説明

培養三次元組織およびその使用

本願の開示は、侵襲性が最小限の方法を用いて組織および臓器に投与することができる三次元組織の組成物を提供する。この三次元組織は損傷した組織および臓器の修復または再生を促進する増殖因子のレパートリーを産生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1. 関連出願に対する相互参照
本出願は、2005年6月17日に出願された米国特許仮出願第60/691,731号、および2004年8月30日に出願された米国特許仮出願第60/606,072号の利益を請求するものであり、これらの開示はその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【背景技術】
【0002】
2. 背景
繊維芽細胞などの細胞を培養するための三次元足場の使用により、培養細胞に長期間増殖を持続させ、種々の増殖因子を産生させることが可能になる。この種の三次元細胞培養は米国特許第5,266,480号および第5,443,950号に記載されており、Dermagraft(登録商標)として商業的に入手可能である。それらのユニークな特性のため、これらの三次元組織は、皮膚の代用物として、ならびに骨髄細胞および肝臓細胞などの臓器特異的細胞のための培養系としての用途が見出された(例えば、米国特許第5,460,939号、第5,541,107号および第5,559,022号を参照)。
【0003】
典型的には、三次元組織を、メッシュ上で調製し、組織または臓器上へのパッチとして適用する。心臓組織などの内部組織への適用のためには、外科的手法を用いてその部位にアクセスし、接着剤、ホチキス、縫合糸、または他の手段を用いて該組織にパッチを貼り付ける。しかしながら、どのような外科的手法も侵襲的であり、感染および出血などの医学的合併症をもたらし得る。かくして、そのような治療に対する代替的な手法を提供することが望ましい。
【発明の開示】
【0004】
3. 概要
本開示は、侵襲性が最小限である方法により投与可能な三次元組織の様々な組成物、ならびに創傷および他の形態の組織損傷を治療するための該組成物の使用方法を提供する。一般的には、前記組成物は、寸法設計された、または組織への浸透により投与が可能になるように寸法設計された生細胞の培養三次元ネットワークを含み、ここでその培養三次元組織は生体適合性の非生物材料から形成された足場(scaffold)(同意語として、「骨格」または「支持体」)を含む。前記組成物を、注射またはカテーテルの使用により投与することができる。
【0005】
ある実施形態においては、三次元足場は微粒子を含む。微粒子と共に培養した細胞は細胞の三次元ネットワークを形成し、ここで細胞は微粒子足場に付着し、そこから外へ伸長する。
【0006】
他の実施形態においては、三次元足場は、三次元足場を提供するためのマット化不織性フィラメントを含む。この不織性フィラメントは、細胞の存在下で培養すると注射にとって好適な寸法を有する粒子を形成する、生分解性フィラメント、または生分解性フィラメントと非生分解性フィラメントの混合物を含む。
【0007】
さらに他の実施形態においては、三次元足場は、注射による投与、カテーテルによる送達、または縫合糸としての使用にとって好適な寸法を有する織った材料または編み上げた材料を含む。ある実施形態においては、織った、または編み上げた三次元足場は、細胞の付着および増殖のための隙間を有するより糸または編み上げた鞘を含む。ある実施形態においては、この隙間は、編み上げた鞘により形成された、管の中などの管腔空間を形成する。
【0008】
三次元足場を、間質細胞、幹細胞、および/または組織特異的起源の他の細胞などの、様々な細胞型と共に培養することができる。遺伝子操作された細胞を用いて、三次元組織を形成させることもできる。
【0009】
いくつかの態様においては、前記組成物を、VEGFおよびWntタンパク質などの、三次元組織により産生される様々な増殖因子の起源として、またはそれらを送達するために用いる。前記培養物により産生される具体的なWntタンパク質としては、特に、Wnt5a、Wnt7a、およびWnt11が挙げられる。他の実施形態においては、前記組成物は三次元組織から得られる馴化培地を含み、ここで、馴化培地は培養細胞により産生される増殖因子のレパートリーを含む。
【0010】
前記組成物を様々な方法において用いて、創傷および他の形態の組織損傷(例えば、急性または慢性の組織損傷)を治療し、血管新生を促進し、組織再生を促進することができる。ある実施形態においては、前記組成物を用いて、虚血性心臓組織、末梢血管組織、筋肉、結合組織、および脳組織の修復および再生を促進する。他の実施形態においては、前記組成物を用いて、外科手術から生じるものなどの吻合部位での修復および治癒を促進する。
【0011】
4. 図面の簡単な説明
図面の簡単な説明については別節を参照。
【0012】
5. 詳細な説明
本開示は、損傷組織の修復および再生を促進することができる一式(suite)(同意語として、「レパートリー」、「フィンガープリント」、「シグネチャー(signature)」、「カクテル」)の増殖因子を産生する、注入可能な細胞培養物または組織の組成物を提供する。これらの三次元組織を、「操作された侵襲性が最小限である組織」または「操作された侵襲性が最小限である構築物」とも呼び、それらは小さいが、注射またはカテーテルによるなど、侵襲性が最小限の方法により送達するのに十分堅固なものである。かくして、この培養三次元組織を組織への浸透のために寸法設計するか、または組織への浸透を可能にするように寸法設計する。この足場または骨格は、組織浸透性組成物を生成するように様々な形態で構築することができる、生体適合性の非生物材料から構成される。この足場または骨格は、(a)細胞を付着させることができ(もしくは細胞を付着させることができるように改変することができ);および(b)2層以上で細胞を増殖させることができる(すなわち、三次元組織を形成する)、任意の材料および/または形状のものであってよい。従って、前記足場は、細胞がその間質空間に侵入し、分裂し、それを占有して、その上に三次元組織型構造を形成することができる支持体または骨格であってよい。ある実施形態においては、前記足場は、それ自身は互いに付着していないが、細胞が足場材料と共に一緒に機能して三次元組織構造を形成するように、細胞の付着のための基質として機能することができる。組織工学的に操作した構築物は、典型的には、三次元足場およびより大きい三次元組織構築物に類似する細胞外マトリックス環境上に伸長するか、または伸展する細胞の存在を特徴とする(例えば、米国特許第5,830,708号を参照)。さらに、三次元組織の細胞は、周囲の細胞の増殖および分化に影響し得る増殖因子のレパートリーまたはカクテルを産生する。これらの組成物は、組織損傷の治療における様々な用途を有し、脈管形成(例えば、血管新生)を誘導し、組織再生を促進する。
【0013】
三次元組織の組成物に関する説明については、以下の意味が適用される。
【0014】
「分解性」とは、使用条件下での化合物または組成物の浸食性または分解性を指す。また、生分解性とは、in vivoで、またはin vitro条件下で投与された場合の化合物または組成物の吸収性または分解性を指す。生分解は、直接的または間接的に、生物学的作用物質の作用により起こり得る。
【0015】
「生体適合性」とは、比較的非毒性であり、組織もしくは臓器への投与について臨床的に禁忌ではない化合物または組成物およびその対応する分解産物を指す。
【0016】
「増殖因子」とは、細胞増殖、細胞分化、組織再生、細胞誘引、創傷修復、および/もしくは任意の発達性細胞増殖プロセスを促進する、任意の可溶性の、細胞外マトリックスに関連した、または細胞に関連した因子を指す。増殖因子の生物活性とは、特定の増殖因子と関連する1つまたは全ての活性を指す。
【0017】
「組織損傷」とは、組織に対する損傷から生じる、組織または臓器における異常な状態を指す。損傷の種類としては、限定されるものではないが、疾患、外科手術、傷害、加齢、化合物、熱、寒さ、および放射線が挙げられる。
【0018】
5.1 微粒子を用いて形成される三次元組織
ある実施形態においては、細胞培養物のための骨格(同意語として、「足場」)は、細胞と共に、三次元組織を形成する粒子を含む。この細胞は該粒子に付着し、互いに三次元組織を形成する。粒子と細胞の複合体は、注射またはカテーテルによるものなどの、組織または臓器に投与するのに十分な大きさのものである。本明細書で用いる、「微粒子」とは、ナノメートルからマイクロメートルまでの大きさを有する粒子を指し、ここで該粒子は任意の形状もしくは幾何学的形状であってよく、不規則な、非球状、球状、または楕円状であってよい。微粒子は、1つ以上のコーティング層を有する微粒子であるマイクロカプセルを包含する。ある実施形態においては、前記微粒子はマイクロスフェアを含む。本明細書で用いる「マイクロスフェア」とは、球状の幾何学的形状を有する微粒子を指す。しかしながら、マイクロスフェアは絶対的に球状である必要はなく、それから外れていても三次元組織を作製するために許容可能である。
【0019】
当業者であれば、本明細書の目的にとって好適な微粒子の大きさを決定することができる。ある実施形態においては、三次元組織にとって好適な微粒子の大きさは注射により投与可能なものであってよい。ある実施形態においては、微粒子は少なくとも約1μm、少なくとも約10μm、少なくとも約25μm、少なくとも約50μm、少なくとも約100μm、少なくとも約200μm、少なくとも約300μm、少なくとも約400μm、少なくとも約500μm、少なくとも約600μm、少なくとも約700μm、少なくとも約800μm、少なくとも約900μm、少なくとも約1000μmの粒径範囲を有する。微粒子の特徴および大きさは、走査電子顕微鏡、光散乱、または示差走査熱量測定などの様々な技術を用いて容易に決定することができる。
【0020】
微粒子が生分解性材料から作製されているある実施形態においては、この粒子を、規定の生物学的条件下で規定の半減期を有するように作製する。微粒子の文脈で用いられる「平均半減期」とは、該粒子について微粒子の初期質量の半分にまで分解するのに必要な平均時間を指す。微粒子の半減期は、特に、生分解性ポリマーまたはポリマーの組合せの種類、ポリマーの多孔率(例えば、多孔性もしくは無孔性)、ポリマーの分子量、微粒子の幾何学的形状、およびポリマー架橋のレベルなどの、様々なパラメーターに依存して変化しうる。短いかまたは長い半減期を有する微粒子の選択は、投与の頻度、投与後の細胞の寿命、および三次元組織が一式の増殖因子の産生などの所望の効果をもたらすのに有効である時間に応じて、医師により変化させることができる。かくして、ある実施形態においては、三次元組織中の微粒子は約14日の平均半減期、約28日の平均半減期、約90日の平均半減期、または約180日の平均半減期を有する。当業者には明らかであるように、この半減期をより短く、またはより長くして、前記組成物の所望の治療特性を達成することができる。
【0021】
ある実施形態においては、その半減期を変更するために、異なる生分解性ポリマーの2つ以上の層を含む微粒子を用いることができる。ある実施形態においては、少なくとも外側の第1の層は培養中の三次元組織の形成のために生分解性特性を有するが、少なくとも生分解性の内部の第2の層は、第1の層とは異なる特性を有し、組織または臓器に投与されると浸食されるように作製される。
【0022】
ある実施形態においては、前記微粒子は多孔性微粒子である。多孔性微粒子とは、そこを通って分子が微粒子中にまたは微粒子から外に拡散することができる隙間を有する該微粒子を指す。他の実施形態においては、前記微粒子は無孔性微粒子である。無孔性微粒子とは、選択された大きさの分子が微粒子中に、または微粒子から外に拡散しない該微粒子を指す。
【0023】
前記組成物における使用のための微粒子は生分解性であり、細胞に対する毒性が低いか、または毒性がない。好適な微粒子を、治療しようとする組織、治療しようとする損傷の種類、望ましい治療の長さ、in vivoでの細胞培養物の寿命、および三次元組織を形成するのに必要な時間に応じて選択することができる。微粒子は、天然または合成の、荷電性の(すなわち、陰イオンもしくは陽イオン性の)または非荷電の、生分解性または非生分解性のものなどの、様々なポリマーを含みうる。このポリマーはホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、および分枝状ポリマーであってよい。
【0024】
ある実施形態においては、前記微粒子は非生分解性の足場を含む。非生分解性のマイクロカプセルおよび微粒子としては、限定されるものではないが、ポリスルホン、ポリ(アクリロニトリル-コ-塩化ビニル)、エチレン酢酸ビニル、ヒドロキシエチルメタクリレート-メチル-メタクリレートコポリマーから作製されるものが挙げられる。これらは、組織充填特性を提供するのに、または前記微粒子が身体により排除される実施形態において、有用である。
【0025】
ある実施形態においては、前記微粒子は分解性の足場を含む。これらは天然のポリマーから作製された微粒子を含み、その天然ポリマーの非限定例としては、特に、フィブリン、カゼイン、血清アルブミン、コラーゲン、ゼラチン、レシチン、キトサン、アルギナートまたはポリリジンなどのポリアミノ酸が挙げられる。他の実施形態においては、分解性微粒子は合成ポリマーから作製されたものであり、その合成ポリマーの非限定例としては、特に、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、ポリ(カプロラクトン)、ポリジオキサノントリメチレンカルボナート、ポリヒドロキシアルコナート(例えば、ポリ(ヒドロキシブチレート))、ポリ(エチルグルタメート)、ポリ(DTHイミノカルボニルビスフェノールAイミノカルボナート)、ポリ(オルトエステル)、およびポリシアノアクリレートが挙げられる。
【0026】
ある実施形態においては、前記微粒子は、典型的には水を充填した親水性ポリマーネットワークであるヒドロゲルを含む。ヒドロゲルはポリマー膨張の選択的トリガーであるという利点を有する。ポリマーネットワークの組成に依存して、微粒子の膨張を、pH、イオン強度、温度、電気、超音波、および酵素活性などの様々な刺激により誘発することができる。ヒドロゲル組成物において有用なポリマーの非限定例としては、特に、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド);ポリ(メタクリル酸-g-ポリエチレングリコール);ポリアクリル酸およびポリ(オキシプロピレン-コ-オキシエチレン)グリコール;ならびに硫酸クロンドロイタン、キトサン、ゼラチン、フィブリノーゲンなどの天然の化合物のポリマー、または合成および天然のポリマーの混合物、例えば、キトサン-ポリ(エチレンオキシド)から形成されたものが挙げられる。このポリマーを可逆的または非可逆的に架橋して、三次元組織を形成するのに適合可能なゲルを形成させることができる(例えば、米国特許第6,451,346号;第6,410,645号;第6,432,440号;第6,395,299号;第6,361,797号;第6,333,194号;第6,297,337号;Johnsonら、1996, Nature Med. 2: 795(その全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)を参照)。
【0027】
ある実施形態においては、前記組成物および本開示の方法において有用な別の型の粒子は、一般的には約1μmまたはそれ以下の直径または大きさの微粒子であるナノ粒子を含む。ある実施形態においては、このナノ粒子は、少なくとも約10 nm、少なくとも約25 nm、少なくとも約50 nm、少なくとも約100 nm、少なくとも約200 nm、少なくとも約300 nm、少なくとも約400 nm、少なくとも約500 nm、少なくとも約600 nm、少なくとも約700 nm、少なくとも約800 nm、少なくとも約900 nm、少なくとも約1000 nmの粒径範囲を有する。ナノ粒子は、一般的には、当業界で公知である両親媒性のジブロック、トリブロック、またはマルチブロックコポリマーから作製される。ナノ粒子を形成させるのに有用なポリマーとしては、限定されるものではないが、ポリラクチド(PLA;Zambauxら、1999, J. Control Release 60: 179-188)、ポリグリコリド、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)とポリカルプロラクトンの混合物、ジブロックポリマーポリ(l-ロイシン-ブロック-1-グルタメート)、ジブロックおよびトリブロックポリ乳酸(PLA)およびポリ(エチレンオキシド)(PEO)(De Jaeghereら、2000, Pharm. Dev. Technol. 5:473-83)、アクリレート、アリールアミド、ポリスチレンが挙げられる。微粒子について記載されたように、ナノ粒子は非生分解性または生分解性であってよい。ナノ粒子を、ポリ(アルキルシアノアクリレート)、例えば、ポリ(ブチルシアノアクリレート)から作製し、タンパク質をそのナノ粒子上に吸着させ、界面活性剤(例えば、ポリソルベート80)でコーティングすることもできる。
【0028】
