説明

培養用基体及び神経移植体

【課題】培養用基体及び神経移植体に関する。
【解決手段】培養用基体は、神経細胞の神経突起を培養するために用いられ、基体と、該基体の表面に設置されたカーボンナノチューブ構造体と、を含む。カーボンナノチューブ構造体は、横一列に間隔を置いて又は交差して設置された複数のカーボンナノチューブワイヤを含み、各々のカーボンナノチューブワイヤは、複数のカーボンナノチューブからなる。カーボンナノチューブワイヤは、神経細胞の神経突起の成長方向をガイドするために用いられ、隣接するカーボンナノチューブワイヤの間の間隔は、神経細胞の神経突起の直径と同じであるか又は神経細胞の神経突起の直径より大きい。神経移植体は、生物基体と、カーボンナノチューブ構造体と、神経ネットワークと、を含む。神経ネットワークにおける神経細胞の複数の神経突起は複数のカーボンナノチューブワイヤに沿って伸び、パターン化された神経突起を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養用基体及び該培養用基体を応用した神経移植体に関して、特に神経細胞を培養することができる培養用基体、及び生物体内に移植することができる神経移植体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
神経系は、主に神経細胞及び神経膠細胞(グリア細胞)からなり、生物の情報を伝達する神経ネットワークである。該神経ネットワークは、他の組織又は器官と繋がり、機能の調和を行う。神経系において、神経細胞が刺激を受けて、神経伝達物質を放出することによって、組織又は器官の間の情報の伝達を行う。前記神経膠細胞は、神経細胞の支持、栄養・代謝の調節などに働く細胞群である。各々の神経細胞は、形態によって細胞体(Cell body)及び神経突起(Neurite)を含む。前記神経突起は、細胞体から伸び、他の神経細胞又は他の細胞(例えば、筋肉細胞)へ成長する。また、前記神経突起は、樹状突起及び軸索を含み、前記樹状突起は、外部からの刺激を受けて、それを軸索を通して軸索の末端に伝達することによって、前記軸索の末端から他の細胞に神経伝達物質を放出する。
【0003】
前記神経ネットワークは、生物体において、各々の組織及び器官を調和する役割を果たしているので、神経細胞の培養及び成長などに対する研究は今も盛んである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】中国特許出願公開第101239712B号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kaili Jiang、Qunqing Li、Shoushan Fan、“Spinning continuous carbon nanotube yarns”、Nature、2002年、第419巻、p.801
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、神経系における神経突起が損傷されることによって引き起こされる神経損傷は、その後障害を引き起こす可能性がある。そのため、神経細胞を所定の方向に沿って成長させて、損傷部分を回復させるという研究が、現在重要視されている。
【0007】
従って、本発明は、神経細胞を所定の方向に沿って成長させる培養用基体及び該培養用基体を応用した神経移植体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
基体と、該基体の表面に設置されたカーボンナノチューブ構造体と、を含む神経細胞の神経突起を培養する培養用基体において、前記カーボンナノチューブ構造体は、横一列に間隔を置いて設置された複数のカーボンナノチューブワイヤを含み、各々の前記カーボンナノチューブワイヤは、複数のカーボンナノチューブからなる。前記カーボンナノチューブワイヤは、神経細胞の神経突起の成長方向をガイドするために用いられ、隣接するカーボンナノチューブワイヤの間の間隔は、神経細胞の神経突起の直径と同じであるか、又は神経細胞の神経突起の直径より大きい。
【0009】
前記カーボンナノチューブ構造体は、極性化処理された極性化表面を有し、該極性化表面は、培養しようとする神経細胞の電荷極性と異なる電荷極性をもつ。
【0010】
隣接するカーボンナノチューブワイヤの間の間隔が、20マイクロメートル以上、100マイクロメートル以下である。
【0011】
基体と、該基体の表面に設置されたカーボンナノチューブ構造体と、を含む神経細胞の神経突起を培養する培養用基体において、前記カーボンナノチューブ構造体は、複数のカーボンナノチューブワイヤを含み、各々の前記カーボンナノチューブワイヤは、複数のカーボンナノチューブからなる。前記カーボンナノチューブワイヤは、神経細胞の神経突起の成長方向をガイドするために用いられ、前記複数のカーボンナノチューブワイヤは、交差して複数の微孔を形成し、各々の前記微孔の有効直径が神経細胞の神経突起の直径と同じであるか、又は神経細胞の神経突起の直径より大きい。
【0012】
生物基体と、該生物基体上に形成されたカーボンナノチューブ構造体と、神経ネットワークと、を含む神経移植体において、前記カーボンナノチューブ構造体は、横一列に間隔を置いて設置された複数のカーボンナノチューブワイヤを含み、各々の前記カーボンナノチューブワイヤは、複数のカーボンナノチューブからなる。前記神経ネットワークは、複数の神経細胞を含み、該複数の神経細胞は、複数の神経突起を含む。隣接するカーボンナノチューブワイヤの間の間隔は、前記神経細胞の神経突起の直径と同じであるか、又は前記神経細胞の神経突起の直径より大きい。前記カーボンナノチューブ構造体は、複数の前記カーボンナノチューブワイヤによって、パターンを形成して、複数の前記神経突起は、複数の前記カーボンナノチューブワイヤに沿って伸び、パターン化された神経突起を形成する。
【0013】
生物基体と、該生物基体上に形成されたカーボンナノチューブ構造体と、神経ネットワークと、を含む神経移植体において、前記カーボンナノチューブ構造体は、複数のカーボンナノチューブワイヤを含み、各々の前記カーボンナノチューブワイヤは、複数のカーボンナノチューブからなる。複数の前記カーボンナノチューブワイヤは、交差して複数の微孔を形成する。前記神経ネットワークは、複数の神経細胞を含み、該複数の神経細胞は、複数の神経突起を含む。各々の前記微孔の有効直径は、前記神経細胞の神経突起の直径と同じであるか、又は前記神経細胞の神経突起の直径より大きい。前記カーボンナノチューブ構造体は、複数の前記カーボンナノチューブワイヤによって、パターンを形成して、複数の前記神経突起は、複数の前記カーボンナノチューブワイヤに沿って伸び、パターン化された神経突起を形成する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の培養用基体におけるカーボンナノチューブ構造体は、横一列に間隔を置いて又は交差して設置された複数のカーボンナノチューブワイヤを含み、該複数のカーボンナノチューブワイヤは、神経細胞の神経突起の成長方向することをガイドすることができるので、本発明の培養用基体で培養された神経細胞の神経突起は、所定の方向に沿って成長することができる。つまり、前記カーボンナノチューブ構造体のパターンを制御することによって、前記神経細胞の神経突起を所定の方向に沿って成長させることができ、前記培養基体で培養された神経移植体における神経ネットワークを、損傷部分の両端又は縁部に位置する神経細胞に再び繋げることによって、損傷部分の修復が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1に係る培養用基体の構造を示す図である。
