説明

培地供給装置、顕微鏡システム

【課題】生体試料を収容したシャーレに対して劣化した培地の注入を防止しながら新鮮な培地を注入する培地供給装置、顕微鏡システムを提供する。
【解決手段】
保管容器3に保管された培地20を吸引するためのポンプ5と、保管容器3から生体試料収納容器21の近傍まで延設され、ポンプ5で吸引された培地20を生体試料収納容器21へ導き注入するための注入配管25,31,33と、注入配管25,31,33に接続されており、注入配管25,31,33内に停留していた培地20を排出する分岐配管32とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培地供給装置、顕微鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生細胞や微生物等の生体試料を培地中に生かしながら数時間から数日にわたって顕微鏡で観察し、その変化を解析することで生体反応を解明しようとする研究が行われている。このような研究において、生体試料の観察を長時間行う際には、時間の経過とともに培地が劣化してしまうため、生体試料と培地を収容しているシャーレから定期的に培地を排出して新鮮な培地を注入する、即ち培地交換を行う必要がある。このため顕微鏡には、生体試料を培地中に生かしながら観察を行い、さらに培地交換が可能であることが求められることとなる。
斯かる背景の下、新鮮な培地を保管する保管容器、保管容器内の培地をシャーレに注入するための配管、及びシャーレ内の培地を排出するための配管を備えた顕微鏡システムが提案されている。このような顕微鏡システムにおいては、顕微鏡は37度に維持された保温ケースの内部に収納され、保管容器は保温ケースの外部に配置される(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−141143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら昨今では、一週間から一ヶ月という長期間にわたって生体試料の培養及び観察を継続したいという要望が高まっている。培地交換の頻度は、生体試料によっても異なり、毎日、二日に一度、或いは三日に一度等の場合がある。このような場合、保管容器からシャーレまでの配管内に停留した培地は、保温ケース外部では常温、また保温ケース内部では37度の環境下に、一日、二日、或いは三日間さらされることとなる。例えば、培地交換を三日に一度行う場合には、当該配管内に三日間停留した培地がシャーレ内に注入され、この培地は次回の培地交換までの三日間、37度の環境下のシャーレ内で保持されることとなる。即ち、この培地は常温(一部の培地は37度)の環境下に3日間、さらに37度の環境下に3日間さらされて劣化してしまう。なお、保管容器からシャーレまでの配管をできるだけ短く、また細くすることによって、当該配管内に停留する培地の量を減らすことがある程度可能である。しかしながら、当該配管内に停留して劣化した培地が、培地交換の際にシャーレ内に注入されてしまうことに変わりはない。
【0005】
そこで本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、生体試料を収容したシャーレに対して劣化した培地の注入を防止しながら新鮮な培地を注入する顕微鏡システム、培地供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、
保管容器に保管された培地を吸引するためのポンプと、
前記保管容器から生体試料収納容器の近傍まで延設され、前記ポンプで吸引された培地を前記生体試料収納容器へ導き注入するための注入配管と、
前記注入配管に接続されており、前記注入配管内に停留していた培地を排出する分岐配管とを有することを特徴とする培地供給装置を提供する。
【0007】
また本発明は、
生体試料収納容器に収納した試料を観察するための顕微鏡と、
保管容器に保管された培地を吸引するためのポンプと、
前記保管容器から生体試料収納容器の近傍まで延設され、前記ポンプで吸引された培地を前記生体試料収納容器へ導き注入するための注入配管と、
