これによって、定電流発生電源21Cを乾電池で形成した場合であっても電池寿命を無駄に費やすことが無く、電池交換の頻度を最小限に抑えることが可能になる。
【0045】
定電流発生装置20内には、モニタ抵抗21Eを流れる電流を時系列的に記憶する記憶手段(フラッシュメモリ)を設けることができる。この記憶手段の記憶内容を定期的に確認することで、システム全体の正常動作を確認することが可能になる。
【0046】
前述した設定電流値は、定電流設定手段22によって設定される。すなわち、定電流設定手段22は、定電流発生源21Cを電線20A,20B間に接続状態にして、パイプラインL1と流電陽極2間を流れる電流をモニタしながら、定電流制御のための設定電流値を所望の値に定めるものである。定電流設定手段22としては、図示のように、モニタ手段を有する演算処理装置(PC又はPDA等)22Aをケーブル(例えば、USBケーブル)23で定電流発生装置20に接続して、この演算処理装置に22Aよって機能させることができる。
【0047】
この定電流設定手段22は、パイプラインL1と流電陽極2間を流れる電流をモニタしながら、管対地電位計測手段3の電圧計33で計測された管対地電位P/SI,P/SIIが前述した目標値に達したときのモニタ電流を定電流制御のための設定電流値に定める。
【0048】
なお、この実施形態では、定電流発生装置20の定電流値を適正に定めることで、流電陽極2からパイプラインL2に向けて流れる電流を阻止している。これに加えて、パイプラインL1と流電陽極2との間に逆流防止器を接続することで、流電陽極2からパイプラインL1に向かって流れる電流をより確実に防止することができる。
【0049】
図5は、本発明の実施形態に係る埋設パイプラインのカソード防食管理システム及びカソード防食管理方法の他の例を示した説明図である(前述の説明と共通する部分は同一符号を付して重複説明を一部省略する)。この例では、パイプラインL1が外部電源方式でカソード防食された鋼管であり、パイプラインL2が塗覆装の無い鋳鉄管である。既設の鋳鉄管(パイプラインL2)の末端に鋼管(パイプラインL1)を接続する場合等では、鋼管(パイプラインL1)の敷設長さは長くなる。このような敷設長さの長い鋼管に対しては外部電源方式によるカソード防食が施される。
【0050】
パイプラインL1には、外部電源装置4が接続されており、外部電源装置4のアノード4Aから出力されるカソード防食電流をパイプラインL1,L2に供給している。この例では、塗覆装無しの鋳鉄管であるパイプラインL2の管対地電位が自然電位から少なくとも100mVマイナス側にシフトするように外部電源装置4の出力が制御される。
【0051】
前述した例と同様に、土壌中での鋳鉄管の自然電位が例えば−500mVCSE(飽和硫酸銅電極CSE基準)であるとすると、鋳鉄管の管対地電位が自然電位から少なくとも100mVマイナス側にシフトするように出力電流の制御を行う。すなわち、管対地電位P/SIIの目標値は−500−100=−600mVCSEとなる。
【0052】
そして、前述した例と同様に、パイプラインL1の管対地電位P/SIは、パイプラインL2の管対地電位P/SIIよりダイオード15の動作電位だけマイナス側にシフトした値で且つカソード防食基準に合格する値になるように目標値を設定する。ダイオード15の動作電位が500mVであるとすると、P/SI=P/SII−500=−600−500=−1100mVCSEとする。この値は、カソード防食設計の防食電位の一例である−1000mVCSE(日本ガス協会編「ガス導管防食ハンドブック」,1993年4月,p.89)に合格する値になっている。
【0053】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る埋設パイプラインのカソード防食管理システム及びカソード防食管理方法によると、交流誘導電圧等によって、絶縁継手1の両側のパイプラインL1,L2にダイオード14,15の立ち上がり電圧VFを超える電圧がかかった場合、パイプラインL1,L2の一方から他方に電流を流すことで、電圧を問題の無いレベルまで抑制することが可能になる。また、パイプラインL1,L2間にかかる電圧がダイオード14,15の立ち上がり電圧VF以下の場合には、ダイオード14,15は無いものと同然になって、両パイプラインL1,L2間の絶縁状態が維持される。
【0054】
絶縁継手1を介してカソード防食が適用されているパイプラインL1とカソード防食が適用されていないパイプラインL2が接続されている場合、接地抵抗の低い非防食ライン(パイプラインL2)に防食電流が流入し、これが絶縁継手1の手前で流出するジャンピング腐食が問題になるが、本発明の実施形態によると、パイプラインL2に電流が流入してパイプラインL1,L2間がダイオード14の動作電圧(立ち上がり電圧VF)以上の電圧になると、パイプラインL2からパイプラインL1にダイオード14を介して電流が流れて電圧を問題のないレベルに抑制するので、前述したジャンピング腐食の問題は生じない。
【0055】
また、絶縁継手1を介して接続されるパイプラインL1,L2には、増幅率−1の反転増幅器10の入力端子10Aと出力端子10Bがそれぞれ接続されており、その反転増幅器10の反転入力端子11Bと出力端子10Bには同じ電圧−電流特性を有する一対のダイオード14,15が逆並列接続されているので、絶縁継手1の両側のパイプラインL1,L2に高い交流誘導電圧が印加された場合であっても、交流電圧を交流腐食リスクが問題とならないレベルまで抑制することができる。これは交流腐食リスクを低減させるだけでなく、交流電圧の印加でパイプラインL1,L2間を行き来する交流電流によって各パイプラインL1,L2のカソード防食状況が把握できなくなる不都合を解消している。これはカソード防食状況を管理する上で非常に有効な機能である。
【0056】
