埋設金属製水道管の更新順位の決定方法
【課題】 簡便な方法により、且つ少ない経費と労力の負担で、金属製検査部材の腐食速度のみから正確な金属製水道管の耐用期間を推測できる方法を提供する。
【解決手段】 土壌中に埋設された金属製水道管の更新順位の決定方法であって、金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係を取得しておき、金属製検査部材の重量減少量から金属製検査部材の腐食速度を測定し、前記で取得した金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係に基づいて、土壌中の金属製水道管の耐用期間を推測し、更新順位を決定することを特徴とする。
【解決手段】 土壌中に埋設された金属製水道管の更新順位の決定方法であって、金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係を取得しておき、金属製検査部材の重量減少量から金属製検査部材の腐食速度を測定し、前記で取得した金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係に基づいて、土壌中の金属製水道管の耐用期間を推測し、更新順位を決定することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中に埋設している鉄鋼等の金属製水道管の更新順位の決定方法に関するものであり、詳しくは金属製水道管の耐用期間を推測することにより更新順位を決定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、金属製の水道管の腐食による漏水事故への対策が大きな社会的課題になっている背景から、土壌中に埋設されている金属製水道管の耐用期間をより客観的な指標をもって求めることが重要となっている。
【0003】
しかしながら、埋設金属製水道管の腐食を評価することは必ずしも容易ではなく、これまでに提案されている各種の方法によっても、より簡便に、より適切に評価することは難しいのが実情である。例えば埋設鋼管の接地抵抗の測定による腐食状態の評価方法(特許文献1、2参照)においては、大変に大きな負担が強いられ、しかも測定精度においても必ずしも満足できるものではない。
【0004】
また、埋設されている土壌環境に注目して鋼製地中埋設物の腐食診断を行うことが提案されてもいる(特許文献3参照)が、土壌環境と埋設金属製水道管の腐食との関係は必ずしも明瞭ではない。このことは、埋設金属製水道管の腐食評価として、一般的に行われている土壌腐食性についてのANSI(米国規格協会規格)に基づく評価においても同様である。
【0005】
それと言うのも、腐食現象は単に地質の性質によって一義的に定まるものでなく、腐食環境の履歴、水分の分布、管路の設置構造などの多様な要因に左右されるからである。しかも、土壌調査では、実際に掘削して土壌の状態を調べることから多大な経費と労力が必要とされるという問題がある。そして、従来の方法では、腐食速度に重大な影響を与える土壌環境の不均一性についての評価はなしえず、妥当性に欠くものであった。
【0006】
以上のような状況から、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、土壌中に埋設されている鉄鋼等の金属構造体の腐食をより簡便に、少ない経費と労力の負担で、土壌環境の不均一性についての評価をすることができる新しい評価方法を完成するに至っている(特許文献4参照)。
【0007】
この技術的手段によれば、土壌中の金属構造体の埋設位置近傍に土壌表面部から金属試験体を埋設し、所定期間経過後に引抜いて金属試験体の腐食速度を測定することで、土壌中の金属構造体の腐食を評価もしくは予測するものである。
【0008】
この方法では、金属試験体の腐食速度から土壌の性質を把握し容易にマッピングできる点では優れた方法であるが、金属試験体の腐食速度と、この金属試験体近傍に埋設されている金属構造体の腐食速度との関係が土壌を介しての間接的なものであることから、金属試験体の腐食速度のみから正確な金属構造体の耐用期間を推測することまではできず、この評価方法を十分に活用するまでに至っていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−232764号公報
【特許文献2】特開2006−275623号公報
【特許文献3】特開2003−262580号公報
【特許文献4】特開2008−298688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、より簡便な方法により、少ない経費と労力の負担で、金属製検査部材の腐食速度のみから正確な金属製水道管の耐用期間を推測し、更新順位の決定方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0012】
第1に、土壌中に埋設された金属製水道管の更新順位の決定方法であって、土壌中の金属製水道管の埋設位置近傍に土壌表面部から金属製検査部材を埋設し、所定期間経過後に引抜いて、金属製検査部材の重量減少量から金属製検査部材の腐食速度を測定し、前記金属製検査部材の近傍に埋設された金属製水道管の腐食速度を測定し、金属製検査部材の腐食速度と、検査対象部位の金属製水道管の腐食速度との対応関係を予め求めておき、その対応関係から、金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係を取得しておき、土壌中の金属製水道管の埋設位置近傍に土壌表面部から金属製検査部材を埋設し、所定期間経過後に引抜いて、金属製検査部材の重量減少量から金属製検査部材の腐食速度を測定し、前記金属製検査部材の腐食速度から、前記で取得した金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係に基づいて、土壌中の金属製水道管の耐用期間を推測する。
【0013】
第2に、上記第1の発明の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法において、金属製検査部材を複数本埋設し、各金属製検査部材の腐食速度を求めて、これらの腐食速度の平均値を金属製検査部材の腐食速度とする。
【0014】
第3に、上記第1又は第2の発明の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法において、金属製水道管の複数箇所の腐食速度を求めて、これらの腐食速度の最大値を金属製水道管の腐食速度とする。
【0015】
第4に、上記第1から第3の発明の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法において、金属製検査部材が丸棒状であって、その先端部が取り外し可能になっており、取り外した先端部の重量減少量を測定して金属製検査部材の腐食速度を求める。
【0016】
第5に、上記第1から第4の発明の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法において、金属製検査部材の腐食速度の測定結果が、判定基準値未満である場合、金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係を適用し、判定基準値以上である場合、土壌中の金属製水道管の腐食状態を実測する。
【0017】
第6に、上記第5の発明の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法において、判定基準値が、0.02mm/年である。
【発明の効果】
【0018】
上記のとおりの本発明によれば、金属製検査部材の腐食速度と、検査対象部位の金属製水道管の腐食速度との対応関係を予め求め、その対応関係から金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係を取得しておき、金属製検査部材の腐食速度から、前記で取得した金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係に基づいて、土壌中の金属製水道管の耐用期間を推測するので、簡便で短時間且つ正確に、経費と労力の負担をかけることなく、土壌中の金属製水道管の更新順位を決定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】検査部材と水道管の腐食速度から水道管の耐用期間の関係を導くまでのフロー図である。
【図2】検査部材の分割について例示した斜視概要図である。
【図3】検査部材埋設の説明概要図である。
【図4】検査部材の埋設について示した平面概要図である。
【図5】検査部材の埋設について示した概要図である。
【図6】水道管の腐食深さの測定部位を示した断面概略図である。
【図7】水道管の腐食深さの測定装置を示した概略図である。
【図8】検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度の関係を示したグラフである。
【図9】検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度の関係を示したグラフである。
【図10】検査部材の腐食速度と水道管の肉厚別の耐用期間の関係を示したグラフである。
【図11】検査部材の腐食速度測定から水道管の更新順位の決定までのフロー図である。
