説明

埋設用二重管、該埋設用二重管を有するパイプライン

【課題】コストが過剰に高くならず、大きな曲げ応力に対しても座屈することのない変形性能に優れる埋設用二重管を得る。
【解決手段】金属製の外管1と、外管1の内側に挿入された金属製の内管3と、内管3と外管1との隙間に充填された粉体及び/又は粒状体からなる中詰材5とを有し、外管1に対して荷重が付加されたときに内管3と中詰材5及び中詰材5と外管1の接触が保たれ、中詰材5が外管1と内管3との応力伝達を連続的かつなめらかに再配分するように構成したことを特徴とする埋設用二重管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばガスパイプラインのように地中に埋設して用いられる埋設用二重管及び該埋設用二重管を用いたパイプラインに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、永久凍土地帯に埋設されるガスパイプラインには、永久凍土境界部において大きな曲げ応力が作用する。そのため、永久凍土地帯からの天然ガス安定供給を実現するためには、天然ガスを輸送するガスパイプラインが永久凍土境界部において作用する大きな曲げ応力に耐えうるものであることが必要である。
【0003】
このような永久凍土地帯に埋設されるガスパイプラインのように、大きな曲げ応力を受ける可能性のあるパイプラインに対して、曲げ応力に耐えうるようにするための方法として、大きく分けて二つの方法が考えられる。ひとつは、パイプラインの途中に特殊なメカニカル機構をもつ可撓管を挿入することによってパイプラインの変形性能を向上させる方法であり(例えば、特許文献1参照)、他のひとつは変形の結果もたらされる応力度に抵抗するための鋼管材料の高強度化や肉厚化である。
前者の方法は、メカニカルな特殊機構により変形性能を満たそうとするものであり、後者は、高強度・肉厚材料により力で対抗しようとするものである。
【0004】
【特許文献1】特開2005−171693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特殊なメカニカル機構をもつ可撓管を挿入する方法の場合、可撓管が高価となることに加え、高圧でガスや石油を輸送するパイプラインの埋設部に使用することは、技術基準に例示されていないため、許認可を得るのが難しいという問題があり、高圧下での気密性が十分とは言い難くガス漏洩の危険性が考えられる。
【0006】
また、鋼管材料の高強度化や肉厚化による方法では、在来材料を用いた場合、その弾性係数の幅は限られており、大きな曲げ応力に対して、鋼管材料の高強度化や厚肉化で吸収できる変形性能にも限界がある。さらに、通常の一重管の場合、曲げ変形に対する破壊モードは、断面の「つぶれ」に起因する局部座屈であることから、断面の肉厚を増加させても、曲げ剛性や曲げ耐力は向上するものの、局部的な不安定現象により曲げに対する抵抗性を失うという破壊モードは変わらず、部材全体の材料特性が有効に活用できているとは言いがたい。
【0007】
本発明は係る課題を解決するためになされたものであり、コストが過剰に高くならず、大きな曲げ応力に対しても座屈することのない変形性能に優れる埋設用二重管を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
曲げを受ける管は、変形に伴う応力度の増大により断面形状の保持が困難となり、やがて断面の「つぶれ」(Brazier効果)が発生し、曲げに対する抵抗力を急激に喪失する。
このような破壊モードは、局所的に発生する不安定現象によるものであり、つぶれが発生した部分にのみ曲げひずみが集中するという特性を持つ。
【0009】
そこで、発明者は、管を二重管構造とし、外管と内管の間に中詰材を充填することにより、曲げ変形の局所的な集中が阻止され、曲げによる曲率変化を部材全体に分散化・平準化することができると考え、さらに、中詰材の力学特性が、構造全体として発揮する性能に大きく影響すると考え、この点について検討を行なった。
【0010】
図3はこの検討の過程を説明する説明図であり、図3(a)〜(c)の各図においては二重管の管軸方向断面図と管軸直交方向断面がそれぞれ示されている。
そして、図3(a)は外管1と内管3の隙間に中詰材5としてモルタルを充填した二重管の例を示し、図3(b)は外管1と内管3の隙間に中詰材5として砂を充填した二重管の例を示し、図3(c)は外管1と内管3の隙間に中詰材5として流体を充填した二重管の例を示している。
