説明

培養装置、および、培養方法

【課題】培養槽の内壁への藻類の付着を防止することにより、培養槽内への光の透過効率の低下と、光合成効率の低下や培養液の消費効率の低下を抑制する、藻類培養装置と培養方法の提供。
【解決手段】槽本体110と、本体に収容され、藻類Aを含む培養液Mと、槽本体110に収容され、藻類Aおよび培養液Mとの間に界面が形成される程度に親和性が低く、藻類Aおよび培養液Mと比重の異なる液体である付着防止液Fと、を備え、藻類Aと槽本体110の内壁(底面110aの内側、側面110bの内側、仕切り板110cの外面)の少なくとも一部との間に付着防止液Fが介在する、培養装置100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類等を培養する培養装置、および、培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオ燃料(炭化水素やバイオディーゼル)や、アスタキサンチン等の生理活性物質を産生することができる藻類(特に、微細藻類)が注目されており、このような藻類を大量に培養し、石油に換わるエネルギーとして利用したり、薬や化粧品、食品等に利用したりすることが検討されている。
【0003】
藻類等の大量培養用の培養装置の例として、その一部が大気開放されている開放系リアクタの培養装置であるレースウェイ型(オープンポンド型、屋外池型とも呼ばれる形式のひとつ)が挙げられる(例えば、非特許文献1)。また、大気と接触する部分がない閉鎖系リアクタとして、チューブ形状の培養槽で構成されるチューブ型の培養装置(例えば、非特許文献1)や、直方体形状の培養槽で構成されるパネル型の培養装置(例えば、特許文献1)も検討されている。なお、チューブ型やパネル型の培養装置を構成する培養槽は、光合成効率を向上させるために、光を透過する、例えば、ガラス、プラスチック等の部材で構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−139444号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Elsevier, Bioresource Technology 101, 2010:1406-1413
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
培養槽で藻類を培養する際に、培養液中で藻類が沈殿して培養槽の底面や壁面に藻類が付着する場合がある。そうすると、底面や壁面に付着した藻類によって光が遮られてしまい、培養槽内への光の透過効率が低下し、培養液中の藻類の光合成効率や培養液の消費効率が低下して、全体的な培養効率が低下するといった問題が生じ得る。
【0007】
また、培養槽の底面や壁面に一旦藻類が付着すると、付着した藻類(藻体)を回収するのが困難となる。したがって、培養槽内への光の透過効率を戻す為には、培養槽から培養液を排出し、ブラシ等を用いて底面や壁面から藻体を掻出し、培養槽を洗浄して滅菌するといった膨大な作業が必要となる。
【0008】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、培養槽に収容する液体を工夫することで、培養槽の内壁への藻類の付着を防止し、光合成効率の低下や培養液の消費効率の低下を抑制することが可能な培養装置、および、培養方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の培養装置は、藻類を培養する培養装置であって、槽本体と、槽本体に収容され、藻類を含む培養液と、槽本体に収容され、藻類および培養液との間に界面が形成される程度に親和性が低く、藻類および培養液と比重の異なる液体である付着防止液と、を備え、藻類と槽本体の内壁の少なくとも一部との間に付着防止液が介在することを特徴とする。
【0010】
上記付着防止液は、水よりも二酸化炭素または酸素の溶解度が高い液体であってもよい。また、付着防止液は、水よりも比熱が大きい液体であってもよい。さらに、付着防止液は、藻類の産生物との間に界面が形成される程度に親和性が低い液体であってもよい。
【0011】
上記付着防止液は、有機ハロゲン化物を含んでもよく、イミダゾール化合物を含んでもよい。
【0012】
上記付着防止液は、Perfluoro-2-Butyltetrahydrofuran、N,N-Diethyl-N-methyl-N(2-methoxyethyl) ammonium bis (trifluoromethanesulfonyl)imide、1-Ethyl-3-methylimidazolium Bis(trifluoromethanesulfonyl)imide、Tetrachloroethylene、Dibromochloromethane、Perfluorooctane、Perfluoro-1-isopropoxyhexane、Perfluoro-1,4-diisopropoxybutane、Perfluorooctylbromideのうち少なくともいずれかを含んでもよい。
【0013】
