説明

埋設管の劣化状態を検査する検査方法

【課題】外部または内部に生じた物理的な劣化状態を検査することができ、且つ埋設管全体としての劣化状態を検査することができる埋設管の劣化状態を検査する検査方法を提供する。
【解決手段】ひび割れがない埋設管1および検査対象とする埋設管1のそれぞれについて、埋設管1の所定の打撃位置5に衝撃を与え、この打撃位置5を中心位置として対称的な位置にあって対とした測定位置で周波数スペクトルを測定し、測定位置について得た2つの周波数スペクトルの類似度に基づいて劣化値を算出し、両埋設管の劣化値を比較することにより、検査対象とする埋設管1の劣化状態を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、埋設管の劣化状態を検査する検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート製の埋設管は、下水管路や農水管路として用いられている。これらの埋設管は、長年に亘る下水や農水の流通によって腐食しその強度が低下し、ひび割れが生じてしまうことがあった。また、これらの埋設管路は車道の周辺に埋設されることが多く、自動車の振動あるいは地震などによってその強度が劣化し、ひび割れが生じることがあった。そのため、下水管路や農水管路などについて、強度の劣化、ひび割れ、微小なクラックなど物理的な劣化状態を検査する方法が必要とされていた。
【0003】
下水管路や農水管路の劣化状態を検査する診断調査においては、一般に、調査する流域を要素区域に区画し、要素区域ごとに劣化レベルを把握し、その劣化レベルを要素区域ごとに順位付けする。
【0004】
この劣化レベルを検査するために、従来では、目視やテレビカメラを用いて外観調査を行い、あるいは、必要とする場合には、要素区域におけるコアとなる埋設管を掘り出し、その物性を測定していた。
【0005】
しかしながら、埋設管を掘り出さないで外観調査する場合では、目に見える劣化しか捉えることができず、また、埋設管外周や埋設管壁の内部に生じる劣化については検査することができず、劣化状態を定量的に把握することができなかった。
【0006】
また、劣化状態を検査して収集した収集データの精度を正確とするためには、コアとなる埋設管を大量に掘り出す必要があるが、掘り出すときに下水管路や農水管路を破損してしまうといった問題や、また、作業に手間がかかるという問題があった。
【0007】
そこで、このような鉄筋コンクリート製の埋設管を検査する方法として、例えば、特許文献1あるいは2に記載の技術を適用することが考えられる。
【0008】
特許文献1による技術によれば、測定対象物のひび割れが生じている部分に導電性材料を取り付け、導電性材料の電圧と電流値を測定しその抵抗値の変化を算定することにより、ひび割れ幅の変化を検出する。
【0009】
特許文献2に記載の技術によれば、非貫通の検出孔を測定対象物に形成し、その検出孔に流体導管に流体を供給して、その流体が測定対象物に浸透していくときの流速などを測定することにより、ひび割れを検知する。
【特許文献1】特開2004−170104号公報
【特許文献2】特開2004−333181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、埋設管にひび割れが存在しているものにしか適用できず、ひび割れが生じているか否かを検出できるものではなかった。
【0011】
また、特許文献2に記載の技術では、測定対象物に検出孔を設ける必要があるので、測定対象物の一部で穿孔する必要あり、めんどうな作業を要するものであった。また、埋設管に検出孔を設けた場合、検出孔を設けた部分の管壁の厚さが薄くなるので、埋設管の強度を劣化させる虞があった。
【0012】
また、いずれの方法であっても、部分的にしか検査することができず、検査した以外の部分についての劣化状態を把握することはできなかった。