【図2】本発明の実施例1に係る培養用基体におけるカーボンナノチューブ構造体の光学顕微鏡写真である。
【図3】本発明の実施例1に係る培養用基体で培養された神経細胞が染色された時の光学顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施例1に係る培養用基体の製造方法のフローチャートである。
【図5】本発明の実施例1に係る培養用基体の製造方法において、採用されたカーボンナノチューブフィルムのSEM写真である。
【図6】カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブセグメントの構造を示す図である。
【図7】本発明の実施例1に係る培養用基体で神経細胞を培養するフローチャートである。
【図8】本発明の実施例2に係る培養用基体の構造を示す図である。
【図9】本発明の実施例2に係る培養用基体におけるカーボンナノチューブ構造体の光学顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施例2に係る培養用基体の製造方法において、採用された積層された二枚のカーボンナノチューブフィルムのSEM写真である。
【図11】本発明の実施例2に係る培養用基体の製造方法において、採用された積層された複数のカーボンナノチューブフィルムのSEM写真である。
【図12】本発明の実施例2に係る培養用基体で培養された神経細胞が染色された時の光学顕微鏡写真である。
【図13】本発明の実施例3に係る培養用基体の構造を示す図である。
【図14】本発明の実施例に係る、培養用基体で培養された神経移植体の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。
【0017】
(実施例1)
図1を参照すると、本発明の実施例1は、培養用基体10を提供する。該培養用基体10は、神経細胞を培養することに用いられ、基体14及びカーボンナノチューブ構造体12を含む。該カーボンナノチューブ構造体12は、分子間力で前記基体14の表面に設置される。
【0018】
前記カーボンナノチューブ構造体12は、フィルム状の自立構造体であり、複数のカーボンナノチューブワイヤ123を含む。ここで、自立構造とは、支持体を利用せず、前記カーボンナノチューブ構造体12を独立的に利用するというものである。前記培養用基体10を応用して、神経細胞を培養する過程において、前記カーボンナノチューブ構造体12の表面を極性化処理して、極性化表面を形成させ、該カーボンナノチューブ構造体12の極性化表面に、培養しようとする神経細胞の電荷極性と異なる電荷極性をもたせる。
【0019】
具体的には、前記カーボンナノチューブ構造体12における複数のカーボンナノチューブワイヤ123は、横一列に間隔を置いて設置されている。従って、該カーボンナノチューブ構造体12は、パターン化される。各々の前記カーボンナノチューブワイヤ123の直径は、1マイクロメートル〜10マイクロメートルである。隣接するカーボンナノチューブワイヤ123の間の距離は、神経細胞の神経突起の直径と同じ、又は神経細胞の神経突起の直径より大きく、20マイクロメートル以上、100マイクロメートル以下であることが好ましい。隣接するカーボンナノチューブワイヤ123の間の距離が、培養しようとする神経細胞の直径と同じ、又は培養しようとする神経細胞の直径より大きい場合、前記培養用基体10に神経細胞を播種する際、該神経細胞は、前記基体14の表面に接着される。前記カーボンナノチューブワイヤ123は、神経細胞の神経突起の成長方向をガイドすることに用いられる。即ち、前記神経細胞の神経突起は、前記カーボンナノチューブワイヤ123の中心軸に沿って、成長することができる。従って、前記カーボンナノチューブ構造体12におけるカーボンナノチューブワイヤ123の配列方式、及び隣接するカーボンナノチューブワイヤ123の間の距離を制御することによって、該カーボンナノチューブ構造体12をパターン化させ、該パターン化されたカーボンナノチューブ構造体12は、神経細胞の神経突起の成長方向を制御することができるので、神経細胞が所定の方向に沿って成長することができる。
【0020】
前記カーボンナノチューブワイヤ123は、同じ方向に沿って配列される複数のカーボンナノチューブからなる。具体的には、前記カーボンナノチューブワイヤ123は、非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ又はねじれ状カーボンナノチューブワイヤである。前記非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤは、該カーボンナノチューブワイヤの中心軸に平行に配列されている複数のカーボンナノチューブからなる。前記ねじれ状カーボンナノチューブワイヤは、該カーボンナノチューブワイヤの中心軸を軸に、螺旋状に配列された複数のカーボンナノチューブからなる。
【0021】
図2を参照すると、前記カーボンナノチューブ構造体12は、横一列に間隔を置いて設置された複数のカーボンナノチューブワイヤを含む。隣接するカーボンナノチューブワイヤの間に、少なくとも一本のカーボンナノチューブを含み、該カーボンナノチューブが分子間力で該カーボンナノチューブと隣接するカーボンナノチューブワイヤに緊密に接続される。前記複数のカーボンナノチューブワイヤは、前記カーボンナノチューブ構造体12において、同じ方向に沿って配列される。隣接するカーボンナノチューブワイヤの間に、複数のカーボンナノチューブを含む場合、該複数のカーボンナノチューブが分子間力で端と端が接続される。前記カーボンナノチューブワイヤは、複数のカーボンナノチューブからなり、該複数のカーボンナノチューブは、前記カーボンナノチューブワイヤの中心軸に沿って、分子間力で端と端が接続される。
【0022】
前記カーボンナノチューブ構造体12は、複数のカーボンナノチューブからなり、該複数のカーボンナノチューブは、分子間力で接続されるので、軽く、弾性及び延展性に優れている。従って、前記カーボンナノチューブ構造体12は、容易に切断する又は引き伸ばすことができる。また、前記カーボンナノチューブは、優れた導電性、熱伝導性、音伝導特性を有するので、前記カーボンナノチューブ構造体12も、優れた電気伝導性、熱伝導性、音伝導特性を有する。神経細胞の成長も、電気伝導性、熱伝導性及び音伝導特性の影響を受けるので、前記カーボンナノチューブ構造体12を含む前記培養用基体10に神経細胞を成長させることで、電気伝導性、熱伝導性及び音伝導特性などの神経細胞に対する影響を研究することができる。