前記注入配管に接続されており、前記注入配管内に停留していた培地を排出する分岐配管とを有することを特徴とする顕微鏡システムを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生体試料を収容したシャーレに対して劣化した培地の注入を防止しながら新鮮な培地を注入する培地供給装置、顕微鏡システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態に係る顕微鏡システムの構成を示す図であり、(b)はシャーレ等の拡大図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る顕微鏡システムで実行される培地交換ルーチンAを示すフローチャートである。
【図3】培地交換ルーチンAに基づく注入ポンプ、第1排出ポンプ、及び第2排出ポンプの駆動シーケンスを示す図である。
【図4】(a)は本発明の第2実施形態に係る顕微鏡システムの構成を示す図であり、(b)は分岐部の構成を示す拡大図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係る顕微鏡システムで実行される培地交換ルーチンBを示すフローチャートである。
【図6】培地交換ルーチンBに基づく注入ポンプ及び第1排出ポンプの駆動シーケンスと、分岐部の各電磁弁の開閉シーケンスとを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の各実施形態に係る顕微鏡システムを添付図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
はじめに、本発明の第1実施形態に係る顕微鏡システムの全体的な構成を説明する。
図1に示すように本実施形態に係る顕微鏡システム1は、生体試料を培地中に生かしながら顕微鏡観察を行い、さらに培地交換を可能とするものであり、顕微鏡2、新鮮な培地の保管容器3、パーソナルコンピュータ(PC)4、培地交換用のポンプ(注入ポンプ5、第1排出ポンプ6、第2排出ポンプ7)及びポンプ制御装置8を有している。
【0011】
顕微鏡2は、ステージ11、透過照明装置12、対物レンズ13、カメラ15、及び接眼レンズ16を備えた倒立顕微鏡である。ステージ11上には気密な培養空間を形成する箱状のチャンバ17が設置されており、チャンバ17内には試料19と液状の培地20が注入されたシャーレ(生体試料収納容器)21が収納されている。なお、対物レンズ13は不図示の上下動機構を介して顕微鏡2の本体に取り付けられている。
斯かる顕微鏡2は、接眼レンズ16を除き、大きな箱状の保温ケース22で覆われて外気と隔離されている。保温ケース22の外部には保温装置23が備えられており、これによって保温ケース22内は所定温度(本実施形態では37度)に維持されている。なお、保温ケース22の内部には、チャンバ17内の温度、湿度、及び二酸化炭素濃度等を調整するための不図示の空調装置も備えられており、これによって培地20の乾燥を防止しながら試料19に好適な培養空間をチャンバ17内に維持することができる。
PC4は、顕微鏡2に備えられたカメラ15やステージ11等の電動装置、保温装置23、及びポンプ制御装置8等の制御を行う。
【0012】
斯かる構成の下、透過照明装置12から射出された照明光は、コンデンサレンズ14を介して、ステージ11上のチャンバ17に収納されたシャーレ21内の試料19に照射される。これにより試料19から発せられた光は、対物レンズ13と、顕微鏡2の本体内に備えられた不図示の光学系とを介して、カメラ15及び接眼レンズ16へ導かれる。これによりカメラ15では試料19の画像が撮影されるとともに、使用者は接眼レンズ16を介して試料19の像を観察することができる。なお、本実施形態では、ステージ11の側方に備えられた落射照明装置24によって試料19を照明して観察することも可能である。
【0013】
次に、本実施形態に係る顕微鏡システム1の特徴的な構成について説明する。
本実施形態において、チャンバ17内のシャーレ21には、培地20をシャーレ21に注入するための注入ノズル25と、シャーレ21内の培地20を排出するための排出ノズル26とが配置されている。注入ノズル25の先端及び排出ノズル26の先端はそれぞれシャーレ21内へ向かって屈曲しており、注入ノズル25の先端の注入口及び排出ノズル26の先端の排出口と、シャーレ21の底面との間隔は、注入時及び排出時には、各々一定に保持されている。