そして、前述した各例に示すように、カソード防食電流を適宜に設定することで、防食状況が異なる両パイプラインL1,L2に対して適正にカソード防食電流を供給することができる。特に、カソード防食ラインと非防食ラインの接続においては、カソード防食電流を適正に非防食ラインに流入させ、非防食ラインから防食ラインに流れる電流のバイパス流路を形成し、防食ラインに流れ込んだ電流を再びカソード防食電流として出力することができるので、防食状況が異なる両パイプラインL1,L2の防食管理状況を適正に維持することができる。
【符号の説明】
【0057】
1:絶縁継手,
2:流電陽極,
3(3A,3B):管対地電位計測手段,
4:外部電源装置,4A:アノード,
10:反転増幅器,10A:入力端子,10B:出力端子,
11:演算増幅器,11A:非反転入力端子,11B:反転入力端子,
12,13:抵抗,14,15:ダイオード,
16:サージ防護素子(サージアブソーバ),
20:定電流発生装置,
30:照合電極(飽和硫酸銅電極)
31,32:電線,33:電圧計,
L1,L2:パイプライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁継手を介して防食状況が異なるパイプラインを接続して、接続される両パイプラインの一方又は両方にカソード防食を施す埋設パイプラインのカソード防食管理システムにおいて、
増幅率が−1倍になる反転増幅器の入力端子を前記両パイプラインの一方に接続し、該反転増幅器の出力端子を前記両パイプラインの他方に接続して、
前記反転増幅器における反転入力端子と前記出力端子との間に、同じ電圧−電流特性を有する一対のダイオードを逆並列接続したことを特徴とする埋設パイプラインのカソード防食管理システム。
【請求項2】
前記一対のダイオードにサージ防護素子を並列接続したことを特徴とする請求項1に記載された埋設パイプラインのカソード防食管理システム。
【請求項3】
前記ダイオードの順方向立ち上がり電圧が500mVであることを特徴とする請求項1又は2に記載された埋設パイプラインのカソード防食管理システム。
【請求項4】
前記両パイプラインの一方がカソード防食され且つ塗覆装が施された鋼管であり、前記両パイプラインの他方がカソード防食されていない塗覆装無しの鋳鉄管であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載された埋設パイプラインのカソード防食管理システム。
【請求項5】
前記鋼管は流電陽極方式でカソード防食され、前記鋼管と流電陽極とは該流電陽極からの発生電流を設定電流値に定電流制御しうる定電流発生装置を介して接続されており、前記定電流発生装置は、前記鋳鉄管の管対地電位が自然電位から少なくとも100mVマイナス側にシフトするように前記発生電流の制御がなされることを特徴とする請求項4に記載された埋設パイプラインのカソード防食管理システム。
【請求項6】
前記鋼管と前記流電陽極との間には、該流電陽極から前記鋼管に向かって導線を流れる電流を防止する逆流防止器が接続されていることを特徴とする請求項5に記載された埋設パイプラインのカソード防食管理システム。
【請求項7】
前記鋼管は外部電源方式でカソード防食されており、前記鋼管に接続される外部電源装置は、前記鋳鉄管の管対地電位が自然電位から少なくとも100mVマイナス側にシフトするように出力の制御がなされることを特徴とする請求項4に記載された埋設パイプラインのカソード防食管理システム。
【請求項8】
絶縁継手を介して防食状況が異なるパイプラインを接続して、接続される両パイプラインの一方又は両方にカソード防食を施す埋設パイプラインのカソード防食管理方法において、
増幅率が−1倍になる反転増幅器の入力端子を前記両パイプラインの一方に接続し、該反転増幅器の出力端子を前記両パイプラインの他方に接続して、
前記反転増幅器における反転入力端子と前記出力端子との間に、同じ電圧−電流特性を有する一対のダイオードを逆並列接続したことを特徴とする埋設パイプラインのカソード防食管理方法。
【請求項9】
前記一対のダイオードにサージ防護素子を並列接続したことを特徴とする請求項8に記載された埋設パイプラインのカソード防食管理方法。
【請求項10】
前記ダイオードの順方向立ち上がり電圧が500mVであることを特徴とする請求項8又は9に記載された埋設パイプラインのカソード防食管理方法。
【請求項11】
前記両パイプラインの一方がカソード防食され且つ塗覆装が施された鋼管であり、前記両パイプラインの他方がカソード防食されず、且つ塗覆装のない鋳鉄管であることを特徴とする請求項8〜10の何れかに記載された埋設パイプラインのカソード防食管理方法。
【請求項12】
前記鋼管は流電陽極方式でカソード防食されており、前記鋼管と流電陽極とは該流電陽極からの発生電流を設定電流値に定電流制御しうる定電流発生装置を介して接続されており、前記定電流発生装置は、前記鋳鉄管の管対地電位が自然電位から少なくとも100mVマイナス側にシフトするように前記発生電流の制御がなされることを特徴とする請求項11に記載された埋設パイプラインのカソード防食管理方法。
【請求項13】
前記鋼管と前記流電陽極との間には、該流電陽極から前記鋼管に向かって導線を流れる電流を防止する逆流防止器が接続されていることを特徴とする請求項12に記載された埋設パイプラインのカソード防食管理方法。
【請求項14】
前記鋼管は外部電源方式でカソード防食されており、前記鋼管に接続される外部電源装置は、前記鋳鉄管の管対地電位が自然電位から少なくとも100mVマイナス側にシフトするように出力の制御がなされることを特徴とする請求項12に記載された埋設パイプラインのカソード防食管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−52246(P2011−52246A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200009(P2009−200009)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】