【0023】
前記基体14は、前記カーボンナノチューブ構造体12及び培養しようとする神経細胞を配置又は支持することに用いられる。前記基体14の形状、材料及び厚さは、実際の応用に応じて決定される。前記基体14は、平面構造体又は曲面構造体である。前記基体14は、生物基体であることができる。該生物基体の材料は、生物分解が可能でありかつ生物毒性がない材料、又は生物毒性がない材料である。前記生物分解が可能でありかつ生物毒性がない材料は、熱可塑性の澱粉プラスチック、脂肪族のポリエステル、ポリ乳酸又は澱粉/ポリビニルアルコールである。前記生物毒性がない材料は、シリカゲル又はカーボンナノチューブフィルムである。前記カーボンナノチューブフィルムは、カーボンナノチューブからなり、自立機能及び所定の強度を有するフィルムである。また、前記基体14は、非生物基体であることもできる。例えば、前記非生物基体の材料は、ポリスチレンなどのプラスチックである。前記基体14は、プラスチックの時計皿、プラスチックの培養器皿又はプラスチック板であることが好ましい。前記基体14が、プラスチックの時計皿又はプラスチックの培養器皿である場合、前記培養用基体10を便利に保存することができる。前記培養用基体10を応用して、細胞を直接培養することができるため、前記培養用基体10を他の器皿に置く必要はない。
【0024】
前記基体14が生物基体である場合、前記培養用基体10を、生物体内に直接移植することができるため、生物体の損傷部分の両端又は縁部に位置する神経細胞を、再び繋がる所まで成長させることができる。従って、損傷部分の修復が実現する。前記基体14の表面の面積及び形状は、前記カーボンナノチューブ構造体12の面積及び形状と基本的に同じである。前記基体14の材料がシリカゲル、カーボンナノチューブなどの可撓性材料である場合、該培養用基体10も可撓性を持つ。前記カーボンナノチューブ構造体の厚さが薄い場合、該カーボンナノチューブ構造体は、小さな機械強度及び大きな比表面積を有する。従って、前記カーボンナノチューブ構造体は、外力作用によって破損しやすく、また他の物体に接着しやすい。そこで前記カーボンナノチューブ構造体12を前記基体14の表面に設置することによって、前記カーボンナノチューブ構造体12が、外力作用によって破損されないようにし、移動し易くし且つ他の物体に接着することが防止される。
【0025】
本実施例において、前記培養用基体10は、円形のプラスチックの基体14及びカーボンナノチューブ構造体12からなる。該カーボンナノチューブ構造体12は、同じ方向に沿って配列している複数のカーボンナノチューブワイヤ123を含む。該複数のカーボンナノチューブワイヤ123は、横一列に間隔を置いて設置され、隣接するカーボンナノチューブワイヤ123の間に、少なくとも一本のカーボンナノチューブを含む。該カーボンナノチューブは、分子間力で該カーボンナノチューブと隣接するカーボンナノチューブワイヤに緊密に接続される。隣接するカーボンナノチューブワイヤ123の間の間隔は、30マイクロメートル以上、60マイクロメートル以下である。各々のカーボンナノチューブワイヤ123は、複数のカーボンナノチューブを含み、該複数のカーボンナノチューブは、分子間力で端と端が接続され、同じ方向に沿って配列している。前記培養用基体10の表面に神経細胞を培養する場合、該神経細胞は、前記円形のプラスチックの基体14の表面に付着し、前記神経細胞から分化してきた神経突起は、前記カーボンナノチューブワイヤ123のガイドのもと、該カーボンナノチューブワイヤ123の中心軸に沿って、成長する。従って、図3に示すように、前記培養用基体10を応用して、前記神経細胞の神経突起を、所定の方向に沿って成長させることができる。
【0026】
図4に示すように、本実施例は、前記培養用基体10の製造方法を提供する。該培養用基体10の製造方法は、以下のステップを含む。
ステップ110:カーボンナノチューブ予備体を提供し、該カーボンナノチューブ予備体は、少なくとも一枚のカーボンナノチューブフィルムを含み、各々のカーボンナノチューブフィルムは、分子間力で端と端が接続され、同じ方向に沿って配列されている複数のカーボンナノチューブを含む。
ステップ120:前記カーボンナノチューブ予備体から、横一列に間隔を置いて設置される複数のカーボンナノチューブワイヤ123を有するカーボンナノチューブ構造体12を形成する。
ステップ130:前記カーボンナノチューブ構造体12を基体14に固定する。
【0027】
前記ステップ110では、前記カーボンナノチューブフィルムは、複数のカーボンナノチューブからなる自立構造体を有したものである。図5を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルム143aにおいて、前記複数のカーボンナノチューブは、前記カーボンナノチューブフィルムの表面に平行して、カーボンナノチューブフィルムを引き出す方向に沿って、配列している。前記複数のカーボンナノチューブは、分子間力で端と端が接続されている。
【0028】
微視的には、前記カーボンナノチューブフィルム143aにおいて、前記同じ方向に沿って配列した複数のカーボンナノチューブ以外に、同じ方向に沿っておらずランダムな方向を向いたカーボンナノチューブも存在している。該ランダムな方向を向いたカーボンナノチューブの割合は、前記同じ方向に沿って配列された複数のカーボンナノチューブに比べて小さい。
【0029】
図6を参照すると、単一の前記カーボンナノチューブフィルム143aは、複数のカーボンナノチューブセグメント143bを含む。前記複数のカーボンナノチューブセグメント143bは、長さ方向に沿って分子間力で端と端が接続されている。それぞれのカーボンナノチューブセグメント143bは、相互に平行に、分子間力で結合された複数のカーボンナノチューブ145を含む。単一の前記カーボンナノチューブセグメント143bにおいて、前記複数のカーボンナノチューブ145の長さは実質的に同じである。
【0030】
前記カーボンナノチューブ予備体が複数の前記カーボンナノチューブフィルム143aを含む場合、該複数の前記カーボンナノチューブフィルム143aは積層して、層状構造体を形成するが、該層状構造体の厚さは制限されない。隣接する前記カーボンナノチューブフィルム143aは、分子間力で結合されている。隣接する前記カーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブ145は、同じ方向に沿って配列されている。前記カーボンナノチューブフィルム143aの構造及び製造方法については、特許文献1を参照。
【0031】
前記カーボンナノチューブフィルム143aの製造方法は、以下のステップを含む。
まず、カーボンナノチューブアレイを提供する。該カーボンナノチューブアレイは、超配列カーボンナノチューブアレイ(Superaligned array of carbon nanotubes,非特許文献1を参照)であり、該超配列カーボンナノチューブアレイの製造方法は、化学気相堆積法、アーク放電法又はレーザー蒸発法などを採用することができる。
