説明

培養槽

【課題】培養コストを抑えつつ好適な条件で培養可能な培養槽を提供する。
【解決手段】光合成微生物を培養する培養槽であって、光合成微生物及び光合成微生物が培養される培養液を通液する開水路1と、培養液に二酸化炭素を溶解させるカーボネータ2と、光合成微生物及び培養液を培養槽内で循環させるポンプ5と、を有し、開水路1の形状が樋形状であり、カーボネータ2の上部21とカーボネータ2の下部22とが開水路1によって接続され、ポンプ5により、光合成微生物及び培養液が上部21から開水路1を通って下部22に到達し、下部22に到達した光合成微生物及び培養液がカーボネータ2内部を上昇して上部21に到達し、光合成微生物及び培養液が再び開水路1を通って下部22に到達するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は培養槽に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素等の温室効果ガスの排出量を抑制する観点から、植物が吸収する二酸化炭素量と当該植物を焼却した際に生じる二酸化炭素の発生量とが等量であるという考え方、即ち「カーボンニュートラル」との考え方が浸透しつつある。このため、バイオマス資源由来の原料から生産される、所謂バイオマス燃料(例えばトリグリセリド等の脂質、エタノール等のアルコール等)の利用が以前にも増して注目されている。
【0003】
バイオマス燃料の原料となるバイオマス資源としては、例えば大豆、トウモロコシ、パーム等が挙げられるが、これらの可食性植物を上記のバイオマス資源として利用する場合、食糧不足への懸念や耕作地を確保するための森林破壊等という課題が生じることがある。そこで、上記のバイオマス資源に代わるものとして、池、湖沼等に広く生息する、光合成を行う原生生物等の光合成微生物は、植物と同様の光合成能を有し、水と二酸化炭素とから脂質、炭水化物等を生合成し、細胞内に数十質量%蓄積することが知られている。そして、この生産量は植物に比べて高く、具体的には、脂質、炭水化物等の生産量が高いといわれるパームの単位面積当たりで10倍以上であるため、上記の課題を解決するために非常に有効な手段である。
【0004】
そこで、光合成微生物を人工的に培養するための培養方法として、チューブラ(管)式リアクタを用いる方法(例えば特許文献1参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2743316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
培養液等が通液している管に日光の照射を行うと、管内部に熱が篭るため通常培養液の温度が上昇する。そのため、特許文献1に記載の技術においては、液温を培養に適した温度に設定するために、篭った熱を外部へ放出する例えば熱交換器等を設置しなければならない場合があり、培養コストが増加するという課題がある。また、光合成微生物が光合成時に消費する二酸化炭素が減少する一方で、光合成時に発生する酸素が管内に残存するため、光合成が促進されないという課題もある。
【0007】
また、チューブラ式リアクタの場合、培養を繰り返すうちに管内壁に光合成微生物が付着し、管内部にまで光が届きにくくなるという課題がある。この課題を解決するために、管内部の洗浄回数を増やしたり、洗浄ピグにより付着物を強制的に掻き落としたりすることも考えられるが、いずれの場合も完全に付着物を除去できるものではなく、洗浄に時間及びコストを要し、やはり培養コストが増加するという課題がある。
【0008】
本発明は上記の課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、培養コストを抑えつつ好適な条件で培養可能な培養槽を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、樋形状を有する開水路を用いて立体的に培養槽を構成し、培養液を培養槽中で循環させることにより、培養コストを抑えつつ好適な条件で培養可能な培養槽を提供することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、光合成微生物及び上記光合成微生物が培養される培養液を通液する開水路と、上記培養液に二酸化炭素を溶解させるカーボネータと、上記培養液を培養槽内で循環させるポンプと、を有し、上記開水路の形状が樋形状であり、上記カーボネータの上部と上記カーボネータの下部とが上記開水路によって接続され、上記上部から上記開水路を通って上記光合成