ある実施形態においては、特に除外されるのはヒドロゲルおよび他の膨潤性ポリマーから作製された微粒子である。他の実施形態においては、特に除外されるのはヒアルロン酸から作製された微粒子である。
【0029】
溶媒除去プロセス(例えば、米国特許第4,389,330号);乳化および蒸発(Maysingerら、1996, Exp. Neuro. 141:47-56; Jeffreyら、1993, Pharm. Res. 10: 362-68)、スプレー乾燥、ならびに押出し法などの、微粒子を作製する様々な方法が当業界でよく知られている。ナノ粒子を作製する方法は微粒子を作製する方法と類似しており、特に、連続水相中でのエマルジョン重合、乳化-蒸発、溶媒置換、および乳化-拡散技術(Kreuter, 1991, J., 「ナノ粒子の調製および応用(Nano-particle Preparation and Applications)」、Microcapsules and nanoparticles in medicine and pharmacy, pg. 125-148, (M. Donbrow(編)) CRC Press, Boca Rotan, FL(参照により組み入れられるものとする)を参照)が挙げられる。
【0030】
5.2 マット化繊維を用いて形成された三次元組織
ある実施形態においては、三次元組織の足場または骨格は、培養培地中で細胞と共にインキュベートしたときに粒子状構造を形成する生分解性で生体適合性の繊維の不織性ネットワークから作製される。一般的には、不織性フィラメントは、織布(web)、フェルト、またはパルプの形態などの、三次元ネットワークとして形成された、マット化した(matted)天然もしくは合成のポリマー性または繊維性材料を含む。不織性骨格は、細胞が、増殖し、細胞間の接触を形成して組織様構造物を生成し、そして所望の生物学的特性を有する一式の増殖因子を産生することができるようにする三次元構造を、提供する。前記繊維は、間質空間の境界を規定する支柱として働き;細胞はこの繊維に付着し、不織性ネットワーク中の隙間を埋めるように増殖する。いかなる作用理論によっても束縛されることはないが、マット化繊維および細胞の粒子状組成物は、繊維もしくはポリマーが培養条件下で分解するにつれて形成し、不織性フィラメントおよび細胞のポケットまたは単離された塊が、繊維もしくはポリマーの元々のネットワークから分離されるようである。
【0031】
ある実施形態においては、不織性ネットワークを、絡み合った、もしくはもつれた繊維またはポリマーを圧縮することにより形成させることができる。ある実施形態においては、フィラメントの接合部または交差点を結合させて、機械的強度および/または三次元格子構造を提供することができる。足場または骨格は不織性であるが、2プライ(ply)以上の不織布を、ステッチング、またはバインダー、例えば三次元骨格を形成するための接着剤により、一つに接着することができる。典型的には、この層またはプライを、並列または表面対表面の関係に配置する。異なる密度のマット化繊維を用いて、三次元骨格の特性を変化させる、例えば、機械的強度を加えるか、または足場の分解に必要な時間を増加させることができる(例えば、米国特許第6,077,526号を参照)。
【0032】
前記繊維は均一な長さのものでもランダムな長さのものでもよく、天然もしくは合成の繊維、またはその組合せから作製されたものであってよい。また、フィラメントは均一な直径を含んでもよく、または異なる直径のフィラメントから構成されていてもよい。不織性フィラメントが適合性繊維の混合物を含む実施形態においては、この混合物は異なる機械的強度、分解速度、および/または接着性の繊維であってよい。より短い長さのフィラメントは、より短い培養時間を要するが、投与されると速く消散する粒子状組成物をもたらす一方、より長い長さのフィラメントは、より長い培養時間を要するが、投与の際にはよりゆっくりと消散する粒子状組成物を生成し得る(例えば、Wangら、1997, J. Biomater. Sci. Polymer Edn. 9(1):75-87を参照)。当業者であれば、不織性骨格を形成するためのフィラメントの選択を容易に決定することができる。
【0033】
フィラメントの不織性ネットワークを、天然もしくは合成の、様々な繊維またはポリマーから作製することができる。不織性三次元骨格を作製するための生分解性フィラメントは、本明細書に記載の他の型の足場構造物を作成するのに用いられる繊維およびポリマーを用いることができる。このポリマーはホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、および分枝状ポリマーであってよい。生分解性天然ポリマーの非限定例としては、特に、腸線、エラスチン、フィブリン、ヒアルロン酸、セルロース誘導体、およびコラーゲンが挙げられる。生分解性合成ポリマーの非限定例としては、特に、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(e-カプロラクトン)、ポリ(トリメチレンカルボナート)(TMC)、およびポリ(p-ジオキサノン)、ならびにコポリマー、例えば、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリ(e-カプロラクトン-コ-グリコリド)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカルボナート)、ポリ(アルキレンジグリコレート)、ポリオキサエステル、ならびにPGA/PLA/TMCから作製されたコポリマーまたは任意の組合せ比率でのそれらの任意の組合せが挙げられる。そのようなポリマーおよび繊維の調製に関する説明は、Sorensenら、1968, Preparative Methods of Polymer Chemistry, Wiley, NY; Biodegradable Polymers As Active Agent Delivery Systems, (Chasinら(編)) Marcel Dekker Inc., NY, 1997;ならびに米国特許第6,866,860号;第6,703,477号;第5,348,700号;第5,066,772号;第4,481,353号;第4,243,775号;第4,429,080号;および第4,157,357号などの、様々な参考文献の報告および刊行物に提供されている。
【0034】
ある実施形態においては、不織性三次元骨格は、三次元組織の形成または前記組成物の生分解性特性を妨げない限り、ポリマーの組合せ(すなわち、ポリマー混合物)を含んでもよい。ポリマーの混合物は、培養中の所望の特性の粒子形成、機械的強度、in vivoで投与された場合の耐久性、および組織充填特性を提供する上での柔軟性を提供することができる。
【0035】
ある実施形態においては、不織性三次元骨格は、以下にさらに記載されるような、非生分解性ポリマーをさらに含んでもよい。非分解性ポリマーを用いて、生分解性ポリマーの不織性ネットワークに対して機械的強度および耐久性を与えることができる。ある実施形態においては、非分解性ポリマーは、注射用針を通過させるのに好適な長さを有し、および/または三次元組織の粒子の形成を可能にするものである。
【0036】
不織性足場を、当業界で公知の従来の技術により作製することができる。様々な長さの繊維またはポリマーなどのフィラメントを作製し、次いで織布またはもつれたマットとして形成し、必要に応じて、このフィラメントを接着剤によるか、または機械的摩擦力により該織布またはマット内で結合させる。粒子状組成物を形成するために、不織性フィラメントに、以下に記載のように細胞を接種し、そしてそれを、フィラメントの一部が分離し、足場および細胞の単離されたかまたは分離された粒子を形成するまで、該細胞の存在下で培養する。ある実施形態においては、注射可能な粒子の形成を、機械的作用により加速することができる。前記組成物を開口部(すなわち、針)に通過させるか、または穏やかな機械的せん断によるなど、様々な方法でこれを実行することができる。前記組成物の調製は十分に当業者の能力の範囲内にあるであろう。
【0037】
5.3 糸または縫合糸として形成された三次元組織
ある実施形態においては、三次元足場は、組織もしくは臓器に投与するか、または挿入することができるより糸または糸様構造物に編み上げた、捻った、もしくは織った、または他の形で配置した複数のフィラメント、ポリマーまたは繊維から形成される。この足場は、細胞を付着させ、増殖させて生細胞の三次元培養物を形成することができる間質空間を含む。ある実施形態においては、編み上げた、または織った糸は、外科用縫合糸材料としての使用にとって好適である。
【0038】
より糸または縫合糸を、細胞の侵入および付着ならびにそれらの増殖のための間質空間を有するように従来の形態または構築物の範囲で作製することができる。一般的には、より糸足場の開口部および/または間質空間は、細胞が該開口部または空間を横切って伸長することができる好適な大きさのものであるべきである。理論により束縛されることを意図しないが、足場を横切って伸長した活発に増殖する細胞を維持することは、本明細書に記載の所望の活性を促進するようである一式の増殖因子の産生を増強するようである。開口部が小さすぎる場合、細胞は迅速に集密に達するが、メッシュから容易に出ることができない。これらの捕捉された細胞は、接触阻害を示し、増殖を支援し長期間培養を維持するのに望ましい好適な因子の産生を損なってしまう。開口部が大きすぎる場合、細胞は該開口部を横切って伸長することができず、それが、増殖を支援し長期間培養を維持するのに望ましい好適な因子の間質細胞産生を減少させる。典型的には、間質空間は少なくとも約140μm、少なくとも約150μm、少なくとも約180μm、少なくとも約200μm、または少なくとも約220μmである。しかしながら、足場の三次元構造および複雑さに依存して、他の大きさも同等によく機能し得る。実際、本明細書に記載の増殖因子を合成するための好適な長さの時間に渡り、細胞を伸長、複製、および増殖させることができる任意の形状または構造を用いることができる。
【0039】
ある実施形態においては、フィラメントを織って、細胞の増殖のための管腔空間を形成する。細胞によるその占有前の隙間空間である内部管腔空間を、コアフィラメントにより占有させてもよく、または占有させなくてもよい。管腔空間は様々な幾何学的構造を含んでもよいが、編み上げた構造物中の管腔空間は、より糸または鞘に沿って縦方向に走る管の形態であってよい。コアが存在する場合、鞘はコアの周囲にジャケットを形成する。種々の型の編み上げ紐が当業界で公知である。様々な編み角を有するらせん状編み上げ紐を、様々な引っ張り強度を有するより糸として作製することができる。コアが存在する場合、そのコアは、特に、捻った、もしくは合わせた単一のフィラメントまたは複数のフィラメント(例えば、米国特許第6,045,571号を参照)などの種々の構築物のものであってよく、鞘と同じか、または異なっていてもよい材料を含んでもよい。
【0040】
より糸または縫合糸を、他の三次元足場および骨格を調製するために上記の様々な材料から作製することができる。ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、および分枝状ポリマーを用いて、前記より糸または縫合糸を形成することができる。生分解性材料の非限定例としては、特に、ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカプロラクトン、ジオキサノン、ポリ(トリメチレンカルボナート)(TMC)、ポリ(アルキレンオキサレート)、ポリオキサエステル、PGA/PLA/TMCから作製されたコポリマー、または任意の比率の組合せでのそれらの任意の組合せ、腸線縫合糸材料、コラーゲン(例えば、ウマのコラーゲン泡)、ヒアルロン酸、およびその適合性混合物または混紡物が挙げられる(例えば、米国特許第6,632,802号;Biomedical Polymers,(Shalabyら(編)) Verlag, 1994;米国特許第6,177,094号;米国特許第5,951,997号を参照)。
【0041】
さらなる構造的完全性、耐久性、および/または引っ張り強度が望ましい他の実施形態においては、非生分解性材料のフィラメントを用いることができる。非生分解性材料の非限定例としては、絹、ポリエステル(例えば、ポリエステルテレフタレート、ダクロン)、ポリアミド(例えば、ナイロン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリビニル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、拡張PTFE(ePTFE)、およびポリビニリジンフルオリドが挙げられる。他のポリマーは当業者には明らかであろう。
【0042】
他の実施形態においては、三次元足場または骨格は異なる生分解性フィラメントの組合せまたは生分解性材料と非生分解性材料の組合せである。非生分解性材料は、培養中の構造物に安定性を与え、縫合糸材料として用いる場合の引っ張り強度を増加させる。生分解性材料を、非生分解性材料上にコーティングするか、またはメッシュとして織り、編み、もしくは形成することができる。例えば、鞘を生分解性フィラメントから作製することができるが、コアを非生分解性フィラメントから作製することができる。様々な組合せの生分解性材料および非生分解性材料を用いることができる。組合せの例は、薄い生分解性ポリマーフィルム(ポリ(ラクチド-コ-グリコリド))でコーティングされたポリエチレンテレフタレート(PET)織物である。
【0043】
三次元骨格を、当業界で従来的な技術により、縫合糸などのより糸として編み上げることができる。様々な種類の縫合糸などの、編み上げた、またはニット編み(knit)した管状鞘を作製するためのプロセスおよび方法は、例えば、米国特許第3,773,919号; 第3,792,010号; 第3,797,499号; 第3,839,297号; 第3,867,190号; 第3,878,284号; 第3,982,543号; 第4,047,533号; 第4,060,089号; 第4,137,921号; 第4,157,437号; 第4,234,775号; 第4,237,920号; 第4,300,565号; 第4,523,591号; 第5,019,093号, 第5,059,213号; 第5,133,738号; 第5,181,923号; 第5,261,886号; 第5,306,289号; 第5,314,446号; 第5,456,697号; 第5,662,682号; 第6,045,071号; 第6,164,339号;および第6,184,499号に記載されている。全刊行物は参照により本明細書に組み入れられるものとする。PLGAなどのフィラメントを形成するための例示的方法は、溶融紡績法である。生体適合性で生体吸収性の複合フィラメント縫合糸も、Ethicon, Inc.(Somerville, NJ, USA), United States Surgical (Norwalk, CT, USA),およびProdesco(Perkasie, PA, USA)などの、様々な供給業者から、Dexon(登録商標)、Vicryl(登録商標)、およびPolysorb(登録商標)などの商標名の下で商業的に入手可能である。
【0044】
より糸および編み上げた縫合糸を、必要に応じて、または所望であれば、熱延伸、洗浄、焼きなまし、コーティング、ティッピング、カッティング、針付着、パッケージングおよび細胞接種前の滅菌などの、さらなる加工処理に供することができる。機械的特性を変化させるために、フィラメントを引き伸ばして、ポリマー中の分子鎖を再配向させることができる。焼きなましを行って、例えばポリマー配向を維持するように該フィラメントの特性を固定し、引っ張り強度を変化させ、また該フィラメントの幾何学的安定性を固定することができる。
【0045】
より糸または編み上げ紐は、所望の用途に応じて、様々な軸直径または寸法のものであってよい。編み上げた、または織った骨格は、組織を一緒に保持するための縫合糸として用いる場合にはより小さい直径を有しうるが、組織損傷の修復のために組織または臓器に投与する場合にはより大きい直径を用いうる。種々の実施形態においては、編み上げた、または織った骨格の直径は、約0.05 mm、0.10 mm、0.2 mm、0.5 mm、1 mm、1.5 mm、または約2 mmの範囲である。この直径は、臨床用途、所望の引っ張り強度、および骨格に付着させる細胞の量に応じて、より小さいものであっても、またはより大きいものであってもよいことが理解されるべきである。
【0046】
5.4 細胞および培養条件
三次元組織を形成させるために、足場を形成する生体適合性材料に、適切な細胞を接種し、三次元組織を作製するのに好適な条件下で増殖させる。種々の実施形態においては、足場または骨格の材料を予備処理した後、細胞を接種して、該骨格への細胞の付着を増強することができる。例えば、ある実施形態においては、間質細胞を接種する前に、ナイロン製スクリーンを、0.1 M酢酸を用いて処理し、そしてポリリジン、ウシ胎児血清、および/または該ナイロンをコーティングするためのコラーゲン中でインキュベートする。ある実施形態においては、ポリスチレンを、硫酸を用いて同様に処理する。他の実施形態においては、タンパク質(例えば、コラーゲン、エラスチン繊維、網状繊維)、糖タンパク質、グリコサミノグリカン(例えば、ヘパラン硫酸、コンドロイチン-4-硫酸、コンドロイチン-6-硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸など)、細胞マトリックス、および/もしくは(ポリ[N-p-ビニルベンジル-D-ラクトアミド], PVLA)などの糖重合体などの他の材料を、前記骨格に添加するかまたはそれらを用いて骨格をコーティングすることにより、細胞の増殖をさらに増強することができる。