【0032】
その後、前記カーボンナノチューブアレイから、少なくとも一枚のカーボンナノチューブフィルムを引き伸ばす。具体的には、ピンセットなどの工具を利用して複数のカーボンナノチューブの端部を持つ。例えば、一定の幅を有するテープを利用して複数のカーボンナノチューブの端部を持つ。次に、所定の速度で前記複数のカーボンナノチューブを引き出し、複数のカーボンナノチューブ束からなる連続するカーボンナノチューブフィルムを形成する。
【0033】
前記複数のカーボンナノチューブを引き出す工程において、前記複数のカーボンナノチューブがそれぞれ前記基材から脱離すると、分子間力で前記カーボンナノチューブ束が端と端で接合され、連続的なカーボンナノチューブフィルムが形成される(図5を参照)。
【0034】
前記ステップ120では、揮発性溶剤によって懸架されている前記カーボンナノチューブ予備体を処理することができる。具体的には、以下のサブステップを含む。
【0035】
サブステップ121:前記カーボンナノチューブ予備体を懸架して設置する。例えば、前記カーボンナノチューブ予備体をフレームに固定して、該カーボンナノチューブ予備体を懸架させる。具体的には、前記カーボンナノチューブ予備体のカーボンナノチューブの中心軸に垂直な両端を、前記フレームに固定して、該両端の間に位置するカーボンナノチューブ予備体を懸架させる。
【0036】
サブステップ122:揮発性溶剤で懸架されている前記カーボンナノチューブ予備体を処理する。該カーボンナノチューブ予備体において、平行して隣接する複数のカーボンナノチューブは、収縮して集合した後、端と端が接続し、横一列に間隔を置いて設置された複数のカーボンナノチューブワイヤを形成する。具体的には、まず、揮発性溶剤を直径が10マイクロメートル以下である液滴に霧化する。次に、前記揮発性溶剤に前記カーボンナノチューブ予備体を浸漬させるために、気流の作用によって、霧化された揮発性溶剤を前記カーボンナノチューブ予備体の表面に吹付け塗装する。その後、前記揮発性溶剤を揮発させ、前記揮発性溶剤の表面張力によって、前記カーボンナノチューブ予備体における、平行して隣接する複数のカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブワイヤへと収縮して、カーボンナノチューブ構造体12を形成する。
【0037】
前記揮発性溶剤を液滴に霧化させる方法は、気流霧化、超音波霧化、霧化剤を使用する方法等を含む。前記揮発性溶剤は、エタノール、メタノール、アセトン、ジクロロエタン、クロロホルム等である。前記揮発性溶剤が霧化された液滴を吹付け塗装する場合、前記カーボンナノチューブ予備体を損傷しないように、気流の圧力を小さくする。前記カーボンナノチューブワイヤの直径は、1マイクロメートル以上、10マイクロメートル以下である。隣接するカーボンナノチューブワイヤの間の間隔は、培養しようとする神経細胞の神経突起の直径と同じ、又は培養しようとする神経細胞の神経突起の直径より大きい。前記間隔は、20マイクロメートル以上、100マイクロメートル以下であることが好ましい。前記カーボンナノチューブワイヤは、神経細胞の神経突起の成長方向をガイドすることに用いられる。即ち、前記神経細胞の神経突起は、前記カーボンナノチューブワイヤの中心軸に沿って成長する。
【0038】
前記ステップ120は、前記カーボンナノチューブ予備体に、該カーボンナノチューブ予備体におけるカーボンナノチューブの軸方向に垂直な方向に対して、外力の作用を及ぼすことによって、実現してもよい。例えば、二つの弾性支持体を提供し、前記カーボンナノチューブ予備体のカーボンナノチューブの軸方向に沿う両端を、それぞれ弾性支持体に設置して、カーボンナノチューブの軸方向を、前記弾性支持体の弾性変形の方向に垂直に向け、二つの弾性支持体の間に位置するカーボンナノチューブ予備体に懸架させる。前記カーボンナノチューブ予備体における隣接するカーボンナノチューブの間の間隔を変え、該間隔を大きくするために、前記カーボンナノチューブ予備体のカーボンナノチューブの軸方向に垂直な方向に沿って、二つの弾性支持体を引き出す。前記弾性支持体は、スプリング、弾力性のゴム等である。
【0039】
前記ステップ130では、前記カーボンナノチューブ構造体を前記基体14の表面に設置して、有機溶剤で該カーボンナノチューブ構造体を浸漬する。有機溶剤で該カーボンナノチューブ構造体を浸漬する方法は、有機溶剤を前記カーボンナノチューブ構造体の表面に滴下又は吹付け塗装する方法がある。前記有機溶剤は、エタノール、メタノール、アセトン、ジクロロエタン、クロロホルムなどの揮発性溶剤である。
【0040】
前記有機溶剤が揮発する過程において、前記カーボンナノチューブ構造体の表面張力は小さくなり、該カーボンナノチューブ構造体は、分子間力で前記基体14の表面に接着し、該カーボンナノチューブ構造体を前記基体14に固定させる。該基体14は、前記カーボンナノチューブ構造体を支持し、該カーボンナノチューブ構造体の強度を高めることに用いられる。
【0041】
前記培養用基体10の製造方法は、以下のステップを含むことができる。複数のカーボンナノチューブワイヤ123を有するカーボンナノチューブ構造体12を提供し、複数のカーボンナノチューブワイヤ123は、横一列に間隔を置いて設置され、隣接するカーボンナノチューブワイヤ123の間の間隔は、培養しようとする神経細胞の神経突起の直径と同じ、又は神経細胞の神経突起の直径より大きい。前記カーボンナノチューブ構造体12を前記基体14に固定させるために、有機溶剤で前記カーボンナノチューブ構造体12を処理する。前記カーボンナノチューブワイヤ123は、有機溶剤で前記カーボンナノチューブフィルムを処理することによって形成されるか、又は、カーボンナノチューブアレイから引き伸ばされることによって形成された非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤであるか、又は、カーボンナノチューブアレイから引き伸ばされて形成されたカーボンナノチューブ構造体をねじることによって形成されたねじれ状カーボンナノチューブワイヤである。前記カーボンナノチューブ構造体12は、前記非ねじれ状カーボンナノチューブワイヤ又はねじれ状カーボンナノチューブワイヤを、横一列に間隔を置いて設置し、又は交差させて、編んで設置することによって、形成される。
【0042】