上記培養装置は、付着防止液を槽本体から回収する回収部と、回収された付着防止液を冷却する冷却部と、回収された付着防止液に二酸化炭素または酸素を溶解させる溶解部と、冷却部によって冷却され、溶解部によって二酸化炭素または酸素が溶解された付着防止液を槽本体に返送する返送部と、をさらに備えてもよい。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の培養方法は、培養液を利用して藻類を培養する培養装置を用いた培養方法であって、培養装置を構成する槽本体に、藻類および培養液との間に界面が形成される程度に親和性が低く、藻類および培養液と比重の異なる液体である付着防止液を導入することで、槽本体の内壁に付着防止液を付着させる工程と、内壁に付着防止液が付着した槽本体に、藻類を含む培養液を導入する工程と、を含み、藻類と槽本体の内壁の少なくとも一部との間に付着防止液が介在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、培養槽に収容する液体を工夫することで、培養槽の内壁への藻類の付着を防止することができる。したがって、外部から培養槽内への光の透過効率の低下を低減し、光合成効率の低下や培養液の消費効率の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】培養装置の外観斜視図である。
【図2】図1におけるII−II断面図である。
【図3】培養装置の概略的な機能を説明するための機能ブロック図である。
【図4】槽本体における藻類液の流れを説明するための説明図である。
【図5】槽本体の変形例を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
(培養装置100)
図1は、培養装置100の外観斜視図であり、図2は、図1におけるII−II断面図であり、図3は、培養装置100の概略的な機能を説明するための機能ブロック図であり、図4は、槽本体110における藻類液Gの流れを説明するための説明図である。
【0019】
図1、図2、図3に示すように、培養装置100は、槽本体110と、攪拌部120と、回収部130と、冷却部140と、溶解部150と、返送部160とを含んで構成される。なお、図1、図2、および、図4中、説明の便宜上、回収部130、冷却部140、溶解部150、返送部160の記載を省略する。
【0020】
槽本体110は、光透過性を有する部材で形成された、底面110aと、側面110bと、仕切り板110cとを含んで構成され、藻類Aを含む培養液Mである藻類液Gと、付着防止液Fとを共に収容する。本実施形態において、槽本体110は、上面に開口部112を有する、レースウェイ型を例に挙げて説明する。ここで、槽本体110を、光透過性を有する部材で形成することにより、開口部112からのみならず側面110bおよび仕切り板110cを通じて太陽10等の光(散乱光や反射光)を槽本体110内に入射させることが可能となる。
【0021】
付着防止液Fは、藻類Aおよび培養液Mとの間に界面が形成される程度に親和性が低い液体、すなわち、水への溶解度が1g/L以下であり、好ましくは、0.05g/L以下であり、より好ましくは、0.01g/L以下である液体である。藻類Aおよび培養液Mの主成分は水であるため、付着防止液Fを、水への溶解度が1g/Lを上回る液体とすると、藻類A中または培養液M中への付着防止液Fの溶解効率が上昇してしまい、その分だけ、藻類Aおよび培養液Mと界面を形成する(位置を異にして存在する)ことが可能な付着防止液Fの量が減ってしまう。そこで、付着防止液Fを、水への溶解度が1g/L以下の液体とすることで、藻類Aまたは培養液Mへの付着防止液Fの溶解効率を低減することが可能となる。これに加えて、付着防止液Fは、藻類Aの増殖効率や産生物の産生効率を低下させることなく、藻類Aおよび培養液Mより比重が大きい液体である。したがって、付着防止液Fとともに藻類液Gを槽本体110に収容すると、図2に示すように、鉛直下方から順に、底面110a、付着防止液F、培養液Mが配されることとなり、少なくとも培養液Mと付着防止液Fとの間には界面SAが形成される。
【0022】
ここで、藻類Aの比重は、培養液Mの比重以上であるため、藻類Aのうち一部は、培養液Mにおいて界面SAまで沈降する。一方、上述したように付着防止液Fは、培養液Mのみならず藻類Aとの間にも界面が形成される程度に親和性が低く、また藻類Aよりも比重が大きい。したがって、培養液Mにおいて界面SAまで沈降した藻類Aは、界面SAよりも付着防止液F(鉛直下方)側に沈降することはない。つまり、藻類Aと槽本体110の底面110a(内壁)との間に付着防止液Fが介在することになる。
【0023】
したがって、槽本体110の底面110aへの藻類Aの付着を防止することができる。これにより、藻類が底面110aに付着することで生じる膨大な作業(槽本体110から藻類液Gを排出し、ブラシ等を用いて底面110aや側面110bの内側、仕切り板110cの外面から藻体を掻出し、槽本体110を洗浄して滅菌する作業)を行う事態を回避することが可能となる。
【0024】
また、槽本体110に導入された付着防止液Fは、少なからず側面110b、および、仕切り板110cにも付着する。したがって、まず、槽本体110の底面110aのみならず、側面110bの内側(内壁)、仕切り板110cの外面にも付着防止液Fが付着するように、槽本体110を付着防止液Fで満たし、底面110aの内側(内壁)と、側面110bの内側(内壁)、仕切り板110cの外面に付着防止液Fを付着させて、付着防止液Fで内壁をコーティングする。
【0025】
続いて、投入した付着防止液Fのうち、藻類液Gに二酸化炭素等を供給したり、藻類液Gを冷却したりするために必要な量の付着防止液Fを残して、槽本体110から排出する。その後、藻類液Gを槽本体110に投入する。
【0026】
そうすると、図2中、左側の拡大図に示すように、藻類Aと底面110aのみならず、藻類Aと側面110bの内側、および、藻類Aと仕切り板110cとの間に付着防止液Fが介在することとなる。
【0027】
