説明

培養苗から多芽体の形成方法およびウイルスフリー種芋の生産方法

【課題】ヤマイモまたはヤマノイモのウイルスフリー培養苗から大量の芽を発芽させ、この多芽体からウイルスフリー種芋を生産する。
【解決手段】ヤマイモまたはヤマノイモの茎頂から再生したウイルスフリー培養苗を切り出し、この切り出された切片を植物ホルモン6−ベンジルアデニン1.0mg〜5.0mg/リットルの添加されたMS培地で培養することにより大量の芽を発芽させ、得られた多芽体を馴化し、ガラス温室中で栽培してムカゴを獲得し、このムカゴを種芋として温室栽培してウイルスフリー種芋を生産する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヤマイモまたはヤマノイモのウイルスフリー培養苗から大量の芽を発芽させて多芽体を形成する方法およびこの多芽体からウイルスフリー種芋を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヤマイモDioscore oppsita THUNB. は、ナガイモDioscore batatas DECNE.、ヤマトイモ、ツクネイモの総称であり、ヤマノイモはジネンジョDioscore japonica THUNB.をさし、いずれも日本各地で栽培されている根菜である。
【0003】
ヤマイモまたはヤマノイモの栽培は、春先に親芋を100g程度に切り、暖かな場所で芽を出させた後、畑に植え付け、秋に収穫する。このような栽培を栄養繁殖といい、短期間で同じ遺伝子型の作物を増やすことが容易に出来る方法である。しかし、親芋がウイルスに感染している場合や奇形等の変異を起こしている場合には、小芋にも影響があり商品価値を失ってしまう。そのため、農業生産者は病原性ウイルスに感染していない親芋(ウイルスフリー種芋)を定期的に種苗会社等から購入し、更新する必要がある。
【0004】
ヤマイモまたはヤマノイモは、茎頂培養でウイルスフリーの培養苗を作出し、その培養苗を株分け培養することで増やし、ウイルスフリー種芋の生産を行っている。ヤマイモまたはヤマノイモの培養苗では頂芽があると側芽は伸長しないため、一定期間内での1株からの増殖数に限りがあり、生産効率はよいとはいえない。そのため培養苗を大量に確保するには時間も経費もかかり、ウイルスフリー種芋の単価は高く、安定した供給は困難であった。
【0005】
ヤマイモまたはヤマノイモはウイルス病による収量の低下、品質の劣化が著しい。そのためウイルスフリーの種芋を得るために、茎頂培養を経て、3ヶ月に一度腋芽を切片にして新しい培地に置床し、その芽を成長させて新たな株を作出する組織培養による増殖を行っている(表1)。しかし、ヤマイモまたはヤマノイモの培養苗では頂芽があると側芽は伸長しにくい特性(頂芽優勢)を有するため、1株から獲得できる芽の数に限りがあり、この手法では生産効率が悪い。これらのことから、ウイルスフリー種芋は高価な上に、生産農家の要望にこたえうる数量の種芋供給も困難であった。たとえ、優良な系統のヤマイモ類を育種できたとしても、斉一なウイルスフリー種芋を得るためには、系統を作出してから最短でもウイルスフリー培養苗の獲得に1年、その培養苗の増殖と種芋を作るためのハウス栽培で3年間以上かかる。
【0006】
(表1)
各系統の株分け培養法での培養3ヶ月後の1株からの増殖株数

株分け培養法での3ヶ月後
系 統 名 に得られる苗数
ツクネイモ 3.0±1.2株
ヤマトイモ 3.1±0.5株
ナガイモ 1.8±0.2株
ジネンジョ 2.8±0.4株
使用培地:ホルモンフリーMS培地
培養容器:直径2.5cm×高さ12.0cm ガラス試験管
培地量:試験管1本当たり10ミリリットル
試験管あたりの植え付け数:2個/試験管
培養条件:25℃ 3000lux 16時間日長