本実施例において、カーボンナノチューブフィルムを提供し、該カーボンナノチューブフィルムは、分子間力で端と端が接続され、同じ方向に沿って配列された複数のカーボンナノチューブを含む。前記カーボンナノチューブフィルムは、超配列カーボンナノチューブアレイを引き出して得られたものである。前記カーボンナノチューブフィルムを懸架させるために、該カーボンナノチューブフィルムをフレームに固定する。次に、エタノールを噴霧器の中に入れる。該エタノールが前記噴霧器から噴射される過程において、マイクロメートルレベルのエタノールの液滴に霧化される。該エタノールの液滴は、弱い気流の作用によって、前記カーボンナノチューブフィルムの表面に吹付け塗装され、該カーボンナノチューブフィルムを浸漬する。その後、エタノールを揮発させ、前記カーボンナノチューブフィルムにおける大部分のカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブワイヤに収縮されて、カーボンナノチューブ構造体が形成される。その後、前記カーボンナノチューブ構造体を円形に切断して、円形のカーボンナノチューブ構造体を円形のプラスチックの基体に設置する。エタノールで前記カーボンナノチューブ構造体を浸漬するために、前記エタノールを、前記円形のプラスチックの基体に設置されたカーボンナノチューブ構造体に滴下した後、前記エタノールを揮発させると、前記カーボンナノチューブ構造体は、前記円形のプラスチックの基体に緊密に接着する。
【0043】
図7を参照すると、本実施例は、実施例1に係る培養用基体10で神経細胞を培養する方法を提供する。該方法は、以下のステップを含む。
(A)培養用基体を提供し、該培養用基体は、基体及び該基体に設置されたカーボンナノチューブ構造体を含み、該カーボンナノチューブ構造体は、横一列に間隔を置いて設置された複数のカーボンナノチューブワイヤを含む。
(B)前記カーボンナノチューブ構造体に極性化表面をもたせるために、該カーボンナノチューブ構造体に対して、極性化処理を行う。
(C)前記カーボンナノチューブ構造体の極性化表面に、複数の神経細胞を培養し、該複数の神経細胞の神経突起が、前記カーボンナノチューブワイヤの中心軸に沿って成長する。
【0044】
ステップAで、隣接するカーボンナノチューブワイヤの間の間隔は、培養しようとする神経細胞の神経突起の直径と同じ、又は培養しようとする神経細胞の神経突起の直径より大きいことが好ましい。
【0045】
前記ステップBで、前記カーボンナノチューブ構造体の表面に対して、極性化処理を行うのは、該カーボンナノチューブ構造体の表面に位置するカーボンナノチューブの電荷極性を変更するためであり、極性化されたカーボンナノチューブ構造体の表面に培養しようとする神経細胞を接着させることで、神経細胞の成長を有利にする。 具体的には、前記ステップBは、更に以下のステップを含む。
(B1)前記カーボンナノチューブ構造体に対して、殺菌処理を行う。
(B2)殺菌処理された前記カーボンナノチューブ構造体をポリ-D-リシン溶液又はポリエーテルイミド溶液で処理する。
【0046】
前記ステップB1では、前記カーボンナノチューブ構造体に対して、殺菌処理を行う方法は制限されず、該カーボンナノチューブ構造体にある細菌を殺菌することが可能であれば、どの処理方法でもよい。例えば、前記カーボンナノチューブ構造体に対して、紫外線殺菌をすることが好ましい。
【0047】
前記ステップB2では、具体的には、まず、ポリ-D-リシン溶液又はポリエーテルイミド溶液を前記カーボンナノチューブ構造体の表面に滴下して、該カーボンナノチューブ構造体を被覆した後、10時間以上放置する。これによって、前記カーボンナノチューブ構造体の表面は、ポリ-D-リシン溶液又はポリエーテルイミド溶液によって極性化され、極性化表面を形成する。該極性化表面に播種しようとする神経細胞の電荷極性と異なる電荷極性をもたせることで、前記神経細胞への接着性を増加させ、該神経細胞を播種するための条件を提供する。その後、無菌の脱イオン水で前記カーボンナノチューブ構造体の表面に形成されたポリ-D-リシン溶液又はポリエーテルイミド溶液を洗浄する。従って、前記ポリ-D-リシン溶液又はポリエーテルイミド溶液は、前記神経細胞の成長に悪影響を与えない。
【0048】
前記カーボンナノチューブ構造体をポリ-D-リシン溶液又はポリエーテルイミド溶液によって極性化処理し、該カーボンナノチューブ構造体の表面に位置するカーボンナノチューブの電荷極性を変更して、該カーボンナノチューブ構造体の表面に播種する細胞の電荷極性と異なる電荷極性をもたせるので、前記カーボンナノチューブ構造体の表面の極性を変更するために、該カーボンナノチューブ構造体の表面に対して、蒸着、スパッタリング又は化学修飾処理を行う必要はない。従って、前記培養用基体で神経細胞を培養する方法が簡単である。
【0049】
前記培養用基体は、前記基体及び前記カーボンナノチューブ構造体からなり、前記基体が面状構造体である場合、前記培養用基体を、神経細胞を直接培養することができる容器の中に配置してもよい。前記容器は、例えば、プラスチックの時計皿又はプラスチックの培養器皿等である。この時、前記ステップBでは、まず、容器を提供し、前記培養用基体を前記容器の中に配置し、基体の表面を前記容器の表面と接触させる。その後、前記容器及び前記培養用基体に対して、殺菌処理を行う。最後に、殺菌処理されたカーボンナノチューブ構造体をポリ-D-リシン溶液又はポリエーテルイミド溶液で処理する。
【0050】
前記ステップBの実施方法は制限されず、前記カーボンナノチューブ構造体の表面に極性をもたせて、神経細胞を接着することが可能であれば、どの実施方法でもよい。
【0051】
前記ステップCは、以下のステップを含む。(C1)前記カーボンナノチューブ構造体の極性化表面に複数の神経細胞を播種する。具体的には、前記カーボンナノチューブ構造体の極性化表面に、神経細胞用培養液を滴下して、該カーボンナノチューブ構造体の極性化表面を被覆する。これによって、前記神経細胞用培養液における神経細胞は、前記培養用基体の表面に播種される。前記カーボンナノチューブ構造体における隣接するカーボンナノチューブワイヤ123の間の間隔が、神経細胞の神経突起の直径と同じ、又は神経細胞の神経突起の直径より大きいので、前記培養用基体の表面に播種された神経細胞は、前記基体の表面に接着される。前記神経細胞は、例えば、海馬神経細胞などの哺乳動物の神経細胞を含む。前記カーボンナノチューブ構造体の表面に播種された神経細胞は、分化していない神経細胞である。該分化していない神経細胞は、培養液に分散され、前記神経細胞用培養液が形成される。
【0052】
(C2)前記カーボンナノチューブ構造体の極性化表面に播種された神経細胞を培養する。具体的には、神経細胞が播種されたカーボンナノチューブ構造体を炭酸ガスインキュベーターの中に配置して培養し、時間によって培養液を入れ替える。前記炭酸ガスインキュベーターにおける炭酸ガスの含有量は5%であり、その温度は37℃である。前記神経細胞の培養環境は、細胞が生物体の中で生存できる環境とできるだけ同じであることが好ましい。前記神経細胞の具体的な培養環境は、実際の応用に応じて決まる。このステップでは、前記カーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブワイヤのガイドのもとで、複数の神経細胞の神経突起は、各々の神経細胞の細胞体から伸びてきて、前記カーボンナノチューブワイヤの中心軸の方向に沿って成長し、神経細胞が所定の方向に沿って成長することができる。前記神経細胞は、前記培養環境下で培養された後、成熟状態になり、該神経細胞から分化してきた神経突起は、所定の方向に沿って、成長し、隣接する神経突起が互いに接続される。
【0053】