なお、ここでは、槽本体110を付着防止液Fで満たすことで、底面110aの内側(内壁)と、側面110bの内側(内壁)、仕切り板110cの外面に付着防止液Fを付着させているが、これに限らず、底面110aの内側(内壁)と、側面110bの内側(内壁)、仕切り板110cの外面に付着防止液Fを塗布してもよい。
【0028】
したがって、槽本体110の底面110aのみならず、側面110bおよび仕切り板110cへの藻類Aの付着を防止することができる。これにより、側面110bおよび仕切り板110cの光透過性を維持することができ、槽本体110内への光の透過効率の低下を回避することが可能となる。なお、槽本体110の底面110a、側面110b、および、仕切り板110cを、付着防止液Fが付着しやすい材質(例えば、アクリル樹脂、ポリカーボネート等)で構成すると、槽本体110の内壁への付着防止液Fの付着効率を向上させることができる。
【0029】
攪拌部120は、例えば、攪拌パドルで構成され、藻類液Gを攪拌して、藻類液Gを槽本体110内で移動させる。ここで、攪拌部120は、図3中反時計回りに回転し、これによって、図4中黒矢印で示すように、藻類液Gを槽本体110内で移動させる。
【0030】
図3に戻って説明すると、回収部130は、例えば、ポンプで構成され、付着防止液Fを槽本体110から回収する。本実施形態において回収部130は、槽本体110の底面110aから付着防止液Fを回収する。付着防止液Fは底面110a付近に滞留しているため、底面110aから付着防止液Fを回収することで、効率よく付着防止液Fを回収することが可能となる。
【0031】
冷却部140は、回収された付着防止液Fを冷却する。そして、冷却された付着防止液Fは、後述する溶解部150を介し返送部160によって槽本体110に返送される。
【0032】
藻類には培養に適した温度範囲があり、この温度範囲を大きく逸脱すると、藻類の培養効率が低下してしまう。例えば、培養液の温度が高すぎると、藻類を構成するタンパク質等が変性してしまうといった問題が生じる。
【0033】
そこで、付着防止液Fを水よりも比熱が大きい液体で構成する。そうすると、冷却部140が付着防止液Fを冷却し、返送部160が冷却された付着防止液Fを槽本体110に返送することにより、槽本体110に収容された藻類液Gを効率よく冷却することができる。したがって、藻類液Gの温度を藻類Aの培養に適した温度範囲内に維持することができ、藻類Aの光合成効率を向上させ、藻類Aを構成するタンパク質や核酸等が変性して増殖が困難になる事態を回避することが可能となる。
【0034】
溶解部150は、冷却部140によって冷却された付着防止液Fに二酸化炭素または酸素を溶解させる。そして、二酸化炭素または酸素が溶解された付着防止液Fは、返送部160によって槽本体110に返送される。
【0035】
具体的に、日中等の光が槽本体110に入射され、藻類Aが光合成を行う時間帯において、溶解部150は、付着防止液Fに二酸化炭素を溶解させる。一方、夜間等の光が槽本体110に入射されず、藻類Aが呼吸を行う時間帯において、溶解部150は、付着防止液Fに酸素を溶解させる。
【0036】
これにより、開口部112からのみならず付着防止液Fから二酸化炭素や酸素を藻類Aに供給することができる。したがって、藻類Aの光合成効率や呼吸効率を向上させることが可能となる。
【0037】
ここで、付着防止液Fは、水よりも二酸化炭素または酸素の溶解度が高い液体であるとよい。これにより、溶解部150によって付着防止液Fによって効率よく二酸化炭素や酸素を溶解させることができ、付着防止液Fによる藻類液Gへの二酸化炭素や酸素の溶解効率を向上させることが可能となる。
【0038】
返送部160は、冷却部140によって冷却され、溶解部150によって二酸化炭素または酸素が溶解された付着防止液Fを槽本体110に返送する。
【0039】
また、付着防止液Fは、藻類Aの産生物との間に界面が形成される程度に親和性が低い液体であるとよい。これにより、藻類Aから放出された産生物を付着防止液Fから容易に分離することが可能となる。
【0040】
上述したように、付着防止液は、藻類および培養液との間に界面が形成される程度に親和性が低く、藻類および培養液と比重の異なる液体であり、水よりも二酸化炭素または酸素の溶解度が高い液体であるとよく、水よりも比熱が大きい液体であるとよく、さらに、付着防止液は、藻類の産生物との間に界面が形成される程度に親和性が低い液体であるとよい。
【0041】
このような付着防止液として、有機ハロゲン化物を含む液体、または、有機ハロゲン化合物であり、かつ、イミダゾール化合物を含む液体が挙げられる。具体的に説明すると、付着防止液Fは、Perfluoro-2-Butyltetrahydrofuran、N,N-Diethyl-N-methyl-N(2-methoxyethyl) ammonium bis (trifluoromethanesulfonyl)imide、1-Ethyl-3-methylimidazolium Bis(trifluoromethanesulfonyl)imide、Tetrachloroethylene、Dibromochloromethane、Perfluorooctane、Perfluoro-1-isopropoxyhexane、Perfluoro-1,4-diisopropoxybutane、Perfluorooctylbromideのうち少なくともいずれかを含むとよい。
【0042】
Perfluoro-2-Butyltetrahydrofuranは、下記化学式(1)で示される化合物であり、比重(d)が1.77である。
【化1】