【0011】
中詰材5として、モルタルのように外管1及び内管3との付着が発生して連続弾性体とみなせるようなものを用いて二重管を構成した場合、二重管の両端に曲げモーメントを与えると、二重管の合成断面は、内外管と中詰材5が一体となって挙動し、大きな曲げ剛性を有することとなる(図3(a)参照)。
もっとも、モルタルは引張強度が小さいため、変形が進むとモルタル部分に亀裂が入り易く、亀裂が入ると、局所的な曲げ剛性の低下が発生し、その部分に曲げ変形が集中するような応力配分がなされ、座屈に至ることが考えられる。
【0012】
一方、中詰材5として流体を充填した場合には、外管1と内管3はそれぞれ別々に挙動し、外力は基本的には外管のみで応力を負担することとなる(図3(c)参照)。
【0013】
そこで、発明者は、中詰材5として、上記の連続弾性体や流体とは性質の異なる粉体及び/又は粒状体を充填する試みを行ったところ、図3(b)に示すように、二重管は、中詰材5として弾性体を用いた場合と、流体を用いた場合の中間の特性を発揮でき、曲げ変形の局所的な集中が阻止され、曲げによる曲率変化を部材全体に分散化・平準化することができるという知見を得た。そして、このようにすることで二重管全体を通じて鋼材の持つ靭性が有効かつ効果的に活用でき、大きな曲げ変形に対応できることになり、その結果、曲げ特性に優れ、座屈に強い二重管を実現できることを見出した。
【0014】
また、二重管が変形を受けてから内外管の変形が収束するまでの時間は中詰材の応力再配分過程に依存することになる。このような遅れ変形の効果がどの程度見込めるかは今後の研究によるが、永久凍土地帯に埋設されたガスパイプラインのように比較的穏やかな変形作用を受ける場合、適切な可塑性を確保することにより、パイプに作用する最大応力度の抑制につながる可能性があるとの知見も得た。
【0015】
さらに、中詰材として粉体及び/又は粒状体を充填する場合、充填する粉体及び/又は粒状体の性状(密度や粒度分布、あるいは形状)を変化させることにより、剛柔問わず幅広い要求性能を容易に実現することが可能となるとの知見を得た。
【0016】
本発明は、上述したような種々の新たな知見に基づいてなされたものであり、具体的には以下のような構成を備えてなるものである。
【0017】
(1)本発明に係る埋設用二重管は、金属製の外管と、該外管の内側に挿入された金属製の内管と、該内管と前記外管との隙間に充填された粉体及び/又は粒状体からなる中詰材とを有し、前記外管に対して荷重が付加されたときに前記内管と前記中詰材及び前記中詰材と前記外管の接触が保たれ、前記中詰材が前記外管と前記内管との応力伝達を連続的かつなめらかに再配分するように構成したことを特徴とするものである。
【0018】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記中詰材は、砂、セラミック粒状体、セラミック粉体のいずれかあるいはそれらの混合物であることを特徴とするものである。
【0019】
(3)本発明に係るパイプラインは、上記(1)又は(2)に記載の埋設用二重管を少なくとも一部に接合してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る埋設用二重管は、金属製の外管と、該外管の内側に挿入された金属製の内管と、該内管と前記外管との隙間に充填された粉体及び/又は粒状体からなる中詰材とを有し、前記外管に対して荷重が付加されたときに前記内管と前記中詰材及び前記中詰材と前記外管の接触が保たれ、前記中詰材が前記外管と前記内管との応力伝達を連続的かつなめらかに再配分するように構成したので、曲げ変形の局所的な集中が阻止され、曲げによる曲率変化を部材全体に分散化・平準化することができ、これによって部材全体を通じて鋼材の持つ靭性が有効かつ効果的に活用でき、大きな曲げ変形に対応できることになり、その結果、曲げ特性に優れ、座屈に強いパイプを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[実施の形態1]
図1は本発明の一実施の形態に係る変形性能に優れる埋設用二重管の説明図であり、図1(a)が側面図、図1(b)が管軸直交方向断面図である。本実施の形態に係る埋設用二重管10は、鋼管からなる外管1と、外管1の内側に挿入された鋼管からなる内管3と、該内管3と外管1との隙間に粉体及び/又は粒状体からなる中詰材5を充填して構成されている。