【0007】
ムカゴから得られる出荷用ウイルスフリー種芋は培養苗から得られるものよりも大きく、露地栽培時にも旺盛な生育となるため、出荷先での評価も高い。既存の技術については、ヤマノイモのシュートまたはその幼葉を組織培養して葉にムカゴ様体を形成させ、得られたムカゴ様体を発芽させてヤマノイモの苗を獲得する増殖法が検討されている(特許文献1)。しかしながら、苗を得るまでに、培養した後に培養ムカゴを馴化、発芽させる工程が必要となっている。従来方法に比べ大量増殖は可能となっているが、ウイルスフリー種芋を得るまでの時間の短縮化は図られていない。
【0008】
また、サトイモ科においては6−ベンジルアデニン1.0mg/リットル以下の量を添加したシュークロースを1〜2%含むMS培地で多芽体を作成する方法が検討されている(特許文献2、3)。この手法では暗黒下で培養し、培地は液体を用いることで良好な多芽体を作出している。暗黒下での培養はヤマイモまたはヤマノイモで実施した場合、カルスが形成されるのみで、芽への再分化は認められず、多芽体を得ることはできない。液体の培地を用いた場合、ヤマイモまたはヤマノイモでは切片からポリフェノールを分泌し、自己の生育を阻害する。
【0009】
また、多くの芽を茎頂組織から誘導する手法として、α−ナフタリン酢酸0.42mg/リットルと6−ベンジルアデニン0.45mg/リットルを添加したMS培地で茎頂組織を培養する方法が検討されている(非特許文献1)。この手法を実施した場合、培養期間3ヶ月で形成される芽は5〜10個程度であり、この方法で大量増殖の問題点を解決できるとはいえない。
【0010】
また、多芽体から種芋を得る方法においてもサトイモ科において、多芽体を馴化した後、ハウス内のセルトレイで育苗する方法が検討されている(特許文献4)。しかし育苗のたびにウイルスフリー培養苗を作成しなくてはならず、培養、育苗期間を省力、短縮化できる画期的な方法とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許公開平01−157313号公報
【特許文献2】特開2000−93029号公報
【特許文献3】特開2000−93031号公報
【特許文献4】特開2000−350325号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】西貞夫等,野菜の組織・細胞培養と増殖11ヤマノイモ, 最新バイオテクノロジー全書2 180−186,1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明の課題において、従来の株分け培養法では大量生産が困難であったウイルスフリー培養苗の大量増殖法の確立と、その培養苗から得たウイルスフリームカゴを使用する温室栽培方法の確立を実施し、それを種芋生産工程に組み込み、低コストで安定したウイルスフリー種芋の大量生産を行うことにある。
【0014】
本発明の課題は培養時間、植え替え回数を既存方法の半分以下にまで短縮したヤマイモまたはヤマノイモの多芽体を作出し、かつ温室で栽培した培養苗にウイルスフリームカゴを形成し、翌年以降の温室用種芋として利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の課題を解決するため、本発明の培養苗から多芽体の形成方法によれば、ヤマイモまたはヤマノイモの茎頂から再生したウイルスフリー培養苗を切り出し、この切り出された切片を植物ホルモン6−ベンジルアデニン1.0mg〜5.0mg/リットルの添加されたMS培地で培養することにより大量の芽を発芽させることを特徴とする。
【0016】
さらに、上述の課題を解決するため本発明のウイルスフリー種芋の生産方法によれば、得られた多芽体を馴化し、ガラス温室中で栽培してムカゴを獲得し、このムカゴを種芋として露地栽培して、ウイルスフリー種芋を生産することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明はヤマイモまたはヤマノイモの茎頂から再生したウイルスフリー培養苗を切り出し、特殊なMS培地で培養することにより、大量の芽を発芽させ、かつこの多芽体から生産農家の要望の高いウイルスフリー種芋を安価に、大量に提供するという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
従来方法の株分け培養法では、1株の元株を1000株まで増やすのに4年間を要していたウイルスフリー培養苗生産を2年以内に短縮できる高倍率増殖法の確立とその利用、その培養苗から得たウイルスフリームカゴを使用する温室栽培方法の確立を検討し、種芋生産工程を改良し、ウイルスフリー種芋の低コスト大量作出を安定的に実施できるようにした。
【0019】
本発明において、従来方法と大きく異なるのは次の2点である。1点目は、ヤマイモまたはヤマノイモの茎頂から再生したウイルスフリー培養苗の葉柄の内側に生じた芽を切り出し、植物ホルモンを含むMS培地を用いて組織培養を実施し、多芽体(腋芽切片から伸長した蔓に新たに形成されたそれぞれから発芽し、枝分かれした状態)を作出することでウイルスフリー培養苗を短期間に大量に獲得できる点。2点目は、ウイルスフリー培養苗を利用するのは新規導入時のみの1回だけで、作出したウイルスフリー培養苗は完全防虫のガラス温室で馴化栽培し、その際に蔓にできるウイルスフリームカゴを翌年以降の温室用種芋として使用する点である。
【0020】
ヤマイモまたはヤマノイモが感染するウイルス病は表2のとおりであり、アブラムシによって媒介される。そのため、温室栽培用の親芋となるムカゴのウイルスフリーを確実に維持し続けるために、ガラス温室等の完全防虫施設を用いることが必須条件となる。
【0021】
(表2)
ヤマイモまたはヤマノイモが感染するウイルス病 一覧
種 類 特 徴