【0013】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、外部または内部に生じた物理的な劣化状態を検査することができ、且つ埋設管全体としての劣化状態を検査することができる埋設管の劣化状態を検査する検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る埋設管の劣化状態を検査する検査方法は、検査基準とする基準埋設管と検査対象とする検査対象埋設管の各管について、衝撃を与える打撃位置をそれぞれ定めてこれら打撃位置に衝撃を与え、該各打撃位置を中心位置として対称的な位置にある2つの測定位置で振動をそれぞれ測定し、これら振動から得た2つの周波数スペクトルの類似度に基づいて前記各管ごとに劣化値を算出し、これら劣化値同士を対比することにより前記検査対象埋設管の劣化状態を判定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る埋設管の劣化状態を検査する検査方法は、検査基準とする基準埋設管と検査対象とする検査対象埋設管の各管について、衝撃を与える打撃位置をそれぞれ定めてこれら打撃位置に衝撃を与え、該各打撃位置を中心位置として対称的な位置にある複数対の測定位置で振動をそれぞれ測定し、これら振動から得た複数対それぞれの対についての周波数スペクトルの類似度に基づいて前記各管ごとに劣化値を算出し、これら劣化値同士を対比することにより前記検査対象埋設管の劣化状態を判定することを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、打撃によって生じる周波数スペクトルを測定して劣化状態を検査するものであることから、埋設管にひび割れが生じていなくても評価でき、また、埋設管に劣化状態を調べるための穿孔を形成する必要もなく、簡単に劣化状態を検査することができる。
【0017】
また、打撃位置に対して対称な位置で2つの周波数スペクトルを取得し、両周波数スペクトルの類似度に基づいて劣化値を算出することから、劣化状態が数値として算出されるので、目視による恣意的な評価とは違い客観的に劣化状態を評価することができる。
【0018】
また、劣化値測定方法は、衝撃による弾性波に基づく周波数スペクトルを測定して劣化値を取得するものであって、この弾性波は埋設管の内部にも伝播するものであることから、劣化値は埋設管の内部状態を反映した値となるので、埋設管の外部だけでなく内部の劣化状態までも把握することができる。
【0019】
また、複数対の測定位置で周波数スペクトルを取得して劣化値を算出した場合は、複数対のそれぞれの対において得た2つの周波数スペクトルの類似度に基づいて類似値が算出され、複数の類似値に基づいて劣化値が算出されることから、1つの埋設管に対して様々な方向から劣化状態を検査することとなるので、より正確な劣化状態を把握することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る埋設管の劣化状態を検査する検査方法によれば、打撃によって生じる周波数スペクトルを測定して劣化状態を検査するものであることから、埋設管にひび割れが生じていなくても評価でき、また、埋設管に劣化状態を調べるための穿孔を形成する必要もなく、簡単に劣化状態を検査することができる。
【0021】
また、打撃位置に対して対称な位置で2つの周波数スペクトルを取得し、両周波数スペクトルの類似度に基づいて劣化値を算出することから、劣化状態が数値として算出されるので、目視による恣意的な評価とは違い客観的に劣化状態を評価することができる。
【0022】
また、劣化値測定方法は、衝撃による弾性波に基づく周波数スペクトルを測定して劣化値を取得するものであって、この弾性波は埋設管の内部にも伝播するものであることから、劣化値は埋設管の内部状態を反映した値となるので、埋設管の外部だけでなく内部の劣化状態までも把握することができる。
【0023】
また、複数対の測定位置で周波数スペクトルを取得して劣化値を算出した場合は、複数対のそれぞれの対において得た2つの周波数スペクトルの類似度に基づいて類似値が算出され、複数の類似値に基づいて劣化値が算出されることから、1つの埋設管に対して様々な方向から劣化状態を検査することとなるので、より正確な劣化状態を把握することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
本発明に係る埋設管の劣化状態を検査する検査方法は、例えば、下水管路や農水管路に用いられる鉄筋コンクリート製の埋設管(例えば、ヒューム管)などに対して適用される。埋設管の劣化状態の検査方法により埋設管を検査するにあたっては、まず、検査の基準とする基準埋設管と、検査対象とする検査対象埋設管を用意する。
【0026】