【0047】
医学的用途における使用のためには、三次元骨格を滅菌した後、細胞を接種すればよい。滅菌方法としては、物理的および化学的方法またはそのような方法の組合せが挙げられる。感染性因子を不活性化する有用な物理的方法は、放射線照射(例えば、γ-照射、UV光、電子ビーム照射など)または蒸気滅菌(熱安定性の非分解性ポリマーについて)である。他の実施形態においては、化学的プロセスを用いる。この目的のための化合物の例はエチレンオキシドである。
【0048】
三次元組織を形成するために、足場を形成する生体適合性材料に適切な細胞を接種し、三次元組織の形成を促進する好適な条件下で増殖させる。細胞を、ドナーから、ドナーから作製された細胞培養物から、または確立された細胞培養系から直接取得することができる。ある実施形態においては、細胞を、任意の好適な死体の臓器または胎児源から多量に取得することができる。ある実施形態においては、同じ種の細胞、および必要に応じて、同じかまたは類似した免疫組織適合性プロフィールの細胞を、被験体またはその近親体から、生検により取得した後、標準的な条件を用いて培養して集密まで増殖させ、必要に応じて使用することができる。免疫組織適合性プロフィールに関するドナー細胞の特性評価を、前記組成物を投与される被験体を参照して行う。
【0049】
従って、ある実施形態においては、前記細胞は自己のものである。三次元組織はレシピエント自身の細胞に由来するため、投与された細胞および/または該細胞により産生された産物に対する免疫反応の可能性を最小化することができる。ある実施形態においては、前記細胞を、細胞培養に通常用いられる二次元表面(例えば、プレート)上でまず培養した後、三次元骨格に播種することができる。
【0050】
他の実施形態においては、前記細胞を、前記組成物の意図されたレシピエントではないドナーから取得する。レシピエントとドナーの関係を、主要組織適合複合体(MHC)の類似性または同一性により定義する。ある実施形態においては、ドナー細胞は、該細胞が、意図されたレシピエントとMHCにおいて遺伝的に同一である被験体に由来する点で、同系細胞である。他の実施形態においては、前記細胞は、該細胞が、意図されたレシピエントと同じ生物種のものであるが、そのMHC複合体が異なる被験体に由来する点で同種異系細胞である。前記細胞が同種異系である場合、この細胞は単一のドナーに由来するものであってよく、またはそれ自体が互いに同種異系である異なるドナーに由来する細胞の混合物を含んでもよい。さらなる実施形態においては、前記細胞は、該細胞が意図されたレシピエントとは異なる生物種に由来する点で異種細胞である。
【0051】
様々な実施形態において、骨格上に接種される細胞は、以下にさらに記載するように、他の細胞を含むか、または含まない、繊維芽細胞を含む間質細胞であってよい。ある実施形態においては、前記細胞は、限定されるものではないが、(1)骨;(2)コラーゲンおよびエラスチンなどの疎性結合組織;(3)靭帯および腱を形成する繊維性結合組織;(4)軟骨;(5)血液の細胞外マトリックス;(6)脂肪細胞を含む脂肪組織;ならびに(7)繊維芽細胞などの、通常は結合組織に由来する間質細胞である。
【0052】
間質細胞は、皮膚、心臓、血管、骨格筋、肝臓、膵臓、脳、包皮などの様々な組織または臓器に由来するものであってよく、生検(好適な場合)によるか、または剖検の際に取得することができる。
【0053】
繊維芽細胞は、胎児起源、新生児起源、成体起源、またはその組合せに由来するものであってよい。ある実施形態においては、間質細胞は胎児の繊維芽細胞を含み、様々な異なる細胞および/または組織の増殖を支援することができる。本明細書で用いられる胎児の繊維芽細胞とは、胎児起源に由来する繊維芽細胞を指す。本明細書で用いる新生児の繊維芽細胞とは、新生児起源に由来する繊維芽細胞を指す。好適な条件下では、繊維芽細胞は、他の細胞、例えば、骨細胞、脂肪細胞、および平滑筋細胞ならびに中胚葉起源の他の細胞などを生じてもよい。ある実施形態においては、繊維芽細胞は皮膚繊維芽細胞を含む。本明細書で用いる、皮膚繊維芽細胞とは皮膚に由来する繊維芽細胞を指す。正常なヒトの皮膚繊維芽細胞を、新生児の包皮から単離することができる。典型的には、これらの細胞を、初代培養の最後に凍結保存する。
【0054】
他の実施形態においては、三次元組織を、幹細胞および/もしくは前駆細胞をいずれか単独で用いて、または本明細書で記述される任意の細胞型と組合わせて用いて作製することができる。幹細胞および前駆細胞の例としては、例えば、限定されるものではないが、胚性幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、表皮幹細胞、および間葉幹細胞が挙げられる。ある実施形態においては、細胞培養物から除外されるものは、間葉幹細胞である。
【0055】
ある実施形態においては、本明細書に記載の方法に従って、「特定の」三次元組織を、特定の臓器、すなわち、皮膚、心臓から誘導された細胞、ならびに/または培養で増殖させた細胞および/もしくは組織を後に受容する特定の個体から誘導された細胞を三次元足場に接種することにより、調製することができる。
【0056】
上記に記述されたように、追加の細胞が間質細胞と共に培養中に存在してもよい。これらの追加の細胞は、多くの有益な作用を有してもよく、例えば、特に、培養での長期間の増殖を支援し、増殖因子の合成を増強し、および三次元足場への細胞の付着を促進することを含む。追加の細胞型としては、非限定例として、平滑筋細胞、心筋細胞、内皮細胞、骨格筋細胞、内皮細胞、周皮細胞、マクロファージ、単球、神経細胞、膵島細胞、および脂肪細胞が挙げられる。そのような細胞を、繊維芽細胞と共に、またはある実施形態においては、繊維芽細胞の非存在下で、三次元骨格上に接種してもよい。これらの追加の細胞は、適切な組織または臓器、例えば、限定されるものではないが、皮膚、心臓、血管、骨格筋、肝臓、膵臓、および脳などに由来するものであってよい。他の実施形態においては、繊維芽細胞以外の1種以上の他の細胞型を、三次元足場上に接種する。さらに他の実施形態においては、三次元足場に繊維芽細胞のみを接種する。
【0057】
本明細書に記載の方法および組成物において有用な細胞を、好適な臓器または組織を解離させることにより容易に単離することができる。例えば、組織または臓器を機械的に解離させることができ、ならびに/または近隣の細胞間の結合部を弱体化することによって細胞を大きく破壊せずに個々の細胞の懸濁液として該組織を分散させる消化酵素および/もしくはキレート化剤で処理することができる。酵素的解離を、組織を細かく刻み、この刻んだ組織を、多くの消化酵素の任意のものを単独でまたは組合わせて用いて処理することにより、達成することができる。酵素の非限定例としては、特に、トリプシン、キモトリプシン、コラゲナーゼ、エラスターゼ、および/またはヒアルロニダーゼ、DNase、ならびにプロナーゼが挙げられる。機械的破壊はまた、限定されるものではないが、グラインダー、ブレンダー、篩、ホモジェナイザー、圧力セル、またはインソネーターの使用などの多くの方法により達成することもできる。組織分離技術の総論については、Freshney, Culture of Animal Cells. A Manual of Basic Technique、第2版、A.R. Liss, Inc., New York, 1987, Ch. 9, pp. 107-126を参照されたい。
【0058】
いったん組織を個々の細胞の懸濁液に帰着させれば、その懸濁液を、繊維芽細胞および/または他の間質細胞および/または他の細胞型をそこから取得することができるサブ集団に分画することができる。細胞の分離および単離のための標準的な技術としては、例示であって限定されるものではないが、特定の細胞型のクローニングおよび選択、望ましくない細胞の選択的破壊(陰性選択)、混合集団における示差的細胞凝集性に基づく分離、凍結解凍法、混合集団における細胞の示差的接着特性、濾過、従来の遠心分離およびゾーン遠心分離、遠心分離水簸(対流遠心分離)、単位重力分離、向流分配、電気泳動ならびに蛍光活性化セルソーティングが挙げられる。クローンの選択および細胞分離技術の総論については、Freshney、上掲、Ch.11および12, pp. 137-168を参照されたい。
【0059】
三次元足場の接種後、細胞培養物を、三次元組織への細胞の増殖を支援する好適な栄養培地中およびインキュベーション条件下でインキュベートする。ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI 1640、Fisher培地、Iscove培地、およびMcCoy培地などの多くの市販の培地が、細胞培養物の増殖を支持するのに好適である。この培地に、追加の塩、炭素源、アミノ酸、血清および血清成分、ビタミン、ミネラル、還元剤、緩衝剤、脂質、ヌクレオシド、抗生物質、付着因子、および増殖因子を補給してもよい。異なる種類の培養培地のための製剤が、当業者にとって入手可能な種々の参考資料に記載されている(例えば、「無血清動物細胞培養のための培地、補給物質および基質の調製方法(Methods for Preparation of Media, Supplements and Substrates for Serum Free Animal Cell Cultures)」、Alan R. Liss, New York (1984);「組織培養:実験手順(Tissue Culture: Laboratory Procedures)」、John Wiley & Sons, Chichester, England (1996);「動物細胞の培養、基本技術のマニュアル(Culture of Animal Cells, A Manual of Basic Techniques)」、第4版、Wiley-Liss (2000))。インキュベーション条件は、細胞の増殖を支持するpH、温度、および気体(例えば、O2、CO2など)の好適な条件下であろう。ある実施形態においては、三次元細胞培養物を、インキュベーション期間中に培地に懸濁して、増殖活性を最大化し、馴化培地の所望の生物活性を促進する因子を生成させることができる。さらに、培養物に定期的に「供給」して、使用済みの培地を除去し、放出された細胞を減らし、そして新しい栄養源を添加することができる。インキュベーション期間中に、培養細胞は線形的に増殖し、三次元足場のフィラメントを覆った後、足場の開口部中で増殖し始める。
【0060】
本明細書に記載の三次元組織は、足場または骨格上に存在する細胞外マトリックスを有する。ある実施形態においては、この細胞外マトリックスは、三次元組織と接触するようになる細胞の増殖にその異なる比率が影響を及ぼしうる種々のコラーゲン型を含む。沈着した細胞外マトリックス(ECM)の比率を、好適なコラーゲン型を産生する繊維芽細胞を選択することにより操作または増強することができる。ある実施形態においては、補体を活性化することができ、特定のコラーゲン型を規定する好適なアイソタイプまたはサブクラスのモノクローナル抗体を用いて、これを達成することができる。他の実施形態においては、磁気ビーズなどの固体基材を用いて、抗体に結合した細胞を選択したり排除したりすることができる。これらの抗体の組合せを用いて、所望のコラーゲン型を発現する繊維芽細胞を選択(陽性または陰性)することができる。あるいは、骨格に接種するのに用いた間質は、所望の好適なコラーゲン型を合成する細胞の混合物であってよい。コラーゲン型の例の分布および起源を表Iに示す。
【表1】

【0061】
三次元組織の培養中に、増殖している細胞は骨格から放出され、培養容器の壁に貼りつき、そこでそれらの細胞が増殖を継続し、集密な単層を形成しうる。細胞の増殖に影響し得るこの事象を最小限にするために、放出された細胞を、供給の際に除去するか、または三次元細胞培養物を新しい培養容器に移すことにより除去してもよい。集密な単層の除去または新しい容器中の新鮮な培地への培養組織の移動により、三次元培養物の増殖活性が維持されるか、または回復する。ある実施形態においては、除去または移動を、25%を超える密集度の培養細胞の単層を有する培養容器中で行うことができる。あるいは、ある実施形態においては、培養物を攪拌して、放出された細胞が貼りつくのを防止し、他の実施形態においては、新鮮な培地を該系を通して連続的に注入する。ある実施形態においては、2種以上の細胞型を同時に、または一方の第1の細胞型の後に第2の細胞型(例えば、繊維芽細胞、および平滑筋細胞または内皮細胞)を、培養することができる。
【0062】
ある実施形態においては、前記細胞を、細胞培養バッグ中で足場材料と共に培養する。この型の培養デバイスの例は、商標名Vuelifeバッグ(American Fluoroseal Corp., Gaithersburg, MD, USA)の下で市販されており、米国特許第4,847,462号および米国特許第4,945,203号に記載されている。細胞培養バッグの使用により、培養および凍結保存、ならびに輸送が簡単になる。
【0063】
ある実施形態においては、三次元組織を、米国特許第5,763,267号;第5,827,729号;第6,008,049号;第6,060,306号;第6,121,042号;および第6,218,182号(これらの開示は参照により本明細書に組み入れられるものとする)に記載のものなどのバイオリアクター中で調製することができる。バイオリアクター中の羽根車(impeller)を改変して、そのハブへの三次元組織の接着を制限することができる。さらに、羽根車の可動範囲を、羽根車のシャフトを短くすることにより減少させ、それによって三次元組織の培養における柔軟性を提供することができる。
【0064】
ある実施形態においては、三次元組織は生細胞を含まない。生細胞を欠く三次元組織の使用もまた、組織の修復および再生を促進するようである(例えば、参照により本明細書に組み入れられるものとする2002年8月7日に出願された米国出願第10/214,750号を参照されたい)。微粒子、不織性フィラメント、または編み上げた足場上で調製された三次元組織を、細胞傷害剤、凍結、照射などの様々な方法で処理して、生細胞を排除または殺傷し、これらの組成物を製造することができる。
【0065】
種々の実施形態においては、三次元組織を、特徴的なセット、フィンガープリント、レパートリー、または細胞により産生された一式の細胞産物、例えば、増殖因子、により規定することができる。本明細書に具体的に例示される三次元組織においては、その細胞培養物は、表IIに与えられる因子の発現および/または分泌を特徴とする。
【表2】

【0066】
増殖因子の上記リストに加えて、三次元組織はまた、少なくともWnt5a、Wnt7a、およびWnt11を含む、Wntタンパク質の発現を特徴とする。これらの特定のWntタンパク質の説明は以下にさらに記載する。
【0067】
他の増殖因子を包含するさらなる細胞産物がその細胞培養物により産生されうることが理解されるべきであり、三次元組織の範囲が上記説明により制限されない。
【0068】
5.5 遺伝子操作された細胞
遺伝子操作された三次元培養組織を、参照により本明細書に組み入れられるものとする米国特許第5,785,964号に記載のようにして調製することができる。一般的には、遺伝子操作された培養組織は、増殖因子の持続的放出のための遺伝子送達ビヒクルとして機能し得る。細胞を遺伝子操作して、外来性遺伝子産物を発現させることができる。ある実施形態においては、遺伝子操作することができる細胞としては、例であって限定されるものではないが、繊維芽細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、間葉幹細胞、ならびに内皮細胞、マクロファージ、単球、脂肪細胞、周皮細胞、および骨髄中に認められる細網細胞などの疎性結合組織中に認められる他の細胞が挙げられる。
【0069】
細胞および組織を操作して、限定されるものではないが培養中の細胞の増殖の促進、髪の増殖を促進する増殖因子の産生の増強、血管新生を促進する因子の産生の増強、組織修復の促進、および組織再生の促進などの多種多様な機能を与えうる遺伝子産物を発現させることができる。この遺伝子産物は、酵素、ホルモン、サイトカイン、転写因子もしくはDNA結合タンパク質などの調節タンパク質、細胞表面タンパク質などの構造タンパク質などのペプチドもしくはタンパク質であってもよく、または標的遺伝子産物はリボソームもしくはアンチセンス分子などの核酸であってもよい。ある実施形態においては、この遺伝子産物は、以下に記載の種々の細胞の分化および増殖において役割を果たす1種以上のWntタンパク質である(例えば、Miller, J.R., 2001, Genome Biology 3:3001.1-3001.15を参照されたい)。
【0070】