【図12】ANSI評価点数と水道管の腐食速度の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0021】
本発明の方法では、まず金属製検査部材(以下、単に検査部材と略称する)の腐食速度と、検査対象部位の土壌中の金属製水道管(以下、単に水道管と略称する)の腐食速度との対応関係を予め求め、その対応関係から検査部材の腐食速度と水道管の耐用期間の関係を取得する。
【0022】
具体的には、図1のフロー図に示すように、検査部材の腐食速度の算出と、水道管の腐食速度の算出をそれぞれ行う。以下、フロー図に沿って説明する。
<検査部材の準備>
本発明の方法で用いる検査部材の材質は、水道管としてよく用いられる鉄鋼あるいは鋳鉄であることが好ましく、その中で適宜入手し得るものを用いることができる。
【0023】
前記の鉄鋼あるいは鋳鉄とは、どちらも鉄を主成分とする合金の総称であって、金属学において前者はFe−C二元合金においてC含有量が0.0214〜2.14mass%、後者はFe−C二元合金においてC含有量が2.14〜6.67mass%であるものを指し、本明細書においてもその定義として用いている。
【0024】
また、鉄鋼等と記している場合には、主として、鉄鋼あるいは鋳鉄の意味として用いている。ただし、検査部材と水道管とが、どちらも鉄鋼あるいは鋳鉄として分類されるものであっても、腐食の程度が全く異なるものは好ましくないことは言うまでもない。
【0025】
検査部材の形状は特に制限はないが、挿入、引抜きの作業性、腐食の測定や観察のしやすさ、精度等の点から、例えば丸棒型、円筒型、円錐チップ型等とすること、引き抜き用のリングやワイヤー、ロープ等の取り付け、さらにはこれらの分割・連結型の形状や構造としてもよく、これらは、適宜目的に合わせて使用することが好ましい。本発明においては、重量の測定のしやすさから図2に示すような丸棒型であって、先端部32だけを分割可能とした分割型の検査部材3を好適に用いることができる。また、先端部32のみの材質を鉄鋼等として、長尺部31の材質を樹脂やセラミックス等としたものに接続したものであってもよい。
【0026】
この先端部32を分割可能とする検査部材3を用いる場合には、全体の長さをL(引き抜き用リング30部分αを除いた長さ)とした場合、分割可能な先端部32の長さをL×0.1程度とすることが好ましい。
【0027】
上記のような検査部材は、埋設試験前に汚れの付着やさびの発生がないように十分に注意することが望まれる。そのために、前処理として研磨紙等による表面研磨とエタノール等による十分な脱脂処理が有効である。
【0028】
このような前処理を行った後、検査部材の回収後の重量減少量を求めるために、埋設前の検査部材の重量を正確に計測しておく。分割タイプの検査部材の場合には、分割した先端部の重量を測定しておく。
【0029】
上記前処理から埋設までの間は、検査部材表面にさびが発生しないように、シリカゲル等を同封して除湿した容器に保管しておくのが好ましい。
<検査部材の埋設>
検査部材の土壌への埋設の位置については、図3に示すように、水道管2の埋設位置近傍であるが、この場合の「近傍」は、挿入された検査部材3の深度においては、その先端3Aの土壌表面10からの深さHが、水道管2の深さ位置との関係、つまり水道管の土壌表面10から下端の位置H1までの深さと、水道管の土壌表面10から上端の位置H2までの深さとの関係では、
0.8H2≦H≦1.2H1
を目安とする。より好ましくは0.8H2≦H≦H1である。
【0030】
また、検査部材3の挿入長さH0としては、水道管2の埋設長さD1(深さ方向における長さ、例えば、金属配管であれば外径となる)との関係では、
0.1D1≦H0
とすることが考慮される。
【0031】
つまり、検査部材3の挿入長さH0は、土壌表面10から先端3Aまでの全長であってもよいし、あるいは、図2に例示したように、リングやワイヤー、ロープ等を連結したものや樹脂やセラミックス等と接続した挿入体の全長の一部であってもよい。
【0032】
また、上記の「近傍」は、挿入された検査部材3の水道管2との水平位置の関係においては、土壌1中において、水道管を埋設時に埋め戻した埋め戻し土(符号省略)内であることを前提とする。水道管が埋設されている埋め戻し土よりも外の土壌であれば土壌質が異なるため、当然に腐食の進行の評価は困難になるためである。
【0033】
そして、検査部材3は水道管2に接することなく、相互の間隔Mが水道管2の幅D2(水平方向における長さ、例えば、金属配管であれば外径となる)との関係において、
0<M≦0.2D2
の範囲内となるようにすることが好適に考慮される。
【0034】
検査部材の埋設本数については、後述するように腐食速度を検査部材の重量減少量から求めることから検査部材1本のみの埋設でも構わないが、1箇所からできるだけ多くのデータを収集すること、また、これらの平均値を求めることが望まれることから複数本を同時に埋設することが好ましい。
【0035】
複数の検査部材を埋設する場合には、水道管2の埋設平面位置として図4に例示したように、水道管2の管長方向の両側(A)、あるいは片側(B)に、単列、複数列、あるいは千鳥状に配置してもよい。管長方向への配置の距離Wについては土壌1の特徴を考慮して適宜に定めることができるが、腐食速度の平均値を測定するとの観点からは水道管2の幅D2の5倍:5D2以下とすることが目安とされてよい。また、検査部材3の相互の間隔については、0.1D2以上とすることが目安となる。
【0036】
また、検査部材の挿入後は、図3に例示したように、土壌表面10からの水の浸入を防ぐために、検査部材3の上端部には適宜な蓋体12を設けておくこと等の対策が望まれる。
<試験>
検査部材の埋設から引抜きまでの試験の所定期間の長さについては、試験場所の環境、道路交通や生活上の制約等を考慮して適宜に定めることができるが、例えば、評価の信頼性という観点から半年以上、好ましくは1年以上とすることが好ましく、目的に応じ、長期(数年以上)あるいは短期(半年〜1年)に適宜に使い分けることもできる。
<検査部材の回収・重量測定>
上記の試験期間の経過後、検査部材を引き抜き回収する。
【0037】
検査部材の回収に関しては、埋設した検査部材が複数本である場合には、これらを一度に全て回収してもよいが、数回に分けて1本ずつあるいは複数本ずつ回収してもよい。回収期間(試験期間)の間隔を適宜設定して数回に分けて検査部材を回収する方法によれば、その埋設場所の土壌による腐食状況を時系列で把握することができるのでより好ましい。
【0038】
回収した検査部材は、さび等の付着物を十分に取り除いた上で、精密天秤等を用いて正確に重量測定を行う。
<検査部材の腐食速度の算出>
検査部材の腐食速度については、回収した検査部材、又は分割可能な検査部材の先端部の埋設前後の重量変化から腐食速度を算出する。
【0039】
腐食速度の算出は、具体的には、精密天秤等により測定した埋設試験前後の重量減少量と埋設期間から次式により算出することができる。
【0040】
【数1】
【0041】
回収した検査部材が1本の場合には、その1本について腐食速度を算出したものを腐食速度とし、複数本を回収した場合には、それぞれの腐食速度を算出して、これらの結果の平均値を腐食速度とする。
【0042】
次に、上記の検査部材の近傍に埋設されている水道管の腐食速度の算出についてさらに図1に示すフロー図に沿って説明する。
<埋設水道管の掘削・露出>
埋設水道管の掘削、露出は、上記検査部材の埋設位置近傍に埋設されている水道管を露出させて腐食調査が行えれば、掘削の時期や、掘削形態は特に制限はないが、図5に示すような、水道管調査区画13と検査部材埋設区画14の2段深さの掘削を行うことで、検査部材の埋設と水道管の腐食調査を同時に行うことができるのでより好ましい。
<水道管の腐食調査>
水道管の腐食調査は、まず、露出させた水道管をワイヤブラシ、電動ブラシ、カップブラシ付きグラインダー、テストハンマー等を用いて、表面の土、さび、及びこれらの混合物である水道管付着物を除去する。
【0043】
水道管の腐食部位の腐食深さの測定箇所は、図6に示すように、水道管2の断面を、管上6−A、管横/左6−B、管横/右6−C、管下6−Dの4つの調査範囲に区分して、それぞれの調査範囲の腐食深さを測定するのが好ましい。
【0044】
また、上記調査範囲においては、より正確なデータを得るために、可能な限り多くの箇所で腐食深さを測定するのが好ましい。
【0045】
腐食深さの測定は、まず目視で腐食の状況を判断し、腐食が認められる場所の腐食深さを図7に示すようなデプスゲージや、超音波厚み計等を用いて測定する。
【0046】
腐食深さの測定に際しては、集中腐食が生じている場所には、図7(A)に示すようなデプスゲージ70を用い、全面的な減肉が生じている場所には、図7(B)に示すような超音波厚み計71を用いる等、水道管の腐食状況に応じた測定方法を適宜選択して、正確に測定するのが好ましい。
<水道管の腐食速度の算出>
水道管の腐食速度の算出においては、上記の腐食調査で得られた結果のうち、最大の腐食深さのデータを採用するものとする。これは、水道管の最も腐食の進んでいる箇所を基準として腐食速度を求めて、水道管の最短の耐用期間を求めることにより、水道管の腐食について最も安全性の高い推測値を得るためである。
【0047】
水道管の腐食速度は、上記の最大の腐食深さを埋設年数で除すことにより水道管の腐食速度を算出することができる。