次に、検査基準とする基準埋設管について、以下に示す劣化値測定方法により、埋設管の劣化状態を示す劣化値を測定する。基準埋設管の劣化値は、検査対象とする検査対象埋設管の劣化状態を判定するための基準値となる。ここで、基準埋設管としては、検査対象とする検査対象埋設管とは同種、同形状、同サイズの埋設管であって、ひび割れがない正常なもの(以下、健全管ともいう。)が選ばれる。
【0027】
次に、検査対象とする検査対象埋設管について、劣化値測定方法により、劣化値を測定する。
【0028】
次に、両者の劣化値を比較することにより、検査対象埋設管に劣化があるか否か或いはその劣化の程度を判定する。検査対象埋設管の劣化値が基準埋設管の劣化値と同程度の値である場合には劣化が進行していないと判断され、劣化値に差異がある場合には劣化(ひび割れなど)が存在すると判断され、劣化値の差異が大きい場合には劣化が進行していると判断される。
【0029】
上記した劣化値測定方法は、埋設管の劣化状態を示す劣化値を得る方法であって、具体的には、まず、埋設管について衝撃を与える打撃位置を定め、この打撃位置に衝撃を与え、打撃位置を中心位置として対称的な位置で対とした2箇所の測定位置で衝撃による振動を測定しこの振動から周波数スペクトルを取得して、この2箇所の測定位置で得られた2つの周波数スペクトルの類似度に基づいて劣化値を算出する方法である。
【0030】
次に、劣化値測定方法により埋設管の劣化値を算出した試験例について、具体的に説明する。
【0031】
図1は、本発明の実施の形態に係る埋設管の劣化状態の検査方法を適用して、埋設管を測定するときの状態を示した一例を説明した説明図である。図2は、本発明の実施の形態に係る埋設管の劣化状態の検査方法を適用して、埋設管を測定するときの状態を示した他の例を説明した説明図である。なお、図1および図2に示す矢印は、打撃位置および打撃方向を示している。
【0032】
まず、劣化値の測定に係る埋設管1を、地面15の上に平らに敷いた土砂14の上に横倒しに配置する。土砂14は埋設管1を安定して保持するものであって且つ埋設管1に与える衝撃を地面15へ伝播させないで埋設管1自体に封じ込める役割を果たす。これによって、埋設管1に衝撃を与えたときに地面15からの反射波などの影響を排除して、埋設管1自体に基づく周波数スペクトルを得ることができる。
【0033】
次に、埋設管1に衝撃を与える打撃位置5を中心として対称的な位置にある2箇所に、衝撃による弾性波を受信する受信器2を配置する。具体的には、埋設管1の両端から等距離にある中央付近を打撃位置5とした場合、その打撃位置5を中心として埋設管1の伸張方向に対称的な位置にある2箇所にそれぞれ受信器2を配置する(以下、この配置を配置1という。図1参照)。あるいは、打撃位置5を中心として埋設管1の円周方向に対称的な位置にある2箇所にそれぞれ受信器2を配置してもよい(以下、この配置を配置2という。図2参照)。
【0034】
なお、受信器2の配置位置、すなわち、周波数スペクトルを取得する測定位置は、打撃位置5を中心位置として対称となる位置であればよい。ここでいう対称的な位置とは、打撃位置5を中心位置とした場合に物理的な構造として対称的な位置である。つまり、一対の受信器2を、打撃位置5を中心として埋設管の上面から見て対角線状にあって打撃位置5から等距離にある位置に配置してもよい。
【0035】
受信器2は、例えば、加速度センサやAEセンサ(Acoustic Emission Sensor)などの振動センサを使用する。受信器2は、テープや接着剤等で埋設管1に固定してもよいし、また、押え治具等を使って固定してもよい。また、テープや接着剤で固定できず、押え治具などを使用できない箇所に固定する場合は、手で押えるだけでもよい。また、受信器2は、埋設管1の外周面に固定する場合に限定されず、埋設管1の内周面に固定してもよい。
【0036】
なお、受信器2を実際に使用している埋設管1に固定する場合には、埋設管1を流れる水、酸性水、塩基性水などにより腐食することがあるため、ステンレスなどの耐食性に優れた材料で筐体などが形成され、内部回路などが保護されているものを用いることが望ましい。
【0037】
次に、埋設管1の打撃位置5に衝撃を与える。衝撃は、鋼球の落下やハンマによる打撃により埋設管1に与えられる。なお、打撃位置5は、埋設管1の内周面であってもよく、埋設管1の内側から衝撃を与えるようにしてもよい。
【0038】