…化学式(1)
【0043】
N,N-Diethyl-N-methyl-N(2-methoxyethyl) ammonium bis (trifluoromethanesulfonyl)imideは、下記化学式(2)で示される化合物であり、比重(d)が1.42である。
【化2】

…化学式(2)
【0044】
1-Ethyl-3-methylimidazolium Bis(trifluoromethanesulfonyl)imideは、下記化学式(3)で示される化合物であり、比重(d)が1.53である。
【化3】

…化学式(3)
【0045】
Tetrachloroethyleneは、下記化学式(4)で示される化合物であり、比重(d)が1.62である。
【化4】

…化学式(4)
【0046】
Dibromochloromethaneは、下記化学式(5)で示される化合物であり、比重(d)が2.45である。
【化5】

…化学式(5)
【0047】
Perfluorooctaneは、下記化学式(6)で示される化合物であり、比重(d)が1.75である。
【化6】

…化学式(6)
【0048】
Perfluoro-1-isopropoxyhexaneは、下記化学式(7)で示される化合物であり、比重(d)が1.75である。
【化7】

…化学式(7)
【0049】
Perfluoro-1,4-diisopropoxybutaneは、下記化学式(8)で示される化合物であり、比重(d)が1.75である。
【化8】

…化学式(8)
【0050】
Perfluorooctylbromideは、下記化学式(9)で示される化合物であり、比重(d)が1.93である。
【化9】

…化学式(9)
【0051】
(変形例)
上述した実施形態では、レースウェイ型の槽本体110について説明したが、他の形態の槽本体を採用してもよい。例えば、培養装置100の槽本体として、図5に示すようなパネル型の槽本体210を採用してもよい。この場合、回収部130によって底部210aから回収された付着防止液Fは、冷却部140で冷却され、溶解部150で二酸化炭素または酸素が溶解され、返送部160によって、槽本体210の天面210bに返送される。そうすると、藻類液Gの鉛直上方から付着防止液Fが導入されることになる。
【0052】
上述したように、付着防止液Fは、藻類Aおよび培養液Mとの間に界面が形成される程度に親和性が低く、藻類Aおよび培養液Mより比重が大きい液体である。したがって、付着防止液Fは、藻類液Gを通過して、槽本体210の底部210aに沈降する。付着防止液Fが、藻類液Gを通過する間、冷却された付着防止液Fが藻類液Gの熱を吸収し、また、溶解部150によって、例えば二酸化炭素が溶解された付着防止液Fが藻類液Gに二酸化炭素を供給することができる。
【0053】
また、槽本体210においても、藻類Aと槽本体210の底部210a(内壁)、および、側面210cとの間に付着防止液Fが介在することになる。したがって、槽本体210の底部210a、および、側面210cへの藻類Aの付着を防止することができる。
【0054】
なお、ここでも槽本体210を付着防止液Fが付着しやすい材質で構成すると、槽本体210の内壁への付着防止液Fの付着効率を向上させることができる。
【0055】
以上説明したように、本実施形態にかかる培養装置100によれば、培養液Mとともに付着防止液Fを収容することで、槽本体110、210の内壁への藻類Aの付着を防止することができ、外部から槽本体110、210内への光の透過効率の低下を低減し、光合成効率の低下や培養液Mの消費効率の低下を抑制することが可能となる。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0057】
例えば、チューブ型等の閉鎖系リアクタに付着防止液を収容する場合、付着防止液は、藻類および培養液との間に界面が形成される程度に親和性が低く、また、藻類の増殖効率や産生物の産生効率を低下させることなく、藻類および培養液より比重が小さい液体であってもよい。この場合、藻類と槽本体の天面の内側(内壁)との間に付着防止液が介在することになるため、天面への藻類の付着を防止することが可能となる。
【0058】