【0048】
上記の各工程により算出する検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度は、可能な限り多数の地点でデータ収集を行い、データの蓄積をしておくことが望ましい。収集した多数のデータを用いることにより、最終的により精度の高い水道管の耐用期間の推測が可能となる。
<検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度の関係の解析>
次に、上記の工程により収集した検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度のデータからこれらの関係を解析する。
【0049】
検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度の関係を解析する方法としては、縦軸を水道管の腐食速度(mm/年)、横軸を検査部材の腐食速度(mm/年)としたグラフ上に、収集した多数のデータをプロットしていく。データをプロットしたグラフを図8に示す。
【0050】
図8のグラフからもわかるように、プロットした各点は原点0に収束して原点0点から扇形に広がる傾向を示す。
【0051】
この扇形のプロットを上側と下側で挟むように直線を引くと図8の破線のように引くことができる。ここで、この破線は、原理的に検査部材の腐食速度が0の場合にはその土壌環境は全く腐食性を持たないと考えてよいことから、水道管の腐食も生じないと仮定することができ、切片を0とすることができる。
【0052】
このように、上側破線、下側破線とも原点0を通り、かつ右上がりの傾向を示しており、上側の破線は検査部材の腐食速度から推定される最大側の値、下側の破線は検査部材の腐食速度から推定される最小側の値に相当していると考えられる。
【0053】
次に、図8のグラフの上側破線の傾きを見やすくするために、横軸の検査部材の腐食速度を0から特定の腐食速度範囲までを拡大した座標に再プロットする。横軸の拡大は上側破線の傾きが明確に表される程度であれば特に制限はなく、図9に示す再プロットしたグラフでは検査部材の腐食速度を、0.020mm/年を最大として拡大してある。
【0054】
このグラフから、検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度の相関性をより明瞭に読み取ることができる。この範囲においては、プロットした各点を下側に埋めるようにして直線を引くと、グラフに示したように傾きが12.5で原点0を通る直線を当てはめることができる。すなわち、このグラフから、水道管の腐食速度は検査部材の腐食速度の12.5倍程度が最大になると読み取ることができる。
<検査部材の腐食速度と水道管の耐用期間の関係の作成>
次に、図8及び図9のグラフから導き出した、検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度の関係から、検査部材の腐食速度と水道管の耐用期間の関係を導き出す。
【0055】
具体的には、下記に示す式に代入して求めることができる。すなわち、検査部材の腐食速度(mm/年)に図9の直線の傾き12.5をかけて理論上の水道管の腐食速度を求め、水道管の肉厚(mm)をこの理論上の水道管の腐食速度で除すことにより水道管の耐用期間(年)を求めることができる。
【0056】
【数2】
【0057】
そして、図10に示すグラフのように、縦軸に水道管の耐用期間(年)、横軸に検査部材の腐食速度(mm/年)をとった座標に、水道管の肉厚ごとのデータをプロットすることによりその肉厚の曲線を導き出すことができる。
【0058】
図10のグラフの場合には、肉厚10mm、8mm、6mmの曲線を導き出しているが、上記式に水道管の肉厚と検査部材の腐食速度の数値を代入することにより任意の水道管の肉厚の曲線を導き出すことが可能である。
【0059】
このグラフを用いることにより、実測した検査部材の腐食速度と、その近傍に埋設されている水道管の肉厚の数値から容易に水道管の耐用期間を推測することができる。
【0060】
例えば、このグラフから、検査部材の腐食速度が0.015mm/年であった場合、推測される水道管の耐用年数は、肉厚10mmで約50年、肉厚8mmで約40年、肉厚6mmで約30年であることがわかる。
【0061】
本発明は、このように予め検査部材の腐食速度と水道管の耐用期間の関係を導き出しておくことによって、以後は検査部材の腐食速度のみを実測値から算出するだけで、その近傍に埋設されている水道管の耐用期間を掘削、露出させることなく推測することができるものである。
【0062】
以下に水道管の耐用期間の推測及び判定について、図11に示すフロー図を用いて説明する。
<検査対象路線範囲の設定>
本発明の方法を用いる水道管の耐用期間の推測方法は、その場所や範囲は特に限定することなく用いることができるが、通常の検査においては、埋設年数の情報等から検査対象路線を設定してこの路線範囲内で定量的に検査を行うことが好ましい。
【0063】
水道管は連続した長距離に亘る供給管であるため、ランダムな範囲設定や、単独箇所ごとの検査を行うよりも路線範囲で計画的に検査を行うことが有効であることから、まず検査対象路線範囲を設定する。
<検査部材の設置間隔の設定>
次に検査部材の設置間隔、埋設場所等を設定する。これについても、特に限定されるものではないが、通常は区間長と間隔を設定する。例えば、検査対象路線範囲において区間長約1km、間隔約100mで合計10箇所等である。また、前記設定と共に各埋設場所に埋設する検査部材の本数等を定めておくのが望ましい。
<検査部材の準備から腐食速度の算出>
上記のように、検査対象路線範囲及び検査区間長、間隔、埋設場所を設定した後、その場所に埋設されている水道管の近傍に検査部材を埋設し、試験を行い、回収して重量減少量から腐食速度を算出する。この各工程は前記の<検査部材の準備>から<検査部材の腐食速度の算出>と同様である。
<検査対象路線内の最大値の抽出>
次に、検査部材の腐食速度の算出したデータから検査対象路線内の最大値を抽出する。
【0064】
これは、調査対象路線の最も腐食が進んでいる箇所を基準として腐食速度を求めて、調査対象路線の最短の耐用年数を求めることにより、水道管の腐食について安全側の推測値を得るためである。
<判定>
次に、抽出した検査部材の腐食速度の最大値について判定を行う。
【0065】
この判定は、判定基準値を設定して判定基準値以上である場合と、判定基準値未満である場合とに分けてその後の対応を検討するものである。
【0066】
この判断基準値の設定に関しては、水道管の腐食に対する安全性を十分に考慮して設定する必要があることはいうまでもないが、一定の数値とする必要はなく、例えば水道管の肉厚ごとに設定することも可能である。
【0067】
本発明においては、腐食に対する安全性を十分に考慮して、0.02mm/年とする。判断基準値を0.02mm/年で設定しておくことにより、例えば、肉厚10mmの水道管では、耐用期間を40年と算出することができる。これは法定耐用年数40年の判断基準で更新が可能であり、十分腐食に対する安全性が担保できるからである。
<判定基準値未満の場合>
検査部材の腐食速度が、上記で設定した判定基準値未満である場合には、図10に示すグラフから水道管の耐用期間を推測する。
【0068】
次に、このようにして推測した水道管の耐用期間からその水道管の埋設期間を引いて余寿命を算出し、水道管の更新順位の判断をする。
<判定基準値以上の場合>
検査部材の腐食速度が、上記で設定した判定基準値以上である場合には、水道管の腐食が進行している可能性が高いことから、図9に示すグラフの直線の傾きから、水道管の理論上の腐食速度を算出する。
【0069】
このようにして、水道管の理論上の腐食速度を確認した上で、実際に水道管を掘削、露出させて水道管の調査を行う。水道管の調査に関しては、上記<水道管の腐食調査>と同様である。
【0070】
上記の工程により水道管の腐食の最大深さを測定し、水道管の初期肉厚×0.6と腐食の最大深さを比較する。そして、腐食の最大深さが初期肉厚×0.6以上である場合には更新の必要性有りと判断し、腐食の最大深さが初期肉厚×0.6未満である場合には水道管の状態から更新順位を判断する。
【0071】
本発明では、以上の方法により、簡便で短時間且つ正確に、経費と労力の負担をかけることなく、土壌中の水道管の耐用期間を推測することが可能となり、更に水道管の更新順位の判断をすることが可能となる。
【0072】
なお、本発明の水道管の耐用期間の推測方法では上記の各工程の方法に限定されることなく、種々の変更が可能である。
【0073】
例えば、収集したデータの解析をパソコンの表計算ソフト等を用いて集計することが可能であり、また、図9に示すグラフにおける直線の傾きも数式を予め設定しておくことにより自動的に導き出すことが可能である。
【0074】
更に、図10に示すグラフ上の曲線も、パソコンのソフトにより数値の対応関係としてとらえることができ、水道管の耐用期間を導き出す場合、検査部材の腐食速度と水道管の肉厚を変数とする公式を設定しておき、水道管の耐用期間を求めることも可能である。
【0075】
以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0076】
(実施例1)
実際に水道管が埋設されている検査範囲において検査部材の埋設による試験及び水道管の腐食深さの測定を実施した。