衝撃を与える方法として、鋼球の落下により衝撃を与える場合は、所定の高さから鋼球を落下させることにより、衝撃の力を一定値として衝撃を与える。また、ハンマにより衝撃を与える場合は、ハンマをバネなどの弾性体で支持し、弾性体を一定の長さに伸張あるいは伸縮させて蓄えられた弾性力を解放することにより、衝撃の力を一定値として衝撃を与える。また、市販のインパルスハンマを用いることにより、埋設管1に与えた衝撃力を数値データとして取得してもよい。インパルスハンマによれば、衝撃力を数値データとして取得でき、その値を解析時に反映させることができる。
【0039】
なお、実際に使用している埋設管1についてこれらの器具により衝撃を与える場合には、水、酸性水、塩基性水などに接触することがあるため、これらの器具としては、ステンレスなどの耐食性に優れた材料で形成されているものを用いることが望ましい。
【0040】
次に、衝撃による弾性波を受信器2により計測する。弾性波の計測は、衝撃が与えられた瞬間から所定時間計測して振動信号として取得することにより行なわれる。振動信号が微弱な場合は、増幅器などにより増幅してもよい。
【0041】
次に、対とした2つの受信器2により得られた振動信号から埋設管1の周波数スペクトルを算出する。具体的には、2つの受信器2により得られた振動信号をFFT(Fast Fourier Transform)処理し、各受信器2について周波数スペクトルを求める。さらに、周波数スペクトルを離散した周波数における強度の集合としてデータ処理する。
【0042】
図3は、本発明の実施の形態に係る劣化値測定方法により取得された周波数スペクトルを示すスペクトル図である。図4は、図3に示した周波数スペクトルを1次元ベクトルとして表したときのイメージ図である。
【0043】
具体的には、周波数スペクトルは、所定の周波数範囲について所定の要素数に分割され、分割された周波数のぞれぞれのスペクトル強度の集合として処理される。つまり、周波数スペクトルはスペクトル強度の1次元ベクトルとして処理される。例えば、周波数スペクトルの周波数を819分割した場合、分割後の周波数のそれぞれに対応したスペクトル強度は要素数819のベクトル成分とされる。
【0044】
ここで、一方の受信器2で得られた周波数スペクトルをベクトルXで表示し、他方の受信器2で得られた周波数スペクトルをベクトルYで表示すると、それぞれ
【数1】

と表される。ここで、Nは、周波数スペクトルを離散した周波数で分割したときの要素数である。これを細分化することにより、周波数スペクトルに近似させることができる。
【0045】
次に、2つの受信器2により得られた周波数スペクトルから埋設管1の劣化値を算出する。
【0046】
本実施の形態では、劣化値として、1次元ベクトルを表現する空間において2つの1次元ベクトルX、Yについての距離を示すユークリッド距離Dを用いる。以下に、算定式を示す。
【0047】
【数2】

ユークリッド距離Dは、2つの1次元ベクトルが類似する程より小さい値をとる。したがって、2つの周波数スペクトルの類似する程、2つの周波数スペクトルを表す2つの1次元ベクトルから算出されるユークリッド距離Dはより小さい値をとることとなる。
【0048】
基準埋設管は、ひび割れがなく打撃位置5を中心として対称的な構造体であることから、打撃位置5に対して対称的な位置にある2箇所の測定位置で取得される周波数スペクトルは類似性が高くなると予想され、ユークリッド距離Dは0に近い値となると考えられる。
【0049】
これに対して、ひび割れがある検査対象埋設管は、不規則に生じるひび割れが存在することに起因して、打撃位置5に対して対称的な位置にある2箇所の測定位置で取得される周波数スペクトルは、類似性は低くなると予想され、ユークリッド距離Dは0から離れた値であって、基準埋設管に対して得られるユークリッド距離Dよりも大きな値になると考えられる。
【0050】
つまり、ユークリッド距離Dは、埋設管のひび割れなど構造変化についての劣化状態を示す指標となる。
【0051】
したがって、検査対象埋設管について算出したユークリッド距離Dと、基準埋設管について算出したユークリッド距離Dとを比較することにより、検査対象埋設管の劣化状態を定量的に把握することができる。また、劣化状態が数値として算出されるので、目視による恣意的な評価とは違い客観的に劣化状態を評価することができる。
【0052】
なお、劣化値を算出する方法は、上記のように2つの周波数スペクトルから1次元ベクトルを求め、2つの1次元ベクトルからユークリッド距離Dとして求めることに限定されない。すなわち、劣化値を算出する方法として、2つの周波数スペクトルから類似度を求めることができる関数を用いてもよく、その関数の値を劣化値としてもよい。