【0022】
中詰材5は、内外管との付着が小さく、圧縮応力に対する抵抗性は有するものの、引張り応力には抵抗せず、連続体でないものであることを要し、このような性能を有するものとして、粒度を適度に揃えた粒状体、たとえば、砂、セラミック粒状体などを挙げることができる。
また、外管1と内管3の隙間の例としては、例えば内管3が300mm〜600mm程度の管の場合には、50mm〜100mm程度にする。
【0023】
図2は本実施の形態に係る埋設用二重管10の両端に曲げモーメントを付加した場合の挙動を説明する説明図であり、図2(a)が管軸方向に沿う断面図、図2(b)が管軸直交方向断面図である。
埋設用二重管10の両端に曲げモーメントを付加した場合、中詰材5である粒状体や粉状体は引張応力に抵抗することなく中詰材5を構成する粒子の間に変位が発生し、なめらかで連続的な応力再配分が行われる。この点は、図2の内管3の曲率が外管1の曲率に対してより小さくなっていることに示されている。
上記のように連続的な応力再配分が行われる結果、前述したモルタルを充填した場合のようなモルタルの亀裂発生に起因する局所的な曲げ剛性の低下が発生することがなく、埋設用二重管全体を通じて鋼材の持つ靭性が有効かつ効果的に活用でき、大きな曲げ変形に対応できることになり、曲げ特性に優れ、座屈に強い埋設用二重管となる。
【0024】
なお、上記のように構成される埋設用二重管10は、パイプライン全体に用いることも可能であるが、コスト面を考慮すれば、前述したような永久凍土地帯における永久凍土境界部にのみ用いるようにするのが好ましい。つまり、パイプラインの少なくとも一部に本実施の形態に係る埋設用二重管10を備えたパイプラインとすることができる。
【0025】
また、本実施の形態に係る埋設用二重管10の施工方法は特に限定されるものではないが、例えば以下のようにする。
所定長さ(例え12m)の外管1の内部に外管1よりも少しだけ長尺の内管3を挿入する。内管3にはインシュレータを設置しておき、外管1の内面との間に所定の隙間を保持できるようにする。そして、外管1と内管3との間に中詰材5を充填する。このような二重管を複数本形成し、これら複数の二重管を構成する外管1及び内管3の端部を例えば溶接にて接合する。
なお、上記の説明では、所定長さの外管1と内管3に中詰材5を充填して所定長さの中詰材入りの二重管を形成した後、この所定長さの中詰材入りの二重管同士を接合する例を示したが、所定長さの外管1に内管3を挿入した二重管を複数本接合した後、中詰材を充填するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態に係る埋設用二重管の説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る埋設用二重管の挙動を説明する説明図である。
【図3】本発明の作用を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0027】
1 外管
3 内管
5 中詰材
10 埋設用二重管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の外管と、該外管の内側に挿入された金属製の内管と、該内管と前記外管との隙間に充填された粉体及び/又は粒状体からなる中詰材とを有し、前記外管に対して荷重が付加されたときに前記内管と前記中詰材及び前記中詰材と前記外管の接触が保たれ、前記中詰材が前記外管と前記内管との応力伝達を連続的かつなめらかに再配分するように構成したことを特徴とする埋設用二重管。
【請求項2】
前記中詰材は、砂、セラミック粒状体、セラミック粉体のいずれかあるいはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の埋設用二重管。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の埋設用二重管を少なくとも一部に接合してなることを特徴とするパイプライン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−151156(P2010−151156A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327185(P2008−327185)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】