ヤマノイモモザイクウイルス ナガイモを除く日本産ヤマイモ、ヤマノイモに 感染
JYMV 強毒で萎縮症状、収量激減
ヤマイモ、ヤマノイモ以外の感染植物は未確認

ヤマノイモえそモザイクウイルス ナガイモにのみ感染
ChYNMV BBWV2に重複感染していることが多い


ヤマノイモマイルドモザイクウイルス ナガイモを除く日本産ヤマイモ、ヤマノイ モに感染
YMMV 海外ではヤムで問題となっている
近年海外より進入してきたため日本での影 響は不明
ササゲに実験的に感染

ソラマメウイルトウイルス2 日本産ヤマイモ、ヤマノイモに感染
感染すると萎縮症状、収量激減
ヤマイモ、ヤマノイモ以外の植物に広く感染

【実施例1】
【0022】
以下、本発明を実施例によって詳述する。
【0023】
ウイルスフリー苗の生産方法
ヤマイモまたはヤマノイモの茎頂から再生したウイルスフリー培養苗の腋芽を切り出し、植物ホルモン6−ベンジルアデニンを2.0mg/リットルを含むMS培地(表3)を用いて組織培養を行った。
また、組織培養で得られた多芽体(腋芽切片から伸長した蔓に新たに形成された腋芽それぞれから発芽し、枝分かれした状態)をガラス温室で栽培した。
【0024】
(表3)
MS培地の組成(鈴木隆雄等、バイオテクノロジーへの基礎実験、
三共出版株式会社、28、29、1992 )
成 分 mg/リットル
NHNO 1650.0
KNO 1900.0
CaCl・2HO 440.0
MgSO・7HO 370.0
KHPO 170.0
KI 0.8
BO 6.2
MnSO・4HO 22.3
ZnSO・7HO 8.6
NaMoO・2HO 0.3
CuSO・5HO 0.0
CoCl・6HO 0.0
NaEDTA 37.3
FeSO・7HO 27.8
myo-inositol 100.0
nicotinic acid 0.5
Pyridoxine Hydrochloride 0.5
Thiamine Hydrocholoride 0.1〜1
Glycine 2.0
g/リットル
Sucrouse 30
寒 天 8

【0025】
高倍率増殖方法の植物ホルモンの種類、濃度
従来の株分け培養法では、一定期間で増える芽の数に限界があり、培養期間3ヶ月では増えにくい系統であるナガイモでは1.8個、一番増えやすい系統であるヤマトイモ、ツクネイモ、ジネンジョでも1株から得られる芽は2.8〜3.1個程度にしかならない。これでは畑1アールに植えつけるのに必要なウイルスフリー種芋 約500個を得るための、元となる培養苗を増やすだけで最短でも3年間もかかってしまう。これを短縮し、効率のよいウイルスフリー苗の培養生産を実施する目的で、芽の誘導をよりしやすくする植物ホルモンの組み合わせをした。
【0026】
下記の試験方法で、ヤマイモまたはヤマノイモの茎頂組織からの植物体の分化を促すために使用する植物ホルモンのα-ナフタリン酢酸と6−ベンジルアデニンの濃度を様々に組み合わせたMS培地で、ツクネイモ培養苗の腋芽を含んだ切片を試験培養し、新たに形成される芽の数を調査した。結果は表4および表5の通りであり、腋芽からの芽の分化を促す最適な培地は、6−ベンジルアデニンを1.0〜3.0mg/リットル添加したもので、もっとも数多くの芽を獲得できた。また、使用する植物ホルモンを他のものに変えて同様に試験したが、表5にあるように芽の形成はみられるものの、6−ベンジルアデニンを使用したときよりも数は少ない。
【0027】
以上のことから、ヤマイモまたはヤマノイモの高倍率増殖方法に使用する培地は表3の組成に6−ベンジルアデニンを1.0〜3.0mg/リットル添加する。
【0028】
試験方法
使用系統:ツクネイモ
使用培地:必要に応じて植物ホルモンを添加したMS培地
培養容器:直径9cm ガラスシャーレ
培地量:シャーレ1枚あたり20ミリリットル
シャーレ1枚あたりの切片数:10個/シャーレ
培養温度および光条件:25℃ 3000lux 16時間日長
培養期間:3ヶ月
調査方法:切片1つから新たに形成された芽をカウント
【0029】
【表4】