また、排出ノズル26の他端はチャンバ17の側壁からチャンバ17外へ露出して第1排出チューブ27と接続されており、第1排出チューブ27は保温ケース22から外部へ露出し、第1排出ポンプ6を介して第1排出容器28まで達している。一方、注入ノズル25の他端はチャンバ17の側壁から露出して第1注入チューブ31と接続されており、第1注入チューブ31はT字型の管状部材からなる分岐部30に接続されている。分岐部30には、第2排出チューブ32の先端と第2注入チューブ33の先端がさらに接続されており、第2排出チューブ32の他端は保温ケース22から外部へ露出し、第2排出ポンプ7を介して第2排出容器34まで達している。また、第2注入チューブ33の他端は保温ケース22から外部へ露出し、注入ポンプ5を介して保管容器3まで達している。
【0014】
保管容器3は、シャーレ21に注入される新鮮な培地20を貯留して保管するための容器であって、当該培地20を冷却するために不図示の冷却装置を備えたウォーターバス35に浸されている。保管容器3は、保温ケース22内に配置されていてもよく、保温ケース22内に配置されていれば、保管容器3内の培地20の温度は保温ケース22内の温度に保たれることになり、ウォーターバス35が不要になる。
注入ポンプ5、第1排出ポンプ6、及び第2排出ポンプ7には、図1に示すように複数個のローラーを回転させる構成のペリスターポンプが採用されている。なお、ペリスターポンプに限られず、その他の電動ポンプを採用してもよい。
ポンプ制御装置8は、PC4からの指示に基づき、注入ポンプ5、第1排出ポンプ6、及び第2排出ポンプ7の駆動を制御するものである。
【0015】
斯かる構成により、第1排出ポンプ6の駆動時には、第1排出ポンプ6の吸引力によってシャーレ21内の培地20を排出ノズル26で吸引し、これを第1排出チューブ27を経由して第1排出容器28へ排出することができる。
また、注入ポンプ5の駆動時には、注入ポンプ5の吸引力によって保管容器3から培地20を吸引し、これを第2注入チューブ33、分岐部30、及び第1注入チューブ31を順に経由して注入ノズル25よりシャーレ21内へ注入することができる。
さらに、第2排出ポンプ7の駆動時には、後に詳述するように、第2排出ポンプ7の吸引力によって第1注入チューブ31、分岐部30、及び第2注入チューブ33内の培地20を吸引し、これを第2排出チューブ32を経由して第2排出容器34へ排出することができる。
【0016】
第1注入チューブ31の先端はシャーレ21の近傍に延設されており、先端部には注入ノズル25が設置されている。ここで、シャーレ21の近傍とは、シャーレ21の真上や、シャーレ21が収納されるチャンバ17の内部又は外部であってチャンバ17の周囲近辺である。また、図1のようにシャーレ21が顕微鏡2のステージ11上に設置される場合は、ステージ11の周辺部である。
なお、以上に述べた保管容器3、PC4、注入ポンプ5、第2排出ポンプ7、ポンプ制御装置8、注入ノズル25、分岐部30、第1注入チューブ31、第2排出チューブ32、第2注入チューブ33、及び第2排出容器34を培地供給装置と称する。
また、第1注入チューブ31は分岐部30を介して第2注入チューブ33と接続されており、この第1、第2注入チューブ31、33からなる構成を注入配管と称し、この注入配管は培地20の保管容器3からシャーレ21の近傍まで延設された状態となる。
【0017】
本実施形態に係る顕微鏡システム1は、図2に示し以下に詳述する培地交換ルーチンAを実行可能に構成されている。
なお、顕微鏡システム1で培地交換ルーチンAを実行するにあたり、予めシャーレ21は培地20で満たされており、試料19がシャーレ21の底面に付着している。また、図1(b)に示すように注入ノズル25の先端(注入口)は、シャーレ21内の培地20に接触しないように、シャーレ21の側壁の上端と同程度の高さ位置に配置されている。そして、排出ノズル26の先端(排出口)は、シャーレ21の底面付近まで延在している。なお、斯かる前提は後述する培地交換ルーチンBにおいても同様である。
【0018】
上記前提の下、培地交換ルーチンAは使用者が培地交換ルーチンAの開始の指示をPC4へ入力することによって開始される。
ステップS1:PC4がポンプ制御装置8に第1排出ポンプ6を駆動させる。これにより、シャーレ21内の培地20が第1排出容器28へ排出される。