ある実施形態においては、遺伝子操作された細胞に対して増強された特性を提供する遺伝子産物としては、限定されるものではないが、細胞増殖を増強する遺伝子産物が挙げられる。そのようなものの非限定的な例としては、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、表皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子(TGF)、およびWnt因子が挙げられる。Wnt因子を発現するように組換え操作された細胞を作製するある実施形態においては、細胞における発現のための特定のWnt因子としては、特に、Wnt5a、Wnt7a、およびWnt11のうちの1種以上が挙げられる。他の実施形態においては、細胞および組織を、細胞の不死化をもたらす標的遺伝子産物、例えば、癌遺伝子またはテロメラーゼを発現するように遺伝子操作する。
【0071】
他の実施形態においては、細胞および組織を、凍結保存および乾燥耐性などのin vitroでの保護機能を提供する遺伝子産物、例えば、トレハロースを発現するように遺伝子操作する(米国特許第4,891,319号;第5,290,765号;および第5,693,788号)。また本発明の細胞および組織を操作して、炎症応答から細胞を保護し、宿主の免疫系による拒絶から保護するものなどのin vivoで保護機能を提供し得る遺伝子産物、例えば、HLA対立遺伝子変異体、主要組織適合エピトープ、免疫グロブリンおよび受容体エピトープ、細胞接着分子の部分、サイトカイン、ならびにケモカインを発現させることもできる。
【0072】
本発明の細胞および組織により発現されるように遺伝子産物を操作できる様々な方法がある。この遺伝子産物を操作して、構成的に、または組織特異的もしくは刺激特異的な様式で、発現させることができる。この態様に従って、標的遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を、構成的に活性な、組織特異的な、または1種以上の特定の刺激の存在下で誘導されるプロモーターエレメントに、機能し得る形で連結することができる。
【0073】
種々の実施形態においては、標的遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を、せん断応力または半径応力に対して応答性の調節プロモーターエレメントに機能し得る形で連結する。そのような実施形態においては、プロモーターエレメントを、血流を通過させること(せん断)、ならびに心臓または血管を通る血液の拍動流の結果として誘導される半径応力により、作動させることができる。
【0074】
他の調節性プロモーターエレメントの例としては、テトラサイクリン応答性エレメント、ニコチン応答性エレメント、インスリン応答性エレメント、グルコース応答性エレメント、インターフェロン応答性エレメント、糖質コルチコイド応答性エレメント、エストロゲン/プロゲステロン応答性エレメント、レチノイン酸応答性エレメント、ウイルス転写活性化因子、SV40アデノウイルスの初期または後期プロモーター、lac系、trp系、TAC系、TRC系、3-ホスホグリセレートに対するプロモーターおよび酸ホスファターゼのプロモーターが挙げられる。他の実施形態においては、天然のプロモーターおよびエンハンサーの分子構造物と類似した、転写因子結合部位とホルモン応答性エレメントの多量体から構成される人工応答性エレメントを構築する(例えば、HerrおよびClarke, 1986, J Cell 45(3): 461-70を参照されたい)。そのような人工複合調節領域を、任意の望ましいシグナルに応答するように設計し、選択したプロモーター/エンハンサー結合部位に応じて特定の細胞型において発現させることができる。この発現系を構築し、細胞を遺伝子操作するための技術は、Sambrookら、2000, Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY; Current Protocols in Molecular Biology, Ausubelら(編)、John Wiley & Sons, 1988, 2005(更新版);およびCurrent Protocols in Cell Biology, Bonifacinoら(編)、John Wiley & Sons, 2001, 2005(更新版)などの様々な参考文献に見出される。全ての刊行物は参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0075】
5.6 馴化培地および細胞外マトリックス
ある実施形態においては、前記組成物は三次元組織から作製された馴化培地を含む。本明細書で用いる「馴化培地」とは、細胞をそこで培養し、その細胞が所望の生物活性を示すのに十分なレベルで活性物質をその中に分泌した培養培地を指す。ある実施形態においては、「馴化培地」は、培地中に存在する細胞により産生された因子のフィンガープリントまたはレパートリーによって特徴付けられる。本明細書に記載のものなどの、三次元組織から作製された馴化培地は、特に、VEGFおよび1種またはそれ以上のWntタンパク質などの様々な増殖因子を産生することが判明している。培地中の増殖因子は血管形成を誘導し、幹細胞を動員し、ならびに細胞の増殖および分化を促進するようである。
【0076】
三次元組織により産生された馴化培地を直接用いてもよいし、または様々な方法で処理してもよい。増殖因子の保存および/または濃縮のために、培地を凍結乾燥に供してもよい。様々な生体適合性の保存剤、凍結保護剤、および安定化剤を用いて、必要に応じて活性を保存することができる。生体適合性薬剤の非限定例としては、特に、グリセロール、ジメチルスルホキシド、およびトレハロースが挙げられる。凍結乾燥物は、バッファー、充填剤、および等張性改変剤などの1種以上の賦形剤を有してもよい。凍結乾燥した培地は、以下にさらに記載されるような、好適な溶液または製薬上の希釈剤の添加により再構成する。
【0077】
ある実施形態においては、馴化培地を、培地中の活性成分(例えば、増殖因子)を沈降させることにより処理することができる。沈降には、硫酸アンモニウムを用いる塩析または親水性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコールの使用などの、様々な手法を用いることができる。
【0078】
他の実施形態においては、馴化培地を様々な選択的フィルターを用いる濾過に供する。濾過による馴化培地の処理は、増殖因子の濃縮、そしてまた培養培地中で用いられる小分子および溶質の除去において有用である。特定の分子量に対する選択性を有するフィルターとしては5000ダルトン未満、10,000ダルトン未満、および15,000ダルトン未満が挙げられる。他のフィルターを用いて、処理した培地を、本明細書に記載のように組織の修復および再生を促進する活性についてアッセイすることができる。フィルターおよび濃縮システムの例としては、特に、中空繊維フィルター、フィルターディスク、およびフィルタープローブに基づくものが挙げられる(例えば、Amicon Stirred Ultrafiltration Cells, Millipore, Billerica, MA, USAを参照されたい)。
【0079】
さらに他の実施形態においては、馴化培地をクロマトグラフィーに供して、塩、不純物を除去するか、または培地の様々な成分を分画する。分子篩、イオン交換、逆相、およびアフィニティークロマトグラフィー技術などの、様々なクロマトグラフィー技術を用いることができる。生物活性を大幅に喪失することなく馴化培地を処理するためには、穏やかなクロマトグラフィー媒体を用いる。非限定例としては、特に、デキストラン、アガロース、ポリアクリルアミドに基づく分離媒体(例えば、Sephadex、Sepharose、およびSephacrylなどの様々な商標名の下で入手可能)が挙げられる。
【0080】
他の実施形態においては、前記組成物は細胞外マトリックスを含む(例えば、参照により本明細書に組み入れられるものとする米国特許第5,830,708号を参照されたい)。三次元組織により産生される細胞外マトリックスは様々な増殖因子を含んでもよく、本明細書に記載の治療に用いることができる。細胞外マトリックス調製物を、他の組成物とは独立に用いるか、または組合わせて用いることができる。細胞外マトリックスの他の使用としては、特に、美容整形において用いられる様々な種類のコラーゲンに対する代用物または添加物などの軟組織増加のための組成物、および皮膚の障害の修復のための組成物が挙げられる。望ましいコラーゲン型に応じて、間質細胞などの好適な細胞を、培養系における増殖のために選択する。細胞外マトリックスの除去および構築は米国特許第5,830,708号に記載されている。典型的な方法は界面活性剤を用いて、細胞膜を破壊し、細胞破片を除去した後、超音波処理または酵素的処理により細胞外マトリックスを除去する。
【0081】
5.7 増殖因子の産生および送達
本明細書に記載の三次元組織は、特に、細胞の増殖、分化、および動員に影響を及ぼす様々な細胞増殖因子を産生する。本明細書に記載の三次元組織を用いて、所望の細胞、組織、もしくは臓器に増殖因子の一式のものもしくはレパートリーを送達するか、または単離のために増殖因子を産生させることができる。ある実施形態においては、増殖因子を、血管浸透性を誘導し、血管内皮細胞の増殖および生存を促進し、ならびに造血幹細胞の生存を制御するVEGFを含む組成物により、送達する。in vivoでは、VEGFは血管形成および新しい血管の形成を促進する。
【0082】
他の実施形態においては、前記増殖因子は、無数の細胞内経路および細胞間相互作用プロセスにおいて役割を果たすシグナリング分子であるWnt因子である。Wntシグナリングは腫瘍形成、胚の初期中胚葉パターン化、脳および腎臓の形態形成、乳腺増殖の調節、ならびにアルツハイマー病に関与してきた。
【0083】
本明細書で用いる「Wnt」または「Wntタンパク質」とは、1つ以上の下記の機能的活性:(1)Frizzledタンパク質とも呼ばれるWnt受容体への結合、(2)Wnt媒介シグナリングの達成、(3)Dishevelledタンパク質のリン酸化およびAxinタンパク質の細胞局在化のモジュレーション、(4)細胞性β-カテニンレベルおよび対応するシグナリング経路のモジュレーション、(5)TCF/LEF転写因子のモジュレーション、ならびに(6)細胞内カルシウムの増加およびCa+2感受性タンパク質(例えば、カルモジュリン依存性キナーゼ)の活性化、を示すタンパク質を指す。Wntタンパク質の文脈で用いられる「モジュレーション」とは、細胞内レベルにおける増加もしくは減少、細胞内分布における変化、および/またはWntによりモジュレーションされる分子の機能的(例えば、酵素的)活性における変化を指す。
【0084】
「Wnt媒介シグナリング」とは、Wntタンパク質と、その同族受容体タンパク質との相互作用により開始されるか、またはそれに依存する細胞シグナリング経路の活性化を指す。評価基準として、標準的なWntシグナリング経路は、Wntタンパク質の、その対応する細胞受容体であるFrizzledタンパク質への結合を含む。受容体活性化は、Axinと相互作用するタンパク質Dishevelledのリン酸化によるシグナルを変換する。この相互作用は、タンパク質Axin、大腸腺腫様ポリポーシス(APC)、およびプロテオソーム媒介経路によりその分解を促進することによってβ-カテニン活性を調節すると考えられるグリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β(GSK-3)から構成される細胞内複合体の形成を破壊する。Wntシグナリングは、DishevelledおよびAxinに対するその作用により、β-カテニンの分解を阻害し、それによって細胞質および核におけるβ-カテニンの蓄積を誘導する。次いで、β-カテニンは転写因子TCF/LEFと相互作用し、核へのその移行を促進し、核においてそのタンパク質複合体は様々な標的遺伝子の転写をモジュレートする。
【0085】
しかしながら、Wntシグナリングは標準的な経路に限定されるものではなく、細胞はWntにより媒介されるシグナル伝達により影響を受ける代替経路を有してもよいことが理解されるべきである。β-カテニンは、p300/CBP、BRG-1、およびLIMドメインタンパク質FHL-2などの他のタイプの転写因子と相互作用することが示されている。さらに、β-カテニンとは独立に作用する、いくつかの非標準的Wntシグナリング経路が解明された(例えば、LustigおよびBehrens, 2003, J. Cancer Res. Clin. Oncol. 129:199-221; Polakis, P., 2000, Genes Dev. 14:1837-1851を参照されたい)。1つの非標準的経路においては、WntはFrizzled受容体に結合し、ヘテロ三量体Gタンパク質の活性化ならびにそれに続くホスホリパーゼCおよびホスホジエステラーゼの動員をもたらす。この活性化は、cGMPレベルの減少、細胞内Ca+2の増加、ならびにタンパク質キナーゼCおよびCa+2により調節される他のタンパク質の活性化をもたらす。第2の非標準的経路は、特に、歯槽基底境界に対して直交する軸に沿って、選択された上皮組織における極性を規定する平面細胞極性(PCP)経路である。脊椎動物においては、それは内耳毛細胞不動毛の分化および向きに寄与し、原腸形成中の中胚葉および神経外胚葉の拡張を指令する(DabdoubおよびKelley, 2005, J. Neurobiol. 64(4):446-57)。PCP経路の活性化は、Dishevelledを活性化するFrizzledへのWntの結合により生じると考えられる。次いで、DishevelledはRhoA/Racを動員し、最終的にはJNK(c-jun NH2-末端キナーゼ)経路の活性化を誘導する。JNK経路の主要な標的は、AP-1(アクチベータータンパク質-1)転写因子であるようである。
【0086】
「Wnt」または「Wntタンパク質」はまた、マウスWnt-1およびショウジョウバエにおけるWinglessに対するその配列類似性または配列同一性によって構造的に特徴付けられる。本明細書で用いる「配列同一性%」および「相同性%」は、本明細書では互換的に用いられ、ポリヌクレオチド間およびポリペプチド間の比較を指し、それは比較ウィンドウに渡って2つの最適に整列された配列を比較することにより決定され、ここでこの比較ウィンドウ内のポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列の部分は、2つの配列の最適なアラインメントについて、参照配列(付加もしくは欠失を含まない)と比較して付加もしくは欠失(すなわち、ギャップ)を含みうる。そのパーセンテージを、同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が両方の配列中に生じる位置数を決定して一致した位置の数を得て、この一致した位置数を比較ウィンドウ中の位置の総数で除算し、その結果に100を乗算して配列同一性%を得ることにより算出することができる。あるいは、このパーセンテージを、同一の核酸塩基もしくはアミノ酸残基が両方の配列中に生じるか、または核酸塩基もしくはアミノ酸残基がギャップと共に整列する位置の数を決定して一致した位置の数を得て、この一致した位置の数を比較ウィンドウ中の位置の総数で除算し、その結果に100を乗算して配列同一性%を得ることにより、算出することができる。当業者であれば、2つの配列を整列させるのに利用可能な多くの確立されたアルゴリズムが存在することを理解できるであろう。比較する配列の最適なアラインメントを、例えば、SmithおよびWaterman, 1981, Adv. Appl. Math. 2:482の局所相同性アルゴリズムにより、NeedlemanおよびWunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48:443の相同性アラインメントアルゴリズムにより、PearsonおよびLipman, 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444の類似性法に関する検索により、これらのアルゴリズムのコンピューター化実装(GCG Wisconsin Software Package中のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)によるか、または目視検査により行うことができる(一般的には、Current Protocols in Molecular Biology, (F. M. Ausubelら(編)), John Wiley & Sons, Inc., 1995(補遺)を参照されたい)。配列同一性%および配列類似性%を決定するのに好適であるアルゴリズムの例は、それぞれ、Altschulら、1990, J. Mol. Biol. 215: 403-410およびAltschulら、1977, Nucleic Acids Res. 3389-3402に記載されているBLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムである。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)のウェブサイトを通じて公共的に利用可能である。このアルゴリズムは、最初に、データベース配列中の同じ長さのワードとアラインさせた場合に、ある正の値の閾値スコアTに一致するかまたはこれを満足する問い合わせ配列中の長さWの短いワードを同定することにより、高スコアの配列対(HSP)を同定することを含む。Tを近隣ワードスコア閾値と呼ぶ(Altschulら、上掲)。これらの初期近隣ワードヒットは、それらを含むより長いHSPを発見するための検索を開始するための種子として働く。次いで、このワードヒットを、累積アラインメントスコアが増加しうる限り、それぞれの配列に沿って両方向に伸長させる。累積スコアを、ヌクレオチド配列については、パラメーターM(一致する残基の対に対する報酬スコア;常に0より大きい)およびN(一致しない残基に対するペナルティスコア;常に0未満)を用いて算出する。アミノ酸配列については、スコアリングマトリックスを用いて、累積スコアを算出する。累積アラインメントスコアがその最大に達した値から量Xだけ低下した場合、1つ以上の負にスコアリングされる残基アラインメントの蓄積に起因して、累積スコアが0またはそれ以下になった場合、またはいずれかの配列の末端に到達した場合、各方向へのワードヒットの伸長を停止させる。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T、およびXが、アラインメントの感度および速度を決定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列について)では、デフォルトとして、11のワード長(W)、10の期待値(E)、M=5、N=-4、および両方の鎖の比較を用いる。アミノ酸配列については、BLASTNプログラムでは、デフォルトとして、3のワード長(W)、10の期待値(E)、およびBLOSUM62スコアリングマトリックスを用いる(Henikoff & Henikoff, 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915を参照されたい)。