微生物及び上記培養液が上記開水路の下部末端に到達した後、上記光合成微生物及び上記培養液が上記ポンプによって上記下部に移送され、上記下部に到達した上記光合成微生物及び上記培養液が上記カーボネータ内部を上昇して上記上部に到達し、上記光合成微生物及び上記培養液が再び上記開水路及び上記ポンプを介して上記下部に到達するように構成されていることを特徴とする、培養槽に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、培養コストを抑えつつ好適な条件で培養可能な培養槽を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第一実施形態に係る培養槽を模式的に表す側面図である。
【図2】第一実施形態に係る培養槽を模式的に表す斜視図である。
【図3】開水路の断面形状の具体例((a)〜(f))を模式的に表す図である。
【図4】第一実施形態に係る培養槽の変更例を模式的に表す側面図である。
【図5】第一実施形態に係る培養槽の変更例を模式的に表す斜視図である。
【図6】第一実施形態に係る培養槽の変更例を模式的に表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(本実施形態)を具体例を挙げて説明するが、本実施形態は以下の内容に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0014】
<第一実施形態>
図1は第一実施形態に係る培養槽を模式的に表す側面図、図2は第一実施形態に係る培養槽を模式的に表す斜視図である。図1及び図2に示すように、第一実施形態に係る培養槽10は、光合成微生物を培養する培養槽であって、光合成微生物及び光合成微生物が培養される培養液を通液する開水路1と、培養液に二酸化炭素を溶解させるカーボネータ2と、光合成微生物及び培養液を培養槽内で循環させるポンプ5と、を有し、開水路1の形状が樋形状であり、カーボネータ2の上部21とカーボネータ2の下部22とが開水路1によって接続されるものである。そして、ポンプ5により、光合成微生物及び培養液が上部21から開水路1を通って下部22に到達し、下部22に到達した光合成微生物及び培養液がカーボネータ2内部を上昇して上部21に到達し、光合成微生物及び培養液が再び開水路1を通って下部22に到達するように構成されているものである。
【0015】
また、図1及び図2においては、開水路1に流れるカーボネータ2の上部21からの培養液の流量を調整する流量調整弁3、開水路1を流れた光合成微生物及び培養液を貯留し、ポンプ5に供給する受水槽4、螺旋状に形成されている開水路1を支持する支持材6も示している。
【0016】
さらに、カーボネータ2内においては、二酸化炭素供給源23からの二酸化炭素をカーボネータ2に供給するための二酸化炭素供給路2a、二酸化炭素供給路2aを通じて供給された二酸化炭素をカーボネータ2の内部に放出し、培養液に二酸化炭素を溶解させる二酸化炭素放出部2b、及びカーボネータ2内部にて培養液に溶解されなかった余剰の二酸化炭素を排出する余剰二酸化炭素排出路2cも示している。また、二酸化炭素供給路2aには、二酸化炭素の供給源として二酸化炭素供給源23が、カーボネータ2への二酸化炭素の供給量を調整できるようにガス供給量調整バルブ(図示しない。)を介して、カーボネータ2に接続されている。
【0017】
なお、通常、カーボネータ2は耐久性等の観点から金属等の非透過性材料により構成されているため、その内部は通常は外部から観察することができないようになっている。ただし、図1においては、各部材の説明のためにカーボネータ2の内部構成を示している。
【0018】
なお、第一実施形態に係る培養槽において培養可能な光合成微生物は、本発明の効果を著しく損なわない限り、特に制限されない。ただし、好ましくは藻類、特に好ましくはユーグレナである。
【0019】
ユーグレナは鞭毛虫の一群で、運動性のある藻類として有名なミドリムシを含む。大部分のユーグレナは葉緑体を有しており、光合成を行って独立栄養生活を行うが、捕食性のものや吸収栄養性のものもある。ユーグレナは動物学と植物学との双方に分類される属である。
【0020】