前記培養用基体を生物体の損傷部分に直接移植して、神経細胞を培養する場合、前記炭酸ガスインキュベーターにおける炭酸ガスの含有量が5%であり、その温度が37℃である無菌の環境下で、時間によって培養液を入れ替え、前記神経細胞の神経突起を、前記カーボンナノチューブワイヤの中心軸の方向に沿って、損傷部分の両端又は縁部に位置する神経細胞が再び繋がるところまで、成長させる。
【0054】
本実施例において、前記培養用基体10で神経細胞を培養する方法は、具体的に以下のステップを含む。
【0055】
培養用基体10を提供し、該培養用基体10は、円形のプラスチックの基体14及びカーボンナノチューブ構造体12からなる。該カーボンナノチューブ構造体12は、横一列に間隔を置いて設置された複数のカーボンナノチューブワイヤを含む。該カーボンナノチューブ構造体12における隣接するカーボンナノチューブワイヤの間の間隔は、30マイクロメートル以上、60マイクロメートル以下であり、該カーボンナノチューブワイヤの直径は、1マイクロメートルより大きく、10マイクロメートル以下である。
【0056】
前記培養用基体10をプラスチックの培養器皿の底部に設置し、該円形のプラスチックの基体14を、前記プラスチックの培養器皿の底部と接触させる。前記プラスチックの培養器皿及び該培養器皿に設置された培養用基体10を殺菌インキュベーターに配置し、前記培養用基体10及び前記プラスチックの培養器皿を紫外線で30分間照射する。その後、殺菌処理されたカーボンナノチューブ構造体12の表面に濃度が20μg/mlであるポリ-D-リシン溶液を滴下して、該ポリ-D-リシン溶液で前記カーボンナノチューブ構造体の表面を被覆し、12時間放置する。その後、無菌の脱イオン水で前記カーボンナノチューブ構造体12の表面に形成されたポリ-D-リシン溶液を洗浄する。これによって、前記カーボンナノチューブ構造体12の表面が極性化され、極性化表面が形成される。該極性化表面は、播種しようとする海馬神経細胞と異なる電荷極性を有する。
【0057】
無菌の環境下で、前記カーボンナノチューブ構造体12の極性化表面に海馬神経細胞用培養液を滴下して、該カーボンナノチューブ構造体12を被覆し、該海馬神経細胞用培養液における海馬神経細胞を前記円形のプラスチックの基体14の表面に接着させる。
【0058】
前記海馬神経細胞が培養された培養器皿を、炭酸ガスインキュベーターの中に配置し、7日間培養して、時間によって培養液を入れ替える。前記炭酸ガスインキュベーターにおける炭酸ガスの含有量は5%であり、その温度は37℃である。前記方法を利用して培養された神経細胞は、図3の光学顕微鏡写真に示されている。
【0059】
(実施例2)
図8を参照すると、本発明の実施例2は、培養用基体20を提供する。該培養用基体20は、円形のプラスチックの基体14及び該円形のプラスチックの基体14に設置されたカーボンナノチューブ構造体22からなる。図9に示すように、カーボンナノチューブ構造体22の構造は、その中の一部のカーボンナノチューブワイヤ123と他の一部のカーボンナノチューブワイヤ123とがそれぞれ90°の角度で互いに交差して、複数の微孔が形成された網状構造体である。各々の前記微孔の有効直径は、神経突起の直径と同じ、又は神経突起の直径より大きく、20マイクロメートル以上、100マイクロメートル以下であり、前記カーボンナノチューブワイヤ123の直径は、1マイクロメートル以上、10マイクロメートル以下であることが好ましい。各々の前記微孔の有効直径が、神経突起の直径と同じ、又は神経突起の直径より大きいので、前記培養用基体20に神経細胞を播種する際、該神経細胞は、前記基体14の表面に接着される。前記カーボンナノチューブワイヤ123は、神経細胞の神経突起の成長方向をガイドすることに用いられる。即ち、前記神経細胞の神経突起は、前記カーボンナノチューブ構造体22の網状構造体の網に沿って、成長することができる。従って、前記カーボンナノチューブ構造体22におけるカーボンナノチューブワイヤ123の配列方式、及び隣接するカーボンナノチューブワイヤ123の間の微孔の有効直径を制御することによって、該カーボンナノチューブ構造体22をパターン化させ、該パターン化されたカーボンナノチューブ構造体22は、神経細胞の神経突起の成長方向を制御することができるので、神経細胞が所定の方向に沿って成長することができる。
【0060】
前記培養用基体20の製造方法は、以下のステップを含む。積層して設置された二枚のカーボンナノチューブフィルムからなるカーボンナノチューブ予備体を提供し、図10に示すように、二枚の前記カーボンナノチューブフィルムにおけるカーボンナノチューブは、それぞれ90°の角度で交差している。勿論、前記カーボンナノチューブ予備体は、積層された複数の前記カーボンナノチューブフィルム143aを含んでもよい。図11に示すように、隣接するカーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブは、90°の角度で交差している。即ち、隣接するカーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブの延長方向は、垂直である。前記カーボンナノチューブ予備体を懸架させるために、該カーボンナノチューブ予備体をフレームに固定する。次に、エタノールを噴霧器の中に入れる。該エタノールが前記噴霧器から噴射される過程において、マイクロメートルレベルのエタノールの液滴に霧化される。該エタノールの液滴は、弱い気流の作用によって、前記カーボンナノチューブ予備体の表面に吹付け塗装され、該カーボンナノチューブ予備体を浸漬する。その後、エタノールを揮発させ、前記カーボンナノチューブ予備体における大部分のカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブワイヤに収縮され、カーボンナノチューブ構造体が形成される。一部のカーボンナノチューブワイヤと、他の一部のカーボンナノチューブワイヤとは、それぞれ90°の角度で交差し、複数の微孔を形成する。各々の前記微孔の有効直径は、神経細胞の神経突起の直径と同じ、又は神経細胞の神経突起の直径より大きい。
【0061】
前記カーボンナノチューブ構造体を円形に切断して、円形のカーボンナノチューブ構造体を円形のプラスチックの基体に配置する。エタノールで前記カーボンナノチューブ構造体を浸漬するために、エタノールを前記円形のプラスチックの基体に設置されたカーボンナノチューブ構造体に滴下した後、前記エタノールを揮発させると、前記カーボンナノチューブ構造体は、前記円形のプラスチックの基体に緊密に接着する。
【0062】