<検査範囲>
検査範囲はA路線からD路線の4路線及び各検査部材の埋設場所を設定した。
<検査部材の準備>
検査部材は、図2に示すような、径18φ、長さ80cmのFCD400の丸棒を用い、8cmの先端部32を分割可能に加工した。先端部32と長尺部31は1本の同一材料から切り出し、接続部にねじ加工33を施した。また、先端部32とねじ加工33部にはテフロン(登録商標)パッキン34を用いて密着部でのさびの発生を防止するようにした。このようにして、先端部32を長尺部31に対してねじ留めし、1本の検査部材3とした。
【0077】
この検査部材3は事前に#500番の研磨紙による表面研磨とエタノールによる十分な脱脂を施し、表面に付着した機械油を除去した。次いで、先端部32の重量を精密天秤にて測定した後、シリカゲルを同封して除湿した容器に保管して、埋設の直前までの間にさびが生じないように注意した。
<検査部材の埋設及び水道管の腐食調査>
検査部材の埋設場所は図5に示す2段区画として、検査部材3の挿入と同時に水道管2の腐食深さ測定を行った。
【0078】
検査部材3の挿入深さは、水道管2の最下部と同じ深さとし、検査部材を2本又は6本埋設した。具体的な掘削、埋設、調査の手順は以下のように行った。
1.舗装切断、舗装取り壊し、土壌掘削工事。
2.水道管2上部サンプル土壌採取:水道管2上部約30cm(比較例1のANSI分析用)。
【0079】
水道管2横部サンプル土壌採取(比較例1のANSI分析用)。
【0080】
水道管2下部サンプル土壌(地山土壌)採取:水道管2下部約50cm(比較例1のANSI分析用)。
3.水道管2掘削、露出完了(水道管調査区画(13)):水道管の腐食調査。
4.検査部材3埋設場所(検査部材埋設区画(14))の掘削。
5.水道管2の埋設両端をマーキング(図5(A))。
6.検査部材3の埋設位置に径17φ、深さ20cmの縦孔あけ
垂直にあけるためにガイドを使用。
【0081】
電動ドリルを使用。
7.径18φの検査部材3を縦孔にハンマーで打ち込み、挿入(図5(B))。
【0082】
引き抜きを考慮して検査部材3のリング部に引き抜き用ワイヤー36を接続。
8.検査部材の頭上に塩化ビニル製管体35を立て発生土埋め戻し。
9.塩化ビニル製管体35が収納されるように弁室11を構築。
10.塩化ビニル製管体35上側開放口からの雨水侵入防止処置のため蓋体12を設置(図5(C))。
11.復旧工事
<水道管の腐食調査>
前記手順3.の水道管の腐食調査について説明する。
【0083】
掘削して露出させた水道管の表面の土、さび、及びこれらの混合物である水道管付着物を除去した。
【0084】
次に、集中腐食が生じている場所は、図7(A)に示すデプスゲージを用い、全面的な減肉が生じている場所は、図7(B)に示す超音波厚み計を用いて水道管の腐食深さを測定した。
【0085】
測定場所は、図6に示す水道管断面の管上(6−A)、管横/左(6−B)、管横/右(6−C)、管下(6−D)について測定し、障害物があった場合は測定不能とした。
<試験期間>
設定した4路線の埋設場所において、試験期間を255日から1017日の間で設定して試験を行った。
【0086】
また、所定試験期間の終了後には、埋設した検査部材を引抜き、検査部材の先端にねじで固定した先端部を分離して回収した。
<検査部材の腐食速度の算出>
精密天秤により検査部材先端部の重量を測定し、検査部材先端部の重量減少量を求めた。腐食速度は重量減少量から次式により計算により算出した。
【0087】
【数3】
【0088】
A路線からD路線までの検査範囲の、各埋設場所の腐食速度の結果を、路線別に表1から表4に示す。
<水道管の腐食速度の算出>
水道管の腐食調査で得られた結果のうち、最大の腐食深さのデータを採用し、最大の腐食深さを埋設年数で除して水道管の腐食速度を算出した。
【0089】
水道管の最大の腐食深さ及び腐食速度を、路線別に表1から表4に示す。
【0090】
表1から表4に纏めた各データのうち、検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度のデータを、縦軸に水道管の腐食速度、横軸に検査部材の腐食速度としたグラフにプロットした。そのグラフを図8に示す。
【0091】
図8のグラフの横軸を拡大して0.02mm/年を最大値とし、再プロットしたグラフを図9に示す。このグラフから、プロットしたデータの境界線として、傾き12.5の直線が引けることがわかる。
【0092】
この傾き12.5から、水道管の最大腐食速度は、検査部材の腐食速度の12.5倍として、図10に示すように、縦軸を水道管の耐用期間、横軸を検査部材の腐食速度とし、水道管の肉厚6mm、8mm、10mmの曲線のグラフを作成した。
【0093】
このグラフから検査部材の腐食速度のみから水道管の耐用期間を推測することが可能となる。
(比較例1)
検査範囲のA路線からD路線の4路線の各検査部材の埋設場所について、前記実施例1の調査手順4.で採取した水道管の管上、管横、管下、地山それぞれの土壌サンプルを分析してANSIの評価点数を付け、最大点数をその場所のANSIの点数とした。その結果を路線別に表1から表4に示す。
【0094】
ANSIの得点は10点を判断基準として土壌の腐食性を判別する指標である。そこで、表1から表4のデータを用いて、横軸のANSI評価点数(地山を含む最大点数)と縦軸の水道管の腐食速度との対応をプロットした。その結果を図12のグラフに示す。図12のグラフから対応関係をみると、このANSI評価点数と水道管の腐食速度との間には殆ど相関性が見いだせなかった。
【0095】
図12のグラフの破線で示すように、水道管を実測して得られたデータからの腐食速度は、ANSIの評価点数に因らず0〜0.2mm/年の間で散布している。従って測定した路線においては、ANSIの評価点数の大小から腐食速度を評価することは難しいことがわかった。
【0096】
以上より、ANSIの評価点数だけでは水道管の腐食速度を評価することは難しく、おおよその類推程度であっても困難であるといえる。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
以上の結果から、本発明の方法により導いた検査部材の腐食速度と水道管の耐用期間の関係から、簡便で短時間且つ正確に、経費と労力の負担をかけることなく、土壌中の水道管の耐用期間を推測できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0102】
1:土壌
10:土壌表面
11:弁室
12:蓋体
13:水道管調査区画
14:検査部材埋設区画
15:埋め戻し土
2:金属製水道管
3:金属製検査部材
30:引き抜き用リング
31:長尺体
32:先端部
33:ねじ部
34:テフロン(登録商標)パッキン
35:塩化ビニル製管体
36:引き抜き用ワイヤー
6−A:管上
6−B:管横/左
6−C:管横/右
6−D:管下
70:デプスゲージ
71:超音波厚み計
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中に埋設している鉄鋼等の金属製水道管の更新順位の決定方法に関するものであり、詳しくは金属製水道管の耐用期間を推測することにより更新順位を決定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、金属製の水道管の腐食による漏水事故への対策が大きな社会的課題になっている背景から、土壌中に埋設されている金属製水道管の耐用期間をより客観的な指標をもって求めることが重要となっている。
【0003】
しかしながら、埋設金属製水道管の腐食を評価することは必ずしも容易ではなく、これまでに提案されている各種の方法によっても、より簡便に、より適切に評価することは難しいのが実情である。例えば埋設鋼管の接地抵抗の測定による腐食状態の評価方法(特許文献1、2参照)においては、大変に大きな負担が強いられ、しかも測定精度においても必ずしも満足できるものではない。
【0004】
また、埋設されている土壌環境に注目して鋼製地中埋設物の腐食診断を行うことが提案されてもいる(特許文献3参照)が、土壌環境と埋設金属製水道管の腐食との関係は必ずしも明瞭ではない。このことは、埋設金属製水道管の腐食評価として、一般的に行われている土壌腐食性についてのANSI(米国規格協会規格)に基づく評価においても同様である。
【0005】
それと言うのも、腐食現象は単に地質の性質によって一義的に定まるものでなく、腐食環境の履歴、水分の分布、管路の設置構造などの多様な要因に左右されるからである。しかも、土壌調査では、実際に掘削して土壌の状態を調べることから多大な経費と労力が必要とされるという問題がある。そして、従来の方法では、腐食速度に重大な影響を与える土壌環境の不均一性についての評価はなしえず、妥当性に欠くものであった。
【0006】
以上のような状況から、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、土壌中に埋設されている鉄鋼等の金属構造体の腐食をより簡便に、少ない経費と労力の負担で、土壌環境の不均一性についての評価をすることができる新しい評価方法を完成するに至っている(特許文献4参照)。
【0007】
この技術的手段によれば、土壌中の金属構造体の埋設位置近傍に土壌表面部から金属試験体を埋設し、所定期間経過後に引抜いて金属試験体の腐食速度を測定することで、土壌中の金属構造体の腐食を評価もしくは予測するものである。