培養液の組成は、培養される生物の種類に応じて決定すればよい。例えば、第一実施形態に係る培養槽を用いてユーグレナを培養する場合、培養液としては、例えば、窒素源、リン源、ミネラルなどの栄養塩類を添加した培養液、例えば、改変Cramer−Myers培地((NHHPO 1.0g/L、KHPO 1.0g/L、MgSO・7HO 0.2g/L、CaCl・2HO 0.02g/L、Fe(SO・7HO 3mg/L、MnCl・4HO 1.8mg/L、CoSO・7HO 1.5mg/L、ZnSO・7HO 0.4mg/L、NaMoO・2HO 0.2mg/L、CuSO・5HO 0.02g/L、チアミン塩酸塩(ビタミンB) 0.1mg/L、シアノコバラミン(ビタミンB12)、(pH3.5))を用いることができる。なお、(NHHPOは、(NHSOやNHaqに変換することも可能である。
【0021】
また、培養液のpHは好ましくは2以上、また、その上限は、好ましくは6以下、より好ましくは4.5以下である。pHを酸性側にすることにより、光合成微生物は他の微生物よりも優勢に生育することができるため、コンタミネーションを抑制することができる。
【0022】
開水路1は、カーボネータ2(後述する。)の上部21から下部22に光合成微生物を含む培養液を通液するものであり、樋形状を有するものである。開水路1のより具体的な形状は樋形状である限り特に制限されないが、その断面形状が例えば図3(a)に示す矩形状、図3(b)に示すU字状、図3(c)に示す円の一部が切断された円形状、図3(d)に示す半円形状、図3(e)に示すV字形状、図3(f)に示す五角形状等が挙げられる。
【0023】
開水路1は、上部21から下部22に光合成微生物を含む培養液を通液させることができる限り、連続的に設けられてもよいし、断続的に設けられてもよい。即ち、1本の開水路を介して直接上部21と下部22とが接続されるようにしてもよいし、傾斜を有する複数の開水路を組み合わせて、間接的に上部21と下部22とが接続されるようにしてもよい。
【0024】
開水路1の材料は特に制限されないが、中でも透明な樹脂が好適である。このような透明な樹脂としては、例えばアクリル樹脂等が挙げられる。開水路1を構成する材料として透明な樹脂を用いた場合、培養槽10における下方の開水路1に対しても十分な量の太陽光を照射することができる。また、より大きな受光面積を確保することもできる。
【0025】
開水路1の深さも特に制限されず、培養液の流量が所望のものとすることができる程度の深さにすればよい。開水路1の切断面における深さは、その全長に渡って均一であってもよく、部分的に変化させたものであってもよい。開水路1の深さを部分的に変化させる場合、例えばカーボネータ2の上部21近傍においては深くし、その後徐々に浅くする形態とすることができる。即ち、上部21近傍において、培養液とともに存在する光合成微生物の量は少ない(即ち、遮蔽物である光合成微生物の量が少ない)ため、深さを深くしても開水路1の底部まで光が照射される。しかしながら、開水路1の下流で光合成微生物の含有量が徐々に増加すると光が開水路1の底部に届きにくくなるため、開水路1の深さを下流に行くに従って徐々に浅くすることが重要である。そこで、このような形態にすることにより、より適切な深さで培養が可能となる。
また、開水路1の途中に堰等を設け、開水路1を流れている培養液の上下撹拌を推進してもよい。
【0026】
カーボネータ2は、その内部に存在する培養液に二酸化炭素供給源23から供給された二酸化炭素を溶解させるものである。このように、カーボネータ2により二酸化炭素を培養液に溶解させることにより、光合成微生物の良好な培養が可能となる。カーボネータ2に供給されるガスは、必ずしも純粋な二酸化炭素である必要は無く、含まれる二酸化炭素の量が所望のものとなるように適宜調整したガスであってもよい。
カーボネータ2に供給されるガスに含まれる二酸化炭素の割合は、光合成微生物の種類や培養液温度によって異なるため一概には言えないが、カーボネータ2内の培養液中の二酸化炭素濃度が、当該培養液における二酸化炭素の飽和濃度となるように、カーボネータ2に供給されるガス中の二酸化炭素濃度を調整すればよい。
【0027】
また、予め二酸化炭素濃度が調整されたガスであってもよいが、例えば工場からの排気ガス等の二酸化炭素を含むガスをカーボネータ2に供給してもよい。このようなガスをカーボネータ2に供給する場合、培養する光合成微生物の成長及び培養を阻害する成分を、例えば硫黄酸化物(SO)や窒素酸化物(NO)の除去装置等を用いて予め除去したガスを用いることが好ましい。
【0028】