【0087】
上記のアルゴリズムおよびプログラムは全て、配列アラインメントおよび配列同一性%の決定にとって好適であるが、ある実施形態において、配列同一性%の決定については、GCG Wisconsin Softwareパッケージ(Accelrys, Madison WI)中のBESTFITまたはGAPプログラムを、提供されるデフォルトパラメーターと共に使用する。
【0088】
本発明の開示と関連するものは、げっ歯類、ネコ科動物、イヌ科動物、有蹄動物、および霊長類などの哺乳動物において発現されるWntタンパク質である。例えば、同定されたヒトWntタンパク質は27〜83%のアミノ酸配列同一性を有する。Wntタンパク質のさらなる構造的特徴は、保存されたパターンの約23個または24個のシステイン残基、疎水性シグナル配列、および保存されたアスパラギン結合オリゴ糖修飾配列である。ある実施形態においては、Wntタンパク質はまた、パルミトイル基などで修飾された脂質である(Wilkertら、2003, Nature 423(6938):448-52)。哺乳動物中で発現されるWntタンパク質およびその対応する遺伝子の例としては、特に、Wnt1、Wnt2、Wnt2B、Wnt3、Wnt3A、Wnt4、Wnt4B、Wnt5A、Wnt5B、Wnt6、Wnt7A、Wnt7B、Wnt8A、Wnt8B、Wnt9A、Wnt9B、Wnt10A、Wnt11、およびWnt16が挙げられる。Wnt12、Wnt13、Wnt14、およびWnt15などの、同定された他の形態のWntは、Wnt1〜11および16について記載されたタンパク質の範囲内にあるようである。それぞれの哺乳動物のWntタンパク質のタンパク質配列およびアミノ酸配列は、SwissProおよびGenbankなどのデータベース(例えば、参照により本明細書に組み入れられるものとする米国特許出願公開第20040248803号を参照されたい)において入手可能である。「Wnt」および「Wntタンパク質」の範囲内にあるのは、Wntタンパク質のファミリーに特徴的な機能的活性を有する、同定されたWntタンパク質のタンパク質断片、変異体、および突然変異体である。
【0089】
本明細書に記載の実施形態においては、三次元組織により産生されるWnt因子の「一式」、「レパートリー」、「シグネチャー」または「フィンガープリント」を用いて、組織修復および組織再生を促進することができる。三次元組織により産生されるWnt因子は、馴化培地中に存在するWntタンパク質の特徴またはシグネチャーを規定する少なくともWnt5a、Wnt7a、およびWnt11を含む。本明細書で用いるWnt5aとは、上記の機能的活性を有し、NCBIアクセッション番号AAH74783(gI:50959709)またはAAA16842(gI:348918)のアミノ酸配列を有するヒトWntタンパク質に対して配列類似性を有するWntタンパク質を指す(Danielsonら、1995, J. Biol. Chem. 270(52):31225-34も参照されたい)。Wnt7aとは、上記のWntタンパク質の機能的特性を有し、NCBIアクセッション番号BAA82509(gI:5509901);AAC51319.1(gI:2105100);およびO00755(gI:2501663)のアミノ酸配列を有するヒトWntタンパク質に対して配列類似性を有するWntタンパク質を指す(Ikegawaら、1996, Cytogenet Cell Genet. 74(1-2):149-52; Buiら、1997, Gene 189(1):25-9も参照されたい)。Wnt11とは、上記の機能的活性を有し、NCBIアクセッション番号BAB72099 (gI:17026012);CAA74159 (gI:3850708);およびCAA73223.1 (gI:3850706)のアミノ酸配列を有するヒトWntタンパク質に対して配列類似性を有するWntタンパク質を指す(Kirikoshiら、2001, Int. J. Mol. Med. 8(6):651-6); Lakoら、1998, Gene 219(1-2):101-10も参照)。特定のWntタンパク質の文脈において本明細書で用いられる、「配列類似性」とは、参照配列と比較した場合の、少なくとも約80%以上、少なくとも約90%以上、少なくとも約95%以上、または少なくとも約98%以上のアミノ酸配列同一性を指す。例えば、ヒトWnt7aは、マウスWnt7aに対して約97%のアミノ酸配列同一性を示すが、ヒトWnt7aのアミノ酸配列はヒトWnt5aに対して約64%のアミノ酸同一性を示す(Buiら、上掲)。
【0090】
他の実施形態においては、単離されたWntタンパク質を、単独で用いて組織の修復および再生を促進するか、または三次元組織から産生された馴化培地に対する補給物質として用いる。上記のように、いくつかの異なるWntタンパク質を、三次元組織中で産生させるように決定し、本明細書に記載の方法により単離することができる。本明細書に記載の方法にとって有用である単離されたWntタンパク質としては、上記のようなWnt5、Wnt7およびWnt11aが挙げられる。
【0091】
細胞培養物により産生された一式のWntタンパク質または個々のWntタンパク質を、当業者にとって利用可能な様々な技術により単離することができる。Wntタンパク質の脂質修飾のため、典型的には、精製には界面活性剤を用いてWntタンパク質を可溶化し、その活性を維持する。これらの方法はWillertら、2003, Nature 423(6938):448-52および米国特許出願公開第20040248803号に記載されており、これらは参照により本明細書に組み入れられるものとする。三次元組織において作製されたWntタンパク質を、約0.25%〜約2.5%の濃度、約0.5%〜1.5%の濃度、または約1%の濃度の非陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤を用いて可溶化することができる。ある実施形態においては、Wntを可溶化するための好適な非陰イオン界面活性剤は、Triton X-15、Triton X-35、Triton X45、Triton X-100、Triton X-102、Triton X-114、およびTriton X-165などの商標名Tritonの下で入手可能な界面活性剤のメンバーである。ある実施形態においては、可溶化を他の精製技術と組合わせて、Wntの単離されたかまたは富化された調製物を取得することができる。これらのものとしては、可溶化されたWntタンパク質の逆相クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー(例えば、Cibaron Blueを用いる色素リガンド)などの他の当業界で公知の技術が挙げられる。Wntタンパク質を単離するのに用いられる実際の条件は、部分的には、正味荷電、疎水性、親水性、分子量などの因子に依存し、米国特許出願公開第2004248803号に記載のように、当業者には明らかであろう。
【0092】
他の実施形態においては、同定されたWntタンパク質に対する抗体を一斉に用いて、三次元組織により産生される一式のWntタンパク質を単離することができる。他の実施形態においては、異なるWntタンパク質において発現される共通のエピトープに対する抗体を用いて、複数のWntタンパク質を単離することができる。さらに他の実施形態においては、特定のWntタンパク質(例えば、Wnt5a、Wnt7a、およびWnt11)に対する抗体を用いて、培養物により産生される単一の種類のWntタンパク質を単離することができる。抗体を、カラム上に、もしくは固体基材(例えば、磁気ビーズ、アガロースビーズなど)に固定して、Wntタンパク質を単離するか、あるいは、Staph Aタンパク質もしくは他の抗体結合物質などの作用物質により沈降させることができる。抗体に基づく精製のための手順は、Ausubel, Current Methods in Molecular Biolgy, JohnWiley & Sons, 2005(更新版); HarlowおよびLane, 1988, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY; Scopes, 1984, Protein Purification: Principles and Practice, Springer Verlag New York, Inc., N.Y.;ならびにLivingstone, 1974, Methods In Enzymology: Immunoaffinity Chromatography of Proteins 34:723 731などの多くの参考文献に記載されている。これらの刊行物は全て、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0093】
他の実施形態においては、Wntタンパク質を、例えば、米国特許出願公開第20040248803号に記載のような、当業界でよく知られた方法を用いる組換え法により作製することができる。
【0094】
5.8 医薬組成物
三次元組織の組成物を、投与に直接用いるか、または製薬上許容し得るビヒクルと共に調製することができる。本明細書で用いる「製薬上許容し得るビヒクル」とは、前記組成物を投与するための担体、賦形剤または希釈剤を指す。これらのものとしては、細胞培養の分野で典型的に用いられる細胞培地成分が挙げられる。組成物を、無血清培養培地、基本培養培地、複合培養培地、および平衡塩溶液中に懸濁してもよい。他の実施形態においては、培地は、ビタミン、無機塩、アミノ酸、炭素源、脂肪酸、緩衝剤、および血清などの、製薬上許容し得る添加剤を含んでもよい。培地および希釈剤の非限定的な例としては、リン酸緩衝生理食塩水、ハンクス平衡塩溶液、アール(Earle)塩、改変イーグル培地、ダルベッコ改変イーグル培地、RPMI培地、Iscove培地、およびLeibovitz L-15が挙げられる。新鮮な細胞培地での再懸濁または交換を手短に行った後、三次元組織を投与することができる。
【0095】
他の実施形態においては、細胞の組成物は凍結保存された調製物であり、これは使用前に解凍される。製薬上許容し得る凍結保存剤としては、特に、グリセロール、サッカリド、ポリオール、メチルセルロース、およびジメチルスルホキシドが挙げられる。サッカリド剤としては、モノサッカリド、ジサッカリド、および少なくとも-60、-50、-40、-30、-20、-10、または0℃である、最大に凍結濃縮された溶液のガラス転移温度(Tg)を有する他のオリゴサッカリドが挙げられる。凍結保存における使用のためのサッカリドの例は、トレハロースである。凍結保存を、保存目的に用いるだけでなく、増殖因子の産生を増加させるために行うこともできる(米国特許第6,291,240号)。
【0096】
ある実施形態においては、三次元組織を処理して細胞を死滅させた後、使用する。ある実施形態においては、足場上に沈着した細胞外マトリックスを回収し、様々な医学的および美容的用途のための投与のために加工することができる(参照により本明細書に組み入れられるものとする米国特許第5,830,708号および第6,280,284号を参照されたい)。他の実施形態においては、細胞を死滅させ、従って生細胞を欠く三次元組織を投与して、組織の修復および再生を促進する。
【0097】
他の実施形態においては、三次元組織を濃縮し、投与のために製薬上許容し得る媒体を用いて洗浄することができる。遠心分離または濾過などの、前記組成物を濃縮するための様々な技術が当業界で利用可能である。技術の例としては、非限定的な例であるが、デキストラン沈降法および分画遠心法が挙げられる。三次元組織の製剤は、懸濁液のイオン強度を、等張性(すなわち、約0.1〜0.2)に、および生理的pH(すなわち、pH6.8〜7.5)に調整することを含んでもよい。この製剤は、細胞懸濁液の投与もしくは安定性を補助するための滑沢剤または他の賦形剤を含んでもよい。これらのものとしては、特に、サッカリド(例えば、マルトース)ならびにポリエチレングリコールおよびヒアルロン酸などの有機ポリマーが挙げられる。種々の製剤の調製に関するさらなる詳細は、参照により本明細書に組み入れられるものとする米国特許公開第2002/0038152号に記載されている。
【0098】
さらに他の実施形態においては、前記組成物は、in vivoで該組成物を画像化するための造影剤をさらに含んでもよい。様々なタイプの画像化技術および対応する画像化促進媒体としては、限定されるものではないが、超音波媒体、磁気共鳴造影剤、コンピュータ断層撮影造影剤、X線診断造影剤、および陽電子放射断層撮影造影剤が挙げられる。造影剤の非限定的な例としては、特に、ガドリニウム錯体、バリウム、ヨウ素、カプセル封入された微小気泡、およびポリマー性微粒子(例えば、PLGA)が挙げられる。これらを用いて、投与された組成物の位置、およびいくつかの例においてはin vivoでの該組成物の完全性を測定することができる(例えば、「超音波造影剤:基本原理と臨床適用(Ultrasound Contrast Agents: Basic Principles and Clinical Applications)」、第2版、BB Goldberg(編)、Taylor & Francis Group, 2001; Lathiaら、2004, Pharmaceutical Engineering 24(1):1-8; 「造影剤I:磁気共鳴画像化(Contrast Agents I: Magnetic Resonance Imaging)」、Topics in Current Chemistry, Vol 221, Krause(編) Spinger-Verlag, 2002を参照されたい)。当業者には明らかであるように、微粒子などの、いくつかの形態の三次元足場は、三次元組織がそれ自身、造影剤として働き、かくして、対応する画像化技術を用いて検出可能となるようにする特性を有してもよい。
【0099】
5.9 投与
前記組成物を、組織または臓器の中の、もしくはその上の特定の部位に投与することができる。細胞培養組成物を、特定の病的状態または障害を治療するのに有効な量で投与する。前記組成物を、当業者には公知の様々な方法により投与することができる。ある実施形態においては、組成物を、皮下注射針などを用いる注射により投与する。皮下注射針の大きさ(すなわち、ゲージ)は、組成物の種類、注射する量、該組成物を沈着させるための空間的位置などの要因に依存するであろう。注射用の典型的なゲージは、様々な長さの12〜25ゲージを利用可能である。
【0100】
他の実施形態においては、前記組成物をカテーテルを用いて投与する。カテーテルは、培養組織の沈着のために該部位に配置される可撓性の、剛性の、もしくは半剛性の管または導管であってよい。カテーテルは様々な材料から作製されたものであってよく、その非限定的な例としては、特に、プラスチック、金属、およびシリコンが挙げられる。前記組成物がより糸または縫合糸を含む場合、それらを注射もしくはカテーテルにより投与することができるが、例えば、付着させた縫合用針を用いて、組織を縫合するために典型的に用いられる方法により組織部位中に導入することもできる。より糸または縫合糸を、組織中に糸通しし、次いで縫合用針を取り外すことによりそれを留置する。
【0101】
さらに他の実施形態においては、組織または臓器において切開を行い、前記組成物を切開部位に適用する。切開部位で組織または臓器を縫合して該組成物を覆いまた含有させることにより、該組成物を適切な位置に保持することができる。外科手術の際に損傷した組織を修復するように該組成物を配置して、外科的損傷ならびに障害もしくは疾患により損傷した組織の修復を増強することができる。