【0008】
この方法では、金属試験体の腐食速度から土壌の性質を把握し容易にマッピングできる点では優れた方法であるが、金属試験体の腐食速度と、この金属試験体近傍に埋設されている金属構造体の腐食速度との関係が土壌を介しての間接的なものであることから、金属試験体の腐食速度のみから正確な金属構造体の耐用期間を推測することまではできず、この評価方法を十分に活用するまでに至っていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−232764号公報
【特許文献2】特開2006−275623号公報
【特許文献3】特開2003−262580号公報
【特許文献4】特開2008−298688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、より簡便な方法により、少ない経費と労力の負担で、金属製検査部材の腐食速度のみから正確な金属製水道管の耐用期間を推測し、更新順位の決定方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0012】
第1に、土壌中に埋設された金属製水道管の更新順位の決定方法であって、土壌中の金属製水道管の埋設位置近傍に土壌表面部から金属製検査部材を埋設し、所定期間経過後に引抜いて、金属製検査部材の重量減少量から金属製検査部材の腐食速度を測定し、前記金属製検査部材の近傍に埋設された金属製水道管の腐食速度を測定し、金属製検査部材の腐食速度と、検査対象部位の金属製水道管の腐食速度との対応関係を予め求めておき、その対応関係から、金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係を取得しておき、土壌中の金属製水道管の埋設位置近傍に土壌表面部から金属製検査部材を埋設し、所定期間経過後に引抜いて、金属製検査部材の重量減少量から金属製検査部材の腐食速度を測定し、前記金属製検査部材の腐食速度から、前記で取得した金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係に基づいて、土壌中の金属製水道管の耐用期間を推測する。
【0013】
第2に、上記第1の発明の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法において、金属製検査部材を複数本埋設し、各金属製検査部材の腐食速度を求めて、これらの腐食速度の平均値を金属製検査部材の腐食速度とする。
【0014】
第3に、上記第1又は第2の発明の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法において、金属製水道管の複数箇所の腐食速度を求めて、これらの腐食速度の最大値を金属製水道管の腐食速度とする。
【0015】
第4に、上記第1から第3の発明の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法において、金属製検査部材が丸棒状であって、その先端部が取り外し可能になっており、取り外した先端部の重量減少量を測定して金属製検査部材の腐食速度を求める。
【0016】
第5に、上記第1から第4の発明の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法において、金属製検査部材の腐食速度の測定結果が、判定基準値未満である場合、金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係を適用し、判定基準値以上である場合、土壌中の金属製水道管の腐食状態を実測する。
【0017】
第6に、上記第5の発明の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法において、判定基準値が、0.02mm/年である。
【発明の効果】
【0018】
上記のとおりの本発明によれば、金属製検査部材の腐食速度と、検査対象部位の金属製水道管の腐食速度との対応関係を予め求め、その対応関係から金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係を取得しておき、金属製検査部材の腐食速度から、前記で取得した金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係に基づいて、土壌中の金属製水道管の耐用期間を推測するので、簡便で短時間且つ正確に、経費と労力の負担をかけることなく、土壌中の金属製水道管の更新順位を決定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】検査部材と水道管の腐食速度から水道管の耐用期間の関係を導くまでのフロー図である。
【図2】検査部材の分割について例示した斜視概要図である。
【図3】検査部材埋設の説明概要図である。
【図4】検査部材の埋設について示した平面概要図である。
【図5】検査部材の埋設について示した概要図である。
【図6】水道管の腐食深さの測定部位を示した断面概略図である。
【図7】水道管の腐食深さの測定装置を示した概略図である。
【図8】検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度の関係を示したグラフである。
【図9】検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度の関係を示したグラフである。
【図10】検査部材の腐食速度と水道管の肉厚別の耐用期間の関係を示したグラフである。
【図11】検査部材の腐食速度測定から水道管の更新順位の決定までのフロー図である。
【図12】ANSI評価点数と水道管の腐食速度の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0021】
本発明の方法では、まず金属製検査部材(以下、単に検査部材と略称する)の腐食速度と、検査対象部位の土壌中の金属製水道管(以下、単に水道管と略称する)の腐食速度との対応関係を予め求め、その対応関係から検査部材の腐食速度と水道管の耐用期間の関係を取得する。
【0022】
具体的には、図1のフロー図に示すように、検査部材の腐食速度の算出と、水道管の腐食速度の算出をそれぞれ行う。以下、フロー図に沿って説明する。
<検査部材の準備>
本発明の方法で用いる検査部材の材質は、水道管としてよく用いられる鉄鋼あるいは鋳鉄であることが好ましく、その中で適宜入手し得るものを用いることができる。
【0023】
前記の鉄鋼あるいは鋳鉄とは、どちらも鉄を主成分とする合金の総称であって、金属学において前者はFe−C二元合金においてC含有量が0.0214〜2.14mass%、後者はFe−C二元合金においてC含有量が2.14〜6.67mass%であるものを指し、本明細書においてもその定義として用いている。
【0024】
また、鉄鋼等と記している場合には、主として、鉄鋼あるいは鋳鉄の意味として用いている。ただし、検査部材と水道管とが、どちらも鉄鋼あるいは鋳鉄として分類されるものであっても、腐食の程度が全く異なるものは好ましくないことは言うまでもない。
【0025】
検査部材の形状は特に制限はないが、挿入、引抜きの作業性、腐食の測定や観察のしやすさ、精度等の点から、例えば丸棒型、円筒型、円錐チップ型等とすること、引き抜き用のリングやワイヤー、ロープ等の取り付け、さらにはこれらの分割・連結型の形状や構造としてもよく、これらは、適宜目的に合わせて使用することが好ましい。本発明においては、重量の測定のしやすさから図2に示すような丸棒型であって、先端部32だけを分割可能とした分割型の検査部材3を好適に用いることができる。また、先端部32のみの材質を鉄鋼等として、長尺部31の材質を樹脂やセラミックス等としたものに接続したものであってもよい。
【0026】
この先端部32を分割可能とする検査部材3を用いる場合には、全体の長さをL(引き抜き用リング30部分αを除いた長さ)とした場合、分割可能な先端部32の長さをL×0.1程度とすることが好ましい。
【0027】
上記のような検査部材は、埋設試験前に汚れの付着やさびの発生がないように十分に注意することが望まれる。そのために、前処理として研磨紙等による表面研磨とエタノール等による十分な脱脂処理が有効である。
【0028】
このような前処理を行った後、検査部材の回収後の重量減少量を求めるために、埋設前の検査部材の重量を正確に計測しておく。分割タイプの検査部材の場合には、分割した先端部の重量を測定しておく。
【0029】
上記前処理から埋設までの間は、検査部材表面にさびが発生しないように、シリカゲル等を同封して除湿した容器に保管しておくのが好ましい。
<検査部材の埋設>
検査部材の土壌への埋設の位置については、図3に示すように、水道管2の埋設位置近傍であるが、この場合の「近傍」は、挿入された検査部材3の深度においては、その先端3Aの土壌表面10からの深さHが、水道管2の深さ位置との関係、つまり水道管の土壌表面10から下端の位置H1までの深さと、水道管の土壌表面10から上端の位置H2までの深さとの関係では、
0.8H2≦H≦1.2H1
を目安とする。より好ましくは0.8H2≦H≦H1である。
【0030】
また、検査部材3の挿入長さH0としては、水道管2の埋設長さD1(深さ方向における長さ、例えば、金属配管であれば外径となる)との関係では、
0.1D1≦H0
とすることが考慮される。