【0030】
【表5】

【0031】
高倍率増殖方法の光条件と培地の状態
科の異なる作物ではあるが、サトイモ科では6−ベンジルアデニンを使用したMS培地で暗黒下、液体培地で多芽体が誘導されるとの報告があるため、本実験でも芽の誘導を促す目的で培養期間中の光条件、培地の状態を下記の方法で試験した。6−ベンジルアデニンを2.0mg/リットル添加したMS培地から寒天を除いた液体培地にツクネイモの腋芽を含む切片を植えたところ、液体培地で培養したものは培養液中にポリフェノールや粘り物質(水溶性食物繊維 ムコ多糖類)を分泌し、それにより生育が阻害され、カルスの形成や枯死にいたる切片が確認された(表6)。また、暗黒条件下では軟白状の蔓が伸長し、株元に透明なカルスを形成し、芽の数は光源ありのいずれの条件下よりも減少した(表7)。得られた芽も柔らかく、水分を多く含んでおり、そのままではガラス温室での栽培環境に適応できず、そのままの馴化ではすべて枯死した。暗黒化で得られた培養苗は馴化後の環境に適応させるために、光源下での培養を2週間程度行い、緑化した硬い蔓を新たに伸長させてからとなるため、かえって手間がかかり、培養苗の質からみても、良いものとはいえなかった。
【0032】
以上のことから、ヤマイモまたはヤマノイモでは既に知られているサトイモ科で多芽体を誘導する場合とは異なり、光源のある培養条件でとくに25℃ 3000lux 16時間日長で6−ベンジルアデニンを2mg/リットル添加したMS固形培地が適するといえる。
【0033】
培地組成比較試験方法
使用系統:ツクネイモ
使用培地:6−ベンジルアデニン2.0mg/リットルを添加したMS培地
固形の場合は寒天0.8%を加える
培養容器:直径9cm PP製バイオポット
培地量:バイオポット1個あたり100ミリリットル
バイオポット1個あたりの切片数:10個/バイオポット
培養条件:25℃ 3000lux 16時間日長
培養期間:3ヶ月
調査方法:切片1つから新たに形成された芽をカウント
【0034】
光の有無比較試験方法
使用系統:ツクネイモ
使用培地:6−ベンジルアデニン2.0mg/リットルを添加したMS固形培地
培養容器:直径9cm ガラスシャーレ
培地量:シャーレ1枚あたり20ミリリットル
シャーレ1枚あたりの切片数:10個/シャーレ
培養期間:3ヶ月
調査方法:切片1つから新たに形成された芽をカウント
【0035】
(表6)
ツクネイモでの多芽体培養法に用いる液体培地と固形培地での生育の比較

多芽体培養法での3ヶ月
後に得られる苗数 カルスの形成 切片の枯死
固形培地 43.8±17.4株 + ―
液体培地 32.0± 0.4株 ++ +
表の見方 カルスおよび切片の枯死の発生
−:発生無し、 +:発生30%以下、 ++:発生30%以上

【0036】
【表7】

【0037】
高倍率増殖方法(多芽体培養法)の検討
ウイルスフリー培養苗の腋芽を含む節間を1cm程度に切り出し、6−ベンジルアデニンを2.0mg/リットルを含むMS培地に置床する。培養開始から2週間ほどで新葉を展開し、その後4ヶ月で腋芽の部分に多くのムカゴもしくは多芽体を形成する。これを繰り返し、目標数量まで生産をする。ヤマイモまたはヤマノイモ系統ごとの増殖株数(1株の培養苗が、3ヶ月後に何株の培養苗にまで増えるのか)は表8の通りである。
【0038】
多芽体培養法では、同じ培養期間内で一番増えにくいジネンジョで株分け法に比べ2.6倍、もっとも増えたツクネイモでは14.6倍の数量の苗を得ることが出来た。
【0039】
調査方法
使用培地:6−ベンジルアデニンを2.0mg/リットルを添加したMS培地
培養容器:直径9cm ガラスシャーレ
培地量:シャーレ1枚あたり20ミリリットル
シャーレ1枚あたりの切片数:10個/シャーレ
培養条件:25℃ 3000lux 16時間日長
培養期間:3ヶ月
【0040】
(表8)
従来法(株分け法)と多芽体培養法の増殖株数の比較