【0053】
以上により、本発明に係る埋設管の劣化状態を検査する検査方法によれば、劣化値測定方法は打撃によって生じる周波数スペクトルを測定して劣化状態を検査するものであることから、埋設管1にひび割れが生じていなくても評価でき、また、埋設管1に劣化状態を調べるための穿孔を形成する必要もなく、簡単に劣化状態を検査することができる。
【0054】
また、劣化値測定方法は、衝撃による弾性波に基づく周波数スペクトルを測定して劣化値を取得するものであって、この弾性波は埋設管1の内部にも伝播するものであることから、劣化値は埋設管1の内部状態を反映した値となるので、埋設管1の外部だけでなく内部の劣化状態までも把握することができる。
【0055】
ところで、本実施の形態では、周波数スペクトルの測定は打撃位置5を中心位置とした一対の測定位置で行なっているが、打撃位置を中心位置として対称的な位置にある複数対の測定位置で行ってもよい。この場合、対とした測定位置のそれぞれについて周波数スペクトルの類似値を算出して、対とした測定位置について得た類似値に基づいて、埋設管についての劣化値を算出する(例えば、類似値の和を劣化値とする)。
【0056】
この方法の場合は、複数対のそれぞれの対において得た2つの周波数スペクトルの類似度に基づいて類似値が算出され、複数の類似値に基づいて劣化値が算出されることから、1つの埋設管1に対して様々な方向から劣化状態を検査することとなるので、より正確な劣化状態を把握することができる
<実施例>
以下に、具体的な実施例について説明する。
【0057】
[測定対象]
本実施例において測定の対象とする埋設管1(基準埋設管および検査対象埋設管)として、JISA5373のB型1種の規格に基づいた呼び径(内径)250mm、長さ2mの鉄筋コンクリート製ヒューム埋設管を用いた。また、基準埋設管としては、ひび割れのない鉄筋コンクリート製ヒューム埋設管(健全管)を選出した。検査対象埋設管としては、健全管を落下させてひび割れを導入した。
【0058】
図5は、検査対象埋設管を作成する方法を説明した説明図であり、図5(A)は、健全管を落下させるときの状態図であり、図5(B)は、ひび割れを導入した検査対象埋設管を示す概略図である。なお、図5中の矢印は、落下の方向を示す。
【0059】
検査対象埋設管11は、健全管10を地面15から高さH30cmの位置から自然落下させることにより作成した。また、ひび割れ6の大きさなど劣化状態が異なる埋設管を作成するために、1回落下させたものと2回落下させたものを用意した。ここで、1回落下させた検査対象埋設管11を「ひび割れ程度小」とし、2回落下させた検査対象埋設管11を「ひび割れ程度大」とした。
【0060】
表1は、測定の対象とする埋設管1を外部からみた状態におけるひび割れ程度を示した表である。「ひび割れ程度小」の埋設管1は、ひび割れ幅が0.05mm以上0.50mm以下であって、ひび割れ本数が6本程度あった。「ひび割れ程度大」の埋設管1は、ひび割れ幅が0.05mm以上0.60mm以下であって、ひび割れ本数が9本程度であった。
【0061】
【表1】

[埋設管への衝撃付与]
基準埋設管または検査対象埋設管への衝撃の付与は、鋼球を落下することにより行った。具体的には、大きさ直径30mmの鋼球を使用し、測定の対象である埋設管の上面から高さ10cmの距離から鋼球を落下させた。鋼球を落下させた位置(打撃位置5)は、埋設管の両端から等距離にある中心付近とした。
【0062】
[弾性波の受信方法]
弾性波を受信する受信器としては、0〜10kHzの加速度センサを用いた。受信器2により取得した振動信号は、受信用アンプ(RION製)により増幅した。また、増幅した振動信号を記録装置(データロガー:キーエンス製NR−500)に記憶した。
【0063】
受信器2は、打撃位置5から等距離にある所定の2箇所、図1に示す配置1あるいは図2に示す配置2に配置した。
【0064】
弾性波の受信は、上記した受信器2の配置位置、配置1および配置2のそれぞれの配置において、個別に測定を行い、それぞれの配置について振動信号を記録した。
【0065】
[計測結果]