【0031】
つまり、検査部材3の挿入長さH0は、土壌表面10から先端3Aまでの全長であってもよいし、あるいは、図2に例示したように、リングやワイヤー、ロープ等を連結したものや樹脂やセラミックス等と接続した挿入体の全長の一部であってもよい。
【0032】
また、上記の「近傍」は、挿入された検査部材3の水道管2との水平位置の関係においては、土壌1中において、水道管を埋設時に埋め戻した埋め戻し土(符号省略)内であることを前提とする。水道管が埋設されている埋め戻し土よりも外の土壌であれば土壌質が異なるため、当然に腐食の進行の評価は困難になるためである。
【0033】
そして、検査部材3は水道管2に接することなく、相互の間隔Mが水道管2の幅D2(水平方向における長さ、例えば、金属配管であれば外径となる)との関係において、
0<M≦0.2D2
の範囲内となるようにすることが好適に考慮される。
【0034】
検査部材の埋設本数については、後述するように腐食速度を検査部材の重量減少量から求めることから検査部材1本のみの埋設でも構わないが、1箇所からできるだけ多くのデータを収集すること、また、これらの平均値を求めることが望まれることから複数本を同時に埋設することが好ましい。
【0035】
複数の検査部材を埋設する場合には、水道管2の埋設平面位置として図4に例示したように、水道管2の管長方向の両側(A)、あるいは片側(B)に、単列、複数列、あるいは千鳥状に配置してもよい。管長方向への配置の距離Wについては土壌1の特徴を考慮して適宜に定めることができるが、腐食速度の平均値を測定するとの観点からは水道管2の幅D2の5倍:5D2以下とすることが目安とされてよい。また、検査部材3の相互の間隔については、0.1D2以上とすることが目安となる。
【0036】
また、検査部材の挿入後は、図3に例示したように、土壌表面10からの水の浸入を防ぐために、検査部材3の上端部には適宜な蓋体12を設けておくこと等の対策が望まれる。
<試験>
検査部材の埋設から引抜きまでの試験の所定期間の長さについては、試験場所の環境、道路交通や生活上の制約等を考慮して適宜に定めることができるが、例えば、評価の信頼性という観点から半年以上、好ましくは1年以上とすることが好ましく、目的に応じ、長期(数年以上)あるいは短期(半年〜1年)に適宜に使い分けることもできる。
<検査部材の回収・重量測定>
上記の試験期間の経過後、検査部材を引き抜き回収する。
【0037】
検査部材の回収に関しては、埋設した検査部材が複数本である場合には、これらを一度に全て回収してもよいが、数回に分けて1本ずつあるいは複数本ずつ回収してもよい。回収期間(試験期間)の間隔を適宜設定して数回に分けて検査部材を回収する方法によれば、その埋設場所の土壌による腐食状況を時系列で把握することができるのでより好ましい。
【0038】
回収した検査部材は、さび等の付着物を十分に取り除いた上で、精密天秤等を用いて正確に重量測定を行う。
<検査部材の腐食速度の算出>
検査部材の腐食速度については、回収した検査部材、又は分割可能な検査部材の先端部の埋設前後の重量変化から腐食速度を算出する。
【0039】
腐食速度の算出は、具体的には、精密天秤等により測定した埋設試験前後の重量減少量と埋設期間から次式により算出することができる。
【0040】
【数1】
【0041】
回収した検査部材が1本の場合には、その1本について腐食速度を算出したものを腐食速度とし、複数本を回収した場合には、それぞれの腐食速度を算出して、これらの結果の平均値を腐食速度とする。
【0042】
次に、上記の検査部材の近傍に埋設されている水道管の腐食速度の算出についてさらに図1に示すフロー図に沿って説明する。
<埋設水道管の掘削・露出>
埋設水道管の掘削、露出は、上記検査部材の埋設位置近傍に埋設されている水道管を露出させて腐食調査が行えれば、掘削の時期や、掘削形態は特に制限はないが、図5に示すような、水道管調査区画13と検査部材埋設区画14の2段深さの掘削を行うことで、検査部材の埋設と水道管の腐食調査を同時に行うことができるのでより好ましい。
<水道管の腐食調査>
水道管の腐食調査は、まず、露出させた水道管をワイヤブラシ、電動ブラシ、カップブラシ付きグラインダー、テストハンマー等を用いて、表面の土、さび、及びこれらの混合物である水道管付着物を除去する。
【0043】
水道管の腐食部位の腐食深さの測定箇所は、図6に示すように、水道管2の断面を、管上6−A、管横/左6−B、管横/右6−C、管下6−Dの4つの調査範囲に区分して、それぞれの調査範囲の腐食深さを測定するのが好ましい。
【0044】
また、上記調査範囲においては、より正確なデータを得るために、可能な限り多くの箇所で腐食深さを測定するのが好ましい。
【0045】
腐食深さの測定は、まず目視で腐食の状況を判断し、腐食が認められる場所の腐食深さを図7に示すようなデプスゲージや、超音波厚み計等を用いて測定する。
【0046】
腐食深さの測定に際しては、集中腐食が生じている場所には、図7(A)に示すようなデプスゲージ70を用い、全面的な減肉が生じている場所には、図7(B)に示すような超音波厚み計71を用いる等、水道管の腐食状況に応じた測定方法を適宜選択して、正確に測定するのが好ましい。
<水道管の腐食速度の算出>
水道管の腐食速度の算出においては、上記の腐食調査で得られた結果のうち、最大の腐食深さのデータを採用するものとする。これは、水道管の最も腐食の進んでいる箇所を基準として腐食速度を求めて、水道管の最短の耐用期間を求めることにより、水道管の腐食について最も安全性の高い推測値を得るためである。
【0047】
水道管の腐食速度は、上記の最大の腐食深さを埋設年数で除すことにより水道管の腐食速度を算出することができる。
【0048】
上記の各工程により算出する検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度は、可能な限り多数の地点でデータ収集を行い、データの蓄積をしておくことが望ましい。収集した多数のデータを用いることにより、最終的により精度の高い水道管の耐用期間の推測が可能となる。
<検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度の関係の解析>
次に、上記の工程により収集した検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度のデータからこれらの関係を解析する。
【0049】
検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度の関係を解析する方法としては、縦軸を水道管の腐食速度(mm/年)、横軸を検査部材の腐食速度(mm/年)としたグラフ上に、収集した多数のデータをプロットしていく。データをプロットしたグラフを図8に示す。
【0050】
図8のグラフからもわかるように、プロットした各点は原点0に収束して原点0点から扇形に広がる傾向を示す。
【0051】
この扇形のプロットを上側と下側で挟むように直線を引くと図8の破線のように引くことができる。ここで、この破線は、原理的に検査部材の腐食速度が0の場合にはその土壌環境は全く腐食性を持たないと考えてよいことから、水道管の腐食も生じないと仮定することができ、切片を0とすることができる。
【0052】
このように、上側破線、下側破線とも原点0を通り、かつ右上がりの傾向を示しており、上側の破線は検査部材の腐食速度から推定される最大側の値、下側の破線は検査部材の腐食速度から推定される最小側の値に相当していると考えられる。
【0053】
次に、図8のグラフの上側破線の傾きを見やすくするために、横軸の検査部材の腐食速度を0から特定の腐食速度範囲までを拡大した座標に再プロットする。横軸の拡大は上側破線の傾きが明確に表される程度であれば特に制限はなく、図9に示す再プロットしたグラフでは検査部材の腐食速度を、0.020mm/年を最大として拡大してある。
【0054】
このグラフから、検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度の相関性をより明瞭に読み取ることができる。この範囲においては、プロットした各点を下側に埋めるようにして直線を引くと、グラフに示したように傾きが12.5で原点0を通る直線を当てはめることができる。すなわち、このグラフから、水道管の腐食速度は検査部材の腐食速度の12.5倍程度が最大になると読み取ることができる。
<検査部材の腐食速度と水道管の耐用期間の関係の作成>
次に、図8及び図9のグラフから導き出した、検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度の関係から、検査部材の腐食速度と水道管の耐用期間の関係を導き出す。
【0055】
具体的には、下記に示す式に代入して求めることができる。すなわち、検査部材の腐食速度(mm/年)に図9の直線の傾き12.5をかけて理論上の水道管の腐食速度を求め、水道管の肉厚(mm)をこの理論上の水道管の腐食速度で除すことにより水道管の耐用期間(年)を求めることができる。
【0056】
【数2】
【0057】
そして、図10に示すグラフのように、縦軸に水道管の耐用期間(年)、横軸に検査部材の腐食速度(mm/年)をとった座標に、水道管の肉厚ごとのデータをプロットすることによりその肉厚の曲線を導き出すことができる。
【0058】