上記のように、二酸化炭素を含むガスは、二酸化炭素供給路2aに接続された二酸化炭素供給源23から供給される。第一実施形態に係る培養槽10においては、二酸化炭素供給源23として二酸化炭素が充填されたガスボンベを用いている。ただし、二酸化炭素供給源23はガスボンベに何ら限定されるものではなく、上記のように例えば二酸化炭素を含む工場等からの排気ガスを用いてもよい。ただし、工場等からの排気ガスを二酸化炭素供給源23として用いる場合には、予め培養する例えば光合成微生物の成長及び培養を阻害する成分を除去したガスを用いることが好ましい。このような成分を除去する装置は公知の任意のものを用いることができ、その設置場所も任意である。なお、培養する光合成微生物が例えば硫黄酸化物や窒素酸化物等に対して耐性があったり、浄化作用があったりするものであれば、硫黄酸化物や窒素酸化物等の除去は行わなくてもよい。
【0029】
そして、このようにしてカーボネータ2に供給された二酸化炭素を含むガスは、カーボネータ2内に設けられた二酸化炭素放出部2bからカーボネータ2内に存在する培養液に溶解される。そして、カーボネータ2内部の培養液に溶解し切れなかった(即ち過剰量の)二酸化炭素は、カーボネータ2の上部に設けられた余剰二酸化炭素排出路2cにより、外部へ排出又は回収される。
【0030】
なお、供給する二酸化炭素の量は必ずしも一定である必要は無く、例えば時間や天候等に応じてその供給量を変動させるようにすることができる。具体的には、培養する光合成微生物の種類(活動状況)に応じて供給量を変動させてもよい。例えば、午前に光合成が活発であるならば午前に二酸化炭素の量を多く、午後に光合成が活発であるならば午後に二酸化炭素の量を多く、夜間に光合成が行われないならば夜間は二酸化炭素の供給を停止(培養槽全体の運転を停止)する等して、光合成微生物の活動状況に応じて二酸化炭素を供給する。このようにすることで、二酸化炭素の無駄な消費を抑制すること、換言すると、光合成微生物に取り込まれなかった二酸化炭素のカーボネータ2外部への無駄な放散を防止できる。
ちなみに、第一実施形態に係る培養槽10は、このような光合成微生物の活動状況に応じて二酸化炭素を供給する機能を備えているものとする。
【0031】
二酸化炭素供給路2a及び余剰二酸化炭素排出路2cの構成材料、太さ等は特に制限されない。ただし、通気するガス及び培養液によって腐食されない材料からなることが好ましく、また、所望の量のガスをカーボネータ2内部へ供給し、また、排出可能な程度の太さにすればよい。
【0032】
さらに、二酸化炭素放出部2bは、通記するガス及び培養液によって腐食せず、また、二酸化炭素放出部2bから培養液が二酸化炭素供給路2aに逆流しないものである限り、公知の任意のもの(例えばエアストーン等)を用いることができる。
【0033】
第一実施形態に係る培養槽10においては、図1及び図2に示すように、カーボネータ2の上部21とカーボネータ2の下部22とが螺旋状に形成された開水路1により、受水槽4及びポンプ5を介して接続されている。
【0034】
受水槽4は、カーボネータ2の上部21から開水路1を通って流れてきた光合成微生物及び培養液を貯留するものである。受水槽4の具体的な構成は特に制限されず、所望の量の光合成微生物及び培養液を貯留できる程度の大きさにすればよく、また、培養液等によって腐食されない材料により構成されることが好ましい。
【0035】
ポンプ5は、第一実施形態に係る培養槽10においては容積式のものであり、受水槽4に貯留された光合成微生物及び培養液をカーボネータ2の下部22に移送するとともに、培養液をカーボネータ2の下部22から上部21へ揚水して、培養槽10内で循環させるものである。光合成微生物及び培養液を移送及び循環できるものであれば公知の任意のものを用いることができる。また、その設置場所も特に制限されないが、開水路1の下部末端とカーボネータ2の下部22との間に設けられることが好ましい。ただし、培養槽10の上方に設けたポンプ5により培養液を上方へ吸い上げ、当該吸い上げた培養液を開水路1へ流すようにしてもよい。
【0036】
なお、第一実施形態に係る培養槽10においては受水槽4を設ける構成としているが、下部22と開水路1の下方末端とが受水槽4を介することなく、直接接続される構成としてもよい。
【0037】
さらに、図1及び図2に示す構成においては、カーボネータ2の上部21と開水路1の上方末端との間に、開水路1を流れる光合成微生物及び培養液の流量を調整するための流量調整弁3が設けられている。ただし、第一実施形態に係る培養槽10は、上部21と開水路1の上方末端とが流量調整弁3を介することなく、直接接続される構成としてもよいが、より確実な培養を可能にする観点から、流量調整弁3を設けることが好ましい。なお、流量調整弁3の具体的な構成は特に制限されず、公知の任意のものを用いることができる。
【0038】