勿論、前記カーボンナノチューブ構造体22における一部のカーボンナノチューブワイヤ123と他の一部のカーボンナノチューブワイヤ123とがそれぞれ0°より大きく、90°より小さな角度で交差してもよい。該カーボンナノチューブ構造体は、下記の方法を利用して製造することができる。まず、カーボンナノチューブ予備体を提供する。該カーボンナノチューブ予備体は、複数のカーボンナノチューブフィルム143aを含む。隣接する前記カーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブ145は、それぞれ0°より大きく、90°より小さな角度で交差している。これによって、前記複数のカーボンナノチューブフィルム143aにおけるカーボンナノチューブは、互いに交差して、網状構造体を形成し、前記カーボンナノチューブ予備体の機械性能を高める。前記カーボンナノチューブフィルム143aの構造及び製造方法については、特許文献1を参照。次に、前記カーボンナノチューブ予備体を懸架して設置する。その後、揮発性溶剤によって懸架されている前記カーボンナノチューブ予備体を処理することによって、該カーボンナノチューブ予備体を前記カーボンナノチューブ構造体に形成させる。
【0063】
前記培養用基体20で神経細胞を培養する方法は、実施例1に係る培養用基体10で神経細胞を培養する方法と比べて、前記カーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブワイヤが、それぞれ90°の角度で交差して、網状構造体を形成するという相違点がある。図12を参照すると、前記培養用基体20で神経細胞を培養する過程において、神経細胞は、前記円形のプラスチックの基体に緊密に接着され、神経突起は、前記カーボンナノチューブ構造体22の網状構造体のガイドのもとで、該網状構造体の網に沿って、成長する。従って、前記培養用基体20で培養された神経細胞の神経突起は、所定の形状をした折れ線となる。
【0064】
以上のことからわかるように、ここで、「神経細胞を培養する」とは、神経細胞の神経突起を培養することである。また、「神経細胞の直径」とは、神経細胞の細胞体の有効直径であり、「神経細胞の成長」とは、神経細胞の神経突起の成長である。
【0065】
(実施例3)
図13を参照すると、実施例3は、培養用基体30を提供し、該培養用基体30は、カーボンナノチューブ構造体12、基体34及び容器36を含む。該培養用基体30は、前記実施例1に係る培養用基体10と比べて、前記培養用基体30が前記容器36をさらに含み、該容器36がカーボンナノチューブ構造体12及び基体34を設置することに用いられる培養器皿であるという相違点がある。前記基体34は、面状構造体であり、前記カーボンナノチューブ構造体12と前記容器36との間に挟まれる。前記容器36は、時計皿又は培養器皿であり、該容器36の材料は、ポリスチロールなどのプラスチックであることが好ましい。本実施例において、前記基体34は、円形のポリスチロールであり、該基体34と前記容器36は、接着剤で固定される。前記培養用基体30の容器36は、神経細胞を直接培養することができるので、該培養用基体30で神経細胞を培養する場合、他の培養器皿で神経細胞を培養する必要がなく、実際の操作に有利である。また、前記培養用基体30は、前記容器36を含むため、該培養用基体30を運ぶ及び保存することに有利である。
【0066】
前記培養用基体30の製造方法は、実施例1に係る培養用基体10の製造方法と比べて、前記培養用基体30の製造方法が、培養用基体10の製造方法におけるステップ130の後、ステップ350を更に含むという相違点がある。該ステップ350では、カーボンナノチューブ構造体が設置された基体を前記容器の中に固定する。具体的には、まず、容器を提供し、該容器の内表面に接着剤を塗布する。次に、前記基体の前記カーボンナノチューブ構造体とは反対側の表面を、前記接着剤に接着させる。その後、前記接着剤の有毒物質を除去するために、真空の雰囲気で、前記容器及び該容器の中に設置された基体を加熱し、乾燥させる。この上、前記加熱過程において、前記容器、前記基体及びカーボンナノチューブ構造体を熔融又は変形しないことを確保しなければならない。従って、前記加熱温度は、95℃以下であることが好ましい。加熱時間は、実際の状況に応じて決まる。
【0067】
本実施例において、プラスチックの培養器皿を提供し、該プラスチックの培養器皿の底部の内表面に接着剤を塗布し、カーボンナノチューブ構造体が固定されたポリスチロールの基体を、前記培養器皿における接着剤に接着させる。次に、プラスチックの培養器皿、ポリスチロールの基体及びカーボンナノチューブ構造体を、真空の加熱箱の中に配置する。加熱温度が80℃〜95℃である場合、30分間加熱する。その後、室温になるまで自然冷却する。
【0068】
前記ステップ350は、前記基体及び前記容器を、緊密に接着させる。また、前記ステップ350は、前記カーボンナノチューブ構造体と前記基体との間の泡を除去することができるので、該カーボンナノチューブ構造体を、前記基体の表面に堅固に固定することができる。
【0069】
前記培養用基体30で神経細胞を培養する方法と実施例1に係る培養用基体10で神経細胞を培養する方法とは、基本的に同じである。前記培養用基体30で神経細胞を培養する過程において、前記カーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブワイヤのガイドのもとで、播種された神経細胞から分化してきた神経突起は、該カーボンナノチューブワイヤの中心軸の方向に沿って、直線形に成長する。
【0070】
本発明の実施形態は、神経移植体を提供する。該神経移植体は、培養用基体及び該培養用基体の表面に付着された神経ネットワークを含む。前記培養用基体は、生物基体及び該生物基体の表面に設置されたカーボンナノチューブ構造体を含む。該カーボンナノチューブ構造体は、横一列に間隔を置いて又は交差して設置された複数のカーボンナノチューブワイヤを含む。即ち、該カーボンナノチューブ構造体は、複数のカーボンナノチューブワイヤを含み、該複数のカーボンナノチューブワイヤは、所定の方法で配列して、該カーボンナノチューブ構造体をパターン化させる。前記神経ネットワークは、複数の神経細胞を含み、各々の神経細胞は、少なくとも一つの神経突起を含む。複数の神経細胞は、前記生物基体の表面に付着する。前記神経細胞の神経突起は、前記カーボンナノチューブワイヤの中心軸に沿って延伸し、パターン化された神経突起を形成する。該生物基体の材料は、生物分解が可能な材料又はシリカゲルである。
【0071】
前記カーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブワイヤの伸びる方向を制御することによって、前記神経突起の形状を、直線形、四角形、扇形、曲線形などにすることができる。従って、生物体の損傷部分の形状によって、前記カーボンナノチューブ構造体のパターンを制御して、前記神経突起を、所定のルートに沿って成長させることができるので、前記神経移植体における神経ネットワークを、損傷部分の両端又は縁部に位置する神経細胞に再び繋げることができ、損傷部分の修復が実現する。
【0072】