図6は、受信器を配置1とした状態で測定した健全管の周波数スペクトルであり、図6(A)は一方の受信器で得られた周波数スペクトルであり、図6(B)は他方の受信器で得られた周波数スペクトルである。図7は、受信器を配置1とした状態で測定した「ひび割れ程度小」である埋設管の周波数スペクトルであり、図7(A)は一方の受信器で得られた周波数スペクトルであり、図7(B)は他方の受信器で得られた周波数スペクトルである。図8は、受信器を配置1とした状態で測定した「ひび割れ程度大」である埋設管の周波数スペクトルであり、図8(A)は一方の受信器で得られた周波数スペクトルであり、図8(B)は他方の受信器で得られた周波数スペクトルである。
【0066】
図6乃至8には、表1に示した埋設管(「健全管」、「ひび割れ程度小」、「ひび割れ程度大」)について、受信器2の配置を図1で示した配置1とした状態で計測した振動信号からFFT処理して得られた周波数スペクトルを示してある。また、各図の(A)と(B)は、2つの受信器により得られた周波数スペクトルのそれぞれを示している。図6乃至8の周波数スペクトルを比較すると、図6から8の順に(A)に示す周波数スペクトルと(B)に示す周波数スペクトルとの類似性が低くなっていることがわかる。つまり、「健全管」、「ひび割れ程度小」の埋設管、「ひび割れ程度大」の埋設管の順に、2つの周波数スペクトルの類似性が低くなっていることがわかる。
【0067】
図9は、受信器を配置2とした状態で測定した健全管の周波数スペクトルであり、図9(A)は一方の受信器で得られた周波数スペクトルであり、図9(B)は他方の受信器で得られた周波数スペクトルである。図10は、受信器を配置2とした状態で測定した「ひび割れ程度小」である埋設管の周波数スペクトルであり、図10(A)は一方の受信器で得られた周波数スペクトルであり、図10(B)は他方の受信器で得られた周波数スペクトルである。図11は、受信器を配置2とした状態で測定した「ひび割れ程度大」である埋設管の周波数スペクトルであり、図11(A)は一方の受信器で得られた周波数スペクトルであり、図11(B)は他方の受信器で得られた周波数スペクトルである。
【0068】
図9乃至11には、表1に示した検査対象埋設管(「健全管」、「ひび割れ程度小」、「ひび割れ程度大」)について、受信器2の配置を図2で示した配置2とした状態で計測した振動信号からFFT処理して得られた周波数スペクトルを示してある。また、各図の(A)と(B)は、2つの受信器により得られた周波数スペクトルのそれぞれを示している。図9乃至11の周波数スペクトルを比較すると、図9から11の順に(A)に示す周波数スペクトルと(B)に示す周波数スペクトルとの類似性が低くなっていることがわかる。つまり、「健全管」、「ひび割れ程度小」の埋設管、「ひび割れ程度大」の埋設管の順に、2つの周波数スペクトルの類似性が低くなっていることがわかる。
【0069】
[解析結果]
図12は、受信器を配置1とした状態で「健全管」、「ひび割れ程度小」、「ひび割れ程度大」のそれぞれの埋設管について求めたユークリッド距離を示したグラフである。図13は、受信器を配置2とした状態で「健全管」、「ひび割れ程度小」、「ひび割れ程度大」のそれぞれの埋設管について求めたユークリッド距離を示したグラフである。なお、図12および図13には、「健全管」、「ひび割れ程度小」、「ひび割れ程度大」のそれぞれの埋設管について行なった計測ごとにユークリッド距離を示している。
【0070】
図12および図13によれば、健全管のユークリッド距離Dは、計測回数に拘らず、略一定の値となることがわかる。また、受信器2の配置に拘らず、ひび割れが存在する埋設管(「ひび割れ程度小」、「ひび割れ程度大」)は、健全管に比較して、ユークリッド距離Dは大きな値となっている。すなわち、受信器2の配置を配置1および配置2のいずれの配置としても、ユークリッド距離Dについて健全管と検査対象埋設管を比較することにより、ひび割れの存在を把握することができる。
【0071】
また、図12によれば、「ひび割れ程度大」である埋設管1のユークリッド距離は、「ひび割れ程度小」である埋設管1に比較して大きいことがわかる。すなわち、受信器2の配置を配置1にすれば、埋設管1の劣化状態の程度まで評価できることがわかる。
【0072】