ステップS2:PC4が所定時間経過後、ポンプ制御装置8に第1排出ポンプ6の駆動を停止させる。これにより、シャーレ21内の培地20の排出が完了する。
【0019】
ステップS3:PC4がポンプ制御装置8に第2排出ポンプ7を駆動させる。これにより、第2排出チューブ32、分岐部30、第1注入チューブ31、及び注入ノズル25に停留していた培地20が第2排出容器34へ順に排出される。このとき、第2注入チューブ33は注入ポンプ5内でローラーに圧迫されて流路が遮断されているため、第2注入チューブ33に停留している培地20が移動することはない。ただし、チューブの圧縮を開放する構成になっている場合や、本実施形態のようなチューブを圧縮するタイプのポンプではなく、チューブ内の培地の移動が容易に行える構成であれば、この時点で第2排出チューブ32内の培地20を移動させることができる。
ここで、本ステップS3で第2排出ポンプ7を駆動しはじめてから次のステップS4で注入ポンプ5を駆動しはじめるまでの間の第2排出ポンプ7の送液量は、注入ノズル25、第1注入チューブ31、及び分岐部30に停留可能な培地20の合計量を十分に上回る値にすればよい。これにより、チューブ内の排出すべき培地20の排出残りを防止することができる。上述のように、注入ノズル25の先端はシャーレ21内の培地20に接触しないように十分に高い位置に配置されている。したがって、仮に第2排出ポンプ7の送液量が前記合計量を過剰に上回ったとしても、注入ノズル25の注入口から空気が吸引されるだけであるため、シャーレ21内の培地20が注入ノズル25を逆流してしまうことがない。なお、ポンプの送液量とは、ポンプの送液スピード(単位時間当たりの送液量)とポンプの駆動時間の積によって定義することができる。また、ノズルやチューブ内に停留可能な培地20の量は、ノズルやチューブの内径と長さから簡単に計算することができる。なお、第2排出チューブ32の太さを相対的に第1注入チューブ31、第2注入チューブ33の太さよりも大きくすれば、排出に要する時間をより短縮することができる。
【0020】
ステップS4:PC4が所定時間経過後、ポンプ制御装置8に注入ポンプ5を第2排出ポンプ7の送液スピードよりも十分に小さい送液スピードで駆動させる。即ち、注入ポンプ5の送液スピードが第2排出ポンプ7の送液スピードよりも小さい状態で注入ポンプ5と第2排出ポンプ7が同時に駆動されるため、第2注入チューブ33に停留していた培地20は、第1注入チューブ31へ流入することなく第2排出チューブ32を経由して第2排出容器34へ排出される。なお、本ステップS4において、注入ポンプ5の送液スピードは第2排出ポンプ7の送液スピードと同じであってもよい。
また、本ステップS4における注入ポンプ5の送液スピードは、後のステップS5において保管容器3内の新鮮な培地20をシャーレ21内へ注入する送液スピードでもある。ここで、本実施形態では、上述のように新鮮な培地20は保管容器3内で冷却しながら保管されている。このため、新鮮な培地20をシャーレ21内へ注入する際には、この培地20の温度を所定温度(本実施形態では37度)近くまで上昇させる必要がある。また、上述のように保温ケース22内は所定温度(本実施形態では37度)に維持されているため、新鮮な培地20を保温ケース22内へ導くことで加温することができる。したがって、新鮮な培地20をシャーレ21内へ注入する前に前記所定温度近くまで十分に加温するためには、注入ポンプ5の送液スピードを十分に遅くすることが好ましい。しかし、培地20が保管容器3内で冷却保管されていない場合は、このような操作は不要である。
【0021】
ステップS5:PC4が所定時間経過後、ポンプ制御装置8に第2排出ポンプ7の駆動を停止させる。これにより、第2注入チューブ33に停留していた培地20の排出が完了し、ポンプ制御装置8によって注入ポンプ5のみが駆動されることとなる。このため、注入ポンプ5によって保管容器3内に保管されている新鮮な培地20が引き続いて吸引されることになり、この新鮮な培地20は第1注入チューブ31を経由してシャーレ21内へ注入される。このとき、第2排出チューブ32は第2排出ポンプ7内でローラーに圧迫されて流路が遮断されているため、第2排出チューブ32に停留している培地20又は空気が移動することはない。したがって、新鮮な培地20が第2排出チューブ32に流入することがない。