【0102】
ある実施形態においては、前記組成物の投与に際し、限定されるものではないが、超音波、光ファイバー、磁気共鳴画像化、またはコンピュータ断層撮影などの、様々な医学的画像化技術を指針にすることができる。上記のように、三次元骨格は、それを被験体に投与するときに該組成物の画像化を助ける造影剤を有してもよい。
【0103】
投与のための用量は、治療しようとする病的状態の性質、組織または臓器の種類、その組織または臓器が適合する量、in vivoでの三次元足場の分解特性、投与後の細胞活性の期間、および産生される増殖因子のレベルなどの様々な因子を考慮に入れるべきである。より速い速度で分解する三次元骨格を、組織または臓器中に骨格材料を大幅に蓄積させずに、より高い頻度で投与することができるが、より遅い分解速度を有する材料を、注射された部位に存在する未分解の材料の量を制限するためにより低い頻度で投与することができる。投与の頻度を、全身性循環およびリンパ系などを通じた身体機構による骨格材料の排除に対して調整することもできる。
【0104】
様々な実施形態において、前記組成物を、少なくとも部分的には、上記で述べた要因に応じて、1日1回、週に約2回、週に約1回、2週間毎に約1回、1ヶ月毎に約1回、もしくは6ヶ月毎に約1回、またはそれ以上もしくは以下の頻度で投与することができる。前記組成物を、異なる部位に、同時に、または連続的に投与することができる。異なる部位に投与する場合、投与は局在化された領域に対するものであってよい。局在化された領域中での投与の空間密度は、治療される部位の体積および表面積ならびに深さなどの、治療される組織または臓器の範囲に依存し得る。ある実施形態においては、層状の組織を処理する場合、前記組成物を、必要に応じて約1回/cm2、約2回/cm2、約4回/cm2、または6回/cm2もしくはそれ以上、投与することができる。さらに他の実施形態においては、前記組成物を、治療的利益を提供するために、必要に応じて、例えば、1回/cm3、2回/cm3、4回/cm3または6回/cm3もしくはそれ以上、組織体積中に投与することができる。組織または臓器内に投与する場合、注射を同じ深さまたは異なる深さで行うことができる。ある実施形態においては、前記組成物を、天然に生じるものであるか、または損傷、疾患、外科手術、もしくは上記の他の病的状態により誘導されたものである体腔に投与する。
【0105】
5.10 三次元組織の使用
三次元組織を含む組成物を、様々な治療法に用いることができる。ある実施形態においては、前記組成物を、組織損傷を治療する(例えば、修復もしくは再生する)か、または正常な組織の外見を向上させる(例えば、美容的用途、組織増加など)ための方法において用いる。損傷した組織を治療するためには、その損傷は、軟組織および硬組織などの、任意の種類の組織または臓器に対するものであってよい。組織および臓器の非限定的な例としては、特に、脳、骨、食道、心臓、肝臓、腎臓、胃、小腸、大腸、皮膚、軟骨、骨髄、血管、胸、膵臓、胆嚢、および筋肉(例えば、心筋、平滑筋、または骨格筋)が挙げられる。本明細書に記載の組成物を、血管新生、組織修復、および組織再生などの、創傷治癒のあらゆる局面に用いることができる。
【0106】
ある実施形態においては、前記組成物を用いて急性組織損傷を治療する。本明細書で用いる「急性損傷」とは、特に、外傷性の力、化学毒性、熱傷、凍傷、急性虚血、および再灌流傷害によって引き起こされる損傷または創傷を指す。外傷性の力による傷害の例としては、特に、外科的手法および鈍力による外傷(例えば、銃創、ナイフによる創傷など)が挙げられる。前記組成物を、そのような損傷組織の血管形成、修復、および再生を促進するために、傷を負った組織上に適用するか、またはその中に注射することができる。
【0107】
他の実施形態においては、前記組成物を用いて、慢性組織損傷を治療する。本明細書で用いる「慢性組織損傷」とは、典型的には、持続的もしくは慢性的な炎症反応の徴候または組織の未治癒もしくは不適切な治癒を示す、組織に対する持続的もしくは反復的傷害から生じる組織損傷を指す。慢性組織損傷はまた、反復的傷害の結果生じる、瘢痕化として知られる、繊維症などの組織再構築の存在を特徴とする。慢性組織損傷における他の形態の組織再構築としては、特に、組織機能の低下に対する代償性変化から生じる組織の肥厚化、または、細胞変性作用が代償的な細胞再生を生じずに細胞の連続的喪失をもたらす組織の薄層化が挙げられる。慢性組織損傷は、初期段階の損傷の間に組織薄層化を示した後、瘢痕化の反復および/または組織機能の低下のための代償から生じる組織肥厚化を示す場合がある。慢性組織損傷は、刺激物もしくは毒性化合物に対する反復的曝露、持続的もしくは反復的な虚血事象(例えば、慢性虚血、微小卒中)、慢性感染、および持続的な疾患症状態(例えば、自己免疫疾患、潰瘍、アテローム性動脈硬化症、先天性欠損症など)などの、多くの異なる背景で生じ得る。
【0108】
ある実施形態においては、組織損傷は虚血性損傷を含む。本明細書で用いる「虚血性組織」とは、血液または酸素の供給が奪われた組織を指し、それによって、細胞および組織に対する傷害がもたらされる。細胞レベルでは、虚血は、組織の一部への十分な血流の欠如が存在し、それによって虚血カスケードを開始し、細胞の死をもたらす任意のプロセスである。例えば、心筋虚血は、血流または灌流の減少に起因する代謝物の不十分な除去に付随して、心臓の筋肉に対する酸素欠乏が起こる状態である。心筋虚血は、心筋の酸素要求の増加、心筋の酸素供給の減少、またはその両方の結果として起こり得る。心筋虚血は、冠状血管緊張の増加(すなわち、冠攣縮性狭心症)に対して二次的な酸素供給の減少、または血小板凝集もしくは血栓の結果としての冠血流の顕著な減少もしくは停止により引き起こされ得る。
【0109】
「急性虚血」とは、組織に対する血流の不意の、または突然の途絶を指す。例えば、心筋梗塞としても知られる、心臓における急性虚血は、一般的には、近位動脈硬化プラークの破裂、既存のアテローム性動脈硬化症での急性血栓症、また心臓、大動脈、もしくは他の大きい血管に由来する塞栓症、または解離した動脈瘤から生じるものなどの、冠動脈の急速な閉塞により引き起こされる。急性虚血を診断する実施形態においては、前記組成物を、血管形成を促進し、筋肉への血流を増加させ、および心臓組織の再生を促進するために、虚血損傷した組織の領域上に、またはその中に適用することができる。
【0110】
典型的には、「慢性虚血」とは、影響を受けた下流組織への血流を減少させるアテローム性プラークの段階的拡大による、組織への血流の途絶を指す。細胞が死に、組織が損傷を受けるようになるにつれて、細胞死に由来する組織薄層化、ならびに損傷に対する細胞応答から生じる瘢痕化事象に由来する組織の肥厚化および破壊などの、再構築が起こり得る。
【0111】
ある実施形態においては、前記組成物を用いて、特に、急性心筋虚血、慢性心筋虚血、およびうっ血性心不全などの様々な形態の虚血損傷された心臓組織を治療する。心筋症などの、心臓の他の障害を、本明細書に記載の組成物を用いて治療することもできる。上記のように、心血管性虚血は、冠動脈中のアテローム性動脈硬化プラークの破裂により引き起こされ、血栓の形成をもたらし、冠動脈を閉塞させるか、または遮ることによって、下流の心筋から酸素を奪う。虚血の結果生じる壊死を、一般的には梗塞と呼ぶ。
【0112】
心臓における慢性虚血は、心臓への血流を減少させるアテローム性動脈硬化プラークの段階的拡大により生じると考えられている。心臓が弱まるにつれて、典型的には心室中で再構築が起こり、心臓が肥大し、丸くなる。また心臓では、細胞アポトーシスによって特徴付けられる細胞レベルでの変化が生じ、膨張性の低い心臓および長時間に渡る心筋の弱体化をもたらす。心血管性虚血の説明は、本願と同時に出願した「虚血組織の治療方法(Methods of Treating Ischemic Tissue)」という名称の米国特許出願第 号(この開示はその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)にも提供されている。
【0113】
「うっ血性心不全」とは、心臓が血液の十分な循環を維持することができず、またある実施形態においては、慢性虚血に由来する損傷の最終的な結果である、心臓機能障害を指す。最も重篤な形態のうっ血性心不全は肺浮腫につながり、肺浮腫は、その障害が肺毛細管から肺の間質および肺胞中への漏出に伴って肺液の増加を引き起こす場合に生じる。ある実施形態においては、うっ血性心不全における心臓機能は、次の収縮で消費される収縮期の機械的作用に比した拡張終期の繊維伸長の程度の不均衡として表される(Frank-Starlingの原理としても知られる)。左心室および右心室などの、心臓の様々な部分が影響を受け得る。
【0114】
「心筋症」は、典型的には、慢性の広汎性心筋機能不全が存在しない限り、先天性発生異常、心臓弁膜症;全身性もしくは肺血管疾患;単離された心嚢系、結節系、もしくは伝導系の疾患;または心外膜冠動脈疾患を除く、心室筋の任意の構造的または機能的異常により規定される。臨床的兆候に基づいて、その障害を、拡張性うっ血性心筋症、肥大型心筋症、または拘束型心筋症として診断することができる。拡張性うっ血性心筋症は、一般的には、筋細胞が広範に喪失した慢性心筋繊維症を特徴とする。理論により制限されるものではないが、その基礎にある病理プロセスは、ウイルスが原因となり得る急性心筋炎の段階で始まり、次いで可変性の潜伏期、次いで慢性繊維症およびウイルスにより変化した筋細胞に対する自己免疫反応に起因する心筋の筋細胞の死の段階が存在すると考えられる。障害の原因がどんなものであれ、それは繊維症が散在する残りの心筋の膨張、薄層化、および代償性肥大をもたらす。機能的には、低い駆出率(EF)により反映される心室収縮機能の障害が存在する。肥大型心筋症は、拡張機能障害を有する顕著な心室肥大を特徴とする。細胞レベルでは、心筋は細胞および筋原繊維の配列の混乱に関して異常である。最も一般的な非対称型の肥大型心筋症は、大動脈弁の下の上部心室中隔の顕著な肥大および肥厚化を示す。この肥大は、拡張期充満に抵抗し、拡張終期圧の上昇を誘導し、肺静脈圧を上昇させる、硬直した、不適合な心室をもたらす。拘束型心筋症は、一方または両方の心室、最も一般的には左心室の拡張期充満に抵抗する、硬直した、不適合な心室壁を特徴とする。この頻度の低いタイプの心筋症は、種々の原因を有し、ゴーシェ病、レフラー病、アミロイドーシス、および心内膜繊維症などの他の障害または症状と関連することが多い。心臓の病理は、筋細胞の喪失、代償性肥大、および繊維症を伴う心内膜肥厚化または心筋浸潤を示し、これらは全て房室弁の機能障害をもたらし得る。機能的には、心臓は高い充満圧を有する硬直した、不適合な心室に関する拡張機能障害を示す。代償性肥大が、浸潤した心室または繊維症の心室の場合に不適切である場合、収縮機能が悪化することがある。
【0115】
様々な基準を用いて心臓の障害を診断することができ、それらは様々な参考文献に提供されている(例えば、Decら、「心不全:診断および治療のための総合案内(Heart Failure: A Comprehensive Guide To Diagnosis And Treatment)」、Marcel Dekker, 2004; The Merck Manual of Diagnosis and Therapy、第17版(M. H. BeerおよびR. Berkow(編)), John Wiley & Sons, 1999を参照;これらの刊行物は参照により本明細書に組み入れられるものとする)。例えば、心電図(ECG)を用いて、心筋梗塞を有する疑いのある患者を同定することができる。貫壁性梗塞は、心外膜から心内膜への心筋の全体の厚さを伴い、通常、異常な深いQ波および損傷領域の範囲を定めるSTセグメントの上昇を示す最初のECGを特徴とするか、またはSTセグメントの上昇もしくは低下および異常なQ波を含まない深い陰性T波を有する異常なECGを特徴とする。非貫壁性梗塞または心内膜下梗塞は、心室壁を通って広がらず、STセグメントおよびT波の異常のみを引き起こす。心内膜下梗塞は通常、壁の張力が最も高く、心筋の血流が循環変化に対して最も脆弱である内部の第3の心筋を伴う。急性虚血事象から生じる壊死の深さを、臨床的に正確に測定することができないため、梗塞は一般的にはQ波および非Q波としてECGにより分類される。
【0116】
心血管虚血を検出するのに有用な他の診断方法としては、特に、タリウム(201Tl)もしくはテクネチウム(99mTc)心筋灌流剤を用いる灌流画像化、心エコー検査、および/または心臓カテーテル法が挙げられる。心エコー検査により、壁の動き、心室の血栓の存在、乳頭筋の断裂、心室隔壁の断裂、心室機能、および腔内血栓の存在を評価することができる。心筋虚血の診断が不確定である場合、心エコー検査による左心室の壁の動きの異常の存在は、最近の、またはずっと以前の心筋梗塞から生じる心筋損傷の存在を証明する。心臓カテーテル法においては、造影剤をカテーテルを通して注入して、冠動脈に存在する狭窄もしくは閉塞を調べ、弁および心筋の機能を測定し、ならびに/またはさらなる分析のための生検を取得する。
【0117】
心臓組織への損傷を治療するために、前記組成物を、心外膜、心筋、および/または心内膜などの様々な心臓組織に適用することができる。この損傷は心臓の様々な部分に影響し得るため、損傷した組織および/または周囲の組織に投与を行うことができる。例えば、左心室不全は、特徴的に冠動脈疾患、高血圧、および最も多い型の心筋症を発現する。右心室不全は、一般的には、特に、前左心室不全、または右心室梗塞により引き起こされる。かくして、ある実施形態においては、適用可能な場合、投与を左心室の心筋に、または左心室および右心室の両方の心筋に行うことができる。
【0118】
理論により束縛されるものではないが、虚血組織への三次元組織の適用は、虚血組織の治癒に関与する様々な生物活性を促進する。特に、そのような活性は虚血組織の再構築の減少または防止である。本明細書で用いる「再構築」とは、以下のものの1つ以上の存在:(1)虚血組織の進行性の薄層化、(2)虚血組織に供給を行う血管数の減少、および/または(3)虚血組織に供給を行う1つ以上の血管の閉塞、ならびに虚血組織が筋肉組織を含む場合には(4)筋肉組織の収縮性の減少を意味する。未処理の再構築は、典型的には、虚血組織が、対応する健康な組織と同じレベルではもはや実施することができないような該虚血組織の弱体化をもたらす。
【0119】
従って、ある実施形態においては、虚血組織への培養三次元組織の適用は、レーザードップラー画像化を用いて測定されるように、虚血組織に存在する血管数を増加させる(例えば、Newtonら、2002, J Foot Ankle Surg. 41(4):233-7を参照されたい)。ある実施形態においては、血管数は1%、2%、5%増加し、他の実施形態においては、血管数は10%、15%、20%、さらに25%、30%、40%、50%でさえ増加し、ある実施形態においては、血管数は、さらに、許容される中間弁と共に増加する。
【0120】
ある実施形態においては、虚血心臓組織への培養三次元組織の適用は、駆出率を増加させる。健康な心臓においては、駆出率は約65〜95%である。虚血組織を含む心臓においては、駆出率は、ある実施形態においては、約20〜40%である。従って、ある実施形態においては、培養三次元組織を用いた治療は、治療前の駆出率と比較して、駆出率の0.5〜1%の絶対的な改善をもたらす。他の実施形態においては、培養三次元組織を用いた治療は、1%を超える駆出率の絶対的な改善をもたらす。ある実施形態においては、治療は、治療前の駆出率と比較して、1.5%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、さらに、9%または10%もの駆出率の絶対的な改善さえもたらす。例えば、治療前の駆出率が40%であった場合、41〜59%の治療後の駆出率がこれらの実施形態において観察される。さらに他の実施形態においては、培養三次元組織を用いた治療は、治療前の駆出率と比較して、10%を超える駆出率の改善をもたらす。
【0121】
ある実施形態においては、虚血心臓組織への培養三次元組織の適用は、心拍出量(CO)、左心室拡張終期容量指数(LVEDVI)、左心室収縮終期容量指数(LVESVI)、および収縮壁肥厚(SWT)の1つ以上を増加させる。これらのパラメーターを、例えば、核医学的心室造影(RNV)または複数ゲート獲得(MUGA)、およびX線などの、核スキャンを含む当業界で標準的な臨床手順により測定する。
【0122】
ある実施形態においては、虚血心臓組織への培養三次元組織の適用は、心臓損傷の兆候として臨床的に用いられる1個以上のタンパク質マーカーの血液レベルでの明らかな改善を引き起こし、例えば、クレアチンキナーゼ(CK)、血清グルタミンオキサル酢酸トランスアミナーゼ(SGOT)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)(例えば、米国特許公開第2005/0142613号を参照)、トロポニンIおよびトロポニンTを用いて、心筋損傷を診断することができる(例えば、米国特許公開第2005/0021234号を参照)。さらに他の実施形態においては、アルブミンのN末端に作用する変化を測定することができる(例えば、米国特許公開第2005/0142613号、第2005/0021234号、および第2005/0004485号を参照;この開示はその全体が参照により本明細書に組み入れられるものとする)。