図14を参照すると、本発明の実施例は、神経移植体100を提供する。前記神経移植体100は、培養用基体110及び該培養用基体110の表面に付着された海馬神経ネットワーク130を含む。前記培養用基体110は、シリカゲルの基体114及び該シリカゲルの基体114に設置されたカーボンナノチューブ構造体12を含む。前記カーボンナノチューブ構造体12は、複数のカーボンナノチューブワイヤ123を含み、該複数のカーボンナノチューブワイヤ123は、基本的に平行して、横一列に間隔を置いて配列されている。前記海馬神経ネットワーク130は、複数の海馬神経細胞132を含み、各々の海馬神経細胞132は、少なくとも一つの神経突起134を含む。前記カーボンナノチューブ構造体12における複数のカーボンナノチューブワイヤ123が、基本的に平行して、横一列に間隔を置いて配列されているので、前記海馬神経ネットワークにおける大部分の海馬神経細胞の神経突起134は、複数のカーボンナノチューブワイヤ123の中心軸に沿って、伸び、直線形の神経突起を形成する。
【0073】
勿論、前記カーボンナノチューブ構造体12におけるカーボンナノチューブワイヤ123が、扇形の形状である場合、前記神経突起は、扇形の形状を形成する。
【0074】
本発明の実施例における培養用基体は、カーボンナノチューブ構造体を含み、該カーボンナノチューブ構造体における複数のカーボンナノチューブワイヤが、横一列に間隔を置いて又は交差して設置されるので、神経細胞の神経突起を、所定の方向に沿って成長させることをガイドすることができる。従って、本発明の実施例に係る、培養用基体で神経細胞を培養する方法は、所定の方向に沿って成長する神経細胞を培養することができる。つまり、前記カーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブワイヤの配列方式を制御することによって、前記神経細胞の神経突起を、所定の方向に沿って成長させることができ、前記培養用基体が生物体内に直接移植する時、前記神経移植体100における神経ネットワーク130を、損傷部分の両端又は縁部に位置する神経細胞に再び繋げることによって、損傷部分の修復が実現する。
【0075】
本発明の実施例における培養用基体の製造方法において、揮発性溶剤でカーボンナノチューブ構造体を処理して、該カーボンナノチューブ構造体に複数のカーボンナノチューブワイヤをもたせるので、該培養用基体の製造方法は簡単である。
【符号の説明】
【0076】
10、20、30、110 培養用基体
12、22 カーボンナノチューブ構造体
14、34 基体
36 容器
100 神経移植体
114 生物基体
120 カーボンナノチューブフィルム
130 神経ネットワーク
132 神経細胞
134 神経突起
123 カーボンナノチューブワイヤ
143a カーボンナノチューブフィルム
143b カーボンナノチューブセグメント
145 カーボンナノチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体の表面に設置されたカーボンナノチューブ構造体と、を含む神経細胞の神経突起を培養する培養用基体において、
前記カーボンナノチューブ構造体は、横一列に間隔を置いて設置された複数のカーボンナノチューブワイヤを含み、各々の前記カーボンナノチューブワイヤは、複数のカーボンナノチューブからなり、
前記カーボンナノチューブワイヤは、神経細胞の神経突起の成長方向をガイドするために用いられ、隣接するカーボンナノチューブワイヤの間の間隔は、神経細胞の神経突起の直径と同じであるか、又は神経細胞の神経突起の直径より大きいことを特徴とする培養用基体。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ構造体は、極性化処理された極性化表面を有し、該極性化表面は、培養しようとする神経細胞の電荷極性と異なる電荷極性をもつことを特徴とする請求項1に記載の培養用基体。
【請求項3】
隣接するカーボンナノチューブワイヤの間の間隔が、20マイクロメートル以上、100マイクロメートル以下であることを特徴とする請求項1に記載の培養用基体。
【請求項4】
基体と、該基体の表面に設置されたカーボンナノチューブ構造体と、を含む神経細胞の神経突起を培養する培養用基体において、
前記カーボンナノチューブ構造体は、複数のカーボンナノチューブワイヤを含み、各々の前記カーボンナノチューブワイヤは、複数のカーボンナノチューブからなり、
前記カーボンナノチューブワイヤは、神経細胞の神経突起の成長方向をガイドするために用いられ、前記複数のカーボンナノチューブワイヤは、交差して複数の微孔を形成し、各々の前記微孔の有効直径が神経細胞の神経突起の直径と同じであるか、又は神経細胞の神経突起の直径より大きいことを特徴とする培養用基体。
【請求項5】
生物基体と、該生物基体上に形成されたカーボンナノチューブ構造体と、神経ネットワークと、を含む神経移植体において、
前記カーボンナノチューブ構造体は、横一列に間隔を置いて設置された複数のカーボンナノチューブワイヤを含み、各々の前記カーボンナノチューブワイヤは、複数のカーボンナノチューブからなり、
前記神経ネットワークは、複数の神経細胞を含み、該複数の神経細胞は、複数の神経突起を含み、
隣接するカーボンナノチューブワイヤの間の間隔は、前記神経細胞の神経突起の直径と同じであるか、又は前記神経細胞の神経突起の直径より大きく、
前記カーボンナノチューブ構造体は、複数の前記カーボンナノチューブワイヤによって、パターンを形成して、複数の前記神経突起は、複数の前記カーボンナノチューブワイヤに沿って伸び、パターン化された神経突起を形成することを特徴とする神経移植体。
【請求項6】
生物基体と、該生物基体上に形成されたカーボンナノチューブ構造体と、神経ネットワークと、を含む神経移植体において、
前記カーボンナノチューブ構造体は、複数のカーボンナノチューブワイヤを含み、各々の前記カーボンナノチューブワイヤは複数のカーボンナノチューブからなり、
前記複数のカーボンナノチューブワイヤは、交差して複数の微孔を形成し、
前記神経ネットワークは、複数の神経細胞を含み、該複数の神経細胞は、複数の神経突起を含み、
各々の前記微孔の有効直径は、前記神経細胞の神経突起の直径と同じであるか、又は前記神経細胞の神経突起の直径より大きく、
前記カーボンナノチューブ構造体は、複数の前記カーボンナノチューブワイヤによって、パターンを形成して、複数の前記神経突起は、複数の前記カーボンナノチューブワイヤに沿って伸び、パターン化された神経突起を形成することを特徴とする神経移植体。

【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図13】
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【図14】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−31423(P2013−31423A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−73366(P2012−73366)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【出願人】(598098331)ツィンファ ユニバーシティ (534)
【出願人】(500080546)鴻海精密工業股▲ふん▼有限公司 (1,018)
【Fターム(参考)】