ここで、上記ステップS4で注入ポンプ5を駆動しはじめてから本ステップS5で第2排出ポンプ7を停止するまでの間の第2排出ポンプ7の送液量は、第2注入チューブ33に停留可能な培地20の培地量を十分に上回る値にすればよい。なお、仮に第2排出ポンプ7の送液量が前記培地量を過剰に上回った場合、保管容器3内の新鮮な培地20が第2排出容器34へ無駄に排出されることになるものの、第2排出ポンプ7の送液量が前記培地量よりも下回る場合に比べれば大きな問題ではない。これは、第2排出ポンプ7の送液量が前記培地量よりも下回ると、第2注入チューブ33に停留していた培地20がシャーレ21内へ注入されてしまうことになるためである。
ステップS6:PC4が所定時間経過後、ポンプ制御装置8に注入ポンプ5の駆動を停止させ、培地交換ルーチンAが終了する。これにより、シャーレ21内への新鮮な培地20の注入が完了する。
【0022】
ここで、図3は培地交換ルーチンAに基づく注入ポンプ5、第1排出ポンプ6、及び第2排出ポンプ7の駆動シーケンスを示している。図3中のパルスの高さは各ポンプ5,6,7の送液スピードを示し、横軸は時間を示している。
以上のように、顕微鏡システム1で培地交換ルーチンAが実行されることにより、注入ノズル25、第1注入チューブ31、分岐部30、第2注入チューブ33、及び第2排出チューブ32に停留して劣化した培地20がシャーレ21内へ注入されることを防止しながら培地交換を実現することができる。なお、顕微鏡システム1は、新鮮な培地20のロスを最小限に抑えながら上記培地交換を行うことができるという利点も備えている。また、顕微鏡システム1は、簡便な構成で、例えば分岐部30に電磁弁等の流路切換装置を用いることなく、培地交換ルーチンAに基づく各ポンプ5,6,7の駆動の切り換えのみで上記培地交換を行うことができるという利点も備えている。
【0023】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る顕微鏡システムについて、上記第1実施形態と同様の部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について詳細に説明する。
図4に示すように本実施形態に係る顕微鏡システム40では、T字型の管状部材からなる分岐部30の各管の先端に電磁弁B1,B2,B3がそれぞれ備えられており、各電磁弁B1,B2,B3の開閉を個別に制御する電磁弁制御装置41が備えられている。
また、顕微鏡システム40では、第2排出ポンプ7が備えられておらず、第2排出チューブ32が第2排出容器34へ直接導かれている。なお、第2排出チューブ32は、第2排出容器34側の先端が注入ノズル25の先端(注入口)よりも低い位置となるように配置されている。
【0024】
本実施形態に係る顕微鏡システム40は、図5に示し以下に詳述する培地交換ルーチンBを実行可能に構成されている。
なお、顕微鏡システム40で培地交換ルーチンBを実行するにあたり、分岐部30の各電磁弁B1,B2,B3は電磁弁制御装置41によって予め全て開放されている。
斯かる前提の下、培地交換ルーチンBは使用者が培地交換ルーチンBの開始の指示をPC4へ入力することによって開始される。
【0025】
ステップT1:PC4がポンプ制御装置8に第1排出ポンプ6を駆動させる。これにより、シャーレ21内の培地20が第1排出容器28へ排出される。
ステップT2:PC4が所定時間経過後、ポンプ制御装置8に第1排出ポンプ6の駆動を停止させる。これにより、シャーレ21内の培地20の排出が完了する。
ステップT3:PC4が電磁弁制御装置41に分岐部30の電磁弁B1を閉塞させる。
ステップT4:PC4がポンプ制御装置8に注入ポンプ5を駆動させる。これにより、分岐部30及び第2注入チューブ33に停留していた培地20が第2排出容器34へ排出される。そして、注入ポンプ5によって保管容器3から吸引された新鮮な培地20が第2注入チューブ33、分岐部30、及び第2排出チューブ32へ順に導かれる。なお、上記ステップT3で分岐部30の電磁弁B1が閉塞されているため、本ステップT4において注入ノズル25及び第1注入チューブ31に停留している培地20が移動することはない。
【0026】