図10のグラフの場合には、肉厚10mm、8mm、6mmの曲線を導き出しているが、上記式に水道管の肉厚と検査部材の腐食速度の数値を代入することにより任意の水道管の肉厚の曲線を導き出すことが可能である。
【0059】
このグラフを用いることにより、実測した検査部材の腐食速度と、その近傍に埋設されている水道管の肉厚の数値から容易に水道管の耐用期間を推測することができる。
【0060】
例えば、このグラフから、検査部材の腐食速度が0.015mm/年であった場合、推測される水道管の耐用年数は、肉厚10mmで約50年、肉厚8mmで約40年、肉厚6mmで約30年であることがわかる。
【0061】
本発明は、このように予め検査部材の腐食速度と水道管の耐用期間の関係を導き出しておくことによって、以後は検査部材の腐食速度のみを実測値から算出するだけで、その近傍に埋設されている水道管の耐用期間を掘削、露出させることなく推測することができるものである。
【0062】
以下に水道管の耐用期間の推測及び判定について、図11に示すフロー図を用いて説明する。
<検査対象路線範囲の設定>
本発明の方法を用いる水道管の耐用期間の推測方法は、その場所や範囲は特に限定することなく用いることができるが、通常の検査においては、埋設年数の情報等から検査対象路線を設定してこの路線範囲内で定量的に検査を行うことが好ましい。
【0063】
水道管は連続した長距離に亘る供給管であるため、ランダムな範囲設定や、単独箇所ごとの検査を行うよりも路線範囲で計画的に検査を行うことが有効であることから、まず検査対象路線範囲を設定する。
<検査部材の設置間隔の設定>
次に検査部材の設置間隔、埋設場所等を設定する。これについても、特に限定されるものではないが、通常は区間長と間隔を設定する。例えば、検査対象路線範囲において区間長約1km、間隔約100mで合計10箇所等である。また、前記設定と共に各埋設場所に埋設する検査部材の本数等を定めておくのが望ましい。
<検査部材の準備から腐食速度の算出>
上記のように、検査対象路線範囲及び検査区間長、間隔、埋設場所を設定した後、その場所に埋設されている水道管の近傍に検査部材を埋設し、試験を行い、回収して重量減少量から腐食速度を算出する。この各工程は前記の<検査部材の準備>から<検査部材の腐食速度の算出>と同様である。
<検査対象路線内の最大値の抽出>
次に、検査部材の腐食速度の算出したデータから検査対象路線内の最大値を抽出する。
【0064】
これは、調査対象路線の最も腐食が進んでいる箇所を基準として腐食速度を求めて、調査対象路線の最短の耐用年数を求めることにより、水道管の腐食について安全側の推測値を得るためである。
<判定>
次に、抽出した検査部材の腐食速度の最大値について判定を行う。
【0065】
この判定は、判定基準値を設定して判定基準値以上である場合と、判定基準値未満である場合とに分けてその後の対応を検討するものである。
【0066】
この判断基準値の設定に関しては、水道管の腐食に対する安全性を十分に考慮して設定する必要があることはいうまでもないが、一定の数値とする必要はなく、例えば水道管の肉厚ごとに設定することも可能である。
【0067】
本発明においては、腐食に対する安全性を十分に考慮して、0.02mm/年とする。判断基準値を0.02mm/年で設定しておくことにより、例えば、肉厚10mmの水道管では、耐用期間を40年と算出することができる。これは法定耐用年数40年の判断基準で更新が可能であり、十分腐食に対する安全性が担保できるからである。
<判定基準値未満の場合>
検査部材の腐食速度が、上記で設定した判定基準値未満である場合には、図10に示すグラフから水道管の耐用期間を推測する。
【0068】
次に、このようにして推測した水道管の耐用期間からその水道管の埋設期間を引いて余寿命を算出し、水道管の更新順位の判断をする。
<判定基準値以上の場合>
検査部材の腐食速度が、上記で設定した判定基準値以上である場合には、水道管の腐食が進行している可能性が高いことから、図9に示すグラフの直線の傾きから、水道管の理論上の腐食速度を算出する。
【0069】
このようにして、水道管の理論上の腐食速度を確認した上で、実際に水道管を掘削、露出させて水道管の調査を行う。水道管の調査に関しては、上記<水道管の腐食調査>と同様である。
【0070】
上記の工程により水道管の腐食の最大深さを測定し、水道管の初期肉厚×0.6と腐食の最大深さを比較する。そして、腐食の最大深さが初期肉厚×0.6以上である場合には更新の必要性有りと判断し、腐食の最大深さが初期肉厚×0.6未満である場合には水道管の状態から更新順位を判断する。
【0071】
本発明では、以上の方法により、簡便で短時間且つ正確に、経費と労力の負担をかけることなく、土壌中の水道管の耐用期間を推測することが可能となり、更に水道管の更新順位の判断をすることが可能となる。
【0072】
なお、本発明の水道管の耐用期間の推測方法では上記の各工程の方法に限定されることなく、種々の変更が可能である。
【0073】
例えば、収集したデータの解析をパソコンの表計算ソフト等を用いて集計することが可能であり、また、図9に示すグラフにおける直線の傾きも数式を予め設定しておくことにより自動的に導き出すことが可能である。
【0074】
更に、図10に示すグラフ上の曲線も、パソコンのソフトにより数値の対応関係としてとらえることができ、水道管の耐用期間を導き出す場合、検査部材の腐食速度と水道管の肉厚を変数とする公式を設定しておき、水道管の耐用期間を求めることも可能である。
【0075】
以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0076】
(実施例1)
実際に水道管が埋設されている検査範囲において検査部材の埋設による試験及び水道管の腐食深さの測定を実施した。
<検査範囲>
検査範囲はA路線からD路線の4路線及び各検査部材の埋設場所を設定した。
<検査部材の準備>
検査部材は、図2に示すような、径18φ、長さ80cmのFCD400の丸棒を用い、8cmの先端部32を分割可能に加工した。先端部32と長尺部31は1本の同一材料から切り出し、接続部にねじ加工33を施した。また、先端部32とねじ加工33部にはテフロン(登録商標)パッキン34を用いて密着部でのさびの発生を防止するようにした。このようにして、先端部32を長尺部31に対してねじ留めし、1本の検査部材3とした。
【0077】
この検査部材3は事前に#500番の研磨紙による表面研磨とエタノールによる十分な脱脂を施し、表面に付着した機械油を除去した。次いで、先端部32の重量を精密天秤にて測定した後、シリカゲルを同封して除湿した容器に保管して、埋設の直前までの間にさびが生じないように注意した。
<検査部材の埋設及び水道管の腐食調査>
検査部材の埋設場所は図5に示す2段区画として、検査部材3の挿入と同時に水道管2の腐食深さ測定を行った。
【0078】
検査部材3の挿入深さは、水道管2の最下部と同じ深さとし、検査部材を2本又は6本埋設した。具体的な掘削、埋設、調査の手順は以下のように行った。
1.舗装切断、舗装取り壊し、土壌掘削工事。
2.水道管2上部サンプル土壌採取:水道管2上部約30cm(比較例1のANSI分析用)。
【0079】
水道管2横部サンプル土壌採取(比較例1のANSI分析用)。
【0080】
水道管2下部サンプル土壌(地山土壌)採取:水道管2下部約50cm(比較例1のANSI分析用)。
3.水道管2掘削、露出完了(水道管調査区画(13)):水道管の腐食調査。
4.検査部材3埋設場所(検査部材埋設区画(14))の掘削。
5.水道管2の埋設両端をマーキング(図5(A))。
6.検査部材3の埋設位置に径17φ、深さ20cmの縦孔あけ
垂直にあけるためにガイドを使用。
【0081】
電動ドリルを使用。
7.径18φの検査部材3を縦孔にハンマーで打ち込み、挿入(図5(B))。
【0082】
引き抜きを考慮して検査部材3のリング部に引き抜き用ワイヤー36を接続。
8.検査部材の頭上に塩化ビニル製管体35を立て発生土埋め戻し。
9.塩化ビニル製管体35が収納されるように弁室11を構築。
10.塩化ビニル製管体35上側開放口からの雨水侵入防止処置のため蓋体12を設置(図5(C))。
11.復旧工事
<水道管の腐食調査>
前記手順3.の水道管の腐食調査について説明する。
【0083】
掘削して露出させた水道管の表面の土、さび、及びこれらの混合物である水道管付着物を除去した。
【0084】
次に、集中腐食が生じている場所は、図7(A)に示すデプスゲージを用い、全面的な減肉が生じている場所は、図7(B)に示す超音波厚み計を用いて水道管の腐食深さを測定した。
【0085】
測定場所は、図6に示す水道管断面の管上(6−A)、管横/左(6−B)、管横/右(6−C)、管下(6−D)について測定し、障害物があった場合は測定不能とした。
<試験期間>
設定した4路線の埋設場所において、試験期間を255日から1017日の間で設定して試験を行った。
【0086】
また、所定試験期間の終了後には、埋設した検査部材を引抜き、検査部材の先端にねじで固定した先端部を分離して回収した。
<検査部材の腐食速度の算出>
精密天秤により検査部材先端部の重量を測定し、検査部材先端部の重量減少量を求めた。腐食速度は重量減少量から次式により計算により算出した。
【0087】
【数3】
【0088】
A路線からD路線までの検査範囲の、各埋設場所の腐食速度の結果を、路線別に表1から表4に示す。
<水道管の腐食速度の算出>
水道管の腐食調査で得られた結果のうち、最大の腐食深さのデータを採用し、最大の腐食深さを埋設年数で除して水道管の腐食速度を算出した。