第一実施形態に係る培養槽10は、上記のような構成を有している。従って、カーボネータ2の上部21から開水路1に供給された光合成微生物及び培養液は開水路1を通ってカーボネータ2の下部22に到達する。そして、下部22に到達した光合成微生物は、カーボネータ2の内部を、その下部から供給されたガスやポンプ5の作用によって上昇して再び上部21に到達し、培養液とともに開水路1へ再び供給されるようになっている。
【0039】
また、図1及び図2に示す開水路1においては、上部21から培養液が流れ出し、下部22に到達するまでに培養液が蒸発したり、培養液に含まれる二酸化炭素が枯渇したりすることがある。そのため、図4に示す培養槽11のように、カーボネータ2における上部21と下部22との間に、カーボネータ2内の培養液を開水路1に注水可能な注水弁3aが設けられてもよい。なお、図4において、図1と同じものを示すものについては図1と同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0040】
このように、カーボネータ2における上部21と下部22との間に注水弁3aを設けることにより、開水路1を培養液が通液する途中に培養液が蒸発して培養液量や二酸化炭素含有量が減少する場合であっても、蒸発した分だけ培養液や二酸化炭素が開水路1に供給されるため、光合成微生物をより確実に培養することが可能となる。また、このような培養液の蒸発を考慮する場合、通常蒸発するのは培養液中の水分及び含まれる二酸化炭素である。従って、注水弁3aに加えて、開水路1に水を供給するための給水弁(図示しない。)を開水路1の途中に設けることが好ましい。
【0041】
<第一実施形態の変更例>
図1及び図2に示す構成においては開水路1を螺旋状に形成しているが、カーボネータ2の上部21とカーボネータ2の下部22とが開水路1により接続されている限り、開水路1が形成される際の形態は特に制限されない。例えば、図5及び図6に示すように、開水路1が建物の屋根上に設けられるようにしてもよい。図5及び図6は、いずれも第一実施形態に係る培養槽の変更例を模式的に表す斜視図である。図5及び図6において、図1と同じものについては図1と同じ符号を付し、その説明を省略する。
【0042】
図5に示す培養槽12においては、はじめに、カーボネータ2から流量調整弁3を介して培養液分配路1aに光合成微生物及び培養液が供給される。培養液分配路1aは建物Bの屋根R頭頂部に設けられており、図5の紙面左下側から右上側に向かって傾斜が設けられる構成となっている。そして、培養液分配路1aは屋根Rの傾斜に沿って設けられた複数の開水路1に接続されている。なお、培養液分配路1aと開水路1との間には流量調整絞り弁3bが設けられており、各開水路1を流れる光合成微生物及び培養液の流量を調整できるようになっている。そして、各開水路1を流れた光合成微生物及び培養液は、開水路1の下部に接続された培養液収集路1bに到達して収集され、受水槽4及びポンプ5を介して、カーボネータ2の下部22に到達する。そして、下部22に到達した光合成微生物は、カーボネータ2の内部を供給されたガスやポンプ5の作用によって上昇し、再び上部21に到達して培養液とともに開水路1へ供給されるようになっている。なお、図5においては、図示の簡略化のために片側の培養液収集路1b(図5における紙面手前側)のみが受水槽4及びポンプ5を介してカーボネータ2に接続されるように記載しているが、培養槽12においては、紙面奥側の培養液収集路1bもこれらを介してカーボネータ2に接続されるようになっている。
【0043】
図6に示す培養槽13においても、はじめに、カーボネータ2から流量調整弁3を介して培養液分配路1aに光合成微生物及び培養液が供給される。培養槽13において設けられた培養槽13における開水路1は、連続的に形成されるとともに、その壁部には傾斜が設けられている。培養液分配路1aに供給された光合成微生物及び培養液は、培養液分配路1aの末端(カーボネータ2が接続された部分の逆側)にて分岐して開水路1を通り、受水槽4及びポンプ5を介して、カーボネータ2の下部22に到達する。そして、下部22に到達した光合成微生物は、カーボネータ2の内部を供給されたガスやポンプ5の作用によって上昇し、再び上部21に到達して培養液とともに培養液分配路1aへ供給されるようになっている。なお、図6においても図5の場合と同様に、図示の簡略化のために開水路1の片側下端部(図6における紙面手前側)のみが受水槽4及びポンプ5を介してカーボネータ2に接続されるように記載しているが、培養槽13においては、紙面奥側の開水路1の下端部もこれらを介してカーボネータ2に接続されるようになっている。