ステップT5:PC4が所定時間経過後、ポンプ制御装置8に注入ポンプ5の駆動を停止させる。これにより、分岐部30及び第2注入チューブ33に停留していた培地20の排出と、第2注入チューブ33、分岐部30、及び第2排出チューブ32への新鮮な培地20の充填とが完了する。
ここで、上記ステップT4で注入ポンプ5を駆動しはじめてから本ステップT5で注入ポンプ5を停止するまでの間の注入ポンプ5の送液量は、第2排出チューブ32、分岐部30、及び第2注入チューブ33に停留可能な培地20の合計量を十分に上回る値にすればよい。なお、仮に注入ポンプ5の送液量が前記合計量を過剰に上回った場合、保管容器3内の新鮮な培地20が第2排出容器34へ無駄に排出されることになるものの、注入ポンプ5の送液量が前記合計量よりも下回る場合に比べれば大きな問題ではない。これは、注入ポンプ5の送液量が前記合計量よりも下回ると、後述するステップT6において、注入ノズル25及び第1注入チューブ31に停留していた培地20がシャーレ21内へ注入されてしまうおそれがあるためである。
【0027】
ステップT6:PC4が電磁弁制御装置41に分岐部30の電磁弁B3を閉塞させるとともに電磁弁B1を開放させる。これにより、第2排出チューブ32、分岐部30、第1注入チューブ31、及び注入ノズル25に停留していた培地20が、サイフォンの原理に基づいて第2排出容器34へ排出される。なお、このとき分岐部30の電磁弁B3が閉塞されているため、第2注入チューブ33に停留していた培地20、即ち上記ステップT5で第2注入チューブ33に充填された新鮮な培地20が移動することはない。
ステップT7:PC4が所定時間経過後、電磁弁制御装置41に分岐部30の電磁弁B2を閉塞させるとともに電磁弁B3を開放させる。これにより、第2排出チューブ32、分岐部30、第1注入チューブ31、及び注入ノズル25に停留していた培地20の排出が完了する。
【0028】
ステップT8:PC4がポンプ制御装置8に注入ポンプ5を駆動させる。これにより、上記ステップT5で第2注入チューブ33に充填された新鮮な培地20、及び保管容器3から吸引された新鮮な培地20が第1注入チューブ31を経由してシャーレ21内へ順に注入される。このとき、上記ステップT7で分岐部30の電磁弁B2が閉塞されているため、新鮮な培地20が第2排出チューブ32に流入することがない。なお、本ステップT8における注入ポンプ5の送液スピードは、新鮮な培地20をシャーレ21内へ注入する前に保温ケース22内で所定温度近くまで十分に加温するために、十分に遅くすることが好ましい。
ステップT9:PC4が所定時間経過後、ポンプ制御装置8に注入ポンプ5の駆動を停止させる。これにより、シャーレ21内への新鮮な培地20の注入が完了する。
ステップT10:PC4が電磁弁制御装置41に分岐部30の電磁弁B2を開放させ、これによって培地交換ルーチンBが終了する。
【0029】
ここで、図6は培地交換ルーチンBに基づく注入ポンプ5及び第1排出ポンプ6の駆動シーケンスと、分岐部30の各電磁弁B1,B2,B3の開閉シーケンスとを示している。図6中の横軸は時間を示し、駆動シーケンスにおけるパルスの高さは各ポンプ5,6の送液スピードを示している。
以上のように、顕微鏡システム40で培地交換ルーチンBが実行されることにより、上記第1実施形態と同様に、注入ノズル25、第1注入チューブ31、分岐部30、第2注入チューブ33、及び第2排出チューブ32に停留して劣化した培地20がシャーレ21内へ注入されることを効果的に防止しながら培地交換を実現することができる。なお、顕微鏡システム40は2つのポンプ5,6で上記培地交換を行うことができるため、安価であり省スペース化を図ることができるという利点も備えている。
【0030】
なお、上記各実施形態に係る顕微鏡システム1,40は、各ポンプ5,6,7の送液量について厳密さが必要でないため、ロバスト性が良い、即ち外乱や設計誤差等の影響を受けにくいという利点も備えている。
また、上記各実施形態に係る顕微鏡システム1,40は、上述のようにPC4が培地交換ルーチンA,Bを実行することによって自動的に培地交換を行う構成である。しかしながらこれに限られず、使用者が培地交換ルーチンA,Bの手順に基づいて各ポンプ5,6,7や分岐部30の各電磁弁B1,B2,B3を手動で操作して培地交換を行うことも勿論可能である。
【0031】