したがって、実際に埋設されている埋設管を検査する場合においては、あらかじめ基準となる健全管のユークリッド距離Dを求めておくことで、検査の対象とする埋設管にひび割れが存在しているかどうか或いは埋設管の劣化状態を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施の形態に係る埋設管の劣化状態の検査方法を適用して、埋設管を測定するときの状態を示した一例を説明した説明図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る埋設管の劣化状態の検査方法を適用して、埋設管を測定するときの状態を示した他の例を説明した説明図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る劣化値測定方法により取得された周波数スペクトルを示すスペクトル図である。
【図4】図3に示した周波数スペクトルを1次元ベクトルとして表したときのイメージ図である。
【図5】検査対象埋設管を作成する方法を説明した説明図であり、図5(A)は、健全管を落下させるときの状態図であり、図5(B)は、ひび割れを導入した検査対象埋設管を示す概略図である。
【図6】受信器を配置1とした状態で測定した健全管の周波数スペクトルであり、図6(A)は一方の受信器で得られた周波数スペクトルであり、図6(B)は他方の受信器で得られた周波数スペクトルである。
【図7】受信器を配置1とした状態で測定した「ひび割れ程度小」である埋設管の周波数スペクトルであり、図7(A)は一方の受信器で得られた周波数スペクトルであり、図7(B)は他方の受信器で得られた周波数スペクトルである。
【図8】受信器を配置1とした状態で測定した「ひび割れ程度大」である埋設管の周波数スペクトルであり、図8(A)は一方の受信器で得られた周波数スペクトルであり、図8(B)は他方の受信器で得られた周波数スペクトルである。
【図9】受信器を配置2とした状態で測定した健全管の周波数スペクトルであり、図9(A)は一方の受信器で得られた周波数スペクトルであり、図9(B)は他方の受信器で得られた周波数スペクトルである。
【図10】受信器を配置2とした状態で測定した「ひび割れ程度小」である埋設管の周波数スペクトルであり、図10(A)は一方の受信器で得られた周波数スペクトルであり、図10(B)は他方の受信器で得られた周波数スペクトルである。
【図11】受信器を配置2とした状態で測定した「ひび割れ程度大」である埋設管の周波数スペクトルであり、図11(A)は一方の受信器で得られた周波数スペクトルであり、図11(B)は他方の受信器で得られた周波数スペクトルである。
【図12】受信器を配置1とした状態で「健全管」、「ひび割れ程度小」、「ひび割れ程度大」のそれぞれの埋設管について求めたユークリッド距離を示したグラフである。
【図13】受信器を配置2とした状態で「健全管」、「ひび割れ程度小」、「ひび割れ程度大」のそれぞれの埋設管について求めたユークリッド距離を示したグラフである。
【符号の説明】
【0074】
1 埋設管
2 受信器
5 打撃位置
6 ひび割れ
14 土砂
15 地面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査基準とする基準埋設管と検査対象とする検査対象埋設管の各管について、衝撃を与える打撃位置をそれぞれ定めてこれら打撃位置に衝撃を与え、該各打撃位置を中心位置として対称的な位置にある2つの測定位置で振動をそれぞれ測定し、これら振動から得た2つの周波数スペクトルの類似度に基づいて前記各管ごとに劣化値を算出し、これら劣化値同士を対比することにより前記検査対象埋設管の劣化状態を判定することを特徴とする埋設管劣化状態検査方法。
【請求項2】
検査基準とする基準埋設管と検査対象とする検査対象埋設管の各管について、衝撃を与える打撃位置をそれぞれ定めてこれら打撃位置に衝撃を与え、該各打撃位置を中心位置として対称的な位置にある複数対の測定位置で振動をそれぞれ測定し、これら振動から得た複数対それぞれの対についての周波数スペクトルの類似度に基づいて前記各管ごとに劣化値を算出し、これら劣化値同士を対比することにより前記検査対象埋設管の劣化状態を判定することを特徴とする埋設管劣化状態検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−26162(P2008−26162A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199375(P2006−199375)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】