また、上述した実施形態において、付着防止液として、Perfluoro-2-Butyltetrahydrofuran、N,N-Diethyl-N-methyl-N(2-methoxyethyl) ammonium bis (trifluoromethanesulfonyl)imide、1-Ethyl-3-methylimidazolium Bis(trifluoromethanesulfonyl)imide、Tetrachloroethylene、Dibromochloromethane、Perfluorooctane、Perfluoro-1-isopropoxyhexane、Perfluoro-1,4-diisopropoxybutane、Perfluorooctylbromideを例に挙げたが、これに限らず、藻類および培養液との間に界面が形成される程度に親和性が低く、藻類および培養液と比重の異なる液体であり、水よりも二酸化炭素または酸素の溶解度が高い液体であるとよく、水よりも比熱が大きい液体であるとよく、さらに、付着防止液は、藻類の産生物との間に界面が形成される程度に親和性が低い液体であればどのような化合物を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、藻類等を培養する培養装置、および、培養方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
A …藻類
F …付着防止液
G …藻類液
M …培養液
100 …培養装置
110、210 …槽本体
120 …攪拌部
130 …回収部
140 …冷却部
150 …溶解部
160 …返送部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類を培養する培養装置であって、
槽本体と、
前記槽本体に収容され、前記藻類を含む培養液と、
前記槽本体に収容され、前記藻類および前記培養液との間に界面が形成される程度に親和性が低く、前記藻類および前記培養液と比重の異なる液体である付着防止液と、
を備え、
前記藻類と前記槽本体の内壁の少なくとも一部との間に前記付着防止液が介在することを特徴とする培養装置。
【請求項2】
前記付着防止液は、水よりも二酸化炭素または酸素の溶解度が高い液体であることを特徴とする請求項1に記載の培養装置。
【請求項3】
前記付着防止液は、水よりも比熱が大きい液体であることを特徴とする請求項1または2に記載の培養装置。
【請求項4】
前記付着防止液は、前記藻類の産生物との間に界面が形成される程度に親和性が低い液体であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の培養装置。
【請求項5】
前記付着防止液は、有機ハロゲン化物を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の培養装置。
【請求項6】
前記付着防止液は、イミダゾール化合物を含むことを特徴とする請求項5に記載の培養装置。
【請求項7】
前記付着防止液は、Perfluoro-2-Butyltetrahydrofuran、N,N-Diethyl-N-methyl-N(2-methoxyethyl) ammonium bis (trifluoromethanesulfonyl)imide、1-Ethyl-3-methylimidazolium Bis(trifluoromethanesulfonyl)imide、Tetrachloroethylene、Dibromochloromethane、Perfluorooctane、Perfluoro-1-isopropoxyhexane、Perfluoro-1,4-diisopropoxybutane、Perfluorooctylbromideのうち少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の培養装置。
【請求項8】
前記付着防止液を前記槽本体から回収する回収部と、
回収された前記付着防止液を冷却する冷却部と、
前記回収された付着防止液に二酸化炭素または酸素を溶解させる溶解部と、
前記冷却部によって冷却され、前記溶解部によって二酸化炭素または酸素が溶解された付着防止液を前記槽本体に返送する返送部と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の培養装置。
【請求項9】
培養液を利用して藻類を培養する培養装置を用いた培養方法であって、
前記培養装置を構成する槽本体に、前記藻類および前記培養液との間に界面が形成される程度に親和性が低く、該藻類および該培養液と比重の異なる液体である付着防止液を導入することで、該槽本体の内壁に該付着防止液を付着させる工程と、
内壁に前記付着防止液が付着した槽本体に、前記藻類を含む前記培養液を導入する工程と、
を含み、
前記藻類と前記槽本体の内壁の少なくとも一部との間に前記付着防止液が介在することを特徴とする培養方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−27361(P2013−27361A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166153(P2011−166153)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】