また、上記第1実施形態に係る顕微鏡システム1は、上述の構成に限られず、分岐部30に上記第2実施形態と同様の電磁弁B1,B2,B3を備えた構成としてもよい。この場合、まず電磁弁B3のみを閉塞して第2排出ポンプ7を駆動する。その後、第2排出ポンプ7の駆動を停止し、電磁弁B1のみを閉塞して注入ポンプ5を駆動する。これにより、注入ノズル25から第2注入チューブ33内に停留して劣化した培地20を排出することができる。そして、電磁弁B2のみを閉塞して注入ポンプ5を駆動することで、保管容器3から新鮮な培地20をシャーレ21内へ注入することができる。
【0032】
また、上記各実施形態に係る顕微鏡システム1,40では、間欠的に試料19の画像を撮影する所謂タイムラプス撮影に培地交換ルーチンA,Bを組み合わせて実行してもよい。例えば、撮影と撮影の合間に自動的に培地交換ルーチンA,Bを実行するようにすれば、培地交換による振動等の影響を受けずに試料19を安定して撮影することが可能となり、常に良好な画像を取得することができるため好ましい。
【符号の説明】
【0033】
1 顕微鏡システム
2 顕微鏡
3 保管容器
4 PC
5 注入ポンプ
6 第1排出ポンプ
7 第2排出ポンプ
8 ポンプ制御装置
19 試料
20 培地
21 シャーレ
25 注入ノズル
26 排出ノズル
27 第1排出チューブ
30 分岐部
31 第1注入チューブ
32 第2排出チューブ
33 第2注入チューブ
40 顕微鏡システム
B1 電磁弁
B2 電磁弁
B3 電磁弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保管容器に保管された培地を吸引するためのポンプと、
前記保管容器から生体試料収納容器の近傍まで延設され、前記ポンプで吸引された培地を前記生体試料収納容器へ導き注入するための注入配管と、
前記注入配管に接続されており、前記注入配管内に停留していた培地を排出する分岐配管とを有することを特徴とする培地供給装置。
【請求項2】
前記注入配管内に停留していた培地を吸引して前記分岐配管から排出させるための排出ポンプを有することを特徴とする請求項1に記載の培地供給装置。
【請求項3】
前記注入配管と前記分岐配管との接続部分に流路切換装置を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の培地供給装置。
【請求項4】
前記ポンプ及び前記排出ポンプを制御するための制御装置を有し、
前記制御装置が、前記排出ポンプを駆動させた後、前記排出ポンプと前記ポンプを同時に駆動させることにより、前記注入配管内に停留していた培地を前記分岐配管から排出させることを特徴とする請求項2に記載の培地供給装置。
【請求項5】
前記ポンプ及び前記流路切換装置を制御するための制御装置を有し、
前記分岐配管の先端が前記注入配管の前記生体試料収納容器側の先端よりも低い位置に配置されており、
前記制御装置が、前記注入配管において前記流路切換装置よりも前記保管容器側の部分に停留していた培地を前記分岐配管から排出するように前記流路切換装置で流路を切り換えて前記ポンプを駆動させた後、前記注入配管において前記流路切換装置よりも前記生体試料収納容器側の部分に停留していた培地が前記分岐配管から排出するように前記流路切換装置で流路を切り換えることを特徴とする請求項3に記載の培地供給装置。
【請求項6】
前記生体試料収納容器内の培地を吸引するための生体試料収納容器用排出ポンプと、
前記生体試料収納容器用排出ポンプで吸引された培地を排出するための排出配管とを有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の培地供給装置。
【請求項7】
生体試料収納容器に収納した試料を観察するための顕微鏡と、
保管容器に保管された培地を吸引するためのポンプと、
前記保管容器から生体試料収納容器の近傍まで延設され、前記ポンプで吸引された培地を前記生体試料収納容器へ導き注入するための注入配管と、
前記注入配管に接続されており、前記注入配管内に停留していた培地を排出する分岐配管とを有することを特徴とする顕微鏡システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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