【0044】
図5及び図6に示すように、屋根上に開水路1を設けることにより、開水路1を支持する支持材6が不要となり、さらに、既存の建物を利用するため、培養槽の製造コストを削減できる。また、既存の建物が有する空きスペースを有効利用することができる。さらに、屋根Rにおいて光合成を行う微生物を培養するため、所謂屋上緑化効果も期待できる。また、屋根に照射される光を光合成微生物が吸収し、建物そのものに照射される光量が少なくなるため、光に拠る、建物内部に発生する熱の発生を抑制することができ、ひいては省エネルギー効果も期待できる。
【0045】
さらに、図示していないが例えば、ビル等の建物の上方から下方に光合成微生物及び培養液が流れるように、開水路1を外壁に沿わせて(即ち、開水路1で建物を取り囲むようにして)配設してもよい。このように開水路1を配設することにより、既存の建造物を利用して光合成微生物の培養を行うため、光合成微生物の培養コストが抑制できる。また、上記した、開水路1を屋根Rに設置した場合と同様の効果も奏することができる。
【0046】
また、上記のいずれの培養槽においても、より確実な光合成微生物の培養を可能にするために、開水路1に対して光を照射可能な光反射板を設けることが好ましい。光反射板を設ける具体的な場所、光反射板の大きさ等は培養槽によって異なるため一概には言えないが、例えば上記培養槽10の場合、螺旋状の開水路1からなる一群の開水路を囲うように、例えばアルミニウム板等の光反射板を設けることができる(即ち、当該光反射板の形状がパラボラアンテナのような形状となる。)。
【0047】
以上、本実施形態に係る培養槽を具体例を挙げて説明したが、本実施形態に係る培養槽は、本発明の要旨を損なわない限り、任意に変更して実施可能であることは当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0048】
1 開水路
1a 培養液分配路
1b 培養液収集路
2 カーボネータ
2a 二酸化炭素供給路
2b 二酸化炭素放出部
2c 余剰二酸化炭素排出路
3 流量調整弁
3a 注水弁
3b 流量調整絞り弁
4 受水槽
5 ポンプ
6 支持材
10 培養槽
11 培養槽
12 培養槽
13 培養槽
21 カーボネータの上部
22 カーボネータの下部
23 二酸化炭素供給源
B 建物
R 屋根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光合成微生物を培養する培養槽であって、
該光合成微生物及び該光合成微生物が培養される培養液を通液する開水路と、該培養液に二酸化炭素を溶解させるカーボネータと、該光合成微生物及び該培養液を該培養槽内で循環させるポンプと、を有し、
該開水路の形状が樋形状であり、
該カーボネータの上部と該カーボネータの下部とが該開水路によって接続され、
該ポンプにより、該光合成微生物及び該培養液が該上部から該開水路を通って該下部に到達し、該下部に到達した該光合成微生物及び該培養液が該カーボネータ内部を上昇して該上部に到達し、該光合成微生物及び該培養液が再び該開水路を通って該下部に到達するように構成されている
ことを特徴とする、培養槽。
【請求項2】
請求項1に記載の培養槽において、
該開水路が建物の屋根上に設けられている
ことを特徴とする、培養槽。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の培養槽において、
該カーボネータにおける該上部と該下部との間に、該カーボネータ内の該培養液を該開水路に注水可能な注水弁が設けられている
ことを特徴とする、培養槽。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の培養槽において、
該開水路に対して光を照射可能な光反射板が設けられている
ことを特徴とする、培養槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−23980(P2012−23980A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−163388(P2010−163388)
【出願日】平成22年7月20日(2010.7.20)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【出願人】(506141225)株式会社ユーグレナ (12)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】