【0123】
本明細書に記載の方法および組成物を、様々な薬剤の投与および外科的手法などの、従来の治療と組合わせて用いることができる。例えば、ある実施形態においては、培養三次元組織を、心不全を治療するのに用いられる1つ以上の薬剤と共に投与する。本明細書に記載の方法における使用にとって好適な薬剤としては、アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤(例えば、エナラプリル(Vasotec)、リシノプリル(Prinivil、Zestril)およびカプトプリル(Capoten))、アンギオテンシンII(A-II)受容体ブロッカー(例えば、ロサルタン(Cozaar)およびバルサルタン(Diovan))、利尿剤(例えば、ブメタニド(Bumex)、フロセミド(Lasix、Fumide)、およびスピロノラクトン(Aldactone))、ジゴキシン(Lanoxin)、β遮断剤、ならびにネシリチド(Natrecor)を用いることができる。
【0124】
他の実施形態においては、培養三次元組織を、血管形成術、単回のCABG、および/または複数回のCABGなどの、外科的手法の際に投与することができる。さらに、培養三次元組織を、心臓ポンプ、血管内ステント、血管内ステント移植片、左心室補助装置(LVAD)、両心室心臓ペースメーカー、人工心臓、および増強された外部カウンターパルゼーション(EECP)などの、心臓疾患を治療するのに用いられる治療用デバイスと共に用いることができる。
【0125】
他の実施形態においては、前記組成物を用いて、慢性的な肝臓の損傷を治療する。肝臓の区別可能な障害としては、特に、肝硬変、繊維症、および原発性胆汁性肝硬変が挙げられる。慢性的な肝臓の損傷を治療するために、前記組成物を注射またはカテーテルにより肝臓の損傷を受けた領域および/もしくは損傷を受けていない領域に投与して損傷を修復し、ならびに/または肝組織の再生を増強することができる。この組成物を単独で用いるか、または抗炎症剤および抗ウイルス剤などの他の治療剤と組合わせて用いることができる。
【0126】
さらに他の実施形態においては、前記組成物を用いて、骨髄に対する損傷および造血機能障害を治療する。造血系に対する損傷は、典型的には、リンパ系および脊髄系の様々な細胞増殖性障害を治療するのに用いられる造血幹細胞移植(HSCT)の背景下で生じる。前記組成物を細胞切除治療後に投与して、造血系の修復および再生を促進することができる。HSCTに用いられる典型的な細胞切除治療としては、特に、細胞傷害剤(例えば、シクロホスファミド、ブスルファン、シトシンアラビノシドなど)、放射線、およびそれらの組合せが挙げられる。
【0127】
さらに他の実施形態においては、前記組成物を用いて、吻合の修復および治癒を促進する。吻合とは、2つの中空もしくは管状の構造間の固定結合部、または手術、疾患、もしくは外傷による2つの組織構造間の連結部を指す。例えば、病理的吻合は瘻であり、これは臓器、血管、または腸と、別の構造との間の異常な連結部である。外科的吻合の例としては、冠動脈バイパス移植の間の血管移植および結腸瘻造設術における腸と腹部の皮膚の間の開口部の作製が挙げられる。血管分野での例としては、限定されるものではないが、前毛細血管(細動脈間)、リオラン(上腸間膜動脈と下腸間膜動脈の間の腸間膜動脈間連絡)、門脈系(上-中下直腸静脈;門静脈-下大静脈)、末端間(動脈から静脈)、および大静脈肺動脈(右肺動脈を上大静脈に吻合することによりチアノーゼ性心疾患を治療する)が挙げられる。
【0128】
吻合部位の修復および治癒が望ましい場合、前記組成物を、組織が接する領域中に適用することができる。ある実施形態においては、編み上げた縫合糸上で形成された三次元組織を用いて、分離した組織を結合させることによって、吻合部位での修復および治癒を促進することができる。縫合糸材料として好適な三次元組織を適用することができる非限定的な例としては、特に、心臓、腎臓、肝臓、および肺の移植などの、臓器移植法が挙げられる。
【0129】
ある実施形態においては、修復のさらなる増強は、本明細書に記載の組成物で処理された部位を、商標名Dermagraft(登録商標)(Smith & Nephew, Indianapolis, IN, USA)の下で入手可能なものなどの、三次元組織のパッチで包むことにより可能となる。
【0130】
さらに他の実施形態においては、前記組成物を用いて、損傷した組織に増殖因子の一式またはレパートリーを送達する。本明細書に記載のように、三次元細胞組織は、VEGFおよび1種以上のWntタンパク質などの増殖因子を産生する。これらの増殖因子は、血管形成、組織修復、および組織再生を誘導および支持することができる。かくして、三次元組織または馴化培地としての前記組成物を用いて、これらの増殖因子を所望の部位(例えば、損傷を受けた、または疾患を有する組織)に送達することができる。ある実施形態においては、前記組成物を用いてWnt因子を投与して、本明細書に記載のものなどの様々な障害および病的状態を治療する。
【0131】
5.11 キット
本発明では、三次元組織、馴化培地、またはその凍結保存された製剤の形態のものなどの前記組成物を含むキットがさらに提供される。組成物を、生きているか、または凍結保存された三次元組織を含む細胞培養バッグなどの、単回使用の使い捨て容器中で提供することができる。キットはまた、縫合糸に取り付けたシリンジまたは外科用針などの、三次元組織を投与するためのデバイスを含んでもよい。他の実施形態においては、キットはキットの構成要素の使用のための説明書を含んでもよい。種々の形式として、特に、印字媒体、コンピュータ読み取り可能形式(例えば、コンパクトディスク、磁気テープ、フラッシュメモリーなど)および/またはビデオテープが挙げられる。
【0132】
特に定義しない限り、本明細書で用いられる全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野における通常の知識を有する者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。特に言及しない限り、本明細書で用いられるか、または包含される技術は、当業者にはよく知られる標準的な方法である。材料、方法および例は例示されているに過ぎず、限定的なものではない。
【実施例】
【0133】
6. 実施例
6.1 実施例1:微小ビーズ上での間質細胞の培養
細胞培養物が培養されたビーズ上で成長し、かつ25ゲージの針を通過することができるのに必要な時間を決定するために試験を行った。この実験においては、200 mgの予め湿らせたAlkermes(登録商標)ビーズ(Medisorb(登録商標))および平滑筋細胞(「SMC」;1 x 106/ml)を同時にバイオリアクターに添加し、2分間、懸濁状態で保持し、そして30分間かけてバイオリアクターの底に沈降させてビーズへの細胞の付着を促進した。播種プロセス(懸濁/静止)を合計3時間に渡ってさらに6回繰り返した後、培養物を連続的な懸濁状態で保持した。様々な時点でサンプルを回収し、MTTアッセイに供して細胞の生存能力を評価した。また、VEGFおよびDNA分析も用いて、細胞の付着、生存能力、および増殖を評価した。
【0134】
保存条件が微小ビーズ(micro-beads)の存在下で培養された細胞に対して影響を及ぼし得るかどうかを決定するために、微小ビーズの存在下で培養された細胞(20μl)を2本のエッペンドルフチューブの各々に入れ、「同営業日(Same Business Day)」輸送によりアリゾナ大学(University of Arizona)に輸送した。到着時に、培養された微小ビーズを24穴の非組織培養処理プレートに移し、インキュベーター中で非常にゆっくりとした動きで攪拌した後、MTTアッセイを用いて細胞の生存能力について試験した。
【0135】
侵襲性が最小限の構築物の24ゲージ針通過後の細胞生存能力および分泌された因子を評価した。これらの実験については、培養した微小ビーズを24時間、1 mlの10%FBS培地に入れた後、これらをVEGFおよびMTTアッセイに供した。4つの他の処理群もこの実験に含めて細胞活性を比較した。増殖因子の発現を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によるmRNAの測定および酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)による遊離タンパク質の測定の両方により試験した。
【0136】
以下の2種の微粒子(microparticle)を、注射可能な三次元組成物を形成する足場として評価した:最大10週間、分解の徴候なしに培養された無孔性PLGAマイクロスフェア、および多孔性(スプレー乾燥された)マイクロスフェア。多孔性マイクロスフェアは2週間の培養の間に完全に分解した。
【0137】
図1のMTT、DNAおよびVEGFアッセイの結果を参照すると、平滑筋細胞はAlkermes(登録商標)微小ビーズ上に付着し、生存し続け、この上で増殖した。サンプルの光学顕微鏡分析により、18日後にAlkermes(登録商標)ビーズ上へのSMCの付着および増殖を確認した(図2)。この図面から、培養したビーズが、内部ビーズを取り囲む細胞の輪郭を有する半透明の球体であったことが観察されうる。これらの球体は、内部ビーズが分解するにつれてより半透明になった。Alkermes(登録商標)無孔性PLGAマイクロスフェア上で培養された皮膚繊維芽細胞(DmFb)も、該マイクロスフェア上に、そしてマイクロスフェア間に付着し、増殖することが認められた。
【0138】
さらに、25ゲージの取り外し不能なBecton Dickinson針を通過することができるビーズを培養するには、約21日かかるであろうことが観察された。全体として、この試験により、以前に開発された播種方法が効果的であり、培養したビーズを収穫するための時間をうまく決定できることが検証された。培養したビーズの針通過後でも、その微小ビーズはそれらの元々の球体の形状を保持し、細胞は培養の24時間後でも生存可能なままであった。さらに、輸送条件への三次元組織の曝露は細胞の生存能力に大きな影響を与えなかった。
【0139】
4週間の培養期間に渡るマイクロスフェア培養物と単層培養物との間で為された生化学的比較により、細胞増殖の速度(DNAとして評価)は等しいが、全体の細胞量は三次元組織において増加することが示された(表IIIを参照)。MTTの減少はDNA定量化と強い相関関係を示した。全体として、ヒトSMC培養物は、ヒトDmFb培養物よりもほぼ10倍多いVEGFを産生した。三次元組織はまた、2〜4週間の時間に渡ってその生存能力を維持するようである。
【表3】

【0140】
単層対照培養物と比較して、かなりの量のVEGF因子が、無孔性ビーズ上で調製された三次元組織において観察された。三次元組織においてコラーゲン沈着の驚くべき欠如が観察されたが、細胞外マトリックス(ECM)が生体力学的特性またはin vivoでの性能に関してどのような役割を果たすのかが依然として決定されていないため、これは前記組成物に関するネガティブな結果であるとはみなされなかった。
【0141】
6.2 実施例2:マット化繊維を用いて形成された三次元組織
PGAフェルト(Albany International, Prodesco)の小片を用いて試験を行った。培養増殖させると、これらのフェルト片は、注射することが可能な小さな球状組織へと縮小する。PGAフェルト足場上で培養されたDmFbは、マイクロスフェア培養物と比較してVEGFレベルが低下したようであったが、血管新生因子の分泌量は、CAMアッセイにおける血管発達の分析にとって依然として十分多い量であると考えられた。
【0142】
DmFbおよびSMCの両方を用いる試験により、元のフェルト足場の大幅な縮小、該組織が18ゲージ針を通過できること、および11週間の培養後でも三次元組織からVEGFが分泌されることが示された。これらの結果は、注射可能な組成物としてのその適用可能性を示唆している。
【0143】
6.3 実施例3:糸/縫合糸を用いて形成された三次元組織
編み上げた足場を、PLGAおよび基本的に非常に小さい直径で編み上げられた管から作製した。試験した4つのサンプルは、キャリアー(縦走繊維)の数および軸(円周繊維)の数において異なっていた。サンプルは、(1)大きな編み角(250 ppi)を有する24本のキャリアーと12本の軸;(2)小さな編み角(200 ppi)を有する24本のキャリアーと12本の軸;(3)8本のキャリアーと12本の軸;および(4)8本のキャリアーと24本の軸、であった。これらは全て、直径が0.5 mm〜2.0 mmで様々であった。24時間の播種試験を、イヌSMCを用いてこれらの材料上で実施した。3つの播種方法を、1インチの長さの材料あたり、1 x 105個の細胞の播種密度で用いた。材料を、1インチの断片に切断し、以下の各種方法により播種した:(1)倒置播種法(1.5 mlの円錐チューブ中)、(2)トラフに加えた細胞を含む該トラフ中に配置、または(3)細胞を、針を用いて編み上げ紐の内腔中に注射した。MTT染色を24時間後に行ったところ、数個の細胞のみが4番サンプル(24本のキャリアー、12本の軸)に付着し、1〜3番サンプルは観察可能なMTT染色を示さないようであった。この実験を、より少量の培地およびより多い細胞数(1 x 106個)を用いて繰り返して、付着を最大化させて結果を改善した。4番サンプルは継続して他の設計より効率が良かった。残りの長さの材料を、最良の播種方法(すなわち、最大のMTT染色を示し倒置播種法)を用いて、長期間の培養試験のために滅菌した。サンプルを、1および2週間の培養後に生化学的および組織学的に処理した。視覚的および生化学的結果から、MTT染色は4種全ての縫合糸について類似しており、1週間から2週間にかけてわずかに減少していたが、DNAは1週間から2週間まで増加したことが示された(図5および6)。2週間増殖させた後、ヒドロキシプロリンにより測定された有意なコラーゲン産生は認められなかった。
【0144】
Prodesco(登録商標)の編み上げた縫合糸材料上でのヒトDmFbの増殖も試験した。3週間培養した後、ほぼ全てのPGA繊維が、縫合糸材料の領域上で細胞(暗く染色される核として明らかである)および形成されたECM(中心の暗く染色された集団)と結合した。これらの結果は、細胞は管状構造の壁全体に居住し、管内空間を充填し始め、および高度に代謝性である(MTT減少による)ことを示唆している。しかしながら、培養された編み上げた縫合糸の引っ張り強度は、3週間の培養後にはかなり低下した。しかしながら、引っ張り強度の低下は、基材ポリマーまたは製造中の設計改善に対する改変により対応することができる。
【0145】
編み上げた糸の三次元組織を、マイクロスフェアを用いて調製された三次元組織を試験するのに用いたものと類似する輸送条件に供した。輸送条件への編み上げた糸の三次元組織の曝露は、細胞の生存能力に劇的な影響を及ぼさなかった(図8)。
【0146】
編み上げた糸の三次元組織について筋肉組織を通過させる効果を、図9に示す。細胞は、編み上げた糸上に残り、心筋および末梢筋肉の両方を通過させたあとでも生存可能であった。
【0147】
6.4 実施例5:侵襲性が最小限である組織構築物により産生される増殖因子の分析
静止条件下で8週間、Alkermesビーズまたはフェルト上で培養したヒト皮膚繊維芽細胞およびSMC細胞を、増殖因子産生について評価した。特定のメッセンジャーRNAを、ABI TaqMan法(Perkin-Elmer, Foster City, CA)を用いる定量的RT-PCRにより測定した。Rapid RNA精製キット(Amresco, Solon, OH, USA)を用いて、細胞からRNAを抽出した。ランダムヘキサマープライマー(Sigma, St. Louis, MO, USA)と共にSuperscript II (Life Technologies, Grand Island, NY)を用いてそのRNAを逆転写した。200 ngの総RNAを含むcDNAのサンプルの増幅を、リアルタイムに検出し、40〜4,000,000/反応という5桁に上る量の範囲にわたるコピー数を用いる特定のmRNA配列に関するプラスミド由来標準物の増幅と比較した。精製および逆転写の効率において、PDGF B鎖、VEGFまたはTGFβ1のmRNA配列をRNA単離物に加え、その収量をTaqMan法により測定した。対照mRNA配列を、対応する配列を含むプラスミドのT7 RNAポリメラーゼ転写により取得した。値を、対照としてグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼを用いて正規化した。
【0148】
三次元組織により産生された増殖因子を評価するために、培地の上清をELISAにより分析した。また、増殖因子の産生を3ロットのDermagraft(登録商標)について決定した。Dermagraftについては、材料を、製造業者の説明書に従って解凍し、11 mm x 11 mmの四角片にレーザー切断した。1個の四角片を、1 mlの増殖培地と共に、解凍後24または48時間インキュベートした。培地の上清を、上記のようにELISAにより分析した。さらに、塩基性繊維芽細胞増殖因子(βFGF)は細胞外マトリックスに固く結合するため、1個の四角片を2 M NaClを用いて抽出し、PBSに対して透析した。次いで、透析物をβFGFの存在について分析した。