株分け法での3ヶ月 多芽体培養法での3ヶ月
系統名 後に得られる苗数 後に得られる苗数
ツクネイモ 3.0±1.2株 43.8±17.4株
ヤマトイモ 3.1±0.5株 24.0±10.3株
ナガイモ 1.8±0.2株 25.3±13.8株
ジネンジョ 2.8±0.4株 7.3± 3.6株

【0041】
ムカゴを用いたウイルスフリー種芋生産
ムカゴとは、ヤマイモまたはヤマノイモの蔓にできる塊茎で、芋と同じ性状を有している。葉で作られたデンプンが転流する際に腋芽部分に滞留すると、それを貯蔵するために作られると考えられている。土に植えつけると通常の種芋を植え付けたときと同様の生育をし、地下部には芋を形成する。
【0042】
このムカゴの性質を利用し、ウイルスフリー種芋生産の中で大きなコストを占める培養苗の必要数を抑えるために、培養苗を温室で栽培して得ることが出来るムカゴをその翌年以降の温室栽培用ウイルスフリー種芋(親芋)として用いる手法を発明した。
【0043】
ムカゴ栽培技術
培養苗を温室に馴化、栽培した際、地上部の蔓(葉柄の基部 腋芽部分)にムカゴの着生が認められた。ムカゴを種芋とした株にも同様にムカゴが着生する。さらに地下部には、ウイルスフリー種芋として出荷可能なサイズの新芋を形成する。
【産業上の利用可能性】
【0044】
ムカゴを使う優位性としては、次の3点が挙げられる。一つ目は培養苗を温室栽培した場合に問題となる、馴化時の環境変化による株の枯死が、ムカゴを種芋として温室栽培した際には全く発生しないこと。発芽率はほぼ100%であり、発芽時から第一葉が形成されるまでのおおよそ1ヶ月間はムカゴに貯蔵された栄養分を使って生育するため、環境変化に強い上に、生育も旺盛である。そのため、特別な管理も必要としない。
【0045】
二つ目は、初期成育が良くその後の生育も旺盛なため、形成される新芋のサイズが培養苗由来のものに比べ大きくなる(表9)。
【0046】
三つ目は、ウイルスフリー培養苗から得られたムカゴは、100%ウイルスフリーであるということ。つまり、完全防虫のガラス温室で栽培し続ける限り、必ず毎年、地下部には種芋として出荷する新芋、地上部には翌年のガラス温室用種芋に使うムカゴをウイルスフリーで獲得できるため、ウイルスフリー培養苗を作成するのは、増殖を開始する1回のみでよいということ。一回ウイルスフリー培養苗を作出し、防虫対策をしたガラス温室で栽培し続ければ、ウイルスフリーの種芋の出荷が可能となるため、大掛かりな培養施設も必要なく、培養にかかわる人件費も抑えることが出来る。
【0047】
(表9)
培養苗馴化栽培とムカゴ栽培収穫時の生育状況の比較

培養苗栽培 ムカゴ栽培
収穫時の草丈 7.3±0.7cm 90±15.2cm
収穫時の蔓の長さ 2.3±6.4cm 153±18.5cm
収穫時の葉の枚数 1.5±0.5枚 113±34枚
新芋重量 6.4±2.6g 18.0±5.4g










































【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤマイモまたはヤマノイモの茎頂から再生したウイルスフリー培養苗を切り出し、この切り出された切片を植物ホルモン6−ベンジルアデニン1.0mg〜5.0mg/リットルの添加されたMS培地で培養することにより大量の芽を発芽させることを特徴とする培養苗から多芽体の形成方法。
【請求項2】
請求項1において、切り出された切片は腋芽を含む請求項1の形成方法。
【請求項3】
請求項1において、植物ホルモン6−ベンジルアデニンは1.0mg〜3.0mg/リットル添加される請求項1の形成方法。
【請求項4】
請求項1において、植物ホルモン6−ベンジルアデニンは2.0mg/リットル添加される請求項1の形成方法。
【請求項5】
請求項1において、さらに光量1500lux以上、8〜16時間日長、20℃〜30℃の温度で培養する請求項1の形成方法。
【請求項6】
請求項1において、光量3000lux、日長16時間、培養温度25℃で培養する請求項1の形成方法。
【請求項7】
請求項1で得られた多芽体を馴化し、ガラス温室中で栽培してムカゴを獲得し、このムカゴを種芋として温室栽培して、ウイルスフリー種芋を生産することを特徴とするウイルスフリー種芋の生産方法。




























【公開番号】特開2011−83235(P2011−83235A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239182(P2009−239182)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(591011007)金印株式会社 (20)
【Fターム(参考)】