【0089】
水道管の最大の腐食深さ及び腐食速度を、路線別に表1から表4に示す。
【0090】
表1から表4に纏めた各データのうち、検査部材の腐食速度と水道管の腐食速度のデータを、縦軸に水道管の腐食速度、横軸に検査部材の腐食速度としたグラフにプロットした。そのグラフを図8に示す。
【0091】
図8のグラフの横軸を拡大して0.02mm/年を最大値とし、再プロットしたグラフを図9に示す。このグラフから、プロットしたデータの境界線として、傾き12.5の直線が引けることがわかる。
【0092】
この傾き12.5から、水道管の最大腐食速度は、検査部材の腐食速度の12.5倍として、図10に示すように、縦軸を水道管の耐用期間、横軸を検査部材の腐食速度とし、水道管の肉厚6mm、8mm、10mmの曲線のグラフを作成した。
【0093】
このグラフから検査部材の腐食速度のみから水道管の耐用期間を推測することが可能となる。
(比較例1)
検査範囲のA路線からD路線の4路線の各検査部材の埋設場所について、前記実施例1の調査手順4.で採取した水道管の管上、管横、管下、地山それぞれの土壌サンプルを分析してANSIの評価点数を付け、最大点数をその場所のANSIの点数とした。その結果を路線別に表1から表4に示す。
【0094】
ANSIの得点は10点を判断基準として土壌の腐食性を判別する指標である。そこで、表1から表4のデータを用いて、横軸のANSI評価点数(地山を含む最大点数)と縦軸の水道管の腐食速度との対応をプロットした。その結果を図12のグラフに示す。図12のグラフから対応関係をみると、このANSI評価点数と水道管の腐食速度との間には殆ど相関性が見いだせなかった。
【0095】
図12のグラフの破線で示すように、水道管を実測して得られたデータからの腐食速度は、ANSIの評価点数に因らず0〜0.2mm/年の間で散布している。従って測定した路線においては、ANSIの評価点数の大小から腐食速度を評価することは難しいことがわかった。
【0096】
以上より、ANSIの評価点数だけでは水道管の腐食速度を評価することは難しく、おおよその類推程度であっても困難であるといえる。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
以上の結果から、本発明の方法により導いた検査部材の腐食速度と水道管の耐用期間の関係から、簡便で短時間且つ正確に、経費と労力の負担をかけることなく、土壌中の水道管の耐用期間を推測できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0102】
1:土壌
10:土壌表面
11:弁室
12:蓋体
13:水道管調査区画
14:検査部材埋設区画
15:埋め戻し土
2:金属製水道管
3:金属製検査部材
30:引き抜き用リング
31:長尺体
32:先端部
33:ねじ部
34:テフロン(登録商標)パッキン
35:塩化ビニル製管体
36:引き抜き用ワイヤー
6−A:管上
6−B:管横/左
6−C:管横/右
6−D:管下
70:デプスゲージ
71:超音波厚み計
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌中に埋設された金属製水道管の耐用期間の推測方法であって、土壌中の金属製水道管の埋設位置近傍に土壌表面部から金属製検査部材を埋設し、所定期間経過後に引抜いて、金属製検査部材の重量減少量から金属製検査部材の腐食速度を測定し、前記金属製検査部材の近傍に埋設された金属製水道管の腐食速度を測定し、金属製検査部材の腐食速度と、検査対象部位の金属製水道管の腐食速度との対応関係を予め求めておき、その対応関係から、金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係を取得しておき、土壌中の金属製水道管の埋設位置近傍に土壌表面部から金属製検査部材を埋設し、所定期間経過後に引抜いて、金属製検査部材の重量減少量から金属製検査部材の腐食速度を測定し、前記金属製検査部材の腐食速度から、前記で取得した金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係に基づいて、土壌中の金属製水道管の耐用期間を推測することを特徴とする埋設金属製水道管の更新順位の決定方法。
【請求項2】
金属製検査部材の腐食速度として、金属製検査部材を複数本埋設し、各金属製検査部材の腐食速度を求めて、これらの腐食速度の平均値を金属製検査部材の腐食速度とすることを特徴とする請求項1に記載の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法。
【請求項3】
金属製水道管の腐食速度として、金属製水道管の複数箇所の腐食速度を求めて、これらの腐食速度の最大値を金属製水道管の腐食速度とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法。
【請求項4】
金属製検査部材が丸棒状であって、その先端部が取り外し可能になっており、取り外した先端部の重量減少量を測定して金属製検査部材の腐食速度を求めることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法。
【請求項5】
金属製検査部材の腐食速度の測定結果が、判定基準値未満である場合、金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係を適用し、判定基準値以上である場合、土壌中の金属製水道管の腐食状態を実測することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法。
【請求項6】
判定基準値が、0.02mm/年であることを特徴とする請求項5に記載の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法。
【請求項1】
土壌中に埋設された金属製水道管の耐用期間の推測方法であって、土壌中の金属製水道管の埋設位置近傍に土壌表面部から金属製検査部材を埋設し、所定期間経過後に引抜いて、金属製検査部材の重量減少量から金属製検査部材の腐食速度を測定し、前記金属製検査部材の近傍に埋設された金属製水道管の腐食速度を測定し、金属製検査部材の腐食速度と、検査対象部位の金属製水道管の腐食速度との対応関係を予め求めておき、その対応関係から、金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係を取得しておき、土壌中の金属製水道管の埋設位置近傍に土壌表面部から金属製検査部材を埋設し、所定期間経過後に引抜いて、金属製検査部材の重量減少量から金属製検査部材の腐食速度を測定し、前記金属製検査部材の腐食速度から、前記で取得した金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係に基づいて、土壌中の金属製水道管の耐用期間を推測することを特徴とする埋設金属製水道管の更新順位の決定方法。
【請求項2】
金属製検査部材の腐食速度として、金属製検査部材を複数本埋設し、各金属製検査部材の腐食速度を求めて、これらの腐食速度の平均値を金属製検査部材の腐食速度とすることを特徴とする請求項1に記載の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法。
【請求項3】
金属製水道管の腐食速度として、金属製水道管の複数箇所の腐食速度を求めて、これらの腐食速度の最大値を金属製水道管の腐食速度とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法。
【請求項4】
金属製検査部材が丸棒状であって、その先端部が取り外し可能になっており、取り外した先端部の重量減少量を測定して金属製検査部材の腐食速度を求めることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法。
【請求項5】
金属製検査部材の腐食速度の測定結果が、判定基準値未満である場合、金属製検査部材の腐食速度と土壌中の金属製水道管の耐用期間の関係を適用し、判定基準値以上である場合、土壌中の金属製水道管の腐食状態を実測することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法。
【請求項6】
判定基準値が、0.02mm/年であることを特徴とする請求項5に記載の埋設金属製水道管の更新順位の決定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−107911(P2012−107911A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−255378(P2010−255378)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(504347429)株式会社ベンチャー・アカデミア (3)
【出願人】(594024545)横浜市 (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(504347429)株式会社ベンチャー・アカデミア (3)
【出願人】(594024545)横浜市 (5)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]