【0149】
増殖因子産生に関する予備的アッセイにおいて、分泌された因子およびその分泌量には細胞型間で有意な変動があった。さらに、異なる足場上の同じ細胞型により分泌された因子においても変動があった。これらの結果は、潜在的には増殖因子分析を放出基準として用いることができるが、特定の細胞型および足場に対して調整しなければならないことを示している。
【0150】
6.5 実施例6:虚血マウス後肢モデルにおける三次元間質組織の注射
マウス後肢虚血モデルを、2つの異なる系統であるC57BL/6およびBalb/Cにおいて作製した。このモデルは、大腿深動脈の分岐点に近接した動脈と静脈、およびさらに末梢の5〜7 mmの部位の動脈と静脈を結紮することからなる。両方の系統は文献中で用いられてきたが、Balb/Cマウスが他の系統よりも傍系化されていないことが判明している。従って、Balb/Cマウス株をさらなる試験のために選択した。
【0151】
マウス後肢虚血モデルを用いて、虚血末梢組織中に埋め込まれた場合に、侵襲性が最小限である構築物がin vivoで血管新生を誘導する能力について評価した。虚血を、2匹の動物において誘導し、その動物に、Alkermes(登録商標)ビーズ上で培養した平滑筋細胞の組成物を注射した。対照として、動物において虚血を誘導し、未処理のまま放置した。ビーズ上で培養された細胞を、24ゲージのHamiltonシリンジを通して注射することができたが、ビーズ体積の約50%がシリンジ中に残った(図10Aおよび10B)。20μlの培地を全て、20μlのビーズ体積のうちの約10μlと共に注射し、虚血筋肉に送達した。完全な送達を確実にするため、PEGヒドロゲルなどの製薬上好適な送達薬剤を用いて、ビヒクルの粘度を増加させ、より多いビーズ送達を提供することができる。
【0152】
埋め込み後2週間の観察により、虚血のみの肢を有する対照動物(図11Aおよび11B)と比較して、Alkermesビーズ上の平滑筋細胞で処理された虚血肢中での限定された新しい微小血管形成(黒い矢印)の証拠(図12Aおよび12B)が示された。
【0153】
また、マウス後肢虚血モデルを用いる試験を、編み上げた糸を用いて調製された三次元組織を用いて行った。結果は、埋め込みの14日後に埋め込み物を取り囲む新しい微小血管形成の存在を示唆している(図13Aおよび13B)。
【0154】
本発明の開示の特定の実施形態の上記の記載は、例示および説明の目的で提供されたものである。これらは網羅的であることや本開示の範囲を開示された正確な形態に限定することを意図するものではなく、多くの改変および変更が上記の教示に照らして可能である。
【0155】
本明細書に記載の全ての特許、特許出願、刊行物、および参考文献は、それぞれの刊行物または特許出願が、具体的かつ個別に参照により組み入れられることが示されるのと同じ程度に、参照により明確に本明細書により組み入れられるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】図1は、Alkermes(登録商標)微粒子上で18日間増殖させた平滑筋細胞のMTT、DNAおよびVEGFアッセイの結果を示す。
【図2】図2は、ビーズを取り囲む細胞の輪郭を有する、培養したビーズを示す。球体は内部ビーズが分解するにつれて、より半透明になる。
【図3】図3は、輸送条件下で24時間および48時間保存した後の細胞の生存能力を示すが、これは細胞がそのような処理後にも生存可能なままであったことを示している。
【図4】図4は、微粒子と共に培養された全ての細胞が、24ゲージ針を通過後の24時間のインキュベーション後にも生存可能なままであり、培養された微粒子が、処理後にその元々の球体の形状を保持していたことを示す。
【図5】図5は、播種されていないProdescoの編み上げた縫合糸の種類:(1)大きな編み角(250 ppi)を有する24本のキャリアーと12本の軸;(2)小さな編み角(200 ppi)を有する24本のキャリアーと12本の軸;(3)8本のキャリアーと12本の軸;および(4)8本のキャリアーと24本の軸を示す。
【図6】図6は、イヌ平滑筋細胞(SMC)との2週間の培養後の図5に記載のMTT染色された縫合糸を示す。
【図7】図7は、イヌSMCを用いる1および2週間の培養後のProdesco縫合糸のMTTおよびDNA染色を示す。
【図8】図8は、輸送条件への曝露の前および後の編み上げた糸のMTT染色を示すが、これは細胞が縫合糸材料中でも生存可能なままであったことを示している。
【図9】図9は、心筋および末梢筋肉の両方を通過させた編み上げた糸上での細胞の存在および生存能力を示す。
【図10】図10Aおよび10Bは、Hamiltonシリンジを備えた24ゲージ針から虚血後肢組織への、培養したビーズの注入を示す。
【図11】図11Aおよび11Bは、虚血を誘導した2週間後の虚血のみで処理した動物の写真である。
【図12】図12Aおよび12Bは、微粒子上で形成された三次元組織の2週間の外植片の写真であるが、これはAlkermes(登録商標)ビーズ上で増殖させたSMCで処理した虚血肢における限定された新しい微小血管形成(黒い矢印)の証拠を示している。
【図13】図13Aおよび13Bは、埋め込みの14日後の編み上げた糸を取り囲む新しい微小血管形成(黒い矢印)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織への浸透のために寸法設計されたかまたは組織へ浸透可能になるように寸法設計された培養三次元組織を含み、該三次元組織が生体適合性の非生物性材料の足場を含む、組成物。
【請求項2】
生細胞が間質細胞を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
間質細胞が繊維芽細胞を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
生細胞が繊維芽細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、内皮細胞、周皮細胞、マクロファージ、単球、白血球、形質細胞、肥満細胞、または脂肪細胞のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
生細胞が間葉幹細胞を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
足場が微粒子の集団を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
微粒子が多孔性のものである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
微粒子が無孔性のものである、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
微粒子がマイクロスフェアを含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項10】
微粒子が生分解性材料を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項11】
生分解性材料がポリラクチド、ポリグリコール酸、ポリラクチド-コ-グリコール酸、トリメチレンカルボナート、ならびに任意の組合せおよび任意の比率の組合せのそのコポリマーのいずれかである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
微粒子が約14日の平均半減期を有する、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
微粒子が約28日の平均半減期を有する、請求項10に記載の組成物。
【請求項14】
微粒子が約42日の平均半減期を有する、請求項10に記載の組成物。
【請求項15】
微粒子が約30μmの平均粒径を有する、請求項10に記載の組成物。
【請求項16】
微粒子が約60μmの平均粒径を有する、請求項10に記載の組成物。
【請求項17】
微粒子が約120μmの平均粒径を有する、請求項10に記載の組成物。
【請求項18】
微粒子が少なくとも2つの異なる生分解性材料を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項19】
異なる生分解性材料が微粒子上に異なる層を形成する、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
微粒子が、細胞の増殖および付着を促進するための薬剤でコーティングされている、請求項6に記載の組成物。
【請求項21】
前記薬剤が、コラーゲン、エラスチン、糖タンパク質、およびグリコサミノグリカンから選択される、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
足場が、生細胞と共に培養した場合に粒子を形成する不織性フィラメントのネットワークを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項23】
不織性フィラメントのネットワークがフェルトを含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
不織性フィラメントが生分解性フィラメントを含む、請求項22に記載の組成物。
【請求項25】
不織性フィラメントが少なくとも2つの異なる生分解性フィラメントを含む、請求項23に記載の組成物。
【請求項26】
足場が、間質空間を有するより糸を形成する織物フィラメントを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項27】
前記より糸が織物フィラメントにより形成された内腔空間を含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記フィラメントが編み上げ紐へと編まれている、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
前記編み上げ紐が鞘を形成する、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
織物フィラメントが1種以上の生分解性フィラメントを含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項31】
1種以上の非生分解性フィラメントをさらに含む、請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
足場が外科用縫合糸としての使用にとって好適である、請求項26に記載の組成物。
【請求項33】
細胞培養物が少なくとも1種のWNTタンパク質を産生する、請求項1に記載の組成物。
【請求項34】
WNTタンパク質がWNT5a、WNT7a、およびWNT11のうちの1種以上である、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
細胞培養物がVEGFを産生する、請求項1に記載の組成物。
【請求項36】
請求項1〜35のいずれか1項に記載の細胞培養組成物を、損傷した組織の修復または再生を促進するのに有効な量で投与することを含む、損傷した組織を治療する方法。
【請求項37】
投与が注入によるものである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
投与がカテーテルによるものである、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
損傷した組織が虚血組織である、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
虚血組織が、骨格筋、心筋、平滑筋、または皮膚のうちの少なくとも1つである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
虚血組織が心臓である、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
心臓の虚血組織が心臓の心外膜である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
心臓の虚血組織が心臓の心筋である、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
心臓の虚血組織が心臓の心内膜である、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
損傷した組織が慢性的に損傷した組織である、請求項36に記載の方法。
【請求項46】
慢性的に損傷した組織が肝臓である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
損傷した肝臓が繊維化したものである、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
損傷した肝臓が肝硬変のものである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
損傷した肝臓が肝炎を有する肝臓である、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
損傷した組織が骨髄である、請求項36に記載の方法。
【請求項51】
骨髄を細胞傷害剤で処理した後、前記組成物を投与する、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
骨髄を放射線で処理した後、前記組成物を投与する、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
請求項1〜35のいずれか1項に記載の細胞培養組成物を血管の形成を誘導するのに有効な量で投与することを含む、組織における血管形成を促進する方法。
【請求項54】
投与が注入によるものである、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
投与がカテーテルによるものである、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
投与が虚血組織へのものである、請求項53に記載の方法。
【請求項57】
虚血組織が骨格筋、心筋、平滑筋、または皮膚のうちの少なくとも1つである、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
虚血組織が心臓である、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
心臓の虚血組織が心臓の心外膜である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
心臓の虚血組織が心臓の心筋である、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
心臓の虚血組織が心臓の心内膜である、請求項53に記載の方法。
【請求項62】
分離した組織を、請求項32に記載の外科用縫合糸を用いてつなぎ合わせることを含む、分離した組織を一緒に保持するための方法。
【請求項63】
分離した組織が創傷である、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
創傷が外科的切開である、請求項63に記載の方法。
【請求項65】
外科的切開が切除である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
分離した組織が血管である、請求項62に記載の方法。
【請求項67】
血管が血管移植片である、請求項66に記載の方法。
【請求項68】
血管移植片が冠動脈バイパス移植片の一部である、請求項67に記載の方法。
【請求項69】
つなぎ合わせた組織の部位に三次元組織を付着させることをさらに含む、請求項62に記載の方法。
【請求項70】
吻合部位を形成させるのに請求項32に記載の外科用縫合糸を適用することを含む、吻合の治癒を促進する方法。
【請求項71】
吻合が冠動脈バイパス移植片に由来するものである、請求項70に記載の方法。
【請求項72】
吻合が組織切除に由来するものである、請求項70に記載の方法。
【請求項73】
吻合が臓器移植に由来するものである、請求項70に記載の方法。
【請求項74】
臓器移植が心臓、肝臓、腎臓、または肺のものである、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
吻合部位に三次元組織を付着させることをさらに含む、請求項70に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2008−511672(P2008−511672A)
【公表日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530369(P2007−530369)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【国際出願番号】PCT/US2005/031210
【国際公開番号】WO2006/026730
【国際公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(505175375)セレゲン,インコーポレーテッド (6)
【Fターム(参考)】